特許第6820164号(P6820164)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6820164
(24)【登録日】2021年1月6日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】装飾積層フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20210114BHJP
【FI】
   B32B27/00 E
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-141682(P2016-141682)
(22)【出願日】2016年7月19日
(65)【公開番号】特開2018-12215(P2018-12215A)
(43)【公開日】2018年1月25日
【審査請求日】2019年6月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(72)【発明者】
【氏名】阿部 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 公二
【審査官】 松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−208377(JP,A)
【文献】 特開2000−211234(JP,A)
【文献】 特開平08−127109(JP,A)
【文献】 特開平09−076448(JP,A)
【文献】 特開平11−320763(JP,A)
【文献】 特開平10−024649(JP,A)
【文献】 特開2010−260942(JP,A)
【文献】 特開2015−054481(JP,A)
【文献】 特開2005−231337(JP,A)
【文献】 特開2003−275675(JP,A)
【文献】 特開2007−268823(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102956147(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2018/0257328(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B05D 1/00−7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明グレー層と、基材ベタ色層と有する装飾積層フィルムであって、少なくとも前記透明グレー層と前記基材ベタ色層のいずれか一方が印刷層であり、前記基材ベタ色層がインクジェット印刷層であり、前記装飾積層フィルムが、前記基材ベタ色層を受容するレセプター層、及び前記レセプター層の前記基材ベタ色層と反対の面にある感圧接着層をさらに有し、前記レセプター層及び前記感圧接着層の少なくとも1つが白色顔料を含み、前記透明グレー層を通して前記基材ベタ色層が視認される、装飾積層フィルム。
【請求項2】
さらに柄層を有する、請求項1に記載の装飾積層フィルム。
【請求項3】
前記透明グレー層が、前記柄層と前記基材ベタ色層の間に配置されている、請求項に記載の装飾積層フィルム。
【請求項4】
前記柄層が、前記透明グレー層と前記基材ベタ色層の間に配置されている、請求項に記載の装飾積層フィルム。
【請求項5】
前記柄層及び前記透明グレー層がインクジェット印刷層である、請求項のいずれか一項に記載の装飾積層フィルム。
【請求項6】
前記透明グレー層がレセプター層である、請求項1〜のいずれか一項に記載の装飾積層フィルム。
【請求項7】
前記透明グレー層が接合層である、請求項1〜のいずれか一項に記載の装飾積層フィルム。
【請求項8】
複製の対象である、柄を有する表面を撮影して画像データを得る工程と、
前記画像データを2値化することにより柄データを作成する工程と、
前記画像データから前記柄データを差し引くことにより基材ベタ色データを作成する工程と、
階調の異なる複数の透明グレー色データを作成する工程と、
前記柄データに基づいて柄層を形成する工程と、
前記基材ベタ色データに基づいて基材ベタ色層を形成する工程と、
前記複数の透明グレー色データの1つに基づいて透明グレー層を形成する工程と、
前記柄層、前記基材ベタ色層、及び前記透明グレー層を積層して、装飾積層フィルムを形成する工程と、
を含み、前記装飾積層フィルムの外観を確認しながら前記複数の透明グレー色データを用いて前記基材ベタ色層の明度調節を行うことにより、前記柄を有する表面が複製された外観を有する装飾積層フィルムが提供される、請求項のいずれか一項に記載の装飾フィルムを製造する方法。
【請求項9】
前記柄層、基材ベタ色層及び透明グレー層がインクジェット印刷により形成される、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記透明グレー層がレセプター層である、請求項又はのいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記透明グレー層が接合層である、請求項又はのいずれかに記載の方法。
【請求項12】
感圧接着層を、前記基材ベタ色層に対して前記透明グレー層の反対側に形成する工程をさらに含む、請求項11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、建築物の内壁及び外壁の表面修復などに用いることのできる装飾積層フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装代替フィルムは、外装及び内装のマーキング用途にも用いられており、このうち追従性のよいフィルムは、粗面を有する表面、例えば建築物の壁面の装飾又は修復に非常に有用である。
【0003】
特許文献1(特開2002−89024号公報)は、「合成樹脂製ベースフィルム表面にインクジェットにより印刷された印刷層が積層され、上記ベースフィルム裏面に接着剤層が積層されていることを特徴とする装飾タイル用複合フィルム」を記載している。
【0004】
特許文献2(特開2004−36097号公報)は、「フッ素樹脂フィルムの裏面に、フッ素樹脂インキを用いて印刷層を形成して成ることを特徴とする装飾用仕上げシート」を記載している。
【0005】
特許文献3(特開平10−16148号公報)は、「アクリルクリヤーフィルムの表裏の何れか一方に透明部分と隠蔽部分からなる絵柄を印刷したアクリル印刷フィルムを最表層側とし、このアクリル印刷フィルムの裏面側にアクリルクリヤーフィルムを積層し、塩化ビニルフィルムに絵柄を施したり着色したりした絵柄層をアクリルクリヤーフィルムの裏面側に積層し、上記アクリル印刷フィルム、アクリルクリヤーフィルム及び絵柄層を積層一体化した複合シートを表層に使用したことを特徴とする化粧板」を記載している。
【0006】
特許文献4(特開平11−42728号公報)は、「透明な基体シートの一方の面に光線透過率が30〜85%のスモーク色層が形成され、他方の面に図柄層が形成されたことを特徴とするスモーク色装飾シート」を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−89024号公報
【特許文献2】特開2004−36097号公報
【特許文献3】特開平10−16148号公報
【特許文献4】特開平11−42728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
建築物の壁面、タイル表面などは、微細で不規則な柄と基材(ベース)色から構成されていることが多い。撮影画像の画像処理及び印刷技術を用いてこれらの対象物表面をフィルムなどの基材上に印刷画像として表現したときに、人間が目視すると、特に遠距離から見ると、色味などの点で実際の壁面又はタイル表面とは異なる印象を受ける場合があった。そのため、建築物の壁面及びタイル表面の修復用途などにおいて、人間の目視で見たときにこれらの外観が複製された印象を与える装飾面を有する装飾フィルムが望まれている。
【0009】
本開示は、観察者に対して、建築物の壁面、タイル表面などの表面の外観が複製された印象を与えることが可能な装飾フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、基材色の明度を、基材色を呈する層又は基材とは別個に設けられた、透明なグレー層を用いて調節することにより、人間の目視で見たときに対象物表面の外観がより再現された印象を与える装飾面を形成できることを見出した結果、本発明の完成に至った。
【0011】
本開示の一実施態様によれば、透明グレー層と、基材ベタ色層と有する装飾積層フィルムであって、少なくとも前記透明グレー層と前記基材ベタ色層のいずれか一方が印刷層であり、前記透明グレー層を通して前記基材ベタ色層が視認される、装飾積層フィルムが提供される。
【0012】
本開示の別の実施態様によれば、柄層をさらに有する上記装飾積層フィルムを製造する方法であって、複製の対象である、柄を有する表面を撮影して画像データを得る工程と、前記画像データを2値化することにより柄データを作成する工程と、前記画像データから前記柄データを差し引くことにより基材ベタ色データを作成する工程と、透明グレー色データを作成する工程と、前記柄データに基づいて柄層を形成する工程と、前記基材ベタ色データに基づいて基材ベタ色層を形成する工程と、前記透明グレー色データに基づいて透明グレー層を形成する工程と、前記柄層、前記基材ベタ色層、及び前記透明グレー層を積層して、前記柄を有する表面が複製された外観を有する装飾積層フィルムを形成する工程と、を含む方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本開示の装飾積層フィルムは、観察者に対して、建築物の壁面、タイル表面などの表面の外観が複製された印象を与えることができる。そのため、本開示の装飾積層フィルムを建築物の壁面及びタイル表面の修復用途などに好適に使用することができる。
【0014】
本開示の装飾積層フィルムの製造方法によれば、観察者に対して、建築物の壁面、タイル表面などの表面の外観が複製された印象を与えることができる装飾積層フィルムを、簡便な画像処理及び製造工程により製造することができる。
【0015】
なお、上述の記載は、本発明の全ての実施態様及び本発明に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本開示の一実施態様の装飾積層フィルムの概略断面図である。
図2】本開示の別の実施態様の装飾積層フィルムの概略断面図である。
図3】本開示の別の実施態様の装飾積層フィルムの概略断面図である。
図4】本開示の別の実施態様の装飾積層フィルムの概略断面図である。
図5】本開示の別の実施態様の装飾積層フィルムの概略断面図である。
図6】装飾積層フィルムの製造方法を例示的に説明する流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の代表的な実施態様を例示する目的で、図面を参照しながらより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施態様に限定されない。図面の参照番号について、異なる図面において類似する番号が付された要素は、類似又は対応する要素であることを示す。
【0018】
本開示において「フィルム」には「シート」と呼ばれる物品も包含される。
【0019】
本開示において「感圧接着」とは、使用温度範囲で、例えば0℃以上、50℃以下の範囲で初期粘着性(タック)を有し、軽い圧力で様々な表面に接着し、相変化(液体から固体へ)を呈さない材料又は組成物の特性を意味する。
【0020】
本開示の一実施態様の装飾積層フィルムは、透明グレー層と、基材ベタ色層と有しており、少なくとも透明グレー層と基材ベタ色層のいずれか一方が印刷層である。また、装飾積層フィルムは任意で柄層を有している。観察者は透明グレー層を通して基材ベタ色層を視認する。如何なる理論に拘束される訳ではないが、少なくとも透明グレー層と基材ベタ色層のいずれか一方が印刷層である積層構造において、別個に設けられた透明グレー層を通して明度が調節された基材ベタ色層を観察者に視認させることで、対象物表面の外観がより再現された印象を観察者に与えることができると考えられる。
【0021】
一般に、印刷層は、デジタルカメラなどで対象物表面を撮影して得られるRGB画像データをCMYK画像データに変換した後、プロセスインク(シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、及びブラック(K)、並びに任意にライトインク)をインクジェット印刷、オフセット印刷、グラビア印刷などの印刷技術を用いてインクドット又はアミ点として基材上に印刷することにより形成される。印刷層では、これらのプロセスインクの減法混色によりプロセスインク以外の色が表現される。インクドット又はアミ点の間では通常は白色の下地が露出しており、この白色の下地からの反射光と、インクドット又はアミ点からの反射光との並置(加法)混色によって、様々な色相、明度及び彩度の色を観察者は知覚する。
【0022】
ブラック(K)インクも含めたプロセスインクの混色では、明度を合わせようとすると彩度が合わなくなる場合がある。例えば、明度の調節には無彩色であるブラック(K)インクを用いることが一般的であるが、そのことで彩度が同時に許容できない程度まで低下してしまうことがある。ブラック(K)インクを用いずにシアン(C)、マゼンタ(M)、及びイエロー(Y)インクの混色により明度を調節しようとした場合も同様であり、この場合はさらに色相のシフトが生じることもある。これらの現象は、白色の下地とインクドット又はアミ点の組み合わせによって階調を表現するインクジェット印刷及びオフセット印刷、並びに一部のグラビア印刷ではより顕著であり、画像データ変換時の画像処理アルゴリズムだけでは解決できない場合がある。
【0023】
いくつかの用途、例えば建築物用のタイルなどでは比較的彩度の低い顔料が使用されるのに対して、限られた色数のインクを組み合わせて幅広い色を表現することが求められるプロセスインクでは、彩度の高い顔料が使用されることが一般的である。このように顔料種類が異なることも色の再現には不利に影響する場合がある。
【0024】
一実施態様では、基材ベタ色層が、インクジェット印刷、オフセット印刷、グラビア印刷などの印刷技術、特にインクジェット印刷を用いて形成された印刷層である。この実施態様の装飾積層フィルムは、従来の装飾フィルムでは特に再現が困難であった色味を有する対象物表面についても有利に使用することができる。
【0025】
図1に、本開示の一実施態様による装飾積層フィルム10の概略断面図を示す。装飾積層フィルム10は、任意の構成要素である柄層12と、透明グレー層14と、基材ベタ色層16とを含む。柄層12は透明レセプター層22上に、透明グレー層14は透明レセプター層24上に、基材ベタ色層16はレセプター層26上にそれぞれ配置されている。図1の積層装飾フィルム10は、さらに、任意の構成要素として、最外層として表面保護層28、被着体へ装飾積層フィルム10を取り付けるための感圧接着層36、及び感圧接着層36を保護するライナー40を有する。ライナー40は被着体への装飾積層フィルム10の貼り付け前に剥離される。これらの層は接合層32、34、38を介して積層されて装飾積層フィルム10を形成する。図1では、透明グレー層14が柄層12と基材ベタ色層16の間に配置されており、基材ベタ色層16は透明グレー層14を通して上方から観察者により視認される。
【0026】
図2に、本開示の別の実施態様による装飾積層フィルム10の概略断面図を示す。図2の装飾積層フィルム10では図1とは異なり、上から透明グレー層14、任意の構成要素である柄層12、基材ベタ色層16の順で配置されている。この実施態様では、基材ベタ色層16及び柄層12が透明グレー層14を通して上方から観察者により視認される。
【0027】
図1に示すように、透明グレー層14が柄層12と基材ベタ色層16の間に配置されていてもよく、図2に示すように、柄層12が透明グレー層14と基材ベタ色層16の間に配置されていてもよい。
【0028】
透明グレー層はレセプター層であってもよい。図3に示す実施態様では、柄層12が透明グレー層14の上に直接配置されており、透明グレー層14が柄層12のレセプター層としても機能する。この実施態様では、透明グレー層の上に直接柄層を印刷、転写などによって形成することができ、結果としてより簡単な構造を有する薄い装飾積層フィルムを得ることができる。したがって、よりフィルムの製造工程を簡易化できるとともに、薄い装飾積層フィルムは柔軟性が高く、凹凸を有する対象物表面への追従性の点で有利である。
【0029】
透明グレー層は接着層であってもよく、感圧接着層であってもよい。図4に示す実施態様では、透明グレー層14が透明レセプター層22と基材ベタ色層16の間の接合層としても機能する。図5に示す実施態様では、透明グレー層14が表面保護層28を積層するための接合層としても機能する。これらの実施態様では、透明グレー層の上に他の層、例えばレセプター層、表面保護層などを、別個の接合層を用いずに積層することができ、結果としてより簡単な構造を有する薄い装飾積層フィルムを得ることができる。したがって、よりフィルムの製造工程を簡易化できるとともに、薄い装飾積層フィルムは柔軟性が高く、凹凸を有する対象物表面への追従性の点で有利である。
【0030】
柄層は、透明レセプター層の上、又レセプター層としても機能する透明グレー層の上に、トナー、溶剤型インク、紫外線硬化型インク、水性インク、ラテックスインクなどを用いたインクジェット印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、静電印刷などの印刷により形成することができる。一実施態様では柄層はインクジェット印刷層である。柄層が例えばスクリーンマスクなどを用いて形成されたインジウム、スズ、クロムなどの金属蒸着層又は金属スパッタ層であってもよい。
【0031】
柄層は単色であってもよく多色であってもよい。一実施態様では、対象物表面の柄を近似した画像を用いて無彩色で柄層が形成されてもよい。
【0032】
柄層の厚さは様々であってよく、一般に、約1μm以上、約5μm以上、又は約10μm以上、約100μm以下、約50μm以下、約40μm以下、又は約30μm以下とすることができる。
【0033】
一実施態様では、透明グレー層は、透明レセプター層の上に、トナー、溶剤型インク、紫外線硬化型インク、水性インク、ラテックスインクなどを用いたインクジェット印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、静電印刷などの印刷により形成された印刷層である。一実施態様では透明グレー層はインクジェット印刷層である。
【0034】
別の実施態様では、透明グレー層は、様々な樹脂、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を含むアクリル樹脂、ポリウレタン(PU)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、フッ素樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)などの共重合体又はこれらの混合物に、黒色顔料又は黒色染料を混合して形成されるフィルムである。これらのフィルムは他の層との結合面にプライマー処理、コロナ処理などの表面処理を有してもよい。
【0035】
透明グレー層が柄層のレセプター層として機能してもよい。この実施態様では、透明グレー層として、上記印刷層及び上記樹脂フィルムのいずれも使用することができる。印刷層を透明グレー層及びレセプター層とすることで、印刷及び積層工程を簡略化することができ、より薄い表面追従性に優れた装飾積層フィルムを得ることができる。強度、印刷適性、耐溶剤性(例えば耐アルコール性)などの観点からは、レセプター層としても機能する透明グレー層として、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、アクリル樹脂、アクリル−ウレタン樹脂を含むフィルムを有利に使用できる。ポリ塩化ビニルを含む透明グレー層は装飾積層フィルムを難燃性とする上でも有利である。
【0036】
透明グレー層が装飾積層フィルムを構成する他の層の接合層として機能してもよい。この実施態様では、透明グレー層として、様々な種類の接着剤、例えばアクリル系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ゴム系などの、溶剤型、エマルジョン型、感圧型、感熱型、熱硬化型又は紫外線硬化型の接着剤に、黒色顔料又は黒色染料を混合した組成物を用いて形成することができる。一実施態様では、透明グレー層はアクリル系接着剤、ポリウレタン系接着剤、又はゴム系接着剤を含む。
【0037】
透明グレー層は一般に無彩色であるが、有彩色であってもよい。一実施態様では、透明グレー層は黒色顔料又は黒色染料のみを含む。別の実施態様では透明グレー層は黒色顔料又は黒色染料と白色顔料又は白色染料との組み合わせを含む。別の実施態様では、透明グレー層は黒色顔料又は黒色染料に加えて、赤、青、黄などの有彩色の顔料又は染料を含む。この実施態様では、透明グレー層の色を基材ベタ色層の色相及び彩度に合わせて適宜シフトさせることができる。
【0038】
透明グレー層が黒色に着色した樹脂ビーズを含んでもよい。黒色樹脂ビーズは、黒色顔料又は黒色染料が透明樹脂粒子に混練されたものであってよい。黒色樹脂ビーズを用いることにより、透明グレー層に黒色顔料又は黒色染料をより均一に分散させることができる。
【0039】
透明グレー層の可視光線透過率は、一般に、JIS A 5759:2008に準拠して測定したときに、可視光領域(400nm〜800nm)における平均透過率として得られる値が、約40%以上、約50%以上、又は約60%以上、約95%以下、約90%以下、又は約85%以下である。透明グレー層の可視光線透過率を上記範囲とすることで基材ベタ色層の明度を効果的に調節することができる。透明グレー層の全面が上記可視光線透過率を有してもよく、一部又は複数の部分が上記可視光線透過率を有してもよい。
【0040】
透明グレー層の厚さは様々であってよく、一般に、約1μm以上、約5μm以上、又は約10μm以上、約300μm以下、約100μm以下、約50μm以下、又は約30μm以下とすることができる。
【0041】
一実施態様では、基材ベタ色層は、レセプター層の上に、トナー、溶剤型インク、紫外線硬化型インク、水性インク、ラテックスインクなどを用いたインクジェット印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、静電印刷などの印刷により形成された印刷層である。一実施態様では基材ベタ色層はインクジェット印刷層である。
【0042】
別の実施態様では、基材ベタ色層は、様々な樹脂、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を含むアクリル樹脂、ポリウレタン(PU)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、フッ素樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)などの共重合体又はこれらの混合物に、顔料又は染料を混合して形成される着色フィルムである。この実施態様では、異なる可視光線透過率を有する透明グレー層から適当なものを選択することで、一種類の着色フィルムから色味の異なる装飾積層フィルムを作製することができる。
【0043】
基材ベタ色層は有彩色であり、その色相、明度及び彩度は様々であってよい。一実施態様では、L*a*b*表色系に基づいて、基材ベタ色層のL*値は約30以上、約99以下の範囲であり、a*は約−10以上、約20以下の範囲であり、b*は約−10以上、約30以下の範囲である。基材ベタ色層のL*、a*、及びb*が上記範囲であるときに、透明グレー層による明度調節の効果がより大きくなる。
【0044】
基材ベタ色層の厚さは様々であってよく、一般に、約1μm以上、約5μm以上、又は約10μm以上、約300μm以下、約100μm以下、約50μm以下、又は約30μm以下とすることができる。
【0045】
一実施態様では、柄層及び透明グレー層の両方がインクジェット印刷層である。別の実施態様では、柄層、透明グレー層、及び基材ベタ色層がインクジェット印刷層である。
【0046】
柄層及び透明グレー層を受容する透明レセプター層として、様々な樹脂、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を含むアクリル樹脂、ポリウレタン(PU)、アクリル−ウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)などの共重合体又はこれらの混合物を含むフィルムが使用できる。これらのフィルムは他の層との結合面にプライマー処理、コロナ処理などの表面処理を有してもよい。強度、印刷適性、耐溶剤性(例えば耐アルコール性)などの観点から、透明レセプター層として、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、アクリル樹脂、アクリル−ウレタン樹脂を含むフィルムを有利に使用できる。ポリ塩化ビニルを含む透明レセプター層は装飾積層フィルムを難燃性とする上でも有利である。
【0047】
透明レセプター層の可視光線透過率は、一般に、JIS A 5759:2008に準拠して測定したときに、可視光領域(400nm〜800nm)における平均透過率として得られる値が、約80%以上、約85%以上、又は約90%以上、100%以下、約98%以下、又は約95%以下である。透明レセプター層の全面が上記可視光線透過率を有してもよく、一部又は複数の部分が上記可視光線透過率を有してもよい。
【0048】
透明レセプター層の厚さは様々であってよく、一般に約10μm以上、約20μm以上、又は約50μm以上、約500μm以下、約200μm以下、又は約100μm以下とすることができる。
【0049】
基材ベタ色層を受容するレセプター層として、透明レセプター層と同様の樹脂を含むフィルムを使用することができる。これらのフィルムは他の層との結合面にプライマー処理、コロナ処理などの表面処理を有してもよい。強度、印刷適性、耐溶剤性(例えば耐アルコール性)などの観点から、レセプター層として、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、アクリル樹脂、アクリル−ウレタン樹脂を含むフィルムを有利に使用できる。ポリ塩化ビニルを含むレセプター層は装飾積層フィルムを難燃性とする上でも有利である。
【0050】
レセプター層は上記の透明レセプター層であってもよく、不透明な層であってもよく、着色されていてもよい。一実施態様ではレセプター層は白色顔料を含む。白色顔料として、従来公知の白色顔料、例えば、炭酸亜鉛、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化チタン(二酸化チタン)などを使用できる。添加剤としてタルク、カオリン、炭酸カルシウムを含んでもよい。白色顔料は単体で又は2種以上を混合して用いることができる。白色顔料はいずれの形態でもよく、従来公知の方法によって各種の分散処理が施されたものであってもよい。この実施態様では、レセプター層が被着体表面(下地)を隠蔽する隠蔽層としても機能する。白色度が高いことから白色顔料として二酸化チタンを用いることが有利である。
【0051】
レセプター層の厚さは様々であってよく、一般に約10μm以上、約20μm以上、又は約50μm以上、約500μm以下、約200μm以下、又は約100μm以下とすることができる。
【0052】
透明レセプター層及びレセプター層として、押出フィルム、押出延伸フィルム、カレンダーフィルム、キャストフィルムなど、様々な成形方法で形成されたフィルム又はこれらの積層体を使用することができる。一実施態様では、フィルム層はキャストフィルムである。この実施態様によれば、薄いフィルム層を得ることが容易であり、残留内部応力が比較的低いことから、装飾積層フィルムの被着体表面への追従性を有利に高めることができる。
【0053】
一実施態様では、装飾積層フィルムは、接着剤を被着体表面に塗布し、その上に装飾積層フィルムを適用することにより、被着体に取り付けられる。図1〜5に示すような別の実施態様では、装飾積層フィルムは、基材ベタ色層に対して透明グレー層の反対側に配置された感圧接着層を有しており、この感圧接着層を介して被着体に取り付けられる。
【0054】
感圧接着層は、様々な種類の接着剤、例えばアクリル系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ゴム系などの、溶剤型、エマルジョン型、感圧型、感熱型、熱硬化型又は紫外線硬化型の接着剤を用いて形成することができる。一実施態様では、接着層はアクリル系接着剤、ポリウレタン系接着剤、又はゴム系接着剤を含む。
【0055】
一実施態様では感圧接着層は白色顔料を含む。白色顔料はレセプター層について説明したとおりである。この実施態様では、感圧接着層が被着体表面(下地)を隠蔽する隠蔽層としても機能する。白色度が高いことから白色顔料として二酸化チタンを用いることが有利である。
【0056】
感圧接着層は公知の方法によって基材ベタ色層又はそれを受容するレセプター層上に形成することができる。例えば、感圧接着層の成分に加えてさらに必要に応じて有機溶剤を含有する感圧接着剤組成物を、ナイフコート、バーコートなどによりライナー上に塗布し乾燥して、感圧接着層を形成する。得られた感圧接着層の上に基材ベタ色層又はレセプター層をドライラミネートなどにより積層して、感圧接着層を装飾積層フィルムに付与することができる。
【0057】
感圧接着層の厚さは、一般に約5μm以上、約10μm以上、又は約20μm以上、約100μm以下、約80μm以下、又は約50μm以下である。
【0058】
一実施態様では、装飾積層フィルムは感圧接着層を保護するライナーを有してもよい。ライナーとして、例えば、紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、酢酸セルロースなどのプラスチック材料、このようなプラスチック材料で被覆された紙などを挙げることができる。これらのライナーは、シリコーンなどにより剥離処理した表面を有してもよい。ライナーの厚さは、一般に約5μm以上、約15μm以上又は約25μm以上、約300μm以下、約200μm以下又は約150μm以下である。
【0059】
感圧接着層は、一般に平坦な接着面を形成するが、凹凸接着面を形成してもよい。この凹凸接着面には、感圧接着層の接着面に、接着剤を含む凸部と、その凸部の周りを取り囲んだ凹部とが形成され、被着体に接着された状態で被着体表面と接着面との間に凹部が画する外部と連通した連通路が形成される接着面を含む。凹凸接着面を形成する方法の一例を以下説明する。
【0060】
所定の凹凸構造を有する剥離面を持つライナーを用意する。このライナーの剥離面に、感圧接着剤組成物を塗布し、必要に応じて加熱して、感圧接着層を形成する。これにより、感圧接着層のライナーと接する面(これが装飾積層フィルムにおける接着面となる。)に、ライナーの凹凸構造(ネガ構造)を転写し、接着面に所定の構造(ポジ構造)を有する凹凸接着面を形成する。接着面の凹凸は、前述したように、被着体に凸部が接着した際に連通路が形成可能な溝を含むように予め設計される。
【0061】
感圧接着層の溝は、装飾積層フィルムを施工する際に気泡残りを防止できる限り、一定形状の溝を規則的パターンに沿って接着面に配置して規則的パターンの溝を形成してもよく、不定形の溝を配置し不規則なパターンの溝を形成してもよい。複数の溝が互いに略平行に配置される様に形成される場合、溝の配置間隔は10〜2000μmであるのが好ましい。溝の深さ(接着面からフィルム層の方向に向かって測定した溝の底までの距離)は、通常約10μm以上、約100μm以下である。溝の形状も、本発明の効果を損なわない限り特に限定されない。例えば、溝の形状を、接着面に垂直な方向の溝の断面において、略矩形(台形を含む)、略半円形、又は略半楕円形とすることができる。
【0062】
装飾積層フィルムは表面保護層をさらに含んでもよい。表面保護層はオーバーラミネートフィルムであってもよく、コーティングであってもよい。表面保護層により装飾積層フィルムの表面を保護することができる。表面保護層は、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリウレタン、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂などの樹脂のフィルムを、装飾積層フィルムを構成する層の上に直接又は接合層を介して積層することによって、あるいは樹脂組成物をフィルム層表面に塗布して乾燥することによって形成することができる。
【0063】
表面保護層は一般に可視光領域で透明である。表面保護層の可視光線透過率は、一般に、JIS A 5759:2008に準拠して測定したときに、可視光領域(400nm〜800nm)における平均透過率として得られる値が、約80%以上、約85%以上、又は約90%以上、100%以下、約98%以下、又は約95%以下である。表面保護層の全面が上記可視光線透過率を有してもよく、一部又は複数の部分が上記可視光線透過率を有してもよい。
【0064】
表面保護層の露出表面が凹凸を有してもいてもよい。一実施態様では表面保護層としてオーバーラミネートフィルムが使用され、オーバーラミネートフィルムの露出表面にエンボス加工が施されている。別の実施態様では表面保護層として樹脂ビーズ、無機粒子などのフィラーを含有するコーティングが使用され、フィラーがコーティングから突出することにより、表面保護層の露出表面に凹凸が形成される。表面保護層の露出表面にエンボス加工などによる凹凸を付与することで、様々な角度から観察したときに反射光によるぎらつきを抑えて、対象物表面の外観の再現性を高めることができる。一実施態様では、オーバーラミネート層の光沢度(グロス)は、JIS Z 8741:1997に準拠して測定したときに、Gs(60°)の値が、約1以上、約2以上、又は約3以上、約40以下、約30以下、又は約20以下である。
【0065】
表面保護層の厚さは、一般に約1μm以上、約5μm以上、又は約10μm以上、約100μm以下、約50μm以下、又は約30μm以下である。
【0066】
装飾積層フィルムを構成する層を結合する接合層として、一般に使用されるアクリル系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ゴム系などの、溶剤型、エマルジョン型、感圧型、感熱型、熱硬化型又は紫外線硬化型の接着剤を使用することができる。接合層が感圧接着層と同様の材料で形成されていてもよい。
【0067】
接合層は一般に透明であり、その可視光線透過率は、一般に、JIS A 5759:2008に準拠して測定したときに、可視光領域(400nm〜800nm)における平均透過率として得られる値が、約80%以上、約85%以上、又は約90%以上、100%以下、約98%以下、又は約95%以下である。接合層の全面が上記可視光線透過率を有してもよく、一部又は複数の部分が上記可視光線透過率を有してもよい。
【0068】
接合層の厚さは、一般に、約1μm以上、約2μm以上、又は約5μm以上、約50μm以下、約40μm以下、又は約30μm以下とすることができる。
【0069】
装飾積層フィルムの用途に応じて、上記の層の一つ又は複数に、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、滑材、帯電防止剤、難燃剤、タルク、カオリン、炭酸カルシウム、アルミニウムフレーク、フュームドシリカ、アルミナ、ナノ粒子などの充填剤などの従来公知の添加剤を添加することもできる。
【0070】
ライナーを除く装飾積層フィルムの総厚は、一般に約50μm以上、約80μm以上、又は約100μm以上、約1mm以下、約500μm以下、又は約200μm以下である。
【0071】
上記装飾積層フィルムは、例えば、
(1)複製の対象である、柄を有する表面を撮影して画像データを得る工程と、
(2)前記画像データを2値化することにより柄データを作成する工程と、
(3)前記画像データから前記柄データを差し引くことにより基材ベタ色データを作成する工程と、
(4)透明グレー色データを作成する工程と、
(5)前記柄データに基づいて柄層を形成する工程と、
(6)前記基材ベタ色データに基づいて基材ベタ色層を形成する工程と、
(7)前記透明グレー色データに基づいて透明グレー層を形成する工程と、
(8)前記柄層、前記基材ベタ色層、及び前記透明グレー層を積層して、前記柄を有する表面が複製された外観を有する装飾積層フィルムを形成する工程と、を含む方法により製造することができる。
【0072】
図6を参照しながら上記方法の一例を説明するが、以下に限られない。
【0073】
工程(1)では、デジタルカメラなどを用いて、対象物、例えば建築物の壁面、タイルなどの写真を撮影する。撮影画像は、JPEGなどのフォーマットのRGB画像データとして得る。
【0074】
工程(2)では、得られたRGB画像データ(図6ではJPEGフォーマット)を画像処理ソフトウェア上で所定の閾値で2値化して柄データを作成する。柄データはRGB画像データからCMYK画像データへ画像変換することにより得られる。柄データはグレースケールであってもよく、2値化した後に柄部分のみがフルカラーのデータに復元されたものであってもよい。
【0075】
工程(3)では、撮影画像のRGB画像データから、2値化により得られた柄データを差し引いて基材ベタ色データを作成する。基材ベタ色データはRGB画像データからCMYK画像データへ画像変換することにより得られる。
【0076】
工程(4)では、透明グレー色データをCMYK画像データとして作成する。階調の異なる複数の透明グレー色データを用意しておき、装飾積層フィルムの外観を確認しながらこれらの複数の透明グレー色データを用いて明度調節を行ってもよい。
【0077】
工程(5)〜(7)では、柄データ、基材ベタ色データ、及び透明グレー色データに基づいて、柄層、基材ベタ色層、及び透明グレー層が形成される。一実施態様では、図6に示すように、柄層、基材ベタ色層及び透明グレー層をいずれもインクジェット印刷により形成する。図6に示す例ではこれらの層はレセプターフィルム上に形成されるが、基材ベタ色層を樹脂フィルムとして形成してもよく、透明グレー層をレセプター層又は接合層として形成してもよい。
【0078】
工程(8)で、各フィルムを積層することにより装飾積層フィルムが製造される。積層には接合層を用いてもよく、熱圧着により直接これらの層を積層してもよい。
【0079】
複製の対象である表面に柄がない場合は、(2)の柄データを作成する工程と(5)の柄データに基づいて柄層を形成する工程は省略することができ、(3)の基材ベタ色データを作成する工程では画像データから直接基材ベタ色データを作成することができる。
【0080】
本開示の装飾積層フィルムは、様々な表面の装飾及び補修用途に用いることができる。透明グレー層及び基材ベタ色層、並びに任意の柄層をインクジェット印刷層とする場合、オンデマンド印刷及びカスタム印刷が可能となるため、特に壁面、タイルなどの小部分又は小部品の補修に好適に使用することができる。
【実施例】
【0081】
以下の実施例において、本開示の具体的な実施態様を例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。部及びパーセントは全て、特に明記しない限り質量による。
【0082】
<例1>
1.データ作成
ステップ1:対象物である壁面用タイル(大きさ及び色が不規則な点の柄を有する濃い茶色)の写真をデジタルカメラで撮影した。
ステップ2:壁面用タイルのJPEGデータを2値化することによって柄データを作成した。
ステップ3:壁面用タイルのJPEGデータから柄データを差し引くことによって基材ベタ色データを作成した。
ステップ4:透過率調整用の透明グレー色データを作成した。
【0083】
2.前駆体1
ステップ3で作成した基材ベタ色データを用いてスコッチカル(登録商標)ペイントフィルムPF050(白色レセプターフィルム、スリーエムジャパン株式会社(日本国東京都品川区))上に株式会社ミマキエンジニアリング(日本国長野県東御市)JV5プリンターを用いてSS21インクで基材ベタ色層を印刷した。インク濃度はシアン10、マゼンタ19、イエロー22、ブラック10であった。
【0084】
3.前駆体2
透明グレーに着色した感圧接着剤付き透明レセプターフィルムを柄層印刷のため作製した。感圧接着層は、粘着性アクリルポリマー100質量部、非粘着性アクリルポリマー10質量部、黒色顔料0.11質量部、赤色顔料0.03質量部、青色顔料0.01質量部、及び架橋剤0.2質量部を含む組成物を剥離ライナー上に塗布し、加熱して架橋することにより形成した。感圧接着層の厚さは33μmであり、可視光線透過率は約76%であった。感圧接着層を厚さ約37μmの透明アクリルフィルムと積層して感圧接着剤付き透明レセプターフィルムを作製した。
【0085】
ステップ2で作成した柄データを用いて感圧接着剤付き透明レセプターフィルム上に株式会社ミマキエンジニアリング(日本国長野県東御市)JV5プリンターを用いてSS21インクで柄層を印刷した。サイズはフルスケールであった。2値化の閾値は105/255であった。スコッチカル(登録商標)ペイントフィルムPF953AP(スーパーマットオーバーラミネートフィルム、スリーエムジャパン株式会社(日本国東京都品川区)を柄層上に積層して前駆体2を得た。
【0086】
4.ラミネート(積層)
前駆体2を前駆体1上に積層して例1の装飾積層フィルムを得た。例1の装飾積層フィルムの外観を目視で評価すると対象物である壁面用タイルの外観が再現されていた。例1の装飾積層フィルムは粗面を有するタイル基材表面に貼り付け施工可能であった。
【0087】
<例2>
グレーに着色した感圧接着層の厚さを約26μmに変更したことを除いて例1と同様に例2の装飾積層フィルムを作製した。感圧接着層の可視光線透過率は約79%であった。例2の装飾積層フィルムの明度を目視で評価すると例1よりも僅かに高かった。
【0088】
<例3>
1.前駆体3
透明グレーに着色した感圧接着剤付き透明オーバーラミネートフィルムを作製した。感圧接着層は、例1の前駆体2と同じ感圧接着剤組成物を用いて形成した。感圧接着層の厚さは約33μmであり、可視光線透過率は約76%であった。感圧接着層をスーパーマット表面(60度グロス値が約4)を有する厚さ約15μmの透明アクリルフィルムと積層して感圧接着剤付き透明オーバーラミネートフィルムを作製した。この透明オーバーラミネートフィルムは表面保護層及び透明グレー層を含む。
【0089】
2.前駆体4
ステップ2で作成した柄データを用いてスコッチカル(登録商標)ペイントフィルムPF052(透明レセプターフィルム、スリーエムジャパン株式会社(日本国東京都品川区))上に株式会社ミマキエンジニアリング(日本国長野県東御市)JV5プリンターを用いてSS21インクで柄層を印刷した。サイズはフルスケールであった。2値化の閾値は105/255であった。
【0090】
3.ラミネーション(積層)
下から前駆体1、前駆体4、前駆体3をこの順番で積層して例3の装飾積層フィルムを得た。例3の装飾積層フィルムの外観は例1の装飾積層フィルムと近似していた。例3の装飾積層フィルムは粗面を有するタイル基材表面に貼り付け施工可能であった。
【0091】
<例4>
1.前駆体5
透明グレーに着色した感圧接着剤付き透明レセプターフィルムを柄層印刷のため作製した。感圧接着層は、粘着性アクリルポリマー100質量部、非粘着性黒色アクリルビーズ(アートパールG−800BK、根上工業株式会社(日本国石川県能美市))0.9質量部、及び架橋剤0.2質量部を含む組成物を剥離ライナー上に塗布し、加熱して架橋することにより形成した。感圧接着層の厚さは約53μmであり、可視光線透過率は約80%であった。感圧接着剤を厚さ37μmの透明アクリルフィルムと積層して感圧接着剤付き透明レセプターフィルムを作製した。
【0092】
ステップ2で作成した柄データを用いて感圧接着剤付き透明レセプターフィルム上に株式会社ミマキエンジニアリング(日本国長野県東御市)JV5プリンターを用いてSS21インクで柄層を印刷した。サイズはフルスケールであった。2値化の閾値は105/255であった。スコッチカル(登録商標)ペイントフィルムPF953AP(スーパーマットオーバーラミネートフィルム、スリーエムジャパン株式会社(日本国東京都品川区)を柄層上に積層して前駆体5を得た。
【0093】
2.ラミネーション(積層)
前駆体5を前駆体1上に積層して例4の装飾積層フィルムを得た。例4の装飾積層フィルムの外観を目視で評価すると対象物である壁面用タイルの外観が再現されていた。例4の装飾積層フィルムは粗面を有するタイル基材表面に貼り付け施工可能であった。
【0094】
<例5>
非粘着性黒色アクリルビーズ(アートパールG−800BK、根上工業株式会社(日本国石川県能美市))の添加量を2.4質量部に変更したことを除いて例4と同様の手順で例5の装飾積層フィルムを作製した。感圧接着層の厚さは約56μmであり、可視光線透過率は約72%であった。例5の装飾積層フィルムの明度を目視で評価すると例4の装飾積層フィルムよりも僅かに高かった。
【0095】
<例6>
1.前駆体6
ステップ2で作成した柄データを用いてスコッチカル(登録商標)ペイントフィルムPF052(透明レセプターフィルム、スリーエムジャパン株式会社(日本国東京都品川区))上に株式会社ミマキエンジニアリング(日本国長野県東御市)JV5プリンターを用いてSS21インクで柄層を印刷した。スコッチカル(登録商標)ペイントフィルムPF953AP(スーパーマットオーバーラミネートフィルム、スリーエムジャパン株式会社(日本国東京都品川区))を柄層上に積層して前駆体6を得た。
【0096】
2.前駆体7
ステップ4で作成した透明グレー色データを用いて、スコッチカル(登録商標)ペイントフィルムPF052(透明レセプターフィルム、スリーエムジャパン株式会社(日本国東京都品川区))上に株式会社ミマキエンジニアリング(日本国長野県東御市)JV5プリンターを用いてSS21インクで透明グレー層を印刷して前駆体7を得た。インク濃度はブラック11であった。この層の可視光線透過率は約76%であった。
【0097】
3.ラミネート(積層)
下から前駆体1、前駆体7、前駆体6をこの順序で積層して例6の装飾積層フィルムを得た。例6の装飾積層フィルムの外観を目視で評価すると対象物である壁面用タイルの外観が再現されていた。例6の装飾積層フィルムは粗面を有するタイル基材表面に貼り付け施工可能であった。
【0098】
<例7>
1.前駆体8
ステップ2で作成した柄データを用いてスコッチカル(登録商標)ペイントフィルムPF052(透明レセプターフィルム、スリーエムジャパン株式会社(日本国東京都品川区))上に株式会社ミマキエンジニアリング(日本国長野県東御市)JV5プリンターを用いてSS21インクで柄層を印刷した。サイズはフルスケールであった。2値化の閾値は105/255であった。スコッチカル(登録商標)ペイントフィルムPF953AP(スーパーマットオーバーラミネートフィルム、スリーエムジャパン株式会社(日本国東京都品川区))を柄層上に積層して前駆体8を得た。
【0099】
2.前駆体9
ステップ4で作成した透明グレー色データを用いて、スコッチカル(登録商標)ペイントフィルムPF052(透明レセプターフィルム、スリーエムジャパン株式会社(日本国東京都品川区))上に株式会社ミマキエンジニアリング(日本国長野県東御市)JV5プリンターを用いてSS21インクで透明グレー層を印刷して前駆体9を得た。インク濃度はブラック11及びピュアブラックであった。この層の可視光線透過率は約76%であった。
【0100】
3.ラミネート(積層)
下から前駆体1、前駆体9、前駆体8をこの順序で積層して例7の装飾積層フィルムを得た。例7の装飾積層フィルムの外観を目視で評価すると対象物である壁面用タイルの外観が再現されていた。例7の装飾積層フィルムは粗面を有するタイル基材表面に貼り付け施工可能であった。
【0101】
<例8>
積層順序を下から前駆体1、前駆体8、前駆体9とした以外は、例7と同様の手順で例8の装飾積層フィルムを得た。例7と例8の装飾積層フィルムの外観は互いに近似していた。
【0102】
<例9>
1.前駆体10
透明グレー色フィルムを前駆体10として作製した。グレー色フィルムはポリ塩化ビニル(PVC)樹脂89質量部、可塑剤11質量部、黒色顔料0.11質量部、赤色顔料0.03質量部、及び青色顔料0.01質量部を含んでいた。グレー色フィルムの厚さは32μmであり、可視光線透過率は約80%であった。グレー色フィルムを30μm厚の透明アクリル感圧接着剤と積層した。
【0103】
2.ラミネート(積層)
下から前駆体1、前駆体10、前駆体8をこの順序で積層して例9の装飾積層フィルムを得た。例9の装飾積層フィルムの外観を目視で評価すると対象物である壁面用タイルの外観が再現されていた。
【0104】
<例10>
グレー色フィルムの厚さを約24μmとした以外は、例9と同様の手順で例10の装飾積層フィルムを得た。グレー色フィルムの可視光線透過率は約82%であった。
【0105】
<例11>
グレー色フィルムの厚さを約47μmとした以外は、例9と同様の手順で例11の装飾積層フィルムを得た。グレー色フィルムの可視光線透過率は約74%であった。
【0106】
<例12>
グレー色フィルムの厚さを約76μmとした以外は、例9と同様の手順で例12の装飾積層フィルムを得た。グレー色フィルムの可視光線透過率は約70%であった。
【0107】
<例13>
2値化の閾値を120/255に変更した以外は、例7と同様の手順で例13の装飾積層フィルムを得た。
【0108】
<例14>
1.前駆体11
例7と同じ条件でスコッチカル(登録商標)ペイントフィルムPF052(透明レセプターフィルム、スリーエムジャパン株式会社(日本国東京都品川区))上に株式会社ミマキエンジニアリング(日本国長野県東御市)JV5プリンターを用いてSS21インクで透明グレー層を印刷した。柄層を透明グレー層の上に例7と同じ条件で印刷した。スコッチカル(登録商標)ペイントフィルムPF953AP(スーパーマットオーバーラミネートフィルム、スリーエムジャパン株式会社(日本国東京都品川区))を柄層上に積層して前駆体11を得た。
【0109】
2.ラミネート(積層)
前駆体11を前駆体1上に積層して例14の装飾積層フィルムを得た。例14の装飾積層フィルムの外観を目視で評価すると対象物である壁面用タイルの外観が再現されていた。例14の装飾積層フィルムは粗面を有するタイル基材表面に貼り付け施工可能であった。
【0110】
<例15>
2値化の閾値を120/255に変更した以外は、例14と同様の手順で例15の装飾積層フィルムを得た。
【0111】
<比較例1>
ステップ1で得た壁面用タイルの写真データをスコッチカル(登録商標)ペイントフィルムPF050(白色レセプターフィルム、スリーエムジャパン株式会社(日本国東京都品川区))上に株式会社ミマキエンジニアリング(日本国長野県東御市)JV5プリンターを用いてSS21インクで印刷して前駆体12を得た。インク濃度はシアン10、マゼンタ15、イエロー20であった。スコッチカル(登録商標)ペイントフィルムPF953AP(スーパーマットオーバーラミネートフィルム、スリーエムジャパン株式会社(日本国東京都品川区)を前駆体4上に積層して比較例1の装飾積層フィルムを得た。比較例1の装飾積層フィルムでは、対象物である壁面用タイルの外観が色調も含めて十分に再現されなかった。
【0112】
<比較例2>
前駆体9を含めなかった以外は例7と同様の手順で比較例2の装飾積層フィルムを得た。比較例2の装飾積層フィルムの明度を目視で評価すると対象物である壁面用タイル外観よりもかなり高かった。
【0113】
本発明の基本的な原理から逸脱することなく、上記の実施態様及び実施例が様々に変更可能であることは当業者に明らかである。また、本発明の様々な改良及び変更が本発明の趣旨及び範囲から逸脱せずに実施できることも当業者には明らかである。本開示は以下の態様1〜14を包含する。
[態様1]
透明グレー層と、基材ベタ色層と有する装飾積層フィルムであって、少なくとも前記透明グレー層と前記基材ベタ色層のいずれか一方が印刷層であり、前記透明グレー層を通して前記基材ベタ色層が視認される、装飾積層フィルム。
[態様2]
前記基材ベタ色層がインクジェット印刷層である、態様1に記載の装飾積層フィルム。
[態様3]
さらに柄層を有する、態様1又は2のいずれかに記載の装飾積層フィルム。
[態様4]
前記透明グレー層が、前記柄層と前記基材ベタ色層の間に配置されている、態様3に記載の装飾積層フィルム。
[態様5]
前記柄層が、前記透明グレー層と前記基材ベタ色層の間に配置されている、態様3に記載の装飾積層フィルム。
[態様6]
前記柄層及び前記透明グレー層がインクジェット印刷層である、態様3〜5のいずれかに記載の装飾積層フィルム。
[態様7]
前記透明グレー層がレセプター層である、態様1〜6のいずれかに記載の装飾積層フィルム。
[態様8]
前記透明グレー層が接合層である、態様1〜6のいずれかに記載の装飾積層フィルム。
[態様9]
感圧接着層が、前記基材ベタ色層に対して前記透明グレー層の反対側に配置されている、態様1〜8のいずれかに記載の装飾積層フィルム。
[態様10]
複製の対象である、柄を有する表面を撮影して画像データを得る工程と、
前記画像データを2値化することにより柄データを作成する工程と、
前記画像データから前記柄データを差し引くことにより基材ベタ色データを作成する工程と、
透明グレー色データを作成する工程と、
前記柄データに基づいて柄層を形成する工程と、
前記基材ベタ色データに基づいて基材ベタ色層を形成する工程と、
前記透明グレー色データに基づいて透明グレー層を形成する工程と、
前記柄層、前記基材ベタ色層、及び前記透明グレー層を積層して、前記柄を有する表面が複製された外観を有する装飾積層フィルムを形成する工程と、
を含む、態様3〜6のいずれかに記載の装飾フィルムを製造する方法。
[態様11]
前記柄層、基材ベタ色層及び透明グレー層がインクジェット印刷により形成される、態様10に記載の方法。
[態様12]
前記透明グレー層がレセプター層である、態様10又は11のいずれかに記載の方法。
[態様13]
前記透明グレー層が接合層である、態様10又は11のいずれかに記載の方法。
[態様14]
感圧接着層を、前記基材ベタ色層に対して前記透明グレー層の反対側に形成する工程をさらに含む、態様10〜13のいずれかに記載の方法。
【符号の説明】
【0114】
10 装飾積層フィルム
12 柄層
14 透明グレー層
16 基材ベタ色層
22、24 透明レセプター層
26 レセプター層
28 表面保護層
32、34、38 接合層
36 感圧接着層
40 ライナー
図1
図2
図3
図4
図5
図6