特許第6819999号(P6819999)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6819999
(24)【登録日】2021年1月6日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】誘導加熱溶着装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/32 20060101AFI20210114BHJP
   E04D 5/14 20060101ALI20210114BHJP
   E04D 15/00 20060101ALI20210114BHJP
   B29C 65/40 20060101ALI20210114BHJP
   H05B 6/44 20060101ALI20210114BHJP
   H05B 6/10 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
   B29C65/32
   E04D5/14 F
   E04D15/00 J
   B29C65/40
   H05B6/44
   H05B6/10 331
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-220322(P2016-220322)
(22)【出願日】2016年11月11日
(65)【公開番号】特開2018-75801(P2018-75801A)
(43)【公開日】2018年5月17日
【審査請求日】2019年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000178619
【氏名又は名称】アーキヤマデ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】大西 裕之
(72)【発明者】
【氏名】庄司 博之
【審査官】 北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/108820(WO,A1)
【文献】 特開平11−235761(JP,A)
【文献】 特開平06−190925(JP,A)
【文献】 特開平09−070895(JP,A)
【文献】 特開2016−110824(JP,A)
【文献】 特開2016−110825(JP,A)
【文献】 特開平10−140774(JP,A)
【文献】 特開2015−005491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00−65/82
H05B 6/00− 6/10
H05B 6/14− 6/44
E04D 1/00−15/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防水シートで覆われた固定部材の熱溶着層を前記防水シートの表側から加熱することで前記防水シートを前記固定部材に溶着する誘導加熱溶着装置であって、
前記固定部材の種類に応じて誘導発熱特性異ならせてある複数種の加熱ユニットを択一的に接続可能なユニット接続部と、
前記ユニット接続部に接続された前記加熱ユニットを識別する識別データを出力するユニット識別部と、
電源部と、
前記電源部からの電力を用いて前記加熱ユニットに誘導加熱電流を供給する給電部と、
前記加熱ユニットに対する給電挙動を決定する給電挙動データを格納する給電挙動データ格納部と、
前記ユニット接続部に接続された前記加熱ユニットに適した前記給電挙動データを、前記識別データに基づいて前記給電挙動データ格納部から読み出す給電挙動選択部と、
選択された前記給電挙動データに基づいて前記給電部を制御する給電制御部と、が備えられている誘導加熱溶着装置。
【請求項2】
作業環境に基づく補正要求に応じて、前記給電挙動データを補正するための補正データを生成する補正データ生成部と、
前記補正データに基づいて前記給電挙動データを補正する給電挙動補正部とが備えられている請求項1に記載の誘導加熱溶着装置。
【請求項3】
溶着対象となる防水シートの厚さを設定するシート厚設定部が備えられ、
前記補正要求として、前記防水シートの厚さに基づく補正指令が前記補正データ生成部に与えられる請求項2に記載の誘導加熱溶着装置。
【請求項4】
前記電源部の電圧降下を検出する電圧降下検出部が備えられ、
前記補正要求として、前記電圧降下に基づく補正指令が前記補正データ生成部に与えられる請求項2または3に記載の誘導加熱溶着装置。
【請求項5】
前記防水シートの加熱対象領域の温度を検出して温度検出信号を出力する温度センサが備えられ、
前記補正要求として、前記温度検出信号に基づく補正指令が前記補正データ生成部に与えられる請求項2から4のいずれか一項に記載の誘導加熱溶着装置。
【請求項6】
前記給電制御部は、前記給電挙動データに基づいて、前記加熱ユニットによる前記固定部材に対する誘導加熱強度及び誘導加熱時間を制御するものであり、
前記給電挙動データ格納部には、前記給電挙動データを規定するルックアップテーブルが前記複数種の加熱ユニット毎に用意されている請求項1から5のいずれか一項に記載の誘導加熱溶着装置。
【請求項7】
衛星測位データを出力する衛星測位モジュールと、
前記加熱ユニットに対する給電挙動、及び、前記衛星測位データから算定される位置を組み合わせた加熱作業情報を記録する作業記録部と、が備えられている請求項1から6のいずれか一項に記載の誘導加熱溶着装置。
【請求項8】
前記ユニット接続部には、複数種の前記加熱ユニットとして、円形状の前記固定部材を加熱する円形の加熱コイルを有する第1加熱ユニットと、長方形状の前記固定部材を加熱する複数の矩形コイルからなる加熱コイルを有する第2加熱ユニットと、溝形断面を有する前記固定部材の底角部を加熱するコイルを有する第3加熱ユニットとが接続可能である請求項1から7のいずれか一項に記載の誘導加熱溶着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気誘導加熱を利用して、防水シートを固定部材に溶着する誘導加熱溶着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建築工事または土木工事の防水作業、例えば陸屋根等の防水工事において、熱溶着層を表面に形成した固定部材をコンクリートなどの躯体にアンカー等で固定し、躯体上に防水シートを張り、固定部材を誘導加熱することでその防水シートを躯体上に溶着固定する施工法が知られている。このような防水シートの施工法に、誘導加熱溶着装置が利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1による誘導加熱溶着装置は、誘導コイルを内蔵した電磁誘導加熱器と、この電磁誘導加熱器に電力を供給する電磁誘導制御本体とから構成され、電磁誘導制御本体と電磁誘導加熱器とは電力ケーブルによって接続されている。電磁誘導制御本体は、電源回路や制御盤等を組み込んだケーシングを備え、ケーシングの表面に、電源ランプ、電源スイッチ、出力切換スイッチ、温度表示器が設けられている。作業者は、温度表示器の表示を参考に、出力切換スイッチを、“強”、“中”、“弱”に適宜に切換えることができる。防水シートを間に挟んで円形状の固定部材の上方に電磁誘導加熱器の下面を押し当て、把持部の下面に配置されたスイッチを押すことによって誘導コイルが給電され、誘導加熱溶着が実行される。このような誘導加熱溶着装置は、防水シートの上面から固定部材を加熱して、防水シートと固定部材とを溶着するので、作業性に優れている。
【0004】
近年では、防水シートと固定部材との溶着安定性を向上させるために、長方形状の固定部材も採用されている。さらに、従来、底角部を有する溝形固定部材の底角部と防水シートとの溶着も考えられている。このような特殊な形状の固定部材に対する誘導加熱を高い信頼度で行うためには、それぞれのニーズに合った加熱コイルを用意し、かつ加熱コイルのタイプに適した給電を行う必要がある。しかしながら、固定部材の種類に応じて、適正な加熱コイルとその加熱コイルに対する適正な給電挙動(電流強度や給電時間など)とを変更することは、作業者にとって大きな負担となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−140774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した実情から、作業者に負担をかけることなしに、それぞれ異なる給電挙動で給電する必要がある複数種の加熱コイルを使用できる誘導加熱溶着装置が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による誘導加熱溶着装置は、防水シートで覆われた固定部材の熱溶着層を前記防水シートの表側から加熱することで前記防水シートを前記固定部材に溶着するものであり、前記固定部材の種類に応じて誘導発熱特性異ならせてある複数種の加熱ユニットを択一的に接続可能なユニット接続部と、前記ユニット接続部に接続された前記加熱ユニットを識別する識別データを出力するユニット識別部と、電源部と、前記電源部からの電力を用いて前記加熱ユニットに誘導加熱電流を供給する給電部と、前記加熱ユニットに対する給電挙動を決定する給電挙動データを格納する給電挙動データ格納部と、前記ユニット接続部に接続された前記加熱ユニットに適した前記給電挙動データを、前記識別データに基づいて前記給電挙動データ格納部から読み出す給電挙動選択部と、選択された前記給電挙動データに基づいて前記給電部を制御する給電制御部とを備えている。
【0008】
この構成によれば、誘導発熱特性が異なる複数種の加熱ユニットが択一的にユニット接続部に接続されるが、その接続にともなって、ユニット接続部に接続された加熱ユニットを識別する識別データが出力される。その結果、出力された識別データに基づいて、接続されている加熱ユニットにとって適正な給電挙動が選択され、この給電挙動で加熱ユニットが給電される。作業者は、固定部材の種類に応じて選択された加熱ユニットをユニット接続部に接続するだけで、接続した加熱ユニットにとって適正な給電挙動で加熱ユニットは給電されるので、作業者の負担が軽減される。
【0009】
給電挙動データによって決定される給電挙動は、加熱コイルに与えられる継時的な電気エネルギである。そのような電気エネルギを決定するためには、電流の強さ及び給電時間で決まる電流の積算量(積分値)を調整することが好適である。このことから、前記給電制御部が、前記給電挙動データに基づいて、前記加熱ユニットによる前記固定部材に対する誘導加熱強度及び誘導加熱時間を制御するものとして構成され、前記給電挙動データ格納部には、前記給電挙動データを規定するルックアップテーブルが前記複数種の加熱ユニット毎に用意されていることが好ましい。
【0010】
異なる複数種の加熱ユニットのそれぞれに対して適正な給電が実施されるように、予め作成された給電挙動データが用意されているが、実際の作業現場においては、加熱ユニットによる誘導発熱に影響を与える要因、特に作業環境による要因は少なからず存在している。したがって、高品質の溶着を実現するためには、実際の作業現場での作業環境に応じて、その都度、給電挙動を調整することが好ましい。このことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、作業環境に基づく補正要求に応じて、前記給電挙動データを補正するための補正データを生成する補正データ生成部と、前記補正データに基づいて前記給電挙動データを補正する給電挙動補正部とが備えられている。
【0011】
加熱ユニットによる誘導発熱に影響を与える要因の1つは、防水シートの厚さである。
作業現場によって使用される防水シートの厚さが異なるので、実際に使用される防水シートの厚さに応じて補正された給電挙動データに基づく給電挙動で加熱ユニットが給電されることが重要である。このことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、溶着対象となる防水シートの厚さを設定するシート厚設定部が備えられ、前記補正要求として、前記防水シートの厚さに基づく補正指令が前記補正データ生成部に与えられるように構成されている。
【0012】
高層建築の屋上のような作業現場では、地上に設置された作業現場電源からの長いケーブルを用いて、誘導加熱溶着装置の電源部に電力が送られてくる。また、そのような作業現場電源では、種々の電気装置が接続される。このような事情から、誘導加熱溶着装置の電源部では、加熱ユニットによる誘導発熱に影響を与える電圧降下が生じることがある。
この電圧降下による誘導発熱の不良を回避するため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記電源部の電圧降下を検出する電圧降下検出部が備えられ、前記補正要求として、前記電圧降下に基づく補正指令が前記補正データ生成部に与えられるように構成されている。
【0013】
固定部材の加熱状態、結果的には熱溶着層の溶融状態は作業現場の温度、特に加熱しようとする作業現場の温度に影響される。この影響を低減するため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記防水シートの加熱対象領域の温度を検出して温度検出信号を出力する温度センサが備えられ、前記補正要求として、前記温度検出信号に基づく補正指令が前記補正データ生成部に与えられるように構成されている。
【0014】
1つの作業現場において、加熱ユニットへの給電挙動が種々に変更される場合、作業管理の観点からは、各溶着箇所において実施された給電挙動を記録しておくことが重要である。しかしながら、このような記録を作業者が遂次行うことは、作業者負担が大きくなり、作業そのものの効率も低下する。これを避けるため、本発明の好適な実施形態の1つでは、衛星測位データを出力する衛星測位モジュールと、前記加熱ユニットに対する給電挙動、及び、前記衛星測位データから算定される位置を組み合わせた加熱作業情報を記録する作業記録部とが備えられている。この構成により、1つの溶着箇所に対する溶着作業毎に、誘導加熱強度や誘導加熱時間などを示す給電挙動及び溶着作業位置を加熱作業情報として記録される。その結果、作業終了後においても、この加熱作業情報を用いた詳細な溶着作業管理が可能となる。
【0015】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記ユニット接続部には、複数種の前記加熱ユニットとして、円形状の前記固定部材を加熱する円形の加熱コイルを有する第1加熱ユニットと、長方形状の前記固定部材を加熱する複数の矩形コイルからなる加熱コイルを有する第2加熱ユニットと、溝形断面を有する前記固定部材の底角部を加熱するコイルを有する第3加熱ユニットとが接続可能に構成されている。円形状固定部材、長方形状固定部材、溝形断面を有する固定部材は、それぞれ、防水シートの溶着作業にとって重要な固定部材であるが、それぞれの固定部材に適する加熱ユニットの誘導発熱特性が異なっている。この実施形態では、異なる3つの固定部材に最適な第1加熱ユニットと第2加熱ユニットと第3加熱ユニットとが、煩わしい調整作業なしに取り扱える。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】3つの異なる加熱ユニットと接続可能な誘導加熱溶着装置を用いた熱溶着作業を説明する説明図である。
図2】防水シート溶着現場の様子を示す斜視図である。
図3】誘導加熱溶着装置における制御機能を示す機能ブロック図である。
図4】加熱溶着作業における制御情報の流れを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1に、固定部材80に防水シート8を溶着する誘導加熱溶着装置が示されている。誘導加熱溶着装置は、それぞれ誘導発熱特性が異なる複数の加熱ユニット1と、ケーシング40で覆われた給電制御装置4とからなる。この実施形態では、加熱ユニット1として、第1加熱ユニット11と、第2加熱ユニット12と、第3加熱ユニット13とが用意されている。各加熱ユニット1には接続ケーブル3が取り付けられており、コネクタとして形成されているユニット接続部30を介しての給電制御装置4と接続される。
【0018】
第1加熱ユニット11は、円形状の鋼板からなる固定部材80の加熱に適した円形渦巻き状に巻かれた加熱コイル20を有する。第1加熱ユニット11、第2加熱ユニット12、第3加熱ユニット13の加熱コイル20誘導発熱特性は異なっている。つまり、第2加熱ユニット12は、長方形状の鋼板からなる固定部材80の加熱に適した、矩形渦巻き状に巻かれた複数の矩形コイルからなる加熱コイル20を有する。第3加熱ユニット13は、溝形断面を有する溝鋼からなる固定部材80の底角部の加熱に適した扁平楕円渦巻き状に巻かれた加熱コイル20を有する。
【0019】
図2は、防水シート8の敷設前の建物の屋上スラブを示す斜視図である。図2では、第1加熱ユニット11を用いて、防水下地となる鉄筋コンクリート製のスラブ本体の上に配設された固定部材80に防水シート8であるシート材を接着させる作業を示している。このスラブ本体は、屋上部分のスラブを想定している。しかしながら、鉄筋コンクリート構造のスラブの他、ALCパネルを敷き並べて形成したスラブや、デッキプレートや金属折板とコンクリートを組み合わせて形成したスラブや、さらには、それらの上に断熱層を積層させたもの等、様々な形態のスラブに、本発明は適用可能である。
【0020】
固定部材80はスラブ本体にアンカー等によって固定されている。固定部材80の上面には、防水シート8に対する熱溶着層としてポリエステル樹脂等の熱可塑性合成樹脂からなる面状のホットメルト接着層が形成されている。固定部材80は、スラブ本体上に、縦横に所定の間隔を開けた各位置に配置されている。図1で示したように、この実施形態では、固定部材80の形状は3種類である、各形状に適した加熱ユニット1、つまり、第1加熱ユニット11、第2加熱ユニット12、第3加熱ユニット13が用いられる。ホットメルト接着層が溶解するように各固定部材80を加熱するために加熱コイル20に必要な給電挙動(誘電加熱強度と誘導加熱時間)は異なるので、後述するように、加熱ユニット1の種類に応じて作り出される給電挙動で、加熱コイル20は給電される。
【0021】
図3は、加熱ユニット1と給電制御装置4とにおける制御機能を示す機能ブロック図である。加熱ユニット1には、加熱コイル20への給電の開始を指示する操作ボタン15と、周辺温度、特に防水シート8の加熱対象領域の近傍の温度を測定する温度センサ16と、加熱コイル20が固定部材80上方で正しく位置決めされているかどうかを検出する位置検出センサ17が設けられている。位置検出センサ17は、加熱コイル20の誘導加熱有効範囲に固定部材80が正確に位置しているかどうかを検出するものであり、この実施形態では、固定部材80を検出する、好ましくは3つ以上の磁気センサである。操作ボタン15、温度センサ16、位置検出センサ17が、生成する操作信号及び検出信号は接続ケーブル3の制御線32を通って給電制御装置4に送られる。加熱コイル20への誘導加熱電流は、接続ケーブル3の動力線31を通って送られる。動力線31と制御線32とは、一本の接続ケーブル3としてまとめられ、ユニット接続部30のソケットに抜き差し可能に接続される。
【0022】
給電制御装置4のケーシング40の表面には、各種操作ボタンや表示ランプを含む操作・表示デバイス群41、及び、防水シート8の厚さを設定するシート厚設定部42が配置されている
【0023】
給電制御装置4のケーシング40の内部には、電源部43と、給電部44と、制御ユニット5とが内装されている。電源部43には、商用電源または自家発電からの交流電力を送ってくる電力ケーブルが接続されている。給電部44は、インバータユニットを備えており、電源部43からの電力を用いて加熱ユニット1のための誘導加熱電流を生成し、ユニット接続部30及び動力線31を介して加熱コイル20に供給する。給電部44における電力制御は、制御ユニット5からの制御信号に基づいて行われる。電源部43には、電源部43における電圧降下を検出する電圧降下検出部430が設けられている。
【0024】
制御ユニット5は、実質的にはコンピュータシステムによって構成されており、その機能は、ハードウエア及びプログラムによって実現される。制御ユニット5は、外部との間での信号交換を行う入出力処理部50を備えている。加熱ユニット1の制御線32は、ユニット接続部30を介して入出力処理部50と接続している。操作・表示デバイス群41やシート厚設定部42も入出力処理部50と接続している。また、給電制御装置4のケーシング40の表面には、各種操作ボタンや表示ランプを含む操作・表示デバイス群41、及び、防水シート8の厚さを設定するシート厚設定部42が配置されており、入出力処理部50を介して、制御ユニット5とつながっている。さらに、入出力処理部50には、GPSで構成される衛星測位モジュール45がつながっている。
【0025】
ユニット接続部30には、第1加熱ユニット11、第2加熱ユニット12、第3加熱ユニット13が択一的に接続される。ユニット接続部30と入出力処理部50との間には、ユニット接続部30に接続された加熱ユニット1の種類、つまり、第1加熱ユニット11、第2加熱ユニット12、第3加熱ユニット13のいずれが接続されているかを示す識別信号を送る信号線も用意されている。
【0026】
制御ユニット5における、主にプログラムによってその機能が実現する機能部として、ユニット識別部51、加熱コイル位置評価部52、補正データ生成部53、給電制御部54、作業記録部55、加熱挙動管理モジュール6、作業環境補償モジュール7が備えられている。
【0027】
ユニット識別部51は、ユニット接続部30から送られてくる識別信号に基づいて、ユニット接続部30のソケットに差し込まれた加熱ユニット1の種類を特定する識別コードを識別データとして生成して、加熱挙動管理モジュール6に与える。加熱コイル位置評価部52は、位置検出センサ17からの検出信号を、設定されている基準範囲と比較し、基準範囲から外れている場合は、加熱コイル20への給電を禁止するとともに、ブザーやランプを駆動して、位置はずれの報知を行う。
【0028】
作業環境補償モジュール7は、加熱ユニット1による固定部材80の加熱に影響する因子を評価して、その評価結果から標準的な加熱挙動に対して補正が必要と判断された場合には補正要求を決定する。補正要求が決定されると、補正要求の内容を示す補正指令を生成し、補正データ生成部53に与える。補正データ生成部53は、作業環境補償モジュール7から受け取った補正指令から給電部44における給電挙動を修正するための補正データを生成して、加熱挙動管理モジュール6に送る。この実施の形態では、作業環境補償モジュール7は、温度補償部71、シート厚補償部72、電圧降下補償部73を備えている。温度補償部71は、温度センサ16からの温度検出信号に基づいて、温度による加熱変動を補償する補正指令を補正データ生成部53に与える。シート厚補償部72は、シート厚設定部42によって設定された、溶着対象となる防水シート8のシート厚さに基づいて、シート厚さの違いからくる加熱変動を補償する補正指令を補正データ生成部53に与える。電圧降下補償部73は、電圧降下検出部430からの検出信号に基づいて、電源部43における電圧降下が及ぼす加熱変動を補償する補正指令を補正データ生成部53に与える。
【0029】
加熱挙動管理モジュール6は、加熱ユニット1に対する給電挙動を決定する給電挙動データを生成して、給電制御部54に送る。給電制御部54は、受け取った給電挙動データから給電制御のための制御信号を生成して、入出力処理部50を介して給電部44に出力する。
【0030】
加熱挙動管理モジュール6は、給電挙動選択部61、給電挙動データ格納部62、給電挙動補正部63を備えている。給電挙動データ格納部62は、加熱ユニット1に対する給電挙動を決定する給電挙動データを規定するルックアップテーブルの形で格納している。給電挙動選択部61は、ユニット識別部51によって与えられた識別コードに基づいて、ユニット接続部30に接続されている加熱ユニット1に適した給電挙動データを給電挙動データ格納部62から読み出す。給電挙動補正部63は、補正データ生成部53によって与えられた補正指令に基づいて、現状の作業環境に適応した給電挙動を実現するように、給電挙動データ格納部62から読み出された給電挙動データを補正する。
【0031】
給電制御部54は、加熱挙動管理モジュール6によって与えられた給電挙動データに基づいて給電部44を制御する制御信号を生成する。この実施形態では、給電部44は、誘導加熱強度に関する情報と誘導加熱時間に関する情報とからインバータを制御する。したがって、給電制御部54は、加熱強度演算部541と加熱時間演算部542とを備えている。加熱強度演算部541は、給電挙動データから読み出された誘導加熱強度に関する情報に基づいて加熱コイル20に供給すべき電流値を求める。加熱時間演算部542は、給電挙動データから読み出された誘導加熱時間に関する情報に基づいて加熱コイル20の駆動時間を求める。求められた電流値と駆動時間とから制御信号が生成され、給電部44に与えられる。給電部44では、与えられた制御信号によるインバータ制御が実行され、加熱コイル20に対する適切な給電が行われ、加熱コイル20による適切な誘導加熱挙動が実現する。
【0032】
作業記録部55は、加熱ユニット1に対する給電挙動、及び、衛星測位モジュール45からの衛星測位データに基づく給電制御装置4の位置を組み合わせた加熱作業情報を生成して、メモリに記録する。その際、衛星測位モジュール45のアンテナを加熱ユニット1に設けると、各加熱溶着ポイントの加熱作業情報を生成して、ログ化することも可能である。
【0033】
次に、上述した誘導加熱溶着装置の実施形態における加熱溶着作業の流れと、その際の制御情報の流れを、図4を用いて説明する。
【0034】
(1)作業対象となる固定部材80の種類に応じて、適正な加熱ユニット1を選択して、ユニット接続部30に接続する。ユニット接続部30は、接続された加熱ユニット1を特定するための検出信号をユニット識別部51に与える。
【0035】
(2)給電挙動選択部61は、受け取った識別コードから、ユニット接続部30に接続された加熱ユニット1に要求されている誘導加熱を実現するために用意されている給電挙動データを選択し、給電挙動補正部63に与える。
【0036】
(3)これから行う作業で取り扱う防水シート8のシート厚さがこれまでのものと異なる場合、シート厚設定部42を操作して、作業対象となるシート厚みを設定する。シート厚補償部72が、シート厚設定部42で設定されているシート厚さを示すシート厚さ信号を検知する。シート厚さの設定変更が生じている場合、シート厚補償部72は、新たなシート厚さに基づく補正指令を生成して、補正データ生成部53に与える。
【0037】
(4)温度補償部71が、温度センサ16の検出信号から算定される検出温度が所定の基準範囲から外れている場合、その外れ量を補償するための補正指令を生成して、補正データ生成部53に与える。
【0038】
(5)電圧降下補償部73が、電圧降下検出部430の検出信号から算定される電圧降下が所定の基準範囲から外れている場合、その電圧降下を補償する補正指令を生成して、補正データ生成部53に与える。
【0039】
(6)補正データ生成部53は、シート厚補償部72、温度補償部71、電圧降下補償部73のうちの少なくとも1つから補正指令を受け取った場合、各補正指令の内容に基づく補正内容を示す補正データを生成して、給電挙動補正部63に与える。
【0040】
(7)給電挙動補正部63は、補正データ生成部53から補正データを受け取っている場合、当該補正データに基づいて、給電挙動選択部61で選択された給電挙動データを補正して、給電制御部54に転送する。
【0041】
(8)作業者が、防水シート8を挟んで、加熱ユニット1を固定部材80の上方に載置した際、位置誤差が基準内に収まっている場合、位置検出センサ17の働きで、加熱可能のランプまたはブザーが駆動するとともに、給電制御部54に加熱許可信号が与えられる。
【0042】
(9)加熱可能の報知を受けて、作業者が、加熱ユニット1の操作ボタン15を押して、加熱コイル20への給電の開始を指示すると、給電制御部54が、給電挙動データに基づいて制御信号を生成して、給電部44に出力する。加熱許可信号が与えられていない場合、操作ボタン15による給電の開始の指示は無視され、給電部44への制御信号は出力されない。
【0043】
(10)給電部44は、制御信号に基づいて、加熱ユニット1の加熱コイル20への給電を実行する。給電の終了も、給電制御部54からの制御信号によって制御される。
【0044】
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態では、給電挙動データは、誘導加熱強度及び誘導加熱時間を制御するデータであったが、誘導加熱強度のみでも、あるいは誘導加熱時間のみを制御するデータでもよい。
(2)上述した実施形態では、誘導加熱の開始は、作業者による操作ボタン15の操作によって行われ、誘導加熱の停止は自動的に行われている。しかしながら、作業者の判断で、早い時点での誘導加熱の停止、誘導加熱の延長、誘導加熱強度の増加などが要望されることがある。この要望を満たすための、オプショナルな操作デバイスが設けられてもよい。
(3)図3で示された制御ユニット5の各機能部は、説明目的で便宜上区分けされたものであり、任意の複数の機能部を統合してもよいし、各機能部をさらに区分けしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、磁気誘導加熱を利用する誘導加熱溶着装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 :加熱ユニット
3 :接続ケーブル
4 :給電制御装置
5 :制御ユニット
6 :加熱挙動管理モジュール
7 :作業環境補償モジュール
8 :防水シート
11 :第1加熱ユニット
12 :第2加熱ユニット
13 :第3加熱ユニット
15 :操作ボタン
16 :温度センサ
17 :位置検出センサ
20 :加熱コイル
30 :ユニット接続部
31 :動力線
32 :制御線
40 :ケーシング
41 :操作・表示デバイス群
42 :シート厚設定部
43 :電源部
44 :給電部
45 :衛星測位モジュール
50 :入出力処理部
51 :ユニット識別部
52 :加熱コイル位置評価部
53 :補正データ生成部
54 :給電制御部
55 :作業記録部
61 :給電挙動選択部
62 :給電挙動データ格納部
63 :給電挙動補正部
71 :温度補償部
72 :シート厚補償部
73 :電圧降下補償部
80 :固定部材
430 :電圧降下検出部
541 :加熱強度演算部
542 :加熱時間演算部
図1
図2
図3
図4