【実施例】
【0063】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、本発明は当該実施例によって限定的に解釈されるものではない。
【0064】
<実施例1、2、比較例1>
(Eu
3+含有シリカ粒子の合成)
脱イオン水225mLに、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)1.0gを添加し、さらに2.0M−NaOH3.5mLを添加し、353Kで30分間攪拌した。攪拌した溶液に、テトラエトキシシラン(TEOS)5.515mL、EuCl
3が含まれる脱イオン水15mLを加え(EuCl
3が0gのとき、Euの合成開始時の仕込み量は0モル%であり、「Eu0mol%−S」と示した(比較例1)。EuCl
3が0.452gのとき、Euの合成開始時の仕込み量は5モル%であり、「Eu5mol%−S」と示した(実施例1)。EuCl
3が0.904gのとき、Euの合成開始時の仕込み量は10モル%であり、「Eu10mol%−S」と示した(実施例2))、353Kで2時間攪拌し、濾過した。濾過物を脱イオン水20mLで4回、エタノール10mLで1回洗浄した。その後、室温で1日乾燥させ、550℃で6時間焼成した。
実施例1、2、比較例1の粒子を構成する元素の濃度等は、表1のとおりである。
【0065】
【表1】
【0066】
<実施例3、比較例2、3>
(フルオレセインイソチオシアネート(FITC)含有チタニア粒子の合成)
0.011mL(4.63×10
−5mol)の3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES:C
9H
23NO
3Si)、0mg(0mol、比較例2)、又は、91.1mg(実施例3)、又は、182mg(4.68×10
−4mol、比較例3)のフルオレセインイソチオシアネート(FITC:C
21H
11NO
5S)、36.1mL(0.471mol)の2−プロパノール(IPA)を混合し、室温でマグネチックスターラーを用いて24時間撹拌した。この溶液へ、Ti/APTESモル比=100となるように1.37mL(4.68×10
−3mol)のチタニウムテトライソプロポキシド(TTIP:C
12H
28O
4Ti)を加えて混合し、溶液Aを調製した。比較例2のFITCの合成開始時の仕込み量は0モル%であり、「FITC0mol%−T」、実施例3のFITCの合成開始時の仕込み量は5モル%であり、「FITC5mol%−T」、比較例3のFITCの合成開始時の仕込み量は10モル%であり、「FITC10mol%−T」と示した。
37.3mL(0.487mol)のIPAと0.231mL(1.28×10
−2mol)のイオン交換水を混合し、溶液Bを調製した。205mg(7.61×10
−4mol)のオクタデシルアミン(ODA:C
18H
39N)、189mL(2.47mol)のIPA、及び0.900mL(4.99×10
−2mol)のイオン交換水を混合し、溶液Cをポリプロピレン製の容器へ調製した。ここで、APTESはODAおよびFITCとの水素結合等の形成に伴う相互作用発現を期待した。IPAはTTIP、APTES、FITCおよびODAの良溶媒として用い、イオン交換水はTTIPおよびAPTES加水分解するための反応物質として用い、ODAは生成物の形状、サイズ及びナノ構造の制御のために使用した。
溶液AとBは、それぞれ流速30mL・min
−1で送液し、混合した。その反応液を溶液Cの容器へ流速60mL・min
−1で吐出し、吐出終了までマグネチックスターラーを用いて撹拌した後、室温で24時間静置し、粒子分散液を得た。遠心分離(9000rpm、10min)によって固液分離し、上澄み液を除去した後に沈殿物を60℃で一晩乾燥し、試料粉末を得た。
実施例3、比較例2、3の粒子を構成する元素の濃度等は、表2のとおりである。
【0067】
【表2】
【0068】
<実施例4、5、比較例4>
(Eu
3+含有リン酸カルシウム化合物粒子の合成)
100mLのH
2O(80℃)、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB、分子量364.45)8.75g(0.024mol)からなる溶液に、K
2HPO
4を2.09g(0.012mol)、1N−NaOHを添加し、pH13となった溶液を40℃以下まで冷ました。
次に、60mLのH
2O、CaCl
2・2H
2Oが2.87g(0.0195mol)、EuCl
3・6H
2Oが0g(0mmol)、0.357g(0.9mmol)、又は0.714g(1.9mmol)であった。比較例4のEuの合成開始時の仕込み量は0モル%であり、「Eu0mol%−CP」、実施例4のEuの合成開始時の仕込み量は5モル%であり、「Eu5mol%−CP」、実施例5のEuの合成開始時の仕込み量は10モル%であり、「Eu10mol%−CP」と示した。これらのEu含有溶液を6mL/分の滴下速度で、40℃以下まで冷ました溶液に滴下した。滴下後、攪拌しながら、40℃で24時間加熱還流した。得られた白色の沈殿物を純水で2回洗浄し、エタノールで2回洗浄した。洗浄後、遠心分離し(10000G、15分、4℃)、100℃で24時間乾燥した。
実施例4、5、比較例4の粒子を構成する元素の濃度等は、表3のとおりである。
【0069】
【表3】
【0070】
(TEMによる発光物質分散の観察)
実施例2、5、比較例3の発光ナノ粒子について、透過型電子顕微鏡(TEM)による発光物質分散の観察を行った。
具体的には、各種粒子粉末を0.1wt%の濃度でエタノールへ分散させ、超音波処理を15分間施し、粒子分散液をガラス基板上へ0.01mL/cm
2の濃度でキャストした。1日間真空乾燥を施し、基板表面へカーボン蒸着(膜厚:10nm)を施し、集束イオンビームにより、粒子膜の断面(面積:8μm×6μm)を切り出し、カーボンマイクログリッドへ載せた。次いで、透過型電子顕微鏡(TEM)(日立ハイテクノロジーズ株式会社製、HT7700)、及び付属EDS(エネルギー分散型X線分光法)により、粒子膜の中心部を評価・解析した。
観察結果を
図3に示す。
図3において、発光物質は白色の略円形状の単一な分子・イオンとして存在し、発光ナノ粒子内にて分散して存在していることを確認した。
【0071】
(発光物質間の平均距離の測定方法)
母体材料中に発光物質が分散していることをTEMで確認できたので、発光ナノ粒子の平均粒子径、発光物質の濃度から、発光物質間の平均距離を算出した。
具体的には、蛍光X線(XRF)分析と走査電子顕微鏡(FE−SEM)観察とにより、母体材料である無機相の金属元素に対する発光物質の濃度計算より、発光物質間距離を算出した。
(1)無機相の無機分子数密度の算出
以下の表4のように、無機相の密度(既知値)より、無機相の分子数密度を算出した。
【0072】
【表4】
(注1)シリカ相の密度は、多孔質シリカの密度1.50を用いた(参考文献:岩元和敬、妹尾学、「ゾルゲル法による無機・有機複合材料の機能化」生産研究,42(8),1990.等)。
(注2)チタニア相の密度は、XRDパターンよりアモルファス相であることがわかる(アモルファスでないと種々の発光物質の含有が困難である)。そこで、アモルファス相のチタニアの密度3.0g/cm
3を用いた(参考文献:M. Laube, F. Rauch, C. Ottermann, O. Anderson and K. Bange, Nucl. Instrum. Methods Phys. Res., Sect. B, 1996, 113, 288−292; C. R. Ottermann and K. Bange, Thin Solid Films, 1996, 286, 32−34; D. Mergel, D. Buschendorf, S. Eggert, R. Grammes and B. Samset, Thin Solid Films, 2000, 371, 218−224; D. Mergel, Thin Solid Films, 2001, 397, 216−222; V. V. Hoang, H. Zung and N. H. B. Trong, Eur. Phys. J. D, 2007, 44, 515−524. 等)。
(注3)水酸アパタイト(CP)の密度は、XRDパターンより水酸アパタイト単相の結晶相を確認したため、水酸アパタイト単相の結晶相の密度(3.2g/cm
3)を用いた。
【0073】
(2)平均粒子径、1粒子当たりの無機分子数の算出
実施例1〜5、比較例3の発光ナノ粒子について、FE−SEMを用いて発光ナノ粒子の粒径を100個以上計測し、平均粒子径を算出した。また、1粒子当たりに含まれる無機相の無機分子数を算出した(表5参照)。
【0074】
【表5】
(注4)各粒子は異方性形状なため、上記平均粒子径Rは{(長径+短径)/2}として計算した。
(注5)発光物質の体積は点(ゼロ)とみなして計算した。シリカ相の場合は無機シリカ分子ユニット1個に対してSiが1個、チタニア相の場合は無機チタニア分子ユニット1個に対してTiが1個、水酸アパタイト相の場合は無機水酸アパタイト分子ユニット1個に対してCaが6個の対応関係を利用した。
【0075】
(3)発光物質間距離の算出
XRFにより得た無機金属元素に対する発光物質の濃度から、発光物質間距離を算出した。表6のとおり、実施例1〜5及び比較例3で作製された発光ナノ粒子は、母体材料に含まれる発光物質間の平均距離は、比較例3であるFITC10mol%−T以外は1.2nm以上であった。
【0076】
【表6】
(注6)発光物質が界面活性剤により略均一に単分散していると仮定した。
【0077】
(B)蛍光寿命による検証
蛍光寿命測定により、発光物質の分散性を検証した。発光物質の試料は、以下の実施例で作製した合成時の仕込み量が5mol%、10mol%の発光物質に加え、2.5mol%の試料も準備した。発光物質Euについては、日本分光株式会社製・蛍光分光光度計FP−8500を用いた。発光物質FITCについては株式会社堀場製作所製・蛍光寿命光度計DeltaProを用いて行った。光源はキセノンフラッシュランプを用い、励起波長は蛍光スペクトルと同波長を用い、検出波長は蛍光スペクトルの極大波長を用いた。励起側と受光側のスリットバンド幅は2nmとした。フラッシュランプ点灯直後から、発光物質Euについては50msの間の蛍光強度変化を計測し、発光物質FITCについては200nsの間の蛍光強度変化を計測し、その蛍光強度の減衰曲線を10回繰り返し測定した。その10回分の減衰曲線を下記式(7)へフィッティングし、蛍光寿命τを算出した。
I(t)=I(0)exp(−t/τ) 式(7)
ここで、I(t)は時間tにおける蛍光強度であり、I(0)はフラッシュランプ点灯直後の蛍光強度である。その結果、蛍光寿命τは下記の表7となった。そして、横軸を発光物質濃度、縦軸を蛍光寿命τとしたプロットを作成した。その結果を
図4に示す。
【0078】
【表7】
【0079】
図4(a)はシリカ相(S)、
図4(b)はチタニア相(T)、
図4(c)は水酸アパタイト(CP)の発光物質濃度と蛍光寿命との関係を示すグラフであり、
図4(a)〜(C)のように、各濃度に対する蛍光寿命のプロットは、負の直線性の相関関係を示した。この相関関係が単調減少であるため、発光物質に対して等価な母体環境であることが推察された。つまり、発光物質の濃度増加に伴って、発光物質の寄与する占有体積が線形的に減少し、発光物質間距離が短くなり、交差緩和過程の確率が高くなった(励起エネルギーが部分的に近接イオンに移動し、結果的に生じる2個の低い励起状態のイオンは基底状態へと急速に緩和する現象を示している)。発光物質濃度と蛍光寿命との相関係数が0.95以上と高い相関を示しており、発光物質同士が凝集せず単一な分子・イオンとして略均一に分散して存在しており、且つ、発光物質間距離が小さくなっていると考えられる。以上により、実施例で用いた発光ナノ粒子において、発光物質が略均一に分散して存在していることを確認した。
【0080】
図5は、Eu
3+含有シリカ粒子の濃度別の電子顕微鏡観察像(TEM像)である。
図5(a)は比較例1(Eu0mol%−S)であり、
図5(b)は実施例1(Eu5mol%−S)であり、
図5(c)は実施例2(Eu10mol%−S)である。
図5(a)〜(c)のとおり、Euの濃度が高くなるほど、Eu
3+含有シリカ粒子の平均粒子径(D)が小さくなる傾向を示した。また、相対標準偏差である変動係数(CV)は15〜20%であった。
【0081】
実施例1、2、比較例1の粒子のアスペクト比は、以下の表8のとおりとなった。アスペクト比は、粒子の長軸サイズを短軸サイズで除すことによって求めた。Euの濃度が高くなるほどアスペクト比が減少し、粒子が針状から球状の形態へ変化したことを示した。
【0082】
【表8】
【0083】
実施例1、2のEu
3+含有シリカ粒子における発光物質間の平均距離は、それぞれ1.5nmと1.2nmであった(上記表6参照)。
また、実施例1、2のEu
3+含有シリカ粒子について、界面活性剤の溶媒抽出または焼成(酸化分解)により、径が1〜10nmの範囲の細孔が観測された。下記表9へ比表面積と細孔径の解析結果を示した。また、
図6として、窒素吸脱着等温線及び細孔径分布を示した。
図6(a)及び(d)はEu0mol%−S、
図6(b)及び(e)はEu5mol%−S、
図6(c)及び(f)はEu10mol%−Sに関する。測定法は、窒素吸脱着等温線測定(マイクロトラック・ベル(株)製BELSORP−mini)により、(BET法より求める)BET比表面積と(BJH法より求める)BJH細孔径分布を測定した。試料を室温で一昼夜脱気し、100℃で12時間乾燥させて、吸着温度−196℃、最大平衡圧力760Torrにて測定した。その結果、表9に示すように、Euのドープ量の増加に伴ってメソ細孔の拡張が確認された。含有メソ細孔径の分布中心は、約2〜6nmであった。
【0084】
【表9】
【0085】
図7は、FITC含有チタニア粒子の濃度別の電子顕微鏡観察像(FE−SEM像)と、粒子径分布である。
図7(a)は比較例2(FITC0mol%−T)であり、
図7(b)は実施例3(FITC5mol%−T)であり、
図7(c)は比較例3(FITC10mol%−T)である。
図7(a)〜(c)のとおり、FITCの濃度が高くなるほど、FITC含有チタニア粒子の平均粒子径(D)はわずかに大きくなる傾向を示した。また、変動係数(CV)は8.1〜10.4%であった。
【0086】
実施例3、比較例2、3の粒子のアスペクト比は、以下の表10のとおりとなった。アスペクト比は、粒子の長軸サイズを短軸サイズで除すことによって求めた。
【0087】
【表10】
【0088】
実施例3、比較例3のFITC含有チタニア粒子における発光物質間の平均距離は、それぞれ1.2nmと0.9nmであり(表6参照)、発光物質の濃度増加に伴い減少する傾向を示した。
また、実施例3のFITC含有チタニア粒子について、界面活性剤の溶媒抽出または焼成(酸化分解)により、細孔は観測されなかった。これは界面活性剤と実施例3のFITC含有チタニア粒子との相互作用が、界面活性剤と実施例1、2のEu
3+含有シリカ粒子との相互作用よりも強いことにより、界面活性剤が脱離し難かったことによるもの、と推察された。
【0089】
図8は、Eu
3+含有リン酸カルシウム化合物粒子の濃度別の電子顕微鏡観察像(TEM像)である。
図8(a)は比較例4(Eu0mol%−CP)であり、
図8(b)は実施例4(Eu5mol%−CP)であり、
図8(c)は実施例5(Eu10mol%−CP)である。
図8(a)〜(c)のとおり、Euの濃度が高くなるほど、Eu
3+含有リン酸カルシウム化合物粒子の平均粒子径(D)が小さくなる傾向を示した。また、変動係数(CV)は23〜30%であった。
【0090】
実施例4、5、比較例4の粒子のアスペクト比は、以下の表11のとおりであり、Euの濃度が高くなるほどアスペクト比が減少し、粒子が針状から球状の形態へ変化したことを示した。
【0091】
【表11】
【0092】
図9は、粉末X線回折パターンを示すグラフであり、(a)Eu
3+含有シリカ粒子、(b)FITC含有チタニア粒子、(c)Eu
3+含有リン酸カルシウム化合物粒子、である。
図9(a)では、Euの析出物やシリカの結晶に由来するピークはみられず、アモルファス構造であり、Eu含有量が多くなるほど、ピーク強度が低くなる傾向を示した。
図9(b)では、FITC含有量が多くなるほど、グラフの左端側のピーク強度が高くなる傾向を示した。
図9(c)では、面指数の帰属から結晶構造が水酸アパタイト単相であり、Eu含有量が多くなるほど、ピークの半値幅が低くなる部分も見られた。
【0093】
図10は、Eu
3+含有シリカ粒子についての界面活性剤除去前の赤外線吸収スペクトルを示すグラフである。3640cm
−1の水素結合タイプのSi−OH伸縮振動、2925cm
−1のC−H伸縮振動(―CH
3)、2855cm
−1のC−H伸縮振動(―CH
2―)、1480cm
−1のC−H変角振動(―CH
2―)、1225cm
−1のSi−O−Si非対称伸縮振動((Si−O−Si)n由来)、1070cm
−1のSi−O−Si対称伸縮振動((Si−O−Si)n由来)、965cm
−1のSi−OH伸縮振動、795cm
−1のSi−OH伸縮振動等の特性吸収帯を観測した。2925cm
−1のC−H伸縮振動(―CH
3)、2855cm
−1のC−H伸縮振動(―CH
2―)、1480cm
−1のC−H変角振動(―CH
2―)における吸収帯の存在により、界面活性剤の存在を確認した。
【0094】
図11は、赤外線吸収スペクトルを示すグラフであり、(a)Eu
3+含有シリカ粒子、(b)FITC含有チタニア粒子、(c)Eu
3+含有リン酸カルシウム化合物粒子、である。
図11(a)では、3640cm
−1の水素結合タイプのSi−OH伸縮振動、1225cm
−1のSi−O−Si非対称伸縮振動((Si−O−Si)n由来)、1070cm
−1のSi−O−Si対称伸縮振動((Si−O−Si)n由来)、965cm
−1のSi−OH伸縮振動、795cm
−1のSi−OH伸縮振動、等の特性吸収帯を観測した。焼成又は溶媒抽出プロセスによって、2925cm
−1のC−H伸縮振動(―CH
3)、2855cm
−1のC−H伸縮振動(―CH
2―)、1480cm
−1のC−H変角振動(―CH
2―)の吸収帯がなくなるため、界面活性剤が除去されたと判断した。
図11(b)では、3640cm
−1のチタニア構造内に存在する−OH基の伸縮振動、3720〜3000cm
−1の粒子表面のH
2O及びTi−OHのOH基の伸縮振動、2920cm
−1及び2850cm
−1の界面活性剤ODA(オクタデシルアミン)及び発光物質FITCに起因する−CH
3と−CH
2−の伸縮振動、1460cm
−1の−CH
2−の変角振動、1590cm
−1のC=O伸縮振動、等の特性吸収帯を観測した。最終的なIPAによる洗浄プロセスによっても界面活性剤が残存していた。このことから、チタニア/FITCと界面活性剤の相互作用により界面活性剤が残存したと推察した。
図11(c)では、3550cm
−1の水酸アパタイトの結晶構造内に存在する−OH基の伸縮振動、1100cm
−1、1000cm
−1、960cm
−1のリン酸基のP−O伸縮振動、3800〜3000cm
−1及び1650cm
−1の粒子表面のH
2OのOH基の伸縮振動、等の特性吸収帯を観測した。リン酸カルシウム化合物(特に、水酸アパタイト)の特徴的なピークであるP−O及び−OHの伸縮振動を観測した。最終的に、界面活性剤は観測されなかった。これは、洗浄により、界面活性剤が十分除去されたためである。XRF結果より、最終的な洗浄プロセスによって界面活性剤を除去できることが確認されるが、CPでは細孔が形成されなかった。
【0095】
実施例4、5のEu
3+含有リン酸カルシウム化合物粒子における発光物質間の平均距離は、それぞれ1.6nmと1.3nmであった(表6参照)。
実施例4、5のEu
3+含有リン酸カルシウム化合物粒子について、界面活性剤の溶媒抽出または焼成(酸化分解)により、細孔が観測されなかった。これは界面活性剤とEu
3+含有リン酸カルシウム化合物粒子との相互作用が、界面活性剤と実施例1、2のEu
3+含有シリカ粒子との相互作用よりも強いことにより、Eu
3+含有リン酸カルシウム化合物粒子において界面活性剤が脱離し難かったことによるもの、と推察された。
【0096】
<実施例6〜8>
(発光物質5mol%含有粒子への、がん細胞結合分子(葉酸誘導体FA−NHS)の修飾)
実施例1、3、4の各発光物質5モル%含有粒子250mgに、HCl水溶液(pH=2)12mLを添加し、超音波処理を行った。次に、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)0.78mL(3.3mmol)を5mLのエタノールに含有させた溶液を調製し、超音波処理した溶液に加え、混合溶液を得た。当該混合溶液を40℃で20時間攪拌した(pH<6.5)。攪拌終了後、当該混合溶液を遠心分離し、エタノールで洗浄した。洗浄後、減圧乾燥し、APTESが表面に修飾した発光物質5mol%含有粒子150mgを得た。このAPTES/発光物質5モル%含有粒子150mgに、50mMのリン酸緩衝液(pH=7.0)25mLを添加し、超音波処理を行った。次に、FA−NHS(葉酸誘導体)430mg(0.8mmol)をジメチルスルホキシド(DMSO)12mLに含有させた溶液を調製し、超音波処理した溶液に加え、混合溶液を得た。当該混合溶液を室温で3時間攪拌した。攪拌終了後、当該混合溶液を遠心分離し、水で洗浄した。洗浄後、減圧乾燥し、実施例6〜8のFA(葉酸)/発光物質5mol%含有粒子を得た。
【0097】
図12は、励起スペクトルを示すグラフであり、(a)Eu
3+含有シリカ粒子、(b)FITC含有チタニア粒子、(c)Eu
3+含有リン酸カルシウム化合物粒子である。
図12(a)では、465nmのf−f遷移に起因するピークを観測した。
図12(b)では、468、483、493nmにおいて、マイナスにイオン化した単分子の発光物質FITCに起因するピーク(カチオン性剤ODA(オクタデシルアミン)と相互作用してFITCが単分散に粒子内へ導入された)を観測した。
図12(c)では、465nmのf−f遷移に起因するピークを観測した。
【0098】
図13は、発光スペクトルを示すグラフであり、(a)Eu
3+含有シリカ粒子、(b)FITC含有チタニア粒子、(c)Eu
3+含有リン酸カルシウム化合物粒子、である。
図13(a)では、577nmの
5D
0から
7F
0への遷移、585nm・590nm・595nmの
5D
0から
7F
1への遷移、611nmのD
0から
7F
2への遷移、646nmの
5D
0から
7F
3への遷移、700nmの
5D
0から
7F
4への遷移に起因するピークを観測した。最終的な焼成又は溶媒抽出プロセス(界面活性剤の除去プロセス)によっては、発光スペクトル形状と強度において変化がなかった。この結果から、粒子が核形成されて結晶成長する過程時の発光物質の略均一分散化・固定化において、界面活性剤は重要な役割を担っていると考えられた。
図13(b)では、540nm付近の発光物質FITCの単分散分子又は2分子会合状態に起因するピークを観測した。凝集体に起因するピークは観測されなかったため、界面活性剤分子と相互作用して略均一分散して存在したと考えられた。
図13(c)では、発光物質Eu(III)イオンの4f−4f遷移による蛍光ピーク;590nmの
5D
0→
7F
1、616nmの
5D
0→
7F
2、652nmの
5D
0→
7F
3、700nmの
5D
0→
7F
4遷移に起因するピークを観測した。最終的な洗浄プロセス(界面活性剤除去プロセス)によっては、発光スペクトル形状と強度において変化がなかった。この結果からも、粒子が核形成されて結晶成長する過程時の発光物質の略均一分散化・固定化において、界面活性剤は重要な役割を担っていると考えられた。
【0099】
各発光物質の合成仕込時の5mol%試料と10mol%試料について、界面活性剤を使用して粒子合成し、発光物質が粒子内で略均一に分散している場合と、界面活性剤を一切使用せず本実施例と同実験方法で粒子合成し、発光物質が粒子内で凝集している場合の量子収率を測定した。蛍光スペクトル測定装置によって、量子収率を求めた。φ60mmの積分球ISF−834を用いて測定を行った、励起散乱光の測定には、積分球の反射位置に石英窓板を張り付けた状態で標準白板をセットし測定した。入射光、散乱光、および蛍光の強度スペクトルを測定し、それらの積分ピーク強度を算出し、それぞれ、I
0、I
1及びI
2と略記し、量子収率(内部量子効率)Φ
intを式(8)より算出した。なお、励起/蛍光スペクトルは、各試料の励起/蛍光スペクトル図中にみられる極大波長を用いた
Φ
int=I
2/(I
0−I
1)×100 式(8)
【0100】
図14は、入射光、散乱光、蛍光の強度スペクトルを示すグラフである。また、測定した量子収率の結果は以下のとおりである。界面活性剤を使用して合成した場合の方が、不使用の場合よりも量子収率が高く、発光物質の略均一分散化(高効率発光)において界面活性剤が重要であることを示した。
Eu5mol%−S−界面活性剤使用合成:11.5%
Eu10mol%−S−界面活性剤使用合成:8.3%
Eu5mol%−S−界面活性剤不使用合成:2.5%
Eu10mol%−S−界面活性剤不使用合成:1.3%
FITC5mol%−T−界面活性剤使用合成:19.4%
FITC5mol%−T−界面活性剤不使用合成:13.1%
Eu5mol%−CP−界面活性剤使用合成:7.1%
Eu10mol%−CP−界面活性剤使用合成:4.8%
Eu5mol%−CP−界面活性剤不使用合成:3.6%
Eu10mol%−CP−界面活性剤不使用合成:1.9%
【0101】
(正常細胞(線維芽細胞)の生細胞率試験)
正常細胞(NIH3T3細胞)をPSフラスコで培養した(播種濃度:100×10
4cells/37cm
2)。その後、解凍及び播種を7日間行い、細胞を剥離・分離した。NIH3T3細胞の濃度は、(1.97±0.15)×10
5cells/mLであった。
細胞の濃度調整を行い、DMEM(ダルベッコ改変培地)に10vol%FBS(ウシ胎児血清)を培養した。1mLあたり、7.5×10
4cellsであった。
12wellプレート(培養面積:3.8cm
2/well)へ0.9mL/wellの量で播種した。播種濃度は、1.8×10
4cells/cm
2であった。
その後、培養した(温度:37℃、CO
2濃度:5%、湿度100%)。
12時間後、FA−Eu:NPS粒子を10vol%DMEMへ添加し、分散させ、濃度100mg/mLに調整した。
【0102】
細胞増殖試験をMTTアッセイにより実施した。MTTアッセイは、細胞内に取り込まれたMTT[3−(4,5−dimethylthiazol−2−yl)−2,5−diphenyltetrazolium bromide]が、細胞内にあるミトコンドリアの脱水素酵素によって還元されて生じるフォルマザン色素を、有機溶媒により抽出し、570nmの吸光度を測定し、生細胞率を計測する方法である。
播種後24時間後、48時間後、72時間後において、MTT reagent(Cat.No.10009591)を100μL添加し、3時間培養した(温度:37℃、CO
2濃度:5%、湿度:100%)。その後、培地を除去し、結晶溶解溶液(Crystal Dissolving Solution)(Cat.No.10009593)を1mL添加し、振った(可変モード、1分間)。570nmにおける吸光度を測定した。
生細胞率(%)は、以下の式で算出した。
生細胞率(%)=(評価対象細胞の吸光度−ブランクの吸光度)/(粒子非添加細胞の吸光度−ブランクの吸光度)×100
【0103】
図15は、細胞毒性定量試験の結果を示すグラフであり、(a)がん細胞と結合する葉酸で修飾されていない発光ナノ粒子、(b)がん細胞と結合する葉酸で修飾された発光ナノ粒子、である。
図15(a)に示すとおり、葉酸非修飾(葉酸修飾前)の全粒子において、粒子無添加試料、すなわち、正常な細胞増殖特性が誘起される組織培養ポリスチレンのみと同様に正常な増殖特性がみられた。
図15(b)に示すとおり、葉酸修飾後の全粒子において、細胞増殖特性へ害を加えないとされる葉酸分子(FA)のみと同様に正常な増殖特性がみられた。以上より、本実施形態の粒子は、細胞へ毒性を与えず正常な増殖特性を示した。
【0104】
(がん細胞イメージングと蛍光強度測定)
Helaがん細胞をPSフラスコで培養した(播種濃度:100×10
4cells/37cm
2)。解凍及び播種を7日間行った。
細胞を剥離、分離した。Helaの濃度は、(0.99±0.07)×10
5cells/mLであった。
細胞の濃度調整を行い、DMEM(ダルベッコ改変培地)に10vol%FBS(ウシ胎児血清)を培養した。1mLあたり、7.5×10
4cellsであった。
PSシャーレ(培養面積:9.6cm
2)へ2.25mL/PSの量で播種し、播種濃度は1.8×10
4cells/cm
2であった。(顕微鏡観察)
その後、培養した(温度:37℃、CO
2濃度:5%、湿度100%)。
12時間後、FA−Eu:NPS粒子を10vol%DMEMへ添加し、分散させ、濃度100mg/mLに調整した。
【0105】
生細胞イメージングは、粒子を細胞表面へ噴霧した3時間後から、24時間後、48時間後、72時間後において、培地除去した。その後、1mLのPBS(リン酸緩衝生理食塩水)を添加し、除去した(1回)。また、1mLの蒸留水を添加し、除去した(1回)。
蛍光強度測定を行った。
Eu
3+含有:Exフィルター:485nm±40nm
Emフィルター:590nm±35nm
FITC含有:Exフィルター:485nm±40nm
Emフィルター:540nm±35nm
24時間後のみ蛍光顕微鏡観察を行った。
なお、蛍光強度(PL)は、培養後、培地を除去し、PBSと蒸留水で、「細胞と結合していない粒子」、又は「細胞へ取込まれていない粒子」を取り除いてから、特定の励起波長と検出波長にて計測した。このため、得られた蛍光強度は、「細胞と結合している粒子」、又は「細胞へ取り込まれている粒子」のみに起因した発光である。
【0106】
図16は、細胞結合分子の修飾有無で異なるEu
3+含有シリカ粒子について、(a)蛍光強度と培養時間の関係を示すグラフであり、(b)及び(c)は粒子が取り込まれた細胞の蛍光イメージング像である。
図16(a)に示すとおり、細胞結合分子の修飾を有するEu
3+含有シリカ粒子の方が、細胞結合分子の修飾を有さないEu
3+含有シリカ粒子よりも、培養時間に対する蛍光強度の上昇が大きく、72時間後では約5倍の蛍光強度を示した。
図16(b)に示すとおり、細胞結合分子の修飾を有さないEu
3+含有シリカ粒子の場合は生細胞イメージングができなかったが、細胞結合分子の修飾を有するEu
3+含有シリカ粒子では、生細胞イメージングが可能となった(
図16(c))。また、これらの結果は、Eu
3+含有シリカ粒子が優れた発光安定性及び耐光性を備えていることを示した。
【0107】
図17は、細胞結合分子の修飾有無で異なるFITC含有チタニア粒子について、(a)蛍光強度と培養時間の関係を示すグラフであり、(b)及び(c)は粒子が取り込まれた細胞の蛍光イメージング像である。
図17(a)に示すとおり、細胞結合分子の修飾を有するFITC含有チタニア粒子の方が、細胞結合分子の修飾を有さないFITC含有チタニア粒子よりも、培養時間に対する蛍光強度の上昇が大きく、72時間後では約5倍の蛍光強度を示した。
図17(b)に示すとおり、細胞結合分子の修飾を有さないFITC含有チタニア粒子の場合は生細胞イメージングができなかったが、細胞結合分子の修飾を有するFITC含有チタニア粒子では、生細胞イメージングが可能となった(
図17(c))。また、これらの結果は、FITC含有チタニア粒子が優れた発光安定性及び耐光性を備えていることを示した。
【0108】
図18は、細胞結合分子の修飾有無で異なるEu
3+含有リン酸カルシウム化合物粒子について、(a)蛍光強度と培養時間の関係を示すグラフであり、(b)及び(c)は粒子が取り込まれた細胞の蛍光イメージング像である。
図18(a)に示すとおり、細胞結合分子の修飾を有するEu
3+含有リン酸カルシウム化合物粒子の方が、細胞結合分子の修飾を有さないEu
3+含有リン酸カルシウム化合物粒子よりも、培養時間に対する蛍光強度の上昇が大きく、72時間後では約4倍の蛍光強度を示した。
図18(b)に示すとおり、細胞結合分子の修飾を有さないEu
3+含有リン酸カルシウム化合物粒子の場合は生細胞イメージングができなかったが、細胞結合分子の修飾を有するEu
3+含有リン酸カルシウム化合物粒子では、生細胞イメージングが可能となった(
図18(c))。また、これらの結果は、Eu
3+含有リン酸カルシウム化合物粒子が優れた発光安定性及び耐光性を備えていることを示した。
【0109】
(測定装置)
本実施例で用いた主な測定装置は、以下のとおりである。
・蛍光分光光度計(日本分光株式会社製、装置名:FP−8500):
励起側バンド幅:10nm、蛍光側バンド幅:10nm、走査速度:200nm/分、データ取り込み間隔:0.1nm、レスポンス:1秒、PMT電圧:350Vにて行った。測定は、20mgの試料を直径16mmの円形状石英窓を介して行った。
・赤外分光光度計(JASCO株式会社製、装置名:FT/IR−4100):
KBr粉末法により行った。目的試料の粉末をKBr粉末により10倍に希釈して透過率(%)を測定した。バックグラウンドはKBr粉末とし、積算回数は100回、分解能2.0cm
−1とした。
・走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ株式会社製、装置名:SU8000)[チタニア粒子系(T)で使用]:
FE電圧5kV、電流10μAの条件で観察した。0.01wt%に調製したナノ粒子のエタノール懸濁液をシリコン基板上へ滴下・乾燥し観察した。
・透過型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ株式会社製、装置名:HT7700)[シリカ粒子系(S)とリン酸カルシウム化合物粒子系(CP)で使用]:
0.01wt%に調製したナノ粒子のエタノール懸濁液を、カーボンがコーティングされた銅グリッド((株)Okenshoji社製、商品名:カーボン/ホルムバールフィルム)上へ滴下した。滴下したグリッドは、窒素雰囲気下で24時間デシケーター中にて乾燥させ、加速電圧120kVで観察した。
・蛍光顕微鏡 (OLYMPUS(株)製、装置名:CKX41):
露出時間100m秒、感度ISO400とした。また、光源はOLYMPUS(株)製の装置名:U−RFLT50を用いた。励起フィルターにより特定波長領域(特許説明資料PDFファイル21枚目)についてダイロックミラーを介して試料へ照射し、発光をダイロックミラーおよび吸収フィルターを介して検出した。
・粉末X線回折((株)リガク製、装置名:Smart Lab):
X線源:CuKα線源(λ:1.5418Å)、出力:40kV/30mA、スキャンスピード:5.0°/min、サンプリング幅:0.01°、測定モード:連続、の条件で測定した。回折線位置、回折角、及び、半値幅は、装置付属のソフトウェア((株)リガク製、ソフト名:PDXL)により得た。
・蛍光X線分析((株)リガク製、装置名:ZSX PrimusII):
試料粉末の直径10mmのペレットを、油圧ハンドプレスを用いて、作製した。測定は装置付属のソフトウェア((株)リガク製、ソフト名:EZ scan program)を用いて解析した。