【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明:
鉛蓄電池であって、負極板と、正極板と、電解液とを備え、負極板の負極電極材料が、無機硫酸塩と防縮剤とを含有し、無機硫酸塩は、111結晶面を持ち、防縮剤は無機硫酸塩に吸着されていることを特徴とする。
第2の発明:
防縮剤の無機硫酸塩への吸着量は、15g/100g以上であることを特徴とする第1の発明に記載の鉛蓄電池。
第3の発明:
鉛蓄電池であって、負極板と、正極板と、電解液とを備え、負極板の負極電極材料が、無機硫酸塩と防縮剤とを含有し、無機硫酸塩は、平均二次粒子径が3.8μm以上であることを特徴とする。
第4の発明:
負極電極材料中の防縮剤が有機防縮剤であることを特徴とする、第1〜3の発明のいずれかに記載の鉛蓄電池。
第5の発明:
防縮剤の無機硫酸塩への吸着量は、15g/100g以上で21g/100g以下であることを特徴とする、第1〜4の発明のいずれかに記載の鉛蓄電池。
第6の発明:
防縮剤の無機硫酸塩への吸着量は、17g/100g以上で21g/100g以下であることを特徴とする、第1〜4の発明のいずれかに記載の鉛蓄電池。
第7の発明:
防縮剤の無機硫酸塩への吸着量は、15g/100g以上で19g/100g以下であることを特徴とする、第1〜4の発明のいずれかに記載の鉛蓄電池。
第8の発明:
防縮剤の無機硫酸塩への吸着量は、17g/100g以上で19g/100g以下であることを特徴とする、第1〜4の発明のいずれかに記載の鉛蓄電池。
第9の発明:
負極電極材料中の無機硫酸塩の含有量が0.4mass%以上で1.6mass%以下であることを特徴とする、第1〜8の発明のいずれかに記載の鉛蓄電池。
第10の発明:
負極電極材料中の無機硫酸塩の含有量が0.4mass%以上で1.5mass%以下であることを特徴とする、第1〜8の発明のいずれかに記載の鉛蓄電池。
第11の発明:
負極電極材料中の無機硫酸塩の含有量が0.4mass%以上で1.2mass%以下であることを特徴とする、第1〜8の発明のいずれかに記載の鉛蓄電池。
第12の発明:
負極電極材料中の無機硫酸塩の含有量が0.6mass%以上で1.0mass%以下であることを特徴とする、第1〜8の発明のいずれかに記載の鉛蓄電池。
第13の発明:
負極電極材料中の防縮剤の含有量が0.03mass%以上で0.25mass%以下であることを特徴とする、第1〜12の発明のいずれかに記載の鉛蓄電池。
第14の発明:
負極電極材料中の防縮剤の含有量が0.05mass%以上で0.20mass%以下であることを特徴とする、第1〜12の発明のいずれかに記載の鉛蓄電池。
第15の発明:
負極電極材料中の防縮剤が有機合成防縮剤であることを特徴とする、第1〜14の発明のいずれかに記載の鉛蓄電池。
第16の発明:
負極電極材料中の防縮剤がビスフェノール類縮合物であることを特徴とする、第1〜15の発明のいずれかに記載の鉛蓄電池。
第17の発明:
負極電極材料中の無機硫酸塩が硫酸バリウムであることを特徴とする、第1〜16の発明のいずれかに記載の鉛蓄電池。
第18の発明:
鉛蓄電池の製造方法であって、111結晶面を持つ無機硫酸塩を用意し、無機硫酸塩に防縮剤を15g/100g以上吸着させ、防縮剤を吸着させた無機硫酸塩と、鉛粉とを含むペーストを、負極集電体に充填することにより負極板を製造することを特徴とする。
第19の発明:
無機硫酸塩は硫酸バリウムであり、防縮剤はビスフェノール類縮合物であることを特徴とする、第18の発明に記載の鉛蓄電池の製造方法。
【0009】
この発明の鉛蓄電池は、負極板と正極板と電解液とを有し、負極板の負極電極材料は、111結晶面を持つ無機硫酸塩と、防縮剤とを含有し、防縮剤は無機硫酸塩に吸着されていることを特徴とする。
この発明の鉛蓄電池は、負極板と正極板と電解液とを有し、前記負極板の負極電極材料は、111結晶面を持つ無機硫酸塩と、防縮剤とを含有し、防縮剤が無機硫酸塩に15g/100g以上吸着されていることを特徴とする。
この発明の鉛蓄電池は、負極板と正極板と電解液とを有し、前記負極板の負極電極材料は、平均二次粒子径が3.8μm以上である無機硫酸塩と、防縮剤とを含有することを特徴とする。
この発明の鉛蓄電池は、負極電極材料中の防縮剤が有機防縮剤であることを特徴とする。
この発明の鉛蓄電池は、負極電極材料中の防縮剤が有機合成防縮剤であることを特徴とする。
この発明の鉛蓄電池は、負極電極材料中の防縮剤がビスフェノール類縮合物であることを特徴とする。
この発明の鉛蓄電池は、負極電極材料中の無機硫酸塩が硫酸バリウムであることを特徴とする。
この発明の鉛蓄電池用の負極板は、負極電極材料と集電体とから成り、負極電極材料が、111結晶面を持つ無機硫酸塩と、防縮剤とを含有することを特徴とする。
【0010】
この発明の鉛蓄電池の製造方法は、111結晶面を持つ無機硫酸塩に防縮剤を吸着させた後に、ビスフェノール類縮合物を吸着させた硫酸バリウムと、鉛粉とを含むペーストを、負極集電体に充填することにより負極板を製造することを特徴とする。
この発明の鉛蓄電池の製造方法は、111結晶面を持つ硫酸バリウムにビスフェノール類縮合物を吸着させた後に、ビスフェノール類縮合物を吸着させた硫酸バリウムと、鉛粉とを含むペーストを、負極集電体に充填することにより負極板を製造することを特徴とする。この明細書において、鉛蓄電池に関する記載は、そのまま負極板及び鉛蓄電池の製造方法にも当てはまる。
【0011】
DBP吸油量は粉体がフタル酸ジブチル(DBP)を吸着する量を表し、単位はmL/100gで、測定法はJIS K 6217−4に規定されている。硫酸バリウムは一次粒子が凝集してアグリゲート(二次粒子)を成し、一次粒子間の空隙にDBPが吸着される。このため、二次粒子が大きいほど、DBP吸油量が増える。つまり、DBP吸油量は硫酸バリウムの一次粒子が凝集して作るストラクチャーの強さ、言い換えるとアグリゲートの発達の程度を表している。
【0012】
発明者は、アグリゲートが発達している硫酸バリウムに予め有機防縮剤(ビスフェノール類縮合物など)を吸着させておくと、有機防縮剤(ビスフェノール類縮合物など)の電解液への溶出を減らすことができるのではないか、と予想した。そこで硫酸バリウムに予め有機防縮剤(ビスフェノール類縮合物など)を吸着させた後に、鉛粉、カーボン等と混合して、負極電極材料のペーストとした。このペーストを用いて鉛蓄電池を製造し、初期の硫酸バリウムへの有機防縮剤の吸着量を測定した。鉛蓄電池のサイクル寿命性能を測定し、寿命に達した後に電解液を採取し、KMnO
4の消費量を測定した。すると
図1に示すように、硫酸バリウムへの有機防縮剤の吸着量増加と共に、寿命性能が向上し、かつKMnO
4消費量が減少した。KMnO
4の消費量は、電解液に流出したビスフェノール類縮合物の濃度を表す。
図2に示すように、硫酸バリウムのDBP吸油量が多いと有機防縮剤の吸着量が多くなることがわかった。このことから、DBP吸油量を変化させることにより、硫酸バリウムへの有機防縮剤の吸着量を制御できることがわかった。
【0013】
図1の結果は、硫酸バリウムへの有機防縮剤の吸着量が大きい硫酸バリウムを用いることにより、
・ 有機防縮剤(ビスフェノール類縮合物など)を負極電極材料中に固定でき、
・ これによって、正極電極材料の軟化を抑制すると共に、
・ 負極電極材料中でのビスフェノール類縮合物の効果を保つことができる、ことを示している。
表1、
図2から、硫酸バリウムへの有機防縮剤の吸着量は、硫酸バリウムの平均二次粒子径を変化させることで調整できる。(硫硫酸バリウムへの有機防縮剤の吸着量は酸バリウムのDBP吸油量を調整することで制御でき、硫酸バリウムのDBP吸油量は硫酸バリウムの平均二次粒子径を変化させることで調整できる。)従来から鉛蓄電池に使用されてきた硫酸バリウムでは、DBP吸油量が12mL/100g以下である。なおDBP吸油量が大きい硫酸バリウムは、一般に平均二次粒子径も大きい。尚、寿命時の硫酸バリウムへの有機防縮剤の吸着量を測定したところ、初期と変わりなかった。また硫酸バリウムがビスフェノール類縮合物を鉛蓄電池の寿命まで保持していることから、ビスフェノールは液体として保持されているのではなく、硫酸バリウム表面に吸着されているものと考えられる。この発明では、硫酸バリウムへの有機防縮剤の吸着量を15g/100g以上にすることにより、ビスフェノール類縮合物を予め硫酸バリウムに吸着させて、寿命まで保持させることを可能にし、鉛蓄電池の寿命性能を向上させる。
【0014】
なお特許文献1でも、硫酸バリウムの分散液にビスフェノール類縮合物を加えることを開示しているが、特許文献1の硫酸バリウムは単分散で、DBP吸油量は小さいと考えられる。またビスフェノール類縮合物の量は硫酸バリウムに対して1mass%で、多量のビスフェノール類縮合物を硫酸バリウムに固定することは難しいはずである。
【0015】
硫酸バリウムは、有機防縮剤を15g/100g以上吸着していることが重要で、吸着量に上限はない。しかし、現時点では吸着量が21g/100gを超えるようにするための硫酸バリウムは実用レベルでの製法が確立されていない。そこで、吸着量は15g/100g以上21g/100g以下が好ましい。
【0016】
ビスフェノール類縮合物は、例えばビスフェノールA,F,S等のビスフェノールのスルホン化物を縮重合させた物で、
・ スルホン基以外にカルボキシル基、アミノ基等を含んでいても良く、
・ 縮合は、例えばホルムアルデヒドによる脱水縮合である。
なおビスフェノール類縮合物を負極電極材料に加えることは周知であり、その種類、分子量等は公知技術に従って適宜に変更できる。
【0017】
負極電極材料中の硫酸バリウム濃度は、0.4mass%以上で1.6mass%以下、好ましくは0.4mass%以上で1.5mass%以下、より好ましくは0.6mass%以上で1.2mass%以下、さらに好ましくは0.6mass%以上で1.0mass%以下である。またビスフェノール類縮合物の濃度は、好ましくは0.03mass%以上で0.25mass%以下、より好ましくは0.05mass%以上で0.2mass%以下である。これらの範囲で高い寿命性能が得られる(表2,表3)。
【0018】
負極電極材料中の無機硫酸塩は、111結晶面を持つものであれば、硫酸バリウムと同様に電池内において悪影響を及ぼさず、硫酸鉛の核とすることができ、防縮剤を15g/100g以上吸着していれば、防縮剤の電解液への流出を抑制することができる。
また、負極電極材料中の無機硫酸塩は、DBP吸油量が14mL/100g以上で111結晶面を持つものであれば、防縮剤を15g/100g以上吸着できるので、防縮剤の電解液への流出を抑制することができる。
負極電極材料中の無機硫酸塩は、平均二次粒子径が3.8μm以上であれば、防縮剤を15g/100g以上吸着することができるので好適である。
無機硫酸塩に吸着させる防縮剤は、有機合成防縮剤、特にビスフェノール類縮合物であれば、防縮剤の流出を抑制できるうえに、寿命が向上するので好ましい。