(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
[水性インク]
本発明の水性インク(以下、単に「インク」ともいう)は、顔料(A)、ポリプロピレングリコール(B)、有機溶媒(C)、ワックスエマルション(D)及び水を含有する水性インクであって、ワックスエマルション(D)に含まれるワックスの融点が108℃以上である。
なお、「水性」とは、顔料を分散させる媒体中で、水が最大割合を占めていることを意味する。
本発明の水性インクは、保存安定性に優れ、良好な印刷物を得ることができるため、フレキソ印刷用インキ、グラビア印刷用インキ、又はインクジェット用インクとして好適に用いることができ、また、インクジェット記録方式における高い間欠吐出安定性を維持したまま、顔料のローラー写りを抑制できるため、特にインクジェット用インクとして用いることが好ましい。
【0010】
本発明の水性インクを用いれば、インクジェット記録方式での吐出ノズルからインクを吐出しないで所定時間が経過した後のインクの間欠吐出安定性を、高速印刷においても維持したまま、顔料のローラー写りを抑制でき、水性インクの保存安定性に優れるという効果を奏する。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
水性インクを用いた印刷では、ノズル毎に使用頻度が異なり、使用頻度が低いノズルではインクの乾燥が進行するため固化し易くなる。更に低吸液性の印刷媒体上では、インクの吸収が遅いか又は吸収されないために顔料が印刷面の表面に残在する。
ここで本発明においては、インクに保湿剤としてポリプロピレングリコール(B)を添加することによりインクの乾燥を抑制し、インクの固化による吐出不良を防止しつつ、インク中に加える有機溶媒(C)の総量を減らすことができる。また、融点108℃以上の溶融しにくいワックスを含むワックスエマルション(D)を添加することにより、吐出ノズル近傍でのワックス粒子の溶融を起因とするインクの間欠吐出の不安定化を抑制することができ、かつ印刷時における顔料のローラー写りも抑制できると考えられる。一方、ワックスの融点が108℃未満であると間欠的な印刷の際に、吐出ノズル近傍でワックスの溶融(又は軟化)と凝固が繰り返され、ワックスエマルションの凝集や変形、さらにノズル部材への付着を生じ、間欠吐出の不安定化を引き起こすと考えられる。
更に、ポリプロピレングリコール(B)とワックスエマルション(D)を併用しても、融点108℃以上のワックスを含むワックスエマルション(D)はポリプロピレングリコール(B)による可塑化や分散不安定化を受けにくいため、高速印刷においても、より優れた間欠吐出安定性と保存安定性を発揮することができる。
【0011】
<水性インク>
本発明の水性インクは、顔料(A)、ポリプロピレングリコール(B)、有機溶媒(C)、ワックスエマルション(D)及び水を含有する。
【0012】
<顔料(A)>
顔料(A)は、染料に比べて、印刷物の耐水性、耐候性の点で有利である。
顔料(A)は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。また、必要に応じて、それらと体質顔料を併用することもできる。
無機顔料の具体例としては、カーボンブラック、金属酸化物等が挙げられ、特に黒色インクにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
有機顔料の具体例としては、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
色相は特に限定されず、イエロー、マゼンタ、シアン、ブルー、レッド、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
好ましい有機顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー、C.I.ピグメント・レッド、C.I.ピグメント・オレンジ、C.I.ピグメント・バイオレット、C.I.ピグメント・ブルー、及びC.I.ピグメント・グリーンから選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられる。
体質顔料としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。
【0013】
顔料(A)は、インク中に、自己分散型顔料、ポリマー分散剤で分散された顔料、又は顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子として含有される。
顔料(A)は、インクの保存安定性及び間欠吐出安定性をさらに向上させ、顔料のローラー写りを抑制する観点から、顔料(A)を含有する水不溶性ポリマー粒子(以下、単に「顔料含有ポリマー粒子」ともいう)として含有されることが好ましい。
【0014】
〔顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子(顔料含有ポリマー粒子)〕
(水不溶性ポリマー)
水不溶性ポリマーは、顔料分散作用を発現する顔料分散剤としての機能と、印刷媒体への定着剤としての機能を有する。
ここで、「水不溶性」とは、105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマーを、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g以下であることを意味し、その溶解量は好ましくは5g以下、より好ましくは1g以下である。水不溶性ポリマーがアニオン性ポリマーの場合、その溶解量は、ポリマーのアニオン性基を水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量である。水不溶性ポリマーがカチオン性ポリマーの場合、その溶解量は、ポリマーのカチオン性基を塩酸で100%中和した時の溶解量である。
水不溶性ポリマーのインク中での存在形態は、顔料に吸着している状態、顔料を含有している顔料内包(カプセル)状態、及び顔料を吸着していない形態がある。顔料の分散安定性の観点から、本発明においては顔料含有ポリマー粒子の形態が好ましく、顔料を含有している顔料内包状態がより好ましい。
用いられるポリマーとしては、ポリエステル、ポリウレタン、ビニル系ポリマー等が挙げられるが、インクの保存安定性を向上させる観点から、ビニルモノマー(ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物)の付加重合により得られるビニル系ポリマーが好ましい。
【0015】
ビニル系ポリマーとしては、(a)イオン性モノマー(以下、「(a)成分」ともいう)と、(b)疎水性モノマー(以下、「(b)成分」ともいう)とを含むモノマー混合物(以下、単に「モノマー混合物」ともいう)を共重合させてなるビニル系ポリマーが好ましい。このビニル系ポリマーは、(a)成分由来の構成単位と(b)成分由来の構成単位を有する。中でも、更に(c)マクロモノマー(以下、「(c)成分」ともいう)由来の構成単位を含有するものが好ましい。
【0016】
〔(a)イオン性モノマー〕
(a)イオン性モノマーは、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点から、水不溶性ポリマーのモノマー成分として用いられることが好ましい。イオン性モノマーとしては、アニオン性モノマー及びカチオン性モノマーが挙げられ、アニオン性モノマーが好ましい。なお、イオン性モノマーには、酸やアミン等の中性ではイオンではないモノマーであっても、酸性やアルカリ性の条件でイオンとなるモノマーを含む。
アニオン性モノマーとしては、カルボン酸モノマー、スルホン酸モノマー、リン酸モノマー等が挙げられる。
カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。
上記アニオン性モノマーの中では、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点から、カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
カチオン性モノマーとしては、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリルアミド等が挙げられる。
【0017】
〔(b)疎水性モノマー〕
(b)疎水性モノマーは、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点から、水不溶性ポリマーのモノマー成分として用いられることが好ましい。疎水性モノマーとしては、アルキル(メタ)アクリル酸エステル、芳香族基含有モノマー等が挙げられる。
アルキル(メタ)アクリル酸エステルとしては、炭素数1〜22、好ましくは炭素数6〜18のアルキル基を有するものが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」は、これらの基が存在する場合としない場合の双方を意味し、これらの基が存在しない場合には、ノルマルを示す。また、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上を意味し、「(メタ)アクリル酸エステル」とは、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルから選ばれる1種以上を意味する。したがって「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートから選ばれる1種以上を意味する。以下における「(メタ)」も同義である。
【0018】
芳香族基含有モノマーとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6〜22の芳香族基を有するビニルモノマーが好ましく、スチレン系モノマー、芳香族基含有(メタ)アクリル酸エステルがより好ましい。
スチレン系モノマーとしてはスチレン、2−メチルスチレン、及びジビニルベンゼンが好ましく、スチレンがより好ましい。
また、芳香族基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が好ましく、ベンジル(メタ)アクリレートがより好ましい。
(b)疎水性モノマーは、前記のモノマーを2種以上使用してもよく、スチレン系モノマーと芳香族基含有(メタ)アクリル酸エステルを併用してもよい。
【0019】
〔(c)マクロモノマー〕
(c)マクロモノマーは、片末端に重合性官能基を有する数平均分子量500以上100,000以下の化合物であり、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点から、水不溶性ポリマーのモノマー成分として用いられることが好ましい。片末端に存在する重合性官能基としては、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基が好ましく、メタクリロイルオキシ基がより好ましい。
(c)マクロモノマーの数平均分子量は1,000以上10,000以下が好ましい。なお、数平均分子量は、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミンを含有するクロロホルムを用いたゲル浸透クロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
(c)マクロモノマーとしては、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点から、芳香族基含有モノマー系マクロモノマー及びシリコーン系マクロモノマーが好ましく、芳香族基含有モノマー系マクロモノマーがより好ましい。
芳香族基含有モノマー系マクロモノマーを構成する芳香族基含有モノマーとしては、前記(b)疎水性モノマーで記載した芳香族基含有モノマーが挙げられ、スチレン及びベンジル(メタ)アクリレートが好ましく、スチレンがより好ましい。
スチレン系マクロモノマーの具体例としては、AS−6(S)、AN−6(S)、HS−6(S)(東亞合成株式会社の商品名)等が挙げられる。
シリコーン系マクロモノマーとしては、片末端に重合性官能基を有するオルガノポリシロキサン等が挙げられる。
【0020】
〔(d)ノニオン性モノマー〕
水不溶性ポリマーには、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点から、更に、(d)ノニオン性モノマー(以下、「(d)成分」ともいう)をモノマー成分として用いることが好ましい。
(d)成分としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2〜30、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。以下同じ)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(n=2〜30)(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(n=1〜30)(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシ(エチレングリコール−プロピレングリコール共重合)(n=1〜30、その中のエチレングリコール:n=1〜29)(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0021】
商業的に入手しうる(d)成分の具体例としては、新中村化学工業株式会社のNKエステルM−20G、同40G、同90G、同230G等、日油株式会社のブレンマーPE−90、同200、同350等、PME−100、同200、同400等、PP−500、同800、同1000等、AP−150、同400、同550等、50PEP−300、50POEP−800B、43PAPE−600B等が挙げられる。
上記(a)〜(d)成分は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0022】
(モノマー混合物中又はポリマー中における各成分又は構成単位の含有量)
水不溶性ポリマー製造時における、上記(a)及び(b)成分のモノマー混合物中における含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)又は水不溶性ポリマー中における(a)及び(b)成分に由来する構成単位の含有量は、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点から、次のとおりである。
(a)成分の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは45質量%以下、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
(b)成分の含有量は、好ましくは35質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは45質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは75質量%以下である。
【0023】
更に(c)及び/又は(d)成分を含有する場合の水不溶性ポリマー製造時における、上記(a)〜(d)成分のモノマー混合物中における含有量又は水不溶性ポリマー中における(a)〜(d)成分に由来する構成単位の含有量は、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点から、次のとおりである。
(a)成分の含有量は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは7質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
(b)成分の含有量は、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは35質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
(c)成分を含有する場合、(c)成分の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
(d)成分を含有する場合、(d)成分の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
[(a)成分/(b)成分]の質量比は、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.15以上、更に好ましくは0.25以上であり、そして、好ましくは1.2以下、より好ましくは0.80以下、更に好ましくは0.50以下である。
また、(c)成分を含有する場合、[(a)成分/〔(b)成分+(c)成分〕]の質量比は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.10以上であり、そして、好ましくは1以下、より好ましくは0.60以下、更に好ましくは0.40以下である。
【0024】
(水不溶性ポリマーの製造)
前記水不溶性ポリマーは、モノマー混合物を塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法により共重合させることによって製造される。これらの重合法の中では、溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒に制限はないが、炭素数1〜3の脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等の極性有機溶媒が好ましく、具体的にはメタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトンが挙げられ、メチルエチルケトンが好ましい。
重合の際には、重合開始剤や重合連鎖移動剤を用いることができるが、重合開始剤としては、アゾ化合物が好ましく、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)がより好ましい。重合連鎖移動剤としては、メルカプタン類が好ましく、2−メルカプトエタノールがより好ましい。
【0025】
好ましい重合条件は、重合開始剤の種類等によって異なるが、重合温度は、好ましくは50℃以上90℃以下、重合時間は好ましくは1時間以上20時間以下である。また、重合雰囲気は、好ましくは窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気である。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去することができる。
水不溶性ポリマーは、後述する顔料含有ポリマー粒子の水分散体の生産性を向上させる観点から、重合反応に用いた溶剤を除去せずに、含有する有機溶媒を後述する工程Iに用いる有機溶媒として用いるために、そのまま水不溶性ポリマー溶液として用いることが好ましい。
水不溶性ポリマー溶液の固形分濃度は、顔料含有ポリマー粒子の水分散体の生産性を向上させる観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下である。
本発明で用いられる水不溶性ポリマーの重量平均分子量は、顔料含有ポリマー粒子のインク中における分散安定性を向上させる観点、及びインクの保存安定性及び間欠吐出安定性をさらに向上させ、顔料のローラー写りを抑制する観点から、好ましくは5,000以上、より好ましくは10,000以上、更に好ましくは20,000以上であり、そして、好ましくは500,000以下、より好ましくは400,000以下、更に好ましくは300,000以下、より更に好ましくは200,000以下である。
なお、重量平均分子量の測定は実施例に記載の方法により行うことができる。
【0026】
〔顔料含有ポリマー粒子の製造〕
本発明の水性インクは、顔料(A)を含有する水不溶性ポリマー粒子を含有することができる。
顔料(A)を含有する水不溶性ポリマー粒子(顔料含有ポリマー粒子)は、水分散体として下記の工程I及び工程IIを有する方法により、効率的に製造することができる。
工程I:水不溶性ポリマー、有機溶媒、顔料(A)、及び水を含有する混合物(以下、「顔料混合物」ともいう)を分散処理して、顔料含有ポリマー粒子の分散体を得る工程
工程II:工程Iで得られた分散体から前記有機溶媒を除去して、顔料含有ポリマー粒子の水分散体(以下、「顔料水分散体」ともいう)を得る工程
【0027】
(工程I)
工程Iでは、まず、水不溶性ポリマーを有機溶媒に溶解させ、次に顔料(A)、水、及び必要に応じて中和剤、界面活性剤等を、得られた有機溶媒溶液に加えて混合し、水中油型の分散体を得る方法が好ましい。水不溶性ポリマーの有機溶媒溶液に加える順序に制限はないが、水、中和剤、顔料(A)の順に加えることが好ましい。
水不溶性ポリマーを溶解させる有機溶媒に制限はないが、炭素数1〜3の脂肪族アルコール、ケトン類、エーテル類、エステル類等が好ましく、顔料(A)への濡れ性、水不溶性ポリマーの溶解性、及び水不溶性ポリマーの顔料(A)への吸着性を向上させる観点から、炭素数4以上8以下のケトンがより好ましく、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが更に好ましく、メチルエチルケトンがより更に好ましい。
水不溶性ポリマーを溶液重合法で合成した場合には、重合で用いた溶媒をそのまま用いてもよい。
【0028】
(中和)
水不溶性ポリマーがアニオン性ポリマーの場合、中和剤を用いて水不溶性ポリマー中のアニオン性基を中和してもよい。中和剤を用いる場合、pHが7以上11以下になるように中和することが好ましい。
中和剤としては、アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、有機アミン等が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムが挙げられるが、水酸化ナトリウムが好ましい。有機アミンとしては、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
中和剤は、インクの間欠吐出安定性及び保存安定性をさらに向上させる観点から、アルカリ金属の水酸化物、アンモニアが好ましく、水酸化ナトリウムとアンモニアを併用することがより好ましい。また、該水不溶性ポリマーを予め中和しておいてもよい。
中和剤は、十分かつ均一に中和を促進させる観点から、中和剤水溶液として用いることが好ましい。中和剤水溶液の濃度は、上記の観点から、3質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上が更に好ましく、また、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましい。
水不溶性ポリマーのアニオン性基の中和度は、顔料含有ポリマー粒子の顔料水分散体及びインク中における分散安定性及び保存安定性を向上させる観点から、好ましくは30モル%以上、より好ましくは40モル%以上、更に好ましくは50モル%以上であり、また、好ましくは300モル%以下、より好ましくは200モル%以下、更に好ましくは150モル%以下である。
ここで中和度とは、中和剤のモル当量を水不溶性ポリマーのアニオン性基のモル量で除したものである。
【0029】
(顔料混合物中の各成分の含有量)
工程Iにおける顔料(A)の顔料混合物中の含有量は、顔料水分散体の分散安定性を向上させる観点、及びインクの保存安定性及び間欠吐出安定性をさらに向上させ、顔料のローラー写りを抑制する観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは12質量%以上、更に好ましくは14質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
水不溶性ポリマーの顔料混合物中の含有量は、顔料水分散体の分散安定性を向上させる観点、及びインクの保存安定性及び間欠吐出安定性をさらに向上させ、顔料のローラー写りを抑制する観点から、好ましくは2.0質量%以上、より好ましくは4.0質量%以上、更に好ましくは5.0質量%以上であり、また、好ましくは15質量%以下、より好ましくは12質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
有機溶媒の顔料混合物中の含有量は、顔料(A)への濡れ性及び水不溶性ポリマーの顔料への吸着性を向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは12質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、また、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下である。
水の顔料混合物中の含有量は、顔料水分散体の分散安定性を向上させる観点、及び生産性を向上させる観点から、好ましくは40質量%以上、より好ましくは45質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、また、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。
【0030】
水不溶性ポリマー(a)に対する顔料(A)の顔料混合物中の質量比〔(A)/(a)〕は、顔料水分散体の分散安定性を向上させる観点、及びインクの保存安定性及び間欠吐出安定性をさらに向上させ、顔料のローラー写りを抑制する観点から、好ましくは30/70以上、より好ましくは40/60以上、更に好ましくは50/50以上であり、そして、好ましくは90/10以下、より好ましくは80/20以下、更に好ましくは75/25以下である。
【0031】
(顔料混合物の分散処理)
工程Iにおいては、前記顔料混合物を分散処理して、顔料含有ポリマー粒子の分散体を得る。分散体を得る分散方法に特に制限はない。本分散だけで顔料粒子の平均粒径を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、好ましくは顔料混合物を予備分散させた後、更に剪断応力を加えて本分散を行い、顔料粒子の平均粒径を所望の粒径とするよう制御することが好ましい。
工程Iの予備分散における温度は、好ましくは0℃以上であり、また、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下、更に好ましくは25℃以下であり、分散時間は好ましくは0.5時間以上、より好ましくは0.8時間以上であり、また、好ましくは30時間以下、より好ましくは10時間以下、更に好ましくは5時間以下である。
顔料混合物を予備分散させる際には、アンカー翼、ディスパー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置を用いることができるが、中でも高速撹拌混合装置が好ましい。
【0032】
本分散の剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ニーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー(Microfluidic社製)等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。市販のメディア式分散機としては、ウルトラ・アペックス・ミル(寿工業株式会社製)、ピコミル(浅田鉄工株式会社製)等が挙げられる。これらの装置は複数を組み合わせることもできる。これらの中では、顔料を小粒子径化する観点から、高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
高圧ホモジナイザーを用いて本分散を行う場合、処理圧力やパス回数の制御により、顔料を所望の粒径になるように制御することができる。
処理圧力は、生産性及び経済性の観点から、好ましくは60MPa以上、より好ましくは100MPa以上、更に好ましくは130MPa以上であり、また、好ましくは200MPa以下、より好ましくは180MPa以下である。
また、パス回数は、好ましくは3以上、より好ましくは10以上であり、また、好ましくは30以下、より好ましくは25以下である。
【0033】
(工程II)
工程IIでは、工程Iで得られた分散体から、公知の方法で有機溶媒を除去することで、顔料含有ポリマー粒子の水分散体(顔料水分散体)を得ることができる。得られた顔料水分散体中の有機溶媒は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残存していてもよい。残留有機溶媒の量は、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下である。
また必要に応じて、有機溶媒を留去する前に分散体を加熱撹拌処理することもできる。
得られた顔料水分散体は、顔料(A)を含有する固体の水不溶性ポリマー粒子が水を主媒体とする媒体中に分散しているものである。ここで、顔料含有ポリマー粒子の形態は特に制限はなく、少なくとも顔料(A)と水不溶性ポリマーにより粒子が形成されていればよい。例えば、水不溶性ポリマーに顔料(A)が内包された粒子形態、水不溶性ポリマー中に顔料(A)が均一に分散された粒子形態、水不溶性ポリマーの粒子表面に顔料(A)が露出された粒子形態等が含まれ、これらの混合物も含まれる。
【0034】
得られた顔料水分散体の不揮発成分濃度(固形分濃度)は、顔料水分散体の分散安定性を向上させる観点及びインクの調製を容易にする観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
なお、顔料水分散体の固形分濃度は、実施例に記載の方法により測定される。
顔料水分散体中の顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、粗大粒子を低減し、インクの間欠吐出安定性をさらに向上させる観点から、好ましくは40nm以上、より好ましくは60nm以上、更に好ましくは75nm以上であり、また、好ましくは150nm以下、より好ましくは120nm以下、更に好ましくは110nm以下である。
なお、顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
また、インク中の顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、顔料水分散体中の平均粒径と同じであり、好ましい平均粒径の態様は、顔料水分散体中の平均粒径の好ましい態様と同じである。
【0035】
<ポリプロピレングリコール(B)>
ポリプロピレングリコール(B)は、印刷ヘッドのノズル孔近傍で発生するインクの凝集付着物の会合力を緩和させ、高速印刷時における間欠吐出安定性をさらに向上させる観点から用いられる。
ポリプロピレングリコール(B)は、プロピレングリコールの重合体であり、重合度の異なる複数の成分からなる分布を有する。ポリプロピレングリコール(B)の重合度は、インクに適切な粘性を付与し、間欠吐出安定性をさらに向上させる観点から、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、更に好ましくは5以上、より更に好ましくは6以上であり、そして、30以下、好ましくは25以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは15以下である。
ポリプロピレングリコール(B)の平均分子量は、インクに適切な粘性を付与し、間欠吐出安定性をさらに向上させる観点から、好ましくは250以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上、より更に好ましくは500以上であり、そして、同様の観点から、好ましくは2000以下、より好ましくは1800以下、更に好ましくは1600以下、より更に好ましくは1400以下である。
ポリプロピレングリコール(B)の重合度の測定、平均分子量の算出は、実施例に記載の方法により行うことができる。
【0036】
<有機溶媒(C)>
有機溶媒(C)は、インクの保存安定性及び間欠吐出安定性を向上させる観点から用いられる。
有機溶媒(C)の沸点は、上記と同様の観点から、好ましくは150℃以上、より好ましくは160℃以上、更に好ましくは180℃以上であり、そして、好ましくは250℃以下、より好ましくは246℃以下、更に好ましくは215℃以下、より更に好ましくは210℃以下、より更に好ましくは200℃以下である。有機溶媒(C)として、2種以上の有機溶媒を用いる場合は、沸点の異なる複数の有機溶媒の含有量(質量%)で重み付けした加重平均値で150℃以上250℃以下とすることが好ましい。
【0037】
有機溶媒(C)としては、例えば、多価アルコール、多価アルコールアルキルエーテル、含窒素複素環化合物、アミド、アミン、含硫黄化合物等が挙げられるが、多価アルコール、多価アルコールアルキルエーテル及び含窒素複素環化合物から選ばれる1種以上が好ましく、多価アルコール及び含窒素複素環化合物から選ばれる1種以上がより好ましい。
有機溶媒(C)中の、多価アルコール、多価アルコールアルキルエーテル及び含窒素複素環化合物から選ばれる1種以上の合計含有量は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましく、実質的に100質量%がより更に好ましい。
【0038】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール(沸点197℃)、ジエチレングリコール(沸点244℃)、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール(沸点188℃)、ジプロピレングリコール(沸点232℃)、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール(沸点210℃)、1,3−ブタンジオール(沸点208℃)、1,4−ブタンジオール(沸点230℃)、3−メチル−1,3−ブタンジオール(沸点203℃)、1,5−ペンタンジオール(沸点242℃)、1,6−ヘキサンジオール(沸点250℃)、2−メチル−2,4−ペンタンジオール(沸点196℃)、1,2,6−ヘキサントリオール(沸点178℃)、1,2,4−ブタントリオール(沸点190℃)、1,2,3−ブタントリオール(沸点175℃)、ペトリオール(沸点216℃)等が挙げられる。
また、トリエチレングリコール(沸点285℃)、トリプロピレングリコール(沸点273℃)、グリセリン(沸点290℃)等の沸点が250℃を超える多価アルコールを、沸点が250℃未満の多価アルコール、好ましくは沸点が230℃未満の多価アルコールと組み合わせて用いることができる。これらの中では、インクの保存安定性及び間欠吐出安定性をさらに向上させ、顔料のローラー写りを抑制する観点から、エチレングリコール、ジエチレングリコール及びプロピレングリコールが好ましく、ジエチレングリコール及びプロピレングリコールがより好ましい。
【0039】
多価アルコールアルキルエーテルとしては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル(沸点135℃)、エチレングリコールモノブチルエーテル(沸点171℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点194℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点202℃)、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル(沸点207℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点230℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点122℃)、トリエチレングリコールモノイソブチルエーテル(沸点160℃)、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点158℃)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(沸点133℃)、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル(沸点227℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点90℃)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点100℃)、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。これらの中では、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルが好ましい。
含窒素複素環化合物としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(沸点202℃)、2−ピロリドン(沸点245℃)、1,3−ジメチルイミダゾリジノン(沸点220℃)、ε−カプロラクタム(沸点136℃)等が挙げられる。これらの中では、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドンが好ましい。
【0040】
上記の有機溶媒の中でも、インクの保存安定性及び間欠吐出安定性をさらに向上させる観点から、ジエチレングリコール、プロピレングリコール及び2−ピロリドンから選ばれる1種以上を含有することが好ましく、ジエチレングリコール及びプロピレングリコールから選ばれる1種以上を含有することがより好ましい。
また、低吸水性の記録媒体に印字する際に、吐出性、紙面上でのインクの乾燥性の観点から、多価アルコールの1種又は2種以上と、含窒素複素環化合物の1種又は2種以上を適宜組み合せて用いることも好ましい。
【0041】
<ワックスエマルション(D)>
本発明において、ワックスエマルション(D)は、インクの保存安定性及び間欠吐出安定性を向上させ、顔料のローラー写りを抑制する観点から、含まれるワックスの融点が108℃以上であるものが用いられる。
ワックスエマルション(D)に含まれるワックスの融点は、好ましくは110℃以上、より好ましくは115℃以、更に好ましくは120℃以上であり、そして、好ましくは150℃以下、より好ましくは145℃以下、更に好ましくは140℃以下である。
なお、ワックスの融点は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0042】
ワックスエマルション(D)としては、ポリオレフィン系ワックス、パラフィンワックス、サゾールワックス等を含むワックスエマルションが挙げられる。
ポリオレフィン系ワックスは、オレフィン系モノマーを主成分とする重合体又は共重合体である。パラフィンワックスは、炭素数20〜30の鎖式飽和炭化水素の混合物からなる石油系ワックスである。また、サゾールワックスは、フィッシャー・トロプシュ法により一酸化炭素と水素を原料に製造されるほぼ飽和直鎖状炭化水素からなる合成ワックスである。
これらのワックスエマルションの中では、インクの保存安定性及び間欠吐出安定性をさらに向上させ、顔料のローラー写りを抑制する観点から、ポリオレフィン系ワックス及びパラフィンワックスから選ばれる1種以上を含むワックスエマルションが好ましく、ポリオレフィン系ワックスを含むワックスエマルションがより好ましい。
【0043】
ポリオレフィン系ワックスに用いられるオレフィン系モノマーとしては、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、メチルブテン、メチルペンテン、メチルヘキセン等の炭素数2〜12の鎖状オレフィン、ノルボルネン等の環状オレフィン等が挙げられる。これらの中では、鎖状オレフィンを主成分とするものが好ましく、エチレン、プロピレン又はブテンを主成分とするものが好ましい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。これらの中では、エチレンを主成分とするポリオレフィン系ワックス(ポリエチレンワックス)がより好ましい。ここで主成分とは、ワックスを構成する成分全体に対して好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上を占めることをいう。
酸化ポリオレフィン系ワックスは、ポリオレフィン系ワックスを公知の方法で酸化させて得られるもので、水性溶媒中で容易に乳化可能なことから、ポリオレフィン系ワックスとして用いることも好ましい。酸化ポリオレフィン系ワックスは、高分子量のポリオレフィン系樹脂を、熱分解や化学的分解等により、所望の分子量に調整しながら、分子内に酸素原子等を導入することにより得ることができる。また、グリコール変性ポリエチレンワックス等の変性ワックスも使用することができる。
本発明においては、酸化ポリオレフィン系ワックス、変性ポリオレフィン系ワックスも、ポリオレフィン系ワックスに含まれるものとする。
上記のワックスを含むワックスエマルションは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
ポリオレフィン系ワックス、パラフィンワックス、及びサゾールワックスから選ばれる1種以上の合計含有量は、ワックス全量100質量部に対して、好ましくは65質量部以上、より好ましくは80質量部以上、更に好ましくは90質量部以上、より更に好ましくは95質量部以上、より更に好ましくは100質量部である。
【0045】
ワックスエマルション(D)を得る方法は特に限定されない。例えば、ポリオレフィン系ワックスと、必要に応じて用いられるその他のワックスと、公知の界面活性剤を混合して乳化する方法等が挙げられる。界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤等を用いることができる。
非イオン界面活性剤としては、ラウリルアルコール、セチルアルコール、オレイルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコールのエチレンオキシド付加物や、オクチル基やノニル基、ドデシル基等でアルキル化したフェノールのエチレンオキシド付加物が挙げられる。アニオン界面活性剤としては、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール等の高級アルコ−ルのエチレンオキシド付加物をベースとした硫酸エステル塩やリン酸エステル塩、さらにドデシル基でアルキル化したベンゼンスルホン酸塩が挙げられる。
これらの中では、インクの保存安定性及び間欠吐出安定性をさらに向上させ、顔料のローラー写りを抑制する観点から、ワックスをアニオン界面活性剤で乳化したアニオン性のワックスエマルションがより好ましい。
ワックスエマルション(D)のpHは、インクの保存安定性や間欠吐出安定性のさらなる向上、インク中の他の成分との相溶性、及びインクジェットノズル等における金属の腐食を抑制する点から、7〜12であることが好ましく、8〜11であることがより好ましい。
なお、pHは、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0046】
ワックスエマルション(D)のインク中での平均粒径(平均分散粒径)は、ワックスエマルションの分散安定性、インクの保存安定性及び間欠吐出安定性をさらに向上させ、顔料のローラー写りを抑制する観点から、好ましくは800nm以下、より好ましくは500nm以下、更に好ましくは300nm以下、より更に好ましくは100nm以下であり、そして、好ましくは10nm以上、好ましくは30nm以上である。
ワックスエマルションの平均粒径(平均分散粒径)は、動的光散乱法により測定することができ、例えば、実施例記載の方法により、日機装株式会社製マイクロトラック粒度分析計UPAを用いて測定することができる。
ワックスエマルションの市販品の好適例としては、ビックケミー社製のAQUACER507、同513、同515、同526、同531、同533、同537、同539、同552、同1547、中京油脂株式会社製のセロゾール428、同H620、同686、同524、同トラソルCN、ポリロンL−787、同L−788、三井化学株式会社製のケミパールW900、同W4005等のポリエチレンワックスエマルションが挙げられる。
【0047】
<界面活性剤(E)>
本発明の水性インクは、インク粘度の上昇を抑制し、間欠吐出安定性をさらに向上させ、顔料のローラー写りを抑制する観点から、界面活性剤(E)を含有することが好ましい。
界面活性剤(E)としては、上記の観点から、ノニオン性界面活性剤が好ましく、アセチレングリコール系界面活性剤がより好ましい。
アセチレングリコール系界面活性剤としては、好ましくは2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール、2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、及びこれらのEO付加物から選ばれる1種以上であり、より好ましくは2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール、及びこれらのEO付加物から選ばれる1種以上であり、更に好ましくは、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、及びそのEO付加物から選ばれる1種以上である。
【0048】
2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、及び2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオールは、アセチレンと、目的とするアセチレングリコールに対応するケトン又はアルデヒドとを反応させることにより合成することができ、例えば藤本武彦著、全訂版「新・界面活性剤入門」(三洋化成工業株式会社出版、1992年)94頁〜107頁等に記載の方法で得ることができる。
アセチレングリコール系界面活性剤としては、インク粘度の上昇を抑制する観点から、アセチレングリコールのエチレンオキシド(以下、EOという)の平均付加モル数が好ましくは5以上、35以下の化合物が好ましい。
アセチレングリコール系界面活性剤のEO平均付加モル数は、より好ましくは7以上、更に好ましくは8以上、より更に好ましくは9以上、より更に好ましくは9.5以上であり、そして、より好ましくは30以下、更に好ましくは25以下である。
アセチレングリコールのエチレンオキシド付加物は、上記の方法で得られたアセチレングリコールにエチレンオキシドを所望付加数となる様に付加反応を行うことにより得ることができる。
界面活性剤(E)、特にアセチレングリコール系界面活性剤の市販品としては、例えば、日信化学工業株式会社及びAir Products & Chemicals社製の「サーフィノール465(EO平均付加モル数:10、HLB:13)」、「サーフィノール485(EO平均付加モル数:30、HLB:17)」、川研ファインケミカル株式会社製の「アセチレノールE81(EO平均付加モル数:8.1、HLB:12)」、「アセチレノールE100(EO平均付加モル数:10、HLB:13)」、「アセチレノールE200(EO平均付加モル数:20、HLB:16)」等が挙げられる。
【0049】
(顔料(A)の含有量)
インク中の顔料(A)の含有量は、インクの印刷濃度を向上させる観点から、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上、更に好ましくは2.5質量%以上である。また、溶媒揮発時のインク粘度を低くし、間欠吐出安定性をさらに向上させ、顔料のローラー写りを抑制する観点から、好ましくは15.0質量%以下、より好ましくは10.0質量%以下、更に好ましく7.0質量%以下、より更に好ましくは5.0質量%以下である。
(顔料(A)と水不溶性ポリマーとの合計含有量)
インク中の顔料(A)と水不溶性ポリマーとの合計含有量は、好ましくは2.0質量%以上、より好ましくは2.5質量%以上、更に好ましくは3.0質量%以上、より更に好ましくは3.5質量%以上であり、そして、好ましくは17.0質量%以下、より好ましくは12.0質量%以下、更に好ましくは10.0質量%以下、より更に好ましくは8.0質量%以下、より更に好ましくは6.0質量%以下である。
【0050】
(ポリプロピレングリコール(B)の含有量)
インク中のポリプロピレングリコール(B)の含有量は、インクの保存安定性及び間欠吐出安定性をさらに向上させる観点から、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは0.8質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは16質量%以下、更に好ましくは12質量%以下、より更に好ましくは10質量%以下、より更に好ましくは8質量%以下である。
【0051】
(有機溶媒(C)の含有量)
インク中の有機溶媒(C)の含有量は、インクの間欠吐出安定性をさらに向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、より更に好ましくは25質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下、より更に好ましくは35質量%以下である。
【0052】
(ワックスエマルション(D)の含有量)
インク中のワックスエマルション(D)の含有量は、インク中でのワックスエマルションの安定性の観点、及び顔料のローラー写りを抑制する観点から、インク中、固形分として、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上、より更に好ましくは2.0質量%以上であり、間欠吐出安定性をさらに向上する観点から、好ましくは6質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
ポリプロピレングリコール(B)とワックスエマルション(D)の質量比〔(B)/(D)〕は、インクの保存安定性及び間欠吐出安定性をさらに向上させ、顔料のローラー写りを抑制する観点から、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上であり、そして、好ましくは15以下、より好ましくは13以下、更に好ましくは11以下である。
【0053】
(界面活性剤(E)の含有量)
インク中の界面活性剤(E)の含有量は、インク粘度の上昇を抑制し、インクの間欠吐出安定性をさらに向上させ、顔料のローラー写りを抑制する観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であり、そして、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2.5質量%以下である。
(水の含有量)
インク中の水の含有量は、インクの間欠吐出安定性及び保存安定性をさらに向上させ、顔料のローラー写りを抑制する観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは75質量%以下、より更に好ましくは60質量%以下である。
【0054】
(その他の成分)
本発明のインクには、上記成分の他に、通常用いられる保湿剤、湿潤剤、浸透剤、分散剤、アセチレングリコール系界面活性剤以外の界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等の各種添加剤を添加することができる。
【0055】
本発明の水性インクは、顔料(A)、ポリプロピレングリコール(B)、有機溶媒(C)、ワックスエマルション(D)、水、及び必要に応じて界面活性剤(E)等のその他の成分を混合し、攪拌することによって得ることができる。
【0056】
(インク物性)
インクの32℃の粘度は、インクの間欠吐出安定性をさらに向上させる観点から、好ましくは2.0mPa・s以上であり、より好ましくは3.0mPa・s以上であり、更に好ましくは5.0mPa・s以上であり、そして、好ましくは12mPa・s以下であり、より好ましくは9.0mPa・s以下であり、更に好ましくは7.0mPa・s以下である。
インクのpHは、インクの保存安定性及び間欠吐出安定性をさらに向上させ、顔料のローラー写りを抑制する観点から、好ましくは7.0以上であり、より好ましくは8.0以上であり、更に好ましくは8.5以上である。また、部材耐性、皮膚刺激性の観点から、pHは、好ましくは11.0以下であり、より好ましくは10.0以下であり、更に好ましくは9.5以下である。
なお、pHは、実施例に記載の方法により測定される。
【0057】
[インクジェット印刷方法]
本発明のインクジェット印刷方法は、インクジェット印刷ヘッドの吐出ノズルから印刷媒体に本発明の前記水性インクを吐出する、インクジェット印刷方法であって、インクジェット印刷ヘッドの方式がラインヘッド方式であり、印刷速度が、印刷媒体の搬送速度換算で70m/min以上であり、印刷媒体と純水との接触時間100m秒における該印刷媒体の吸水量が、0g/m
2以上10g/m
2以下である。
ラインヘッド方式のインクジェット印刷ヘッドは、印刷媒体の幅程度の長尺の印刷ヘッドであり、印刷ヘッドは固定して、印刷媒体を搬送方向に移動させ、この移動に連動して印刷ヘッドのノズル開口からインク液滴を吐出させ、印刷媒体に付着させることにより、画像等を高速印刷することができる。
印刷媒体としては、普通紙、上質紙等の吸液性印刷媒体、アート紙、コート紙等の低吸液性印刷媒体、合成樹脂フィルム等の非吸液性印刷媒体等が挙げられる。印刷媒体は、ロール紙であることが好ましい。
また、本発明の水性インクは、高速印刷においても間欠吐出安定性を維持できることから、印刷速度は、印刷媒体の搬送速度換算で70m/min以上であり、72m/min以上であることが好ましい。印刷媒体の搬送速度とは、印刷媒体の移動する方向に対する移動速度のことである。印刷速度は、印刷物上の画像等を乾燥させる観点から、500m/min以下が好ましく、300m/min以下がより好ましく、150m/min以下が更に好ましい。
本発明の水性インクは、インクの吸収が遅いか又は吸収されないために顔料が印刷面の表面に残在し易い低吸液性又は非吸液性の印刷媒体であっても、顔料のローラー写りを抑制できることから、本発明方法に用いる印刷媒体は、印刷媒体と純水との接触時間100m秒における該印刷媒体の吸水量が、0g/m
2以上であり、10g/m
2以下、好ましくは5g/m
2以下である。該吸水量は、自動走査吸液計を用いて、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0058】
インク液滴の吐出方式はピエゾ方式が好ましいが、サーマル方式を採用することもできる。
印刷ヘッドの印加電圧は、高速印刷の効率性等の観点から、好ましくは5V以上、より好ましくは10V以上、更に好ましくは15V以上であり、そして、好ましくは40V以下、より好ましくは35V以下、更に好ましくは30V以下である。
駆動周波数は、高速印刷の効率性等の観点から、好ましくは1kHz以上、より好ましくは5kHz以上、更に好ましくは10kHz以上であり、そして、好ましくは50kHz以下、より好ましくは40kHz以下、更に好ましくは35kHz以下である。
インクの吐出液滴量は、インク液滴の着弾位置の精度を維持する観点及び画質向上の観点から、1滴あたり好ましくは5pL以下であり、より好ましくは4.5pL以下、更に好ましくは4.0pL以下、より更に好ましくは3.5pL以下であり、そして、好ましくは0.5pL以上、より好ましくは1.0pL以上、更に好ましくは1.5pL以上、より更に好ましくは2pL以上である。
印刷解像度は1200dpi以上であることが好ましい。例えば、ラインヘッドに配置されるノズル孔のノズル列の長さあたりの個数が1200dpi(ドット/インチ)である場合、印刷媒体上にインクを吐出すると、それに対応する1200dpiのドットの列が形成される。印刷媒体を移動させながらインク液滴を吐出すると、印刷媒体上にはノズル列の方向に沿ってドットが1200dpiの印刷解像度で形成される。
【0059】
印刷時の吐出ヘッド内、好ましくはラインヘッド内の温度は、インクの粘度を下げ、間欠吐出安定性をさらに向上させる観点から、好ましくは20℃以上、より好ましくは25℃以上、更に好ましくは30℃以上であり、そして、好ましくは45℃以下、より好ましくは40℃以下、更に好ましくは38℃以下である。
吐出ヘッド、好ましくはラインヘッドがインクを吐出する領域と対面する印刷媒体面は、好ましくは28℃以上、より好ましくは30℃以上、更に好ましくは31℃以上であり、そして、好ましくは45℃以下、より好ましくは40℃以下、更に好ましくは38℃以下にすることが好ましい。
インクの印刷媒体上の付着量は、印刷物の画質向上及び印刷速度の観点から、固形分として、好ましくは0.1g/m
2以上であり、そして、好ましくは25g/m
2以下、より好ましくは20g/m
2以下、更に好ましくはg/m
2以下である。
本発明のインクジェット印刷方法においては、インク液滴を印刷媒体上に吐出して印刷した後、印刷媒体上に着弾したインク液滴を乾燥する工程を有することが好ましい。
【0060】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の水性インクを開示する。
<1> 顔料(A)、ポリプロピレングリコール(B)、有機溶媒(C)、ワックスエマルション(D)及び水を含有する水性インクであって、ワックスエマルション(D)に含まれるワックスの融点が108℃以上である水性インク。
【0061】
<2> 顔料(A)が、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子として、水性インク中に含有される、上記<1>に記載の水性インク。
<3> 水不溶性ポリマーが、(a)イオン性モノマー由来の構成単位と、(b)疎水性モノマー由来の構成単位を有するビニル系ポリマーである、上記<1>又は<2>に記載の水性インク。
<4> 水不溶性ポリマーが、更に(c)マクロモノマー由来の構成単位を含有する、上記<3>に記載の水性インク。
<5> 水不溶性ポリマーが、更に(d)ノニオン性モノマー由来の構成単位を含有する、上記<3>又は<4>に記載の水性インク。
<6> (a)イオン性モノマー由来の構成単位の含有量が、好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは45質量%以下、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である、上記<3>〜<5>のいずれかに記載の水性インク。
<7> (b)疎水性モノマー由来の構成単位の含有量が、好ましくは35質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは45質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは75質量%以下である、上記<3>〜<6>のいずれかに記載の水性インク。
<8> 水不溶性ポリマーの重量平均分子量が、好ましくは5,000以上、より好ましくは10,000以上、更に好ましくは20,000以上であり、そして、好ましくは500,000以下、より好ましくは400,000以下、更に好ましくは300,000以下、より更に好ましくは200,000以下である、上記<2>〜<7>のいずれかに記載の水性インク。
<9> 水不溶性ポリマー(a)に対する顔料(A)の顔料混合物中の質量比〔(A)/(a)〕が、好ましくは30/70以上、より好ましくは40/60以上、更に好ましくは50/50以上であり、そして、好ましくは90/10以下、より好ましくは80/20以下、更に好ましくは75/25以下である、上記<2>〜<8>のいずれかに記載の水性インク。
【0062】
<10> 顔料(A)を含有する水不溶性ポリマー粒子が、水分散体として下記の工程I及び工程IIを有する方法により製造されたものである、上記<2>〜<9>のいずれかに記載の水性インク。
工程I:水不溶性ポリマー、有機溶媒、顔料(A)、及び水を含有する混合物を分散処理して、顔料含有ポリマー粒子の分散体を得る工程
工程II:工程Iで得られた分散体から前記有機溶媒を除去して、顔料含有ポリマー粒子の水分散体を得る工程
<11> ポリプロピレングリコール(B)の重合度が、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、更に好ましくは5以上、より更に好ましくは6以上であり、そして、30以下、好ましくは25以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは15以下である、上記<1>〜<10>のいずれかに記載の水性インク。
<12> ポリプロピレングリコール(B)の平均分子量が、好ましくは250以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上、より更に好ましくは500以上であり、そして、好ましくは2000以下、より好ましくは1800以下、更に好ましくは1600以下、より更に好ましくは1400以下である、上記<1>〜<11>のいずれかに記載の水性インク。
<13> 有機溶媒(C)の沸点が、好ましくは150℃以上、より好ましくは160℃以上、更に好ましくは180℃以上であり、そして、好ましくは250℃以下、より好ましくは246℃以下、更に好ましくは215℃以下、より更に好ましくは210℃以下、より更に好ましくは200℃以下である、上記<1>〜<12>のいずれかに記載の水性インク。
<14> 有機溶媒(C)が、好ましくはジエチレングリコール、プロピレングリコール及び2−ピロリドンから選ばれる1種以上を含有し、より好ましくはジエチレングリコール及びプロピレングリコールから選ばれる1種以上を含有する、上記<1>〜<13>のいずれかに記載の水性インク。
【0063】
<15> ワックスエマルション(D)に含まれるワックスの融点が、好ましくは110℃以上、より好ましくは115℃以、更に好ましくは120℃以上であり、そして、好ましくは150℃以下、より好ましくは145℃以下、更に好ましくは140℃以下である、上記<1>〜<14>のいずれかに記載の水性インク。
<16> ワックスエマルション(D)が、好ましくはポリオレフィン系ワックス及びパラフィンワックスから選ばれる1種以上を含み、より好ましくはポリオレフィン系ワックスを含む、上記<1>〜<15>のいずれかに記載の水性インク。
<17> ポリオレフィン系ワックス、パラフィンワックス、及びサゾールワックスから選ばれる1種以上の合計含有量が、ワックス全量100質量部に対して、好ましくは65質量部以上、より好ましくは80質量部以上、更に好ましくは90質量部以上、より更に好ましくは95質量部以上、より更に好ましくは100質量部である、上記<1>〜<16>のいずれかに記載の水水性インク。
<18> ワックスエマルション(D)のpHが、好ましくは7〜12、より好ましくは8〜11である、上記<1>〜<17>のいずれかに記載の水性インク。
<19> ワックスエマルション(D)のインク中での平均粒径(平均分散粒径)が、好ましくは800nm以下、より好ましくは500nm以下、更に好ましくは300nm以下、より更に好ましくは100nm以下であり、そして、好ましくは10nm以上、好ましくは30nm以上である、上記<1>〜<18>のいずれかに記載の水性インク。
<20> さらに界面活性剤(E)を含有する、上記<1>〜<19>に記載の水性インク。
<21> 界面活性剤(E)が、好ましくはノニオン性界面活性剤、より好ましくはアセチレングリコール系界面活性剤である、上記<20>に記載の水性インク。
【0064】
<22> インク中の顔料(A)の含有量が、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上、更に好ましくは2.5質量%以上であり、そして、好ましくは15.0質量%以下、より好ましくは10.0質量%以下、更に好ましく7.0質量%以下、より更に好ましくは5.0質量%以下である、上記<1>〜<21>のいずれかに記載の水性インク。
<23> インク中の顔料(A)と水不溶性ポリマーとの合計含有量が、好ましくは2.0質量%以上、より好ましくは2.5質量%以上、更に好ましくは3.0質量%以上、より更に好ましくは3.5質量%以上であり、そして、好ましくは17.0質量%以下、より好ましくは12.0質量%以下、更に好ましくは10.0質量%以下、より更に好ましくは8.0質量%以下、より更に好ましくは6.0質量%以下である、上記<1>〜<22>のいずれかに記載の水性インク。
<24> インク中のポリプロピレングリコール(B)の含有量が、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは0.8質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは16質量%以下、更に好ましくは12質量%以下、より更に好ましくは10質量%以下、より更に好ましくは8質量%以下である、上記<1>〜<23>のいずれかに記載の水性インク。
<25> インク中の有機溶媒(C)の含有量が、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、より更に好ましくは25質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下、より更に好ましくは35質量%以下である、上記<1>〜<24>のいずれかに記載の水性インク。
<26> インク中のワックスエマルション(D)の含有量が、インク中、固形分として、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上、より更に好ましくは2.0質量%以上であり、そして、好ましくは6質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である、上記<1>〜<25>のいずれかに記載の水性インク。
<27> ポリプロピレングリコール(B)とワックスエマルション(D)の質量比〔(B)/(D)〕が、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上であり、そして、好ましくは15以下、より好ましくは13以下、更に好ましくは11以下である、上記<1>〜<26>のいずれかに記載の水性インク。
<28> インク中の界面活性剤(E)の含有量が、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であり、そして、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2.5質量%以下である、上記<1>〜<27>のいずれかに記載の水性インク。
<29> インク中の水の含有量が、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは75質量%以下、より更に好ましくは60質量%以下である、上記<1>〜<28>のいずれかに記載の水性インク。
【0065】
<30> インクジェット印刷ヘッドの吐出ノズルから印刷媒体に請求項1〜8のいずれかに記載の水性インクを吐出する、インクジェット印刷方法であって、
インクジェット印刷ヘッドの方式がラインヘッド方式であり、
印刷速度が、印刷媒体の搬送速度換算で70m/min以上であり、
印刷媒体と純水との接触時間100m秒における該印刷媒体の吸水量が、0g/m
2以上10g/m
2以下である、インクジェット印刷方法。
<31> 印刷速度が、好ましくは72m/min以上であり、そして、好ましくは500m/min以下、より好ましくは300m/min以下、更に好ましくは150m/min以下である、上記<30>に記載のインクジェット印刷方法。
<32> 印刷媒体と純水との接触時間100m秒における該印刷媒体の吸水量が、好ましくは5g/m
2以下である、上記<30>又は<31>に記載のインクジェット印刷方法。
<33> インクの吐出液滴量が、好ましくは1滴あたり5pL以下であり、より好ましくは4.5pL以下、更に好ましくは4.0pL以下、より更に好ましくは3.5pL以下であり、そして、好ましくは0.5pL以上、より好ましくは1.0pL以上、更に好ましくは1.5pL以上、より更に好ましくは2pL以上である、上記<30>〜<32>のいずれかに記載のインクジェット印刷方法。
【実施例】
【0066】
以下の製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「質量部」及び「質量%」である。
【0067】
(1)ポリプロピレングリコールの重合度の測定及び平均分子量の算出
重合度は液体クロマトグラフィーを用いて下記の2手法を用いることで同定を行った。
(1−1)組成比の算出
水とアセトニトリルの混合溶液に0.1%となるようにポリプロピレングリコールを溶解させ、LC−CAD法(株式会社島津製作所製、液体クロマトグラフィー装置、カラム:L−ColumnODS C18(4.6×250mm、5μm)、カラム温度:25℃、資料注入量:20μL、検出器:CAD)により測定し、組成比を算出した。この際溶離液中のアセトニトリル溶液の比率を変化させることで、各組成比ピークの分解能を高めた。
(1−2)各組成比の重合度の同定
水とアセトニトリルの混合溶液に0.01%となるようにポリプロピレングリコールを溶解させ、LC−MS法[(アジレント・テクロノジー社製、液体クロマトグラフィー装置、カラム:L−ColumnODS C18(4.6×250mm、5μm)、カラム温度:25℃、資料注入量:20μL、イオン化液:10mM硝酸アンモニウム/メタノール、検出器:ESI−MS)により測定し、各組成比ピークに該当する重合度を求めた。
(1−3)平均分子量の算出
組成比の算出及び各組成比の重合度の同定より得られた各重合度の存在比より下記計算式に当てはめ平均分子量を算出した。
平均分子量=Σ{(各重合度×58)×各重合度の存在比%}/100%
【0068】
(2)水不溶性ポリマーの重量平均分子量の測定
N,N−ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲル浸透クロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC−8120GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSK−GEL、α−M×2本)、流速:1mL/min〕により、標準物質として分子量が既知の単分散ポリスチレンを用いて測定した。
【0069】
(3)顔料含有ポリマー粒子の平均粒径の測定
レーザー粒子解析システム「ELS−8000」(大塚電子株式会社製)を用いてキュムラント解析を行い測定した。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。測定濃度は、5×10
−3質量%(固形分濃度換算)で行った。
【0070】
(4)顔料水分散体の固形分濃度の測定
30mlのポリプロピレン製容器(φ=40mm、高さ=30mm)にデシケーター中で恒量化した硫酸ナトリウム10.0gを量り取り、そこへサンプル約1.0gを添加して、混合させた後、正確に秤量し、105℃で2時間維持して、揮発分を除去し、更にデシケーター内で更に15分間放置し、質量を測定した。揮発分除去後のサンプルの質量を固形分として、添加したサンプルの質量で除して固形分濃度とした。
【0071】
(5)ワックスの融点の測定
ワックスの融点は、JIS K 0064に準拠した測定装置により行った。具体的には、示差走査熱量計(Q20、ティー・エイ・インスルメント社製)を用いて、試料を200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却した。次に、試料を昇温速度10℃/分で昇温し、200℃まで熱量を測定した。観測された融解熱ピークのうち、ピーク面積が最大のピークの温度を融解の最大ピーク温度とし、該ピーク温度を融点とした。
(6)ワックスエマルションの平均粒径の測定
ワックスエマルションの平均粒径(平均分散粒径)は、日機装株式会社製マイクロトラック粒度分析計UPAを用いて測定した。
【0072】
(7)水性インクのpHの測定
pH電極「6337−10D」(株式会社堀場製作所製)を使用した卓上型pH計「F−71」(株式会社堀場製作所製)を用いて、25℃における水性インクのpHを測定した。
(8)記録媒体の吸水量の測定
記録媒体と純水との接触時間100m秒における該記録媒体の吸水量は、自動走査吸液計(熊谷理機工業株式会社製、KM500win)を用いて、23℃、相対湿度50%の条件下で、純水の接触時間100msにおける転移量を該吸水量として測定した。測定条件を以下に示す。
「Spiral Method」
Contact Time : 0.010〜1.0(sec)
Pitch (mm) : 7
Length Per Sampling (degree) : 86.29
Start Radius (mm) : 20
End Radius (mm) : 60
Min Contact Time (ms) : 10
Max Contact Time (ms) : 1000
Sampling Pattern (1 - 50) : 50
Number of Sampling Points (> 0) : 19
「Square Head」
Slit Span (mm) : 1
Slit Width (mm) : 5
【0073】
製造例1(顔料含有ポリマー粒子の水分散体の製造)
(1)水不溶性ポリマー(1)の合成
メタクリル酸(和光純薬工業株式会社製)14部、スチレン(和光純薬工業株式会社製)46部、スチレンマクロモノマー「AS−6S」(東亞合成株式会社製、数平均分子量6,000、固形分50%)30部、ポリプロピレングリコールメタクリレート「ブレンマーPP−1000」(日油株式会社)25部、メチルエチルケトン25部を混合し、モノマー混合液140部を調製した。
反応容器内に、メチルエチルケトン18部及び連鎖移動剤である2−メルカプトエタノール0.03部、及び前記モノマー混合液の10%(14部)を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。
一方、モノマー混合液の残りの90%(126部)と前記連鎖移動剤0.27部、メチルエチルケトン42部及び重合開始剤2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)「V−65」(和光純薬工業株式会社製)3部を混合した混合液を滴下ロートに入れ、窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら75℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了から75℃で2時間経過後、前記重合開始剤3部をメチルエチルケトン5部に溶解した溶液を加え、更に75℃で2時間、80℃で2時間熟成させ、水不溶性ポリマー(重量平均分子量:60,000)の溶液を得た。水不溶性ポリマー溶液の固形分濃度は60質量%であった。
【0074】
(2)顔料含有ポリマー粒子の水分散体の製造
前記(1)で得られた水不溶性ポリマー溶液を減圧乾燥させて得られた水不溶性ポリマー(1)37部をメチルエチルケトン148部に溶かし、その中に中和剤として5N水酸化ナトリウム水溶液12.5部と25%アンモニア水2部、及びイオン交換水372部を加え、更にシアン顔料としてC.I.ピグメント・ブルー15:3(PB15:3、大日精化工業株式会社製)100部を加え、顔料混合液を得た。中和度は100モル%であった。顔料混合液をディスパー翼を用いて7000rpm、20℃の条件下で1時間混合した。得られた分散液をマイクロフルイダイザー「高圧ホモジナイザーM-140K」(Microfluidics社製)を用いて、180MPaの圧力で15パス分散処理した。
得られた水不溶性ポリマー粒子の分散液を、減圧下60℃でメチルエチルケトンを除去し、更に一部の水を除去し、遠心分離し、液層部分をフィルター「ミニザルトシリンジフィルター」(ザルトリウス社製、孔径:5μm、材質:酢酸セルロース)でろ過して粗大粒子を除き、顔料含有ポリマー粒子の水分散体を得た。固形分濃度は20質量%であり、顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は100nmであった。
【0075】
実施例1(水性インクの製造)
製造例1で得られた顔料含有ポリマー粒子の水分散体(固形分20質量%)24部(顔料3.5部、水不溶性ポリマー(1)1.3部)、ポリプロピレングリコール700(和光純薬工業株式会社製:平均分子量670)5部、ジエチレングリコール30部、アセチレングリコール系界面活性剤(製品名;サーフィノール465、Air Products & Chemicals社製、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエチレンオキサイド10モル付加物)1.5部、ワックスエマルション(製品名:AQUACER507、BYK社製、固形分30%)3.3部、及び全量を100部となるようにイオン交換水を添加、混合した。得られた混合液をフィルター「ミニザルトシリンジフィルター」(ザルトリウス社製、孔径:1.2μm、材質:酢酸セルロース)で濾過し、pHが8.8の水性インクを得た。
【0076】
実施例2〜13、比較例1〜4(水性インクの製造)
実施例1において、下記に示すポリプロピレングリコール、ワックスエマルション及び表1に示す溶媒を用いて、表1に示す配合組成とした以外は、実施例1と同様の操作を行って、水性インクを得た。
【0077】
〔ポリプロピレングリコール:和光純薬工業株式会社製〕
・PPG300:ポリプロピレングリコール300(トリオール型、平均分子量290)
・PPG400:ポリプロピレングリコール400(ジオール型、平均分子量459)
・PPG700:ポリプロピレングリコール700(ジオール型、平均分子量670)
・PPG1000:ポリプロピレングリコール1000(ジオール型、平均分子量1028)
・PPG1500:ポリプロピレングリコール1500(トリオール型、平均分子量1562)
【0078】
〔有機溶媒:和光純薬工業株式会社製〕
・ジエチレングリコール(沸点244℃)
・プロピレングリコール(沸点188℃)
・2−ピロリドン(沸点245℃)
【0079】
〔ワックスエマルション〕
・AQUACER507(酸化高密度ポリエチレンワックスのアニオン性エマルション、融点130℃、pH9.7、平均粒径50nm、BYK社製)
・AQUACER515(酸化高密度ポリエチレンワックスエマルション、融点135℃、pH9.5、平均粒径100nm、BYK社製)
・AQUACER537(変性パラフィンワックスエマルション、融点110℃、pH9.5、平均粒径61nm、BYK社製)
・AQUACER1547(酸化高密度ポリエチレンワックスのアニオン性エマルション、融点125℃、pH9.7、平均粒径70nm、BYK社製)
・ケミパールW4005(低分子量ポリエチレンワックスエマルション、融点130℃、pH11、平均粒径600nm、三井化学株式会社製)
・AQUACER526(変性エチレン酢酸ビニルワックスエマルション、融点105℃、pH9.7、BYK社製)
・ポリロンL−787(ポリエチレンワックスのアニオン性エマルション、融点102℃、中京油脂株式会社製)
【0080】
<水性インクの評価試験>
(インクジェット印刷物の調製)
温度25±1℃、相対湿度30±5%の環境で、インクジェット印刷ラインヘッド「KJ4B−Zシリーズ」(京セラ株式会社製)を装備したWEB印刷型印刷評価装置(株式会社トライテック製)に実施例、比較例で得られた水性インクを充填した。
ラインヘッド印加電圧26V、吐出液滴量7pL、印刷解像度600dpi、吐出前フラッシング回数200発、負圧−4.0kPa、ロール紙搬送速度(印刷速度)を75m/minに設定した。
ロール紙の印刷媒体として、印刷媒体(「UPM Finesse Gloss」(UPM社製)、吸水量3.1g/m
2)を印刷評価機にセットし、印字命令を前記印字評価装置に転送し、水性インクをインクジェット印刷方式で印刷媒体上に印刷を行った。また、その印刷直後に温風乾燥機(設定温度60℃)を通過させて印刷物を作成し、下記の評価試験1〜3を行った。結果を表1に示す。
【0081】
試験1(保存安定性)
調製したインクを密閉容器内で、70℃恒温室下で保存試験を行った。1週間後にそれぞれ取り出し、粘度(E型粘度計)、粒子径を測定することで、初期からの変化性を観察した。評価基準は以下である。
(評価基準)
4:70℃1週間後の粘度変化が5%未満である。
3:70℃1週間後の粘度変化が5%以上10%未満である。
2:70℃1週間後の粘度変化が10%以上20%未満である。
1:70℃1週間後の粘度変化が20%以上、又はインクが流動性を失い粘度を測定できるレベルではない。
【0082】
試験2(間欠吐出安定性:吐出回復率(%))
インクジェット印刷物の調製を行った後、30分間印刷機を停止させ、印刷ラインヘッドを大気暴露させた。30分間経過後、再度印刷を再開した際の最初のベタ印刷物の吐出状態を観察し、下記式により吐出回復率(%)を算出し、間欠吐出安定性を評価した。
吐出回復率(%)=[(30分間大気暴露後のベタ印刷の吐出面積/試験前のベタ印刷の吐出面積)]×100
吐出回復率(%)が大きいほど間欠吐出安定性が優れていると判断され、数値として70以上であれば実用に供することができる。
【0083】
試験3(顔料のローラー写り抑制:耐転写率(%))
印刷評価機上に設置してあるステンレス製の金属搬送ローラーを用いた紙搬送前後の印字面積の減少を目視で確認し、下記式により耐転写率(%)を算出し、顔料のローラー写りを評価した。
耐転写率(%)=(ローラー搬送後の印字面積/ローラー搬送前の印字面積)×100
耐転写率(%)が大きいほどローラー写りを抑制できていると判断され、数値として80%以上であれば実用上使用できる。
【0084】
【表1】
【0085】
表1から、実施例1〜13のインクは、比較例1〜4のインクに比べ、保存安定性、間欠吐出安定性、顔料のローラー写り抑制を高いレベルでバランスよく達成していることが分かる。