特許第6819780号(P6819780)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6819780
(24)【登録日】2021年1月6日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】鍵盤装置
(51)【国際特許分類】
   G10B 3/12 20060101AFI20210114BHJP
   G10H 1/34 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
   G10B3/12 130
   G10H1/34
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-521550(P2019-521550)
(86)(22)【出願日】2017年5月29日
(86)【国際出願番号】JP2017019945
(87)【国際公開番号】WO2018220687
(87)【国際公開日】20181206
【審査請求日】2019年11月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】小川 賢人
【審査官】 岩田 淳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−184901(JP,A)
【文献】 特開2011−204550(JP,A)
【文献】 実開昭54−136452(JP,U)
【文献】 特開昭61−044963(JP,A)
【文献】 特開2009−098583(JP,A)
【文献】 特開2011−257579(JP,A)
【文献】 実開平05−081889(JP,U)
【文献】 特開2002−006832(JP,A)
【文献】 特開2009−222888(JP,A)
【文献】 特開2002−006848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 1/00− 7/12
G10B 1/00− 3/24
G10C 1/00− 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵と、
前記鍵に接続された摺動機構と、
前記摺動機構に接続され、前記鍵の押下に応じて回動する質量体と、
を備え、
前記摺動機構は、
第1部材と、
前記第1部材よりも硬質の第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材とに挟まれるとともに前記第2部材と摺動可能に配置された粒子状の複数の第3部材と、
を含み、
前記第1部材および前記第2部材の一方は前記鍵に接続され、他方は前記質量体に接続される、鍵盤装置。
【請求項2】
フレームと、
前記フレームに対して回動する鍵と、
前記フレームおよび前記鍵に接続された摺動機構と、
を備え、
前記摺動機構は、
第1部材と、
前記第1部材よりも硬質の第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材とに挟まれるとともに前記第2部材と摺動可能に配置された粒子状の複数の第3部材と、
を含み、
前記第1部材および前記第2部材の一方は前記鍵に接続され、他方は前記フレームに接続される、鍵盤装置。
【請求項3】
鍵と、
前記鍵の押下に応じて回動する質量体と、
前記質量体に接続された摺動機構と、
を備え、
前記摺動機構は、
第1部材と、
前記第1部材よりも硬質の第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材とに挟まれるとともに前記第2部材と摺動可能に配置された粒子状の複数の第3部材と、
を含み、
前記第1部材および前記第2部材の一方は前記質量体の回動中心となる軸に接続され、他方は当該軸に対応する軸受に接続される、鍵盤装置。
【請求項4】
前記第1部材上には、複数の前記第3部材に接触する液状部材が存在する、請求項1から請求項3までのいずれかに記載の鍵盤装置。
【請求項5】
前記第1部材に対して前記第2部材が移動する場合に前記第1部材に対する前記第2部材の第1相対速度V1と、前記第1部材に対する前記第3部材の第2相対速度V2とを比較すると、第1相対速度V1が第2相対速度V2よりも大きい、請求項1から請求項4までのいずれかに記載の鍵盤装置。
【請求項6】
前記第3部材は、前記第1部材に対して固定されている、請求項1から請求項3までのいずれかに記載の鍵盤装置。
【請求項7】
前記第1部材の表面には、前記第3部材の移動を制限する凹部が配置されている、請求項1から請求項までのいずれかに記載の鍵盤装置。
【請求項8】
前記凹部は、前記第3部材が嵌まることによって拡張されている、請求項に記載の鍵盤装置。
【請求項9】
前記凹部の大きさは、前記第3部材の粒径以上であり、当該粒径の2倍未満である、請求項または請求項に記載の鍵盤装置。
【請求項10】
前記第3部材は、前記第1部材より硬質であり、前記第2部材より軟質である、請求項1から請求項までのいずれかに記載の鍵盤装置。
【請求項11】
前記第1部材と前記第2部材との位置関係が変化する場合において前記第1部材のうち前記第2部材に面する第1領域と、前記第2部材のうち前記第1部材に面する第2領域とを比較すると、前記第1領域の前記第1部材上の位置の変化が、前記第2領域の前記第2部材上の位置の変化よりも大きい、請求項1から請求項10までのいずれかに記載の鍵盤装置。
【請求項12】
前記第1部材と前記第2部材との位置関係が変化する場合において前記第1部材のうち前記第2部材に面する第1領域と、前記第2部材のうち前記第1部材に面する第2領域とを比較すると、前記第2領域の前記第2部材上の位置の変化が、前記第1領域の前記第1部材上の位置の変化よりも大きい、請求項1から請求項10までのいずれかに記載の鍵盤装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
電子鍵盤装置において鍵を押下するときの負荷を与えるために、アコースティックピアノにおけるハンマに相当する質量体を鍵の押下に応じて回動させる構造が採用される。このような構造において、鍵と質量体とが接続される部分に摺動機構を設ける場合がある。例えば、特許文献1に開示された技術によれば、鍵の押下に応じて、鍵に貼りつけられたラバーと、質量体に取り付けられたネジの頭部とが摺動する構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許3591579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ラバーのような軟質部材とネジの頭部のような硬質部材とを摺動させる場合、所定の摩擦力が生じることになる。このような構成において摩擦係数は、鍵を押下するときの負荷に対する影響があるため、所望の摩擦係数になるように設計する必要がある。しかしながら、所望の摩擦係数を得るには、材質の組み合わせまたは表面状態等の調整をしなくてはならず、大きな労力を要していた。
【0005】
本発明の目的の一つは、摺動機構において、所望の摩擦係数を容易に設定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態によると、第1部材と、前記第1部材よりも硬質の第2部材と、前記第1部材と前記第2部材とに挟まれるとともに前記第2部材と摺動可能に配置された粒子状の複数の第3部材と、を備える摺動機構が提供される。
【0007】
前記第1部材上には、複数の前記第3部材に接触する液状部材が存在してもよい。
【0008】
前記第1部材に対して前記第2部材が移動する場合に前記第1部材に対する前記第2部材の第1相対速度V1と、前記第1部材に対する前記第3部材の第2相対速度V2とを比較すると、第1相対速度V1が第2相対速度V2よりも大きくてもよい。
【0009】
前記第3部材は、前記第1部材に対して固定されていてもよい。
【0010】
前記第1部材の表面には、前記第3部材の移動を制限する凹部が配置されていてもよい。
【0011】
前記凹部は、前記第3部材が嵌まることによって拡張されていてもよい。
【0012】
前記凹部の大きさは、前記第3部材の粒径以上であり、当該粒径の2倍未満であってもよい。
【0013】
前記第3部材は、前記第1部材より硬質であり、前記第2部材より軟質であってもよい。
【0014】
前記第1部材と前記第2部材との位置関係が変化する場合において前記第1部材のうち前記第2部材に面する第1領域と、前記第2部材のうち前記第1部材に面する第2領域とを比較すると、前記第1領域の前記第1部材上の位置の変化が、前記第2領域の前記第2部材上の位置の変化よりも大きくてもよい。
【0015】
前記第1部材と前記第2部材との位置関係が変化する場合において前記第1部材のうち前記第2部材に面する第1領域と、前記第2部材のうち前記第1部材に面する第2領域とを比較すると、前記第2領域の前記第2部材上の位置の変化が、前記第1領域の前記第1部材上の位置の変化よりも大きくてもよい。
【0016】
本発明の一実施形態によると、鍵と、前記鍵に接続された請求項1から請求項10までのいずれかに記載の摺動機構と、前記摺動機構に接続され、前記鍵の押下に応じて回動する質量体と、を備え、前記第1部材および前記第2部材の一方は前記鍵に接続され、他方は前記質量体に接続される、鍵盤装置が提供される。
【0017】
本発明の一実施形態によると、フレームと、前記フレームに対して回動する鍵と、前記フレームおよび前記鍵に接続された請求項1から請求項10までのいずれかに記載の摺動機構と、を備え、前記第1部材および前記第2部材の一方は前記鍵に接続され、他方は前記フレームに接続される、鍵盤装置が提供される。
【0018】
本発明の一実施形態によると、鍵と、前記鍵の押下に応じて回動する質量体と、前記質量体に接続された請求項1から請求項10までのいずれかに記載の摺動機構と、を備え、前記第1部材および前記第2部材の一方は前記質量体の回動中心となる軸に接続され、他方は当該軸に対する軸受に接続される、鍵盤装置が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一実施形態によれば、摺動機構において、所望の摩擦係数を容易に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1実施形態における鍵盤装置の概要を説明する図である。
図2】本発明の第1実施形態における摺動機構の説明図である。
図3】本発明の第2実施形態における摺動機構の説明図である。
図4】本発明の第3実施形態における摺動機構の説明図である。
図5】本発明の第4実施形態における摺動機構の説明図である。
図6】本発明の第5実施形態における摺動機構の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態における摺動機構を含む鍵盤装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下に示す実施形態は本発明の実施形態の一例であって、本発明はこれらの実施形態に限定して解釈されるものではない。なお、本実施形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号または類似の符号(数字の後にA、B等を付しただけの符号)を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。また、図面の寸法比率(各構成間の比率、縦横高さ方向の比率等)は説明の都合上実際の比率とは異なったり、構成の一部が図面から省略されたりする場合がある。
【0022】
<第1実施形態>
[鍵盤装置1の構成]
図1は、本発明の第1実施形態における鍵盤装置の概要を説明する図である。第1実施形態における鍵盤装置1は、本発明に係る摺動機構の一例を電子ピアノに適用した例である。なお、鍵盤装置1においては、鍵の位置を検出するセンサおよびセンサからの出力信号に応じて音波形を生成する音源装置等、図1に記載された構成以外にも様々な構成を有しているが、この例では図示を省略している。
【0023】
鍵盤装置1は、フレーム50、鍵60および質量体70を備える。鍵60は、フレーム50に回動可能に支持されている。この例では、フレーム50に設けられた軸部56と、鍵60に設けられた軸受65とにより、フレーム50に対して鍵60が支持されている。すなわち、軸部56が鍵60の回動中心となる。なお、軸部が鍵60に設けられ、軸受がフレーム50に設けられてもよい。
【0024】
鍵60は、フレーム50に設けられたガイド部54によって、回動方向が規制されている。この例では、ガイド部54は、鍵60の配列方向(スケール方向)に沿って、鍵60の両側面に対して接触している。これにより、鍵60は、スケール方向を法線とする面内で回動するように回動方向が規制されている。なお、回動方向は、軸部56と軸受65とによって規制されていてもよい。したがって、ガイド部54は、存在しなくてもよい。
【0025】
鍵60には、硬質部材120(第2部材)が接続されている。硬質部材120は、この例では、鍵60から下方に向けて突出するように配置されている。
【0026】
質量体70は、フレーム50に回動可能に支持されている。この例では、フレーム50に設けられた軸部57と、質量体70に設けられた軸受75とにより、フレーム50に対して質量体70が支持されている。なお、軸部が質量体70に設けられ、軸受がフレーム50に設けられてもよい。
【0027】
質量体70には、軟質部材110(第1部材)が接続されている。軟質部材110は、この例では、質量体70の一端側に配置されている。軟質部材110と硬質部材120とは、粒子状部材130(第3部材)を挟むように配置されている。この例では、粒子状部材130は、軟質部材110上に配置され、硬質部材120と摺動可能に接触している。軟質部材110、硬質部材120および粒子状部材130において摺動機構10が形成されている。摺動機構10の詳細な構造については、後述する。
【0028】
質量体70は、一部に錘部78を含む。錘部78は、軸受75に対して、軟質部材110が配置された端部とは反対側に配置されている。錘部78の存在により、質量体70の重心が、軸受75よりも錘部78側に位置する。
【0029】
鍵60が押下される(押鍵)と、硬質部材120が粒子状部材130上を摺動するとともに、軟質部材110を下方に移動させる。これによって、錘部78が上方に移動してストッパ58に接触するまで質量体70が回動し、鍵60がエンド位置まで押下された状態となる。一方、鍵60を押下させる力が解放される(離鍵)と、錘部78が下方に移動してストッパ59に接触するまで質量体70が回動し、軟質部材110が上方に移動する。これによって、硬質部材120が粒子状部材130上を摺動するとともに上方へ移動し、鍵60がレスト位置に戻る。なお、鍵60がエンド位置からレスト位置に戻るまでの間に、硬質部材120が粒子状部材130から離れないようにしてもよい。鍵の自重を利用する等、公知の構造を用いればよい。また、鍵60が、レスト位置よりも上方には移動しないように、回動範囲が規制されていてもよい。このように、質量体70は、鍵60の押下によって回動する部材であって、押鍵に対して負荷を与えるという点で、アコースティックピアノにおけるハンマに相当する部材である。
【0030】
[摺動機構10の構成]
続いて、摺動機構10について図2を用いて説明する。
【0031】
図2は、本発明の第1実施形態における摺動機構の説明図である。上述したように、摺動機構10は、軟質部材110、硬質部材120および複数の粒子状部材130を含む。軟質部材は、110は、ゴム等の弾性体である。硬質部材120は、鍵60と一体に成型された硬質な樹脂等である。なお、硬質部材120は軟質部材110よりも硬質であればよい。そのため、軟質部材110の材質と硬質部材120の材質との組み合わせは様々に取り得る。
【0032】
粒子状部材130は、略球状の部材である。この例では、粒子状部材130は、軟質部材110よりも硬質であり、硬質部材120よりも軟質である材料によって形成されている。なお、粒子状部材130は、軟質部材110よりも軟質であってもよいし、硬質部材120よりも硬質であってもよい。また、粒子状部材130は、略球状でなくてもよく、粒状であればよい。そのため、粒子状部材130は、例えば、楕円体等の閉曲面で構成された形状であってもよいし、一部および全部が平面で形成された形状であってもよい。また、図2に示すように、複数の粒子状部材130には、一部に粒径の異なるものが含まれていてもよいし、全てにおいて粒径が同じであってもよい。ここでいう粒径(図4に示す粒径Rに対応)とは、球であれば直径であるが、球以外の構造であれば表面上の2点間の距離のうち最も長くなる距離をいう。
【0033】
この例では、複数の粒子状部材130は、軟質部材110の表面110Sにおいて分散されて、接着剤140により固定されている。したがって、粒子状部材130は、表面110Sに対して移動をせず、また、同じ場所での回転もしない。なお、粒子状部材130は、別の方法(例えば、溶着、粘着等)により軟質部材110の表面110Sに固定されていてもよい。
【0034】
図2に示す硬質部材120の位置(実線)は、鍵60がレスト位置にあるときを想定している。このとき、軟質部材110の第1領域SA1(SA1−1、SA1−2)と硬質部材120の第2領域SA2とによって粒子状部材130が挟まれている。第1領域SA1は、軟質部材110のうち硬質部材120に面する領域である。第2領域SA2は、硬質部材120のうち軟質部材110に面する領域である。
【0035】
鍵60が押下されると、硬質部材120が矢印の方向に移動し、鍵60がエンド位置に到達すると、2点鎖線で示す位置に変化する。このように、軟質部材110を基準として、硬質部材120は、粒子状部材130に対して摺接した状態で軟質部材110の表面110Sに沿って移動する。この例では、硬質部材120上における第2領域SA2の位置は変化しない。一方、軟質部材110上における第1領域SA1の位置は、領域SA1−1から領域SA1−2に向けて変化する。すなわち、軟質部材110が間欠摺動側、硬質部材120が連続摺動側ということもできる。なお、実際には、軟質部材110は粒子状部材130を介して摺動しているが、以下の説明では、摺動機構10の全体として、軟質部材110が間欠摺動側であるものとして表現する。
【0036】
硬質部材120は、軟質部材110に接触して摺動するのではなく、粒子状部材130に接触して摺動しながら、軟質部材110に鍵60からの力を伝達する。硬質部材120と粒子状部材130との接触による摩擦力は、軟質部材110に固定される粒子状部材130の形状(外形、大きさ等)、分布(複数形状の混合割合、分散密度等)および材質によって変化させることができる。したがって、これらのパラメータを変化させた粒子状部材130を軟質部材110上に配置すれば、摺動機構10としての摩擦係数を様々に調整することができるため、摺動機構10において所望の摩擦係数を容易に実現することができる。なお、以下の説明において、単に摩擦係数といった場合には、摺動機構10としての摩擦係数を示しており、硬質部材120と粒子状部材130との摩擦係数を示すものではない。
【0037】
また、軟質部材110と硬質部材120とが接触しない状態で摺動するため、軟質部材110が摩耗することを低減することもできる。このとき、硬質部材120からの力を受けて、粒子状部材130を介して軟質部材110は全体として弾性変形することができる。したがって、軟質部材110の弾性変形に起因する復元力(概ね表面110Sに対する垂直方向への力)は、硬質部材120への反発力として伝達することもできる。軟質部材110のように弾性変形をする部材を用いた摺動機構は、摩擦が大きくなりすぎる場合が多く、軟らかさと滑りやすさとを両立することが難しかった。一方、上述したような摺動機構10によれば、軟質部材110の弾性変形に伴う軟らかさを保ちつつも、摩擦の大きさを様々に設定することができる。
【0038】
<第2実施形態>
第1実施形態においては、粒子状部材130が軟質部材110上に固定されていたが、固定されていなくてもよい。第2実施形態から第4実施形態において、粒子状部材130が軟質部材110上に固定されていない例について説明する。まず、第2実施形態においては、粒子状部材130が液状部材の特性を利用して、軟質部材110と硬質部材120との間に保持されている例について説明する。
【0039】
図3は、本発明の第2実施形態における摺動機構の説明図である。摺動機構10Aは、粒子状部材130(130−1、130−2、・・・)が、液状部材150によって、軟質部材110と硬質部材120との間に保持されている。液状部材150は、少なくとも、軟質部材110上において、複数の粒子状部材130に接触するように存在している。そのため、粒子状部材130は、軟質部材110上に保持されつつも、回転すること(姿勢を変更すること)ができるとともに、軟質部材110の表面110Sに沿って移動することができる。なお、液状部材150の特性(例えば、粘度、稠度、表面張力等)を変化させることによって、粒子状部材130の回転および移動に対する抵抗力を変化させることができる。液状部材150は、軟質部材110と硬質部材120との間にできるだけ長く保持されるように、また、その特性の変化が少なくなるように、揮発性の低い部材であることが望ましい。図3においては、液状部材150は、軟質部材110と硬質部材120との間の一部にのみ配置されているが、この間の部分が全て満たされるように配置されていてもよい。
【0040】
図3に示すように、硬質部材120が移動すると、粒子状部材130は、軟質部材110と硬質部材120との間において、転がったり滑ったりしながら移動する。その移動量は、硬質部材120と粒子状部材130との位置関係によって様々である。この例では、粒子状部材130−2、130−3が、粒子状部材130−1、130−4に比べて、移動中の硬質部材120と長い時間にわたって接触しているため、大きく移動する。ここで、軟質部材110に対する硬質部材120の速度Vb(第1相対速度)は、軟質部材110に対する粒子状部材130−1、130−2、130−3、130−4の速度Va1、Va2、Va3、Va4(第2相対速度)よりも大きい。ここで、硬質部材120に対して強い摩擦力を与えるために、Vbの1/2が、Va1、Va2、Va3、Va4よりも大きくなるようにしてもよい。これを実現するために、例えば、液状部材150の特性(例えば、粘度)を調整して粒子状部材130が表面110Sを移動しにくくしてもよい。
【0041】
この例では、軟質部材110と硬質部材120とが接触しないものの、粒子状部材130が軟質部材110上で移動する。しかしながら、軟質部材110上において硬質部材120が接触して摺動する場合に比べれば、軟質部材110に対する粒子状部材130の接触面積および移動量が少ないため、軟質部材110が摩耗することを低減することもできる。また、上述同様に、摺動機構10Aによれば、軟質部材110の弾性変形に伴う軟らかさを保ちつつも、摩擦の大きさを様々に設定することもできる。
【0042】
<第3実施形態>
第3実施形態においては、粒子状部材130の移動範囲が一部制限されている例について説明する。
【0043】
図4は、本発明の第3実施形態における摺動機構の説明図である。図4は、説明をわかりやすくするために、1つの粒子状部材130の近傍を拡大して示した。摺動機構10Bは、表面110SBに複数の凹部115が配置された軟質部材110Bを含む。粒子状部材130の一部分が、凹部115の中に入るように配置されている。凹部115の内部において、第2実施形態と同様に液状部材150が配置されている。なお、液状部材150は、凹部115の外部まで拡がるように配置されていてもよいし、軟質部材110Bと硬質部材120との間に存在しなくてもよい。
【0044】
粒子状部材130は、硬質部材120によって軟質部材110Bから離れる方向への移動を妨げるように力を受ける。そのため、硬質部材120が粒子状部材130と摺動しても、粒子状部材130は、凹部115の内側に移動範囲が制限されて、外側に出ないようになっている。なお、粒子状部材130の移動範囲が、完全に凹部115において制限される場合に限らない。すなわち、粒子状部材130が凹部115から外側に出てもよく、その結果、他の粒子状部材130がこの凹部115に侵入してもよい。
【0045】
粒子状部材130の形状と、凹部115の形状とは、以下のような関係になっている。まず、凹部115の深さD(表面110SBに対応する位置から凹部115の底部までの距離)が、粒子状部材130の粒径Rよりも小さい。これにより、凹部115に1つの粒子状部材130が入ったときに、表面110SBから粒子状部材130の一部が露出して、硬質部材120と接触することができる。
【0046】
また、凹部115の大きさLが、粒子状部材130の粒径R以上であり、かつ粒径Rの2倍未満である。凹部115の大きさLは、この例では以下のとおり規定される。凹部115の内面のうち、軟質部材110Bに対する硬質部材120の移動方向に沿った2点を規定する。これらの2点間の距離のうち最も長くなる距離を、凹部115の大きさLとする。なお、凹部115は、表面110SBに平行な方向のうち、硬質部材120の移動方向とは異なる方向に伸びて溝状になっていてもよい。
【0047】
このような大きさLと粒径Rとの関係によれば、凹部115において、硬質部材120の移動方向には、1つの粒子状部材130が配置されることになる。なお、上記の2点間の距離のうち表面110SB(言い換えれば凹部115の開口縁部)における2点間の距離を大きさLs1として定義し、大きさLに代えて大きさLs1を用いて上記条件としてもよい。形状によっては、大きさLを規定する2点が開口縁部に位置することもある。この場合には、大きさLと大きさLs1が等しくなる。
【0048】
これらの条件は、全ての粒子状部材130と凹部115との関係において満たされるということではない。すなわち、複数の粒子状部材130のいずれかと、複数の凹部115のいずれかとの関係において、上記条件を満たす組み合わせが存在していればよい。なお、上記の条件は、所定の摩擦係数を得るための一例であって、粒子状部材130と凹部115との組み合わせの全てにおいて、条件を満たさない場合があってもよい。
【0049】
なお、粒子状部材130の粒径Rと凹部115の大きさLとの関係を調整すると、硬質部材120の移動が開始した時点と、所定量の移動をした後の時点とで、摩擦係数を変化させることもできる。例えば、硬質部材120の移動が開始した時点では、粒子状部材130は、凹部115の中で比較的自由に移動可能である。すなわち、第2実施形態に近い状況になっている。一方、硬質部材120が所定量の移動をした後には、粒子状部材130が凹部115の端部に引っ掛かる状態(図4において2点鎖線で示した粒子状部材130bの位置)となる。すなわち、粒子状部材130が回転可能であるものの、第1実施形態に近い状況になる。この結果、硬質部材120が移動していく途中において、摺動機構10Bとしての摩擦係数が大きくなる状況を実現することもできる。
【0050】
<第4実施形態>
第4実施形態では、粒子状部材130の移動ができず、同じ位置での回転を可能とした例について説明する。
【0051】
図5は、本発明の第4実施形態における摺動機構の説明図である。摺動機構10Cは、第3実施形態における軟質部材110Bと比べて、大きさLs1が粒径Rより小さく、大きさLが粒径Rより大きい(ほぼ同じ)凹部115Cが配置された軟質部材110Cを含む。粒子状部材130は、凹部115Cに押し込まれて嵌まっている状態である。そのため、凹部115の開口縁部が、粒子状部材130によって大きさLs2まで拡張されている。これによって、表面110SCは粒子状部材130の周囲において弾性変形している。この状態においては、粒子状部材130は、軟質部材110Cに対して、硬質部材120の移動方向および表面115SCに垂直な方向のいずれにも移動することはできないが、回転等の姿勢の変更は可能である。
【0052】
<第5実施形態>
上述した各実施形態では、硬質部材120が連続摺動側である例で説明したが、間欠摺動側であってもよい。第5実施形態では、第1実施形態において連続摺動側と間欠摺動側とを入れ替えた場合の例を説明する。
【0053】
図6は、本発明の第5実施形態における摺動機構の説明図である。摺動機構10Dは、軟質部材110D、硬質部材120D、粒子状部材130を含む。摺動機構10Dにおいては、第1実施形態における硬質部材120の位置には軟質部材110Dが配置され、軟質部材110の位置には硬質部材120Dが配置されている。すなわち、この例では、軟質部材110Dが連続摺動側となり、硬質部材120Dが間欠摺動側となる。そして、この例では鍵60に軟質部材110Dが接続され、質量体70に硬質部材120Dが接続されていることになる。
【0054】
粒子状部材130は、軟質部材110Dの表面110SDにおいて接着剤140により固定されている。したがって、鍵60が押下されると、軟質部材110Dは粒子状部材130とともに、硬質部材120D上を移動していく。このように、第5実施形態における粒子状部材130は、間欠摺動側の部材に固定されている第1実施形態とは異なり、連続摺動側の部材に固定されているが、軟質部材に固定されている点では第1実施形態と同じである。また、粒子状部材130が硬質部材と摺動可能に配置されている点についても第1実施形態と同じである。なお、上述したように、第2実施形態から第4実施形態において第5実施形態の構成を適用することもできる。この場合には、第5実施形態の構成における接着剤140に代えて、液状部材、凹部等を用いて、粒子状部材130が保持されるようにすればよい。
【0055】
<変形例>
上述した各実施形態では、以下の通り変形して実施することも可能である。以下の変形例では、第1実施形態を変形した場合を説明するが、他の実施形態を変形した場合も同様である。
【0056】
(1)上述した第1実施形態において摺動機構10は、鍵60と質量体70との間に配置されていたが、鍵60とフレーム50との間に配置されていてもよい。例えば、図1に示す軸部56と軸受65との関係において摺動機構10が適用されてもよい。この場合、軟質部材110および硬質部材120の一方が軸部56に接続され、他方が軸受65に接続されればよい。
【0057】
また、鍵60とガイド部54との関係において摺動機構10が適用されてもよい。この場合においても、軟質部材110および硬質部材120の一方が鍵60に接続され、他方がガイド部54に接続されればよい。
【0058】
(2)上述した第1実施形態において摺動機構10は、鍵60と質量体70との間に配置されていたが、質量体70とフレーム50との間に配置されていてもよい。例えば、図1に示す軸部57と軸受75との関係において摺動機構10が適用されてもよい。この場合、軟質部材110および硬質部材120の一方が軸部57に接続され、他方が軸受75に接続されればよい。
【0059】
(3)上述した第1実施形態では、摺動機構10を適用した鍵盤装置1の例として電子ピアノを示した。一方、摺動機構10は、グランドピアノおよびアップライトピアノのようなアコースティックピアノにおいて、2つの部材が摺動する部分に適用することもできる。2つの部材とは、(A)サポートヒールおよびキャプスタンスクリュー、(B)ハンマーローラーおよびジャック、(C)サポートフレンジおよびサポート(軸部分)、(D)ハンマーシャンクフレンジおよびハンマーシャンク(軸部分)、等が例示される。なお、アコースティックピアノのアクション機構を用いた電子ピアノにおいても同様である。
【0060】
(4)上述した第1実施形態では、摺動機構10を鍵盤装置1に適用した例を示した。一方、摺動機構10は、2つの部材が摺動する部分を有する構造体であれば、鍵盤装置以外の楽器に適用してもよい。さらに、摺動機構10は、楽器以外であっても、2つの部材が摺動する部分を有する装置であれば、様々に適用可能である。
【符号の説明】
【0061】
1…鍵盤装置、10,10A,10B,10C,10D…摺動機構、50…フレーム、54…ガイド部、56,57…軸部、58,59…ストッパ、60…鍵、65…軸受、70…質量体、75…軸受、78…錘部、110,110B,110C,110D…軟質部材、115,115C…凹部、120,120D…硬質部材、130,130−1,130−2,130−3,130−4…粒子状部材、140…接着剤、150…液状部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6