特許第6819038号(P6819038)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6819038
(24)【登録日】2021年1月6日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】安全装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 40/08 20120101AFI20210114BHJP
   B60W 30/095 20120101ALI20210114BHJP
   B60W 50/14 20200101ALI20210114BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
   B60W40/08
   B60W30/095
   B60W50/14
   G08G1/16 C
   G08G1/16 F
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-241373(P2015-241373)
(22)【出願日】2015年12月10日
(65)【公開番号】特開2017-105357(P2017-105357A)
(43)【公開日】2017年6月15日
【審査請求日】2018年11月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 久人
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(72)【発明者】
【氏名】今西 明
【審査官】 菅野 京一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−072631(JP,A)
【文献】 特開2002−163796(JP,A)
【文献】 特開2005−196276(JP,A)
【文献】 特開2001−101599(JP,A)
【文献】 特開2008−206688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00−10/30,
30/00−60/00,
G08G 1/00− 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の速度を取得する自車両速度取得部と、
前記自車両に先行する先行車両の速度を取得する先行車両速度取得部と、
前記自車両と前記先行車両との間の車間距離を取得する車間距離取得部と、
前記自車両の運転者が前方を注視していない前方不注視状態にあるか否かを検出する運転者状態検出部と、
前記運転者状態検出部が前記前方不注視状態を検出した時に、少なくとも前記先行車両の速度に基づいて、前記先行車両が最大減速度で減速を開始して停止すると仮定した場合の前記先行車両の停止位置を、前記自車両が減速しないと仮定した場合に前記自車両が前記先行車両に衝突する衝突位置として予測する衝突位置予測部と、
前記自車両の速度が、前記自車両速度取得部が取得した速度から、最大減速度で前記衝突位置において速度ゼロに減速するまでに要する減速時間又は減速距離を算出する減速領域算出部と、
前記車間距離、前記衝突位置、及び前記減速領域算出部が算出した前記減速時間又は前記減速距離に基づいて、前記自車両の前記運転者が前記前方不注視状態にあることを許容する許容距離を算出し、算出した前記許容距離に基づいて許容時間を算出する許容領域算出部と、
前記前方不注視状態が継続している継続時間が前記許容時間以上である場合、前記自車両に設けられた警報装置に主警報を出力させる警報制御部と、
を備える、安全装置。
【請求項2】
前記減速領域算出部は、前記自車両の前記運転者の反応時間に基づいて算出される空走距離と、前記自車両のブレーキの立ち上がり時間に基づいて算出されるブレーキ立ち上がり距離と、前記自車両の減速度に基づいて算出される制動距離とに基づいて、前記減速距離を算出する、請求項1に記載の安全装置。
【請求項3】
前記警報制御部は、前記運転者状態検出部が前記前方不注視状態を連続的に検出している継続時間が、前記許容領域算出部が算出した前記許容時間以上であり、且つ所定の最小継続時間以上である場合に、前記警報装置に前記主警報を出力させる、
請求項1又は2に記載の安全装置。
【請求項4】
前記警報制御部は、前記運転者状態検出部が前記前方不注視状態を連続的に検出している継続時間が、前記許容領域算出部が算出した前記許容時間未満である場合に、前記主警報に比べて抑制された予備警報を前記警報装置に出力させる、請求項3に記載の安全装置。
【請求項5】
前記警報制御部は、前記運転者状態検出部が前記前方不注視状態を連続的に検出している継続時間が、所定の最大許容継続時間以上である場合に、前記警報装置に前記主警報を出力させる、請求項3又は4に記載の安全装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の安全装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運転者の状態に応じて、自車両が先行車両に衝突することを回避するための支援を自車両の運転者に対して行う装置が知られている。例えば特許文献1は、自車両の運転者の覚醒度が低下した状態が予め設定した時間にわたって継続した場合に、運転者に対して警報を出力する安全装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−252497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
運転者の覚醒度が低下した状態が予め設定した時間にわたって継続した時に警報を出力する場合、先行車両と自車両との車間距離が大きく、このため、自車両が先行車両に衝突する危険度が低い場合にも、警報が出力されてしまう。安全装置が、危険度が低い場合に警報を出力する場合、運転者が安全装置を煩わしいと感じてしまうことがある。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、車両の運転者が前方不注視状態にあることを許容する許容時間又は許容距離を算出する安全装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様においては、自車両の速度を取得する自車両速度取得部と、前記自車両に先行する先行車両の速度を取得する先行車両速度取得部と、前記自車両と前記先行車両との間の車間距離を取得する車間距離取得部と、前記自車両の運転者が前方を注視していない前方不注視状態にあるか否かを検出する運転者状態検出部と、少なくとも前記先行車両の速度に基づいて、前記自車両が減速しないと仮定した場合に前記自車両が前記先行車両に衝突する衝突位置を予測する衝突位置予測部と、前記自車両の速度が、前記自車両速度取得部が取得した速度から、前記衝突位置における前記先行車両の速度に減速するまでに要する減速時間又は減速距離を算出する減速領域算出部と、前記車間距離、前記衝突位置、及び前記減速距離に基づいて、前記自車両の前記運転者が前記前方不注視状態にあることを許容する許容時間又は許容距離を算出する許容領域算出部と、を備える、安全装置を提供する。
【0007】
前記衝突位置予測部は、前記運転者状態検出部が前記前方不注視状態を検出した時に前記先行車両が減速を開始して停止すると仮定した場合の前記先行車両の停止位置を前記衝突位置として予測してもよい。
【0008】
前記減速領域算出部は、前記自車両の運転者の反応時間に基づいて算出される空走距離と、前記自車両のブレーキの立ち上がり時間に基づいて算出されるブレーキ立ち上がり距離と、前記自車両の減速度に基づいて算出される制動距離とに基づいて、前記減速距離を算出してもよい。
【0009】
前記安全装置は、前記運転者状態検出部が前記前方不注視状態を連続的に検出している継続時間が、前記許容領域算出部が算出した前記許容時間以上である場合に、自車両に設けられた警報装置に主警報を出力させる警報制御部を更に備えていてもよい。
【0010】
前記安全装置は、前記運転者状態検出部が前記前方不注視状態を連続的に検出している継続時間が、前記許容領域算出部が算出した前記許容時間以上であり、且つ所定の最小継続時間以上である場合に、自車両に設けられた警報装置に主警報を出力させる警報制御部を更に備えていてもよい。
【0011】
前記警報制御部は、前記運転者状態検出部が前記前方不注視状態を連続的に検出している継続時間が、前記許容領域算出部が算出した前記許容時間未満である場合に、前記主警報に比べて抑制された予備警報を前記警報装置に出力させてもよい。
【0012】
前記警報制御部は、前記運転者状態検出部が前記前方不注視状態を連続的に検出している継続時間が、所定の最大許容継続時間以上である場合に、前記警報装置に主警報を出力させてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、車両の運転者が前方不注視状態にあることを許容する許容時間又は許容距離を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係る安全装置の概要を説明するための図である。
図2】本実施形態に係る自車両の構成を示すブロック図である。
図3】安全装置の動作を示すフローチャートである。
図4】安全装置が許容距離を算出する手順を説明するための図である。
図5】本実施形態の変形例において、安全装置が許容距離を算出する手順を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[本実施形態の概要]
本実施形態に係る安全装置は、自車両の運転者が前方を注視していない前方不注視状態になったことを検出した場合であっても、先行車両との衝突を回避可能な期間の間は、警報を出力せず、又は、警報の出力を抑制する。これによって、運転者が安全装置を煩わしいと感じてしまうことを抑制することができる。
【0016】
図1は、本実施形態に係る安全装置の概要を説明するための図である。図1(a)は、安全装置が、自車両1の運転者が前方不注視状態になったことを検出した時の自車両1及び先行車両2の走行状況を示す図である。以下の説明において、安全装置が、自車両1の運転者が前方不注視状態になったことを検出した時を、起算点と称する。まず、安全装置は、起算点における自車両1の速度Vf、自車両1に先行する先行車両2の速度Vp、及び、自車両1と先行車両2との間の車間距離Drに関する情報を取得する。
【0017】
続いて、安全装置は、自車両1の許容距離Da_fを算出する。許容距離Da_fとは、自車両1の運転者が前方不注視状態にあることを許容する距離である。許容距離Da_fが例えば100mである場合、安全装置は、運転者が前方不注視状態になった後に自車両1が100m進むまでの間に自車両1の運転者に自車両1の減速の必要性を察知させることができれば、自車両1と先行車両2との衝突を回避することができる。図1(b)は、自車両1が起算点の位置から許容距離Da_fだけ進んだ後、自車両1の運転者が自車両1の減速の必要性を察知して自車両1が減速を開始し、先行車両2の停止位置Pの直前で自車両1が停止したという状況を示している。
【0018】
以下、安全装置が許容距離Da_fを算出する方法の概要を説明する。本実施形態において、まず、安全装置は、起算点において先行車両2が減速を開始すると仮定する。続いて、安全装置は、先行車両2が起算点で減速を開始してから停止するまでの間に先行車両2が進む距離Ds_pを算出して、先行車両2が停止する停止位置Pを算出する。続いて、安全装置は、自車両1の運転者が自車両1の減速の必要性を察知してから自車両1が停止するまでの間に自車両1が進む減速距離Ds_fを算出する。続いて、安全装置は、起算点における自車両1の位置と先行車両2の停止位置Pとの間の距離から、自車両1の減速距離Ds_fを減算して、許容距離Da_fを算出する。
【0019】
本実施形態によれば、安全装置は、自車両1の減速の必要性を運転者に察知させるための警報を出力するタイミングを、許容距離Da_fに基づいて制御することにより、衝突の危険度が低い場合に警報を出力することを抑制することができる。このため、運転者が安全装置を煩わしいと感じてしまうことを抑制することができる。
【0020】
[自車両の構成]
図2は、本実施形態に係る自車両1の構成を示すブロック図である。自車両1は、運転者監視装置3、車外監視装置4、安全装置10、及び警報装置5を備える。
【0021】
運転者監視装置3は、例えば、運転者が閉眼状態にあるか否かを検出する閉眼状態検出装置である。この場合、運転者監視装置3は、例えば、自車両1のダッシュボードに設置されたCCDカメラを含む。以下、運転者監視装置3の動作の一例について説明する。
【0022】
まず、運転者監視装置3は、所定のサンプリング周期で(例えば1分間に1800回)、走行中の自車両1の運転者の眼球を含む領域を撮影して画像を生成する。続いて、運転者監視装置3は、画像における運転者の開眼度を算出する。開眼度とは、画像における運転者の眼球の面積の、所定の基準面積に対する比率である。続いて、運転者監視装置3は、画像における運転者の開眼度が所定の閾値以下である場合に、運転者の状態を閉眼状態と判定する。運転者監視装置3は、判定結果を安全装置10に対して出力する。
【0023】
なお、状況によっては、運転者監視装置3が、画像における運転者の眼球の面積を算出できないときがある。例えば、運転者の顔の角度が正面からずれている場合、運転者の眼球の検出が日光によって阻害される場合などである。
運転者監視装置3が画像における運転者の眼球の面積を算出できない場合、運転者監視装置3は、開眼度を算出できなかったことを示すロスト情報を安全装置10に対して出力してもよい。
【0024】
また、運転者監視装置3は、画像における運転者の顔を検出することはできるが、眼球の面積を算出できない場合、以前のサンプリング周期の時に撮影された画像に基づいて算出した開眼度の値を、現在のサンプリング周期における開眼度の値として用いてもよい。このようにすることにより、運転者監視装置3における運転者の顔及び眼球の検出精度が低いことに起因して運転者監視装置3の出力が頻繁に変動してしまうことを抑制することができる。なお、このような補間処理を長期にわたって継続した場合、閉眼状態の誤検出が生じる可能性が高くなる。従って、補間処理を連続して実施するサンプリング周期の数に所定の上限を設けておくことが好ましい。
【0025】
車外監視装置4は、ACC(アダプティブクルーズコントロール)、CMS(衝突軽減ブレーキシステム)などである。車外監視装置4は、自車両1と先行車両2との間の相対速度、及び自車両1と先行車両2との間の車間距離に関する情報を取得し、取得した情報を安全装置10に対して出力する。
【0026】
安全装置10は、運転者監視装置3からの情報に基づいて、自車両1の運転者が前方を注視していない前方不注視状態にあるか否かを検出する。また、安全装置10は、自車両1の運転者が前方不注視状態にあることを検出した時に、車外監視装置4からの情報に基づいて、自車両1の運転者が前方不注視状態にあることを許容する許容距離及び許容時間を算出する。また、安全装置10は、算出した許容時間に基づいて、警報装置5に警報を出力させるタイミングを制御する。
【0027】
警報装置5は、安全装置10からの制御に基づいて、運転者が前方不注視状態にあることを示す警報を出力する。警報装置5は、例えば、自車両1に設けられたスピーカーを含んでいる。
【0028】
[安全装置の構成]
以下、安全装置10の構成について詳細に説明する。安全装置10は、運転者状態検出部20、車両状態算出部30、及び警報制御部40を備える。
【0029】
運転者状態検出部20は、運転者監視装置3からの情報に基づいて、自車両1の運転者が前方不注視状態にあるか否かを検出する。例えば、運転者状態検出部20は、自車両1の運転者が閉眼状態にあるという情報に基づいて、自車両1の運転者が前方不注視状態にあることを検出する。
【0030】
車両状態算出部30は、車外監視装置4からの情報に基づいて、上述の許容距離Da_fを算出する。車両状態算出部30は、例えば、運転者状態検出部20が、自車両1の運転者が前方不注視状態にあることを検出した後に、許容距離Da_fを算出する。車両状態算出部30は、自車両速度取得部31、先行車両速度取得部32、車間距離取得部33、衝突位置予測部34、減速領域算出部35、及び許容領域算出部36を有する。車両状態算出部30の各構成要素の具体的な動作については後述する。
【0031】
警報制御部40は、運転者状態検出部20及び車両状態算出部30からの情報に基づいて、警報装置5に警報を出力させるか否かを制御する。
【0032】
[安全装置の動作]
以下、安全装置10の動作について説明する。図3は、安全装置の動作を示すフローチャートである。図4は、安全装置10が許容距離Da_fを算出する手順を説明するための図である。
【0033】
安全装置10の運転者状態検出部20は、自車両1の運転者が前方不注視状態にあるか否かを、所定の周期で繰り返し検出する(S11)。自車両1の運転者が前方不注視状態にある場合(S11においてYES)、自車両速度取得部31は、例えばタイヤの回転数に基づいて自車両1の速度Vfを取得する(S12)。また、先行車両速度取得部32は、車外監視装置4からの情報に基づいて、先行車両2の速度Vpを取得する(S13)。また、車間距離取得部33は、車外監視装置4からの情報に基づいて、自車両1と先行車両2との間の車間距離Drを取得する(S14)。自車両速度取得部31、先行車両速度取得部32、及び車間距離取得部33は、取得した情報を衝突位置予測部34に対して出力する。
【0034】
続いて、衝突位置予測部34は、自車両1の速度Vf、先行車両2の速度Vp、車間距離Drなどの情報に基づいて、衝突位置を予測する(S15)。衝突位置とは、運転者状態検出部20が運転者の前方不注視状態を検出した時点である起算点t0の後、自車両1が減速しないと仮定した場合に、自車両1が先行車両2に衝突する位置である。本実施形態において、衝突位置予測部34は、図4(b)に破線で示すように、起算点t0において先行車両2が減速を開始して停止すると仮定した場合の先行車両2の停止位置Pを、衝突位置として予測する。先行車両2の停止位置Pは、起算点における先行車両2の位置に、先行車両2が減速を開始してから停止するまでの間に先行車両2が進む距離Ds_pを加えた位置になる。
【0035】
具体的には、衝突位置予測部34は、下記の式(1)に基づいて距離Ds_pを算出する。
Ds_p=(Tb_p×Vp)+Vp/2αp・・・(1)
式(1)において、αpは、先行車両2の最大減速度であり、Tb_pは、先行車両2のブレーキ立ち上がり時間である。ブレーキ立ち上がり時間とは、運転者が車両のブレーキを踏み始めてから車両の減速度が最大減速度に到達するまでの時間である。
【0036】
式(1)において、Tb_p×Vpの項は、ブレーキ立ち上がり時間Tb_pの間に先行車両2が進むブレーキ立ち上がり距離Ds_p1を表す。また、Vp/2αpの項は、先行車両2が最大減速度αpで速度Vpから速度ゼロにまで減速することに要する制動距離Ds_p2を表す。
【0037】
衝突位置予測部34は、先行車両2が減速を開始してから停止するまでに要する時間である減速時間Ts_pを算出してもよい。
【0038】
続いて、減速領域算出部35は、自車両1の運転者が自車両1の減速の必要性を察知した後、自車両1の速度が、起算点t0における速度Vfから衝突回避速度に減速するまでに要する減速距離Ds_fを算出する(S16)。衝突回避速度は、例えば、衝突位置における先行車両2の速度である。なぜなら、自車両1が衝突位置に到達するよりも前に自車両1の速度を衝突位置における先行車両2の速度以下にすることができれば、自車両1と先行車両2の衝突を回避することができるからである。
【0039】
衝突位置が先行車両2の停止位置Pである場合、減速領域算出部35は、図4(c)に破線で示すように、自車両1の速度をVfからゼロに減速するまでに要する距離を減速距離Ds_fとして算出する。具体的には、減速領域算出部35は、下記の式(2)に基づいて減速距離Ds_fを算出する。
Ds_f=(RTf×Vf)+(Tb_f×Vf)+Vf/2αf・・・(2)
式(2)において、RTfは、自車両1の運転者が自車両1の減速の必要性を察知してからブレーキを踏み始めるまでの反応時間である。また、αfは、自車両1の最大減速度αfであり、Tb_fは、自車両1のブレーキ立ち上がり時間である。
【0040】
式(2)において、RTf×Vfの項は、反応時間RTfの間に自車両1が走行する空走距離Ds_f1を表す。また、Tb_f×Vfの項は、ブレーキ立ち上がり時間Tb_fの間に自車両1が進むブレーキ立ち上がり距離Ds_f2を表す。また、Vf/2αfの項は、自車両1が最大減速度αfで速度Vfから速度ゼロにまで減速することに要する制動距離Ds_f3を表す。
なお、減速領域算出部35は、自車両1が減速を開始してから停止するまでに要する時間である減速時間Ts_fを算出してもよい。
【0041】
続いて、許容領域算出部36は、下記の式(3)に基づいて、自車両1の運転者が前方不注視状態にあることを許容する許容距離Da_fを算出する(S17)。
Da_f=Dr+Ds_p−Ds_f・・・(3)
【0042】
続いて、許容領域算出部36は、許容距離Da_fを、起算点における自車両1の速度Vfで除算することによって、自車両1の運転者が前方不注視状態にあることを許容する許容時間Ta_fを算出する(S18)。
【0043】
続いて、警報制御部40は、運転者状態検出部20からの情報に基づいて、自車両1の運転者の前方不注視状態が継続しているか否かを検出する(S19)。警報制御部40は、自車両1の運転者の前方不注視状態が継続している場合(S19においてYES)、自車両1の運転者の前方不注視状態が継続している時間(以下、継続時間と称する)を算出する(S20)。続いて、警報制御部40は、前方不注視状態の継続時間が、許容領域算出部36が算出した許容時間Ta_f以上であるか否かを判定する(S21)。警報制御部40は、前方不注視状態の継続時間が許容時間Ta_f以上である場合(S21においてYES)、警報装置5に主警報を出力させる(S22)。これによって、自車両1の運転者に、運転者が前方不注視状態にあること、及び、自車両1の減速が必要であることを察知させることができる。
【0044】
<本実施形態における効果>
本実施形態による安全装置10は、自車両1の運転者が前方不注視状態にあることを検出した時に、自車両1の速度Vf、先行車両2の速度Vp、及び自車両1と先行車両2との間の車間距離Drに基づいて、自車両1の運転者が前方不注視状態にあることを許容する許容時間Ta_fを算出する。このため、許容時間Ta_fに基づいて警報装置5を制御することにより、自車両1と先行車両2との衝突の危険度が低い場合に警報を出力することを抑制することができる。例えば、安全装置10は、前方不注視状態の継続時間が許容時間Ta_f以上である場合に、警報装置5に主警報を出力させる。このようにすることにより、運転者が安全装置10を煩わしいと感じてしまうことを抑制することができる。
【0045】
また、安全装置10は、運転者状態検出部20が自車両1の運転者の前方不注視状態を検出した時に先行車両2が減速を開始して停止すると仮定した場合の先行車両2の停止位置Pを衝突位置として予測して、許容時間Ta_fを算出する。すなわち、安全装置10は、ワーストケースを仮定して許容時間Ta_fを算出する。このため、自車両1と先行車両2との衝突をより確実に回避することができる。
【0046】
また、安全装置10は、自車両1の運転者の反応時間RTfに基づいて算出される空走距離Ds_f1と、自車両1のブレーキの立ち上がり時間Tb_fに基づいて算出されるブレーキ立ち上がり距離Ds_f2と、自車両1の最大減速度αfに基づいて算出される制動距離Ds_f3とに基づいて、自車両1の減速距離Ds_fを算出する。このようにすることにより、自車両1の減速距離Ds_fをより正確に算出することができるので、自車両1と先行車両2との衝突をより確実に回避することができる。
【0047】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0048】
(車両状態算出部の変形例)
例えば、本実施形態においては、起算点において先行車両2が減速を開始すると仮定して、自車両1と先行車両2の衝突位置、自車両1の減速時間Ts_f及び許容距離Da_fを算出する例を示したが、これに限られることはない。本変形例においては、自車両1の速度が先行車両2の速度よりも大きい状況が維持されることによって自車両1が先行車両2に衝突すると仮定して、自車両1と先行車両2の衝突位置P、自車両1の減速時間Ts_f及び許容距離Da_fを算出する例について説明する。
【0049】
図5は、本変形例に係る安全装置10の車両状態算出部30が許容距離Da_fを算出する手順を説明するための図である。本変形例においては、図5(a)に示すように、起算点t0において、自車両1のグラフの傾きが先行車両2のグラフの傾きよりも大きい。すなわち、起算点t0において、自車両1の速度Vfは先行車両2の速度Vpよりも大きい。
【0050】
本変形例において、車両状態算出部30の衝突位置予測部34は、起算点t0の後、自車両1の速度と先行車両2の速度との差が維持されると仮定して、図5(b)に示すように、自車両1が先行車両2に衝突する衝突位置Pを算出する。また、衝突位置予測部34は、起算点t0における先行車両2の位置と衝突位置Pとの間の距離Ds_pを算出する。
【0051】
続いて、減速領域算出部35は、図5(c)に示すように、自車両1の運転者が自車両1の減速の必要性を察知した後、自車両1の速度が、起算点t0における速度Vfから衝突回避速度に減速するまでに要する減速距離Ds_fを算出する。衝突回避速度は、上述の本実施形態の場合と同様に、衝突位置Pにおける先行車両2の速度である。本変形例において、衝突位置Pにおける先行車両2の速度は、起算点t0における先行車両2の速度Vpに等しい。従って、減速領域算出部35は、自車両1の速度を起算点t0における自車両1の速度Vfから起算点t0における先行車両2の速度Vpに減速するまでに要する距離を、減速距離Ds_fとして算出する。
【0052】
続いて、許容領域算出部36は、上述の式(3)を用いて、車間距離Dr、距離Ds_p、及び減速距離Ds_fに基づいて、許容距離Da_fを算出する。続いて、許容領域算出部36は、許容距離Da_fに基づいて許容時間Ta_fを算出する。本変形例においても、許容時間Ta_fに基づいて警報装置5を制御することにより、自車両1と先行車両2との衝突の危険度が低い場合に警報を出力することを抑制することができる。
【0053】
(警報制御部の変形例1)
上述の本実施形態においては、警報制御部40は、運転者状態検出部20が自車両1の前方不注視状態を連続的に検出している継続時間が許容時間Ta_f以上である場合に、警報装置5に主警報を出力させる例を示したが、これに限られることはない。警報制御部40は、前方不注視状態の継続時間が、許容時間Ta_f以上であり、且つ所定の最小継続時間以上である場合に限定して、警報装置5に主警報を出力させてもよい。すなわち、警報制御部40は、前方不注視状態の継続時間が、最小継続時間未満である場合は、警報装置5に主警報を出力させない。最小継続時間は、例えば1秒である。このような最小継続時間を設定することにより、運転者が瞬きをしたことや運転者が計器を視認したことに起因して主警報が出力されてしまうことを抑制することができる。
【0054】
(警報制御部の変形例2)
また、警報制御部40は、前方不注視状態の継続時間が許容時間Ta_f以上である場合だけでなく、前方不注視状態の継続時間が許容時間Ta_f未満である場合にも、警報装置5に警報を出力させてもよい。例えば、警報制御部40は、前方不注視状態の継続時間が許容時間Ta_f未満である場合に、前方不注視状態の継続時間が許容時間Ta_f以上である場合に出力される主警報に比べて抑制された予備警報を、警報装置5に出力する。警報装置5がスピーカーを含む場合、予備警報は、例えば、主警報に比べて小さい音量を有する警報である。このようにすることにより、警報装置5が出力する警報を段階的に強めることができる。
【0055】
(警報制御部の変形例3)
また、警報制御部40は、車両状態算出部30が算出した許容時間Ta_fの値に寄らず、前方不注視状態の継続時間に基づいて、警報装置5に主警報を出力させてもよい。例えば、警報制御部40は、前方不注視状態の継続時間が、所定の最大許容継続時間以上である場合に、警報装置5に主警報を出力させてもよい。このようにすることにより、前方不注視状態が長期にわたって継続することを防ぐことができ、これによって、車線の逸脱などが生じることを抑制することができる。
【0056】
(運転者状態検出部の変形例)
上述の本実施形態においては、運転者状態検出部20は、自車両1の運転者が閉眼状態にあるという情報に基づいて、自車両1の運転者が前方不注視状態にあることを検出する例を示したが、これに限られることはない。例えば、運転者状態検出部20は、自車両1の運転者が閉眼状態又はわき見状態にあるという情報に基づいて、自車両1の運転者が前方不注視状態にあることを検出してもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 自車両
2 先行車両
3 運転者監視装置
4 車外監視装置
5 警報装置
10 安全装置
20 運転者状態検出部
30 車両状態算出部
31 自車両速度取得部
32 先行車両速度取得部
33 車間距離取得部
34 衝突位置予測部
35 減速領域算出部
36 許容領域算出部
40 警報制御部
図1
図2
図3
図4
図5