特許第6819287号(P6819287)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6819287複合高分子電解質膜ならびにそれを用いた触媒層付電解質膜、膜電極複合体および固体高分子形燃料電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6819287
(24)【登録日】2021年1月6日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】複合高分子電解質膜ならびにそれを用いた触媒層付電解質膜、膜電極複合体および固体高分子形燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/10 20160101AFI20210114BHJP
   H01M 8/1025 20160101ALI20210114BHJP
   H01M 8/1039 20160101ALI20210114BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20210114BHJP
   H01B 1/12 20060101ALI20210114BHJP
   C08J 9/42 20060101ALI20210114BHJP
   C08G 65/40 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
   H01M8/10 101
   H01M8/1025
   H01M8/1039
   H01B1/06 A
   H01B1/12 Z
   C08J9/42CEW
   C08G65/40
【請求項の数】15
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2016-518213(P2016-518213)
(86)(22)【出願日】2016年3月10日
(86)【国際出願番号】JP2016057590
(87)【国際公開番号】WO2016148017
(87)【国際公開日】20160922
【審査請求日】2019年3月6日
(31)【優先権主張番号】特願2015-50409(P2015-50409)
(32)【優先日】2015年3月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山口 純平
(72)【発明者】
【氏名】出原 大輔
(72)【発明者】
【氏名】梅田 浩明
(72)【発明者】
【氏名】岡本 由明子
【審査官】 阿川 寛樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/018487(WO,A1)
【文献】 特開2003−031232(JP,A)
【文献】 特開2008−007759(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/140865(WO,A1)
【文献】 特開2011−054352(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/031675(WO,A1)
【文献】 特開2005−216525(JP,A)
【文献】 特開2008−311226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00−8/0297, 8/08−8/2495
H01B 1/06−1/12
C08J 9/42
C08G 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族炭化水素系ポリマー電解質と、含フッ素高分子多孔質膜とが複合化してなる複合層を有する複合高分子電解質膜であって、X線光電子分光法(XPS)によって測定される、前記含フッ素高分子多孔質膜の最表面における、フッ素の原子組成百分率F(at%)に対する酸素の原子組成百分率O(at%)の比(O/F比)が0.20以上2.0以下であるとともに、前記複合層中の前記芳香族炭化水素系ポリマー電解質が共連続様またはラメラ様の相分離構造を形成している複合高分子電解質膜。
【請求項2】
XPSによって測定される、前記含フッ素高分子多孔質膜を凍結粉砕した粉末のO/F比が、前記含フッ素高分子多孔質膜の最表面におけるO/F比の2/3以下である、請求項1に記載の複合高分子電解質膜。
【請求項3】
80℃の熱水に1週間浸漬した際の熱水溶出物重量が、熱水浸漬前の複合化電解質膜重量に対し1%以下である、請求項1または2に記載の複合高分子電解質膜。
【請求項4】
前記含フッ素高分子多孔質膜がポリテトラフルオロエチレンから構成されるものである、請求項1〜3のいずれかに記載の複合高分子電解質膜。
【請求項5】
前記芳香族炭化水素系ポリマー電解質が、イオン性基を含有するセグメントとイオン性基を含有しないセグメントが結合したブロック共重合体またはグラフト共重合体である、請求項1〜4のいずれかに記載の複合高分子電解質膜。
【請求項6】
前記芳香族炭化水素系ポリマー電解質の相分離構造が共連続様である、請求項1〜5のいずれかに記載の複合高分子電解質膜。
【請求項7】
前記芳香族炭化水素系ポリマー電解質がスルホン酸基を有する芳香族ポリエーテルケトン系ポリマーである、請求項1〜6のいずれかに記載の複合高分子電解質膜。
【請求項8】
前記複合層の芳香族炭化水素系ポリマー電解質の含有率が50%以上である、請求項1〜7のいずれかに記載の複合高分子電解質膜。
【請求項9】
複合高分子電解質膜を温度23℃±5℃、湿度50%±5%の調温調湿雰囲気下に24時間静置した後のMD方向およびTD方向の長さと、該複合高分子電解質膜を80℃の熱水中に8時間浸漬した後のMD方向およびTD方向の長さから算出される面内方向の寸法変化率が、10%以下である、請求項1〜8のいずれかに記載の複合高分子電解質膜。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の複合高分子電解質膜に触媒層を付してなる触媒層付電解質膜。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の複合高分子電解質膜を用いて構成される膜電極複合体。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれかに記載の複合高分子電解質膜を用いて構成される固体高分子形燃料電池。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれかに記載の複合高分子電解質膜を用いて構成される水素圧縮装置。
【請求項14】
イオン性基を有し共連続様またはラメラ様の相分離構造を形成している芳香族炭化水素系ポリマー電解質と、含フッ素高分子多孔質膜とが複合化してなる複合層を有する複合高分子電解質膜の製造方法であって、
X線光電子分光法(XPS)によって測定される、最表面におけるフッ素の元素組成F(at%)に対する酸素の元素組成O(at%)の比(O/F比)が0.20以上2.0以下である含フッ素高分子多孔質体と、芳香族炭化水素系ポリマー電解質とを複合化することを特徴とする複合高分子電解質膜の製造方法。
【請求項15】
前記芳香族炭化水素系ポリマー電解質のイオン性基がアルカリ金属またはアルカリ土類金属の陽イオンと塩を形成している状態で前記含フッ素高分子多孔質膜と複合化する工程と、前記アルカリ金属またはアルカリ土類金属の陽イオンをプロトンと交換する工程とをこの順に有する、請求項14に記載の複合高分子電解質膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー電解質と高分子多孔質膜を複合化した複合層を有する複合高分子電解質膜ならびにそれを用いた触媒層付電解質膜、膜電極複合体および固体高分子形燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素、メタノールなどの燃料を電気化学的に酸化することによって、電気エネルギーを取り出す一種の発電装置であり、近年、クリーンなエネルギー供給源として注目されている。なかでも固体高分子形燃料電池は、標準的な作動温度が100℃前後と低く、かつ、エネルギー密度が高いことから、比較的小規模の分散型発電施設、自動車や船舶など移動体の発電装置として幅広い応用が期待されている。また、小型移動機器、携帯機器の電源としても注目されており、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池に替わり、携帯電話やパソコンなどへの搭載が期待されている。 燃料電池は通常、発電を担う反応の起こるアノードとカソードの電極と、アノードとカソード間のプロトン伝導体となる高分子電解質膜とが、膜電極複合体(以降、MEAと略称することがある。)を構成し、このMEAがセパレータによって挟まれたセルをユニットとして構成されている。高分子電解質膜は高分子電解質材料を主として構成される。

高分子電解質膜の要求特性として、低加湿プロトン伝導性を挙げることができる。自動車用燃料電池や家庭用燃料電池などは実用化に向けての低コスト化が検討されており、充分な低加湿プロトン伝導性を有する高分子電解質膜を使用することで80℃を越える高温で相対湿度60%以下の低加湿条件下で作動させることができ水管理システムの簡素化が可能となる。
【0003】
従来、高分子電解質膜としてパーフルオロスルホン酸系ポリマーであるナフィオン(登録商標)(デュポン社製)が広く用いられてきた。ナフィオン(登録商標)はクラスター構造に起因するプロトン伝導チャネルを通じて、低加湿で高いプロトン伝導性を示すが、その一方で、多段階合成を経て製造されるため非常に高価であり、加えて、前述のクラスター構造により燃料クロスオーバーが大きいという課題があった。また、燃料電池作動条件では、乾湿サイクルが繰り返され、高分子電解質膜は膨潤収縮を繰り返す。その際、電解質膜はセパレータ等で拘束されているため、局所的な応力集中により、膜が破断し、膜の機械強度や物理的耐久性が失われるという問題があった。さらに軟化点が低く高温で使用できないという問題、使用後の廃棄処理の問題や材料のリサイクルが困難といった課題が指摘されてきた。
【0004】
このような課題を克服するために、ナフィオン(登録商標)に替わり得る、安価で膜特性に優れた炭化水素系高分子電解質膜の開発が近年活発化している。
【0005】
なかでも特に、電解質膜の低加湿プロトン伝導性と機械的耐久性を両立すべく、相分離構造に着目した試みがなされている。例えば、特許文献1には、相分離構造を有する結晶性ポリエーテルケトン(PEK)系高分子電解質膜が提案されている。 また、電解質膜の乾湿サイクルに伴う寸法変化抑制を目的に、補強材と電解質膜の複合化に着目した試みがなされている。例えば、特許文献2、3には、電解質膜をポリテトラフルオロエチレンからなる多孔質材料や繊維不織布で補強した複合高分子電解質膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】

【特許文献1】国際公開第2013/031675号
【特許文献2】特開2013−62240号公報
【特許文献3】特開2010−232158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら本発明者らは、従来技術に以下の課題があることを見いだした。特許文献1記載の電解質膜は、相分離構造により、高い低加湿プロトン伝導度を維持しつつ、強固な結晶性による擬似架橋効果によって、高機械強度を達成したものであるが、当該技術によっても、乾湿サイクルにおける寸法変化低減効果が十分でなく、更なる物理的耐久性向上が求められている。
【0008】
これに対し、特許文献2、特許文献3は、同様の目的で、炭化水素系電解質を含フッ素多孔質膜で補強したものであるが、含フッ素多孔質膜に対する親水化処理が不十分のため、炭化水素系電解質と含フッ素多孔体の親和性が悪く、得られた複合電解質膜に空隙が多く存在するため、燃料透過や機械強度に課題があった。

本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、低加湿条件下および低温条件下においても優れたプロトン伝導性を有し、なおかつ機械強度および物理的耐久性に優れる上に、固体高分子形燃料電池としたときに高出力、高エネルギー密度、長期耐久性を達成することができる高分子電解質膜、ならびにそれを用いた膜電極複合体および固体高分子形燃料電池を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち本発明の高分子電解質膜は、芳香族炭化水素系ポリマー電解質と、含フッ素高分子多孔質膜とが複合化してなる複合層を有する複合高分子電解質膜であって、X線光電子分光法(XPS)によって測定される、前記含フッ素高分子多孔質膜の最表面における、フッ素の原子組成百分率F(at%)に対する酸素の原子組成百分率O(at%)の比(O/F比)が0.2以上2.0以下であるとともに、複合層中の芳香族炭化水素系ポリマー電解質が共連続様またはラメラ様の相分離構造を形成している複合高分子電解質膜である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低加湿条件下においても優れたプロトン伝導性を有し、なおかつ機械強度および物理的耐久性に優れる上に、固体高分子形燃料電池としたときに高出力、長期耐久性を達成することができる高分子電解質膜ならびにそれを用いた触媒層付電解質膜、膜電極複合体および固体高分子形燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】芳香族炭化水素系ポリマー電解質の相分離構造の各態様を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本明細書において「〜」は、その両端の数値を含む範囲を表すものとする。

<芳香族炭化水素系ポリマー電解質>
本発明において、芳香族炭化水素系ポリマー電解質(以下、単に「ポリマー電解質」という場合がある。)は、後述する複合層中で相分離構造を形成することを特徴とする。相分離構造は、非相溶なセグメント2種類以上が結合してなる高分子、例えばブロック共重合体またはグラフト共重合体か、もしくは非相溶な2種類以上の高分子が混合されてなるポリマーブレンドにおいて発現しうる。
【0013】
本発明の芳香族炭化水素系ポリマー電解質として使用し得るブロック共重合体またはグラフト共重合体は、イオン性基を含有するセグメントと、イオン性基を含有しないセグメントが結合することで構成される。ここで、セグメントとは、特定の性質を示す繰り返し単位からなる共重合体ポリマー鎖中の部分構造であって、分子量が2000以上のものを表すものとする。また、本発明中の芳香族炭化水素系ポリマー電解質として使用し得るポリマーブレンドは、イオン性基を含有するポリマーとイオン性基を含有しないポリマーとを混合することで構成される。ここで、ポリマーとは、分子量10000以上のポリマー鎖全体を表す。
【0014】
芳香族炭化水素系ポリマー電解質としては、発電性能と物理的耐久性両立の点から、ブロック共重合体またはグラフト共重合体が好ましい。ブロック共重合体またはグラフト共重合体を用いることで、ポリマーブレンドと比較して微細なドメイン(類似するセグメントもしくはポリマーが凝集してできた塊)を有する相分離構造の形成が可能となり、より優れた発電性能、物理的耐久性が達成できる。さらに、より均一な相分離構造を形成できることから、芳香族炭化水素系ポリマー電解質はブロック共重合体があることが最も好ましい。
【0015】
以下、イオン性基を含有するセグメントもしくはポリマーを(A1)、イオン性基を含有しないセグメントもしくはポリマーを(A2)と表記する。もっとも、本発明における「イオン性基を含有しない」という記載は、当該セグメントもしくはポリマーが共連続相分離構造の形成を阻害しない範囲でイオン性基を少量含んでいる態様を排除するものではない。
【0016】
本発明においては、芳香族炭化水素系ポリマー電解質が相分離構造を形成していることで、(A1)を含むドメイン(以下、「イオン性ドメイン」という。)において良好なプロトン伝導チャネルが形成されると同時に(A2)を含むドメイン(以下、「非イオン性ドメイン」という。)における良好な機械強度、燃料遮断性の発現が可能となる。
【0017】
芳香族炭化水素系ポリマー電解質の相分離構造様態は大きく共連続(M1)、ラメラ(M2)、シリンダー(M3)、海島(M4)の4つに分類される(図1)。かかる相分離構造は、例えばアニュアル レビュー オブ フィジカル ケミストリ−(Annual Review O/F比 Physical Chemistry), 41, 1990, p.525等に記載がある。本発明の芳香族炭化水素系ポリマー電解質の相分離構造としては、プロトン伝導性と機械強度のバランスから、共連続様またはラメラ様であることが好ましく、プロトン伝導パス構築の観点から共連続様であることが最も好ましい。相分離構造様態がシリンダー様や海島様の場合、プロトン伝導を担うイオン性基量が少ないことにより、プロトン伝導性が低下したり、逆にイオン性基量増加により機械強度が低下したりする場合がある。
【0018】
本発明において、芳香族炭化水素系ポリマー電解質が相分離構造を形成していることは、透過型電子顕微鏡(TEM)観察を5万倍で行った場合に相分離構造が観察されることにより確認することができる。具体的には、相分離構造の平均ドメイン間距離が2nm以上あれば、相分離構造を有しているものとみなすことができる。なお、平均ドメイン間距離は、画像処理を施したTEM像より計測した各ドメイン間距離の平均値から求められる値と定義する。平均ドメイン間距離は、2nm以上、5000nm以下の範囲にあることが好ましく、プロトン伝導性、機械強度、物理的耐久性の観点で、5nm以上、2000nm以下がより好ましい。平均ドメイン間距離が2nmより小さい場合、相分離構造が不明瞭となり、良好なプロトン伝導チャネルが形成されない可能性がある。一方で平均ドメイン間距離が5000nmより大きい場合、プロトン伝導チャネルは形成されるものの、膨潤により機械強度、物理的耐久性に劣る可能性がある。なお、平均ドメイン間距離の測定は、実施例第(5)項に記載の方法で行うものとする。
【0019】
また、相分離構造様態の判別は、TEMトモグラフィー観察により得られた3次元図に対して、縦、横、高さの3方向から切り出したデジタルスライス3面図各々が示す模様を比較することで行う。例えば、前記(A1)と(A2)を含む芳香族炭化水素系ポリマー電解質からなる高分子電解質膜において、その相分離構造が、共連続様またはラメラ様の場合、3面図すべてにおいて(A1)を含むイオン性ドメインと(A2)を含む非イオン性ドメインがともに連続相を形成する。共連続様の場合は連続相のそれぞれが入り組んだ模様を示し、ラメラ様の場合は、連続層が層状に連なった模様を示す。シリンダー構造や海島構造の場合、少なくとも1面で前記ドメインのいずれかが連続相を形成しない。ここで連続相とは、巨視的に見て、個々のドメインが孤立せずに繋がっている相のことを意味するが、一部繋がっていない部分があってもかまわない。
【0020】
なお、TEM観察やTEMトモグラフィーにおいては、イオン性ドメインと非イオン性ドメインの凝集状態やコントラストを明確にするために、2wt%酢酸鉛水溶液中に電解質膜を2日間浸漬することにより、イオン性基を鉛でイオン交換したサンプルを用いることが好ましい。
【0021】
本発明の芳香族炭化水素系ポリマー電解質におけるイオン性ドメインと非イオン性ドメインの体積比は、80/20〜20/80であることが好ましく、60/40〜40/60であることがより好ましい。上記範囲外の場合、プロトン伝導性が不足したり、寸法安定性や機械特性が不足したりする場合がある。 本発明の芳香族炭化水素系ポリマー電解質としては、(A2)に対する(A1)のモル組成比(A1/A2)が、0.20以上であることが好ましく、0.33以上であることがより好ましく、0.50以上がさらに好ましい。また、A1/A2は5.00以下であることが好ましく、3.00以下であることがより好ましく2.50以下であることがさらに好ましい。A1/A2が、0.20未満あるいは5.00を越える場合には、本発明の効果が不十分となる場合があり、低加湿条件下でのプロトン伝導性が不足したり、耐熱水性や物理的耐久性が不足したりする場合があるので好ましくない。ここで、モル組成比A1/A2とは、(A2)中に存在する繰り返し単位のモル数に対する(A1)中に存在する繰り返し単位のモル数の比を表す。「繰り返し単位のモル数」とは、(A1)、(A2)の数平均分子量をそれぞれ対応する構成単位の分子量で除した値であるとする。

また、十分な寸法安定性、機械強度、物理的耐久性、燃料遮断性、耐溶剤性を得るためには、芳香族炭化水素系ポリマー電解質は結晶性を有することがより好ましい。ここで、「結晶性を有する」とはポリマー電解質が昇温すると結晶化されうる結晶化可能な性質を有しているか、あるいは既に結晶化していることを意味する。
【0022】
結晶性の確認は、示差走査熱量分析法(DSC)あるいは広角X線回折によって実施される。本発明の高分子電解質膜は、示差走査熱量分析法によって測定される結晶化熱量が0.1J/g以上もしくは、広角X線回折によって測定される結晶化度が0.5%以上であることが好ましい。すなわち、示差走査熱量分析法において結晶化ピークが認められない場合は、既に結晶化している場合と、ポリマー電解質が非晶性である場合が考えられるが、既に結晶化している場合は広角X線回折によって結晶化度が0.5%以上となる。
【0023】
上記の如き結晶性を有する芳香族炭化水素系ポリマー電解質は、高分子電解質膜の加工性が不良である場合がある。その場合、芳香族炭化水素系ポリマー電解質に保護基を導入し、一時的に結晶性を抑制してもよい。具体的には、保護基を導入した状態で後述する含フッ素高分子多孔質膜と複合化し、その後に脱保護することで、結晶性を有する芳香族炭化水素系ポリマー電解質と含フッ素高分子多孔質膜とが複合化してなる複合層を形成することができる。 本発明に用いる芳香族炭化水素系ポリマー電解質が有するイオン性基は、プロトン交換能を有するものであればよいが、スルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボン酸基が好ましく用いられる。

これらのイオン性基は芳香族炭化水素系ポリマー電解質中に2種類以上含むことができ、組み合わせはポリマーの構造などにより適宜決められる。中でも、高プロトン伝導度の点から、芳香族炭化水素系ポリマーは少なくともスルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基を有することがより好ましく、原料コストの点から少なくともスルホン酸基を有することが最も好ましい。 芳香族炭化水素系ポリマー電解質全体としてのイオン交換容量(IEC)は、プロトン伝導性と耐水性のバランスから、0.1meq/g以上、5.0meq/g以下が好ましい。IECは、1.4meq/g以上がより好ましく、2.0meq/g以上がさらに好ましい。また、3.5meq/g以下がより好ましく、3.0meq/g以下がさらに好ましい。IECが0.1meq/gより小さい場合には、プロトン伝導性が不足する場合があり、5.0meq/gより大きい場合には、耐水性が不足する場合がある。
【0024】
また、(A1)のIECは、低加湿条件下でのプロトン伝導性の点から高いことが好ましく、具体的には2.5meq/g以上が好ましく、3.0meq/g以上がより好ましく、3.5meq/g以上がさらに好ましい。また、上限としては6.5meq/g以下が好ましく、5.0meq/g以下がより好ましく、4.5meq/g以下がさらに好ましい。(A1)のIECが2.5meq/g未満の場合には、低加湿条件下でのプロトン伝導性が不足する場合があり、6.5meq/gを越える場合には、耐熱水性や物理的耐久性が不足する場合がある。
【0025】
(A2)のIECは、耐熱水性、機械強度、寸法安定性、物理的耐久性の点から低いことが好ましく、具体的には1.0meq/g以下が好ましく、0.5meq/g以下がより好ましく、0.1meq/g以下がさらに好ましい。(A2)のIECが1.0meq/gを越える場合には、耐熱水性、機械強度、寸法安定性、物理的耐久性が不足する場合がある。
【0026】
ここで、IECとは、芳香族炭化水素系ポリマー電解質、および高分子電解質膜の単位乾燥重量当たりに導入されたイオン性基のモル量であり、この値が大きいほどイオン性基の導入量が多いことを示す。本発明においては、IECは、中和滴定法により求めた値と定義する。中和滴定によるIECの算出は、実施例第(3)項に記載の方法で行う。

以下、本発明の高分子電解質膜に用いる芳香族炭化水素系ポリマーについて、好ましい具体例を挙げて説明する。
【0027】
本発明に用いられる芳香族炭化水素系ポリマー電解質の主鎖骨格としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリアリーレンエーテル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリパラフェニレン、ポリアリーレン系ポリマー、ポリアリーレンケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレンホスフィンホキシド、ポリエーテルホスフィンホキシド、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミドスルホンが挙げられる。なお、ここでいうポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン等は、その分子鎖にスルホン結合、エーテル結合、ケトン結合を有しているポリマーの総称であり、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンスルホンなどを含む。また、芳香族炭化水素系ポリマー電解質の主鎖骨格は、上記のポリマー構造を複数含むポリマー構造であってもよい。
【0028】
なかでも特にポリエーテルケトン系ポリマーが好ましく、下記のようなイオン性基を含有する構成単位(S1)を含むセグメントと、イオン性基を含有しない構成単位(S2)を含むセグメントとを含有するポリエーテルケトン系ブロック共重合体であることがさらに好ましい。
【0029】
【化1】
【0030】
(一般式(S1)中、Ar〜Arは任意の2価のアリーレン基を表し、Arおよび/またはArはイオン性基を含有し、ArおよびArはイオン性基を含有しても含有しなくても良い。Ar〜Arは任意に置換されていても良く、互いに独立して2種類以上のアリーレン基が用いられても良い。*は一般式(S1)または他の構成単位との結合部位を表す。)
【0031】
【化2】
【0032】
(一般式(S2)中、Ar〜Arは任意の2価のアリーレン基を表し、任意に置換されていても良いが、イオン性基を含有しない。Ar〜Arは互いに独立して2種類以上のアリーレン基が用いられても良い。*は一般式(S2)または他の構成単位との結合部位を表す。)
ここで、Ar〜Arとして好ましい2価のアリーレン基は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、フルオレンジイル基などの炭化水素系アリーレン基、ピリジンジイル、キノキサリンジイル、チオフェンジイルなどのヘテロアリーレン基などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、イオン性基以外の基で置換されていてもよいが、無置換である方がプロトン伝導性、化学的安定性、物理的耐久性の点でより好ましい。さらに、好ましくはフェニレン基とイオン性基を含有するフェニレン基、最も好ましくはp−フェニレン基とイオン性基を含有するp−フェニレン基である。
【0033】
<含フッ素高分子多孔質膜> 本発明の複合高分子電化質膜は、芳香族炭化水素系ポリマー電解質と含フッ素高分子多孔質膜(以下、単に「多孔質膜」という場合がある。)とが複合化してなる複合層を有することにより、上述の(A2)を含むドメインによってもたらされる優れた機械強度及び物理的耐久性がさらに向上している。
【0034】
含フッ素高分子多孔質膜とは、脂肪族炭化水素系ポリマーまたは芳香族炭化水素系ポリマーの化学構造中の少なくとも一部の水素原子(H)がフッ素原子(F)に置換された含フッ素ポリマーからなる膜状部材である。含フッ素ポリマーとしては、当該ポリマーの化学構造中のHの50%以上がFに置き換わったポリマーが好ましい。含フッ素ポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン−パーフルオロプロピルビニルエーテル(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン−パーフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール、ポリパーフルオロブテニルビニルエーテルなどが好ましく用いられ、機械的強度と空隙率のバランスの観点から、ポリテトラフルオロエチレンが最も好ましく用いられる。
【0035】
本発明中の含フッ素高分子多孔質膜における多孔質構造は、上記芳香族炭化水素系ポリマー電解質と複合化できるものであれば特に限定されないが、複合高分子電解質膜の機械強度及び物理的耐久性を向上させる観点からは、多孔質構造の骨格と空隙がそれぞれ連続構造をなしている連続多孔構造(スポンジ構造)、織布構造または不織布構造が好ましい例として挙げられる。
【0036】
多孔質膜の厚みには特に制限はなく、複合高分子電解質膜の用途によって決めるべきものであるが、5〜50μmが実用的に用いられる膜厚である。
【0037】
芳香族炭化水素系ポリマー電解質と複合化する前の多孔質膜の空隙率は、特に限定されないが、得られた複合高分子電解質膜のプロトン伝導性と機械強度の両立の点で、50〜95%が好ましく、80〜95%がより好ましい。なお、多孔質膜の空隙率Y1(体積%)は下記の数式によって求めた値と定義する。
【0038】
Y1=(1−Db/Da)×100
(ここで、Daは多孔質膜を構成する材料の比重(例えば、ポリテトラフルオロエチレン製多孔質膜の場合、ポリテトラフルオロエチレン自体の比重)、Dbは空隙部分を含む多孔質膜全体の比重である。)
本発明においては、多孔質膜として、最表面におけるフッ素の原子組成百分率F(at%)に対する酸素の原子組成百分率O(at%)の比(O/F比)が0.20以上2.0以下のものを用いる。本発明者らの検討の結果、この範囲のO/F比を有する含フッ素高分子多孔質膜を用いて複合層を形成すると、均一な相分離構造を維持しつつ、芳香族炭化水素系ポリマー電解質を含フッ素高分子多孔質膜の空隙中に高充填率で複合化できることが明らかとなった。最表面におけるO/F比が0.20未満の場合、芳香族炭化水素系ポリマー電解質と含フッ素高分子多孔質膜の表面エネルギーの差が大きく、複合層の充填率が低くなる傾向がある。また、最表面部におけるO/F比が2.0より大きい場合、それを用いた複合化電解膜において、均一な相分離構造が観察されない場合がある。詳細は不明だが、発明者らは、ポリマー中の親水性成分である(A1)と含フッ素高分子多孔質膜間の親和性が著しく高くなった結果、(A1)が含フッ素高分子多孔質膜近傍に偏在し、均一な相分離構造が形成されないと推定している。含フッ素高分子多孔質膜再表面のO/F比は0.30以上1.5以下の範囲がより好ましく、0.40以上1.0以下の範囲がさらに好ましい。
【0039】
ここで、多孔質膜の「最表面」とは、多孔質膜を巨視的に見たときの表層(以下、単に「表層」という。)のみではなく、共連続構造部分における骨格の表面も含めた多孔質膜のあらゆる外部との接触面を指すが、本発明においては多孔質膜の表層をX線光電子分光法(XPS)で測定した際のO/F比を多孔質膜の最表面におけるO/F比とみなす。
【0040】
一方、多孔質構造の骨格の内部のO/F比が高くなると、多孔質膜の強度が低下する傾向があるため、多孔質体としては、多孔質膜の最表面が上記のO/F比を有するとともに、骨格内部のO/F比が表層のO/F比よりも小さいことが好ましい。具体的には、多孔質膜の表層をXPSで測定した際のO/F比が0.20以上であり、かつ凍結粉砕により多孔質膜を粉末とし、当該粉末をXPSで測定した際のO/F比が、表層をXPSで測定した際のO/F比の値の2/3未満であることが好ましい。凍結粉砕した粉末のXPS測定値は、多孔質膜の最表面のO/F比と多孔質構造の骨格内部のO/F比の両者を反映した値となる。粉末のO/F比は、表層のO/F比の1/3以上2/3未満であることがより好ましい。
【0041】
多孔質膜の表層および粉末のO/F比の算出は、具体的には実施例第(2)項に記載の方法で行う。なお、ポリマー電解質と複合化した後の複合高分子電解質膜の状態からも、ポリマー電解質を溶媒で抽出することで多孔質膜のみを取り出し、同様の方法で、O/F比を測定することができる。
【0042】
上記のようなO/F比を有する多孔質膜は、多孔質構造の骨格表面にヒドロキシ基やスルホン酸基等の酸素原子を含む親水性基を導入する親水化処理により作製することができ、O/F比が大きいほど親水化度が高いことを意味する。なお、親水化処理については後述する。
【0043】
<複合高分子電解質膜>
本発明の複合高分子電解質膜は、前述の芳香族炭化水素系ポリマー電解質を、前述の含フッ素高分子多孔質膜と複合化してなる複合層を有するものである。複合化とは、多孔質膜の空隙にポリマー電解質が充填されて固まることで、ポリマー電解質と多孔質膜とが一体化することを意味する。
【0044】
複合層におけるポリマー電解質の充填率は50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。複合層の充填率が低下すると、プロトンの伝導パスが失われることにより、発電性能が低下する問題がある。また、含フッ素高分子多孔質膜は、充填率の異なるものを2種以上積層したものであってもよい。なお、複合層におけるポリマー電解質の充填率はIECより計算した値であり、具体的には実施例第(4)項に記載の方法で行うものとする。
【0045】
本発明の複合高分子電解質膜は、複合層を有することで、面内方向の寸法変化率を低減することができる。寸法変化率とは、乾燥状態における複合高分子電解質膜の寸法と湿潤状態における複合化電解質膜の寸法の変化を表す指標であり、具体的な測定は実施例第(6)項に記載の方法で行う。面内方向の寸法変化が少ないことにより、例えば燃料電池に用いた際に、乾湿サイクル時に電解質膜のエッジ部分等に発生する膨潤収縮によるストレスが低減され、耐久性を向上させることができる。複合高分子電解質膜の面内方向の寸法変化率λxyは10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましく、5%以下であることが最も好ましい。
【0046】
また、本発明の複合高分子電解質膜は、複合層を有することで、面内方向の寸法変化率の異方性を小さくすることができる。寸法変化率の異方性が大きい場合、燃料電池のセルデザインを制約したり、寸法変化の大きい方向と直交する方向の電解質膜のエッジに膨潤収縮によるストレスが集中し、その部分から電解質膜の破断が始まりやすくなったりすることがある。複合高分子電解質膜の面内方向における、TD方向の寸法変化率λTDに対するMD方向の寸法変化率λMDの比λMD/λTDは、0.5<λMD/λTD<2.0を満たすことが好ましい。
【0047】
また、同様の理由により、本発明の複合高分子電解質膜は、弾性率および降伏応力のMD/TD方向の異方性も小さくすることができる。
【0048】
本発明の複合化電解質膜における複合層の厚みは、とくに制限されるものでないが、0.5μm以上50μm以下が好ましく、2μm以上40μm以下がさらに好ましい。複合層が厚い場合、電解質膜の物理的耐久性が向上する一方で、膜抵抗が増大する傾向がある。複合層が薄い場合、発電性能が向上する一方で、物理的耐久性に課題が生じ、電気短絡や燃料透過などの問題が生じる傾向がある。
【0049】
複合層を含む複合高分子電解質膜全体の膜厚としては、特に限定されないが、通常3μm以上200μm以下のものが好適に使用される。実用に耐える膜の強度を得るには3μm以上のものが好ましく、膜抵抗低減、発電性能向上のためには200μm以下のものが好ましい。複合高分子電解質膜全体の膜厚は、5μm以上150μm以下がより好ましく、10μm以上100μm以下がさらに好ましく、10μm以上50μm以下が最も好ましい。
【0050】
なお、本発明の複合高分子電解質膜は、複合層のみからなる電解質膜であってもよいが、複合層の両側または片側に接して、ポリマー電解質のみからなる層を有していてもよい。このような層を有するにより、複合高分子電解質膜と電極の接着性を向上させ、界面剥離を抑制することができる。ポリマー電解質からのみなる層を複合層の両側または片側に接して形成する場合、当該層のポリマー電解質は、複合層に用いたポリマー電解質と同じでも異なっていてもよいが、同じポリマー電解質を用いることが好ましい。
【0051】
また、本発明の複合高分子電解質膜は、機械的強度の向上およびイオン性基の熱安定性向上、耐水性向上、耐溶剤性向上、耐ラジカル性向上、塗液の塗工性の向上、保存安定性向上などの目的のために、架橋剤や通常の高分子化合物に使用される結晶化核剤、可塑剤、安定剤、離型剤、酸化防止剤、ラジカル補足剤、無機微粒子などの添加剤を、本発明の目的に反しない範囲で含有するものであってもよい。
【0052】
<複合高分子電解質膜の製造方法>

本発明の複合高分子電解質膜は、XPSによって測定される、最表面におけるO/F比が0.20以上2.0以下である含フッ素高分子多孔質体と、芳香族炭化水素系ポリマー電解質とを複合化することを特徴とする複合高分子電解質膜の製造方法により製造することができる。 多孔質体の最表面のO/F比の調整は、親水化処理により行われる。好ましい親水化処理としては、化学エッチングおよびプラズマ処理を挙げることができる。
【0053】
化学エッチングの場合、エッチング液としては金属ナトリウム−ナフタレン錯体溶液を用いることが好ましい。この場合、多孔質構造の最表面におけるO/F比を0.20以上2.0以下に制御するためには、金属ナトリウム−ナフタレン錯体溶液の温度を10℃以下に設定することが好ましい。また、金属ナトリウム−ナフタレン錯体の溶液を1質量%以下の濃度とし、かつ金属ナトリウム−ナフタレン錯体溶液と親水化前の多孔質膜との接触時間を10秒程度とすることで、多孔質構造の骨格内部の親水化を防止し、骨格内部のO/F比を0.20未満に維持することができる。さらに、金属ナトリウム−ナフタレン錯体は大気中の水分や酸素により劣化するため、雰囲気中の水分量や酸素濃度を低減したグローブボックス内で処理を行うことが好ましい。
【0054】
プラズマ処理の場合、一般的な大気圧プラズマや酸素混合ガスでのプラズマを用いると、機械的強度が著しく低減する場合がある。そのため、RF出力電圧を10W以下に設定することが好ましい。上記のような低いRF出力電圧において、酸素濃度が5%を超えると、プラズマが著しく不安定になり、親水化度を再現性よく制御できない傾向があるため、酸素分圧が5%以下の混合ガスを使用することが好ましい。また、混合ガス導入圧力を10Pa程度に制御することで、プラズマが安定する傾向がある。さらに、処理時間を3分以下のごく短時間に制御することによっても、親水化度を制御できる。さらに、混合ガス中の酸素分圧が変動すると、処理強度が変動するため、親水化度を再現性よく制御するためには、チャンバー内を1Pa以下の真空に保持した後に、混合ガスを導入することが好ましい。
【0055】
なお、多孔質体に親水性樹脂を含む希薄溶液を導入し、乾燥や焼結を行う親水化処理の場合、複合高分子電解質膜に加工し、燃料電池の電解質膜として用いた際に当該親水性樹脂が流出し、多孔質体構造とポリマー電解質との界面にクラックが発生することがある。クラックの発生は、複合化電解質膜を80℃の熱水に1週間浸漬した際の熱水溶出物重量を測定することで予測することがでる。本発明の複合高分子電解質膜は、上記のような親水化処理を行った場合、熱水溶出物重量を熱水浸漬前の複合高分子電解質膜重量に対し1%以下とすることができ、クラックが発生することが少なくなる。
【0056】
次に、上記のように作製した多孔質膜と、芳香族炭化水素系ポリマー電解質とを複合化する。
【0057】
芳香族炭化水素系ポリマー電解質と含フッ素高分子多孔質膜を複合化する方法としては、多孔質膜の空隙にポリマー電解質の溶液を含浸し、溶媒を乾燥して複合高分子電解質膜を製造する方法が挙げられる。具体的には、(1)ポリマー電解質の溶液に浸漬した多孔質膜を引き上げながら余剰のポリマー電解質の溶液を除去して膜厚を制御する方法や、(2)多孔質膜上にポリマー電解質の溶液を流延塗布する方法、(3)ポリマー電解質の溶液を流延塗布した支持基材上に多孔質膜を貼り合わせポリマー電解質の溶液を含浸させる方法などが挙げられる。尚、(1)および(2)の方法においても、別途用意した支持基材に含フッ素多孔体を貼り付けて芳香族炭化水素系ポリマー電解質中の溶媒を乾燥する方法が、複合高分子電解質膜の皺や厚みムラなどが低減でき、膜品位を向上させる点からは好ましい。
【0058】
芳香族炭化水素系ポリマー電解質の溶液に使用する溶媒は、ポリマー種によって適宜選択できる。例えば、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒、γ−ブチロラクトン、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルが好適に用いられ、単独でも二種以上の混合物でもよい。
【0059】
また、ポリマー電解質の粘度調整に、メタノール、エタノール、1‐プロパノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル等のエステル系溶媒、ヘキサン、シクロヘキサンなどの炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、パークロロエチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ヘキサフルオロイソプロピルアルコールなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶媒、アセトニトリルなどのニトリル系溶媒、ニトロメタン、ニトロエタン等のニトロ化炭化水素系溶媒、水などの各種低沸点溶剤を混合して使用することもできる。
【0060】
使用するポリマー電解質溶液中のポリマー濃度は、5〜40重量%が好ましく、10〜25重量%がより好ましい。この範囲のポリマー濃度であれば、含フッ素高分子多孔質膜の空隙にポリマーを充分に充填でき、かつ表面平滑性に優れたプロトン伝導膜を得ることができる。ポリマー濃度が低すぎると、含フッ素高分子多孔質基材の空隙に対するにポリマーの充填効率が低下し、複数回の浸漬処理が必要となる場合がある。一方、ポリマー濃度が高すぎると、溶液粘度が高すぎて、含フッ素高分子多孔質膜の空隙に対し、ポリマーを充分に充填できず、複合層中の充填率が下がったり、複合化電解質膜の表面平滑性が低下したりする場合がある。
【0061】
なお、ポリマー溶液の溶液粘度は、通常100〜50,000mPa・s、好ましくは500〜10,000mPa・sである。溶液粘度が低すぎると、含フッ素高分子多孔質膜をポリマー溶液に浸漬した際に、溶液の滞留性が悪く、多孔質膜から流れてしまうことがある。一方、溶液粘度が高すぎる場合、含フッ素高分子多孔質膜にポリマー溶液が浸透せず。充分に含浸できない場合がある。
【0062】
複合高分子電解質膜の製膜に使用する支持基材としては、特に制限なく公知のものが使用できるが、例えば、ステンレスなどの金属からなるエンドレスベルトやドラム、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホンなどのポリマーからなるフィルム、硝子、剥離紙などが挙げられる。金属は表面に鏡面処理を施したり、ポリマーフィルムは塗工面にコロナ処理を施したり易剥離処理を施したりして使用することが好ましい。さらに、ロール状に連続塗工する場合は、塗工面の裏に易剥離処理を施し、巻き取った後に電解質膜と塗工基材の裏側が接着するのを防止することもできる。フィルムの場合、厚みは特に限定されるものでないが、50μm〜600μmがハンドリングの観点から好ましい。
【0063】
流延塗工方法としては、ナイフコート、ダイレクトロールコート、マイヤーバーコート、グラビアコート、リバースコート、エアナイフコート、スプレーコート、刷毛塗り、ディップコート、ダイコート、バキュームダイコート、カーテンコート、フローコート、スピンコート、スクリーン印刷、インクジェットコートなどの手法が適用できる。含浸時に減圧や加圧、高分子電解質溶液の加温、基材や含浸雰囲気の加温などを実施し、含浸性の向上を図ることも、プロトン伝導性の向上や生産性の向上に好適に用いられる。
【0064】
膜厚は、塗工方法により制御できる。例えば、コンマコーターやダイレクトコーターで塗工する場合は、溶液濃度あるいは基板上への塗布厚により制御することができ、スリットダイコートでは吐出圧や口金のクリアランス、口金と基材のギャップなどで制御することができる。
【0065】
芳香族炭化水素系電解質ポリマーは、イオン性基がアルカリ金属またはアルカリ土類金属の陽イオンと塩を形成している状態で多孔質膜と複合化することが好ましい。この場合、複合化後に当該陽イオンをプロトンと交換することで、プロトン伝導性を発現する複合高分子電解質膜を得ることができる。すなわち、芳香族炭化水素系ポリマー電解質のイオン性基がアルカリ金属またはアルカリ土類金属の陽イオンと塩を形成している状態で前記含フッ素高分子多孔質膜と複合化する工程と、前記アルカリ金属またはアルカリ土類金属の陽イオンをプロトンと交換する工程とをこの順に有する製造方法は、本発明の複合高分子電解質膜の好適な製造方法である。機構の詳細は不明だが、前記イオン性基がアルカリ金属またはアルカリ土類金属のカチオンと塩を形成している状態の芳香族炭化水素系ポリマー電解質と、本発明における親水性が厳密に制御された含フッ素高分子多孔質膜とを複合化した際に、両者の界面エネルギーのバランスがとれ、複合層の充填率が高くなったり、複合相中における均一な相分離構造が発現したりする。
【0066】
陽イオンをプロトンと交換する工程は、複合化後の膜を酸性水溶液と接触させる工程により行うことが好ましく、このような工程としては膜を酸性水溶液に浸漬させる工程が最も好ましい。酸性水溶液としては、硫酸、塩酸、硝酸、酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、メタンスルホン酸、リン酸、クエン酸など特に限定なく使用することができるが、生産性の観点から硫酸水溶液を使用することが好ましい。また、酸性水溶液の濃度は3重量%以上、30重量%以下であることが好ましく、温度は0℃以上80℃以下に調整することが好ましい。
【0067】
厚み30μm以下の複合高分子電解質膜を製造する場合は、酸性溶水液との接触・膨潤時の機械強度が低下し、膜破断が発生しやすくなるため、支持基材から膜状物を剥離することなく酸性溶水液との接触を行なうことが好ましい。
【0068】
本発明の複合高分子電解質膜は、種々の用途に適用可能である。例えば、人工皮膚などの医療用途、ろ過用途、耐塩素性逆浸透膜などのイオン交換樹脂用途、各種構造材用途、電気化学用途、加湿膜、防曇膜、帯電防止膜、脱酸素膜、太陽電池用膜、ガスバリアー膜に適用可能である。中でも種々の電気化学用途により好ましく利用できる。電気化学用途としては、例えば、燃料電池、レドックスフロー電池、水電解装置、クロロアルカリ電解装置、水素圧縮装置等が挙げられる。
【0069】
固体高分子形燃料電池は、電解質膜として水素イオン伝導性高分子電解質膜を用い、その両面に触媒層、電極基材及びセパレータが順次積層された構造となっている。このうち、電解質膜の両面に触媒層を積層させたもの(即ち触媒層/電解質膜/触媒層の層構成のもの)は触媒層付電解質膜(CCM)と称され、さらに電解質膜の両面に触媒層及びガス拡散基材を順次積層させたもの(即ち、ガス拡散基材/触媒層/電解質膜/触媒層/ガス拡散基材の層構成のもの)は、膜電極複合体(MEA)と称されている。
【0070】
触媒層付電解質膜の製造方法としては、電解質膜表面に、触媒層を形成するための触媒層ペースト組成物を塗布及び乾燥させるという塗布方式が一般的に行われている。しかし、この塗布方式であると、電解膜が触媒層ペースト組成物に含まれる溶剤により膨潤変形してしまい、電解質膜表面に所望の触媒層が形成しにくい問題が生じている。この問題を克服するために、予め触媒層のみを基材上に作製し、この触媒層を転写することにより、触媒層を電解質膜上に積層させる方法(転写法)が提案されている(例えば、日本国特開2009−9910号公報)。
【0071】
本発明によって得られる複合高分子電解質膜は、複合層の高い機械強度により、前記塗布方式、転写法のいずれの場合であっても、触媒層付電解質膜としても特に好適に使用できる。
【0072】
MEAを作製する場合は、特に制限はなく公知の方法(例えば、電気化学,1985, 53, p.269.記載の化学メッキ法、電気化学協会編(J. Electrochem. Soc.)、エレクトロケミカル サイエンス アンド テクノロジー (Electrochemical Science and Technology),1988, 135, 9, p.2209. 記載のガス拡散電極の熱プレス接合法など)を適用することが可能である。
【0073】
プレスにより電解質膜と電極基材とを一体化する場合は、その温度や圧力は、電解質膜の厚さ、水分率、触媒層や電極基材により適宜選択すればよい。また、本発明では電解質膜が乾燥した状態または吸水した状態でもプレスによる一体化が可能である。具体的なプレス方法としては、圧力やクリアランスを規定したロールプレスや、圧力を規定した平板プレス、複数個のローラーに組付けられた弾性を有した対向するエンドレスベルトにより圧着するダブルベルトプレスなどが挙げられる。工業的生産性やイオン性基を有する高分子材料の熱分解抑制などの観点から、これらのプレス工程は0℃〜250℃の範囲で行うことが好ましい。加圧は電解質膜や電極保護の観点からできる限り弱い方が好ましく、平板プレスの場合、10MPa以下の圧力が好ましい。
【0074】
また、プレス工程による一体化を実施せずに、電極と電解質膜を重ね合わせ燃料電池セル化することも、アノード、カソード電極の短絡防止の観点から好ましい選択肢の一つである。この方法の場合、燃料電池として発電を繰り返した場合、短絡箇所が原因と推測される電解質膜の劣化が抑制される傾向があり、燃料電池として耐久性が良好となる。
【0075】
なお、このように作製したMEAは、水電解装置や水素圧縮装置等の他の電気化学用途にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各種測定条件は次の通りである。
【0077】
(1)ポリマー電解質溶液の分子量
ポリマー溶液の数平均分子量及び重量平均分子量をGPCにより測定した。紫外検出器と示差屈折計の一体型装置として東ソー製HLC−8022GPCを、またGPCカラムとして東ソー製TSK gel SuperHM−H(内径6.0mm、長さ15cm)2本を用い、N−メチル−2−ピロリドン溶媒(臭化リチウムを10mmol/L含有するN−メチル−2−ピロリドン溶媒)にて、流量0.2mL/minで測定し、標準ポリスチレン換算により数平均分子量及び重量平均分子量を求めた。
【0078】
(2)XPSによる含フッ素高分子多孔質膜の親水化度合いの測定
最表面組成測定サンプルは、検体となる含フッ素高分子多孔質膜を超純水でリンスした後、室温、67Paにて10時間乾燥させることにより、準備した。粉末組成測定サンプルは、予め5mm角の大きさに切断した含フッ素高分子多孔質膜を超純水でリンスし、室温、67Paにて10時間乾燥させた後、液体窒素で30分冷却し、凍結粉砕機にて5分間の処理を2回実施することにより、準備した。準備したそれぞれのサンプルの組成を測定し、O/F比を算出した。測定装置、条件としては、以下の通りである。
測定装置: Quantera SXM
励起X線: monochromatic Al Kα1,2 線(1486.6eV)
X線径: 200μm
光電子脱出角度: 45 °
イオンエッチング
(3)イオン交換容量(IEC)
下記の手順に従い、中和滴定法により測定した。測定は3回実施し、その平均値をイオン交換容量とした。
1.プロトン置換し、純水で十分に洗浄した複合高分子電解質膜の膜表面の水分を拭き取った後、100℃にて12h以上真空乾燥し、乾燥重量を求めた。
2.電解質に5wt%硫酸ナトリウム水溶液を50mL加え、12h静置してイオン交換した。
3.0.01mol/L水酸化ナトリウム水溶液を用いて、生じた硫酸を滴定した。指示薬として市販の滴定用フェノールフタレイン溶液0.1w/v% を加え、薄い赤紫色になった点を終点とした。
4.IECは下記式により求めた。
IEC(meq/g)=〔水酸化ナトリウム水溶液の濃度(mmol/ml)×滴下量(ml)〕/試料の乾燥重量(g)
(4)複合層における芳香族炭化水素系ポリマー電解質の充填率
光学顕微鏡または走査形電子顕微鏡(SEM)で複合高分子電解質膜の断面を観察し芳香族炭化水素系ポリマー電解質と含フッ素高分子多孔質膜からなる複合層の厚みをT1、複合層の外側に別の層がある場合はそれらの厚みをT2、T3とした。複合化層を形成する電解質ポリマーの比重をD1、複合層の両側の別の層を形成する電解質ポリマーの比重をそれぞれのD2、D3、複合高分子電解質膜の比重をDとした。それぞれの層を形成するポリマーのIECをI1、I2、I3、複合高分子電解質膜のIECをIとすると、複合化層中の芳香族炭化水素系ポリマー電解質の含有率Y2(体積%)、は下式で求めた。
Y2=[(T1+T2+T3)×D×I−(T2×D2×I2+T3×D3×I3)]/(T1×D1×I1)×100
(5)透過型電子顕微鏡(TEM)トモグラフィーによる相分離構造の観察
染色剤として2wt%酢酸鉛水溶液中に試料片を浸漬させ、25℃下で48時間静置して染色処理を行った。染色処理された試料を取りだし、エポキシ樹脂で包埋し、可視光を30秒照射し固定した。ウルトラミクロトームを用いて室温下で薄片100nmを切削し、以下の条件に従って観察を実施した。
装 置:電界放出型電子顕微鏡 (HRTEM) JEOL 製 JEM2100F
画像取得:Digital Micrograph
システム:マーカー法
加速電圧 :200 kV
撮影倍率 :30,000 倍
傾斜角度 :+61°〜−62°
再構成解像度:0.71 nm/pixel
3次元再構成処理は、マーカー法を適用した。3次元再構成を実施する際の位置合わせマーカーとして、コロジオン膜上に付与したAuコロイド粒子を用いた。マーカーを基準として、+61°から−62°の範囲で、試料を1°毎に傾斜しTEM 像を撮影する連続傾斜像シリーズより取得した計124 枚のTEM像を基にCT再構成処理を実施し、3次元相分離構造を観察した。
【0079】
また、画像処理は、ルーゼックス(登録商標)AP(ニレコ社製)を使用して、TEM原画像に対し、オートモードで、濃度ムラ補正、濃度変換、空間フィルターの処理を実行した。さらに、処理された画像に対し、該装置のオートモードで、黒色から白色まで256階調で表現させ、0〜128を黒色、129〜256を白色と定義することにより(A1)を含むドメインと(A2)を含むドメインを色分けし、各ドメイン間距離を計測した上で、その平均値を平均ドメイン間距離とした。
【0080】
(6)熱水試験による寸法変化率測定
複合高分子電解質膜を約5cm×約5cmの正方形に切り取り、温度23℃±5℃、湿度50%±5%の調温調湿雰囲気下に24時間静置後、ノギスでMD方向の長さとTD方向の長さ(MD1とTD1)を測定した。当該電解質膜を80℃の熱水中に8時間浸漬後、再度ノギスでMD方向の長さとTD方向の長さ(MD2とTD2)を測定し、面内方向におけるMD方向とTD方向の寸法変化率(λMDとλTD)および面内方向の寸法変化率(λxy)(%)を下式より算出した。
λMD=(MD2−MD1)/MD1×100
λTD=(TD2−TD1)/TD1×100
λxy=(λMD+λTD)/2
(7)複合高分子電解質膜を使用した膜電極複合体(MEA)の作製
市販の電極、BASF社製燃料電池用ガス拡散電極“ELAT(登録商標)LT120ENSI”5g/mPtを5cm角にカットしたものを1対準備し、燃料極、酸化極として複合高分子電解質膜を挟むように対向して重ね合わせ、150℃、5MPaで3分間加熱プレスを行い、評価用MEAを得た。
【0081】
(8)低加湿発電性能
上記(7)で作製したMEAを英和(株)製JARI標準セル“Ex−1”(電極面積25cm2)にセットし、セル温度90℃、燃料ガス:水素、酸化ガス:空気、ガス利用率:水素70%/酸素40%、加湿条件;アノード側30%RH/カソード30%RH、背圧0.1MPa(両極)において電流−電圧(I−V)測定した。1A/cm時の電圧を読み取り評価した。
【0082】
(9)乾湿サイクル耐久性
上記(7)で作製したMEAを英和(株)製JARI標準セル“Ex−1”(電極面積25cm2)にセットし、セル温度80℃の状態で、両極に160%RHの窒素を2分間供給し、その後両電極に0%RHの窒素(露点−20℃以下)を2分間供給するサイクルを繰り返した。1000サイクルごとに水素透過量の測定を実施し、水素透過電流が初期電流の10倍を越えた時点を乾湿サイクル耐久性とした。
【0083】
水素透過量の測定は、一方の電極に燃料ガスとして水素、もう一方の電極に窒素を供給し、加湿条件:水素ガス90%RH、窒素ガス:90%RHで試験を行った。開回路電圧が0.2V以下になるまで保持し、0.2〜0.7Vまで1mV/secで電圧を掃引し0.7Vにおける電流値を水素透過電流とした。
【0084】
合成例1
(下記式(G1)で表される2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン(K−DHBP)の合成)
攪拌器、温度計及び留出管を備えた 500mlフラスコに、4,4′−ジヒドロキシベンゾフェノン49.5g、エチレングリコール134g、オルトギ酸トリメチル96.9g及びp−トルエンスルホン酸1水和物0.50gを仕込み溶解する。その後78〜82℃で2時間保温攪拌した。更に、内温を120℃まで徐々に昇温、ギ酸メチル、メタノール、オルトギ酸トリメチルの留出が完全に止まるまで加熱した。この反応液を室温まで冷却後、反応液を酢酸エチルで希釈し、有機層を5%炭酸カリウム水溶液100mlで洗浄し分液後、溶媒を留去した。残留物にジクロロメタン80mlを加え結晶を析出させ、濾過し、乾燥して2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン52.0gを得た。この結晶をGC分析したところ99.9%の2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソランと0.1%の4,4′−ジヒドロキシベンゾフェノンであった。
【0085】
【化3】
【0086】
合成例2
(下記式(G2)で表されるジソジウムー3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノンの合成)
4,4’−ジフルオロベンゾフェノン109.1g(アルドリッチ試薬)を発煙硫酸(50%SO)150mL(和光純薬試薬)中、100℃で10h反応させた。その後、多量の水中に少しずつ投入し、NaOHで中和した後、食塩200gを加え合成物を沈殿させた。得られた沈殿を濾別し、エタノール水溶液で再結晶し、下記一般式(G2)で示されるジソジウム3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノンを得た。純度は99.3%であった。
【0087】
【化4】
【0088】
合成例3
(下記式(G3)で表されるイオン性基を含有しないオリゴマーの合成)
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean−Starkトラップを備えた1000mL三口フラスコに、炭酸カリウム16.59g(アルドリッチ試薬、120mmol)、前記合成例1で得たK−DHBP25.8g(100mmol)および4,4’−ジフルオロベンゾフェノン20.3g(アルドリッチ試薬、93mmol)を入れ、窒素置換後、N−メチルピロリドン(NMP)300mL、トルエン100mL中で160℃で脱水後、昇温してトルエン除去、180℃で1時間重合を行った。多量のメタノールに再沈殿精製を行い、イオン性基を含有しないオリゴマーa1(末端:ヒドロキシル基)を得た。数平均分子量は10000であった。
【0089】
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean−Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム1.1g(アルドリッチ試薬、8mmol)、イオン性基を含有しない前記オリゴマーa1(末端:ヒドロキシル基)を20.0g(2mmol)を入れ、窒素置換後、N−メチルピロリドン(NMP)100mL、トルエン30mL中で100℃で脱水後、昇温してトルエンを除去し、デカフルオロビフェニル4.0g(アルドリッチ試薬、12mmol)を入れ、105℃で1時間反応を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、下記式(G3)で示されるイオン性基を含有しないオリゴマー(末端:フルオロ基)を得た。数平均分子量は11000であった。
【0090】
【化5】
【0091】
合成例4
(下記式(G4)で表されるイオン性基を含有するオリゴマーの合成)
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean−Starkトラップを備えた1000mL三口フラスコに、炭酸カリウム27.6g(アルドリッチ試薬、200mmol)、前記合成例1で得たK−DHBP12.9g(50mmol)および4,4’−ビフェノール9.3g(アルドリッチ試薬、50mmol)、前記合成例2で得たジソジウム 3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン39.3g(93mmol)、および18−クラウン−6 、17.9g(和光純薬82mmol)を入れ、窒素置換後、N−メチルピロリドン(NMP)300mL、トルエン100mL中で170℃で脱水後、昇温してトルエン除去、180℃で1時間重合を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、下記式(G4)で示されるイオン性基を含有するオリゴマー(末端:ヒドロキシル基)を得た。数平均分子量は16000であった。
【0092】
【化6】
【0093】
(式(G4)において、Mは、NaまたはKを表す。)
合成例5
(下記式(G5)で表される3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチルの合成)
攪拌機、冷却管を備えた3Lの三口フラスコに、クロロスルホン酸245g(2.1mol)を加え、続いて2,5−ジクロロベンゾフェノン105g(420mmolを加え、100℃のオイルバスで8時間反応させた。所定時間後、反応液を砕氷1000gにゆっくりと注ぎ、酢酸エチルで抽出した。有機層を食塩水で洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥後、酢酸エチルを留去し、淡黄色の粗結晶3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸クロリドを得た。粗結晶は精製せず、そのまま次工程に用いた。
【0094】
2,2−ジメチル−1−プロパノール(ネオペンチルアルコール)41.1g(462mmol)をピリジン300mLに加え、約10℃に冷却した。ここに上記で得られた粗結晶を約30分かけて徐々に加えた。全量添加後、さらに30分撹拌し反応させた。反応後、反応液を塩酸水1000mL中に注ぎ、析出した固体を回収した。得られた固体を酢酸エチルに溶解させ、炭酸水素ナトリウム水溶液、食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥後、酢酸エチルを留去し、粗結晶を得た。これをメタノールで再結晶し、下記式G5で表される3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチルの白色結晶を得た。
【0095】
【化7】
【0096】
合成例6
(下記式(G6)で表されるイオン性基を含有しないオリゴマーの合成)
撹拌機、温度計、冷却管、Dean−Stark管、窒素導入の三方コックを取り付けた1lの三つ口のフラスコに、2,6−ジクロロベンゾニトリル49.4g(0.29mol)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン88.4g(0.26mol)、炭酸カリウム47.3g(0.34mol)をはかりとった。窒素置換後、スルホラン346ml、トルエン173mlを加えて攪拌した。フラスコをオイルバスにつけ、150℃に加熱還流させた。反応により生成する水をトルエンと共沸させ、Dean−Stark管で系外に除去しながら反応させると、約3時間で水の生成がほとんど認められなくなった。反応温度を徐々に上げながら大部分のトルエンを除去した後、200℃で3時間反応を続けた。次に、2,6−ジクロロベンゾニトリル12.3g(0.072mol)を加え、さらに5時間反応した。
【0097】
得られた反応液を放冷後、トルエン100mlを加えて希釈した。副生した無機化合物の沈殿物を濾過除去し、濾液を2lのメタノール中に投入した。沈殿した生成物を濾別、回収し乾燥後、テトラヒドロフラン250mlに溶解した。これをメタノール2lに再沈殿し、下記式(G6)で表される目的の化合物107gを得た。数平均分子量は11000であった。
【0098】
【化8】
【0099】
合成例7
(下記式(G7)で表されるテトラソジウム 3,5,3’,5’−テトラスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノンの合成)
かき混ぜ機、濃縮管を備えた1000mL三口フラスコに、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン109.1g(アルドリッチ試薬)、発煙硫酸(60%SO3)210mL(アルドリッチ試薬)を加え、濃縮管上部に接続した窒素導入管、および、系外に向けたバブラーに向けて、激しく窒素を流しながら、180℃で24h反応させた。この際、窒素を激しく流すことにより、三酸化硫黄の蒸発は抑制されていた。多量の水中に少しずつ投入し、NaOHで中和した後、エタノールで硫酸ナトリウムを3回析出させて除去し、下記式(G7)で示されるスルホン酸基含有芳香族化合物を得た。構造は1H−NMRで確認した。原料、ジスルホン化物、トリスルホン化物は全く認められず、高純度のテトラスルホン化物を得ることができた。
【0100】
【化9】
【0101】
合成例8
(下記式(G8)で表されるスルホン酸基を含有するオリゴマーの合成)
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean−Starkトラップを備えた1000mL三口フラスコに、炭酸カリウム41.5g(アルドリッチ試薬、300mmol)、前記合成例1で得たK−DHBP12.9g(50mmol)および4,4’−ビフェノール9.3g(アルドリッチ試薬、50mmol)、前記実施例7で得たスルホン酸基含有芳香族化合物58.3g(93mmol)、および18−クラウン−6 、49.1g(和光純薬186mmol)を入れ、窒素置換後、N−メチルピロリドン(NMP)400mL、トルエン150mL中で170℃で脱水後、昇温してトルエン除去、220℃で1時間重合を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、下記式(G8)で示されるスルホン酸基を含有するオリゴマー(末端ヒドロキシル基)を得た。数平均分子量は16000であった。
【0102】
【化10】
【0103】
(式(G8)において、Mは、NaまたはKを表す。)
合成例9
(下記式(G10)で表されるセグメントと下記式(G11)で表されるセグメントからなるポリエーテルスルホン(PES)系ブロックコポリマー前駆体の合成)
無水塩化ニッケル1.62gとジメチルスルホキシド15mLとを混合し、70℃に調整した。これに、2,2’−ビピリジル2.15gを加え、同温度で10分撹拌し、ニッケル含有溶液を調製した。
【0104】
ここに、2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸(2,2−ジメチルプロピル)1.49gと下記式(G9)で示される、スミカエクセルPES5200P(住友化学社製、Mn=40,000、Mw=94,000)0.50gとを、ジメチルスルホキシド5mLに溶解させて得られた溶液に、亜鉛粉末1.23gを加え、70℃に調整した。これに前記ニッケル含有溶液を注ぎ込み、70℃で4時間重合反応を行った。反応混合物をメタノール60mL中に加え、次いで、6mol/L塩酸60mLを加え1時間攪拌した。析出した固体を濾過により分離し、乾燥し、灰白色の下記式(G10)で表されるセグメントと下記式(G11)で表されるセグメントとを含むポリアリーレン1.62gを得た。重量平均分子量は20万であった。
【0105】
【化11】
【0106】
合成例10
(下記式(G12)で表されるポリスルホン(PSU)の合成)
撹拌機、窒素導入管、温度計、及び先端に受器を付したコンデンサーを備えた容量2000mlの重合槽に、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン61.4g(214mmol)、ビスフェノールA47.8g(210mmol)、及び重合溶媒としてジフェニルスルホン78.4gを入れ、系内に窒素ガスを流通させながら180℃まで昇温した後、無水炭酸カリウム30.1gを加え、290℃まで徐々に昇温し、290℃で2時間反応させた。
【0107】
次いで、ジフェニルスルホン78.4gを加えて180℃まで降温させ、微粉状の無水炭酸カリウム198mgを添加し、5分間撹拌して分散させた後、水酸化アルミニウム(住友化学(株)製「CW−375HT」)500mgを添加し、15分間攪拌した。
【0108】
攪拌終了後、塩化メチルガスを30分吹き込み、直ちに反応液を150℃で熱時濾過して、水酸化アルミニウム残渣及び炭酸カリウム残渣を濾別し、その濾液を冷却固化させた後、粉砕し、中心粒径400μmの粉体を得た。この粉体を、アセトンとメタノールとの混合溶媒1000mlで2回の抽出洗浄を行い、さらに水1000mlを用いて2回洗浄した後、150℃で乾燥させて、白色粉末状のポリスルホンを得た。
【0109】
【化12】
【0110】
製造例1
(イオン性基を含有するセグメント(A1)として前記(G4)で表されるオリゴマー、イオン性基を含有しないセグメント(A2)として前記(G3)で表されるオリゴマーを含有するブロック共重合体b1からなるポリマー電解質溶液Aの製造例)
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean−Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム0.56g(アルドリッチ試薬、4mmol)、イオン性基を含有するオリゴマーa2(末端:ヒドロキシル基)を16g(1mmol)入れ、窒素置換後、N−メチルピロリドン(NMP)100mL、シクロヘキサン30mL中で100℃で脱水後、昇温してシクロヘキサン除去し、イオン性基を含有しないオリゴマーa1(末端:フルオロ基)11g(1mmol)を入れ、105℃で24時間反応を行った。多量のイソプロピルアルコールへの再沈殿精製により、ブロック共重合体b1を得た。重量平均分子量は34万であった。
【0111】
得られたブロック共重合体b1を溶解させた5重量%N−メチルピロリドン(NMP)溶液を、久保田製作所製インバーター・コンパクト高速冷却遠心機(型番6930にアングルローターRA−800をセット、25℃、30分間、遠心力20000G)で重合原液の直接遠心分離を行った。沈降固形物(ケーキ)と上澄み液(塗液)がきれいに分離できたので上澄み液を回収した。次に、撹拌しながら80℃で減圧蒸留し、1μmのポリプロピレン製フィルターを用いて加圧ろ過し、ポリマー電解質溶液Aを得た。ポリマー電解質溶液Aの粘度は1300mPa・sであった。
【0112】
製造例2
(下記一般式(G13)で表されるポリアリーレン系ブロック共重合体b2からなるポリマー電解質溶液Bの製造例)
乾燥したN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)540mlを、3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチル135.0g(0.336mol)と、合成例6で合成した式(G6)で表されるイオン性基を含有しないオリゴマーを40.7g(5.6mmol)、2,5−ジクロロ−4’−(1−イミダゾリル)ベンゾフェノン6.71g(16.8mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリド6.71g(10.3mmol)、トリフェニルホスフィン35.9g(0.137mol)、ヨウ化ナトリウム1.54g(10.3mmol)、亜鉛53.7g(0.821mol)の混合物中に窒素下で加えた。
【0113】
反応系を撹拌下に加熱し(最終的には79℃まで加温)、3時間反応させた。反応途中で系中の粘度上昇が観察された。重合反応溶液をDMAc730mlで希釈し、30分撹拌し、セライトを濾過助剤に用い、濾過した。
【0114】
前記濾液をエバポレーターで濃縮し、濾液に臭化リチウム43.8g(0.505mol)を加え、内温110℃で7時間、窒素雰囲気下で反応させた。反応後、室温まで冷却し、アセトン4lに注ぎ、凝固した。凝固物を濾集、風乾後、ミキサーで粉砕し、1N塩酸1500mlで攪拌しながら洗浄を行った。濾過後、生成物は洗浄液のpHが5以上となるまで、イオン交換水で洗浄後、80℃で一晩乾燥し、目的のポリアリーレン系ブロック共重合体23.0gを得た。この脱保護後のポリアリーレン系ブロック共重合体の重量平均分子量は、19万であった。得られたポリアリーレン系ブロック共重合体を、0.1g/gとなるように、N−メチルー2−ピロリドン/メタノール=30/70(質量%)有機溶媒に溶解してポリマー電解質溶液Bを得た。ポリマー電解質溶液Bの粘度は1200mPa・sであった。
【0115】
【化13】
【0116】
製造例3
(ランダム共重合体b3からなるポリマー電解質溶液Cの製造例)
撹拌機、窒素導入管、Dean−Starkトラップを備えた5Lの反応容器に、合成例1で合成した2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン129g、4,4’−ビフェノール93g(アルドリッチ試薬)、および合成例2で合成したジソジウム−3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン422g(1.0mol)を入れ、窒素置換後、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)3000g、トルエン450g、18−クラウン−6 232g(和光純薬試薬)を加え、モノマーが全て溶解したことを確認後、炭酸カリウム304g(アルドリッチ試薬)を加え、環流しながら160℃で脱水後、昇温してトルエン除去し、200℃で1時間脱塩重縮合を行った。重量平均分子量は32万であった。
【0117】
次に重合原液の粘度が500mPa・sになるようにNMPを添加して希釈し、久保田製作所製インバーター・コンパクト高速冷却遠心機(型番6930にアングルローターRA−800をセット、25℃、30分間、遠心力20000G)で重合原液の直接遠心分離を行った。沈降固形物(ケーキ)と上澄み液(塗液)がきれいに分離できたので上澄み液を回収した。次に、撹拌しながら80℃で減圧蒸留し、ポリマー濃度が20重量%になるまでNMPを除去し、さらに5μmのポリエチレン製フィルターで加圧濾過してポリマー電解質溶液Cを得た。ポリマー電解質溶液Cの粘度は1000mPa・sであった。
【0118】
製造例4
(イオン性基を含有するセグメント(A1)として前記(G7)で表されるオリゴマー、イオン性基を含有しないセグメント(A2)として前記(G3)で表されるオリゴマーを含有するブロック共重合体b4からなるポリマー電解質溶液Dの製造例)
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean−Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム5.5g、前記合成例1で得た2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキサン混合物5.2g、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン2.2g、および前記実施例8で得た、上記式(G7)で示されるスルホン酸基含有芳香族化合物6.3g、18−クラウン−6−エーテル2.6gを用いて、N−メチルピロリドン(NMP)50mL/トルエン40mL中、180℃で脱水後、昇温してトルエン除去、240℃で3時間重合を行った。多量の水で再沈することで精製を行い、ケタール基を有する前駆体ポリマーを得た。重量平均分子量は22万であった。
【0119】
次に重合原液の粘度が500mPa・sになるようにNMPを添加して希釈し、久保田製作所製インバーター・コンパクト高速冷却遠心機(型番6930にアングルローターRA−800をセット、25℃、30分間、遠心力20000G)で重合原液の直接遠心分離を行った。沈降固形物(ケーキ)と上澄み液(塗液)がきれいに分離できたので上澄み液を回収した。次に、撹拌しながら80℃で減圧蒸留し、さらに1μmのポリエチレン製フィルターで加圧濾過してポリマー電解質溶液Dを得た。ポリマー電解質溶液Dの粘度は1000mPa・sであった。
【0120】
製造例5
(式(G11)で表されるセグメントと下記式(G14)で表されるセグメントからなるPES系ブロックコポリマーb5からなるポリマー電解質溶液Eの合成)
合成例9で得られたブロックコポリマー前駆体0.23gを、臭化リチウム1水和物0.16gとN−メチル−2−ピロリドン8mLとの混合溶液に加え、120℃で24時間反応させた。反応混合物を、6mol/L塩酸80mL中に注ぎ込み、1時間撹拌した。析出した固体を濾過により分離した。分離した固体を乾燥し、灰白色の式(G11)で示されるセグメントと下記式(G14)で表されるセグメントからなるブロックコポリマーb4を得た。得られたポリアリーレンの重量平均分子量は18万であった。
【0121】
次に重合原液の粘度が500mPa・sになるようにNMPを添加して希釈し、久保田製作所製インバーター・コンパクト高速冷却遠心機(型番6930にアングルローターRA−800をセット、25℃、30分間、遠心力20000G)で重合原液の直接遠心分離を行った。沈降固形物(ケーキ)と上澄み液(塗液)がきれいに分離できたので上澄み液を回収した。次に、撹拌しながら80℃で減圧蒸留し、さらに5μmのポリエチレン製フィルターで加圧濾過してポリマー電解質溶液Eを得た。ポリマー電解質溶液Eの粘度は1000mPa・sであった。
【0122】
【化14】
【0123】
製造例6
(イオン性基を含有するセグメント(A1)として前記(G4)で表されるオリゴマー、イオン性基を含有しないセグメント(A2)として前記(G3)で表されるオリゴマーを含有するブロック共重合体b1’からなるポリマー電解質溶液Fの製造例)
イオン性基を含有するオリゴマーa2(末端:ヒドロキシル基)を14g(0.9mmol)、イオン性基を含有しないオリゴマーa1(末端:フルオロ基)12g(1.1mmol)とした以外は、製造例1と同様にブロック共重合体b1’を製造した。ブロック共重合体b1’の重量平均分子量は29万であった。次に、製造例1と同様にポリマー電解質溶液Fを得た。ポリマー電解質溶液Fの粘度は950mPa・sであった。
【0124】
製造例7
(イオン性基を含有するセグメント(A1)として下記式(G15)で表される側鎖、イオン性基を含有しないセグメント(A2)として前記式(G12)で表されるポリマーを含有するグラフト共重合体b6からなるポリマー電解質前駆体溶液Gの製造例)
合成例10で得られたPSU粉末3.0gをコック付きのガラス製セパラブル容器に入れて脱気後、ガラス容器内をアルゴンガスで置換した。この状態で、PSU粉末に60Co線源からのγ線を室温で100kGy照射した。引き続いて、このガラス容器中に、アルゴンガスのバブリングにより脱気したp−スチレンスルホン酸ナトリウム300g、イソプロピルアルコール300gからなる溶液を、照射されたPSU粉末が浸漬するよう添加し、アルゴンガスで置換した後、ガラス容器を密閉し、80℃で12時間放置した。得られたグラフトポリマーをイソプロピルアルコールで洗浄し乾燥した。
【0125】
得られたグラフトポリマー2gを、N−メチルピロリドン(NMP)30gに溶解させ、ポリマー電解質前駆体溶液Gを得た。ポリマー電解質溶液Gの粘度は1300mPa・sであった。
【0126】
【化15】
【0127】
製造例8
(含フッ素高分子多孔質膜Aの製造例)
ポアフロンHP−045−30(住友電工ファインポリマー株式会社製)を縦横方向に2.5倍延伸することにより、膜厚10μm、空孔率80%のポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルムを作製した。露点−80℃のグローブボックス内において、金属ナトリウム−ナフタレン錯体/テトラヒドロフラン(THF)1%溶液10g、THF90gからなる溶液に前記ポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルムを浸漬し、3秒経過後に引き上げ、すぐにTHFで十分洗浄した。得られた含フッ素高分子多孔質膜Aの、親水化度合いを示す最表面のO/F比は0.62であった。粉末のO/F比は0.28であり、強靭なフィルムであった。
【0128】
製造例9
(含フッ素高分子多孔質膜Bの製造例)
ポアフロンHP−045−30(住友電工ファインポリマー株式会社製)を縦横方向に2.5倍延伸することにより得た膜厚10μm、空孔率80%のポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルムを、露点−80℃のグローブボックス内において、金属ナトリウム−ナフタレン錯体/THF1%溶液30g、THF70gからなる溶液に浸漬し、3秒経過後に引き上げ、すぐにTHFで十分洗浄した。得られた含フッ素高分子多孔質膜Bの、親水化度合いを示す最表面のO/F比は2.33であった。粉末のO/F比は1.88であり、十分強靭なフィルムであった。
【0129】
製造例10
(含フッ素高分子多孔質膜Cの製造例)
ポアフロンHP−045−30(住友電工ファインポリマー株式会社製)を縦横方向に2.5倍延伸することにより得た膜厚10μm、空孔率80%のポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルムに対し、プラズマ処理を施した。処理にはSAMCO RIE N100を用い、酸素3%/アルゴン97%混合ガスを9.5Paの圧力に調整し、10WのRF出力で2分間処理を行った。得られた含フッ素高分子多孔質膜Cの、親水化度合いを示す最表面のO/F比は0.32であった。粉末のO/F比は0.19であり、強靭なフィルムであった。
【0130】
製造例11
(含フッ素高分子多孔質膜Dの製造例)
ポアフロンHP−045−30(住友電工ファインポリマー株式会社製)を縦横方向に2.5倍延伸することにより得た膜厚10μm、空孔率80%のポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルムに対し、プラズマ処理を施した。処理にはSAMCO RIE N100を用い、酸素1%/アルゴン99%混合ガスを9.5Paの圧力に調整し、10WのRF出力で1分間処理を行った。得られた含フッ素高分子多孔質膜Dの、親水化度合いを示す最表面のO/F比は0.13であった。粉末のO/F比は0.05であり、強靭なフィルムであった。
【0131】
製造例12
(含フッ素高分子多孔質膜Eの製造例)
ポアフロンHP−045−30(住友電工ファインポリマー株式会社製)を縦横方向に2.5倍延伸することにより得た膜厚10μm、空孔率80%のポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルムを、ポリエチレングリコール4000(和光純薬試薬)20%/アセトン80%溶液に1時間浸漬し、引き上げた後に室温で十分乾燥させた。得られた含フッ素高分子多孔質膜Eの、親水化度合いを示す最表面のO/F比は1.53であった。粉末のO/F比は0.45であり、強靭なフィルムであった。
【0132】
[実施例1]
ナイフコーターを用い、製造例1で製造したポリマー電解質溶液Aをガラス基板上に流延塗布し、製造例8で製造した含フッ素高分子多孔質膜Aを貼り合わせた。室温にて1h保持し、ポリマー電解質溶液Aを十分含浸させた後、100℃にて4h乾燥した。乾燥後の膜の上面に、再度ポリマー電解質溶液Aを流延塗布し、室温にて1h保持した後、100℃にて4h乾燥し、フィルム状の重合体を得た。10重量%硫酸水溶液に80℃で24時間浸漬してプロトン置換、脱保護反応した後に、大過剰量の純水に24時間浸漬して充分洗浄し、複合高分子電解質膜(膜厚11μm)を得た。
【0133】
得られた複合高分子電解質膜について、IEC、複合化層中の充填率、面内方向と膜厚方向の寸法変化率の比λxy、相分離構造の有無ならびにその形態および平均ドメイン間距離、低加湿発電性能および乾湿サイクル耐久性を評価した。評価結果は下記表1に示す。なお、乾湿サイクル耐久性に関して、20000サイクルを超えても水素透過電流が初期電流の10倍を越えなかったため、20000サイクルで評価を打ち切った。
【0134】
[実施例2]
含フッ素高分子多孔質膜Aの代わりに製造例10で製造した含フッ素高分子多孔質膜Cを使用した以外は、実施例1と同様にして複合高分子電解質膜(膜厚12μm)を得た。
【0135】
得られた複合高分子電解質膜は、IEC、複合化層中の充填率、λxy、相分離構造の有無ならびにその形態および平均ドメイン間距離、低加湿発電性能および乾湿サイクル耐久性を評価した。評価結果は下記表1に示す。なお、乾湿サイクル耐久性に関して、20000サイクルを超えても水素透過電流が初期電流の10倍を越えなかったため、20000サイクルで評価を打ち切った。
【0136】
[実施例3]
ポリマー電解質溶液Aの代わりに製造例2で製造したポリマー電解質溶液Bを使用した以外は、実施例1と同様にして複合高分子電解質膜(膜厚14μm)を得た。
【0137】
[実施例4]
含フッ素高分子多孔質膜Aの代わりに製造例12で製造した含フッ素高分子多孔質膜Eを使用した以外は、実施例1と同様にして複合高分子電解質膜(膜厚11μm)を得た。
【0138】
[実施例5]
ポリマー電解質溶液Aの代わりに製造例4で製造したポリマー電解質溶液Dを使用した以外は、実施例1と同様にして複合高分子電解質膜(膜厚11μm)を得た。
【0139】
[実施例6]
ポリマー電解質溶液Aの代わりに製造例5で製造したポリマー電解質溶液Eを使用した以外は、実施例1と同様にして複合高分子電解質膜(膜厚12μm)を得た。
【0140】
[実施例7]
ポリマー電解質溶液Aの代わりに製造例6で製造したポリマー電解質溶液Fを使用した以外は、実施例1と同様にして複合高分子電解質膜(膜厚11μm)を得た。
【0141】
[実施例8]
ポリマー電解質溶液Aの代わりに製造例7で製造したポリマー電解質溶液Gを使用した以外は、実施例1と同様にして複合高分子電解質膜(膜厚13μm)を得た。
【0142】
[比較例1]
含フッ素高分子多孔質膜Aの代わりに製造例9で製造した含フッ素高分子多孔質膜Bを使用した以外は、実施例1と同様にして複合高分子電解質膜(膜厚10μm)を得た。
【0143】
[比較例2]
含フッ素高分子多孔質膜Aの代わりに製造例11で製造した含フッ素高分子多孔質膜Dを使用した以外は、実施例1と同様にして複合高分子電解質膜(膜厚14μm)を得た。
【0144】
[比較例3]
ポリマー電解質溶液Aの代わりに製造例3で製造したポリマー電解質溶液Cを使用した以外は、実施例1と同様にして複合高分子電解質膜(膜厚11μm)を得た。
【0145】
[比較例4]
ナイフコーターを用い、製造例1で製造したポリマー電解質溶液Aをガラス基板上に流延塗布し、含フッ素高分子多孔質膜を貼り合わることなく、100℃にて4h乾燥し、フィルム状の重合体を得た。80℃で10重量%硫酸水溶液に24時間浸漬してプロトン置換、脱保護反応した後に、大過剰量の純水に24時間浸漬して充分洗浄し、複合高分子電解質膜(膜厚10μm)を得た。
【0146】
[比較例5]
含フッ素高分子多孔質膜Aの代わりに製造例9で製造した含フッ素高分子多孔質膜Bを使用した以外は、実施例3と同様にして複合高分子電解質膜(膜厚12μm)を得た。
【0147】
[比較例6]
ポリマー電解質溶液Aの代わりに製造例2で製造したポリマー電解質溶液Bを使用した以外は、比較例4と同様にして複合高分子電解質膜(膜厚12μm)を得た。
【0148】
[比較例7]
含フッ素高分子多孔質膜Aの代わりにポアフロンWP−045−40(住友電工ファインポリマー株式会社製;空孔率75%、厚さ40μm)を使用した以外は、実施例1と同様にして複合高分子電解質膜(膜厚41μm)を得た。
【0149】
[比較例8]
含フッ素高分子多孔質膜Aの代わりにポアフロンWP−045−40(住友電工ファインポリマー株式会社製;空孔率75%、厚さ40μm)を使用した以外は、実施例3と同様にして複合高分子電解質膜(膜厚42μm)を得た。
【0150】
各実施例、比較例で作製した複合高分子電解質膜の構成、およびIEC、複合層中のポリマー電解質の充填率、λxy、相分離構造の有無ならびにその形態および平均ドメイン間距離、低加湿発電性能および乾湿サイクル耐久性を評価した。評価結果は下記表1に示す。なお、乾湿サイクル耐久性に関して、20000サイクルを超えても水素透過電流が初期電流の10倍を越えなかった場合は、20000サイクルで評価を打ち切った。
(表1において、相分離構造が「−」となっている例は、明確な相分離構造を示していないことを意味する。)
【0151】
【表1】
図1