(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6820462
(24)【登録日】2021年1月7日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】サービスプラグ機能付き高電圧ヒューズ
(51)【国際特許分類】
H01H 85/22 20060101AFI20210114BHJP
B60R 16/02 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
H01H85/22
B60R16/02 635
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-91454(P2017-91454)
(22)【出願日】2017年4月14日
(65)【公開番号】特開2018-181819(P2018-181819A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2019年12月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102429
【氏名又は名称】エス・オー・シー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】遊▲坐▼ 靖忠
【審査官】
関 信之
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−185596(JP,A)
【文献】
特開2011−090902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 85/22
B60R 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央に端子間隔距離より長く湾曲した一本或いは並列した複数本のエレメント部(8)と、
その両端を折り返してコの字状に折り曲げた刃状端子部(11)と、
当該エレメント部(8)を収納する広い内部空間(7)と当該刃状端子部(11)の入る細溝(10)と外側上部にハンドル(3)を有する本体と、
を備えた高電圧ヒューズであって、
当該内部空間(7)には消弧剤(9)が充填され、蓋(12)が固定され、
当該刃状端子部(11)はクリップ状端子(16)を有するホルダー(2)と電気的に接続する構造のサービスプラグ機能付き高電圧ヒューズ。
【請求項2】
外側上部のハンドルは、当該ヒューズのホルダーからの取り出し時には立設し、ホルダーへの固定時(電源回路閉路時)には下方に回転移動する可動機構を備えるとともに係止部を設け、ハンドルを回転させ当該係止部をホルダーの受け部に合致することで当該ヒューズがホルダーから外れることを防止する請求項1に記載のサービスプラグ機能付き高電圧ヒューズ。
【請求項3】
外周面に段差を備え、当該段差部にはシリコン樹脂から成るリング状パッキンを有し、ハンドルの係止部がホルダーの受け部に合致した際、リング状パッキンの反発弾性により係止部が受け部に押し当てられホルダーから外れることを防止するとともに防水機能を有する請求項2に記載のサービスプラグ機能付き高電圧ヒューズ。
【請求項4】
当該ヒューズの外周面はホルダーの内周面と密着する構造とし、当該ヒューズをホルダーに装着する際にホルダーの内面がガイドとなり位置決めすることで、当該ヒューズの刃状端子部がホルダーのクリップ状端子に確実に挿入することを可能とする請求項3に記載のサービスプラグ機能付き高電圧ヒューズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧回路を有する自動車等において、異常な過電流を遮断するとともに、その電気系統のメンテナンス等の作業や事故の際の人命救助活動時においては安全に開路する機能を有するサービスプラグ(電源回路遮断装置)機能を有する高電圧ヒューズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
環境規制の強化により自動車市場は電気自動車やプラグインハイブリッド等の需要の高まりを見せ、その電気系統は高電圧、高容量となり、一度電気事故が発生した場合の被害は甚大なものとなるため高電圧ヒューズが使用されているが、その搭載スペースを節約するため電気系統のメンテナンス等の作業における安全性の確保のためサービスプラグ内に組込み利用されている。この種のサービスプラグとして、
図10或いは
図11に示すものがある。
【0003】
図10に示すサービスプラグはヒューズ61の端子62を直角に折り曲げ本体プラグの開口部51から組込んだ後、その開口部を板状のカバーで覆うとともに、他方の回路収容体内には、前記の組込んだヒューズ端子62と接続する回路端子42を収納し、ヒューズ端子62と回路端子42が嵌合することで電源回路が通電状態を成す構造を有している。
【0004】
また、
図11に示すサービスプラグは第1ハウジングの開口部から、棒状の一対の端子を接続したヒューズを組込んだ後、その開口部をカバーで覆い、第2ハウジング内には、前記棒状の一対の端子と接続可能な回路端子を備えるとともに、この第2ハウジングの筒壁部72と前記カバーの内側筒壁42との間にリブパッキンを備えた構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−250386号公報
【特許文献2】特開2011−090902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した
図10に示したサービスプラグに組込むヒューズは、その容器や口金を含む端子部品を必要とし、また、ヒューズの製造及びヒューズをプラグ本体に組込む工程を必要とし部品コストや製造コストが高くなる問題や、さらに、ヒューズをプラグ本体内に組込む際、端子を変形させないよう特別な圧入治具を必要とする問題があった。
【0007】
また、
図10によれば、プラグ側端子62と回路端子42はバネ接続構造を成しており、このバネ部材は端子同士の密着機能を確保するためバネ圧を優先し導電性を犠牲にしなければならず、その結果、導電性の確保はほぼ片面接続状態となって導体抵抗が高くなり大きな電流が流れる回路には不向きであるという問題があった。
【0008】
上述した
図11に示したサービスプラグに組込むヒューズは、
図10と同様に部品コストや製造コストが高くなる問題や、さらにヒューズのタブにボルトを貫通させて一対の棒状端子を取り付ける工程を必要とするとともに、棒状端子による導体ダイレクト接続は接続抵抗を低く抑えることでき大きな電流の流れる回路において有用ではあるものの、雌雄の端子に高い寸法精度を必要として部品コストや製造コストが高くなる問題や、また、第1ハウジングを抜去した際、回路端子の露出が大きく、メンテナンス作業時、その露出端子面を絶縁テープで覆うという手間が掛るという問題、さらには断面が山型の特殊形状のリブパッキンを使用して第1ハウジング3と第2ハウジング7との隙間を塞ぐ防水対策を必要とする問題があった。
【0009】
さらに、近年の電気自動車やハイブリッドカーに求められる急速充電や航続可能距離を延ばすための電源であるバッテリーの高電圧化、高容量化により回路事故が発生した場合の電流遮断能力はより大きなものが求められ、ヒューズは大型化、重量化する傾向にあるものの
図10および
図11に示したサービスプラグは、ヒューズをハウジング内に組込むことで、そのサイズが大きくなってしまう問題がある。
【0010】
そこで本発明はシンプルな構造で容易にヒューズをホルダーに直接装着、固定できる小型で軽量なサービスプラグ機能付き高電圧ヒューズを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、中央に端子間隔距離より長く湾曲した一
本或いは
並列した複数本のエレメント部8
と、その両端を
折り返してコの字状に折り曲げた刃状端子部11
と、当該エレメント部8
を収納する広い内部空間7と
当該刃状端子部11の入る細溝10
と外側上部にハンドル3を有する本体
と、を備えた高電圧ヒューズであって、
当該内部空間7には消弧剤9が充填され、蓋12が固定され、当該刃状端子部11はクリップ状端子16を有するホルダー2と電気的に接続する構造
のサービスプラグ機能付き高電圧ヒューズである。
【0012】
請求項2に記載の発明は、外側上部のハンドルは、当該ヒューズのホルダーからの取り出し時には立設し、ホルダーへの固定時(電源回路閉路時)には下方に回転移動する可動機構を備えるとともに係止部を設け、ハンドルを回転させ当該係止部をホルダーの受け部に合致することで当該ヒューズがホルダーから外れることを防止する請求項1に記載のサービスプラグ機能付き高電圧ヒューズである。
【0013】
請求項3に記載の発明は、
外周面に段差を備え、当該段差部にはシリコン樹脂から成るリング状パッキンを有し、ハンドルの係止部がホルダーの受け部に合致した際、リング状パッキンの反発弾性により係止部が受け部に押し当てられホルダーから外れることを防止するとともに防水機能を有する請求項2に記載のサービスプラグ機能付き高電圧ヒューズである。
【0014】
請求項4に記載の発明は、当該ヒューズの外周面はホルダーの内周面と密着する構造とし、当該ヒューズをホルダーに装着する際にホルダーの内面がガイドとなり位置決めすることで、当該ヒューズの刃状端子部がホルダーのクリップ状端子に確実に挿入することを可能とする請求項3に記載のサービスプラグ機能付き高電圧ヒューズである。
【発明の効果】
【0015】
以上に説明したように請求項1に記載の発明によれば、従来のサービスプラグに組込むヒューズのように、ヒューズのための口金やサービスプラグとしてのハウジング部品を必要とせず、さらにヒューズを製造する工程やヒューズをハウジングに組込む工程を削減できる。
【0016】
さらにハウジング部材が重複せずヒューズ内に広い内部空間を設けることができ、端子間隔距離より長く湾曲したエレメントを一つ或いは複数本並列に納めることができるとともに沢山の消弧剤の充填ができる。その結果、エレメント溶断後に発生するアーク抵抗を高め遮断性能を向上させることや、自動車市場のニーズである電源の高電圧、大電流に対してもサービスプラグとしての大型化を抑え、軽量化を図ることができる。
【0017】
さらには請求項1に記載の発明によるホルダー内のクリップ状端子は、従来の棒状端子接続のように接触抵抗を抑えるため高い寸法精度を必要とすることで部材コストが高くなることや、バネ接続のような導体抵抗が高くなることを防ぎ、大電流の流れる回路での使用を図ることができる。
【0018】
請求項2に記載の発明によれば、ヒューズ上部の回転可能なハンドルに爪状の係止部とホルダー外側側面に受け部を備え、電源回路閉路時にハンドルを回転移動させ爪状の係止部で受け部と合致することで自動車において生じる激しい震動、衝撃に対してヒューズがホルダーから外れることのないよう確実な固定を図ることができる。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、ヒューズの段差部にシリコン樹脂等から成るリング状パッキンを備えることで隙間からの水の浸入を防ぎ、防水性を向上させることができる。またハンドルの爪状の係止部がホルダーの受け部に合致した後、リング状パッキンの反発弾性により係止部が受け部に強く押し当てられヒューズがホルダーから外れることのないよう、二重に強固な固定を確保することができる。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、ヒューズの外周面とホルダーの内周面がガイドとなって位置決めすることで、ホルダー内底面のヒューズの刃状端子部とほぼ同じ断面を有する狭い端子貫通孔及びホルダー内のクリップ状端子に刃状端子部を痛めることなく確実に挿入でき、歩留まりの向上を図ることができ、且つ特別な治具を必要とせず、さらには狭い端子貫通孔により、ヒューズを抜去してのメンテナンス作業の際、その露出端子面が極めて小さく、安全性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明のヒューズをホルダーに装着する前の一実施形態を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示すヒューズをホルダーに装着した時の斜視図である。
【
図3】
図1に示されたヒューズの分解斜視図である。
【
図4】
図1に示されたホルダーの分解斜視図である。
【
図5】
図1に示されたヒューズ及びホルダーの横断面図である。
【
図6】本発明のヒューズをホルダーに装着した時の縦断面図であり、破線はハンドルをホルダーに係止した状態を示す図である。
【
図7】本発明のヒューズのエレメント部が複数本有る別の実施形態を示す分解斜視図である。
【
図8】本発明のヒューズの底面からエレメント部及び刃状端子部一体部材を底部から挿入した更に別の実施形態を示す横断面図である。
【
図9】本発明のヒューズの更に別の実施形態を示す横断面図である。
【
図10】従来の電源回路遮断装置(サービスプラグ)の一例を示す断面図である。
【
図11】従来の電源回路遮断装置(サービスプラグ)の別の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態にかかるサービスプラグ機能付き高電圧ヒューズを
図1〜
図6を参照して説明する。本実施形態のサービスプラグ機能付き高電圧ヒューズは電気自動車或いはプラグインハイブリッド等で用いられる高電圧、大電流出力バッテリーから負荷への電源供給を行う回路に組込まれ、この電源回路を必要に応じて開閉することを可能にする。
【0023】
図1〜
図6に示すように、サービスプラグ機能付き高電圧ヒューズはヒューズ1とホルダー2から成る。
【0024】
前記ヒューズ1には
図3、
図5及び
図7に示すように中央に端子間隔距離より長く湾曲し一つ或いは複数本の並列に配置したエレメント部8を成し、その長手方向両端を折り返して厚みを確保した後、コの字状に折り曲げた刃状端子部11からなる部材と、そのエレメント部8が入る広い内部空間7と刃状端子部11の入る細溝10に前記部材を挿入後、内部空間7へ消弧剤9を充填し、蓋12を被せることでヒューズ1を成す。
【0025】
ヒューズ1の上部には
図1に示すようにホルダー2に装着抜去の際には立設し、また、
図2に示すように電源回路閉路時には回転移動する可動機能を備え、ポリアミド樹脂等の耐熱、耐トラッキング、耐アーク性の強い材料から成るハンドル3を備えている。
【0026】
またハンドル3には
図6に示すように爪状の係止部4を備え、ホルダー2外側面には突起5を有し、前記係止部4と合致(破線で図示)する際、係止部4の爪が弾性変形して突起5を乗り越え合致する受け部6を有しており、ヒューズ1がホルダー2から抜けることを抑止している。
【0027】
前記ホルダー2には、ヒューズ1底部から突出した刃状端子11との接続のために広い接触面を有するクリップ状端子16を備えている。
【0028】
また、前記ヒューズ1の外周面には
図1、
図5及び
図6に示すよう段差13が有り、この段差部分にシリコン樹脂等から成るリング状パッキン14を備えている。
【0029】
前記ホルダー2の内周面には
図4、
図5及び
図6に示すよう段差15が有り、前記ヒューズ1の段差13との間にリング状パッキン14を備えることで防水性を向上させるとともに、ハンドル3の爪状の係止部4がホルダー2の受け部6に合致した後、リング状パッキン14の反発弾性により係止部4が受部6に強く押し当てられヒューズ1がホルダー2から外れることをより強固に防止するものとなっている。
【0030】
また、前記ホルダー2には
図4、
図5に示すようにヒューズ1の刃状端子部11を両側から挟み込み大きな接触面で電気的に接続し回路との接続電線19繋がるクリップ状端子16を有している。
【0031】
ヒューズ1の刃状端子部11をホルダー2のクリップ状端子16に装着する際は、そのクリップ状端子の露出最小限となる刃状端子部11とほぼ同じ断面を有する狭い貫通孔17を介して接続されるが、ヒューズ1の外周面とホルダーの内周面が挿入位置をガイドした後、刃状端子部11が貫通孔17に到達する位置関係(寸法関係)を成し、刃状端子11を痛めることなく挿入できる。
【0032】
前記構成のサービスプラグ機能付き高電圧ヒューズによれば、ヒューズ1内にエレメント部8と刃状端子部11から成る部材を納めることで、ヒューズ1内に広い内部空間7を確保することができるので、端子間隔より長いエレメントと、沢山充填された消弧剤によってエレメント溶断後の端子間で長い沿面距離を確保しアーク抵抗を高めるとともに、沢山の消弧剤によりアークを冷却する効果が高まり遮断性能が向上することで、高電圧、大電流に対応する回路であってもサービスプラグとしての大型化を抑え、軽量化を図ることができる。また、その長手方向両端を折り返して厚みを確保した後、エレメント部8の両端をコの字状に折り曲げて刃状端子部11とした部材により、エレメントと端子の接合作業がなく信頼性の向上と、さらに長手方向両端を折り返して厚みを確保することで、刃状端子部11の先端部は丸形状を成しホルダー2内の貫通孔17及びクリップ状端子16に挿入する際、引っ掛かりを生じずなめらかな装着ができる。
【0033】
前記構成のサービスプラグ機能付き高電圧ヒューズによれば、従来品のようにヒューズをサービスプラグに組込む工程やヒューズ構成部品を削減でき、また特別な組込治具を必要としない。
【0034】
また、別の実施形態例として
図8に示すようにエレメント部8及び刃状端子部11からなる部材をヒューズ1本体の底面から挿入し、消弧剤を充填後、底蓋20を嵌め込みヒューズとすることもある。
【0035】
さらに、
図9に示すようにエレメント部8と刃状端子部11の途中にヒートシンク21を挟むことで、エレメント溶断後に発生するアークを冷却し、アーク放電の元となる物質(エレメント材料、酸素、窒素等の空気構成気体、消弧剤材料)の電離を抑制し、遮断性能の向上を図ることもできる。これらの前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したものに過ぎず、前述の実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲でエレメント部の形状、本数及びハンドルの取り付け方向、受端子の引き出し方向等種々変形して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
高電圧、大電流の電気回路を有する電気自動車やハイブリッドカー及び高電圧機器において、サービスプラグのヒューズが動作することは極めて稀なことであり、万が一動作した場合であっても、プラグ内にヒューズを組込んだものの部品コスト、ヒューズを組込む作業コスト、交換のための作業コストと、サービスプラグ機能付き高電圧ヒューズ自体を交換する際の部品コスト、作業コストを総合的に比較すると、後者の方式が大きなコスト削減を図ることができる。
【符号の説明】
【0037】
1 ヒューズ
2 ホルダー
3 ハンドル
4 爪状の係止部
5 突起
6 受け部
7 内部空間
8 エレメント部
9 消弧剤
10 細溝
11 刃状端子部
12 蓋
13 ヒューズ側段差
14 リング状パッキン
15 ホルダー側段差
16 クリップ状端子
17 貫通孔
18 ハンドルシャフト
19 回路との接続電線
20 底蓋
21 ヒートシンク