特許第6819435号(P6819435)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6819435
(24)【登録日】2021年1月6日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び電線
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/06 20060101AFI20210114BHJP
   C08L 31/04 20060101ALI20210114BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20210114BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20210114BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20210114BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
   C08L23/06
   C08L31/04 S
   C08K3/22
   C08K3/00
   H01B7/02 F
   H01B7/02 Z
   H01B3/44 M
   H01B3/44 P
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-83547(P2017-83547)
(22)【出願日】2017年4月20日
(65)【公開番号】特開2018-178044(P2018-178044A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2019年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100158540
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 博生
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100187768
【弁理士】
【氏名又は名称】藤中 賢一
(72)【発明者】
【氏名】田中 成幸
(72)【発明者】
【氏名】藤田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】西川 信也
(72)【発明者】
【氏名】小堀 孝哉
(72)【発明者】
【氏名】松田 基
(72)【発明者】
【氏名】大川 裕之
【審査官】 中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−065809(JP,A)
【文献】 特開2015−164114(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/119705(WO,A1)
【文献】 特開平07−330980(JP,A)
【文献】 特開2005−029790(JP,A)
【文献】 特開昭55−119318(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00−101/14
C08K3/00−13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分、酸化亜鉛及び酢酸除去剤を含有し、
上記樹脂成分がエチレン−酢酸ビニル共重合体を含み、樹脂成分中のエチレン−酢酸ビニル共重合体の含有量が10質量%以上であり、
上記樹脂成分が高密度ポリエチレンを含み、高密度ポリエチレンの含有量が樹脂成分100質量部に対して30質量部以上75質量部以下であり、
上記酢酸除去剤が、受酸剤、メルカプト基を有する窒素含有芳香族複素環式化合物又はこれらの組み合わせであり、
上記エチレン−酢酸ビニル共重合体に対する上記酸化亜鉛の質量比が0.06以上0.20以下であり、
上記酸化亜鉛に対する上記酢酸除去剤の質量比が0.1以上10以下である樹脂組成物。
【請求項2】
上記受酸剤が、シリカ、ハイドロタルサイト、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム又はこれらの組み合わせである請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
上記メルカプト基を有する窒素含有芳香族複素環式化合物が、2−メルカプトイミダゾール化合物又は2−メルカプトチアゾール化合物である請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
導体と上記導体の周囲の樹脂被覆層とを備える電線であって、
上記樹脂被覆層が請求項1、請求項2又は請求項3に記載の樹脂組成物から形成されている電線。
【請求項5】
導体と上記導体の周囲の樹脂被覆層とを備える電線であって、
上記樹脂被覆層が請求項1、請求項2又は請求項3に記載の樹脂組成物の電子線架橋体から形成されている電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び電線に関する。
【背景技術】
【0002】
電線の樹脂被覆層には、引張伸び、柔軟性等の機械的特性やコストの観点から、エチレン−酢酸ビニル共重合体(ethylene−vinylacetate copolymer:EVA)が用いられている。このような樹脂被覆層は、電子線架橋を行うことで、耐熱性を向上させて用いられる。しかし、樹脂被覆層がEVAを含む場合、電子線の照射により酢酸が発生し、この酢酸の影響により、電線の導体の変色が起こるという不都合がある。
【0003】
このような不都合に対し、EVA系の樹脂組成物に対して、アクリル酸エステルとC=O基を含む樹脂成分を特定量添加することが検討されている(特開平7−94039号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−94039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の材料では、導体の変色を十分に抑制することはできておらず、また、樹脂組成物の引張伸びが大きく変化して不適当になるという不都合がある。
【0006】
本発明は、上記事情に基づいてなされたものであり、引張伸びを維持しつつ、導体の変色抑制性に優れる樹脂組成物を提供することを目的とする。また、この樹脂組成物を用い、導体の変色が抑制された電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様に係る樹脂組成物は、樹脂成分、酸化亜鉛及び酢酸除去剤を含有し、上記樹脂成分がエチレン−酢酸ビニル共重合体を含み、樹脂成分中のエチレン−酢酸ビニル共重合体の含有量が10質量%以上であり、上記酢酸除去剤が、受酸剤、メルカプト基を有する窒素含有芳香族複素環式化合物又はこれらの組み合わせであり、上記エチレン−酢酸ビニル共重合体に対する上記酸化亜鉛の質量比が0.06以上0.20以下である。
【0008】
上記課題を解決するためになされた別の本発明の一態様に係る電線は、導体と上記導体の周囲の樹脂被覆層とを備える電線であって、上記樹脂被覆層が当該樹脂組成物から形成されている。
【0009】
また、上記課題を解決するためになされたさらに別の本発明の一態様に係る電線は、導体と上記導体の周囲の樹脂被覆層とを備える電線であって、上記樹脂被覆層が当該樹脂組成物の電子線架橋体から形成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の樹脂組成物は、引張伸びを維持しつつ、導体の変色抑制性に優れる。本発明の電線は、導体の変色が抑制されている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一形態に係る樹脂組成物は、樹脂成分、酸化亜鉛及び酢酸除去剤を含有し、上記樹脂成分がエチレン−酢酸ビニル共重合体(以下、「EVA」ともいう)を含み、樹脂成分中のEVAの含有量が10質量%以上であり、上記酢酸除去剤が、受酸剤、メルカプト基を有する窒素含有芳香族複素環式化合物又はこれらの組み合わせであり、上記EVAに対する上記酸化亜鉛の質量比が0.06以上0.20以下である。
【0012】
当該樹脂組成物は、EVAを上記範囲の含有量で含む樹脂成分と、酸化亜鉛と、酢酸除去剤として、受酸剤及びメルカプト基を有する窒素含有芳香族複素環式化合物の少なくとも一方とを含有し、かつEVAに対する酸化亜鉛の質量比が上記範囲である。当該樹脂組成物は、EVAに対する量が特定範囲である酸化亜鉛と、上記特定の酢酸除去剤とを組み合わせて用いることにより、上記含有量のEVAを含む樹脂組成物に電子線架橋を行った場合でも、EVAから生じる酢酸を効果的に除去することができると考えられ、その結果、導体変色抑制性に優れるものとなる。また、当該樹脂組成物は、上記組成とすることにより、引張伸びが維持される。
【0013】
上記酸化亜鉛に対する上記酢酸除去剤の質量比としては0.1以上10以下が好ましい。このように、酸化亜鉛に対する酢酸除去剤の質量比を上記範囲とすることにより、当該樹脂組成物の引張伸びをより維持することができる。
【0014】
上記受酸剤としては、シリカ、ハイドロタルサイト、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム又はこれらの組み合わせが好ましい。このように、上記特定の受酸剤を用いることにより、当該樹脂組成物の導体変色抑制性をより向上させることができる。
【0015】
上記メルカプト基を有する窒素含有芳香族複素環式化合物としては、2−メルカプトイミダゾール化合物又は2−メルカプトチアゾール化合物が好ましい。このように、上記特定の化合物を用いることにより、当該樹脂組成物の導体変色抑制性をより向上させることができる。
【0016】
上記樹脂成分が、ポリオレフィンをさらに含むとよい。かかるポリオレフィンは、優れた機械的特性を有している。従って、樹脂成分をEVAとポリオレフィンとのブレンドとすることで、当該樹脂組成物の機械的特性をより向上させることができる。
【0017】
本発明の一態様に係る電線は、導体と上記導体の周囲の樹脂被覆層とを備える電線であって、上記樹脂被覆層が当該樹脂組成物から形成されている。本発明の別の一態様に係る電線は、導体と上記導体の周囲の樹脂被覆層とを備える電線であって、上記樹脂被覆層が当該樹脂組成物の電子線架橋体から形成されている。
【0018】
当該電線は、樹脂被覆層に上述の当該樹脂組成物又は当該樹脂組成物の電子線架橋体を用いるので、導体の変色が抑制される。
【0019】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の実施形態に係る樹脂組成物及び電線について詳説する。
【0020】
<樹脂組成物>
本発明の実施形態に係る樹脂組成物は、樹脂成分、酸化亜鉛及び酢酸除去剤を含有している。当該樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、樹脂成分、酸化亜鉛及び酢酸除去剤以外の他の成分を含有していてもよい。
【0021】
<樹脂成分>
樹脂成分は、上述のようにEVAを含んでいる。樹脂成分は、このEVA以外に、他の重合体を含んでいてもよい。
【0022】
(EVA)
EVAは、エチレンと酢酸ビニルとのランダム共重合体である。EVAは、エチレン単位及び酢酸ビニル単位以外に、他の単量体単位を有していてもよい。
【0023】
EVAにおけるエチレン単位含有率の下限としては、60質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、80質量%がさらに好ましい。上記エチレン単位含有率の上限としては、98質量%が好ましく、95質量%がより好ましく、88質量%がさらに好ましい。
【0024】
EVAにおける酢酸ビニル単位含有率の下限としては、2質量%が好ましく、5質量%がより好ましく、12質量%がさらに好ましい。上記酢酸ビニル単位含有率の上限としては、40質量%が好ましく、30質量%がより好ましく、20質量%がさらに好ましい。
【0025】
他の単量体単位としては、例えば(メタ)アクリル酸に由来する単位、(メタ)アクリル酸エステルに由来する単位等が挙げられる。EVAが他の単量体単位を有する場合、他の単量体単位の含有率の上限としては、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましく、1質量%がさらに好ましい。
【0026】
EVAの市販品としては、例えば東ソー社の「ウルトラセン」、三井・デュポンポリケミカル社の「エバフレックス」、旭化成社の「サンテック」等が挙げられる。
【0027】
樹脂成分中のEVAの含有量の下限としては、10質量%であり、12質量%が好ましく、14質量%がより好ましい。EVAの含有量を上記範囲とすることで、当該樹脂組成物の導体変色抑制性をより向上させることができる。EVAの含有量が上記下限未満であると、樹脂組成物の引張伸びが低下する場合がある。
【0028】
(他の重合体)
当該樹脂組成物の樹脂成分が含んでもよいEVA以外の他の重合体としては、例えば
低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、ポリメチルペンテン(TPX)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)などのポリオレフィン;
ポリスチレン;
ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリ(メタ)アクリロニトリル等の(メタ)アクリル重合体;
ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のハロゲン重合体などが挙げられる。
【0029】
他の重合体としては、ポリオレフィンが好ましく、ポリエチレンがより好ましく、HDPEがさらに好ましい。他の重合体として上記重合体を用いることにより、当該樹脂組成物の機械的特性をより向上させることができる。
【0030】
樹脂成分が他の重合体を有する場合、他の重合体の含有量の下限としては、10質量%が好ましく、30質量%がより好ましく、50質量%がさらに好ましい。上記含有量の上限としては、90質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、75質量%がさらに好ましい。
【0031】
[酸化亜鉛]
酸化亜鉛は、ZnOの組成式で表される亜鉛の酸化物である。酸化亜鉛としては、通常、粒子状のものが用いられる。
【0032】
酸化亜鉛は、例えば亜鉛鉱石にコークス等の還元剤を加え、焼成して発生する亜鉛蒸気を空気で酸化する方法、硫酸亜鉛や塩化亜鉛を原料に用いる方法により得ることができる。酸化亜鉛としては、特に製法は限定されず、いずれの方法で製造されたものでもよい。
【0033】
酸化亜鉛の平均粒径の下限としては、0.1μmが好ましく、0.5μmがより好ましい。上記平均粒径の上限としては、6μmが好ましく、4μmがより好ましい。酸化亜鉛の平均粒径を上記範囲とすることで、樹脂組成物における酸化亜鉛の分散性をより向上させることができる。酸化亜鉛の平均粒子径は、レーザー光散乱法により測定することができる。
【0034】
酸化亜鉛の市販品としては、例えば堺化学工業社の「酸化亜鉛(1種、2種、3種)」、ハクスイテック社の「亜鉛華(1種、2種、3種)」、「活性亜鉛華」等が挙げられる。
【0035】
EVAに対する酸化亜鉛の質量比の下限としては、0.06であり、0.07が好ましく、0.08がより好ましい。上記質量比の上限としては、0.20であり、0.18が好ましく、0.17がより好ましい。EVAに対する酸化亜鉛の質量比を上記範囲とすることで、当該樹脂組成物の導体変色抑制性をより向上させることができ、かつ引張伸びをより維持することができる。上記質量比が上記下限未満であると、当該樹脂組成物の導体変色抑制性が低下する場合がある。上記質量比が上記上限を超えると、当該樹脂組成物の引張伸びが低下する場合がある。
【0036】
[酢酸除去剤]
酢酸除去剤は、受酸剤、メルカプト基を有する窒素含有芳香族複素環化合物又はこれらの組み合わせである。
【0037】
(受酸剤)
受酸剤は、EVAの分解等で発生する酢酸を吸着する成分である。受酸剤としては、例えばシリカ、ハイドロタルサイト、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等が挙げられる。受酸剤としては、通常、粒子状のものが用いられる。受酸剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
シリカは、組成式SiOで表される成分である。シリカとしては、石英粉末、珪石粉末等の天然シリカ;シリカゲル等の無水珪酸;含水珪酸等の合成シリカなどが挙げられる。これらの中で、合成シリカが好ましい。
【0039】
シリカの市販品としては、例えば日本アエロジル社の「アエロジル(50、200、380)」、旭化成社の「WACKER HDK(S13、V15、N20)」等が挙げられる。
【0040】
ハイドロタルサイトは、[M1M2M3(OH)x+3y−2]An−y/n・wHO(M1は、Mg、Ca、Sr、Ba又はこれらの組み合わせである。M2は、Zn、Cd、Pb、Sn又はこれらの組み合わせである。M3は、3価の金属である。An−は、n価のアニオンである。a及びbは、それぞれ独立して、0〜10の整数である。xは、1〜10の整数である。yは、1〜5の整数である。wは、1以上の整数である。但し、a+b=x及び2x+3y=4を満たす)で表される成分である。
【0041】
ハイドロタルサイトの市販品としては、例えば協和化学社の「マグセラー1」、「アルカマイザー(1、2、P93、P93−2、5)」、堺化学社の「スタビエース(HT−1、HT−7、HT−P)」等が挙げられる。
【0042】
酸化マグネシウムは、組成式MgOで表される成分である。酸化マグネシウムの市販品としては、例えば宇部マテリアルズ社の「UC(95S、95M、95H)」、神島化学社の「スターマグ(U、U2、CX、M、L、P、G、PSF)」、協和化学社の「キョーワマグ(150、30、MF−150、MF−30)」等が挙げられる。
【0043】
水酸化マグネシウムは、組成式Mg(OH)で表される成分である。水酸化マグネシウムの市販品としては、例えばタテホ化学工業社の「マグスター(#2、♯4、#5)」、「エコーマグ(10、PZ−1)」等が挙げられる。
【0044】
水酸化アルミニウムは、組成式Al(OH)で表される成分である。水酸化アルミニウムの市販品としては、例えば住友化学社の「C−303」、「C−301N」、「C−300GT」、昭和電工社の「ハイジライト(H−42、H−43)」等が挙げられる。
【0045】
受酸剤の平均粒子径の下限としては、0.01μmが好ましく、0.02μmがより好ましく、0.03μmがさらに好ましい。上記平均粒子径の上限としては、20μmが好ましく、10μmがより好ましく、5μmがさらに好ましい。受酸剤の平均粒子径を上記範囲とすることで、樹脂組成物中における分散性をより向上させることができ、その結果、導体変色抑制性をより向上させることができる。受酸剤の平均粒子径は、レーザー光散乱法により測定することができる。
【0046】
受酸剤としては、シリカ、ハイドロタルサイト、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムが好ましく、シリカがより好ましい。
【0047】
(メルカプト基を有する窒素含有芳香族複素環式化合物)
メルカプト基を有する窒素含有芳香族複素環式化合物(以下、「化合物(A)」ともいう)は、メルカプト基と窒素含有芳香族複素環とを有する化合物である。
【0048】
窒素含有芳香族複素環としては、例えばイミダゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、ピロール環、ピラゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、これらの環にベンゼン環、ナフタレン環等の芳香環が縮環した環等が挙げられる。これらの中で、イミダゾール環、ベンズイミダゾール環、チアゾール環及びベンゾチアゾール環が好ましい。
【0049】
化合物(A)としては、メルカプト基が、窒素含有芳香族複素環の窒素原子に隣接する炭素原子(2位)に結合しているものが好ましい。このような化合物(A)によれば、N=C−SHの構造を有することにより、酢酸の除去性が向上し、その結果、当該樹脂組成物の導体変色抑制性をより高めることができる。
【0050】
化合物(A)としては、例えば
2−メルカプトベンズイミダゾール、メチル置換2−メルカプトメチルベンズイミダゾール、2−メルカプトイミダゾール等の2−メルカプトイミダゾール化合物;
2−メルカプトベンゾチアゾール、メチル置換2−メルカプトチアゾールチアゾール、2−メルカプトチアゾール等の2−メルカプトチアゾール化合物などが挙げられる。
【0051】
化合物(A)としては、2−メルカプトイミダゾール化合物及び2−メルカプトチアゾール化合物が好ましく、2−メルカプトベンズイミダゾールがより好ましい。
【0052】
上記酸化亜鉛に対する酢酸除去剤の質量比の下限としては、0.1が好ましく、0.3がより好ましく、0.5がさらに好ましい。上記質量比の上限としては、10が好ましく、8がより好ましく、7がさらに好ましい。酸化亜鉛に対する酢酸除去剤の質量比を上記範囲とすることで、当該樹脂組成物の導体変色抑制性をより向上させることができ、かつ引張伸びをより維持することができる。
【0053】
[他の成分]
当該樹脂組成物は、他の成分として、必要に応じて、難燃剤、老化防止剤、滑剤、着色剤、架橋助剤、加工安定剤、重金属不活性化材、発泡剤、多官能性モノマー、有機過酸化物等を適宜含有することができる。上記他の成分の含有量の上限としては、50質量%が好ましく、30質量%がより好ましい。
【0054】
当該樹脂組成物は、樹脂成分、酸化亜鉛、酢酸除去剤及び必要に応じて他の成分を、オープンロール、加圧ニーダー、単軸混合機、二軸混合機等の混合機で混合することで調製することができる。
【0055】
[用途]
当該樹脂組成物は、導体変色抑制性に優れ、かつ引張伸びを維持しているので、例えば電線の樹脂被覆層の材料として好適に用いることができる。
【0056】
<電線>
以下、当該電線について説明する。当該電線は、導体と上記導体の周囲の樹脂被覆層とを備えている。上記樹脂被覆層は、上述の当該樹脂組成物又は当該樹脂組成物の電子線架橋体から形成されている。
【0057】
(導体)
導体としては、材質・構成は特に限定されず、銅線、銅合金線、錫めっき銅線、アルミ線、アルミ合金線、鋼心アルミ線、カッパーフライ線、ニッケルめっき銅線、銀めっき銅線、銅覆アルミ線等の種々のものを用いることができる。これらの中で、銅線、銅合金線、錫めっき銅線、ニッケルめっき銅線、銀めっき銅線、銅覆アルミ線等の銅を含む導体である場合、上述の導体変色抑制性に優れる当該樹脂組成物を用いる利益が特にが大きい。
【0058】
(樹脂被覆層)
樹脂被覆層は、上記導体の周囲に配設され、上述の当該樹脂組成物又は当該樹脂組成物の電子線架橋体から形成されている。
【0059】
当該電線は、樹脂被覆層が当該樹脂組成物で形成される場合、又は樹脂被覆層が当該樹脂組成物を用い、かつ電子線を照射して形成される場合とも、当該樹脂組成物の優れた導体変色抑制性により、導体の変色が効果的に抑制されている。
【実施例】
【0060】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
試験例で用いた各成分の詳細は以下の通りである。
[樹脂成分]
EVA:東ソー社の「ウルトラセン6M51A」(酢酸ビニル単位含有率15質量%、密度0.94g/cm
HDPE:プライムポリマー社の「ハイゼックス5305E」
【0062】
[酸化亜鉛]
堺化学工業社の「酸化亜鉛1種」
【0063】
[酢酸除去剤]
(受酸剤)
シリカ:日本アエロジル社の「アエロジル200V」
(化合物(A))
住友化学社の「スミライザーMB」
【0064】
[他の成分]
(難燃剤)
1,2−ビス(2,3,4,5,6−ペンタブロモフェニル)エタン:アルベマール社の「SAYTEX8010」
三酸化アンチモン:日本精鉱社の「PATOX−M」
(老化防止剤)
BASF社の「イルガノックス1010」
(滑剤)
ステアリン酸:日油社の「ステアリン酸さくら」
(架橋助剤)
DIC社の「TD1500s」
【0065】
[試験例1〜16]
表1に示す配合組成となるように混合し、混練機を用いて、樹脂組成物を調製した。
【0066】
[評価]
得られた試験例1〜16の樹脂組成物について、下記項目の評価を行った。
【0067】
(導体変色抑制性)
導体(材質:銅合金(Cu−0.3質量%Sn)、素線本数:60、素線径:0.08mm)に、上記調製した樹脂組成物を電線の外径が1.45mmになるよう押出被覆した後、180kGyの電子線照射により架橋を行い、電線を作製した。得られた電線を、70℃、湿度85%の条件下に24時間保持し、取り出した後、樹脂被覆層を除去して、導体の外観を確認し、導体変色抑制性を評価した。導体変色抑制性は、黒色部が確認できない場合は「A(良好)」と、黒色部が確認できた場合は「B(不良)」と評価した。
【0068】
(引張伸び)
上記得られた電線の樹脂被覆層について、JASO D618に準じて引張試験を行った。引張伸びは、300%以上である場合は「良好」と、300%未満である場合は「不良」と評価できる。
【0069】
【表1】
【0070】
上記表1の結果から、上記特定の構成を有する試験例No.2、4、6、7、11、12、15及び16の樹脂組成物は、導体変色抑制性に優れ、かつ引張伸びを維持していることが分かる。
【0071】
一方、上記特定の構成を満たさない試験例No.1、3、5、8、9、10及び14の樹脂組成物は、導体変色抑制性及び引張伸びの少なくとも一方が低下していることが分かる。なお、試験例No.13の樹脂組成物は、EVAの含有量が上記値より小さいため、導体変色抑制性に優れるものとなっている。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の樹脂組成物は、引張伸びを維持しつつ、導体の変色抑制性に優れる。本発明の電線は、導体の変色が抑制されている。