(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記保持部材は、前記複数の電子放出板付勢部と当該複数の電子放出板付勢部に一体に形成されている平板部とを含む枠板部と、前記ベース部と前記平板部とに挟まれていると共に前記電子放出板の縁を囲うスペーサと、を有し、
前記複数の電子放出板付勢部は、前記平板部から突出して前記電子放出板を前記ベース部に対して弾性的に付勢しており、
前記スペーサの厚さは、前記電子放出板の厚さ以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電子管。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されている電子管では、支持板と入射窓とで光電陰極板を挟むことで光電陰極板が保持されている。光電陰極板には、支持板を通して電圧が印加されている。この構成では、電子管の各部材における製造誤差及び温度変化による変形によって、支持板と光電陰極板との間の位置関係が安定しないおそれがある。支持板と光電陰極板との間の位置関係が安定しない場合には、支持板を通して光電陰極板に印加される電圧も不安定となるおそれがある。このため、製造誤差及び温度変化による変形があったとしても光電陰極板などの電子放出板に対して安定した電圧を印加することが求められている。
【0005】
本発明の一つの態様は、電磁波の入射に応じて電子を放出する電子放出板を有し、当該電子放出板に対して印加される電圧の安定性が向上されている電子管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの態様に係る電子管は、ハウジングと電子放出板と保持部材とを備える。ハウジングは、電磁波透過性を有する窓を有している。電子放出板は、ハウジングの内部に配置されており、電磁波の入射に応じて電子を放出する。保持部材は、ハウジングの内部に配置されており、電子放出板を保持する。保持部材は、電子放出板に電圧を印加する。電子放出板は、互いに対向する第1主面及び第2主面を有する。保持部材は、第1主面に接しているベース部と、複数の電子放出板付勢部とを有する。複数の電子放出板付勢部は、第2主面の縁に接していると共に前記ベース部に電子放出板を弾性的に付勢する。保持部材は、当該複数の電子放出板付勢部を通して第2主面と電気的に接続されている。
【0007】
上記一つの態様では、複数の電子放出板付勢部がベース部に電子放出板を弾性的に付勢している(以下、電子放出板付勢部を、単に「付勢部」と称する)。このため、電子管における各部材の多少の製造誤差及び温度変化による変形があったとしても、複数の付勢部が電子放出板に安定して接する。保持部材は、当該複数の付勢部を通して電子放出板の第2主面と電気的に接続されている。このため、保持部材の複数の付勢部を通して電子放出板の第2主面に印加される電圧の安定性が向上される。
【0008】
上記一つの態様では、複数の付勢部は、第2主面の法線方向から見て、回転対称となる位置に配置されていてもよい。この場合、複数の付勢部によって電子放出板に付勢力が均等に加えられる。このため、電子放出板が複数の付勢部に安定して接する。
【0009】
上記一つの態様では、複数の付勢部は、板状であってもよい。各付勢部の厚さは、電子放出板の厚さよりも小さくてもよい。この場合、各付勢部から電子放出板に加わる付勢力が低減されている。したがって、電子放出板の破損が抑制される。
【0010】
上記一つの態様では、各付勢部は、複数の部分に分かれていてもよい。複数の部分の各々がベース部に電子放出板を弾性的に付勢していてもよい。この場合、各付勢部から付勢力が電子放出板により安定して加えられる。このため、電子放出板がより安定して複数の付勢部に接する。
【0011】
上記一つの態様では、保持部材は、枠板部と、スペーサとを有していてもよい。枠板部は、複数の電子放出板付勢部と当該複数の電子放出板付勢部に一体に形成されている平板部とを含んでいてもよい。スペーサは、ベース部と平板部とに挟まれていると共に電子放出板の縁を囲っていてもよい。複数の付勢部は、平板部から突出して電子放出板をベース部に対して弾性的に付勢していてもよい。スペーサの厚さは、電子放出板の厚さ以下であってもよい。この場合、電子放出板の縁を囲うスペーサによって、電子放出板の厚み方向に直交する方向において、電子放出板がより確実に保持される。スペーサの厚さが電子放出板の厚さ以下であるため、複数の付勢部が電子放出板の厚み方向に電子放出板に加える付勢力が安定して確保される。このため、電子放出板の厚み方向において、電子放出板がより確実に保持される。
【0012】
枠板部には、複数の電子放出板付勢部と平板部とによって画成された開口が形成されていてもよい。複数の電子放出板付勢部は、互いに対向する方向に平板部から開口の中心側に延在していてもよい。
【0013】
上記一つの態様では、ベース部には、窓を通過した電磁波が入射する開口が形成されていてもよい。開口は、矩形状又は円形状であってもよい。ベース部は、開口を画成する縁で第1主面に接していてもよい。この場合、電子放出板がさらに安定して保持されると共に、電子放出板に電磁波を入射させることができる。
【0014】
上記一つの態様では、電子放出板は、フィールドアシスト型の光電陰極であってもよい。この場合、電界が電子放出板に電界が形成され、当該電界によって電子放出板の第2主面から電子が放出される。このため、電子放出板は、たとえば赤外光から紫外光の周波数帯域を有する電磁波の入射に応じて、電子を第2主面から放出する。
【0015】
上記一つの態様では、電子放出板は、電磁波の入射に応じて電子を放出するメタサーフェスを有していてもよい。この場合、電子放出板は、たとえばミリ波から赤外光の周波数帯域の電磁波の入射に応じて、電子をメタサーフェスから放出する。
【0016】
上記一つの態様では、ハウジングは、筒形状を有していてもよい。保持部材は、ハウジングの内側の側面に付勢力を加えることでハウジングに対して当該保持部材を位置決めする複数のバネ部を有していてもよい。この場合、電子管の各部材において多少の製造誤差又は温度変化による変形があったとしても、保持部材がハウジングに対して安定して保持される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一つの態様は、電磁波の入射に応じて電子を放出する電子放出板に安定して電圧を印加できる電子管を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有している要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0020】
まず、
図1及び
図2を参照して、本実施形態に係る電子管の構成を説明する。
図1は、電子管の一例を示す断面図である。
【0021】
電子管1は、電磁波の入射に応じて電気信号を出力する光電子増倍管である。本明細書において、電子管に入射する「電磁波」は、いわゆるミリ波から紫外光の周波数帯域を有している電磁波である。電子管1は、電磁波が入射した場合に内部で電子を放出し、放出された電子を増倍する。本実施形態では、電子管1は、電磁波を光電面に入射させ、外部光電効果によって光電面から放出された電子を増倍する。
図1に示されているように、電子管1は、ハウジング10と、電子放出部20と、電子増倍部30と、電子収集部40とを備えている。
【0022】
ハウジング10は、バルブ11と、ステム12とを有している。ハウジング10の内部は、バルブ11とステム12で気密に封止されることで真空に保持されている。真空は、絶対真空だけでなく、大気圧よりも低い圧力の気体で満たされた状態も含む。たとえば、ハウジング10の内部は、1×10
−4〜1×10
−7Paに保持される。バルブ11は、電磁波透過性を有する窓11aを有している。本明細書において、「電磁波透過性」とは、入射した電磁波の少なくとも一部の周波数帯域が透過する性質をいう。本実施形態では、ハウジング10は円筒形状を有している。ステム12は、ハウジング10の底面を構成する。バルブ11は、ハウジング10の側面及びステム12に対向する底面を構成する。
【0023】
窓11aは、ステム12に対向する底面を構成する。窓11aは、たとえば、平面視で円形状である。電磁波の透過率の周波数特性は、材料に応じて異なる。このため、窓11aは、電子管1に入射する電磁波の周波数帯域に応じた最適な材料によって構成される。たとえば、窓11aは、たとえば、石英、シリコン、ゲルマニウム、サファイア、セレン化亜鉛、硫化亜鉛、フッ化マグネシウム、フッ化リチウム、フッ化バリウム、フッ化カルシウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、UVガラス、及び硼硅酸ガラスから選択される少なくとも1種を含む。これらから選択された材料によって窓11aを構成することで、ミリ波から紫外光のうち任意の周波数帯域の電磁波をハウジング10の内部に導くことができる。
【0024】
電子管1は、ハウジング10の外部と内部との電気的な接続を可能とする複数の配線13をさらに有している。複数の配線13は、たとえば、リード線又はピンである。本実施形態では、複数の配線13は、ステム12を貫通するピンであり、ハウジング10の内部から外部に延在している。複数の配線13の少なくとも1つが、ハウジング10の内部に設けられた種々の部材と接続されている。
【0025】
電子放出部20は、ハウジング10の内部に配置されており、ハウジング10の内部で電磁波の入射に応じて電子を放出する。電子放出部20は、電磁波の入射に応じて電子を放出する電子放出板21と、電子放出板21を保持する保持部材22とを有している。保持部材22は、電子放出板21に電圧を印加する。
【0026】
電子放出板21は、互いに対向する主面21a及び主面21bを有している。たとえば、主面21aが第1主面を構成する場合、主面21bが第2主面を構成する。主面21a及び主面21bは、窓11aに対して平行に配置されている。主面21aは、窓11aに対向している。主面21aは、窓11aを通過した電磁波が入射する入射面21cを含んでいる。主面21bは、電子を放出する放出面21dを含んでいる。
【0027】
本実施形態では、電子放出板21は、フィールドアシスト型の光電陰極である。本実施形態では、電子放出板21は、電磁波が入射した場合に外部光電効果によって電子を放出する。本実施形態では、電子放出板21は、たとえば、赤外光から紫外光の周波数帯域を有する電磁波の入射に応じて電子を放出する。電子放出板21は、放出面21dとして、たとえば、Cs−I、Cs−Te、Sb−Cs、バイアルカリ(Sb−Rb−Cs、Sb−K−Cs、Sb−Na−K)、マルチアルカリ(Sb−Na−K−Cs)、Ag−O−Cs、GaAsP(Cs)、GaAs(Cs)、InGaAs(Cs)、InP/InGaAsP(Cs)、及びInP/InGaAs(Cs)などからなる光電面を含む。
【0028】
保持部材22は、ハウジング10の内側の側面10aに対して位置決めされる。すなわち、保持部材22は、ハウジング10に対して電子放出板21を位置決めする。保持部材22は、ハウジング10の側面10aに沿う枠状であり、保持部材22には貫通口22aが形成されている。電子放出板21の主面21a,21bに直交する方向から見た場合に、貫通口22aを画成する縁の内側に、電子放出板21の入射面21c及び放出面21dが配置される。保持部材22がハウジング10に対して位置決めされた状態において、ハウジング10の管軸TAは貫通口22aを通る。保持部材22は、貫通口22aを通過する電磁波の光軸(以下、「保持部材22の軸」という)がハウジング10の管軸TAと平行となるようにハウジング10に対して位置決めされる。保持部材22の軸HAは、電子放出板21の主面21a,21bに直交する。保持部材22は、複数の配線13の少なくとも1つに接続されている。
【0029】
図2は、保持部材22の分解斜視図である。保持部材22は、第1位置決め部23、第2位置決め部24、ベース部25、スペーサ26、及び枠板部27を有している。第1位置決め部23、第2位置決め部24、ベース部25、スペーサ26、及び枠板部27は、電子放出板21を保持した状態で互いに溶接されている。保持部材22がハウジング10に位置決めされた状態において、窓11a側から、ベース部25、スペーサ26、枠板部27、第2位置決め部24、第1位置決め部23の順で位置している。第1位置決め部23、第2位置決め部24、ベース部25、スペーサ26、及び枠板部27は、それぞれ導電性を有している。少なくとも枠板部27は、配線13に電気的に接続されている。
【0030】
電子増倍部30は、ハウジング10の内部に配置されており、電子放出部20から放出された電子が入射する入射面35を有している。電子増倍部30は、入射面35に入射した電子を増倍する。本実施形態では、電子放出板21の主面21bは、電子増倍部30の入射面35に面している。すなわち、電子放出板21の放出面21dは、電子増倍部30の入射面35に面しており、放出面21dから放出された電子が入射面35に入射する。電子放出板21の主面21aは、ハウジング10の窓11aに面している。
【0031】
本明細書において、「αがβに面する」とは、βがαに接する平面よりもαの法線方向に位置することを意味する。換言すれば、「αがβに面する」とは、空間をαに接する面で二分した場合に、βがαの裏側でなく、α側に位置することを意味する。たとえば、電子管1では、上述したように、電子放出板21の放出面21dは電子増倍部30の入射面35に面している。これは、電子増倍部30の入射面35が放出面21dに接する平面よりも放出面21dの法線方向に位置していることを意味する。
【0032】
本実施形態では、電子増倍部30は、
図1に示されているように、いわゆるラインフォーカス型の複数段のダイノードを有している。本実施形態において電子増倍部30は、電子を集束させる集束電極31と、互いに離間した複数段のダイノード32a,32b,32c,32d,32e,32f,32g,32h,32i,32jとを有している。ダイノード32aは、上述した入射面35を含んでいる。本実施形態では、電子増倍部30は、10段のダイノード32a〜32jを有している。集束電極31の中央部には、円形状の入射開口31aが設けられている。ダイノード32a〜32jは、入射開口31aの後段に配置されている。ダイノード32a〜32jのそれぞれには、複数の配線13のうち1つが接続されている。ダイノード32a〜32jのそれぞれには、所定の電位が配線13を通して印加される。ダイノード32a〜32jは、印加された電位に応じて入射開口31aを通過した電子を増倍する。
【0033】
電子収集部40は、ハウジング10の内部に配置されており、電子増倍部30で増倍された電子を収集する。本実施形態では、電子収集部40はメッシュ状のアノード41を有している。アノード41は、電子放出板21の主面21bと対向している。アノード41には、複数の配線13のうち1つが接続されている。アノード41には、所定の電位が配線13を通して印加される。アノード41は、ダイノード32a〜32jで増倍された電子を捕捉する。電子収集部40は、アノード41の代わりにダイオードを有していてもよい。
【0034】
本実施形態では、電子管1は、ダイノード32a〜32j及びアノード41をハウジング10の内部に固定する一対の絶縁基板52を有している。一対の絶縁基板52は、アルミナからなる。一対の絶縁基板52は、互いに対向している。ダイノード32a〜32jは、一対の絶縁基板52の対向方向において延在する一対の端部を有している。アノード41は、一対の絶縁基板52の対向方向において延在する一対の端部を有している。ダイノード32a〜32j及びアノード41のそれぞれの端部は、一対の絶縁基板52に予め設けられたスリット状の貫通孔に挿入されている。
【0035】
電子管1は、ダイノード32a〜32jとアノード41との一部を囲う遮蔽板36を有している。遮蔽板36は、ダイノード32a〜32jで増倍された電子の衝突によって生じた光及びイオンがハウジング10の内部で飛散することを防止する。遮蔽板36は、複数の配線13のうち1つに接続されている。遮蔽板36には、所定の電位が配線13を通して印加される。
【0036】
次に、
図3〜
図6を参照して、電子放出部20における保持部材22の構成について詳細に説明する。
図3及び
図4は、保持部材22がハウジング10に位置決めされている状態を示す図である。
図5は、枠板部27が電子放出板21を付勢している状態を示す拡大平面図である。
図6は、保持部材22の拡大端面図である。
【0037】
図3及び
図4に示されているように、第1位置決め部23及び第2位置決め部24は、ハウジング10の内部で保持部材22の位置決めを行う。第1位置決め部23には、開口23aが形成された平板部23bと複数のバネ部23cとを有している。第2位置決め部24は、開口24aが形成された平板部24bと複数のバネ部24cとを有している。開口23a及び開口24aは、保持部材22の貫通口22aを形成する。開口23a及び開口24aは、矩形状又は円形状である。本実施形態では、開口23a及び開口24aは、矩形状である。平板部23bと平板部24bとは、互いに接している。電子放出板21の主面21a,21bに直交する方向から見た場合に、開口23a及び開口24aを画成する縁の内側に、電子放出板21の放出面21dが配置されている。
【0038】
複数のバネ部23cは、互いに異なる方向に延在している。本実施形態では、複数のバネ部23cは、保持部材22の軸HA方向から見て回転対称となるように、保持部材22の周方向に配置されている。複数のバネ部24cは、互いに異なる方向に延在している。本実施形態では、複数のバネ部24cは、保持部材22の軸HA方向から見て回転対称となるように、保持部材22の周方向に配置されている。
【0039】
本実施形態では、複数のバネ部23c,24cは、それぞれ、ハウジング10の側面10aに沿って管軸TAの周方向に等間隔で配置されている。複数のバネ部24cは、保持部材22の軸HAに直交する方向から見て、複数のバネ部23cよりも窓11a側に配置されている。本実施形態では、第1位置決め部23及び第2位置決め部24は、それぞれ、4つのバネ部23c及び4つのバネ部24cを有している。
【0040】
第1位置決め部23及び第2位置決め部24は、複数のバネ部23c及び複数のバネ部24cによって、ハウジング10に対して保持部材22を位置決めする。第1位置決め部23の各バネ部23cは、保持部材22の軸HA方向及び当該軸HAに直交する方向に延在している。各バネ部23cは、先端でハウジング10の側面10aに当接して付勢力F1を加える。第1位置決め部23は、複数のバネ部23cとハウジング10の側面10aとの摩擦力によって、保持部材22がハウジング10の管軸TA方向に移動することを防止する。
【0041】
第2位置決め部24の各バネ部24cは、保持部材22の軸HAに直交する方向から見て、複数のバネ部23cが延在する方向とは反対方向に延在している。各バネ部24cは、T字形状を有しており、先端が2つに分かれている。各バネ部24cの先端は、保持部材22の軸HA方向から見て、保持部材22の周方向において互いに対向する方向に分かれている。各バネ部24cは、2つの先端でハウジング10の側面10aに当接して付勢力F2を加える。各バネ部24cは、ハウジング10の管軸TAに直交する方向において、ハウジング10の内部における保持部材22の位置を弾性的に保持している。
【0042】
ベース部25には、開口25aが形成された平板部25bを有している。ベース部25は、平板部25bで電子放出板21の主面21aに接している。開口25aは、保持部材22の貫通口22aを形成している。ベース部25は、開口25aを画成する縁で電子放出板21の主面21aに接している。電子放出板21の主面21a,21bに直交する方向から見た場合に、開口25aを画成する縁の内側に、電子放出板21の入射面21cが配置されている。開口25aは、矩形状又は円形状である。本実施形態では、開口25aは、矩形状である。本実施形態では、ベース部25は、保持部材22の軸HAを通る断面においてU字形状を有しており、保持部材22の軸HA方向において平板部25bの周縁からスペーサ26側とは反対側に延在する枠部25cを更に有している。
【0043】
スペーサ26は、ベース部25と枠板部27とに挟まれている。スペーサ26は、開口26aが形成された平板部26bを有している。開口26aは、保持部材22の貫通口22aを形成している。スペーサ26の開口26aは、電子放出板21の縁に沿った形状を有している。すなわち、スペーサ26は、電子放出板21の縁を囲っている。開口26aは、矩形状又は円形状である。本実施形態では、開口26aは、矩形状である。開口26aの縁は、電子放出板21の縁に当接している。
【0044】
スペーサ26は、保持部材22の軸HAと直交する方向において、保持部材22に対して電子放出板21を位置決めする。スペーサ26の厚さT1は、電子放出板の厚さT2以下である。本実施形態では、スペーサ26の厚さT1は、電子放出板の厚さT2よりも小さい。
【0045】
枠板部27は、一枚板で形成されている。枠板部27には、開口27aが形成されている。開口27aは、保持部材22の貫通口22aを形成している。枠板部27は、平板部27bと複数の付勢部27c(電子放出板付勢部)とを有している。平板部27bと複数の付勢部27cとは、一体に形成されている。平板部27bはスペーサ26に接しており、各付勢部27cは電子放出板21に接している。平板部27bは、ベース部25との間にスペーサ26を挟んでいる。開口27aは、平板部27b及び複数の付勢部27cによって画成されている。
図5に示されているように、電子放出板21の主面21a,21bに直交する方向から見た場合に、開口27aを画成する縁の内側に、電子放出板21の放出面21dが配置されている。
【0046】
各付勢部27cは、電子放出板21の主面21bの縁に接している。各付勢部27cは、主面21bの縁に付勢力F3を加えることで、ベース部25の平板部25bに対して電子放出板21を弾性的に付勢している。各付勢部27cは、主面21bと電気的に接続されている。すなわち、保持部材22は、複数の付勢部27cを通して主面21bと電気的に接続されている。電子放出板21は、複数の付勢部27cを通して、保持部材22に接続された配線13と電気的に接続されている。
【0047】
複数の付勢部27cは、開口27aの縁の周方向において互いに異なる位置に配置されており、互いに対向する方向に突出している。各付勢部27cは、平板部27bから保持部材22の軸HAに向かって当該軸に直交する方向に突出している。換言すれば、各付勢部27cは、平板部27bから開口27aの中心側(保持部材22の軸HA側)に延在している。本実施形態では、複数の付勢部27cは、保持部材22の軸HA方向から見て回転対称となるように配置されている。
【0048】
本実施形態では、各付勢部27cは、板状であり、電子放出板21をベース部25に付勢する板バネとして機能する。各付勢部27cは、電子放出板21に接する前の状態において、平板部27bと一体に面一で形成されている。各付勢部27cは、
図6に示されているように、電子放出板21の主面21bの縁と接することで、弾性変形し、電子放出板21の主面21bに付勢力F3を加える。各付勢部27cの厚さT3は、電子放出板21の厚さT2よりも小さい。各付勢部27cの厚さT3は、スペーサ26の厚さT1よりも小さい。平板部25bと各付勢部27cとの厚さT3は、同一である。なお、「同一」には、製造公差の範囲を含んでいる。
【0049】
本実施形態では、複数の付勢部27cは、枠板部27の中央に位置する矩形状の開口の縁に保持部材22の径方向(保持部材22の軸HAに直交する方向)に複数の切欠き状の隙間27dを設けた形状を有している。本実施形態では、複数の付勢部27cは、上記矩形状の開口の縁の四隅に切欠き状の隙間27dを設けた形状を有している。本実施形態では、複数の付勢部27cは、それぞれ、上記矩形状の開口の縁の一辺に設けられている。
【0050】
本実施形態では、各付勢部27cは、上記一辺に複数の切欠き状の隙間27eを設けた形状を有している。すなわち、各付勢部27cは、上記隙間27eによって複数の部分27fに分かれている。複数の部分27fの各々が、ベース部25に電子放出板21を弾性的に付勢する金属片である。本実施形態では、各付勢部27cは、平面視で矩形状の3つの部分27fに分かれている。各付勢部27cは、2つの部分に分かれていてよいし、4つ以上の部分に分かれていてもよい。
【0051】
次に、本実施形態における電子管1に電磁波が入射した場合の動作について説明する。保持部材22、ダイノード32a〜32j、及びアノード41には、それぞれ、配線13を通して電圧が印加される。この際、電子放出板21にも、保持部材22の枠板部27を通して電圧が印加される。保持部材22、ダイノード32a〜32j、及びアノード41の各々に印加される電圧は、保持部材22からアノード41に近づくにつれて順次高くなるように設定されている。
【0052】
電磁波は、ハウジング10の窓11aを透過すると、保持部材22のベース部25の開口25aに入射する。開口25aを通過した電磁波は、電子放出板21の入射面21cに入射する。電子放出板21は、電磁波の入射に応じて、電子を放出面21dから放出する。電子放出板21から放出された電子は、枠板部27の開口27a、第2位置決め部24の開口24a、第1位置決め部23の開口23aの順で通過した後に、電子増倍部30の入射面35に導かれる。
【0053】
電子放出板21から放出された電子は、集束電極31で収束されて第1段目のダイノード32a(入射面35)に送られる。第1段目のダイノード32a(入射面35)に電子が入射すると、ダイノード32aから二次電子が第2段目のダイノード32bに向けて放出される。第2段目のダイノード32bに電子が入射すると、ダイノード32bから二次電子が第3段目のダイノード32cに向けて放出される。このように、第1段目のダイノード32aから第10段目のダイノード32jへと電子が増倍されながら順次送られる。すなわち、電子放出板21から放出された電子に対して、電子増倍部30でカスケード増倍が行われる。電子増倍部30で増倍された電子は、電子収集部40であるアノード41で収集されて、アノード41から配線13を通して出力信号として出力される。
【0054】
次に、
図7を参照して、本実施形態の変形例に係る電子管について説明する。
図7は、それぞれ変形例に係る電子管1において、枠板部27が電子放出板21を付勢している状態を示す拡大平面図である。
図7に示されている変形例は、概ね、上述した実施形態と類似又は同じであるが、当該変形例は、電子放出板21の代わりに電子放出板21Aが保持部材22で保持されている構成である点に関して、上述した実施形態と相違する。以下、上述した実施形態と変形例との相違点を主として説明する。
【0055】
本変形例では、電子放出部20は、電磁波の入射に応じて電子を放出する電子放出板21Aと、電子放出板21Aを保持する保持部材22とを有している。電子放出板21Aは、電子放出板21と同様に、互いに対向する主面21a及び主面21bを有している。主面21aは、窓11aに対向している。主面21aは、窓11aを通過した電磁波が入射する入射面21cを含んでいる。主面21bは、電子を放出する放出面21dを含んでいる。
【0056】
電子放出板21Aは、メタサーフェス50と、メタサーフェス50が設けられた基板51とを有している。基板51は、窓11aを透過する電磁波に対して電磁波透過性を有している。すなわち、基板51は、窓11aを透過した電磁波の少なくとも一部の周波数帯域を透過する。基板51は、たとえば、シリコンを材料として構成されている。基板51は、平面視で矩形状である。本実施形態では、基板51は、窓11a及び電子増倍部30から離間している。
【0057】
基板51は、電子放出板21と同様に、互いに対向している主面21a及び主面21bを有している。たとえば、主面21aが第1主面を構成する場合、主面21bが第2主面を構成する。主面21a及び主面21bは、窓11aに対して平行に配置されている。主面21aは、窓11aに対向している。主面21aは、窓11aを通過した電磁波が入射する入射面21cを含んでいる。
【0058】
メタサーフェス50は、主面21bに設けられている。メタサーフェス50は、電磁波の入射に応じて電子を放出する。すなわち、メタサーフェス50は、電子を放出する放出面21dを含む。
図7に示されているように、電子放出板21の主面21a,21bに直交する方向から見た場合に、メタサーフェス50は、枠板部27の開口27aを画成する縁の内側に配置されている。これにより、電子放出板21の主面21a,21bに直交する方向から見た場合に、保持部材22の貫通口22aを画成する縁の内側に、電子放出板21の入射面21c及び放出面21dが配置される。
【0059】
メタサーフェス50は、基板51の主面21b上でパターン化された酸化物層又はパターン化された金属層に含まれている。酸化物層は、たとえば酸化チタンである。金属層は、たとえば金である。メタサーフェス50は、平面視で矩形状である。本実施形態では、メタサーフェス50を構成する金属層が、主面21b上で複数のアンテナを形成している。
【0060】
メタサーフェス50のアンテナのサイズが小さいほど、波長が短い電磁波、すなわち、周波数が大きい電磁波に感度を有している。メタサーフェス50は、アンテナの構造を変更することで、0.01〜50THz程度の周波数帯域、いわゆるミリ波から中赤外光の周波数帯域に対応できる。すなわち、メタサーフェス50は、いわゆるテラヘルツ波を含む周波数帯域に対応できる。
【0061】
次に、本変形例における電子管1に電磁波が入射した場合の動作について説明する。電磁波は、ハウジング10の窓11aを透過すると、保持部材22のベース部25の開口25aに入射する。開口25aを通過した電磁波は、基板51の入射面21cに入射する。入射面21cに入射した電磁波は、基板51を透過し、基板51の主面21bに設けられたメタサーフェス50に入射する。メタサーフェス50は、電磁波の入射に応じて電子を放出する。メタサーフェス50から放出された電子は、枠板部27の開口27a、第2位置決め部24の開口24a、第1位置決め部23の開口23aの順で通過した後に、電子増倍部30の入射面35に導かれる。
【0062】
以上説明したように、電子管1では、保持部材22の複数の付勢部27cがベース部25に電子放出板21を弾性的に付勢している。このため、電子管1における各部材の多少の製造誤差及び温度変化による変形があったとしても、複数の付勢部27cが電子放出板21に安定して接する。保持部材22は、当該複数の付勢部27cを通して電子放出板21の主面21bと電気的に接続されている。したがって、保持部材22の複数の付勢部27cを通して電子放出板21の主面21bに印加される電圧の安定性が向上されている。
【0063】
複数の付勢部27cは、主面21bの法線方向から見て回転対称となる位置に配置されている。この場合、複数の付勢部27cによって電子放出板21に付勢力F3が均等に加えられる。このため、電子放出板21が複数の付勢部27cに安定して接する。
【0064】
各付勢部27cの厚さT3は、電子放出板21の厚さT2よりも小さい。このため、各付勢部27cから電子放出板21に加わる付勢力F3が低減されている。したがって、電子放出板21の破損が抑制される。
【0065】
各付勢部27cは、複数の部分27fに分かれており、当該複数の部分27fの各々がベース部25に電子放出板21を弾性的に付勢する。このため、各付勢部27cから付勢力が電子放出板21により安定して加えられる。このため、電子放出板21がより安定して複数の付勢部27cに接する。
【0066】
平板部27bは、複数の付勢部27cと一体に形成されている。スペーサ26は、ベース部25と平板部27bとに挟まれていると共に電子放出板21の縁を囲っている。複数の付勢部27cは、平板部27bから突出して電子放出板21をベース部25に対して弾性的に付勢している。スペーサ26の厚さT1は、電子放出板21の厚さT2以下である。
【0067】
この場合、電子放出板21の縁を囲うスペーサ26によって、電子放出板21の厚み方向に直交する方向において、電子放出板21がより確実に保持される。スペーサ26の厚さT1が電子放出板21の厚さT2以下であるため、
図6に示されている状態において、複数の付勢部27cが電子放出板21の厚み方向に電子放出板21に加える付勢力F3が安定して確保される。このため、電子放出板21の厚み方向において、電子放出板21がより確実に保持される。
【0068】
ベース部25は、開口25aを画成する縁で主面21aに接している。この場合、電子放出板21をさらに安定して保持し、電子放出板21に電磁波を入射させることができる。
【0069】
電子放出板21は、フィールドアシスト型の光電陰極である。この場合、電界が電子放出板21に電界が形成され、当該電界によって電子放出板21の主面21bから電子が放出される。このため、電子放出板21は、たとえば赤外光から紫外光の周波数帯域を有する電磁波の入射に応じて、電子を主面21bから放出する。
【0070】
電子放出板21は、電磁波の入射に応じて電子を放出するメタサーフェス50を有している。この場合、電子放出板21は、たとえばミリ波から赤外光の周波数帯域の電磁波の入射に応じて、電子をメタサーフェス50から放出する。
【0071】
保持部材22の複数のバネ部23c,24cは、ハウジング10の内側の側面10aに付勢力F1,F2を加えることでハウジング10に対して当該保持部材22を位置決めする。この場合、電子管1の各部材において多少の製造誤差又は温度変化による変形があったとしても、保持部材22がハウジング10に対して安定して保持される。
【0072】
以上、本発明の実施形態及び変形例について説明してきたが、本発明は必ずしも上述した実施形態及び変形例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0073】
たとえば、本実施形態及び変形例では、電子管1が光電子増倍管である場合について説明したが、これに限定されない。電子管1は、いわゆるイメージインテンシファイア、ストリーク管、撮像装置などであってもよい。この場合も、保持部材22は、電子放出板21の主面21aがハウジング10の窓11aに面するように、ハウジング10に対して電子放出板21を位置決めする。
【0074】
本実施形態及び変形例では、各付勢部27cが上記隙間27eによって複数の部分27fに分かれている構成について説明したが、各付勢部27cは1つの金属片として形成されていてもよい。たとえば、各付勢部27cは、平面視で矩形状の1つの金属片であってもよい。
【0075】
ハウジング10は、円筒形状に限定されない。たとえば、ハウジング10は、断面が多角形である筒形状を呈していてもよい。
【0076】
本実施形態では、保持部材22が枠板部27を有している構成について説明したが、ベース部25の平板部25bの縁から複数の付勢部27cが延在する構成であってもよい。この場合、複数の付勢部27cは、ベース部25の平板部25bの縁から電子放出板21の主面21b側に延在した後に、主面21bと平行な方向に折れ曲がって形成されてもよい。この場合も、複数の付勢部27cは、主面21bの縁に接し、ベース部25の平板部25bに電子放出板21を弾性的に付勢する。
電子管1は、電磁波透過性を有する窓11aを有しているハウジング10と、ハウジング10の内部に配置されており、電磁波の入射に応じて電子を放出する電子放出板21と、ハウジング10の内部に配置されており、電子放出板21を保持すると共に電子放出板21に電圧を印加する保持部材22と、を備えている。電子放出板21は、互いに対向する第1主面21a及び第2主面21bを有している。保持部材22は、第1主面21aに接しているベース部25と、第2主面21bの縁に接していると共にベース部25に電子放出板21を弾性的に付勢する複数の電子放出板付勢部27cとを有している。保持部材22は、当該複数の電子放出板付勢部27cを通して第2主面21bと電気的に接続されている。