特許第6819997号(P6819997)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 高砂建設株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6819997-スパッド係船設備 図000002
  • 特許6819997-スパッド係船設備 図000003
  • 特許6819997-スパッド係船設備 図000004
  • 特許6819997-スパッド係船設備 図000005
  • 特許6819997-スパッド係船設備 図000006
  • 特許6819997-スパッド係船設備 図000007
  • 特許6819997-スパッド係船設備 図000008
  • 特許6819997-スパッド係船設備 図000009
  • 特許6819997-スパッド係船設備 図000010
  • 特許6819997-スパッド係船設備 図000011
  • 特許6819997-スパッド係船設備 図000012
  • 特許6819997-スパッド係船設備 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6819997
(24)【登録日】2021年1月6日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】スパッド係船設備
(51)【国際特許分類】
   B63B 21/50 20060101AFI20210114BHJP
   B63J 3/04 20060101ALI20210114BHJP
   F16D 13/46 20060101ALI20210114BHJP
   E02F 3/90 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
   B63B21/50 B
   B63J3/04
   F16D13/46 A
   E02F3/90 B
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-203178(P2016-203178)
(22)【出願日】2016年10月15日
(65)【公開番号】特開2018-62326(P2018-62326A)
(43)【公開日】2018年4月19日
【審査請求日】2019年8月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】597084537
【氏名又は名称】高砂建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101627
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 宜延
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 一
【審査官】 田中 成彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−016382(JP,A)
【文献】 特開2013−086879(JP,A)
【文献】 特開2013−071810(JP,A)
【文献】 特開2007−276989(JP,A)
【文献】 特開2016−084205(JP,A)
【文献】 特表2014−524550(JP,A)
【文献】 特開2000−016381(JP,A)
【文献】 特開平08−282580(JP,A)
【文献】 特開平07−251792(JP,A)
【文献】 米国特許第05938183(US,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2015−0093031(KR,A)
【文献】 中国特許出願公開第101920780(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 21/50
B63J 3/04
E02F 3/90
F16D 13/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業船をつなぎ止めるスパッド係船設備において、
船体から海底へ突き立てる柱状のスパッドと、
主部を船体側に取付けて、前記スパッドを上下方向に移動させる昇降装置と、
該昇降装置に第一クラッチを介して接続し、前記スパッドを船体から海底へ突き立てる際の自重落下に伴う位置エネルギを、回収してエネルギ貯蔵装置に供給する位置エネルギ回収装置と、
第二クラッチを介して前記昇降装置に接続し、前記エネルギ貯蔵装置に蓄積したエネルギと船体側発電機の出力エネルギとを用いて、前記スパッドを引上げられるようにしたスパッド油圧モータと、を具備し、
さらに、前記エネルギ貯蔵装置が蓄圧器であり、且つ前記位置エネルギ回収装置が、前記昇降装置に前記第一クラッチを介して接続し、前記スパッドを船体から海底へ突き立てる際の自重落下に伴う位置エネルギを、回収して前記蓄圧器に供給する位置エネルギ回収油圧ポンプであることを特徴とするスパッド係船設備。
【請求項2】
前記スパッド油圧モータが、前記第二クラッチを介して前記昇降装置に接続し、前記蓄圧器に蓄積した油圧エネルギと前記船体側発電機によるスパッド駆動用油圧ポンプの油圧エネルギを用いて、前記スパッドを引上げられるようにした請求項1記載のスパッド係船設備。
【請求項3】
前記昇降装置が、船体に立設する櫓と、該櫓に設けたヘッドシーブを介してワイヤの先端側で前記スパッドを吊設し、ワイヤの基端側を巻き取るウインチと、を備えて、
前記位置エネルギ回収油圧ポンプが、該ウインチに前記第一クラッチを介して接続し、前記スパッドを船体から海底へ突き立てる際の自重落下に伴う位置エネルギを回収して前記蓄圧器に供給する請求項2記載のスパッド係船設備。
【請求項4】
前記昇降装置が、前記スパッドの一側面でその長さ方向に設けたラックと該ラックに噛合するピニオンとを備えて、
前記位置エネルギ回収油圧ポンプが、該ピニオンに第一クラッチを介して接続し、前記スパッドを船体から海底へ突き立てる際の自重落下に伴う位置エネルギを回収して前記蓄圧器に供給する請求項2記載のスパッド係船設備。
【請求項5】
前記作業船が浚渫船であり、且つ浚渫作業時間帯に稼働する前記船体側発電機の出力エネルギで、前記スパッド駆動用油圧ポンプを駆動させて、前記蓄圧器に蓄圧させるようにした請求項2乃至4のいずれか1項に記載のスパッド係船設備。
【請求項6】
前記浚渫船に、旋回体から突き出すジブに設けたシーブを介してワイヤロープの先端側にグラブバケットを吊設し、ワイヤロープの基端側を巻回する支持ドラムに浚渫機用エンジンが接続して回転駆動させて、前記グラブバケットの巻上、巻下を可能にする浚渫機が搭載され、さらに前記支持ドラムに、第三クラッチを介して接続し、前記船体側発電機の出力エネルギを用いて、前記浚渫機用エンジンによる前記支持ドラムの巻上時における回転運動を支援する巻上アシストモータを、さらに具備する請求項5記載のスパッド係船設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浚渫作業等で作業船を係留させるスパッド係船設備に関する。
【背景技術】
【0002】
港湾工事に使用される作業船でスパッドを用いたスパッド係船設備がある。船体に開けた通孔に円柱状又は角柱状の鋼製スパッドを挿入保持し、作業船をつなぎ止める時に、該スパッドを鉛直落下させ海底に突き立てて固定する。該スパッドは作業船の大きさや用途によって太さや長さ、さらに装備する種類や個数が異なる。大型の浚渫船の場合、長さが最長40mもあり、その重量は70トンに達する。該スパッドが最低でも3本装備される。クレーン船の多くは装備数が2本で、スパッドの昇降頻度も少ない。
一方、浚渫船の場合、スパッドによって移動しながらの作業であるため、スパッドの昇降頻度は一日に100回以上にもなり、そのために使用されるエネルギが桁外れに大きくなる。多くの場合、発電機によって発生させた電力でモータを回し、油圧ポンプを駆動させた油圧を使用している。そして、上記スパッドの昇降装置は、ワイヤとウインチによる吊り下げ方式とラックアンドピニオン方式の二種類存在するが、いずれもスパッドの重量が大になると、スパッドを落下させる際の衝撃が激しくなる。例えば、吊り下げ方式ではスパッドが落下する際のウインチドラムの回転が速く、危険を感じるくらいの衝撃が走る。こうしたことから、これを改善する発明が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−16381号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、特許文献1は請求項1に記載のごとく「…前記カーソルシーブから導かれたワイヤを、ヘッドシーブとシリンダシーブからなるシーブ装置に巻装し、前記シリンダシーブの共通軸固定部を、前記船体に固定されたシリンダのロッドにより駆動する構成としたことを特徴とするスパッド作業船。」の発明内容にとどまる。段落0014の「急激に落下させるときにも、油圧の流量を多く移動するだけであるので、危険な作業を排除する。」とあるが、高質量のスパッドの位置エネルギは、従来の吊り下げ方式と同様、熱エネルギに変換され捨てられていた。ラックアンドピニオン方式も、作動油の絞り弁によって熱エネルギに変換され捨てられている。
また、スパッド係船設備は、浚渫作業中、浚渫位置に作業船をつなぎ止めた後は稼働させる必要がない。にもかかわらず、発電機は次の移動に備えて運転を継続するのが一般的で、エネルギが無駄に消費されていた。
さらに、浚渫機用エンジンとスパッド係船に使用する船体側発電機が別箇独立に存在し、船体側発電機が浚渫機用エンジンを支援する構造のものは存在しなかった。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するもので、スパッド落下時における安全性の確保にとどまらず、該スパッド落下時の位置エネルギを回収蓄積し、また浚渫作業中に稼働する船体側発電機の電力をも回収,蓄積し、これらをスパッド引上げ時に活用して省エネを図り、さらに、船体側発電機を浚渫機用エンジンに支援できるようにもして、船体側発電機、さらにいえば浚渫機用エンジンの小型化をも可能にするスパッド係船設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく、請求項1に記載の発明の要旨は、作業船をつなぎ止めるスパッド係船設備において、船体から海底へ突き立てる柱状のスパッドと、主部を船体側に取付けて、前記スパッドを上下方向に移動させる昇降装置と、該昇降装置に第一クラッチを介して接続し、前記スパッドを船体から海底へ突き立てる際の自重落下に伴う位置エネルギを、回収してエネルギ貯蔵装置に供給する位置エネルギ回収装置と、第二クラッチを介して前記昇降装置に接続し、前記エネルギ貯蔵装置に蓄積したエネルギと船体側発電機の出力エネルギとを用いて、前記スパッドを引上げられるようにしたスパッド油圧モータと、を具備し、さらに、前記エネルギ貯蔵装置が蓄圧器であり、且つ前記位置エネルギ回収装置が、前記昇降装置に前記第一クラッチを介して接続し、前記スパッドを船体から海底へ突き立てる際の自重落下に伴う位置エネルギを、回収して前記蓄圧器に供給する位置エネルギ回収油圧ポンプであることを特徴とするスパッド係船設備にある。請求項2の発明たるスパッド係船設備は、請求項1で、前記スパッド油圧モータが、前記第二クラッチを介して前記昇降装置に接続し、前記蓄圧器に蓄積した油圧エネルギと前記船体側発電機によるスパッド駆動用油圧ポンプの油圧エネルギを用いて、前記スパッドを引上げられるようにしたことを特徴とする。請求項3の発明たるスパッド係船設備は、請求項2で、昇降装置が、船体に立設する櫓と、該櫓に設けたヘッドシーブを介してワイヤの先端側で前記スパッドを吊設し、ワイヤの基端側を巻き取るウインチと、を備えて、前記位置エネルギ回収油圧ポンプが、該ウインチに前記第一クラッチを介して接続し、前記スパッドを船体から海底へ突き立てる際の自重落下に伴う位置エネルギを回収して前記蓄圧器に供給することを特徴とする。請求項4の発明たるスパッド係船設備は、請求項2で、昇降装置が、前記スパッドの一側面でその長さ方向に設けたラックと該ラックに噛合するピニオンとを備えて、前記位置エネルギ回収油圧ポンプが、該ピニオンに第一クラッチを介して接続し、前記スパッドを船体から海底へ突き立てる際の自重落下に伴う位置エネルギを回収して前記蓄圧器に供給することを特徴とする。請求項5の発明たるスパッド係船設備は、請求項2〜4で、作業船が浚渫船であり、且つ浚渫作業時間帯に稼働する前記船体側発電機の出力エネルギで、前記スパッド駆動用油圧ポンプを駆動させて、前記蓄圧器に蓄圧させるようにしたことを特徴とする。請求項6の発明たるスパッド係船設備は、請求項5で、浚渫船に、旋回体から突き出すジブに設けたシーブを介してワイヤロープの先端側にグラブバケットを吊設し、ワイヤロープの基端側を巻回する支持ドラムに浚渫機用エンジンが接続して回転駆動させて、前記グラブバケットの巻上、巻下を可能にする浚渫機が搭載され、さらに前記支持ドラムに、第三クラッチを介して接続し、前記船体側発電機の出力エネルギを用いて、前記浚渫機用エンジンによる前記支持ドラムの巻上時における回転運動を支援する巻上アシストモータを、さらに具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のスパッド係船設備は、スパッド落下時の衝撃を和らげて安全性を確保するだけでなく、スパッド落下時の位置エネルギを回収蓄積して、これをスパッド引上げ時に活用し、さらに浚渫作業中に稼働する船体側発電機の出力エネルギを回収,蓄積し、これもスパッド上昇時や浚渫機側グラブバケットの巻上時に利用可能にして、省エネを図り、さらにいえば船体側発電機や浚渫機用エンジンの小型化をも可能にするなど多大な効を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態1で、スパッドの引上げ状況にあるスパッド係船設備周りの概略説明図である。
図2】スパッドを自重落下させ突き立て状況にあるスパッド係船設備周りの概略説明図である。
図3】浚渫作業中で蓄圧状況にあるスパッド係船設備周りの概略説明図である。
図4】浚渫機のアシスト状況にあるスパッド係船設備周りの概略説明図である。
図5】浚渫作業中と歩行スパッド上昇と歩行スパッド傾転と歩行スパッド下降の各説明図である。
図6】固定スパッド上昇と歩行スパッド傾転による船体移動と固定スパッド下降と歩行スパッド上昇の各説明図である。
図7】垂直位置までの歩行スパッドの傾転と歩行スパッド下降による移動完了の各説明図である。
図8】横軸を時間軸にして、浚渫作業とスパッド操作の各工程下における浚渫機と各スパッドでの消費エネルギ量又は回生エネルギ量の変化を表す関係説明図である。
図9】実施形態2で、ラックアンドピニオン方式を用いて、スパッドの引上げ状況にあるスパッド係船設備周りの概略説明図である。
図10図9のラックアンドピニオン方式のスパッド係船設備で、スパッドを自重落下させ突き立て状況にある概略説明図である。
図11】電気アシスト方式を用いて、スパッドの引上げ状況にあるスパッド係船設備周りの概略説明図である。
図12図11の電気アシスト方式のスパッド係船設備で、スパッドを自重落下させ突き立て状況にある概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係るスパッド係船設備について詳述する。
(1)実施形態1
図1図8は本発明のスパッド係船設備の一形態で、図1はスパッド引上げ状況のスパッド係船設備周りの概略説明図、図2はスパッドの自重落下で突き立て状況にあるスパッド係船設備周りの概略説明図、図3は浚渫作業中で蓄圧下にあるスパッド係船設備周りの概略説明図、図4は浚渫機のアシスト状況下のスパッド係船設備周りの概略説明図、図5は浚渫作業中と歩行スパッド上昇と歩行スパッド傾転と歩行スパッド下降の各説明図、図6は固定スパッド上昇と歩行スパッド傾転による船体移動と固定スパッド下降と歩行スパッド上昇の各説明図、図7は垂直位置までの歩行スパッドの傾転と歩行スパッド下降による移動完了の各説明図、図8は横軸を時間軸にして、浚渫作業とスパッド操作の各行程下における浚渫機と各スパッドでの消費エネルギ量又は回生エネルギ量の変化を表す関係説明図である。各図は判り易くするためスパッド1,昇降装置2等の要部を強調図示し、本発明に直接関係しない機器,部品等を省略する。各図のウインチ21のドラム軸211や支持ドラム82の回転支軸821は紙面垂直方向になるが、第一クラッチ31,第二クラッチ41を判り易く図示するため、便宜的にウインチ21や支持ドラム82から水平方向に突き出すように配設する。
【0010】
スパッド係船設備は、スパッド1と昇降装置2と位置エネルギ回収装置32とスパッド油圧モータ42とを具備する。
スパッド1は、作業船の移動を止めるべく船体Dから海底Bへ突き立てる断面円形又は角形で重量のある金属製柱状体である。スパッド1には、図5のように作業船(浚渫船)の位置決めを行う固定用スパッド装置の固定スパッド1と船体Dの移動に用いる歩行用スパッド装置の歩行スパッド1Bがあるが、本実施形態は固定スパッド1(以下、単に「スパッド」ともいう。)に昇降装置2と位置エネルギ回収装置32とスパッド油圧モータ42とを備えたスパッド係船設備とする。例えば浚渫作業水域で、スパッド1を海底Bに突き立てて固定し作業船をつなぎ止めて浚渫作業を行い、作業を終えると、該スパッド1を昇降装置2で引上げて、歩行スパッド1Bを使って移動し、またスパッド1を海底Bに突き立てて固定し作業船を止めた後、浚渫作業を順次行っていく(図5図7)。
【0011】
昇降装置2は、主部を船体D側に取付けて、前記スパッド1を吊り上げ吊り下しの上下方向に移動させることのできる装置である。本実施形態は、船体Dに立設する主部たる櫓20と、該櫓20に設けたヘッドシーブ23を介してワイヤ22の先端側で前記スパッド1を吊設し、ワイヤ22の基端側を巻き取るウインチ21と、を備える吊り下げ方式2Aの昇降装置2になっている(図1)。スパッド1にワイヤ22の先端側を取付ける一方、櫓20の上部に取着のヘッドシーブ23を介してワイヤ22の基端側をウインチ21に取付けており、ウインチ21で巻き取ることにより、スパッド1が必要高さに引上げられる。スパッド1にピン等で固着したカーソル(図示せず)にワイヤ22の先端側が取付けられる。図1の中黒矢印はウインチ21の巻き取りによるワイヤ22の移動,スパッド1の引上げ移動を表す。また、引上げられ保持された状態のスパッド1は、図示しないスパッド係止手段を解放させることによって、船体Dに設けた通孔D1から該スパッド1を自重落下で海底Bに突き立てられるようになっている。図2の中黒矢印はウインチ21の巻き戻しによるワイヤ22の移動,スパッド1の降下を表す。
【0012】
位置エネルギ回収装置32は、昇降装置2に第一クラッチ31を介して接続し、スパッド1を船体Dから海底Bへ突き立てる際の自重落下に伴う位置エネルギを、回収してエネルギ貯蔵装置33に供給する装置である(図2)。本実施形態は、エネルギ貯蔵装置33を蓄圧器33Aとする。そして、位置エネルギ回収装置32を位置エネルギ回収油圧ポンプ32Aとし、昇降装置2に第一クラッチ31を介して接続し、スパッド1を船体Dから海底Bへ突き立てる際の自重落下に伴う位置エネルギを回収して蓄圧器33Aに供給する。位置エネルギ回収油圧ポンプ32Aが、ウインチ21のドラム軸211に第一クラッチ31を介して接続し、ウインチ21に伝わった回転動力に追随回転して、スパッド1を船体Dから海底Bへ突き立てる際の自重落下に伴う位置エネルギを油圧エネルギとして回収し、これを蓄圧器33Aに供給するようにしている。位置エネルギを位置エネルギ回収油圧ポンプ32Aで回収した回生エネルギを蓄圧器33Aへ送る。本発明でいう回生エネルギには、運動エネルギを電気エネルギに変換して回収するエネルギだけでなく、油圧エネルギに変換して回収するエネルギも含むものとする。スパッド1降ろしの際は、第一クラッチ31が嵌合しており、スパッド1の降下に伴って引き出されるワイヤ22によってウインチドラムが回転し、そのドラム軸211に第一クラッチ31を介して取付けられた位置エネルギ回収油圧ポンプ32Aが回わる。図2の位置エネルギ回収油圧ポンプ32Aから蓄圧器33Aに向かう白抜矢印は、第一クラッチ31をつなげてスパッド1降下時の位置エネルギを回収した圧油の流れを表す。符号71は油圧配管、符号72はコントロールバルブ、符号73は逆止弁、符号75は電気配線を示す。
【0013】
スパッド油圧モータ42は、第二クラッチ41を介して昇降装置2に接続し、エネルギ貯蔵装置33に蓄積したエネルギと船体側発電機51の出力エネルギとを用いて、スパッド1を引上げられるようにした圧力モータである(図1)。ここでのスパッド油圧モータ42は、第二クラッチ41を介して昇降装置2のウインチ21のドラム軸211に接続し、蓄圧器33Aに蓄積した油圧エネルギと船体側発電機51によるスパッド駆動用油圧ポンプ52の油圧エネルギを回転運動に変えて、スパッド1を引上げられるようにしている。図1の白抜矢印は、アキュームレータたる蓄圧器33Aからスパッド油圧モータ42に向かう圧油の流れと、スパッド駆動用油圧ポンプ52からスパッド油圧モータ42に向かう圧油の流れとを表す。図1の白抜鎖線矢印は船体側発電機51からスパッド駆動用油圧ポンプ52のモータ521に向かう電気の流れを表す。例えば浚渫作業時間帯は作業船を止めた状態で、スパッド1に引上げ等の動きがない。船体照明,GPSパソコン等に少しの電力を消費するにとどまっている。そこで、浚渫作業時間帯に稼働する船体側発電機51の余剰出力エネルギで、スパッド駆動用油圧ポンプ52を駆動させて、蓄圧器33Aに蓄圧する。また、スパッド1を吊り上げるウインチ21の巻き上げで、蓄圧器33Aからの油圧エネルギの不足分を、船体側発電機51の出力エネルギで補って直接支援する。
【0014】
さらに、本実施形態の作業船を浚渫船とする。該浚渫船に搭載の浚渫機8は、旋回体から突き出すジブ87に設けたシーブ88を介してワイヤロープ83の先端側にグラブバケット86を吊設し、ワイヤロープ83の基端側を巻回する支持ドラム82に浚渫機用エンジン81が接続する。浚渫機用エンジン81で支持ドラム82を回転駆動させて、前記グラブバケット86の巻上、巻下を可能にしている。加えて、前記支持ドラム82の回転支軸821に第三クラッチ84を介して巻上アシストモータ85が接続し、船体側発電機51の出力エネルギを用いて、浚渫機用エンジン81による前記支持ドラム82の巻上時における回転運動を支援できるようにしている。船体側発電機51から電気配線がスリップリング91を通って巻上アシストモータ85につながる。
【0015】
次に、上記構成のスパッド係船設備を搭載する浚渫船による浚渫作業で、該スパッド係船設備の一使用例を述べ、その際の各構成装置,部材の作用を説明する。ここでは、図8ように二本の固定スパッド1と一本の歩行スパッド1Bとを有し、図5では紙面垂直方向の奥側に向けて第一固定スパッド1,第二固定スパッド1が存在する。
【0016】
まず、図5左上の所定場所での浚渫作業中は浚渫機8が稼働するが、スパッド係船設備側はスパッド1を引上げたり海底Bに突き立てたりする動作をしない。船体側発電機51の出力エネルギたる電力は図3の白抜鎖線矢印のごとくスパッド駆動用油圧ポンプ52に送って油圧エネルギに変換して、ここから白抜矢印のごとく蓄圧器33Aへ送られる。また、図4の白抜鎖線矢印のごとく船体側発電機51の電力は巻上アシストモータ85へ送って、浚渫機用エンジン81による支持ドラム82の回転運動をアシストしグラブバケット86の巻上げを円滑に行えるようにする。
【0017】
図5左上の浚渫作業場での作業を終えると、スパッド係船設備を使って船体Dを移動させる。図5左下のごとく歩行スパッド1を矢印のように引上げる。次いで、図5右上のごとく歩行スパッド1を矢印のように傾転させ、続いて、図5右下のごとく歩行スパッド1Bを矢印のように傾斜させて海底Bに突き立てる。
その後、歩行スパッド1Bはそのままにして、固定スパッド1を図6左上のごとく引上げる。固定スパッド1を引上げる時は、第二クラッチ41を閉じて、図1のごとく蓄圧器33Aに蓄積した油圧エネルギ、さらに船体側発電機51によるスパッド駆動用油圧ポンプ52の油圧エネルギを用いて、スパッド油圧モータ42がウインチ21を巻上げ、スパッド1を中黒矢印のように引上げる。
【0018】
次に、図6左下のごとく艪をこぐように歩行スパッド1Bを動かし、船体Dを前進させ所定位置で停止させる。しかる後、図6右上のごとく固定スパッド1を自重落下で海底Bに突き立てる。固定スパッド1を突き立てる位置h2は、図5左上の浚渫作業中の位置h1よりも紙面右方へ前進した箇所になる。係止手段を解除し、固定スパッド1を自重落下させる時は、図2のごとく第一クラッチ31を閉じて、位置エネルギ回収油圧ポンプ32Aが、スパッド1の自重落下に伴う位置エネルギを回収して蓄圧器33Aに供給する。
続いて、図6右下のごとく歩行スパッド1Bを引上げ、図7左上のごとく歩行スパッド1Bを鉛直方向に整えた後、図7左下のごとく歩行スパッド1Bを自重落下で海底Bに突き立てる。浚渫船が所定海域につなぎ止められる。船体の移動が完了し、そうして、最初の図5左上の浚渫作業が始まり、上述した各工程動作が繰り返されていく。
図8は各工程での固定スパッド1,歩行スパッド1B,浚渫機8の変化を示すタイムチャートである。横軸が時間軸を示しており、縦軸の最上段が浚渫作業の1サイクルを時間経過で表し、その下方に第一固定スパッド1,第二固定スパッド1等の機器項目を示して、同図はそれらの機器項目が時間経過で変化する様子を表す。浚渫機は当然、浚渫作業工程で大きな消費エネルギが発生する。一方、第一固定スパッド1や第二固定スパッド1は大きな消費エネルギがスパッド上昇(スパッド引上げ)工程で発生する。浚渫作業中を含めて他はエネルギ消費がない。ただ船体を動かすことはないが、船室の照明やGPS用パソコン等にも使用しており、船体側発電機51は稼働している。そこで、船体Dが停止中の余剰電力を回収して、蓄圧器33Aに供給するスパッド駆動用油圧ポンプ52を駆動させるモータ521を備えるようにしている。そして、船体側発電機51(ジーゼル発電機)は各工程中、専らその作業時回転数における燃費効率の良好域で、ほぼ一定負荷で運転される。尚、図8は歩行スパッド1Bも、固定スパッド1と同じような第一クラッチ31,位置エネルギ回収油圧ポンプ32A等を有するスパッド係船設備を備え、歩行スパッド1Bの自重落下に伴う位置エネルギを回収した回生エネルギを蓄圧器33Aに供給する図になっている。図中、符号D2は甲板で、櫓20は電気配線75と区別するため、破線図示する。
【0019】
(2)実施形態2
本実施形態のスパッド係船設備は、実施形態1の吊り下げ方式2Aに代え、ラックアンドピニオン方式2Bの昇降装置2を採用する。
昇降装置2が、図9のごとく、スパッド1の一側面でその長さ方向(鉛直方向)に設けたラック25と該ラック25に噛合するピニオン26とを備える。そして、位置エネルギ回収油圧ポンプ32Aが該ピニオン26に第一クラッチ31を介して接続し、スパッド1を船体Dから海底Bへ突き立てる際の自重落下に伴う位置エネルギを回収し、油圧エネルギ(回生エネルギ)にして蓄圧器33Aに供給する構成とする。
角柱状スパッド1の一側面でその上半部にラック25を一体形成する。一方、船体D側に取付けた位置エネルギ回収油圧ポンプ32Aの回転軸に主部たるピニオン26を固着し、該ピニオン26をラック25と噛合させる。
【0020】
図10図2に対応させた説明図で、海底Bにスパッド1を自重落下で突き立てる時の各装置,部材の動きを表す。第一クラッチ31を閉じて、スパッド1を自重落下させると(同図の中黒矢印)、スパッド1の位置エネルギが、ラック25からピニオン26に移り、同図の白抜矢印のごとく油圧配管を通って油圧エネルギ(回生エネルギ)として蓄圧器33Aに蓄積される。
また、図9図1に対応させた説明図で、スパッド1を引上げる際の各装置,部材の動きを表す。第二クラッチ41を介して、ピニオン26にスパッド油圧モータ42の出力軸が固着されている。同図の白抜矢印のごとく、蓄圧器33Aからの油圧エネルギによりスパッド油圧モータ42の駆動軸が回転すると共に、第二クラッチ41がつながると、ピニオン26も回転し、同図の中黒矢印のごとくスパッド1を上動させる(引上げる)。そして、蓄圧器33Aからの油圧エネルギの不足分を、船体側発電機51の出力エネルギで補って支援する構成とする。
他の構成は実施形態1と同様で、その説明を省く。実施形態1と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0021】
その他、本願の目的達成のために図11,図12のような電気アシスト方式を採用することもできる。図12図2に対応するスパッド1の自重落下時のスパッド係船設備周りの説明図で、第一クラッチ31をなくし、位置エネルギ回収油圧ポンプ32Aに代わって、位置エネルギ回収発電機兼アシスト電動機32Dが設けられる。また蓄圧器33Aに代わって、バッテリ33Bとチャージコントローラ76と電力分配装置77とを備えて、図示のごとく電気配線75がつながる。そうして、スパッド1降ろしの際は、スパッド1の降下に伴って引き出されるワイヤ22によってウインチドラムが回転し、そのドラム軸211に取付けられた位置エネルギ回収発電機兼アシスト電動機32Dが回転させられ、発電する。発電された電力は二次電池であるバッテリ33B(又はキャパシタ)に充電される。
一方、図11のスパッド1の吊り上げ時は、船体側発電機51によるスパッド駆動用油圧ポンプ52の油圧エネルギを用いてスパッド油圧モータ42を回転させ、ウインチ21を巻上げることによってスパッド1を引上げられるようにするが、さらにバッテリ33Bに蓄えられた電力によって位置エネルギ回収発電機兼アシスト電動機32Dがウインチ21の巻上げをアシストする。スパッド1引上げ動作の初期段階にあたる「地切り」の段階において、本アシストが特に有効となる。
【0022】
バッテリ33Bへの充電は、位置エネルギ回収発電機兼アシスト電動機32Dからの電力だけでなく、船体側発電機51の余剰電力も供給される。バッテリ33Bへの余剰電力の供給は電力分配装置77によって行われる。該電力分配装置77は、スパッド1の引上げ時にスパッド駆動用油圧ポンプ52へ電力を供給し、また浚渫作業中で、バケット巻上げの際、浚渫機8に装備された巻上アシストモータ85に電力を供給する。そして、両工程以外はチャージコントローラ76への給電を行ってバッテリ33Bに蓄える。バッテリ33Bが満充電となった場合、充電は不要となるので、チャージコントローラ76にて充電を止める。
図11,図12は昇降装置2を吊り下げ方式2Aに頼ったが、ラックアンドピニオン方式2Bも採用できる。斯かる場合、スパッド1降ろしの際は、ラック25によってピニオン26が回転させられ、さらにピニオン軸に取付けた位置エネルギ回収発電機兼アシスト電動機32Dが回転させられ、発電する。
他の構成は実施形態1,2と同様で、その説明を省く。実施形態1,2と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0023】
(3)効果
このように構成したスパッド係船設備は、昇降装置2に第一クラッチ31を介して接続し、スパッド1を船体Dから海底Bへ突き立てる際の自重落下に伴う位置エネルギを、回収してエネルギ貯蔵装置33に供給する位置エネルギ回収装置32を備えることで、位置エネルギ回収動作によって、ウインチドラムの回転を抑えるので、ウインチドラムの危険を感じるくらいあった高速回転速度は落ち、従来の衝撃音等が和らぎ危険を回避できる。安全性を確保できる。そして、昇降動作が頻繁にして重量が大のスパッドの位置エネルギを有効に回収できる。ウインチ21のブレーキや作動油の絞り弁等で熱エネルギとして捨てられていたのを有効活用できる。
【0024】
スパッド油圧モータ42が、第二クラッチ41を介して昇降装置2に接続し、エネルギ貯蔵装置33に蓄積したエネルギと船体側発電機51の出力エネルギとを用いて、スパッド1を引上げられるようにすると、回収エネルギを有効活用でき、船体側発電機51の燃費向上につながる。さらに、スパッド1引上げ時の「地切り」段階にアシストさせることによって船体側発電機51の過負荷がなくなり、また船体側発電機51の小型化にも貢献できる。
【0025】
エネルギ貯蔵装置33が蓄圧器33Aであり、且つ位置エネルギ回収装置32が、昇降装置2に第一クラッチ31を介して接続し、スパッド1を船体Dから海底Bへ突き立てる際の自重落下に伴う位置エネルギを、回収して蓄圧器33Aに供給する位置エネルギ回収油圧ポンプ32Aであると、耐久性,安全性、さらにコスト的にも一段と優れたスパッド係船設備になる。発電機、蓄電池や電気モータにすると、発電機の発電効率や蓄電池の充放電効率等に大きなロスがあるうえ、二次電池の寿命が短く、費用負担も大きい。キャパシタを使用した場合、放電特性上、瞬間的にしかアシストできない問題があるが、位置エネルギ回収油圧ポンプ32A,蓄圧器33Aやスパッド油圧モータ42とするとこうした問題は起こらない。油圧機器類にすれば放電がなく、また電気機器を使うのとは違って、海水に晒される海上での使用も安全で且つ各構成機器が安定性,耐久性に優れる。
スパッド油圧モータ42が、第二クラッチ41を介して昇降装置2に接続し、蓄圧器33Aに蓄積した油圧エネルギと船体側発電機51によるスパッド駆動用油圧ポンプ52の油圧エネルギを用いて、スパッド1を引上げられるようにすると、蓄圧器33Aと船体側発電機51との双方を活用して効率運転ができる。
【0026】
また、位置エネルギ回収油圧ポンプ32Aが、ウインチ21に第一クラッチ31を介して接続し、前記スパッド1を船体Dから海底Bへ突き立てる際の自重落下に伴う位置エネルギを回収して蓄圧器33Aに供給すれば、いわゆる吊り下げ方式2Aのスパッド設備に、本発明を容易に適用できる。位置エネルギ回収油圧ポンプ32Aが、ピニオン26に第一クラッチ31を介して接続し、スパッド1を船体Dから海底Bへ突き立てる際の自重落下に伴う位置エネルギを回収して蓄圧器33Aに供給すれば、ラックアンドピニオン方式2Bのスパッド設備も、本発明を容易に適用できる。
【0027】
さらに、作業船が浚渫船であり、且つ浚渫作業時間帯に稼働する船体側発電機51の出力エネルギで、スパッド駆動用油圧ポンプ52を駆動させて、蓄圧器33Aに蓄圧させるようにすると、浚渫作業中にあっても次の移動に備えて運転を継続し、スパッド1の引上げ等に利用されずにいる船体側発電機51の出力エネルギを有効回収できる。
加えて、旋回体から突き出すジブ87に設けたシーブ88を介してワイヤロープ83の先端側にグラブバケット86を吊設し、ワイヤロープ83の基端側を巻回する支持ドラム82に浚渫機用エンジン81が接続して回転駆動させて、グラブバケット86の巻上、巻下を可能にする浚渫機8が搭載される場合があるが、前記支持ドラム82に、第三クラッチ84を介して接続し、船体側発電機51の出力エネルギを用いて、浚渫機用エンジン81による支持ドラム82の巻上時における回転運動を支援する巻上アシストモータ85を、さらに具備すると、前記浚渫機用エンジン81の小型化も可能になる。
このように本発明のスパッド係船設備は、上述した数々の優れた効果を発揮し、極めて有益である。
【0028】
尚、本発明においては前記実施形態に示すものに限られず、目的,用途に応じて本発明の範囲で種々変更できる。スパッド1,昇降装置2,位置エネルギ回収装置32,エネルギ貯蔵装置33,船体側発電機51,浚渫機8等の形状,大きさ,個数等は用途に合わせて適宜選択できる。例えば実施形態は固定スパッド1にのみ本発明を適用したが、歩行スパッド1Bにも勿論適用できる。
【符号の説明】
【0029】
1 スパッド
2 昇降装置
20 櫓
21 ウインチ
22 ワイヤ
25 ラック
26 ピニオン
31 第一クラッチ
32 位置エネルギ回収装置
32A 位置エネルギ回収油圧ポンプ
33 エネルギ貯蔵装置
33A 蓄圧器
41 第二クラッチ
42 スパッド油圧モータ
51 船体側発電機
52 スパッド用油圧ポンプ
8 浚渫機
84 第三クラッチ
85 巻上アシストモータ
B 海底
D 船体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12