(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記吸着槽に導入された前記第一の上澄み液、前記第一水溶液及び前記第二水溶液が混合されてなる第二混合液が導入され、前記第二混合液に含まれるアカガネイトと第二の上澄み液とを分離する第二濁水処理装置と、
前記第二混合液を前記吸着槽から前記第二濁水処理装置へ送液する第二混合液送液部と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の水処理システム。
前記吸着槽に導入された前記第一混合液、前記第一水溶液及び前記第二水溶液が混合されてなる第二混合液が導入され、前記第二混合液に含まれる硫酸バリウム及びアカガネイトと第二の上澄み液とを分離する第二濁水処理装置と、
前記第二混合液を前記吸着槽から前記第二濁水処理装置へ送液する第二混合液送液部と、
を備えることを特徴とする請求項9に記載の水処理システム。
【発明を実施するための形態】
【0009】
《水処理システム;第一態様》
本発明の第一態様の水処理システムの一例である水処理システム10を
図1に示す。
水処理システム10は、硫酸イオン及び硫酸イオン以外の無機化合物の陰イオンを含む原水が導入される原水槽11と、バリウムイオンが含まれるバリウム水溶液を保持するバリウム槽12と、前記バリウム水溶液をバリウム槽12から原水槽11へ供給するバリウム供給部12aと、を備える。
また、水処理システム10は、原水槽11に導入された前記原水と、これに混合された前記バリウム水溶液との第一混合液が導入され、前記第一混合液に含まれる硫酸バリウムと第一の上澄み液とを分離する第一濁水処理装置13と、前記第一混合液を原水槽11から第一濁水処理装置13へ送液する第一混合液送液部11aと、前記第一の上澄み液が導入される吸着槽14と、前記第一の上澄み液を第一濁水処理装置13から吸着槽14へ送液する第一の上澄み液送液部13aと、を備える。
さらに、水処理システム10は、吸着槽14に供給する塩化鉄(III)が含まれる第一水溶液を貯留する第一貯留槽16と、吸着槽14に供給する、アルカリ金属の炭酸水素塩、炭酸塩及び水酸化物塩、並びに、アルカリ土類金属の炭酸水素塩、炭酸塩及び水酸化物塩から選ばれる1種以上の塩(S)が含まれる第二水溶液を貯留する第二貯留槽17と、第一水溶液を第一貯留槽16から吸着槽14へ供給する第一水溶液供給部16aと、第二水溶液を第二貯留槽17から吸着槽14へ供給する第二水溶液供給部17aと、を備える。
バリウム供給部12a、第一混合液送液部11a、第一の上澄み液送液部13a、第一水溶液供給部16a、及び第二水溶液供給部17aは、それぞれ、配管、バルブ、ポンプ等の公知の接続部材によって構成されている。
【0010】
さらに、水処理システム10は、吸着槽14に導入された前記第一の上澄み液、前記第一水溶液及び前記第二水溶液が混合されてなる第二混合液が導入され、前記第二混合液に含まれるアカガネイトと第二の上澄み液とを分離する第二濁水処理装置18を任意の構成として備えている。
第二濁水処理装置18には、アカガネイトが含まれた前記第二混合液を、吸着槽14から第二濁水処理装置18へ送液する第二混合液送液部14aが接続されている。
【0011】
上記の他、水処理システム10は、第一濁水処理装置13及び第二濁水処理装置18に供給され、硫酸バリウム及びアカガネイトをそれぞれ凝集させる凝集剤を保持する第三貯留槽20と;前記第二の上澄み液を受け入れて、外部に放流するまで前記第二の上澄み液を一時的に貯留する放流槽19と;第一濁水処理装置13及び第二濁水処理装置18から、硫酸バリウムの沈殿物と、アカガネイトを含む沈殿物をそれぞれ受け入れる貯泥槽21と;前記沈殿物を脱水する脱水装置22と;を任意の構成として備えている。
【0012】
第一濁水処理装置13には、前記凝集剤を第三貯留槽20から第一濁水処理装置13へ供給する凝集剤第一供給部20aが接続されている。
第二濁水処理装置18には、前記凝集剤を第三貯留槽20から第二濁水処理装置18へ供給する凝集剤第二供給部20bが接続されている。
放流槽19には、前記第二の上澄み液を第二濁水処理装置18から放流槽19へ送液する第二の上澄み液送液部18aが接続されている。
貯泥槽21には、硫酸バリウムの沈殿物を第一濁水処理装置13から貯泥槽21へ移送する第一沈殿物移送部13bが接続されている。
貯泥槽21には、アカガネイトを含む沈殿物を第二濁水処理装置18から貯泥槽21へ移送する第二沈殿物移送部18bが接続されている。
脱水装置22には、硫酸バリウムの沈殿物及びアカガネイトを含む沈殿物のうち少なくとも一方を貯泥槽21から脱水装置22へ移送する第三沈殿物移送部21aが接続されている。
上記の接続を行う各部は、配管、バルブ、ポンプ等の公知の接続部材によって構成されている。
【0013】
《水処理方法;第二態様》
本発明の第二態様の水処理方法は、前述した第一態様の水処理システムを利用して、原水(被処理水)に含まれる硫酸イオン及び硫酸イオン以外の無機化合物の陰イオンのうち、前記無機化合物の陰イオンをアカガネイトによって効率良く低減する方法である。この水処理方法によって清浄な処理水が得られる。
また、本方法によれば、硫酸イオンの濃度が低減した一次処理水をアカガネイトに接触させるため、硫酸イオンによる競合を受けずに前記無機化合物の陰イオンをアカガネイトに吸着させることができる。この結果、アカガネイトの使用量を低減することができる。
以下に、水処理システム10を利用した方法を説明する。
【0014】
まず、硫酸イオン及び硫酸イオン以外の無機化合物の陰イオンが含まれる原水を原水槽11へ導入する。
次いで、バリウム槽12から原水槽11へ、バリウム供給部12aを介してバリウム水溶液を供給する。原水槽11において原水とバリウム水溶液を混合することにより、第一混合液中で硫酸バリウムが生成する。この際、必要に応じて水道水を原水槽11へ供給してもよい。続いて、第一混合液送液部11aを介して、原水槽11から第一濁水処理装置13へ、硫酸バリウムが含まれる第一混合液を導入する。
【0015】
第一濁水処理装置13の水槽に導入した前記第一混合液を静置し、硫酸バリウムを含む沈殿を沈降させる。第三貯留槽20から第一濁水処理装置13へ、凝集剤第一供給部20aを介して凝集剤(例えば、ポリ塩化アルミニウム、高分子凝集剤等)を供給すると、沈殿の沈降を促進させることができる。沈殿が沈降した後、第一の上澄み液送液部13aを介して、硫酸バリウムから分離した第一の上澄み液を吸着槽14へ送液する。
【0016】
吸着槽14へ送液された第一の上澄み液には、硫酸イオン以外の無機化合物の陰イオンが依然として含まれている。一方、硫酸バリウムは水に対する溶解性が低いため、殆どの硫酸バリウムが沈殿として分離される。
【0017】
沈降した硫酸バリウムが含まれる沈殿を汚泥として、第一濁水処理装置13から貯泥槽21へ、第一沈殿物移送部13bを介して移送し、一時的に貯留する。その後、第三沈殿物移送部21aを介して貯泥槽21から、フィルタープレス機等の脱水装置22へ汚泥を移送し、汚泥を脱水して、硫酸バリウムを含む脱水ケーキを得る。脱水ケーキは公知方法によって適切に処分される。
【0018】
また、第一貯留槽16及び第二貯留槽17から吸着槽14へ、第一水溶液供給部16a及び第二水溶液供給部17aを介して、塩化鉄(III)を含む第一水溶液と、前記1種以上の塩(S)を含む第二水溶液とをそれぞれ供給する。吸着槽14には既に第一の上澄み液が導入されており、吸着槽14において第一水溶液及び第二水溶液を第一の上澄み液とともに混合することにより、得られた第二混合液中でアカガネイトが生成する。この際、必要に応じて水道水を吸着槽14へ供給してもよい。
【0019】
吸着槽14において第二混合液中で生成したアカガネイトに、第一の上澄み液に含まれていた前記無機化合物の陰イオンが接触し、吸着する。その後、第二混合液送液部14aを介して吸着槽14から第二濁水処理装置18へ、アカガネイトを含む混合液を移送する。
【0020】
第二濁水処理装置18の水槽に導入した第二混合液を静置し、アカガネイトを含む沈殿を沈降させる。第三貯留槽20から第二濁水処理装置18へ、凝集剤第二供給部20bを介して凝集剤(例えば、ポリ塩化アルミニウム、高分子凝集剤等)を供給すると、沈殿の沈降を促進させることができる。アカガネイトを含む前記沈殿が沈降した後、第二の上澄み液送液部18aを介して、前記無機化合物の陰イオン濃度が低減した第二の上澄み液を放流槽19へ移送し、一時的に貯留して、適切なタイミングで河川等の外部へ放流する。また、必要に応じて第二の上澄み液を原水槽11へ戻してもよい。
【0021】
沈降したアカガネイトが含まれる沈殿を汚泥として、第二濁水処理装置18から貯泥槽21へ、第二沈殿物移送部18bを介して移送し、一時的に貯留する。その後、第三沈殿物移送部21aを介して貯泥槽21から、フィルタープレス機等の脱水装置22へ汚泥を移送し、汚泥を脱水して、アカガネイトを含む脱水ケーキを得る。脱水ケーキは公知方法によって適切に処分される。
【0022】
以上で説明した水処理方法においては、吸着槽14に第一の上澄み液を導入した後で、第一水溶液及び第二水溶液を吸着槽14へ供給して、アカガネイトが生成する第二混合液を得た。この方法に代えて、吸着槽14に第一水溶液及び第二水溶液を先に供給して混合し、得られた第二混合液でアカガネイトを生成した後、この第二混合液に第一の上澄み液を混合し、得られた第三混合液で前記無機化合物の陰イオンをアカガネイトに吸着させる方法を採用してもよい。
【0023】
以上で説明した水処理方法においては、次に説明する硫酸イオン除去方法、陰イオン吸着方法、アカガネイトの合成方法を適用することができる。
【0024】
《硫酸イオン除去方法》
原水槽11において、硫酸イオン及び硫酸イオン以外の無機化合物の陰イオンを含む原水をバリウムイオンに接触させることにより、硫酸バリウムを生成することができる。
原水槽11において、前記原水とバリウムイオンを接触させる方法として、例えば、バリウム塩を直接添加する方法、バリウム塩を含むバリウム水溶液を添加する方法が挙げられる。
【0025】
前記バリウム塩としては、例えば、塩化バリウム及び水酸化バリウムから選ばれる1種以上のバリウム塩が挙げられる。
これらのバリウム塩は、アカガネイトによる前記無機化合物の陰イオンの吸着を妨げる恐れが少ない。ここで、前記無機化合物の陰イオンは、前記バリウム塩を構成するカウンターアニオン以外の陰イオンであることが好ましい。
【0026】
上記のバリウム塩のうち、塩化バリウムが特に好ましい。塩化物イオンは本来的にアカガネイトを構成しており、アカガネイトに対する塩化物イオンの吸着力は、他の陰イオン、例えば無機オキソ酸イオンよりも低い。このため、アカガネイトに対する陰イオンの吸着において、塩化物イオンによる競合は起き難く、バリウムイオンを前記水溶液に添加することができる。
【0027】
前記バリウム水溶液に含まれる前記バリウム塩の濃度は特に限定されず、例えば、0.1〜3.0M程度とすることができる。
【0028】
前記バリウム水溶液のpHは、原水と混合したときに硫酸バリウムが生成されるpHであれば特に限定されず、例えば、pH1〜7が挙げられる。このpH範囲であると、原水と混合して得られる混合液及びその第一の上澄み液のpHが1〜7となり易く、後段のアカガネイトによる陰イオンの吸着効率が高まるので好ましい。
原水のpHを調整する方法は特に限定されず、例えば、塩酸、水酸化ナトリウムを添加する方法が挙げられる。
【0029】
前記原水に混合する際の前記バリウム水溶液の温度は特に限定されず、例えば、10〜40℃が挙げられる。
前記原水に混合する前記バリウム水溶液の量は特に限定されず、前記原水に含まれる硫酸イオンの濃度に応じて設定すればよく、例えば、当該硫酸イオンのモル濃度以上のバリウムイオンを供給できる量を混合することが好ましい。すなわち、バリウムイオン/硫酸イオンのモル比が1以上となるようにバリウム水溶液を原水に混合することが好ましい。バリウムイオンを上記の量で混合すると、原水に含まれる硫酸イオンの大半を硫酸バリウムとして除去することができる。
【0030】
上記のようにバリウム水溶液を添加する方法に代えて、バリウム塩を原水槽11に直接添加する方法を採用した場合にも硫酸バリウムを生成するという目的は達成できる。しかし、バリウム塩を固体で添加するよりも、バリウム水溶液として添加する方が、操作が容易である。さらに、原水槽11におけるバリウム塩の溶け残りを防いで、原水槽11におけるバリウム塩の濃度の制御が容易であるため好ましい。
【0031】
《陰イオン吸着方法》
吸着槽14において、硫酸イオン以外の無機化合物の陰イオンを含む第一の上澄み液をアカガネイトに接触させることにより、前記陰イオンを前記アカガネイトに吸着させることができる。
【0032】
前記無機化合物としては、例えば、セレン、ヒ素、クロム、フッ素、リン等の無機元素を含む無機化合物が挙げられる。具体的には、例えば、セレン、ヒ素、クロムのオキソ酸、フッ化水素酸(フッ酸)、リン酸等が挙げられる。
【0033】
前記無機化合物としては、アカガネイトに高い吸着力を示す観点から、オキソ酸が好ましく、前記無機元素を含む、1価又は2価の無機オキソ酸がより好ましい。
ここで、オキソ酸とは、1つの無機原子に水酸基(−OH)及びオキソ基(=O)が結合しており、且つその水酸基のプロトンが脱離し得る無機化合物である。オキソ酸は水中では前記プロトンが脱離したオキソ酸イオンとなり得る。
【0034】
前記オキソ酸としては、アカガネイトに高い吸着力を示す観点から、セレンのオキソ酸が好ましく、セレンのオキソ酸イオンとしては、セレン酸イオン(SeO
42−)、セレン酸水素イオン(HSeO
4−)、亜セレン酸イオン(SeO
32−)、亜セレン酸水素イオン(HSeO
3−)が挙げられる。
【0035】
前記原水及び第一の上澄み液に含まれる前記無機化合物の陰イオンは1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0036】
本発明において陰イオン吸着剤として使用するアカガネイト(赤金鉱)(Akaganeite)は、化学組成β−Fe
3+(O(OH,Cl))で表される酸化鉄鉱物である。その結晶系は単斜晶系で、空間群I2/m、単位格子:a=10.600,b=3.0339,c=10.513,β=90.24°という結晶学的データが学術論文“Post J E, Buchwald V F, American Mineralogist, 76 (1991) p.272-277, Crystal structure refinement of akaganeite”に記載されている。この論文で明らかにされたアカガネイトの結晶構造には塩化物イオンを保持するトンネル構造が存在し、そのトンネルの壁から中心に向けて水酸基が差し出されていることも記載されている。
【0037】
図2は、上記トンネル構造を模式的に表した図である。図中、灰色丸は酸素原子を表し、白色丸は水素原子を表し、八面体の中央の丸は鉄原子を表し、トンネル内の黒色丸は、塩化物イオン及び水素イオンが同じ占有率(50:50)で存在することを示す。
【0038】
本発明においては、第一の上澄み液をアカガネイトに接触させると、第一の上澄み液に含まれる前記無機化合物の陰イオンがアカガネイトの上記トンネル構造にトラップされて吸着すると考えられる。この吸着によってトンネル構造に予め存在する塩化物イオンが前記陰イオンに置換されて脱離する(試験例2参照)。
【0039】
精製水にアカガネイトを添加すると、その精製水のpHは酸性に傾く。したがって、第一の上澄み液にアカガネイトを投入した場合にも、第一の上澄み液のpHが低くなる傾向がある。
第一の上澄み液にアカガネイトを添加し、目的の陰イオンをアカガネイトに吸着させる際の処理中の第一の上澄み液(アカガネイト分散液)のpHは、10以下が好ましく、2以上9以下がより好ましく、3以上7以下がさらに好ましく、4以上6以下が特に好ましい。
処理中の第一の上澄み液のpHが9以下であると、アカガネイトの分解を防止し、アカガネイトによる目的の陰イオンの吸着力を高めることができる。
処理中の第一の上澄み液のpHが低いほど、アカガネイトの前記トンネル構造の中心を向く水酸基に結合するプロトンが増える。これにより前記トンネル構造内が負電荷を帯びることを抑制し、前記トンネル構造内に目的の陰イオンをより容易に吸着させることができる。したがって、目的の陰イオンの吸着力を高める観点から、処理中の第一の上澄み液のpHは、pH2〜5が好ましく、pH2〜4がより好ましく、pH2〜3がさらに好ましい。
処理中の第一の上澄み液のpHが4以上6以下であると、アカガネイト同士が凝集し易くなり、アカガネイトの回収が容易になる観点から好ましい。
第一の上澄み液のpHを調整する方法は特に限定されず、例えば、塩酸、水酸化ナトリウムを添加する方法が挙げられる。
【0040】
第一の上澄み液とアカガネイトを接触させる際の第一の上澄み液の温度は特に限定されず、例えば、4〜60℃が好ましく、15〜50℃がより好ましく、30〜40℃がさらに好ましい。
上記温度範囲であると、アカガネイトによる目的の陰イオンの吸着力を高めることができる。上記温度範囲の下限値以上であると、第一の上澄み液中における目的の陰イオンの拡散速度が高まり、アカガネイトに接触して吸着する効率がより高められる。上記温度範囲の上限値以下であると、一度吸着した陰イオンがアカガネイトから脱離することをより低減することができる。
【0041】
第一の上澄み液に含まれる目的の陰イオンの含有量に対して、この第一の上澄み液に接触するアカガネイトの量は特に限定されず、予備実験を行って経験的に目的の陰イオンを充分に吸着できることを確認した量に設定すればよい。
通常、接触させるアカガネイトの量を多くすれば、吸着可能な陰イオンの量も多くなり、例えば、アカガネイトによる無機オキソ酸イオンの吸着量として0.3〜0.5mol/kgが挙げられる。
【0042】
前記陰イオンを吸着したアカガネイトを第一の上澄み液から回収する方法としては、例えば、沈殿法、濾過法等が挙げられる。沈殿法としては、例えば、第一の上澄み液を静置して沈殿させる方法、第一の上澄み液に硫酸バンド、PAC、高分子ポリマー凝集剤等を添加して凝集させて沈殿させる方法、第一の上澄み液のpHを4〜6に調整してアカガネイト同士を凝集させる方法等が挙げられる。
【0043】
《アカガネイトの合成》
吸着槽14において、第一の上澄み液の有無に関わらず、塩化鉄(III)が含まれる第一水溶液と、前記1種以上の塩(S)が含まれる第二水溶液とを混合することによりアカガネイトを生成することができる。
【0044】
前記1種以上の塩(S)は、アカガネイトを高収率で合成する観点から、下記のカチオンを含む塩が好ましい。
前記アルカリ金属は周期表の第1族元素であり、ナトリウム、カリウムが好ましい。
前記アルカリ土類金属は周期表の第2族元素であり、マグネシウム、カルシウム、バリウムが好ましい。
【0045】
吸着槽14において第一水溶液と第二水溶液を混合することにより、水溶液中で電離したイオン同士が自然に反応してアカガネイトが生成される。より詳しくは、前記1種以上の塩(S)を水中に溶解させると水酸化物イオンが生成される。この水酸化物イオンと鉄イオンが、塩化物イオンが多く溶存する酸性水溶液中で反応することにより、アカガネイトが生成される。
アカガネイトの生成反応を促進するために、上記水溶液(反応液)を40〜100℃程度に加熱してもよい。
【0046】
アカガネイトを生成させる際の反応液のpHは、7未満が好ましく、4未満がより好ましく、1〜3がさらに好ましい。
pH7未満であると、塩化物イオン存在下においてアカガネイトが容易に生成される。
pH4未満であると、特にpH3以下であると、塩化物イオン存在下において高収率でアカガネイトを生成することができる。なお、pH4〜6でもアカガネイトは容易に形成されるが、このpH範囲であると、生成しつつあるアカガネイト同士が凝集して未反応の塩化鉄(III)又は塩(S)が取り込まれる場合がある。一方、pHがアルカリ性であると、異なる構造の酸化鉄鉱物(例えば、ゲータイト、スクメタイト等)が生成される可能性が高い。
【0047】
アカガネイトを生成させる際の反応液のpHの調整は、第一水溶液と第二水溶液を混合する前に、第一水溶液及び第二水溶液のうち少なくとも一方を予め調整しておくことが好ましい。ただし、第一水溶液と第二水溶液を混合した反応液のpHがアルカリ性であると、アカガネイト以外の酸化鉄鉱物が生成される恐れがある。したがって、第一水溶液と第二水溶液を混合した後で速やかに、或いは混合前に第一水溶液及び第二水溶液の少なくとも一方のpHを酸性に調整し、酸性のpHを維持することが好ましい。
【0048】
第一水溶液、第二水溶液のpHを調整する方法は、塩酸を滴下する方法が好ましい。塩酸を用いればアカガネイトの生成に有用な塩化物イオン以外の余計な陰イオン(例えば硫酸イオン等)を反応液に投入することを防ぎ、その余計な陰イオンがアカガネイトに吸着することを防止できる。また、水酸化ナトリウムを用いて反応液のpHを調整することも好ましい。
【0049】
前記反応液に含まれる塩化鉄(III)の量は特に限定されず、例えば0.01〜3モル/Lとすることができる。同様に、前記反応液に含まれる前記1種以上の塩(S)の合計量は特に限定されず、例えば0.01〜3モル/Lとすることができる。
前記反応液を調製する際に、第一水溶液と第二水溶液を混合する方法は特に限定されないが、反応液のpHを酸性に維持するために、第一水溶液に対して第二水溶液を添加する方法が望ましい。また、酸性の第一水溶液とアルカリ性の第二水溶液を混合した際に、前述した好適なpHとなるように両方の溶液を混合することが好ましい。
【0050】
前記反応液中において、塩化鉄(III)によって生成されるFe
3+と、前記1種以上の塩(S)によって生成されるOH
−とのモル比は、1:1〜1:3であることが好ましく、1:1.5〜1:2.5であることがより好ましく、1:1.8〜1:2.2であることがさらに好ましい。理論的には、1:2のモル比が最も好ましい。
上記モル比が1:2に近い上記範囲であると、前記反応液中のFe
3+が有する正電荷量と、OH
−が有する負電荷量とがアカガネイトの生成に適したバランスとなり、塩化鉄(III)に由来するFe
3+のほとんど全てを反応で消費して、アカガネイトを容易に高い収率で生成させることができる。
【0051】
具体的には、例えば、0.1モルの炭酸水素ナトリウムを溶解させた1Lの水溶液中において、炭酸のみかけの(二酸化炭素との平衡の影響を受けた)酸解離定数pKa
1=6.3を考慮して、溶液pHがpKa
1よりも1以上低い、pH5.3以下である場合、水溶液中に生成する水酸化物イオン濃度(炭酸分子濃度)は0.09〜0.1モル/L程度と考えられる。これに基づき、塩化鉄(III)の濃度は、0.09〜0.1モル/Lの1/3〜1倍の濃度が好ましく、1/2〜1倍の濃度がより好ましい。
また、例えば、0.1モルの炭酸ナトリウムを溶解させた1Lの水溶液中において、炭酸の酸解離定数pKa
2=10.3及び上記みかけの酸解離定数pKa
1=6.3を考慮して、溶液pHが5.3以下において、水溶液中に生成する水酸化物イオン濃度(炭酸分子濃度)は0.18〜0.2モル/L程度と考えられる。これに基づき、塩化鉄(III)の濃度は、0.18〜0.2モル/Lの1/3〜1倍の濃度が好ましく、1/2〜1倍の濃度がより好ましい。
また、例えば、0.1モルの水酸化ナトリウムを溶解させた1Lの水溶液中において、その酸解離定数pKa=13を考慮して、溶液pHが7以下の酸性域において、水溶液中に生成する水酸化物イオン濃度はほぼ0.1モル/Lと考えられる。これに基づき、塩化鉄(III)の濃度は、0.1モル/Lの1/3〜1倍の濃度が好ましく、1/2〜1倍の濃度がより好ましい。
【0052】
何れの炭酸水素塩、炭酸塩、水酸化物塩を用いる場合にも、当該塩のpKa
1よりも当該水溶液のpHが1以上低ければ、溶解した塩のモル濃度の0.9〜2倍程度の水酸化物イオンが生成する。よって、塩化鉄(III)は、上記のpH域において、溶解した前記1種以上の塩(S)のモル濃度の約0.3〜2倍(生成する水酸化物イオン濃度の1/3〜1倍)の濃度で溶解することが好ましく、0.45〜1倍(生成する水酸化物イオン濃度の1/2倍)の濃度で溶解することがより好ましい。
【0053】
また、上記を総合的に考慮して、アカガネイトを生成する前記反応液において、塩化鉄(III)と前記1種以上の塩(S)とのモル比は2:1〜1:3であることが好ましい。
上記モル比の範囲であると、前記反応液中のFe
3+とOH
−の電荷バランスが良好となり、アカガネイトを容易に高い収率で生成させることができる。
【0054】
前記反応液におけるアカガネイトの生成反応の終了は、反応液が暗褐色から赤褐色に変化したことを目安にして経験的に判断することができる。
アカガネイトの生成反応の開始後、その反応が一段落するまでに要する時間は、生成するアカガネイトの濃度にもよるが、10〜25℃において例えば3〜5分程度である。
【0055】
上記のアカガネイトの合成方法によれば、塩化鉄(III)として投入した鉄原子の全てがアカガネイトになった場合の収率をモル基準で100%であるとした場合、収率90〜99%でアカガネイトを回収して得ることができる。
【0056】
以上で説明した硫酸イオン除去方法、陰イオン吸着方法、アカガネイトの合成方法は、次に説明する水処理方法にも適用することができる。
【0057】
《水処理システム;第三態様》
本発明の第三態様の水処理システムの一例である水処理システム1を
図5に示す。
後述する水処理システム1は、前述した水処理システム10が有する構成のうち、第一濁水処理装置13を除いた水処理システムである。
水処理システム1は、硫酸イオン及び硫酸イオン以外の無機化合物の陰イオンを含む原水が導入される原水槽11と、バリウムイオンが含まれるバリウム水溶液を保持するバリウム槽12と、前記バリウム水溶液をバリウム槽12から原水槽11へ供給するバリウム供給部12aと、を備える。
また、水処理システム1は、原水槽11に導入された前記原水と、これに混合された前記バリウム水溶液との第一混合液が、形成された硫酸バリウムとともに導入される吸着槽14と、前記第一混合液を原水槽11から吸着槽14へ送液する第一混合液送液部11aと、を備える。
さらに、水処理システム1は、吸着槽14に供給する塩化鉄(III)が含まれる第一水溶液を貯留する第一貯留槽16と、吸着槽14に供給する、アルカリ金属の炭酸水素塩、炭酸塩及び水酸化物塩、並びに、アルカリ土類金属の炭酸水素塩、炭酸塩及び水酸化物塩から選ばれる1種以上の塩(S)が含まれる第二水溶液を貯留する第二貯留槽17と、前記第一水溶液を第一貯留槽16から吸着槽14へ供給する第一水溶液供給部16aと、前記第二水溶液を第二貯留槽17から吸着槽14へ供給する第二水溶液供給部17aと、を備える。
バリウム供給部12a、第一混合液送液部11a、第一水溶液供給部16a、第二水溶液供給部17aは、それぞれ、配管、バルブ、ポンプ等の公知の接続部材によって構成されている。
【0058】
水処理システム1は、吸着槽14に導入された前記第一混合液と、前記第一水溶液及び前記第二水溶液が混合されてなる第二混合液が導入され、前記第二混合液に含まれる硫酸バリウム及びアカガネイトと第二の上澄み液とを分離する第二濁水処理装置18を、任意の構成として備えている。
第二濁水処理装置18には、アカガネイトが含まれた前記第二混合液を、吸着槽14から第二濁水処理装置18へ送液する第二混合液送液部14aが接続されている。
【0059】
上記の他、水処理システム1は、第二濁水処理装置18に供給され、硫酸バリウム及びアカガネイトを凝集させる凝集剤を保持する第三貯留槽20と;前記第二の上澄み液を受け入れて、外部に放流するまで前記第二の上澄み液を一時的に貯留する放流槽19と;第二濁水処理装置18から、硫酸バリウム及びアカガネイトを含む沈殿物を受け入れる貯泥槽21と;前記沈殿物を脱水する脱水装置22と;を任意の構成として備えている。
【0060】
第二濁水処理装置18には、前記凝集剤を第三貯留槽20から第二濁水処理装置18へ供給する凝集剤第二供給部20bが接続されている。
放流槽19には、前記第二の上澄み液を第二濁水処理装置18から放流槽19へ送液する第二の上澄み液送液部18aが接続されている。
貯泥槽21には、硫酸バリウム及びアカガネイトを含む沈殿物を第二濁水処理装置18から貯泥槽21へ移送する第二沈殿物移送部18bが接続されている。
脱水装置22には、硫酸バリウム及びアカガネイトを含む沈殿物のうち少なくとも一方を貯泥槽21から脱水装置22へ移送する第三沈殿物移送部21aが接続されている。
上記の接続を行う各部は、配管、バルブ、ポンプ等の公知の接続部材によって構成されている。
【0061】
《水処理方法;第四態様》
本発明の第四態様の水処理方法は、前述した第四態様の水処理システムを利用して、原水(被処理水)に含まれる硫酸イオン及び硫酸イオン以外の無機化合物の陰イオンのうち、前記無機化合物の陰イオンをアカガネイトによって効率良く低減する方法である。この水処理方法によって清浄な処理水が得られる。
また、本方法によれば、硫酸バリウムが形成されたことにより硫酸イオンの濃度が低減した一次処理水をアカガネイトに接触させるので、硫酸イオンによる競合を受けずに前記無機化合物の陰イオンをアカガネイトに吸着させることができる。この結果、アカガネイトの使用量を低減することができる。
以下に、水処理システム1を利用した方法を説明する。
【0062】
まず、硫酸イオン及び硫酸イオン以外の無機化合物の陰イオンが含まれる原水を原水槽11へ導入する。
次いで、バリウム槽12から原水槽11へ、バリウム供給部12aを介してバリウム水溶液を供給する。原水槽11において原水とバリウム水溶液を混合することにより、得られた第一混合液中で硫酸バリウムが生成する。この際、必要に応じて水道水を原水槽11へ供給してもよい。続いて、第一混合液送液部11aを介して、原水槽11から吸着槽14へ、硫酸バリウムが含まれる前記第一混合液を導入する。
【0063】
吸着槽14へ送液された第一混合液には、硫酸イオン以外の無機化合物の陰イオンが依然として含まれている。一方、硫酸バリウムは水に対する溶解性が低いため、殆どの硫酸バリウムが沈殿となっている。
【0064】
次いで、第一貯留槽16と第二貯留槽17から吸着槽14へ、第一水溶液供給部16a及び第二水溶液供給部17aを介して、塩化鉄(III)を含む第一水溶液と、前記1種以上の塩(S)を含む第二水溶液とをそれぞれ供給する。吸着槽14において、前記第一混合液、第一水溶液及び第二水溶液を混合することにより、第二混合液を得る。この第二混合液中でアカガネイトが生成する。この際、必要に応じて水道水を薬品調合槽15へ供給してもよい。
【0065】
吸着槽14中の前記第二混合液において、アカガネイトに前記無機化合物の陰イオンが接触し、吸着する。その後、第二混合液送液部14aを介して吸着槽14から第二濁水処理装置18へ、硫酸バリウム及びアカガネイトを含む前記第二混合液を移送する。
【0066】
第二濁水処理装置18の水槽に導入した前記第二混合液を静置し、硫酸バリウム及びアカガネイトを含む沈殿を沈降させる。第三貯留槽20から第二濁水処理装置18へ、凝集剤第二供給部20bを介して凝集剤(例えば、ポリ塩化アルミニウム、高分子凝集剤等)を供給すると、沈殿の沈降を促進させることができる。硫酸バリウム及びアカガネイトを含む前記沈殿が沈降した後、第二の上澄み液送液部18aを介して、前記無機化合物の陰イオン濃度が低減した第二の上澄み液を放流槽19へ移送し、一時的に貯留して、適切なタイミングで河川等の外部へ放流する。また、必要に応じて第二の上澄み液を原水槽11へ戻してもよい。
【0067】
沈降した硫酸バリウム及びアカガネイトが含まれる沈殿を汚泥として、第二濁水処理装置18から貯泥槽21へ、第二沈殿物移送部18bを介して移送し、一時的に貯留する。その後、第三沈殿物移送部21aを介して貯泥槽21から、フィルタープレス機等の脱水装置22へ汚泥を移送し、汚泥を脱水して、アカガネイトを含む脱水ケーキを得る。脱水ケーキは公知方法によって適切に処分される。
【0068】
以上で説明した第四態様の水処理方法においては、前述した硫酸イオン除去方法、陰イオン吸着方法(ただし、「第一の上澄み液」を「第一混合液」に読み換えることができる。)、及びアカガネイトの合成方法を適用することができる。
【実施例】
【0069】
(アカガネイトの合成)
0.2mol/Lの塩化鉄(III)水溶液1Lに、0.4mol/Lの水酸化ナトリウム1Lを添加して、5分間穏やかに撹拌しながら、約pH2の水溶液(Fe
3+:OH
−=約1:2)中でアカガネイトを生成した。次いで、生成したアカガネイトが含まれた懸濁液に、水酸化ナトリウムをさらに添加し、pH4〜5に調整し、5分間穏やかに撹拌しながら、アカガネイト同士を凝集させた。凝集したアカガネイトを濾過で回収し、乾燥した粘土状のアカガネイトの塊を得た。この塊を乳鉢で砕いて粉体としたアカガネイトを以下の実験に用いた。
塩化鉄(III)として投入した鉄イオンの全てがアカガネイトになった場合の収率をモル基準で100%であるとした場合、収率95%でアカガネイトを回収して得た。
合成したアカガネイトをXRDで分析したところ、アカガネイトを示すピークが確認された。
【0070】
[試験例1]
セレンを10mg/L含むセレン酸ナトリウム水溶液(pH9)を調製した。上記合成で得たアカガネイトを用いて、以下の実験手順を行った。
(1)セレン酸イオンを含む上記水溶液に、上記で合成したアカガネイトを、0.015、0.025、0.05、0.1、0.2、0.5、1.0(単位:w/w%)の各濃度で添加した。pH6に調整した上記水溶液を20℃で1時間撹拌した後に、アカガネイトを沈殿させ、上澄み液を回収し、セレン酸イオン濃度をJIS K0102:2013年の「67.セレンの水素化合物発生ICP発光分光分析法」によって測定した。
(2)セレン酸イオンを含む上記水溶液に、グリーンラストを、0.15w/w%〜1.0w/w%の重量比となるように添加した。pH6となった上記水溶液を20℃で1時間撹拌した後に、グリーンラストを沈殿させ、上澄み液を回収し、セレン酸イオン濃度を上記方法で測定した。
(3)セレン酸イオンを含む上記水溶液に、シュベルトマナイトを、0.015、0.025、0.05、0.1、0.2、0.5、1.0(単位:w/w%)の各濃度で添加した。pH6に調整した上記水溶液を20℃で1時間撹拌した後に、シュベルトマナイトを沈殿させ、上澄み液を回収し、セレン酸イオン濃度を上記方法で測定した。
上記実験によって、アカガネイト、グリーンラスト、シュベルトマナイトの各酸化鉄鉱物におけるセレン酸イオンに対する吸着等温線を得た(
図3)。
図3に示す結果から、溶存セレン酸イオンの平衡濃度が環境基準(0.01 mg/L)以下になる酸化鉄鉱物は、アカガネイトだけであり、その吸着量が最も高いことが明らかである。
【0071】
[試験例2]
硫酸を約1200mg/L(約12.5mmol/L)で含む水溶液(pH10)に、上記で合成したアカガネイトを、0.1、0.5、1.0、2.0、3.0(単位:w/w%)の各濃度で添加した。pHを6に調整した上記水溶液を20℃で1時間撹拌した後に、アカガネイトを沈殿させ、上澄み液を回収し、硫酸イオンと、塩化物イオンの濃度をそれぞれイオンクロマトグラフ法によって測定した。
その結果、
図4のグラフに示すように、アカガネイトの添加量に比例して、水溶液中の塩化物イオン濃度が増加し、それに伴って硫酸イオン濃度が低下した。増加した塩化物イオン濃度は、低下した硫酸イオン濃度の約2倍であった。この結果は、アカガネイトから脱離した塩化物イオンの電荷量と、アカガネイトに吸着した硫酸イオンの電荷量とがほぼ同じであることを意味する。
以上の結果から、アカガネイトを構成する塩化物イオンは、別の陰イオンを吸着する際に置換されると考えられる。
【0072】
[試験例3]
硫酸イオン1200mg/L及びセレンを0.3mg/Lを含む、pH9のセレン酸ナトリウム水溶液(原水)を100ml調製した。
塩化バリウム2水和物の濃度を、1500mg/L、3000mg/L、4500mg/Lとしたバリウム水溶液A〜Cを調製した。これらバリウム水溶液と対照用の精製水のそれぞれに上記原水を混合して、Ba
2+/SO
42−のモル比が0、0.5、1.0、1.5となった混合液a1〜d1を得た。混合液a1は透明であり、他の混合液b1〜d1は硫酸バリウムの沈殿が生じ、白濁した。
上記の混合液a1〜d1を25℃で10分間撹拌した後、濾紙に通して硫酸バリウムの沈殿を濾過し、透明な濾液(第一の上澄み液)a2〜d2を得た。
続いて、濾液a2〜d2に上記で合成した褐色のアカガネイト0.5w/w%をそれぞれ添加し、25℃で10分撹拌した後、濾紙に通してアカガネイトの粉体(沈殿)を濾過し、透明な濾液(第二の上澄み液)a3〜d3を得た。
【0073】
上記で得た硫酸バリウム濾過後の濾液(第一の上澄み液)a2〜d2に含まれる硫酸イオン濃度をイオンクロマトグラフで測定したところ、a2は約1200mg/L、b2は約600mg/L、c2とd2はほぼ0mg/Lであった。
この結果から、Ba
2+/SO
42−のモル比が1となるようにバリウム水溶液を添加すれば、原水中の硫酸イオンをほぼ完全に除去できることが分かった。
【0074】
上記で得たアカガネイト濾過後の濾液(第二の上澄み液)a3〜d3に含まれるセレン酸イオン濃度を前記ICP発光分光分析法で測定したところ、a3>b3>c3≒d3の大小関係であった。
この結果から、原水から予め硫酸イオンを除去しておくことにより、後段におけるアカガネイトによるセレン酸の吸着効率が高まることが分かった。
また、第二の上澄み液c3、d3におけるセレン酸イオンの残留濃度(溶存セレン濃度)は環境基準の0.01mg/L未満であった。
この結果から、工事現場の排水中に含まれるセレン濃度は0.03〜0.1mg/L程度であることを考慮すると、本発明によってセレンを含む排水を充分に処理できることが理解される。
【0075】
[試験例4]
試験例3と同様に、混合液a1〜d1を得た後、各混合液中で生成した硫酸バリウムを濾過で除かずに、混合液a1〜d1に上記で合成した褐色のアカガネイト0.5w/w%をそれぞれ添加し、25℃で10分撹拌した後、濾紙に通して、硫酸バリウムの沈殿及びアカガネイトの粉体(沈殿)を濾過し、透明な濾液a4〜d4を得た。
得られた濾液a4〜d4に含まれるセレン酸イオン濃度を前記ICP発光分光分析法で測定したところ、a4>b4>c4≒d4の大小関係であった。
この結果から、硫酸バリウムは、アカガネイトのセレン酸イオンの吸着を妨げないことが明らかである。
【0076】
[試験例5]
セレンを10mg/L含むセレン酸ナトリウム水溶液(原水)を調製した。この原水に、 塩化鉄(III)水溶液、及び水酸化ナトリウム水溶液を添加して、塩化鉄(III)0.1mol/L、水酸化ナトリウム0.2mol/Lの濃度で含まれる混合液(pH2)を調製した。
調製した混合液を20℃で1時間撹拌し、混合液中でアカガネイトを生成させるとともに、生成したアカガネイトに混合液中のセレン酸イオンを吸着させた。
その後、水酸化ナトリウム水溶液を添加して混合液をpH4.5に調整し、アカガネイト同士を凝集させることにより沈降させ、その上澄み液を回収した。回収した上澄み液に含まれる溶存セレン(mg/L)を上記方法で測定したところ、上澄み液中の溶存セレン濃度が環境基準(0.01mg/L)未満であることが分かった。
工事現場の排水中に含まれるセレン濃度は0.03〜0.1mg/L程度であることを考慮すると、本発明によってセレンを含む排水を充分に処理できることが理解される。
【0077】
試験例1〜5の結果から、本発明にかかる水処理システム及び水処理方法によって、原水から硫酸イオンとそれ以外の無機化合物の陰イオンを除去した処理水が得られることは明らかである。
【0078】
以上で説明した各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、公知の構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。