(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
[本発明の実施形態の説明]
本発明者らは、内部抵抗を低減するべく、電極の面内における電解液の流通状態を検討した。その結果、双極板に電解液を案内する流路を設けることで、電極に電解液が浸透・拡散し易く、電極の広い範囲で電池反応を均一的に行うことができ、内部抵抗を低減できる、との知見を得た。ただし、後述する試験例で詳述するように、双極板に設けた流路の形態によっては、内部抵抗にばらつきが生じることがわかった。この内部抵抗のばらつきは、主に、レドックスフロー電池(RF電池)の運転開始直後から数サイクル〜数十サイクル程度の間に生じていた。特にこの内部抵抗のばらつきは、RF電池の運転開始前に電解液が空の状態である電池セル内に電解液を充填後、RF電池を運転した場合に生じていた。例えば、RF電池の初期状態であって、電池セルに電解液が充填されていない空の状態から電池セルに電解液を供給した後にRF電池を運転した場合や、RF電池の待機状態であって、ポンプを停止し、自己放電を抑制するために一旦電解液を電池セルから排出した状態から、再度電解液を供給した後にRF電池を運転した場合である。
【0019】
RF電池の運転開始前に空の状態である電池セルに電解液を供給してから、RF電池を運転した場合に、上記のばらつきが生じる原因として、電池セルに電解液を充填する際に生じ得る気泡が考えられる。空の状態である電池セルは内部に空気が充満している。この空気は、電池セル内への電解液循環によって排出できる。しかし、電池セル内での電解液の流速は遅いため、気泡を排出する力が弱く、排出するまでに所定の時間を要する。そのため、双極板に設けた流路の形態によっては、電池セル内、特に電極に気泡が停留し易い。電極に気泡が滞留すると、電極における電池反応面積を減少させることになり、内部抵抗が増加すると考えられる。そこで、本発明者らは、電解液の充填後におけるRF電池の運転開始にあたって電極に気泡が停留することを抑制し、電極における電解液の流通を均一化することについて更に検討を進め、本願発明を完成するに至った。以下、本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
【0020】
(1)本発明の実施形態に係る双極板は、第1の面側に正極電極が配置され、第2の面側に負極電極が配置される電池用の双極板であって、前記第1の面、前記第2の面の少なくとも一方の面は、電解液が流通する流路を備える。前記流路は、前記電解液の導入口と、前記電解液の排出口と、前記導入口と前記排出口との間で、前記電解液を所定の経路に案内する溝部と、を備える。前記溝部は、当該双極板を電池の所定位置に配置したときに、鉛直方向に沿うと共に、その鉛直方向と直交する方向に並列される複数の縦溝部を備える。
【0021】
上記の双極板は、流路を備えることで、この流路に沿って電解液の流通を促進でき、電池セル内の電解液の流通抵抗を低減して、電池セル内での電解液の圧力損失を低減できる。よって、電池の内部抵抗を低減できる。上記の双極板を電池の所定位置に配置したとき、電解液を所定の経路に案内する縦溝部が鉛直方向に沿って配置されるため、RF電池の運転開始前に空の状態である電池セルに電解液を供給する際に気泡を上方に排出し易く、気孔が残り難い。また、電池セル内に気泡が生じたとしても、その気泡は浮力により縦溝部に沿って流動し易く、排出され易い。そのため、電解液の電池セル内への充填後におけるRF電池の運転開始にあたって、電極に気泡が停留し難い。よって、電極における電池反応面積の減少を抑制でき、電池の内部抵抗の増加を抑制できる。
【0022】
(2)上記の双極板の一例として、隣り合う前記縦溝部同士が並列方向に重複する長さは、双極板の鉛直方向の長さの45%以上である形態が挙げられる。
【0023】
縦溝部の長さは長いほど、双極板の鉛直方向に沿う流路の長さを長くできる。縦溝部同士が並列方向に重複する長さが双極板の鉛直方向の長さの45%以上であることで、縦溝部に沿って電池セル内で生じた気泡を上方により排出し易く、電極に気泡が停留し難い。
【0024】
(3)上記の双極板の一例として、隣り合う前記縦溝部の側縁間の溝間距離は、前記縦溝部の幅の100%以上700%以下である形態が挙げられる。
【0025】
縦溝部の横断面積は大きいほど、電池セル内における電解液の流通抵抗を低減して圧力損失を低減し易い。また、隣り合う縦溝部間の距離は大きいほど、双極板と電極との接触面積が増加して電極の広い範囲で電池反応を均一的に行い易い。隣り合う縦溝部の側縁間の溝間距離が縦溝部の幅の100%以上であることで、電池セル内における電解液の流通抵抗を低減し易く、700%以下であることで、電極における電池反応を均一的に行い易い。
【0026】
(4)上記の双極板の一例として、前記縦溝部の幅は、0.1mm以上10mm以下である形態が挙げられる。
【0027】
縦溝部の幅が0.1mm以上であることで、電池セル内における電解液の流通抵抗を低減し易い。一方、縦溝部の幅が10mm以下であることで、相対的に縦溝部間の距離を確保できるため、電極における電池反応を均一的に行い易い。
【0028】
(5)上記の双極板の一例として、前記流路は、互いに連通しない導入側流路と排出側流路とを備える形態が挙げられる。
【0029】
上記双極板は、電解液が導入側流路と排出側流路との間を渡るように電極における電池反応域が配置される。導入口から導入された電解液は、上記の流路間を渡って排出口から排出されるため、未反応のまま排出される電解液量を減少できる。つまり、電極における反応電流量を増加できる。
【0030】
(6)流路が導入側流路と排出側流路とを備える上記の双極板の一例として、前記導入側流路と前記排出側流路の各々は、互いに噛み合って対向配置される櫛歯流路を備え、前記櫛歯流路は前記縦溝部を備える形態が挙げられる。
【0031】
上記双極板は、導入側流路と排出側流路とが互いに噛み合って対向配置されて並列状態にあるため、噛み合った櫛歯流路部分で櫛歯間を渡るように電極における電池反応域が配置される。この櫛歯間を渡る電池反応域に流通する電解液量を、導入側流路と排出側流路とが噛み合っていない場合に比較して増加し易い。つまり、電極における反応電流量をより増加し易い。
【0032】
(7)櫛歯流路を備える上記の双極板の一例として、前記櫛歯流路の噛み合い部分の長さは、前記縦溝部の長さの80%以上99%以下である形態が挙げられる。
【0033】
導入側流路と排出側流路とが互いに噛み合って対向配置される場合、噛み合い部分の長さは長いほど、この長さに比例して電極における電池反応域を多く確保できる。櫛歯流路の噛み合い部分の長さが縦溝部の長さの80%以上であることで、電極における電池反応域を十分に確保でき、この領域に供給される電解液量を増大できる。一方、櫛歯流路の噛み合い部分の長さが縦溝部の長さの99%以下であることで、導入側流路と排出側流路とを連通させることなく確実に独立させることができる。
【0034】
(8)上記の双極板の一例として、前記双極板の双方の面に前記流路を備え、当該双極板を平面透視したとき、前記正極電極側の縦溝部と前記負極電極側の縦溝部とは、少なくとも一部が重複しない位置に存在する形態が挙げられる。
【0035】
正極電極側の縦溝部と負極電極側の縦溝部とがずれていることで、電池セル内において一対の双極板で正負極の各電極及び隔膜を挟んだ際、一方の双極板の縦溝部と他方の双極板の縦溝部とがずれて配置されることになる。よって、一対の双極板の各縦溝部が対向して配置される場合に比較して、機械的強度が増大し、双極板の薄型化が可能となる。
【0036】
(9)上記の双極板の一例として、前記溝部は、前記導入口と前記縦溝部の全ての導入側端部とを繋ぐ給液整流部、及び前記排出口と前記縦溝部の全ての排出側端部とを繋ぐ排液整流部の少なくとも一方を備える形態が挙げられる。
【0037】
上記の双極板は、流路として給液整流部を備えることで、導入口から導入された電解液を各縦溝部に均一的に分配することができる。また、上記の双極板は、流路として排液整流部を備えることで、各縦溝部からの電解液を滞りなく排出口から排出することができる。
【0038】
(10)本発明の実施形態に係るセルフレームは、上記(1)〜(9)のいずれか1つに記載の双極板と、前記双極板の外周に設けられる枠体と、を備える。
【0039】
上記のセルフレームは、本発明の実施形態に係る双極板を備えるため、電池セル内の電解液の流通抵抗を低減でき、かつ電極における電池反応面積の減少を抑制できることから、電池の内部抵抗を低減できる。
【0040】
(11)本発明の実施形態に係るセルスタックは、上記(10)に記載のセルフレームと、正極電極と、隔膜と、負極電極とがこの順に積層された積層体が、複数積層してなる。
【0041】
上記のセルスタックは、本発明の実施形態に係るセルフレームを備えるため、電池セル内の電解液の流通抵抗を低減でき、かつ電極における電池反応面積の減少を抑制できることから、電池の内部抵抗を低減できる。
【0042】
(12)本発明の実施形態に係るレドックスフロー電池は、上記(11)に記載のセルスタックを備える。
【0043】
上記のレドックスフロー電池は、本発明の実施形態に係るセルスタックを備えるため、電池セル内の電解液の流通抵抗を低減でき、かつ電極における電池反応面積の減少を抑制できることから、電池の内部抵抗を低減できる。
【0044】
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態の詳細を、以下に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。図中の同一符号は、同一名称物を示す。
【0045】
≪実施形態1≫
実施形態1では、レドックスフロー電池(RF電池)に用いる双極板1を
図1,2に基づいて説明する。双極板1以外の構成は、
図7及び
図8を参照して説明した従来のRF電池100と同様の構成を採用できるため、その詳しい説明は省略する。
図2に示す双極板121は、説明の便宜上、正極電極104及び負極電極105よりも厚くしている。
【0046】
〔双極板〕
双極板1は、隣り合う電池セル100C(
図7)間に介在されて各極の電解液を仕切る導電性部材であり、代表的には
図1に示すように長方形状の平板である。双極板1の表裏面はそれぞれ、隣り合う電池セル100Cのうち、一方の電池セル100Cの正極電極104と、他方の電池セル100Cの負極電極105と、に挟まれる。双極板1の第1の面(表面)が正極電極104との対向面であり、第2の面(裏面)が負極電極105との対向面である。本実施形態1の双極板1の主たる特徴とするところは、双極板1が正極電極104側及び負極電極105側の各面に正極電解液及び負極電解液が流通する流路10を備え、この流路10が縦溝構造を有することにある。
【0047】
・流路
流路10は、各電池セル100C内において、ポンプ112,113(
図7)によって正極電極104,負極電極105に流通される電解液の流れを調整するために設けられる。流路10は、双極板1の正極電極104側及び負極電極105側の各面において、双極板1の表面の一部である流路内面により形成される。流路内面は、
図2に示すように、双極板1の深さ方向に窪んだ底面と、底面から垂直に延びる両側面と、で構成される。
【0048】
流路10は、電解液の導入口12iと、電解液の排出口14oと、導入口12iと排出口14oとの間で電解液を所定の経路に案内する溝部11と、を備える。導入口12iは、双極板1の一方の端面(
図1の下側)に開口しており、セルフレームの枠体に形成されるスリットを介して給液用マニホールド123(124)(
図8)に繋がっている。排出口14oは、導入口12iとの対向する双極板1の他方の端面(
図1の上側)に開口しており、セルフレームの枠体に形成されるスリットを介して排液用マニホールド125(126)(
図8)に繋がっている。
【0049】
各電池セル100C内の電解液の流れの調整は、流路10の形状や寸法などを調整して行うことができる。本実施形態1の双極板1の特徴の一つは、溝部11は、双極板1をRF電池100における所定位置に配置したときに、鉛直方向に沿うと共に、その鉛直方向と直交する方向に並列される複数の導入側縦溝部12y,排出側縦溝部14yを備えることにある。鉛直方向に沿って配置される複数の導入側縦溝部12y,排出側縦溝部14yを有する流路10の形態を縦溝構造と呼ぶ。以下、流路10の形状について説明し、その後に流路10における溝部11について説明する。
【0050】
・・流路の形状
流路10は、
図1に示すように、電解液を電極に導入する導入側流路12と、電解液を電極から排出する排出側流路14と、を備える。導入側流路12と排出側流路14とは、互いに連通せずに独立している。導入側流路12と排出側流路14の各々は、互いに噛み合って対向配置される櫛歯流路を備える。導入側流路12の櫛歯流路は、複数の導入側縦溝部12yを備え、排出側流路14の櫛歯流路は、複数の排出側縦溝部14yを備える。つまり、本実施形態1の双極板1の特徴の一つとして、流路10は、導入側縦溝部12yと排出側縦溝部14yとが、互いに噛み合って対向配置される噛合型の対向櫛歯形状であることが挙げられる。
【0051】
導入側流路12は、導入口12iと、双極板1の横方向(
図1では左右方向)に延設される一つの導入側横溝部12xと、導入側横溝部12xから双極板1の縦方向(
図1では上下方向)に延設され、所定の間隔Cをあけて並列配置される複数の導入側縦溝部12yと、を備える。導入口12i、導入側横溝部12x、導入側縦溝部12yは連続している。
【0052】
排出側流路14は、導入側流路12と同様の形状である。排出側流路14は、排出口14oと、双極板1の横方向に延設される一つの排出側横溝部14xと、排出側横溝部14xから双極板1の縦方向に延設され、所定の間隔Cをあけて並列配置される複数の排出側縦溝部14yと、を備える。排出口14o、排出側横溝部14x、排出側縦溝部14yは連続している。
【0053】
この例の流路10は導入側流路12と排出側流路14とを備えており、導入口12iから導入された電解液は、導入側横溝部12x、導入側縦溝部12y、排出側縦溝部14y、排出側横溝部14xを流通し、排出口14oから排出される。つまり、流路10のうち溝部11は、導入側横溝部12x、導入側縦溝部12y、排出側縦溝部14y、排出側横溝部14xによって構成される。
【0054】
導入側流路12と排出側流路14とは、各導入側縦溝部12y,排出側縦溝部14yが交互に並列されている。具体的には、導入側流路12の隣り合う導入側縦溝部12y間に、排出側流路14の排出側縦溝部14yが配置される。言い換えると、排出側流路14の隣り合う排出側縦溝部14y間に、導入側流路12の導入側縦溝部12yが配置される。この双極板1では、RF電池100における所定位置に配置したときに、導入側縦溝部12y,排出側縦溝部14yが双極板1の一面上で鉛直方向(
図1では上下方向)に沿って配置されると共に、その鉛直方向と直交する方向に隣り合って並列されることになる。
【0055】
導入側流路12の導入側横溝部12xは、導入口12iから導入された電解液を各縦溝部12yに均一的に分配する給液整流部の役割を果たす。排出側流路14の排出側横溝部14xは、各排出側縦溝部14yからの電解液を滞りなく排出口14oから排出する排液整流部の役割を果たす。この導入側横溝部12x,排出側横溝部14xは省略することができ、電解液の整流部は、従来同様にセルフレームの枠体に設けることもできる。導入側横溝部12x,排出側横溝部14xを省略した場合、導入側縦溝部12yは、それぞれ導入側端部が双極板1の一方の端面(
図1の下側)に開口しており、排出側縦溝部14yは、それぞれ排出側端部が双極板1の他方の端面(
図1の上側)に開口している。双極板1への電解液の導入口12iは、各導入側縦溝部12yの導入側端部の開口端となり、双極板1からの電解液の排出口14oは、各排出側縦溝部14yの排出側端部の開口端となる。
【0056】
図1の例の導入口12i及び排出口14oは、それぞれ導入側横溝部12x,排出側横溝部14xの横方向の端部から上下方向に延設される短い縦溝部を介して双極板1の端面に一つずつ形成されている。導入口12iと排出口14oとは、長方形状の双極板1のほぼ対角位置に備えられる。
【0057】
縦溝構造の流路10の場合、導入口12iから導入された電解液は、溝部11に沿った流れ(
図1で示す実線矢印の方向)と、各導入側縦溝部12y,排出側縦溝部14y間に位置する畝部分16を介して導入側縦溝部12y,排出側縦溝部14y間を渡るような流れ(
図1,2に示す破線矢印の方向)と、を形成する。導入口12iから導入されて排出口14oに至るまでの間に溝部11を流通する電解液は、双極板1に対向配置される電極に浸透して拡散する。電極内に浸透・拡散した電解液は、電極内で電池反応を行う。特に、正極電極104および負極電極105における双極板1の畝部分16に対向配置される領域は、電解液との接触面積を十分に確保できるため電池反応を良好に行える(
図2)。導入された電解液が畝部分16を渡って排出されるため、未反応のまま排出される電解液量を減少できる。その結果、電極における反応電流量を増加できる。また、RF電池の内部抵抗を低減できる。
【0058】
・・溝部
溝部11は、
図2に示すように、断面形状が矩形状である。溝部11の断面形状は、任意の断面形状とすることができ、例えば半円状や角部を丸めた長方形状などの曲線を有する形状などが挙げられる。
【0059】
溝部11は、流路10の全体に亘って一様な深さDを有し、導入側流路12の導入側横溝部12xの長さLxi、導入側縦溝部12yの長さLyi、導入側縦溝部12yの幅Wyiと、排出側流路14の排出側横溝部14xの長さLxo、排出側縦溝部14yの長さLyo、排出側縦溝部14yの幅Wyoと、がそれぞれ等しい。また、導入側流路12の導入側縦溝部12yの間隔Ciと、排出側流路14の排出側縦溝部14yの間隔Coと、が等しい。このように流路10を構成する溝部11の形状及び寸法が概ね等しい場合は、双極板1及び双極板1に対向配置される電極の全域に亘って電解液の流れを実質的に均一にできて好ましい。以後この実施形態1では導入側流路12の導入側横溝部12xの長さLxiと排出側流路14の排出側横溝部14xの長さLxoをLx、導入側縦溝部12yの長さLyiと排出側縦溝部14yの長さLyoをLy、導入側縦溝部12yの幅Wyiと排出側縦溝部14yの幅WyoをWy、導入側縦溝部12yの間隔Ciと排出側縦溝部14yの間隔CoをCとする。
【0060】
溝部11の深さDは、例えば双極板1の厚さの10%以上45%以下であることが挙げられる。溝部11の断面積を十分に確保しつつ、双極板1の強度を低下させないためである。双極板1の表裏面に溝部11を備える場合、溝の深さDが深すぎると機械的強度の低下を招く虞があるため、溝の深さDは、双極板1の厚さの20%以上40%以下がさらに好ましいと考えられる。
【0061】
隣り合う導入側縦溝部12y,排出側縦溝部14yの側縁間の溝間距離Rは、例えば導入側縦溝部12y,排出側縦溝部14yの幅Wyの100%以上700%以下であることが挙げられる。導入側縦溝部12y,排出側縦溝部14yの横断面積は大きいほど電池セル100C内における電解液の流通抵抗を低減して圧力損失を低減し易い。一方、隣り合う導入側縦溝部12y,排出側縦溝部14y間の距離は大きいほど、双極板1と電極との接触面積が増加して電極の広い範囲で電池反応を均一的に行い易い。電池セル100C内における電解液の流通抵抗を低減でき、かつ電極における電池反応を均一的に行うにあたり、上記溝間距離Rは、導入側縦溝部12y,および排出側縦溝部14yの幅Wyの100%以上500%以下がさらに好ましいと考えられる。
【0062】
導入側縦溝部12yの幅,排出側縦溝部14yの幅Wyは、上記溝間距離Rとの関係と、横断面積が十分に大きくなるように上述の深さDと、に応じて適宜選択することができる。導入側縦溝部12yの幅,排出側縦溝部14yの幅Wyは、0.1mm以上10mm以下、さらに0.7mm以上1.5mm以下であることが好ましい。
【0063】
導入側縦溝部12yの長さ,および排出側縦溝部14yの長さLyは長いほど、双極板1の鉛直方向に沿う流路の長さを長くできる。この導入側縦溝部12y,排出側縦溝部14yの長さLyと、双極板1の鉛直方向の長さLhとの比率(Ly/Lh)×100は、50%以上90%以下、さらに60%以上80%以下であることが好ましい。また、隣り合う導入側縦溝部12y,排出側縦溝部14yは、重複する長さが長いほど、導入側縦溝部12y,排出側縦溝部14y間に位置する畝部分16を渡ることによる電極での電池反応を良好に行える。この隣り合う導入側縦溝部12y,排出側縦溝部14y同士の重複する長さLoと、双極板1の鉛直方向の長さLhとの比率(Lo/Lh)×100は、45%以上85%以下、さらに55%以上75%以下であることが好ましい。
【0064】
噛合型の対向櫛歯形状において、導入側流路12と排出側流路14との各櫛歯流路の噛み合い部分の長さLoは長いほど、この長さに比例して電極における畝部分16に対向配置される対向領域を十分に多く確保できる。それに伴い、この領域に供給される電解液量を増大できる。この櫛歯流路の噛み合い部分の長さLoと、導入側縦溝部12y,排出側縦溝部14yの長さLyとの比率(Lo/Ly)×100は、80%以上99%以下、さらに90%以上98%以下であることが好ましい。
【0065】
この例では、
図2に示すように、双極板121の表裏面に流路を備える場合、双極板1を平面透視したとき、導入側縦溝部12y,排出側縦溝部14yは、少なくとも一部が重複しない位置に存在することが挙げられる。双極板121の表裏面で導入側縦溝部12y,排出側縦溝部14yがずれていることで、電池セル100Cにおいて一対の双極板121,121で正負極の各正極電極104,負極電極105及び隔膜101を挟んだ際、各電極と接する面で一方の双極板の導入側縦溝部12y,排出側縦溝部14yと他方の双極板の導入側縦溝部12y,排出側縦溝部14yとがずれて配置されることになる。このずれによって、一対の双極板の各導入側縦溝部12y,排出側縦溝部14yが対向して配置される場合に比較して、機械的強度が増大し、双極板の薄型化が可能となる。双極板1の表裏面に流路10を備える場合、双極板1を平面透視したとき、導入側縦溝部12y,排出側縦溝部14yが重複する位置に存在していてもよい。
【0066】
・・構成材料
双極板1の構成材料は、電気抵抗が小さい導電性材料であって、電解液と反応せず、電解液に対する耐性(耐薬品性、耐酸性など)を有するものが好適に利用できる。更に、双極板1の構成材料は、適度な剛性を有することが好ましい。流路10を構成する溝部11の形状や寸法が長期に亘って変化し難く、流路10を有することによる流通抵抗の低減効果、圧力損失の低減効果を維持し易いからである。具体的な構成材料は、炭素材と有機材とを含有する複合材料、より具体的には黒鉛などの導電性無機材とポリオレフィン系有機化合物や塩素化有機化合物などの有機材とを含む導電性プラスチックが挙げられる。
【0067】
炭素材は、黒鉛の他、カーボンブラック、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)などが挙げられる。カーボンブラックは、アセチレンブラックやファーネスブラックなどが挙げられる。炭素材は、黒鉛を含むことが好ましい。炭素材は、黒鉛を主体とし、一部としてカーボンブラック及びDLCの少なくとも一方を含むことができる。導電性無機材は、炭素材に加えて、アルミニウムなどの金属を含むことができる。導電性無機材は、粉末や繊維が挙げられる。
【0068】
ポリオレフィン系有機化合物は例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンなどが挙げられる。塩素化有機化合物は例えば、塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、塩素化パラフィンなどが挙げられる。
【0069】
流路10を備える双極板1は、上記の構成材料を射出成型、プレス成型、真空成型などの公知の方法によって板状に成形すると共に、流路10となる溝部11(導入側縦溝部12y,排出側縦溝部14y及び導入側横溝部12x,排出側横溝部14x)をも成形することで製造できる。溝部11を同時成形すれば双極板1の製造性に優れる。流路10を有していない平板材に切削加工などを行って、流路10となる溝部11(導入側縦溝部12y,排出側縦溝部14y及び導入側横溝部12x,排出側横溝部14x)を形成することもできる。
【0070】
〔効果〕
縦溝構造の流路10の場合、導入側縦溝部12y,排出側縦溝部14yが鉛直方向に沿って配置されていることで、RF電池の運転開始前に空の状態である電池セルに電解液を供給する際に気泡が生じ難い。また、電池セル内に気泡が生じたとしてもその気泡は排出口14oに向かって排出され易い。そのため、電解液の電池セルへの充填後におけるRF電池の運転開始にあたって、電極に気泡が停留し難い。その結果、電極における電池反応面積の減少を抑制でき、RF電池の内部抵抗の増加を抑制できる。
【0071】
特に、流路10が導入側流路12と排出側流路14とを備える噛合型の対向櫛歯形状であることで、導入側流路12の導入側縦溝部12yと排出側流路14の排出側縦溝部14yとの間で畝部分16を渡るように電極における電池反応域が形成される。この電池反応域によって電解液との接触面積を十分に確保できるため、電池反応を良好に行える。
【0072】
〔双極板以外のRF電池の構成〕
上記双極板1の説明にあたり、双極板1以外のRF電池100(
図7,8を参照)の構成は従来と同じものを採用することができると述べた。本実施形態1のRF電池は、正極電極、隔膜、負極電極を重ねた電池セルと、額縁状の枠体に一体化された双極板を有するセルフレームとを備え、電池セルをセルフレームで挟んで複数積層しており、双極板に上述した本実施形態の流路10を備える双極板1を用いている。つまり、隣接する各セルフレームの双極板1の間に一つの電池セルが形成されており、双極板1を挟んで表裏に、隣り合う電池セルの正極電極と負極電極とが配置されている。
【0073】
電解液には、
図7に示すように、バナジウムイオンを各極活物質としたバナジウム系電解液が好適に利用できる。その他、正極活物質として鉄(Fe)イオンを、負極活物質としてクロム(Cr)イオンを用いた鉄(Fe
2+/Fe
3+)−クロム(Cr
3+/Cr
2+)系電解液や、正極電解液にマンガン(Mn)イオン、負極電解液にチタン(Ti)イオンを用いるマンガン(Mn
2+/Mn
3+)−チタン(Ti
4+/Ti
3+)系電解液が好適に利用できる。
【0074】
≪実施形態2≫
実施形態2では、
図3に示す非噛合型の対向櫛歯形状の流路10を有する双極板2を説明する。非噛合型の対向櫛歯形状とは、導入側流路12の櫛歯流路と排出側流路14の櫛歯流路とが、互いに噛み合わずに対向配置された形状である。双極板2の基本的構成は、実施形態1の双極板1と同様であり、流路10の形態のみが異なる。
【0075】
導入側流路12は、導入口12iと、双極板2の横方向(
図3では左右方向)に延設される一つの導入側横溝部12xと、導入側横溝部12xから双極板2の縦方向(
図3では上下方向)に延設され、所定の間隔をあけて並列配置される複数の導入側縦溝部12yと、を備える。双極板2の導入側縦溝部12yは、双極板1の導入側縦溝部12yよりも本数が多く、長さが短い。導入口12i、導入側横溝部12x、導入側縦溝部12yは連続している。
【0076】
排出側流路14は、導入側流路12と同様の形状である。排出側流路14は、排出口14oと、双極板2の横方向に延設される一つの排出側横溝部14xと、排出側横溝部14xから双極板2の縦方向に延設され、所定の間隔をあけて並列配置される複数の排出側縦溝部14yと、を備える。双極板2の排出側縦溝部14yも、双極板1の排出側縦溝部14yよりも本数が多く、長さが短い。双極板2では、排出側縦溝部14yの本数と導入側縦溝部12yの本数とが同じとなっている。また、排出側縦溝部14yの長さLyoと導入側縦溝部12yの長さLyiとが同じとなっている。排出口14o、排出側横溝部14x、排出側縦溝部14yは連続している。
【0077】
双極板2では、導入側縦溝部12yと排出側縦溝部14yとが、上下に対称配置されている。よって、隣り合う縦溝部は、導入側縦溝部12y,12y同士、又は排出側縦溝部14y,14y同士である。双極板2は、RF電池100における所定位置に配置したときに、導入側縦溝部12y,排出側縦溝部14yがそれぞれ鉛直方向(
図3では上下方向)に沿って配置されると共に、その鉛直方向と直交する方向に導入側縦溝部12y同士、及び排出側縦溝部14y同士が並列されることになる。導入側縦溝部12yと排出側縦溝部14yとが上下に対称配置されており、導入側縦溝部12yの長さLyiと排出側縦溝部14yの長さLyoとの合計長さ(Lyi+Lyo)と、双極板2の鉛直方向の長さLhとの比率[(Lyi+Lyo)/Lh)]×100は、70%以上99%以下、さらに75%以上99%以下であることが挙げられる。
【0078】
導入口12iから導入された電解液は、溝部11に沿った流れ(
図3で示す実線矢印の方向)と、各導入側縦溝部12y,12y間及び排出側縦溝部14y、14y間に位置する畝部分16を介するような流れ(
図3に示す傾斜した破線矢印の方向)と、導入側流路12の導入側縦溝部12yと排出側流路14の排出側縦溝部14yとの間に位置する畝部分16を介するような流れ(
図3に示す縦方向への破線矢印の方向)と、を形成する。非噛合型の櫛歯形状であっても、隣り合う導入側縦溝部12y,12y間、排出側縦溝部14y,14y間、上下に位置する導入側縦溝部12y,排出側縦溝部14y間を渡るように電極における電池反応を行うことで、未反応のまま排出される電解液量を減少でき、電極における反応電流量を増加できる。また、RF電池の内部抵抗を低減できる。
【0079】
また、非噛合型の櫛歯形状であっても、導入側縦溝部12y,排出側縦溝部14yが鉛直方向に沿って配置されているため、電解液の電池セルへの充填後におけるRF電池の運転開始にあたって、電極に気泡が停留し難く、電極における電池反応面積の減少を抑制でき、RF電池の内部抵抗の増加を抑制できる。
【0080】
≪実施形態3≫
実施形態3では、
図4に示す一連のグリッド形状の流路10を有する双極板3を説明する。グリッド形状とは、導入側流路と排出側流路とが連通された形状である。双極板3の基本的構成は、実施形態1の双極板1と同様であり、流路10の形態のみが異なる。
【0081】
流路10は、溝部11として、双極板3の縦方向(
図4では上下方向)に延設され、所定の間隔をあけて並列配置される複数の縦溝部18yと、各縦溝部18yの導入側及び排出側の各端部を繋ぐ一対の横溝部18x,18xと、を備える。導入側の横溝部18x(
図4の下側)は、一端(
図4の右側)が導入口12iに繋がっており、他端(
図4の左側)が縦溝部18yを介して排出口14oに繋がっている。排出側の横溝部18x(
図4の上側)は、一端(
図4の左側)が排出口14oに繋がっており、他端(
図4の右側)が縦溝部18yを介して導入口12iに繋がっている。導入口12i、一対の横溝部18x,18x、各縦溝部18y、排出口14oは連続している。
【0082】
双極板3でも、導入口12iから導入された電解液は、溝部11に沿った流れ(
図4で示す実線矢印の方向)と、各縦溝部18y,18y間に位置する畝部分16を介して縦溝部18y,18y間を渡るような流れ(
図4に示す破線矢印の方向)と、を形成する。この畝部分16を介して縦溝部18y,18y間を渡るように電極における電池反応を行うことで、未反応のまま排出される電解液量を減少でき、電極における反応電流量を増加できる。また、RF電池の内部抵抗を低減できる。
【0083】
双極板3では、縦溝部18yが導入口12iから排出口14oまで連通しているため、電解液の電池セルへの充填後におけるRF電池の運転開始にあたって、電池セル内の気泡が排出され易く、電極に気泡が停留し難い。よって、双極板3では、電極における電池反応面積の減少をより抑制し易く、RF電池の内部抵抗の増加を抑制し易い。
【0084】
≪実施形態4≫
実施形態4では、
図5に示す断続形状の流路10を有する双極板4を説明する。双極板4は、実施形態1で説明した双極板1(
図1)における各導入側縦溝部12y,排出側縦溝部14yを、断続的に(非連続的に)形成した形態である。導入側縦溝部12y,排出側縦溝部14yを断続形状とすることで、電解液が、幅方向の畝部分16だけでなく、縦方向に隣り合う縦溝部間の畝部分16を介して各縦溝部間を渡るように電極における電池反応を行うことができ、電極における反応電流量を増加できると期待される。
【0085】
≪実施形態5≫
実施形態5では、
図6に示す一連の蛇行形状の流路10を有する双極板5を説明する。一連の蛇行形状とは、導入口12iから排出口14oまで一連の溝部11で形成された形状である。溝部11は、並列される複数の縦溝部19yと、複数の縦溝部19yの一端同士又は他端同士を交互に繋ぐ複数の短い横溝部19xと、を備える。
双極板5でも、導入口12iから導入された電解液は、溝部11に沿った流れ(
図6で示す実線矢印の方向)と、各縦溝部19y,19y間に位置する畝部分16を介して縦溝部19y,19y間を渡るような流れ(
図6に示す破線矢印の方向)と、を形成する。この畝部分16を介して縦溝部19y,19y間を渡るように電極における電池反応を行うことで、未反応のまま排出される電解液量を減少でき、電極における反応電流量を増加できると期待される。
【0086】
≪実施形態6≫
実施形態6では、
図11で前記セルフレームと、正極電極と、隔膜と、負極電極とがこの順に積層された積層体が、複数積層してなるセルスタックを備えるレドックスフロー電池を説明する。このレドックスフロー電池は、本発明の実施形態に係るセルスタックを備えるため、電池セル内の電解液の流通抵抗を低減でき、かつ電極における電池反応面積の減少を抑制できることから、電池の内部抵抗を低減できる。
【0087】
≪試験例1≫
試験例1では、噛合型の櫛歯形状の流路を有する双極板を所定位置に配置したRF電池について、実際に電池セルを作製し、RF電池の内部抵抗を調べた。試験例1では、流路が縦溝構造である双極板を用いた試料No.1−1と、流路が横溝構造である双極板を用いた試料No.1−11という2種類のRF電池を作製した。用いたRF電池の仕様を以下に示す。なお、試験例1では、正極電極−隔膜−負極電極を重ねた電池セルを、双極板を備えるセルフレームで挟んだ単セル構造のRF電池とした。そのため、RF電池の内部抵抗は、セル抵抗率として表す。
【0088】
〔試料No.1−1〕
・双極板
寸法:長さ200mm、幅198mm、厚み6.2mm
流路形状:導入側流路と排出側流路とを備える噛合型の対向櫛歯形状(
図1を参照)
縦溝部について
数:導入側流路16本×排出側流路16本
長さLy:150mm
重複長さLo:142mm
幅Wy:1.3mm
深さD:1.0mm
溝間距離R:3.9mm
断面形状:矩形形状
横溝部について
長さLx:170mm
構成材料:黒鉛80%とマトリックス樹脂としてポリプロピレン20%とを圧粉成形した双極板
・電極
寸法:長さ170mm、幅150mm、厚み0.5mm
構成材料:炭素繊維とバインダー炭素とを含むカーボンフェルト
SGLカーボンジャパン株式会社製 GDL10AA
・隔膜
構成材料:デュポン株式会社製 ナフィオン(登録商標)212
・電解液
組成:硫酸V水溶液(V濃度:1.7mol/L、硫酸濃度:4.3mol/L)
流量:5.4mL/min
【0089】
〔試料No.1−11〕
・双極板
寸法:長さ200mm、幅198mm、厚み6.2mm
流路形状:導入側流路と排出側流路とを備える噛合型の対向櫛歯形状
導入側流路:導入口と、双極板の縦方向(鉛直方向)に延設される一つの縦溝部と、縦溝部から双極板の横方向(鉛直方向と直交する方向)に延設され、所定の間隔をあけて並列配置される複数の横溝部と、を備える
排出側流路:排出口と、双極板の縦方向(鉛直方向)に延設される一つの縦溝部と、縦溝部から双極板の横方向(鉛直方向と直交する方向)に延設され、所定の間隔をあけて並列配置される複数の横溝部と、を備える
電解液の流れ:導入口⇒導入側縦溝部⇒導入側横溝部⇒排出側横溝部⇒排出側縦溝部⇒排出口
横溝部について
数:導入側流路16本×排出側流路16本
長さLx:150mm
重複長さLo:142mm
幅Wy:1.3mm
深さD:1.0mm
溝間距離R:3.9mm
断面形状:矩形形状
縦溝部について
長さLy:170mm
構成材料:炭素繊維とバインダー炭素とを含むカーボンフェルト
SGLカーボンジャパン株式会社製 GDL10AA
・電極、隔膜、電解液:試料No.1−1と同じ
【0090】
作製した各試料の単セル構造のRF電池(電解液が空の状態)に電解液を供給して充填後、電流密度:0.2A/cm
2の定電流で充放電を行った。試験例1では、予め設定した所定の切替電圧に達したら、充電から放電に切り替え、複数サイクルの充放電を行った。各サイクルの充放電後、各試料についてセル抵抗率(Ω・cm
2)を求めた。セル抵抗率は、各サイクルにおける充電時の通電電圧と放電時の通電電圧の差分、及び通電電流を求め、電圧/電流とした。
【0091】
試料No.1−1の結果を
図9に示し、試料No.1−11の結果を
図10に示す。
図9及び
図10はそれぞれ、横軸が充放電のサイクル数であり、縦軸がセル抵抗率(Ω・cm
2)を示す。
【0092】
図9に示すように、流路が縦溝構造である双極板を用いた試料No.1−1は、RF電池の運転開始初期からセル抵抗率の増加は見られず、安定した運転が行えることがわかる。これは、流路が縦溝構造である双極板を用いた場合、双極板が鉛直方向に沿って並列される縦溝部を備えることで、電解液の充填時に生じ得る気泡を上方に排出できているからと考えられる。電解液の充填時に気泡を排出できていることで、RF電池の運転開始直後から、気泡による電極での電池反応面積の減少が実質的に生じていないからと考えられる。
【0093】
一方、
図10に示すように、流路が横溝構造である双極板を用いた試料No.1−11は、RF電池の運転開始直後から20サイクル程度の充放電の間にセル抵抗率のばらつきが生じていることがわかる。これは、流路が横溝構造である双極板を用いた場合、鉛直方向と直交する方向に沿って並列される横溝部が主に双極板を占めることで、電解液の充填時に生じ得る気泡は浮力によって上昇して横溝部の壁面にぶつかり電極に滞留していると考えられる。電極に気泡が滞留することで、電極における電池反応面積が減少してしまい、十分な電池反応を行えていないからと考えられる。なお、流路が横溝構造である試料No.1−11では、20サイクル程度以上の充放電になると、セル抵抗率は安定する傾向にあることがわかる。これは、電池セル内における電解液の循環によって、時間をかけて気泡が排出されたからと考えられる。