特許第6819259号(P6819259)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6819259
(24)【登録日】2021年1月6日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】移動式クレーン
(51)【国際特許分類】
   B66C 23/88 20060101AFI20210114BHJP
   B66C 23/42 20060101ALI20210114BHJP
   B66C 15/00 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
   B66C23/88 F
   B66C23/42 A
   B66C15/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-239916(P2016-239916)
(22)【出願日】2016年12月9日
(65)【公開番号】特開2018-95374(P2018-95374A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】特許業務法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉木 啓資
【審査官】 八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−001748(JP,A)
【文献】 特開昭60−047168(JP,A)
【文献】 特開昭59−227690(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0042479(US,A1)
【文献】 特開2005−308659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 19/00−23/94
B66C 13/00−15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋回台に起伏自在の伸縮ブームが設けられる移動式クレーンにおいて、
前記移動式クレーンが搬送物を搬送する作業現場の三次元情報と前記移動式クレーンの位置情報と前記移動式クレーンの三次元情報とを取得し、
前記作業現場の三次元情報に基づいて前記作業現場の三次元マップを算出し、
前記移動式クレーンの三次元情報と前記移動式クレーンの姿勢情報と前記移動式クレーンの位置情報とに基づいて前記移動式クレーンの現在の姿勢および前記移動式クレーンの現在の位置における前記移動式クレーンの現在の三次元形状を算出し、
前記三次元マップから避雷効果のある構造物による保護範囲を算出し、
前記作業現場の三次元マップに前記避雷効果のある構造物による保護範囲と前記現在の三次元形状とを重畳的に表示させる移動式クレーン。
【請求項2】
前記作業現場の気象情報を取得し、
前記気象情報に雷注意報が含まれ、かつ前記現在の三次元形状の全てが前記避雷効果のある構造物による保護範囲に包含されていない場合、操縦者に落雷の可能性がある旨を報知する請求項1に記載の移動式クレーン。
【請求項3】
前記作業現場の気象情報を取得し、
前記気象情報に雷注意報が含まれ、かつ前記現在の三次元形状の全てが前記避雷効果のある構造物による保護範囲に包含されていない場合、前記現在の三次元形状の全てが前記避雷効果のある構造物による保護範囲に包含される状態になるための前記移動式クレーンの姿勢情報と前記移動式クレーンの位置情報とを算出する請求項1または請求項2に記載の移動式クレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動式クレーンに関する。詳しくは、作業現場の三次元情報を用いて落雷を抑制する移動式クレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、伸縮ブームを備えるクレーン等において搬送作業を行う場合、搬送物を釣り上げて搬送するという機能上、作業現場の構造物よりも高い位置まで伸縮ブームを伸長させる場合がある。このため、クレーンは、建築基準法等により設置が義務付けられている避雷針(避雷設備)の保護範囲外の領域に伸縮ブームが配置された状態で作業を行う場合が多い。一方、雷は、落雷直前の稲妻停止位置を中心とする雷撃距離を半径とする球内であって、稲妻停止位置に最も近い構造物に落ちやすい。つまり、雷は、雷撃距離以内に入る可能性が高い高所に落ちやすい。従って、クレーン等は、搬送経路によっては伸縮ブームが落雷の可能性が高まる避雷針の保護範囲外の領域であって、雷撃距離以内に含まれる高所に配置される。そこで、伸縮ブームの先端に避雷針を設けて落雷による油圧機器や電子機器の破損を回避するようにしたクレーンの伸縮ブーム等に用いられる伸縮マストが知られている。例えば、特許文献1の如くである。
【0003】
特許文献1に記載の伸縮マストは、上段側の単位マスト体が下段側の単位マスト体に入れ子式に挿入され、伸縮自在に構成されている。最上段の単位マスト体には、避雷針が設けられている。各単位マスト体は、導電性の摺動子が板バネで単位マスト体に押し付けられている。このように構成することで、伸縮マストは、先端の避雷針から基端までの落雷電流の通電経路が確保されている。これにより、伸縮マストは、先端の避雷針に落雷しても単位マスト体の側面に落雷電流(直撃電流)が流れ、直撃電流による内部の油圧機器や電子機器等の破損や誤動作を防止している。
【0004】
特許文献1に記載の技術は、避雷針と通電経路とを単位マストに構成することで、伸縮マスト内部の油圧機器や電子機器等に直撃電流が流れないように構成したものである。しかし、伸縮マストには、落雷時に通電経路に印可される高い電圧による誘導電流が発生する。また、伸縮マストは、大電流が流れることにより通電経路が高温になる。このため、伸縮マストは、避雷針と通電経路とにより内部の油圧機器や電子機器に直撃電流が流れないように構成されていても、誘導電流や発熱によって内部の油圧機器や電子機器に落雷による影響が生じる可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−182471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、落雷による油圧機器や電子機器の破損や誤動作を抑制することができるクレーンの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、旋回台に起伏自在の伸縮ブームが設けられる移動式クレーンにおいて、前記移動式クレーンが搬送物を搬送する作業現場の三次元情報と前記移動式クレーンの位置情報と前記移動式クレーンの三次元情報とを取得し、前記作業現場の三次元情報に基づいて前記作業現場の三次元マップを算出し、前記移動式クレーンの三次元情報と前記移動式クレーンの姿勢情報と前記移動式クレーンの位置情報とに基づいて前記移動式クレーンの現在の姿勢および前記移動式クレーンの現在の位置における前記移動式クレーンの現在の三次元形状を算出し、前記三次元マップから避雷効果のある構造物による保護範囲を算出し、前記作業現場の三次元マップに前記避雷効果のある構造物による保護範囲と前記現在の三次元形状とを重畳的に表示させるものである。
【0009】
クレーンは、前記作業現場の気象情報を取得し、前記気象情報に雷注意報が含まれ、かつ前記現在の三次元形状の全てが前記避雷効果のある構造物による保護範囲に包含されていない場合、操縦者に落雷の可能性がある旨を報知するものである。
【0010】
クレーンは、前記作業現場の気象情報を取得し、前記気象情報に雷注意報が含まれ、かつ前記現在の三次元形状の全てが前記避雷効果のある構造物による保護範囲に包含されていない場合、前記現在の三次元形状の全てが前記避雷効果のある構造物による保護範囲に包含される状態になるための前記移動式クレーンの姿勢情報と前記移動式クレーンの位置情報とを算出するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、以下に示すような効果を奏する。
【0012】
クレーンにおいては、作業現場において避雷針の保護範囲と、それに対するクレーンの位置が三次元画像として適宜提供されるのでクレーン全体が避雷針の保護範囲に包含される位置に移動させやすい。これにより、落雷による油圧機器や電子機器の破損や誤動作を抑制することができる。
【0013】
クレーンにおいては、操縦者に雷が発生する可能性が高い気象条件、かつ雷の直撃をける可能性が高い位置条件である旨が速やかに報知される。これにより、落雷による油圧機器や電子機器の破損や誤動作を抑制することができる。
【0014】
クレーンにおいては、適切にクレーン全体が避雷針の保護範囲に包含される位置に移動させやすい。これにより、落雷による油圧機器や電子機器の破損や誤動作を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第一実施形態に係るクレーンの全体構成を示す側面図。
図2】本発明の第一実施形態に係るクレーンの制御装置の構成を示すブロック図。
図3】JIS規格の保護角法における避雷針の保護範囲を示す模式図。
図4】(a)本発明の第一実施形態に係るクレーンにおいて作業現場の三次元マップに避雷針の保護範囲とクレーンの三次元形状を重畳的に表示している状態を示す側面図、(b)同じく作業現場の三次元マップに避雷針の保護範囲とクレーンの三次元形状を重畳的に表示している状態を示す平面図。
図5】(a)本発明の第一実施形態に係るクレーンの作業現場の三次元マップにおいて避雷針の保護範囲にクレーン全体が包含されている状態を示す側面図、(b)同じくクレーンの一部が避雷針の保護範囲の外に配置されている状態を示す側面図示す図。
図6】本発明の第一実施形態に係るクレーンにおいて落雷抑制制御の制御態様を表すフローチャートを示す図。
図7】本発明の第二実施形態に係るクレーンの作業現場の三次元マップにおいて避雷針の保護範囲の外にクレーンの一部が配置されている状態から保護範囲に包含される状態に移動させるための移動量を算出する態様を示す側面図。
図8】本発明の第二実施形態に係るクレーンにおいて落雷抑制制御の制御態様を表すフローチャートを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図1図2とを用いて、移動式クレーンの一実施形態に係るクレーン1について説明する。なお、本実施形態においては、クレーン1として移動式クレーンについて説明を行うが、アクチュエータによって起伏される伸縮ブーム8と旋回台7とウインチ(メインウインチ13、サブウインチ15)とを具備するクレーンであればよい。
【0017】
図1に示すように、クレーン1は、不特定の場所に移動可能な移動式クレーンである。クレーン1は、車両2、クレーン装置6を有する。
【0018】
車両2は、クレーン装置6を搬送するものである。車両2は、複数の車輪3を有し、エンジン4(図2参照)を動力源として走行する。車両2には、アウトリガ5が設けられている。アウトリガ5は、車両2の幅方向両側に油圧によって延伸可能な張り出しビームと地面に垂直な方向に延伸可能な油圧式のジャッキシリンダとから構成されている。車両2は、アウトリガ5を車両2の幅方向に延伸させるとともにジャッキシリンダを接地させることにより、クレーン1の作業可能範囲を広げることができる。
【0019】
クレーン装置6は、搬送物Wをワイヤロープによって吊り上げるものである。クレーン装置6は、旋回台7、伸縮ブーム8、ジブ9、メインフックブロック10、サブフックブロック11、起伏シリンダ12、メインウインチ13、メインワイヤロープ14、サブウインチ15、サブワイヤロープ16、キャビン17、クレーン位置情報取得装置19、通信装置20、制御装置21(図2参照)等を具備する。
【0020】
旋回台7は、クレーン装置6を旋回可能に構成するものである。旋回台7は、円環状の軸受を介して車両2のフレーム上に設けられる。円環状の軸受は、その回転中心が車両2の設置面に対して垂直になるように配置されている。旋回台7は、円環状の軸受の中心を回転中心として一方向と他方向とに回転自在に構成されている。旋回台7は、図示しない油圧式の旋回モータによって回転されるように構成されている。旋回台7には、その旋回位置を検出する旋回位置検出センサ22(図2参照)が設けられている。
【0021】
伸縮ブーム8は、搬送物Wを吊り上げ可能な状態にワイヤロープを支持するものである。伸縮ブーム8は、複数のブーム部材から構成されている。各ブーム部材は、断面積の大きさの順に入れ子式に挿入されている。伸縮ブーム8は、各ブーム部材を図示しない伸縮シリンダで移動させることで軸方向に伸縮自在に構成されている。伸縮ブーム8は、ベースブーム部材の基端が旋回台7上に揺動可能に設けられている。これにより、伸縮ブーム8は、車両2のフレーム上で水平回転可能かつ揺動自在に構成されている。伸縮ブーム8には、そのブーム長さを検出するブーム長さ検出センサ23(図2参照)と、その起伏角度を検出するブーム角度検出センサ24(図2参照)とが設けられている。
【0022】
ジブ9は、クレーン装置6の揚程や作業半径を拡大するものである。ジブ9は、伸縮ブーム8のベースブーム部材に設けられたジブ支持部によってベースブーム部材に沿った姿勢で保持されている。ジブ9の基端は、トップブーム部材のジブ支持部に連結可能に構成されている。ジブ9は、ジブ支持部に図示しないピンを打ち込むことによりトップブーム部材の先端に連結可能に構成されている。
【0023】
メインフックブロック10は、搬送物Wを吊るものである。メインフックブロック10には、メインワイヤロープ14が巻き掛けられる複数のフックシーブと、搬送物Wを吊るメインフックとが設けられている。サブフックブロック11は、搬送物Wを吊るものである。サブフックブロック11には、搬送物Wを吊るサブフックが設けられている。
【0024】
起伏シリンダ12は、伸縮ブーム8を起立および倒伏させ、伸縮ブーム8の姿勢を保持するものである。起伏シリンダ12はシリンダ部とロッド部とからなる油圧シリンダから構成されている。起伏シリンダ12は、シリンダ部の端部が旋回台7に揺動自在に連結され、ロッド部の端部が伸縮ブーム8のベースブーム部材に揺動自在に連結されている。起伏シリンダ12は、ロッド部がシリンダ部から押し出されるように作動油が供給されることで伸縮ブーム8を起立させ、ロッド部がシリンダ部に押し戻されるように作動油が供給されることで伸縮ブーム8を倒伏させるように構成されている。
【0025】
油圧ウインチであるメインウインチ13は、メインワイヤロープ14の繰り入れ(巻き上げ)および繰り出し(巻き下げ)を行うものである。メインウインチ13は、メインワイヤロープ14が巻きつけられるメインドラムがメイン用油圧モータによって回転され、メインワイヤロープ14が繰り入れ、繰り出しされるように構成されている。
【0026】
油圧ウインチであるサブウインチ15は、サブワイヤロープ16の繰り入れおよび繰り出しを行うものである。サブウインチ15は、サブワイヤロープ16が巻きつけられるサブドラムがサブ用油圧モータによって回転され、サブワイヤロープ16が繰り入れ、繰り出しされるように構成されている。サブウインチ15には、サブワイヤロープ16の繰り出し長さを検出するワイヤロープ長さ検出センサ25(図2参照)が設けられている。
【0027】
キャビン17は、操縦席を覆うものである。キャビン17は、旋回台7における伸縮ブーム8の側方に設けられている。キャビン17の内部には、図示しない操縦席が設けられている。操縦席には、メインウインチ13を操作するための図示しないメイン用操作弁、サブウインチ15を操作するための図示しないサブ用操作具、伸縮ブーム8を操作するための図示しない起伏用操作具、クレーン1を移動させるための図示しないハンドル、旋回台7を旋回させるための旋回用操作具、三次元情報等を表示する表示装置18(図2参照)等が設けられている。
【0028】
クレーン位置情報取得装置19(図2参照)は、クレーン1の位置情報である緯度、経度、高度を取得するものである。クレーン位置情報取得装置19は、例えばGNSS(Global Navigation Satellite System、全地球航法衛星システム)を用いるためのGNSSアンテナとGNSS受信処理機とから構成されている。クレーン位置情報取得装置19は、複数のGNSS衛星からの電波をGNSSアンテナで受信し、GNSS受信処理機にて処理することにより、GNSSアンテナの緯度、経度、高度を取得する。クレーン位置情報取得装置19は、車両2の複数の位置にGNSSアンテナが設けられている。つまり、クレーン位置情報取得装置19は、車両2の位置である緯度、経度、高度および車両2の配置方向を算出するために必要な位置情報を取得する。
【0029】
通信装置20(図2参照)は、クレーン1が搬送物Wを搬送する作業現場の三次元情報と作業現場の気象情報を取得するものである。通信装置20は、例えばインターネット経由で、外部から雷注意報等の雷に関する気象情報を取得する。また、通信装置20は、作業現場の三次元情報を取得する。作業現場の三次元情報は、所定時間毎またはリアルタイムに計測され、随時更新されている。これにより、クレーン1は、刻々と構造物の形状等が変化する作業現場の状態が反映された三次元情報を取得することができる。
【0030】
このように構成されるクレーン1は、車両2を走行させることで任意の位置にクレーン装置6を移動させることができる。また、クレーン1は、起伏シリンダ12で伸縮ブーム8を任意の起伏角度に起立させて、伸縮ブーム8を任意の伸縮ブーム8長さに延伸させたりジブ9を連結させたりすることでクレーン装置6の揚程や作業半径を拡大することができる。
【0031】
図2に示すように、制御装置21は、クレーン1の動作制御と落雷抑制制御を行うものである。制御装置21は、車両2に設けられている。制御装置21は、クレーン1の動作制御として、図示しない各種操作具の操作に基づいて伸縮ブーム8、起伏シリンダ12、メインウインチ13、サブウインチ15および旋回モータの動作を制御する。また、制御装置21は、クレーン1の落雷抑制制御として、搬送作業を行う作業現場の三次元情報から仮設の避雷針を含む避雷効果のある構造物Stによる保護範囲Paを算出する。次に、制御装置21は、クレーン1の三次元情報から避雷効果のある構造物Stによる保護範囲Paに対するクレーン1の位置関係を算出し、落雷を抑制する情報を操縦者に提示する。作業現場の三次元情報には、作業現場の構造物Stの緯度、経度、高度、三次元形状Cm、配置方向等が含まれている。さらに、作業現場の三次元情報には、作業現場の構造物Stに設けられている避雷針や仮設の避雷針の位置情報が含まれている。クレーン1の三次元情報には、クレーン1自体の三次元形状Cmおよび搬送物Wの重量および三次元形状が含まれている。クレーン1の姿勢情報には、旋回台7の旋回位置、伸縮ブーム8の伸縮長さおよび起伏角度、メインワイヤロープ14の繰り出し長さ、サブワイヤロープ16の繰り出し長さ、車両2の位置である緯度、経度、高度、車両2の配置方向が含まれている。
【0032】
制御装置21は、実体的には、CPU、ROM、RAM、HDD等がバスで接続される構成であってもよく、あるいはワンチップのLSI等からなる構成であってもよい。制御装置21には、起伏シリンダ12、メインウインチ13、サブウインチ15および旋回モータの動作を制御するために種々のプログラムやデータが格納されている。また、制御装置21には、クレーン1自体の三次元形状Cmの情報が格納され、クレーン1の三次元情報からその姿勢における三次元形状Cmを作成するプログラムやデータが格納されている。さらに、制御装置21には、避雷効果のある構造物Stの位置から避雷効果のある構造物Stによる保護範囲Paを算出するために種々のプログラムやデータが格納されている。
【0033】
制御装置21は、表示装置18に接続され、表示装置18にクレーン1の三次元情報と作業現場の三次元情報とを表示することができる。
【0034】
制御装置21は、クレーン位置情報取得装置19に接続され、クレーン位置情報取得装置19から、車両2の緯度、経度、高度および車両2の配置方向からなるクレーン1の位置情報を取得することができる。
【0035】
制御装置21は、通信装置20に接続され、通信装置20を介して、避雷針や仮設の避雷針の位置情報を含む作業現場の三次元情報と作業現場の気象情報とを取得することができる。
【0036】
制御装置21は、旋回位置検出センサ22に接続され、旋回位置検出センサ22からの信号を取得し、クレーン1の姿勢情報を構成する旋回台7の旋回角度を算出することができる。
【0037】
制御装置21は、ブーム長さ検出センサ23に接続され、ブーム長さ検出センサ23から信号を取得し、クレーン1の姿勢情報を構成する伸縮ブーム8のブーム長さを算出することができる。
【0038】
制御装置21は、ブーム角度検出センサ24に接続され、ブーム角度検出センサ24から信号を取得し、クレーン1の姿勢情報を構成する伸縮ブーム8の起伏角度を算出することができる。
【0039】
制御装置21は、ワイヤロープ長さ検出センサ25に接続され、ワイヤロープ長さ検出センサ25から信号を取得し、クレーン1の姿勢情報を構成するメインワイヤロープ14の繰り出し長さおよびサブワイヤロープ16の繰り出し長さを算出することができる。なお、本実施形態において、クレーン1は、ワイヤロープ長さ検出センサ25を備えているが、必須の構成要件ではない。
【0040】
制御装置21は、作業現場の三次元情報から作業現場の複数の構造物Stの三次元形状Cmとその配置からなる三次元マップWmを作成し、表示装置18に表示することができる。作業現場の複数の構造物Stには、避雷針、仮設の避雷針、建築中の構造物等、作業現場の全ての構造物を含む。
【0041】
制御装置21は、作業現場の三次元情報から避雷効果のある構造物Stによる保護範囲Paを算出し、作業現場の三次元マップWmに重ね合わせて、表示装置18に表示することができる。
【0042】
制御装置21は、クレーン1の三次元情報から搬送物Wを含むクレーン1の現在の三次元形状Cmを算出し、作業現場の三次元マップWmに重ね合わせて、表示装置18に表示することができる。
【0043】
このように構成されるクレーン1は、制御装置21によって作業現場の三次元情報とクレーン1の位置情報とを取得し、作業現場の三次元マップWmとクレーン1の現在の配置位置および姿勢に基づく三次元形状Cmとを作成する。さらに、クレーン1は、制御装置21によって三次元マップWmにクレーン1の三次元形状Cmと避雷効果のある構造物Stによる保護範囲Paを重畳的に表示する(図4参照)。
【0044】
以下に、図3から図6を用いて、クレーン1の落雷抑制制御について説明する。なお、クレーン1は、作業現場の三次元情報とクレーン1の位置情報とを取得しているものとする。
【0045】
図3に示すように、避雷針Lr(避雷効果のある構造物St)による保護範囲Paは、JIS規格(JIS A 4201)に定められている。避雷針Lrの上端からの鉛直線に対する角度である保護角で定められる稜線の内側(保護角を円錐頂角の1/2とする円錐の内側)を保護範囲Paとする保護角法において、保護レベルIV(保護効率0.8)の場合、避雷針Lrの高さが60mのとき保護角度25°に定められる稜線の内側(図3(a)の薄墨部分)、避雷針Lrの高さが45mのとき保護角度35°に定められる稜線の内側(図3(b)の薄墨部分)、避雷針Lrの高さが30mのとき保護角度45°に定められる稜線の内側(図3(c)の薄墨部分)、避雷針Lrの高さが20mのとき保護角度55°に定められる稜線の内側(図3(d)の薄墨部分)が保護範囲Paとして定められている。保護角法において、保護レベルIV(保護効率0.8)の場合、避雷針Lrによる保護範囲Paに包含される位置において80%の確率で落雷を遮蔽できるものとして設定されている。なお、本実施形態において避雷針Lrによる保護範囲Paを保護角法によって算出しているがこれに限定するものではなく、回転球体法によって保護範囲Paを算出する構成でもよい。
【0046】
図4に示すように、クレーン1の制御装置21は、通信装置20を介して作業現場の三次元情報を取得し、作業現場の三次元マップWmを作成する。合わせて、制御装置21は、作業現場の三次元情報から作業現場にある各構造物St1・St2・St3の最も高い部分が避雷効果を発揮するとして、各構造物St1・St2・St3における避雷効果の範囲である保護範囲Pa1・Pa2・Pa3を算出する。制御装置21は、保護範囲が他の構造物の保護範囲に全て含まれている構造物St3を除いた構造物St1・St2を避雷効果のある構造物とする。避制御装置21は、算出した避雷効果のある構造物St1・St2による保護範囲Pa1・Pa2を三次元マップWmに重畳的に表示する。さらに、制御装置21は、クレーン位置情報取得装置19からクレーン1の位置情報を取得し、旋回位置検出センサ22、ブーム長さ検出センサ23、ブーム角度検出センサ24およびワイヤロープ長さ検出センサ25からクレーン1の姿勢情報を取得し、クレーン1の位置情報と姿勢情報と三次元形状とからクレーン1の現在の三次元形状Cmとその位置および配置方向を算出し、三次元マップWmに重畳的に表示する。制御装置21は、所定時間毎にクレーン1の現在の三次元形状Cmと位置と配置方向を算出し、三次元マップWmに連続的に表示する。
【0047】
図5(a)に示すように、所定時間毎に三次元マップWmに表示されるクレーン1の現在の姿勢での三次元形状Cmの全体が避雷効果のある構造物St1による保護範囲Pa1に包含されている場合、制御装置21は、雷注意報の発令時など雷の発生が予測される気象条件下においても避雷効果のある構造物St1によってクレーン1への落雷が遮蔽されると判定する。制御装置21は、通信装置20を介して雷注意報等を取得した場合、表示装置18を介して雷注意報等が発令された旨のみを報知する。
図5(b)に示すように、クレーン1の車体2およびクレーン装置6のうち少なくとも一部が避雷効果のある構造物St1による保護範囲Pa1および避雷効果のある構造物St2による保護範囲Pa2の外に配置されている場合、雷注意報の発令時など雷の発生が予測される気象条件下においてクレーン1への落雷の可能性があると判定する。制御装置21は、通信装置20を介して雷注意報等を取得した場合、表示装置18を介して雷注意報等が発令された旨を報知するとともにクレーン1の少なくとも一部が避雷効果のある構造物St1による保護範囲Pa1および避雷効果のある構造物St2による保護範囲Pa2の外に配置されている旨を報知する。
【0048】
雷注意報が発令されている場合、制御装置21は、搬送物Wの搬送によってクレーン1の一部が避雷効果のある構造物Stによる保護範囲Paの外に移動すると、雷注意報等が発令されている旨の報知に加えて、クレーン1の一部が避雷効果のある構造物St1による保護範囲Pa1および避雷効果のある構造物St2による保護範囲Pa2外にある旨を報知する。また、制御装置21は、搬送物Wの搬送によってクレーン1の一部が避雷効果のある構造物St1による保護範囲Pa1および避雷効果のある構造物St2による保護範囲Pa2に包含されない位置から保護範囲Pa1・Pa2に包含される位置に移動すると、クレーン1の一部が保護範囲Pa1・Pa2に包含されていない旨の報知を停止し、雷注意報等が発令されている旨の報知のみを継続して行う。
【0049】
次に、図6を用いて、クレーン1の制御装置21における落雷抑制制御の制御態様について具体的に説明する。なお、本実施形態において、制御装置21は、すでに作業現場の三次元情報を取得し、避雷効果のある構造物St1による保護範囲Pa1を含む作業現場の三次元マップWmを作成しているものとする。
【0050】
ステップS110において、制御装置21は、所定時間毎にクレーン1の三次元情報を取得し、ステップをステップS120に移行させる。
【0051】
ステップS120において、制御装置21は、取得したクレーン1の三次元情報から現在の姿勢におけるクレーン1の三次元形状Cmを作成し、ステップをステップS130に移行させる。
【0052】
ステップS130において、制御装置21は、作成したクレーン1の三次元形状Cmを予め作成されている作業現場の三次元マップWmに、現在の設置位置および設置方向に合わせて重畳的に表示し、ステップをステップS140に移行させる。
【0053】
ステップS140において、制御装置21は、通信装置20を介して取得した気象情報に雷注意報が含まれているか否か判定する。すなわち、制御装置21は、雷注意報が発令されているか否か判定する。
その結果、雷注意報が発令されていると判定された場合、制御装置21はステップをステップS150に移行させる。
一方、雷注意報が発令されていないと判定された場合、制御装置21はステップをステップS110に移行させる。
【0054】
ステップS150において、制御装置21は、雷注意報が発令されている旨を操縦者に表示装置18を介して報知し、ステップをステップS160に移行させる。
【0055】
ステップS160において、制御装置21は、クレーン1の三次元形状Cmのうち少なくとも一部が避雷効果のある構造物St1による保護範囲Pa1の外に配置されているか否かを判断する。
その結果、クレーン1の三次元形状Cmのうち少なくとも一部が避雷効果のある構造物St1による保護範囲Pa1の外に配置されていると判定された場合、制御装置21ステップをステップS170に移行させる。
一方、クレーン1の三次元形状Cmのうち少なくとも一部が避雷効果のある構造物St1による保護範囲Pa1の外に配置されてないと判定された場合、制御装置21はステップをステップS110に移行させる。
【0056】
ステップS170において、制御装置21は、クレーン1に落雷が発生する可能性がある旨を操縦者に表示装置18を介して報知し、ステップをステップS110に移行させる。
【0057】
このように構成することで、クレーン1は、所定時間毎またはリアルタイムに取得した作業現場の三次元情報とクレーン1の三次元情報から避雷効果のある構造物St1による保護範囲Pa1を表示させた作業現場の三次元マップWmを形成するとともにクレーン1の現在の姿勢、位置、配置方向、搬送物Wの重量および形状等を反映させたクレーン1の三次元形状Cmを三次元マップWmに重畳的に表示させる。すなわち、クレーン1は、操縦者に作業現場における避雷効果のある構造物St1による保護範囲Pa1を視覚的に認識させ、保護範囲Paに対するクレーン1の位置が三次元画像として適宜提供されるのでクレーン1の全体を避雷効果のある構造物St1による保護範囲Pa1に包含されるように移動させやすい。また、クレーン1は、雷注意報等の落雷の可能性が高まる気象情報を受信した際に、クレーン1の少なくとも一部が避雷効果のある構造物St1による保護範囲Pa1の外に配置されている場合、操縦者に雷が発生する可能性が高い気象条件、かつ雷の直撃を受ける可能性がある位置条件である旨を速やかに報知させる。これにより、クレーン1は、刻々と変化する作業現場の構造物の形状に応じて適切な三次元情報を作業者に提供し、落雷による油圧機器や電子機器の破損や誤動作を抑制することができる。
【0058】
また、本実施形態の変形例として、クレーン1は、雷注意報が発令されている場合、制御装置21は、雷注意報等が発令されている旨の報知に加えて、クレーン1の保護範囲Paの中から保護範囲Paの外への移動を規制するように構成してもよい。
【0059】
次に、図7図8とを用いて、クレーンの第二実施形態であるクレーン26(図1参照)について説明する。なお、以下の第二実施形態に係るクレーン26は、図1から図6に示すクレーン1において、クレーン1に替えて適用されるものとして、その説明で用いた名称、図番、符号を用いることで、同じものを指すこととし、以下の実施形態において、既に説明した実施形態と同様の点に関してはその具体的説明を省略し、相違する部分を中心に説明する。
【0060】
第二実施形態におけるクレーン26の落雷抑制制御について説明する。なお、クレーン26は、作業現場の三次元情報とクレーン26の位置情報とを取得しているものとする。
図7に示すように、クレーン26の一部が避雷効果のある構造物St1による保護範囲Pa1に包含されていない状態で通信装置20を介して雷注意報等を取得した場合、制御装置21は、表示装置18を介して雷注意報等が発令された旨を報知するとともにクレーン26の一部が避雷効果のある構造物St1による保護範囲Pa1に包含されていない状態である旨を報知する。さらに、制御装置21は、三次元マップWmに表示されているクレーン26の現在の姿勢での三次元形状Cmの全体が、搬送物Wの位置を維持しつつ避雷効果のある構造物St1による保護範囲Pa1に包含されている状態になるために必要な旋回台7の旋回角度(図示せず)、サブワイヤロープ16の繰り出し(繰り入れ)量Wl、伸縮ブーム8の伸縮量Bl、起伏角度θ、車両2の位置(図示せず)および方角(図示せず)を算出する。なお、搬送物Wの位置を維持する条件は、クレーン26の現在の姿勢での三次元形状Cmの全体が、避雷効果のある構造物St1による保護範囲Pa1に包含されている状態になるための移動量を算出する制約条件の一例である。
【0061】
次に、図8を用いて、クレーン26の制御装置21における落雷抑制制御の制御態様について具体的に説明する。なお、本実施形態において、制御装置21は、すでに作業現場の三次元情報を取得し、避雷効果のある構造物St1による保護範囲Pa1を含む作業現場の三次元マップWmおよびを作成しているものとする。
【0062】
ステップS110からステップS170までは、第一実施形態において説明した内容と同一であるため記載を省略する。
【0063】
ステップS180において、制御装置21は、クレーン26の三次元形状Cmの全てが避雷効果のある構造物Stによる保護範囲Paに含まれるために必要な旋回台7の旋回角度(図示せず)、サブワイヤロープ16の繰り出し(繰り入れ)量Wl、伸縮ブーム8の伸縮量Bl(図7参照)および起伏角度θ(図7参照)を算出するとともに表示装置18(図2参照)を介して計算結果を報知し、ステップをステップS110に移行させる。
【0064】
このように構成することで、クレーン26は、操縦者にクレーン26の伸縮ブーム8等を避雷効果のある構造物Stによる保護範囲Paに包含される位置に移動させるための目安となる旋回角度、メインワイヤロープ14またはサブワイヤロープ16の繰り出し(繰り入れ)量Wl、伸縮ブーム8の伸縮量Blおよび起伏角度θを算出する。すなわち、クレーン26は、操縦者が視覚的に認識している避雷効果のある構造物Stによる保護範囲Paに包含される位置に向かってクレーン26を適切に移動させやすい。これにより、クレーン26は、刻々と変化する作業現場の構造物の形状に応じて適切な三次元情報を作業者に提供し、落雷による油圧機器や電子機器の破損や誤動作を抑制することができる。また、クレーン1・26は、避雷効果のある構造物Stによる保護範囲Paに包含されることで、搬送物の近傍で作業を行う玉掛け作業者等への直撃雷やクレーン1・26を介した誘導雷を防止することができる。
【0065】
以上、クレーン1・26は、落雷抑制制御として、作業現場の三次元マップWmに避雷効果のある構造物Stによる保護範囲Paとクレーン1・26の三次元形状Cmとを重畳的に表示させているが、さらにクレーン1・26の搬送物Wの搬送可能範囲を重畳的に表示させる構成としてもよい。また、本実施形態において、クレーン1・26は、表示装置18を介して操縦者に雷注意報等の発令および落雷の可能性がある旨を報知するがこれに限定するものではなくブザーや照明等によって報知する構成でもよい。また、本実施形態において、クレーン1・26は、通信装置20を介して作業現場の三次元情報を外部から取得する構成としたがこれに限定するものではなく、クレーン1・26にステレオカメラやレーザースキャナを設けて所定時間毎またはリアルタイムに作業現場の三次元情報を取得する構成でもよい。本実施形態において、クレーン1・26をラフテレーンクレーンとして記載したがこれに限定されるものではなく、移動式の機械式クレーン等でもよい。
【0066】
上述の実施形態は、代表的な形態を示したに過ぎず、一実施形態の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0067】
1 クレーン
7 旋回台
8 伸縮ブーム
Lr 避雷針
Pa 保護範囲
Wm 三次元マップ
Cm 三次元形状
W 搬送物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8