(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
カルボキシル基を0.2〜4mmol/g有し、58%チオシアン酸ナトリウム水溶液への溶解性が95%以上であり、且つ、ジメチルホルムアミドへの溶解性が50%以下であることを特徴とする改質アクリロニトリル系繊維。
カルボキシル基を0.2〜4mmol/g有し、58%チオシアン酸ナトリウム水溶液への溶解性が95%以上であり、且つ、1g/L炭酸ナトリウム水溶液への溶解性が5%以下であることを特徴とする改質アクリロニトリル系繊維。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、従来、アクリル繊維に吸湿性を付与した繊維は知られているが、製造工程が多く生産性が低いものであったり、あるいは吸湿性を高めることが難しいものであったりした。本発明は、かかる従来技術の現状に鑑みて創案されたものであり、その目的は、従来よりも簡便な工程で生産することができる吸湿性アクリロニトリル系繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上述の目的を達成するために鋭意検討を進めた結果、アクリロニトリル系重合体を溶解した紡糸原液をノズルから紡出後、凝固、水洗、延伸の各工程を経て得られた未乾燥繊維を加水分解することにより、架橋処理を施さずとも実用的な繊維物性を保持しつつ、改質を有するアクリロニトリル系繊維が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
即ち、本発明は以下の手段により達成される。
(1)カルボキシル基を0.2〜4.0mmol/g有し、58%チオシアン酸ナトリウム水溶液への溶解性が95%以上であり、且つ、ジメチルホルムアミドへの溶解性が50%以下であることを特徴とする改質アクリロニトリル系繊維。
(2)カルボキシル基を0.2〜4.0mmol有し、58%チオシアン酸ナトリウム水溶液への溶解性が95%以上であり、且つ、1g/L炭酸ナトリウム水溶液への溶解性が5%以下であることを特徴とする改質アクリロニトリル系繊維。
(3)20℃×65%RHでの飽和吸湿率が3%以上であることを特徴とする(1)または(2)に記載の改質アクリロニトリル系繊維。
(4)カルボキシル基が繊維全体にわたって存在することを特徴とする(1)〜(3)いずれかに記載の改質アクリロニトリル系繊維。
(5)アクリロニトリル系重合体を溶解した紡糸原液をノズルから紡出後、凝固、水洗、延伸の各工程を経て得られた
水分率が20〜250%である未乾燥繊維を加水分解することを特徴とする改質アクリロニトリル系繊維の製造方法。
(
6)(1)〜(4)のいずれかに記載の改質アクリロニトリル系繊維を含有する繊維構造体。
【発明の効果】
【0009】
本発明の特筆すべき効果は、アクリロニトリル系重合体を溶解した紡糸原液をノズルから紡出後、凝固、水洗、延伸の各工程を経て得られた未乾燥繊維を加水分解することにより、架橋処理を施さずとも実用的な繊維物性を保持しつつ、吸湿性を有するアクリロニトリル系繊維が得られることを見出した点である。該繊維は上記製造方法により、通常の繊維製造設備による連続的生産が可能であり、生産性の高いものである。また、該繊維は、吸湿性のみならず、後述するように、消臭性、難燃性、抗菌性、抗ウイルス性、抗アレルゲン性などの特性を発現させることも可能であるため、様々な製品、用途に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の改質アクリロニトリル系繊維は、アクリロニトリル系重合体を溶解した紡糸原液をノズルから紡出後、凝固、水洗、延伸の各工程を経て得られた未乾燥繊維を加水分解することにより得ることができるものである。以下に、本発明の改質アクリロニトリル系繊維を得る方法について詳述する。
【0011】
まず、原料となるアクリロニトリル系重合体は、重合組成としてアクリロニトリルを好ましくは40重量%以上、より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは85重量%以上含有するものである。従って、該アクリロニトリル系重合体としては、アクリロニトリル単独重合体のほかに、アクリロニトリルと他のモノマーとの共重合体も採用できる。共重合体における他のモノマーとしては、特に限定はないが、ハロゲン化ビニル及びハロゲン化ビニリデン;(メタ)アクリル酸エステル(なお(メタ)の表記は、該メタの語の付いたもの及び付かないものの両方を表す);メタリルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸等のスルホン酸基含有モノマー及びその塩、アクリルアミド、スチレン、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0012】
次に、かかるアクリロニトリル系重合体を用いて、湿式紡糸により繊維化を行うが、溶剤として、ロダン酸ソーダ等の無機塩を用いた場合で説明すれば以下のようになる。まず、上述のアクリロニトリル系重合体を溶剤に溶解し紡糸原液を作製する。該紡糸原液をノズルから紡出後、凝固、水洗、延伸の各工程を経て、延伸後の未乾燥繊維(以下、ゲル状アクリル繊維ともいう)の水分率を20〜250重量%、好ましくは25〜130重量%、より好ましくは30〜100重量%とする。
【0013】
ここで、ゲル状アクリル繊維の水分率が20重量%未満の場合には、後述する加水分解処理において薬剤が繊維内部に浸透せず、カルボキシル基を繊維全体にわたって生成させることができなくなる場合がある。250重量%を超える場合には繊維内部に水分を多く含み、繊維強度が低くなりすぎるため、可紡性が低下し好ましくない。繊維強度の高さをより重視する場合には、25〜130重量%の範囲内とするのが望ましい。また、ゲル状アクリル繊維の水分率を上記範囲内に制御する方法は多数あるが、例えば、凝固浴温度としては−3℃〜15℃、好ましくは−3℃〜10℃、延伸倍率としては5〜20、好ましくは7〜15倍程度が望ましい。
【0014】
かかるゲル状アクリル繊維は、次に加水分解処理を施される。該処理により、ゲル状アクリル繊維中のニトリル基が加水分解され、カルボキシル基が生成される。
【0015】
かかる加水分解処理の手段としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アンモニア等の塩基性水溶液、あるいは、硝酸、硫酸、塩酸等の水溶液を含浸、または浸漬した状態で加熱処理する手段が挙げられる。具体的な処理条件としては、上述したカルボキシル基の量の範囲などを勘案し、処理薬剤の濃度、反応温度、反応時間等の諸条件を適宜設定すればよいが、一般的には、0.5〜20重量%、好ましくは1.0〜15重量%の処理薬剤を含浸、絞った後、湿熱雰囲気下で、温度100〜140℃、好ましくは110〜135℃で10〜60分処理する条件の範囲内で設定することが工業的、繊維物性的にも好ましい。なお、湿熱雰囲気とは、飽和水蒸気または過熱水蒸気で満たされた雰囲気のことを言う。
【0016】
上述のようにして加水分解処理を施された繊維中には、加水分解処理に用いられたアルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アンモニア等の種類に応じたアルカリ金属やアンモニウムなどのカチオンを対イオンとする塩型カルボキシル基が生成しているが、引き続き、必要に応じてカルボキシル基の対イオンを変換する処理を行ってもよい。硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩などの金属塩水溶液によるイオン交換処理を行えば、所望の金属イオンを対イオンとする塩型カルボキシル基とすることができる。さらに、水溶液のpHや金属塩濃度・種類を調整することで、異種の対イオンを混在させたり、その割合を調整したりすることも可能である。
【0017】
以上のようにして本発明にかかる改質アクリロニトリル系繊維が得られるが、必要に応じて、水洗、乾燥を行ってもよい。以上、ロダン酸ソーダ等の無機塩を溶剤に用いた場合について説明してきたが、有機溶剤を用いる場合でも上記条件は同じである。ただし、溶剤の種類が異なっているので、凝固浴温度については、その溶剤に適した温度を選択して、ゲル状アクリル繊維の水分率を上記範囲内に制御する。
【0018】
上述のようにして得られる本発明の改質アクリロニトリル系繊維は、これまでにない特性の組み合わせを有している。すなわち、カルボキシル基を0.2〜4.0mmol/g有し、58%チオシアン酸ナトリウム水溶液への溶解性が95%以上であることに加え、ジメチルホルムアミドへの溶解性が50%以下あるいは、1g/L炭酸ナトリウム水溶液への溶解性が5%以下という特徴を有するものである。
【0019】
上述の本発明の改質アクリロニトリル系繊維の特性から該繊維の構造は以下のようなものではないかと推定される。すなわち、アクリロニトリル系重合体の良溶媒である58%チオシアン酸ナトリウム水溶液への溶解性が95%以上という特性から、該繊維を構成するアクリロニトリル系重合体においては、共有結合による分子間架橋構造は存在しないと考えられる。
【0020】
一方、同じくアクリロニトリル系重合体の良溶媒であるジメチルホルムアミドへの溶解性が50%以下であるという特性には、加水分解により導入されたカルボキシル基による親水性上昇の影響が考えられる。しかし、アクリロニトリル系重合体においてメタアクリル酸などのカルボキシル基を含有する単量体を共重合した場合にはジメチルホルムアミドに溶解できることから、上記特性は単にカルボキシル基が存在することによるものとは考えにくい。本発明の製造工程においてはゲル状アクリル繊維を加水分解処理することから、繊維表面から順次加水分解するのではなく、薬剤が繊維内奥部にも浸透し、繊維全体にわたって加水分解するものと考えられる。ここで、さらに微視的に見ると、一般にアクリル繊維にはアクリロニトリル系重合体が配向している結晶部分と構造が乱れている非晶部分とが混在している。このため、結晶部分はその外側から加水分解されるが、非晶部分は全体的に加水分解されると考えられる。この結果、加水分解後においては、微視的には、結晶部分ではその一部が加水分解を受けないままニトリル基濃度の高い部分として残り、非晶部分はカルボキシル基濃度が高い部分になるものと考えられる。そして、このカルボキシル基濃度が高い部分の親水性が特に高いため、ジメチルホルムアミドへの溶解性を下げているものと推測される。
【0021】
また、1g/L炭酸ナトリウム水溶液への溶解性が5%以下という特性は、本発明の繊維を構成する重合体がカルボキシル基を有するものでありながらアルカリ性水溶液に溶出しにくいことを示している。本発明の繊維においては上述のようにニトリル基濃度の高い部分が繊維全体にわたって存在していると考えられ、ニトリル基濃度の高い部分は耐アルカリ性があるため、1g/L炭酸ナトリウム水溶液への溶解性を低下させるものと推測される。
【0022】
以上より、本発明の改質アクリロニトリル系繊維の構造は、共有結合による分子間架橋構造を有さず、カルボキシル基濃度が高い部分とニトリル基濃度の高い部分が繊維全体にわたって存在している構造であると推測される。
【0023】
なお、上述したことから分かるように、本発明においては、ゲル状アクリル繊維を加水分解処理することにより上述のような特性を有する繊維が得られている。ゲル状アクリル繊維、すなわち延伸後の未乾燥繊維を用いず、乾燥後のアクリル繊維に加水分解処理を施した場合には、薬剤が繊維内奥部には浸透せず、繊維表面から順次加水分解することになるため、繊維表層部にカルボキシル基が多く、繊維内奥部にはカルボキシル基が少ない構造が誘導される。このような構造の繊維は、繊維表層部の水への溶出等が起こり、実用に耐えないものとなる。
【0024】
また、本発明の改質アクリロニトリル系繊維において、58%チオシアン酸ナトリウム水溶液への溶解性が95%以上という特性は、従来の架橋アクリレート系吸湿性繊維では不可能であった溶解による再利用の可能性を有することを示している。ジメチルホルムアミドへの溶解性が50%以下であるという特性は、耐有機溶剤性を有することを示している。1g/L炭酸ナトリウム水溶液への溶解性が5%以下という特性は、共有結合による分子間架橋構造を有さず、親水性の高いカルボキシル基を多く有する繊維でありながら、洗濯や染色工程におけるソーピング処理にも耐えうることを示している。
【0025】
次に、本発明の改質アクリロニトリル系繊維のカルボキシル基の量としては、0.2〜4.0mmol/gであり、好ましくは0.5〜3.5mmol/g、より好ましくは1.0〜3.5mmol/gである。カルボキシル基の量が下限に満たない場合には、十分な吸湿性能が得られないことがあり、上限を超える場合には、繊維の水膨潤性が高くなりすぎ実用上好ましくない場合がある。
【0026】
カルボキシル基の状態としては、吸湿性能を重視する場合には、対イオンがH以外のカチオンであることが好ましい。この場合、カチオンの例としては、Li、Na、K等のアルカリ金属、Be、Ca、Ba等のアルカリ土類金属、Cu、Zn、Al、Mn、Ag、Fe、Co、Ni等の金属、NH
4、アミン等の陽イオンなどが挙げられ、複数種類の陽イオンが混在していてもよい。中でも、Li,Na,K,Mg,Ca,Zn等が好適である。
【0027】
また、上記の場合においては、酢酸、イソ吉草酸等の酸性ガス、ホルムアルデヒド等のアルデヒドに対する優れた消臭性能も発現できる。また、MgやCaイオンであれば難燃性能が高く、AgやCuイオンであれば抗菌性能に関して高い効果を得ることができる。
【0028】
一方、カルボキシル基の状態として、対イオンがH、すなわちCOOHの形であれば、特に、アンモニア、トリエチルアミン、ピリジン等のアミン系ガス等の消臭性能や抗ウイルス性能、抗アレルゲン性能に関して優れた性能が発現する。
【0029】
本発明の改質アクリロニトリル系繊維を吸湿性繊維として用いる場合には、20℃、相対湿度65%雰囲気下での飽和吸湿率として、好ましくは3重量%、より好ましくは5重量%、さらに好ましくは10重量%以上であることが望ましい。
【0030】
また、本発明の改質アクリロニトリル系繊維においては、カルボキシル基が繊維全体にわたって存在していることが望ましい。ここで、繊維全体にわたって存在しているとは、後述する測定方法によって測定される繊維断面におけるマグネシウム元素の含有割合の変動係数CVが50%以下であること意味する。本発明の改質アクリロニトリル系繊維においては、上述のようにカルボキシル基濃度が高い部分とニトリル基濃度の高い部分が繊維全体にわたって存在していることで、カルボキシル基の吸湿・吸水による繊維の脆化を抑制し、架橋構造を有さずとも実用に耐えうる繊維物性を有することができると考えられる。
【0031】
上述してきた本発明の改質アクリロニトリル系繊維は単独で又は、他の素材と組み合わせることにより多くの用途で有用な繊維構造体として利用できる。他の素材としては特に制限はなく、公用されている天然繊維、有機繊維、半合成繊維、合成繊維が用いられ、さらには無機繊維、ガラス繊維等も用途によっては採用し得る。具体的な例としては、綿、麻、絹、羊毛、ナイロン、レーヨン、ポリエステル、アクリル繊維などを挙げることができる。
【0032】
該繊維構造体の外観形態としては、糸、不織布、紙状物、シート状物、積層体、綿状体(球状や塊状のものを含む)等がある。該構造物内における本発明の繊維の含有形態としては、他素材との混合により、実質的に均一に分布させたもの、複数の層を有する構造の場合には、いずれかの層(単数でも複数でも良い)に集中して存在せしめたものや、夫々の層に特定比率で分布せしめたもの等がある。
【0033】
上記に例示した繊維構造体の外観形態や含有形態、該繊維構造体を構成する他の素材、および該繊維構造体と組み合わせる他の部材をいかなるものとするかは、最終製品の種類(例えば、衣料品、フィルター、カーテンやカーペット、寝具やクッション、インソールなど)に応じて要求される機能、特性、形状や、かかる機能を発現することへの本発明の改質アクリロニトリル系繊維の寄与の仕方等を勘案して適宜決定される。
【実施例】
【0034】
以下に本発明の理解を容易にするために実施例を示すが、これらはあくまで例示的なものであり、本発明の要旨はこれらにより限定されるものではない。なお、実施例中、部及び百分率は特に断りのない限り重量基準で示す。
【0035】
<全カルボキシル基量の測定>
試料に1mol/l塩酸水溶液を添加してpH2とした後、水洗、乾燥した試料約1gを精秤し(W1[g])、これに200mlの水を加え、0.1mol/l水酸化ナトリウム水溶液で常法に従って滴定曲線を求める。該滴定曲線からカルボキシル基に消費された水酸化ナトリウム水溶液消費量(V1[ml])を求め、次式によってカルボキシル基量を算出する。
カルボキシル基量[mmol/g]=0.1×V1/W1
【0036】
<チオシアン酸ナトリウム水溶液への溶解性の測定>
乾燥した試料約1gを精秤し(W2[g])、100mlの58%チオシアン酸ナトリウム水溶液を加え、80℃で1時間浸漬させた後にろ過、水洗し、乾燥する。乾燥後の試料を精秤し(W3[g])次式によって溶解性を算出する。
溶解性[%]=(1−W3/W2)×100
【0037】
<ジメチルホルムアミドへの溶解性の測定>
溶液をDMFに、浸漬条件を30℃で1時間に変更すること以外は<チオシアン酸ナトリウム水溶液への溶解性の測定>と同様にして溶解性を算出する。
【0038】
<炭酸ナトリウム水溶液への溶解性の測定>
溶液を1g/Lの炭酸ナトリウム水溶液に、浸漬条件を95℃で30分に変更すること以外は<チオシアン酸ナトリウム水溶液への溶解性の測定>と同様に溶解性を算出する。
【0039】
<飽和吸湿率の測定>
試料を熱風乾燥機で105℃、16時間乾燥して重量を測定する(W4[g])。次に該試料を20℃×65%RHの条件に調節した恒温恒湿器に24時間入れておく。このようにして吸湿させた試料の重量を測定する。(W5[g])。以上の測定結果から、次式によって算出する。
飽和吸湿率[%]=(W5−W4)/W4×100
【0040】
<繊維構造内のカルボキシル基の分布状態>
繊維試料を、繊維に含まれるカルボキシル基量の2倍に相当する硝酸マグネシウムを溶解させた水溶液に50℃×1時間浸漬することによりイオン交換処理を実施し、水洗、乾燥することにより、カルボキシル基の対イオンをマグネシウムとする。マグネシウム塩型とした繊維試料を、エネルギー分散型X線分光器(EDS)により繊維断面の外縁から中心にかけて概ね等間隔で10点の測定点を選び、各測定点におけるマグネシウム元素の含有割合を測定する。得られた各測定点の数値から次式により変動係数CV[%]を算出する。
変動係数CV[%]=(標準偏差/平均値)×100
【0041】
<延伸後の未乾燥繊維の水分率の測定>
延伸後の未乾燥繊維を純水中に浸漬した後、遠心脱水機(国産遠心機(株)社製TYPE
H−770A)で遠心加速度1100G(Gは重力加速度を示す)で2分間脱水する。脱水後重量を測定(W6とする)後、該未乾燥繊維を120℃で15分間乾燥して重量を測定(W7とする)し、次式により計算する。
延伸後の未乾燥繊維の水分率(%)=(W6−W7)/W6×100
【0042】
<実施例1>
アクリロニトリル90%及びアクリル酸メチル10%からなるアクリロニトリル系重合体10部を48%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した紡糸原液を、−2.5℃の凝固浴に紡出し、凝固、水洗、12倍延伸して水分率が35%の原料のゲル状アクリル繊維を得た。該繊維を1.0%の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬し、絞った後に、湿熱雰囲気中で、123℃×25分間加水分解処理を行い、水洗、乾燥して、本発明の改質アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0043】
<実施例2〜6>
実施例1の処方において、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を、実施例2では2.5%、実施例3では7.5%、実施例4では10%、実施例5では15%、実施例6では20%に変更すること以外は同様にして、本発明の改質アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0044】
<実施例7〜9>
実施例3の処方において、7.5%の水酸化ナトリウム水溶液の代わりに、実施例7では7.5%の水酸化カリウム水溶液、実施例8では7.5%の水酸化リチウム水溶液、実施例9では7.5%の炭酸ナトリウム水溶液を用いること以外は同様にして、本発明の改質アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0045】
<実施例10>
実施例1の処方において、凝固浴温度を10℃として、ゲル状アクリル系繊維の水分率を67%に調整すること、および、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を3.8%に変更すること以外は同様にして、本発明の改質アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0046】
<実施例11、12>
実施例3の処方において、加水分解処理の温度条件を、実施例11では113℃とし、実施例12では135℃とすること以外は同様にして、本発明の改質アクリロニトリル系繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0047】
<比較例1>
実施例1の処方で得たゲル状アクリル繊維について、水酸化ナトリウム水溶液による加水分解処理を行う代わりに、湿熱雰囲気中で、123℃×25分間加熱処理を行い、カルボキシル基を持たない繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0048】
<比較例2>
アクリロニトリル92.5%及びメタクリル酸7.5%からなるアクリロニトリル系重合体10部を48%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した紡糸原液を、常法に従って紡出し、凝固、水洗、延伸した後、乾燥してカルボキシル基を有するアクリル繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0049】
<比較例3>
アクリロニトリル85%及びメタクリル酸15%からなるアクリロニトリル系重合体10部を48%のチオシアン酸ナトリウム水溶液90部に溶解した紡糸原液を、常法に従って紡出し、凝固、水洗、延伸した後、乾燥してカルボキシル基を有するアクリル繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0050】
<比較例4>
比較例1で得られたカルボキシル基を持たない繊維を0.5%ヒドラジンと2%水酸化ナトリウムを含有する水溶液に含浸させ、115℃×2時間加熱処理を行い、架橋構造とカルボキシル基を有する繊維を得た。得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示すように、本発明の製造方法により得られる実施例1〜12の改質アクリロニトリル系繊維は、カルボキシル基を0.2〜4.0mmol/g有し、58%チオシアン酸ナトリウム水溶液への溶解性が95%以上であることに加え、ジメチルホルムアミドへの溶解性が50%以下、あるいは1g/L炭酸ナトリウム水溶液への溶解性が5%以下という特徴を有するものである。
【0053】
また、カルボキシル基を有する単量体を共重合した比較例2および3の繊維は、ジメチルホルムアミドには完全に溶解し、炭酸ナトリウム水溶液にも溶解性を有する。これに対して、同程度のカルボキシル基量を有する実施例3および4の本発明の改質アクリロニトリル系繊維は、ジメチルホルムアミドにも、炭酸ナトリウム水溶液にも溶解しにくいことが分かる。