(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態について説明する。以下では、「水性インク」は、インクジェット記録用水性インクを意味する。また、「水性洗浄液」は、インクジェット記録装置用水性洗浄液を意味する。また、水性インクと水性洗浄液との組み合わせを「インクセット」と記載することがある。
【0014】
また、後述の「アルコール類」とは、炭化水素に含まれる炭素原子に結合されている1つ以上の水素原子が水酸基で置換された構造を有する化合物の総称である。炭化水素には、脂肪族炭化水素と芳香族炭化水素とが含まれる。脂肪族炭化水素には、鎖式脂肪族炭化水素と、環式脂肪族炭化水素とが含まれる。また、炭化水素に含まれる炭素原子に結合されている2つの水素原子が水酸基で置換された構造を有する化合物(ジオール)と、炭化水素に含まれる炭素原子に結合されている3つ以上の水素原子が水酸基で置換された構造を有する化合物(ポリオール)とを総称して、「ポリオール類」と記載する。
【0015】
また、後述の水性インクの粘度は、「JIS Z 8803:2011(液体の粘度測定方法)」に記載の方法に準拠して、25℃において測定される。そのため、水性インクの粘度は、25℃における水性インクの粘度を意味する。同様に、後述の水性洗浄液の粘度は、「JIS Z 8803:2011(液体の粘度測定方法)」に記載の方法に準拠して、25℃において測定される。そのため、水性洗浄液の粘度は、25℃における水性洗浄液の粘度を意味する。また、以下では、水性インクの粘度に対する水性洗浄液の粘度の比率を、単に「粘度の比率」と記載する。
【0016】
図1〜
図4を用いて、本実施形態に係るインクジェット記録装置と本実施形態に係る画像形成方法とを説明する。ここで、
図1〜
図4に示すX軸、Y軸、及びZ軸は、互いに直交する。また、
図2〜
図4において、Z1は、鉛直方向上側を表し、Z2は、鉛直方向下側を表す。まず、インクジェット記録装置を説明する。
【0017】
[インクジェット記録装置]
図1は、本実施形態に係るインクジェット記録装置を示す図である。インクジェット記録装置1は、給紙部2と、液体収容部3と、ノズルヘッド4と、用紙搬送部6と、排出部7と、クリーニング部材8と、制御部9とを備える。
【0018】
給紙部2は、給紙カセット21と、給紙ローラー22aとを有する。給紙カセット21には、複数の記録媒体(例えばコピー用紙)Sが重ねられた状態で収納されている。
【0019】
液体収容部3には、カートリッジ31が設けられている。カートリッジ31は、インクジェット記録装置1に着脱自在に装着される。カートリッジ31は、水性インクと、水性洗浄液と、第1タンク32と、第2タンク33とを有する。第1タンク32は、水性インクを収容する。第2タンク33は、水性洗浄液を収容する。
【0020】
水性インクと、水性洗浄液とは、各々独立に、ポリオール類を含有する。水性洗浄液は、非イオン性界面活性剤をさらに含有し、非イオン性界面活性剤は、アミン型界面活性剤を含む。水性インクの粘度が、5.0mPa・s以上6.5mPa・s以下である。水性洗浄液の粘度が、3.5mPa・s以上5.0mPa・s以下である。粘度の比率が、0.60以上0.85以下である。水性インクの粘度が5.0mPa・s以上であれば、粘度の比率が0.85以下となり易い。水性インクの粘度が6.5mPa・s以下であれば、粘度の比率が0.60以上となり易い。水性洗浄液の粘度が3.5mPa・s以上であれば、粘度の比率が0.60以上となり易い。水性洗浄液の粘度が5.0mPa・s以下であれば、粘度の比率が0.85以下となり易い。
【0021】
<ノズルヘッド>
図1〜
図3を用いて、ノズルヘッド4を説明する。
図2は、インクジェット記録装置1に含まれるノズルヘッド4の側面構造を示す図である。
図3は、ワイプ工程前におけるインクジェット記録装置1の側面構造を示す図である。ここで、「ワイプ工程前」とは、パージ工程及び水性洗浄液の供給工程の各工程の後であってワイプ工程の前を意味する。ノズルヘッド4は、水性インクを吐出及び排出するとともに、水性洗浄液を供給する。そのため、ノズルヘッド4の下面には、水性インクが吐出及び排出される領域(第1領域R1)と、水性洗浄液が供給される領域(第2領域R2)とが、存在する。本実施形態では、ノズルヘッド4は、記録ヘッド41と、洗浄液供給部141とを有する。記録ヘッド41は、水性インクの吐出工程において水性インクを吐出し、パージ工程において水性インクを排出する。よって、第1領域R1は、記録ヘッド41の下面42に位置する。つまり、記録ヘッド41の下面42が吐出面に相当する。また、洗浄液供給部141は、水性洗浄液の供給工程において、水性洗浄液を供給する。よって、第2領域R2は、洗浄液供給部141の下面142に位置する。
【0022】
記録ヘッド41は、ラインヘッドであり、記録媒体Sの搬送方向に対して垂直な方向に延びる。そのため、記録ヘッド41の長手方向は、X軸方向に対して平行である。洗浄液供給部141は、記録ヘッド41の長手方向の一端に固定されている。以下、記録ヘッド41と洗浄液供給部141とを順に説明する。
【0023】
(記録ヘッド)
記録ヘッド41は、インク流路により、第1タンク32に接続されている。水性インクは、ポンプにより第1タンク32から汲み上げられてインク流路の上流端へ供給され、インク流路の上流端からインク流路の下流端まで移動して記録ヘッド41に供給される。
【0024】
記録ヘッド41は、複数のインク用ノズル47を有する。インク用ノズル47は、各々、記録ヘッド41の下面42の中央領域において開口する。インク用ノズル47は、水性インクの吐出工程において、水性インクを、インク用ノズル47の開口(吐出口)48から鉛直方向下側Z2へ吐出する。また、インク用ノズル47は、パージ工程において、水性インクを、インク用ノズル47の開口48から鉛直方向下側Z2へ排出する。
【0025】
なお、記録ヘッド41は、シリアルヘッドであってもよい。少なくとも記録ヘッド41の下面42は、ステンレス鋼(SUS)で構成されていることが好ましい。記録ヘッド41の下面42におけるインク用ノズル47の開口48の個数、大きさ、外形、及び配置は、何れも、特に限定されない。水性インクの吐出方式は、特に限定されず、ピエゾ方式であってもよいし、サーマル方式であってもよい。ピエゾ方式は、ピエゾ素子を利用して水性インクを吐出させる方式である。サーマル方式は、加熱により気泡を発生させて水性インクを吐出させる方式である。
【0026】
(洗浄液供給部)
洗浄液供給部141は、洗浄液流路により、第2タンク33に接続されている。水性洗浄液は、ポンプにより第2タンク33から汲み上げられて洗浄液流路の上流端へ供給され、洗浄液流路の上流端から洗浄液流路の下流端まで移動して洗浄液供給部141に供給される。
【0027】
洗浄液供給部141は、筐体143と、板状の蓋体145とを有する。蓋体145は、筐体143よりも、鉛直方向下側Z2に位置する。そのため、蓋体145が、洗浄液供給部141の下面142を構成する。
【0028】
筐体143の内部空間は、洗浄液流路の内部空間に連通しており、筐体143は、洗浄液流路から供給された洗浄液を収容する。筐体143は、記録ヘッド41の側壁に接する側壁(中央側側壁)と、中央側側壁とは反対側に位置する側壁(周縁側側壁)と、第1傾斜部143Aとを有する。第1傾斜部143Aは、周縁側側壁の鉛直方向下端に接続されている。第1傾斜部143Aは、鉛直方向上側Z1から鉛直方向下側Z2へ進むにつれて中央側側壁に近づくように傾斜するが、中央側側壁に接触しない。このような筐体143は、鉛直方向下側Z2において開口する。
【0029】
蓋体145は、折曲部を有し、折曲部を挟んで第2傾斜部145Aと水平部145Bとをさらに有する。第2傾斜部145Aは、第1傾斜部143Aの下面に当接する。水平部145Bは、折曲部から記録ヘッド41の下面42の周縁領域へ向かって水平方向に延び、記録ヘッド41の下面42の周縁領域に固定されている。そのため、水平部145Bが筐体143の開口を塞ぐ。
【0030】
洗浄液供給部141は、洗浄液用ノズル147をさらに有する。洗浄液用ノズル147の内部空間は、筐体143の内部空間に連通しており、洗浄液用ノズル147は、洗浄液供給部141の下面142(より具体的には蓋体145の水平部145Bの下面)において開口する。洗浄液用ノズル147は、水性洗浄液を、洗浄液用ノズル147の開口148から鉛直方向下側Z2へ突出する液滴(以下、「半球状の液滴」と記載する)52の状態で、洗浄液供給部141の下面142に供給する。詳しくは、水性洗浄液は、記録ヘッド41のメンテナンス時には、半球状の液滴52の状態で洗浄液供給部141の下面142に供給される。一方、水性洗浄液は、記録ヘッド41のメンテナンス時以外(例えば水性インクの吐出時)には、洗浄液用ノズル147の開口148から鉛直方向下側Z2へ突出しない状態で洗浄液用ノズル147の内部に保持されることが好ましい。これにより、水性洗浄液が記録媒体Sに付着することを防止できる。
【0031】
洗浄液用ノズル147の内径が小さくなると、半球状の液滴52の半径が小さくなる傾向にあるため、水性洗浄液を半球状の液滴52の状態で保持し易い傾向にある。一方、洗浄液用ノズル147の内径が大きくなると、半球状の液滴52の半径が大きくなる傾向にあるため、水性洗浄液の保持量(洗浄液用ノズル147の開口148の近傍に保持される水性洗浄液の量)が多くなる傾向にある。これらを考慮して、洗浄液用ノズル147の内径を決定することが好ましい。例えば、洗浄液用ノズル147の内径は、10μm以上200μm以下であることが好ましく、より好ましくは40μm以上150μm以下である。なお、洗浄液用ノズル147の内径が10μm未満であれば、洗浄液用ノズル147の加工が困難になることがある。
【0032】
なお、少なくとも洗浄液供給部141の下面142は、樹脂で構成されていることが好ましい。洗浄液供給部141の下面142における洗浄液用ノズル147の開口148の個数、大きさ、外形、及び配置は、何れも、特に限定されない。以上、
図1〜
図3を用いて、ノズルヘッド4を説明した。
【0033】
インクジェット記録装置1の説明を続ける。用紙搬送部6は、
図1に示すように、第1搬送ユニット61と、第2搬送ユニット62とを有する。排出部7は、排出トレイ71を有する。
【0034】
<クリーニング部材>
クリーニング部材8は、記録ヘッド41のメンテナンス時において、特にワイプ工程において、ノズルヘッド4の下面を洗浄する。以下、
図1及び
図4を用いて、クリーニング部材8を説明する。
図4は、ワイプ工程中におけるインクジェット記録装置1の側面構造を示す図である。
【0035】
クリーニング部材8は、
図4に示すブレード81を有する。ブレード81は、各々、ノズルヘッド4の下面に対面する位置と第2搬送ユニット62に対面する位置との間を移動する。また、ブレード81は、上昇方向D1と下降方向D2との各々の方向に沿って移動する。「上昇方向D1」とは、Z軸方向に沿って鉛直方向上側Z1へ向かう方向を意味する。「下降方向D2」とは、Z軸方向に沿って鉛直方向下側Z2へ向かう方向を意味する。
【0036】
また、ブレード81は、ノズルヘッド4の下面に当接しながら、ワイピング方向D3に沿って移動する。より具体的には、ブレード81は、ノズルヘッド4の下面に当接しながら、ノズルヘッド4の下面に沿って洗浄液供給部141の下面142に当接する位置から記録ヘッド41の下面42に当接する位置へ移動する。つまり、ブレード81は、洗浄液供給部141の下面142と記録ヘッド41の下面42とに順に当接しながら、記録ヘッド41の長手方向に沿って移動する。ここで、「ワイピング方向D3」とは、ノズルヘッド4の下面に沿って洗浄液供給部141の下面142に当接する位置から記録ヘッド41の下面42に当接する位置へ向かう方向を意味する。以上、
図1及び
図4を用いて、クリーニング部材8を説明した。
【0037】
インクジェット記録装置1の説明を続ける。制御部9は、インクジェット記録装置1を制御して、画像形成を実行する。制御部9がROMに記憶させた所定の制御プログラムをCPUで実行することによって、インクジェット記録装置1は画像を形成することができる。
【0038】
[画像形成方法]
次に、
図1〜
図4を用いて、インクジェット記録装置1を用いた画像形成方法を説明する。インクジェット記録装置1を用いた画像形成方法は、制御部9がROMに記憶させた所定の制御プログラムをCPUで実行することによって、行われる。
【0039】
詳しくは、まず、制御部9が、給紙ローラー22aを、給紙カセット21において最上に収納された記録媒体Sに接触させる。次に、制御部9が、記録媒体S(給紙ローラー22aに接触している記録媒体S)を、給紙カセット21から取り出して、第1搬送ユニット61へ送出する。記録媒体Sが記録ヘッド41の下面42に対面する位置に到達すると、制御部9が、水性インクを、第1タンク32から記録ヘッド41へ供給して、インク用ノズル47の開口48から鉛直方向下側Z2へ吐出させる(吐出工程)。吐出工程が終了したら、制御部9が、記録媒体S(画像が形成された記録媒体S)を、第2搬送ユニット62へ送出して、排出トレイ71から排出させる。その後、制御部9が記録ヘッド41のメンテナンスを行う。以下、
図3及び
図4を用いて、記録ヘッド41のメンテナンス動作を説明する。
【0040】
まず、制御部9が、水性インクを、第1タンク32から記録ヘッド41へ供給する。その後、制御部9が、水性インクを、インク用ノズル47の開口48から鉛直方向下側Z2へ排出させる(パージ工程)。これにより、
図3に示すように、記録ヘッド41の下面42には、パージインク51が供給される。
【0041】
次に、制御部9が、水性洗浄液を、第2タンク33から洗浄液供給部141へ供給する。その後、制御部9が、水性洗浄液を、半球状の液滴52の状態で洗浄液供給部141の下面142に供給する(供給工程)。水性洗浄液を供給する工程は、パージ工程よりも前に行われてもよいし、パージ工程と同時に行われてもよい。
【0042】
続いて、制御部9が、ブレード81を、ノズルヘッド4の下面に対面する位置(より詳しくは、洗浄液供給部141の下面142に対面する位置)へ移動させた後、上昇方向D1に沿って移動させる。これにより、ブレード81は、第2傾斜部145Aよりも、記録ヘッド41の長手方向における端部寄りに、配置される(
図4において破線で示されたブレード81を参照)。その後、制御部9が、ブレード81を、ノズルヘッド4の下面に当接させながらワイピング方向D3に沿って移動させる(ワイプ工程)。これにより、ブレード81は、上端が第2傾斜部145Aの下面と水平部145Bの下面と記録ヘッド41の下面42とに順に接触しながら、記録ヘッド41の長手方向に沿って移動する。
【0043】
ブレード81の上端は、第2傾斜部145Aの下面に接触すると、湾曲する(
図4において実線で示されたブレード81を参照)。これにより、ブレード81は、上端が湾曲した状態で水平部145Bの下面に接触しながら、ワイピング方向D3に沿って移動する。よって、ブレード81は、水性洗浄液(半球状の液滴52の状態で洗浄液供給部141の下面142に供給された水性洗浄液)を押しながら、ワイピング方向D3に沿って移動する。このようにして、水性洗浄液が記録ヘッド41の下面42に供給される。そして、ブレード81が記録ヘッド41の下面42に当接しながらワイピング方向D3に沿ってさらに移動することで、固着インクとパージインク51と水性洗浄液とを記録ヘッド41の下面42から除去することができる。
【0044】
ワイプ工程が終了したら、制御部9が、ブレード81を、下降方向D2に沿って移動させた後、第2搬送ユニット62に対面する位置へ移動させる。このようにして、記録ヘッド41のメンテナンスが終了する。以下、
図3及び
図4を用いて、記録ヘッド41のメンテナンス動作を説明した。
【0045】
[所定の効果が得られる理由]
続いて、
図1〜
図4を用いて、インクジェット記録装置1が所定の効果を奏する理由として考えられる事項を説明する。ここで、所定の効果には、効果1と効果2とが含まれ、好ましくは効果3がさらに含まれる。効果1は、インクジェット記録装置1の小型化を図ることができることである。効果2は、インクジェット記録装置1が水性インクの吐出性能に優れることである。効果3は、インクジェット記録装置1が耐久時においても水性インクの吐出性能に優れることである。
【0046】
<効果1>
インクジェット記録装置1では、洗浄液供給部141は、記録ヘッド41の長手方向の一端に固定されており、洗浄液用ノズル147を有する。洗浄液用ノズル147は、洗浄液供給部141の下面142において開口し、水性洗浄液を半球状の液滴52の状態で洗浄液供給部141の下面142に供給する。そして、ブレード81は、洗浄液供給部141の下面142と記録ヘッド41の下面42とに順に当接しながら、記録ヘッド41の長手方向に沿って移動する。
【0047】
このように、インクジェット記録装置1では、洗浄液供給部141が移動しない。また、洗浄液供給部141が移動しなくても、記録ヘッド41のメンテナンスを行うことができる。これらのことから、洗浄液供給部141が移動するための空間をインクジェット記録装置1内に設けなくても、インクの吐出性能に優れるインクジェット記録装置1を提供できる。よって、インクの吐出性能に優れるインクジェット記録装置1の小型化を図ることができる。
【0048】
また、洗浄液供給部141が移動しなければ、制御部9が洗浄液供給部141の移動を制御する必要がない。これにより、インクジェット記録装置1の制御プログラムが複雑化することを防止できる。
【0049】
さらに、インクジェット記録装置1では、洗浄液用ノズル147は、記録ヘッド41ではなく、洗浄液供給部141に設けられている。そのため、洗浄液を供給する機構(例えば洗浄液流路と洗浄液用ノズル147)を記録ヘッド41に設ける必要がない。これにより、洗浄液用ノズル147が記録ヘッド41に設けられている場合に比べ、記録ヘッド41の小型化を図ることができる。よって、インクの吐出性能に優れるインクジェット記録装置1の小型化を容易に図ることができる。
【0050】
また、洗浄液を供給する機構を記録ヘッド41に設ける必要がなければ、記録ヘッド41の構成が複雑化することを防止できる。これにより、記録ヘッド41の加工コストを抑えることができる。よって、インクの吐出性能に優れるインクジェット記録装置1を比較的低コストで提供することもできる。
【0051】
<効果2>
効果2の説明に先立ち、水性インクの一般的な構成と固着インクの形成プロセスとを順に説明する。なお、<効果2>では、「記録ヘッド41の下面42」を「吐出面42」と記載する。
【0052】
(水性インクの一般的な構成)
水性インクは、一般的に、水性溶媒と顔料分散体とを有する。顔料分散体は、複数の顔料粒子が水性溶媒中において互いに分散されて構成されたものを意味する。顔料粒子の各々は、一般的に、顔料を含有する顔料コアと、顔料コアの表面に設けられた被覆樹脂とを含む。
【0053】
水性インクでは、顔料粒子が、互いに分散する。詳しくは、多くの場合、被覆樹脂としては、樹脂塩を使用する。ここで、樹脂塩は、分子内に、電離可能な官能基(例えばCOONa基)を有する。また、水性インクは、十分な量の水性溶媒を含有する。これらのことから、被覆樹脂の表面では、電離が起こり易い。そのため、被覆樹脂の表面には、電気二重層が形成される。被覆樹脂の表面に電気二重層が形成されると、顔料粒子同士が電気的に反発するため、顔料粒子が互いに分散する。
【0054】
(固着インクの形成プロセス)
固着インクは以下に示すプロセスで形成される、と考えられる。
水性インクを吐出面42から記録媒体Sへ吐出すると、水性インクが吐出面42に付着することがある。水性インクが吐出面42に付着すると、水性インクと空気との接触に起因して水性インクが乾燥する。水性インクが乾燥すると、被覆樹脂が膜を形成し易い。
【0055】
詳しくは、水性インクが乾燥すると、水性インクにおける水性溶媒の含有量が減少するため、被覆樹脂の表面では電離が起こり難くなる。これにより、顔料粒子同士は電気的に反発し難くなるため、顔料粒子は互いに凝集し易くなる。顔料粒子が互いに凝集すると、互いに異なる顔料コアの表面に存在する被覆樹脂が接触し易くなる。その結果、被覆樹脂からなる膜(以下、「樹脂膜」と記載する)が形成され易くなる。このように、水性インクが乾燥すると、顔料コアの凝集体が樹脂膜で被覆される。このようにして、固着インクが形成される。
【0056】
(効果2の内容)
前述の(固着インクの形成プロセス)で説明したように、顔料粒子が互いに凝集して、固着インクが形成される。しかし、多くの場合、水性洗浄液は、固着インクの形成中に吐出面42へ供給されるため、顔料粒子が互いに凝集する前に吐出面42へ供給される。
【0057】
本実施形態に係る水性洗浄液は、アミン型界面活性剤を含有する。ここで、アミン型界面活性剤は、分子内にアミノ基を有するため、他の界面活性剤に比べて隣り合う顔料粒子の間へ浸入し易い。そのため、本実施形態に係る水性洗浄液は、他の界面活性剤を含有する水性洗浄液に比べ、隣り合う顔料粒子の間へ浸入し易い。なお、「他の界面活性剤」には、アミン型界面活性剤とは異なる非イオン性界面活性剤と、カチオン性界面活性剤と、アニオン性界面活性剤と、両性界面活性剤とが含まれる。
【0058】
また、本実施形態では、粘度の比率は、0.85以下である。そのため、水性洗浄液の粘度は、水性インクの粘度よりも低い。一般的には、吐出面42への水性洗浄液の供給量は、吐出面42へのパージインク51の排出量に比べて多い。これにより、ワイプ動作を行うとき、吐出面42では、水性洗浄液の存在量が、パージインク51の存在量に比べて多い。よって、ワイプ動作を行うときに吐出面42に存在する液体(以下、単に「吐出面42に存在する液体」と記載する)の物性は、パージインク51の物性よりも、水性洗浄液の物性に、支配され易い。したがって、水性洗浄液の粘度が水性インクの粘度よりも低ければ、吐出面42に存在する液体の粘度が高くなることを防止できる。
【0059】
吐出面42に存在する液体の粘度が高ければ、ワイプ工程おいて、ブレード81の移動が記録ヘッド41の長手方向の途中で停止することがある。そのため、水性洗浄液を吐出面42に均一に供給することが難しい。しかし、吐出面42に存在する液体の粘度が高くなることを防止できれば、ワイプ工程では、ブレード81は、ワイピング方向D3に沿って、記録ヘッド41の長手方向の一端部から記録ヘッド41の長手方向の他端部まで移動できる。これにより、水性洗浄液を吐出面42に均一に供給できる。よって、水性洗浄液が隣り合う顔料粒子の間へ浸入する量(以下、単に「水性洗浄液の浸入量」と記載する)を確保できる。
【0060】
また、粘度の比率が0.60以上0.85以下であれば、水性洗浄液の粘度が高くなり過ぎることを防止でき、また、水性洗浄液の粘度が低くなり過ぎることを防止できる。例えば、水性洗浄液の粘度を3.5mPa・s以上5.0mPa・s以下とすることができる。これにより、水性洗浄液を供給する工程では、水性洗浄液を半球状の液滴52の状態で洗浄液供給部141の下面142に供給することができる。よって、続くワイプ工程では、所望量の水性洗浄液を吐出面42に供給することができる。このことによっても、水性洗浄液の浸入量を確保できる。
【0061】
さらに、粘度の比率が0.60以上であれば、水性洗浄液の粘度が低くなり過ぎることを防止できる。例えば、水性洗浄液の粘度を3.5mPa・s以上とすることができる。これにより、吐出面42に供給された水性洗浄液がブレード81を伝って鉛直方向下側Z2へ流れ落ちることを防止できる。このことによっても、水性洗浄液の浸入量を確保できる。
【0062】
その上、粘度の比率が0.60以上であれば、水性洗浄液は、水性インクに対して高い親和性を示す。これにより、水性洗浄液は、パージインク51に対しても高い親和性を示す。
【0063】
このように、本実施形態では、水性洗浄液は、隣り合う顔料粒子の間へ浸入し易い。また、水性洗浄液の浸入量を確保できる。さらに、水性洗浄液は、パージインク51に対しても高い親和性を示す。これらのことから、吐出面42への水性洗浄液の供給とパージ動作とを行うと、パージインク51は、水性洗浄液とともに、隣り合う顔料粒子の間へ浸入し易い。そのため、固着インクは、パージインク51に溶解され易い。よって、吐出面42への水性洗浄液の供給とパージ動作とを行った後にワイプ動作を行うと、固着インクを吐出面42から除去できる。したがって、インクジェット記録装置1は、インクの吐出性能に優れる。
【0064】
インクジェット記録装置1では、吐出面42への水性洗浄液の供給とパージ動作とを行った後にワイプ動作を行えば、固着インクを吐出面42から除去できる。そのため、固着インクが吐出面42に存在していない状態で、インクの吐出を再開できる。よって、インクジェット記録装置1は、インクの吐出の再開を試みた場合であっても、インクの吐出性能に優れる。
【0065】
<効果3>
ワイプ工程では、ブレード81は、まず、第2傾斜部145Aの下面に接触する。そのため、ワイプ工程においてブレード81に作用する負荷を小さくすることができる。これにより、ブレード81の経時劣化を軽減することができる。よって、耐久時においてもワイプ動作を行うことができるため、耐久時においても固着インクを記録ヘッド41の下面42から除去できる。したがって、インクジェット記録装置1は、耐久時においても、インクの吐出性能に優れる。
【0066】
また、洗浄液供給部141の下面142は、記録ヘッド41の下面42よりも、鉛直方向下側Z2に位置する。これにより、ブレード81の上端が記録ヘッド41の下面42に接触しているときには、ブレード81の上端が洗浄液供給部141の下面142に接触しているときに比べ、ブレード81の上端の湾曲具合が緩和される。このことによっても、ワイプ工程においてブレード81に作用する負荷を小さくすることができる。したがって、インクジェット記録装置1は、耐久時においても、インクの吐出性能に優れる。
【0067】
さらに、水平部145Bは、折曲部から記録ヘッド41の下面42の周縁領域へ向かって水平方向に延びている。これにより、ワイプ工程において、水性洗浄液が記録ヘッド41の下面42と蓋体145との間に浸入することを防止できる。そのため、水性洗浄液の浸入に起因して記録ヘッド41の下面42が汚染されることを防止できる。よって、ワイプ動作を繰り返し行っても、記録ヘッド41の下面42が水性洗浄液で汚染されることを防止できる。したがって、インクジェット記録装置1は、耐久時においても、インクの吐出性能に優れる。
【0068】
以上、
図1〜
図4を用いて、インクジェット記録装置1と、インクジェット記録装置1を用いた画像形成方法とを説明した。以下、図面を用いることなく、インクジェット記録装置1に含まれるインクセットの好ましい構成を説明する。
【0069】
<インクセットの好ましい構成>
粉体に関する評価結果(形状又は物性などを示す値)は、何ら規定していなければ、相当数の粒子について測定した値の個数平均である。また、粉体の体積中位径(D
50)の測定値は、何ら規定していなければ、レーザー回折式粒度分布測定装置(マルバーン社製の「Zetasizer nano−ZS(ゼータサイザー ナノZS)」)を用いて測定した値である。
【0070】
また、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。また、アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。
【0071】
前述の(水性インクの一般的な構成)で説明したように、水性インクは、一般的に、水性溶媒と顔料分散体とを有する。また、水性インクは、界面活性剤と溶解安定剤と保湿剤と浸透剤とpH調整剤とのうちの少なくとも1つをさらに含有することがある。
【0072】
また、水性洗浄液は、一般的に、水性溶媒と界面活性剤とを含有し、溶解安定剤と保湿剤とpH調整剤とのうちの少なくとも1つをさらに含有することがある。
【0073】
本発明者は、材料の種類及び/又は材料の含有量を変更して複数種のインクセットを調製し、粘度の比率を求めた。その結果、ポリオール類の材料及びポリオール類の含有量のうちの少なくとも1つを変更すると、水性インクの粘度が変化し易く、水性洗浄液の粘度が変化し易いことが分かった。また、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(以下、「BTG」と記載する)の含有量、及び2−ピロリドンの含有量のうちの少なくとも1つを変更すれば、水性インクの粘度を容易に調整でき、水性洗浄液の粘度を容易に調整できることが分かった。以下、得られた知見を説明する。
【0074】
(ポリオール類)
ポリオール類は、水性インク及び水性洗浄液の各々において、水性媒体を構成することができ、保湿剤として機能することもできる。また、ポリオール類は、水性インクにおいて、浸透剤として機能することもできる。
【0075】
水性インクは、1,3−プロパンジオール(以下、「C3−ジオール」と記載する)及び1,2−オクタンジオール(以下、「C8−ジオール」と記載する)のうちの少なくとも1つを含むことが好ましい。より好ましくは、水性インクは、C3−ジオールとC8−ジオールとの両方を含む。また、水性洗浄液は、C3−ジオールを含むことが好ましい。
【0076】
C3−ジオールの含有量が多くなると、水性インクの粘度が高くなる傾向にあり、水性洗浄液の粘度が高くなる傾向にある。一方、C3−ジオールの含有量が少なくなると、水性インクの粘度が低くなる傾向にあり、水性洗浄液の粘度が低くなる傾向にある。
【0077】
より具体的には、C3−ジオールの含有量が8質量%以上であれば、水性インクの粘度が5.0mPa・s以上となり易い。そのため、粘度の比率が0.85以下となり易い。また、C3−ジオールの含有量が12質量%以下であれば、水性インクの粘度が6.5mPa・s以下となり易い。そのため、粘度の比率が0.60以上となり易い。これらのことから、水性インクにおけるC3−ジオールの含有量は、8質量%以上12質量%以下であることが好ましい。
【0078】
また、C3−ジオールの含有量が5質量%以上であれば、水性洗浄液の粘度が3.5mPa・s以上となり易い。そのため、粘度の比率が0.60以上となり易い。また、C3−ジオールの含有量が15質量%未満であれば、水性洗浄液の粘度が5.0mPa・s以下となり易い。そのため、粘度の比率が0.85以下となり易い。これらのことから、水性洗浄液におけるC3−ジオールの含有量は、5質量%以上15質量%未満であることが好ましい。より好ましくは、水性洗浄液におけるC3−ジオールの含有量は、5質量%以上13質量%以下である。
【0079】
C8−ジオールの含有量が多くなると、水性インクの粘度が高くなる傾向にある。一方、C8−ジオールの含有量が少なくなると、水性インクの粘度が低くなる傾向にある。より具体的には、C8−ジオールの含有量が1.5質量%未満であれば、水性インクの粘度が6.5mPa・s以下となり易い。そのため、粘度の比率が0.60以上となり易い。これらのことから、水性インクにおけるC8−ジオールの含有量は、1.5質量%未満であることが好ましい。より好ましくは、水性インクにおけるC8−ジオールの含有量は、0.3質量%以上1.3質量%以下である。
【0080】
水性インクがC3−ジオールとC8−ジオールとの両方を含む場合、C3−ジオールの含有量が8質量%以上12質量%以下であり、且つC8−ジオールの含有量が1.5質量%未満であることが好ましい。より好ましくは、C3−ジオールの含有量が8質量%以上12質量%以下であり、且つC8−ジオールの含有量が0.3質量%以上1.3質量%以下である。
【0081】
なお、ポリオール類は、C3−ジオール及びC8−ジオールを除く他の化合物をさらに含んでもよい。C3−ジオール及びC8−ジオールを除く他の化合物は、例えば、後述の(保湿剤)に記載のアルキレングリコール類(C3−ジオールを除く)であってもよいし、後述の(浸透剤)に記載の化合物(C8−ジオールを除く)であってもよい。
【0082】
(トリエチレングリコールモノブチルエーテル)
BTGは、水性インク及び水性洗浄液の各々において、水性媒体を構成することができる。また、BTGは、水性インクにおいて、浸透剤として機能することもできる。
【0083】
BTGの含有量が10質量%以下であれば、水性インクの粘度が5.0mPa・s以上6.5mPa・s以下となり易く、水性洗浄液の粘度が3.5mPa・s以上5.0mPa・s以下となり易い。そのため、粘度の比率が0.60以上0.85以下となり易い。よって、水性インクにおけるBTGの含有量と、水性洗浄液におけるBTGの含有量とは、各々独立に、10質量%以下であることが好ましい。水性インクにおけるBTGの含有量は、より好ましくは1質量%以上8質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以上5質量%以下である。水性洗浄液におけるBTGの含有量は、より好ましくは2質量%以上8質量%以下であり、さらに好ましくは4質量%以上8質量%以下である。
【0084】
(2−ピロリドン)
2−ピロリドンは、水性インク及び水性洗浄液の各々において、溶解安定剤として機能することができる。
【0085】
2−ピロリドンの含有量が10質量%以下であれば、水性インクの粘度が5.0mPa・s以上6.5mPa・s以下となり易く、水性洗浄液の粘度が3.5mPa・s以上5.0mPa・s以下となり易い。そのため、粘度の比率が0.60以上0.85以下となり易い。よって、水性インクにおける2−ピロリドンの含有量と、水性洗浄液における2−ピロリドンの含有量とは、各々独立に、10質量%以下であることが好ましい。水性インクにおける2−ピロリドンの含有量は、より好ましくは1質量%以上8質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以上6質量%以下である。水性洗浄液における2−ピロリドンの含有量は、より好ましくは2質量%以上9質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以上9質量%以下である。
【0086】
<水性インクに含まれる材料の例示>
(顔料分散体)
顔料分散体は、複数の顔料粒子を含む。顔料粒子は、各々、顔料コアと、被覆樹脂とを含む。
【0087】
(顔料分散体:顔料コア)
顔料コアは、顔料を含有する。顔料としては、例えば、黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、紫色顔料、又は黒色顔料を使用できる。黄色顔料としては、例えばC.I.ピグメントイエロー74、93、95、109、110、120、128、138、139、151、154、155、173、180、185、又は193が挙げられる。橙色顔料としては、例えばC.I.ピグメントオレンジ34、36、43、61、63、又は71が挙げられる。赤色顔料としては、例えばC.I.ピグメントレッド122又は202が挙げられる。赤色顔料として、キナクリドン・マゼンタ(PR122)を使用することもできる。青色顔料としては、例えばC.I.ピグメントブルー15又は15:3が挙げられる。紫色顔料としては、例えばC.I.ピグメントバイオレット19、23、又は33が挙げられる。黒色顔料としては、例えばC.I.ピグメントブラック7が挙げられる。黒色顔料として、カーボンブラックを使用することもできる。
【0088】
水性インクにおける顔料コアの含有量は、4質量%以上8質量%以下であることが好ましい。水性インクにおける顔料コアの含有量が4質量%以上であれば、所望の画像濃度を有する画像が得られ易い。水性インクにおける顔料コアの含有量が8質量%以下であれば、水性インクの流動性が確保され易い。このことによっても、所望の画像濃度を有する画像が得られ易い。また、記録媒体に対する水性インクの浸透性が確保され易い。
【0089】
顔料コアの体積中位径(D
50)は、30nm以上200nm以下であることが好ましい。これにより、水性インクの色濃度、色相、又は安定性が向上する。より好ましくは、顔料コアの体積中位径(D
50)は70nm以上130nm以下である。
【0090】
(顔料分散体:被覆樹脂)
被覆樹脂は、顔料コアの表面に設けられる。被覆樹脂は、アニオン性を有することが好ましく、例えば、スチレン−アクリル酸系樹脂、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、及びビニルナフタレン−マレイン酸共重合体のうちの少なくとも1つであることが好ましい。より好ましくは、被覆樹脂は、スチレン−アクリル酸系樹脂である。被覆樹脂がスチレン−アクリル酸系樹脂であれば、顔料粒子を容易に作製できる。また、顔料コアの分散性を高めることができる。
【0091】
スチレン−アクリル酸系樹脂は、スチレンに由来する単位と、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、又はメタクリル酸エステルに由来する単位とを含む樹脂である。好ましくは、スチレン−アクリル酸系樹脂は、スチレンとアクリル酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体、スチレンとメタクリル酸とメタクリル酸アルキルエステルとアクリル酸アルキルエステルとの共重合体、スチレンとアクリル酸との共重合体、スチレンとマレイン酸とアクリル酸アルキルエステルとの共重合体、スチレンとメタクリル酸との共重合体、及びスチレンとメタクリル酸アルキルエステルとの共重合体のうちの少なくとも1つである。より好ましくは、スチレン−アクリル酸系樹脂は、スチレンとメタクリル酸とメタクリル酸アルキルエステルとアクリル酸アルキルエステルとの共重合体である。より具体的には、スチレン−アクリル酸系樹脂は、スチレンとメタクリル酸とメタクリル酸メチルとアクリル酸n−ブチルとの共重合体である。
【0092】
被覆樹脂の含有量は、100質量部の顔料コアに対して、15質量部以上100質量部以下であることが好ましい。被覆樹脂の含有量が過小であれば、画像形成後の記録媒体に裏抜けが生じる場合がある。一方、被覆樹脂の含有量が過大であれば、所望の画像濃度が得られない場合がある。
【0093】
(水性溶媒)
水性溶媒は、水を含有することが好ましく、より好ましくはイオン交換水を含有する。水性インクにおける水の含有量は、20質量%以上70質量%以下であることが好ましい。これにより、粘度が5.0mPa・s以上6.5mPa・s以下の水性インクを提供し易い。
【0094】
例えば、水性溶媒は、イオン交換水とアルコール類とを含有することが好ましい。水性インクがアルコール類を含有すれば、記録媒体に対する水性インクの浸透性を高めることもできる。アルコール類は、ポリオール類を含むことが好ましく、より好ましくはC3−ジオール及びC8−ジオールのうちの少なくとも1つを含む。アルコール類は、例えば、ソルビトールに代表される糖アルコールをさらに含んでもよい。
【0095】
より好ましくは、水性溶媒は、グリコールエーテル類をさらに含有する。水性インクがグリコールエーテル類を含有すれば、記録媒体に対する水性インクの浸透性を高めることもできる。グリコールエーテル類としては、例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(BTG)、トリエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、又はジエチレングリコールモノノルマルブチルエーテルが挙げられる。好ましくは、グリコールエーテル類は、BTGを含む。
【0096】
水性溶媒は、グリセリン及び/又はグリコールをさらに含有してもよい。水性インクがグリセリン及び/又はグリコールを含有すれば、水性インクの乾燥をさらに防止できる。
【0097】
(界面活性剤)
水性インクが界面活性剤を含有すれば、記録媒体に対する水性インクの濡れ性が向上する。水性インクが含有する界面活性剤は、非イオン性界面活性剤であることが好ましい。水性インクにおける非イオン性界面活性剤の含有量は、0.05質量%以上2.00質量%以下であることが好ましい。これにより、画像のオフセットを抑制しつつ、画像濃度が向上する。より好ましくは、水性インクは、アセチレン型界面活性剤を含有する。アセチレン型界面活性剤としては、例えば、日信化学工業株式会社製「オルフィン(登録商標)E1010」を使用できる。
【0098】
(溶解安定剤)
水性インクが溶解安定剤を含有すれば、水性インクに含まれる成分が相溶し易いため、水性インクの溶解状態を安定化できる。溶解安定剤は、2−ピロリドンを含むことが好ましい。溶解安定剤は、N−メチル−2−ピロリドン、及びγ−ブチローラークトンのうちの少なくとも1つをさらに含んでもよい。水性インクにおける溶解安定剤の含有量は、好ましくは1質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは3質量%以上15質量%以下である。
【0099】
(保湿剤)
水性インクが保湿剤を含有すれば、水性インクからの液体成分の揮発を抑制できるため、水性インクの粘性を安定化できる。保湿剤は、好ましくは、ポリアルキレングリコール類、アルキレングリコール類、及びグリセリンのうちの少なくとも1つである。ポリアルキレングリコール類は、ポリエチレングリコール、又はポリプロピレングリコールであることが好ましい。アルキレングリコール類は、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール(C3−ジオール)、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、1,3−ブタンジオール、又は1,5−ペンタンジオールであることが好ましい。より好ましくは、アルキレングリコール類は、C3−ジオールを含む。水性インクにおける保湿剤の含有量は、好ましくは2質量%以上30質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上25質量%以下である。
【0100】
(浸透剤)
水性インクが浸透剤を含有すれば、記録媒体への水性インクの浸透性が向上する。浸透剤は、好ましくは、1,2−へキシレングリコール、1,2−オクタンジオール(C8−ジオール)、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(BTG)、及びジエチレングリコールモノノルマルブチルエーテルのうちの少なくとも1つである。より好ましくは、浸透剤は、C8−ジオール及びBTGのうちの少なくとも1つを含む。水性インクにおける浸透剤の含有量は、好ましくは0.5質量%以上20.0質量%以下である。
【0101】
(pH調整剤)
水性インクがpH調整剤を含有すれば、水性インクが弱塩基性を示し易い。例えば、水性インクのpHが8.5以上10以下となるように、水性インクにおけるpH調整剤の含有量を決定することが好ましい。
【0102】
pH調整剤は、アルカリ金属塩であることが好ましい。これにより、水性インクにおける顔料粒子の分散性を高めることができる。アルカリ金属塩は、アルカリ金属の水酸化物であることが好ましい。より好ましくは、アルカリ金属塩は、水酸化リチウムと水酸化ナトリウムと水酸化カリウムと水酸化セシウムとのうちの少なくとも1つを含む。
【0103】
<水性インクの好ましい製造方法>
水性インクの好ましい製造方法は、顔料分散液の調製工程と、顔料分散液と他のインク成分との混合工程とを含む。
【0104】
(顔料分散液の調製工程)
まず、被覆樹脂を合成する。詳しくは、所定の溶媒に、重合により被覆樹脂を合成可能なモノマー又はプレポリマーと、重合開始剤とを加え、所定の温度で加熱還流を行う。このようにして、被覆樹脂が合成される。より具体的には、イソプロピルアルコールとメチルエチルケトンとの混合液に、スチレンと、(メタ)アクリル酸と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、重合開始剤とを加え、70℃で加熱還流を行う。これにより、スチレン−アクリル酸系樹脂が合成される。
【0105】
次に、メディア型分散機を用いて、合成された樹脂と、顔料コアと、水性溶媒とを混練する。このようにして、多数の顔料粒子を含む顔料分散液を得る。メディア型分散機で用いるメディアの粒子径(例えば、ビーズの径)を変えることで、顔料粒子の分散度合、顔料分散液に遊離する樹脂の量、又は顔料粒子の粒子径を調整できる。例えば、メディアの粒子径を小さくするほど、顔料粒子の粒子径が小さくなる傾向がある。
【0106】
(顔料分散液と他のインク成分との混合工程)
得られた顔料分散液と、他のインク成分とを混合する。攪拌機(例えば、新東科学株式会社製「スリーワンモーター(登録商標) BL−600」)を用いて、顔料分散液と他のインク成分とを混合することが好ましい。他のインク成分は、界面活性剤と溶解安定剤と保湿剤と浸透剤とpH調整剤とのうちの少なくとも1つを含有することが好ましい。顔料分散液と他のインク成分とを混合した後、必要に応じてろ過を行う。このようにして、水性インクが得られる。
【0107】
<水性洗浄液に含まれる材料の例示>
(アミン型界面活性剤)
アミン型界面活性剤は、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルアミンであることが好ましい。ポリオキシアルキレンアルキルアミンは、下記式(1−1)で表される構造を有することが好ましい。ポリオキシアルキレンアルキルアミンとしては、例えば、花王株式会社製「アミート(登録商標)105A」、花王株式会社製「アミート320」、又は、三洋化成工業株式会社製「ピュアミール(登録商標)EP−300S」を使用できる。
【0109】
上記式(1-1)において、R
1は炭素数が1以上24以下である炭化水素基を表す。好ましくは、R
1は炭素数が1以上24以下であるアルキル基又はアルケニル基を表す。A
1O、及びA
2Oは、各々独立に、オキシエチレン基とオキシプロピレン基とのうちの少なくとも1つを表す。m1及びn1は、各々、0以上の整数を表し、1≦(m1+n1)≦100を満たす整数を表す。好ましくは、m1及びn1は、各々、0以上の整数を表し、1≦(m1+n1)≦40を満たす整数を表す。
【0110】
水性洗浄液におけるアミン型界面活性剤の含有量は、0.1質量%以上20.0質量%以下であることが好ましい。これにより、水性洗浄液の浸入量を確保できる。水性洗浄液におけるアミン型界面活性剤の含有量は、より好ましくは0.1質量%以上10.0質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以上7.0質量%以下である。
【0111】
水性洗浄液が2種以上のアミン型界面活性剤を含有する場合には、水性洗浄液におけるアミン型界面活性剤の含有量の合計が0.1質量%以上20.0質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、水性洗浄液におけるアミン型界面活性剤の含有量の合計が0.1質量%以上10.0質量%以下である。さらに好ましくは、水性洗浄液におけるアミン型界面活性剤の含有量の合計が0.5質量%以上7.0質量%以下である。
【0112】
なお、アミン型界面活性剤は、非イオン性界面活性剤である。そのため、本実施形態における水性洗浄液がアミン型界面活性剤を含有すれば、水性洗浄液の発泡性を低く抑えることができる。また、人体にとって低害な水性洗浄液を提供できる。
【0113】
(その他の材料)
水性洗浄液は、前述の(水性溶媒)に記載の水性溶媒と、前述の(溶解安定剤)に記載の溶解安定剤と、前述の(保湿剤)に記載の保湿剤と、前述の(pH調整剤)に記載のpH調整剤とのうちの少なくとも1つをさらに含有することが好ましい。これにより、水性インクに対する水性洗浄液の親和性をさらに高めることができる。よって、隣り合う顔料粒子の間への水性洗浄液の浸入がさらに容易となる。
【0114】
(その他の材料:水性溶媒)
水性溶媒は、水を含有することが好ましく、より好ましくはイオン交換水を含有する。水性洗浄液における水の含有量は、20質量%以上70質量%以下であることが好ましい。これにより、粘度が3.5mPa・s以上5.0mPa・s以下の水性洗浄液を提供し易い。
【0115】
例えば、水性溶媒は、イオン交換水とアルコール類とを含有することが好ましい。アルコール類は、ポリオール類を含むことが好ましく、より好ましくはC3−ジオールを含む。アルコール類は、例えば、ソルビトールに代表される糖アルコールをさらに含んでもよい。
【0116】
より好ましくは、水性溶媒は、グリコールエーテル類をさらに含有する。グリコールエーテル類としては、例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(BTG)、トリエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、又はジエチレングリコールモノノルマルブチルエーテルが挙げられる。好ましくは、グリコールエーテル類は、BTGを含む。水性溶媒は、グリセリン及び/又はグリコールをさらに含有してもよい。
【0117】
(その他の材料:溶解安定剤)
溶解安定剤は、2−ピロリドンを含むことが好ましい。溶解安定剤は、N−メチル−2−ピロリドン、及びγ−ブチローラークトンのうちの少なくとも1つをさらに含んでもよい。水性洗浄液における溶解安定剤の含有量は、好ましくは1質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは3質量%以上15質量%以下である。
【0118】
(その他の材料:保湿剤)
保湿剤は、好ましくは、ポリアルキレングリコール類、アルキレングリコール類、及びグリセリンのうちの少なくとも1つである。ポリアルキレングリコール類は、ポリエチレングリコール、又はポリプロピレングリコールであることが好ましい。アルキレングリコール類は、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール(C3−ジオール)、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、1,3−ブタンジオール、又は1,5−ペンタンジオールであることが好ましい。より好ましくは、アルキレングリコール類は、C3−ジオールを含む。水性洗浄液における保湿剤の含有量は、好ましくは2質量%以上30質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上25質量%以下である。
【0119】
(その他の材料:pH調整剤)
pH調整剤は、アルカリ金属塩であることが好ましい。アルカリ金属塩は、アルカリ金属の水酸化物であることが好ましい。より好ましくは、アルカリ金属塩は、水酸化リチウムと水酸化ナトリウムと水酸化カリウムと水酸化セシウムとのうちの少なくとも1つを含む。
【0120】
<水性洗浄液の好ましい製造方法>
水性洗浄液の好ましい製造方法は、材料(例えば、アミン型界面活性剤)を所定の配合量で均一に混合する工程を含む。攪拌機(例えば、新東科学株式会社製「スリーワンモーター BL−600」)を用いて材料を混合することが好ましい。材料を混合した後、必要に応じてろ過を行う。
【実施例】
【0121】
本発明の実施例を説明する。なお、複数の粒子を含む粉体に関する評価結果(形状又は物性などを示す値)は、何ら規定していなければ、相当数の粒子について測定した値の個数平均である。誤差が生じる評価においては、誤差が十分小さくなる相当数の測定値を得て、得られた測定値の算術平均を評価値とした。
【0122】
実施例及び比較例に係るインクジェット記録装置(以下、単に「装置」と記載することがある)A−1〜A−15を用いて、ノズル面における固着インクの拭き取り性能と、水性インクの着弾精度とを、評価した。
【0123】
表1に、装置A−1〜A−15の各構成を示す。表2に、装置A−1〜A−15の各々に含まれる水性インクB−1〜B−5の各構成を示す。表3に、装置A−1〜A−15の各々に含まれる水性インクB−6〜B−8の各構成を示す。表4に、表2及び表3における「顔料分散液L1」の構成を示す。表5に、装置A−1〜A−15の各々に含まれる水性洗浄液C−1〜C−5の各構成を示す。装置A−1〜A−15の製造方法、評価方法及び評価結果を順に説明する。
【0124】
【表1】
【0125】
【表2】
【0126】
【表3】
【0127】
【表4】
【0128】
表2及び表3において、「C3−ジオール」は1,3−プロパンジオールを意味し、「BTG」はトリエチレングリコールモノブチルエーテルを意味する。また、「界面活性剤」は、日信化学工業株式会社製「オルフィンE1010」を意味する。また、「NaOH水溶液」は、濃度が0.1NであるNaOH水溶液を意味する。表2〜表4において、「C8−ジオール」は、1,2−オクタンジオールを意味する。表4において、「樹脂A−Na」とは、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液で中和された樹脂Aを意味する。また、「顔料」は、シアン顔料とイエロー顔料とマゼンタ顔料とブラック顔料とのうちの何れか1つを意味する。
【0129】
【表5】
【0130】
表5において、「C3−ジオール」は1,3−プロパンジオールを意味し、「BTG」はトリエチレングリコールモノブチルエーテルを意味する。また、「界面活性剤」は、三洋化成工業株式会社製「ピュアミールEP−300S」を意味する。また、「NaOH水溶液」は、濃度が0.1NであるNaOH水溶液を意味する。
【0131】
[装置の製造方法]
実施例及び比較例における水性インク(より具体的には水性インクB−1〜B−8)を製造した。また、実施例及び比較例における水性洗浄液(より具体的には水性洗浄液C−1〜C−5)を製造した。次に、
図1に示す構成を有する試作機(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製)を準備した。そして、試作機に、製造した水性インク及び水性洗浄液を各々充填した。このようにして、実施例及び比較例に係る装置(より具体的には装置A−1〜A−15)を製造した。
【0132】
<水性インクの製造方法>
実施例及び比較例における水性インク(より具体的には水性インクB−1〜B−8)は、何れも、シアン顔料を含有する水性インク(シアンインク)と、イエロー顔料を含有する水性インク(イエローインク)と、マゼンタ顔料を含有する水性インク(マゼンタインク)と、ブラック顔料を含有する水性インク(ブラックインク)とを、含んでいた。以下では、シアンインクの製造方法を主に説明する。なお、水性インクの色を表記する必要がない場合には、「水性インク」と記載する。
【0133】
(樹脂Aの合成)
まず、樹脂Aを合成した。詳しくは、四つ口フラスコ(容量1000mL)に、スターラーと、窒素導入管と、コンデンサー(攪拌機)と、滴下ロートとをセットした。次に、フラスコに、100gのイソプロピルアルコールと300gのメチルエチルケトンとを入れた。フラスコ内容物に窒素をバブリングしながら、70℃で加熱還流を行った。
【0134】
また、40.0gのスチレンと、10.0gのメタクリル酸と、40.0gのメタクリル酸メチルと、10.0gのアクリル酸n−ブチルと、0.400gのアゾビスイソブチロニトリル(AIBN、重合開始剤)とを混合して、モノマー溶液を得た。70℃で加熱還流させた状態で、約2時間かけて、モノマー溶液をフラスコに滴下した。滴下後、さらに6時間、70℃で加熱還流を行った。
【0135】
0.200gのAIBNとメチルエチルケトンとを含有する溶液を、15分かけて、フラスコに滴下した。滴下後、さらに5時間、70℃で加熱還流を行った。このようにして、樹脂A(スチレン−アクリル酸系樹脂)を得た。得られた樹脂Aでは、質量平均分子量(Mw)が20000であり、酸価が100mgKOH/gであった。
【0136】
ここで、樹脂Aの質量平均分子量Mwは、ゲルろ過クロマトグラフィー(東ソー株式会社製「HLC−8020GPC」)を用いて、下記条件で、測定された。
カラム:東ソー株式会社製「TSKgel SuperMultiporeHZ−H」(4.6mmI.D.×15cmのセミミクロカラム)
カラム本数:3本
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:0.35mL/分
サンプル注入量:10μL
測定温度:40℃
検出器:IR検出器
なお、検量線は、東ソー株式会社製のTSKgel標準ポリスチレンから、F−40、F−20、F−4、F−1、A−5000、A−2500、及びA−1000の7種とn−プロピルベンゼンとを選択して作成された。
【0137】
また、樹脂Aの酸価は、「JIS(日本工業規格)K0070−1992(化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法)」に記載の方法に準拠して、求められた。
【0138】
(顔料分散液L1の調製)
次に、合成された樹脂Aを用いて、表4に示す構成を有する顔料分散液L1を調製した。詳しくは、メディア型分散機(ウィリー・エ・バッコーフェン社(WAB社)製「ダイノミル」)のベッセル(容量0.6L)に、6.0質量%の樹脂Aと、15.0質量%のフタロシアニンブルー15:3(シアン顔料、東洋インキ株式会社製「リオノール(登録商標)ブルーFG−7330」)と、0.5質量%のC8−ジオールと、イオン交換水(残量)とを入れた。
【0139】
また、樹脂Aの中和に必要な量の水酸化ナトリウム水溶液をベッセルに加えた。ここで、ベッセル内容物のpHが8になるように、NaOH水溶液をベッセルに加えた。より具体的には、中和当量の1.1倍の質量のNaOH水溶液をベッセルに加えた。なお、ベッセルに加えるべきNaの質量を考慮して、樹脂Aの質量を算出した。また、NaOH水溶液に含まれる水の質量と中和反応で生じた水の質量とを考慮して、イオン交換水の質量を算出した。
【0140】
充填量がベッセルの容量に対して70体積%となるように、メディア(径が0.5mmのジルコニアビーズ)をベッセルに充填した。温度が10℃であり且つ周速が8m/秒である条件でベッセルを水冷しながら、顔料粒子の体積中位径(D
50)が70nm以上130nm以下の範囲に入るようにメディア型分散機を用いてベッセル内容物を混練した。このようにして、顔料分散液L1が得られた。
【0141】
ここで、顔料粒子の体積中位径(D
50)は、レーザー回折式粒度分布測定装置(マルバーン社製の「Zetasizer nano−ZS(ゼータサイザー ナノZS)」)を用いて測定した値である。
【0142】
(顔料分散液L1と他のインク成分との混合)
表2及び表3に記載の材料を、表2及び表3に記載の配合量でビーカーに入れた。攪拌機(新東科学株式会社製「スリーワンモーター BL−600」)を用いてビーカーの内容物を回転速度400rpmで攪拌して、ビーカーの内容物を均一に混合した。フィルター(孔径5μm)を用いて得られた混合液をろ過し、混合液に含有される異物及び粗大粒子を除去した。このようにして、シアンインクを得た。
【0143】
顔料としてC.I.ピグメントイエロー74を用いて、イエローインクを得た。また、顔料としてキナクリドン・マゼンタ(PR122)を用いて、マゼンタインクを得た。また、顔料としてカーボンブラックを用いて、ブラックインクを得た。このようにして、実施例及び比較例における水性インク(より具体的には水性インクB−1〜B−8)を得た。
【0144】
「JIS Z 8803:2011(液体の粘度測定方法)」に記載の方法に準拠して、得られた水性インクの25℃における粘度を測定した。結果を表2及び表3に示す。
【0145】
<水性洗浄液の製造方法>
表5に記載の材料を、表5に記載の配合量でビーカーに入れた。攪拌機(新東科学株式会社製「スリーワンモーター(登録商標) BL−600」)を用いてビーカーの内容物を回転速度400rpmで攪拌して、ビーカーの内容物を均一に混合した。フィルター(孔径5μm)を用いて得られた混合液をろ過し、混合液に含有される異物及び粗大粒子を除去した。このようにして、実施例及び比較例における水性洗浄液(より具体的には水性洗浄液C−1〜C−5)を得た。
【0146】
「JIS Z 8803:2011(液体の粘度測定方法)」に記載の方法に準拠して、得られた水性洗浄液の25℃における粘度を測定した。結果を表5に示す。
【0147】
(試作機の準備)
試作機は、実施例及び比較例における水性インクを収容する第1タンクを4つ備え、実施例及び比較例における水性洗浄液を収容する第2タンクを1つ備えていた。また、試作機は、
図2に示すノズルヘッドを4つ備えていた。ノズルヘッドは、各々、記録ヘッドと、洗浄液供給部とを有していた。
【0148】
記録ヘッドには、各々、第1タンクが接続されていた。詳しくは、4つの第1タンクは、互いに色の異なる水性インクを収容し、記録ヘッドには、互いに異なる第1タンクが接続されていた。記録ヘッドには、各々、複数のインク用ノズルが設けられていた。インク用ノズルは、各々、下面において開口し、水性インクの吐出時とパージインクの排出時とには水性インクをインク用ノズルの開口から鉛直方向下側へ吐出可能であった。
【0149】
より具体的には、記録ヘッドは、各々、解像度360dpi(=180dpi×2列)、ノズル数512個(=256個×2列)、液滴量14pL、駆動周波数12.8kHzのピエゾ型ラインヘッド(コニカミノルタ株式会社製)であった。また、記録ヘッドは、その長手方向が紙の搬送方向に直交するように、間隔20mmで配列されていた。なお、記録ヘッドの下面(ノズル面)は、何れも、洗浄されており、水性インクで汚染されていなかった。
【0150】
洗浄液供給部は、記録ヘッドの各々の長手方向の一端に、固定されていた。洗浄液供給部には、各々、第2タンクが接続されており、複数の洗浄液用ノズルが設けられていた。洗浄液用ノズルは、各々、洗浄液供給部の下面において開口し、記録ヘッドのメンテナンス時には水性洗浄液を半球状の液滴の状態で洗浄液供給部の下面に供給可能であった。
【0151】
試作機は、ブレードをさらに備えていた。ブレードは、ノズルヘッドの下面に当接しながら、ノズルヘッドの下面に沿って洗浄液供給部の下面に当接する位置から記録ヘッドの下面に当接する位置へ移動した。また、試作機は、画像形成を実行する制御部をさらに備えていた。制御部がROMに記憶させた所定の制御プログラムをCPUで実行することによって、評価機は画像を形成することが可能であった。
【0152】
(水性インク及び水洗洗浄液の充填)
4つの第1タンクに、互いに色の異なる水性インク(実施例及び比較例における水性インク)を収容した。また、第2タンクに、実施例及び比較例における水性洗浄液を収容した。このようにして、実施例及び比較例に係る装置(より具体的には装置A−1〜A−15)を得た。
【0153】
[装置の評価方法]
<ノズル面における固着インクの拭き取り性能の評価>
まず、実施例及び比較例に係る装置(より具体的には装置A−1〜A−15)を用いて、耐刷試験を行った。耐刷試験は、温度25℃且つ湿度60%RHの環境下で、搬送速度350mm/秒の条件で、行われた。耐刷試験では、色が互いに異なるソリッド画像(サイズ10cm×10cm、印字率100%)を、記録シート(富士ゼロックス株式会社製「C2」、A4サイズの普通紙)上に重なるように形成し、記録シート5000枚に連続して印刷した。
【0154】
耐刷試験の後、記録ヘッドのメンテナンスを行った。詳しくは、まず、実施例及び比較例に係る装置の制御部が、水性インクを、インク用ノズルの開口から鉛直方向下側へ排出させた。次に、制御部が、水性洗浄液を、洗浄液用ノズルの開口から鉛直方向下側へ排出させて、半球状の液滴の状態で洗浄液供給部の下面に供給した。続いて、制御部が、ブレードを、ノズルヘッドの下面に当接させながらワイピング方向に沿って移動させた。このようにして、記録ヘッドのメンテナンスを行った。
【0155】
ワイプ動作の後、光学顕微鏡を用いてノズル面を観察した。そして、ノズル面におけるインク汚れの有無を確認した。ノズル面における固着インクの拭き取り性能の評価基準を以下に示す。また、評価結果を表6に示す。
優良(◎):ノズル面においてインク汚れが全く確認されなかった。
不良(×):ノズル面においてインク汚れが明確に確認された。
【0156】
<水性インクの着弾精度の評価>
まず、初期の着弾精度(3σ値)を求めた。
次に、前述の<ノズル面における固着インクの拭き取り性能の評価>に記載の方法に従い、耐刷試験と記録ヘッドのメンテナンスとを行った。その後、1週間、実施例及び比較例に係る装置(より具体的には装置A−1〜A−15)を放置した。その後、着弾精度(3σ値)を求めた。このようにして求められた着弾精度(3σ値)を放置後の着弾精度(3σ値)と記載する。
【0157】
初期の着弾精度(3σ値)と放置後の着弾精度(3σ値)との差が3未満であれば、1週間放置後における水性インクの着弾精度は良好である(○)と評価した。一方、初期の着弾精度(3σ値)と放置後の着弾精度(3σ値)との差が3以上であれば、1週間放置後における水性インクの着弾精度は不良である(×)と評価した。評価結果を表6に示す。
【0158】
着弾精度(3σ値)は、次に示す方法で、求められた。詳しくは、記録シートを搬送しない状態(スタンプ式)で、記録シートに対して4つの記録ヘッドの全ノズルから1ドット吐出を行った。次に、記録シート上の各ドットについて、汎用画像処理システム(王子計測機器株式会社製「DA−6000」)を用いて、着弾精度3σを測定した。得られた測定データ(各ドットの着弾精度3σ)の算術平均値を着弾精度(3σ値)とした。
【0159】
着弾精度3σは、式「3σ=3√(σ
x2+σ
y2)」で表される着弾精度を意味する。式において、σ
xは、ノズル設計位置からのX方向の位置ずれ量の標準偏差を意味する。また、σ
yは、ノズル設計位置からのY方向の位置ずれ量の標準偏差を意味する。
【0160】
[装置の評価結果]
表6に、装置A−1〜A−15の評価結果を示す。表6において、「比率」には、粘度の比率を記す。より具体的には、水性インクの粘度に対する水性洗浄液の比率を記す。「評価A」には、ノズル面における固着インクの拭き取り性能の評価結果を記す。「評価B」には、1週間放置後における水性インクの着弾精度の評価結果を記す。
【0161】
【表6】
【0162】
[考察]
実施例1〜7に係る装置(より具体的には装置A−1〜A−7)は、各々、以下に示す基本構成を有していた。より具体的には、実施例1〜7に係る装置は、水性インクを収容する第1タンクと、水性洗浄液を収容する第2タンクと、下面の第1領域において開口するインク用ノズルを有するノズルヘッドと、ノズルヘッドの下面に当接しながら下面に沿って移動するクリーニング部材と、を備えていた。インク用ノズルは、水性インクを、インク用ノズルの開口から鉛直方向下側へ吐出可能であった。ノズルヘッドは、さらに、下面のうち第1領域を除く第2領域において開口する洗浄液用ノズルを有していた。洗浄液用ノズルは、水性洗浄液を、半球状の液滴の状態で、第2領域に供給可能であった。クリーニング部材は、第2領域に当接する位置から、第1領域に当接する位置へ、移動可能であった。水性インクと、水性洗浄液とは、各々独立に、ポリオール類を、含有していた。水性洗浄液は、さらに、非イオン性界面活性剤を含有し、非イオン性界面活性剤は、アミン型界面活性剤を含んでいた。水性インクの粘度が、5.0mPa・s以上6.5mPa・s以下であった。水性洗浄液の粘度が、3.5mPa・s以上5.0mPa・s以下であった。粘度の比率が、0.60以上0.85以下であった。
【0163】
実施例1〜7に係る装置は、ノズル面における固着インクの拭き取り性能に優れていた。また、実施例1〜7に係る装置は、水性洗浄液が吐出面へ供給されてから1週間が経過しても、水性インクの着弾精度を高く維持できた。
【0164】
比較例1〜8に係る装置(より具体的には装置A−8〜A−15)は、前述の基本構成を有していなかった。そして、比較例1〜8に係る装置は、実施例1〜7に係る装置に比べ、ノズル面における固着インクの拭き取り性能に劣っていた。また、比較例1〜8に係る装置は、水性洗浄液が吐出面へ供給されてから1週間が経過すると、水性インクの着弾精度を高く維持できなかった。このように、比較例1〜8に係る装置の何れにおいても、所望の効果を得ることができなかった。所望の効果には、ノズル面における固着インクの拭き取り性能に優れることと、水性洗浄液が吐出面へ供給されてから1週間が経過しても水性インクの着弾精度を高く維持できることとが、含まれる。
【0165】
比較例1及び比較例2における評価結果から、水性洗浄液が水性洗浄液C−4であれば、水性インクが水性インクB−1〜B−8の何れであっても、所望の効果が得られない、と考えられる。詳しくは、比較例1及び比較例2に係る装置では、各々、粘度の比率が0.85超であり、所望の効果を得ることができなかった。ここで、比較例1に係る装置は、水性インクB−7と水性洗浄液C−4とを含んでいた。また、比較例2に係る装置は、水性インクB−8と水性洗浄液C−4とを含んでいた。そして、水性インクB−1〜B−8では、水性インクB−5及び水性インクB−8の各々の粘度が最も高く、水性インクB−2及び水性インクB−7の各々の粘度が2番目に高かった。これらのことから、水性インクB−1〜B−8のうち水性インクB−5と水性インクB−8とを除く水性インクの何れかと水性洗浄液C−4とを用いて装置を製造すると、製造された装置における粘度の比率は、比較例1に係る装置における粘度の比率よりも、さらに高くなる。そのため、水性洗浄液が水性洗浄液C−4であれば、水性インクが水性インクB−1〜B−8の何れであっても、所望の効果が得られない、と考えられる。
【0166】
同様に、比較例7及び比較例8における評価結果から、水性洗浄液が水性洗浄液C−5であれば、水性インクが水性インクB−1〜B−8の何れであっても、所望の効果が得られない、と考えられる。詳しくは、比較例7に係る装置では、粘度の比率が0.60未満であり、所望の効果を得ることができなかった。また、比較例8に係る装置では、粘度の比率が0.60以上であるが、所望の効果を得ることができなかった。ここで、比較例7に係る装置は、水性インクB−8と水性洗浄液C−5とを含んでいた。また、比較例8に係る装置は、水性インクB−4と水性洗浄液C−5とを含んでいた。そして、水性インクB−1〜B−8では、水性インクB−5及び水性インクB−8の各々の粘度が最も高く、水性インクB−4の粘度が最も低かった。これらのことから、水性インクB−1〜B−8のうち水性インクB−4と水性インクB−5と水性インクB−8とを除く水性インクの何れかと水性洗浄液C−5とを用いて装置を製造すると、製造された装置における粘度の比率は、比較例7に係る装置における粘度よりも高く、比較例8に係る装置における粘度の比率よりも低くなる。そのため、水性洗浄液が水性洗浄液C−5であれば、水性インクが水性インクB−1〜B−8の何れであっても、所望の効果が得られない、と考えられる。
【0167】
実施例1、実施例4、実施例7、比較例5、及び比較例6の結果から、水性インクの粘度は5.0mPa・s以上であることが好ましい、と考えられる。また、実施例2、実施例5、比較例3、及び比較例4の結果から、水性インクの粘度は5.0mPa・s以上6.5mPa・s以下であることが好ましい、と考えられる。