特許第6820154号(P6820154)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6820154発光ナノ粒子、それを用いた細胞の検出方法、動物の治療方法、医療装置、細胞の可視化方法、及び細胞の損傷軽減方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6820154
(24)【登録日】2021年1月6日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】発光ナノ粒子、それを用いた細胞の検出方法、動物の治療方法、医療装置、細胞の可視化方法、及び細胞の損傷軽減方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/59 20060101AFI20210114BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20210114BHJP
   C09K 11/67 20060101ALI20210114BHJP
   C09K 11/71 20060101ALI20210114BHJP
   B82Y 5/00 20110101ALI20210114BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20210114BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20210114BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20210114BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20210114BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20210114BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20210114BHJP
   A61K 41/00 20200101ALI20210114BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20210114BHJP
   A61K 47/52 20170101ALI20210114BHJP
   G01N 21/78 20060101ALN20210114BHJP
【FI】
   C09K11/59
   C09K11/06ZNM
   C09K11/67
   C09K11/71
   B82Y5/00
   B82Y20/00
   B82Y30/00
   G01N21/64 F
   G01N21/64 E
   G01N33/48 P
   G01N21/64 B
   A61K9/51
   A61K47/02
   A61K41/00
   A61P35/00
   A61K47/52
   !G01N21/78 C
【請求項の数】20
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2016-64240(P2016-64240)
(22)【出願日】2016年3月28日
(65)【公開番号】特開2017-179003(P2017-179003A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年12月13日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(73)【特許権者】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】犬井 正彦
(72)【発明者】
【氏名】茶谷 直
(72)【発明者】
【氏名】多賀谷 基博
(72)【発明者】
【氏名】本塚 智
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 TAGAYA, M. et al.,Synthesis of Luminescent Nanoporous Silica Spheres Functionalized with Folic Acid for Targeting to Cancer Cells,Inorganic Chemistry,2014, Vol. 53,p. 6817-6827
【文献】 TAGAYA, M. et al.,In Vitro Targeting of Cancer Cells with Luminescent Nanoporous Silica Spheres,Transactions on GIGAKU,2012, Vol. 1, No. 01014,p. 1-8
【文献】 TAGAYA, M. et al.,Synthesis and Luminescence Properties of Eu(III)-doped Nanoporous Silica Spheres,Journal of Colloid and Interface Science,2011, Vol. 363, No. 2,p. 456-464
【文献】 TAGAYA, M. et al.,Efficient Synthesis of Eu(III)-Containing Nanoporous Silicas,Materials Letters,2011, Vol. 65, No. 14,p. 2287-2290
【文献】 多賀谷基博,高次構造制御された無機/有機ナノ複合体の創製と光機能化,DV-Xα研究協会会報,2014, Vol.26, No.1-2,p. 22-26
【文献】 SHIBA, K. et al.,Synthesis of Cytocompatible Luminescent Titania/Fluorescein Hybrid Nanoparticles,ACS Applied Materials & Interfaces,2014, Vol.6, No. 9,p.6825-6834
【文献】 SHIBA, K. et al.,Preparation of Luminescent Titania/Dye Hybrid Nanoparticles and Their Dissolution Properties for Controlling Cellular Environments,RSC Advances,2015, Vol. 5, No. 5,p. 104343-104353
【文献】 竹田龍平 ほか,Eu添加アパタイト粒子の合成と発光特性,DV-Xα研究協会会報,2012, Vol. 24, No. 1-2,p. 243-246
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00−11/89
G01N 21/00−21/61
G01N 33/00−33/98
A61K 9/00−47/69
A61P 35/00−35/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母体材料と、前記母体材料内に含まれる発光物質と、を含み、
前記母体材料は、Ti、Ca、Al及びZrからなる群から選択される少なくとも一種である陽イオン元素と、O及びPからなる群から選択される少なくとも一種である陰イオン元素と、界面活性剤分子と、を含有し、
前記発光物質として、希土類イオンと、前記陽イオン元素に対して1mol%以上5mol%以下の有機発光色素と、のうち少なくともいずれかを含有し、
前記発光物質の前記母体材料中の濃度は、前記発光物質間の平均距離が1.2nm以上となる濃度である、発光ナノ粒子。
【請求項2】
前記母体材料は、TiO、Ca10(PO(OH)、Al及びZrOからなる群から選択される少なくとも一種を含有する、請求項記載の発光ナノ粒子。
【請求項3】
前記発光物質は、有機発光色素及び希土類イオンからなる群から選択される少なくとも一種を含有する、請求項1〜のいずれか一項記載の発光ナノ粒子。
【請求項4】
前記有機発光色素は、フルオレセイン系色素分子である、請求項の発光ナノ粒子。
【請求項5】
前記希土類イオンは、三価のEuである、請求項記載の発光ナノ粒子。
【請求項6】
前記希土類イオンの含有濃度は、前記陽イオン元素に対して1mmol%以上10mol%以下である、請求項又は記載の発光ナノ粒子。
【請求項7】
前記界面活性剤分子の含有量は、前記陽イオン元素に対するモル比が0.01以上である、請求項1〜のいずれか一項記載の発光ナノ粒子。
【請求項8】
前記界面活性剤分子の含有量は、前記陽イオン元素に対するモル比が1.5以下である、請求項1〜のいずれか一項記載の発光ナノ粒子。
【請求項9】
前記発光ナノ粒子の平均粒子径が10nm〜500nmである、請求項1〜のいずれか一項記載の発光ナノ粒子。
【請求項10】
孔径が0.1〜10nmの細孔を表面に備える、請求項1〜のいずれか一項記載の発光ナノ粒子。
【請求項11】
表面に、前記陽イオン元素に結合した水酸基及び/又はアミノ基が形成されている、請求項1〜10のいずれか一項記載の発光ナノ粒子。
【請求項12】
表面が細胞結合分子によって修飾された、請求項1〜11のいずれか一項記載の発光ナノ粒子。
【請求項13】
励起波長及び発光波長が可視光領域に存在する、請求項1〜12のいずれか一項記載の発光ナノ粒子。
【請求項14】
バイオイメージングに用いられる、請求項1〜13のいずれか一項記載の発光ナノ粒子。
【請求項15】
表面の細孔に薬剤を担持し、治療薬として用いられる、請求項1〜14のいずれか一項記載の発光ナノ粒子。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか一項記載の発光ナノ粒子を細胞内に投入し、前記発光ナノ粒子に光を照射し、前記細胞を観察する工程を有する、細胞の検出方法。
【請求項17】
ヒトを除く動物の治療方法であって、
請求項1〜15のいずれか一項記載の発光ナノ粒子を前記動物に投与し、前記発光ナノ粒子に光を照射し、前記動物を治療する工程を有する、治療方法。
【請求項18】
体内細胞の検査を行う検査部と、前記体内細胞の診断を行う診断部と、及び/又は前記体内細胞の治療を行う治療部とを備え、
前記検査、前記診断、及び/又は前記治療を行う際に、請求項1〜15のいずれか一項記載の発光ナノ粒子を体内細胞内に投入し、前記発光ナノ粒子に光を照射する光照射部をさらに備える、医療装置。
【請求項19】
母体材料と、前記母体材料内に含まれる発光物質と、を含み、前記母体材料が、Ti、Ca、Al及びZrからなる群から選択される少なくとも一種である陽イオン元素と、O及びPからなる群から選択される少なくとも一種である陰イオン元素と、界面活性剤分子と、を含有し、前記発光物質として、希土類イオンと、前記陽イオン元素に対して1mol%以上5mol%以下の有機発光色素と、のうち少なくともいずれかを含有し、前記発光物質の前記母体材料中の濃度は、前記発光物質間の平均距離が1.2nm以上となる濃度である発光ナノ粒子を、細胞内に投入し、前記発光ナノ粒子に光を照射し、前記細胞を可視化する工程を有する、細胞の可視化方法。
【請求項20】
母体材料と、前記母体材料内に含まれる発光物質と、を含み、前記母体材料が、Ti、Ca、Al及びZrからなる群から選択される少なくとも一種である陽イオン元素と、O及びPからなる群から選択される少なくとも一種である陰イオン元素と、界面活性剤分子と、を含有し、前記発光物質として、希土類イオンと、前記陽イオン元素に対して1mol%以上5mol%以下の有機発光色素と、のうち少なくともいずれかを含有し、前記発光物質の前記母体材料中の濃度は、前記発光物質間の平均距離が1.2nm以上となる濃度である発光ナノ粒子を、細胞内に投入し、可視光領域の波長の光で前記発光ナノ粒子を励起させる、細胞の損傷軽減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ナノ粒子に関する。特に好ましくは、バイオイメージングに用いられる発光ナノ粒子、それを用いた細胞の検出方法、動物の治療方法、医療装置、細胞の可視化方法、及び細胞の損傷軽減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、がん細胞などの腫瘍を、生体親和性の高いマーカー材料によって細胞レベルで高感度に検出する技術が求められている。
【0003】
特許文献1には、バイオイメージング材料として、二光子吸収性及び蛍光性を有する色素とデンドロンとが結合した水溶性デンドリマーからなる二光子吸収材料が記載されている。
【0004】
特許文献2には、量子ドットの表面が、疎水性基と極性基とを含む界面活性剤型重合開始剤により被覆されてなる水分散性量子ドットを、生体内バイオイメージング用粒子として用いることが記載されている。
【0005】
特許文献3には、界面活性剤により保護されたコアまたはコア/シェル構造の疎水性無機物ナノ粒子に、炭素数8〜20個の炭化水素鎖によりチオール基と親水基とが結合された有機配位子を1〜30当量添加して界面活性剤を部分的に置換し、ナノ粒子の表面に金属チオラート(M−S)結合を形成することによって、一部分だけが親水性に表面改質され、無極性有機溶媒で個別分散性を維持する疎水性ナノ粒子を製造する段階等を含む、バイオイメージングナノ粒子の製造方法が記載されている。
【0006】
特許文献4には、赤外光等のエネルギーが低い光を励起光として用い、可視光の蛍光を得る現象であるアップコンバージョン特性を有する蛍光粒子であって、蛍光粒子の材質が、Y:Er3+,Yb3+、Y:Er3+、NaYF:Er3+,Yb3+のうちいずれか1種、またいずれか2種以上の組み合わせである、バイオイメージングに用いられる蛍光粒子が記載されている。
【0007】
特許文献5には、平均粒子径が1〜20nmである半導体ナノ粒子であって、それを構成する主要成分原子と等価の価電子配置をもつ異種原子もしくは当該異種原子の原子対をドーパントとして含有し、かつ当該ドーパントが半導体ナノ粒子表面又はその近傍に分布している、分子・細胞イメージングに用いる半導体ナノ粒子が記載されている。
【0008】
特許文献6には、第1の蛍光物質と、該第1の蛍光物質と識別可能な励起/発光特性を有する第2の蛍光物質とを含む蛍光物質内包ナノ粒子を含む病理診断用蛍光標識剤が記載されている。
【0009】
特許文献7には、希土類蛍光錯体を含有してなる希土類蛍光錯体含有シリカ粒子からなる蛍光標識剤、標的分子測定用キットが記載されている。
【0010】
また、非特許文献1〜4にも、量子ドットや蛍光色素などをバイオイメージングに用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−133887号公報
【特許文献2】特開2009−190976号公報
【特許文献3】特開2009−107106号公報
【特許文献4】特開2013−14651号公報
【特許文献5】国際公開第2009/066548号
【特許文献6】特開2013−57037号公報
【特許文献7】国際公開第2005/023961号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】“Selective molecular imaging of viable cancer cells with pH−activatable fluorescence probes ” Nature Medicine 15, 104 (2009)
【非特許文献2】“Quantum Dot Bioconjugates for Ultrasensitive Nonisotopic Detection.” Science 281, 2016 (1998)
【非特許文献3】“Nucleic Acid−Passivated Semiconductor Nanocrystals: Biomolecular Templating of Form and Function. ” Accounts of Chemicl Research, 43, 173 (2010)
【非特許文献4】“Multimodal−Luminescence Core−Shell Nanocomposites for Targeted Imaging of Tumor Cells.” Chem. Eur. J., 15, 3577 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述のとおり、近年、がん細胞などの腫瘍を、生体親和性の高いマーカー材料によって細胞レベルで高感度に検出する技術が求められている。例えば、細胞のがん化においては、形態変化が起こる前に、分子レベルの活動変化が起こる。例えば、がん細胞は、正常細胞に比べ、ブドウ糖を多量に消費する傾向にある。同時に、細胞膜上に葉酸受容体が過剰発現するため、葉酸分子を特異的に結合・取込する傾向にある。このような細胞の分子レベル変化を、高精度に画像化することができれば、がん細胞などの超早期診断を実現することが可能となる。
【0014】
しかし、画像化のためのイメージング材料として、有機分子を用いた場合、劣化・退色速度が速く、例えば、蛍光観察下における数十分間の光照射によって、発光粒子が消光するなどの問題があった。また、バイオイメージング材料として、量子ドットなどの無機材料を用いた場合には、カドミウムのような毒性の高い元素が含まれる場合があり、生体適合性などの問題があった。
【0015】
本発明は、発光安定性及び耐光性を備え、生体毒性の低い、発光ナノ粒子、それを用いた細胞の検出方法、動物の治療方法、医療装置、細胞の可視化方法、及び細胞の損傷軽減方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、鋭意検討した結果、発光性の分子又はイオンを無機材料で包接した複合粒子を創製し、発光安定性及び耐光性を備え、生体毒性の低い、発光ナノ粒子、それを用いた細胞の検出方法、動物の治療方法、医療装置、細胞の可視化方法、及び細胞の損傷軽減方法を発明した。
【0017】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(23)である。
(1)母体材料と、母体材料内に含まれる発光物質と、を含み、
母体材料は、Ti、Si、Ca、Al及びZrからなる群から選択される少なくとも一種である陽イオン元素と、O及びPからなる群から選択される少なくとも一種である陰イオン元素と、を含有し、
前記発光物質の前記母体材料中の濃度は、前記発光物質間の平均距離が1.2nm以上となる濃度である、発光ナノ粒子。
(2)母体材料は、TiO、SiO、Ca10(PO(OH)、Al及びZrOからなる群から選択される少なくとも一種を含有する、(1)記載の発光ナノ粒子。
(3)母体材料と、前記母体材料内に含まれる発光物質と、を含み、
前記母体材料は、Ti、Ca、Al及びZrからなる群から選択される少なくとも一種である陽イオン元素と、O及びPからなる群から選択される少なくとも一種である陰イオン元素と、を含有する、発光ナノ粒子。
(4)母体材料は、TiO、Ca10(PO(OH)、Al及びZrOからなる群から選択される少なくとも一種を含有する、(3)記載の発光ナノ粒子。
(5)前記発光物質の前記母体材料中の濃度は、前記発光物質間の平均距離が1.2nm以上となる濃度である、(3)又は(4)記載の発光ナノ粒子。
(6)発光物質は、有機発光色素及び希土類イオンからなる群から選択される少なくとも一種を含有する、(1)〜(5)のいずれか記載の発光ナノ粒子。
(7)有機発光色素は、フルオレセイン系色素分子である、(6)記載の発光ナノ粒子。
(8)有機発光色素の含有濃度は、前記陽イオン元素に対して1mmol%以上6mol%以下である、(6)又は(7)記載の発光ナノ粒子。
(9)希土類イオンは、三価のEuである、(6)記載の発光ナノ粒子。
(10)希土類イオンの含有濃度は、陽イオン元素に対して1mmol%以上10mol%以下である、(6)又は(9)記載の発光ナノ粒子。
(11)母体材料が界面活性剤分子を含む、(1)〜(10)のいずれか記載の発光ナノ粒子。
(12)発光ナノ粒子の平均粒子径が10nm〜500nmである、(1)〜(11)のいずれか記載の発光ナノ粒子。
(13)孔径が0.1〜10nmの細孔を表面に備える、(1)〜(12)のいずれか記載の発光ナノ粒子。
(14)表面に、陽イオン元素に結合した水酸基及び/又はアミノ基が形成されている、(1)〜(13)のいずれか記載の発光ナノ粒子。
(15)表面が細胞結合分子によって修飾された、(1)〜(14)のいずれか記載の発光ナノ粒子。
(16)励起波長及び発光波長が可視光領域に存在する、(1)〜(15)のいずれか記載の発光ナノ粒子。
(17)バイオイメージングに用いられる、(1)〜(16)のいずれか記載の発光ナノ粒子。
(18)表面の細孔に薬剤を担持し、治療薬として用いられる、(1)〜(17)のいずれか記載の発光ナノ粒子。
(19)(1)〜(17)のいずれか記載の発光ナノ粒子を細胞内に投入し、発光ナノ粒子に光を照射し、細胞を観察する工程を有する、細胞の検出方法。
(20)(1)〜(18)のいずれか一項記載の発光ナノ粒子を動物に投与し、発光ナノ粒子に光を照射し、動物を治療する工程を有する、動物の治療方法。
(21)体内細胞の検査を行う検査部と、体内細胞の診断を行う診断部と、及び/又は体内細胞の治療を行う治療部とを備え、検査、診断、及び/又は、治療を行う際に、(1)〜(18)のいずれか記載の発光ナノ粒子を体内細胞内に投入し、発光ナノ粒子に光を照射する光照射部をさらに備える、医療装置。
(22)母体材料と、母体材料内に含まれる発光物質と、を含み、母体材料が、Ti、Si、Ca、Al及びZrからなる群から選択される少なくとも一種である陽イオン元素と、O及びPからなる群から選択される少なくとも一種である陰イオン元素と、を含有する発光ナノ粒子を、細胞内に投入し、発光ナノ粒子に光を照射し、細胞を可視化する工程を有する、細胞の可視化方法。
(23)母体材料と、母体材料内に含まれる発光物質と、を含み、母体材料が、Ti、Si、Ca、Al及びZrからなる群から選択される少なくとも一種である陽イオン元素と、O及びPからなる群から選択される少なくとも一種である陰イオン元素と、を含有する発光ナノ粒子を、細胞内に投入し、可視光領域の波長の光で発光ナノ粒子を励起させる、細胞の損傷軽減方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、発光安定性及び耐光性を備え、生体毒性の低い、発光ナノ粒子、及びそれを用いた細胞の検出方法、動物の治療方法、医療装置、細胞の可視化方法、細胞の損傷軽減方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態である発光ナノ粒子の外観を示す模式図である。
図2】本発明の一実施形態である発光ナノ粒子が、がん細胞に取り込まれるメカニズムを模式的に示した図である。
図3】各種母体材料における発光物質の分散を示す、電子顕微鏡観察像(TEM像)である。
図4】各種母体材料における発光物質濃度と蛍光寿命(τ)との関係を示すグラフである。
図5】Eu3+含有シリカ粒子の濃度別の電子顕微鏡観察像(TEM像)である。
図6】母体材料がシリカの場合の、窒素吸脱着等温線と細孔径分布曲線とを示すグラフである。
図7】フルオレセインイソチオシアネート(FITC)含有チタニア粒子の濃度別の電子顕微鏡観察像(FE−SEM像)と、粒子径分布である。
図8】Eu3+含有リン酸カルシウム化合物粒子の濃度別の電子顕微鏡観察像(TEM像)である。
図9】粉末X線回折パターンを示すグラフであり、(a)Eu3+含有シリカ粒子、(b)FITC含有チタニア粒子、(c)Eu3+含有リン酸カルシウム化合物粒子、である。
図10】Eu3+含有シリカ粒子についての界面活性剤除去前の赤外線吸収スペクトルを示すグラフである。
図11】赤外線吸収スペクトルを示すグラフであり、(a)Eu3+含有シリカ粒子、(b)FITC含有チタニア粒子、(c)Eu3+含有リン酸カルシウム化合物粒子、である。
図12】励起スペクトルを示すグラフであり、(a)Eu3+含有シリカ粒子、(b)FITC含有チタニア粒子、(c)Eu3+含有リン酸カルシウム化合物粒子、である。
図13】発光スペクトルを示すグラフであり、(a)Eu3+含有シリカ粒子、(b)FITC含有チタニア粒子、(c)Eu3+含有リン酸カルシウム化合物粒子、である。
図14】入射光、散乱光、蛍光の強度スペクトルを示すグラフである。
図15】細胞毒性定量試験の結果を示すグラフであり、(a)がん細胞と結合する葉酸で修飾されていない発光ナノ粒子、(b)がん細胞と結合する葉酸で修飾された発光ナノ粒子、である。
図16】細胞結合分子の修飾有無で異なるEu3+含有シリカ粒子について、(a)蛍光強度と培養時間の関係を示すグラフであり、(b)及び(c)は粒子が取り込まれた細胞の蛍光イメージング像である。
図17】細胞結合分子の修飾有無で異なるFITC含有チタニア粒子について、(a)蛍光強度と培養時間の関係を示すグラフであり、(b)及び(c)は粒子が取り込まれた細胞の蛍光イメージング像である。
図18】細胞結合分子の修飾有無で異なるEu3+含有リン酸カルシウム化合物粒子について、(a)蛍光強度と培養時間の関係を示すグラフであり、(b)及び(c)は粒子が取り込まれた細胞の蛍光イメージング像である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は当該実施形態によって限定的に解釈されるものではない。
【0021】
本実施形態の第1の発光ナノ粒子は、母体材料と、母体材料内に含まれる発光物質と、を含む。母体材料は、Ti、Si、Ca、Al及びZrからなる群から選択される少なくとも一種である陽イオン元素と、O及びPからなる群から選択される少なくとも一種である陰イオン元素と、を含有する。
【0022】
図1は、本実施形態の第1の発光ナノ粒子1の外観を模式的に示す模式図である。第1の発光ナノ粒子1は、母体材料2を備え、母体材料2中には発光物質3が含まれている。
【0023】
第1の発光ナノ粒子1において、発光物質の母体材料中の濃度は、発光物質間の平均距離が1.2nm以上となる濃度である。ここで、「発光物質間の平均距離」とは、発光ナノ粒子の平均粒子径、母体材料の分子量、密度、発光物質の濃度等から、下記の計算によって導かれる理論的な値をいう。よって、「発光物質間の平均距離が1.2nm以上となる濃度」とは、式(1)〜(6)を使った計算によって導かれた理論的な発光物質間の平均距離が1.2nm以上となるときの濃度をいう。
【0024】
なお、発光物質間の平均距離の算出に当たっては、発光ナノ粒子中に、発光物質が略均一に分散している状態を確認する。発光物質の分散状態の確認は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)で行うことができる。また、蛍光寿命測定法によって、発光物質濃度と蛍光寿命との関係から、発光物質が発光ナノ粒子内において略均一に分散していることを確認してもよい。発光物質の濃度が異なる複数の発光ナノ粒子において、それぞれの発光ナノ粒子中の発光物質が略均一に分散しているとき、発光物質の各濃度に対する蛍光寿命のプロットは、負の直線性の相関関係を示す。これは、発光物質の濃度増加に伴って、発光物質の寄与する占有体積が線形的に減少し、発光物質間距離が短くなり、交差緩和過程の確率が高くなるからである。発光物質が凝集しているときは、このような相関関係とはならない。
したがって、蛍光寿命測定法によって、ある発光ナノ粒子における発光物質が凝集せずに略均一に分散しているか否かを確認するためには、以下の工程を行えばよい。まず、その発光ナノ粒子の構成成分及び発光物質の濃度を分析し、その発光ナノ粒子と同じ構成成分からなり、発光物質の濃度が異なる複数のサンプルを用意する。次に、複数のサンプルの蛍光寿命を測定して、濃度と蛍光寿命の関係が直線性の相関関係となることを確認する。複数のサンプルについて、発光物質の濃度と蛍光寿命の関係が直線性の相関関係であることが確認できたのであれば、その後、分析対象の発光ナノ粒子の蛍光寿命を測定して、発光物質の濃度と蛍光寿命との関係において、サンプルと分析対象のプロットが直線性の相関関係となっているか否かを確認する。サンプルと分析対象のプロットが直線性の相関関係となっていれば、発光ナノ粒子における発光物質が略均一に分散していると確認できる。
【0025】
発光ナノ粒子の平均粒子径は、顕微鏡で発光ナノ粒子を観察し、発光ナノ粒子の粒子径を{(長径+短径)/2}として求め、得られた複数の粒子径を平均した値である。例えば、走査型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて所定の領域における任意の粒子100個以上から、平均粒子径を算出することが好ましい。
【0026】
具体的には、発光物質間の平均距離は、以下の式(1)〜(6)によって算出できる。
【0027】
(無機分子量密度)
De=A・ρ/M 式(1)
De :無機分子数密度(分子数/nm
A :アボガドロ数(6.02×1023
ρ :nm密度(g/nm
M :各分子量(シリカ(S):79.866、チタニア(T):60.1、水酸アパタイト(CP):1004.62)
【0028】
(平均1粒子体積)
=(4π/3)・(R/2) 式(2)
:平均1粒子体積(nm/1粒子)
R:平均粒子径(nm)
【0029】
(含有無機分子数)
=De・V 式(3)
:発光ナノ粒子に含有される無機分子数(分子数/1粒子)
【0030】
(含有発光物質数)
=X・B 式(4)
:発光ナノ粒子に含有される発光物質数(分子数/1粒子)
B :無機分子数に対する発光物質数(分子数/分子数)
【0031】
(発光物質1分子の専有体積)
=V/X 式(5)
:発光物質1分子の専有体積(nm/発光物質1分子)
【0032】
(発光物質間距離)
D={V・3/(4π)}1/3 式(6)
D:発光物質の中心間距離(nm)
【0033】
発光物質間の平均距離が1.2nm以上であると、発光物質3の凝集体に起因する濃度消光を防止することができ、発光安定性に優れた発光ナノ粒子となる。一方、発光物質間の平均距離が短いと、励起錯体として振る舞うため、励起した際に生じたエネルギーが移動して発光するためのエネルギーとならず、発光効率の低下などを生じさせてしまうと、本発明者らは推察している。発光物質間の平均距離は、好ましくは1.5nm以上であり、より好ましくは2nm以上である。また、発光物質間の平均距離の上限は、汎用性のある蛍光検出器の感度の観点から、好ましくは10nm以下である。母体材料中の発光物質の濃度は、無機分子数に対する発光物質数Bに対応する。このため、発光物質間の平均距離が1.2nm以上になる上記濃度は、用いる上記式(1)〜(6)中の各分子量M及び平均粒子径Rに応じて定まるものである。
【0034】
母体材料は、Ti、Si、Ca、Al及びZrからなる群から選択される少なくとも一種である陽イオン元素と、O及びPからなる群から選択される少なくとも一種である陰イオン元素と、を含有する。好適な母体材料としては、陽イオン元素であるTiと陰イオン元素であるOとを含む酸化チタンや、陽イオン元素であるSiと陰イオン元素であるOとを含む酸化シリコン、陽イオン元素であるAlと陰イオン元素であるOとを含む酸化アルミニウム、陽イオン元素であるZrと陰イオン元素であるOとを含む酸化ジルコニウムが、挙げられる。
【0035】
酸化チタン及び酸化シリコンは、M(OR)の一般式で表される金属アルコキシド(MはSi又はTi、Rは炭素数が1〜5のアルキル基)が水素結合により凝集した粒子であってもよく、又は、金属アルコキシド同士が脱水縮合し、骨格構造(−(M−O−M)−)を形成した粒子であってもよい。
【0036】
母体材料としては、陽イオン元素であるCaと陰イオン元素であるP及びOとを含むリン酸カルシウム化合物も挙げられる。
【0037】
リン酸カルシウム化合物は、リン酸源(リン酸、第1リン酸ナトリウム、第2リン酸ナトリウム、第1リン酸カリウム、第2リン酸カリウム、第1リン酸アンモニウム、第2リン酸アンモニウム、などより選択される1種以上の塩)と、カルシウム源(硝酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、などより選択される1種以上の塩)との混合物、又は混合反応物であることが好ましい。リン酸カルシウム化合物としては、リン酸一水素カルシウム無水和物(CaHPO)、リン酸一水素カルシウム二水和物(CaHPO・2HO)、リン酸三カルシウム(Ca(PO)、リン酸二水素カルシウム無水和物(Ca(HPO)、リン酸二水素カルシウム1水和物(Ca(HPO・HO)、リン酸四カルシウム(CaO(PO)、水酸アパタイト(Ca10(PO(OH))、リン酸八カルシウム(Ca(PO・5HO)、非晶質リン酸カルシウム(Ca(PO・nHO)が挙げられる。
【0038】
第1の発光ナノ粒子において、母体材料は、TiO、SiO、Ca10(PO(OH)、Al及びZrOからなる群から選択される少なくとも一種を含有することが好ましい。これらの母体材料は、生体への毒性が低く、生体適合性に優れている。この中でも、TiO、SiO又はCa10(PO(OH)が、第1の発光ナノ粒子の母体材料としてより好ましい。
【0039】
本実施形態の第2の発光ナノ粒子は、母体材料と、母体材料内に含まれる発光物質と、を含み、母体材料が、Ti、Ca、Al及びZrからなる群から選択される少なくとも一種である陽イオン元素と、O及びPからなる群から選択される少なくとも一種である陰イオン元素と、を含有する、発光ナノ粒子である。
【0040】
第2の発光ナノ粒子において、母体材料は、TiO、Ca10(PO(OH)、Al及びZrOからなる群から選択される少なくとも一種を含有することが好ましい。これらの母体材料は、生体への毒性が低く、生体適合性に優れている。この中でも、TiO又はCa10(PO(OH)が、第2の発光ナノ粒子の母体材料としてより好ましい。
【0041】
第2の発光ナノ粒子においても、発光物質間の平均距離が1.2nm以上であると、発光物質の濃度消光を防止することができ、発光安定性に優れた発光ナノ粒子とすることができることから、好ましい。発光物質間の平均距離は、好ましくは1.5nm以上であり、より好ましくは2nm以上である。また、発光物質間の平均距離の上限は、汎用性のある蛍光検出器の感度の観点から、好ましくは10nm以下である。
【0042】
第1の発光ナノ粒子又は第2の発光ナノ粒子(以下、第1の発光ナノ粒子でも第2の発光ナノ粒子でも対象となる場合は、単に「発光ナノ粒子」と記載する場合がある)において、発光物質は、有機発光色素及び希土類イオンからなる群から選択される少なくとも一種を含有することが好ましい。
【0043】
有機発光色素は、特に制限されないが、フルオレセイン系色素分子、ローダミン系色素分子、カスケード系色素分子、クマリン系色素分子、エオジン系色素分子、ピレン系色素分子及びシアニン系色素分子からなる群から選択される少なくとも一種が好ましい。この中でも、フルオレセイン系色素分子が好ましく、例えばフルオレセインイソチオシアネート(FITC)は、可視光領域で励起及び発光することから、本実施形態における発光物質として好適に用いられる。
【0044】
希土類イオンは、特に制限されないが、三価のCe、四価のCe、三価のPr、三価のNd、三価のPm、三価のSm、二価のEu、三価のEu、三価のGd、三価のTb、三価のDy、三価のHo、三価のEr、三価のTm、三価のYb及び三価のLuからなる群から選択される少なくとも一種が好ましい。この中でも三価のEuであるEu3+は、可視光領域で励起及び発光することから、本実施形態の発光ナノ粒子における発光物質として好適に用いられる。
【0045】
有機発光色素の含有濃度は、母体材料の陽イオン元素に対して1mmol%以上6mol%以下であることが好ましい。有機発光色素の含有濃度が当該範囲であることによって、発光物質間の平均距離を1.2nm以上に維持しやすい傾向にある。有機発光色素の含有濃度は、陽イオン元素に対し、100mmol%以上5.5mol%以下であることがより好ましく、1mol%以上5mol%以下であることがさらに好ましい。
希土類イオンの含有濃度は、母体材料の陽イオン元素に対して1mmol%以上10mol%以下であることが好ましい。希土類イオンの含有濃度が当該範囲であることによって、発光物質間の平均距離を1.2nm以上に維持しやすい傾向にある。希土類イオンの含有濃度は、陽イオン元素に対し、100mmol%以上10mol%以下であることがより好ましく、1mol%以上5mol%以下であることがさらに好ましい。
【0046】
母体材料は、界面活性剤分子を含むことが好ましい。界面活性剤分子を含むことによって、発光物質間の平均距離を適正な範囲に維持できる傾向にある。界面活性剤分子としては、特に限定されないが、例えば、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(臭化セチルトリメチルアンモニウム)、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、臭化オクタデシルトリメチルアンモニウム、臭化デシルトリメチルアンモニウム、臭化ドデシルトリメチルアンモニウム、臭化ヘキサデシルジメチルエチルアンモニウム、ヘキサデシルアミン、ドデシル硫酸ナトリウム、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、オクチルフェノールエトキシレート、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(EO)−ポリオキシプロピレングリコール(PO)共重合体(EO20PO30)、ポリオキシエチレン(EO)−ポリオキシプロピレングリコール(PO)−ポリオキシエチレン(EO)両親媒性トリブロック共重合体(EOPO68EO、EO20PO70PEO20、EO97PO67EO97)などを用いることができる。なお、発光物質間の平均距離を適正な範囲に維持する必要がない場合には、界面活性剤分子を母体材料に含まなくてもよい。
【0047】
母体材料における界面活性剤分子の含有量は、母体材料の金属元素に対するモル比が0.01以上であることが好ましい。母体材料の金属元素に対するモル比が0.01以上であることによって、母体材料中の発光物質の分散性が向上し、発光物質間の平均距離を適正な範囲に維持できる傾向にある。より好ましくはモル比が0.05以上であり、さらに好ましくはモル比が0.1以上である。また、上記モル比の上限は、界面活性剤の粒子表面又は粒子外へ液晶相のみの偏析防止の観点から、好ましくは1.5以下であり、より好ましくは0.2以下である。
【0048】
母体材料を縮合反応で調製する場合には、カチオン性界面活性剤を用いることが好ましい。カチオン性界面活性剤を用いることによって、静電的相互作用で複合化し、相分離を防止し、分散性に優れた状態を形成できる。また、界面活性剤は、母体材料を添加する前の溶液に先に分散させておくと、親水性の官能基が外側に向く方向でミセルが形成され、シリカやチタニアなどのアモルファスなクラスター構造と発光物質とがナノスケールで複合化した状態で集積していくと考えられる。これにより、母体材料中の発光物質の分散性が向上し、発光物質間の平均距離を適正な範囲に維持できる傾向にあることから、好ましい態様である。なお、例えば母体材料に応じて、カチオン性界面活性剤ではなく、非イオン性界面活性剤やアニオン性界面活性剤を用いてもよい。
【0049】
発光ナノ粒子の平均粒子径は、10nm〜500nmであることが好ましい。平均粒子径が当該範囲であることによって、発光ナノ粒子が標的となる細胞に取り込まれやすくなり、細胞を観察する上で好適となる傾向にある。一方、平均粒子径が小さいと、細胞の活動機能に作用して毒性の問題が生じる傾向にあるため、好ましくない。発光ナノ粒子の平均粒子径は、50nm〜450nmがより好ましく、100nm〜400nmがさらに好ましい。なお、本発光ナノ粒子を例えば細胞イメージングに用いない場合には、平均粒子径は500nmより大きくてもよい。
【0050】
発光ナノ粒子は、孔径が0.1〜10nmの細孔を、表面に備えることが好ましい。発光ナノ粒子表面の焼成又は溶媒抽出により、孔径が0.1〜10nmの細孔が発光ナノ粒子表面に形成される傾向にある。孔径が0.1〜10nmの細孔を備えると、例えば低分子薬剤を発光ナノ粒子に担持することが可能となり、治療薬として用いることも可能となる。細孔の孔径は、1nm〜10nmであることがより好ましく、2nm〜6nmであることがさらに好ましい。なお、発光ナノ粒子は、例えば用いられる用途に応じて、孔径が0.1〜10nmの細孔を表面に備えていなくてもよい。
母体材料がシリカの時に、細孔が形成される傾向にある。これは、界面活性剤と、発光物質を含む母体材料であるシリカとの間の相互作用が比較的弱く、焼成や溶媒抽出プロセスによって界面活性剤が脱離し、細孔が形成されることによるものと考えられる。一方、母体材料がチタニアやリン酸カルシウム化合物などの場合には、細孔が形成されにくい傾向にある。これは、界面活性剤と、発光物質を含む母体材料であるチタニアやリン酸カルシウム化合物との間の相互作用が強く、界面活性剤が脱離し難いことによると推察される。
【0051】
発光ナノ粒子の表面に、母体材料の陽イオン元素に結合した水酸基(OH基)が形成されていることが好ましい。また、母体材料の表面をアミノ基が修飾していることも好ましく、例えばアミノ基を含有したシランカップリング剤を用いて形成してもよい。OH基およびアミノ基は、細孔内表面に限らず、細孔外表面などの粒子表面にあればよく、細孔外表面にあることが好ましい。OH基またはアミノ基が細胞結合分子と水素結合又は縮合重合による共有結合で固定化され、発光ナノ粒子の表面が細胞結合分子に修飾されると、細胞結合分子は、がん細胞や正常細胞と特異結合することができる。細胞結合分子が細胞と特異結合すると、発光ナノ粒子が細胞内に取り込まれる。これにより、細胞内の発光ナノ粒子を発光させ、がん細胞などを検出することが可能となる。なお、発光ナノ粒子の用途によっては、表面にOH基やアミノ基が形成されていなくもよい。
【0052】
細胞結合分子としては、HER2抗体、ヒト上皮成長因子受容体に特異結合する抗体、がん特異的抗体、リン酸化タンパク抗体、葉酸、葉酸受容体βに特異結合する抗体、血管内皮細胞特異的抗体、組織特異的抗体、トランスフェリン、トランスフェリン結合型ペプチド、糖鎖と結合性を有するタンパク質などが挙げられる。この中でも、がん細胞が取り込む傾向にある葉酸を、細胞結合分子として用いることが好ましい。がん細胞は、細胞膜上に葉酸受容体が過剰発現するため、葉酸分子を特異的に結合・取込する傾向にあるからである。
【0053】
また、発光ナノ粒子の表面が抗がん剤分子で修飾されてもよい。抗がん剤分子が、がん細胞と特異結合すると、発光ナノ粒子が細胞内に取り込まれる。これにより、細胞内の発光ナノ粒子を発光させ、がん細胞を検出することができ、かつ、抗がん剤分子もがん細胞に取り込まれ、抗がん剤が作用し、がん細胞の増殖を抑制することができる。なお、本実施形態の発光ナノ粒子は、がん細胞以外にも広く適用できることから、表面が抗がん剤分子で修飾されていなくてもよい。
【0054】
細胞結合分子や抗がん剤分子は、発光ナノ粒子の表面に、化学結合によって修飾、固定されることが好ましい。化学結合としては、ペプチド結合(−CO−NH−)、水素結合などが挙げられる。
【0055】
図2は、本発明の一実施形態である発光ナノ粒子が、がん細胞に取り込まれるメカニズムを模式的に示した図である。図2に示すように、発光物質3を含有する母体材料2を備える発光ナノ粒子1は、母体材料2の表面にOH基又はアミノ基の結合手4を有し、細胞結合分子6とペプチド結合5で結合し、細胞結合分子修飾型発光ナノ粒子7を形成してもよい。細胞結合分子修飾型発光ナノ粒子7は、がん細胞10の受容体11に結合し、がん細胞10内に取り込まれてもよい。
【0056】
本実施形態の発光ナノ粒子は、励起波長及び発光波長が可視光領域に存在することが好ましい。励起波長及び発光波長が可視光波長以上であると、光照射による生体組織及び標識材料の劣化を軽減できる。また、試料表面の光散乱を軽減し、観察感度を向上させることもできる。なお、発光ナノ粒子を用いる用途において、生体組織や標識材料へのダメージを考慮する必要がない場合には、励起波長及び発光波長が可視光領域に存在しなくてもよい。
【0057】
本実施形態の発光ナノ粒子は、バイオイメージングに用いられることが好ましい。母体材料として有機分子を用いた場合、劣化・退色速度が速く、紫外線で励起することによって、正常な生体組織が損傷するという問題があった。また、量子ドットなどの無機材料を用いた場合には、毒性の高い元素が含まれるなど生体適合性の問題があり、励起光の波長が紫外線領域を含むため、生体組織にダメージを与えてしまう恐れもあった。これに対し、本実施形態の発光ナノ粒子は、発光安定性及び耐光性を備え、生体組織へのダメージを軽減でき、生体毒性も低いことから、バイオイメージングに好適に用いることができる。なお、本実施形態の発光ナノ粒子は、バイオイメージング以外の用途に用いられることも好ましい態様である。
【0058】
本実施形態の細胞の検出方法は、発光ナノ粒子を細胞内に投入し、発光ナノ粒子に光を照射し、細胞を観察する工程を有する。本検出方法によれば、本実施形態の発光ナノ粒子が高感度であるため、細胞の観察をより容易に行うことが可能となる。
【0059】
本実施形態の動物の治療方法は、発光ナノ粒子を動物に投与し、発光ナノ粒子に光を照射し、動物を治療する工程を有する。本治療方法によれば、本実施形態の発光ナノ粒子が高感度であり、かつ、生体親和性が高いため、動物の体内疾患の状況を感度よく、かつ安全に検知することができ、動物の疾患を適切に治療することが可能となる。
【0060】
本実施形態の医療装置は、体内細胞の検査を行う検査部と、体内細胞の診断を行う診断部と、及び/又は体内細胞の治療を行う治療部とを備え、検査、診断、及び/又は、治療を行う際に、(1)〜(18)のいずれか記載の発光ナノ粒子を体内細胞内に投入し、発光ナノ粒子に光を照射する光照射部をさらに備える、医療装置である。ここで、体内細胞の検査を行う検査部としては、例えば精密画像診断を行う蛍光内視鏡が挙げられる。また、体内細胞の診断を行う診断部としては、例えば組織生検を行う装置が挙げられる。さらに、体内細胞の治療を行う治療部としては、内視鏡による腫瘍部摘出装置が挙げられる。また、体内細胞の例としては、口腔癌、咽頭癌、食道癌、大腸癌、小腸癌、肺癌、乳癌、膀胱癌に係るがん細胞を例示することができる。本医療装置によれば、本実施形態の発光ナノ粒子が高感度であり、かつ、生体親和性が高いため、体内細胞の検査、診断、治療を感度よく、かつ安全に行うことが可能となる。
【0061】
本実施形態の細胞の可視化方法は、母体材料と、母体材料内に含まれる発光物質と、を含み、母体材料が、Ti、Si、Ca、Al及びZrからなる群から選択される少なくとも一種である陽イオン元素と、O及びPからなる群から選択される少なくとも一種である陰イオン元素と、を含有する発光ナノ粒子を、細胞内に投入し、発光ナノ粒子に光を照射し、細胞を可視化する工程を有する方法である。本可視化方法によれば、本実施形態の発光ナノ粒子が高感度であるため、細胞の可視化をより容易に行うことが可能となる。
【0062】
本実施形態の細胞の損傷軽減方法は、母体材料と、母体材料内に含まれる発光物質と、を含み、母体材料が、Ti、Si、Ca、Al及びZrからなる群から選択される少なくとも一種である陽イオン元素と、O及びPからなる群から選択される少なくとも一種である陰イオン元素と、を含有する発光ナノ粒子を、細胞内に投入し、可視光領域の波長の光で発光ナノ粒子を励起させる工程を有する方法である。本方法によれば、本実施形態の発光ナノ粒子が高感度であり、発光ナノ粒子を励起させる光の波長が可視光領域であるため、従来の細胞イメージング方法に比べ、細胞の損傷を軽減することが可能となる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、本発明は当該実施例によって限定的に解釈されるものではない。
【0064】
<実施例1、2、比較例1>
(Eu3+含有シリカ粒子の合成)
脱イオン水225mLに、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)1.0gを添加し、さらに2.0M−NaOH3.5mLを添加し、353Kで30分間攪拌した。攪拌した溶液に、テトラエトキシシラン(TEOS)5.515mL、EuClが含まれる脱イオン水15mLを加え(EuClが0gのとき、Euの合成開始時の仕込み量は0モル%であり、「Eu0mol%−S」と示した(比較例1)。EuClが0.452gのとき、Euの合成開始時の仕込み量は5モル%であり、「Eu5mol%−S」と示した(実施例1)。EuClが0.904gのとき、Euの合成開始時の仕込み量は10モル%であり、「Eu10mol%−S」と示した(実施例2))、353Kで2時間攪拌し、濾過した。濾過物を脱イオン水20mLで4回、エタノール10mLで1回洗浄した。その後、室温で1日乾燥させ、550℃で6時間焼成した。
実施例1、2、比較例1の粒子を構成する元素の濃度等は、表1のとおりである。
【0065】
【表1】
【0066】
<実施例3、比較例2、3>
(フルオレセインイソチオシアネート(FITC)含有チタニア粒子の合成)
0.011mL(4.63×10−5mol)の3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES:C23NOSi)、0mg(0mol、比較例2)、又は、91.1mg(実施例3)、又は、182mg(4.68×10−4mol、比較例3)のフルオレセインイソチオシアネート(FITC:C2111NOS)、36.1mL(0.471mol)の2−プロパノール(IPA)を混合し、室温でマグネチックスターラーを用いて24時間撹拌した。この溶液へ、Ti/APTESモル比=100となるように1.37mL(4.68×10−3mol)のチタニウムテトライソプロポキシド(TTIP:C1228Ti)を加えて混合し、溶液Aを調製した。比較例2のFITCの合成開始時の仕込み量は0モル%であり、「FITC0mol%−T」、実施例3のFITCの合成開始時の仕込み量は5モル%であり、「FITC5mol%−T」、比較例3のFITCの合成開始時の仕込み量は10モル%であり、「FITC10mol%−T」と示した。
37.3mL(0.487mol)のIPAと0.231mL(1.28×10−2mol)のイオン交換水を混合し、溶液Bを調製した。205mg(7.61×10−4mol)のオクタデシルアミン(ODA:C1839N)、189mL(2.47mol)のIPA、及び0.900mL(4.99×10−2mol)のイオン交換水を混合し、溶液Cをポリプロピレン製の容器へ調製した。ここで、APTESはODAおよびFITCとの水素結合等の形成に伴う相互作用発現を期待した。IPAはTTIP、APTES、FITCおよびODAの良溶媒として用い、イオン交換水はTTIPおよびAPTES加水分解するための反応物質として用い、ODAは生成物の形状、サイズ及びナノ構造の制御のために使用した。
溶液AとBは、それぞれ流速30mL・min−1で送液し、混合した。その反応液を溶液Cの容器へ流速60mL・min−1で吐出し、吐出終了までマグネチックスターラーを用いて撹拌した後、室温で24時間静置し、粒子分散液を得た。遠心分離(9000rpm、10min)によって固液分離し、上澄み液を除去した後に沈殿物を60℃で一晩乾燥し、試料粉末を得た。
実施例3、比較例2、3の粒子を構成する元素の濃度等は、表2のとおりである。
【0067】
【表2】
【0068】
<実施例4、5、比較例4>
(Eu3+含有リン酸カルシウム化合物粒子の合成)
100mLのHO(80℃)、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB、分子量364.45)8.75g(0.024mol)からなる溶液に、KHPOを2.09g(0.012mol)、1N−NaOHを添加し、pH13となった溶液を40℃以下まで冷ました。
次に、60mLのHO、CaCl・2HOが2.87g(0.0195mol)、EuCl・6HOが0g(0mmol)、0.357g(0.9mmol)、又は0.714g(1.9mmol)であった。比較例4のEuの合成開始時の仕込み量は0モル%であり、「Eu0mol%−CP」、実施例4のEuの合成開始時の仕込み量は5モル%であり、「Eu5mol%−CP」、実施例5のEuの合成開始時の仕込み量は10モル%であり、「Eu10mol%−CP」と示した。これらのEu含有溶液を6mL/分の滴下速度で、40℃以下まで冷ました溶液に滴下した。滴下後、攪拌しながら、40℃で24時間加熱還流した。得られた白色の沈殿物を純水で2回洗浄し、エタノールで2回洗浄した。洗浄後、遠心分離し(10000G、15分、4℃)、100℃で24時間乾燥した。
実施例4、5、比較例4の粒子を構成する元素の濃度等は、表3のとおりである。
【0069】
【表3】
【0070】
(TEMによる発光物質分散の観察)
実施例2、5、比較例3の発光ナノ粒子について、透過型電子顕微鏡(TEM)による発光物質分散の観察を行った。
具体的には、各種粒子粉末を0.1wt%の濃度でエタノールへ分散させ、超音波処理を15分間施し、粒子分散液をガラス基板上へ0.01mL/cmの濃度でキャストした。1日間真空乾燥を施し、基板表面へカーボン蒸着(膜厚:10nm)を施し、集束イオンビームにより、粒子膜の断面(面積:8μm×6μm)を切り出し、カーボンマイクログリッドへ載せた。次いで、透過型電子顕微鏡(TEM)(日立ハイテクノロジーズ株式会社製、HT7700)、及び付属EDS(エネルギー分散型X線分光法)により、粒子膜の中心部を評価・解析した。
観察結果を図3に示す。図3において、発光物質は白色の略円形状の単一な分子・イオンとして存在し、発光ナノ粒子内にて分散して存在していることを確認した。
【0071】
(発光物質間の平均距離の測定方法)
母体材料中に発光物質が分散していることをTEMで確認できたので、発光ナノ粒子の平均粒子径、発光物質の濃度から、発光物質間の平均距離を算出した。
具体的には、蛍光X線(XRF)分析と走査電子顕微鏡(FE−SEM)観察とにより、母体材料である無機相の金属元素に対する発光物質の濃度計算より、発光物質間距離を算出した。
(1)無機相の無機分子数密度の算出
以下の表4のように、無機相の密度(既知値)より、無機相の分子数密度を算出した。
【0072】
【表4】
(注1)シリカ相の密度は、多孔質シリカの密度1.50を用いた(参考文献:岩元和敬、妹尾学、「ゾルゲル法による無機・有機複合材料の機能化」生産研究,42(8),1990.等)。
(注2)チタニア相の密度は、XRDパターンよりアモルファス相であることがわかる(アモルファスでないと種々の発光物質の含有が困難である)。そこで、アモルファス相のチタニアの密度3.0g/cmを用いた(参考文献:M. Laube, F. Rauch, C. Ottermann, O. Anderson and K. Bange, Nucl. Instrum. Methods Phys. Res., Sect. B, 1996, 113, 288−292; C. R. Ottermann and K. Bange, Thin Solid Films, 1996, 286, 32−34; D. Mergel, D. Buschendorf, S. Eggert, R. Grammes and B. Samset, Thin Solid Films, 2000, 371, 218−224; D. Mergel, Thin Solid Films, 2001, 397, 216−222; V. V. Hoang, H. Zung and N. H. B. Trong, Eur. Phys. J. D, 2007, 44, 515−524. 等)。
(注3)水酸アパタイト(CP)の密度は、XRDパターンより水酸アパタイト単相の結晶相を確認したため、水酸アパタイト単相の結晶相の密度(3.2g/cm)を用いた。
【0073】
(2)平均粒子径、1粒子当たりの無機分子数の算出
実施例1〜5、比較例3の発光ナノ粒子について、FE−SEMを用いて発光ナノ粒子の粒径を100個以上計測し、平均粒子径を算出した。また、1粒子当たりに含まれる無機相の無機分子数を算出した(表5参照)。
【0074】
【表5】
(注4)各粒子は異方性形状なため、上記平均粒子径Rは{(長径+短径)/2}として計算した。
(注5)発光物質の体積は点(ゼロ)とみなして計算した。シリカ相の場合は無機シリカ分子ユニット1個に対してSiが1個、チタニア相の場合は無機チタニア分子ユニット1個に対してTiが1個、水酸アパタイト相の場合は無機水酸アパタイト分子ユニット1個に対してCaが6個の対応関係を利用した。
【0075】
(3)発光物質間距離の算出
XRFにより得た無機金属元素に対する発光物質の濃度から、発光物質間距離を算出した。表6のとおり、実施例1〜5及び比較例3で作製された発光ナノ粒子は、母体材料に含まれる発光物質間の平均距離は、比較例3であるFITC10mol%−T以外は1.2nm以上であった。
【0076】
【表6】
(注6)発光物質が界面活性剤により略均一に単分散していると仮定した。
【0077】
(B)蛍光寿命による検証
蛍光寿命測定により、発光物質の分散性を検証した。発光物質の試料は、以下の実施例で作製した合成時の仕込み量が5mol%、10mol%の発光物質に加え、2.5mol%の試料も準備した。発光物質Euについては、日本分光株式会社製・蛍光分光光度計FP−8500を用いた。発光物質FITCについては株式会社堀場製作所製・蛍光寿命光度計DeltaProを用いて行った。光源はキセノンフラッシュランプを用い、励起波長は蛍光スペクトルと同波長を用い、検出波長は蛍光スペクトルの極大波長を用いた。励起側と受光側のスリットバンド幅は2nmとした。フラッシュランプ点灯直後から、発光物質Euについては50msの間の蛍光強度変化を計測し、発光物質FITCについては200nsの間の蛍光強度変化を計測し、その蛍光強度の減衰曲線を10回繰り返し測定した。その10回分の減衰曲線を下記式(7)へフィッティングし、蛍光寿命τを算出した。
I(t)=I(0)exp(−t/τ) 式(7)
ここで、I(t)は時間tにおける蛍光強度であり、I(0)はフラッシュランプ点灯直後の蛍光強度である。その結果、蛍光寿命τは下記の表7となった。そして、横軸を発光物質濃度、縦軸を蛍光寿命τとしたプロットを作成した。その結果を図4に示す。
【0078】
【表7】
【0079】
図4(a)はシリカ相(S)、図4(b)はチタニア相(T)、図4(c)は水酸アパタイト(CP)の発光物質濃度と蛍光寿命との関係を示すグラフであり、図4(a)〜(C)のように、各濃度に対する蛍光寿命のプロットは、負の直線性の相関関係を示した。この相関関係が単調減少であるため、発光物質に対して等価な母体環境であることが推察された。つまり、発光物質の濃度増加に伴って、発光物質の寄与する占有体積が線形的に減少し、発光物質間距離が短くなり、交差緩和過程の確率が高くなった(励起エネルギーが部分的に近接イオンに移動し、結果的に生じる2個の低い励起状態のイオンは基底状態へと急速に緩和する現象を示している)。発光物質濃度と蛍光寿命との相関係数が0.95以上と高い相関を示しており、発光物質同士が凝集せず単一な分子・イオンとして略均一に分散して存在しており、且つ、発光物質間距離が小さくなっていると考えられる。以上により、実施例で用いた発光ナノ粒子において、発光物質が略均一に分散して存在していることを確認した。
【0080】
図5は、Eu3+含有シリカ粒子の濃度別の電子顕微鏡観察像(TEM像)である。図5(a)は比較例1(Eu0mol%−S)であり、図5(b)は実施例1(Eu5mol%−S)であり、図5(c)は実施例2(Eu10mol%−S)である。図5(a)〜(c)のとおり、Euの濃度が高くなるほど、Eu3+含有シリカ粒子の平均粒子径(D)が小さくなる傾向を示した。また、相対標準偏差である変動係数(CV)は15〜20%であった。
【0081】
実施例1、2、比較例1の粒子のアスペクト比は、以下の表8のとおりとなった。アスペクト比は、粒子の長軸サイズを短軸サイズで除すことによって求めた。Euの濃度が高くなるほどアスペクト比が減少し、粒子が針状から球状の形態へ変化したことを示した。
【0082】
【表8】
【0083】
実施例1、2のEu3+含有シリカ粒子における発光物質間の平均距離は、それぞれ1.5nmと1.2nmであった(上記表6参照)。
また、実施例1、2のEu3+含有シリカ粒子について、界面活性剤の溶媒抽出または焼成(酸化分解)により、径が1〜10nmの範囲の細孔が観測された。下記表9へ比表面積と細孔径の解析結果を示した。また、図6として、窒素吸脱着等温線及び細孔径分布を示した。図6(a)及び(d)はEu0mol%−S、図6(b)及び(e)はEu5mol%−S、図6(c)及び(f)はEu10mol%−Sに関する。測定法は、窒素吸脱着等温線測定(マイクロトラック・ベル(株)製BELSORP−mini)により、(BET法より求める)BET比表面積と(BJH法より求める)BJH細孔径分布を測定した。試料を室温で一昼夜脱気し、100℃で12時間乾燥させて、吸着温度−196℃、最大平衡圧力760Torrにて測定した。その結果、表9に示すように、Euのドープ量の増加に伴ってメソ細孔の拡張が確認された。含有メソ細孔径の分布中心は、約2〜6nmであった。
【0084】
【表9】
【0085】
図7は、FITC含有チタニア粒子の濃度別の電子顕微鏡観察像(FE−SEM像)と、粒子径分布である。図7(a)は比較例2(FITC0mol%−T)であり、図7(b)は実施例3(FITC5mol%−T)であり、図7(c)は比較例3(FITC10mol%−T)である。図7(a)〜(c)のとおり、FITCの濃度が高くなるほど、FITC含有チタニア粒子の平均粒子径(D)はわずかに大きくなる傾向を示した。また、変動係数(CV)は8.1〜10.4%であった。
【0086】
実施例3、比較例2、3の粒子のアスペクト比は、以下の表10のとおりとなった。アスペクト比は、粒子の長軸サイズを短軸サイズで除すことによって求めた。
【0087】
【表10】
【0088】
実施例3、比較例3のFITC含有チタニア粒子における発光物質間の平均距離は、それぞれ1.2nmと0.9nmであり(表6参照)、発光物質の濃度増加に伴い減少する傾向を示した。
また、実施例3のFITC含有チタニア粒子について、界面活性剤の溶媒抽出または焼成(酸化分解)により、細孔は観測されなかった。これは界面活性剤と実施例3のFITC含有チタニア粒子との相互作用が、界面活性剤と実施例1、2のEu3+含有シリカ粒子との相互作用よりも強いことにより、界面活性剤が脱離し難かったことによるもの、と推察された。
【0089】
図8は、Eu3+含有リン酸カルシウム化合物粒子の濃度別の電子顕微鏡観察像(TEM像)である。図8(a)は比較例4(Eu0mol%−CP)であり、図8(b)は実施例4(Eu5mol%−CP)であり、図8(c)は実施例5(Eu10mol%−CP)である。図8(a)〜(c)のとおり、Euの濃度が高くなるほど、Eu3+含有リン酸カルシウム化合物粒子の平均粒子径(D)が小さくなる傾向を示した。また、変動係数(CV)は23〜30%であった。
【0090】
実施例4、5、比較例4の粒子のアスペクト比は、以下の表11のとおりであり、Euの濃度が高くなるほどアスペクト比が減少し、粒子が針状から球状の形態へ変化したことを示した。
【0091】
【表11】
【0092】
図9は、粉末X線回折パターンを示すグラフであり、(a)Eu3+含有シリカ粒子、(b)FITC含有チタニア粒子、(c)Eu3+含有リン酸カルシウム化合物粒子、である。図9(a)では、Euの析出物やシリカの結晶に由来するピークはみられず、アモルファス構造であり、Eu含有量が多くなるほど、ピーク強度が低くなる傾向を示した。図9(b)では、FITC含有量が多くなるほど、グラフの左端側のピーク強度が高くなる傾向を示した。図9(c)では、面指数の帰属から結晶構造が水酸アパタイト単相であり、Eu含有量が多くなるほど、ピークの半値幅が低くなる部分も見られた。
【0093】
図10は、Eu3+含有シリカ粒子についての界面活性剤除去前の赤外線吸収スペクトルを示すグラフである。3640cm−1の水素結合タイプのSi−OH伸縮振動、2925cm−1のC−H伸縮振動(―CH)、2855cm−1のC−H伸縮振動(―CH―)、1480cm−1のC−H変角振動(―CH―)、1225cm−1のSi−O−Si非対称伸縮振動((Si−O−Si)n由来)、1070cm−1のSi−O−Si対称伸縮振動((Si−O−Si)n由来)、965cm−1のSi−OH伸縮振動、795cm−1のSi−OH伸縮振動等の特性吸収帯を観測した。2925cm−1のC−H伸縮振動(―CH)、2855cm−1のC−H伸縮振動(―CH―)、1480cm−1のC−H変角振動(―CH―)における吸収帯の存在により、界面活性剤の存在を確認した。
【0094】
図11は、赤外線吸収スペクトルを示すグラフであり、(a)Eu3+含有シリカ粒子、(b)FITC含有チタニア粒子、(c)Eu3+含有リン酸カルシウム化合物粒子、である。図11(a)では、3640cm−1の水素結合タイプのSi−OH伸縮振動、1225cm−1のSi−O−Si非対称伸縮振動((Si−O−Si)n由来)、1070cm−1のSi−O−Si対称伸縮振動((Si−O−Si)n由来)、965cm−1のSi−OH伸縮振動、795cm−1のSi−OH伸縮振動、等の特性吸収帯を観測した。焼成又は溶媒抽出プロセスによって、2925cm−1のC−H伸縮振動(―CH)、2855cm−1のC−H伸縮振動(―CH―)、1480cm−1のC−H変角振動(―CH―)の吸収帯がなくなるため、界面活性剤が除去されたと判断した。
図11(b)では、3640cm−1のチタニア構造内に存在する−OH基の伸縮振動、3720〜3000cm−1の粒子表面のHO及びTi−OHのOH基の伸縮振動、2920cm−1及び2850cm−1の界面活性剤ODA(オクタデシルアミン)及び発光物質FITCに起因する−CHと−CH−の伸縮振動、1460cm−1の−CH−の変角振動、1590cm−1のC=O伸縮振動、等の特性吸収帯を観測した。最終的なIPAによる洗浄プロセスによっても界面活性剤が残存していた。このことから、チタニア/FITCと界面活性剤の相互作用により界面活性剤が残存したと推察した。
図11(c)では、3550cm−1の水酸アパタイトの結晶構造内に存在する−OH基の伸縮振動、1100cm−1、1000cm−1、960cm−1のリン酸基のP−O伸縮振動、3800〜3000cm−1及び1650cm−1の粒子表面のHOのOH基の伸縮振動、等の特性吸収帯を観測した。リン酸カルシウム化合物(特に、水酸アパタイト)の特徴的なピークであるP−O及び−OHの伸縮振動を観測した。最終的に、界面活性剤は観測されなかった。これは、洗浄により、界面活性剤が十分除去されたためである。XRF結果より、最終的な洗浄プロセスによって界面活性剤を除去できることが確認されるが、CPでは細孔が形成されなかった。
【0095】
実施例4、5のEu3+含有リン酸カルシウム化合物粒子における発光物質間の平均距離は、それぞれ1.6nmと1.3nmであった(表6参照)。
実施例4、5のEu3+含有リン酸カルシウム化合物粒子について、界面活性剤の溶媒抽出または焼成(酸化分解)により、細孔が観測されなかった。これは界面活性剤とEu3+含有リン酸カルシウム化合物粒子との相互作用が、界面活性剤と実施例1、2のEu3+含有シリカ粒子との相互作用よりも強いことにより、Eu3+含有リン酸カルシウム化合物粒子において界面活性剤が脱離し難かったことによるもの、と推察された。
【0096】
<実施例6〜8>
(発光物質5mol%含有粒子への、がん細胞結合分子(葉酸誘導体FA−NHS)の修飾)
実施例1、3、4の各発光物質5モル%含有粒子250mgに、HCl水溶液(pH=2)12mLを添加し、超音波処理を行った。次に、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)0.78mL(3.3mmol)を5mLのエタノールに含有させた溶液を調製し、超音波処理した溶液に加え、混合溶液を得た。当該混合溶液を40℃で20時間攪拌した(pH<6.5)。攪拌終了後、当該混合溶液を遠心分離し、エタノールで洗浄した。洗浄後、減圧乾燥し、APTESが表面に修飾した発光物質5mol%含有粒子150mgを得た。このAPTES/発光物質5モル%含有粒子150mgに、50mMのリン酸緩衝液(pH=7.0)25mLを添加し、超音波処理を行った。次に、FA−NHS(葉酸誘導体)430mg(0.8mmol)をジメチルスルホキシド(DMSO)12mLに含有させた溶液を調製し、超音波処理した溶液に加え、混合溶液を得た。当該混合溶液を室温で3時間攪拌した。攪拌終了後、当該混合溶液を遠心分離し、水で洗浄した。洗浄後、減圧乾燥し、実施例6〜8のFA(葉酸)/発光物質5mol%含有粒子を得た。
【0097】
図12は、励起スペクトルを示すグラフであり、(a)Eu3+含有シリカ粒子、(b)FITC含有チタニア粒子、(c)Eu3+含有リン酸カルシウム化合物粒子である。図12(a)では、465nmのf−f遷移に起因するピークを観測した。図12(b)では、468、483、493nmにおいて、マイナスにイオン化した単分子の発光物質FITCに起因するピーク(カチオン性剤ODA(オクタデシルアミン)と相互作用してFITCが単分散に粒子内へ導入された)を観測した。図12(c)では、465nmのf−f遷移に起因するピークを観測した。
【0098】
図13は、発光スペクトルを示すグラフであり、(a)Eu3+含有シリカ粒子、(b)FITC含有チタニア粒子、(c)Eu3+含有リン酸カルシウム化合物粒子、である。図13(a)では、577nmのからへの遷移、585nm・590nm・595nmのからへの遷移、611nmのDからへの遷移、646nmのからへの遷移、700nmのからへの遷移に起因するピークを観測した。最終的な焼成又は溶媒抽出プロセス(界面活性剤の除去プロセス)によっては、発光スペクトル形状と強度において変化がなかった。この結果から、粒子が核形成されて結晶成長する過程時の発光物質の略均一分散化・固定化において、界面活性剤は重要な役割を担っていると考えられた。
図13(b)では、540nm付近の発光物質FITCの単分散分子又は2分子会合状態に起因するピークを観測した。凝集体に起因するピークは観測されなかったため、界面活性剤分子と相互作用して略均一分散して存在したと考えられた。
図13(c)では、発光物質Eu(III)イオンの4f−4f遷移による蛍光ピーク;590nmの、616nmの、652nmの、700nmの遷移に起因するピークを観測した。最終的な洗浄プロセス(界面活性剤除去プロセス)によっては、発光スペクトル形状と強度において変化がなかった。この結果からも、粒子が核形成されて結晶成長する過程時の発光物質の略均一分散化・固定化において、界面活性剤は重要な役割を担っていると考えられた。
【0099】
各発光物質の合成仕込時の5mol%試料と10mol%試料について、界面活性剤を使用して粒子合成し、発光物質が粒子内で略均一に分散している場合と、界面活性剤を一切使用せず本実施例と同実験方法で粒子合成し、発光物質が粒子内で凝集している場合の量子収率を測定した。蛍光スペクトル測定装置によって、量子収率を求めた。φ60mmの積分球ISF−834を用いて測定を行った、励起散乱光の測定には、積分球の反射位置に石英窓板を張り付けた状態で標準白板をセットし測定した。入射光、散乱光、および蛍光の強度スペクトルを測定し、それらの積分ピーク強度を算出し、それぞれ、I、I及びIと略記し、量子収率(内部量子効率)Φintを式(8)より算出した。なお、励起/蛍光スペクトルは、各試料の励起/蛍光スペクトル図中にみられる極大波長を用いた
Φint=I/(I−I)×100 式(8)
【0100】
図14は、入射光、散乱光、蛍光の強度スペクトルを示すグラフである。また、測定した量子収率の結果は以下のとおりである。界面活性剤を使用して合成した場合の方が、不使用の場合よりも量子収率が高く、発光物質の略均一分散化(高効率発光)において界面活性剤が重要であることを示した。
Eu5mol%−S−界面活性剤使用合成:11.5%
Eu10mol%−S−界面活性剤使用合成:8.3%
Eu5mol%−S−界面活性剤不使用合成:2.5%
Eu10mol%−S−界面活性剤不使用合成:1.3%
FITC5mol%−T−界面活性剤使用合成:19.4%
FITC5mol%−T−界面活性剤不使用合成:13.1%
Eu5mol%−CP−界面活性剤使用合成:7.1%
Eu10mol%−CP−界面活性剤使用合成:4.8%
Eu5mol%−CP−界面活性剤不使用合成:3.6%
Eu10mol%−CP−界面活性剤不使用合成:1.9%
【0101】
(正常細胞(線維芽細胞)の生細胞率試験)
正常細胞(NIH3T3細胞)をPSフラスコで培養した(播種濃度:100×10cells/37cm)。その後、解凍及び播種を7日間行い、細胞を剥離・分離した。NIH3T3細胞の濃度は、(1.97±0.15)×10cells/mLであった。
細胞の濃度調整を行い、DMEM(ダルベッコ改変培地)に10vol%FBS(ウシ胎児血清)を培養した。1mLあたり、7.5×10cellsであった。
12wellプレート(培養面積:3.8cm/well)へ0.9mL/wellの量で播種した。播種濃度は、1.8×10cells/cmであった。
その後、培養した(温度:37℃、CO濃度:5%、湿度100%)。
12時間後、FA−Eu:NPS粒子を10vol%DMEMへ添加し、分散させ、濃度100mg/mLに調整した。
【0102】
細胞増殖試験をMTTアッセイにより実施した。MTTアッセイは、細胞内に取り込まれたMTT[3−(4,5−dimethylthiazol−2−yl)−2,5−diphenyltetrazolium bromide]が、細胞内にあるミトコンドリアの脱水素酵素によって還元されて生じるフォルマザン色素を、有機溶媒により抽出し、570nmの吸光度を測定し、生細胞率を計測する方法である。
播種後24時間後、48時間後、72時間後において、MTT reagent(Cat.No.10009591)を100μL添加し、3時間培養した(温度:37℃、CO濃度:5%、湿度:100%)。その後、培地を除去し、結晶溶解溶液(Crystal Dissolving Solution)(Cat.No.10009593)を1mL添加し、振った(可変モード、1分間)。570nmにおける吸光度を測定した。
生細胞率(%)は、以下の式で算出した。
生細胞率(%)=(評価対象細胞の吸光度−ブランクの吸光度)/(粒子非添加細胞の吸光度−ブランクの吸光度)×100
【0103】
図15は、細胞毒性定量試験の結果を示すグラフであり、(a)がん細胞と結合する葉酸で修飾されていない発光ナノ粒子、(b)がん細胞と結合する葉酸で修飾された発光ナノ粒子、である。図15(a)に示すとおり、葉酸非修飾(葉酸修飾前)の全粒子において、粒子無添加試料、すなわち、正常な細胞増殖特性が誘起される組織培養ポリスチレンのみと同様に正常な増殖特性がみられた。図15(b)に示すとおり、葉酸修飾後の全粒子において、細胞増殖特性へ害を加えないとされる葉酸分子(FA)のみと同様に正常な増殖特性がみられた。以上より、本実施形態の粒子は、細胞へ毒性を与えず正常な増殖特性を示した。
【0104】
(がん細胞イメージングと蛍光強度測定)
Helaがん細胞をPSフラスコで培養した(播種濃度:100×10cells/37cm)。解凍及び播種を7日間行った。
細胞を剥離、分離した。Helaの濃度は、(0.99±0.07)×10cells/mLであった。
細胞の濃度調整を行い、DMEM(ダルベッコ改変培地)に10vol%FBS(ウシ胎児血清)を培養した。1mLあたり、7.5×10cellsであった。
PSシャーレ(培養面積:9.6cm)へ2.25mL/PSの量で播種し、播種濃度は1.8×10cells/cmであった。(顕微鏡観察)
その後、培養した(温度:37℃、CO濃度:5%、湿度100%)。
12時間後、FA−Eu:NPS粒子を10vol%DMEMへ添加し、分散させ、濃度100mg/mLに調整した。
【0105】
生細胞イメージングは、粒子を細胞表面へ噴霧した3時間後から、24時間後、48時間後、72時間後において、培地除去した。その後、1mLのPBS(リン酸緩衝生理食塩水)を添加し、除去した(1回)。また、1mLの蒸留水を添加し、除去した(1回)。
蛍光強度測定を行った。
Eu3+含有:Exフィルター:485nm±40nm
Emフィルター:590nm±35nm
FITC含有:Exフィルター:485nm±40nm
Emフィルター:540nm±35nm
24時間後のみ蛍光顕微鏡観察を行った。
なお、蛍光強度(PL)は、培養後、培地を除去し、PBSと蒸留水で、「細胞と結合していない粒子」、又は「細胞へ取込まれていない粒子」を取り除いてから、特定の励起波長と検出波長にて計測した。このため、得られた蛍光強度は、「細胞と結合している粒子」、又は「細胞へ取り込まれている粒子」のみに起因した発光である。
【0106】
図16は、細胞結合分子の修飾有無で異なるEu3+含有シリカ粒子について、(a)蛍光強度と培養時間の関係を示すグラフであり、(b)及び(c)は粒子が取り込まれた細胞の蛍光イメージング像である。図16(a)に示すとおり、細胞結合分子の修飾を有するEu3+含有シリカ粒子の方が、細胞結合分子の修飾を有さないEu3+含有シリカ粒子よりも、培養時間に対する蛍光強度の上昇が大きく、72時間後では約5倍の蛍光強度を示した。図16(b)に示すとおり、細胞結合分子の修飾を有さないEu3+含有シリカ粒子の場合は生細胞イメージングができなかったが、細胞結合分子の修飾を有するEu3+含有シリカ粒子では、生細胞イメージングが可能となった(図16(c))。また、これらの結果は、Eu3+含有シリカ粒子が優れた発光安定性及び耐光性を備えていることを示した。
【0107】
図17は、細胞結合分子の修飾有無で異なるFITC含有チタニア粒子について、(a)蛍光強度と培養時間の関係を示すグラフであり、(b)及び(c)は粒子が取り込まれた細胞の蛍光イメージング像である。図17(a)に示すとおり、細胞結合分子の修飾を有するFITC含有チタニア粒子の方が、細胞結合分子の修飾を有さないFITC含有チタニア粒子よりも、培養時間に対する蛍光強度の上昇が大きく、72時間後では約5倍の蛍光強度を示した。図17(b)に示すとおり、細胞結合分子の修飾を有さないFITC含有チタニア粒子の場合は生細胞イメージングができなかったが、細胞結合分子の修飾を有するFITC含有チタニア粒子では、生細胞イメージングが可能となった(図17(c))。また、これらの結果は、FITC含有チタニア粒子が優れた発光安定性及び耐光性を備えていることを示した。
【0108】
図18は、細胞結合分子の修飾有無で異なるEu3+含有リン酸カルシウム化合物粒子について、(a)蛍光強度と培養時間の関係を示すグラフであり、(b)及び(c)は粒子が取り込まれた細胞の蛍光イメージング像である。図18(a)に示すとおり、細胞結合分子の修飾を有するEu3+含有リン酸カルシウム化合物粒子の方が、細胞結合分子の修飾を有さないEu3+含有リン酸カルシウム化合物粒子よりも、培養時間に対する蛍光強度の上昇が大きく、72時間後では約4倍の蛍光強度を示した。図18(b)に示すとおり、細胞結合分子の修飾を有さないEu3+含有リン酸カルシウム化合物粒子の場合は生細胞イメージングができなかったが、細胞結合分子の修飾を有するEu3+含有リン酸カルシウム化合物粒子では、生細胞イメージングが可能となった(図18(c))。また、これらの結果は、Eu3+含有リン酸カルシウム化合物粒子が優れた発光安定性及び耐光性を備えていることを示した。
【0109】
(測定装置)
本実施例で用いた主な測定装置は、以下のとおりである。
・蛍光分光光度計(日本分光株式会社製、装置名:FP−8500):
励起側バンド幅:10nm、蛍光側バンド幅:10nm、走査速度:200nm/分、データ取り込み間隔:0.1nm、レスポンス:1秒、PMT電圧:350Vにて行った。測定は、20mgの試料を直径16mmの円形状石英窓を介して行った。
・赤外分光光度計(JASCO株式会社製、装置名:FT/IR−4100):
KBr粉末法により行った。目的試料の粉末をKBr粉末により10倍に希釈して透過率(%)を測定した。バックグラウンドはKBr粉末とし、積算回数は100回、分解能2.0cm−1とした。
・走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ株式会社製、装置名:SU8000)[チタニア粒子系(T)で使用]:
FE電圧5kV、電流10μAの条件で観察した。0.01wt%に調製したナノ粒子のエタノール懸濁液をシリコン基板上へ滴下・乾燥し観察した。
・透過型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ株式会社製、装置名:HT7700)[シリカ粒子系(S)とリン酸カルシウム化合物粒子系(CP)で使用]:
0.01wt%に調製したナノ粒子のエタノール懸濁液を、カーボンがコーティングされた銅グリッド((株)Okenshoji社製、商品名:カーボン/ホルムバールフィルム)上へ滴下した。滴下したグリッドは、窒素雰囲気下で24時間デシケーター中にて乾燥させ、加速電圧120kVで観察した。
・蛍光顕微鏡 (OLYMPUS(株)製、装置名:CKX41):
露出時間100m秒、感度ISO400とした。また、光源はOLYMPUS(株)製の装置名:U−RFLT50を用いた。励起フィルターにより特定波長領域(特許説明資料PDFファイル21枚目)についてダイロックミラーを介して試料へ照射し、発光をダイロックミラーおよび吸収フィルターを介して検出した。
・粉末X線回折((株)リガク製、装置名:Smart Lab):
X線源:CuKα線源(λ:1.5418Å)、出力:40kV/30mA、スキャンスピード:5.0°/min、サンプリング幅:0.01°、測定モード:連続、の条件で測定した。回折線位置、回折角、及び、半値幅は、装置付属のソフトウェア((株)リガク製、ソフト名:PDXL)により得た。
・蛍光X線分析((株)リガク製、装置名:ZSX PrimusII):
試料粉末の直径10mmのペレットを、油圧ハンドプレスを用いて、作製した。測定は装置付属のソフトウェア((株)リガク製、ソフト名:EZ scan program)を用いて解析した。
【符号の説明】
【0110】
1・・・発光ナノ粒子、2・・・母体材料、3・・・発光物質、4・・・OH基又はアミノ基、5・・・ペプチド結合、6・・・細胞結合分子、7・・・細胞結合分子修飾型発光ナノ粒子、10・・・がん細胞、11・・・受容体。
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