特許第6818983号(P6818983)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6818983ローレンジデバイスを備えた自動車の差動装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6818983
(24)【登録日】2021年1月6日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】ローレンジデバイスを備えた自動車の差動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 48/10 20120101AFI20210114BHJP
【FI】
   F16H48/10
【請求項の数】15
【外国語出願】
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-192161(P2018-192161)
(22)【出願日】2018年10月10日
(65)【公開番号】特開2019-148333(P2019-148333A)
(43)【公開日】2019年9月5日
【審査請求日】2019年10月24日
(31)【優先権主張番号】18158994.6
(32)【優先日】2018年2月27日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516045001
【氏名又は名称】エフシーエイ イタリア エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】コンサニ マルコ
(72)【発明者】
【氏名】プレグノラト ジャンルイジ
【審査官】 小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/174552(WO,A1)
【文献】 独国特許出願公開第102013205432(DE,A1)
【文献】 独国特許出願公開第102011007259(DE,A1)
【文献】 特開2016−097967(JP,A)
【文献】 特開平11−344100(JP,A)
【文献】 実開昭59−113220(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0276292(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 48/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1エピサイクリックユニットを備える自動車の差動装置であって、前記第1エピサイクリックユニットは、
第1回転軸を中心として回転可能であり、かつ、第1出力シャフトに接続され得る第1太陽ギアと、
前記第1太陽ギアと同軸の第2太陽ギアであって、前記第1回転軸を中心として回転可能であり、かつ、第2出力シャフトに接続され得る第2太陽ギアと、
前記第1太陽ギアおよび前記第2太陽ギアと噛み合う第1遊星ユニットであって、前記第1遊星ユニットは、遊星キャリアにより保持され、前記遊星キャリアは、前記第1回転軸を中心として回転可能である、第1遊星ユニットと
を有し、前記差動装置は、
第2エピサイクリックユニットと、
前記第2エピサイクリックユニットと動作可能に接続された係合デバイスと
を備え、前記第2エピサイクリックユニットは、
前記第1太陽ギアおよび前記第2太陽ギアと同軸の第3太陽ギアと、
前記第1太陽ギアおよび前記第2太陽ギアと同軸のリングギアと、
前記第3太陽ギアおよび前記リングギアと噛み合う第2遊星ユニットであって、前記第1遊星ユニットの前記遊星キャリアにより保持される第2遊星ユニットと
を有し、前記係合デバイスは、
前記第3太陽ギアが前記リングギアと回転接続される、第1動作状態と、
前記第3太陽ギアの回転が阻止される、第2動作状態と
を有する、差動装置。
【請求項2】
前記係合デバイスは、第1要素と、第2要素と、第3要素とを有し、
前記第3太陽ギアは、前記係合デバイスの前記第1要素と回転接続され、
前記リングギアは、前記係合デバイスの前記第2要素と回転接続され、かつ、入力シャフトと連結され得る歯車と更に回転接続され、更に、
前記係合デバイスの前記第3要素は、回転式に固定された部品と接続される、請求項1に記載の差動装置。
【請求項3】
前記係合デバイスは、前記係合デバイスの前記第1要素と前記係合デバイスの前記第2要素とが連結される第1動作位置と、前記係合デバイスの前記第1要素と前記係合デバイスの前記第3要素とが連結される第2動作位置との間を移動可能である移動要素を有する、請求項2に記載の差動装置。
【請求項4】
前記係合デバイスの前記第1動作状態では、前記第3太陽ギアおよび前記リングギアが、互いに回転接続され、前記第2遊星ユニットと前記第3太陽ギアおよび前記リングギアとの間の相対移動が阻止され、
前記係合デバイスの前記第2動作状態では、前記第3太陽ギアの前記回転のロックによって、前記第2遊星ユニットと前記第3太陽ギアおよび前記リングギアとの間の相対移動が可能となる、請求項1から3の何れか一項に記載の差動装置。
【請求項5】
前記リングギアは、筐体として設けられ、前記筐体は、内部に前記第1エピサイクリックユニットおよび前記第2エピサイクリックユニットを収容する、請求項1に記載の差動装置。
【請求項6】
前記リングギアは、内側歯を含み、前記第3太陽ギアは、外側歯を含んだギアである、請求項5に記載の差動装置。
【請求項7】
前記第1太陽ギアおよび前記第2太陽ギアはどちらも、外側歯および同じ直径を有する、請求項1から6の何れか一項に記載の差動装置。
【請求項8】
前記第1遊星ユニットは、前記第1太陽ギアと噛み合う1つまたは複数の第1遊星ギアと、前記第2太陽ギア、および、前記1つまたは複数の第1遊星ギアのうち対応するギアと噛み合う1つまたは複数の第2遊星ギアとを含み、
前記1つまたは複数の第1遊星ギアおよび前記1つまたは複数の第2遊星ギアは、前記第1回転軸から同じ半径方向距離の所に配置されたそれぞれの第2回転軸および第3回転軸を中心として回転可能である、請求項7に記載の差動装置。
【請求項9】
前記第2遊星ユニットは、前記第3太陽ギアおよび前記リングギアと噛み合う1つまたは複数の第3遊星ギアを含む、請求項1および6から8の何れか一項に記載の差動装置。
【請求項10】
前記1つまたは複数の第3遊星ギアは、前記遊星キャリアにより保持されるか、代わりに、対応する第1遊星ギアと同軸に、または、対応する第2遊星ギアと同軸に保持される、請求項9に記載の差動装置。
【請求項11】
前記係合デバイスは、円錐状要素を含んだシンクロナイザであり、
前記係合デバイスの前記第1要素は、前記シンクロナイザのハブであり、
前記係合デバイスの前記第2要素は、前記リングギアに接続された第1シンクロナイザコーンであり、
前記係合デバイスの前記第3要素は、回転式に固定された第2シンクロナイザコーンであり、
前記移動要素は、前記ハブと回転接続され、かつ、前記ハブに対して軸方向に移動可能であるスリーブである、請求項に記載の差動装置。
【請求項12】
前記ハブと前記第1シンクロナイザコーンとの間に第1シンクロナイザリングが配置され、前記ハブと前記第2シンクロナイザコーンとの間に第2シンクロナイザリングが配置される、請求項11に記載の差動装置。
【請求項13】
前記係合デバイスは、前歯を含んだ係合デバイスであり、
前記係合デバイスの前記第1要素および前記第3要素は、前歯のリングを含んだカラーとして設けられ、
前記係合デバイスの前記第1要素は、前記第3太陽ギアと回転接続され、前記第3太陽ギアに対して軸方向に移動し、更には前記第2要素および前記第3要素の前記前歯とそれぞれ係合するよう構成された前歯を含み、前記第1要素は更に、前記係合デバイスの前記移動要素を構成する、請求項に記載の差動装置。
【請求項14】
前記差動装置は、前記遊星キャリアと回転接続された動力取出装置を備え、前記動力取出装置は、前記差動装置に関連付けられたものとは異なる車軸に対して運動を伝達するよう構成される、請求項1から13の何れか一項に記載の差動装置。
【請求項15】
前記第1太陽ギアと前記第2太陽ギアとの間にスリップを制限するためのデバイスを備える、請求項1から14の何れか一項に記載の差動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車の差動装置に関する。
【0002】
[先行技術および一般的な技術的問題]
自動車トランスミッションの設計に現在採用されている解決策は、程度は様々だが調和のとれた方法で、高負荷の(例えば、急勾配の、かつ/または、車両が重い荷を積んでいる)状態にあっても車両が容易に一時停止できるくらい十分にショートな第1ギア比をもたらすことを想定している。
【0003】
しかしながら、構造上の理由および/または車両の走行性に関わる理由で超えることができない第1ギアのトランスミッション比には限界がある。実際、第2ギア比に加えてその次の比率も過度にショートである(すなわち、大きいギア減速がある)ということは決してあり得ないので、過度にショートな第1ギア比を採用すると、第2ギア比に対する速度の過度に大きい階段状変化がもたらされることになる。これは車両の走行性に悪影響を及ぼす。なぜなら、運転者は、第1ギアから第2ギアへの移行後、エンジンが(荷重およびr.p.m.に関して)最適ではない状態、または、少なくとも一時停止時の第1ギアに相当するものとは比べものにならない動作状態にあることに即座に気付くからである。
【0004】
他方では、燃費の抑制に対する絶え間ない需要の高まりに伴い、同じ走行速度および/またはクルーズ速度を前提としてエンジン速度を下げるよう、十分にロングな前進ギア比を採用する必要がある。
【0005】
これは第1ギア比にとって明らかに実用的でない。なぜなら、さもなければ一時停止時の性能水準が低いことになるからである。これは、第1ギア比がいずれにしても、燃費に関して実現され得る利益を制限するということを意味する。なぜなら、現在の制約に由来する妥協的解決策では、消費水準の削減という観点からするといずれにしても過度にショートであり、それでいて最も厄介な始動操作、特にオフロード用の車両にとっては過度にロングな比率がもたらされることになるからである。
【0006】
[発明の目的]
本発明の目的は、上述の技術的問題を解決することである。
【0007】
特に、本発明の目的は、負担がかかっている状態での始動要件と消費水準の削減要件との折り合いをつけることである。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、添付請求項のうちの1つまたは複数の主題を形成する特徴を有する自動車の差動装置により実現される。当該請求項は、本発明との関連で本明細書において提供される技術的開示の不可欠な部分を形成している。
【0009】
特に、本発明の目的は、第1エピサイクリックユニットを備える自動車の差動装置により実現される。第1エピサイクリックユニットは、第1回転軸を中心として回転可能であり、かつ、第1出力シャフトに接続され得る第1太陽ギアと、第1太陽ギアと同軸の第2太陽ギアであって、第1回転軸を中心として回転可能であり、かつ、第2出力シャフトに接続され得る第2太陽ギアと、当該第1太陽ギアおよび当該第2太陽ギアと噛み合う第1遊星ユニットであって、当該第1遊星ユニットは、遊星キャリアにより保持され、当該遊星キャリアは、第1回転軸を中心として回転可能である、第1遊星ユニットとを有し、差動装置は、第2エピサイクリックユニットと、当該第2エピサイクリックユニットと動作可能に接続された係合デバイスとを備え、第2エピサイクリックユニットは、当該第1太陽ギアおよび当該第2太陽ギアと同軸の第3太陽ギアと、当該第1太陽ギアおよび当該第2太陽ギアと同軸のリングギアと、当該第3太陽ギアおよび当該リングギアと噛み合う第2遊星ユニットであって、第1遊星ユニットの遊星キャリアにより保持される第2遊星ユニットとを有し、係合デバイスは、当該第3太陽ギアが当該リングギアと回転接続される、第1動作状態と、当該第3太陽ギアの回転が阻止される、第2動作状態とを有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
ここで、添付図面を参照しながら本発明について説明する。当該図面は、単に非限定的な例として提供されている。
図1】本発明に係る自動車の差動装置の概略図である。
図2】本発明に係る差動装置の好適な実施形態の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1の参照番号1は、本発明に係る自動車の差動装置全体を示している。差動装置1は、第1エピサイクリックユニット2と、第2エピサイクリックユニット4と、当該第2エピサイクリックユニット4と動作可能に接続された係合デバイス6とを備える。
【0012】
当該第1エピサイクリックユニット2は、第1太陽ギア8と、第2太陽ギア10と、第1遊星ユニット12とを含み、当該第1遊星ユニット12は、当該太陽ギア8および10と噛み合う。太陽ギア8および10は、互いに同軸であり、差動装置1の軸を構成する軸X1を中心として回転可能である。太陽ギア8および10は更に、同じ直径を有し、どちらも外側歯を有する。
【0013】
軸X1は、第1出力シャフトS1および第2出力シャフトS2を備えた太陽ギア8、10により共有される軸に相当する。当該第1出力シャフトS1および当該第2出力シャフトS2は、太陽ギア8および太陽ギア10にそれぞれ接続され得る。ここで、出力シャフトS1、S2は、等速ジョイントおよび半車軸を用いて自動車(W1、W2)の車輪に接続され得る。
【0014】
第1遊星ユニット12は遊星キャリア14を含み、当該遊星キャリア14は、軸X1を中心として回転可能に取り付けられ、結果的に太陽ギア8、10の両方と同軸であり、第1太陽ギア8と噛み合う第1遊星ギア16、および、第2太陽ギア10と噛み合う第2遊星ギア18を保持する。当該遊星ギア16、18は、太陽ギア8、10の歯により占有されていない軸方向領域(すなわち噛合面M16/18)において互いに噛み合う。
【0015】
表示要件について、ここでは遊星ユニット12が単一の遊星ギア16および単一の遊星ギア18を含むものとして表されているとしても、次の図2で示されているもののような好適な実施形態では、遊星ギア16および遊星ギア18が、3つまたはそれより多くの、通常は4つのギアのそれぞれのセットの一部を形成することに更に留意すべきである。当該3つまたはそれより多くのギアは、互いに対して120度(3つのギア)または90度(4つのギア)だけ離間しており、太陽ギア8、10の周りに配置される。
【0016】
更に、もっと更なる実施形態では、遊星ギア16、18が互いに同軸に配置されてよく、(当該遊星ギア16、18がその終端位置を占める)スリーブに一体的に設けられてよく、当該スリーブが遊星キャリア12に回転可能に取り付けられる。
【0017】
図1に示されている実施形態では、遊星ギア16、18が、軸X1から同じ半径方向距離の所にあるそれぞれの回転軸X2(ギア16)およびX3(ギア18)を中心として回転可能に取り付けられる。
【0018】
第2エピサイクリックユニット4は、軸X1と同軸であり、かつ、ギア8、10と同軸である第3太陽ギア20と、同様に軸X1と同軸であり、かつ、ギア8、10、20と同軸であるリングギア22と、1つまたは複数の第3遊星ギア26(例えば、120度だけ離間している3つの第3遊星ギア26、または90度だけ離間している4つの第3遊星ギア26)を含む第2遊星ユニット24とを備える。
【0019】
遊星ユニット24は、1つまたは複数のギア26を用いて太陽ギア20およびリングギア22と噛み合う。この場合、当該1つまたは複数のギア26はそれぞれ、ギア20、22の両方と噛み合う。(円筒型の)太陽ギア20は、ギア8、10と全く同じように外側歯を備えたタイプのものである。一方で、リングギア22は、内側歯を備えたタイプの円筒型ギアであり、軸X1に対して周辺的である経路に沿ってギア26と噛み合う。
【0020】
図1をもう一度参照すると、リングギア22は、筐体28の一部を形成するものとして設けられるのが好ましい。当該筐体28の内部にはリングギア22を画定する歯が設けられ、当該筐体28の内部にはエピサイクリックユニット2、4も収容される。更に、筐体28の外面には、更なる歯車30を画定する更なる歯が設けられ、当該歯車30は、差動装置1の動力取出装置を画定する。
【0021】
歯車30は特に、通常はギアボックスの出力シャフト(一般的には二次シャフト)に相当する、または、差動装置1を後輪駆動車両の後輪用差動装置として使用する場合はギアボックスのトランスミッションシャフトに相当する、差動装置1の入力シャフトに連結され得る。
【0022】
係合デバイス6は、第1要素32と、第2要素34と、第3要素36と、移動要素38とを備える。これら4つの要素は全て、軸X1を共有する。第1要素32は、第3太陽ギア20と回転接続され、第2要素34は、リングギア22と筐体28とに回転接続される。一方で、第3要素36は、回転式に、かつ、軸X1に沿った軸方向移動に対して固定される。特に、第3要素36は、固定部品40、例えば、差動装置の筐体、または自動車のギアボックスの筐体に接続される。
【0023】
軸方向に、かつ、回転式に固定位置基準を提供するのは、固定部品40である。
【0024】
ここで、図2を参照しながら図1の図面の実施形態の実例を示す。説明を簡単かつ簡潔にするため、既に説明したものと構造的かつ機能的に同一の部品は全て同じ参照番号で示されている。
【0025】
それ故、図1の図面の実際の実装に関連する特定の部品がどのようにして得られるかという態様について幾つかだけ説明する。
【0026】
図2の断面図に見られるように、この好適な実施形態では、遊星キャリア14が3つの部分、すなわち、第1プレート14/1、第2プレート14/2およびリング14/3に分解された状態で設けられる。
【0027】
2つのプレート14/1および14/2は、3つの中空シャフト140を支持し、当該3つの中空シャフト140には、遊星ギア18および26がアイドル状態で取り付けられる。一方で、ギア16を回転自在に(アイドル状態で)支持するために、更なる3つのシャフトが同一の方法で取り付けられる。リング14/3は、この集合体を軸方向に塞ぎ、シャフト140に装着される。
【0028】
太陽ギア8、10は、出力シャフトS1、S2への捩り連結のために内部に溝付きプロフィール80、100が設けられた中空スリーブ部材として設けられる。
【0029】
一般的に、部品は全て、図2に見られる入れ子式アセンブリが実現されるようスリーブ/釣鐘構造を備える。図2の係合デバイス6の前部からは、デバイスの要素34がどのようにしてリングギア22、筐体28および歯車30と一体的に設けられるか(ここではそれと違って、当該要素34が筐体28に装着されていない)が分かる。一方で、係合デバイス6の第1要素は、第3太陽ギア20のハブに圧入される。
【0030】
図2に示されている好適な実施形態では、係合デバイス6が、円錐状要素を備えたシンクロナイザである。係合デバイスの第1要素32は、外側周辺歯を含むシンクロナイザのハブである。係合デバイスの第2要素34は、第1シンクロナイザコーンであり、これまでに説明したことを考慮すると、リングギア22と回転接続される。
【0031】
係合デバイス6の第3要素36は、回転式に、かつ、軸方向に並進可能に固定された部品(例えば、差動装置の筐体またはトランスミッションの筐体)に拘束されたカラーとして設けられた、(回転式に固定された)第2シンクロナイザコーンである。
【0032】
ハブ32と第1シンクロナイザコーン34との間には、第1(円錐状)シンクロナイザリングSR1が更に設置され、ハブ32と第2シンクロナイザコーン36との間には第2シンクロナイザリングSR2が設置される。
【0033】
移動要素38は、ハブ32の外側溝付きプロフィールと係合する内部溝付きの側面を用いてハブ32と回転接続されたスリーブであり、図1に見られる方向38+および38−に向かってハブ32に対して軸方向に移動する。更には、ハブ32とシンクロナイザコーン34、36との間に第1シンクロナイザリングSR1(コーン34とハブ32との間)および第2シンクロナイザリングSR2(ハブ32とコーン36との間)が配置される。
【0034】
別の実施形態では、係合デバイス6が(いわゆるドグクラッチタイプの)円盤状の歯を備えた係合デバイスとして設けられる。ここでは、要素34、36が、(軸X1と平行な方向に並ぶように配置された)円盤状の歯のリングを備えたカラーとして設けられる一方で、要素32も移動要素として機能する。特に、元来知られている方法では、要素32が、太陽ギア20と回転接続され(るが、その本体に沿って軸方向に移動可能であり)、かつ、アクチュエータ要素と連結され得るプロフィール(通常は、アクチュエーションフォークと連結され得る溝)を外面に持つスリーブ部材として設けられる。一方で、軸方向の向かい合う面には、対応する要素に向かって要素32が移動する際に要素34および36の前歯(犬歯)とそれぞれ係合するよう構成された2つの前歯(犬歯)が設けられる。
【0035】
シンクロナイザとして設けられたデバイス6の場合と同様に、第3要素36は、回転式に、かつ、軸方向に並進可能に固定された部品(例えば、差動装置の筐体またはトランスミッションの筐体)に拘束されている。
【0036】
以下に差動装置1の動作について説明する。
【0037】
図1を(または図2を等しく)参照すると、差動装置1は、係合デバイス6の2つの別個の動作状態により画定された2つのモードに従って動作し得る。第1動作状態では、係合デバイス6が第3太陽ギア20とリングギア22とを、すなわち、係合デバイス6の第1要素32および第2要素34と回転接続された部品同士を回転接続する。この第1動作状態は、スリーブ38が(または、ドグクラッチ係合デバイスの場合はハブ32が)方向38+に向かって並進することにより実現される。
【0038】
それ故、この動作状態では、スリーブ38/ハブ32(係合デバイスのタイプによる)の上述の並進の結果として、1つまたは複数の第3遊星ギア26とギア20、22との間における対応する移動の(または、少なくとも相対移動の可能性の)阻止がもたらされる。
【0039】
つまり、第2エピサイクリックユニット4のロックがもたらされ、当該第2エピサイクリックユニット4はこのようにして、遊星キャリア14と回転接続された一体ロータとして機能する。この状態では、当然のことながら、差動装置1が、まさにエピサイクリックユニット2を備える通常の差動装置のように機能する。なぜなら、歯車30とロックされている第2エピサイクリックユニット4とが固く相互回転接続されることによって、歯車30からギアボックスの出力シャフトを通じて遊星キャリア14に至る運動の伝達の状態がもたらされるからである。この伝達は、遊星キャリア14が、従来の差動装置で見られるように、歯車30自体に直接拘束されている(またはそれと一体化している)場合に起きるであろう伝達と全く同一のものである。
【0040】
具体的には、差動装置1が歯車30を介して運動(参照符号IN)を受け取り、この運動が遊星キャリア14に、そしてそこから遊星ギア16、18を通じて太陽ギア8、10に伝達される。出力シャフトS1とS2との間に角運動速度の差が存在する場合は、通常通り、差動装置1によって遊星キャリア14と太陽ギア8、10との間の相対移動(いわゆるスライド)が可能となり、その結果、2つのシャフトS1、S2の回転速度の差異化が可能となる。
【0041】
係合デバイス6の第1動作状態はそれ故、通常動作の状態、または、遊星キャリア14への運動の伝達の観点からすれば、比率が1:1の伝達の状態に相当する。
【0042】
第2動作状態では、係合デバイス6が第3太陽ギア20の回転を阻止し、ハブ32を要素36に連結することにより、当該太陽ギア20を固定部品40に接続する。この第2動作状態は、スリーブ38が(または、ドグクラッチ係合デバイスの場合はハブ32が)方向38−に向かって並進することにより実現される。
【0043】
このようにして、エピサイクリックユニット4は(再)作動し、同様に、遊星ユニット24(ギア26)とギア20、22との間の相対移動の可能性がもたらされる。
【0044】
これは、遊星キャリア14と歯車30とが固く回転接続されてはいないものの、エピサイクリックユニット4により精度よくもたらされるエピサイクリックユニット2の減速段上流を介してその接続が行われることを意味する。
【0045】
特に、歯車30から入る運動は、リングギア22に伝達され、太陽ギア20の阻止の結果として、当該リングギア22から遊星ギア26を通じて遊星キャリア14に伝達される。この運動は、元来知られている既述の様式に従って、当該遊星キャリア14により太陽ギア8、10に伝達される。
【0046】
エピサイクリックユニット4によりもたらされる減速比は、歯車30の(およびリングギア22の)回転速度と遊星キャリア14の回転速度との比率として定義されるものであり、それ故当該ユニットよりも高い。
【0047】
基本的に、係合デバイス6は、差動装置1のローレンジデバイス上流として動作する。第2動作状態を選択することにより、ローギアレンジ(または、より簡単に言うと、ローレンジ)の選択に相当する操作が実行される。
【0048】
係合デバイス6の、および、結果的に差動装置1の動作状態はどちらも、手動制御装置を用いて選択され得る。当該手動制御装置は、車両の乗員席部分に位置し、運転者により、または、電子制御ユニットを用いて自動的に操作され得る。
【0049】
しかしながら、第2動作状態の選択には、以下に挙げる特定の条件が適用される。制御手段は、当該条件のうちの少なくとも1つが遵守されなければ、この選択自体が除外されるか、または、係合デバイス6が第1動作状態に自動的に移行するよう構成されるのが好ましい。
【0050】
上記の条件には以下が含まれる。
i)第1前進ギアまたは後退ギアの選択
ii)閾値速度よりも遅い車両速度特に2番目の条件は重要である。すなわち、エピサイクリックユニット4が作動すると、エンジンと車輪とのトランスミッション比が更に低下し(当該トランスミッション比は、車輪の回転速度とエンジンr.p.m.との比率として理解されている。言い換えると、エピサイクリックユニット4が作動すると減速比が上昇し、当該減速比は上述の比率と正反対のものであると言える)、結果的に、車両速度が上述の閾値を超えた場合にエンジンおよびトランスミッションに深刻なダメージを及ぼすリスクがある。当該閾値は、エンジンおよびトランスミッションの特徴に従って25km/h〜45km/hに設定され得るのが好ましい。好適な閾値は35km/h(およそ22mph)に相当する。
【0051】
車両が一時停止状態にあるといったような補足的条件が更に、場合によっては、車両が走行している地形に適用する勾配閾値と組み合わせて想定され得る。
【0052】
上記の条件を前提として、運転者および/または制御ユニットが第2動作状態を選択しない場合は、あたかもエピサイクリックユニット4がないかの如く差動装置1を制御するよう、係合デバイス6が常に第1動作状態で保たれる。車両がクルーズしている限りは、選択されている前進ギアが何であろうと、車両のエンジンから車輪への運動の伝達が可能となるよう、第1動作状態(第1ピサイクリックユニットと第2エピサイクリックユニットとの比率が1:1の伝達)が維持される。一般的には、運動の伝達がもたらされるよう、デバイス6の一方または他方の動作状態が選択されなければならない。さもなければ(係合デバイス6が中立の立場にある場合は)、歯車30からの運動の入力によって太陽ギア20のアイドル回転が引き起こされるだけである。ここで、遊星キャリア14へのトルクの伝達は取るに足らないものであり、結果的に、運転中のエピサイクリックユニット2、およびそれに加えて、車両の車輪を駆動するのに十分ではない。
【0053】
差動装置1のおかげで、前進始動の場合も後退始動の場合も、極めて負担がかかっている状態での始動を成し遂げることが可能となる。これは、係合デバイス6の第2動作状態を選択することによって可能である。ひとたび始動する必要がなくなると、差動装置1をエピサイクリックユニット4以外、通常動作の状態に切り替えることができ、それ故、車両のエンジンは、既知の差動装置では実現され得ない消費水準の削減目標を実現することができる。
【0054】
実際、エピサイクリックユニット4によりもたらされる作動停止可能な減速段のおかげで、第1ギアおよび後退ギアを含む、車両のギアボックスの前進ギア全てについてより高い比率を選択することができる。負担がかかっている始動状態の場合は、エピサイクリックユニット4を作動させ、始動操作が完了したときにそれを除外すれば十分である。基本的には、エピサイクリックユニット4によりギアボックスの設計が始動に関わる要件から切り離されることによって、消費水準の削減に活用され得る自由度が高まる。
【0055】
上記に加えて、始動設計制約をギアボックスから差動装置に移すことにより、第1ギアとその次のギア(特に第2ギア)との間における急激な速度の階段状変化もなく、ギア比のより円滑な推移をギアボックスにもたらすことが可能となる。
【0056】
勿論、構造の詳細および実施形態は、添付の請求項で定義されているように、結果的に本発明の範囲から逸脱することなく、これまでに説明および示したものに対して大幅に異なり得る。
【0057】
例えば、差動装置1を四輪駆動車の中央差動装置として適用することを想定することができる。この場合は、歯車30が(例えば、複数のリンクを用いた鎖トランスミッションにより、または、歯車30とギアボックスの出力シャフト上の歯車との直接噛合により)ギアボックスの出力シャフトに接続されてよく、係合デバイス6の要素36がギアボックスの筐体自体に接続されてよい。太陽ギア8、10は、前輪用差動装置および後輪用差動装置にそれぞれ運動を伝達し得る。これまでに説明した差動装置1に関して想定され得る唯一の追加点は、太陽ギア8と太陽ギア10との間にスリップ制限デバイスを、例えば、太陽ギア8、10に必要とされるトルクに対するエピサイクリックユニット2の感度を高めるギア噛合(歯)を備えた粘性継手または遊星ギア16、18を設けることに関する。
【0058】
しかしながら、幾つかの応用では、スリップ制限デバイス(いわゆるオープン差動装置)が場合によっては関連機能を他のシステム、例えば牽引制御システムに割り当てることなく、差動装置1を使用できることに留意すべきである。
【0059】
更には、中央差動装置がなければ、差動装置1を四輪駆動車の前輪用差動装置として使用することができる。すなわち、ここでは、前輪用差動装置が、(対応する係合デバイスを介して)後輪用差動装置に運動を伝達する動力取出装置を備える。
【0060】
この場合は、エピサイクリックユニット4の作動および作動停止の影響が前車軸にも後車軸にも(すなわち、差動装置1に関連付けられたものとは異なる車軸に)伝達されるよう、動力取出装置が遊星キャリア14に設けられ得る(特に図2の断面図を参照すると、図面の右にある、要素14/2の末端スリーブを長くすることができる)。
図1
図2