(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
固定側に固定される円環状の固定側密封環と、回転軸とともに回転する円環状の回転側密封環とを備え、前記固定側密封環及び前記回転側密封環の対向する各摺動面を相対回転させることにより、相対回転摺動する前記摺動面の径方向の一方側に存在する高圧流体を密封する摺動部品において、
前記固定側密封環及び前記回転側密封環の少なくとも一方は、基材と、前記基材の摺動面側に接着層と、前記接着層を介して前記基材に貼り付けられるガラス状炭素のシート状部材とを備え、
前記シート状部材は、該シート状部材を貫通する表面テクスチャーを備えることを特徴とする摺動部品。
【背景技術】
【0002】
摺動部品の一例である、メカニカルシールにおいて、その性能は、漏れ量、摩耗量、及びトルクによって評価される。従来技術ではメカニカルシールの摺動材質や摺動面粗さを最適化することにより性能を高め、低漏れ、高寿命、低トルクを実現している。しかし、近年の環境問題に対する意識の高まりから、メカニカルシールの更なる性能向上が求められており、従来技術の枠を超える技術開発が必要となっている。
例えば、水冷式エンジンの冷却に用いられるメカニカルシールにおいては、時間の経過とともに不凍液の添加剤、例えば防錆成分が、摺動面で濃縮され、堆積物が生成され、メカニカルシールの機能が低下されるおそれのあることが確認されている。この堆積物の生成は薬品やオイルを扱う機器のメカニカルシールにおいても同様に発生する現象と考えられる。
【0003】
また、表面テクスチャを用いたメカニカルシールにおいては、その特性により摺動面内で負圧が発生することがあるが、その負圧により摺動面内に侵入した被密封流体が蒸発することで堆積物発生原因物質が過度に析出・生成され、堆積物が加速度的に発生し、メカニカルシールの機能が低下するおそれのあることが実験において確認されている。
【0004】
耐凝着性材料の膜として、例えば、ダイヤモンド状炭素(Diamond Like Carbon;DLCと略称される)の膜に着目し、特許文献1及び2に記載のように、摺動部材の摺動面にダイヤモンド状炭素を被覆することにより、堆積物が析出・生成されやすい負圧発生機構の表面において堆積物が堆積されるのを防止することが考えられる(以下、「従来技術1」という。)。
また、同じく、堆積物が堆積されるのを防止するという視点から、摺動部品をガラス状炭素により製作することも考えられる(以下、「従来技術2」という。)。
【0005】
一方、優れたトライボロジー特性を有する摺動材として、摺動材の摺動面全体にガラス状炭素が生成された硬質カーボン膜と、硬質カーボン膜の表面に超短パルスレーザを照射して形成された微細周期構造と、微細周期構造を被覆するように形成された固体潤滑剤を含む潤滑層とを備えたものが知られている(以下、「従来技術3」という。例えば、特許文献3参照。)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術1は、ダイヤモンドライクカーボン膜の厚さは略1μm程度であるため、剥がれやすく、耐久性に問題があった。
また、従来技術2は、ガラス状炭素はボリュームの大きいものが製作できないため、製作サイズに限界があること、炭化させる際に発生するガスが内部から逃げにくくクラックや変形が生じること、及び、内部から発生するガスの放出を緩やかにする必要上、製作に時間が掛かるといった問題があった。
また、従来技術3は、基材を選択する必要があり、基材が熱的、機械的に変質しないように高密度のエネルギーを加える必要があるなど、高度な製作技術が求められるといった問題があった。
【0008】
本発明は、例えば、水冷式エンジンの冷却に用いられるメカニカルシールのように、不凍液に防錆剤が添加された液体をシールする場合でも、堆積物発生原因物質の摺動面での堆積物の生成を防止し、摺動面のシール機能を向上させた摺動部品を提供することを目的とするものである。
特に、本発明は、摺動面の負圧により摺動面内に侵入した被密封流体から堆積物発生原因物質が析出・生成される場合でも、負圧部分における析出物の堆積を防止し、ランド部における堆積物の付着を防止し、摺動面のシール機能を向上させた摺動部品を提供することを目的とするものである。
また、本発明は、摺動面の耐摩耗性を向上させると共に耐異物性能を向上させた摺動部品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本発明の摺動部品は、第1に、
固定側に固定される円環状の固定側密封環と、回転軸とともに回転する円環状の回転側密封環とを備え、前記固定側密封環及び前記回転側密封環の対向する各摺動面を相対回転させることにより
、相対回転摺動する前記摺動面の径方向の一方側に存在する高圧流体を密封する摺動部品において、
前記固定側密封環及び前記回転側密封環の少なくとも一方は、基材と、前記基材の摺動面側に接着層と、前記接着層を介して前記基材に貼り付けられるガラス状炭素のシート状部材とを備え
、
前記シート状部材は、該シート状部材を貫通する表面テクスチャーを備えることを特徴としている。
この特徴によれば、密封環の摺動面Sにガラス状炭素が存在することにより、摺動面Sでの堆積物発生原因物質の濃縮及び堆積物の生成が防止され、摺動面のシール機能を向上させた摺動部品を提供することができる。
また、ガラス状炭素は耐摩耗性に優れた材料であるため、流体潤滑状態で摺動する摺動面における摩耗が深部に達することを防止でき、摺動部品の耐摩耗性を向上させると共に耐異物性能も向上させることができる。
また、密封環の基材とは別に、基材の摺動面側にガラス状炭素をシート状にしたシート状部材を貼り付ける構成とすることにより、上記従来技術2のように、密封環全体をガラス状炭素で形成する場合に比べて、内部から発生するガスを逃げ易くし、クラックの発生を防止することができる。さらに、ガラス状炭素の熱伝導率の悪さを基材の材質でカバーすることができる。
また、密封環全体をガラス状炭素で形成する場合には製作できなかった大きなサイズの密封環でも製作することができる。
また、摺動面に表面テクスチャーを形成する際にも、シート状部材に表面テクスチャーを形成すればよいため、加工が容易である。
また、密封環の基材とは別に、基材の摺動面側にガラス状炭素をシート状にしたシート状部材を貼り付ける構成とすることにより、上記従来技術3のように、摺動材の摺動面にガラス状炭素の改質領域を生成する場合に比べて、高度な技術を要することなく摺動面にガラス状炭素の領域を設けることができる。
また、基材の材質についてはガラス状炭素の改質領域が生成可能な材料に限定されないため、材料選択の自由度を大きくすることができる。例えば、安価な材料を選択して材料コストの削減を図ることができる。また、例えば、熱伝導率のよい材料を選択して、放熱性の高い摺動部品を得ることができる。
また、摺動面に表面テクスチャーを形成する際にも、シート状部材に表面テクスチャーを形成すればよいため、加工が容易である。
【0010】
また、本発明の摺動部品は、第2に、第1の特徴において、前記基材は、カーボン、SiCまたは超硬合金から構成されることを特徴としている。
この特徴によれば、摺動部品を通常使用される材料により作製することができる。
【0011】
また、本発明の摺動部品は、第3に、第1または第2の特徴において、前記接着層は、熱硬化性樹脂から構成されることを特徴としている。
この特徴によれば、接着層を加熱するだけでガラス状炭素のシート状部材と基材とを確実に一体化できる。
【0012】
また、本発明の摺動部品は、第4に、第1ないし第3のいずれかの特徴において、
前記表面テクスチャーはディンプル
であることを特徴としている。
この特徴によれば、摺動面に被密封流体を保持できると共に、正圧(動圧)を発生することができ、各摺動面間の流体膜を増加させ、潤滑性能を向上させることができる。
また、シート状部材を作製するときに型あるいは打ち抜きによりディンプルを予め設けることができるため、シート状部材の基材への接着後のディンプルの加工を不要とすることができ、ディンプルの加工を容易に行うことができる。
また、ディンプル内の上流側で負圧が発生し、摺動面内に侵入した被密封流体が蒸発することで堆積物発生原因物質が析出・生成される場合でも、ガラス状炭素のシート状部材の存在により負圧部分における析出物の堆積を防止し、ランド部における堆積物の付着を防止することができる。
【0013】
また、本発明の摺動部品は、第5に、第1ないし第3のいずれかの特徴において、
前記表面テクスチャーは螺旋溝
であることを特徴としている。
この特徴によれば、摺動面に正圧(動圧)を発生することができ、各摺動面間の流体膜を増加させ、潤滑性能を向上させることができる。
また、シート状部材を作製するときに型あるいは打ち抜きにより螺旋溝を予め設けることができるため、シート状部材の基材への接着後の螺旋溝の加工を不要とすることができ、螺旋溝の加工を容易に行うことができる。
また、螺旋溝内の上流側で負圧が発生し、摺動面内に侵入した被密封流体が蒸発することで堆積物発生原因物質が析出・生成される場合でも、ガラス状炭素のシート状部材の存在により負圧部分における析出物の堆積を防止し、ランド部における堆積物の付着を防止することができる。
【0014】
また、本発明の摺動部品は、第6に、第1ないし第3のいずれかの特徴において、
前記表面テクスチャーはレイリーステップ機構
であることを特徴としている。
この特徴によれば、摺動面に正圧(動圧)を発生することができ、各摺動面間の流体膜を増加させ、潤滑性能を向上させることができる。
また、シート状部材を作製するときに型によりレイリーステップ機構を予め設けることができるため、シート状部材の基材への接着後のレイリーステップ機構の加工を不要とすることができ、レイリーステップ機構の加工を容易に行うことができる。
また、レイリーステップ機構内の上流側で負圧が発生し、摺動面内に侵入した被密封流体から堆積物発生原因物質が析出・生成される場合でも、ガラス状炭素のシート状部材の存在により負圧部分における析出物の堆積を防止し、ランド部における堆積物の付着を防止することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、以下のような優れた効果を奏する。
(1)固定側密封環及び回転側密封環の少なくとも一方は、基材と、基材の摺動面側に接着層と、接着層を介して基材に貼り付けられるガラス状炭素のシート状部材とを備えていることにより、密封環の摺動面Sにガラス状炭素が存在することにより、摺動面Sでの堆積物発生原因物質の濃縮及び堆積物の生成が防止され、摺動面のシール機能を向上させた摺動部品を提供することができる。
また、ガラス状炭素は耐摩耗性に優れた材料であるため、流体潤滑状態で摺動する摺動面における摩耗が深部に達することを防止でき、摺動部品の耐摩耗性を向上させると共に耐異物性能も向上させることができる。
また、密封環の基材とは別に、基材の摺動面側にガラス状炭素をシート状にしたシート状部材を貼り付ける構成とすることにより、上記従来技術2のように、密封環全体をガラス状炭素で形成する場合に比べて、内部から発生するガスを逃げ易くし、クラックの発生を防止することができる。さらに、ガラス状炭素の熱伝導率の悪さを基材の材質でカバーすることができる。
また、密封環全体をガラス状炭素で形成する場合には製作できなかった大きなサイズの密封環でも製作することができる。
また、摺動面に表面テクスチャーを形成する際にも、シート状部材に表面テクスチャーを形成すればよいため、加工が容易である。
また、密封環の基材とは別に、基材の摺動面側にガラス状炭素をシート状にしたシート状部材を貼り付ける構成とすることにより、上記従来技術3のように、摺動材の摺動面にガラス状炭素の改質領域を生成する場合に比べて、高度な技術を要することなく摺動面にガラス状炭素の領域を設けることができる。
また、基材の材質についてはガラス状炭素の改質領域が生成可能な材料に限定されないため、材料選択の自由度を大きくすることができる。例えば、安価な材料を選択して材料コストの削減を図ることができる。また、例えば、熱伝導率のよい材料を選択して、放熱性の高い摺動部品を得ることができる。
また、摺動面に表面テクスチャーを形成する際にも、シート状部材に表面テクスチャーを形成すればよいため、加工が容易である。
【0016】
(2)基材は、カーボン、SiCまたは超硬合金から構成されることにより、摺動部品を通常使用される材料により作製することができる。
【0017】
(3)接着層は、熱硬化性樹脂から構成されることにより、接着層を加熱するだけでガラス状炭素のシート状部材と基材とを確実に一体化できる。
【0018】
(4)シート状部材の摺動面にはディンプルが設けられていることにより、摺動面に被密封流体を保持できると共に、正圧(動圧)を発生することができ、各摺動面間の流体膜を増加させ、潤滑性能を向上させることができる。
また、シート状部材を作製するときに型あるいは打ち抜きによりディンプルを予め設けることができるため、シート状部材の基材への接着後のディンプルの加工を不要とすることができ、ディンプルの加工を容易に行うことができる。
また、ディンプル内の上流側で負圧が発生し、摺動面内に侵入した被密封流体から堆積物発生原因物質が析出・生成される場合でも、ガラス状炭素のシート状部材の存在により負圧部分における析出物の堆積を防止し、ランド部における堆積物の付着を防止することができる。
【0019】
(5)シート状部材の摺動面には螺旋溝が設けられることにより、摺動面に正圧(動圧)を発生することができ、各摺動面間の流体膜を増加させ、潤滑性能を向上させることができる。
また、シート状部材を作製するときに型あるいは打ち抜きにより螺旋溝を予め設けることができるため、シート状部材の基材への接着後の螺旋溝の加工を不要とすることができ、螺旋溝の加工を容易に行うことができる。
また、螺旋溝内の上流側で負圧が発生し、摺動面内に侵入した被密封流体が蒸発することで堆積物発生原因物質が析出・生成される場合でも、ガラス状炭素のシート状部材の存在により負圧部分における析出物の堆積を防止し、ランド部における堆積物の付着を防止することができる。
【0020】
(6)シート状部材の摺動面にはレイリーステップ機構が設けられることにより、摺動面に正圧(動圧)を発生することができ、各摺動面間の流体膜を増加させ、潤滑性能を向上させることができる。
また、シート状部材を作製するときに型によりレイリーステップ機構を予め設けることができるため、シート状部材の基材への接着後のレイリーステップ機構の加工を不要とすることができ、レイリーステップ機構の加工を容易に行うことができる。
また、レイリーステップ機構内の上流側で負圧が発生し、摺動面内に侵入した被密封流体が蒸発することで堆積物発生原因物質が析出・生成される場合でも、ガラス状炭素のシート状部材の存在により負圧部分における析出物の堆積を防止し、ランド部における堆積物の付着を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置などは、特に明示的な記載がない限り、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【実施例1】
【0023】
図1及び
図2を参照して、本発明の実施例1に係る摺動部品について説明する。
なお、本実施例においては、摺動部品の一例であるメカニカルシールを例にして説明する。また、メカニカルシールを構成する摺動部品の外周側を高圧流体側(被密封流体側)、内周側を低圧流体側(大気側)として説明するが、本発明はこれに限定されることなく、高圧流体側と低圧流体側とが逆の場合も適用可能である。
【0024】
図1は、メカニカルシールの一例を示す縦断面図であって、摺動面S(本明細書においては、一対の摺動面からなる摺動面の各々を指すことに意味がある場合は「各摺動面S」といい、単に、一方の摺動面を指す場合は「摺動面S」という。)の外周から内周方向に向かって漏れようとする高圧流体側の被密封流体を密封する形式のインサイド形式のものであり、高圧流体側の回転部材(図示省略)を駆動させる回転軸1側にスリーブ2及びカップガスケット8を介してこの回転軸1と一体的に回転可能な状態に設けられた一方の密封環である円環状の回転側密封環3と、ハウジング4に非回転状態かつ軸方向移動可能な状態でスリーブ7を介して設けられた他方の密封環である円環状の固定側密封環5とが設けられ、固定側密封環5を軸方向に付勢する付勢部材6によって、ラッピング等によって鏡面仕上げされた各摺動面S同士で密接摺動する。すなわち、このメカニカルシールは、回転側密封環3と固定側密封環5との互いの各摺動面Sにおいて、被密封流体が両密封環3、5の高圧流体側(外周側)から低圧流体側(内周側)へ流出するのを防止するものである。
【0025】
図1においては、回転側密封環3の摺動面Sの径方向の幅は固定側密封環5の摺動面Sの径方向の幅より小さく設定されており、回転側密封環3の摺動面Sの全域が固定側密封環5の摺動面Sに対して当接され、両密封環3、5の摺動面が流体潤滑状態で相対的に摺動するものである。
なお、本発明においては、
図1に限定されることなく、回転側密封環3の摺動面Sの径方向の幅は固定側密封環5の摺動面Sの径方向の幅より大きく設定されてもよい。
【0026】
図1及び
図2に示すように、回転側密封環3及び固定側密封環5のうち、少なくとも一方の密封環、本例の場合、回転側密封環3は、基材3aと、基材3aの摺動面側に接着層3bと、接着層3bを介して基材3aに貼り付けられるガラス状炭素のシート状部材3cとを備えている。この点については後に詳しく説明する。
また、他方の密封環、本例の場合、固定側密封環5は基材により一体で形成されている。
なお、本発明においては、
図1及び
図2に限定されることなく、固定側密封環が基材の摺動面側に接着層と、該接着層を介して基材に貼り付けられるガラス状炭素のシート状部材を備え、回転側密封環が基材により一体で形成されていてもよい。
【0027】
被密封流体は、防錆剤が添加された不凍液等の流体である。
【0028】
通常、回転側密封環3及び固定側密封環5の基材の材質は、耐摩耗性に優れた炭化珪素(SiC)、自己潤滑性に優れたカーボン及び超硬合金などから選定されるが、例えば、両者が炭化珪素、あるいは、回転側密封環3が炭化珪素であって固定側密封環5がカーボンの組合せが可能である。
【0029】
特に、炭化珪素はメカニカルシール等の摺動材として放熱性が良く、耐摩耗性に優れた好適な材料であることが知られている。ところが、上記したように、不凍液中に含まれる防錆成分の特性上、濃縮・生成された堆積物発生原因物質が摺動面に堆積し、摺動面の平滑さが失われ、漏れにつながるという問題がある。
【0030】
そのため、本発明においては、 回転側密封環3又は固定側密封環5の少なくともいずれか一方の密封環は、基材と、基材の摺動面側に接着層と、接着層を介して基材に貼り付けられるガラス状炭素のシート状部材とを備えるところに特徴がある。
【0031】
ガラス状炭素は、ガラスではなく熱硬化性樹脂を炭素化した素材で、気体を通さない、電気を通す、酸性に強い、耐摩耗性があるなどの特徴がある。
ガラス状炭素の製造方法は、一般的に、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂などの熱硬化性樹脂を射出成形,圧縮成形などの方法で成型し,その樹脂成形品を不活性ガス雰囲気中において、千数百℃で焼成して炭素化するものである。焼成により樹脂成形品中の炭素以外の元素、すなわち水素、窒素、酸素等がまわりの炭素と化合して二酸化炭素,メタン,エタン等の分解ガスとなり放出され、最後に炭素の網目骨格だけが残り、ガラス状カーボンとなる。
また、ガラス状炭素には、熱硬化性樹脂に充填剤であるフィラーを混練し、焼成た複合性ガラス状炭素もある。この複合性ガラス状炭素の場合、ミクロサイズやナノサイズのフィラーを混ぜ合わせることで、潤滑性等の性能をさらに高めることが可能になる。
【0032】
図2に拡大して示すように、回転側密封環3は、基材3aと、基材3aの摺動面側に接着層3bと、接着層3bを介して基材3aに貼り付けられるガラス状炭素のシート状部材3cとを備えている。
【0033】
ガラス状炭素のシート状部材3cは、別途、ガラス状炭素のシート状部材とされたものを、基材3aの摺動面側の平面形状と同じ形状に加工して形成される。本発明におけるガラス状炭素のシート状部材3cの厚さは、従来技術1におけるダイヤモンドライクカーボン膜の厚さ略1μmよりも約100倍程度で厚いので、ダイヤモンドライクカーボン膜を被覆した場合に比べて剥離しにくいという特徴がある。
【0034】
接着層3bは、熱硬化性樹脂から構成され、ガラス状炭素のシート状部材3cの全面に施される。
【0035】
基材3aは、炭化珪素(SiC)またはカーボンから構成され、所定の内径d1、外径d2及び厚さtに加工される。
【0036】
回転側密封環3の製作においては、まず、所定の形状に加工された基材3aの摺動面側に熱硬化性樹脂からなる接着層3bを塗布し、その上に、ガラス状炭素のシート状部材3cを添接し、接着層3bを介してガラス状炭素のシート状部材3cを基材3aに貼り付ける。次に、熱硬化性樹脂からなる接着層3bを加熱して硬化処理を行う。熱硬化性樹脂の接着層3bの硬化により、ガラス状炭素のシート状部材3cは基材3aの摺動面側に貼り付けられ、基材3aと一体化される。
なお、熱硬化性樹脂からなる接着層3bの硬化処理は、接着層3bを約300℃程度に加熱し、熱硬化性樹脂を熱硬化させる。基材3aの種類にもよるが、必要に応じ、熱硬化性樹脂を炭化するまで加熱してもよい。
【0037】
以上説明した実施例1の摺動部品は以下のような優れた効果を奏する。
(1)密封環の摺動面Sにガラス状炭素が存在することにより、摺動面Sでの堆積物発生原因物質の濃縮及び堆積物の生成が防止され、摺動面Sのシール機能を向上させた摺動部品を提供することができる。
また、ガラス状炭素は耐摩耗性に優れた材料であるため、流体潤滑状態で摺動する摺動面における摩耗が深部に達することを防止でき、摺動部品の耐摩耗性を向上させると共に耐異物性能も向上させることができる。
なお、上記の異物としては外部からの異物や堆積物などが含まれる。
(2)密封環の基材3aとは別に、基材3aの摺動面S側にガラス状炭素をシート状にしたシート状部材3cを貼り付ける構成とすることにより、上記従来技術2のように、密封環全体をガラス状炭素で形成する場合に比べて、内部から発生するガスを逃げ易くし、クラックの発生を防止することができる。さらに、ガラス状炭素の熱伝導率の悪さを基材3aの材質でカバーすることができる。
また、密封環全体をガラス状炭素で形成する場合には製作できなかった大きなサイズの密封環でも製作することができる。
また、摺動面Sに表面テクスチャーを形成する際にも、シート状部材3cに表面テクスチャーを形成すればよいため、加工が容易である。
(3)密封環の基材3aとは別に、基材3aの摺動面S側にガラス状炭素をシート状にしたシート状部材3cを貼り付ける構成とすることにより、上記従来技術3のように、摺動材の摺動面にガラス状炭素の改質領域を生成する場合に比べて、高度な技術を要することなく摺動面Sにガラス状炭素の領域を設けることができる。
また、基材3aの材質についてはガラス状炭素の改質領域が生成可能な材料に限定されないため、材料選択の自由度を大きくすることができる。例えば、安価な材料を選択して材料コストの削減を図ることができる。また、例えば、熱伝導率のよい材料を選択して、放熱性の高い摺動部品を得ることができる。
また、摺動面Sに表面テクスチャーを形成する際にも、シート状部材3cに表面テクスチャーを形成すればよいため、加工が容易である。
【実施例2】
【0038】
図3を参照して、本発明の実施例2に係る摺動部品について説明する。
実施例2に係る摺動部品は、摺動面に表面テクスチャーが施されている点で実施例1と相違するがその他の基本構成は実施例1と同じであり、重複する説明は省略する。
【0039】
図3において、回転側密封環3は、基材3aと、基材3aの摺動面側に接着層3bと、接着層3bを介して基材3aに貼り付けられるガラス状炭素のシート状部材3cとを備え、シート状部材3cの摺動面Sにはディンプル10が設けられている。
図3においては、ディンプル10はシート状部材3cを貫通するように設けられているが、これに限らず、例えば、シート状部材3cの厚さより浅く設けられてもよい。
【0040】
図3においては、円形のディンプル10が周方向に複数、それぞれ独立して配列され、高圧流体側及び低圧流体側とはランド部R(摺動面Sのうち、ディンプルなどの溝が形成されていない部分を意味する。)により隔離されている。
ディンプル10の形状は円形の他、長円形、楕円形あるいは矩形でもよい。また、ディンプル10の径及び深さは摺動部品の諸元、すなわち、摺動面の直径、摺動速度及び被密封流体の粘度などに応じて設計的に決められる。例えば、ディンプル10の径としては50μm〜200μm、深さとしては0.1μm〜100μmの範囲が適当である。また、ディンプル10の径方向の配列は2列に限らず、3列以上でもよく、周方向のピッチも必要に応じて設計的に決められる。
【0041】
摺動面に形成された多数のディンプル10は、相手摺動面との間に流体力学的な潤滑液膜として介入する被密封流体を保持するものである。そして、個々のディンプル10は、それぞれ、レイリーステップを構成するものとみなすことができる。
すなわち、
図3(b)において、回転側密封環3の摺動面に形成された各ディンプル10の矢印で示す相手摺動面の回転方向と直交する下流側の面10aにはレイリーステップが形成されており、固定側密封環の摺動面Sは平坦に形成されている。回転側密封環3の摺動面の相手側摺動面が矢印方向へ相対回転すると、各摺動面S間に介在する流体が、その粘性によって各摺動面Sの移動方向へ追随移動しようとするので、ディンプル10内の上流側では負圧になると同時に、レイリーステップ10aにおいて正圧(動圧)を発生する。
なお、レイリーステップの機能については、後記において詳しく説明する。
【0042】
ディンプル10から構成される正圧発生機構は、被密封流体を保持すると共に、正圧(動圧)を発生することにより各摺動面S間の流体膜を増加させ、潤滑性能を向上させるものである。
【0043】
以上説明した実施例2の摺動部品は上記実施例1の効果に加えて以下のような優れた効果を奏する。
(1)シート状部材3cを作製するときに型でディンプル10を予め設けることができるため、シート状部材3cの基材3aへの接着後のディンプル10の加工を不要とすることができ、ディンプル10の加工を容易に行うことができる。
(2)作製されたシート状部材3cに対して基材3aへの貼り付け前に予めディンプル10の加工を行う場合にも、シート状であるため、ディンプル10の加工を打ち抜きにより加工することも可能であり、ディンプル10の加工を比較的容易に行うことができる。
(3)ディンプル10内の上流側で負圧が発生し、摺動面S内に侵入した被密封流体が蒸発することで堆積物発生原因物質が析出・生成される場合でも、ガラス状炭素のシート状部材3cの存在により負圧部分における析出物の堆積を防止し、ランド部Rにおける堆積物の付着を防止することができる。
【実施例3】
【0044】
図4を参照して、本発明の実施例3に係る摺動部品について説明する。
実施例3に係る摺動部品は、摺動面に表面テクスチャーが施されている点で実施例1と相違するがその他の基本構成は実施例1と同じであり、重複する説明は省略する。
【0045】
図4において、回転側密封環3は、基材3aと、基材3aの摺動面側に接着層3bと、接着層3bを介して基材3aに貼り付けられるガラス状炭素のシート状部材3cとを備え、シート状部材3cの摺動面Sには螺旋溝11が設けられている。
【0046】
図4に示すように、シート状部材3cの摺動面Sには、周方向に間隔をおいて複数の螺旋溝11が形成されている。螺旋溝11は、摺動面Sの外周側から内周側に向かって相手摺動面の回転方向に傾斜しており、外周側の基端部11aが高圧流体側に連通され、内周側の先端部11bは低圧流体側とは摺動面Sのランド部Rにより隔離され、溝の出口が封じられている。このため、内周側の先端部11bはレイリーステップを構成するものとみなすことができる。
なお、螺旋溝11の形状としては
図4に示す形状に限らず、例えば、矩形状の溝が摺動面Sの外周側から内周側に向かって相手摺動面の回転方向に傾斜した配設されたものでもよい。また、外周側の基端部11aが高圧流体側に連通することなく、ランド部Rで高圧流体側と隔離されてもよい。
なお、螺旋溝11の幅及び深さは摺動品の諸元、すなわち、摺動面の直径、摺動速度及び被密封流体の粘度などに応じて設計的に決められる。
【0047】
回転側密封環3が回転すると、摺動面Sの外周側の基端部11aから被密封流体が螺旋溝11に微量取り込まれると共に、各摺動面S間に介在する流体が、その粘性によって各摺動面Sの移動方向へ追随移動しようとするので、螺旋溝11内の上流側では負圧になると同時に、先端部11b(レイリーステップ)において正圧(動圧)を発生する。
なお、レイリーステップの機能については、後記において詳しく説明する。
【0048】
螺旋溝11から構成される正圧発生機構は、螺旋溝11内に被密封流体を導入すると共に正圧(動圧)を発生することにより各摺動面S間の流体膜を増加させ、潤滑性能を向上させるものである。
【0049】
以上説明した実施例3の摺動部品は上記実施例1の効果に加えて以下のような優れた効果を奏する。
(1)シート状部材3cを作製するときに型で螺旋溝11を予め設けることができるため、シート状部材3cの基材3aへの接着後の螺旋溝11の加工を不要とすることができ、螺旋溝11の加工を容易に行うことができる。
(2)作製されたシート状部材3cに対して基材3aへの貼り付け前に予め螺旋溝11の加工を行う場合にも、シート状であるため、螺旋溝11の加工を打ち抜きにより加工することが可能であり、螺旋溝11の加工を比較的容易に行うことができる。
(3)螺旋溝11内の上流側で負圧が発生し、摺動面S内に侵入した被密封流体が蒸発することで堆積物発生原因物質が析出・生成される場合でも、ガラス状炭素のシート状部材3cの存在により負圧部分における析出物の堆積を防止し、ランド部Rにおける堆積物の付着を防止することができる。
【実施例4】
【0050】
図5を参照して、本発明の実施例4に係る摺動部品について説明する。
実施例4に係る摺動部品は、摺動面に表面テクスチャーが施されている点で実施例1と相違するがその他の基本構成は実施例1と同じであり、重複する説明は省略する。
【0051】
図5において、回転側密封環3は、基材3aと、基材3aの摺動面側に接着層3bと、接着層3bを介して基材3aに貼り付けられるガラス状炭素のシート状部材3cとを備え、シート状部材3cの摺動面Sにはレイリーステップ機構12が設けられている。
【0052】
図5に示すように、シート状部材3cの摺動面Sには、正圧発生溝12aを備えるレイリーステップ機構12が設けられており、正圧発生溝12aは、上流側の入口部12bにおいて正圧発生溝12aより深い半径方向溝13に連通し、入口部12b以外の部分はランド部Rにより隔離されている。
一例として、摺動面Sの径が約20mm、摺動面幅が約2mmの場合、正圧発生溝12aの幅は0.4〜0.6mm、深さは数μmであり、半径方向溝13の幅(円周方向の角度)は約6°、深さは数十μmである。
図5においては、レイリーステップ機構12は摺動面Sの周方向に複数設けられているが、これに限らず、1以上であればよい。
【0053】
回転側密封環3が回転すると、半径方向溝13を介して被密封流体が正圧発生溝12aに進入すると共に、各摺動面S間に介在する流体が、その粘性によって各摺動面Sの移動方向へ追随移動しようとするので、正圧発生溝12aの上流側では負圧になると同時に、下流側端部のレイリーステップ12cにおいて正圧(動圧)を発生する。
なお、レイリーステップの機能については、後記において詳しく説明する。
【0054】
レイリーステップ機構12は、正圧(動圧)を発生することにより各摺動面S間の流体膜を増加させ、潤滑性能を向上させるものである。
【0055】
以上説明した実施例4の摺動部品は上記実施例1の効果に加えて以下のような優れた効果を奏する。
(1)シート状部材3cを作製するときに型でレイリーステップ機構12及び半径方向溝13を予め設けることができるため、シート状部材3cの基材3aへの接着後のレイリーステップ機構12及び半径方向溝13の加工を不要とすることができ、レイリーステップ機構12及び半径方向溝13の加工を容易に行うことができる。
(2)作製されたシート状部材3cに対して基材3aへの貼り付け前に予めレイリーステップ機構12及び半径方向溝13の加工を行う場合にも、シート状であるため、例えば、半径方向溝13の加工を打ち抜きにより加工することが可能であり、半径方向溝13の加工を比較的容易に行うことができる。
(3)レイリーステップ機構12の上流側で負圧が発生し、摺動面S内に侵入した被密封流体が蒸発することで堆積物発生原因物質が析出・生成される場合でも、ガラス状炭素のシート状部材3cの存在により負圧部分における析出物の堆積を防止し、ランド部Rにおける堆積物の付着を防止することができる。
【0056】
次に、
図6を参照しながら、本発明におけるレイリーステップの機能について説明する。
図6(a)において、固定側密封環5に対して回転側密封環3が矢印で示す方向に回転移動すると、回転側密封環3の摺動面Sにディンプル10、螺旋溝11またはレイリーステップ機構12などからなる表面テクスチャーが施されていると、該表面テクスチャーの下流側には狭まり隙間(段差)14が存在する。相対する固定側密封環5の摺動面は平坦である。
回転側密封環3が矢印で示す方向に相対移動すると、回転側密封環3及び固定側密封環5の摺動面間に介在する流体が、その粘性によって、回転側密封環3の移動方向に追随移動しようとするため、その際、狭まり隙間(段差)14の存在によって破線で示すような動圧(正圧)が発生される。
【0057】
図6(b)においては、矢印で示すように、固定側密封環5に対して回転側密封環3が矢印で示す方向に回転移動すると、回転側密封環3の摺動面Sにディンプル10、螺旋溝11またはレイリーステップ機構12などからなる表面テクスチャーが施されていると、該表面テクスチャーの上流側には拡がり隙間(段差)15が存在する。相対する固定側密封環5の摺動面は平坦である。
回転側密封環3が矢印で示す方向に相対移動すると、回転側密封環3及び固定側密封環5の摺動面間に介在する流体が、その粘性によって、回転側密封環3の移動方向に追随移動しようとするため、その際、拡がり隙間(段差)15の存在によって破線で示すような動圧(負圧)が発生される。
このため、ディンプル10、螺旋溝11またはレイリーステップ機構12などからなる表面テクスチャーの上流側には負圧が発生し、下流側には正圧が発生することになる。
【0058】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0059】
例えば、前記実施例では、摺動部品をメカニカルシール装置における一対の回転用密封環及び固定用密封環のうち、回転用密封環について、基材と、基材の摺動面側に接着層と、接着層を介して前記基材に貼り付けられるガラス状炭素のシート状部材とを備える例について説明したが、これに限定されることなく、固定用密封環について、基材と、基材の摺動面側に接着層と、接着層を介して前記基材に貼り付けられるガラス状炭素のシート状部材とを備える構成としてもよい。
【0060】
また、例えば、前記実施例では、回転用密封環及び固定用密封環の外周側に高圧の被密封流体が存在する場合について説明したが、内周側が高圧流体の場合にも適用できる。
【0061】
また、例えば、前記実施例では、ガラス状炭素のシート状部材3cの厚さは、ダイヤモンドライクカーボン膜の厚さ略1μmよりも約100倍程度で厚いと説明したが、これは一応の目安を示したに過ぎず、摺動部品の諸元、例えば、外径、内径及び摺動速度などに応じて設計的に決められるものである。