(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記インナシャフトに、前記保護チューブの軸方向他端縁部が前記脆弱部の径方向外側に存在する位置でこの保護チューブの前記インナシャフトに対する軸方向一端側への相対変位を阻止する、第2ストッパが設けられている、請求項1に記載した中間シャフト。
車体への組み付け状態で、前記インナシャフトの軸方向他端側部分が、このインナシャフトの軸方向一端側部分よりも上下方向に関して下方に配置される、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載した中間シャフト。
【背景技術】
【0002】
自動車用操舵装置は、
図12に示す様に、運転者が操作するステアリングホイール1の動きを、ステアリングシャフト2及び中間シャフト3等の複数本のシャフトと、これら各シャフト2、3の端部同士を結合した自在継手4a、4bとを介して、図示しないステアリングギヤに伝達する様に構成している。この様に構成される自動車用操舵装置では、衝突時に運転者を保護する為、ステアリングシャフト2だけでなく、ステアリングシャフト2を挿通したステアリングコラム5及び中間シャフト3を、衝撃に伴うエネルギを吸収しつつ全長が縮まるエネルギ吸収式のものとする事が行われている。又、中間シャフト3に関しては、衝撃のエネルギを吸収しつつ、軸方向中間部で「く」字形に折れ曲がる構造とする事も、従来から考えられている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
前記特許文献1に記載された従来構造のエネルギ吸収式の中間シャフトは、アウタチューブの軸方向一端部とインナシャフトの軸方向他端部とを、相対回転不能にセレーション係合させる事により構成されている。又、インナシャフトの軸方向中間部には、脆弱部である他の部分に比べて断面積が小さくなった括れ部が形成されている。そして、この括れ部を跨ぐ状態で、インナシャフトの軸方向中間部に保護チューブを外嵌している。保護チューブの軸方向両端部は、インナシャフトのうちで括れ部の軸方向両側に隣接する部分に対し、トルク伝達可能に、且つ、定常状態(衝突事故未発生状態)において軸方向に関する相対変位を不能に外嵌している。これにより、定常状態においては、操舵トルクのうちの大部分を保護チューブにより伝達し、操舵に伴って括れ部に大きな応力が加わらない様にしている。
尚、本明細書及び特許請求の範囲で、特に断る場合を除き、軸方向及び径方向とは、中間シャフトに関する軸方向及び径方向を言う。
【0004】
衝突事故が発生した際には、中間シャフトに対して軸方向に亙る強い圧縮力が作用し、アウタチューブとインナシャフトとを軸方向に相対変位させる。これに基づき、アウタチューブから保護チューブに対し軸方向一端側に向いた強い力が作用し、保護チューブを括れ部の周囲から退避させる。そして、保護チューブの軸方向他端縁部が括れ部の径方向外側に存在する位置にて、保護チューブの軸方向一端部がインナシャフトの軸方向一端部に固定されたヨークの端面に突き当たり、保護チューブが軸方向にそれ以上相対変位する事が阻止される。そして、この様な状態で、中間シャフトに更に圧縮力が加わると、インナシャフトが括れ部を起点として折れ曲がる。これにより、衝突に基づくエネルギを吸収し、運転者の身体に加わる衝撃を緩和する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した様な従来構造の中間シャフトの場合、保護チューブの軸方向両端部は、インナシャフトのうちで括れ部の軸方向両側に隣接する部分に対し、セレーション係合等によりトルク伝達可能に係合していると共に、圧入等により軸方向の相対変位が不能にがたつきなく固定されている。但し、例えば、車輪が縁石に乗り上げる等の事故によってインナシャフトに入力される大きなトルクに起因して、保護チューブの軸方向両端部とインナシャフトのうちで括れ部の軸方向両側に隣接する部分との嵌め合い力が低下すると、操舵トルク等の力が保護チューブを介して伝達されなくなり、大きな捩りトルクや軸方向に向いた力が括れ部に直接作用する。そして、この様な状態で使用を継続すると、括れ部が破断する可能性がある。そして、二分されたインナシャフトのうちの半部が保護チューブから抜け出す事で、中間シャフトによるトルク伝達が不能になる恐れがある。
本発明は、この様な事情に鑑みて、インナシャフトに設けられた括れ部などの脆弱部が破断した場合にも、中間シャフトによるトルク伝達が不能になる事を防止できる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の中間シャフトは、インナシャフトと、アウタチューブと、保護チューブと、1対の第1ストッパとを備えている。
このうちのインナシャフトは、例えば全体が中実軸状に構成され、軸方向中間部に、このインナシャフトの他の部分に比べて例えば断面積が十分に小さくなる等した、括れ部などの脆弱部を有している。
又、前記アウタチューブは、例えば全体が中空筒状に構成され、軸方向一端側部分に前記インナシャフトの軸方向他端側部分が相対回転不能に挿入(内嵌)される。
前記保護チューブは、例えば全体が中空筒状に構成されており、前記脆弱部を跨いだ状態で、前記インナシャフトのうちでこの脆弱部の軸方向両側に隣接する部分(脆弱部を挟んだ軸方向両側部分)に対し、トルク伝達可能に、且つ、定常状態において、例えば圧入や楕円嵌合等により軸方向に関する相対変位を不能にがたつきなく外嵌されている。
前記1対の第1ストッパは、軸方向に関して前記脆弱部の両側に設けられており、前記アウタチューブから前記保護チューブに対し軸方向一端側に向いた力が加わった場合を除き、前記インナシャフトと前記保護チューブとの軸方向に関する相対変位を制限する(相対変位量をゼロに若しくは僅かに抑える)。
本発明の中間シャフトは、前記インナシャフトの軸方向他端側部分と前記アウタチューブの軸方向一端側部分とを、軸方向に関する相対変位を可能に緩く(軸方向に関する相対変位が制限されない様に)係合させている。
【0008】
本発明を実施する場合に、前記第1ストッパを、前記インナシャフトのうちで前記脆弱部の軸方向両側に隣接する部分と前記保護チューブとのうちの一方の部材(インナシャフト又は保護チューブ)に係止した状態で、他方の部材(保護チューブ又はインナシャフト)に対し、前記インナシャフトと前記保護チューブとの軸方向に関する相対変位を不能に又は僅かな相対変位のみを可能に係合させる構造を採用する事ができる。
又、前記第1ストッパは、前記インナシャフトと前記アウタチューブとの軸方向に関する相対変位に基づき、このアウタチューブから前記保護チューブに対し軸方向一端側に向いた力が加わった場合には、少なくとも前記他方の部材から離脱する、又は、前記インナシャフトと前記保護チューブとの間で裂断(破断)する事で、前記保護チューブが前記インナシャフトに対し軸方向一端側に相対変位する事を許容する構成を採用できる。
【0009】
又、本発明を実施する場合に、前記第1ストッパの形状及びその取付構造は、特に問わない。
例えば前記第1ストッパとして、略U字形若しくは略V字形などの止め輪や棒状(軸状)の止めピンを採用する事ができる。
前記第1ストッパとして、略U字形の止め輪を使用した場合には、この止め輪を、前記保護チューブの軸方向両端部である、インナシャフトのうちで脆弱部の軸方向両側に隣接する部分に外嵌した部分に形成した切り欠きに係止した状態で、前記止め輪の一部を、前記インナシャフトのうちで脆弱部の軸方向両側に隣接する部分の外周面に形成した凹部に対し、前記インナシャフトと前記保護チューブとの軸方向に関する相対変位を不能に隙間なく(がたつきなく)係合又は軸方向に関する僅かな相対変位を可能に緩く係合させる構造を採用する事ができる。
反対に、前記止め輪を、前記インナシャフトのうちで脆弱部の軸方向両側に隣接する部分の外周面に形成した凹部に係止した状態で、前記止め輪の一部を、前記保護チューブの軸方向両端部に形成した切り欠きに対し、前記インナシャフトと前記保護チューブとの軸方向に関する相対変位を不能に隙間なく係合又は軸方向に関する僅かな相対変位を可能に緩く係合させる構造を採用する事もできる。
【0010】
又、本発明を実施する場合、例えば、前記インナシャフトに、前記保護チューブの軸方向他端縁部が前記脆弱部の径方向外側に存在する位置で、この保護チューブの前記インナシャフトに対する軸方向一端側への相対変位を阻止する、第2ストッパを設ける事ができる。
この様な第2ストッパは、例えば、前記インナシャフトとは別体とし、このインナシャフトに対して固定する事ができる他、このインナシャフトと一体に設ける事もできる。
前記第2ストッパを前記インナシャフトと別体に設ける場合、この第2ストッパの形状並びにその固定構造及び固定位置は、特に問わない。
例えば、前記第2ストッパとして、円環状又は欠円環状の止め輪を使用し、インナシャフトの外周面に対し少なくとも軸方向一端側への相対変位を不能に固定する構造を採用する事ができる。又は、第2ストッパとして、棒状(軸状)の止めピンを使用し、インナシャフトの外周面に開口する状態で形成した取付孔内に、該止めピンの軸方向端部(一端部又は両端部)を外部に突出させた状態で挿入する構造を採用する事もできる。
又、前記第2ストッパは、定常状態で、前記保護チューブよりも軸方向一端側に固定する事もできるし、軸方向に関して前記保護チューブと整合する位置に固定する事もできる。
更に、前記第2ストッパを前記インナシャフトと一体に設ける場合には、例えば、このインナシャフトの外周面のうち、雄セレーション溝が設けられた部分と設けられていない部分(下径のままの部分)との境界を、前記第2ストッパとする事ができる他、前記インナシャフトの外周面に段付加工を施す事により形成した段差面を、前記第2ストッパとする事もできる。
【0011】
又、本発明を実施する場合には、例えば、車体への組み付け状態で、前記インナシャフトの軸方向他端側部分を、このインナシャフトの軸方向一端側部分よりも上下方向に関して下方に配置する事もできる。換言すれば、このインナシャフトを上側に、前記アウタチューブを下側に、それぞれ配置する事もできる。
【0012】
前記中間シャフトに対し所定値以上の大きさの圧縮力、つまり、衝突事故の際に、インナシャフトとアウタチューブとのうち、下方に配置された部材が突き上げられる事に伴う圧縮力が加わった場合のみ、前記インナシャフトの軸方向他端側部分と前記アウタチューブの軸方向一端側部分との軸方向に関する相対変位が可能になる様な構成を採用する事もできる。
この場合には例えば、前記インナシャフトと前記アウタチューブとの嵌合部を構成する、このインナシャフトの外周面の軸方向一部及びこのアウタチューブの内周面の軸方向一部に、断面非円形状の塑性変形部をそれぞれ設ける事ができる。
この様な塑性変形部を設けるには、例えば、前記アウタチューブの軸方向一端部に前記インナシャフトの軸方向他端部を僅かに挿入した後、前記アウタチューブの軸方向一端部を工具により径方向外側から押し潰し、このアウタチューブの軸方向一端部内周面及び前記インナシャフトの軸方向他端部外周面を、例えば断面楕円形状に塑性変形させる。その後、前記アウタチューブと前記インナシャフトとを前記中間シャフトの全長を縮める様に軸方向に相対変位させて、前記アウタチューブの塑性変形部と前記インナシャフトの塑性変形部とを軸方向に離隔して配置する。
尚、この様にして形成される前記アウタチューブと前記インナシャフトとの嵌合部のうち、塑性変形部の形状が楕円形であるものは、例えば特許文献2、3に記載され広く知られており、一般的に楕円嵌合部と呼ばれる。
【発明の効果】
【0013】
上述の様な構成を有する本発明によれば、インナシャフトに設けられた脆弱部が破断した場合にも、中間シャフトによるトルク伝達が不能になる事を防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施の形態の第1例]
本発明の実施の形態の第1例に就いて、
図1〜8を参照しつつ説明する。本例の中間シャフト3aは、前記
図12に示した構造と同様に、自動車用操舵装置を構成し、ステアリングシャフト2の動きをステアリングギヤに伝達するもので、衝撃エネルギを吸収しつつ、軸方向中間部で折れ曲がる、エネルギ吸収式の中間シャフトである。従って、本例の中間シャフト3aは、衝突事故の前後でその形状が変化する為、先ず、衝突事故の未発生時の定常状態に関して、
図1〜4を参照しつつ説明し、その後、衝突事故発生後の状態に関して、
図6〜8を参照しつつ説明する。インナシャフト6に設けた括れ部7が破断した場合に就いての説明は、
図5を参照しつつ行う。
【0016】
中間シャフト3aは、金属製で中空円筒状のアウタチューブ8の軸方向一端側部分(
図1、2、5〜8の左側部分)と、金属製で中実円柱状のインナシャフト6の軸方向他端側部分(
図1、2、5〜8の右側部分)とを、互いの相対回転を不能に、且つ、軸方向に関する相対変位を可能に嵌合させて成る。
【0017】
この為に、アウタチューブ8の内周面には、雌セレーション溝9を形成している。これに対し、インナシャフト6の外周面には、雄セレーション溝10を形成している。そして、インナシャフト6の軸方向他端側部分を、アウタチューブ8の軸方向一端側部分に挿入する事で、雌セレーション溝9と雄セレーション溝10とをセレーション係合させている。本例では、衝突事故未発生状態、即ち、アウタチューブ8から保護チューブ14に対し軸方向一端側に向いた力が加わる以前の状態である定常状態において、中間シャフト3aに作用する軸方向に向いた力に基づき、中間シャフト3aの全長が伸縮可能となる(アウタチューブ8とインナシャフト6とが軸方向に常時摺動可能となる)様に、雌セレーション溝9と雄セレーション溝10とを緩く係合させている。尚、インナシャフト6にあっては、後述する第2止め輪22よりも軸方向他端側部分の外周面にのみ、雄セレーション溝10を形成する事もできる。
【0018】
中間シャフト3aは、水平方向に対し傾斜した状態で車体に組み付けられ、インナシャフト6の軸方向他端側部分(アウタチューブ8側部分)が、インナシャフト6の軸方向一端側部分よりも上下方向に関して下方に配置される。換言すれば、インナシャフト6が上方側に、アウタチューブ8が下方側に、それぞれ配置される。又、本例の中間シャフト3aは、大型車に使用されるもので、一般的な普通乗用車に使用されるものに比べて軸方向寸法が長くなっている。
【0019】
中間シャフト3aの軸方向両端部には、自在継手4a、4bが連結されている。この為に、アウタチューブ8の軸方向他端部には、一方の自在継手4aを構成するヨーク11が固定されている。これに対し、インナシャフト6の軸方向一端部には、他方の自在継手4bを構成するヨーク12が固定されている。本例の場合、中間シャフト3aに対し、下方側の自在継手4aを介して、ステアリングギヤユニットを構成する図示しないピニオン軸が連結されるのに対し、上方側の自在継手4bを介して、ステアリング装置を構成する図示しないステアリングシャフトが連結される。
【0020】
インナシャフト6の軸方向中間部で、且つ、アウタチューブ8から外部に露出した部分には、インナシャフト6の他の部分に比べて断面積が十分に小さくなった括れ部7が設けられている。この括れ部7が、特許請求の範囲に記載した脆弱部に相当する。括れ部7は、断面円形状で、軸方向両側から軸方向中央に近づくに従って、外径が曲線的に小さくなっている。尚、括れ部7のうち、最も断面積が小さい部分の外径は、インナシャフト6の材質や外径によっても異なるが、SUV等の比較的大型の車両用の中間シャフト3aの場合、インナシャフト6の他の部分(1対の係合凹溝13a、13bから外れた部分)の外径の1/3〜2/3程度としている。又、インナシャフト6の外周面のうち、括れ部7から軸方向両側に所定間隔だけ離隔した部分には、1対の係合凹溝13a、13bが全周に亙り形成されている。これら各係合凹溝13a、13bは、インナシャフト6の中心軸を含む仮想平面に関する断面形状が凹円弧状で、それぞれの径方向深さ及び軸方向幅寸法は、括れ部7の径方向深さ及び軸方向幅寸法に比べて、例えば1/10〜1/2程度と十分に小さくなっている。
【0021】
又、インナシャフト6の軸方向中間部には、括れ部7及び1対の係合凹溝13a、13bを跨ぐ(覆う)状態で、保護チューブ14が外嵌されている。保護チューブ14は、金属製で、全体が中空円筒状に構成されている。又、保護チューブ14は、1対の係合凹溝13a、13b同士の間隔よりも長い軸方向寸法を有しており、内周面に全長に亙り雌セレーション溝15が形成されている。雌セレーション溝15は、インナシャフト6の外周面に形成された雄セレーション溝10のうちで括れ部7の軸方向両側に隣接する部分に対し、トルク伝達可能にセレーション係合している。更に、保護チューブ14の軸方向両端部は、インナシャフト6の外周面のうち括れ部7の軸方向両側に隣接する部分である、括れ部7を挟んだ軸方向両側部分に対し、圧入、かしめ、楕円嵌合、インジェクション嵌合等の固定手段23a、23bにより、定常状態において軸方向に相対変位しない様に、がたつきなく固定されている。つまり、保護チューブ14の軸方向両端部は、インナシャフト6のうちで括れ部7の軸方向両側に隣接する部分に対し、セレーション係合によりトルク伝達可能に係合していると共に、圧入等の固定手段23a、23bにより軸方向に関する相対変位を不能に固定されている。尚、固定手段23a、23bとしては、楕円嵌合が、保護チューブ14を、その断面形状が円形から楕円形になる様に変形させた状態で、インナシャフト6に外嵌するだけで済む為、作業が簡易で作業工数を抑えられる面から好ましく採用できる。
【0022】
保護チューブ14の軸方向両端部のうち、軸方向に関して係合凹溝13a、13bと整合する部分には、保護チューブ14の内外両周面に開口する状態で、係止切り欠き16a、16bが形成されている。係止切り欠き16a、16bは、保護チューブ14の幅方向(
図1〜4の上下方向)に離隔した両側端部(保護チューブ14の径方向反対側2個所)に、1対の切り欠き17、17を、この幅方向に対し直交する方向(
図1、2の表裏方向、
図3の左右方向)に形成する事で構成されている。又、係止切り欠き16a、16bを形成する事により、1対の切り欠き17、17同士の間部分に、全体が部分円弧状で、幅方向両側面がそれぞれ凹円弧面となった1対の連続部18、18を設けている。別な言い方をすれば、保護チューブ14の軸方向両端部には、切り欠き17と連続部18とが円周方向に関して交互に配置された部分が設けられている。又、連続部18、18の幅方向(円周方向)両側面である凹円弧面の底部同士の間隔Tは、インナシャフト6に形成された係合凹溝13a、13bの底部の外径Dよりも僅かに大きくなっている。
【0023】
又、保護チューブ14の軸方向他端縁部14aは、保護チューブ14の中心軸に直交する仮想平面に対して傾斜しており、楕円状の輪郭を有している。これに対し、保護チューブ14の軸方向一端縁部は、中心軸に直交する仮想平面上に存在している。又、保護チューブ14の軸方向他端縁部14aと軸方向に対向する、アウタチューブ8の軸方向一端縁部8aは、中心軸に直交する仮想平面上に存在している。
【0024】
本例の場合、保護チューブ14に設けた係止切り欠き16a、16bに対し、特許請求の範囲に記載した第1ストッパに相当する第1止め輪19a、19bをそれぞれ係止している。第1止め輪19a、19bは、それぞれが断面円形の金属線製で、全体が略U字状に構成されており、互いに平行に配置された1対の腕部20、20と、これら両腕部20、20の基端部同士を連続させた半円弧状の湾曲部21とを有している。又、第1止め輪19a、19bを構成する金属線の直径は、保護チューブ14に設けられた切り欠き17、17の幅寸法よりも僅かに小さく設定されている。そして、この様な構成を有する第1止め輪19a、19bは、一方の連続部18を湾曲部21により径方向外方から覆った状態(湾曲部21を一方の連続部18の径方向外方に配置した状態)で、1対の腕部20、20により1対の連続部18、18の幅方向両側面を弾性的に挟持する事で、係止切り欠き16a、16bにがたつきなく係止されている。
【0025】
又、第1止め輪19a、19bを係止切り欠き16a、16bに係止した状態で、1対の腕部20、20の長さ方向中間部が、インナシャフト6に形成された係合凹溝13a、13bの内側に入り込み、これら係合凹溝13a、13bに対して係合する。本例の場合、この様な係合状態で、腕部20、20の長さ方向中間部と、係合凹溝13a、13bの底面及び軸方向両側面との間にそれぞれ微小隙間を介在させている。
【0026】
本例の場合、定常状態において、保護チューブ14がインナシャフト6に対して軸方向一端側に相対変位するのを、保護チューブ14とインナシャフト6との間に設けられた圧入等の固定手段23a、23bに加え、第1止め輪19a、19bによっても防止している。つまり、保護チューブ14とインナシャフト6との軸方向に関する相対変位を、二重に防止している。特に本例の場合には、第1止め輪19a、19bが係合凹溝13a、13bから軸方向に脱落(又は第1止め輪19a、19bが破断)しない限りに於いては、保護チューブ14がインナシャフト6に対して軸方向一端側に相対変位しない様に、保護チューブ14の移動を制限している。この様に、定常状態においては、保護チューブ14が括れ部7を跨ぐ様に配置されている為、インナシャフト6がこの括れ部7で折れ曲がる事が防止される。又、操舵トルクは、主として保護チューブ14によって、インナシャフト6の後部から前部(一端側から他端側)へと伝達される。この為、括れ部7に大きな応力が加わる事も防止される。
【0027】
更に本例の第1止め輪19a、19bは、固定手段23a、23bによる嵌め合い力(固定力)の低下に基づいて括れ部7が破断した場合にも、二分されたインナシャフト6の下方側(
図1の右側)半部が、アウタチューブ8の内側を通じて下方に落下する事で、二分されたインナシャフト6のうちの半部が保護チューブ14の内側から脱落するのを防止する。この様な第1止め輪19a、19bの機能(役割)に就いて、
図5を参照しつつ詳しく説明する。
【0028】
例えば、車輪が縁石に乗り上げる等の事故によってインナシャフト6に入力される大きなトルクに起因して、固定手段23a、23bによる嵌め合い力が低下すると、操舵トルク等の力が保護チューブ14を介して伝達されなくなり、大きな捩りトルクや軸方向に向いた力が括れ部7に直接作用する。この様な状態で使用を継続すると、
図5の(A)に示した様に、括れ部7が破断する可能性がある。
【0029】
ここで、括れ部7の軸方向他端側(
図5の右側)に隣接する部分と保護チューブ14との間の固定手段23bによる嵌め合い力が低下した場合を考える。インナシャフト6とアウタチューブ8とは軸方向に関して相対変位可能に緩く係合している為、インナシャフト6が括れ部7にて破断すると、二分されたインナシャフト6のうちの下方側半部6aは、重力の影響によりそれ単独で、下方に落下する傾向になる。但し、本例の場合には、同図の(B)に示した様に、この状態で、軸方向他端側の第1止め輪19bが軸方向他端側の係合凹溝13bに対して係合する。この為、インナシャフト6の下方側半部6aの保護チューブ14に対する移動が制限(下方側半部6aの落下が防止)され、この下方側半部6aが保護チューブ14の内側から脱落する事が防止される。
【0030】
これに対し、括れ部7の軸方向一端側(
図5の左側)に隣接する部分と保護チューブ14との間の固定手段23aによる嵌め合い力が低下した場合を考える。この場合には、二分されたインナシャフト6のうちの下方側半部6aは、保護チューブ14と共に、下方に落下する傾向になる。但し、本例の場合には、同図の(C)に示した様に、この状態で、軸方向一端側の第1止め輪19aが軸方向一端側の係合凹溝13aに対して係合する。この為、インナシャフト6の上方側半部6bの保護チューブ14に対する移動が制限され(これにより下方側半部6aの落下が防止され)、この上方側半部6bが保護チューブ14の内側から脱落する事を防止される。
【0031】
以上の様に、本例の場合には、括れ部7の軸方向一端側と軸方向他端側との何れに設けられた固定手段23a、23bによる嵌め合い力が低下した場合にも、第1止め輪19a、19bにより、インナシャフト6の下方側半部6aが落下する事を防止でき、二分されたインナシャフト6のうちの半部が、保護チューブ14の内側から脱落するのを防止できる。
【0032】
又、本例の場合、保護チューブ14から軸方向一端側に所定長さ分だけ離隔した部分に、特許請求の範囲に記載した第2ストッパに相当する、金属製の第2止め輪22が設けられている。第2止め輪22は、インナシャフト6とは別体で、全体が円環状に構成されており、インナシャフト6の外周面の軸方向一端寄り部分に、インナシャフト6に対する軸方向の相対変位を不能に固定されている。この様な第2止め輪22の固定方法は特に問わないが、例えば、インナシャフト6の外周面に形成した係止溝に脱落不能に係止する構造や、溶接、接着、圧入、かしめ、ねじ止め等、従来から知られた各種固定構造を必要に応じて適宜組み合わせて採用できる。
【0033】
又、第2止め輪22の固定位置は、次の様に規制している。即ち、第2止め輪22に対し、保護チューブ14が突き当たり、保護チューブ14がインナシャフト6に対して軸方向一端側に相対変位する事が阻止された状態で、保護チューブ14の軸方向他端縁部14aが、括れ部7の径方向外側に位置し、軸方向他端縁部14aと括れ部7とが径方向に重畳する様に、第2止め輪22の固定位置を規制している。この様な第2止め輪22は、インナシャフト6に対し軸方向一端側へと相対変位する保護チューブ14を適切な位置にとどめる(それ以上の相対変位を阻止する)為に設けられており、定常状態においては、その機能を発揮しない。
【0034】
又、図示は省略するが、アウタチューブ8の軸方向一端部とインナシャフト6の軸方向中間部との間に架け渡す様に、中空円筒状のブーツを設ける事もできる。この様なブーツを設ける事で、保護チューブ14(括れ部7)、及び、第1止め輪19a、19b並びに第2止め輪22をそれぞれ覆うと共に、インナシャフト6の外周面に形成された雄セレーション溝10のうち、アウタチューブ8の軸方向一端部と保護チューブ14の軸方向他端部との間に露出した部分、及び、保護チューブ14の軸方向一端部と第2止め輪22との間部分を、それぞれ覆う事ができる。
【0035】
次に、衝突事故が発生した場合に就いて、
図6〜8を参照しつつ、経時的に説明する。衝突事故が発生した場合には、1対の自在継手4a、4b同士を互いに近づける方向の圧縮力が作用する為、アウタチューブ8とインナシャフト6とが中間シャフト3aを収縮させる様に軸方向に相対変位(コラプス)する。
【0036】
アウタチューブ8とインナシャフト6との相対変位が進行すると、
図6に示した様に、このアウタチューブ8の軸方向一端縁部8aの円周方向一部が、保護チューブ14の軸方向他端縁部14aの径方向一端部に突き当たり、アウタチューブ8から保護チューブ14に対し軸方向一端側に向いた強い力が作用する。これにより、保護チューブ14とインナシャフト6との間に設けた固定手段23a、23bにより生じる抵抗に反して、保護チューブ14がインナシャフト6に対して軸方向一端側に相対変位する傾向となる。そして、保護チューブ14が1対の第1止め輪19a、19bを軸方向一端側に向けて強く押圧し、これら第1止め輪19a、19bを構成する1対の腕部20、20同士の幅を広げる。これにより、第1止め輪19a、19bが係合凹溝13a、13bから離脱する(係合凹溝13a、13bを乗り越える)。この結果、保護チューブ14は、アウタチューブ8と共にインナシャフト6に対し軸方向一端側へと相対変位する。
【0037】
保護チューブ14(及びアウタチューブ8)の軸方向一端側への相対変位が進行すると、
図7に示した様に、保護チューブ14が、第2止め輪22に突き当たる。これにより、保護チューブ14の軸方向他端縁部14aが、括れ部7の径方向外側に存在し、軸方向他端縁部14aと括れ部7とが径方向に重畳する適切な位置にて、保護チューブ14が軸方向にそれ以上相対変位する事が阻止される。
【0038】
この様な状態から中間シャフト3aに対し更に圧縮力が加わると、
図8の(A)→(B)に示した様に、保護チューブ14による折れ曲がり阻止力を喪失したインナシャフト6が、括れ部7にて折れ曲がる。具体的には、保護チューブ14の軸方向他端縁部14aとアウタチューブ8の軸方向一端縁部8aとが全周に亙り突き当たる様に折れ曲がった後、その方向に曲げが進行する。これにより、衝突事故に伴って自在継手4a、4b同士の間に加わった衝撃エネルギを吸収しつつ、これら両自在継手4a、4bが互いに近づく事を許容する。
【0039】
以上の様な構成を有する本例の場合には、インナシャフト6に設けられた括れ部7が破断した場合にも、中間シャフト3aによるトルク伝達が不能になる事を防止できる。
即ち、括れ部7の軸方向他端側(
図5の右側)に隣接する部分と保護チューブ14との間の固定手段23bによる嵌め合い力が低下した事に基づき、括れ部7に破断が生じた場合、二分されたインナシャフト6のうちの下方側半部6aはそれ単独で下方に落下する傾向になる。但し、本例の場合には、
図5の(B)に示した様に、この状態で、軸方向他端側の第1止め輪19bが軸方向他端側の係合凹溝13bに対して係合する為、インナシャフト6の下方側半部6aが保護チューブ14の内側から脱落するのを防止できる。これに対し、括れ部7の軸方向一端側(
図5の左側)に隣接する部分と保護チューブ14との間の固定手段23aによる嵌め合い力が低下した事に基づき、括れ部7に破断が生じた場合には、二分されたインナシャフト6のうちの下方側半部6aは、保護チューブ14と共に下方に落下する傾向になる。但し、本例の場合には、同図の(C)に示した様に、この状態で、軸方向一端側の第1止め輪19aが軸方向一端側の係合凹溝13aに対して係合する為、インナシャフト6のうちの上方側半部6bが保護チューブ14の内側から脱落するのを防止できる。
【0040】
この様に本例の場合には、軸方向に関して括れ部7の両側部分にそれぞれ第1止め輪19a、19bを設けている為、括れ部7の軸方向一端側と軸方向他端側との何れに設けられた固定手段23a、23bによる嵌め合い力が低下した場合にも、インナシャフト6の下方側半部6aの落下を防止する事ができ、二分されたインナシャフト6の半部が保護チューブ14の内側から脱落するのを防止できる。従って、中間シャフト3aによるトルク伝達が不能になる事を有効に防止できる。更に、本例の場合には、固定手段23a、23bによる嵌め合い力の低下に基づく、保護チューブ14とインナシャフト6との円周方向に関する遊び(がたつき、隙間)を、ステアリングホイールを通じて運転者に感知(伝達)させる事ができる為、運転者に対し車両の検査及び修理を促す事もできる。
【0041】
[実施の形態の第2例]
本発明の実施の形態の第2例に就いて、
図9を参照しつつ説明する。本例の中間シャフト3bの特徴は、1対の第1止め輪19a、19bの係止構造が、前記実施の形態の第1例の構造とは異なる点にある。即ち、本例の場合には、保護チューブ14の軸方向両端部に、前記実施の形態の第1例の係止切り欠き16a、16bよりも深さ寸法及び軸方向に関する幅寸法が大きくなった1対の係合切り欠き24a、24bを形成している。又、インナシャフト6の軸方向中間部で、且つ、括れ部7の軸方向両側部分に、前記実施の形態の第1例の係合凹溝13a、13bよりも深さ寸法及び軸方向に関する幅寸法が小さくなった1対の係止凹溝25a、25bを形成している。
【0042】
そして、保護チューブ14に設けられた係合切り欠き24a、24bからインナシャフト6に設けられた係止凹溝25a、25bを露出させた状態で、これら係止凹溝25a、25bに対し、第1止め輪19a、19bをそれぞれ係止している。そして、この状態で、第1止め輪19a、19bを構成する1対の腕部20、20の長さ方向中間部を、係合切り欠き24a、24bに対し、軸方向に関する微小隙間を介して係合させる。
【0043】
以上の様な構成を有する本例の場合にも、軸方向に関して括れ部7の両側に設けられた1対の第1止め輪19a、19bと保護チューブ14に設けられた1対の係合切り欠き24a、24bとの係合により、括れ部7に破断が生じた場合にも、二分されたインナシャフト6の半部が保護チューブ14の内側から脱落する事を防止できる。
その他の構成及び作用効果に就いては、前記実施の形態の第1例の場合と同様である。
【0044】
[実施の形態の第3例]
本発明の実施の形態の第3例に就いて、
図10を参照しつつ説明する。本例の場合には、インナシャフト6の軸方向中間部の円周方向一部に、径方向内方に凹んだ凹部26を形成している。これにより、インナシャフト6の軸方向中間部で、軸方向に関して凹部26と整合する部分に、他の部分よりも断面積が小さくなった、特許請求の範囲に記載した脆弱部に相当する、小断面積部27を設けている。
【0045】
この様な構成を有する本例の場合にも、前記実施の形態の第1例の場合と同様に、インナシャフト6に対し、小断面積部27を跨ぐ状態で図示しない保護チューブ14を外嵌する。又、保護チューブ14とインナシャフト6との間に、図示しない1対の第1止め輪19a、19bを設ける。これにより、小断面積部27が破断した場合にも、中間シャフト3aによるトルク伝達が不能になる事を防止できる。
その他の構成及び作用効果に就いては、前記実施の形態の第1例の場合と同様である。
【0046】
[実施の形態の第4例]
本発明の実施の形態の第4例に就いて、
図11を参照しつつ説明する。本例の場合には、インナシャフト6の軸方向中間部に、直径方向に貫通する複数(図示の例では4つ)の貫通孔28、28を形成している。これにより、インナシャフト6の軸方向中間部で、貫通孔28、28が設けられた部分に、他の部分よりも曲げ剛性が低くなった、特許請求の範囲に記載した脆弱部に相当する、低剛性部29を設けている。
【0047】
この様な構成を有する本例の場合にも、前記実施の形態の第1例の場合と同様に、インナシャフト6に対し、低剛性部29を跨ぐ状態で図示しない保護チューブ14を外嵌する。又、保護チューブ14とインナシャフト6との間に、図示しない1対の第1止め輪19a、19bを設ける。これにより、低剛性部29が破断した場合にも、中間シャフト3aによるトルク伝達が不能になる事を防止できる。
その他の構成及び作用効果に就いては、前記実施の形態の第1例の場合と同様である。
【0048】
本発明を実施する場合に、第1ストッパ及び第2ストッパの形状及びその支持構造は、前述した実施の形態の各例で説明したものに限定されず、第1ストッパ及び第2ストッパの機能を発揮できる限りに於いて、その形状及び支持構造は適宜変更する事ができる。例えば、第1ストッパ(第1止め輪)を、インナシャフトに設けた凹部及び保護チューブに設けた切り欠きに対し、それぞれがたつきなく支持する事ができる。又、例えば、第1止め輪に代替して棒状の止めピンを用いる事ができる。この場合、保護チューブに係止貫通孔を形成すると共に、インナシャフトに保持孔を形成し、何れかに締り嵌めさせる事ができる。又、本発明を実施する場合に、保護チューブの軸方向他端縁部は、保護チューブの中心軸に対して直交する仮想平面に対し傾斜させずに、この仮想平面上に存在させても良い。