(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
吸着素子に被処理水を通流させ、前記吸着素子に被処理水中の少なくとも1,4−ジオキサンを吸着させて第一処理水を排出する吸着処理と、前記吸着素子に水蒸気を通気させて、前記吸着素子に吸着された1,4−ジオキサンを脱着させて脱着ガスを排出させ、脱着ガスを液化凝縮させて被処理水よりも1,4−ジオキサン濃度の濃縮された濃縮水を排出する脱着処理と、を順に繰り返し実行する濃縮装置と、
1,4−ジオキサン分解菌を含む活性汚泥槽を備え、前記濃縮装置から排出された前記濃縮水を前記活性汚泥槽に流入させ、1,4−ジオキサン分解菌によって1,4−ジオキサンを分解させて第二処理水を排出する生物処理を行う生物処理装置と、
熱交換器と、を備え、
前記活性汚泥槽へ供給する空気を前記脱着ガスと熱交換してから前記活性汚泥槽へ供給することを特徴とする水処理システム。
吸着素子を収容した処理槽と、前記処理槽に接続され、前記処理槽内の前記吸着素子に被処理水を通流させて前記吸着素子に被処理水中の少なくとも1,4−ジオキサンを吸着させ、第一処理水を排出する第一水通流部と、前記処理槽に接続され、前記処理槽内の前記吸着素子に水蒸気を通気させて前記吸着素子に吸着された1,4−ジオキサンを脱着させて脱着ガスを排出する水蒸気通気部と、前記脱着ガスを凝縮させて濃縮水を排出する凝縮部と、を有する濃縮装置と、
1,4−ジオキサン分解菌を含む活性汚泥槽と、前記活性汚泥槽に前記濃縮水を流入させ第二処理水を排出する第二水通流部と、を有する生物処理装置と、
熱交換器と、を備え、
前記活性汚泥槽へ供給する空気を前記脱着ガスと熱交換してから前記活性汚泥槽へ供給することを特徴とする水処理システム。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態においては、同一のまたは共通する構成、部分、材料等については、適宜省略し、その説明についても繰り返さないことにする。
【0016】
[実施形態1]
図1は、本発明の一実施形態である実施形態1の水処理システムA1の構成を示す図である。水処理システムA1は、濃縮装置100と生物処理装置200とを備えている。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の濃縮装置100は、少なくとも1,4−ジオキサンを吸着する吸着素子(以下、吸着素子と省略する)111,121をそれぞれ収容した複数の処理槽110,120と、各処理槽110,120内に被処理水を導入するための被処理水導入ラインL1(第一水通流部)と、各処理槽110,120内に水蒸気を供給するための水蒸気供給ラインL3(水蒸気通気部)と、を備えている。また、本実施形態の濃縮装置100は、各処理槽110,120内の吸着素子111,121により清浄化された後の水である第一処理水を排出するための第一処理水排出ラインL2(第一水通流部)と、各処理槽110,120内に供給された水蒸気を排出するための水蒸気排出ラインL4(水蒸気通気部)と、水蒸気排出ラインL4から分岐して被処理水導入ラインL1に還流する還流ラインL5(付着水返送ルート)と、水蒸気排出ラインL4から排出される1,4−ジオキサンを含む脱着ガスを冷却して凝縮する凝縮器30(冷却部)と、をさらに備えている。
【0018】
なお、本実施形態の濃縮装置100は、吸着素子111,121を収容した処理槽110,120を複数備えている。そして、ダンパーやバルブなどを用いて各ラインL1〜L5を制御し、被処理水を導入・排出する経路、水蒸気を供給・排出する経路を適宜切り替えることで、吸着工程(吸着処理)を行う処理槽と、脱着工程(脱着処理)を行う処理槽とに分けられている。これにより、吸着工程をどちらかの処理槽の吸着素子により連続して行うことが可能であり、いずれかの処理槽(例えば処理槽110)にて吸着素子により被処理水の清浄化(吸着処理)が行われている間、他の処理槽(例えば処理槽120)では吸着素子の再生化(脱水処理及び脱着処理)を行うことが可能である。
【0019】
図1に示すように、本実施形態の濃縮装置100は、それぞれ吸着素子111,121を内部に収容した処理槽110,120を2つ備えている。なお、吸着素子111,121及び処理槽110,120の数は限定されない。後述する各処理槽110,120内における吸着処理及び脱着処理は、各バルブV1〜V10の開閉操作を行い、被処理水を導入・排出する経路、水蒸気を供給・排出する経路を適宜切り替えることで行われる。
【0020】
各処理槽110,120には、被処理水導入ラインL1がそれぞれバルブV1,V2を介して接続されている。また、各処理槽110,120には、第一処理水排出ラインL2がそれぞれバルブV3,V4を介して接続されている。
【0021】
濃縮装置100は、被処理水導入ラインL1により各処理槽110,120内に被処理水を供給して各処理槽110,120内の吸着素子111,121に被処理水を所定時間通流させることで、被処理水に含まれる少なくとも1,4−ジオキサンを吸着する吸着処理が行われる。これにより、被処理水から1,4−ジオキサン除去される。清浄化された後の第一処理水は、第一処理水排出ラインL2より各処理槽110,120の外部に排出される。
【0022】
吸着素子111,121は、活性炭、ゼオライト、活性アルミナなどの吸着材が好ましいが、より好ましくは活性炭素繊維である。活性炭素繊維は、表面に微細な細孔を均一に多数有しているので、被処理水中の1,4−ジオキサンの極めて高い除去効率を実現できる。活性炭素繊維は、原料である繊維を不織布、織物、編物などのシート状の構造体に加工し、炭化・賦活して得ることができる。
【0023】
活性炭素繊維の原料となる繊維は、特に限定されるものではないが、例えばフェノール系繊維、セルロース系繊維、アクリロニトリル系繊維、ピッチ系繊維などが好ましい。中でも、フェノール系繊維は、炭化・賦活後の活性炭素繊維の収率が高く、繊維強度が強い点でさらに好ましい。
【0024】
フェノール系繊維としては、フェノール樹脂に脂肪酸アミド類、リン酸エステル類、セルロース類よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物(配合物)を混合した混合物を紡糸して得られるフェノール系繊維を原糸としてもよい。これにより、さらに繊維強度を高めることができる。
【0025】
吸着素子111,121に用いられる活性炭素繊維の物性は、吸着素子111,121の吸着量や強度、コストなどを考慮すると、BET比表面積が900m
2/g〜2500m
2/gで、細孔容積が0.4cm
3/g〜0.9cm
3/gが好ましい。また、平均細孔経が14Å〜18Åであり、全酸性基量が0.2meq/g以下であることが好ましい。この数値範囲であると、被処理水中に1,4−ジオキサン以外に有機物質が共存する場合において、1,4−ジオキサンをより優先的に吸着することができるからである。
【0026】
実施形態1では、処理対象の被処理水に含まれる処理対象物質は、1,4−ジオキサンを例に説明しているが、以下の有機物質についても、本実施形態の濃縮装置100は同様の除去効果がある。例えば、1,2−ジオキサン、1,3−ジオキサン、2,4−ジメチル−1,3−ジオキサン、4−メチル−1,3−ジオキサン、trans−2,3−ジクロロ1,4−ジオキサン、1,2−ジオキシン、1,3−ジオキシン、1,3−ジオキソラン、2−メチル−1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、2−エチル−2−メチル−1,3−ジオキソラン、2−クロロメチル1,3−ジオキソラン、2−(3−クロロプロピル)−1,3−ジオキソラン、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン、2,2−ジイソプロピル−1,3−ジオキソラン、(R)−4−クロロメチル−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン、(S)−4−クロロメチル−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン、2−オキソ−1,3−ジオキソラン、2−イソブチル−4−メチル−1,3−ジオキソラン、2−メトキシ−1,3−ジオキソラン、2,2,4−トリメチル−1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン−2,6−ジオン、2,2−ジメチル−1,3−ジオキサン−5−オン、1,3−ジオキサン−2−オン、1,4−ジオキサン−2−オン、1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、 (R)−(+)−4−(メトキシメチル)−1,3−ジオキソラン−2−オン、(S)−(+)−4−(メトキシメチル)−1,3−ジオキソラン−2−オン、(R)−4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、(S)−4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、2−(N−メチル−2−アミノエチル)−1,3−ジオキソラン、2−(シアノメチル)−1,3−ジオキソラン、4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、フラン、2−メチルフラン、3−メチルフラン、2−アミルフラン、2−メトキシフラン、2−アセチルフラン、2−フルアルデヒド、3−フルアルデヒド、2−フロイルクロリド、2,5−ジメチルフラン、2,3−ジメチルフラン、5−メチル−2−フルアルデヒド、3−メチル−2−フランカルボン酸メチル、3−クロロテトロン酸、2,5−ジメチル−3(2H)−フラノン、2H−ピラン、4H−ピラン、トルエン、m−キシレン、p−キシレン、o−キシレン、ベンゼン、シクロヘキサンなどを一例として挙げることができる。本実施形態の濃縮装置100が処理する被処理水に含まれる処理対象物質は、これらのうちの1種類あるいは複数種類であってもよい。
【0027】
図1において、各処理槽110,120には、水蒸気供給ラインL3がそれぞれバルブV5,V6を介して接続されている。さらに、各処理槽110,120には、水蒸気排出ラインL4がバルブV7,V8を介して接続されている。水蒸気排出ラインL4は、バルブV9を介して凝縮器130にも接続されている。
【0028】
吸着処理後、濃縮装置100は脱着処理を行うが、この脱着処理では、まず、水蒸気供給ラインL3により各処理槽110,120内に水蒸気を供給して各処理槽110,120内の吸着素子111,121に水蒸気を所定時間通気させることで、各吸着素子111,121に付着した付着水を除去する脱水処理が行われる。各吸着素子111,121は、付着した付着水が水蒸気の通流により除去されて乾いた状態となることにより、その後の水蒸気による1,4−ジオキサンの脱着処理を容易にすることができる。
【0029】
脱水処理において各処理槽110,120内に供給される水蒸気の温度は、例えば100℃〜300℃である。脱水処理にて脱水された付着水は水蒸気とともに水蒸気排出ラインL4より各処理槽110,120の外部に排出される。このとき、付着水は、バルブV9の閉操作かつバルブV10の開操作により還流ラインL5より被処理水導入ラインL1に還流され、再び吸着素子111,121に通流させるために各処理槽110,120内に導入される。これにより、処理の工程数を省略することができるので、効率的である。
【0030】
水蒸気排出ラインL4から脱着ガスは、凝縮器130へ供給される。凝縮器130は、脱着ガスを冷却する装置である。凝縮器130による脱着ガスの冷却方法は特に限定されない。凝縮器130には、例えば、冷却水、工業用水、冷水、海水、ブラインなどの冷媒と脱着ガスとを間接的に接触させて、熱交換により脱着ガスを液化凝縮させる装置(熱交換器)を用いることができる。
【0031】
液化凝縮された濃縮水は、濃縮水導出ラインL6(第二水通流部)を介して生物処理装置200に搬送される。生物処理装置200は、1,4−ジオキサン分解菌221と散気管222が収容される活性汚泥槽220と、散気管222へ空気を供給する空気供給器230と、余剰汚泥と大に処理水を分離する沈殿槽240と、濃縮装置100の凝縮器130から排出された濃縮水を、活性汚泥槽220内へ導入するための濃縮水導出ラインL6と、活性汚泥槽220内の1,4−ジオキサン分解菌221により1,4−ジオキサンが分解された後の水である第二処理水を排出するための第二処理水導出ラインL7(第二水通流部)と、空気供給器230から散気管へ空気を供給する空気導入ラインL8と、を備えている。
【0032】
1,4−ジオキサン分解菌221は、特に制限されないが、1,4−ジオキサンを単一炭素源として利用する微生物である野が好ましい。例えば、1,4−ジオキサン分解菌として報告されている、Mycobacterium sp.D11、Pseudnocardia sp.D17、Mycobacterium sp.D6、Pseudonocardia dioxanivorans CB1190、Afipia sp.D1、Mycobacterium sp.PH-06などが好ましい。しかし、1,4−ジオキサンを単一炭素源としては利用しない微生物であってもよい。
【0033】
Mycobacterium sp.D11、Pseudnocardia sp.D17、は、それぞれ受託番号NITE BP−01926、受託番号NITE BP−01928として、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8(郵便番号292−0818))に、2014年8月29日付で国際寄託されている。Pseudonocardia dioxanivorans CB1190は、米国ATCCから購入することができる(ATCC 55486)。また、米国ATCCの他に、JCM(独立行政法人 理化学研究所 バイオリソースセンター 微生物材料開発室)やドイツのDSMにおいても購入可能である。
【0034】
これらの1,4−ジオキサン分解菌221は、自然界から発見されており、本発明においては、例示された1,4−ジオキサン分解菌以外に新たに発見された1,4−ジオキサン分解菌においても同様の発明の効果がある。
【0035】
例示した1,4−ジオキサン分解菌は好気性の微生物であるので、酸素供給のために、活性汚泥槽220へはブロワーなどの空気供給器230を用いて酸素を供給し、空気導入ラインL8を経て散気管222から気泡状の空気が活性汚泥槽220へ供給される。ここで言う空気は、外気、滅菌済み空気、酸素ガスなどが挙げられるが、コスト面を考慮して外気が好ましい。また、例示した1,4−ジオキサン分解菌以外に新たに発見された1,4−ジオキサン分解菌が嫌気性である場合、空気供給器230および散気管222は不要である。
【0036】
生物処理装置200は、濃縮装置100から排出される濃縮水を濃縮水導出ラインL6より活性汚泥槽220へ供給し、また、空気供給器230より供給される空気は、空気導入ラインL8より活性汚泥槽220へ供給される。これにより、1,4−ジオキサン分解菌221が濃縮水中の1,4−ジオキサンを炭素源として資化することで、1,4−ジオキサンが分解される。1,4−ジオキサンが分解された後の処理水は、沈殿槽240へ導入され、一定時間の静置をへて余剰汚泥と上澄み水に固液分離される。上澄み水は、第二処理水として、第二処理水導出ラインL7を通じて排出される。上述の通り、濃縮装置100にて、1,4−ジオキサンを高濃度、高純度に含む濃縮水を、活性汚泥槽220へ供給する装置構成のため、1,4−ジオキサンを資化しない微生物は増殖せず、1,4−ジオキサン分解菌のみ優先して増殖できる。
【0037】
1,4−ジオキサン分解菌221は、予め培養された培養液を活性汚泥槽220へ投入してもよい。それは、より馴養時間の短縮化ができるからである。培養方法は特に限定しないが、例えば、CGY培地などの公知の液体培地を使用して、所定温度にて連続培養することで、1,4−ジオキサン分解菌を一定量に増殖させた培養液を作製することができる。
【0038】
図示しないが、生物処理装置200は、1,4−ジオキサン分解菌を固定化させた支持体を、活性汚泥槽220に設置しても良い。支持体に1,4−ジオキサン分解菌を固定化させることで、活性汚泥槽220からの1,4−ジオキサン分解菌の第二処理水への流出を抑制できるからである。1,4−ジオキサ分解菌を固定化する支持体は特に限定しないが、高分子ゲルなどが挙げられる。また、生物処理装置200の活性汚泥槽220は、膜分離式でもよい。同様に1,4−ジオキサン分解菌の第二処理水への流出を防ぐと共に、活性汚泥槽220内の1,4−ジオキサン分解菌濃度を高めることができるからである。
【0039】
沈殿槽240から排出される第二処理水は所定の1,4−ジオキサン濃度まで低減させて、河川や下水放流してもよい。あるいは、
図2に示すように、第二処理水返送ラインL9(第二処理水返送ルート)を設けて、第二処理水を第二処理水返送ラインL9から濃縮装置100の被処理水導入ラインL1へ返送して被処理水と混合させ、濃縮装置100の被処理水として再処理する水処理システムA2の装置構成としてもよい。1,4−ジオキサン分解菌221で分解処理するための滞留時間を短縮化でき(活性汚泥槽220の容量を小型化でき)、他の微生物の繁殖などの何らかの原因で1,4−ジオキサン分解菌の活性が低下し、1,4−ジオキサン分解性能が低下した場合においても、濃縮装置100で1,4−ジオキサンを再濃縮させることで、1,4−ジオキサン分解菌221の増殖に好条件な1,4−ジオキサン濃度の高い濃縮水を活性汚泥槽220へ供給することができるからである。
【0040】
また、
図3に示すように、空気を、濃縮装置100から排出される脱着ガスと熱交換してから活性汚泥槽220へ供給する水処理システムA3の装置構成としてもよい。熱交換のため、水処理システムA3は、水蒸気排出ラインL4に熱交換器140を備えている。熱交換器140により活性汚泥槽220へ供給する空気を高温の脱着ガスと熱交換することで、空気の滅菌ができる。そのため、活性汚泥槽220への他の微生物の混入を抑制し、より優先的に1,4−ジオキサン分解菌の増殖を促進できる。それとともに、熱交換によって加温された空気を供給することで活性汚泥槽220を一定温度に維持することで、より安定的に1,4−ジオキサン分解菌の活性を維持できる。
【0041】
水処理システムA1〜A3は、濃縮装置100によって、処理対象の被処理水に含まれる1,4−ジオキサンを効果的に吸着除去すると共に、被処理水量よりも少ない水蒸気量を使用して脱着して、1,4−ジオキサン濃度が被処理水よりも高く、水蒸気の熱によって滅菌された濃縮水を得ることができる。かつ、少なくとも1,4−ジオキサンを吸着する吸着素子を処理槽に収容しているので、被処理水中に含まれる1,4−ジオキサン以外の有機物と1,4−ジオキサンを分離することができ、濃縮水中の1,4−ジオキサンの純度を高める効果がある。この効果によって、生物処理装置200の1,4−ジオキサン分解菌が優先的に増殖し、増殖速度が速まる。
【0042】
[実施形態2]
図4は、本発明の水処理システムの別の実施形態である、水処理システムB1の概略構成を示している。実施形態2の水処理システムB1は、活性汚泥装置300と、濃縮装置100と生物処理装置200と、活性汚泥装置300とを備えている。つまり、基本的な構成は、上述の実施形態1で説明した水処理システムA1に活性汚泥装置300が追加される構成であり、ここでは対応する構成に同一の符号を付することで説明を省略する。
【0043】
水処理システムB1は、濃縮装置100において、吸着処理時に吸着素子111、121にて1,4−ジオキサンと分離され、第一処理水に含まれる有機物質の含有量が多い被処理水から1,4−ジオキサンおよび他の有機物質も除去および分解する場合において使用される。もしくは、生物処理装置200において、1,4−ジオキサン分解菌221の増殖阻害の原因となり得る有機物質の含有量が多い被処理水から1,4−ジオキサンを効率よく分解する場合においても使用される。
【0044】
活性汚泥装置300は、微生物321と散気管322が収容される活性汚泥槽320と、散気管322へ空気を供給する空気供給器330と、余剰汚泥と大に処理水を分離する沈殿槽340と、被処理水を活性汚泥槽320内へ導入するための被処理水導入ラインL10と、活性汚泥槽320内の微生物321により有機物質が分解された後の水である生物処理水を排出し、濃縮装置100へ導入するための生物処理水導出ラインL11と、空気供給器330から散気管322へ空気を供給する空気導入ラインL12と、を備えている。
【0045】
微生物321は、自然界に存在し、標準的な活性汚泥装置としての浄化機能をもつ細菌、菌類であればよく、菌種は特に限定しない。
【0046】
活性汚泥装置320は、酸素供給のために、活性汚泥槽320へはブロワーなどの空気供給器330を用いて酸素を供給し、空気導入ライン12を経て散気管322から気泡状の空気が活性汚泥槽320へ供給される。ここで言う空気は、外気、滅菌済み空気、酸素ガスなどが挙げられるが、コスト面を考慮して外気が好ましい。また、被処理水中の有機物質に応じて、嫌気性の微生物が好適である場合、空気供給器330および散気管322は不要である。
【0047】
活性汚泥装置300は、被処理水を被処理水導入ラインL10より活性汚泥槽320へ供給し、また、空気供給器330より供給される空気は、空気導入ラインL12より活性汚泥槽320へ供給される。これにより、微生物321が被処理水中の1,4−ジオキサン以外の有機物質を炭素源として資化することで、1,4−ジオキサン以外の有機物質が分解され、沈殿槽340へ導入された後、一定時間の静置をへて余剰汚泥と上澄み水に固液分離される。上澄み水は生物処理水として、生物処理水導出ラインL11を通じて排出される。
【0048】
図示しないが、活性汚泥装置300は、微生物を固定化させた支持体を、活性汚泥槽320に設置しても良い。支持体に微生物を固定化させることで、活性汚泥槽320からの微生物の生物処理水への流出を抑制できるからである。微生物を固定化する支持体は特に限定しないが、高分子ゲルなどが挙げられる。また、活性汚泥装置300の活性汚泥槽320は、膜分離式でもよい。同様に微生物の生物処理水への流出を防ぐと共に、活性汚泥槽320内の微生物濃度を高めることができるだけでなく、濃縮装置100および生物処理装置200への1,4−ジオキサン分解菌以外の微生物の進入を抑制できるからである。
【0049】
水処理システムB1において、生物処理水は、生物処理水導出ラインL11を通じて、濃縮装置100へ導入される。ここで、生物処理水導出ラインL11は、被処理水導入ラインL1に接続されており、活性汚泥装置300で処理された生物処理水が、濃縮装置100での被処理水として、濃縮装置100に導入される。
【0050】
実施形態2の水処理システムB1において、濃縮装置100は実施形態1の水処理システムA1と同じ装置構成であり、水処理システムB1においては被処理水を直接導入せず、生物処理水を導入する点で異なる。このシステム構成とすることによって、1,4−ジオキサン以外に多量に有機物質が含まれる被処理水を処理する場合においても、1,4−ジオキサンと他の有機物質ともに除去・分解できる。よって、1,4−ジオキサン以外の例えば、環境基準や排水基準の水質指標となるCOD(化学的酸素供給量)も清浄化できた第一処理水を排出することができる。
【0051】
水処理システムB1において、濃縮水は、水処理システムA1と同じく、生物処理装置200に導入される。水処理システムB1では、活性汚泥装置300にて他の有機物質が分解されているので、直接、被処理水を濃縮装置100で濃縮するよりも、濃縮水中に他の有機物質の混入を防ぐ事ができ、1,4−ジオキサンの純度を高めることができる。よって、1,4−ジオキサン分解菌221の活性低下を防ぐことができる。
【0052】
実施形態2の水処理システムB1では、第二処理水は所定の1,4−ジオキサン濃度まで低減させて、河川や下水放流してもよいし、実施形態1と同様に、第二処理水返送ラインL9から濃縮装置100へ返送させてもよい。または、
図5に示すように、第二処理水返送ラインL13(第二処理水返送ルート)から活性汚泥装置300の被処理水導入ラインL10へ返送して被処理水と混合させ、活性汚泥装置300の被処理水として再処理する水処理システムB2の装置構成でもよい。この構成により、より確実に1,4−ジオキサンを分解することができるだけでなく、他の微生物の繁殖などの何らかの原因で1,4−ジオキサン分解菌の活性が低下し、1,4−ジオキサン分解性能が低下した場合においても、活性汚泥装置300および濃縮装置100で1,4−ジオキサンを再濃縮させることで、1,4−ジオキサン分解菌221の増殖に好条件な1,4−ジオキサン濃度と純度の高い濃縮水を活性汚泥槽220へ供給することができる。
【0053】
また、
図6に示すように、空気を、濃縮装置100から排出される脱着ガスと熱交換してから活性汚泥槽220へ供給する水処理システムB3の装置構成としてもよい。熱交換のため、水処理システムB3は、水蒸気排出ラインL4に熱交換器140を備えている。熱交換器140により活性汚泥槽220へ供給する空気を高温の脱着ガスと熱交換されることで、空気の滅菌ができるので活性汚泥槽220への他の微生物の混入を抑制し、より優先的に1,4−ジオキサン分解菌の増殖を促進できるとともに、熱交換によって加温された空気を供給することで活性汚泥槽220を一定温度に維持することで、より安定的に1,4−ジオキサン分解菌の活性を維持できるからである。
【0054】
実施形態2において説明した1,4−ジオキサン以外の他の有機物質として、例えば、以下の有機物質がある。例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、ミスチリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、酸化エチレンなどを一例として挙げることができる。実施形態2の被処理水中の1,4−ジオキサン以外の他の有機物質は、これらのうちの1種類あるいは複数種類であってもよい。
【0055】
以上、
図1〜6を用いて説明した水処理システムA1〜A3,B1〜B3では、説明の簡略のため、ポンプやファンなどの流体搬送手段やストレージタンクなどの流体貯留手段などの構成要素を示していないが、これら構成要素は必要に応じて適宜の位置に配置すればよい。
【0056】
また、上述した各実施形態およびその変形例は、全ての点で例示であって制限的なものではなく、本発明は上述した各実施形態およびその変形例に限定されるものではない。また、各実施形態およびその変形例を適宜組み合わせた形態も本発明に含まれる。つまり、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内での全ての変更を含むものであり、よって、本発明は、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0057】
例えば、上述した各実施形態およびその変形例では、濃縮装置100は、吸着素子が複数(
図1では2つ)の処理槽にそれぞれ収容され、吸着処理を行う部位(処理槽)と脱着処理を行う部位(処理槽)とを交互に切り替える、前記吸着素子の前記脱着処理が行われた部分を前記吸着処理を行う部分に移行させるとともに、前記吸着素子の前記吸着処理が行われた部分を前記脱着処理を行う部分に移行させる操作が繰り返し実施されることで、吸着素子による吸着処理が連続して行われる構成となっている。しかし、吸着素子を回転可能とし、吸着素子の回転により、吸着処理で1,4−ジオキサンを吸着した吸着素子の部位を脱着処理へ移行させるようにし、脱着処理で1,4−ジオキサンが脱着された吸着素子の部位を吸着処理へ移行させる操作を繰り返し実施するように濃縮装置100を構成することによっても、濃縮装置100として吸着素子による吸着処理を連続して行うことが可能である。
【0058】
また、必ずしも吸着素子による吸着処理が連続して行われるように濃縮装置100を構成する必要はなく、処理槽を1つとし、脱着処理中は処理槽への被処理水の供給を一時的にストップしてタンクなどに貯水し、脱着処理後の吸着処理で一時的に貯水された被処理水も併せて吸着処理する構成としてもよい。
【実施例1】
【0059】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例に関する評価は下記の方法により行った。
【0060】
(BET比表面積)
BET比表面積は、液体窒素の沸点(−195.8℃)雰囲気下、相対圧力0.0〜0.15の範囲で上昇させたときの試料への窒素吸着量を数点測定し、BETプロットにより試料単位質量あたりの表面積(m
2/g)を求めた。
【0061】
(細孔容積)
細孔容積は、相対圧0.95における窒素ガスの気体吸着法により測定した。
【0062】
(平均細孔径)
平均細孔径は、以下の式で求めた。
dp=40000Vp/S(ただし、dp:平均細孔径(Å)、Vp:細孔容積(cc/g)、S:BET比表面積(m
2/g)である。)
【0063】
(全酸性基量)
表面酸性基量は、Boehmの滴定法により測定した。試料約2gに対し0.01mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を60mL加え、25℃で2時間振とうした。試料と溶液をろ別し、ろ液を25mL採取した。指示薬としてフェノールフタレインを数滴加え、残留塩基性成分を0.01mol/Lの塩酸で滴定し、以下の式で全酸性基量を算出した。
全酸性基量(meq/g)=(D×60×K)/(W×25)
D:吸着塩基性量(mL)
K:塩酸濃度(mol/L)
W:試料重量(g)
【0064】
(被処理水の組成)
実施例において使用した被処理水は、1,4−ジオキサンを15mg/L含む排水1、もしくは、1,4−ジオキサンを15mg/Lとエチレングリコールを3000mg/L含む排水2とした。
【0065】
(1,4−ジオキサンの除去効果)
各処理槽の入口及び出口の1,4−ジオキサン濃度をヘッドスペース−ガスクロマトグラフ質量分析法により定量した。水処理における1,4−ジオキサンの除去率(%)は、100−(処理水中の1,4−ジオキサン濃度/処理対象の被処理水中の1,4−ジオキサン濃度)×100とした。
【0066】
(実施例1)
実施例1のシステムとして、実施形態1で説明した
図1に示す水処理システムA1を使用した。
吸着素子111,121として平均細孔径17Å、BET比表面積2050m
2/g、全細孔容積0.87m
3/g、全酸性基量0.1meq/gの活性炭素繊維を使用した重量260gの吸着素子を2個作成し、濃縮装置100の処理槽110,120にそれぞれ設置した。被処理水(原水)として排水1を処理水量100L/hになるように導入し、第一処理水を得た。
【0067】
次に、自重抜きおよび水蒸気供給を行って、吸着素子の付着水を除去(脱水)した後、除去水は原水へ返送した。次に、120℃の水蒸気を吸着素子に供給し脱着した。脱着に使用した水蒸気および吸着素子から脱着された1,4−ジオキサンは凝縮器130にて濃縮水として回収した。その際の処理水中の1,4−ジオキサン濃度は0.5mg/L以下であり、1,4−ジオキサンの除去率は99.6%以上が可能であった。また、濃縮水は水量1.8L/h以下であり、1,4−ジオキサン濃度は825mg/L以上に濃縮されていた。
【0068】
次に、凝縮器130から濃縮水を1.8L/hで生物処理装置200の1,4−ジオキサン分解菌221を含む活性汚泥槽220に供給し、空気供給器230から空気を供給しながら、28℃、滞留時間5日(活性汚泥槽220の容積216L)で生物処理を行い、第二処理水を得た。第二処理水中の1,4−ジオキサン濃度を測定した結果、0.5mg/L以下まで1,4−ジオキサンの低減が確認できた。
【0069】
第二処理水は第一処理水と混合させて放流水として、システム系外に排出した。実施例1の水処理システムA1は、1ヶ月運転後においても、放流水中の1,4−ジオキサン濃度0.5mg/L以下を維持し、良好な処理性能を示した。
【0070】
[実施例2]
実施例2の水処理システムとして、
図2に示す水処理システムA2を使用した。濃縮装置100における処理条件は、実施例1と同じとした。
【0071】
濃縮水を1.8L/hで生物処理装置200の1,4−ジオキサン分解菌を含む活性汚泥槽220に供給し、空気を供給しながら、28℃、滞留時間2日(活性汚泥槽220の容積86L)で生物処理を行い、第二処理水を得た。第二処理水中の1,4−ジオキサン濃度を測定した結果、30mg/L以下まで1,4−ジオキサンの低減が確認できた。二次処理水は、第二処理水返送ラインL9から原水へ返送され濃縮装置100にて再処理した。
【0072】
実施例2の水処理システムA2においては、第一処理水のみ放流水としてシステム系外に排出した。実施例2の水処理システムA2は、1ヶ月運転後においても、放流水中の1,4−ジオキサン濃度0.5mg/L以下を維持し、良好な処理性能を示した。また、実施例1と比べて、生物処理装置200の滞留時間を60%短縮させることが可能であった。
【0073】
[実施例3]
実施例3の水処理システムとして、
図5に示す水処理システムB2を使用した。なお、活性汚泥装置300としては、膜分離式のものを用いた。
【0074】
被処理水(原水)として排水2を100L/hで活性汚泥装置300に供給し、空気を供給しながら、34℃、滞留時間2日で生物処理を行い、生物処理水を得た。第二処理水中の1,4−ジオキサン濃度とエチレングリコール濃度を測定した結果、1,4−ジオキサンは15mg/Lと低減されなかったが、エチレングリコールは15mg/L以下まで低減が確認できた。
【0075】
次に、生物処理水を100L/hで濃縮装置100へ導入した。濃縮装置100の処理条件は、実施例1と同じとした。その際の処理水中の1,4−ジオキサン濃度は0.5mg/L以下まで除去可能であった。また、濃縮水は水量1.8L/h以下、1,4−ジオキサン濃度は825mg/L以上に濃縮された。なお、第一処理水中のエチレングリコール濃度は15mg/L以下、濃縮水中のエチレングリコールは20mg/L以下であった。
【0076】
次に、濃縮水を1.8L/hで生物処理装置200の1,4−ジオキサン分解菌を含む活性汚泥槽220に供給し、空気を供給しながら、28℃、滞留時間2日(活性汚泥槽220の容積86L)で生物処理を行い、第二処理水を得た。第二処理水中の1,4−ジオキサン濃度を測定した結果、40mg/L以下まで1,4−ジオキサンの低減が確認できた。二次処理水は、第二処理水返送ラインL9から原水へ返送され活性汚泥装置300および濃縮装置100にて再処理された。
【0077】
実施例3の水処理システムB2においては、第一処理水のみ放流水としてシステム系外に排出した。1ヶ月運転後においても、放流水中の1,4−ジオキサン濃度は0.5mg/L以下を維持し、他の有機物質を含む排水2においても、良好な処理性能を示した。
【0078】
[比較例1]
比較例1のシステムとして、
図1に示す生物処理装置200のみを使用した。被処理水(原水)として排水1を100L/hで生物処理装置200の1,4−ジオキサン分解菌221を含む活性汚泥槽220に供給し、空気を供給しながら、28℃、滞留時間6日(活性汚泥槽220の容積14400L)で生物処理を行い、処理水を得て、これを放流水としてシステム系外へ排出した。放流水中の1,4−ジオキサン濃度を測定した結果、0.5mg/L以下まで1,4−ジオキサンの低減が確認できたが、実施例1と比較して活性汚泥槽の容積が66倍以上大型化した。
【0079】
[比較例2]
比較例2のシステムとして、
図1に示す生物処理装置200のみを使用した。被処理水(原水)として排水2を100L/hで生物処理装置200の1,4−ジオキサン分解菌221を含む活性汚泥槽220に供給し、空気を供給しながら、28℃、滞留時間6日(活性汚泥槽220の容積14400L)で生物処理を行い、処理水を得て、これを放流水としてシステム系外へ排出した。放流水中の1,4−ジオキサン濃度を測定した結果、3mg/L以下まで1,4−ジオキサンの低減が確認できたが、実施例3と比較して活性汚泥槽の容積が66倍以上大型化し、1,4−ジオキサン濃度も6倍以上高かった。また、放流水中のエチレングリコール濃度も800mg/Lと実施例3と比較して53倍以上高かった。
【0080】
また、1ヶ月運転後においても、放流水中の1,4−ジオキサン濃度は13mg/Lまで低下し、1,4−ジオキサンを分解する機能がほぼなくなった。放流水中のエチレングリコールは15mg/L以下まで低減されており、1,4−ジオキサン分解菌以外の微生物のエチレングリコールの資化による増殖に伴う、1,4−ジオキサン分解菌の活性低下によるものと考えられる。