特許第6820647号(P6820647)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6820647議論の活性化のために適切な指導タイミングを発動させる装置、プログラム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6820647
(24)【登録日】2021年1月7日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】議論の活性化のために適切な指導タイミングを発動させる装置、プログラム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/20 20120101AFI20210114BHJP
   G10L 15/10 20060101ALI20210114BHJP
   G10L 15/00 20130101ALI20210114BHJP
   G09B 5/08 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
   G06Q50/20
   G10L15/10 500Z
   G10L15/00 200U
   G09B5/08
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-214247(P2017-214247)
(22)【出願日】2017年11月6日
(65)【公開番号】特開2019-86992(P2019-86992A)
(43)【公開日】2019年6月6日
【審査請求日】2019年11月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135068
【弁理士】
【氏名又は名称】早原 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】河合 直樹
【審査官】 久慈 渉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−055160(JP,A)
【文献】 特開2011−053629(JP,A)
【文献】 特開2017−112545(JP,A)
【文献】 特開2016−162339(JP,A)
【文献】 特開2014−182493(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0328987(US,A1)
【文献】 田邊 哲哉,グラフ型データベースを用いたアクティブラーニングにおける会話分析システムの提案,第9回データ工学と情報マネジメントに関するフォーラム (第15回日本データベース学会年次大会) [online],日本,電子情報通信学会データ工学研究専門委員会 日本データベース学会 情報処理学会データベースシステム研究会,2017年 2月27日,Internet<URL:http://db-event.jpn.org/deim2017/papers/58.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 − 99/00
G09B 5/08
G10L 15/00
G10L 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のユーザによって構成されたグループの中で、各ユーザ端末から当該ユーザの発話データを受信する装置において、
論点に対して、複数の言葉テキストを含む言葉リストを予め設定した言葉リスト設定手段と、
前記論点に対して、発話が期待される前記言葉テキストの基準累積数を、議論の進行時間に応じて増加傾向となるように予め設定した基準累積数設定手段と、
前記発話データから、前記言葉テキストと一致したテキストを発言テキストとして、発言リストに記録する発言リスト生成手段と、
議論の進行中に、前記基準累積数設定手段の前記基準累積数と、前記発言リストの発言テキスト累積数との関係が所定条件となった時に、前記グループの各ユーザ端末へ、議論を活性化するべく指示する指導タイミングを発動する指導タイミング発動手段と
を有することを特徴とする装置。
【請求項2】
前記指導タイミングが発動された際に、前記言葉リストに含まれる前記言葉テキストの中で、前記発言リストに含まれていない言葉テキストを指導テキストとして、当該グループの各ユーザ端末へ送信する指導テキスト送信手段を
更に有することを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記指導タイミング発動手段の前記所定条件は、前記発言テキスト累積数が前記基準累積数よりも少なくなった時である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記基準累積数は、異なる言葉テキストの累積数であり、
前記発言リストは、異なる発言テキストのみを含む
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
発言テキストは、所定回数以上発話された際に、前記発言リストに含められる
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記言葉リスト設定手段は、複数の論点それぞれ個別に前記言葉リストを設定しており、
前記基準累積数設定手段も、複数の論点それぞれ個別前記基準累積数を設定しており、
前記発言リスト生成手段も、複数の論点それぞれ個別に前記発言リストを記録しており、
前記指導タイミング発動手段は、複数の論点それぞれ個別に前記指導タイミングを発動する
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記指導タイミング発動手段は、前記発言テキスト累積数が前記基準累積数よりも少ない状態が継続する限り、一定時間毎に、継続的に指導タイミングを発動させる
ことを特徴とする請求項1から6に記載の装置。
【請求項8】
複数のグループが存在する場合、
前記指導タイミング発動手段は、全てのグループの発言テキスト累積数の現時点における平均値を、現時点における基準累積数とする
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
前記指導タイミング発動手段は、前記発言リストの発言テキスト累積数が、所定時間、増加傾向とならない場合に、指導タイミングを発動させる
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
前記基準累積数設定手段は、前記基準累積数として、議論の進行時間に応じた前記言葉テキストの増加量に基づく基準微分係数を設定しており、
前記発言リスト生成手段は、議論の進行時間に応じた前記発言テキストの増加量に基づく発言微分係数を生成しており、
前記指導タイミング発動手段は、議論の進行中に、前記基準微分係数と、前記発言微分係数との関係が所定条件となったか否かを判定する
ことを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
複数のユーザによって構成されたグループの中で、各ユーザ端末から当該ユーザの発話データを受信する装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムにおいて、
論点に対して、複数の言葉テキストを含む言葉リストを予め設定した言葉リスト設定手段と、
前記論点に対して、発話が期待される前記言葉テキストの基準累積数を、議論の進行時間に応じて増加傾向となるように予め設定した基準累積数設定手段と、
前記発話データから、前記言葉テキストと一致したテキストを発言テキストとして、発言リストに記録する発言リスト生成手段と、
議論の進行中に、前記基準累積数設定手段の前記基準累積数と、前記発言リストの発言テキスト累積数との関係が所定条件となった時に、前記グループの各ユーザ端末へ、議論を活性化するべく指示する指導タイミングを発動する指導タイミング発動手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項12】
複数のユーザによって構成されたグループの中で、各ユーザ端末から当該ユーザの発話データを受信する装置の指導タイミング発動方法において、
前記装置は、
論点に対して、複数の言葉テキストを含む言葉リストを予め設定した言葉リスト設定部と、
前記論点に対して、発話が期待される前記言葉テキストの基準累積数を、議論の進行時間に応じて増加傾向となるように予め設定した基準累積数設定部と
を有し、
前記装置は、
前記発話データから、前記言葉テキストと一致したテキストを発言テキストとして、発言リストに記録する第1のステップと、
議論の進行中に、前記基準累積数設定の前記基準累積数と、前記発言リストの発言テキスト累積数との関係が所定条件となった時に、前記グループの各ユーザ端末へ、議論を活性化するべく指示する指導タイミングを発動する第2ステップと
を実行することを特徴とする装置の指導タイミング発動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グループワークにおけるユーザの発話分析の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、教育やビジネスの分野における21世紀型スキルとして、批評的思考力や課題解決力の養成が重要となってきている。そのために、知識を一方的に提供するセミナ形式ではなく、アクティブ・ラーニングに基づくグループワーク形式が注目されている。
グループワーク形式は、例えば3〜4人で1つのグループを構成し、知識を交換し合いながら、課題の解決に向かって創造的に議論を続ける協働学習に基づくものである。ここで、グループワークを管理する教師は、議論が活発でないグループに対しては、有効なアドバイスを提案する必要がある。
【0003】
しかしながら、グループワーク形式の場合、1人の教師が、全てのグループの学習状況を観察することはできない。そのために、ICT(Information and Communication Technology)を用いて、複数のグループの学習状況を同時に把握する技術が求められる。
【0004】
従来、グループ毎の議論の活性化を推定し、進行者に対してその状況を明示する技術がある(例えば特許文献1参照)。この技術によれば、グループ毎に、各メンバが発話した発話時刻及び発話時間長を時系列に区分する。そして、グループ毎に、全メンバの発話時間長に対する当該メンバの発話時間長の比を表す発話密度寄与率を描画したグラフを生成する。進行者は、そのグラフを視認することによって、グループ毎の議論の活性状況を理解することができる。
【0005】
また、グループ毎の議論の状態を、客観的に推定する技術もある(例えば特許文献2参照)。この技術によれば、参加するメンバの特性毎に設定された特性語を、グループ内で発話されたテキストから抽出する。そして、グループにおける特性語の出現数又は出現比率から、当該グループの状態としての特性を推定する。
【0006】
更に、グループ内におけるメンバの貢献度を、当該貢献度に係る重要語に基づいて推定する技術がある(例えば特許文献3参照)。この技術によれば、グループ内における発話テキストの中で、重要語が出現した位置の順番又は時点と、重要語を提供した参加者の識別情報とを含む重要語出現情報を生成する。その重要語出現情報を用いて、参加者の貢献度を、重要語の出現した位置の順番又は時点の早さに基づいて決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016−162339号公報
【特許文献2】特開2017−027536号公報
【特許文献3】特開2017−167308号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】CoREF(大学発教育支援コンソーシアム推進機構)、[online]、[平成29年10月29日検索]、インターネット<URL:http://coref.u-tokyo.ac.jp/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述した特許文献1〜3に記載の技術によれば、グループワークによって複数のグループが同時に議論をする中で、1人の教師が、全てのグループの議論の進行状況を観察する。教師は、グループ毎の分析結果を見ながら、議論が活発でないグループを見出すように観察する。このとき、教師としては、できる限り、議論が活発でないグループから順に、その分析結果に応じた指導・助言(アドバイス)を提供したいと考える。
【0010】
しかしながら、1人の教師は、その時点では1つのグループにしか直接指導をすることができない。即ち、1人の教師は、同時に、複数のグループに対して個別に異なる指導をすることはできない。教師が1つのグループに指導している時にも、他のグループの議論は進行しており、その活性度も逐次変化している。
ここで、本願の発明者らは、教師に代わるICTを用いて、議論を活性化させるべく、グループ毎に個別に異なる指導をすることができないか、と考えた。
【0011】
そこで、本発明は、議論の活性化のための指導タイミングを発動させる装置、プログラム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、複数のユーザによって構成されたグループの中で、各ユーザ端末から当該ユーザの発話データを受信する装置において、
論点に対して、複数の言葉テキストを含む言葉リストを予め設定した言葉リスト設定手段と、
論点に対して、発話が期待される言葉テキストの基準累積数を、議論の進行時間に応じて増加傾向となるように予め設定した基準累積数設定手段と、
発話データから、言葉テキストと一致したテキストを発言テキストとして、発言リストに記録する発言リスト生成手段と、
議論の進行中に、基準累積数設定手段の基準累積数と、発言リストの発言テキスト累積数との関係が所定条件となった時に、ループの各ユーザ端末へ、議論を活性化するべく指示する指導タイミングを発動する指導タイミング発動手段と
を有することを特徴とする。
【0013】
本発明の装置における他の実施形態によれば、
指導タイミングが発動された際に、言葉リストに含まれる言葉テキストの中で、発言リストに含まれていない言葉テキストを指導テキストとして、当該グループの各ユーザ端末へ送信する指導テキスト送信手段を
更に有することも好ましい。
【0014】
本発明の装置における他の実施形態によれば、
指導タイミング発動手段の所定条件は、発言テキスト累積数が基準累積数よりも少なくなった時である、ことも好ましい。
【0015】
本発明の装置における他の実施形態によれば、
基準累積数は、異なる言葉テキストの累積数であり、
発言リストは、異なる発言テキストのみを含むことも好ましい。
【0016】
本発明の装置における他の実施形態によれば、
発言テキストは、所定回数以上発話された際に、発言リストに含められる
ことも好ましい。
【0017】
本発明の装置における他の実施形態によれば、
言葉リスト設定手段は、複数の論点それぞれ個別に言葉リストを設定しており、
基準累積数設定手段も、複数の論点それぞれ個別基準累積数を設定しており、
発言リスト生成手段も、複数の論点それぞれ個別に発言リストを記録しており、
指導タイミング発動手段は、複数の論点それぞれ個別に指導タイミングを発動する
ことも好ましい。
【0018】
本発明の装置における他の実施形態によれば、
指導タイミング発動手段は、発言テキスト累積数が基準累積数よりも少ない状態が継続する限り、一定時間毎に、継続的に指導タイミングを発動させることも好ましい。
【0019】
本発明の装置における他の実施形態によれば、
複数のグループが存在する場合、
指導タイミング発動手段は、全てのグループの発言テキスト累積数の現時点における平均値を、現時点における基準累積数とすることも好ましい。
【0020】
本発明の装置における他の実施形態によれば、
指導タイミング発動手段は、発言リストの発言テキスト累積数が、所定時間、増加傾向とならない場合に、指導タイミングを発動させることも好ましい。
【0021】
本発明の装置における他の実施形態によれば、
基準累積数設定手段は、基準累積数として、議論の進行時間に応じた言葉テキストの増加量に基づく基準微分係数を設定しており、
発言リスト生成手段は、議論の進行時間に応じた発言テキストの増加量に基づく発言微分係数を生成しており、
指導タイミング発動手段は、議論の進行中に、基準微分係数と、発言微分係数との関係が所定条件となったか否かを判定することも好ましい。
【0022】
本発明によれば、複数のユーザによって構成されたグループの中で、各ユーザ端末から当該ユーザの発話データを受信する装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムにおいて、
論点に対して、複数の言葉テキストを含む言葉リストを予め設定した言葉リスト設定手段と、
論点に対して、発話が期待される言葉テキストの基準累積数を、議論の進行時間に応じて増加傾向となるように予め設定した基準累積数設定手段と、
発話データから、言葉テキストと一致したテキストを発言テキストとして、発言リストに記録する発言リスト生成手段と、
議論の進行中に、基準累積数設定手段の基準累積数と、発言リストの発言テキスト累積数との関係が所定条件となった時に、ループの各ユーザ端末へ、議論を活性化するべく指示する指導タイミングを発動する指導タイミング発動手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする。
【0023】
本発明によれば、複数のユーザによって構成されたグループの中で、各ユーザ端末から当該ユーザの発話データを受信する装置の指導タイミング発動方法において、
装置は、
論点に対して、複数の言葉テキストを含む言葉リストを予め設定した言葉リスト設定部と、
論点に対して、発話が期待される言葉テキストの基準累積数を、議論の進行時間に応じて増加傾向となるように予め設定した基準累積数設定部と
を有し、
装置は、
発話データから、言葉テキストと一致したテキストを発言テキストとして、発言リストに記録する第1のステップと、
議論の進行中に、基準累積数設定の基準累積数と、発言リストの発言テキスト累積数との関係が所定条件となった時に、ループの各ユーザ端末へ、議論を活性化するべく指示する指導タイミングを発動する第2ステップと
を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の装置、プログラム及び方法によれば、議論の活性化のために適切な指導タイミングを発動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】グループワークにおけるシステム構成図である。
図2】本発明における指導発信装置の機能構成図である。
図3】言葉リストと発言リストとに含まれるテキストの例を表す説明図である。
図4】本発明における議論の進行時間に対する言葉の累積数を表すグラフである。
図5】複数の論点それぞれに対する指導タイミングの発動を表す説明図である。
図6】指導タイミングを一定時間毎に発動させることを表すグラフである。
図7】全てのグループの発言テキスト累積数の平均値を基準累積数として設定した場合における、指導タイミングの発動を表すグラフである。
図8】発言停滞期間における指導タイミングの発動を表すグラフである。
図9】累積数として微分係数を用いた指導タイミングの発動を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下では、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0027】
図1は、グループワークにおけるシステム構成図である。
【0028】
図1のシステムによれば、指導発信装置1と、複数のユーザ端末2とが、アクセスポイントを介して接続されている。
指導発信装置1は、各ユーザ端末2から当該ユーザの発話データを受信し、グループ毎に発話内容を分析する。
ユーザ端末2は、各ユーザによって保持又は装着されるマイク装置であって、具体的には、当該ユーザからの発話データを収録するスマートフォンのようなものである。
アクセスポイントは、複数のユーザ端末2との間で、無線LANやBluetooth(登録商標)等によって接続されている。
【0029】
ユーザ端末2は、連続する所定の音声区間毎に、発話データを収録するものであってもよい。そして、ユーザ端末2は、その発話データを、指導発信装置1へ逐次送信するか、又は、指導発信装置1から要求に応じて送信する。
【0030】
本発明の指導発信装置1は、グループワークにおけるユーザの発話データを分析することによって、適切な指導タイミングを発動させるものである。
「グループワーク」によれば、複数のユーザによって議論するグループが、複数構成される。但し、本発明は、勿論、1つのグループであっても機能する。
また、「指導タイミング」で、各グループに、教師に代わって、議論の進行の活性化を示唆する言葉(例えばキーワード、フレーズ、簡易文)を発信する。これによって、全てのグループが同時にグループワークを進行させている中で、各グループに直接的に異なる指導をすることができる。
【0031】
図2は、本発明における指導発信装置の機能構成図である。
【0032】
図2によれば、指導発信装置1は、発話データ受信部10と、言葉リスト設定部101と、基準累積数設定部102と、発言リスト生成部11と、指導タイミング発動部12と、指導テキスト発信部13とを有する。これら機能構成部は、装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムを実行することによって実現される。また、これら機能構成部の処理の流れは、装置の指導発信方法としても理解できる。
【0033】
[発話データ受信部10]
発話データ受信部10は、ユーザ端末2から、グループID(Identifier)及びユーザIDを含む発話データを受信する。発話データが音声信号である場合、指導発信装置1は、その音声信号を音声認識によってテキスト化し、そのテキストを発言リスト生成部11へ出力する。
勿論、ユーザ端末2によって、ユーザ発話の音声信号が音声認識でテキストに変換されていれば、発話データはテキストとなる。この場合、指導発信装置1は、音声認識処理をすることなく、受信した発話データとしてのテキストをそのまま、発言リスト生成部11へ出力する。
【0034】
[言葉リスト設定部101]
言葉リスト設定部101は、論点(資料、課題など)に対して、複数の言葉テキストを含む「言葉リスト」を予め設定したものである。これは、教師やオペレータによって、その論点の中で発話を期待すべき言葉として、予め設定されたものである。
【0035】
例えば、グループワークの一種として「ジグソー活動」がある(例えば非特許文献1参照)。この活動によれば、例えば論点の要素を複数の資料に分け、各ユーザは、事前のエキスパート活動でその中の1つの専門について学習しておく。そして、異なる専門のユーザ同士が集まって議論(ジグソー活動)を実施する。このように、異なる視点から総合的に議論を進行させることによって、ユーザ同士で理解を深めることができる。一般的な課題ほど、いくつかの論点からなり、それらの論点を総合的に検討することによって、最適な結論が得られることが多い。
【0036】
図3は、言葉リストと発言リストとに含まれるテキストの例を表す説明図である。
【0037】
言葉リストも、複数の論点それぞれに対して個別に設定されることが好ましい。
図3の言葉リスト設定部101には、3つの言葉リストが含まれている。
言葉リストAには、「維盛都落」について、グループ内で発話を期待すべき言葉として、「維盛」「妻子」「プライド」などが含まれている。
言葉リストBには、「木曾最期」について、グループ内で発話を期待すべき言葉として、「木曽」「兼平」「気弱」などが含まれている。
言葉リストCには、「敦盛最期」について、グループ内で発話を期待すべき言葉として、「敦盛」「見方」「総崩れ」などが含まれている。
これによって、後述する指導タイミング発動部12では、グループ毎に、議論が活性化している論点と、議論が活性化していない論点とを、区別して認識することもできる。
【0038】
[基準累積数設定部102]
基準累積数設定部102は、論点に対して、発話が期待される言葉テキストの基準累積数を、議論の進行時間に応じて増加傾向となるように予め設定したものである。
また、基準累積数設定部102は、複数の論点それぞれに対して、言葉テキストの基準累積数を別々に設定する。
【0039】
図4は、本発明における議論の進行時間に対する言葉の累積数を表すグラフである。
【0040】
図4の実線は、論点に対する「言葉テキストの基準累積数」を表す。これは、教師やオペレータによって、例えば過去の経験値から予め設定されたものである。言葉テキストの基準累積数は、議論の時間進行に応じて増加傾向(増加関数)を表す。その増加傾向は、単純な線形増加に限られず、図4のように非線形増加であってもよい。尚、基準累積数の増加傾向は、関数化されることが好ましい
尚、「基準累積数」は、異なる言葉テキストの累積数であって、同一の言葉テキストについては累積数1とする。
【0041】
図4の実線によれば、議論の進行時間の序盤の時間帯では、話し合いが模索状態なので、言葉テキストの累積数の増加を期待できない。その後、一方で、中盤の時間帯では、話し合いを促進する必要があるとして、言葉テキストの累積数が高く設定されている。
【0042】
[発言リスト生成部11]
発言リスト生成部11は、発話データから、言葉テキストと一致したテキストを発言テキストとして、「発言リスト」に記録する。
【0043】
図3によれば、発言リストも、複数の論点それぞれに対して個別に生成されている。発言リストに含まれる発言テキストは、同じ論点の言葉リストに含まれるテキストと同一のものであって、ユーザによって発話されたものである。
発言リストAには、「維盛都落」について、グループ内で発話を期待すべき言葉として、「維盛」「プライド」「妻」などが含まれている。
発言リストBには、「木曾最期」について、グループ内で発話を期待すべき言葉として、「木曽」「兼平」「合戦」などが含まれている。
発言リストCには、「敦盛最期」について、グループ内で発話を期待すべき言葉として、「敦盛」「見方」「総崩れ」などが含まれている。
図3の発言テキスト累積数によれば、論点A及びCについては議論が比較的活発であるのに対し、論点Bについては議論が停滞していることが理解できる。
【0044】
図4の破線は、発話データから抽出された発言テキスト累積数である。これも、時間進行に応じて増加傾向を表す。
【0045】
ここで、「発言リスト」には、異なる発言テキストしか記録されない。一度、発話データから発言リストに記録された発言テキストは、その後、発話データから同じ発言テキストが検出されたとしても、発言リストには記録されない。即ち、継続して受信するグループの発話データの中で、1回以上発話された1つの発言テキストが、発言リストに記録されていく。
【0046】
他の実施形態として、発言リスト生成部11は、継続して受信するグループの発話データの中で、所定回数(例えば5回)以上発話された際にのみ、発言リストに記録されることも好ましい。グループワークの中で、重要と認識されている言葉テキストが1回発話されただけで、その言葉テキストの理解が深まったとは考えられないためである。
【0047】
[指導タイミング発動部12]
指導タイミング発動部12は、議論の進行中に、言葉リストに含まれる「言葉テキストの基準累積数」と、「発言リストの発言テキスト累積数」との関係が「所定条件」となったか否かを判定する。そして、真と判定した時に、当該グループに対する指導タイミングとして発動する。
ここで、「所定条件」とは、基本的には、発言テキスト累積数が基準累積数よりも少なくなった時である。
【0048】
前述した図4によれば、破線(発言リストの発言テキスト累積数)が実線(言葉テキストの累積数)を下回った時、指導タイミングが発動されている。この指導タイミングは、グループ内の議論の状況が、教師が期待するほど活性化していない時点を意味する。図4の場合、議論の進行時間の中で、2回の指導タイミングが発動されている。
【0049】
図5は、複数の論点それぞれに対する指導タイミングの発動を表す説明図である。
【0050】
図5によれば、言葉リスト設定部101には、論点A、B、Cそれぞれについて、言葉リストA、B、Cが別々に設定されている。
また、基準累積数設定部102も、言葉リストA、B、Cそれぞれについて、言葉テキストの基準累積数が別々に設定さている。
更に、発言リスト生成部11は、言葉リストA、B、Cそれぞれについて、発言リストA、B、Cを生成し、各発言リストに含まれる発言テキスト累積数を計数する。
そして、指導タイミング発動部12は、論点A、B、Cそれぞれについて、異なる指導タイミングを発動する。図5によれば、先に論点Aについて指導タイミングが発動され、その後に論点Cについて指導タイミングが発動されている。即ち、当該グループについては、論点A、Cの議論が活性化していない時点が発生するが、論点Bの議論は活性化していることを意味する。
【0051】
尚、他の実施形態として、指導タイミング発動部12は、基準累積数に対する発言リストの発言テキスト数の割合が最も低い論点のみについて、指導タイミングを発動するものであってもよい。先ずは、最も活性化していない論点について、議論を活性化させるべきとの理由からである。
【0052】
以下では、指導タイミング発動部12について、指導タイミングを決定する他の実施形態について説明する。
<第1の実施形態:一定時間毎の指導タイミングの発動>
<第2の実施形態:全てのグループの発言テキスト累積数の平均値を基準累積数として設定>
<第3の実施形態:発言停滞期間における指導タイミングの発動>
<第4の実施形態:累積数として微分係数を用いた指導タイミングの発動>
【0053】
<第1の実施形態:一定時間毎の指導タイミングの発動>
図6は、指導タイミングを一定時間毎に発動させることを表すグラフである。
図6によれば、指導タイミング発動部12は、発言テキスト累積数が基準累積数よりも少ない状態が継続する限り、一定時間(例えば5分)毎に、継続的に指導タイミングを発動させている。最初の指導タイミングが発動した後、議論が活性化されていなのに、指導タイミングが発動されないのは好ましくない。
【0054】
<第2の実施形態:全てのグループの発言テキスト累積数の平均値を基準累積数として設定>
図7は、全てのグループの発言テキスト累積数の平均値を基準累積数として設定した場合における、指導タイミングの発動を表すグラフである。
ここでは、言葉の基準累積数が予め設定されていない。図7によれば、指導タイミング発動部12は、全てのグループの発言テキスト累積数の現時点における平均値を、現時点における基準累積数とする。即ち、言葉の基準累積数は、議論の進行時間に応じてリアルタイムに変化することとなり、現時点における基準累積数しか決定されていない。
そして、全てのグループにおける発言テキスト累積数の平均値よりも、当該グループの発言リストの累積数が所定幅分だけ下回った時、指導タイミングが発動される。
【0055】
これは、教師やオペレータが、過去の経験値から言葉リストや基準累積数を設定することが難しい場合に有効な実施形態である。特に、異なる専門性のユーザ加入による新しい論点が発生する場合など、基準累積数が予測できない場合に有効である。一方で、全体のグループの議論が停滞している場合、指導タイミングを発動することができないという側面もある。
【0056】
<第3の実施形態:発言停滞期間における指導タイミングの発動>
図8は、発言停滞期間における指導タイミングの発動を表すグラフである。
図8によれば、発言テキスト累積数が基準累積数よりも上回った状態が継続しているにも拘わらず、当該グループ内で発言停滞時間が発生している。この時間帯では、当該グループ内で発言はされていても、言葉リストに含まれる他の新たな言葉テキストが、発言されていないことを意味する。
ここで、指導タイミング発動部12は、発言リストの発言テキスト累積数が、所定時間(例えば30秒間)、増加傾向とならない場合に、指導タイミングを発動させる。
【0057】
<第4の実施形態:累積数として微分係数を用いた指導タイミングの発動>
図9は、累積数として微分係数を用いた指導タイミングの発動を表すグラフである。
図9によれば、議論の進行時間に応じて、言葉の累積数の微分係数が表されている。ここでの微分係数とは、その時点(微小時間)における言葉の累積数の変化割合の極限を意味する。発言リストの発言テキストの累積増加数に関して、一定時間毎の増分、即ち、傾きである微分係数を算出することにより、議論の活性度が理解できる。
【0058】
基準累積数設定部102は、基準累積数として、議論の進行時間に応じた言葉テキストの増加量に基づく基準微分係数を設定している。
また、発言リスト生成部11も、議論の進行時間に応じた発言テキストの増加量に基づく発言微分係数を生成する。
そして、指導タイミング発動部12は、議論の進行中に、前記基準微分係数と、前記発言微分係数との関係が所定条件となったか否かを判定する。
具体的に図9によれば、前述した図4同様に、発言テキストの微分係数が基準微分係数よりも少なくなった時に、指導タイミングが発動されている。
【0059】
[指導テキスト発信部13]
指導テキスト発信部13は、指導タイミングが発動された際に、言葉リストに含まれる言葉テキストの中で、発言リストに含まれていない言葉テキストを指導テキストとして、当該グループの各ユーザ端末へ送信する。
この指導タイミングで、指導テキストを認識した当該グループのユーザは、当該論点に基づく議論を活性化させるべく、グループワークの話し合いを改善しようとする。
【0060】
指導テキスト発信部13は、ユーザ端末2へ、指導テキストとして送信するものであってもよいし、指導テキストを音声信号に変換して送信するものであってもよい。ユーザ端末2は、指導発信装置1から指導テキストを受信した際に、そのままディスプレイに表示するものであってもよいし、指導テキストを音声信号に変換してスピーカから発声するものであってもよい。
【0061】
尚、ユーザ端末2が、指導テキストを音声信号としてスピーカから発声する場合、ユーザの発話が一定時間(例えば10秒間)途切れている時に、発声するのが好ましい。発話の途切れ時間は、例えばVAD(Voice Activity Detection)の技術を用いて検知することができる。ユーザの発話中に、スピーカから指導音声が発声されると議論を妨げることとなるので、発話が途切れた時に、指導音声を発声するのが好ましい。
【0062】
具体的な実装として、指導発信装置1が、例えばスマートフォンのようなユーザ端末2へ、指導テキストをプッシュ的に送信することは簡易ではない。例えばHTTP(HyperText Transfer Protocol)の場合、通常、クライアント(ユーザ端末)がサーバ(指導発信装置)へリクエストを送信し、当該サーバからクライアントへレスポンスを返信する要求応答型のPull方式となる。
そのために、指導発信装置1におけるプッシュ的な情報送信機能として、例えば、JavaScript(登録商標)のWeb Notification APIや、Google(登録商標)のFirebase Notification(登録商標)、Apple(登録商標)のPush Notificationなどを用いることが好ましい。これらのAPI(Application Programming Interface)に対応したアプリケーションを、ユーザ端末2にインストールしておくことによって、サーバプッシュを実現することができる。
【0063】
前述で詳細に説明したように、本発明の指導発信装置、システム及びプログラムによれば、議論の活性化のために適切な指導タイミングを発動させることができる。これによって、複数のグループで同時に議論が進行していても、議論を活性化させるべく、グループ毎に異なるタイミングで、個別に異なる指導をすることができる。
【0064】
以上に述べた本発明の種々の実施形態について、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【符号の説明】
【0065】
1 指導発信装置
10 発話データ受信部
101 言葉リスト設定部
102 基準累積数設定部
11 発言リスト生成部
12 指導タイミング発動部
13 指導テキスト発信部
2 ユーザ端末
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9