(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6819178
(24)【登録日】2021年1月6日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】パティキュレートフィルター
(51)【国際特許分類】
F01N 3/022 20060101AFI20210114BHJP
B01D 46/00 20060101ALI20210114BHJP
B01D 39/20 20060101ALI20210114BHJP
F01N 3/025 20060101ALI20210114BHJP
B01D 46/42 20060101ALN20210114BHJP
【FI】
F01N3/022 C
B01D46/00 302
B01D39/20 D
F01N3/025 101
!B01D46/42 B
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-184543(P2016-184543)
(22)【出願日】2016年9月21日
(65)【公開番号】特開2018-48594(P2018-48594A)
(43)【公開日】2018年3月29日
【審査請求日】2019年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】景山 遊大
(72)【発明者】
【氏名】大石 和貴
【審査官】
坂口 達紀
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−069123(JP,A)
【文献】
特開2014−051888(JP,A)
【文献】
特開2002−060279(JP,A)
【文献】
特開2010−281306(JP,A)
【文献】
特開2011−190740(JP,A)
【文献】
特開2015−166573(JP,A)
【文献】
特開2002−085922(JP,A)
【文献】
特開2008−254947(JP,A)
【文献】
特開2008−272738(JP,A)
【文献】
特開2003−161138(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00−3/38,9/00−11/00,
B01D 39/00−41/04,46/00−46/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のハニカムセグメントが一体化され、各ハニカムセグメントに流入した排気ガス中の粒子状物質を捕集し、当該捕集した粒子状物質を燃焼させるパティキュレートフィルターにおいて、
前記複数のハニカムセグメントにおける隣接するもの同士を接着剤で接合する接着領域と、
排気ガスの流れ方向における下流側の端を始端として、当該始端から上流側に向かって前記接着領域の下流側の端である終端までの領域に設けられた、前記隣接するもの同士の間に形成された空間としての非接着領域と、
を備え、
前記終端の位置は、前記流れ方向における位置に対して予め求められた温度のうち、前記接着剤の最大耐熱温度または前記最大耐熱温度から所定温度を減じた温度に対応する位置であるパティキュレートフィルター。
【請求項2】
各々の前記非接着領域の終端の前記流れ方向における位置は、相互に一致している請求項1に記載のパティキュレートフィルター。
【請求項3】
各々の前記非接着領域の終端の前記流れ方向における位置は、前記パティキュレートフィルターの外周側に位置する方が、中心側に位置する方より前記下流側に位置している請求項1に記載のパティキュレートフィルター。
【請求項4】
各々の前記非接着領域の終端の前記流れ方向における位置は、前記パティキュレートフィルターの中心側から外周側に近づくほど前記下流側に位置している請求項1に記載のパティキュレートフィルター。
【請求項5】
前記接着領域は、前記流れ方向における上流側の端から前記終端までの領域に連続して設けられている請求項1から4のいずれか一項に記載のパティキュレートフィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、パティキュレートフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディーゼルエンジンから排出される排気ガス中の粒子状物質を捕集するフィルターとして、例えば、ディーゼルパティキュレートフィルター(Diesel Particulate Filter:DPF)が知られている。
【0003】
DPFは、粒子状物質の捕集量に限度があるため、堆積した粒子状物質を定期的に焼却除去する再生を行う必要がある。DPFの再生では、排気管内噴射やポスト噴射により、上流側に設けられた酸化触媒に未燃燃料を供給して、酸化により発生する熱で排気ガスを粒子状物質の燃焼温度まで昇温する。
【0004】
例えば、DPFには、粒子状物質を捕集するための複数の孔を有するハニカム構造体を、複数のハニカムセグメントから構成し、複数のハニカムセグメントにおける隣接するもの同士を接着剤で接合し一体化したものがある。
【0005】
しかし、接着剤の熱容量がハニカムセグメントに比較して大きく、昇温速度が遅いことから、DPF内の温度勾配を増大させて、熱応力による欠陥が生じる場合がある。
【0006】
例えば、特許文献1には、DPF内の温度勾配の増大を抑えるために、ハニカムセグメント同士を接着剤で接合する箇所(接着領域)を、軸方向(ハニカムセグメントの長手方向)の中心位置より両端方向へ所定長さ(全長の30%以下)だけ離間した位置までの範囲にして、ハニカムセグメントの両端部に接着剤で接合しない箇所(非接着領域)を設けた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4434076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1におけるハニカムセグメントの両端部に設けられた非接着領域は、DPF内の温度勾配の増大を抑えることを目的としており、排気ガスを粒子状物質の燃焼温度に昇温するDPFの再生時の熱による接着剤の剥がれを防止することを目的として着想されておらず、接着領域の温度がDPFの再生時に耐熱温度以上に達して、接着剤が剥がれるおそれがあり、剥がれた接着剤が機械振動などによりハニカムセグメントに擦れたり、衝突したりする。これにより、DPFを損壊させて、DPFの耐久性を低下させる場合がある。
【0009】
本開示の目的は、耐久性の低下を防止することができるパティキュレートフィルターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示のパティキュレートフィルターは、
複数のハニカムセグメントが一体化され、各ハニカムセグメントに流入した排気ガス中の粒子状物質を捕集し、当該捕集した粒子状物質を燃焼させるパティキュレートフィルターにおいて、
前記複数のハニカムセグメントにおける隣接するもの同士を接着剤で接合する接着領域と、
排気ガスの流れ方向における下流側の端を始端として、当該始端から上流側に向かって
前記接着領域の下流側の端である終端までの領域に設けられた、前記隣接するもの同士の間に形成された空間としての非接着領域と、
を備え
、
前記終端の位置は、前記流れ方向における位置に対して予め求められた温度のうち、前記接着剤の最大耐熱温度または前記最大耐熱温度から所定温度を減じた温度に対応する位置である。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、耐久性の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の一実施の形態に係るディーゼル排気ガス浄化装置の構成を概略的に示す図
【
図2】本実施の形態に係るパティキュレートフィルターの縦断面
【
図6A】接着剤を塗布した第1のハニカムセグメントを示す図
【
図6B】接合された第2のハニカムセグメントを示す図
【
図6C】接合された15個のハニカムセグメントを示す図
【
図6D】接合された16個のハニカムセグメントを示す図
【
図7】変形例に係るパティキュレートフィルターの横断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。各図において、排気ガスの流れ方向を“DR”で示し、流れ方向における上流側を“D1”で、下流側を“D2”でそれぞれ示す。
【0014】
図1は、本実施の形態に係るディーゼル排気ガス浄化装置1の構成を概略的に示す図である。
図1に示すディーゼル排気ガス浄化装置1は、ディーゼルエンジン(図示略)の排気ガスの上流側D1に配置された繊維フィルター2と、これと直列的に配置されたパティキュレートフィルター3とを組み合わせたものである。
【0015】
繊維フィルター2は耐熱性繊維の積層体である。耐熱性繊維には特に限定はないが、例えば、Si−C−Oを主成分とする炭化ケイ素系、Si−O−Nを主成分とする窒素化ケイ素、Al−Oを主成分とするアルミナ系およびSi−Oを主成分とするシリカ系、Al−Si−Oを主成分とするムライト系などのセラミックス、鉄-クロム-アルミニウム系金属線などを使用することができる。
【0016】
図2は、流れ方向DRに沿って切断したパティキュレートフィルター3の縦断面図、
図3は
図2のIII-III線断面である。
パティキュレートフィルター3は、複数(ここでは、16個)のハニカムセグメント30を有する。パティキュレートフィルター3は、
図2および
図3に示すように、16個のハニカムセグメント30を縦横4×4のマトリックス状に配列した集合体である。
【0017】
図4は、上流側D1から見たハニカムセグメント30の側面図である。
ハニカムセグメント30は、多孔性セラミックス製ハニカム構造体である。ハニカムセグメント30は、
図4からわかるように、格子によって区画された多数の細長い気管(セル)32からなるものである。多数の気管32における上流側D1および下流側D2の開口は、目封じされている。具体的には、多数の気管32における上流側D1の開口は、市松模様を呈するように、セラミックスで封止されている。
図4に目封じされた開口32Aをハッチングで示す。また、目封じされた気管32に隣接する気管32の下流側D2の開口は、セラミックスで封止されている。
【0018】
上記のように構成されたハニカムセグメント30において、排気ガスは、例えば、気管32の開放された上流側D1の開口から流入し、気管32のハニカム壁を貫通して隣接する気管32に流入し、開放された下流側D2の開口(図示略)から排出される。これにより、ハニカム壁はフィルターとして機能する。排気ガス中の粒子状物質(Particulate Matter:PM)は、ハニカム壁を貫通できず、気管32内に捕集される。
【0019】
図5は、
図2のV−V線断面図である。
パティキュレートフィルター3は、
図2、3および
図5に示すように、隣接するハニカムセグメント30同士を接着剤34で接合する接着領域A1と、隣接するハニカムセグメント30同士の間に形成された空間36としての非接着領域A2とを有する。
【0020】
接着剤34は、例えば、無機繊維および無機バインダーなどの材料、に水を加えて、混練をすることにより得られる。なお、上記の材料に、有機バインダー、発泡樹脂および分散剤を加えてもよい。上記方法により得られた接着剤34は耐熱性および耐衝撃性を有する。接着剤34の種類は、それが用いられるパティキュレートフィルター3の種類に対応している。ここでの接着剤34の最大耐熱温度(℃)は、例えば、800から900である。また、接着剤34の耐熱温度とは、接着性能を維持している温度をいう。また、耐衝撃性とは、熱応力や物理的な衝撃に耐性を有することをいう。
【0021】
非接着領域A2は、流れ方向DRにおける下流側D2の端を始端E1として、始端から上流側D1に向かって粒子状物質の燃焼時(パティキュレートフィルター3の再生時)に接着剤34の所定耐熱温度以下を示す終端E2までを空間36とする領域である。ここで、所定耐熱温度とは、最大耐熱温度であってもよく、出荷時のパティキュレートフィルター3の品質特性のバラツキを考慮して、最大耐熱温度から所定温度を減じた温度であってもよい。
【0022】
非接着領域A2の終端E2は、接着剤34の種類(特に、最大耐熱温度)、パティキュレートフィルター3の種類、および、パティキュレートフィルター3の再生における実験結果などから経験的に求められる位置である。パティキュレートフィルター3の再生時において、パティキュレートフィルター3の中心側の温度の方が外周側の温度より高いことが知られている。つまり、流れ方向DRにおける位置が同じであっても、パティキュレートフィルター3の外周側の温度が接着剤34の最大耐熱温度以下である一方、中心側の温度が接着剤34の最大耐熱温度に達している場合がある。以上の結果を、非接着領域A2の終端E2の位置にそのまま反映すると、各々の非接着領域A2の終端E2は、パティキュレートフィルター3の中心側の方が外周側の方より上流側に位置することになる。本実施の形態では、パティキュレートフィルター3の製造し易さを加味し、非接着領域A2の終端E2は、各々の非接着領域A2の終端E2の流れ方向DRにおける位置は、パティキュレートフィルター3の中心側の終端E2の位置で相互に一致している。
【0023】
接着領域A1は、ハニカムセグメント30に作用する熱応力を緩和するために、なるべく広いことが好ましい。接着領域A1は、具体的には、ハニカムセグメント30の流れ方向DRにおける上流側D1の端E3から終端E2までの領域に連続して設けられる。
【0024】
次に、パティキュレートフィルター3の製造方法の一例について
図6Aから
図6Dを参照して説明する。ここでは、16個のハニカムセグメント30を用いて、パティキュレートフィルター3を製造するものとする。なお、16個のハニカムセグメント30を接着剤34で接合する順番は予め決められているものとする。
【0025】
(接合工程)
先ず、第1番目のハニカムセグメント301の側面に接着剤34を塗布する(
図6A参照)。なお、本接合工程において、流れ方向DRおいて接着剤34を塗布する領域は、
図2に示す接着領域A1である。つまり、接着剤34を、流れ方向DRにおける上流側D1の端E3から終端E2までの領域に連続して塗布する。
【0026】
次に、接着剤34を塗布した側面に第2番目および第3番目のハニカムセグメント302,303の側面を接合する(
図6B参照)。
【0027】
次に、第2番目および第3番目のハニカムセグメント302、303の側面に接着剤34を塗布し、接着剤34を塗布した側面に次の順番のハニカムセグメント30の側面を接合する。
【0028】
このような接着剤34による接合を順次繰り返すことで、
図6Cに示すように、第14番目および第15番目のハニカムセグメント304,305を一体化し、第14番目および第15番目のハニカムセグメント304,305の側面に接着剤をそれぞれ塗布する。さらに、
図6Dに示すように、接着剤を塗布した側面に第16番目のハニカムセグメント306を接合する。以上により、16個のハニカムセグメント30を一体化する。
【0029】
(乾燥工程)
一体化したハニカムセグメント30を、例えば150℃から180℃の温度で乾燥する。乾燥に要する時間は、例えば、3時間から4時間である。
【0030】
(成形)
乾燥したハニカムセグメント30の外周を、
図2および
図3に示すように、円形状になるようにカットし、パティキュレートフィルター3の外周形状を成形する。なお、変形例として、パティキュレートフィルター3の外周形状を、
図7に示すように、楕円形状になるようにカットしてもよい。
【0031】
上記実施の形態に係るパティキュレートフィルター3によれば、排気ガスの流れ方向DRにおける下流側の端を始端E1として、始端E1から上流側に向かって粒子状物質の燃焼時に接着剤34の所定耐熱温度以下を示す終端E2までの領域を非接着領域A2とする。これにより、パティキュレートフィルター3の再生時の熱によって接着剤34が剥がれることがなく、接着剤34がハニカムセグメント30に擦れたり、衝突したりすることもなく、パティキュレートフィルター3の耐久性の低下を防止することができる。
【0032】
また、各々の非接着領域A2の終端E2の流れ方向DRにおける位置が相互に一致する。つまり、複数のハニカムセグメント30の接合工程において、接着剤34の塗布を開始する位置および終了する位置が一致する。これにより、複数のハニカムセグメント30を容易に接合することが可能となる。
【0033】
なお、本発明は、各々の非接着領域A2の終端E2の流れ方向DRにおける位置を、パティキュレートフィルター3の外周側に位置する方が、中心側に位置する方より下流側に位置させてもよい。これにより、パティキュレートフィルター3の外周側の接着領域A1を、中心側の接着領域A1より下流側に拡張させることができ、それに応じて、耐衝撃性を上げることができる。
【0034】
また、本発明においては、パティキュレートフィルター3の再生時において、パティキュレートフィルター3の中心側から外周側に近づくほど温度が下降する傾向にあることから、各々の非接着領域A2の終端E2の流れ方向DRにおける位置を、パティキュレートフィルター3の中心側から外周側に近づくほど下流に位置させてもよい。これにより、中心側から外周側に近づく位置に設けられた接着領域A1ほど下流側に拡張させることができ、さらに、耐衝撃性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本開示のパティキュレートフィルターは、耐久性の低下を防止することが要求されるディーゼル排気ガス洗浄装置として有用である。
【符号の説明】
【0036】
A1 接着領域
A2 非接着領域
1 ディーゼル排気ガス浄化装置
2 繊維フィルター
3 パティキュレートフィルター
30 ハニカムセグメント
32 気管
34 接着剤
36 空間