【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1、及び特許文献2に開示した視力回復装置では以下のような問題がある。即ち、従来の視力回復装置においては、表示部としてのモニターや、モニターに画像を表示させるためのプロジェクタ等が必要となり、装置全体が高額であるとともに大型化することから、眼科専門の病院や視力回復のための訓練施設等に設置され、使用者は定期的に施設等に通いながら視力回復訓練を行う必要があった。そのため、訓練施設に出向くことができない場合は定期的な訓練を受けることができず、視力回復効果があまり期待できるものではなかった。
【0011】
また、近年では、成人者をはじめとして、小中学生においても視力が低下傾向にあり、視力回復訓練を必要とする者が増加している状況において、家庭や学校、職場等で、手軽に視力回復訓練を行いたいという要望がある。
【0012】
ところで眼球は、前面に角膜を有し、その後方に水晶体、ガラス体、網膜等を有した構造となっており、主に眼球運動を司る外眼筋と、水晶体の厚みを調節する毛様体筋により眼球の動きがコントロールされている。そして、角膜を介して入った視界像は、水晶体で焦点調節がされた後、ガラス体を通って網膜に結像され、この網膜と連なる神経により脳中枢に伝達される。
【0013】
ここで、近視には軸性近視と屈折性近視の2つのタイプがあるといわれている。軸性近視とは、眼軸といわれる眼の縦軸が伸びてしまうことで、網膜の手前で焦点を結んでしまい、遠くのものがはっきり見えなくなる症状をいう。一方、屈折性近視とは近くを見続ける事で水晶体がふくらんだまま元の状態に戻らないことにより、遠くのものがはっきり見えなくなる症状をいう。一般的に近視治療とは屈折性近視に対する治療を意味し、特許文献1、及び特許文献2も屈折性近視を想定したものとなっている。そして、軸性近視についてはその治療方法が確立されていないのが現状である。
【0014】
この点、本発明者は近視になる要因として次のように仮説した。即ち、現代人は前記した通りスマートフォンをはじめとする電子デバイスを長時間見続ける傾向にあるが、このときの視線は正面よりもやや下方を向いた姿勢が維持される。視線が下向きになると、眼球を懸垂する外眼筋のうち、特に上斜筋や、上斜筋を懸垂する滑車に過大な負担が掛かる。そして上斜筋が収縮した緊張状態のまま元に戻らなくなることで、眼球が滑車方向へ引き付けられて楕円形になることが近視の大きな要因であると考えた。
【0015】
そして、発明者は鋭意研究した結果、この上斜筋や上斜筋を懸垂する滑車に対して外部から適度な刺激を与えることで、緊張した状態の筋肉が緩和し、楕円形となった眼球を真円に近い状態に戻すことができ、その結果、軸性近視であっても視力の回復効果があることを確認した。
【0016】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、誰でも手軽に利用することができるとともに、眼球に過度な負担をかけることなく眼球運動を司る筋肉を弛緩させて視力回復を図ることができる視力回復装置、及び視力回復装置の使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記の目的を達成するために、本発明の視力回復装置は、底部と、該底部の周縁から立設して指で把持可能な筒状の把持部と、該把持部の開放端縁に形成され、眼球を覆う瞼に適合する形状である接眼部とを備える。
【0018】
ここで、視力回復装置が、筒状の把持部を備えることにより、使用者は把持部を指で把持しながら視力回復装置を操作することができる。従って、使用者は家庭や職場にいながらも視力回復装置を用いて手軽に眼球のマッサージを行うことができる。
【0019】
また、把持部の開放端縁には、眼球を覆う瞼に適合する形状の接眼部を備えることにより、接眼部を瞼に密着させることができる。従って、視力回復装置を用いて眼球の周囲をマッサージする際に、接眼部と瞼の密着性を維持することができるため、マッサージ効果を高めることができる。
【0020】
また、接眼部の所定の位置に、把持部よりも外方に突出する突起部を有する場合には、突起部を瞼の周囲の眼窩に対応する皮膚表面に当接させることで、接眼部と瞼の密着性をより高めることができる。また、突起部の向きを目印としてマッサージを行うことができるため、使用者は一人でも手軽にマッサージを実施することができる。
【0021】
また、接眼部は合成樹脂から形成されている場合には、合成樹脂は柔軟材料であるため、例えマッサージ中に視力回復装置の一部が眼球に接触するようなことがあっても、それ自体が形状変形するため眼球や周囲の皮膚表面を傷つける虞がない。また、合成樹脂は摩擦係数が高いため、外部からの力を瞼に伝えやすく、マッサージ効果を高めることができる。
【0022】
前記の目的を達成するために、本発明の視力回復装置の使用方法は、底部と、該底部の周縁から立設して指で把持可能な筒状の把持部と、該把持部の開放端縁に形成され、眼球を覆う瞼に適合する形状である接眼部とを備える視力回復装置の使用方法であり、前記接眼部を使用者の一方の瞼に接眼する接眼工程と、前記接眼部を接眼した状態から目尻方向に向けて前記視力回復装置を所定の範囲だけスライドするスライド工程と、前記視力回復装置をスライドさせた状態を所定の時間維持する維持工程とを備える。
【0023】
ここで、視力回復装置の接眼部を使用者の一方の瞼に接眼する接眼工程を備えることにより、視力回復装置をマッサージ対象となる使用者の一方の瞼に密着させることができる。このとき、接眼部は瞼に適合する形状であるため、接眼部と瞼の密着性を高めることができる。従って、視力回復装置を用いて眼球の周囲をマッサージする際に、接眼部と瞼の密着性を維持することができるため、マッサージ効果を高めることができる。
【0024】
また、接眼部を接眼した状態から目尻方向に向けて視力回復装置をスライドするスライド工程を備えることにより、眼球の滑車方向へのテンション力が作用する上斜筋に対して、滑車方向とは反対方向へのテンション力を付与することできる。これにより、上斜筋がストレッチされ、緊張状態にある上斜筋を弛緩することができる。さらに、上斜筋、又は下斜筋により圧迫されて楕円形に変形した眼球を真円に近い状態に戻すことができるため、視力回復を図ることができる。
【0025】
また、視力回復装置をスライドさせた状態を所定の時間維持する維持工程を備えることにより、上斜筋に対して一定時間だけ滑車方向とは反対方向へのテンション力を付与することで、緊張状態にある上斜筋を弛緩することができる。
【0026】
また、スライド工程は、視力回復装置を略1〜2cmの範囲でスライドする場合には、上斜筋に対するマッサージ効果を高めることができる。なお、視力回復装置のスライド範囲として1cm未満の場合には、上斜筋に対するマッサージ効果が弱く視力回復効果が見込めない。一方、視力回復装置のスライド範囲として2cmよりも大きくなると、上斜筋に作用するテンション力が過大となり筋肉痛が生じたりすることが懸念される。
【0027】
また、視力回復装置をスライドさせた状態を略10〜20秒間維持する場合には、上斜筋に対するマッサージ効果を高めることができる。なお、視力回復装置をスライドさせた状態を維持する時間として10秒間未満の場合には、上斜筋に対するマッサージ効果が弱く視力回復効果が見込めない。一方、視力回復装置をスライドさせた状態を維持する時間として、20秒間を超えた場合のマッサージ効果には大きな差はみられない。従って、視力回復装置をスライドさせた状態を維持する時間としては、略10〜20秒間が最も適当である。
【0028】
また、接眼部の所定の位置に、把持部よりも外方に突出する突起部を有し、接眼工程は、突起部が目尻方向を指向する状態で接眼する場合には、接眼部を瞼に接眼させた状態で係る突起部が目尻付近の眼窩に対応する皮膚表面に当接するため、視力回復装置をスライドさせた際に、接眼部が眼窩に引っ掛かることを防止して、スムーズなスライド運動を実現することができる。
【0029】
また、スライド工程と維持工程を少なくとも2回繰り返す場合には、上斜筋に対するマッサージ効果を高めることができる。なお、スライド工程と維持工程を各1回ずつ行う場合には、マッサージ効果が弱く視力回復効果が見込めない。一方、スライド工程と維持工程を3回以上繰り返しても、マッサージ効果には大きな差はみられない。従って、スライド工程と維持工程は、2回繰り返すことが最も適当である。
【0030】
前記の目的を達成するために、本発明の視力回復装置の使用方法は、底部と、該底部の周縁から立設して指で把持可能な筒状の把持部と、該把持部の開放端縁に形成され、眼球を覆う瞼に適合する形状である接眼部とを備える視力回復装置の使用方法であり、前記接眼部を使用者の一方の瞼に接眼する接眼工程と、前記接眼部を接眼した状態から目尻方向に鋭角となる範囲で前記視力回復装置を回転する回転工程と、前記視力回復装置を回転させた状態を所定の時間維持する維持工程とを備える。
【0031】
ここで、視力回復装置の接眼部を使用者の一方の瞼に接眼する接眼工程を備えることにより、視力回復装置をマッサージ対象となる使用者の一方の瞼に密着させることができる。このとき、接眼部は瞼に適合する形状であるため、接眼部と瞼の密着性を高めることができる。従って、視力回復装置を用いて眼球の周囲をマッサージする際に、接眼部と瞼の密着性を維持することができるため、マッサージ効果を高めることができる。
【0032】
また、接眼部を接眼した状態から目尻方向に鋭角となる範囲で視力回復装置を回転する回転工程を備えることにより、眼球の滑車方向へのテンション力が作用する上斜筋に対して、滑車方向とは反対方向の外向きの回転力を付与することができる。これにより、上斜筋がストレッチされ、緊張状態にある上斜筋を弛緩することができる。さらに、上斜筋、又は下斜筋により圧迫されて楕円形に変形した眼球を真円に近い状態に戻すことができるため、視力回復を図ることができる。
【0033】
また、視力回復装置を回転させた状態を所定の時間維持する維持工程を備えることにより、上斜筋に対して一定時間回転力を付与することで、緊張状態にある上斜筋を弛緩することができる。
【0034】
また、回転工程は、視力回復装置を略30°〜45°の範囲で回転する場合には、上斜筋に対するマッサージ効果を高めることができる。なお、視力回復装置の回転範囲として30°未満の場合には、上斜筋に対するマッサージ効果が弱く視力回復効果が見込めない。一方、視力回復装置の回転範囲として45°よりも大きくなると、回転による上斜筋に作用するテンション力が過大となり筋肉痛が生じたりすることが懸念される。
【0035】
また、視力回復装置を回転させた状態を略10〜20秒間維持する場合には、上斜筋に対するマッサージ効果を高めることができる。なお、視力回復装置を回転させた状態を維持する時間として10秒間未満の場合には、上斜筋に対するマッサージ効果が弱く視力回復効果が見込めない。一方、視力回復装置を回転させた状態を維持する時間として、20秒間を超えた場合のマッサージ効果には大きな差はみられない。従って、視力回復装置を回転させた状態を維持する時間としては、略10〜20秒間が最も適当である。
【0036】
また、接眼部の所定の位置に、把持部よりも外方に突出する突起部を有し、接眼工程は、突起部が正面視で上方を指向する状態で接眼する場合には、係る突起部を指標として視力回復装置を回転させることができる。即ち、視力回復装置を回転させる場合、鏡等で突起部の傾きを確認することで、視力回復装置の回転角度を把握することができるため、効果的にマッサージを行うことができる。
【0037】
また、回転工程と維持工程を少なくとも3回繰り返す場合には、上斜筋に対するマッサージ効果を高めることができる。なお、回転工程と維持工程を2回繰り返しただけでは、マッサージ効果が弱く視力回復効果が見込めない。一方、回転工程と維持工程を4回以上繰り返しても、マッサージ効果には大きな差はみられない。従って、回転工程と維持工程は、3回繰り返すことが最も適当である。
【0038】
前記の目的を達成するために、本発明の視力回復装置の使用方法は、底部と、該底部の周縁から立設して指で把持可能な筒状の把持部と、該把持部の開放端縁に形成され、眼球を覆う瞼に適合する形状である接眼部とを備える視力回復装置の使用方法であり、前記接眼部を使用者の一方の瞼の周囲に接眼する接眼工程と、前記接眼部を接眼した状態から目尻方向と目頭方向の両方向に一定の周期で往復動する往復動工程とを備える。
【0039】
ここで、視力回復装置の接眼部を使用者の一方の瞼に接眼する接眼工程を備えることにより、視力回復装置をマッサージ対象となる使用者の一方の瞼に密着させることができる。このとき、接眼部は瞼に適合する形状であるため、接眼部と瞼の密着性を高めることができる。従って、視力回復装置を用いて眼球の周囲をマッサージする際に、接眼部と瞼の密着性を維持することができるため、マッサージ効果を高めることができる。
【0040】
また、接眼部を接眼した状態から目尻方向と目頭方向の両方向に一定の周期で往復動する往復動工程を備えることにより、上斜筋を懸垂する滑車に対するマッサージ効果を高めることができる。このとき、滑車は眼窩内側の目頭の上方部に位置するため、なるべく目頭部分が加わるように往復動させることで、よりマッサージ効果を高めることができる。
【0041】
また、往復動工程は、略10〜20秒間継続する場合には、滑車に対するマッサージ効果を高めることができる。なお、往復動工程を実施する時間として10秒間未満の場合には、滑車に対するマッサージ効果が弱く視力回復効果が見込めない。一方、往復動工程を実施する時間として20秒間を超えた場合のマッサージ効果には大きな差はみられない。従って、往復動工程を実施する時間としては、略10〜20秒間が最も適当である。
【0042】
また、接眼部の所定の位置に、把持部よりも外方に突出する突起部を有し、接眼部を使用者の一方の瞼の周囲に接眼する工程は、突起部が目尻方向を指向する状態で接眼する場合には、接眼部を瞼に接眼させた状態で係る突起部が目尻付近の眼窩に対応する皮膚表面に当接するため、視力回復装置を往復動させた際に、接眼部が眼窩に引っ掛かることを防止して、スムーズな往復動を実現することができる。