特許第6820088号(P6820088)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6820088-蓄電素子 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6820088
(24)【登録日】2021年1月6日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】蓄電素子
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/133 20100101AFI20210114BHJP
   H01G 11/24 20130101ALI20210114BHJP
   H01G 11/26 20130101ALI20210114BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20210114BHJP
   H01M 50/463 20210101ALI20210114BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20210114BHJP
   H01M 10/0587 20100101ALI20210114BHJP
【FI】
   H01M4/133
   H01G11/24
   H01G11/26
   H01G11/52
   H01M2/18 Z
   H01M4/587
   H01M10/0587
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-61231(P2015-61231)
(22)【出願日】2015年3月24日
(65)【公開番号】特開2016-181409(P2016-181409A)
(43)【公開日】2016年10月13日
【審査請求日】2018年1月12日
【審判番号】不服2019-9503(P2019-9503/J1)
【審判請求日】2019年7月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(72)【発明者】
【氏名】辻脇 亘
(72)【発明者】
【氏名】和泉 怜志
(72)【発明者】
【氏名】十河 保宏
【合議体】
【審判長】 粟野 正明
【審判官】 土屋 知久
【審判官】 池渕 立
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−222581(JP,A)
【文献】 特開2011−192543(JP,A)
【文献】 特開2014−127275(JP,A)
【文献】 特開2006−244834(JP,A)
【文献】 特開2004−273444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極とがセパレータを介して積層された積層体を有する電極体を備え、
前記負極は難黒鉛化炭素を含む負極活物質層を備えており、
該負極活物質層の表面の算術平均粗さが0.2μm以下であり、
前記セパレータが多孔質膜を備え、
該多孔質膜の厚みが8μm以上14μm以下であり、
該多孔質膜は前記負極活物質層と当接している、蓄電素子。
【請求項2】
前記難黒鉛化炭素の平均粒子径が6μm以下である、請求項1記載の蓄電素子。
【請求項3】
シート状の前記積層体が巻回された扁平状の電極体を備え、
該電極体は、対向する2つの平坦部と、該平坦部の端部どうしを接続する2つの湾曲部とを有し、
該湾曲部での正極と負極との間の距離が前記平坦部での前記距離の0.99倍以上である、請求項1又は2に記載の蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、難黒鉛化炭素を活物質として含む負極を備えた蓄電素子が使用されている(下記特許文献1参照)。蓄電素子は、正極および負極を有する電極体を備えている。電極体は、セパレータによって正極と負極との間が絶縁されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−64544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
蓄電素子には出力を向上させることが求められている。蓄電素子の出力は、セパレータの厚みを薄くすることで向上させることができる。一方、セパレータの厚みを薄くすると正極と負極との間の絶縁性が低下する場合がある。
【0005】
本発明は、正極と負極との間の絶縁性を確保しつつ蓄電素子の出力を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の蓄電素子は、
正極と負極とがセパレータを介して積層された積層体を有する電極体を備え、
前記負極は難黒鉛化炭素を含む負極活物質層を備えており、
該負極活物質層の表面の算術平均粗さが0.4μm以下である。
【0007】
難黒鉛化炭素は、黒鉛又は易黒鉛化炭素に比べて硬い。そのため難黒鉛化炭素を含む負極活物質層の表面の突起はセパレータに突入して正極と負極との間の絶縁性を低下させる原因となる場合がある。負極活物質層の表面の算術平均粗さが0.4μm以下の蓄電素子は、表面に凹凸が少ないため正極と負極との間の絶縁性を向上させることができる。即ち、斯かる蓄電素子は、絶縁性を向上させることができるため厚みの薄いセパレータを採用して出力を向上させても正極と負極との間の絶縁性を確保することができる。
【0008】
蓄電素子は、
前記難黒鉛化炭素の平均粒子径が6μm以下であってもよい。
【0009】
斯かる構成を有する蓄電素子は、負極活物質層の表面に大きな凹凸が形成されることを抑制できるため正極と負極との間の絶縁性を向上させることができる。
【0010】
蓄電素子は、
前記セパレータが多孔質膜を備え、該多孔質膜の厚みが14μm以下であってもよい。
【0011】
斯かる構成を有する蓄電素子は、多孔質膜の厚みが薄いことで当該蓄電素子の出力を向上させることができる。
【0012】
蓄電素子は、
シート状の前記積層体が巻回された扁平状の電極体を備え、
該電極体は、対向する2つの平坦部と、該平坦部の端部どうしを接続する2つの湾曲部とを有し、
該湾曲部での正極と負極との間の距離が前記平坦部での前記距離の0.99倍以上であってもよい。
【0013】
斯かる構成を有する蓄電素子は、湾曲部で負極活物質層とセパレータとが強く当接されることが抑制されるため正極と負極との間の絶縁性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、絶縁性を確保しつつ蓄電素子の出力を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る蓄電素子の斜視図である。
図2図2は、図1のII−II線位置の断面図である。
図3図3は、同実施形態に係る蓄電素子の電極体の構成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る蓄電素子の一実施形態について、図1図3を参照しつつ説明する。
蓄電素子には、一次電池、二次電池、キャパシタ等がある。本実施形態では、蓄電素子の一例として、充放電可能な二次電池について説明する。尚、本実施形態の各構成部材(各構成要素)の名称は、本実施形態におけるものであり、背景技術における各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0017】
本実施形態の蓄電素子は、非水電解質二次電池である。より詳しくは、蓄電素子は、リチウムイオンの移動に伴って生じる電子移動を利用したリチウムイオン二次電池である。この種の蓄電素子は、電気エネルギーを供給する。蓄電素子は、単一又は複数で使用される。具体的に、蓄電素子は、要求される出力及び要求される電圧が小さいときには、単一で使用される。一方、蓄電素子は、要求される出力及び要求される電圧の少なくとも一方が大きいときには、他の蓄電素子と組み合わされて蓄電装置に用いられる。前記蓄電装置では、該蓄電装置に用いられる蓄電素子が電気エネルギーを供給する。
【0018】
蓄電素子は、図1図3に示すように、正極23及び負極24を含む電極体2と、電極体2を収容するケース3と、ケース3の外側に配置される外部端子4であって電極体2と導通する外部端子4と、を備える。また、蓄電素子1は、電極体2、ケース3、及び外部端子4の他に、電極体2と外部端子4とを導通させる集電体5等を有する。
【0019】
電極体2は、正極23と負極24とが互いに絶縁された状態で積層されたシート状の積層体22が巻回されることによって形成される。積層体22は、後述するように正極23と負極24とがセパレータを介して積層されることによって形成される。
【0020】
本実施形態の電極体2は、図2に示すように扁平状である。本実施形態の電極体2は、2つの平坦部221と2つの湾曲部222とを備えている。2つの平坦部221は電極体2の厚み方向(図2のY方向)において中空部27を挟んで対向している。詳しくは、2つの平坦部221は大きさが揃った矩形板状で僅かな間隙を設けて平行している。2つの湾曲部222は、平坦部221の対向する方向とは直交する方向であって電極体2の幅方向(図2のZ方向)において対向している。2つの湾曲部の内の第1の湾曲部は、電極体2の幅方向での一端部において平坦部の内の第1の平坦部の端部と第2の平坦部の端部とを接続している。残りの第2の湾曲部は、電極体2の幅方向での他端部において前記平坦部の内の第1の平坦部の端部と第2の平坦部の端部とを接続している。詳しくは、第1の湾曲部は、半円を描くように第1の平坦部の一端部と第2の平坦部の一端部とを接続している。また、第2の湾曲部は、半円を描くように第1の平坦部の他端部と第2の平坦部の他端部とを接続している。湾曲部222での正極と負極との間の距離は、平坦部221での正極と負極との間の距離の0.99倍以上とすることができる。湾曲部222での正極と負極との間の距離は、平坦部221での距離の1.2倍以下であっても良い。電極体2における正極と負極との間の距離は、積層体22を巻回して当該電極体2を作製する際に積層体22に加える張力などにより調整される。湾曲部222で正極と負極に対して生じる張力は、平坦部221と比較して高い。このため、湾曲部222での正極と負極との間の距離は、通常、平坦部221での正極と負極との間の距離の0.95倍以下となる。湾曲部222での正極と負極との間の距離を、平坦部221での正極と負極との間の距離の0.99倍以上とすることは、湾曲部222において、正極と負極に対して生じる張力を小さくすることを意味する。
【0021】
湾曲部222での正極と負極との間の距離、及び、平坦部221での正極と負極との間の距離は、電極体2を形成している積層体22の厚みと、該積層体22の積層方向に存在する正極−負極間の間隙の数とを求め、該間隙数で前記厚みを除して求めることができる。湾曲部222での正極と負極との間の距離は、電極体2の幅方向両端部において、積層体22の厚み(幅方向での厚み)と正極−負極間の間隙数とを測定して算出することができる。具体的には、第1の湾曲部と第2の湾曲部とのそれぞれにおいて、積層体22の厚み(幅方向での厚みであって、中空部27の厚みは含まれない)と正極−負極間の間隙数とを測定することで、第1の湾曲部と第2の湾曲部のそれぞれにおける正極と負極との間の距離を算出する。算出された第1の湾曲部での正極と負極との間の距離と、第2の湾曲部での正極と負極との間の距離と、を平均することで、湾曲部222での正極と負極との間の距離を算出することができる。平坦部221での正極と負極との間の距離は、電極体2の幅方向中央部において、電極体2の厚み方向での積層体厚みと正極−負極間の間隙数とを測定して算出することができる。具体的には、第1の平坦部と第2の平坦部とのそれぞれにおいて、積層体22の厚み(厚み方向での厚みであって、中空部27の厚みは含まれない)と正極−負極間の間隙数とを測定することで、第1の平坦部と第2の平坦部のそれぞれにおける正極と負極との間の距離を算出する。算出された第1の平坦部での正極と負極との間の距離と、第2の平坦部での正極と負極との間の距離と、を平均することで、平坦部221での正極と負極との間の距離を算出することができる。
【0022】
正極23は、金属箔と、金属箔の上に形成された正極活物質層と、を有する。金属箔は帯状である。本実施形態の金属箔は、例えば、アルミニウム箔である。正極23は、帯形状の短手方向である幅方向の一方の端縁部に、正極活物質層の非被覆部(正極活物質層が形成されていない部位)231を有する。正極23において正極活物質層が形成される部位を被覆部232と称する。
【0023】
前記正極活物質層は、正極活物質と、バインダーと、を有する。
【0024】
前記正極活物質は、例えば、リチウム金属酸化物である。具体的に、正極活物質は、例えば、LiMe(Meは、1又は2以上の遷移金属を表す)によって表される複合酸化物(LiCo、LiNi、LiMn、LiNiCoMn等)、LiMe(XO(Meは、1又は2以上の遷移金属を表し、Xは例えばP、Si、B、Vを表す)によって表されるポリアニオン化合物(LiFePO、LiMnPO、LiMnSiO、LiCoPOF等)である。本実施形態の正極活物質は、LiNi1/3Co1/3Mn1/3である。
【0025】
正極活物質層に用いられるバインダーは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エチレンとビニルアルコールとの共重合体、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレンブタジエンゴム(SBR)である。本実施形態のバインダーは、ポリフッ化ビニリデンである。
【0026】
前記正極活物質層は、ケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック、黒鉛等の導電助剤をさらに有してもよい。本実施形態の正極活物質層は、導電助剤としてアセチレンブラックを有する。
【0027】
負極24は、金属箔と、金属箔の上に形成された負極活物質層と、を有する。金属箔は帯状である。本実施形態の金属箔は、例えば、銅箔である。負極24は、帯形状の短手方向である幅方向の他方(正極23の非被覆部231と反対側)の端縁部に、負極活物質層の非被覆部(負極活物質層が形成されていない部位)241を有する。負極24の被覆部(負極活物質層が形成される部位)242の幅は、正極23の被覆部232の幅よりも大きい。
【0028】
前記負極活物質層は、負極活物質と、バインダーと、を有する。
【0029】
前記負極活物質は、例えば、グラファイト、難黒鉛化炭素、及び易黒鉛化炭素などの炭素材、又は、ケイ素(Si)及び錫(Sn)などのリチウムイオンと合金化反応を生じる材料である。本実施形態の負極活物質は、難黒鉛化炭素である。
【0030】
本実施形態の難黒鉛化炭素は、平均粒子径(D50)が6μm以下である。難黒鉛化炭素の平均粒子径(D50)は、2μm以上であってもよい。難黒鉛化炭素の平均粒子径は、レーザー回折散乱法で測定することができる。平均粒子径とは、体積標準の粒度分布における累積度50%(D50)の粒径を意味する。具体的には、測定装置としてレーザー回折式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社MT3000EXII)、測定制御ソフトとしてマイクロトラック専用アプリケーションソフトフェアDMS(ver.2)を用いる。具体的な測定手法としては、散乱式の測定モードを採用し、測定対象試料(難黒鉛化炭素)が分散溶媒中に分散する分散液が循環する湿式セルを2分超音波環境下に置いた後に、レーザー光を照射し、測定試料から散乱光分布を得る。そして、散乱光分布を対数正規分布により近似し、その粒度分布(横軸、σ)において最小を0.021μm、最大を2000μmに設定した範囲の中で累積度50%(D50)にあたる粒径を平均粒子径とする。また、分散液は界面活性剤と分散剤としてのSNディスパーサント 7347−CまたはトリトンX−100(登録商標)とを含む。分散液には、分散剤を数滴加える。また、試料が浮遊する場合、湿潤材としてSNウェット 366を加える。
【0031】
負極活物質層に用いられるバインダーは、正極活物質層に用いられたバインダーと同様のものである。本実施形態のバインダーは、ポリフッ化ビニリデンである。
【0032】
負極活物質層と正極活物質層との間には、セパレータ25が介装される。負極活物質層は、セパレータ25に接する表面を有する。負極活物質層の表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.4μm以下である。負極活物質層の表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.05μm以上であってもよい。正極と負極との間の絶縁性を効果的に向上させる観点から、負極活物質層の表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.2μm以下であることが好ましい。
【0033】
負極活物質層の表面の算術平均粗さ(Ra)は、JIS B 0601:2013「製品の幾何特性仕様(GPS)−表面性状:輪郭曲線方式−用語,定義及び表面性状パラメータ」に準じて測定される。具体的には、算術平均粗さ(Ra)は、小坂研究所製の商品名「Surfcorder DE500」を用いて測定することができる。算術平均粗さ(Ra)の測定条件は、触針のR値を2μmとし、送り速さを0.2mm/s、カットオフ(λc)値を0.800mmとし、試料の測定長さを4000mmとすることができる。
【0034】
負極活物質層の表面の算術平均粗さ(Ra)は、当該負極活物質層の形成材料の選択、負極活物質層の形成条件、及び、後処理により調整することができる。形成材料に関しては、用いる活物質とバインダーとの割合、用いる活物質の平均粒子径、粒度分布を変えることなどによって負極活物質層の算術平均粗さ(Ra)を調整することができる。形成条件に関しては、金属箔上への塗工条件(塗工機の種類や塗工速度)を変えることなどによって負極活物質層の算術平均粗さ(Ra)を調整することができる。後処理に関しては、表面をロールプレス等で平滑にさせる方法などで当該負極活物質層の算術平均粗さ(Ra)を小さくすることができる。
【0035】
本実施形態の電極体2では、以上のように構成される正極23と負極24とがセパレータ25によって絶縁された状態で巻回される。即ち、本実施形態の電極体2では、正極23、負極24、及びセパレータ25の積層体22が巻回される。セパレータ25は、絶縁性を有する部材である。セパレータ25は、正極23と負極24との間に配置される。これにより、電極体2(詳しくは、積層体22)において、正極23と負極24とが互いに絶縁される。また、セパレータ25は、ケース3内において、電解液を保持する。これにより、蓄電素子1の充放電時において、リチウムイオンが、セパレータ25を挟んで交互に積層される正極23と負極24との間を移動する。
【0036】
セパレータ25は、帯状である。セパレータ25は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース、ポリアミドなどの樹脂製の多孔質膜によって構成される。セパレータ25は、SiO粒子、Al粒子、ベーマイト(アルミナ水和物)等の無機粒子を含んだ無機層を、多孔質膜によって形成された基材の上に設けることで形成されてもよい。無機層を有するセパレータ25は、当該無機層を正極活物質層に当接させ負極活物質層には多孔質膜を当接させて用いることができる。本実施形態の多孔質膜の厚みは14μm以下である。該多孔質膜の厚みは8μm以上であっても良い。多孔質膜の厚みが14μm以下であることにより、多孔質膜中のイオン拡散速度が大きくなるため、蓄電素子の出力を向上させることができる。一方、正極と負極との距離が小さくなるため、蓄電素子の絶縁性が低下する場合がある。本実施形態のセパレータ25は、例えば、ポリエチレンによって形成される。セパレータの幅(帯形状の短手方向の寸法)は、負極24の被覆部242の幅より僅かに大きい。セパレータ25は、被覆部232同士が重なるように幅方向に位置ずれした状態で重ね合わされた正極23と負極24との間に配置される。このとき、正極23の非被覆部231と負極24の非被覆部241とは重なっていない。即ち、正極23の非被覆部231が、正極23と負極24との重なる領域から幅方向に突出し、且つ、負極24の非被覆部241が、正極23と負極24との重なる領域から幅方向(正極23の非被覆部231の突出方向と反対の方向)に突出する。積層された状態の正極23、負極24、及びセパレータ25、即ち、積層体22が巻回されることによって、電極体2が形成される。正極23の非被覆部231又は負極24の非被覆部241のみが積層された部位によって、電極体2における非被覆積層部26が構成される。多孔質膜の厚みは、東洋精機製の微小測厚器(タイプKBM、端子径5mmφ、測定圧637g/cm)を用いて、無作為に3点測定し、その平均値により算出できる。測定時の雰囲気温度は、23±2℃とする。
【0037】
非被覆積層部26は、電極体2における集電体5と導通される部位である。本実施形態の非被覆積層部26は、巻回された正極23、負極24、及びセパレータ25の巻回中心方向視において、中空部27(図2参照)を挟んで二つの部位(二分された非被覆積層部)261に区分けされる。
【0038】
以上のように構成される非被覆積層部26は、電極体2の各極に設けられる。即ち、正極23の非被覆部231のみが積層された非被覆積層部26が電極体2における正極の非被覆積層部を構成し、負極24の非被覆部241のみが積層された非被覆積層部26が電極体2における負極の非被覆積層部を構成する。
【0039】
ケース3は、開口を有するケース本体31と、ケース本体31の開口を塞ぐ(閉じる)蓋板32と、を有する。ケース3は、電極体2及び集電体5等と共に、電解液を内部空間33に収容する。ケース3は、電解液に耐性を有する金属によって形成される。本実施形態のケース3は、例えば、アルミニウム、又は、アルミニウム合金等のアルミニウム系金属材料によって形成される。ケース3は、ステンレス鋼及びニッケル等の金属材料、又は、アルミニウムにナイロン等の樹脂を接着した複合材料等によって形成されてもよい。
【0040】
電解液は、非水溶液系電解液である。電解液は、有機溶媒に電解質塩を溶解させることによって得られる。有機溶媒は、例えば、プロピレンカーボネート及びエチレンカーボネートなどの環状炭酸エステル類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート類である。電解質塩は、LiClO、LiBF、及びLiPF等である。本実施形態の電解液は、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートを、プロピレンカーボネート:ジメチルカーボネート:エチルメチルカーボネート=3:2:5の割合で調整した混合溶媒に、1mol/LのLiPFを溶解させたものである。
【0041】
本実施形態の蓄電素子は、負極活物質層の表面の算術平均粗さが0.4μm以下であるので、厚みの薄い樹脂製の多孔質膜をセパレータに採用して出力を向上させることができる。本実施形態の蓄電素子は、負極活物質層の表面の算術平均粗さが0.4μm以下であるので、正極と負極との間の絶縁性を確保することができる。
本実施形態における蓄電素子の負極活物質層は、含有する難黒鉛化炭素の平均粒子径が6μm以下であるので当該負極活物質層の表面の算術平均粗さを低い値にすることができる。
本実施形態の蓄電素子は、セパレータが14μm以下の厚みを有する多孔質膜を備えていることで出力を向上させることができる。
本実施形態の蓄電素子は、シート状の前記積層体が巻回されて形成された電極体を備えている。電極体は、対向する2つの平坦部と、該平坦部の端部どうしを接続する2つの湾曲部とを有する扁平状であり、該湾曲部での正極と負極との間の距離が前記平坦部の0.99倍以上である。このため本実施形態の蓄電素子は、湾曲部で負極活物質層とセパレータとが強く当接されることが抑制されて正極と負極との間の絶縁性が確保されている。
【0042】
尚、本発明の蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。
【0043】
また、上記実施形態においては、蓄電素子が充放電可能な非水電解質二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)として用いられる場合について説明したが、蓄電素子の種類や大きさ(容量)は任意である。また、上記実施形態において、蓄電素子の一例として、リチウムイオン二次電池について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、本発明は、種々の二次電池、その他、一次電池や、電気二重層キャパシタ等のキャパシタの蓄電素子にも適用可能である。
【0044】
蓄電素子(例えば電池)は、蓄電装置(蓄電素子が電池の場合は電池モジュール)に用いられてもよい。蓄電装置は、少なくとも二つの蓄電素子1と、二つの(異なる)蓄電素子1同士を電気的に接続するバスバ部材と、を有する。この場合、本発明の技術が少なくとも一つの蓄電素子1に適用されていればよい。
【実施例】
【0045】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
(予備検討)
電極体の絶縁性とセパレータの厚みとの関係について以下のように予備検討を行った。
まず、難黒鉛化炭素を活物質層に含む負極をセパレータを介して正極に積層し、シート状(帯状)の積層体を作製した。
次いで、このシート状の積層体を巻回して平坦部と湾曲部とを有する扁平状の電極体を作製した。
この電極体を、厚み15μmの樹脂多孔質膜を備えたセパレータと、厚み13μmの樹脂多孔質膜を備えたセパレータとで作製し、それぞれについて正極と負極との間の絶縁性を評価した。
絶縁性の評価は、集電体の取付けが行われる箇所において正極と負極との間に電圧を印加し、これらの間に所定の電圧を印加した際の電流値を測定することによって実施した。ここで、所定の電圧とは、セパレータの耐電圧の下限値(当該セパレータ単体の状態で絶縁破壊が生じないことが確認された電圧のうち最も小さい値)である。
正極と負極との間の電圧値が所定の値に到達した際に14mA以上の電流値が観測されたもの、及び、正極と負極との間の電気抵抗が十分ではなく所定の電圧を印加することが困難であったものを絶縁度が閾値以下となった試料と判定した。
その結果、厚み15μmの樹脂多孔質膜を備えたセパレータを用いた電極体のうち絶縁度が閾値以下となった試料の割合に対し、厚み13μmの樹脂多孔質膜を備えたセパレータを用いた電極体のうち絶縁度が閾値以下となった試料の割合は約3倍以上の高い値を示した。
【0047】
(負極活物質層の表面粗さの検討)
下記表1に示す表面粗さ(算術平均粗さ:Ra)を有する負極活物質層を備えた負極と、厚み13μmの樹脂多孔質膜を備えたセパレータとを用いて予備的検討と同様に電極体を作製し絶縁度が閾値以下となった試料の割合を算出した。
なお、表面粗さの異なる負極活物質層の形成には各々表1に示す平均粒子径(D50)を有する難黒鉛化炭素を用いた。
【0048】
【表1】
【0049】
上記のように絶縁度が閾値以下となった試料の割合は、算術平均粗さが0.4μm以下になると大きく低下している。算術平均粗さが0.18μmの負極は、絶縁度が閾値以下となった試料の割合が0.2%であり、他の負極と比較して、極めて小さい値である。
以上のようなことから負極活物質層の表面の算術平均粗さを0.4μm以下とすることで厚みの薄い樹脂多孔質膜を有するセパレータを採用しても正極と負極との間の絶縁性が確保されることがわかる。
【符号の説明】
【0050】
1:蓄電素子、23:正極、24:負極、25:セパレータ
図1
図2
図3