【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の作業函を用いた仮締切り工法では、堰柱等の構造物の側方にゲートが延設する河口堰において、海水の遡上を遮蔽した状態で仮締切りを構築しようとした場合に、構造物におけるゲートの一方側しか仮締切りを行うことができない。一方、特許文献2に記載の締切り用ケーソンを用いた仮締切り工法では、その仮締切り対象が橋脚等であることから、堰柱の側方にゲートが延設している河口堰において、海水の遡上を遮蔽した状態で仮締切りを構築することができない。
【0007】
本発明は、堰柱の側方にゲートが延設する河口堰の堰柱の補修や改修に際し、海水の遡上を遮蔽した状態で仮締切りを構築することのできる、仮締切り構築方法と仮締切り体を提供することを目的としている。
【0008】
前記目的を達成すべく、本発明による仮締切り構築方法の一態様は、
堰柱と、該堰柱の側方に延設するゲートと、を有する河口堰において、該堰柱の周囲に仮締切りを構築する、仮締切り構築方法であって、
前記堰柱の側方において、前記ゲートに併設する仮ゲートを設置するA工程と、
前記堰柱の周囲の一方側に、第一分割函体を設置するB工程と、
前記ゲートを開放して、前記堰柱の周囲の他方側に、第二分割函体を設置し、前記第一分割函体と該第二分割函体を接続して締切函体を形成するC工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
本態様によれば、堰柱の側方においてゲートに併設する仮ゲートを設置し、堰柱の周囲の一方側に第一分割函体を設置した後にゲートを開放し、堰柱の周囲の他方側に第二分割函体を設置し、第一分割函体と第二分割函体を接続して締切函体(仮締切り)を形成することにより、締切函体の形成に際してゲートを上昇させて開放したとしても、海水の遡上を遮蔽した状態で仮締切りを構築することができる。
ここで、ゲートに併設する仮ゲートを設置するA工程と、堰柱の周囲の一方側に第一分割函体を設置するB工程の前後は問わない。また、既述するように、堰柱は、水底にある例えば鉄筋コンクリート製のフーチング体の上方において水上まで立設しており、堰柱に設けられている昇降機構によりゲートが昇降されるようになっている。一般に河口堰は複数の堰柱を備えていることから、補修や改修の対象となる堰柱が複数存在する場合は、各堰柱に対して本態様の構築方法を同時に複数の堰柱に対して行ってもよいし、順次行ってもよい。尚、補修等の対象となる堰柱の設定に際しては、残りの堰柱(補修等されない堰柱)にて開閉されるゲートにより湖側の水位調整ができるように設定される。
【0010】
第一分割函体や第二分割函体は、例えば鋼製の函体であり、適宜の作業構台等からクレーン等の重機にて水上に吊り下ろされ、仮締切り対象である堰柱まで曳き船等にて曳航される。第一分割函体と第二分割函体が鋼製の函体により形成されていると、搬送性や取り付け施工性が良好になる。河口堰においては、例えば堰柱の湖側に第一分割函体を設置し、堰柱の湾側に第二分割函体を設置するが、この場合には、湖側と湾側にそれぞれ固有の作業構台が設けられ、各作業構台から第一分割函体と第二分割函体が水上に仮置き(浮遊)され、堰柱に曳航されてもよい。
また、第一分割函体と第二分割函体の端部同士が接続されることにより、堰柱の周囲が完全に包囲される。この際、双方の分割函体の端部の接続箇所には、予めシール部材が取り付けられ、接続に際してシール部材が押し潰されることにより接続部のシール構造が形成されてもよいし、双方の分割函体の端部を接続した後、接続ラインに沿ってシール部材を設置することにより、シール構造を形成してもよい。
【0011】
さらに、第一分割函体と第二分割函体はいずれも、外側に立設した状態で配設される鋼製面材と、鋼製面材の内側にあって鋼製面材と堰柱を繋ぐ切梁及びジャッキ(キリンジャッキ等)を備えていてもよい。第一分割函体と第二分割函体が接続されて環状の締切函体を形成した後、第一分割函体と第二分割函体を形成する各ジャッキを作動させてピストンロッドを伸長させることにより、環状に閉合された鋼製面材と堰柱を複数の切梁及び伸長したジャッキにて強固に仮接続することができる。また、締切函体の内部から排水して作業空間を形成した際に、締切函体(を構成する鋼製面材)は外部から水圧を受け、切梁及びジャッキを介して水圧を堰柱にて支持させることにより、仮締切りが形成される。
【0012】
また、本発明による仮締切り構築方法の他の態様において、前記A工程では、前記B工程において設置される前記第一分割函体の端部位置まで前記仮ゲートを設置し、
前記B工程では、前記仮ゲートの端部と前記第一分割函体を接続することを特徴とする。
【0013】
本態様によれば、B工程において、仮ゲートの端部と第一分割函体を接続することにより、海水の遡上を遮蔽した状態を形成することができる。尚、本態様は、仮ゲートの端部を堰柱まで延設させず、第一分割函体との接続位置までに留めておくものである。仮に仮ゲートの端部を堰柱まで延設させる場合は、締切函体を形成後、締切函体の内部に存在する仮ゲートを撤去して締切函体の内部を連通させる必要があり、施工手間と不要な仮ゲートの発生の課題があるが、本態様の構築方法では、これらの課題が生じない。
【0014】
また、本発明による仮締切り構築方法の他の態様において、前記A工程では、前記仮ゲートの端部を前記堰柱に接続し、
前記B工程では、前記仮ゲートの途中位置と前記第一分割函体の端部を接続し、
前記C工程では、前記締切函体を形成した後、該締切函体の内部に存在する前記仮ゲートを撤去することを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、A工程において、仮ゲートの端部を堰柱に接続することにより、海水の遡上を遮蔽した状態を形成することができる。そして、C工程において締切函体が形成された際に、この締切函体の内部には堰柱まで延びる仮ゲートが存在する。この締切函体の内部に存在する仮ゲートは、締切函体の内部の水を抜く作業や水を抜いた後の補修や改修等の作業の障害となり得ることから、C工程において締切函体が形成された後、速やかに撤去する。本態様によれば、A工程の段階で仮ゲートの端部と堰柱が接続されることから、仮ゲートにて海水の遡上が完全に遮蔽され、従って、A工程の後はゲートの開放をいつでも行うことができる。
【0016】
また、本発明による仮締切り構築方法の他の態様において、前記A工程では、左右の側端に第一落とし込み溝を備える複数の仮支柱を間隔を置いて設置し、前記仮ゲートを形成する仮ゲート用面材を隣接する該仮支柱の該第一落とし込み溝に角落しし、
前記B工程では、設置された前記第一分割函体の備える第二落とし込み溝と、該第一分割函体に間隔をおいて隣接する前記仮支柱の前記第一落とし込み溝との間に仮ゲート用面材を角落しすることにより、前記A工程において既に角落しされている前記仮ゲート用面材とともに前記仮ゲートを形成することを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、A工程において、左右の側端に第一落とし込み溝を備える複数の仮支柱を間隔を置いて設置し、仮ゲートを形成する仮ゲート用面材を隣接する仮支柱の第一落とし込み溝に角落しすることにより、仮ゲートを効率的に施工することができる。また、B工程において、設置された第一分割函体の備える第二落とし込み溝と、第一分割函体に間隔をおいて隣接する仮支柱の前記第一落とし込み溝との間に仮ゲート用面材を角落しすることにより、仮ゲートを形成して、当該仮ゲートと第一分割函体の間の隙間を完全に閉塞し、海水の遡上を遮蔽することができる。尚、この態様は、上記する複数の態様のうち、A工程において、B工程にて設置される第一分割函体の端部位置まで仮ゲートを設置する態様に適用されるものである。
ここで、仮ゲートを形成する仮支柱としては、H形鋼等の形鋼材が適用でき、H形鋼が適用される場合は、二つのフランジの広幅面を湾側と湖側に対向させた状態で立設させることにより、ウエブと二つのフランジにて囲まれた左右の空間が第一落とし込み溝となる。また、仮ゲートを形成する仮ゲート用面材には、水圧に耐え得る剛性(板厚)の鋼板や鋼矢板等が適用できる。
【0018】
また、本発明による仮締切り構築方法の他の態様において、前記第一分割函体と前記第二分割函体はいずれも内部に中空を備え、かつ、注水孔を備えており、
前記B工程では、水上に仮置きされた前記第一分割函体に対して、前記注水孔を介して注水することにより該第一分割函体を建て起こし、該第一分割函体を前記堰柱の周囲の一方側に曳航し、
前記C工程では、水上に仮置きされた前記第二分割函体に対して、前記注水孔を介して注水することにより該第二分割函体を建て起こし、該第二分割函体を前記堰柱の周囲の他方側に曳航することを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、第一分割函体と第二分割函体がいずれも内部に中空を備え、各分割函体に注水にて各分割函体を建て起こし、各分割函体が建て起こされた姿勢で堰柱の周囲まで曳航されることにより、陸上においては分割函体の重量を可及的に軽量にできることから、分割函体が製作される工場から水上へ吊り下ろされる作業構台までの搬送性が良好になり、分割函体の水上への吊り下ろし性が良好になるとともに、水上においては、堰柱に対する各分割函体の取り付け性が良好になる。また、施工場所に応じて海水の比重が相違することから、水上にて分割函体の鉛直姿勢を形成するに当たり、本態様のように施工場所の海水を分割函体の中空に注入するのが合理的である。
【0020】
また、本発明による仮締切り構築方法の他の態様において、前記第一分割函体は、中空を備えた二以上の第三分割函体により形成され、前記第二分割函体は中空を備えた二以上の第四分割函体により形成されており、
前記B工程では、水上に仮置きされた二以上の前記第三分割函体を接続して双方の前記中空を連通させることにより前記第一分割函体を形成し、
前記C工程では、水上に仮置きされた二以上の前記第四分割函体を接続して双方の前記中空を連通させることにより前記第二分割函体を形成することを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、第一分割函体が二以上の第三分割函体により形成され、第二分割函体が二以上の第四分割函体により形成されていることにより、分割函体が製作される工場から水上へ吊り下ろされる作業構台までの搬送性がより一層良好になり、分割函体の水上への吊り下ろし性もより一層良好になる。そして、堰柱の規模が大きくなり、第一分割函体と第二分割函体の規模が大きくなるにつれて、第一分割函体と第二分割函体を複数の分割函体にて形成することのメリットは一層大きくなる。
例えば、水上に吊り下ろされた二つの第三分割函体の中空に注水がなされて双方の第三分割函体が鉛直姿勢とされ、それぞれの第三分割函体が堰柱の一方側に曳航され、二つの第三分割函体の端部同士が当接され、ダイバー等により双方の端部同士がボルト接合等されることにより第一分割函体が形成される。尚、第二分割函体も同様の方法により、例えば二つの第四分割函体が堰柱の他方側に曳航され、双方の端部同士がボルト接合等されることにより形成される。ここで、第三分割函体はさらに複数の第五分割函体により形成され、第四分割函体はさらに複数の第六分割函体により形成されてもよい。
ここで、二以上の第三分割函体(もしくは第四分割函体)は、形状及び寸法が同一の第三分割函体(もしくは第四分割函体)であってもよいし、形状及び寸法が異なる複数種の第三分割函体(もしくは第四分割函体)であってもよい。
【0022】
また、本発明による仮締切り構築方法の他の態様において、前記B工程では、前記第一分割函体が曳航される際に、該第一分割函体が空頭障害物と水底面とに接触しないように浮力調整を行い、
前記C工程では、前記第二分割函体が曳航される際に、該第二分割函体が空頭障害物と水底面とに接触しないように浮力調整を行うことを特徴とする。
【0023】
本態様によれば、第一分割函体や第二分割函体が曳航されるに当たり、これらの分割函体の浮力調整を行うことにより、これらの分割函体を管理橋やゲート(門扉)等の空頭障害物と水底面(もしくは海底面)の双方に接触させることなく堰柱の設置位置まで曳航し、堰柱に取り付けることができる。この浮力調整は、第一分割函体と第二分割函体のそれぞれの中空への注水量を調整することにより、もしくは、第一分割函体を構成する第三分割函体や第二分割函体を構成する第四分割函体のそれぞれの中空への注水量を調整することにより行うことができる。
【0024】
さらに、本発明による仮締切り体の一態様は、
堰柱と、該堰柱の側方に延設するゲートと、を有する河口堰において、該堰柱の周囲に構築される仮締切り体であって、
前記堰柱の周囲の一方側に配設されている第一分割函体と、開放された前記ゲートの下方であって前記堰柱の周囲の他方側に配設されている第二分割函体と、が接続されることにより形成される締切り函体と、
前記ゲートに併設されて、前記締切り函体に接続している仮ゲートと、を有することを特徴とする。
【0025】
本態様によれば、堰柱の周囲に配設されている第一分割函体と第二分割函体とが接続されることにより形成される締切り函体と、締切り函体に接続している仮ゲートとを有することにより、締切函体の形成に際してゲートが上昇され、開放されたとしても、海水の遡上を仮ゲートにて遮蔽した状態で仮締切りを構築することができる。そのため、堰柱と、堰柱の側方に延設するゲートとを有する河口堰における、堰柱の補修や改修に際してその周囲に構築される仮締切り体として好適である。