(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
回転軸体に加わるトルクを検出する方式の一つとして、回転軸体の周面に金属歪ゲージを取付け、トルクにより回転軸体の周面に生じるせん断応力の大きさを、金属歪ゲージにおける抵抗値変化により検出する方式がある。この方式では、4つ以上の金属歪ゲージを回転軸体の軸方向に対して45度方向に取付けてブリッジ回路を構成している。
しかしながら、金属歪ゲージでは、ゲージ率が小さいため、微小な歪を高精度に検出することは困難である。
【0003】
一方、トルクの検出感度を上げる方法として、回転軸体の剛性を下げ、歪量を増大させる方式が考えられる。特許文献1では、回転軸体に様々な加工を施して梁部を形成することで、感度の向上を実現している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、回転軸体の剛性を下げる方式では、応力増大によるヒステリシスの問題(感度とヒステリシスとのトレードオフの問題)が発生し、精度の向上は望めない。
また、従来方式では、金属歪ゲージを少なくとも4つ以上配置する必要がある。よって、各金属歪ゲージの相対位置及び角度を厳密に合わせる必要があり、困難であるという課題がある。
【0006】
ここで、産業用ロボットでは、その動作を制御するためにトルクの検出が不可欠である。そのため、従来から、トルク検出器が産業用ロボットに取付けられ、ロボットアームの各関節のトルクを検出している。
一方、近年では、産業用ロボットに対し、人と隔たりなく共存するために、人又は物等の物体に接触した際に、瞬時に接触を検知して動作が止まるような安全性が求められている。しかしながら、産業用ロボットは、自身の重み及び保持する物体の重みを有し、更に動作スピードを考慮した堅牢な筐体であることから、従来の金属歪ゲージでは高精度にトルクを検出することは難しい。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、トルクの検出精度が向上するトルク検出器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るトルク検出器は、抵抗ゲージを有し、外力に応じて歪みが生じる基板層と、一面が基板層の少なくとも両端に接合され、当該一面に対向する対向面における長手方向両端が回転軸体に接合される絶縁層と
、絶縁層の対向面に形成され、当該対向面における長手方向両端に接合部を構成させる溝部とを備え、接合部は、直接、回転軸体に接合されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、上記のように構成したので、トルクの検出精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】
図2Aはこの発明の実施の形態1における抵抗ゲージの配置例を示す上面図であり、
図2Bは
図2Aに示す抵抗ゲージにより構成されるフルブリッジ回路の構成例を示す図である。
【
図3】この発明の実施の形態1における歪センサの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4A、
図4Bは、この発明の実施の形態1における歪センサが回転軸体に取付けられた状態を示す図であり、
図4Aは上面図であり、
図4Bは側面図である。
【
図5】
図5A、
図5Bは、トルク検出器の基本動作原理を説明する図であり、
図5Aは回転軸体に加えられたトルクを示す側面図であり、
図5Bは
図5Aに示すトルクにより歪センサに発生した応力分布の一例を示す図である。
【
図6】この発明の実施の形態1における歪センサの別の構成例を示す側面図である。
【
図7】この発明の実施の形態1における歪センサの別の構成例を示す側面図(歪センサが回転軸体に取付けられた状態を示す図)である。
【
図8】この発明の実施の形態1における歪センサの別の構成例を示す側面図(歪センサが回転軸体に取付けられた状態を示す図)である。
【
図9】この発明の実施の形態1における歪センサの別の構成例を示す側面図(歪センサが回転軸体に取付けられた状態を示す図)である。
【
図11】
図11Aはこの発明の実施の形態1における抵抗ゲージの別の配置例を示す上面図であり、
図11Bは
図11Aに示す抵抗ゲージにより構成されるハーフブリッジ回路の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係るトルク検出器の構成例を示す図である。
トルク検出器は、回転軸体5(
図4参照)に加わるトルクを検出する。回転軸体5は、軸方向における一端にモータ等の駆動系6が接続され、他端にロボットハンド等の負荷系が接続される。トルク検出器は、
図1に示すように、歪センサ1を備えている。
【0012】
歪センサ1は、回転軸体5に取付けられ、外部からのせん断応力(引張応力及び圧縮応力)に応じた電圧を出力する半導体歪ゲージである。歪センサ1は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)により実現される。歪センサ1は、
図1,2に示すように、シリコン層(基板層)11及び絶縁層12を有する。
【0013】
シリコン層11は、外力に応じて歪みが生じる単結晶シリコンであり、複数の抵抗ゲージ(拡散抵抗)13から成るホイートストンブリッジ回路を有するセンサ層である。シリコン層11には、裏面(一面)の中央に、溝部111が形成されている。溝部111により、シリコン層11には薄肉部112が構成される。抵抗ゲージ13は、この薄肉部112に形成される。
【0014】
なお、薄肉部112の厚さは、シリコン層11の剛性等に応じて適宜設計される。例えば、シリコン層11の剛性が低い場合には薄肉部112は厚くされ、シリコン層11の剛性が高い場合には薄肉部112は薄くされる。
【0015】
また、単結晶シリコンは、結晶異方性を有し、p型シリコン(100)面において、<110>方向のときに最もピエゾ抵抗係数が大きくなる。そのため、抵抗ゲージ13は、例えば表面の結晶方位が(100)であるシリコン層11の<110>方向に形成される。
図2では、フルブリッジ回路(ホイートストンブリッジ回路)を構成する4つの抵抗ゲージ13(R1〜R4)が、シリコン層11の辺方向に対して斜め方向(45度方向)に形成され、歪センサ1が2方向のせん断応力を検知する場合を示している。なおここでは、上記斜め方向の具体例として45度方向とした場合を示したが、上記斜め方向は45度方向に限定されず、歪センサ1の特性上、ある程度のずれ(例えば44度方向又は46度方向等)は許容される。
【0016】
絶縁層12は、上面(一面)がシリコン層11の裏面の少なくとも両端に接合され、裏面(一面に対向する対向面)の長手方向両端が回転軸体5に接合される台座である。この絶縁層12としては、例えばガラス又はサファイア等を用いることができる。
図1では、絶縁層12の上面がシリコン層11における裏面の全面に接合された場合を示している。また、絶縁層12には、裏面の長手方向両端を除く領域に、溝部121が形成されている。溝部121により、絶縁層12の裏面の長手方向両端には接合部122が構成される。そして、
図4に示すように、絶縁層12の接合部122が、直接、回転軸体5に接合される。
【0017】
次に、歪センサ1の製造方法の一例について、
図3を参照しながら説明する。
歪センサ1の製造方法では、
図3に示すように、まず、シリコン層11に、イオン注入により複数の抵抗ゲージ13を形成する(ステップST1)。そして、複数の抵抗ゲージ13によりホイートストンブリッジ回路を形成する。
次いで、シリコン層11の裏面に、エッチングにより溝部111を形成する(ステップST2)。これにより、シリコン層11の抵抗ゲージ13が形成された箇所を薄肉部112とさせる。
また、絶縁層12の裏面の長手方向両端を除く領域に、エッチングにより溝部121を形成する(ステップST3)。これにより、絶縁層12の裏面の長手方向両端に接合部122が構成される。
次いで、シリコン層11の裏面と絶縁層12の上面とを、例えば陽極接合により接合する(ステップST4)。
【0018】
また上記のようにして製造された歪センサ1を回転軸体5に取付ける場合には、絶縁層12の接合部122と回転軸体5とを例えばはんだ接合により接合する。この際、絶縁層12の接合部122及び回転軸体5の接合部位をメタライズした上で、はんだ接合を行う。
図4は、歪センサ1が回転軸体5に取付けられた状態を示している。
【0019】
また、歪センサ1は、抵抗ゲージ13が回転軸体5の軸方向に対して斜め方向(45度方向)を向くように配置される。すなわち、抵抗ゲージ13は、回転軸体5にトルクが加わった際に発生するせん断応力の発生方向を向くように配置される。なおここでは、上記斜め方向の具体例として45度方向とした場合を示したが、上記斜め方向は45度方向に限定されず、歪センサ1の特性上、ある程度のずれ(例えば44度方向又は46度方向等)は許容される。
【0020】
次に、トルク検出器の基本動作原理について、
図5を参照しながら説明する。
図5Aでは、歪センサ1が取付けられた回転軸体5の一端に駆動系6が接続され、この駆動系6により回転軸体5にトルクが加えられた状態を示している。
図5Aに示すように、回転軸体5にトルクが加えられることで、回転軸体5に取付けられた歪センサ1が歪み、歪センサ1の表面に
図5Bに示すようなせん断応力が発生する。
図5では、色が濃い点ほど引張応力が強い状態であり、色が薄い点ほど圧縮応力が強い状態であることを示している。そして、回転軸体5の軸方向に対して斜め方向(45度方向)を向いた抵抗ゲージ13は、このせん断応力に応じて抵抗値が変化し、歪センサ1は、抵抗値の変化に応じた電圧を出力する。そして、トルク検出器は、この歪センサ1により出力された電圧から回転軸体5に加えられたトルクを検出する。
【0021】
実施の形態1に係るトルク検出器では、絶縁層12の裏面の長手方向両端に接合部122が形成され、この接合部122のみが回転軸体5に接合されている。
ここで、回転軸体5に歪センサ1が直接取付けられた場合、取付け位置が回転軸体5の軸方向に距離が離れるほど相対的な歪量が増える。そこで、歪センサ1の接合部122が軸方向の外側のみとされることで、最も大きな変位差を歪センサ1に伝達でき、回転軸体5に加わるトルクに対する検出感度が向上する。
【0022】
なお、この方式では、歪センサ1自体、特に絶縁層12の剛性が低い場合には、回転軸体5の変形が歪センサ1に伝達され難いため、絶縁層12をより硬い材料で構成することで効果がより高くなる。例えば、絶縁層12としてサファイア等を用いた方が、ガラスを用いた場合に対して効果的となる。
【0023】
なお上記のトルク検出器では、シリコン層11の裏面中央に溝部111が形成されることで薄肉部112が構成され、抵抗ゲージ13がこの薄肉部112に形成されている。これにより、抵抗ゲージ13が形成された薄肉部112に応力を集中させることができ、回転軸体5に加わるトルクに対する検出感度が向上する。
【0024】
また上記では、絶縁層12の上面がシリコン層11の裏面の全面に接合された場合を示した。しかしながら、これに限らず、例えば
図6に示すように、絶縁層12が中央で2つに分断された絶縁層(第1絶縁層)123及び絶縁層(第2絶縁層)124を用いてもよい。これにより、回転軸体5の変形を更に効率よく歪センサ1に伝達できる。
【0025】
また上記では、絶縁層12の裏面に溝部121が形成された場合を示した。しかしながら、これに限らず、絶縁層12の長手方向両端側のみが回転軸体5に接合されていればよい。
例えば
図7に示すように、絶縁層12として、間隙を有して配置され、シリコン層11の長手方向両端のみに対向する2つの板状の絶縁層(第1絶縁層、第2絶縁層)125,126を用い、この2つの絶縁層125,126が、直接、回転軸体5に接合されてもよい。
また、例えば
図8に示すように、板状の絶縁層12の裏面の長手方向両端に、剛性の高い柱部材14が接合され、絶縁層12は、この柱部材14を介して回転軸体5に接合されるように構成してもよい。
また例えば
図9に示すように、板状の絶縁層12の裏面の長手方向両端が、接着部材(接着剤又ははんだ等)15により、直接、回転軸体5に接合されてもよい。
【0026】
また、4つの抵抗ゲージ13の配置は
図2に示す配置に限らず、例えば
図10に示すような配置としてもよい。
【0027】
また上記では、ホイートストンブリッジ回路として、4つの抵抗ゲージ13(R1〜R4)から成るフルブリッジ回路を用いた場合を示した。しかしながら、これに限らず、
図11に示すように、ホイートストンブリッジ回路として、2つの抵抗ゲージ13(R1,R2)から成るハーフブリッジ回路を用いてもよい。なお、
図11BにおけるRは、固定抵抗である。
【0028】
また
図12に示すように、シリコン層11の裏面に、溝部111をシリコン層11の側面に連通する連通溝部113が形成されてもよい。ここで、シリコン層11と絶縁層12との接合では、陽極接合により400度程度の温度が加えられる。そのため、連通溝部113が無い場合には、陽極接合の際に、シリコン層11と絶縁層12との間の溝部111に存在する空気が高温状態で封止されてしまい、常温に下がるとその空気が収縮するため、薄肉部112が変形し、歪センサ1のゼロ点がずれてしまう恐れがある。一方、連通溝部113が設けられることで、陽極接合の際に、溝部111に存在する空気を外部に逃がすことができ、薄肉部112の変形を回避できる。
なお、シリコン層11は、溝部111及び連通溝部113により、全体が薄くならないように、一部のみが薄くなるように構成される必要がある。
【0029】
また上記では、歪センサ1として、応力を集中させるための薄肉部112を有する半導体歪ゲージを用いた場合を示した。しかしながら、これに限らず、その他の形状(例えば薄肉部112の無い形状)の半導体歪ケージを用いてもよい。
【0030】
以上のように、この実施の形態1によれば、抵抗ゲージ13を有するシリコン層11と、一面がシリコン層11の少なくとも両端に接合され、当該一面に対向する対向面における長手方向両端が回転軸体5に接合される絶縁層12とを備えたので、トルクの検出精度が向上する。
【0031】
なお上記では、基板層として、シリコン層11を用いた場合を示したが、これに限らず、外力に応じて歪みが生じる部材であればよい。例えば、基板層として、絶縁体(ガラス等)又は金属を用いることができる。ここで、基板層が絶縁体である場合には、抵抗ゲージ13は、当該絶縁体にスパッタリング等により成膜されることで形成される。また、基板層が金属である場合には、抵抗ゲージ13は、当該金属に絶縁膜を介してスパッタリング等により成膜されることで形成される。また、基板層としてシリコン層11を用い、抵抗ゲージ13が、当該シリコン層11にスパッタリング等により成膜されることで形成されてもよい。
基板層として上記絶縁体又は金属を用いた場合でも、一般的な金属歪ゲージよりもゲージ率が高くなる。また、成膜によって抵抗ゲージ13を形成した場合には、シリコン層11にイオン注入により抵抗ゲージ13を形成した場合に対し、結晶方位によってゲージ率が変わることはなく、すなわち、方向を限定する必要がなくなる。
一方、ゲージ率は、成膜によって抵抗ゲージ13を形成した場合に対し、シリコン層11にイオン注入により抵抗ゲージ13を形成した場合の方が、4〜10倍以上高くなる。
【0032】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。