特許第6819283号(P6819283)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱自動車工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6819283-排気浄化装置 図000002
  • 特許6819283-排気浄化装置 図000003
  • 特許6819283-排気浄化装置 図000004
  • 特許6819283-排気浄化装置 図000005
  • 特許6819283-排気浄化装置 図000006
  • 特許6819283-排気浄化装置 図000007
  • 特許6819283-排気浄化装置 図000008
  • 特許6819283-排気浄化装置 図000009
  • 特許6819283-排気浄化装置 図000010
  • 特許6819283-排気浄化装置 図000011
  • 特許6819283-排気浄化装置 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6819283
(24)【登録日】2021年1月6日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】排気浄化装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/16 20160101AFI20210114BHJP
   F01N 3/20 20060101ALI20210114BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20210114BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20210114BHJP
   F01N 11/00 20060101ALI20210114BHJP
   B60K 6/442 20071001ALI20210114BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20210114BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20210114BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20210114BHJP
【FI】
   B60W20/16ZHV
   F01N3/20 C
   F01N3/08 B
   F01N3/24 E
   F01N3/20 R
   F01N11/00
   B60K6/442
   B60W10/06 900
   B60W10/08 900
   B60L50/16
【請求項の数】4
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-254807(P2016-254807)
(22)【出願日】2016年12月28日
(65)【公開番号】特開2018-103934(P2018-103934A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年3月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大祐
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 晶士
(72)【発明者】
【氏名】加藤 亮二
(72)【発明者】
【氏名】川島 一仁
【審査官】 佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−183866(JP,A)
【文献】 特開2010−275947(JP,A)
【文献】 特開2010−090723(JP,A)
【文献】 特開2000−008837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00−20/50
B60K 6/20− 6/547
B60L 1/00−58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、前記内燃機関により駆動されて発電する発電機と、前記発電機にて発電された電力を貯蓄するバッテリと、前記バッテリから供給される電力で駆動する電動機と、
を備えた車両における排気浄化装置であって、
前記内燃機関を稼働させて走行する内燃機関走行モードと、前記内燃機関を停止させるとともに前記電動機を稼働させて走行する電動機走行モードと、を切り替える走行モード切替部と、
前記内燃機関の排気通路に配置されて排気を浄化する触媒と、
前記内燃機関走行モード中に前記排気通路に流れる排気の温度を上昇させるよう前記内燃機関を制御して、前記触媒の水分吸着量を減少させる内燃機関制御部と、
前記触媒の上昇温度に基づいて前記触媒の劣化を推定する劣化推定部と、
前記走行モード切替部により前記内燃機関走行モードから前記電動機走行モードに切り替えられてから前記電動機走行モードが継続されている間の時間を測定する時間測定部と、
前記時間測定部により測定された測定時間に基づいて、前記触媒の水分吸着量を推定する水分推定部と、
前記内燃機関制御部により前記触媒の水分吸着量が減少され、前記走行モード切替部により前記内燃機関走行モードから前記電動機走行モードに切り替えられてからの前記触媒の温度が所定値以下であるときに、前記水分推定部により推定された前記触媒の水分吸着量に基づいて、前記触媒の劣化が推定可能な状態であるか否かを判定する劣化推定可否判定部と、を備え、
前記劣化推定部は、前記電動機走行モードから前記内燃機関走行モードに切り替えられて前記内燃機関が始動した際に、前記劣化推定可否判定部の判定結果に基づいて、前記触媒の劣化推定を実行する
ことを特徴とする排気浄化装置。
【請求項2】
前記内燃機関制御部は、排気温度を所定温度以上に保った状態で、所定時間以上に亘って連続して前記内燃機関を稼働させて、前記触媒に吸着されている水分を所定量まで蒸発させる
ことを特徴とする請求項1に記載の排気浄化装置。
【請求項3】
前記内燃機関制御部は、前記発電機を強制的に駆動して発電させることで、所定時間以上に亘って連続して前記内燃機関を稼働させる
ことを特徴とする請求項2に記載の排気浄化装置。
【請求項4】
前記触媒の劣化推定が所定期間に亘って実行されていない場合、前記走行モード切替部は、前記触媒の温度が所定温度以下になるまで前記電動機走行モードを維持させる
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の排気浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒を用いて排気中の窒素化合物(NOx)を除去する内燃機関の排気浄化装置に関し、具体的には、該触媒の劣化推定に関する。
【背景技術】
【0002】
プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)において、モータと組み合わされる内燃機関としては、ディーゼルエンジンおよびガソリンエンジンのいずれもが実用化されている。ディーゼルエンジンおよびガソリンエンジンの排気は、大気汚染の原因となるNOxを含んでいる。このため、これらの自動車(ディーゼルPHEVおよびガソリンPHEV)は、排気を浄化する排気浄化装置を備えている。
【0003】
例えば、ディーゼルPHEVの排気浄化装置は、有害物質であるNOxを無害な窒素と水に分解し、排気中のNOxを低減させている。具体的には、排気の流路に選択還元型の触媒(以下、選択還元型触媒という)を配置するとともに、選択還元型触媒よりも上流で排気に尿素水を噴射、添加する。これにより、尿素水が加水分解して生じたアンモニア(NH)でNOxを還元反応させ、窒素(N)と水(HO)に分解処理している。
【0004】
その一方、このようなNOxの分解処理においては、選択還元型触媒の劣化が進むにつれて、アンモニアスリップ(アンモニアがNOxを還元させることなく選択還元型触媒を通過する現象)が生じる。このため、選択還元型触媒の劣化(より詳しくはその度合)を推定して、排気へ噴射する尿素水量を減少させることが必要となる。
【0005】
また例えば、ガソリンPHEVの排気浄化装置は、排気の流路に三元触媒が配置され、三元触媒を排気が通過することで、排気中のNOxを窒素に還元して低減させている。しかしながら、三元触媒は、エンジンの冷態始動時は温度が低く、完全には活性化しない。このため、かかる排気浄化装置には、三元触媒の下流側にHCトラップ触媒が配置されている。HCトラップ触媒は、エンジンの冷態始動時に過剰に発生する排気中の炭化水素(HC)を一時的に吸着(トラップ)させ、三元触媒が暖まって活性化した時点で炭化水素を酸化させるとともに、NOxを還元させている。
【0006】
したがって、HCトラップ触媒の劣化が進むにつれて、エンジンの冷態始動時に排気の浄化能力が低下し、その程度によってNOxが大気中に排出されてしまうおそれがある。
【0007】
これらの触媒(選択還元型触媒もしくはHCトラップ触媒)の劣化を推定する方法として、いくつかの方法が挙げられる。例えば、そのうちの一つとして、排気の流路における触媒(一例として、選択還元型触媒)の上流側および下流側にNOxセンサをそれぞれ配置し、これらのセンサで排気中のNOx含有量(NOx濃度)を検出する方法が知られている(特許文献1および特許文献2参照)。この方法では、触媒の上流側と下流側におけるNOxの減少率(浄化率)に基づいて、触媒の劣化が推定されている。
【0008】
しかしながら、NOxセンサは高価であるがゆえ、NOxセンサを配置、増設することなく、触媒の劣化を推定する方法も求められる。
【0009】
このための方法の一つとして、排気の流路における触媒(一例として、選択還元型触媒)の上流側および下流側に温度センサをそれぞれ配置し、これらのセンサで触媒の発熱量を検出する方法が知られている(特許文献3参照)。この方法では、触媒の吸着材(一例として、ゼオライト)が水分の吸着により発熱することを利用し、吸着材の発熱量に基づいて、触媒の劣化が推定されている。選択還元型触媒およびHCトラップ触媒は、吸着材としてゼオライトをそれぞれ含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−242728号公報
【特許文献2】特開2010−270614号公報
【特許文献3】特開2010−275947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一方で、このような温度センサによる選択還元型触媒およびHCトラップ触媒の劣化の推定において、推定直前のこれらの触媒は、水分吸着量が所定値以下であることが前提となる。そうでなければ、触媒の劣化を正確に推定することができない。理想的には、水分吸着量はゼロ(触媒から水分が完全に失われている状態)であることが好ましい。
【0012】
したがって、かかる触媒の劣化の推定では、劣化推定される際の触媒の水分吸着量を確実に所定値以下とすることが求められる。
【0013】
本発明は、これを踏まえてなされたものであり、その目的は、触媒を用いた排気浄化装置において、該触媒の劣化の推定精度の向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の排気浄化装置は、内燃機関と、内燃機関により駆動されて発電する発電機と、発電機にて発電された電力を貯蓄するバッテリと、バッテリから供給される電力で駆動する電動機とを備えた車両に搭載される。かかる排気浄化装置は、内燃機関を稼働させて走行する内燃機関走行モードと、内燃機関を停止させるとともに電動機を稼働させて走行する電動機走行モードとを切り替える走行モード切替部と、内燃機関の排気通路に配置されて排気を浄化する触媒と、内燃機関走行モード中に排気通路に流れる排気の温度を上昇させるよう内燃機関を制御して、触媒の水分吸着量を減少させる内燃機関制御部と、触媒の上昇温度に基づいて触媒の劣化を推定する劣化推定部と、走行モード切替部により内燃機関走行モードから電動機走行モードに切り替えられてから電動機走行モードが継続されている間の時間を測定する時間測定部と、時間測定部により測定された測定時間に基づいて、触媒の水分吸着量を推定する水分推定部と、内燃機関制御部により触媒の水分吸着量が減少され、走行モード切替部により内燃機関走行モードから電動機走行モードに切り替えられてからの触媒の温度が所定値以下であるときに、水分推定部により推定された触媒の水分吸着量に基づいて、触媒の劣化が推定可能な状態であるか否かを判定する劣化推定可否判定部とを備える。劣化推定部は、電動機走行モードから内燃機関走行モードに切り替えられて内燃機関が始動した際に、劣化推定可否判定部の判定結果に基づいて、触媒の劣化推定を実行する。
【0016】
また、内燃機関制御部は、排気温度を所定温度以上に保った状態で、所定時間以上に亘って連続して内燃機関を稼働させて、触媒に吸着されている水分を所定量まで蒸発させる。
【0017】
そして、内燃機関制御部は、発電機を強制的に駆動して発電させることで、所定時間以上に亘って連続して内燃機関を稼働させる。
【0018】
触媒の劣化推定が所定期間に亘って実行されていない場合、走行モード切替部は、触媒の温度が所定温度以下になるまで電動機走行モードを維持させる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の排気浄化装置によれば、触媒の劣化の推定精度の向上を図ることができる。具体的には、触媒が推定可能な状態となっている場合にのみ、劣化推定を行うことで、触媒の劣化を適正に推定することが可能となり、結果として、推定の精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1の実施形態に係る排気浄化装置の概略構成を示すブロック図。
図2】本発明の第1の実施形態に係る排気浄化装置における選択還元型触媒の吸着材(ゼオライト)の水分吸着量と発熱量との関係を示す図。
図3】本発明の第1の実施形態に係る排気浄化装置における内燃機関(ディーゼルエンジン)の停止時間と、選択還元型触媒の水分吸着量との関係を示す図。
図4】本発明の第1の実施形態に係る排気浄化装置において、発熱しない触媒担体の温度推定モデルおよび選択還元型触媒の内燃機関(ディーゼルエンジン)の冷態始動後における温度変化の態様を示す図。
図5】本発明の第1の実施形態に係る排気浄化装置において、選択還元型触媒の水分吸着量と、内燃機関(ディーゼルエンジン)の冷態始動時における選択還元型触媒の発熱量との関係を示す図。
図6】本発明の第1の実施形態に係る排気浄化装置において、制御装置によって行われる制御(選択還元型触媒の劣化推定)フロー図。
図7】本発明の第1の実施形態に係る排気浄化装置において、制御装置によって行われる劣化推定可否判定処理の制御フロー図。
図8】本発明の第1の実施形態に係る排気浄化装置において、制御装置によって行われる劣化推定可否判定処理の制御フロー図(図7の続き)。
図9】本発明の第1の実施形態に係る排気浄化装置において、制御装置によって行われる劣化推定処理の制御フロー図。
図10】本発明の第1の実施形態に係る排気浄化装置において、選択還元型触媒の劣化推定可否判定処理から劣化推定処理までのタイムチャートの一例を示す図。
図11】本発明の第2の実施形態に係る排気浄化装置の概略構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態に係る排気浄化装置について、図1から図11を参照して説明する。本実施形態の排気浄化装置は、内燃機関、例えば車両に搭載されたディーゼルエンジンもしくはガソリンエンジンの排気を浄化する装置である。本実施形態の排気浄化装置が搭載される車両は、内燃機関と電動機とを組み合わせて駆動力を得るようにしたハイブリッド自動車、例えばプラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)である。具体的には、内燃機関としてディーゼルエンジンが搭載されたディーゼルPHEV、ガソリンエンジンが搭載されたガソリンPHEVのいずれにも適用可能である。なお、これらの車両は、自家用の乗用自動車、あるいはトラックやバスなどの事業用自動車のいずれであってもよく、用途や車種は特に問わない。
【0022】
図1は、第1の実施形態に係る排気浄化装置1の概略構成を示すブロック図である。本実施形態に係る車両は、内燃機関としてディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)2が搭載されたディーゼルPHEVである。図1に示すように、排気浄化装置1は、エンジン2の燃焼室21から排出される排気を浄化する構成となっている。
【0023】
エンジン2の燃焼室21には、吸気弁22を開いて吸気通路3aから吸気が吸入される。燃焼室21への吸気量は、吸気絞り弁23の開閉によって調整される。次いで、加熱圧縮された吸気に燃料噴射ノズル(燃料インジェクタ)24から燃料(軽油)が噴射されると、燃料が発火し、空気と燃料を含む混合気が燃焼室21で燃焼する。混合気の燃焼により、燃焼室21内でピストン25が往復運動し、ピストン25に連結されたクランクシャフト26が回転する。燃焼後の混合気(排気)は、排気弁27を開いて燃焼室21から排気通路3bを通して排出され、排気浄化装置1で浄化された後に大気中へ放出される。
【0024】
エンジン2は、排気通路3bから分岐して排気を燃焼室21へ循環させる排気循環路3cを有している。循環気(EGRガス)は、排気循環路3cに設けられたEGRクーラ(図示省略)などを経由し、EGR弁(図示省略)の開閉によって吸気通路3aの最下流などに導入される。また、吸気通路3aには、エアクリーナ(図示省略)、ターボチャージャ4、インタークーラ(図示省略)などを経由し、吸気絞り弁23の上流に吸気(新気)が供給される。
【0025】
また、車両には、エンジン2に加え、駆動力を生じさせる動力源として電動機(以下、モータという)5が備えられている。モータ5は、バッテリ(以下、駆動用バッテリという)6から供給される電力で駆動する。駆動用バッテリ6は、運転者のアクセルペダル(図示省略)の開度に応じて、モータ5へ電力を供給する。アクセルペダルの開度は、アクセルペダルに設けられたアクセル開度センサ(図示省略)によって検出される。モータ5と駆動用バッテリ6は、インバータおよびDCDCコンバータ(いずれも図示省略)を介して接続されている。なお、モータ5は、回生時には発電機として機能する。回生時に発電された電気は、駆動用バッテリ6に充電される。
【0026】
駆動用バッテリ6は、1つもしくは複数の電池パック(図示省略)を備えている。電池パックは、複数の電池(セル)、例えばリチウムイオン電池などの二次電池を直列に並べて構成されている。駆動用バッテリ6は、所定の充電ケーブルを充電口(いずれも図示省略)に接続して家庭用電源から充電される。また、駆動用バッテリ6は、回生時にモータ5にて発電された電力、あるいは発電機(以下、ジェネレータという)7にて発電された電力を貯蓄する。
【0027】
ジェネレータ7は、例えば、駆動用バッテリ6の充電率(SOC:State Of Charge)が低下した場合、エンジン2により駆動されて発電する。ジェネレータ7の入力軸(図示省略)は、エンジン2のクランクシャフト26に連結されている。エンジン2が稼働してクランクシャフト26が回転すると、これに伴ってジェネレータ7の入力軸が回転する。これにより、入力軸に取り付けられたロータがステータ(いずれも図示省略)に対して回転し、ジェネレータ7が発電する。ジェネレータ7とエンジン2は、変速比が一定となるように接続されている。なお、ジェネレータ7により発電された電気は、駆動用バッテリ6に貯蓄(充電)されるだけでなく、モータ5へも供給可能となっている。
【0028】
エンジン2と駆動輪8の車軸8aとの間には、クラッチ9が設けられている。クラッチ9は、エンジン2から生じる駆動力の駆動輪8への伝達を断接する。クラッチ9を開いた場合、例えばエンジン2の駆動力を駆動輪8に伝達することなく、ジェネレータ7のみに伝達することができる。すなわち、運転者のアクセルペダルの開度(要求トルク)とは無関係に、ジェネレータ7で発電させるためにのみ、エンジン2を稼働させることが可能となっている。
【0029】
排気浄化装置1は、排気通路3bに設けられており、第1の浄化装置1aと、第2の浄化装置1bと、還元剤添加部(還元剤添加装置)1cとを含んで構成されている。これらの浄化装置1a,1bは、排気通路3bにおいて第1の浄化装置1aが上流側、第2の浄化装置1bが下流側にそれぞれ配置されている。還元剤添加装置1cは、第1の浄化装置1aと第2の浄化装置1bの間に配置され、第2の浄化装置1bの上流で排気中に還元剤を添加している。
【0030】
第1の浄化装置1aは、本体部11と、酸化触媒12と、排気フィルタ(例えば、ディーゼルパティキュレートフィルタ)13とを備えている。本体部11は、排気を通流させる通気路11aを内部に有する略筒状の構造体であり、燃焼室21と繋がる排気通路3bの途中に配置され、排気通路3bの一部を構成している。酸化触媒12と排気フィルタ13は、燃焼室21から排出された排気に含まれる微粒子(Particulate Matter;以下、PMという)を除去して排気を浄化するための部材であり、酸化触媒12を排気の流れの上流側、排気フィルタ13を下流側に位置付けてそれぞれ通気路11aに配置されている。PMは、炭素成分(Carbon)と可溶性有機成分(Soluble Organic Fraction)を主な成分とする粒子状物質の総称である。なお、酸化触媒12は、排気中の被酸化成分を酸化する。排気フィルタ13は、排気中のPMを捕集して燃焼、除去する。
【0031】
第2の浄化装置1bは、本体部14と、選択還元型触媒15と、第1および第2の温度測定部16,17とを備えている。本体部14は、排気を通流させる通気路14aを内部に有する略筒状の構造体であり、本体部11とともに排気通路3bの一部を構成している。通気路14aは、本体部11の通気路11aよりも下流側の排気通路3bであり、酸化触媒12および排気フィルタ13を通過して浄化された排気を通流させる。
【0032】
選択還元型触媒15は、例えばアンモニア(NH)などの極性分子を選択的に吸着し、吸着したアンモニアなどを還元剤として排気中の窒素化合物(以下、NOxという)を還元する触媒である。この場合、選択還元型触媒15は、アンモニア(NH)で排気中のNOxを還元反応させ、窒素(N)と水(HO)に分解処理して低減させる。還元剤であるアンモニアは、還元剤添加装置1cから排気に添加された尿素水が加水分解されて生成される。
【0033】
選択還元型触媒15と接することで、排気が浄化される。本実施形態では一例として、選択還元型触媒15は、ゼオライトで構成された吸着材を備えている。ゼオライトとしては、例えば金属イオン(CuやFeなど)を含むゼオライト、つまりルイス酸点を有するゼオライトを適用できる。このようなゼオライトが粉末状やペースト状にされ、網状や枠状などの担体に塗布され、選択還元型触媒15が構成されている。ゼオライトは、雰囲気(大気や排気)中から水分を吸着して発熱する性質を有する。図2には、ゼオライトの水分吸着量と発熱量との関係を示す。図2に示すように、ゼオライトは、水分吸着量に比例して発熱量が増大する。
【0034】
第1および第2の温度測定部16,17は、排気の温度を測定するためのセンサである。これらの温度測定部16,17は、排気通路3bにおいて第1の温度測定部16が選択還元型触媒15よりも上流側、第2の温度測定部17が下流側にそれぞれ配置されている。本実施形態では、第1の温度測定部16が通気路14aの入口近傍、第2の温度測定部17が通気路14aの出口近傍で、それぞれ排気温度を測定している。したがって、第2の温度測定部17が測定する排気温度は、選択還元型触媒15の温度(より具体的にはNOxを還元反応させた選択還元型触媒15の温度)にほぼ相当する。このため、選択還元型触媒15自体の温度を直接的に測定する温度センサを別途設けなくとも、選択還元型触媒15の温度を間接的に測定することができる。なお、以下の説明では、第1の温度測定部16を入口温度測定部16、第2の温度測定部17を出口温度測定部17という。
【0035】
還元剤添加装置1cは、選択還元型触媒15と接する排気に還元剤(本実施形態では、アンモニアに加水分解される尿素水)を添加する装置である。還元剤添加装置1cは、尿素水噴射ノズル(尿素水インジェクタ)18と、尿素水タンク19を備えている。尿素水インジェクタ18は、排気中に尿素水をミスト状に噴射(噴霧)する。尿素水インジェクタ18は、第1の浄化装置1aと第2の浄化装置1bとを繋ぐ排気通路3bの内部へ、噴射口を向けて配置されている。具体的には、排気通路3bにおいて、選択還元型触媒15の上流側、さらには入口温度測定部16よりも上流側に尿素水インジェクタ18が配置されている。
【0036】
尿素水は、尿素水タンク19に蓄えられ、尿素水タンク19から供給路を通して尿素水インジェクタ18に供給されている。なお、尿素水インジェクタ18の噴射口の位置、換言すれば、排気中への尿素水の噴射位置は、噴射された尿素水が加水分解されてアンモニアを生じさせるまでに必要な距離以上に設定することが好ましい。これにより、尿素水インジェクタ18から噴射された尿素水は、選択還元型触媒15に到達するまでに加水分解され、アンモニアを生じさせる。
【0037】
また、本実施形態において、排気浄化装置1は、さらにNOx濃度測定部1dを含んで構成されている。NOx濃度測定部1dは、排気通路3bにおける排気中のNOxの濃度を測定するセンサである。NOx濃度測定部1dは、排気通路3bにおいて尿素水インジェクタ18の噴射口よりも上流側に配置されている。本実施形態では、通気路11aの出口から尿素水インジェクタ18の噴射口に至るまでの間で、NOx濃度測定部1dがNOx濃度を測定している。NOx濃度測定部1dによって測定された排気のNOx濃度に基づいて、尿素水インジェクタ18から排気中に噴射される尿素水の噴射量が調整されている。例えば、NOx濃度測定部1dによって測定されたNOx濃度が上昇した場合、生成されるアンモニア(還元剤)が増すように、尿素水インジェクタ18から排気中への尿素水の噴射量を増加させる。一方、NOx濃度測定部1dによって測定されたNOx濃度が低下した場合、生成されるアンモニアが減るように、尿素水の噴射量を減少させる。
【0038】
排気浄化装置1は、制御装置10によってその動作が制御されている。制御装置10は、CPU、メモリ、入出力回路、タイマなどを備えたマイクロコンピュータとして構成されている。制御装置10は、各種データを入出力回路により読み込み、メモリから読み出したプログラムを用いてCPUで演算処理する。そして、処理結果に基づいて、制御装置10は、第1の浄化装置1a、第2の浄化装置1b(入口温度測定部16および出口温度測定部17)、還元剤添加装置1c(尿素水インジェクタ18)、およびNOx濃度測定部1dの動作をそれぞれ制御する。この場合、制御装置10は、例えばエンジンコントロールユニット(ECU)に含めた構成とすることができる。あるいは、ECUとは別途に、排気浄化装置1の一部として制御装置10を構成してもよい。
【0039】
また、制御装置10は、モータ5、駆動用バッテリ6、ジェネレータ7、およびクラッチ9の動作をそれぞれ制御する。これにより、制御装置10は、車両の運転状況(一例として、運転者によるアクセルペダルの開度など)に応じて、例えば3つの走行モードを適宜切り替えて、車両(ディーゼルPHEV)を走行させる。
【0040】
第1の走行モードは、エンジン2を停止させるとともに、モータ5を稼働させて走行する電動機走行モード(以下、EV走行モードという)である。すなわち、EV走行モードは、モータ5のみを動力源として駆動輪8を駆動させるモードである。EV走行モードは、例えば市街地を走行する通勤時や買物時などのような日常の走行時のほとんどで用いられる。EV走行モードでは、エンジン2は稼働せず停止され、モータ5のみが稼働されている。
【0041】
第2の走行モードは、モータ5を動力源とするとともに、ジェネレータ7をモータ5の電力供給源(発電機)として用いるモード(以下、シリーズ走行モードという)である。シリーズ走行モードは、駆動用バッテリ6の充電率(SOC:State Of Charge)に基づいて、バッテリ残量が低下した場合や、加速時など高トルクを必要とする場合に用いられる。シリーズ走行モードでは、駆動用バッテリ6とジェネレータ7で発電された電力とにより、モータ5を駆動させる。すなわち、シリーズ走行モードでは、クラッチ9を開き、ジェネレータ7でエンジン2を始動させる。その後、エンジン2の駆動力によりジェネレータ7で発電し、駆動用バッテリ6を充電するとともに、モータ5に給電する。シリーズ走行モードでは、モータ5が常時稼働され、エンジン2は適宜稼働されている。
【0042】
第3の走行モードは、エンジン2とモータ5の双方を動力源とするモード(以下、パラレル走行モードという)である。パラレル走行モードは、例えば車両が高速道路を走行する場合などのように、エンジン2の稼働効率のよい高速走行で用いられる。パラレル走行モードでは、クラッチ9を閉じてエンジン2の駆動力で車両が走行し、モータ5が駆動力をアシストする。パラレル走行モードでは、エンジン2およびモータ5の双方が稼働されている。
【0043】
すなわち、制御装置10は、エンジン2の稼働効率のよい高速走行では、走行モードをパラレル走行モードとし、それ以外の中低速走行では、駆動用バッテリ6のSOCやトルク要求などに基づいて走行モードをEV走行モードもしくはシリーズ走行モードとする。なお、シリーズ走行モードおよびパラレル走行モードは、いずれもモータ5に加えて、エンジン2を稼働させて走行する内燃機関走行モード(以下、HV走行モードという)に相当する。
【0044】
本実施形態において、制御装置10は、選択還元型触媒15の劣化を推定する。一例として、制御装置10は、EV走行モードからHV走行モードに切り替えられてエンジン2が始動した際に、選択還元型触媒15の劣化が推定可能な状態であるか否かに基づいて、選択還元型触媒15の劣化推定を実行する。選択還元型触媒15の劣化が推定可能な状態であるか否かは、エンジン2が停止された後、再始動されるまでの間における選択還元型触媒15(より具体的には、その吸着材)の水分吸着量と、エンジン2の始動(再始動)時の選択還元型触媒15の発熱量との関係に基づいて判定する。
【0045】
これらの具体的な制御を実行するため、制御装置10は、内燃機関制御部10aと、時間測定部10bと、水分推定部10cと、劣化推定可否判定部10dと、劣化推定部10eと、走行モード切替部10fとを含んで構成されている。内燃機関制御部10a、時間測定部10b、水分推定部10c、劣化推定可否判定部10d、劣化推定部10e、および走行モード切替部10fは、例えばプログラムとしてメモリにそれぞれ格納されている。なお、これらのプログラムをクラウド上に格納し、制御装置10をクラウドと適宜通信させて所望のプログラムを利用可能とする構成であってもよい。この場合、制御装置10は、クラウドとの通信モジュールなどを備えた構成とする。また、内燃機関制御部10a、時間測定部10b、水分推定部10c、劣化推定可否判定部10d、劣化推定部10e、および走行モード切替部10fは、例えばそれぞれ独立したマイクロコンピュータとして構成してもよい。
【0046】
内燃機関制御部10aは、エンジン2を制御して選択還元型触媒15の水分吸着量を減少させる。その際、内燃機関制御部10aは、出口温度測定部17により測定された排気温度に基づいて、エンジン2の稼働を制御する。出口温度測定部17が測定する排気温度は、選択還元型触媒15の温度にほぼ相当するため、内燃機関制御部10aは、選択還元型触媒15の温度に基づいて、選択還元型触媒15の水分吸着量を所定量(以下、基準吸着量という)以下まで減少させる。基準吸着量は、選択還元型触媒15の水分吸着量が飽和水分吸着量に達することなく、選択還元型触媒15がまだ十分に水分を吸着可能な状態である最小水分吸着量として設定されている。飽和水分吸着量は、選択還元型触媒15が吸着可能な最大水分量である。飽和水分吸着量に達すると、選択還元型触媒15は、それ以上、水分を吸着することができなくなる。本実施形態では一例として、基準吸着量をほぼゼロ(選択還元型触媒15から水分がほぼ完全に蒸発している状態)に設定している。基準吸着量をゼロに設定した場合、選択還元型触媒15は、飽和水分吸着量に相当する水分吸着の余力を有することになる。
【0047】
内燃機関制御部10aは、選択還元型触媒15の水分吸着量を基準吸着量以下まで減少させるために、選択還元型触媒15の温度を上昇させる。このため、内燃機関制御部10aは、HV走行モード中に排気通路3b(より具体的には、通気路14a)に流れる排気の温度を上昇させるようにエンジン2を制御する。この場合、内燃機関制御部10aは、所定条件(以下、水分蒸発モードという)でエンジン2を稼働させて、選択還元型触媒15に吸着されている水分を蒸発させる。
【0048】
水分蒸発モードにおいて、内燃機関制御部10aは、排気温度を所定温度以上に保った状態で、所定時間以上に亘って連続してエンジン2を稼働させる。本実施形態では一例として、排気温度を150℃以上に保った状態で10分間以上、エンジン2を稼働させる。このような水分蒸発モードでエンジン2を稼働させることで、選択還元型触媒15を150℃以上の排気が通過する。これにより、選択還元型触媒15から水分を蒸発させ、選択還元型触媒15の水分吸着量をほぼゼロとすることが可能となる。すなわち、エンジン2の始動後、エンジン2を停止させる前に水分蒸発モードで稼働させることで、車両が走行している間(アイドリング時も含む)に選択還元型触媒15に吸着した水分をほぼ完全に蒸発させることができる。
【0049】
本実施形態では一例として、車両の走行モードがHV走行モードに切り替わった際、内燃機関制御部10aは、エンジン2を水分蒸発モードで稼働させるべく、ジェネレータ7を強制的に駆動させることが可能となっている。これにより、ジェネレータ7がエンジン2を始動し、エンジン2の稼働によってジェネレータ7が発電を開始する。すなわち、内燃機関制御部10aは、ジェネレータ7を強制的に駆動させることで、所定時間(一例として、10分間)以上に亘って連続してエンジン2を稼働させる。したがって、運転者のアクセルペダルの開度(操作)とは関係なく、エンジン2を自由に制御することができる。例えば、エンジン2の回転数を上げて、水分蒸発モードを最優先としてエンジン2を稼働させることが可能となる。また、運転者のアクセルペダルの開度(操作)によって要求トルク(出力)を発生させ、その後は水分蒸発モードでエンジン2を稼働させるために、HV走行モードを継続させることが可能となる。
【0050】
水分蒸発モードにおいて、排気温度が150℃以上に保たれていることは、入口温度測定部16により測定される排気温度によって内燃機関制御部10aが確認する。なお、水分蒸発モードにおける排気温度の所定温度(一例として150℃)は、後述する劣化推定可否判定部10dが選択還元型触媒15の劣化の推定可否判定に用いる高温閾値に対応している。
【0051】
排気温度を所定温度(一例として150℃)以上に保つためには、例えば、燃料のポスト噴射や吸気絞りなどを行えばよい。この場合、内燃機関制御部10aは、燃料インジェクタ24や吸気絞り弁23などの動作を制御することで、通気路14aへの燃料の送り量や燃焼室21への吸気量などを適宜調整する。また例えば、内燃機関制御部10aは、EGR弁などの動作を制御し、EGRガスを適宜導入して酸素濃度の調整を行う。なお、内燃機関制御部10aは、エンジン2の稼働時間を測定する独自のタイマ機能を有していてもよいし、このようなタイマ機能を時間測定部10bに持たせてもよい。かかるタイマ機能により、内燃機関制御部10aは、所定時間(一例として10分間)以上、エンジン2を稼働させる。
【0052】
時間測定部10bは、後述する走行モード切替部10fにより車両の走行モードが電動機走行モード(EV走行モード)に切り替えられてから、EV走行モードが継続されている間の時間を測定する。したがって、時間測定部10bは、エンジン2がEV走行モードで停止された後、HV走行モードで再始動されるまでの時間を測定する。すなわち、時間測定部10bが測定する時間は、直近においてエンジン2の停止状態が継続されていた時間(以下、エンジン2の停止時間という)に相当する。例えば、時間測定部10bは、直近のエンジン2の停止時刻から、その後のエンジン2の再始動時刻までの経過時間(ソーク時間)を算出する。なお、エンジン2の停止時間には、アイドリングがストップされていた時間も含まれる。
【0053】
水分推定部10cは、時間測定部10bにより測定された測定時間に基づいて、選択還元型触媒15の水分吸着量を推定する。上述したように、ゼオライトを吸着材とする選択還元型触媒15は、アンモニアとNOxとの還元反応を促進させることに加え、雰囲気(大気や排気)中の水分を吸着させる性質を有する。すなわち、水分推定部10cが推定する水分吸着量は、直近においてエンジン2の停止状態が継続されていた間(つまりエンジン2の停止時間)に、選択還元型触媒15が雰囲気中から吸着させた水分量(以下、選択還元型触媒15の自然水分吸着量という)に相当する。
【0054】
図3には、エンジン2の停止時間と、選択還元型触媒15の自然水分吸着量との関係を示す。図3に示すように、選択還元型触媒15は、エンジン2の停止時間が短いほど自然水分吸着量が少ない。そして、エンジン2の停止時間が長くなるにつれて、急激に自然水分吸着量が増加し、その後は緩やかに自然水分吸着量が飽和水分吸着量に近づいていく。水分推定部10cは、図3に示すテーブルを参照し、時間測定部10bにより測定されたエンジン2の停止時間に対応する選択還元型触媒15の自然水分吸着量を推定する。図3に示すテーブルは、制御装置10のメモリに格納され、水分推定部10cによって適宜参照される。
【0055】
なお、本実施形態では、選択還元型触媒15の自然水分吸着量を推定する際、エンジン2の停止時間のみを要素としているが、この他に、例えば湿度や気圧などを要素として加えてもよい。これにより、例えば天候や停車場所などによる選択還元型触媒15の自然水分吸着量の相違を加味することができ、自然水分吸着量の推定精度をより高めることが可能となる。
【0056】
劣化推定可否判定部10dは、水分推定部10cにより推定された選択還元型触媒15の自然水分吸着量に基づいて、選択還元型触媒15の劣化を推定するか否か、換言すれば、選択還元型触媒15の劣化が推定可能な状態であるか否かを判定する。
【0057】
選択還元型触媒15の劣化の推定可否判定にあたって、劣化推定可否判定部10dは、選択還元型触媒15の自然水分吸着量を所定値(以下、吸着量閾値という)と比較する。吸着量閾値は、後続する劣化推定部10eで選択還元型触媒15の劣化を推定することが可能な最低限の発熱量を生じさせ得る水分量を吸着可能な状態にある選択還元型触媒15の自然水分吸着量の値として設定されている。つまり、吸着量閾値は、選択還元型触媒15の水分吸着の余力が十分であるかを示す指標である。
【0058】
したがって、かかる余力(飽和水分吸着量に達するまでに吸着可能な水分量)によって生ずる発熱量に基づいて、劣化推定部10eで選択還元型触媒15の劣化推定を実行することが可能となる。吸着量閾値は、選択還元型触媒15の劣化推定を行うことが可能な最低限の発熱量を生じさせる自然水分吸着量を、飽和水分吸着量から減じた値として算出できる。吸着量閾値は、理想的にはゼロ(選択還元型触媒15は、飽和水分吸着量に相当する水分吸着の余力を有する状態)である。
【0059】
また、かかる推定可否判定にあたって、劣化推定可否判定部10dは、エンジン2の排気温度、具体的には出口温度測定部17により測定された排気温度を、2つの所定値(以下、高温閾値と低温閾値という)と比較する。出口温度測定部17が測定する排気温度は、選択還元型触媒15の温度にほぼ相当するため、劣化推定可否判定部10dは、選択還元型触媒15の温度を高温閾値および低温閾値とそれぞれ比較する。高温閾値は、選択還元型触媒15に吸着された水分がほぼ完全に蒸発され、水分吸着量をほぼゼロとすることが可能な所定温度(一例として、150℃)に設定されている。一方、低温閾値は、エンジン2の冷態始動時に想定される選択還元型触媒15の温度として、外気温(一般的には、−10℃から40℃程度)に設定されている。
【0060】
劣化推定可否判定部10dは、内燃機関制御部10aにより、選択還元型触媒15の自然水分吸着量が吸着量閾値以下まで減少された場合、選択還元型触媒15の劣化が推定可能な状態であるか否かを判定する。換言すれば、劣化推定可否判定部10dは、選択還元型触媒15の温度(出口温度測定部17により測定された排気温度)が高温閾値以上となり、その後低温閾値以下となれば、劣化推定部10eによる選択還元型触媒15の劣化の推定が可能と判定する。
【0061】
劣化推定部10eは、選択還元型触媒15の劣化推定を実行する。かかる推定は、後述する走行モード切替部10fにより車両の走行モードが電動機走行モード(EV走行モード)から内燃機関走行モード(HV走行モード)に切り替えられ、エンジン2が始動した際(エンジン2の冷態始動時)に行われる。その際、劣化推定部10eは、劣化推定可否判定部10dによる選択還元型触媒15の劣化推定可否の判定結果に基づいて、選択還元型触媒15の劣化を推定する。すなわち、選択還元型触媒15の劣化の推定が可能と判定された場合、劣化推定部10eは、選択還元型触媒15の劣化を推定し、選択還元型触媒15が排気中のNOxの還元反応に有効に寄与しているか否かを判定する。
【0062】
この場合、劣化推定部10eは、エンジン2の冷態始動時における選択還元型触媒15の発熱量(エンジン2が始動されてから推定時までの発熱量;以下、始動時発熱量という)に基づいて、選択還元型触媒15の劣化を推定する。かかる劣化の推定にあたって、劣化推定部10eは、選択還元型触媒15の温度(出口温度測定部17により測定された排気温度)に対応する選択還元型触媒15の始動時発熱量を推定する。始動時発熱量の推定は、任意の方法によって行うことが可能である。本実施形態では一例として、図4に示すような発熱しない触媒担体の温度推定モデルを用いて、選択還元型触媒15の始動時発熱量を推定する。図4には、発熱しない触媒担体の温度推定モデルおよび選択還元型触媒15のエンジン2の冷態始動後における温度変化の態様を示す。
【0063】
劣化推定部10eは、発熱しない触媒担体の温度推定モデルの温度と、選択還元型触媒15の温度(出口温度測定部17により測定された排気温度)を比較し、その温度差から始動時発熱量を推定する。その際、劣化推定部10eは、図4に示すテーブルを参照し、発熱しない触媒担体の温度推定モデルの温度軌跡と、選択還元型触媒15の温度軌跡との乖離面積により、始動時発熱量を算出する。図4に示すテーブルは、制御装置10のメモリに格納されて、劣化推定部10eによって適宜参照される。
【0064】
図4に示すテーブルにおいて、太線(L1)は、発熱しない担体温度推定モデル、細線(L2)は、選択還元型触媒15が新品時、破線(L3)は、選択還元型触媒15が劣化し始めた状態、一点鎖線(L4)は、選択還元型触媒15の劣化が進んだ状態における温度軌跡の一例をそれぞれ示す。図4に示すように、選択還元型触媒15が新品である場合、選択還元型触媒15は、エンジン2の冷態始動時に排気中のNOxの還元反応を活性化させ、直ちに温度上昇する。一方、選択還元型触媒15が劣化している場合、選択還元型触媒15は、排気中のNOxの還元反応にあまり寄与せず、エンジン2の冷態始動時にほとんど温度上昇しない。
【0065】
なお、選択還元型触媒15を通過する前の排気の温度(入口温度測定部16により測定された排気温度)と、選択還元型触媒15の担体の熱収支は、以下の数式(1)に従う。
【0066】
(ρpc)×(dT/dt) = −h(T−T) …(1)
数式(1)において、ρ:選択還元型触媒15の担体密度、A:選択還元型触媒15の伝熱面積、Cpc:選択還元型触媒15の担体比熱、T:選択還元型触媒15の担体温度、T:選択還元型触媒15の入口側の排気温度、h:伝熱係数である。このうち、ρ,A,Cpc,hは、いずれも定数である。選択還元型触媒15の担体温度(T)は、通気路14aの出口近傍の排気温度として、出口温度測定部17により測定される変数である。選択還元型触媒15の入口側の排気温度(T)は、通気路14aの入口近傍の排気温度として、入口温度測定部16により測定される変数である。
【0067】
そして、推定した始動時発熱量が所定値(以下、劣化指標値という)以下であれば、劣化推定部10eは、選択還元型触媒15が劣化しているものと推定する。
【0068】
図5には、選択還元型触媒15の自然水分吸着量と、選択還元型触媒15の始動時発熱量との関係を示す。図5に示す実線は、選択還元型触媒15が新品時の自然水分吸着量と始動時発熱量の関係、破線は、選択還元型触媒15が劣化した状態の前記両者の関係をそれぞれ示す。図5に示すように、選択還元型触媒15は、自然水分吸着量の値と始動時発熱量の値が反比例している。新品時と比べた場合、劣化した選択還元型触媒15は、自然水分吸着量に関わらず、自然水分吸着量に対応する始動時発熱量が小さい。すなわち、新品時の選択還元型触媒15は、NOxの還元反応を活性化させる一方で、排気中の水分を活発に吸着させるので発熱量も大きくなる。これに対し、劣化した選択還元型触媒15は、NOxの還元反応の活性化にあまり寄与しなくなるとともに、排気中の水分をあまり吸着させなくなるので発熱量が小さくなる。
【0069】
したがって、選択還元型触媒15の劣化指標値は、新品時の始動時発熱量より小さな所定値(図5に示す破線上の値)に設定されている。劣化推定部10eは、図5に示すテーブルを参照し、選択還元型触媒15の自然水分吸着量に対応する始動時発熱量を推定する。これにより、劣化推定部10eは、推定した始動時発熱量が、対応する自然水分吸着量における劣化指標値以下であるかを判定する。なお、選択還元型触媒15の自然水分吸着量は、水分推定部10cにより推定されている。図5に示すテーブルは、制御装置10のメモリに格納され、劣化推定部10eによって適宜参照される。
【0070】
走行モード切替部10fは、エンジン2の稼働とモータ5の稼働をそれぞれ調整して、車両の走行モードを切り替える。本実施形態では一例として、走行モード切替部10fは、EV走行モードとHV走行モードのいずれかに、車両の走行モードを切り替える。
【0071】
例えば、選択還元型触媒15の水分吸着量を基準吸着量(一例として、ほぼゼロ)以下まで減少させるために、エンジン2を水分蒸発モードで稼働させる際、走行モード切替部10fは、車両の走行モードをEV走行モードからHV走行モードに切り替える。
【0072】
また、選択還元型触媒15の温度(出口温度測定部17により測定されているエンジン2の排気温度)を低温閾値(一例として、外気温)以下まで低下させる際、走行モード切替部10fは、走行モードをHV走行モードからEV走行モードに切り替える。その際、劣化推定部10eによる選択還元型触媒15の劣化推定が所定期間に亘って実行されていなければ、走行モード切替部10fは、HV走行モードへの再切替のタイミングを調整し、EV走行モードを維持することができる。例えば、選択還元型触媒15の温度が所定値(低温閾値)以下になるまで、走行モード切替部10fは、EV走行モードを維持する。すなわち、運転者のアクセルペダルの操作とは関係なく、強制的に車両をEV走行モードで走行させ続けることができる。これにより、選択還元型触媒15の温度の低下を促し、車両の走行モードがEV走行モードからHV走行モードに切り替わった際、つまり次回のエンジン2の始動時に、選択還元型触媒15の劣化推定を確実に行うことが可能となる。
【0073】
また、劣化推定部10eが選択還元型触媒15の劣化を推定する際、走行モード切替部10fは、車両の走行モードをEV走行モードからHV走行モードに切り替える。例えば、選択還元型触媒15の温度に対応する選択還元型触媒15の発熱量を推定する際、走行モード切替部10fは、走行モードをEV走行モードからHV走行モードに切り替える。
【0074】
図6から図9には、本実施形態において、排気浄化装置1の制御装置10によって行われる制御(選択還元型触媒15の劣化推定)のフローを示す。以下、図6から図9に示すフローに従って、制御装置10による制御とその作用について説明する。
【0075】
図6に示すように、制御装置10は、選択還元型触媒15の劣化を推定するにあたって、劣化推定可否判定処理(S601)、劣化推定処理(S603)をそれぞれ行う。すなわち、劣化推定可否判定処理は、劣化推定処理に先んじて行われ、劣化推定処理は、劣化推定可否判定処理で劣化推定可能と判定された場合にのみ、行われる(S602)。例えば、制御装置10は、劣化推定可否判定処理で劣化推定可能と判定された場合、フラグ(以下、劣化推定可否判定フラグという)をONに設定する。そして、劣化推定可否判定フラグがONである場合にのみ、制御装置10は、劣化推定処理を行う。
【0076】
劣化推定可否判定処理は、選択還元型触媒15の劣化が推定可能な状態であるか否かを判定するための処理である。図7に示すように、劣化推定可否判定処理にあたっては、前回劣化推定が行われてから今回の車両の走行開始までの走行距離を取得する。この場合、劣化推定可否判定部10dは、例えば、距離計によって計測された前回劣化推定が行われ時点の累積走行距離と、今回の車両の走行開始時点の累積走行距離とを取得し、これらの差分を算出する。そして、劣化推定可否判定部10dは、算出した走行距離を所定値(一例として、5000km)と比較する(S701)。
【0077】
走行距離が所定値以上である場合、劣化推定可否判定部10dは、走行モード切替部10fに車両の走行モードをEV走行モードからHV走行モードに切り替えさせる(S702)。走行モード切替部10fは、クラッチ9を開き、ジェネレータ7でエンジン2を始動させる。その後、エンジン2の駆動力によりジェネレータ7で発電し、駆動用バッテリ6を充電するとともに、モータ5に給電する。このような走行モードの切替は、運転者のアクセルペダルの操作によって行われる場合と、アクセルペダルの操作とは無関係に強制的に行われる場合の双方を含む。また、走行モード切替部10fは、走行モードを切り替えた旨を、劣化推定可否判定部10dに通知する。
【0078】
走行モードを切り替えた後、走行モード切替部10fは、HV走行モードでの走行を継続させる(S703)。その際、走行モード切替部10fは、HV走行モードからEV走行モードへの切替(再切替)のタイミングを調整し、HV走行モードによる走行時間を延長する。したがって、始動されたエンジン2は、停止されることなく、継続して稼働される。例えば、通常であればEV走行モードに切り替える状況であっても、走行モード切替部10fは、HV走行モード(一例として、シリーズ走行モード)を継続し、エンジン2を継続して稼働させる。これにより、エンジン2からの排気によって、選択還元型触媒15の温度を上昇させ、選択還元型触媒15の水分吸着量を減少させることが可能となる。本実施形態では、HV走行モードに切り替えられた場合、車両を走行させる(車輪を駆動させる)ためではなく、ジェネレータ7で発電して駆動用バッテリ6を充電するためにエンジン2を稼働させ続けることができる。このため、運転者のトルク要求に関わらず、選択還元型触媒15の水分吸着量を減少させることが可能となる。
【0079】
そして、このようにエンジン2が稼働されている状態で、選択還元型触媒15の水分吸着量を所定値(基準吸着量;一例として、ほぼゼロ)以下まで減少させる。かかる減少処理は、劣化推定可否判定部10dから指令を受け、内燃機関制御部10aが行う。内燃機関制御部10aは、エンジン2を水分蒸発モードで稼働させ、水分蒸発モードでのエンジン2の稼働が正常になされたか否かを判定する(S704)。判定結果は、劣化推定可否判定部10dに通知される。
【0080】
水分蒸発モードでのエンジン2の稼働が正常になされた場合、選択還元型触媒15の劣化が推定可能な状態であるものとして、以降の劣化推定可否判定処理を引き続き行う。この場合、劣化推定可否判定部10dは、一例として、劣化推定可否判定フラグをONに設定する。またこの場合、選択還元型触媒15の水分吸着量は、基準吸着量(一例として、ほぼゼロ)以下まで減少されている。すなわち、選択還元型触媒15は、吸着されていた水分がほぼ完全に蒸発され、水分吸着量がほぼゼロの状態となっている。
【0081】
これに対し、水分蒸発モードでのエンジン2の稼働が正常になされなかった場合、劣化推定可否判定部10dは、選択還元型触媒15の劣化が推定可能な状態ではないものとして、以降の劣化推定可否判定処理、および劣化推定処理を行わない。この場合、劣化推定可否判定部10dは、一例として、劣化推定可否判定フラグをOFFに設定する。水分蒸発モードでのエンジン2の稼働が正常になされなかった場合としては、例えば排気温度を所定温度(一例として、150℃)以上に保った状態で、所定時間(一例として、10分間)以上、エンジン2を稼働させられなかった場合などが該当する。
【0082】
選択還元型触媒15の水分吸着量が基準吸着量(一例として、ほぼゼロ)以下まで減少された後、劣化推定可否判定部10dは、走行モード切替部10fに車両の走行モードをHV走行モードからEV走行モードに切り替えさせる(S705)。走行モード切替部10fは、クラッチ9を開いた状態でエンジン2を停止させる。本実施形態では一例として、走行モード切替部10fは、車両の走行モードをシリーズ走行モードからEV走行モードに切り替える。このような走行モードの切替は、運転者のアクセルペダルの操作によって行われる場合と、アクセルペダルの操作とは無関係に強制的に行われる場合の双方を含む。走行モード切替部10fは、走行モードを切り替えた旨を、劣化推定可否判定部10dに通知する。
【0083】
走行モードを切り替えた後、走行モード切替部10fは、EV走行モードによる走行を継続させる(S706)。その際、走行モード切替部10fは、EV走行モードからHV走行モードへの切替(再切替)のタイミングを調整し、EV走行モードによる走行時間を延長する。したがって、停止されたエンジン2は、再始動されることなく、継続して停止される。例えば、通常であればHV走行モード(一例として、シリーズ走行モード)に切り替える状況であっても、走行モード切替部10fは、EV走行モードを継続し、エンジン2を継続して停止させる。ただし、アクセルペダルが床まで踏み込まれ、急加速を要する(トルク要求が大きい)場合などは、安全性(危険回避)を優先させて通常通りHV走行モードへ切り替える。EV走行モードを継続させることで、選択還元型触媒15の温度を空冷により低下させることが可能となる。なお、選択還元型触媒15の温度を急速に低下させる場合、例えば、走行モード切替部10fは、次のような制御を行ってもよい。この場合、走行モード切替部10fは、クラッチ9を開いた状態で、ジェネレータ7でエンジン2を始動させる。その後、燃料をカットした状態でエンジン2を稼働させ、排気通路3bに新気を送出させる。これにより、送出された新気によって、選択還元型触媒15が冷却される。
【0084】
なお、図7に示すS701において、走行距離が所定値(一例として、5000km)に達していない場合、劣化推定可否判定部10dは、走行モード切替部10fに車両の走行モードをEV走行モードからHV走行モード(一例として、シリーズ走行モード)に切り替えさせる(S707)。ただし、この場合の走行モードの切替は、運転者のアクセルペダルの操作に基づいて行われ、アクセルペダルの操作とは無関係に強制的に行われるものではない。走行モード切替部10fは、走行モードを切り替えた旨を、劣化推定可否判定部10dに通知する。
【0085】
このようにエンジン2が稼働されている状態で、S704と同様に、選択還元型触媒15の水分吸着量を所定値(基準吸着量;一例として、ほぼゼロ)まで減少させる。内燃機関制御部10aは、エンジン2を水分蒸発モードで稼働させ、水分蒸発モードでのエンジン2の稼働が正常になされたか否かを判定する(S708)。判定結果は、劣化推定可否判定部10dに通知される。
【0086】
水分蒸発モードでのエンジン2の稼働が正常になされた場合、選択還元型触媒15の劣化が推定可能な状態であるものとして、以降の劣化推定可否判定処理を引き続き行う。この場合、劣化推定可否判定部10dは、一例として、劣化推定可否判定フラグをONに設定する。
【0087】
これに対し、水分蒸発モードでのエンジン2の稼働が正常になされなかった場合、劣化推定可否判定部10dは、選択還元型触媒15が劣化を推定可能な状態ではないものとして、以降の劣化推定可否判定処理、および劣化推定処理を行わない。この場合、劣化推定可否判定部10dは、一例として、劣化推定可否判定フラグをOFFに設定する。
【0088】
選択還元型触媒15の水分吸着量が基準吸着量(一例として、ほぼゼロ)以下まで減少された後、劣化推定可否判定部10dは、走行モード切替部10fに車両の走行モードをHV走行モードからEV走行モードに切り替えさせる(S709)。ただし、この場合の走行モードの切替は、運転者のアクセルペダルの操作に基づいて行われ、アクセルペダルの操作とは無関係に強制的に行われるものではない。走行モード切替部10fは、走行モードを切り替えた旨を、劣化推定可否判定部10dに通知する。
【0089】
そして、このようにEV走行モードで車両が走行されている状態で、劣化推定可否判定部10dは、図8に示すように、選択還元型触媒15の温度を所定値(低温閾値;一例として、外気温)と比較する(S710)。選択還元型触媒15の温度は、エンジン2の排気温度として、出口温度測定部17により測定されている。出口温度測定部17は、測定した排気温度を劣化推定可否判定部10dに通知している。
【0090】
選択還元型触媒15の温度が所定値(低温閾値)を超えている場合、劣化推定可否判定部10dは、選択還元型触媒15の劣化が推定可能な状態ではないものとして、以降の劣化推定可否判定処理、および劣化推定処理を行わない。この場合、劣化推定可否判定部10dは、一例として、劣化推定可否判定フラグをOFFに設定する。
【0091】
これに対し、選択還元型触媒15の温度が所定値(低温閾値)以下である場合、劣化推定可否判定部10dは、水分推定部10cに選択還元型触媒15の水分吸着量を推定させる(S711)。水分推定部10cは、エンジン2の停止時間に選択還元型触媒15が雰囲気(大気や排気)中から吸着させた水分量(自然水分吸着量)を推定する。エンジン2の停止時間は、直近のエンジン2の停止時刻から、その後のエンジン2の再始動時刻までの経過時間(ソーク時間)として、時間測定部10bにより算出されている。時間測定部10bは、算出したエンジン2の停止時間を水分推定部10cに通知している。水分推定部10cは、図3に示すテーブルを参照して、エンジン2の停止時間に対応する選択還元型触媒15の自然水分吸着量を推定する。
【0092】
選択還元型触媒15の自然水分吸着量が推定されると、劣化推定可否判定部10dは、推定された自然水分吸着量を所定値(吸着量閾値)と比較する(S712)。これにより、劣化推定可否判定部10dは、劣化推定部10eで劣化を推定することが可能な最低限の発熱量を生じさせ得る水分量を、選択還元型触媒15が吸着可能な状態にあるか否かを判定する。すなわち、劣化推定可否判定部10dは、選択還元型触媒15の水分吸着の余力が十分であるか否かを判定している。
【0093】
選択還元型触媒15の自然水分吸着量が所定値(吸着量閾値)未満である場合、劣化推定可否判定部10dは、選択還元型触媒15の劣化が推定可能な状態であるとして、劣化推定部10eに劣化推定処理を行わせる。この場合、劣化推定可否判定部10dは、一例として、劣化推定可否判定フラグをONに設定する(S713)。
【0094】
これに対し、選択還元型触媒15の自然水分吸着量が所定値(吸着量閾値)以上である場合、劣化推定可否判定部10dは、選択還元型触媒15の劣化が推定可能な状態ではないものとして、以降の劣化推定可否判定処理、および劣化推定処理を行わない。この場合、劣化推定可否判定部10dは、一例として、劣化推定可否判定フラグをOFFに設定する(S714)。
【0095】
選択還元型触媒15が劣化を推定可能な状態であると判定されると、図9に示すように、制御装置10は劣化推定処理を行う。具体的には、選択還元型触媒15が劣化しているか否かを、劣化推定部10eが判定する。なお、選択還元型触媒15の劣化が推定可能な状態であるか否かは、一例として、劣化推定可否判定フラグがONであるか否かにより判定する(図6のS602)。
【0096】
劣化推定部10eは、選択還元型触媒15の自然水分吸着量に対応する劣化指標値を推定する(S901)。劣化指標値は、選択還元型触媒15が劣化している場合における自然水分吸収量に対する選択還元型触媒15の始動時発熱量である。始動時発熱量は、エンジン2の冷態始動時における選択還元型触媒15の発熱量である。選択還元型触媒15の自然水分吸着量は、水分推定部10cにより推定されている。水分推定部10cは、推定した自然水分吸着量を劣化推定部10eに通知している。劣化推定部10eは、図5に示すテーブルを参照して、選択還元型触媒15の自然水分吸着量に対応する劣化指標値を推定する。
【0097】
次いで、劣化推定10eは、走行モード切替部10fに車両の走行モードをEV走行モードからHV走行モード(一例として、シリーズ走行モード)に切り替えさせる(S902)。走行モード切替部10fは、クラッチ9を開いた状態で、ジェネレータ7でエンジン2を始動させる。その後、エンジン2の駆動力によりジェネレータ7で発電し、駆動用バッテリ6を充電するとともに、モータ5に給電する。このような走行モードの切替は、運転者のアクセルペダルの操作によって行われる場合と、アクセルペダルの操作とは無関係に強制的に行われる場合の双方を含む。また、走行モード切替部10fは、走行モードを切り替えた旨を、劣化推定可否判定部10dに通知する。
【0098】
走行モードが切り替えられた後、劣化推定部10eは、選択還元型触媒15の温度に対応する選択還元型触媒15の発熱量を推定する(S903)。選択還元型触媒15の温度は、エンジン2の排気温度として、出口温度測定部17により測定されている。出口温度測定部17は、測定した排気温度を劣化推定部10eに通知している。劣化推定部10eは、図4に示すテーブルを参照して、選択還元型触媒15の温度に対応する選択還元型触媒15の発熱量を推定する。
【0099】
劣化推定部10eは、選択還元型触媒15の発熱量を所定値(劣化指標値)と比較する(S904)。これにより、劣化推定部10eは、選択還元型触媒15が劣化しているか否かを判定する。
【0100】
選択還元型触媒15の発熱量が所定値(劣化指標値)を超えている場合、劣化推定部10eは、選択還元型触媒15が劣化していないものとして、劣化推定処理を終了する。この場合、運転者に特段の注意喚起を促す必要はないが、例えば選択還元型触媒15が正常である(劣化していない)旨の表示灯の点灯などを行ってもよい。
【0101】
これに対し、選択還元型触媒15の発熱量が所定値(劣化指標値)以下である場合、劣化推定部10eは、選択還元型触媒15が劣化しているものと推定する(S905)。この場合、劣化推定部10eは、選択還元型触媒15が排気中のNOxの還元反応に有効に寄与していないものと判定する。
【0102】
したがって、劣化推定部10eは、選択還元型触媒15が劣化している旨の警告などを行い、運転者に注意喚起を促す。例えば、警告灯の点灯(点滅)、警告メッセージの表示、警告音の鳴動などの警告を発する。これにより、選択還元型触媒15の交換などの対応を迅速に行うことが可能となる。
【0103】
また、選択還元型触媒15が劣化している場合、排気中のNOxの還元反応の活性化にあまり寄与しなくなる。このため、選択還元型触媒15が劣化している状態で、新品時と同様に排気中に尿素水を噴射すると、NOxの還元反応に寄与しないアンモニアが排気通路3bから漏洩してしまうおそれがある。したがって、選択還元型触媒15が劣化している場合には、例えば尿素水インジェクタ18を制御し、排気中への尿素水の噴射量を適切に抑えることで、アンモニアの漏洩を防止することができる。
【0104】
図10には、選択還元型触媒15の劣化推定可否判定処理から劣化推定処理までのタイムチャートの一例を示す。図10に示すように、車両の走行開始後、車両の走行モードが走行開始時のEV走行モードからHV走行モード(一例として、シリーズ走行モード)に切り替わる。これにより、劣化推定可否判定処理が行われる。HV走行モードに切り替わり、エンジン2が始動されると、排気温度が上昇し、選択還元型触媒15の水分吸着量が減少していく。また、エンジン2の始動により、駆動用バッテリ6がジェネレータ7で充電され、駆動用バッテリ6の充電率(SOC)が上昇する。さらに、車両の車速も上昇する。
【0105】
選択還元型触媒15の水分吸着量が所定値(基準吸着量;一例として、ほぼゼロ)以下まで減少されると、車両の走行モードがHV走行モードからEV走行モードに切り替わる。EV走行モードに切り替わり、エンジン2が停止されると、排気(この場合、排気通路3b内の空気)の温度が低下し、選択還元型触媒15の温度も低下していく。その一方で、選択還元型触媒15は、雰囲気中から水分を吸着し、水分吸着量が時間経過とともに上昇していく。また、エンジン2の停止により、ジェネレータ7からの充電も停止するため、駆動用バッテリ6の充電率(SOC)が低下していく。さらに、車速は、HV走行モードよりも低速で一定に保たれる。
【0106】
選択還元型触媒15の温度が所定値(低温閾値;一例として、外気温)以下まで低下され、選択還元型触媒15の水分吸着量(自然水分吸着量)が所定値(吸着量閾値)以下である場合、車両の走行モードがEV走行モードから再びHV走行モード(一例として、シリーズ走行モード)に切り替わる。これにより、劣化推定処理が行われる。HV走行モードでエンジン2が再始動されると、選択還元型触媒15は、エンジン2の排気中のNOxを還元するとともに、排気中から水分を吸着させて発熱する。選択還元型触媒15の水分吸着量は、エンジン2の再始動後、直ちに上昇していく。したがって、排気温度は、走行開始後のHV走行モードへの切替時よりも上昇する。この時の排気温度、つまり選択還元型触媒15の温度の上昇態様によって、劣化推定処理では、選択還元型触媒15の劣化を推定している。なお、HV走行モードでエンジン2が再始動されると、駆動用バッテリ6の充電率(SOC)が再び上昇するとともに、車両の車速も再び上昇する。
【0107】
このように、本実施形態の排気浄化装置1によれば、選択還元型触媒15の劣化推定処理を行う前に、劣化推定可否判定を行っている。このため、選択還元型触媒15の劣化が推定可能な状態となっているか否かを推定した上で、劣化推定可能な状態と推定された場合にのみ、選択還元型触媒15が劣化しているか否かを推定することができる。本実施形態では、エンジン2の停止時間に吸着された選択還元型触媒15の自然水分吸着量に基づいて、選択還元型触媒15が劣化しているか否かを推定している。具体的には、自然水分吸着量がほぼゼロの状態から水分吸着した選択還元型触媒15の発熱量に基づいて、劣化を推定することができる。自然水分吸着量がほぼゼロの状態からの水分吸着による発熱量は、その時点における選択還元型触媒15が有するNOxの還元反応の活性化能力に相当する。したがって、選択還元型触媒15の劣化を適正に推定することができ、推定の精度を高めることができる。
【0108】
また、本実施形態では、選択還元型触媒15の劣化を推定するために、NOxセンサなどのNOx濃度測定部を必要としない。したがって、排気通路3bにおける選択還元型触媒15の下流側にNOxセンサなどを増設する必要がない。このため、低コストかつ簡易に、選択還元型触媒15の劣化を推定することができる。なお、NOx濃度測定部1dは、尿素水インジェクタ18から排気中に噴射される尿素水の噴射量を調整するために用いられており、選択還元型触媒15の劣化を推定するためのものではない。
【0109】
ここで、上述した第1の実施形態では、排気浄化装置1がディーゼルPHEVに搭載された場合について説明したが、本発明に係る排気浄化装置を搭載可能な車両は、ディーゼルPHEVに限定されない。例えば、本発明の排気浄化装置は、ガソリンPHEVに搭載された場合であっても、同様に触媒の劣化を適正に推定し、推定の精度を高めることが可能である。図11には、ガソリンPHEVに搭載された排気浄化装置100の実施形態を、第2の実施形態として示す。以下、第2の実施形態について説明する。なお、第2の実施形態において、排気浄化装置100の基本的な構成は、上述した第1の実施形態と同様とすることが可能である。したがって、以下では、第1の実施形態と相違する第2の実施形態の特徴について説明し、第1の実施形態と同様の構成については、上述した第1の実施形態に対応する記載を参酌し、詳細な説明は省略する。
【0110】
図11は、第2の実施形態に係る排気浄化装置100の概略構成を示すブロック図である。図11に示すように、排気浄化装置100は、ガソリンエンジン(以下、単にエンジンという)200の燃焼室21から排出される排気を浄化する構成となっている。エンジン200の燃焼室21には、吸気弁22を開いて吸気通路から空気と燃料(ガソリン)の混合気が吸入される。そして、圧縮された混合気を点火プラグ204で点火し、燃焼室21で燃焼させる。燃焼後の混合気(排気)は、排気弁27を開いて燃焼室21から排気通路3bを通して排出され、排気浄化装置100で浄化された後に大気中へ放出される。
【0111】
車両には、エンジン200に加え、駆動力を生じさせる動力源として電動機(モータ)5が備えられていることは、第1の実施形態と同様である。また、駆動用バッテリ6、ジェネレータ7、およびクラッチ9を車両が備えていることも、第1の実施形態と同様である。
【0112】
排気浄化装置100は、排気通路3bに設けられており、第1の浄化装置100aと、第2の浄化装置100bとを含んで構成されている。なお、排気浄化装置1と異なり、排気浄化装置100は、還元剤添加部1cに相当する部材を備えていない。その一方、排気浄化装置1と同様に、排気浄化装置100は、NOx濃度測定部1dを備えている。
【0113】
第1の浄化装置100aは、第1の浄化装置1aと異なり、酸化触媒12と排気フィルタ13を備えておらず、その代わりに三元触媒102を備えている。三元触媒102は、燃焼室21から排出された排気に含まれる炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、および窒素酸化物(NOx)を同時に除去して排気を浄化するための部材である。HCおよびCOの酸化にNOxの酸素(O)が用いられるため、NOxは、窒素(N)に還元される。なお、三元触媒102の触媒物質としては、例えば白金、パラジウム、ロジウムなどが用いられる。
【0114】
第2の浄化装置100bは、第2の浄化装置1bと異なり、選択還元型触媒15を備えておらず、その代わりにHCトラップ触媒105を備えている。HCトラップ触媒105は、エンジン200の冷態始動時に過剰に発生する排気中のHCを一時的に吸着(トラップ)させ、三元触媒102が暖まって活性化した時点でHCを酸化させるとともに、NOxを還元させる触媒である。
【0115】
HCトラップ触媒105は、選択還元型触媒15と同様に、ゼオライトで構成された吸着材を備えている。したがって、HCトラップ触媒105は、吸着材であるゼオライトが雰囲気(大気や排気)中から水分を吸着して発熱するという選択還元型触媒15と同様の性質を有する。ゼオライトは、例えば金属イオン(CuやFeなど)を含むルイス酸点を有しており、粉末状やペースト状にされて網状や枠状なとの担体に塗布され、HCトラップ触媒105を構成している。
【0116】
第2の浄化装置100bの出口温度測定部17は、通気路14aの出口近傍でエンジン200の排気温度を測定している。出口温度測定部17が測定する排気温度は、HCトラップ触媒105の温度にほぼ相当する。
【0117】
排気浄化装置100は、排気浄化装置1と同様に、制御装置10によってその動作が制御されている。すなわち、排気浄化装置100において、制御装置10は、HCトラップ触媒105の劣化推定可否判定処理および劣化推定処理をそれぞれ制御している。また、制御装置10は、モータ5、駆動用バッテリ6、ジェネレータ、およびクラッチ9の動作を、車両の運転状況(一例として、運転者によるアクセルペダルの開度など)に応じてそれぞれ制御している。これにより、車両(ガソリンPHEV)は、3つの走行モード(EV走行モード、シリーズ走行モード、およびパラレル走行モード)を適宜切り替えて、走行可能となっている。
【0118】
これらの具体的な制御を実行するため、制御装置10は、内燃機関制御部10aと、時間測定部10bと、水分推定部10cと、劣化推定可否判定部10dと、劣化推定部10eと、走行モード切替部10fとを含んで構成されている。この点については、排気浄化装置1と同様であり、内燃機関制御部10a、時間測定部10b、水分推定部10c、劣化推定可否判定部10d、劣化推定部10e、および走行モード切替部10fの構成も、排気浄化装置1と同様である。
【0119】
したがって、本実施形態においても、HCトラップ触媒105の劣化推定可否判定処理および劣化推定処理を、排気浄化装置1と同様に制御装置10によって行うことができる。これらの処理の制御は、図6から図9に示すフローに従って、排気浄化装置1と同様に、制御装置10によって行えばよい。その詳細については、上述した第1の実施形態と同様であるので、説明を省略する。また、HCトラップ触媒105の劣化推定可否判定処理から劣化推定処理までのタイムチャートは、一例として図10に従う。
【0120】
以上、本発明の第1の実施形態および第2の実施形態を説明したが、上述した各実施形態は、一例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。このような新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0121】
1,100…排気浄化装置、1a,100a…第1の浄化装置、1b,100b…第2の浄化装置、1c…還元剤添加装置、1d…NOx濃度測定部、2,200…内燃機関(エンジン)、3b…排気通路、5…電動機(モータ)、6…駆動用バッテリ、7…ジェネレータ、9…クラッチ、10…制御装置、10a…内燃機関制御部、10b…時間測定部、10c…水分推定部、10d…劣化推定可否判定部、10e…劣化推定部、10f…走行モード切替部、14…本体部、14a…通気路、15…選択還元型触媒、16…第1の温度センサ(入口温度測定部)、17…第2の温度センサ(出口温度測定部)、18…尿素水噴射ノズル(尿素水インジェクタ)、19…尿素水タンク、102…三元触媒、105…HCトラップ触媒。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11