【実施例】
【0031】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0032】
実施例1
高周波誘導炉を用いてマグネシア坩堝中で、大気中で溶解し、CaO−SiO
2−Al
2O
3−MgO−F系スラグを形成して脱硫した後、鋳型に鋳込んで、下記表1に示す20kg鋼塊(インゴット)を作製した。次いで、上記インゴットを、1250℃にて熱間鍛造し、10mmの板状とした後に、硝弗酸にて酸洗し、室温(25℃)にて冷間圧延を施すことで、板厚1mmの冷間圧延板を作製した。その後、該冷間圧延板を切り出し、#240湿式研磨を施して表面に凹凸を形成したものを試験用サンプルとした。化学研磨液として、過酸化水素(10質量%)、硫酸(0.5質量%)、一水素二フッ化二アンモニウム(1.5質量%)及びフェノール(0.3質量%)を混合した混合酸水溶液を用いた。試験用サンプルを、前記化学研磨液に、25℃にて60秒浸漬して、化学研磨後の表面平滑性及び化学研磨後の表面清浄性を評価した。
【0033】
なお、下記表1の各成分の配合量は、質量%であり、また、母材の主要成分として、本発明のFe基合金の熱膨張係数を決定する上で重要な元素であるNiの配合量のみを記載した。
【0034】
(1)表面平滑性
上記試験用サンプルの表面に形成された凹凸が、化学研磨液によってどの程度平滑化されたかで評価した。具体的には、化学研磨液による研磨前後の凹凸の低減の程度を算術平均粗さRaの比(Ra(試験後)/Ra(試験前))から算出し、その結果を下記4段階にて評価することで、表面平滑性を評価した。なお、算術平均粗さRaの測定には、KEYENCE社製の3Dレーザー顕微鏡VK−9710を用いた。
表面平滑性極めて良好(◎):Ra(試験後)/Ra(試験前)=0.40未満
表面平滑性良好(○):Ra(試験後)/Ra(試験前)=0.40以上0.45未満
表面平滑性有り(△):Ra(試験後)/Ra(試験前)=0.45以上0.49未満
表面平滑性なし(×):Ra(試験後)/Ra(試験前)=0.49以上
【0035】
(2)表面清浄性
上記試験用サンプル表面について、化学研磨後の腐食生成物の発生の程度を、光学顕微鏡(500倍)で観察し、下記4段階で評価した。
表面清浄性極めて良好(◎):腐食生成物無し
表面清浄性良好(○):若干の腐食生成物が観察
表面清浄性有り(△):ある程度の腐食性生物が観察されたが、許容できる程度
表面清浄性なし(×):おびただしく腐食性生物が観察
【0036】
化学研磨後の表面平滑性と表面清浄性の結果を下記表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
上記表1から、42質量%のNiを含むFe基合金について、0.0022≦1.8×質量%Au+質量%Ag+質量%Pd+1.5×質量%Pt+0.10×質量%Cu≦0.0490にて、化学研磨後の表面平滑性と表面清浄性が得られた。特に、0.0026≦1.8×質量%Au+質量%Ag+質量%Pd+1.5×質量%Pt+0.10×質量%Cu≦0.0490にて、表面清浄性を損なうことなく、表面平滑性がより向上し、0.0035≦1.8×質量%Au+質量%Ag+質量%Pd+1.5×質量%Pt+0.10×質量%Cu≦0.0490にて、表面清浄性を損なうことなく、表面平滑性がさらに向上した。
【0039】
また、0.0022≦1.8×質量%Au+質量%Ag+質量%Pd+1.5×質量%Pt+0.10×質量%Cu≦0.0264にて、表面平滑性を損なうことなく、表面清浄性がより向上し、0.0035≦1.8×質量%Au+質量%Ag+質量%Pd+1.5×質量%Pt+0.10×質量%Cu≦0.0193にて、表面清浄性、表面平滑性ともに極めて優れたFe基合金が得られた。
【0040】
一方で、1.8×質量%Au+質量%Ag+質量%Pd+1.5×質量%Pt+0.10×質量%Cu≦0.0017では表面平滑性が得られず、0.0530≦1.8×質量%Au+質量%Ag+質量%Pd+1.5×質量%Pt+0.10×質量%Cuでは表面清浄性が得られなかった。
【0041】
実施例2
鉄屑、フェロニッケル、Fe−Ni合金屑、Fe−Ni−Co合金屑などを所定の比率に調整した原料を、電気炉にて溶解した。その後、AOD(Argon Oxygen Decarburization)炉またはVOD(Vacuum Oxygen Decarburization)炉で二次精錬して、下記表2に示す種々の成分組成を有するFe基合金を調製した。その後、調製したFe基合金を連続鋳造して鋼片(スラブ)とした。次いで、上記スラブを1250℃にて熱間圧延、焼鈍、硝弗酸にて酸洗し、室温(25℃)にて冷間圧延を実施して、板厚1mmの冷間圧延板を作製した。その後、該冷間圧延板を切り出し、#240湿式研磨を施して、表面に凹凸を形成したものを試験用サンプルとした。
【0042】
なお、下記表2中に示したC、Sの組成は、炭素・硫黄同時分析装置(酸素気流中燃焼−赤外線吸収法)を用いて、Au、Ag、Pd、Ptの組成は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置を用いて、それぞれ、分析した値である。また、上記以外の各組成は、蛍光X線分析を用いて分析した値である。なお、下記表2の各成分の配合量は、質量%である。
【0043】
表面に凹凸を形成した試験用サンプルについて、上記実施例1と同様にして、化学研磨後の表面平滑性及び化学研磨後の表面清浄性を評価した。
【0044】
表面平滑性と表面清浄性の結果を下記表2に示す。なお、表面平滑性と表面清浄性がともに「△」以上の試験用サンプルが、総合評価「○」の発明例、表面平滑性と表面清浄性のいずれかが「×」の試験用サンプルが、総合評価「×」の比較例である。
【0045】
【表2】
【0046】
上記表2から、主要成分の含有量が上記本発明の範囲内であり、且つ0.0021≦1.8×質量%Au+質量%Ag+質量%Pd+1.5×質量%Pt+0.10×質量%Cu≦0.0497であるサンプルNo1〜28(発明例)は、化学研磨後において、表面平滑性と表面清浄性が得られた。特に、0.0026≦1.8×質量%Au+質量%Ag+質量%Pd+1.5×質量%Pt+0.10×質量%Cu≦0.0497にて、表面清浄性を損なうことなく、表面平滑性がより向上し、0.0041≦1.8×質量%Au+質量%Ag+質量%Pd+1.5×質量%Pt+0.10×質量%Cu≦0.0497にて、表面清浄性を損なうことなく、表面平滑性がさらに向上した。
【0047】
また、0.0021≦1.8×質量%Au+質量%Ag+質量%Pd+1.5×質量%Pt+0.10×質量%Cu≦0.0292にて、表面平滑性を損なうことなく、表面清浄性がより向上し、0.0041≦1.8×質量%Au+質量%Ag+質量%Pd+1.5×質量%Pt+0.10×質量%Cu≦0.0197にて、表面清浄性、表面平滑性ともに極めて優れたFe基合金が得られた。
【0048】
一方で、主要成分の含有量が上記本発明の範囲内であっても、1.8×質量%Au+質量%Ag+質量%Pd+1.5×質量%Pt+0.10×質量%Cu=0.0018(サンプルNo29)では表面平滑性が得られず、0.0508≦1.8×質量%Au+質量%Ag+質量%Pd+1.5×質量%Pt+0.10×質量%Cu(サンプルNo30〜35)では表面清浄性が得られなかった。
【0049】
また、C:0.025質量%(サンプルNo36)、S:0.0052質量%(サンプルNo37)、Al:0.021質量%(サンプルNo38)では、いずれも、表面清浄性が得られなかった。