特許第6820599号(P6820599)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社みらくるセンターの特許一覧

<>
  • 特許6820599-水中の水素溶存量測定方法 図000009
  • 特許6820599-水中の水素溶存量測定方法 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6820599
(24)【登録日】2021年1月7日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】水中の水素溶存量測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 5/00 20060101AFI20210114BHJP
   G01N 27/42 20060101ALI20210114BHJP
   G01N 27/26 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
   G01N5/00 D
   G01N27/42 G
   G01N27/26 Q
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-81419(P2017-81419)
(22)【出願日】2017年4月17日
(65)【公開番号】特開2018-179830(P2018-179830A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年3月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】517136531
【氏名又は名称】株式会社みらくる分析センター
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 廣成
(72)【発明者】
【氏名】前尾 修司
(72)【発明者】
【氏名】小川 陽吉
【審査官】 山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−020823(JP,A)
【文献】 特開2015−087221(JP,A)
【文献】 特開2016−033496(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0252789(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 5/00
G01N 27/26 − 27/48
G01N 33/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に含まれる水素溶存量の測定方法であって、
前記水に対して、イオン化傾向が水より低い金属を陽極として電気分解を行う工程、及び
前記電気分解工程における陽極である金属の質量減少量又は溶出した金属水酸化物の質量を測定する工程
を備える方法。
【請求項2】
前記陽極が銅である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電気分解における印加電圧が、前記水の電気分解が起こらない電圧である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記印加電圧が1.20V以下である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
電気分解による金属水酸化物の生成が起こらなくなるまで通電する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
水中に含まれる水素溶存量を検知する水素センサであって、
前記水に対して、水中のイオン化傾向が水より低い金属を陽極として電気分解を行う電気分解部と、
前記電気分解工程における陽極である金属の質量減少量又は溶出した金属水酸化物の質量を検出する検出部と
を備える、水素センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中の水素溶存量測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素水は、例えば、(1)花崗岩、セラミックスを通過させる方法、(2)電気分解を行う方法、(3)水素を水にバブリングする方法等の方法で製造することが知られている。本明細書では、このいずれも「水素水」と呼び、この水素水は、種々の効用が述べられており、美容用化粧水用途、飲料水、注射液等の医療用途や農業、農業用資材の洗浄剤等に用いられている。
【0003】
しかしながら、水素水の構造が明らかでないため、化学的な検証はほとんど進んでいない。なかでも、水素水中の溶存水素量を正確に測定することは、水素水の効用を判断するうえで重要であるが、現在市販されている水素ガスセンサ等で測定した場合には溶存水素量を正確に測定できないのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記のような課題を解決しようとするものであり、水中の溶存水素量を正確に測定することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために鋭意研究した結果、本発明者らは、イオン化傾向が水より低い金属を陽極として対象の水の電気分解を行い、陽極の質量減少量又は溶出した金属水酸化物の質量を測定することで、正確に溶存水素量を測定することができることを見出した。本発明は、このような知見に基づき、さらに研究を重ね、完成させたものである。即ち、本発明は以下の構成を包含する。
項1.水中に含まれる水素溶存量の測定方法であって、
前記水に対して、イオン化傾向が水より低い金属を陽極として電気分解を行う工程、及び
前記電気分解工程における陽極である金属の質量減少量又は溶出した金属水酸化物の質量を測定する工程
を備える方法。
項2.前記陽極が銅である、項1に記載の方法。
項3.前記電気分解における印加電圧が、前記水の電気分解が起こらない電圧である、項1又は2に記載の方法。
項4.前記印加電圧が1.20V以下である、項3に記載の方法。
項5.電気分解による金属水酸化物の生成が起こらなくなるまで通電する、項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
項6.水中に含まれる水素溶存量を検知する水素センサ(特に溶存水素センサ)であって、
前記水に対して、水中のイオン化傾向が水より低い金属を陽極として電気分解を行う電気分解部と、
前記電気分解工程における陽極である金属の質量減少量又は溶出した金属水酸化物の質量を検出する検出部と
を備える、水素センサ(特に溶存水素センサ)。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、水中の溶存水素量を正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】通常(従来)の水の電気分解を説明する概略図である。
図2】実施例に用いた電気分解用容器及び電極を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の水中に含まれる水素溶存量の測定方法は、前記水に対して、イオン化傾向が水より低い金属を陽極として電気分解を行う工程、及び前記電気分解工程における陽極である金属の質量減少量又は溶出した金属水酸化物の質量を測定する工程を備える。
【0009】
また、本発明の水素センサ(特に溶存水素センサ)は、前記水に対して、水中のイオン化傾向が水より低い金属を陽極として電気分解を行う電気分解部と、前記電気分解工程における陽極である金属の質量減少量又は溶出した金属水酸化物の質量を検出する検出部とを備えることにより、本発明の測定方法を介して水中の溶存水素量を評価することができる。
【0010】
1.電気分解工程
本工程では、対象となる水に対して、イオン化傾向が水より低い金属を陽極として電気分解を行う。
【0011】
通常、純水の電気分解を行う場合は、イオン化傾向の小さい材料(金、白金、炭素等)を電極として用い、電流が流れやすいように少量の水酸化ナトリウムを溶解させて行う。この場合、図1に示されるように、陽極では純水中の水酸化物イオン(OH-)が酸化されて酸素が発生し、陰極では水(H2O)が還元されて水素が発生する。この際、陽極における酸化反応により生じた電子が陽極から陰極へ移動することにより電流が流れる。水中では、
【0012】
【数1】
【0013】
という電離平衡状態にあるため、純水であってもわずかに電流が流れる。また、陽極として水よりイオン化傾向の大きい金属を使用すると、陽極では酸素は発生せず、陽極自身がイオン化される。例えば、陽極として銅を用いた場合は、Cuがイオン化(酸化)され、水中の水酸化物イオン(OH-)と結合してCu(OH)2となり沈殿を生じる。ただし、純水を電気分解する場合には、一定の電圧を印加する必要があり、電圧が低い場合にはこの反応はほとんど起きない(水酸化物イオンの酸化反応では平衡電位は1.23Vである)。
【0014】
一方、水素が水中に溶存している水素水の電気分解反応も、基本的には上記純水の場合と同様の反応が起こる。ただし、陽極として水よりイオン化傾向の大きい金属を使用した場合には、上記した水の電気分解が起こらないような電位範囲であっても、陽極となる金属がイオン化(酸化)され、金属水酸化物となって沈殿を生じる。水素水を低い電圧で電気分解した場合にこのような反応が生じる理由は必ずしも明らかではないが、電気分解中に水素水はH3O2-(H2O・OH-)という構造を有しており、OH-が純水と比較して非常に活性な状態で存在しているためと考えられる。なお、本明細書において、活性な水酸化物イオンH3O2-(H2O・OH-)と水素イオン(H+)とが遊離しやすい状態にある水素水を活性水素水と呼ぶ。この場合、このような活性水素水へ通電した場合の陽極及び陰極におけるイオン反応式は、陽極として銅を使用した場合を例に取ると以下のとおりである。
【0015】
【数2】
【0016】
以上のような現象は、陽極として水よりイオン化傾向の大きい金属を使用して水素水を電気分解した場合に生じるため、陽極としてはイオン化傾向の大きい金属を使用することが好ましい。陽極として使用する金属としては、上記のとおり水が電気分解しない電位領域で金属が溶出する必要がある観点からは標準電極電位が小さいことが好ましい一方、溶存水素量を正確に測定する観点からは陽極における酸化反応の速度は速すぎないほうが好ましい観点からは標準電極電位が大きいことが好ましい。このような観点から、陽極として使用する金属としては、水素(H2)を基準(0V)として標準電極電位が-0.40〜+0.80Vである金属が好ましく、-0.20〜+0.50Vである金属がより好ましい。このような金属としては、例えば、コバルト、ニッケル、スズ、鉛、銅等が挙げられ、銅が最も好ましい。
【0017】
一方、陰極の材質としては特に制限されないが、上記した陰極反応を起こしやすい観点からはイオン化傾向の小さい材料を使用することが好ましい。このような陰極の材質としては、例えば、金、白金、パラジウム、銀、銅、鉛、スズ、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛、マンガン、チタン、アルミニウム等が挙げられる。
【0018】
電気分解の際の好ましい印加電圧は、陽極及び陰極の材質等に応じて変化し得る。ただし、溶存水素量を正確に測定するためには水の電気分解がほとんど起こらない範囲とすることが好ましい。このような観点から、印加電圧は、1.20V以下が好ましく、1.10V以下がより好ましい。一方、上記陽極における酸化反応をより確実に起こす観点からは、陽極に使用する金属の標準電極電位よりも高い電位(特に陽極に使用する金属の標準電極電位よりも0.10V以上高い電位)を印加することが好ましい。例えば、陽極として銅を採用する場合は、印加電圧は0.50V以上が好ましく、0.70V以上がより好ましい。
【0019】
一方、電気分解時間は、対象となる水の電気伝導度、陽極及び陰極の材質及び表面積等に応じて電圧、電流、電流密度等が変化し得るので一概に決定することはできないが、溶存水素量を正確に測定する観点から、電気分解による金属水酸化物の生成が起こらなくなるまで通電することが好ましい。例えば、陽極として銅を使用する場合は、1〜10時間程度(特に3〜7時間程度)通電することができる。また、電気分解の際の温度は特に制限されず、例えば、0〜50℃(特に室温)で行うことができる。
【0020】
2.測定工程
上記のように電気分解処理を行うことにより、上記陽極における酸化反応により、陽極として使用した金属と活性な水酸化物イオンとが反応し、陽極の一部が水中に溶出するため、電気分解処理後には陽極の質量が減少する。この陽極の質量の減少量を測定することで、反応に寄与した活性な水酸化物イオン(H2O・OH-)の量を評価することができる。上記のとおり、活性水素水は活性な水酸化物イオンH3O2-(H2O・OH-)と水素イオン(H+)とが遊離しやすい状態にあるため、反応に寄与した活性な水酸化物イオン(H2O・OH-)の量を評価することにより、溶存水素量も評価することが可能である。
【0021】
具体的には、陽極の質量の減少量が多いほど、反応に寄与した活性な水酸化物イオンの量が多く、溶存水素量も多いと評価することができる。この際、市販されている水素ガスセンサでは有効数字1桁程度の精度でしか評価できないのに対し、有効数字2桁程度の精度で評価することが可能である。
【0022】
一方、上記のように電気分解処理を行った場合、上記陽極における酸化反応により、陽極として使用した金属と活性な水酸化物イオンとが反応し、陽極の一部が金属水酸化物となって沈殿する。この沈殿物の質量を測定することで、同様に、反応に寄与した活性な水酸化物イオン(H2O・OH-)の量を評価し、さらに、溶存水素量を評価することが可能である。
【実施例】
【0023】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0024】
実施例
図2に示す電気分解用容器及び電極を用いて、電気分解及び計測を行った。具体的には、メスシリンダーで秤量した試験液体を60mL用意し、それをプラスチックケースに入れた。電極はおおよそ20mmW×50mmL×3mmtのサイズに成形した銅を陽極、アルミニウムを陰極に用いた。銅陽極の質量を電子天秤で秤量した後電極を固定した蓋を閉めて1Vの電圧を印加し、沈殿物の生成がほとんど見られなくなるまで5時間程度通電を行った。その後銅陽極を取り出し、再度質量を秤量した。
【0025】
各測定結果について、以下に示す。測定は、サクラ水及び創成水については1回測定を行った後に2週間空けて再度測定を行った。また、他の水については1回測定を行った。なお、サクラ水は、福島県東白川郡矢祭町大字東館字中新田41番地分析結果に付け加えて(株)サクラサク 矢祭工場内の水道水から、交流電磁場電解水素水発生装置GFX-11MA001を使用し生成した電解水素水である。
【0026】
試験例1:測定結果(1回目)
1回目の測定結果を表1〜3に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
【表3】
【0030】
試験例2:測定結果(2回目)
上記試験例1で用いた創生水及びサクラ水について、2週間の期間を空けて再度測定を試みた。結果を表4に示す。
【0031】
【表4】
【0032】
まとめ
実施例では、水素水の主要な構造であると考えられるH3O2-(H2O・OH-)に着目し評価を行った。水の電気分解が進行しない電圧でも水素水では電気分解が行われることから、このOH-が確実に存在し、非常に活性なイオンであることが分かる。
【0033】
実際の測定では銅陽極と活性な水酸化物イオンとの反応により減少した銅陽極の質量を計測することで活性な水酸化物イオンの量を測定した。ゆえに溶存水素濃度の測定ではなく活性水酸化物イオン濃度の測定を行ったことになるが、活性水素水は活性な水酸化物イオンH3O2-(H2O・OH-)と水素イオン(H+)とが遊離しやすい状態にあるため、この結果から溶存水素量も評価することが可能である。
【0034】
また、濃度の表記として通常の体積濃度(ppm:mg/L)に加えてモル濃度(mM:ミリモーラー)を用いた。モル濃度とは単位体積の溶液中の溶質の物質量である。化学反応式を用いて反応を行う際には反応配合量を検討する際にモルという単位が必要になることからよく使われる単位である。例えば塩酸と水酸化ナトリウムの中和反応を考えると化学反応式は、HCl+NaOH → NaCl+H2Oとなる。この場合1molの塩酸を中和するには1molの水酸化ナトリウムが必要であり1molのNaCl、1molのH2Oが生じることが簡単にわかる。またモルは原子、分子、イオン、電子、その他の粒子あるいは集合体であっても関係なく用いることができるため、化学反応を検討する場合には重要な単位である。これを考慮すると1Lの創生水には、約0.6mmolの活性な水酸化物イオンが含まれているので約0.6mmol相当の反応をすることが分かる。
【0035】
今回測定した水素水を、活性な水酸化物イオンのモル濃度が多い順に並べ替えまとめると表5のようになり、この順に溶存水素量が多いことも理解できる。
【0036】
【表5】
図1
図2