(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
  <本開示の一態様に至った経緯>
  塗布方式で発光層や機能層を形成する場合、材料を溶解したインクを、隔壁間隙に塗布する。上述したように、隔壁の頂部や側壁部の上部は、インクの乗り越えを防ぐために撥液性が付与されている。また、インクは、発光素子が形成される画像表示領域の予定領域に塗布されるが、インクが画像表示領域の周辺に位置する周辺領域の予定領域に漏出することは、発光層や機能層の膜厚を制御する上でも、周辺領域を形成する上でも、当然に好ましくない。したがって、画像表示領域と、その周辺の周辺領域とを区画する周辺隔壁を形成することが好ましい。また、インクが周辺隔壁を乗り越えることを防ぐために、周辺隔壁にも撥液性を付与することが好ましい。
 
【0012】
  ところで、周辺領域には、画像表示領域を囲繞する周辺電極が形成されることが好ましい。いわゆるトップエミッション型の発光素子では、画素電極に対向する共通電極には透光性が要求されるため、ITO(酸化インジウム錫)やIZO(酸化インジウム亜鉛)などの酸化物導電体が用いられることが多い。しかしながら、これらの酸化物導電体はシート抵抗が金属と比べて高いため、特に大型の表示パネルでは、周辺領域に設けられる周辺電極や、画像表示領域における発光素子間隙に設けられる補助電極を金属材料で形成することが好ましい。特に、周辺電極は補助電極に給電するための電極を兼ねることが多く、特に表面積を大きくとることが好ましい。一方で、周辺電極と周辺隔壁とが離間していると、周辺領域の面積が増えて表示パネルにおける画像表示領域の割合が減少する。また、画素電極は光反射性が要求されるため金属材料が用いられることが多く、画素電極と周辺電極は同一材料で形成が可能である。したがって、周辺電極の形成工程を画素電極の形成工程と別途行うよりも、単一の金属層をパターニングして画素電極と周辺電極とをまとめて形成する方が、製造工程の簡略化の点で有効である。このとき、画素電極と周辺電極との距離を画素電極間の距離程度に留めておき、周辺隔壁の内周側を絶縁層である周辺隔壁で被覆することにより、画像表示領域と周辺領域との間隔を必要最小限とする構成が容易となる。
 
【0013】
  しかしながら、発明者らは、上記構成において以下の課題が発生することを発見した。周辺電極はシート抵抗値が低く可視光の反射率が高い、アルミニウム、アルミニウム合金などの金属材料を用いることが好ましい。一方で、周辺隔壁は少なくとも表面が撥液性を備えることが好ましいため、少なくとも表面においてフッ素化合物を含む。したがって、周辺隔壁が周辺電極上に直接接触していると、周辺隔壁に含まれるフッ素化合物が周辺電極に影響を及ぼすことがある。特に、周辺隔壁をフッ素化合物含有の感光性樹脂材料(いわゆるフォトレジスト)で形成する場合、周辺隔壁の現像工程において、周辺電極がフッ素化合物を含む現像液に晒される。したがって、現像液に晒された周辺電極の表面がフッ素化合物によって溶出する。この周辺電極の表面の溶出が周辺隔壁と周辺電極との接触界面において発生すると、周辺隔壁と周辺電極との密着性が低下し、周辺隔壁が基板から剥がれる懸念がある。
 
【0014】
  また、隔壁と周辺電極との剥離は、上記構成以外の状況でも発生しうる。例えば、周辺電極の一部の上に、ダミー画素を構成するために枠状の隔壁を構成する場合である。このような場合でも、枠状の隔壁の外周縁が周辺電極に直接接触していると、同様に隔壁の剥がれが生じる懸念がある。また、直線状または曲線状の孤立した隔壁が周辺電極上に存在する場合、当該隔壁の周縁が周辺電極に直接接触していると、同様に隔壁の剥がれが生じる懸念がある。
 
【0015】
  さらに、周辺隔壁等がいわゆるフォトレジストではなく、非感光性の樹脂で形成される場合においても、パターニングの際、周辺隔壁と周辺電極との接触界面がエッチングガスやエッチング液に曝露される。したがって、フッ素含有の隔壁と電極が直接接触している限り、同様の課題が発生する。
  発明者は、周辺電極と、周辺電極上に撥液性の隔壁を有する表示パネルにおいて、周辺電極と隔壁との密着性を改善する構成について検討し、本開示に至ったものである。
 
【0016】
  <開示の態様>
  本開示の一態様に係る表示パネルは、基板と、前記基板の上方であって画像表示領域に配された発光素子アレイと、前記基板の上方であって平面視において前記画像表示領域の周辺の周辺領域に配された電極と、前記電極上に配された親液性絶縁層と、フッ素を含む撥液性の樹脂材料を含み、前記周辺領域内で、外周縁のうち平面視において前記電極上に位置する部分に配された周辺隔壁と、を備え、前記親液性絶縁層は、前記周辺隔壁の材料よりフッ素含有率の低い樹脂材料を含み、前記周辺隔壁の少なくとも角部は、前記親液性絶縁層上に配されていることを特徴とする。
 
【0017】
  上記態様の表示パネルによれば、周辺隔壁の剥離を抑止し、これにより周辺隔壁の製造工程が表示パネルに与える影響を小さくできるため、安定した品質の表示パネルを実現できる。
  本開示の別の一態様に係る表示パネルは、基板と、前記基板の上方であって画像表示領域に配された発光素子アレイと、前記基板の上方であって平面視において前記画像表示領域の周辺の周辺領域に配された電極と、前記電極上に配された親液性絶縁層と、フッ素を含む撥液性の樹脂材料を含み、前記周辺領域内で、外周縁のうち平面視において前記電極上に位置する部分が前記親液性絶縁層上に配された周辺隔壁とを備え、前記親液性絶縁層は、前記周辺隔壁の材料よりフッ素含有率の低い樹脂材料を含むことを特徴とする。
 
【0018】
  上記態様の表示パネルによれば、周辺隔壁の剥離を抑止し、これにより周辺隔壁の製造工程が表示パネルに与える影響を小さくできるため、安定した品質の表示パネルを実現できる。
  また、本開示の別の一態様に係る表示パネルは、前記親液性絶縁層の材料は、フッ素を含まない、としてもよい。
 
【0019】
  上記構成によれば、親液性絶縁層が周辺領域に対する影響を与えないため、より安定した品質の表示パネルを実現できる。
  また、本開示の別の一態様に係る表示パネルは、前記周辺隔壁は、前記画像表示領域と前記周辺領域とを区画する、としてもよい。
  上記構成によれば、撥液性を有する周辺隔壁により周辺領域に発光素子アレイの材料が漏出することを抑止することができる。
 
【0020】
  また、本開示の別の一態様に係る表示パネルは、平面視において、前記親液性絶縁層は、前記周辺隔壁より前記周辺領域側に延在している、としてもよい。
  上記構成によれば、周辺隔壁が周辺電極に影響を与えることをより強く抑止できるため、安定した品質の表示パネルを実現できる。
  また、本開示の別の一態様に係る表示パネルは、前記親液性絶縁層の上方に前記周辺隔壁が必ず存在している、としてもよい。
 
【0021】
  上記構成によれば、親液性絶縁層が占める面積を最小限とすることができる。
  また、本開示の別の一態様に係る表示パネルは、前記発光素子アレイを構成する各発光素子は、画素電極と、機能層と、共通電極とを備え、前記周辺電極と前記画素電極は、同一の材料から構成される、としてもよい。
  上記構成によれば、周辺電極と画素電極とを同時に形成できるため、より簡便かつ効率よく表示パネルを製造することができる。
 
【0022】
  また、本開示の別の一態様に係る表示パネルは、前記周辺電極は、前記共通電極と電気的に接続されている、としてもよい。
  上記構成によれば、電圧降下を抑止しながら効率よく共通電極に給電することが可能となる。
  また、本開示の別の一態様に係る表示パネルは、前記発光素子アレイは、行列状に配された複数の発光素子と、撥液性を有する樹脂材料を含み列方向に延伸し前記発光素子を行方向に区画する列バンクと、前記行バンクより撥液性の低い樹脂材料を含み前記発光素子を列方向に区画する行バンクとを含み、前記親液性絶縁層と、前記行バンクとは、同一の材料で構成される、としてもよい。
 
【0023】
  上記構成によれば、親液性絶縁層と行バンクとを同時に形成できるため、より簡便かつ効率よく表示パネルを製造することができる。
  また、本開示の別の一態様に係る表示パネルは、前記周辺隔壁と、前記列バンクとは、同一の材料で構成される、としてもよい。
  上記構成によれば、周辺隔壁と列バンクとを同時に形成できるため、より簡便かつ効率よく表示パネルを製造することができる。
 
【0024】
  また、本開示の一態様に係る表示装置は、本開示のいずれかの一態様に係る表示パネルを備える。
また、本開示の一態様に係る表示パネルの製造方法は、平面視において、画像表示領域とその周辺の周辺領域とを有する表示パネルの製造方法であって、基板を準備し、基板の上方に、前記画像表示領域に対応する範囲に画素電極を形成し、基板の上方に、前記周辺領域に対応する範囲に周辺電極を形成し、感光性の樹脂材料を用いて、前記周辺電極のうち少なくとも内周側を被覆する親液性絶縁層と、前記画素電極を列方向に区画する行バンクとを形成し、感光性であって前記親液性絶縁層の材料よりフッ素含有率の大きい樹脂材料を用いて、少なくとも角部が前記親液性絶縁層上に位置する周辺隔壁と、前記画素電極を行方向に区画する列バンクとを形成し、前記画素電極の上方に、機能層を形成し、前記機能層の上方および前記周辺電極上に、共通電極を形成することを特徴とする。
 
【0025】
  また、本開示の別の一態様に係る表示パネルの製造方法は、平面視において、画像表示領域とその周辺の周辺領域とを有する表示パネルの製造方法であって、基板を準備し、基板の上方に、前記画像表示領域に対応する範囲に画素電極を形成し、基板の上方に、前記周辺領域に対応する範囲に周辺電極を形成し、感光性の樹脂材料を用いて、前記周辺電極のうち少なくとも内周側を被覆する親液性絶縁層と、前記画素電極を列方向に区画する行バンクとを形成し、感光性であって前記親液性絶縁層の材料よりフッ素含有率の大きい樹脂材料を用いて、前記親液性絶縁層の外周縁より内周側に位置する周辺隔壁と、前記画素電極を行方向に区画する列バンクとを形成し、前記画素電極の上方に、機能層を形成し、前記機能層の上方および前記周辺電極上に、共通電極を形成することを特徴とする。
 
【0026】
  上記態様の表示パネルの製造方法によれば、周辺電極に周辺隔壁が影響を与えず周辺隔壁と周辺電極との密着性が向上するため、安定した品質の表示パネルを効率よく製造することができる。
  <実施の形態>
  1.表示パネル10の全体構成
  1.1  概要
  実施の形態に係る表示パネルの一形態としての有機発光パネル10(以下、「表示パネル10」と称する)について、図面を用いて説明する。なお、図面は模式図であって、その縮尺は実際とは異なる場合がある。
 
【0027】
  図1は、表示パネル10の模式平面図である。
  表示パネル10は、有機化合物の電界発光現象を利用した有機EL表示パネルであり、薄膜トランジスタ(TFT:Thin  Film  Transistor)が形成された基板100x(TFT基板)に、各々が画素を構成する複数の発光素子(有機EL素子100)が行列状に配され、上面より光を発するトップエミッション型の構成を有する。ここで、本明細書では、
図1におけるX方向、Y方向、Z方向を、それぞれ、表示パネル10における、行方向、列方向、厚み方向、とする。
 
【0028】
  図1に示すように、表示パネル10は、有機EL素子100が行列状に配される画像表示領域10a(X方向、Y方向において言及する場合はそれぞれ10Xa、10Yaとする)と、画像表示領域10aを囲繞する周辺領域10b(X方向、Y方向において言及する場合はそれぞれ10Xba、10Ybとする)とから構成されている。画像表示領域10aは、各有機EL素子100を行方向に区画する列バンク522Yと、列方向に区画する行バンク122Xによって行列状に区画され、画像表示領域10aを囲繞するように、画像表示領域10aと周辺領域10bの境界に周辺隔壁320が形成されている。周辺領域10bには、周辺隔壁320を取り囲むように、周辺電極300が形成されている。なお、
図1には示していないが、周辺電極300を取り囲むように、封止部材が形成されている。
 
【0029】
  1.2  周辺隔壁320近傍の構成
  
図2は、
図1におけるX0部の拡大平面図である。
  表示パネル10の画像表示領域10aには、有機EL素子100に対応する単位画素100eが行列状に配されている。
  各単位画素100eには、有機化合物により光を発する領域である、赤色に発光する100aR、緑色に発光する100aG、青色に発光する100aB(以後、100aR、100aG、100aBを区別しない場合は、「100a」と略称する)の3種類の自己発光領域100aが形成されている。すなわち、
図2に示すように行方向に並んだ自己発光領域100aR、100aG、100aBのそれぞれに対応する3つのサブ画素100seが1組となりカラー表示における単位画素100eを構成している。
 
【0030】
  また、
図2に示すように、表示パネル10には、複数の画素電極119が基板100x上に行及び列方向にそれぞれ所定の距離だけ離れた状態で行列状に配されている。画素電極119は、平面視において矩形形状である。行列状に配された画素電極119は、行方向に順に並んだ3つの自己発光領域100aR、G、Bに対応する。
  表示パネル10では、バンク122の形状は、いわゆるライン状の絶縁層形式を採用し、行方向に隣接する2つの画素電極119の行方向外縁及び外縁間に位置する基板100x上の領域上方には、各条が列方向(
図2のY方向)に延伸する列バンク522Yが複数行方向に並設されている。
 
【0031】
  一方、列方向に隣接する2つの画素電極119の列方向外縁及び外縁間に位置する基板100x上の領域上方には、各条が行方向(
図2のX方向)に延伸する行バンク122Xが複数列方向に並設されている。行バンク122Xが形成される領域は、画素電極119上方の発光層123において有機電界発光が生じないために非自己発光領域100bとなる。そのため、自己発光領域100aの列方向における外縁は、行バンク122Xの列方向外縁により規定される。
 
【0032】
  隣り合う列バンク522Y間を間隙522zと定義したとき、間隙522zには、自己発光領域100aRに対応する赤色間隙522zR、自己発光領域100aGに対応する緑色間隙522zG、自己発光領域100aBに対応する青色間隙522zB(以後、間隙522zR、間隙522zG、間隙522zBを区別しない場合は、「間隙522z」とする)が存在し、表示パネル10は、列バンク522Yと間隙522zとが交互に多数並んだ構成を採る。
 
【0033】
  また、
図2に示すように、表示パネル10では、複数の自己発光領域100aと非自己発光領域100bとが、間隙522zに沿って列方向に交互に並んで配されている。非自己発光領域100bには、画素電極119とTFTのソースとを接続する接続凹部119c(コンタクトホール)があり、画素電極119に対して電気接続するための画素電極119上のコンタクト領域119b(コンタクトウインドウ)が設けられている。
 
【0034】
  また、1つのサブ画素100seにおいて、列方向に設けられた列バンク522Yと行方向に設けられた行バンク122Xとは直交し、自己発光領域100aは列方向において行バンク122Xと行バンク122Xの間に位置している。
  画像表示領域10aを囲繞する周辺領域10bには、周辺電極300が、画像表示領域10aを取り囲むように配されている。また、周辺領域10bと画像表示領域10aとの境界において、画像表示領域10aを囲繞するように周辺隔壁320が形成されている。周辺隔壁320の内周縁は、画像表示領域10aの最外周に位置する自己発光領域100aの外周縁を規定する。また、周辺隔壁320の外周縁は、周辺領域10bの内周縁を規定する。さらに、周辺隔壁320はその外周側の一部が周辺電極300上に位置しており、少なくとも周辺隔壁320の外周縁と周辺電極300との間には、親液性絶縁層310が内挿されている。すなわち、周辺隔壁320の外周縁は周辺電極300とは直接接触しておらず、親液性絶縁層310を介して密着している。
 
【0035】
  2.表示パネル10の各部構成
  表示パネル10における有機EL素子100および周辺隔壁320近傍の構成を、
図3の断面図を用いて説明する。
図3(a)は、
図2におけるA−Aで切断した模式断面図である。
図3(b)は、
図2におけるB−Bで切断した模式断面図である。
  本実施の形態に係る表示パネル10は、Z軸方向下方にTFTが形成された基板100x(TFT基板)が構成され、その上に有機EL素子部が構成されている。
 
【0036】
  (1)基板100x
  基板100xは、絶縁材料である基材と、TFT層と、層間絶縁層とを含む。TFT層には、サブ画素100seごとに駆動回路が形成されている。
  基材は、例えば、ガラス基板、石英基板、シリコン基板、硫化モリブデン、銅、亜鉛、アルミニウム、ステンレス、マグネシウム、鉄、ニッケル、金、銀などの金属基板、ガリウム砒素などの半導体基板、プラスチック基板等を採用することができる。プラスチック材料としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂いずれの樹脂を用いてもよい。例えば、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリサルホン(PSu)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、等の各種熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタン等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられる。これらよりプロセス温度に対して耐久性を有するように選択し、1種、または2種以上を積層した積層体を用いることができる。
 
【0037】
  層間絶縁層は、樹脂材料からなり、TFT層の上面の段差を平坦化するためのものである。樹脂材料としては、例えば、ポジ型の感光性材料が挙げられる。また、このような感光性材料として、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、シロキサン系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられる。
  (2)画素電極119および周辺電極300
  基板100xの上面に位置する層間絶縁層上には、画像表示領域10aにおいて、サブ画素100se単位で画素電極119が、周辺領域10bにおいて、画像表示領域10aを囲繞する周辺電極300が、それぞれ設けられている。
 
【0038】
  画素電極119は、発光層123へキャリアを供給するためのものであり、例えば陽極として機能した場合は、発光層123へホールを供給する。画素電極119の形状は、矩形形状をした平板状であり、画素電極119は行方向に所定の間隔をあけて、間隙522zのそれぞれにおいて列方向に所定の間隔をあけて基板100x上に配されている。また、基板100xの上面に開設されたコンタクトホールを通して、画素電極119の一部を基板100x方向に凹入された画素電極119の接続凹部119cとTFTのソースとが接続される。
 
【0039】
  周辺電極300は、後述する共通電極126へキャリアを供給するためのものであり、例えば画素電極119が陽極として機能した場合は、対向電極たる共通電極126へ電子を供給する。周辺電極300の形状は、額縁形状をした平板状であり、画素電極119に対して行方向及び列方向に所定の間隔をあけて基板100x上に配されている。
  画素電極119および周辺電極300は、光反射性の金属材料からなる金属層を含む。光反射性を具備する金属材料の具体例としては、Ag(銀)、Al(アルミニウム)、アルミニウム合金、Mo(モリブデン)、APC(銀、パラジウム、銅の合金)、ARA(銀、ルビジウム、金の合金)、MoCr(モリブデンとクロムの合金)、MoW(モリブデンとタングステンの合金)、NiCr(ニッケルとクロムの合金)などが挙げられる。
 
【0040】
  画素電極119および周辺電極300は、金属層単独で構成してもよいが、金属層の上に、ITO(酸化インジウム錫)やIZO(酸化インジウム亜鉛)のような金属酸化物からなる層を積層した積層構造としてもよい。
  (3)正孔注入層120、正孔輸送層121
  正孔注入層120は、画素電極119から発光層123への正孔(ホール)の注入を促進させる目的で、画素電極119上に設けられている。正孔注入層120の材料の具体例としては、例えば、PEDOT/PSS(ポリチオフェンとポリスチレンスルホン酸との混合物)などの導電性ポリマー材料が挙げられる。
 
【0041】
  なお、正孔注入層120は、遷移金属の酸化物で形成してもよい。遷移金属の具体例としては、Ag(銀)、Mo(モリブデン)、Cr(クロム)、V(バナジウム)、W(タングステン)、Ni(ニッケル)、Ir(イリジウム)などである。遷移金属は複数の酸化数を取るため、複数の準位を取ることができ、その結果、正孔注入が容易になり、駆動電圧の低減に寄与するからである。この場合、正孔注入層120は、大きな仕事関数を有することが好ましい。
 
【0042】
  正孔輸送層121は、正孔注入層120から注入された正孔を発光層123へ輸送する機能を有し、正孔を正孔注入層120から発光層123へと効率よく輸送するため、正孔移動度の高い有機材料で形成されている。正孔輸送層121の形成は、有機材料溶液の塗布および乾燥により行われる。正孔輸送層121を形成する有機材料としては、ポリフルオレンやその誘導体、あるいはポリアリールアミンやその誘導体等の高分子化合物を用いることができる。
 
【0043】
  また、正孔輸送層121はトリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、ポルフィリン化合物、芳香族第三級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、ブタジエン化合物、ポリスチレン誘導体、ヒドラゾン誘導体、トリフェニルメタン誘導体、テトラフェニルベンゼン誘導体を用いて形成されてもよい。特に好ましくは、ポリフィリン化合物、芳香族第三級アミン化合物及びスチリルアミン化合物等を用いてもよい。この場合、正孔輸送層121は、真空蒸着法により形成される。なお、正孔輸送層121の材料および製造方法は上述のものに限られず、正孔輸送機能を有する任意の材料を用いてよく、正孔輸送層121の製造に用いることのできる任意の製造方法で形成されてよい。
 
【0044】
  (4)バンク122
  画素電極119、正孔注入層120及び正孔輸送層121の端縁を被覆するように絶縁物からなるバンク122が形成されている。バンク122は、列方向に延伸して行方向に複数並設されている列バンク522Yと、行方向に延伸して列方向に複数並設されている行バンク122Xとがあり、
図2に示すように、列バンク522Yはバンク122Xと直交する行方向に沿った状態で設けられており、列バンク522Yと行バンク122Xとで格子状をなしている。また、列バンク522Yはバンク122Xの上面122Xbよりも高い位置に上面522Ybを有する。
 
【0045】
  行バンク122Xの形状は、行方向に延伸する線状であり、列方向に平行に切った断面は上方を先細りとする順テーパー台形状である。行バンク122Xは、各列バンク522Yを貫通するようにして、列方向と直交する行方向に沿った状態で設けられており、各々が列バンク522Yの上面522Ybよりも低い位置に上122Xbを有する。そのため、行バンク122Xと列バンク522Yとにより、自己発光領域100aに対応する開口が形成されている。
 
【0046】
  行バンク122Xは、発光層123の材料となる有機化合物を含んだインクの列方向への流動を制御する。そのため、行バンク122Xはインクに対する親液性が所定の値以上であることが必要である。係る構成により、発光層123の材料となる有機化合物を含んだインクの列方向への流動性を高めサブ画素間のインク塗布量の変動を抑制する。行バンク122Xと列バンク522とによって区画された自己発光領域100以外では、画素電極119は露出することはなく、行バンク122Xが存在する領域では発光せず輝度には寄与しない。
 
【0047】
  行バンク122Xの厚みの上限膜厚は、2000nmより厚い場合はインクの濡れ広がりが悪く、1200nm以下の場合には、インクの濡れ広がりが更に良化する。また、下限膜厚は、下限膜厚は、100nm以上あれば、画素電極119端部がバンク122で被覆され画素電極119と共通電極126がショートする事なく一定の歩留りで製造可能となる。200nm以上あれば、膜厚バラつきにともなう上記のショート不良が軽減され安定的に製造可能となる。バンク122に接続溝部を設ける場合における、溝部の底における膜厚も同様である。
 
【0048】
  したがって、行バンク122Xの厚み、例えば、100nm以上2000nm以下、より好ましくは200nm以上1200nm以下であることが好ましい。本実施の形態では、約1000nmとした。
  列バンク522Yは、発光層123の材料となる有機化合物を含んだインクの列方向への流動を堰き止めて形成される発光層123の行方向外縁を規定するものである。列バンク522Yの形状は、行方向に延伸する線状であり、列方向に平行に切った断面は上方を縮幅する台形形状である。
 
【0049】
  列バンク522Yは、行方向における各サブ画素100seの自己発光領域100aの外縁を規定する。そのため、列バンク522Yはインクに対する撥液性が所定の値以上であることが必要である。
  列バンク522Yの厚み、例えば、100nm以上5000nm以下、より好ましくは200nm以上3000nm以下であることが好ましい。本実施の形態では、約2000nmとした。
 
【0050】
  行バンク122Xおよび列バンク522Yは、画素電極119の外縁と、共通電極126との間における厚み方向(Z方向)の電流リークを防止するために、バンク122は、体積抵抗率が1×10
6 Ωcm以上の絶縁性を備えていることが必要である。そのために、バンク122は、は後述するように所定の絶縁材料からなる構成を採る。
  列バンク522Yは、絶縁性の樹脂材料からなる母材に、フッ素系化合物などの撥液性の界面活性剤が添加されてなる。絶縁性の樹脂材料である母材としては、例えば、ポジ型の感光性材料を用いることができ、具体的には、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、シロキサン系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられる。なお、母材はポジ型の感光性材料に限られず、例えば、ネガ型の感光材料を用いてもよいし、感光性でない材料を用いてもよい。
 
【0051】
  行バンク122Xは、樹脂材料からなり、例えば、ポジ型の感光性材料を用いることができる。このような感光性材料として、具体的には、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、シロキサン系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられる。なお、樹脂材料はポジ型の感光性材料に限られず、例えば、ネガ型の感光材料を用いてもよいし、感光性でない材料を用いてもよい。
 
【0052】
  (5)親液性絶縁層310、周辺隔壁320
  周辺隔壁320は、画像表示領域10aを囲繞するように形成され、画像表示領域10aと周辺領域10bとの境界を規定する。周辺隔壁320の形状は、画像表示領域10aの外延に沿った額縁状であり、延伸方向に直交する向きに切った断面は上方を縮幅する台形形状である。
 
【0053】
  周辺隔壁320は、発光層123の材料となる有機化合物を含んだインクの周辺領域10bへの流出を防止するものである。そのため、周辺隔壁320は、列バンク522Yと同様に、インクに対する撥液性が所定の値以上であることが必要である。また、周辺隔壁320の厚みは、列バンク522Yと同程度、または、それ以上であることが好ましい。
  周辺隔壁320は、絶縁性の樹脂材料からなる母材に、フッ素系化合物などの撥液性の界面活性剤が添加されてなる。絶縁性の樹脂材料である母材としては、例えば、ポジ型の感光性材料を用いることができ、具体的には、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、シロキサン系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられる。なお、母材はポジ型の感光性材料に限られず、例えば、ネガ型の感光材料を用いてもよいし、感光性でない材料を用いてもよい。なお、周辺隔壁320は、列バンク522Yと同じ材料を用いて形成されてもよく、さらに、列バンク522Yと一体成形されてもよい。
 
【0054】
  親液性絶縁層310は、周辺隔壁320の少なくとも外周縁が周辺電極300に直接接触することを抑止するために設けられる。親液性絶縁層310の形状は、周辺隔壁320の少なくとも外周縁を含む額縁状であり、延伸方向に直交する向きに切った断面は上方を縮幅する台形形状である。
  親液性絶縁層310は、周辺隔壁320の材料に含まれる撥液性の成分、具体的にはフッ素系化合物から周辺電極300を保護する保護層として機能する。したがって、親液性絶縁層310は、撥液性が低く、周辺隔壁320と比較してフッ素系化合物の含有率が低い。また、親液性絶縁層310は、フッ素系化合物を全く含まない、としてもよい。
 
【0055】
  親液性絶縁層310は、樹脂材料からなり、例えば、ポジ型の感光性材料を用いることができる。このような感光性材料として、具体的には、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、シロキサン系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられる。なお、樹脂材料はポジ型の感光性材料に限られず、例えば、ネガ型の感光材料を用いてもよいし、感光性でない材料を用いてもよい。なお、親液性絶縁層310は、行バンク122Xと同じ材料を用いて形成されてもよく、さらに、行バンク122Xと一体成形されてもよい。
 
【0056】
  なお、本発明における、フッ素含率とは、バンク、周辺隔壁320、親液性絶縁層310、列バンク522Y、および行バンク122Xのそれぞれの上面の表面におけるフッ素含率をいう。表面にFイオンが存在しているかの分析は、例えば、TOF-SIMS装置において行う。この方法において、1次イオンとしてBiを使用し、分析では表面〜2nm程度から得られる2次イオンを検出することにより、フッ素含率を測定したものである。
 
【0057】
  (6)発光層123
  発光層123は、開口部内において正孔輸送層121上に形成されている。発光層123は、正孔と電子の再結合によりR、G、Bの各色の光を出射する機能を有する。発光層123の材料としては、公知の材料を利用することができる。
  発光層123に含まれる有機発光材料としては、例えば、オキシノイド化合物、ペリレン化合物、クマリン化合物、アザクマリン化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ペリノン化合物、ピロロピロール化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、フルオレン化合物、フルオランテン化合物、テトラセン化合物、ピレン化合物、コロネン化合物、キノロン化合物およびアザキノロン化合物、ピラゾリン誘導体およびピラゾロン誘導体、ローダミン化合物、クリセン化合物、フェナントレン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチルベン化合物、ジフェニルキノン化合物、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物、フルオレセイン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、セレナピリリウム化合物、テルロピリリウム化合物、芳香族アルダジエン化合物、オリゴフェニレン化合物、チオキサンテン化合物、シアニン化合物、アクリジン化合物、8−ヒドロキシキノリン化合物の金属錯体、2−ビピリジン化合物の金属錯体、シッフ塩とIII族金属との錯体、オキシン金属錯体、希土類錯体等の蛍光物質を用いることができる。また、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウムなどの燐光を発光する金属錯体等の公知の燐光物質を用いることができる。また、発光層123は、ポリフルオレンやその誘導体、ポリフェニレンやその誘導体、あるいはポリアリールアミンやその誘導体等の高分子化合物等、もしくは前記低分子化合物と前記高分子化合物の混合物を用いて形成されてもよい。
 
【0058】
  (7)電子輸送層124
  電子輸送層124は、画像表示領域10aの内部において、複数のサブ画素100seに共通して発光層123および行バンク122X、列バンク522Y上に形成されており、共通電極126から注入された電子を発光層123へと輸送する機能を有する。電子輸送層124は、例えば、オキサジアゾール誘導体(OXD)、トリアゾール誘導体(TAZ)、フェナンスロリン誘導体(BCP、Bphen)などを用い形成されている。
 
【0059】
  (8)電子注入層125
  電子注入層125は、画像表示領域10aの内部において、複数のサブ画素100seに共通して電子輸送層124上に設けられており、共通電極126から発光層123への電子の注入を促進させる機能を有する。
  電子注入層125は、例えば、電子輸送性を有する有機材料に、電子注入性を向上させる金属材料がドープされてなる。ここで、ドープとは、金属材料の金属原子または金属イオンを有機材料中に略均等に分散させることを指し、具体的には、有機材料と微量の金属材料を含む単一の相を形成することを指す。なお、それ以外の相、特に、金属片や金属膜など、金属材料のみからなる相、または、金属材料を主成分とする相は、存在していないことが好ましい。また、有機材料と微量の金属材料を含む単一の相において、金属原子または金属イオンの濃度は均一であることが好ましく、金属原子または金属イオンは凝集していないことが好ましい。金属材料としては、アルカリ金属、または、アルカリ土類金属から選択されることが好ましく、BaまたはLiがより好ましい。本実施の形態では、Baが選択される。また、電子注入層125における金属材料のドープ量は5〜40wt%が好ましい。本実施の形態では、20wt%である。電子輸送性を有する有機材料としては、例えば、オキサジアゾール誘導体(OXD)、トリアゾール誘導体(TAZ)、フェナンスロリン誘導体(BCP、Bphen)などのπ電子系低分子有機材料が挙げられる。
 
【0060】
  なお、電子注入層125は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属から選択される金属のフッ化物層を発光層123側に有していてもよい。
  (9)共通電極126
  共通電極126は、周辺電極300、親液性絶縁層310、周辺隔壁320、電子輸送層124上に共通して形成されており、陰極として機能する。
 
【0061】
  共通電極126は、透光性と導電性とを兼ね備えており、金属材料で形成された金属層、金属酸化物で形成された金属酸化物層のうち少なくとも一方を含んでいる。透光性を確保するため、金属層の膜厚は1nm〜50nm程度である。金属層の材料としては、例えば、Ag、Agを主成分とする銀合金、Al、Alを主成分とするAl合金が挙げられる。Ag合金としては、マグネシウム−銀合金(MgAg)、インジウム−銀合金が挙げられる。Agは、基本的に低抵抗率を有し、Ag合金は、耐熱性、耐腐食性に優れ、長期にわたって良好な電気伝導性を維持できる点で好ましい。Al合金としては、マグネシウム−アルミニウム合金(MgAl)、リチウム−アルミニウム合金(LiAl)が挙げられる。その他の合金として、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金が挙げられる。金属酸化物層の材料としては、例えば、ITO(酸化インジウム錫)、IZO(酸化インジウム亜鉛)が挙げられる。
 
【0062】
  共通電極126は、金属層単独、または、金属酸化物層単独で構成してもよいが、金属層の上に金属酸化物層を積層した積層構造、あるいは金属酸化物層の上に金属層を積層した積層構造としてもよい。
  (10)封止層127
  共通電極126の上には、封止層127が設けられている。封止層127は、基板100xの反対側から不純物(水、酸素)が共通電極126、電子注入層125、電子輸送層124、発光層123等へと侵入するのを防ぎ、不純物によるこれらの層の劣化を抑制する機能を有する。封止層127は、窒化シリコン(SiN)、酸窒化シリコン(SiON)などの透光性材料を用い形成される。また、窒化シリコン(SiN)、酸窒化シリコン(SiON)などの材料を用い形成された層の上に、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂材料からなる封止樹脂層を設けてもよい。
 
【0063】
  本実施の形態においては、表示パネル10がトップエミッション型であるため、封止層127は光透過性の材料で形成されることが必要となる。
  (11)その他
  なお
図3には示されないが、封止層127の上に、封止樹脂を介してカラーフィルタや上部基板を貼り合せてもよい。上部基板を貼り合せることによって、正孔注入層120、正孔輸送層121、発光層123、電子輸送層124、電子注入層125、共通電極126を水分および空気などから保護できる。
 
【0064】
  3.実施の形態に係る表示パネル10の効果
  以下、模式断面図を用いて、実施の形態に係る親液性絶縁層310を有する表示パネル10と、親液性絶縁層を有しない有機発光パネルとの差異について説明する。
図10は、比較例に係る有機発光パネルの模式平面拡大図であり、
図2と同様に、画像表示領域と周辺領域との境界近傍を拡大したものである。
図11は、比較例に係る有機発光パネルの模式断面図であり、
図11(a)は
図10のC−Cで切断した模式断面図、
図11(b)は
図10のD−Dで切断した模式断面図を示す。
 
【0065】
  図10に示す比較例では、親液性絶縁層310を有さず、撥液性を有する周辺隔壁320が周辺電極300上に直接形成されている。比較例では、周辺隔壁320や列バンク522Yのパターニング工程において、未硬化の材料レジスト層を現像液で取り除く。このとき、共通電極126と封止層127は未形成であるため、周辺隔壁320に覆われていない周辺電極300表面は、現像液に暴露される。上述したように、周辺隔壁320や列バンク522Yは撥液性を備えるためフッ素化合物を含むので、現像液にはフッ化化合物が含まれる。一方、周辺電極300は金属材料からなるため、その表面が現像液に含まれるフッ化化合物と反応して一部が溶出する。特に、この反応が周辺隔壁320と周辺電極300との界面で発生すると、周辺電極300の周辺隔壁320に接触している部分が溶け出し、周辺隔壁320と周辺電極300との界面に亀裂状の剥がれが生じる。その結果として、周辺隔壁320の外周縁の一部が周辺電極300から浮き上がるため、周辺隔壁320と周辺電極300との密着性が大きく低下する。したがって、発光層の塗布工程において、剥がれた周辺隔壁320からインクが漏出していわゆる混色が生じる懸念がある。なお、周辺隔壁320の形成時における現像時間を短縮すれば、周辺電極300の表面が現像液に接する時間が短縮するため、周辺隔壁320と周辺電極300との剥がれの懸念は解消するものの、未硬化の材料レジスト層を十分に除去できなくなる懸念がある。すなわち、周辺電極300の表面腐食を抑止しようとすると、周辺隔壁320や列バンク522Yの形状に不良が生じる、撥液性絶縁層が不必要な個所に絶縁層が存在するなどの形成不良等が生じ得る、という二律背反の状態に陥る。
 
【0066】
  一方、実施の形態に係る表示パネル10では、少なくとも周辺隔壁320の外周縁と周辺電極300との間に、親液性絶縁層310が存在している。実施の形態に係る表示パネル10においても、周辺隔壁320や列バンク522Yのパターニング工程において、未硬化の材料レジスト層を現像液で取り除く際に、親液性絶縁層310に覆われていない周辺電極300表面は、現像液に暴露される。しかしながら、親液性絶縁層310のフッ素化合物の含有率は周辺隔壁320より少ない、または、含まない。したがって、親液性絶縁層310と周辺電極300との界面において、周辺電極300の表面腐食を抑止することができる。さらに、周辺電極300表面と周辺隔壁320との間に親液性絶縁層310が介在しているため、親液性絶縁層310と周辺電極300との界面において、現像液中のフッ素化合物濃度は親液性絶縁層310がない場合ほど高くならない。これにより、周辺隔壁320の剥がれを抑止することができる。ここで、周辺隔壁320の剥がれ抑制の効果を確認するために、現像時間を長くして周辺隔壁320の剥がれを調べた結果を以下の表に示す。ここで、現像時間は、列バンク522形成の際の現像時間において、発光層等を形成させる自己発光領域100の所定の全面において完全にレジストが除去された時間を1として規格した時間である。比較例では、現像時間のマージンはほとんどない結果であったが、本発明に係る実施例では、現像時間を1.4倍まで延長しても、周辺隔壁320の剥がれが生じることはなかった。
 
【0067】
【表1】
このため、周辺隔壁320や列バンク522Y等の形成時において現像時間を十分に確保することができ、現像時間の不足による周辺隔壁320や列バンク522Yの形成不良を抑止することができる。
 
【0068】
  4.表示パネル10の製造方法
  次に、表示パネル10の製造方法について、図面を用い説明する。
図5、6は、表示パネル10の製造における各工程での状態を示す模式断面図であり、
図2のA−A断面図に対応する。
図7から
図8は、表示パネル10の製造における各工程での状態を示す模式断面図であり、
図2のB−B断面図に対応する。また、
図9は、表示パネル10の製造における各工程での状態を示す模式平面図である。また、
図4は、表示パネル10の製造方法を示すフローチャートである。
 
【0069】
  (1)基板100xの作成
  まず、
図5(a)、
図7(a)に示すように、基材上にTFT層を成膜し、TFT層上に層間絶縁層を形成して基板100xを形成する(ステップS10)。TFT層は、公知のTFTの製造方法により成膜することができる。層間絶縁層は、例えば、プラズマCVD法、スパッタリング法などを用いて積層形成することができる。
 
【0070】
  次に、層間絶縁層における、TFT層のソース電極上の箇所にドライエッチングを行い、コンタクトホールを生成する。コンタクトホールは、その底部にソース電極の底面が露出されるように形成される。
  次に、コンタクトホールの内壁に沿って接続電極層を形成する。接続電極層の上部は、その一部が層間絶縁層上に配される。接続電極層の形成は、例えば、スパッタリング法を用いることができ、金属膜を成膜した後、フォトリソグラフィ法およびウェットエッチング法を用いパターニングすることがなされる。
 
【0071】
  (2)画素電極119、周辺電極300の形成
  次に、
図5(b)、
図7(b)に示すように、基板100x上に画素電極材料層119Xを形成する(ステップS20)。画素電極材料層119Xは、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法などを用いて形成することができる。
  そして、
図5(c)、
図7(c)に示すように、画素電極材料層119Xをエッチングによりパターニングして、画像表示領域10a内のサブ画素100seごとに区画された複数の画素電極119と、周辺領域10b内の周辺電極300とを形成する(ステップS30)。形成された画素電極119と、周辺電極300とは、平面視すると
図9(a)の模式図に示すように配される。
 
【0072】
  (3)行バンク122X、親液性絶縁層310の形成
  次に、
図5(d)、
図7(d)に示すように、画素電極119、周辺電極300、および、基板100x上に、行バンク122Xおよび親液性絶縁層310の材料である感光性樹脂を塗布し、第1レジスト層122Aを形成する(ステップS40)。感光性樹脂は、例えば、ポジ型の感光性材料であるフェノール樹脂が用いられる。第1レジスト層122Aは、フェノール樹脂を溶媒に溶解させた溶液を画素電極119、周辺電極300、および、基板100x上にスピンコート法などを用いて一様に塗布することにより形成される。
 
【0073】
  そして、第1レジスト層122Aにパターン露光と現像を行うことで、
図5(e)、
図7(e)に示すように、行バンク122Xと親液性絶縁層310とを形成する(ステップS50)。形成された行バンク122Xと親液性絶縁層310とは、平面視すると
図9(b)の模式図に示すように配される。行バンク122Xは、列方向に隣接する画素電極119間において、双方の画素電極119の一部を被覆し、且つ、コンタクトホールを被覆するように形成される。一方、親液性絶縁層310は、少なくとも周辺隔壁320の外周縁を含むように、所定の幅を有する額縁状に周辺電極300上に配される。なお、
図9(b)に示すように、画像表示領域10aと周辺領域10bとの境界近傍において、行バンク122Xと親液性絶縁層310とが分離せず一体となった構成であってもよい。
 
【0074】
  (4)列バンク522Y、周辺隔壁320の形成
  次に、
図6(a)、
図8(a)に示すように、画素電極119、周辺電極300、および、基板100x上に、列バンク522Yおよび周辺隔壁320の材料である感光性樹脂を塗布し、第2レジスト層522Aを形成する(ステップS60)。感光性樹脂は、例えば、ポジ型の感光性材料であるフェノール樹脂に、撥液性を有する界面活性剤であるフッ素化合物が添加されて用いられる。第2レジスト層522Aは、フェノール樹脂を溶媒に溶解させた溶液を画素電極119、周辺電極300、および、基板100x上にスピンコート法などを用いて一様に塗布することにより形成される。
 
【0075】
  そして、第2レジスト層522Aにパターン露光と現像を行うことで、
図6(b)、
図8(b)に示すように、列バンク522Yと周辺隔壁320とを形成する(ステップS70)。形成された列バンク522Yと周辺隔壁320とは、平面視すると
図9(c)の模式図に示すように配される。列バンク522Yは、行方向に隣接する画素電極119間において、双方の画素電極119の一部を被覆し、かつ、行バンク122Xを被覆するように形成される。一方、周辺隔壁320は、少なくとも周辺隔壁320の外周縁が親液性絶縁層310上に存在するように、所定の幅を有する額縁状に周辺電極300上に配される。なお、
図9(c)に示すように、画像表示領域10aと周辺領域10bとの境界近傍において、列バンク522Yと周辺隔壁320とが分離せず一体となった構成であってもよい。
 
【0076】
  最後に、行バンク122X、親液性絶縁層310、列バンク522Y、周辺隔壁320をまとめて焼成する。焼成は、例えば、150℃以上210℃以下の温度で60分間行う。
  (5)機能層の形成
  次に、行バンク122Xおよび列バンク522Yが規定する開口部に対し、正孔注入層120の構成材料を含むインクを開口部内の画素電極119上に塗布し、焼成(乾燥)を行って、正孔注入層120を形成する。次に、正孔輸送層121の構成材料を含むインクを開口部内の正孔注入層120上に塗布し、焼成(乾燥)を行って、正孔輸送層121を形成する(ステップS80)。
 
【0077】
  次に、発光層123の構成材料を含むインクを開口部内の発光層123上に塗布し、焼成(乾燥)を行って、発光層123を形成する(ステップS90)。
  次に、周辺隔壁320が規定する画像表示領域10aの全域に跨って、発光層123、行バンク122X、および列バンク522Y上に、電子輸送層124を構成する材料を真空蒸着法またはスパッタリング法により各サブピクセルに共通して成膜し、電子輸送層124を形成する。次に、電子輸送層124上に、電子注入層125を構成する材料を、蒸着法、スピンコート法、キャスト法などの方法により電子輸送層124上に成膜し、各サブ画素に100seに共通して電子注入層125を形成する(ステップS100)。
図6(c)、
図8(c)は、電子輸送層124の成膜直後の状態を示す。
 
【0078】
  (6)共通電極126の成膜
  次に、電子注入層125、親液性絶縁層310、周辺隔壁320、周辺電極300上に跨って、共通電極126を構成する材料を真空蒸着法またはスパッタリング法により各サブ画素100seおよび周辺電極300に共通して成膜し、共通電極126を形成する(ステップS110)。
 
【0079】
  (7)封止層127の成膜
  最後に、
図6(d)、
図8(d)に示すように、共通電極126上に、封止層127を形成する材料をCVD法またはスパッタリング法により各サブピクセルに共通して成膜し、封止層127を形成する(ステップS120)。
  以上の工程を経ることにより表示パネル10が完成する。
 
【0080】
  なお、封止層127の上にカラーフィルタや上部基板を載置し、接合してもよい。
  5.有機EL表示装置の全体構成
  
図12は、表示パネル10を備えた表示装置1000の構成を示す模式ブロック図である。
図12に示すように、表示装置1000は、表示パネル10と、これに接続された駆動制御部200とを含む構成である。駆動制御部200は、4つの駆動回路210〜240と、制御回路250とから構成されている。
 
【0081】
  なお、実際の有機EL表示装置1000では、表示パネル10に対する駆動制御部200の配置については、これに限られない。
  4.変形例
  (1)上記実施の形態においては、親液性絶縁層310は、平面視において周辺隔壁320の外周縁を基準にその内周側と外周側とに存在するとした。しかしながら、親液性絶縁層310は、平面視において周辺隔壁320の外周縁およびそのすぐ内周側の直下において、周辺電極300と周辺隔壁320との間に介在していればよい。例えば、平面視したとき、親液性絶縁層310の外周縁と周辺隔壁320の外周縁とが一致していてもよい。
 
【0082】
  さらには、周辺隔壁の現像工程において、現像液に晒された周辺電極の表面がフッ素化合物によって溶出し、これにより周辺隔壁が基板から剥がれる現象は、周辺隔壁320が直線状である部分より折れ・曲がりがある部分で起こりやすく、周辺隔壁320の角部において最も起こりやすい。したがって、周辺隔壁320の外周縁のうち、折れ・曲がりがある部分のみ、すなわち、少なくとも周辺隔壁320の角部において、親液性絶縁層310が、周辺電極300と周辺隔壁320との間に介在していればよい。
 
【0083】
  (2)上記実施の形態においては、周辺隔壁320は隙間なく画像表示領域10aを取り囲むように形成されるとした。しかしながら、周辺隔壁320は、例えば、列バンク522Yの両端に当たる、画像表示領域10aの列方向両端(
図1における、画像表示領域10aの上端及び下端)を塞ぐようにゲタ状に形成されてもよい。また、例えば、周辺隔壁320は、例えば、列バンク522Yと平行に形成される部分、および/または、行バンク122Xと接する部分の一部が切り欠かれた形状であってもよい。この場合において、周辺隔壁320の外周縁であって、周辺領域10b内かつ周辺電極300上に当たる部分において、その直下に親液性絶縁層310が存在していればよい。
 
【0084】
  また、周辺隔壁320に限られず、例えば、ダミー画素領域を区画する矩形上の隔壁など、周辺領域10b内における列バンク522Y同様の構造物が存在する場合には、その隔壁の外周縁であって、周辺電極300上に当たる部分において、その直下に親液性絶縁層310が存在していればよい。
  (3)上記実施の形態においては、周辺電極300は隙間なく画像表示領域10aを取り囲むように形成されるとした。しかしながら、周辺電極300は、例えば、列バンク522Yに沿って画像表示領域10aの行方向外側(
図1における、画像表示領域10aの左側及び右側)のみに存在してもよいし、または、複数の領域に分割されて存在していてもよい。または、例えば、その他の電極が周辺領域10bに存在していてもよく、その電極上に周辺隔壁が配される場合には、周辺隔壁の外周縁の直下となる部分において、上に親液性絶縁層310が存在していればよい。
 
【0085】
  (4)上記実施の形態においては、画素電極119と周辺電極300、行バンク122Xと親液性絶縁層310、列バンク522Yと周辺隔壁320を、それぞれ、同一の材料を用いて同時に生成する場合について説明した。しかしながら、例えば、画素電極119と周辺電極300とは別途形成してもよいし、列バンク522Yと周辺隔壁320とを、別途形成してもよい。
 
【0086】
  (4)上記実施の形態においては、R、G、Bのそれぞれに発光する3種類の発光層を設けた有機EL表示パネルについて説明したが、発光層の種類は2種類であってもよいし、4種類以上であってもよい。ここで、発光層の種類とは発光層や機能層の膜厚のバリエーションを指すものであり、同一の発光色であっても発光層や機能層の膜厚が異なる場合は、種類が異なる発光層と考えてよい。また、発光層の配置についても、RGBRGB…の配置に限られず、RGBBGRRGB…の配置であってもよいし、画素と画素との間に補助電極層やその他の非発光領域を設けてもよい。補助電極層を設ける場合、補助電極層は、周辺電極300と電気的に接続されることが好ましい。また、補助電極層は、画素電極119と周辺電極300との少なくとも一方と同時に、同じ材料を用いて形成されてもよい。
 
【0087】
  (5)上記実施の形態においては、有機EL素子100において正孔注入層120、正孔輸送層121、発光層123は全て塗布法により形成されるとしたが、他の方法、例えば、蒸着法、スパッタリング法などにより形成されるとしてもよい。
  また、正孔注入層120、正孔輸送層121、電子輸送層124、電子注入層125は必ずしも上記実施の形態の構成である必要はない。いずれか1以上を備えないとしてもよいし、さらにほかの機能層を備えていてもよい。また、例えば、電子輸送層124と電子注入層125に替えて、単一の電子注入輸送層を備える、としてもよい。
 
【0088】
  (6)上記実施の形態においては、表示パネル10はトップエミッション型であるとして、画素電極が光反射性を有し、共通電極が光透過性を有する場合について説明した。しかしながら、本開示に係る表示パネルは、いわゆるボトムエミッション型であるとしてもよい。
  (7)上記実施の形態においては、表示パネル10は発光素子として塗布型の有機EL素子100を備えるとしたが、表示パネル10は発光素子として、蒸着型の有機EL素子を備えるとしてもよい。また、本発明は、有機発光パネルに限られず、例えば、無機発光パネルなど、それ以外の発光素子を備えるとしてもよいし、液晶パネルなどの非自己発光パネルであってもよいし、広く金属膜上にフッ素含有のレジストパターンを形成する素子であって、その金属膜がフォトリソの現像によりダメージを受ける場合に有効である。
 
【0089】
  (8)以上、本開示に係る有機EL表示パネルおよび有機EL表示装置について、実施の形態および変形例に基づいて説明したが、本発明は、上記の実施の形態および変形例に限定されるものではない。上記実施の形態および変形例に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で実施の形態および変形例における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。