(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6820171
(24)【登録日】2021年1月6日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】D級アンプ回路、その制御方法、オーディオ出力装置、電子機器
(51)【国際特許分類】
H03F 1/52 20060101AFI20210114BHJP
H03F 3/217 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
H03F1/52 210
H03F3/217 130
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-180241(P2016-180241)
(22)【出願日】2016年9月15日
(65)【公開番号】特開2018-46431(P2018-46431A)
(43)【公開日】2018年3月22日
【審査請求日】2019年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】小山 靖之
【審査官】
工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】
特表2009−524999(JP,A)
【文献】
特開2014−143016(JP,A)
【文献】
特開2015−154704(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/165004(WO,A1)
【文献】
特開2012−70093(JP,A)
【文献】
特開2006−229853(JP,A)
【文献】
米国特許第7554409(US,B1)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0174485(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F1/52
H03F3/217
H03K17/08−17/082
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インダクタを介して電気音響変換素子と接続されるブリッジ型の出力段と、
オーディオ信号に応じたパルス信号に応じて、前記出力段を駆動する駆動回路と、
(i)前記出力段を構成する監視対象のトランジスタに流れる電流が第1しきい値を超えた状態が所定の第1時間持続すると、または(ii)前記監視対象のトランジスタがターンオンしてから所定の第2時間経過以降に、前記監視対象のトランジスタに流れる電流が、第1しきい値より高い第2しきい値を超えると、過電流検出信号をアサートする過電流検出回路と、
を備え、
前記過電流検出回路は、
前記監視対象のトランジスタに流れる電流に応じた電流検出信号を、前記第1しきい値に対応する第1しきい値電圧と比較し、比較結果を示す第1比較信号を生成する第1コンパレータと、
前記電流検出信号を、前記第2しきい値に対応する第2しきい値電圧と比較し、比較結果を示す第2比較信号を生成する第2コンパレータと、
前記第1比較信号および前記第2比較信号にもとづいて前記過電流検出信号を生成する判定回路と、
を含むことを特徴とするD級アンプ回路。
【請求項2】
前記過電流検出信号のアサートに応答して、前記監視対象のトランジスタがターンオフすることを特徴とする請求項1に記載のD級アンプ回路。
【請求項3】
前記過電流検出信号のアサートが所定のサイクル数、連続発生すると、前記出力段のスイッチングが停止することを特徴とする請求項1または2に記載のD級アンプ回路。
【請求項4】
外部の回路と接続されるフェイルピンをさらに備え、前記過電流検出信号に応じて前記フェイルピンの電気的状態を変化させることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のD級アンプ回路。
【請求項5】
前記電流検出信号は、前記監視対象のトランジスタの電圧降下に応じていることを特徴とする請求項1に記載のD級アンプ回路。
【請求項6】
前記監視対象のトランジスタは、ハイサイドトランジスタとローサイドトランジスタの両方であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のD級アンプ回路。
【請求項7】
前記出力段はフルブリッジ回路であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のD級アンプ回路。
【請求項8】
ひとつの半導体基板に一体集積化されることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のD級アンプ回路。
【請求項9】
電気音響変換素子と、
請求項1から8のいずれかに記載のD級アンプ回路と、
前記D級アンプ回路と前記電気音響変換素子の間に設けられたインダクタを含むフィルタ回路と、
を備えることを特徴とするオーディオ出力装置。
【請求項10】
電気音響変換素子と、
請求項1から8のいずれかに記載のD級アンプ回路と、
前記D級アンプ回路と前記電気音響変換素子の間に設けられたインダクタを含むフィルタ回路と、
を備えることを特徴とする電子機器。
【請求項11】
インダクタを介して電気音響変換素子と接続されるD級アンプ回路の制御方法であって、
オーディオ信号に応じたパルス信号を生成するステップと、
前記パルス信号に応じて前記D級アンプ回路の出力段を駆動するステップと、
(i)前記出力段を構成する監視対象のトランジスタに流れる電流が第1しきい値を超えた状態が所定の第1時間持続すると、または(ii)前記監視対象のトランジスタがターンオンしてから所定の第2時間経過以降に、前記監視対象のトランジスタに流れる電流が、第1しきい値より高い第2しきい値を超えると、過電流検出信号をアサートするステップと、
を備え、
前記過電流検出信号をアサートするステップは、
前記監視対象のトランジスタに流れる電流に応じた電流検出信号を、前記第1しきい値に対応する第1しきい値電圧と比較し、比較結果を示す第1比較信号を生成するステップと、
前記電流検出信号を、前記第2しきい値に対応する第2しきい値電圧と比較し、比較結果を示す第2比較信号を生成するステップと、
前記第1比較信号および前記第2比較信号にもとづいて前記過電流検出信号を生成するステップと、
を含むことを特徴とする制御方法。
【請求項12】
前記過電流検出信号のアサートが所定のサイクル数、連続発生すると、前記出力段のスイッチングを停止するステップをさらに備えることを特徴とする請求項11に記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカやヘッドホンを駆動するD級アンプ回路に関する。
【背景技術】
【0002】
微弱なオーディオ信号を増幅し、スピーカやヘッドホンなどの電気音響変換素子を駆動するために、D級アンプ回路が用いられる。
図1は、D級アンプ回路の出力段の回路図である。D級アンプ回路100Rは、ハーフブリッジ型の出力段102と、駆動回路104H,104L、パルス幅変調器106を備える。
【0003】
出力段102は、電源ピンVCCと出力ピンOUTの間に設けられたハイサイドトランジスタM
Hおよび出力ピンOUTと接地ピンGNDの間に設けられたローサイドトランジスタM
Lを含む。OUTピンは、LCフィルタ204および出力カップリングキャパシタ205を介して電気音響変換素子202と接続される。
【0004】
パルス幅変調器106は、アナログあるいはデジタルのオーディオ信号を受け、デューティ比(パルス幅)がオーディオ信号に応じて変化するPWM信号を生成する。駆動回路104H、104Lは、パルス幅変調器106が生成したPWM信号にもとづいて、ハイサイドトランジスタM
H、ローサイドトランジスタM
Lを駆動する。
【0005】
出力段102に大電流が流れると、出力段102のトランジスタM
H,M
Lの回路素子の信頼性が低下するおそれがある。そこでD級アンプ回路100Rの出力段102には過電流保護回路120H,120Lが設けられる。
【0006】
過電流保護回路120Hは、ハイサイドトランジスタM
Hに流れる電流I
MHを、過電流検出のしきい値I
OCPと比較する。ハイサイドトランジスタM
Hに流れる電流I
MHがしきい値I
OCPを超えると過電流状態と判定され、ハイサイドトランジスタM
Hは強制的にターンオフされる。同様に過電流保護回路120Lは、ローサイドトランジスタM
Lに流れる電流I
MLがしきい値I
OCPを超えると過電流状態と判定し、過電流状態においてローサイドトランジスタM
Lが強制的にターンオフされる。
【0007】
過電流保護回路120H(120L)は、出力段102のスイッチングノイズの影響を受けやすい。そこで、所定の判定時間τ
1を規定し、判定時間τ
1よりも短い時間発生するI
MH>I
OCPの状態はマスクし、判定時間τ
1より長くI
MH>I
OCPの状態のみ過電流保護の対象とすることで、ノイズの影響を抑制できる。
【0008】
図2(a)、(b)は、過電流保護の動作を示す波形図である。はじめに
図2(a)を参照して、通常の過電流保護動作を説明する。理解の容易化のために、D級アンプ回路100Rの負荷として、LCフィルタ204のインダクタLにフォーカスする。一般的に、インダクタに流れる電流I
OUTと、インダクタの電圧vの間には、以下の式(1)が成り立つ。
I
OUT=1/L×∫vdt …(1)
したがって、電圧vが一定であるとすれば、出力電流I
OUTは時間とともに一定の傾きで増大していく。
図1のハーフブリッジのD級アンプにおいて、ハイサイドトランジスタM
Hがオンのとき、v≒V
CCであるから(電気音響変換素子202の電圧をゼロと近似している)、式(2)が成り立つ。
I
OUT=V
CC/L×t …(2)
【0009】
図2(a)において、時刻t
0に出力電流I
OUTがしきい値I
OCPを超えると、それから判定時間τ
1の経過後の時刻t
1に過電流保護が有効となる(OCPがハイレベル)。過電流保護状態ではハイサイドトランジスタM
Hが強制的にオフとなり、出力電流I
OUTが遮断される。判定時間τ
1の間に、出力電流I
OUTは、ΔI=V
CC/L×τ
1増加することとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者は、
図1のD級アンプ回路100Rについて検討した結果、以下の課題を認識するに至った。
【0011】
インダクタに直流(バイアス)電流を流すと、磁気飽和が発生し、インダクタンス値が低下する。これをインダクタの直流重畳特性という。
図3は、インダクタの直流重畳特性を説明する図である。具体的には直流電流が許容電流I
DC_MAXより小さい領域では、インダクタンス値は実質的に一定値をとり、許容電流I
DC_MAXを超えると、インダクタンス値が急激に減少する。
【0012】
図2(b)には、LCフィルタ204のインダクタLに許容電流I
DC_MAXを超える直流電流が流れたときの動作が示される。磁気飽和が発生すると、インダクタンス値Lが低下する(そのときの値をL’とする)。そうすると、式(2)で示される出力電流I
OUTの傾きが急峻となる。
【0013】
時刻t
0に出力電流I
OUTがしきい値I
OCPを超えると、それから判定時間τ
1の経過後の時刻t
1に過電流保護が有効となるが、この判定時間τ
1の間に、出力電流I
OUTは、ΔI=V
CC/L’×τ
1増加するため、時刻t
1において、出力電流I
OUTは、回路素子の信頼性が保証される領域を逸脱し、ハッチングを付した破壊領域に入るおそれがある。
【0014】
なお同様の問題は、BTL(Bridged Transformerless)方式のD級アンプにおいても生じうる。
【0015】
本発明は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、インダクタの直流重畳特性を考慮した過電流保護の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のある態様はD級アンプ回路に関する。D級アンプ回路は、インダクタを介して電気音響変換素子と接続されるブリッジ型の出力段と、オーディオ信号に応じたパルス信号に応じて、出力段を駆動する駆動回路と、(i)出力段を構成する監視対象のトランジスタに流れる電流が第1しきい値を超えた状態が所定の第1時間持続すると、または(ii)監視対象のトランジスタがターンオンしてから所定の第2時間経過以降に、監視対象のトランジスタに流れる電流が、第1しきい値より高い第2しきい値を超えると、過電流検出信号をアサートする過電流検出回路と、を備える。
【0017】
インダクタに流れる直流電流成分が許容電流より小さい領域では、第1しきい値にもとづいて過電流状態を検出できる。またインダクタに流れる直流電流成分が許容電流を超え、磁気飽和によりインダクタのインダクタンス値が低下すると、トランジスタに流れる電流は第2しきい値に達する。この場合は、第1時間よりも短い検出遅延で過電流検出信号をアサートすることで、トランジスタに流れる電流が過度に上昇する前に、過電流状態を検出できる。
【0018】
ここで、出力段のトランジスタがターンオンした直後は、ノイズの影響が大きい。一方、インダクタに流れる直流電流成分が許容電流を超えるのは、出力段のトランジスタがターンオンしてからある程度の時間が経過した以降であり、出力段のトランジスタがターンオンした直後に直流電流成分が許容電流を超えるのは希である。そこで監視対象のトランジスタがターンオンしてから所定の第2時間経過以降を、第2しきい値にもとづく過電流検出の条件とすることで、ノイズによる誤検出を防止できる。
【0019】
過電流検出信号のアサートに応答して、監視対象のトランジスタがターンオフしてもよい。これによりサイクルバイサイクルの過電流保護が可能となる。
【0020】
過電流検出信号のアサートが所定のサイクル数、連続発生すると、出力段のスイッチングを停止してもよい。これにより、磁気飽和状態が発生すると、過電流検出信号のアサートが連続発生する。そこでこの場合には出力段のスイッチングを停止することで、より
安全に回路を保護できる。
【0021】
過電流検出回路は、監視対象のトランジスタに流れる電流に応じた電流検出信号を、第1しきい値に対応する第1しきい値電圧と比較し、比較結果を示す第1比較信号を生成する第1コンパレータと、電流検出信号を、第2しきい値に対応する第2しきい値電圧と比較し、比較結果を示す第2比較信号を生成する第2コンパレータと、第1比較信号および第2比較信号にもとづいて過電流検出信号を生成する判定回路と、を含んでもよい。
【0022】
電流検出信号は、監視対象のトランジスタの電圧降下に応じていてもよい。これにより、低損失で電流を検出できる。
【0023】
監視対象のトランジスタは、ハイサイドトランジスタとローサイドトランジスタの両方であってもよい。
【0024】
出力段はフルブリッジ回路であってもよい。
【0025】
D級アンプ回路は、ひとつの半導体基板に一体集積化されてもよい。
「一体集積化」とは、回路の構成要素のすべてが半導体基板上に形成される場合や、回路の主要構成要素が一体集積化される場合が含まれ、回路定数の調節用に一部の抵抗やキャパシタなどが半導体基板の外部に設けられていてもよい。
回路を1つのチップ上に集積化することにより、回路面積を削減することができるとともに、回路素子の特性を均一に保つことができる。
【0026】
本発明の別の態様は、オーディオ再生装置に関する。オーディオ再生装置は、電気音響変換素子と、上述のいずれかのD級アンプ回路と、D級アンプ回路と電気音響変換素子の間に設けられたインダクタを含むフィルタ回路と、を備えてもよい。
【0027】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、D級方式のD級アンプ回路の過電流を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図2】
図2(a)、(b)は、過電流保護の動作を示す波形図である。
【
図3】インダクタの直流重畳特性を説明する図である。
【
図4】実施の形態に係るD級アンプ回路を備えるオーディオ出力装置のブロック図である。
【
図5】
図5(a)、(b)は、
図4のD級アンプ回路の動作波形図である。
【
図6】磁気飽和が持続的に生じたときのD級アンプ回路の動作波形図である。
【
図7】D級アンプ回路の具体的な構成例を示す回路図である。
【
図8】BTL方式のD級アンプ回路のブロック図である。
【
図9】
図9(a)〜(c)は、電子機器の外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0031】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合や、部材Aと部材Bが、電気的な接続状態に影響を及ぼさず、あるいは機能を阻害しない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、電気的な接続状態に影響を及ぼさず、あるいは機能を阻害しない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0032】
図4は、実施の形態に係るD級アンプ回路100を備えるオーディオ出力装置200のブロック図である。オーディオ出力装置200は、
図1と同様に、電気音響変換素子202、LCフィルタ204、出力カップリングキャパシタ205およびD級アンプ回路100を備える。
【0033】
D級アンプ回路100は、出力段102、駆動回路104H,104L、パルス幅変調器106、過電流検出回路130H,130Lを備え、ひとつの半導体基板に集積化された機能ICである。
【0034】
ハーフブリッジ型の出力段102は、LCフィルタ204のインダクタLおよび出力カップリングキャパシタ205を介して電気音響変換素子202と接続される。パルス幅変調器106は、オーディオ信号S
1を受け、パルス幅変調されたパルス信号S
2H,S
2Lを生成する。駆動回路104H,104Lはそれぞれ、パルス信号S
2H,S
2Lにもとづいて出力段102のハイサイドトランジスタM
H、ローサイドトランジスタM
Lを駆動する。なおハイサイドトランジスタM
HおよびローサイドトランジスタM
Lは、D級アンプ回路100に外付けされるディスクリート素子であってもよい。この実施の形態ではハイサイドトランジスタM
HはNチャンネルMOSFETであり、駆動回路104Hには図示しないブートストラップ回路が接続される。
【0035】
ハイサイドトランジスタM
Hがオン、ローサイドトランジスタM
Lがオフの区間、OUTピンには電源ピンVCCに供給される入力電圧V
CCに近い電圧が発生する。またハイサイドトランジスタM
Hがオフ、ローサイドトランジスタM
Lがオンの区間、OUTピンにはGNDピンに供給される接地電圧V
GNDに近い電圧が発生する。OUTピンには、オーディオ信号S
1に応じてデューティ比が変化するパルス信号V
OUTが発生する。このパルス信号V
OUTがLCフィルタ204によって平滑化され、オーディオ信号S
1が電気音響変換素子202から再生される。
【0036】
過電流検出回路130H,130Lはそれぞれ、ハイサイドトランジスタM
H、ローサイドトランジスタM
Lを監視対象とし、機能的には同様に構成される。ここでは過電流検出回路130Lの構成、動作を説明する。
【0037】
過電流検出回路130Lは、(i)出力段102を構成する監視対象のトランジスタM
Lに流れる電流I
MLが第1しきい値I
OCP1を超えた状態が、所定の第1時間(判定時間とも称する)τ
1持続すると、過電流検出信号S
3Lをアサート(たとえばハイレベル)する。これを第1条件と称する。
【0038】
また過電流検出回路130Lは、(ii)監視対象のトランジスタM
Lがターンオンしてから所定の第2時間(マスク時間と称する)τ
2の経過以降に、監視対象のトランジスタM
Lに流れる電流I
MLが、第1しきい値I
OCP1より高い第2しきい値I
OCP2を超えると、過電流検出信号S
3Lをアサートする。これを第2条件と称する。第2条件に関して、電流I
MLが第2しきい値I
OCP2を超えてから過電流検出信号S
3Lがアサートされるまでの検出遅延(あるいは判定時間)τ
3は、第1条件で規定される判定時間τ1よりも十分に短い。監視対象のトランジスタM
Lのターンオンのイベントは、トランジスタM
Lのゲート信号にもとづいて検出可能であるがその限りでなく、パルス信号S
2Lや、OUTピンの電圧V
OUTにもとづいて検出してもよいし、パルス幅変調器106の内部信号にもとづいて検出してもよい。
【0039】
たとえば過電流検出回路130Lは、第1コンパレータ132、第2コンパレータ134、判定回路136を含む。第1コンパレータ132は、監視対象のトランジスタM
Lに流れる電流I
MLに応じた電流検出信号V
CSLを、第1しきい値I
OCP1に対応する第1しきい値電圧V
TH1と比較し、比較結果を示す第1比較信号S
4を生成する。たとえば第1比較信号S
4はV
CSL>V
TH1のとき、言い換えればI
ML>I
OCP1のときハイレベルとなり、V
CSL<V
TH1のとき、言い換えればI
ML<I
OCP1のときローレベルとなる。
【0040】
第2コンパレータ134は、監視対象のトランジスタM
Lに流れる電流I
MLに応じた電流検出信号V
CSLを、第2しきい値I
OCP2に対応する第2しきい値電圧V
TH2と比較し、比較結果を示す第2比較信号S
5を生成する。たとえば第2比較信号S
5はV
CSL>V
TH2のとき、言い換えればI
ML>I
OCP2のときハイレベルとなり、V
CSL<V
TH2のとき、言い換えればI
ML<I
OCP2のときローレベルとなる。
【0041】
判定回路136は、第1比較信号S
4および第2比較信号S
5にもとづいて過電流検出信号S3
Lを生成する。判定回路136は、第1比較信号S
4のハイレベルが第1時間τ
1持続すると、または、トランジスタM
Lのターンオンから第2時間τ
2経過以降に、第2比較信号S
5がハイレベルに遷移すると、過電流検出信号S
3Lをアサートする。
【0042】
過電流検出回路130Hによって、ハイサイドトランジスタM
Hの電流I
MHが監視され、過電流状態において過電流検出信号S
3Hがアサートされる。
【0043】
過電流検出信号S
3H,S
3Lは、過電流保護に利用することができる。たとえばパルス幅変調器106は、過電流検出信号S
3Hがアサートされると、パルス信号S
2Hをオフレベルに遷移させ、ハイサイドトランジスタM
Hを強制的にターンオフする。同様にパルス幅変調器106は、過電流検出信号S
3Lがアサートされると、パルス信号S
2Lをオフレベルに遷移させ、ローサイドトランジスタM
Lを強制的にターンオフする。
【0044】
あるいは過電流検出信号S
3H,S
3Lを、駆動回路104H,104Lに入力してもよい。駆動回路104Hは、過電流検出信号S
3Hがアサートされると、ハイサイドトランジスタM
Hのゲート信号をローレベルに遷移させ、ハイサイドトランジスタM
Hを強制的にターンオフしてもよい。同様に駆動回路104Lは、過電流検出信号S
3Lがアサートされると、ローサイドトランジスタM
Lのゲート信号をローレベルに遷移させ、ローサイドトランジスタM
Lを強制的にターンオフしてもよい。
【0045】
より好ましくは、過電流検出信号S
3H,S
3Lのアサートが所定のサイクル数N(Nは2以上の整数)、連続発生した場合、出力段102のスイッチングを停止させる。
【0046】
フェイル出力回路108は、過電流検出信号S
3H,S
3Lがアサートされると、フェイルピンFAILの電気的状態を変化させる。FAILピンには外部のCPUやマイクロコントローラなどのプロセッサ206が接続されており、プロセッサ206は、FAILピンの状態にもとづいて、D級アンプ回路100において異常が発生しているか否かを判定できる。フェイル出力回路108は、オープンドレインあるいはオープンコレクタの出力段を含んでもよい。
【0047】
以上がD級アンプ回路100の構成である。続いてその動作を説明する。
図5(a)、(b)は、
図4のD級アンプ回路100の動作波形図である。ここでは過電流検出回路130Lの動作に着目する。
【0048】
はじめに
図5(a)を参照して、インダクタLにおいて磁気飽和が生じてないときの動作を説明する。時刻t
0にローサイドトランジスタM
Lがターンオンすると、それに流れる電流I
MLが増大し始める。磁気飽和が発生していないとき、電流の傾きは小さい。時刻t
1に電流I
MLが第1しきい値I
OCP1に到達すると、それから判定時間τ1の経過後の時刻t
2に、過電流検出信号S
3Lがアサートされ、ローサイドトランジスタM
Lが強制的にターンオフされ、電流I
MLが遮断される。
【0049】
続いて
図5(b)を参照して、インダクタLにおいて磁気飽和が生じたときの動作を説明する。時刻t
0にローサイドトランジスタM
Lがターンオンすると、それに流れる電流I
MLが増大し始める。ローサイドトランジスタM
Lのターンオンから第2時間τ
2が経過する時刻t
1までの期間、第2条件にもとづく過電流検出は無効化される。
【0050】
時刻t
2にインダクタLに流れる直流電流成分が許容電流I
DC_MAXを超えると、インダクタンスが低下し、電流I
MLの傾きが増大する。時刻t
3に電流I
MLが第2しきい値I
OCP2を超えると、直ちに(判定時間τ1より短い遅延で)、過電流検出信号S
3Lがアサートされ、ローサイドトランジスタM
Lが強制的にターンオフされ、電流I
MLが遮断される。
【0051】
なお当業者によれば、過電流検出回路130Hが過電流検出回路130Lと同様に動作することが理解される。以上がD級アンプ回路100の動作である。続いてその利点を説明する。
【0052】
D級アンプ回路100によれば、
図5(a)に示したように、インダクタLに流れる直流電流成分が許容電流I
DC_MAXより小さく、磁気飽和が生じていない領域では、第1条件にしたがい、第1しきい値I
OCP1にもとづいて過電流状態を検出できる。
またインダクタLに流れる直流電流成分が許容電流I
DC_MAXを超え、磁気飽和によりインダクタLのインダクタンス値が低下すると、トランジスタM
Lに流れる電流I
MLは第2しきい値I
OCP2に達する。この場合は、第1時間(判定時間)τ
1よりも短い検出遅延で過電流検出信号S
3Lをアサートすることで、トランジスタM
Lに流れる電流が過度に上昇する前に、過電流状態を検出でき、電流I
MLがハッチングを付す破壊領域に入る前に、適切な保護を施すことができる。
【0053】
ここで、出力段102のトランジスタM
Lがターンオンした直後は、ノイズの影響が大きくなる。一方、インダクタLに流れる直流電流成分が許容電流I
DC_MAXを超えるのは、出力段102のトランジスタM
Lがターンオンしてからある程度の時間が経過した以降であり、したがって出力段102のトランジスタM
Lがターンオンした直後に直流電流成分が許容電流I
DC_MAXを超えるのは希である。そこで監視対象のトランジスタM
Lがターンオンしてから所定の第2時間経過τ
2以降を、第2しきい値I
OCP2にもとづく過電流検出の条件とすることで、ノイズをマスクすることができ、ノイズに起因する過電流状態の誤検出を防止できる。
【0054】
図6は、磁気飽和が持続的に生じたときのD級アンプ回路100の動作波形図である。
図6には、
図5(b)よりも長い、複数のスイッチングサイクルにわたる動作が示される。磁気飽和が発生すると、スイッチングサイクル毎に、ローサイドトランジスタM
Lの電流I
MLが第2しきい値I
OCP2を超える。過電流検出信号S
3Lのアサートの回数をカウンタでカウントし、カウント値が所定値Nに達すると、OUTピンがハイインピーダンスの状態(ハイサイドトランジスタM
H,ローサイドトランジスタM
Lの両方がオフ)で、出力段102のスイッチングが停止する。これにより、ノイズの影響を除去しつつ、磁気飽和が発生したときに、オーディオ信号の再生を停止することができる。
【0055】
本発明は、
図4の回路図として把握され、あるいは上述の説明から導かれるさまざまな装置、回路に及ぶものであり、特定の構成に限定されるものではない。以下、本発明の範囲を狭めるためではなく、発明の本質や回路動作の理解を容易、明確化するために、より具体的な構成例を説明する。
【0056】
図7は、D級アンプ回路100の具体的な構成例を示す回路図である。電流検出回路150H,150Lはそれぞれ、ハイサイドトランジスタM
H、ローサイドトランジスタM
Lに流れる電流を示す電流検出信号V
CSH,V
CSLを発生する。電流検出信号V
CSH,V
CSLはそれぞれ、ハイサイドトランジスタM
H、ローサイドトランジスタM
Lの電圧降下(すなわちドレインソース間電圧V
DS)に応じていてもよい。ハイサイドトランジスタM
Hのオン抵抗R
ONが既知であるとき、ドレインソース間電圧V
DSHは、以下の式で表される。
V
DSH=R
ON×I
MH
ローサイドトランジスタについても同様である。
【0057】
電流検出回路150Hは、ハイサイドトランジスタM
Hの電圧降下V
DSHを接地電圧基準にシフトし、必要に応じて適切な利得で増幅する。ローサイドトランジスタM
Lの電圧降下V
DSLはもともと接地電圧基準であるため電圧シフトは不要であり、電流検出回路150Lは、電圧降下V
DSLを必要に応じて適切な利得で増幅する。
【0058】
上述のように過電流検出回路130Lは、第1コンパレータ132、第2コンパレータ134、判定回路136で構成することができる。判定回路136の時定数回路140は、第1比較信号S
4のアサートが判定時間τ
1持続すると、その出力S
6をアサート(たとえばハイレベル)する。第1コンパレータ132および時定数回路140の組み合わせによって、第1しきい値I
OCP1を利用した第1条件による過電流検出が実現できる。
【0059】
判定回路136のマスク回路142には、ローサイドトランジスタM
Lのターンオンイベントを示す信号(たとえばローサイドトランジスタM
Lのゲート信号など)が入力される。マスク回路142は、ローサイドトランジスタM
Lのターンオンイベントからマスク時間τ
2の間、第2比較信号S
5の変化をマスクする。ローサイドトランジスタM
Lのターンオンからマスク時間τ
2の経過以降に、第2比較信号S
5がアサートされると、マスク回路142の出力信号S
7がアサート(たとえばハイレベル)される。第2コンパレータ134およびマスク回路142の組み合わせによって、第2しきい値I
OCP2を利用した第2条件による過電流検出が実現できる。
【0060】
論理ゲート144は、2つの信号S
6、S
7の少なくとも一方がアサートされると、過電流検出信号S
3Lをアサートする。たとえば論理ゲート144はORゲートで構成してもよい。
【0061】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0062】
(第1変形例)
本発明は、フルブリッジ型の出力段を有するBTL(Bridged Transformerless)方式のD級アンプにも適用可能である。
図8は、BTL方式のD級アンプ回路100Aのブロック図である。出力段102Aは、4個のトランジスタM
HP,M
LP,M
HN,M
LNを含む。過電流検出回路130H
P,130L
P,130H
N,130L
Nは、4個のトランジスタM
HP,M
LP,M
HN,M
LNそれぞれの電流を監視対象として構成される。そのほかについては
図4と同様である。BTL方式のD級アンプの動作方式は限定されず、OUTPピンの電圧V
OUTPとOUTNピンの電圧V
OUTNが相補的な関係となる差動方式であってもよい。
【0063】
あるいはD級アンプは、フィルタレス方式で動作してもよい。フィルタレス方式であっても、ノイズの除去のためにインダクタLが挿入され、そのインダクタLにおいて磁気飽和が発生するおそれがあるため、本発明は有効である。
【0064】
(第2変形例)
ハイサイドトランジスタM
HはPチャンネルMOSFETであってもよい。
【0065】
(第3変形例)
過電流状態が検出されたときの保護処理は特に限定されない。たとえば、過電流が検出されたトランジスタのターンオフ、出力段のスイッチングの停止に代えて、あるいはそれに加えて、過電流検出信号S
3H,S
3Lを、図示しない上位のコントローラや、D級アンプ回路100の外部に設けられるCPU(Central Processing Unit)やマイクロコントローラに供給するようにしてもよい。この場合、外部のCPU等において、適切な保護処理を実行できる。
【0066】
(用途)
最後に、オーディオ出力装置200のアプリケーションを説明する。
図9(a)〜(c)は、電子機器1の外観図である。
図9(a)は電子機器1の一例であるディスプレイ装置600である。ディスプレイ装置600は、筐体602、スピーカ2を備える。オーディオ出力装置200は筐体に内蔵され、スピーカ2を駆動する。スピーカ2は、電気音響変換素子202に相当する。
【0067】
図9(b)は電子機器1の一例であるオーディオコンポ700である。オーディオコンポ700は、筐体702、スピーカ2を備える。オーディオ出力装置200は筐体702に内蔵され、スピーカ2を駆動する。
【0068】
図9(c)は電子機器1の一例である小型情報端末800である。小型情報端末800は、携帯電話、PHS(Personal Handy-phone System)、PDA(Personal Digital Assistant)、タブレットPC(Personal Computer)、オーディオプレイヤなどである。小型情報端末800は、筐体802、スピーカ2、ディスプレイ804を備える。オーディオ出力装置200は筐体802に内蔵され、スピーカ2を駆動する。
【符号の説明】
【0069】
100…D級アンプ回路、102…出力段、104…駆動回路、106…パルス幅変調器、130…過電流検出回路、132…第1コンパレータ、134…第2コンパレータ、136…判定回路、200…オーディオ出力装置、202…電気音響変換素子、204…LCフィルタ、205…出力カップリングキャパシタ。