特許第6819574号(P6819574)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6819574蓄電素子の製造方法及び蓄電素子の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6819574
(24)【登録日】2021年1月6日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】蓄電素子の製造方法及び蓄電素子の製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/10 20210101AFI20210114BHJP
   H01M 50/147 20210101ALI20210114BHJP
   H01M 10/04 20060101ALI20210114BHJP
   B23K 26/14 20140101ALI20210114BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20210114BHJP
   H01G 11/78 20130101ALI20210114BHJP
   H01G 13/00 20130101ALI20210114BHJP
   H01G 11/84 20130101ALI20210114BHJP
【FI】
   H01M2/02 A
   H01M2/04 A
   H01M10/04 Z
   B23K26/14
   B23K26/21 P
   H01G11/78
   H01G13/00 381
   H01G11/84
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-510050(P2017-510050)
(86)(22)【出願日】2016年3月29日
(86)【国際出願番号】JP2016060228
(87)【国際公開番号】WO2016158998
(87)【国際公開日】20161006
【審査請求日】2019年3月19日
(31)【優先権主張番号】特願2015-72970(P2015-72970)
(32)【優先日】2015年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100153224
【弁理士】
【氏名又は名称】中原 正樹
(72)【発明者】
【氏名】上林 広和
(72)【発明者】
【氏名】前田 憲利
【審査官】 高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−105041(JP,A)
【文献】 国際公開第1999/025035(WO,A1)
【文献】 特開2003−181666(JP,A)
【文献】 特開2014−220285(JP,A)
【文献】 特開2003−245776(JP,A)
【文献】 特開2010−058124(JP,A)
【文献】 特開平03−133052(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/02
H01M 2/04
B23K 26/14
B23K 26/21
H01G 11/78
H01G 11/84
H01G 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電素子の容器に対して溶接を行う蓄電素子の製造方法であって、
前記溶接が行われる2つの溶接対象部分の間に、壁面が形成された治具を配置する配置ステップと、
前記2つの溶接対象部分に対応して、2つの異なる方向からシールドガスを前記2つの溶接対象部分に供給しながら、前記2つの溶接対象部分を溶接する溶接ステップと、を含み、
前記容器は、開口を有する本体と、前記開口を塞ぐ板状の蓋体と、を有し、
前記2つの溶接対象部分は、前記本体と前記蓋体との環状の境界部分のうちの互いに対向する2つの部分であり、
前記配置ステップでは、前記治具を、前記2つの部分の間に配置し、
前記壁面の少なくとも一部は、前記シールドガスが流れる方向に対して、当該シールドガスが流れる方向の下流側に向かうほど前記容器から遠ざかるように傾斜している
蓄電素子の製造方法。
【請求項2】
前記溶接ステップでは、前記溶接対象部分に供給されたシールドガスが前記壁面の少なくとも一部である傾斜面に沿って流れる
請求項1に記載の蓄電素子の製造方法。
【請求項3】
前記配置ステップでは、前記治具を前記容器に当接させて配置する
請求項1または2に記載の蓄電素子の製造方法。
【請求項4】
さらに、
前記治具を冷却する冷却ステップを含む
請求項1から3のいずれか1項に記載の蓄電素子の製造方法。
【請求項5】
前記溶接ステップでは、所定の位置から前記2つの溶接対象部分に向けて、照射角度を変えながらレーザビームを照射して、前記2つの溶接対象部分を溶接する
請求項1から4のいずれか1項に記載の蓄電素子の製造方法。
【請求項6】
蓄電素子の容器に対して溶接を行うための蓄電素子の製造装置であって、
前記溶接が行われる2つの溶接対象部分であって、2つの異なる方向からシールドガスが供給される前記2つの溶接対象部分の間に配置される壁面が形成された治具を備え
前記容器は、開口を有する本体と、前記開口を塞ぐ板状の蓋体と、を備え、
前記2つの溶接対象部分は、前記本体と前記蓋体との環状の境界部分のうちの互いに対向する2つの部分であり、
前記治具は、前記2つの部分の間に配置され、
前記壁面の少なくとも一部は、前記シールドガスが流れる方向に対して、当該シールドガスが流れる方向の下流側に向かうほど前記容器から遠ざかるように傾斜している
蓄電素子の製造装置。
【請求項7】
さらに、
前記2つの溶接対象部分に、前記2つの異なる方向からシールドガスを供給する2つの吹出口を備える
請求項6に記載の蓄電素子の製造装置。
【請求項8】
前記壁面の少なくとも一部は、前記シールドガスが流れる方向に対して傾斜している
請求項6または7に記載の蓄電素子の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電素子の製造方法及び蓄電素子の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電素子の製造において、蓄電素子の容器に対してレーザビーム溶接を行うことで容器を形成することが知られている。レーザビームを用いて溶接を行うレーザ溶接では、溶接対象部分(溶接箇所)の金属が外気に触れることによる酸化を抑制するために、シールドガスと呼ばれる不活性ガスを溶接対象部分に供給することで溶接対象部分を空気から遮断している。このように、溶接の対象となる溶接対象部分の全体をシールドガス雰囲気とするために、溶接対象部分を挟んだ両側の2方向から溶接対象部分に向けてシールドガスを供給するレーザ溶接装置が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−105041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のレーザ溶接装置では、溶接不良を発生させるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、溶接不良の発生を低減できる蓄電素子の製造方法などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る蓄電素子の製造方法は、蓄電素子の容器に対して溶接を行う蓄電素子の製造方法であって、前記溶接が行われる2つの溶接対象部分の間に、壁面が形成された治具を配置する配置ステップと、前記2つの溶接対象部分に対応して、2つの異なる方向からシールドガスを前記2つの溶接対象部分に供給しながら、前記2つの溶接対象部分を溶接する溶接ステップと、を含む。
【0007】
これによれば、2つの異なる方向から2つの溶接対象部分に向けて供給されるシールドガスのそれぞれは、各溶接対象部分付近を通過した後に、治具により、流れる方向が変更される。具体的には、容器から離れる方向に向かう。つまり、治具が2つの溶接対象部分の間に配置されることにより、シールドガスの2つの流れは、2つの溶接対象部分において合流することを抑制される。このため、2つの溶接対象部分においてシールドガスによる乱流が発生することを低減でき、2つの溶接対象部分に安定したシールドガスの雰囲気を形成しておくことができる。よって、溶接不良の発生を低減できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明における蓄電素子の製造方法によれば、溶接対象部分に安定したシールドガスの雰囲気を形成しておくことができ、溶接不良の発生を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本実施の形態に係る蓄電素子の製造装置の外観を示す図である。
図2図2は、本実施の形態に係る蓄電素子の製造方法における治具の配置について説明するための図である。
図3図3は、本実施の形態に係る蓄電素子の容器の溶接経路について説明するための図である。
図4図4は、実施の形態に係る蓄電素子の外観を示す斜視図である。
図5A図5Aは、実施の形態に係る治具を上斜め方向から見た場合の斜視図である。
図5B図5Bは、実施の形態に係る治具を下斜め方向から見た場合の斜視図である。
図6図6は、実施の形態に係る図1における製造装置のVI−VI断面図のうちの治具周辺の一部を拡大した図である。
図7図7は、実施の形態に係る蓄電素子の製造方法を示すフローチャートである。
図8図8は、変形例に係る蓄電素子の製造装置の外観を示す図である。
図9図9は、図8における製造装置のIX−IX断面図のうちの治具周辺の一部を拡大した図である。
図10図10は、図8における製造装置のX−X断面図のうちの治具周辺の一部を拡大した図である。
図11図11は、変形例に係る治具を、蓄電素子の所定の位置に配置した状態の外観を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上記従来のレーザ溶接装置では、溶接不良を発生させるおそれがある。
【0011】
すなわち、従来のレーザ溶接装置では、異なる2方向から溶接対象部分に流れ込んできたシールドガス同士がぶつかり合うことで、溶接対象部分付近で乱流が発生するおそれがある。このため、溶接対象部分において、安定したシールドガスの雰囲気を形成しておくことが難しく、その結果、溶接不良を発生させるおそれがある。
【0012】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、安定したシールドガスの雰囲気を形成しておくことで、溶接不良の発生を低減できる蓄電素子の製造方法などを提供することを目的とする。
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る蓄電素子の製造方法は、蓄電素子の容器に対して溶接を行う蓄電素子の製造方法であって、前記溶接が行われる2つの溶接対象部分の間に、壁面が形成された治具を配置する配置ステップと、前記2つの溶接対象部分に対応して、2つの異なる方向からシールドガスを前記2つの溶接対象部分に供給しながら、前記2つの溶接対象部分を溶接する溶接ステップと、を含む。
【0014】
これによれば、2つの異なる方向から2つの溶接対象部分に向けて供給されるシールドガスのそれぞれは、各溶接対象部分付近を通過した後に、治具により、流れる方向が変更される。具体的には、容器から離れる方向に向かう。つまり、治具が2つの溶接対象部分の間に配置されることにより、シールドガスの2つの流れは、2つの溶接対象部分において合流することを抑制される。このため、2つの溶接対象部分においてシールドガスによる乱流が発生することを低減でき、2つの溶接対象部分に安定したシールドガスの雰囲気を形成しておくことができる。よって、溶接不良の発生を低減できる。
【0015】
また、前記溶接ステップでは、前記溶接対象部分に供給されたシールドガスが前記壁面の少なくとも一部である傾斜面に沿って流れてもよい。
【0016】
このため、互いに異なる2方向から供給されるシールドガスの2つの流れのそれぞれを治具の壁面に沿って流れやすくすることができる。よって、乱流が発生しないように、シールドガスの2つの流れのそれぞれが流れる方向を変更することができる。これにより、2つの溶接対象部分に安定したシールドガスの雰囲気を形成しておくことができ、溶接不良の発生を低減できる。
【0017】
また、前記配置ステップでは、前記治具を前記容器に当接させて配置してもよい。
【0018】
このため、2つの方向から供給されるシールドガスの2つの流れが2つの溶接対象部分において合流することを抑制することができる。また、溶接により容器に生じた熱を治具に伝導させることができるため、2つの溶接対象部分を冷却できる。
【0019】
また、さらに、前記治具を冷却する冷却ステップを含んでもよい。
【0020】
このため、治具に熱伝導された、溶接により生じた熱を放出することができ、治具が繰り返し使用されることにより高温になることを抑制できる。これにより、蓄電素子の容器の溶接の際に、高温の治具が容器に当接することにより、蓄電素子に悪影響を与えることを抑制できる。また、治具が温度変化により劣化することを抑制できるため、治具の寿命を延ばすことができる。
【0021】
また、前記溶接ステップでは、所定の位置から前記2つの溶接対象部分に向けて、照射角度を変えながらレーザビームを照射して、前記2つの溶接対象部分を溶接してもよい。
【0022】
このため、2つの溶接対象部分がレーザビームの走査により溶接される場合であっても、2つの溶接対象部分に安定したシールドガス雰囲気を形成しておくことができる。
【0023】
また、本発明の一態様に係る蓄電素子の製造装置は、蓄電素子の容器に対して溶接を行うための蓄電素子の製造装置であって、前記溶接が行われる2つの溶接対象部分であって、2つの異なる方向からシールドガスが供給される前記2つの溶接対象部分の間に配置される壁面が形成された治具を備える。
【0024】
これによれば、2つの異なる方向から2つの溶接対象部分に向けて供給されるシールドガスのそれぞれは、各溶接対象部分付近を通過した後に、治具により、流れる方向が変更される。具体的には、容器から離れる方向に向かう。つまり、治具が2つの溶接対象部分の間に配置されることにより、シールドガスの2つの流れは、2つの溶接対象部分において合流することを抑制される。このため、2つの溶接対象部分においてシールドガスによる乱流が発生することを低減でき、2つの溶接対象部分に安定したシールドガスの雰囲気を形成しておくことができる。よって、溶接が行われた場合に、溶接不良の発生を低減できる。
【0025】
また、さらに、前記2つの溶接対象部分に、前記2つの異なる方向からシールドガスを供給する2つの吹出口を備えてもよい。
【0026】
これによれば、2つの溶接対象部分に対してシールドガスを容易に供給できる。
【0027】
また、前記壁面の少なくとも一部は、前記シールドガスが流れる方向に対して傾斜していてもよい。
【0028】
このように、2つの異なる方向から供給されるシールドガスの2つの流れのそれぞれを、治具の傾斜面に沿わせることで、当該流れの方向を変えることができる。よって、乱流が発生しないように、シールドガスの流れる方向を変更することができる。これにより、2つの溶接対象部分に安定したシールドガスの雰囲気を形成しておくことができ、溶接不良の発生を低減できる。
【0029】
また、前記容器は、矩形状の開口を有する本体と、前記開口を塞ぐ長尺板状の蓋体と、を備え、前記2つの溶接対象部分は、前記本体と前記蓋体との矩形環状の境界部分のうちの互いに対向する2つの長辺部分であり、前記治具は、前記2つの長辺部分の間に配置され、前記壁面の少なくとも一部は、前記シールドガスが流れる方向に対して、当該シールドガスが流れる方向の下流側に向かうほど前記容器から遠ざかるように傾斜していてもよい。
【0030】
これによれば、溶接対象部分である本体と蓋体との矩形環状の境界部分のうちの対向する2つの部分において、互いの間隔が短く、かつ、それぞれの溶接距離が長い部分である2つの長辺部分の間に治具を配置することになるため、2つの異なる方向から供給されるシールドガスが合流することを抑制できる。また、シールドガスが流れる方向を、容器から遠ざかる方向に変更することができるため、2つの異なる方向から供給されるシールドガスが容器の溶接対象部分において合流することを抑制できる。
【0031】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態に係る蓄電素子の製造方法及び蓄電素子の製造装置について説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態等は、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、各図において、寸法等は厳密に図示したものではない。
【0032】
(実施の形態)
まず、蓄電素子500の製造装置10について、説明する。
【0033】
図1は、実施の形態に係る蓄電素子の製造装置の外観を示す図である。図2は、実施の形態に係る治具及び複数の固定部を説明するための図である。なお、これらの図及び以降の図では、説明の便宜のため、Z軸方向を上下方向として示しており、以下ではZ軸方向を上下方向(つまり、Z軸方向プラス側を上方、Z軸方向マイナス側を下方)として説明している箇所があるが、実際の使用態様において、Z軸方向が上下方向になるとは限らない。
【0034】
同図に示すように、蓄電素子500の製造装置10は、溶接部100と、複数(本実施の形態では4つ)の吹出部210〜240と、治具300と、複数(本実施の形態では4つ)の固定部410〜440とを備える。本実施の形態では、製造装置10は、蓄電素子500の容器510の本体511と蓋体512とを溶接するための装置である。つまり、本実施の形態では、蓄電素子500の容器510の溶接される溶接対象部分530は、本体511と蓋体512との境界部分である。
【0035】
溶接部100は、レーザビームL1(L2)を照射することにより蓄電素子500の容器を溶接するレーザユニットである。具体的には、溶接部100は、所定の位置P1(上方)から容器の溶接対象部分に向けて、照射角度を変えながらレーザビームを照射して、溶接対象部分を溶接する。例えば、溶接部100は、レーザビームL1の角度で溶接対象部分の一部を溶接した後に、レーザビームL2の角度で溶接対象部分の他の一部を溶接する。溶接部100は、例えば、角度が変更自在に設けられたミラーにレーザビームを反射させることで、溶接部100から照射されるレーザビームの角度を変えて走査するスキャナユニット(例えばガルバノスキャナユニット)を有する。
【0036】
ここで、溶接部100により行われる溶接経路について、図3を用いて説明する。図3は、本実施の形態に係る蓄電素子の容器の溶接経路について説明するための図である。
【0037】
本実施の形態では、溶接部100は、図3に示すように、例えば、長辺部分531、短辺部分533、長辺部分532、及び短辺部分534の順番に、連続して溶接を行う。つまり、溶接部100は、矩形環状の溶接対象部分530に対して、連続した1回のレーザビームの照射でレーザビームの角度を変えて走査を行うことで、容器510に対する溶接を行う。
【0038】
複数の吹出部210〜240は、シールドガスを蓄電素子500の容器510の溶接対象部分530に向けて供給する。複数の吹出部210〜240は、溶接対象部分530が形成されている容器510の上面に対して、X軸方向の両側及びY軸方向の両側からシールドガスを供給する。具体的には、2つの吹出部210、220は、容器510のY軸方向の両側に配置され、容器510の上面の溶接対象部分530に向けてシールドガスをY軸方向の両側から供給する。また、2つの吹出部230、240は、容器510のX軸方向の両側に配置され、容器510の上面の溶接対象部分530に向けてシールドガスをX軸方向の両側から供給する。なお、シールドガスは、溶接箇所の金属が外気に触れることによる酸化を抑制できる不活性ガスであれば特に限定されないが、例えば、N2ガス、Arガス、Heガス等である。
【0039】
複数の吹出部210〜240のそれぞれは、シールドガスが導入される導入口211、221、231、241と、シールドガスを溶接対象部分530に向けて吹き出す吹出口212、222、232、242とを有する。複数の吹出部210〜240のそれぞれは、導入口211、221、231、241から導入されたガスGinが吹出口212、222、232、242までの流路を流れる間に、シールドガスを整流する整流器としての機能も有する。つまり、複数の吹出部210〜240により吹き出されるガスGoutは、複数の吹出部210〜240によって整流され、乱流が低減されたガスである。
【0040】
ここで、溶接の対象となる蓄電素子500の構成の詳細について、図4を用いて説明する。図4は、実施の形態に係る蓄電素子の外観を示す斜視図である。
【0041】
蓄電素子500は、電気を充電し、また、電気を放電することのできる二次電池であり、より具体的には、リチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池である。例えば、蓄電素子500は、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)、またはハイブリッド電気自動車(HEV)などに適用される。なお、蓄電素子500は、非水電解質二次電池には限定されず、非水電解質二次電池以外の二次電池であってもよいし、キャパシタであってもよい。
【0042】
図4に示すように、蓄電素子500は、矩形筒状で底を備える本体511と、本体511の開口を閉塞する板状部材である蓋体512とで構成される容器510と、正極端子521と、負極端子522とを備える。蓋体512は、本体511の開口を閉塞した状態で、蓋体512の板状の外縁部が、本体511の開口の内壁面に対向する。本体511の開口には、蓋体512の下面を支持する段差部511a(図6参照)が設けられており、本体511の上端部と、蓋体512の上面とが同じ位置(面一)となるように構成されている。つまり、溶接対象部分530は、容器510の上面に形成されている。
【0043】
この容器510は、電極体等を内部に収容後、蓋体512と本体511とが溶接されることにより、内部を密封することができるものとなっている。なお、蓋体512及び本体511の材質は、特に限定されないが、例えばステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金など溶接可能な金属であるのが好ましい。
【0044】
また、正極端子521及び負極端子522は、蓋体512に取り付けられている。正極端子521及び負極端子522は、蓋体512の上面から上方に向かって突出して形成される。正極端子521及び負極端子522は、図示しない電極体の各極に電気的に接続され、内部に蓄えられた電力を外部に出力する、または、外部からの電力を内部に蓄えるための電極端子である。
【0045】
本実施の形態では、蓄電素子500は、容器510の蓋体512がX軸方向に平行な2つの長辺を有し、かつ、Y軸方向に平行な2つの短辺を有する長尺板状部材である。よって、図3に示すように、容器510の溶接対象部分530は、蓋体512を上方から見た場合の外形と同じく、X軸方向に平行な2つの長辺部分531、532と、Y軸方向に平行な2つの短辺部分533、534とを有する矩形環状の部分である。
【0046】
ここで、吹出部210は、長辺部分531に対向し、かつ、長辺部分531の長さよりも長い幅を有する吹出口212を有する。また、同様に、吹出部220は、長辺部分532に対向し、かつ、長辺部分532の長さよりも長い幅を有する吹出口222を有する。要するに、2つの吹出部210、220は、溶接対象部分530のX軸方向に平行な2つの長辺部分531、532に、2つの異なる方向からシールドガスを供給し、また、2つの長辺部分531、532の全体に亘ってシールドガスを供給する。また、2つの吹出部210、220は、互いに略同じタイミングでシールドガスを供給する。
【0047】
さらに、吹出部230は、短辺部分533に対向し、かつ、短辺部分533の長さよりも長い幅を有する吹出口232を有する。また、同様に、吹出部240は、短辺部分534に対向し、かつ、短辺部分534の長さよりも長い幅を有する吹出口242を有する。これにより、2つの吹出部230、240は、溶接対象部分530のY軸方向に平行な2つの短辺部分533、534のそれぞれに向けてシールドガスを供給し、また、2つの短辺部分533、534の全体に亘ってシールドガスを供給する。また、2つの吹出部230、240は、互いに略同じタイミングでシールドガスを供給する。
【0048】
また、2つの吹出部210、220と、2つの吹出部230、240とは、互いに略同じタイミングでシールドガスを供給する。つまり、4つの吹出部210、220、230、240は、互いに略同じタイミングで、かつ、略同じ期間中に、シールドガスを供給する。
【0049】
治具300は、異なる複数の方向から供給されるシールドガスがぶつかり合うことを抑制するための治具である。治具300は、図2に示すように、溶接部100による溶接が行われる前に、蓄電素子500の容器510の上面の所定の位置P2に配置される。ここで、所定の位置P2とは、2つの異なる方向からシールドガスが供給される2つの溶接対象部分(本実施の形態では、2つの長辺部分531、532)の間の位置である。また、治具300は、図3に示すように、所定の位置P2に配置された状態で、2つの長辺部分531、532に対向する壁面A11、A12を有する。つまり、壁面A11、A12は、シールドガスを遮蔽するための壁面である。治具300の材質は、特に限定されないが、溶接により生じた熱を放熱させることができるため、熱伝導性を有する部材であることが好ましい。また、治具300の材質は、溶接による熱に耐える耐熱性を有する部材であることが好ましい。治具300は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金などの金属であるのが好ましい。
【0050】
複数の固定部410〜440は、溶接部100に対する蓄電素子500の位置決めを行う治具である。具体的には、図2に示すように、2つの固定部410、420は、Y軸方向で互いに対向しており、Y軸方向の両側から蓄電素子500の容器510の長側面を挟み込むことで、Y軸方向の所定の位置に蓄電素子500が位置するように固定する。また、2つの固定部430、440は、X軸方向で互いに対向しており、X軸方向の両側から蓄電素子500の容器510の短側面を挟み込むことで、X軸方向の所定の位置に蓄電素子500が位置するように固定する。なお、蓄電素子500のZ軸方向の位置は、図示しない台座に蓄電素子500を載置することにより位置決めされる。このように、蓄電素子500は、複数の固定部410〜440により、X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向の所定の位置に位置決めされた状態で固定されるため、蓄電素子500を別の蓄電素子500に変えて固定したとしても、別の蓄電素子500と溶接部100との位置関係を一定の関係とすることができる。
【0051】
ここで、治具300の構成について、図5A及び図5Bを用いて詳細に説明する。
【0052】
図5Aは、実施の形態に係る治具を上斜め方向から見た場合の斜視図である。図5Bは、実施の形態に係る治具を下斜め方向から見た場合の斜視図である。
【0053】
これらの図に示すように、治具300は、Z軸方向マイナス側の基部310と、基部310からZ軸方向プラス側に向かって突出する壁部320とを有する。基部310は、容器510の上面に配置されるための部位である。本実施の形態では、基部310は、Y軸方向に面している側面を有するが、側面を有していなくてもよい。壁部320は、壁面A11、A12を有する。なお、治具300の外形は、治具300が容器510に配置され、容器510に対するレーザビームによる溶接が行われたときに、レーザビームの溶接対象部分への照射を遮らない形状であればよい。
【0054】
また、図5Bに示すように、治具300は、基部310の下面に溝部330が形成されている。溝部330は、治具300を、蓄電素子500の上面に配置するときに、正極端子521及び負極端子522と干渉させずに配置するための形状である。これにより、治具300の基部310の溝部330の内方に、正極端子521及び負極端子522を収めることができるため、治具300の下面を容器510の上面に当接させた状態で治具300を容器510の所定の位置P2に配置できる。このように、正極端子521及び負極端子522を治具300の内方に収めることができるため、正極端子521及び負極端子522に対してシールドガスが当たることを抑制でき、シールドガスの流れに乱流が発生することを低減できる。
【0055】
なお、溝部330は、正極端子521及び負極端子522のX軸方向の両側の側面(正極端子521のX軸方向マイナス側の側面、及び、負極端子522のX軸方向プラス側の側面)及びY軸方向の両側の側面に当接することで、治具300のX軸方向及びY軸方向の位置決めがされるような大きさであることが好ましい。この場合、溝部330の大きさは、正極端子521及び負極端子522のX軸方向の両側の側面及びY軸方向の両側の側面との間に所定の隙間が生じるような大きさであればよい。また、溝部330の深さは、正極端子521及び負極端子522の高さよりも大きければよい。なお、後述する図6では、上記の所定の隙間は省略して図示している。このように、治具300が容器510の所定の位置P2に配置された状態で正極端子521及び負極端子522に接触しない大きさに溝部330を形成することで、レーザ溶接の熱が正極端子521及び負極端子522に伝わることを抑制できる。
【0056】
なお、レーザ溶接の熱が伝わらない対策が行われる場合には、治具300が正極端子521及び負極端子522に接触する構成であってもよい。レーザ溶接の熱が伝わらない対策とは、例えば、治具300が容器510の所定の位置P2配置された状態で、治具300の溝部330と正極端子521及び負極端子522との間に断熱材を設けることである。つまり、治具300は、溝部330の表面に沿って設けられた断熱材を有していてもよい。
【0057】
次に、治具300を蓄電素子500の容器510の所定の位置P2に配置した状態で、複数の吹出部210〜240からシールドガスを供給した場合のシールドガスの流れについて、図6を用いて説明する。
【0058】
図6は、実施の形態に係る図1における製造装置のVI−VI断面図のうちの治具周辺の一部を拡大した図である。
【0059】
図6に示すように、Y軸方向に対向して配置される2つの吹出部210、220は、Y軸方向で溶接対象部分530を挟んだ状態で、溶接対象部分530に向けてシールドガスを供給する。つまり、2つの吹出部210、220は、互いに異なる2方向から2つの溶接対象部分に向けてシールドガスを供給する。具体的には、蓄電素子500のY軸方向マイナス側に配置される吹出部210は、溶接対象部分530のうちのY軸方向マイナス側の一部である長辺部分531に向けてシールドガスを供給する。また、蓄電素子500のY軸方向プラス側に配置される吹出部220は、溶接対象部分530のうちのY軸方向プラス側の一部である長辺部分532に向けてシールドガスを供給する。
【0060】
また、2つの吹出部210、220は、溶接対象部分530が形成されている蓄電素子500の容器510の上面から所定の間隔の高さの空間に対してシールドガスを供給する。具体的には、2つの吹出部210、220は、シールドガスを吹き出すための吹出口212、222の下端が容器510の上面と同じ高さになるように配置されている。一般的に、開口から吹き出されたガスの流れは、流れの幅方向に拡散するため、開口の大きさよりも大きな幅の流れとなる。つまり、開口である吹出口212、222の下端を容器510の上面と同じ高さになるように配置することで、シールドガスが容器510の上面に確実に接触しながら流れることを実現している。
【0061】
なお、図6を用いて説明した上記のことは、X軸方向に対向して配置される2つの吹出部230、240に対しても同様に言える。
【0062】
ここで、吹出部210によって供給されたシールドガスの流れF11は、長辺部分531の上方を通過した後で、治具300の壁部320の壁面A11に当たる。これにより、水平方向(Y軸方向)に沿って流れていたシールドガスの流れF11は、壁面A11に沿って、流れる方向が変更され、上方(Z軸方向プラス側)に向かう。同様に、吹出部220によって供給されたシールドガスの流れF12は、長辺部分532の上方を通過した後で、治具300の壁部320の壁面A12に当たる。これにより、水平方向(Y軸方向)に沿って流れていたシールドガスの流れF12は、壁面A12に沿って、流れる方向が変更され、上方(Z軸方向プラス側)に向かう。
【0063】
つまり、吹出部210、220から吹き出されたシールドガスは、治具300によって、流れる方向が所定の角度(本実施の形態では90度)だけ変更されて流れる。これにより、シールドガスは、少なくとも治具300のZ軸方向プラス側の端部まで治具300の表面に沿って流れる。
【0064】
また、2つの異なる方向から吹き出されたシールドガスは、治具300によって流れる方向が変更されることで、互いに同一の方向(Z軸方向プラス側)に流れる。このように、治具300は、2つの異なる方向から吹き出されたシールドガスが流れる方向を揃えることができるため、2つの異なる方向から吹き出されたシールドガスがぶつかり合うことで乱流が発生することを効果的に抑制できる。
【0065】
ここで、図6に示すように、治具300の壁部320は、Z軸方向プラス側に向かうにつれて、壁面A11及び壁面A12の間隔が短くなるように、形成されている。つまり、壁面A11、A12の一部は、シールドガスが流れるY軸方向に対して傾斜している。具体的には、壁面A11、A12の一部は、シールドガスが流れる方向に対して、当該シールドガスが流れる方向の下流側に向かうほど蓋体512から遠ざかるように傾斜している。
【0066】
また、本実施の形態では、壁面A11及び壁面A12は、Z軸方向マイナス側の部分よりもZ軸方向プラス側の部分が急峻に立設されように形成されており、Z軸方向プラス側の部分において、蓋体512に対して略直交するように形成されている。つまり、傾斜面は、湾曲した曲面であり、壁面A11及び壁面A12の内側に凸になるようにカーブしているとも言える。
【0067】
また、治具300は、容器510の所定の位置P2に配置された状態で、容器510の上面からの高さが、複数の吹出部210〜240の吹出口212、222、232、242の高さよりも高い構成である。これにより、吹出口212、222、232、242から吹き出されたシールドガスが、溶接対象部分530においてぶつかり合うことを抑制できる。
【0068】
次に、以上のように構成された治具300を用いた蓄電素子の製造方法について、図7を用いて説明する。図7は、実施の形態に係る蓄電素子の製造方法を示すフローチャートである。なお、蓄電素子500の製造方法では、既に、複数の固定部410〜440によって、蓄電素子500の位置決めが為されているものとする。
【0069】
まず、蓄電素子500の容器510の上面の所定の位置P2に治具300を配置する(S10:配置ステップ)。具体的には、容器510の溶接される2つの長辺部分531、532の間に、壁面A11、A12が形成された治具300を配置する。配置ステップS10では、治具300を2つの長辺部分531、532の間に当接させて配置することが好ましい。なお、配置ステップS10は、製造装置10が行ってもよいし、作業者(人)が行ってもよい。例えば、製造装置10が、治具300を容器510の所定の位置P2に移動させるための機構を有していれば、製造装置10が配置ステップS10を行ってもよい。
【0070】
次に、シールドガスを溶接対象部分530に向けて供給しながら、溶接対象部分530を溶接する(S20:溶接ステップ)。具体的には、複数の吹出部210〜240により、互いに異なる4方向から溶接対象部分530のうちの2つの長辺部分531、532及び2つの短辺部分533、534のそれぞれに向けてシールドガスを供給する。なお、溶接ステップS20では、溶接対象部分に供給されたシールドガスは、治具300の傾斜面(曲面)に当たることで、傾斜面に沿って流れる。そして、シールドガスが供給された状態で、溶接部100が、溶接対象部分530を溶接する。
【0071】
以上のように、本発明の実施の形態に係る蓄電素子500の製造方法によれば、溶接が行われる2つの長辺部分531、532の間に壁面が形成された治具300を配置し、2つの異なる方向からシールドガスを2つの長辺部分531、532に供給しながら、2つの長辺部分531、532を溶接する。
【0072】
つまり、2つの異なる方向から2つの長辺部分531、532に向けて供給されるシールドガスの流れF11、F12のそれぞれは、各長辺部分531、532を通過した後に、治具300の各壁面A11、A12により流れる方向が変更される。具体的には、容器510から離れる方向に向かう。つまり、治具300が2つの長辺部分531、532の間に配置されることにより、シールドガスの2つの流れF11、F12は、2つの長辺部分531、532において合流することを抑制される。このため、2つの長辺部分531、532においてシールドガスによる乱流が発生することを低減でき、2つの長辺部分531、532に安定したシールドガスの雰囲気を形成しておくことができる。よって、溶接不良の発生を低減できる。
【0073】
また、溶接ステップS20では、溶接対象部分530に供給されたシールドガスが治具300の壁面A11、A12の一部である傾斜面に沿って流れる。このため、2つの異なる方向から供給されるシールドガスの2つの流れF11、F12のそれぞれを治具300の各壁面A11、A12に沿って流れやすくすることができる。よって、乱流が発生しないように、シールドガスの2つの流れF11、F12のそれぞれが流れる方向を変更することができる。これにより、2つの長辺部分531、532に安定したシールドガスの雰囲気を形成しておくことができ、溶接不良の発生を低減できる。
【0074】
また、配置ステップS10では、治具300を容器510に当接させて配置する。このため、2つの方向から供給されるシールドガスの2つの流れF11、F12が2つの長辺部分531、532において合流することを、抑制することができる。また、溶接により容器510に生じた熱を治具300に伝導させることができるため、2つの溶接対象部分を冷却できる。
【0075】
また、溶接ステップS20では、所定の位置から2つの長辺部分531、532に向けて、照射角度を変えながらレーザビームL1を照射して、2つの長辺部分531、532を溶接する。
【0076】
従来、トーチやワークが移動する場合、シールドガスを吹き出すガスノズルをレーザヘッドなどに取り付けることにより、レーザビームの移動に合わせて、ガスノズルが追従し、溶接されている部分にシールドガスを供給していた。近年においては、レーザ溶接は、トーチやワークが移動して溶接するのではなく、例えば、ガルバノスキャナによる溶接が主流となってきている。ガルバノスキャナによる溶接の場合、内部に搭載されたミラーの動作により、レーザビームが照射される。この場合、ガスノズルをレーザビームに追従させて移動させるのは難しいため、ワークの周囲からシールドガスを供給する必要がある。
【0077】
しかしながらシールドガスをワークの周囲から供給する場合、供給するシールドガス同士がぶつかり合い、ガスの流れが乱流となっていたので、溶接箇所における溶融池のシールドが不十分となる部分が発生する場合があり、溶接品質に悪影響を与えていた。このように、2つの長辺部分531、532がレーザビームL1の走査による溶接であって、2つの異なる方向からシールドガスが供給される溶接であっても、2つの長辺部分531、532の間に治具300を配置しているため、2つの長辺部分531、532に安定したシールドガス雰囲気を形成しておくことができる。
【0078】
また、2つの長辺部分531、532に、2つの異なる方向からシールドガスを供給する2つの吹出口212、222を備える。これによれば、2つの長辺部分531、532に対してシールドガスを容易に供給できる。
【0079】
また、壁面A11、A12の一部は、シールドガスが流れる方向に対して傾斜している。このように、2つの異なる方向から供給されるシールドガスの2つの流れのそれぞれを、治具300の傾斜面に沿わせることで、当該流れの方向を変えるため、当該流れが、治具の壁面に当たることにより生じる乱流の発生を低減できる。これにより、2つの長辺部分531、532に安定したシールドガスの雰囲気を形成しておくことができ、溶接不良の発生を低減できる。
【0080】
また、容器510は、矩形状の開口を有する本体511と、開口を塞ぐ長尺板状の蓋体512と、を備え、2つの溶接対象部分は、本体511と蓋体512との矩形環状の境界部分(溶接対象部分530)のうちの互いに対向する2つの長辺部分531、532であり、治具300は、2つの長辺部分531、532の間に配置される。つまり、溶接対象部分530である本体511と蓋体512との矩形環状の境界部分のうちの対向する2つの部分において、互いの間隔が短く、かつ、それぞれの溶接距離が長い部分である2つの長辺部分531、532の間に治具を配置することになるため、2つの異なる方向から供給されるシールドガスが合流することを抑制できる。
【0081】
また、壁面A11、A12の一部は、シールドガスが流れる方向に対して、当該シールドガスが流れる方向の下流側に向かうほど容器510から遠ざかるように傾斜している。つまり、シールドガスが流れる方向を、容器510から遠ざかる方向に変更することができるため、2つの異なる方向から供給されるシールドガスが容器510の2つの長辺部分531、532において合流することを抑制できる。
【0082】
以上、本発明の実施の形態に係る蓄電素子500の製造方法及び蓄電素子500の製造装置10について説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。つまり、今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0083】
例えば、上記実施の形態では、Y軸方向に対して傾斜した面を含む壁面A11、A12を有する治具300を採用しているが、これに限らずに、図8〜10に示すように、Y軸方向に対して傾斜した面を含む壁面A21、A22に、さらに、X軸方向に対して傾斜した面を含む壁面A23、A24を有する治具300aを採用してもよい。
【0084】
図8は、変形例に係る蓄電素子の製造装置の外観を示す図である。図9は、図8における製造装置のIX−IX断面図のうちの治具周辺の一部を拡大した図である。図10は、図8における製造装置のX−X断面図のうちの治具周辺の一部を拡大した図である。なお、図8の製造装置10aの治具300a以外の構成は、上記で説明した製造装置10の治具300以外の構成と同様であるため同じ符号を付し、説明を省略する。
【0085】
図9に示すように、治具300aは、Z軸方向プラス側に向かうにつれて、壁面A21及び壁面A22の間隔が短くなるように、形成されている。つまり、治具300aは、シールドガスが流れるY軸方向に対して傾斜した面を有する。また、図10に示すように、治具300aは、Z軸プラス側に向かうにつれて、壁面A23及び壁面A24の間隔が短くなるように、形成されている。つまり、治具300aは、シールドガスが流れるX軸方向に対して傾斜した面を有する。
【0086】
このような外形を有する治具300aを用いると、4方向から溶接対象部分530に供給されるシールドガスは、図9及び図10に示すように流れる。
【0087】
図9に示すように、吹出部210によって供給されたシールドガスの流れF21は、長辺部分531の上方を通過した後で、治具300aの壁面A21に当たる。これにより、水平方向(Y軸方向)に沿って流れていたシールドガスの流れF21は、壁面A21に沿って、流れる方向が変更され、上方(Z軸方向プラス側)に向かう。同様に、吹出部220によって供給されたシールドガスの流れF22は、長辺部分532の上方を通過した後で、治具300aの壁面A22に当たる。これにより、水平方向(Y軸方向)に沿って流れていたシールドガスの流れF22は、壁面A22に沿って、流れる方向が変更され、上方(Z軸方向プラス側)に向かう。
【0088】
また、図10に示すように、吹出部230によって供給されたシールドガスの流れF23は、短辺部分533の上方を通過した後で、治具300aの壁面A23に当たる。これにより、水平方向(X軸方向)に沿って流れていたシールドガスの流れF23は、壁面A23に沿って上方(Z軸方向プラス側)に向かう。同様に、吹出部240によって供給されたシールドガスの流れF24は、短辺部分534の上方を通過した後で、治具300aの壁面A24に当たる。これにより、水平方向(X軸方向)に沿って流れていたシールドガスの流れF24は、壁面A24に沿って上方(Z軸方向プラス側)に向かう。
【0089】
つまり、吹出部210、220、230、240から吹き出されたシールドガスは、治具300aによって、流れる方向が所定の角度(本実施の形態では90度)だけ変更されて流れる。これにより、シールドガスは、少なくとも治具300aのZ軸方向プラス側の端部まで治具300aの表面に沿って流れる。
【0090】
また、4つの異なる方向から吹き出されたシールドガスは、治具300aによって流れる方向が変更されることで、互いに同一の方向(Z軸方向プラス側)に流れる。このように、治具300aは、4つの異なる方向から吹き出されたシールドガスが流れる方向を揃えることができるため、4つの異なる方向から吹き出されたシールドガスがぶつかり合うことで乱流が発生することを効果的に抑制できる。
【0091】
このように、異なる4方向に対向する壁面A21〜A24を有する治具300aを用いることで、異なる4方向から供給されるシールドガスの流れを上方に向けることができる。このため、シールドガス同士が溶接対象部分530において合流することを抑制でき、溶接対象部分において乱流が発生することを低減できる。
【0092】
また、上記実施の形態に係る蓄電素子の製造方法は、配置ステップS10及び溶接ステップS20の2ステップで構成されるが、さらに、治具300、300aを冷却する冷却ステップを含んでもよい。例えば、治具のY軸方向の壁面に凹凸を設けることにより、熱伝達特性を向上させ、シールドガスとの熱交換がより行われるように構成し、シールドガスにより冷却されるようにしてもよい。具体的には、シールドガスが流れる方向に沿った溝を設けることにより、熱伝達特性を向上させた治具を採用してもよい。また、製造装置に治具を保持する部位がある場合には、治具を保持する部位に水などの冷媒を流すことにより、治具を冷却してもよい。また、例えば、治具自体に水などの冷媒を流すための流路を形成して、冷媒により治具を冷却してもよい。よって、冷却ステップは、溶接ステップが行われているときに、行われてもよいし、別のタイミングで行われてもよい。
【0093】
このようにさらに治具を冷却することにより、治具に熱伝導された、溶接により生じた熱を外部に放出することができ、治具が繰り返し使用されることにより高温になることを抑制できる。このため、蓄電素子の容器の溶接の際に、高温の治具が容器に当接することにより蓄電素子に悪影響を与えることを抑制できる。また、治具が温度変化により劣化することを抑制できるため、治具の寿命を延ばすことができる。
【0094】
また、上記実施の形態では、治具300は、容器510の所定の位置P2に配置された状態で、正極端子521及び負極端子522の両方を内包する溝部330が形成されているが、溝部330に限らずに、正極端子521及び負極端子522のそれぞれを内包する2つの凹部が形成されていてもよい。また、正極端子521及び負極端子522だけでなく、蓄電素子の蓋部から外方に向かって突出している部位があれば、当該部位を内包するための溝部または凹部が形成されていてもよい。
【0095】
また、上記実施の形態では、蓄電素子500の容器510の溶接される溶接対象部分530は、本体511と蓋体512との境界部分であるが、これに限らずに、容器がその他の部位において溶接される場合にはその他の部位にも本発明の蓄電素子の製造方法及び蓄電素子の製造装置を適用できる。例えば、本発明は、容器の側面を形成するために、溶接を行う場合にも適用できるし、容器の底面を形成するために、溶接を行う場合にも適用できる。
【0096】
また、上記実施の形態では、4つの吹出部210〜240がそれぞれ、溶接対象部分530の4つの部分531〜534に対してシールドガスを供給することにより、溶接対象部分530にシールドガスの雰囲気を形成しているが、4つの吹出部210〜240によりシールドガスを供給しなくてもよい。例えば、2つの吹出部210、220のみが、溶接対象部分530のうちの2つの長辺部分531、532に対してシールドガスを供給する構成であってもよい。つまり、溶接ステップでは、2つの溶接対象部分に対応して、2つの異なる方向からシールドガスを2つの溶接対象部分に供給しながら、2つの溶接対象部分を溶接すればよい。
【0097】
また、上記実施の形態では、溶接対象部分530の2つの長辺部分531、532は、所定の間隔をおいて平行であるが、所定の間隔をおいて離れていれば平行でなくてもよい。また、溶接対象部分530は、略長方形状であるが、これに限らずに、長円形状、楕円形状、円形状であってもよい。
【0098】
また、上記実施の形態では、蓋体512が本体511の開口の内壁面と対向するように配置され、容器510の上面に溶接対象部分530が形成される構成であり、上方向(Z軸方向)からレーザビームを走査することにより溶接しているが、これに限らない。例えば、蓋体が本体部の上端の上に配置され、水平方向(X軸方向及びY軸方向)からレーザビームを照射することにより溶接する容器に適用してもよい。なお、この場合は、レーザビームを照射する溶接部が容器の水平方向側方の複数に設けることで、レーザビームを複数の方向から走査することが考えられる。また、レーザビームを走査する方式でなくてもよく、レーザビームを照射するレーザヘッドを移動させて溶接する方式にも適用できるし、また、容器が固定されている台座自体を動かすことにより溶接する方式にも適用できる。また、容器の蓋体の側方の全体に上方向から照射されたレーザビームを水平方向に反射させるためのミラーを設けておけば、上記実施の形態の上方向からレーザビームを照射する方式でも実現できる。
【0099】
また、上記実施の形態及びその変形例では、治具300、300aの壁面A11、A12、A21〜A24は、シールドガスの流れ方向に対して傾斜しているが、傾斜していなくてもよい。つまり、異なる方向から供給されるシールドガス同士が溶接対象部分において合流されることを抑制できる治具であれば、シールドガスの流れ方向に対して垂直な壁面を有する治具であってもよい。
【0100】
また、上記実施の形態及びその変形例では、複数の吹出部210〜240は、蓄電素子500の容器510の溶接対象部分530に向けて、X軸方向の両側及びY軸方向の両側からX軸方向またはY軸方向に沿った方向にシールドガスを供給するとしたが、X軸方向またはY軸方向に沿った方向にシールドガスを供給しなくてもよい。
【0101】
例えば、複数の吹出部210〜240は、溶接対象部分530に向けて、X軸方向の両側及びY軸方向の両側、かつ、Z軸方向プラス側の位置(つまり斜め上方)からシールドガスを供給してもよい。また、複数の吹出部210〜240は、例えば、溶接対象部分530に向けて、X軸方向の両側及びY軸方向の両側、かつ、Z軸方向マイナス側(つまり斜め下方)からシールドガスを供給してもよい。
【0102】
また、複数の吹出部210〜240のうち2つの吹出部210、220は、例えば、溶接対象部分530の長辺部分531、532が延びる方向に対して斜めに交差する方向(斜め横方向)からシールドガスを供給してもよい。また、同様に、複数の吹出部210〜240のうちの残りの2つの吹出部230、240は、例えば、溶接対象部分530の短辺部分533、534が延びる方向に対して斜めに交差する方向(斜め横方向)からシールドガスを供給してもよい。
【0103】
上記のように、吹出部210〜240が溶接対象部分530に対して斜め上方、斜め下方、または斜め横方向からシールドガスを供給する場合であっても、治具300、300aは、異なる方向から供給されるシールドガス同士が溶接対象部分530において合流されることを抑制できる。
【0104】
また、上記実施の形態及びその変形例では、治具300、300aは、中実の部材であるが、Y軸方向の両側に面を有する部材であれば、中実の部材でなくてもよいし、溶接対象部分530の2つの長辺部分531、532のそれぞれに対応した壁面を有する2つの壁が形成されている部材であってもよい。
【0105】
また、上記実施の形態及びその変形例では、治具300、300aは、蓄電素子500の正極端子521及び負極端子522を覆うような構成であるが、これに限らない。例えば、図11に示す蓄電素子500aのように、容器510のY軸方向における幅に対して大きな割合を占める正極端子521a及び負極端子522aを備える蓄電素子500aの場合には、正極端子521a及び負極端子522aを覆うように治具を構成してしまうと、溶接対象部分530に治具が干渉してしまいレーザ溶接することができない。このため、このような正極端子521a及び負極端子522aに対応させるために、治具300に形成した溝部330の代わりに、正極端子521a及び負極端子522aを収納するための2つの溝部330bが形成された基部310bを有する治具300bを採用してもよい。なお、この場合の2つの溝部330bは、その両端が治具300bのY軸方向において開放されている形状である。このような形状の治具300bであっても、治具300bには、シールドガスを遮蔽するための壁面A31、A32が形成されているため、シールドガスの2つの流れが2つの長辺部分531、532において合流することを抑制できる。なお、図11は、変形例に係る治具を、蓄電素子の所定の位置に配置した状態の外観を示す斜視図である。
【0106】
また、上記実施の形態及びその変形例が備える各構成要素を任意に組み合わせて構築される形態も、本発明の範囲内に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明は、溶接対象部分に安定したシールドガスの雰囲気を形成しておくことができ、溶接不良の発生を低減できる蓄電素子の製造方法などとして有用である。
【符号の説明】
【0108】
10、10a 製造装置
100 溶接部
210、220、230、240 吹出部
211、221、231、241 導入口
212、222、232、242 吹出口
300、300a、300b 治具
310、310b 基部
320 壁部
330、330b 溝部
410、420、430、440 固定部
500、500a 蓄電素子
510 容器
511 本体
511a 段差部
512 蓋体
521、521a 正極端子
522、522a 負極端子
530 溶接対象部分
531、532 長辺部分
533、534 短辺部分
A11、A12、A21〜A24、A31、A32 壁面
F11、F12、F21、F22 シールドガスの流れ
P1、P2 所定の位置
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11