(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
セラミックス基板の一方の面に回路層が配設され、前記セラミックス基板の他方の面にCu又はCu合金からなる金属層が配設されたパワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記セラミックス基板と前記金属層を、請求項7から請求項11のいずれか一項に記載の接合体の製造方法によって接合することを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。
セラミックス基板の一方の面にCu又はCu合金からなる回路層が配設され、前記セラミックス基板の他方の面にAl又はAl合金からなる金属層が配設されたパワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記セラミックス基板と前記回路層を、請求項7から請求項11のいずれか一項に記載の接合体の製造方法によって接合することを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、最近では、パワーモジュール用基板に搭載される半導体素子の発熱温度が高くなる傾向にあり、パワーモジュール用基板においては、従来にも増して効率的に放熱することが求められている。
ここで、特許文献2に記載されたパワーモジュール用基板においては、セラミックス基板とCu又はCu合金からなる回路層との間にTi層が形成されており、このTi層の厚さが1μm以上15μm以下と比較的厚く形成されている。このため、積層方向の熱抵抗が高くなり、効率的に放熱することができなくなるおそれがあった。
また、特許文献3に記載されたパワーモジュール用基板においては、セラミックス基板とCu又はCu合金からなる回路層との間に、Cu−Sn層とP及びTiを含有する金属間化合物層が形成されているが、使用環境温度が高くなるとP及びTiを含有する金属間化合物層を起点としてクラックが生じ、接合が不十分となるおそれがあった。
【0008】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、セラミックス部材とCu部材とが良好に接合され、かつ、積層方向の熱抵抗が低く効率的に放熱することが可能な接合体、パワーモジュール用基板、及び、この接合体の製造方法、パワーモジュール用基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の課題を解決するために、本発明の接合体は、セラミックスからなるセラミックス部材とCu又はCu合金からなるCu部材との接合体であって、前記セラミックス部材と前記Cu部材との接合界面には、前記セラミックス部材側に位置し、SnがCu中に固溶したCu−Sn層と、前記Cu部材側に位置し、
前記Cu部材のCuとTiとが固相拡散することで形成されたCuとTiを含有する第1金属間化合物層と、前記第1金属間化合物層と前記Cu−Sn層との間に位置し、PとTiを含有する第2金属間化合物層と、が形成されて
おり、前記第1金属間化合物層と前記第2金属間化合物層との間には、Ti層が形成されていない、あるいは、Ti層の厚さが0.15μm以下とされていることを特徴としている。
【0010】
本発明の接合体によれば、前記Cu部材側に位置し、CuとTiを含有する第1金属間化合物層が形成されているので、Cu部材と第2金属間化合物層とを確実に接合することができ、使用環境温度が高くなってもCu部材とセラミックス部材との接合強度を確保することができる。また、Ti層が形成されていない、もしくは非常に薄いので、積層方向における熱抵抗を低く抑えることができ、効率的に放熱することができる。
【0011】
前記Ti層の厚さが
0.15μm以下とされているので、積層方向における熱抵抗を低く抑えることができ、効率的に放熱することができる。
【0012】
また、本発明の接合体においては、前記第1金属間化合物層の厚さが0.2μm以上6μm以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、CuとTiを含有する第1金属間化合物層の厚さが0.2μm以上とされているので、Cu部材とセラミックス部材との接合強度を確実に向上させることができる。一方、第1金属間化合物層の厚さが6μm以下とされているので、第1金属間化合物層における割れの発生を抑制することができる。
【0013】
さらに、本発明の接合体においては、前記第2金属間化合物層の厚さが0.5μm以上4μm以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、PとTiを含有する第2金属間化合物層の厚さが0.5μm以上とされているので、Cu部材とセラミックス部材との接合強度を確実に向上させることができる。一方、第2金属間化合物層の厚さが4μm以下とされているので、第2金属間化合物層における割れの発生を抑制することができる。
【0014】
本発明のパワーモジュール用基板は、上述の接合体からなり、前記セラミックス部材からなるセラミックス基板と、このセラミックス基板の一方の面に形成された前記Cu部材からなる回路層と、を備え、前記セラミックス基板と前記回路層との接合界面には、前記セラミックス基板側に位置し、SnがCu中に固溶したCu−Sn層と、前記回路層側に位置し、
前記回路層のCuとTiとが固相拡散することで形成されたCuとTiを含有する第1金属間化合物層と、前記第1金属間化合物層と前記Cu−Sn層との間に位置し、PとTiを含有する第2金属間化合物層と、が形成されており、
前記第1金属間化合物層と前記第2金属間化合物層との間には、Ti層が形成されていない、あるいは、Ti層の厚さが0.15μm以下とされていることを特徴としている。
【0015】
本発明のパワーモジュール用基板によれば、前記回路層側にCuとTiを含有する第1金属間化合物層が形成されているので、回路層と第2金属間化合物層とを確実に接合することができ、使用環境温度が高くなっても回路層とセラミックス基板との接合強度を確保することができる。また、Ti層が形成されていない、あるいは、Ti層が形成されていてもその厚さが
0.15μm以下と薄いので、積層方向における熱抵抗を低く抑えることができ、回路層上に搭載された半導体素子からの熱を効率的に放熱することができる。
【0016】
ここで、上述の本発明のパワーモジュール用基板においては、前記セラミックス基板の他方の面に、Al又はAl合金からなる金属層が形成されていてもよい。
この場合、セラミックス基板の他方の面に、比較的変形抵抗の小さなAl又はAl合金からなる金属層が形成されているので、パワーモジュール用基板に応力が負荷された場合に金属層が優先的に変形し、セラミックス基板に作用する応力を低減することができ、セラミックス基板の割れを抑制することができる。
【0017】
また、本発明のパワーモジュール用基板は、上述の接合体からなり、前記セラミックス部材からなるセラミックス基板と、このセラミックス基板の一方の面に形成された回路層と、前記セラミックス基板の他方の面に形成された前記Cu部材からなる金属層と、を備え、前記セラミックス基板と前記金属層との接合界面には、前記セラミックス基板側に位置し、SnがCu中に固溶したCu−Sn層と、前記金属層側に位置し、
前記金属層のCuとTiとが固相拡散することで形成されたCuとTiを含有する第1金属間化合物層と、前記第1金属間化合物層と前記Cu−Sn層との間に位置し、PとTiを含有する第2金属間化合物層と、が形成されて
おり、前記第1金属間化合物層と前記第2金属間化合物層との間には、Ti層が形成されていない、あるいは、Ti層の厚さが0.15μm以下とされていることを特徴としている。
【0018】
本発明のパワーモジュール用基板によれば、前記金属層側にCuとTiを含有する第1金属間化合物層が形成されているので、金属層と第2金属間化合物層とを確実に接合することができ、使用環境温度が高くなっても金属層とセラミックス基板との接合強度を確保することができる。また、Ti層が形成されていない、あるいは、Ti層が形成されていてもその厚さが
0.15μm以下と薄いので、積層方向における熱抵抗を低く抑えることができ、回路層上に搭載された半導体素子からの熱を効率的に放熱することができる。
【0019】
本発明の接合体の製造方法は、セラミックスからなるセラミックス部材とCu又はCu合金からなるCu部材との接合体の製造方法であって、Cu−P−Sn系ろう材とTi材とを介して、前記セラミックス部材と前記Cu部材とを積層する積層工程と、積層された状態で前記Cu−P−Sn系ろう材の溶融開始温度未満の温度で加熱し、前記Cu部材と前記Ti材とを反応させてCuとTiを有する第1金属間化合物層を形成する第1加熱処理工程と、前記第1加熱処理工程後に、前記Cu−P−Sn系ろう材の溶融開始温度以上の温度で加熱し、SnがCu中に固溶したCu−Sn層と、前記第1金属間化合物層と前記Cu−Sn層との間に位置し、PとTiを含有する第2金属間化合物層とを形成する第2加熱処理工程と、を備えていることを特徴としている。
【0020】
この構成の接合体の製造方法によれば、積層された状態で前記Cu−P−Sn系ろう材の溶融開始温度未満の温度で加熱し、前記Cu部材と前記Ti材とを反応させてCuとTiを含有する第1金属間化合物層を形成する第1加熱処理工程を備えているので、第1金属間化合物層を確実に形成して、Cu部材とTi材とを確実に接合することができる。なお、この第1加熱処理工程ではTi材の一部を残存させる。
さらに、前記第1加熱処理工程後に、前記Cu−P−Sn系ろう材の溶融開始温度以上の温度で加熱し、SnがCu中に固溶したCu−Sn層と、前記第1金属間化合物層と前記Cu−Sn層との間に位置し、PとTiを含有する第2金属間化合物層とを形成する第2加熱処理工程を備えているので、Ti材のTiをCu−P−Sn系ろう材と反応させることで、第2金属間化合物層を形成でき、Cu部材とセラミックス部材とを確実に接合することができる。なお、この第2加熱処理工程では、Ti材のすべてを反応させてもよいし、一部を残存させて厚さ0.5μm以下のTi層を形成してもよい。
【0021】
ここで、上述の本発明の接合体の製造方法においては、前記第1加熱処理工程における加熱温度が580℃以上670℃以下の範囲内、加熱時間が30分以上240分以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、加熱温度が580℃以上及び加熱時間が30分以上とされているので、前記第1金属間化合物層を確実に形成することができる。一方、加熱温度が670℃以下及び加熱時間が240分以下とされているので、前記第1金属間化合物層が必要以上に厚く形成されることがなく、第1金属間化合物層における割れの発生を抑制することができる。
【0022】
また、本発明の接合体の製造方法は、セラミックスからなるセラミックス部材とCu又はCu合金からなるCu部材との接合体の製造方法であって、前記Cu部材
とTi材とを積層した状態で加熱してCuとTiを拡散させ、Cu部材と前記Ti材との間にCuとTiを含有する第1金属間化合物層を形成するCuTi拡散工程と、Cu−P−Sn系ろう材を介して、前記セラミックス部材と、前記第1金属間化合物層が形成された前記Ti材及び前記Cu部材と、を積層する積層工程と、前記Cu−P−Sn系ろう材の溶融開始温度以上の温度で加熱し、SnがCu中に固溶したCu−Sn層と、前記第1金属間化合物層と前記Cu−Sn層との間に位置し、PとTiを含有する第2金属間化合物層とを形成する加熱処理工程と、を備えていることを特徴としている。
【0023】
この構成の接合体の製造方法によれば、前記Cu部材と前記Ti材とを積層した状態で加熱してCuとTiを拡散させ、Cu部材と前記Ti材との間にCuとTiを含有する第1金属間化合物層を形成するCuTi拡散工程を備えているので、第1金属間化合物層を確実に形成することができる。なお、このCuTi拡散工程ではTi材の一部を残存させる。
また、CuTi拡散工程では、ろう材を積層することなくCu部材とTi材を積層して加熱しているので、加熱条件を比較的自由に設定することができ、第1金属間化合物層を確実に形成することができるとともに、残存させるTi材の厚さを精度良く調整することができる。
さらに、Cu−P−Sn系ろう材を介して、前記セラミックス部材と、前記第1金属間化合物層が形成された前記Ti材及び前記Cu部材と、を積層する積層工程、前記Cu−P−Sn系ろう材の溶融開始温度以上の温度で加熱し、SnがCu中に固溶したCu−Sn層と、前記第1金属間化合物層と前記Cu−Sn層との間に位置し、PとTiを含有する第2金属間化合物層とを形成する加熱処理工程を備えているので、Ti材のTiをCu−P−Sn系ろう材と反応させることで、第2金属間化合物層を形成でき、Cu部材とセラミックス部材とを確実に接合することができる。なお、この第2加熱処理工程では、Ti材のすべてを反応させてもよいし、一部を残存させて厚さ0.5μm以下のTi層を形成してもよい。
【0024】
ここで、上述の本発明の接合体の製造方法においては、前記CuTi拡散工程における加熱温度が600℃以上670℃以下の範囲内、加熱時間が30分以上360分以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、加熱温度が600℃以上及び加熱時間が30分以上とされているので、前記第1金属間化合物層を確実に形成することができる。一方、加熱温度が670℃以下及び加熱時間が360分以下とされているので、前記第1金属間化合物層が必要以上に厚く形成されることがなく、第1金属間化合物層が割れの起点となることを抑制できる。
【0025】
また、上述の本発明の接合体の製造方法においては、前記CuTi拡散工程において、積層方向の荷重が0.294MPa以上1.96MPa以下の範囲内とされていてもよい。
この場合、荷重が 0.294 MPa以上1.96MPa以下の範囲内とされているので、前記第1金属間化合物層を確実に形成することができ、接合強度をさらに高くすることができる。
【0026】
本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、セラミックス基板の一方の面にCu又はCu合金からなる回路層が配設されたパワーモジュール用基板の製造方法であって、前記セラミックス基板と前記回路層を、上述の接合体の製造方法によって接合することを特徴としている。
【0027】
この構成のパワーモジュール用基板の製造方法によれば、回路層とセラミックス基板の接合界面に、前記セラミックス基板側に位置し、SnがCu中に固溶したCu−Sn層と、前記回路層側に位置し、CuとTiを有する第1金属間化合物層と、前記第1金属間化合物層と前記Cu−Sn層との間に位置し、PとTiを含有する第2金属間化合物層と、を形成することができ、回路層とセラミックス基板とを確実に接合することができるとともに、積層方向の熱抵抗が低く効率的に放熱することが可能なパワーモジュール用基板を製造することができる。
【0028】
本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、セラミックス基板の一方の面に回路層が配設され、前記セラミックス基板の他方の面にCu又はCu合金からなる金属層が配設されたパワーモジュール用基板の製造方法であって、前記セラミックス基板と前記金属層を、上述の接合体の製造方法によって接合することを特徴としている。
【0029】
この構成のパワーモジュール用基板の製造方法によれば、金属層とセラミックス基板の接合界面に、前記セラミックス基板側に位置し、SnがCu中に固溶したCu−Sn層と、前記回路層側に位置し、CuとTiを有する第1金属間化合物層と、前記第1金属間化合物層と前記Cu−Sn層との間に位置し、PとTiを含有する第2金属間化合物層と、を形成することができ、金属層とセラミックス基板とを確実に接合することができるとともに、積層方向の熱抵抗が低く効率的に放熱することが可能なパワーモジュール用基板を製造することができる。
【0030】
本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、セラミックス基板の一方の面にCu又はCu合金からなる回路層が配設され、前記セラミックス基板の他方の面にAl又はAl合金からなる金属層が配設されたパワーモジュール用基板の製造方法であって、前記セラミックス基板と前記回路層を、上述の接合体の製造方法によって接合することを特徴としている。
【0031】
この構成のパワーモジュール用基板の製造方法によれば、回路層とセラミックス基板の接合界面に、前記セラミックス基板側に位置し、SnがCu中に固溶したCu−Sn層と、前記回路層側に位置し、CuとTiを有する第1金属間化合物層と、前記第1金属間化合物層と前記Cu−Sn層との間に位置し、PとTiを含有する第2金属間化合物層と、を形成することができ、回路層とセラミックス基板とを確実に接合することができるとともに、積層方向の熱抵抗が低く効率的に放熱することが可能なパワーモジュール用基板を製造することができる。
また、比較的低温でCu又はCu合金からなる回路層とセラミックス基板とを接合できるので、Cu又はCu合金からなる回路層と、セラミックス基板と、Al又はAl合金からなる金属層と、を同時に接合することも可能となる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、セラミックス部材とCu部材とが良好に接合され、かつ、積層方向の熱抵抗が低い接合体、パワーモジュール用基板、及び、この接合体の製造方法、パワーモジュール用基板の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
(第一実施形態)
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。まず、本発明の第一実施形態について説明する。
本実施形態に係る接合体は、セラミックス部材であるセラミックス基板11と、Cu部材であるCu板22(回路層12)とが接合されてなるパワーモジュール用基板10である。
図1に、本実施形態であるパワーモジュール用基板10を備えたパワーモジュール1を示す。
このパワーモジュール1は、回路層12が配設されたパワーモジュール用基板10と、回路層12の一方の面(
図1において上面)に接合層2を介して接合された半導体素子3とを備えている。
【0035】
パワーモジュール用基板10は、
図2に示すように、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(
図2において上面)に配設された回路層12とを備えている。
セラミックス基板11は、絶縁性の高いAlN(窒化アルミニウム)、Si
3N
4(窒化ケイ素)、Al
2O
3(アルミナ)等のセラミックスで構成されている。本実施形態では、放熱性の優れたAlN(窒化アルミニウム)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0036】
回路層12は、セラミックス基板11の一方の面に、導電性を有するCu又はCu合金の金属板が接合されることにより形成されている。
本実施形態において、回路層12は、セラミックス基板11の一方の面に、Cu−P−Sn系ろう材24と、Ti材25が接合された無酸素銅からなるCu板22を積層して加熱処理し、セラミックス基板11にCu板22を接合することで形成されている(
図5参照)。なお、本実施形態では、Cu−P−Sn系ろう材24として、Cu−P−Sn−Niろう材を用いている。
ここで、回路層12においてセラミックス基板11側は、SnがCu中に拡散した構造となっている。
なお、回路層12の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.3mmに設定されている。
【0037】
図3に、セラミックス基板11と回路層12との接合界面の概略説明図を示す。セラミックス基板11と回路層12との接合界面には、
図3に示すように、セラミックス基板11側に位置するCu−Sn層14と、回路層12側に位置し、CuとTiを含有する第1金属間化合物層16と、第1金属間化合物層16とCu−Sn層14との間に位置し、P及びTiを含有する第2金属間化合物層17と、が形成されている。
【0038】
Cu−Sn層14は、SnがCu中に固溶した層である。このCu−Sn層14は、Cu−P−Sn系ろう材24に含まれるPが、第2金属間化合物層17に取り込まれることにより形成される層である。
【0039】
第1金属間化合物層16は、回路層12のCuとTi材25のTiとが相互拡散することによって形成される層である。ここで、CuとTiとの拡散は、固相拡散とされている。
具体的には、第1金属間化合物層16は、Cu
4Ti相、Cu
3Ti
2相、Cu
4Ti
3相、CuTi相、CuTi
2相のいずれか1種以上を有する。本実施形態においては、第1金属間化合物層16は、Cu
4Ti相、Cu
3Ti
2相、Cu
4Ti
3相、CuTi相、CuTi
2相を有している。
また、本実施形態においては、この第1金属間化合物層16の厚さは、0.2μm以上6μm以下の範囲内とされている。
【0040】
第2金属間化合物層17は、Cu−P−Sn系ろう材24に含まれるPが、Ti材25に含まれるTiと結合することにより形成される。本実施形態では、Cu−P−Sn系ろう材24がNiを含んでいることから、この第2金属間化合物層17は、P−Ni−Ti相、P−Ti相、Cu−Ni−Ti相のいずれか1種以上を有しており、具体的には、P−Ni−Ti相とされている。
また、本実施形態においては、この第2金属間化合物層17の厚さは、0.5μm以上4μm以下の範囲内とされている。
【0041】
半導体素子3は、Si等の半導体材料で構成されている。この半導体素子3と回路層12は、接合層2を介して接合されている。
接合層2は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。
【0042】
以下に、本実施形態に係るパワーモジュール用基板10、及びパワーモジュール1の製造方法について、
図4のフロー図及び
図5を参照して説明する。
まず、
図5に示すように、回路層12となるCu板22とTi材25とを積層し、積層方向に加圧(圧力1〜35kgf/cm
2)した状態で真空加熱炉内に配置し加熱して、Cu板22とTi材25とを固相拡散接合させ、Cu−Ti接合体27を得る。(CuTi拡散工程S01)。
【0043】
なお、Ti材25の厚さは、0.4μm以上5μm以下の範囲内とされている。ここで、Ti材25は、厚さが0.4μm以上1μm未満の場合には蒸着やスパッタによって成膜することが好ましく、厚さが1μm以上5μm以下の場合には箔材を用いることが好ましい。なお、Ti材25の厚さの下限は0.4μm以上とすることが好ましく、0.5μm以上とすることがさらに好ましい。また、Ti材25の厚さの上限は1.5μm以下とすることが好ましく、0.7μm以下とすることがさらに好ましい。本実施形態においては、Ti材25として、厚さ1μm、純度99.8mass%のTi箔を用いた。
【0044】
このCuTi拡散工程S01によって得られるCu−Ti接合体27においては、Ti材25とCu板22とが固相拡散接合によって接合され、Cu板22と中間Ti層26の積層構造となっている。ここで、中間Ti層26とCu板22との間には、CuとTiを含有する中間第1金属間化合物層が形成される。このとき、Ti材25がすべて中間第1金属間化合物層の形成に消費されず、その一部が残存する。
ここで、本実施形態では、中間Ti層26の厚さは、0.1μm以上3μm以下の範囲内とされている。なお、中間Ti層26の厚さの下限は0.2μm以上とすることが好ましく、0.4μm以上とすることがさらに好ましい。また、中間Ti層26の厚さの上限は1.5μm以下とすることが好ましく、1μm以下とすることがさらに好ましい。
さらに、中間第1金属間化合物層の厚さは、0.1μm以上6μm以下とすることが好ましい。
【0045】
また、CuTi拡散工程S01においては、真空加熱炉内の圧力は10
−6Pa以上10
−3Pa以下の範囲内に、加熱温度は600℃以上670℃以下の範囲内に、加熱時間は30分以上360分以下の範囲内に設定している。
ここで、CuTi拡散工程S01において、加熱温度を600℃以上及び加熱時間を30分以上とすることで中間第1金属間化合物層を十分に形成することが可能となる。また、加熱温度を670℃以下及び加熱時間を360分以下とすることで中間第1金属間化合物層が必要以上に厚く形成されることを抑制できる。
【0046】
なお、加熱温度の下限は610℃以上とすることが好ましく620℃以上とすることがさらに好ましい。加熱温度の上限は650℃以下とすることが好ましく640℃以下とすることがさらに好ましい。また、加熱時間の下限は15分以上とすることが好ましく60分以上とすることがさらに好ましい。加熱時間の上限は120分以下とすることが好ましく90分以下とすることがさらに好ましい。
【0047】
なお、Cu板22とTi材25とをさらに強固に接合するためには、CuTi拡散工程S01において、積層方向への加圧荷重を0.294MPa以上1.96MPa以下(3kgf/cm
2以上20kgf/cm
2以下)の範囲内とすることが好ましい。
【0048】
次に、セラミックス基板11の一方の面(
図5において上面)に、Cu−P−Sn系ろう材24、Cu−Ti接合体27を順に積層する(積層工程S02)。ここで、Cu−Ti接合体27は、中間Ti層26とCu−P−Sn系ろう材24が対向するように積層される。
本実施形態においては、Cu−P−Sn系ろう材24の組成は、Cu−7mass%P−15mass%Sn−10mass%Niとされており、その固相線温度(溶融開始温度)は580℃とされている。また、Cu−P−Sn系ろう材24は箔材を用い、その厚さは、5μm以上150μm以下の範囲内とされている。
【0049】
次に、セラミックス基板11、Cu−P−Sn系ろう材24、Cu−Ti接合体27を積層方向に加圧(圧力1〜35kgf/cm
2)した状態で、真空加熱炉内に装入して加熱する(加熱処理工程S03)。
ここで、本実施形態では、加熱処理工程S03における条件として、真空加熱炉内の圧力は10
−6Pa以上10
−3Pa以下の範囲内に、加熱温度は600℃以上700℃以下の範囲内に、加熱時間は15分以上120分以下の範囲内に設定している。
【0050】
この加熱処理工程S03においては、Cu−P−Sn系ろう材24が溶融して液相を形成し、この液相に中間Ti層26が溶け込み、液相が凝固することにより、セラミックス基板11とCu板22とが接合されることになる。このとき、Cu−P−Sn系ろう材24中に含まれるP及びNiは、中間Ti層26のTiと結合し、第2金属間化合物層17が形成されるとともに、セラミックス基板11側にはCu−Sn層14が形成される。なお、第1金属間化合物層16は、中間第1金属間化合物層が残存することによって形成されたものである。
【0051】
なお、本実施形態においては、中間Ti層26の厚さが、0.1μm以上3μm以下の範囲内とされているので、この中間Ti層26がCu−P−Sn系ろう材24の液相中にすべて溶け込み、セラミックス基板11と回路層12との接合界面において、中間Ti層26が残存しない。
これにより、セラミックス基板11の一方の面に回路層12が形成され、本実施形態であるパワーモジュール用基板10が製造される。
【0052】
次に、パワーモジュール用基板10の回路層12の上面に、はんだ材を介して半導体素子3を接合する(半導体素子接合工程S04)。
このようにして、本実施形態に係るパワーモジュール1が製造される。
【0053】
以上のような構成とされた本実施形態に係るパワーモジュール用基板10によれば、セラミックス基板11と回路層12との接合界面において、回路層12側に位置し、CuとTiを含有する第1金属間化合物層16が形成されているので、この第1金属間化合物層16を介することで回路層12と第2金属間化合物層17とを確実に接合することができる。よって、使用環境温度が高くなっても回路層12とセラミックス基板11との接合強度を確保することができる。
また、セラミックス基板11と回路層12との接合界面にTi層が形成されていないので、回路層12とセラミックス基板11の積層方向における熱抵抗を低く抑えることが可能となり、回路層12上に搭載された半導体素子3から発生する熱を効率的に放熱することができる。
【0054】
また、本実施形態においては、第1金属間化合物層16の厚さが0.2μm以上とされているので、回路層12とセラミックス基板11との接合強度を確実に向上させることができる。一方、第1金属間化合物層16の厚さが6μm以下とされているので、この第1金属間化合物層16における割れの発生を抑制することができる。
なお、回路層12とセラミックス基板11との接合強度を確実に向上させるためには、第1金属間化合物層16の厚さの下限を0.5μm以上とすることが好ましく、1μm以上とすることがさらに好ましい。また、第1金属間化合物層16における割れの発生を確実に抑制するためには、第1金属間化合物層16の厚さの上限を5μm以下とすることが好ましく、3μm以下とすることがさらに好ましい。なお、第1金属間化合物層16の厚さは、加熱処理工程S03における加熱によってTiの拡散が進み、中間第1金属間化合物層の厚さより厚くなる場合もある。
【0055】
さらに、本実施形態においては、第2金属間化合物層17の厚さが0.5μm以上とされているので、回路層12とセラミックス基板11との接合強度を確実に向上させることができる。一方、第2金属間化合物層17の厚さが4μm以下とされているので、この第2金属間化合物層17における割れの発生を抑制することができる。
なお、回路層12とセラミックス基板11との接合強度を確実に向上させるためには、第2金属間化合物層17の厚さの下限を1μm以上とすることが好ましく、2μm以上とすることがさらに好ましい。また、第2金属間化合物層17における割れの発生を確実に抑制するためには、第2金属間化合物層17の厚さの上限を3.5μm以下とすることが好ましく、3μm以下とすることがさらに好ましい。
【0056】
また、本実施形態のパワーモジュール用基板の製造方法においては、回路層12となるCu板22とTi材25とを積層し、積層方向に加圧(圧力1〜35kgf/cm
2)した状態で真空加熱炉内に配置し加熱して、Cu板22とTi材25とを固相拡散接合させ、Cu−Ti接合体27を得るCuTi拡散工程S01を備えているので、Cu板22と中間Ti層26の間に、CuとTiを含有する中間第1金属間化合物層を確実に形成することができる。
【0057】
また、中間Ti層26の厚さが、0.1μm以上3μm以下の範囲内とされているので、後工程の加熱処理工程S03において、中間Ti層26とCu−P−Sn系ろう材24とを反応させることが可能となる。
さらに、CuTi拡散工程S01においては、Cu板22とTi材25とを積層して加熱しており、Cu−P−Sn系ろう材24を積層していないので、加熱温度及び加熱時間を比較的自由に設定することが可能となる。
【0058】
さらに、本実施形態のパワーモジュール用基板の製造方法においては、セラミックス基板11、Cu−P−Sn系ろう材24、Cu−Ti接合体27を積層方向に加圧(圧力1〜35kgf/cm
2)した状態で、真空加熱炉内に装入して加熱する加熱処理工程S03を備えているので、中間Ti層26のTiをCu−P−Sn系ろう材24と反応させることで、第2金属間化合物層17を形成でき、回路層12とセラミックス基板11とを確実に接合することができる。
【0059】
ここで、加熱処理工程S03において、加圧される圧力が1kgf/cm
2以上の場合、セラミックス基板11とCu−P−Sn系ろう材24との液相を密着させることができ、セラミックス基板11とCu−Sn層14とを良好に接合できる。また、加圧される圧力が35kgf/cm
2以下の場合、セラミックス基板11に割れが発生することを抑制できる。このような理由のため、本実施形態では、加圧される圧力は1kgf/cm
2以上35kgf/cm
2以下の範囲内に設定されている。
【0060】
(第二実施形態)
次に、本発明の第二実施形態について説明する。なお、第一実施形態と同一の構成のものについては、同一の符号を付して記載し、詳細な説明を省略する。
図6に、第二実施形態に係るパワーモジュール用基板110を備えたパワーモジュール101を示す。
このパワーモジュール101は、回路層112及び金属層113が配設されたパワーモジュール用基板110と、回路層112の一方の面(
図6において上面)に接合層2を介して接合された半導体素子3と、金属層113の他方側(
図6において下側)に配置されたヒートシンク130と、を備えている。
【0061】
パワーモジュール用基板110は、
図7に示すように、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(
図7において上面)に配設された回路層112と、セラミックス基板11の他方の面(
図7において下面)に配設された金属層113と、を備えている。
セラミックス基板11は、第一実施形態と同様に、放熱性の優れたAlN(窒化アルミニウム)で構成されている。
【0062】
回路層112は、第一実施形態と同様に、セラミックス基板11の一方の面にCu−P−Sn系ろう材124、Ti材25、無酸素銅からなるCu板122を順に積層して加熱処理し、セラミックス基板11にCu板122を接合することで形成されている(
図10参照)。
なお、回路層112の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.3mmに設定されている。
【0063】
金属層113は、セラミックス基板11の他方の面に、Cu又はCu合金の金属板が、Cu−P−Sn系ろう材124を介して接合されることにより形成されている。本実施形態において、金属層113は、セラミックス基板11の他方の面にCu−P−Sn系ろう材124、Ti材25、無酸素銅からなるCu板123を積層して加熱処理し、セラミックス基板11にCu板123を接合することで形成されている(
図10参照)。
この金属層113の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.3mmに設定されている。
ここで、本実施形態では、Cu−P−Sn系ろう材124として、具体的にはCu−P−Sn−Niろう材を用いている。
【0064】
図8に、セラミックス基板11と回路層112(金属層113)との接合界面の概略説明図を示す。セラミックス基板11と回路層112(金属層113)との接合界面には、
図8に示すように、セラミックス基板111側に位置するCu−Sn層14と、回路層112(金属層113)側に位置し、CuとTiを含有する第1金属間化合物層16と、第1金属間化合物層16とCu−Sn層14との間に位置し、P及びTiを含有する第2金属間化合物層17と、が形成されている。
【0065】
ここで、本実施形態では、第1金属間化合物層16と第2金属間化合物層17との間に、Ti層15が形成されており、このTi層15の厚さが0.5μm以下とされている。
また、本実施形態においては、第1金属間化合物層16の厚さは、0.2μm以上6μm以下の範囲内とされている。
さらに、本実施形態においては、第2金属間化合物層17の厚さは、0.5μm以上4μm以下の範囲内とされている。
【0066】
ヒートシンク130は、前述のパワーモジュール用基板110からの熱を放散するためのものである。このヒートシンク130は、Cu又はCu合金で構成されており、本実施形態ではりん脱酸銅で構成されている。このヒートシンク130には、冷却用の流体が流れるための流路131が設けられている。なお、本実施形態においては、ヒートシンク130と金属層113とが、はんだ材からなるはんだ層132によって接合されている。
【0067】
以下に、本実施形態に係るパワーモジュール101の製造方法について、
図9のフロー図及び
図10を参照して説明する。
まず、
図10に示すように、セラミックス基板11の一方の面(
図10において上面)に、Cu−P−Sn系ろう材124、Ti材25、及び回路層112となるCu板122を順に積層するとともに、セラミックス基板11の他方の面(
図10において下面)に、Cu−P−Sn系ろう材124、Ti材25、及び金属層113となるCu板123を順に積層する(積層工程S101)。すなわち、セラミックス基板11とCu板122及びCu板123の間において、セラミックス基板11側にCu−P−Sn系ろう材124を配置し、Cu板122,123側にTi材25を配置している。
【0068】
本実施形態においては、Cu−P−Sn系ろう材124の組成は、Cu−6.3mass%P−9.3mass%Sn−7mass%Niとされており、その固相線温度(溶融開始温度)は600℃とされている。また、Cu−P−Sn系ろう材124は箔材を用い、その厚さは、5μm以上150μm以下の範囲内とされている。
【0069】
また、Ti材25の厚さは、0.4μm以上5μm以下の範囲内とされている。ここで、Ti材25は、厚さが0.4μm以上1μm未満の場合には蒸着やスパッタによって成膜することが好ましく、厚さが1μm以上5μm以下の場合には箔材を用いることが好ましい。なお、Ti材25の厚さの下限は0.4μm以上とすることが好ましく0.5μm以上とすることがさらに好ましい。Ti材25の厚さの上限は1.5μm以下とすることが好ましく、0.7μm以下とすることがさらに好ましい。本実施形態においては、Ti材25として、厚さ1μm、純度99.8mass%のTi箔を用いた。
【0070】
次に、Cu板122、Ti材25、Cu−P−Sn系ろう材124、セラミックス基板11、Cu−P−Sn系ろう材124、Ti材25、及びCu板123を、積層方向に加圧(圧力1kgf/cm
2以上35kgf/cm
2以下)した状態で、真空加熱炉内に装入し、Cu−P−Sn系ろう材124の溶融開始温度未満の温度で加熱する(第1加熱処理工程S102)。
【0071】
この第1加熱処理工程S102においては、Ti材25とCu板122及びTi材25とCu板123が固相拡散接合によって接合され、Ti材25とCu板122との間及びTi材25とCu板123との間にCuとTiを含有する第1金属間化合物層16がそれぞれ形成される。
【0072】
ここで、本実施形態では、真空加熱炉内の圧力は10
−6Pa以上10
−3Pa以下の範囲内に、加熱温度は580℃以上670℃以下の範囲内に、加熱時間は30分以上240分以下の範囲内に設定している。なお、Cu−P−Sn系ろう材124の溶融を確実に抑制するためには、第1加熱処理工程S102における加熱温度は、Cu−P−Sn系ろう材124の溶融開始温度(固相線温度)−10℃とすることが好ましい。
第1加熱処理工程S102において、加熱温度を580℃以上及び加熱時間を30分以上とすることで第1金属間化合物層16を十分に形成することが可能となる。また、加熱温度を670℃以下及び加熱時間を240分以下とすることで第1金属間化合物層16が必要以上に厚く形成されることを抑制できる。
なお、加熱温度の下限は610℃以上とすることが好ましく620℃以上とすることがさらに好ましい。加熱温度の上限は650℃以下とすることが好ましく640℃以下とすることがさらに好ましい。また、加熱時間の下限は15分以上とすることが好ましく60分以上とすることがさらに好ましい。加熱時間の上限は120分以下とすることが好ましく90分以下とすることがさらに好ましい。
【0073】
次に、第1加熱処理工程S102後に、Cu板122、Ti材25、Cu−P−Sn系ろう材124、セラミックス基板11、Cu−P−Sn系ろう材124、Ti材25、及びCu板123を積層方向に加圧(圧力1kgf/cm
2以上35kgf/cm
2以下)した状態でCu−P−Sn系ろう材124の溶融開始温度以上の温度で加熱する(第2加熱処理工程S103)。ここで、本実施形態では、真空加熱炉内の圧力は10
−6Pa以上10
−3Pa以下の範囲内に、加熱温度は600℃以上700℃以下の範囲内に、加熱時間は15分以上120分以下の範囲内に設定している。ここで、第2加熱処理工程S103では、Cu−P−Sn系ろう材124を確実に溶融させるため、Cu−P−Sn系ろう材124の固相線温度+10℃以上で加熱することが好ましい。
【0074】
この第2加熱処理工程S103においては、Cu−P−Sn系ろう材124が溶融して液相を形成し、この液相にTi材25が溶け込み、液相が凝固することにより、セラミックス基板11とCu板122及びセラミックス基板11とCu板123が接合されることになる。このとき、Cu−P−Sn系ろう材124中に含まれるP及びNiは、Ti材25のTiと結合し、第2金属間化合物層17が形成されるとともに、セラミックス基板11側にはCu−Sn層14が形成される。
【0075】
なお、本実施形態においては、Ti材25の一部がCu−P−Sn系ろう材124の液相中に溶け込まずに残存し、第1金属間化合物層16と第2金属間化合物層17との間にTi層15が形成されることになる。
これにより、セラミックス基板11の一方の面に回路層112が形成されるとともに、他方の面に金属層113が形成され、本実施形態であるパワーモジュール用基板110が製造される。
【0076】
次いで、パワーモジュール用基板110の金属層113の下面に、はんだ材を介してヒートシンク130を接合する(ヒートシンク接合工程S104)。
次に、パワーモジュール用基板110の回路層112の上面に、はんだ材を介して半導体素子3を接合する(半導体素子接合工程S105)。
このようにして、本実施形態に係るパワーモジュール101が製造される。
【0077】
以上のような構成とされた本実施形態に係るパワーモジュール用基板110においては、セラミックス基板11と回路層112との接合界面及びセラミックス基板11と金属層113との接合界面において、回路層112側及び金属層113側に位置し、CuとTiを含有する第1金属間化合物層16が形成されているので、この第1金属間化合物層16を介することで回路層112と第2金属間化合物層17及び金属層113と第2金属間化合物層17とを確実に接合することができる。よって、使用環境温度が高くなっても回路層112とセラミックス基板11及び金属層113とセラミックス基板11との接合強度を確保することができる。
【0078】
また、セラミックス基板11と回路層112との接合界面及びセラミックス基板11と金属層113との接合界面に、Ti層15が形成されているがその厚さが0.5μm以下とされているので、回路層112とセラミックス基板11と金属層113の積層方向における熱抵抗を低く抑えることが可能となり、回路層112上に搭載された半導体素子3から発生する熱を効率的に放熱することができる。
【0079】
また、本実施形態においては、第1金属間化合物層16の厚さが0.2μm以上とされているので、回路層112とセラミックス基板11及び金属層113とセラミックス基板11との接合強度を確実に向上させることができる。一方、第1金属間化合物層16の厚さが6μm以下とされているので、この第1金属間化合物層16における割れの発生を抑制することができる。
【0080】
さらに、本実施形態においては、第2金属間化合物層17の厚さが0.5μm以上とされているので、回路層112とセラミックス基板11及び金属層113とセラミックス基板11との接合強度を確実に向上させることができる。一方、第2金属間化合物層17の厚さが4μm以下とされているので、この第2金属間化合物層17における割れの発生を抑制することができる。
【0081】
また、本実施形態のパワーモジュール用基板の製造方法においては、Cu板122、Ti材25、Cu−P−Sn系ろう材124、セラミックス基板11、Cu−P−Sn系ろう材124、Ti材25、及びCu板123を積層方向に加圧(圧力1kgf/cm
2以上35kgf/cm
2以下)した状態で、真空加熱炉内に装入し、Cu−P−Sn系ろう材124の溶融開始温度未満の温度で加熱する第1加熱処理工程S102を備えているので、回路層112となるCu板122とTi材25の間及び金属層113となるCu板123とTi材25との間に、CuとTiを含有する第1金属間化合物層16を確実に形成することができる。
【0082】
さらに、本実施形態のパワーモジュール用基板の製造方法においては、第1加熱処理工程S102後に、Cu−P−Sn系ろう材124の溶融開始温度以上の温度で加熱し、SnがCu中に固溶したCu−Sn層14と、第1金属間化合物層16とCu−Sn層14との間に位置し、PとTiを含有する第2金属間化合物層17とを形成する第2加熱処理工程S103を備えているので、Ti材25のTiをCu−P−Sn系ろう材124と反応させることで、第2金属間化合物層17を形成でき、回路層112とセラミックス基板11及び金属層113とセラミックス基板11とを確実に接合することができる。
【0083】
ここで、第2加熱処理工程S103において、加圧される圧力が1kgf/cm
2以上の場合、セラミックス基板11とCu−P−Sn系ろう材124との液相を密着させることができ、セラミックス基板11とCu−Sn層14とを良好に接合できる。また、加圧される圧力が35kgf/cm
2以下の場合、セラミックス基板11に割れが発生することを抑制できる。このような理由のため、本実施形態では、加圧される圧力は1kgf/cm
2以上35kgf/cm
2以下の範囲内に設定されている。
【0084】
また、本実施形態に係るパワーモジュール用基板110の製造方法によれば、セラミックス基板11の一方の面に回路層112を、他方の面に金属層113を同時に接合する構成とされているので、製造工程を簡略化し、製造コストを低減できる。
【0085】
(第三実施形態)
次に、本発明の第三実施形態について説明する。なお、第一実施形態と同一の構成のものについては、同一の符号を付して記載し、詳細な説明を省略する。
図11に、第三実施形態に係るパワーモジュール用基板210を備えたパワーモジュール201を示す。
このパワーモジュール201は、回路層212及び金属層213が配設されたパワーモジュール用基板210と、回路層212の一方の面(
図11において上面)に接合層2を介して接合された半導体素子3と、パワーモジュール用基板210の他方側(
図11において下側)に接合されたヒートシンク230と、を備えている。
【0086】
パワーモジュール用基板210は、
図12に示すように、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(
図12において上面)に配設された回路層212と、セラミックス基板11の他方の面(
図12において下面)に配設された金属層213と、を備えている。
セラミックス基板11は、第一実施形態と同様に、放熱性の優れたAlN(窒化アルミニウム)で構成されている。
【0087】
回路層212は、第一実施形態と同様に、セラミックス基板11の一方の面にCu−P−Sn系ろう材224、Ti材25、無酸素銅からなるCu板222を積層して加熱処理し、セラミックス基板11にCu板222を接合することで形成されている(
図15参照)。
なお、回路層212の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.3mmに設定されている。
ここで、本実施形態では、Cu−P−Sn系ろう材224として、具体的にはCu−P−Sn−Niろう材を用いている。
【0088】
そして、セラミックス基板11と回路層212との接合界面には、
図13に示すように、セラミックス基板211側に位置するCu−Sn層14と、回路層212側に位置し、CuとTiを含有する第1金属間化合物層16と、第1金属間化合物層16とCu−Sn層14との間に位置し、P及びTiを含有する第2金属間化合物層17と、が形成されている。
また、第1金属間化合物層16と第2金属間化合物層17との間に、Ti層15が形成されており、このTi層15の厚さが0.5μm以下とされている。
【0089】
金属層213は、セラミックス基板11の他方の面に、Al又はAl合金からなるAl板が接合されることにより形成されている。本実施形態において、金属層213は、セラミックス基板11の他方の面に、純度99.99mass%以上のAl板223を接合することで形成されている(
図15参照)。
この金属層213の厚さは0.1mm以上3.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、1.6mmに設定されている。
【0090】
ヒートシンク230は、Al又はAl合金で構成されており、本実施形態ではA6063(Al合金)で構成されている。このヒートシンク230には、冷却用の流体が流れるための流路231が設けられている。なお、このヒートシンク230と金属層213とが、Al−Si系ろう材によって接合されている。
【0091】
次に、本実施形態に係るパワーモジュール201の製造方法について、
図14のフロー図及び
図15を参照して説明する。
まず、
図15に示すように、回路層212となるCu板222とTi材25とを積層し、積層方向に加圧(圧力1〜35kgf/cm
2)した状態で真空加熱炉内に配置し加熱して、Cu板222とTi材25とを固相拡散接合させ、Cu−Ti接合体227を得る。(CuTi拡散工程S201)。
【0092】
なお、Ti材25の厚さは、0.4μm以上5μm以下の範囲内とされている。ここで、Ti材25は、厚さが0.4μm以上1μm未満の場合には蒸着やスパッタによって成膜することが好ましく、厚さが1μm以上5μm以下の場合には箔材を用いることが好ましい。なお、Ti材25の厚さの下限は0.4μm以上とすることが好ましく、0.5μm以上とすることがさらに好ましい。また、Ti材25の厚さの上限は1.5μm以下とすることが好ましく、0.7μm以下とすることがさらに好ましい。本実施形態においては、Ti材25として、厚さ1.4μm、純度99.8mass%のTi箔を用いた。
【0093】
また、CuTi拡散工程S201においては、真空加熱炉内の圧力は10
−6Pa以上10
−3Pa以下の範囲内に、加熱温度は600℃以上670℃以下の範囲内に、加熱時間は30分以上360分以下の範囲内に設定している。ここで、CuTi拡散工程S201において、加熱温度を600℃以上及び加熱時間を30分以上とすることで中間第1金属間化合物層を十分に形成することが可能となる。また、加熱温度を655℃以下及び加熱時間を360分以下とすることで中間第1金属間化合物層が必要以上に厚く形成されることを抑制できる。
なお、加熱温度の下限は610℃以上とすることが好ましく620℃以上とすることがさらに好ましい。加熱温度の上限は650℃以下とすることが好ましく640℃以下とすることがさらに好ましい。また、加熱時間の下限は15分以上とすることが好ましく60分以上とすることがさらに好ましい。加熱時間の上限は120分以下とすることが好ましく90分以下とすることがさらに好ましい。
【0094】
なお、Cu板222とTi材25とをさらに強固に接合するためには、CuTi拡散工程S201において、積層方向への加圧荷重を0.294MPa以上1.96MPa以下(3kgf/cm
2以上20kgf/cm
2以下)の範囲内とすることが好ましい。
【0095】
このCuTi拡散工程S201によって得られるCu−Ti接合体227においては、Ti材25とCu板222とが固相拡散接合によって接合され、Cu板222と中間Ti層26の積層構造となっている。ここで、中間Ti層26とCu板222との間には、CuとTiを含有する中間第1金属間化合物層が形成される。このとき、Ti材25がすべて中間第1金属間化合物層の形成に消費されず、その一部が残存する。
ここで、本実施形態では、中間Ti層26の厚さは、0.1μm以上3μm以下の範囲内とされている。なお、中間Ti層26の厚さの下限は0.2μm以上とすることが好ましく、0.4μm以上とすることがさらに好ましい。また、中間Ti層26の厚さの上限は1.5μm以下とすることが好ましく、0.7μm以下とすることがさらに好ましい。
さらに、中間第1金属間化合物層の厚さは、0.1μm以上6μm以下とすることが好ましい。
【0096】
次に、
図15に示すように、セラミックス基板11の一方の面(
図15において上面)に、Cu−P−Sn系ろう材224、Ti材25及びCu板222を順に積層するとともに、セラミックス基板11の他方の面(
図14において下面)に、接合材241を介して金属層213となるAl板223を順に積層する。そして、さらにAl板223の下側に、接合材242を介してヒートシンク230を積層する(積層工程S202)。ここで、Cu−Ti接合体227は、中間Ti層26とCu−P−Sn系ろう材224が対向するように積層される。
【0097】
本実施形態においては、Cu−P−Sn系ろう材224の組成は、Cu−7mass%P−15mass%Sn−10mass%Niとされており、その溶融開始温度(固相線温度)は580℃とされている。また、Cu−P−Sn系ろう材224は箔材を用い、その厚さは、5μm以上150μm以下の範囲内とされている。
また、接合材241、242としては、本実施形態では、融点降下元素であるSiを含有したAl−Si系ろう材とされており、第三実施形態においては、Al−7.5mass%Siろう材を用いている。
【0098】
次に、セラミックス基板11、Cu−P−Sn系ろう材224、Cu−Ti接合体227、接合材241、Al板223、接合材242、及びヒートシンク230を積層方向に加圧(圧力1〜35kgf/cm
2)した状態で、真空加熱炉内に装入して加熱する(加熱処理工程S203)。ここで、本実施形態では、真空加熱炉内の圧力は10
−6Pa以上10
−3Pa以下の範囲内に、加熱温度は600℃以上650℃以下の範囲内に、加熱時間は30分以上240分以下の範囲内に設定している。
【0099】
この加熱処理工程S203においては、Cu−P−Sn系ろう材224が溶融して液相を形成し、この液相に中間Ti層26が溶け込み、液相が凝固することにより、セラミックス基板11とCu板222とが接合されることになる。このとき、Cu−P−Sn系ろう材224中に含まれるP及びNiは、中間Ti層26のTiと結合し、第2金属間化合物層17が形成されるとともに、セラミックス基板11側にはCu−Sn層14が形成される。なお、第1金属間化合物層16は、中間第1金属間化合物層が残存することによって形成されたものである。
本実施形態においては、中間Ti層26の厚さが、0.1μm以上3μm以下の範囲内とされているので、この中間Ti層26がCu−P−Sn系ろう材224の液相中にすべてが溶け込まず、一部が残存し、Ti層15が形成される。しかしながら、Ti層15の厚さが0.5μm以下と薄く形成されていることから、回路層212とセラミックス基板11と金属層213の積層方向における熱抵抗を低く抑えることが可能となり、回路層212上に搭載された半導体素子3から発生する熱を効率的に放熱することができる。
なお、第1金属間化合物層16の厚さは、加熱処理工程S203における加熱によってTiの拡散が進み、中間第1金属間化合物層の厚さより厚くなる場合もある。また、Ti層15の厚さは、加熱処理工程S203における加熱によってTiの拡散が進み、中間Ti層26の厚さよりも薄くなる場合もある。
【0100】
また、加熱処理工程S203においては、接合材241が溶融して液相を形成し、この液相が凝固することにより、接合材241を介してセラミックス基板11とAl板223とが接合される。さらに、加熱処理工程S203においては、接合材242が溶融して液相を形成し、この液相が凝固することにより、接合材242を介してAl板223とヒートシンク230とが接合される。
これにより、本実施形態であるパワーモジュール用基板210が製造される。
【0101】
次に、パワーモジュール用基板210の回路層212の上面に、はんだ材を介して半導体素子3を接合する(半導体素子接合工程S204)。
このようにして、本実施形態に係るパワーモジュール201が製造される。
【0102】
以上のような構成とされた本実施形態に係るパワーモジュール用基板210においては、第一実施形態及び第二実施形態で説明したパワーモジュール用基板10,110と同様の効果を奏する。
また、本実施形態に係るパワーモジュール用基板210においては、セラミックス基板11の他方の面にAl板223が接合されてなる金属層213が形成されているので、半導体素子3からの熱を、金属層213を介して効率的に放散することができる。また、Alは比較的変形抵抗が低いので、冷熱サイクルが負荷された際に、パワーモジュール用基板210とヒートシンク230との間に生じる熱応力を金属層213によって吸収し、セラミックス基板11に割れが発生することを抑制できる。
【0103】
また、本実施形態に係るパワーモジュール用基板210の製造方法によれば、セラミックス基板11の一方の面に回路層212を、他方の面に金属層213を同時に接合する構成とされているので、製造工程を簡略化し、製造コストを低減できる。
【0104】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、絶縁回路基板に半導体素子を搭載してパワーモジュールを構成するものとして説明したが、これに限定されることはない。例えば、絶縁回路基板の回路層にLED素子を搭載してLEDモジュールを構成してもよいし、絶縁回路基板の回路層に熱電素子を搭載して熱電モジュールを構成してもよい。
【0105】
また、第二実施形態及び第三実施形態においては、セラミックス基板の一方の面に回路層を、他方の面に金属層を同時に接合する場合について説明したが、回路層と金属層とを別々に接合しても良い。
また、第三実施形態において、回路層、金属層、及びヒートシンクを同時に接合する場合について説明したが、回路層と金属層をセラミックス基板に接合した後に、金属層とヒートシンクとを接合する構成としても良い。
また、第三実施形態において、セラミックス基板の他方の面にAl−Si系ろう材を介して金属層を接合する場合について説明したが、過渡液相接合法(TLP)やAgペーストなどによって接合しても良い。
【0106】
また、第二実施形態及び第三実施形態では、流路が設けられたヒートシンクを用いる場合について説明したが、放熱板と呼ばれる板状のものや、ピン状フィンを有するものとしてもよい。
また、パワーモジュール用基板とヒートシンクとをはんだ材又はろう材で接合する場合について説明したが、パワーモジュール用基板とヒートシンクとの間にグリースを介してネジ止めなどによって固定する構成とされても良い。
また、第二実施形態及び第三実施形態のパワーモジュール用基板において、パワーモジュール用基板の他方の面側にヒートシンクが接合されていなくても良い。
【0107】
なお、第一実施形態、第二実施形態及び第三実施形態では、Ti材としてTi箔を用いる場合又は蒸着やスパッタでTi材を形成する場合について説明したが、Cu部材の一方の面にTiを配設したCu部材/Tiクラッド材を用いることもできる。この場合、Cu部材/Tiクラッド材を予め加熱することでCuとTiを含有する第1金属間化合物層を形成してもよいし、第1加熱処理工程でCu部材/Tiクラッド材の内部に第1金属間化合物層を形成してもよい。
さらに、Ti材の一方の面にCu−P−Sn系ろう材を配設したTi材/ろう材クラッド材や、Cu部材、Ti材、Cu−P−Sn系ろう材の順に積層されたCu部材/Ti材/ろう材クラッドを用いることができる。
【0108】
また、上記実施形態では、Cu−P−Sn系ろう材の箔材を用いたものを例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、粉末やペーストを用いることもできる。
さらに、上記実施形態ではCu−P−Sn系ろう材として、Cu−P−Sn−Niろう材やCu−P−Snろう材を用いるものとして説明したが、その他のCu−P−Sn系ろう材を用いてもよい。以下に、本発明の接合体の製造方法に適したCu−P−Sn系ろう材について詳しく説明する。
【0109】
Cu−P−Sn系ろう材のPの含有量は、3mass%以上10mass%以下とされていることが好ましい。
Pは、ろう材の溶融開始温度を低下させる作用効果を有する元素である。また、このPは、Pが酸化することで発生するP酸化物により、ろう材表面を覆うことでろう材の酸化を防止するとともに、溶融したろう材の表面を流動性の良いP酸化物が覆うことでろう材の濡れ性を向上させる作用効果を有する元素である。
Pの含有量が3mass%未満では、ろう材の溶融開始温度を低下させる効果が十分に得られずろう材の溶融開始温度が上昇したり、ろう材の流動性が不足し、セラミックス基板と回路層との接合性が低下したりするおそれがある。また、Pの含有量が10mass%超では、脆い金属間化合物が多く形成され、セラミックス基板と回路層との接合性や接合信頼性が低下するおそれがある。
このような理由からCu−P−Sn系ろう材に含まれるPの含有量は、3mass%以上10mass%以下の範囲内とすることが好ましい。
【0110】
また、Cu−P−Sn系ろう材のSnの含有量は、0.5mass%以上25mass%以下とされていることが好ましい。
Snは、ろう材の溶融開始温度を低下させる作用効果を有する元素である。Snの含有量が0.5mass%以上では、ろう材の溶融開始温度を確実に低くすることができる。また、Snの含有量が25mass%以下では、ろう材の低温脆化を抑制することができ、セラミックス基板と回路層との接合信頼性を向上させることができる。
このような理由からCu−P−Sn系ろう材にSnの含有量は、0.5mass%以上25mass%以下の範囲内とすることが好ましい。
【0111】
また、Cu−P−Sn系ろう材は、Ni、Cr、Fe、Mnのうちいずれか1種または2種以上を2mass%以上20mass%以下含有していても良い。
Ni、Cr、Fe、Mnは、セラミックス基板とろう材との界面にPを含有する金属間化合物が形成されることを抑制する作用効果を有する元素である。
Ni、Cr、Fe、Mnのうちいずれか1種または2種以上の含有量が2mass%以上では、セラミックス基板とろう材との接合界面にPを含有する金属間化合物が形成されることを抑制することができ、セラミックス基板と回路層との接合信頼性が向上する。また、Ni、Cr、Fe、Mnのうちいずれか1種または2種以上の含有量が20mass%以下では、ろう材の溶融開始温度が上昇することを抑制し、ろう材の流動性が低下することを抑え、セラミックス基板と回路層との接合性を向上させることができる。
このような理由からCu−P−Sn系ろう材にNi、Cr、Fe、Mnのうちいずれか1種または2種以上を含有させる場合、その含有量は2mass%以上20mass%以下の範囲内とすることが好ましい。
【実施例】
【0112】
<実施例1>
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0113】
(本発明例1〜3、12、14〜15(加熱方式:A))
表1記載のセラミックス基板(40mm×40mm、AlN及びAl
2O
3は厚さ0.635mm、Si
3N
4の場合には厚さ0.32mm)の一方の面及び他方の面に表1に示すCu−P−Sn系ろう材箔、Ti材、無酸素銅からなるCu板(厚さ:0.3mm)を順に積層し、積層方向に15kgf/cm
2の荷重を付加した。
そして、真空加熱炉内(圧力:10
−4Pa)に前述した積層体を装入し、第1加熱処理工程として、表1記載の温度と時間(加熱処理1の欄)で加熱した。その後、第2加熱処理工程として、表2記載の温度と時間(加熱処理2の欄)で加熱することによって、セラミックス基板の一方の面及び他方の面にCu板を接合し、回路層及び金属層を形成し、パワーモジュール用基板を得た。
なお、回路層用のCu板の大きさは、後述する90°ピール強度試験用に44mm×25mm(但し、セラミックス基板の端部から5mm突出している)、熱抵抗試験用に37mm×37mmとし、それぞれ作製した。金属層用のCu板の大きさは、37mm×37mmとした。
【0114】
(本発明例4〜11、13(加熱方式:B))
まず、CuTi拡散工程として、無酸素銅からなるCu板(厚さ:0.3mm)と表1記載のTi材を積層し、積層方向に圧力15kgf/cm
2で加圧した状態で真空加熱炉内(圧力:10
−4Pa)に装入し、表1記載の温度と時間(加熱処理1の欄)で加熱し、Cu−Ti接合体を得た。なお、Cu−Ti接合体は回路層用と金属層用のそれぞれを用意した。
次に、表1記載のセラミックス基板(40mm×40mm、AlN及びAl
2O
3は厚さ0.635mm、Si
3N
4の場合には厚さ0.32mm)の一方の面及び他方の面に表1に示すCu−P−Sn系ろう材箔、Cu−Ti接合体を順に積層する。
そして、表2記載の温度と時間(加熱処理2の欄)で加熱し、セラミックス基板の一方の面及び他方の面にCu板を接合し、回路層及び金属層を形成し、パワーモジュール用基板を作製した。回路層用及び金属層用のCu板の大きさは、前述と同様とした。
【0115】
(従来例1,2)
表1記載のセラミックス基板(40mm×40mm×0.635mmt)の一方の面及び他方の面に表1に示すCu−P−Sn系ろう材箔、Ti材、無酸素銅からなるCu板(厚さ:0.3mm)を順に積層し、積層方向に15kgf/cm
2の荷重を付加した。
そして、真空加熱炉内(圧力:10
−4Pa)に前述した積層体を装入し、第2加熱処理工程として、表2記載の温度と時間(加熱処理2の欄)で加熱することによって、セラミックス基板の一方の面及び他方の面にCu板を接合し、回路層及び金属層を形成し、パワーモジュール用基板を得た。回路層用及び金属層用のCu板の大きさは、本発明例と同様とした。
【0116】
上述のようにして得られたパワーモジュール用基板に対して、回路層とセラミックス基板との90°ピール強度、積層方向の熱抵抗を評価した。
また、得られたパワーモジュール用基板に対して、セラミックス基板と回路層との接合界面において、第1金属間化合物層、Ti層、第2金属間化合物層の厚さを評価した。さらに、加熱処理1後の中間第1金属間化合物層、中間Ti層の厚さを評価した。
【0117】
(90°ピール強度試験)
各パワーモジュール用基板において、150℃で500時間放置後、回路層のうちセラミックス基板から突出した部分を90°折り曲げ、セラミックス基板と垂直方向に回路層を引っ張り、回路層がセラミックス基板から剥離するまでの最大の引っ張り荷重を測定した。この荷重を接合長さで割った値を90°ピール強度とし、表2に記載した。
【0118】
(熱抵抗試験)
ヒータチップ(13mm×10mm×0.25mm)を回路層の表面に半田付けし、セラミックス基板を冷却器に積層した。次に、ヒータチップを100Wの電力で加熱し、熱電対を用いてヒータチップの温度を実測した。また、冷却器を流通する冷却媒体(エチレングリコール:水=9:1)の温度を実測した。そして、ヒータチップの温度と冷却媒体の温度差を電力で割った値を熱抵抗とし、本発明例1を1.00として相対評価した。評価結果を表2に示す。
【0119】
(中間第1金属間化合物層、中間Ti層、第1金属間化合物層、Ti層及び第2金属間化合物層の厚さ)
第1金属間化合物層、Ti層及び第2金属間化合物層の厚さは、Cu板/セラミックス基板界面のEPMAから、倍率10000倍の視野(縦30μm、横40μm)において、接合界面に形成された第1金属間化合物層の総面積、Ti層の面積及び第2金属間化合物層の総面積を測定し、測定視野の幅の寸法で除して求め、5視野の平均を第1金属間化合物層、Ti層及び第2金属間化合物層の厚さとした。
中間第1金属間化合物層及び中間Ti層は、前述した加熱方式Bにて作製したCu−Ti接合体のCuとTiの接合界面に対し、EPMAから、倍率10000倍の視野(縦30μm、横40μm)において、接合界面に形成された中間第1金属間化合物層の総面積、中間Ti層の面積の総面積を測定し、測定視野の幅の寸法で除して求め、5視野の平均を中間第1金属間化合物層、中間Ti層の厚さとした。
なお、Ti濃度が15at%〜70at%の範囲内である領域を第1金属間化合物層及び中間第1金属間化合物層とみなし、固溶体は含めないものとする。
また、第2金属間化合物層は、少なくともPとTiを含み、P濃度が28at%〜52at%の範囲内の領域とする。
評価結果を表1及び表2に示す。
【0120】
【表1】
【0121】
【表2】
【0122】
Ti層が厚く形成された従来例1においては、90°ピール強度は高いものの、積層方向の熱抵抗が高くなっていることが確認された。また、Ti層が確認されなかった従来例2では、第1金属間化合物層が形成されず、90°ピール強度が低いことが確認された。
これに対し、本発明例1〜15では、90°ピール強度が高く、熱抵抗が低いパワーモジュール用基板が得られることが確認された。
【0123】
<実施例2>
次に、さらに厳しいピール強度試験を実施した。
まず、CuTi拡散工程として、無酸素銅からなるCu板(厚さ:0.3mm)と厚さ3mmのTi材を積層し、表3に示す圧力で積層方向に加圧した状態で真空加熱炉内(圧力:10
−4Pa)に装入し、表3記載の温度と時間(加熱処理1の欄)で加熱し、Cu−Ti接合体を得た。なお、Cu−Ti接合体は回路層用と金属層用のそれぞれを用意した。
【0124】
次に、表3記載のセラミックス基板(40mm×40mm、AlN及びAl
2O
3は厚さ0.635mm、Si
3N
4の場合には厚さ0.32mm)の一方の面及び他方の面にCu−6.3mass%P−9.3mass%Sn−7.0mass%Niろう材箔(融点600℃)、Cu−Ti接合体を順に積層した。
そして、加熱処理2として650℃×60minの条件で加熱し、セラミックス基板の一方の面及び他方の面にCu板を接合し、回路層及び金属層を形成し、パワーモジュール用基板を作製した。回路層用及び金属層用のCu板の大きさは、前述と同様とした。
【0125】
上述のようにして得られたパワーモジュール用基板に対して、回路層とセラミックス基板との90°ピール強度を以下の条件で評価した。
各パワーモジュール用基板において、150℃で1000時間放置後、回路層のうちセラミックス基板から突出した部分を90°折り曲げ、セラミックス基板と垂直方向に回路層を引っ張り、回路層がセラミックス基板から剥離するまでの最大の引っ張り荷重を測定した。この荷重を接合長さで割った値を90°ピール強度とし、表3に記載した。
【0126】
【表3】
【0127】
積層方向に圧力を高く、かつ、加熱時間を長く設定することにより、厳しい条件でのピール試験であっても、十分なピール強度を確保できることが確認された。