(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6820658
(24)【登録日】2021年1月7日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】ジピリダモールを用いる眼疾患の治療において使用するための組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/519 20060101AFI20210114BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20210114BHJP
A61P 27/04 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
A61K31/519
A61P27/02
A61P27/04
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-562486(P2015-562486)
(86)(22)【出願日】2014年3月11日
(65)【公表番号】特表2016-514123(P2016-514123A)
(43)【公表日】2016年5月19日
(86)【国際出願番号】IB2014059645
(87)【国際公開番号】WO2014141079
(87)【国際公開日】20140918
【審査請求日】2017年3月9日
【審判番号】不服2019-9339(P2019-9339/J1)
【審判請求日】2019年7月11日
(31)【優先権主張番号】225179
(32)【優先日】2013年3月12日
(33)【優先権主張国】IL
(73)【特許権者】
【識別番号】517330184
【氏名又は名称】オー.ディー. オキュラー ディスカバリー リミテッド.
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(72)【発明者】
【氏名】ロゴスニツキー,モシェ
【合議体】
【審判長】
藤原 浩子
【審判官】
石井 裕美子
【審判官】
渕野 留香
(56)【参考文献】
【文献】
特開平7−258084(JP,A)
【文献】
米国特許第5780450(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0045940(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
涙器系又は前眼部の眼疾患の治療において使用するための医薬組成物であって、5mcg/ml〜200mcg/mlの濃度での有効な量の局所的に投与されるジピリダモールまたはその薬学的に許容可能な塩を含み、前記涙器系又は前眼部の眼疾患が、角膜炎、角膜潰瘍、角膜血管新生、乾性角結膜炎、ドライアイ、角膜知覚消失、流行性結膜炎(pink eye)、眼球乾燥症、ブドウ膜炎、翼状片、角膜症、又は瞼裂斑である、医薬組成物。
【請求項2】
前記医薬組成物は、溶液である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記医薬組成物は、水溶液である、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記溶液のpHは、6.7以下に調整される、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記溶液のpHは、6.5〜6.7に調整される、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記組成物は、少なくとも10−5のモル濃度のジピリダモールを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記組成物は、1日おきに少なくとも1回局所的に投与される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記組成物は、対象に1日あたり240μgまでのジピリダモールを局所的に投与するために使用される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
涙器系又は前眼部の眼疾患の治療において使用するための医薬組成物であって、有効な量の局所的に投与されるジピリダモールまたはその薬学的に許容可能な塩を含み、前記涙器系又は前眼部の眼疾患が、角膜炎、角膜潰瘍、角膜血管新生、乾性角結膜炎、ドライアイ、角膜知覚消失、流行性結膜炎(pink eye)、眼球乾燥症、ブドウ膜炎、翼状片、角膜症、又は瞼裂斑である、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジピリダモールを用いる眼疾患の治療において使用するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
当技術分野において公知のように、「ドライアイ」と呼称される医学的状態は、眼の不快感という症状に関連する眼瞼間の眼球表面に損傷を生じさせる涙の欠乏または涙の過度な蒸発に起因する涙膜の障害である。現在、ドライアイには、(i)涙液欠乏性ドライアイ(ADDE)、及び(ii)蒸発性ドライアイ(EDE)という2つの主要なクラスが包含される。ADDEは主に、涙液分泌機能不全に起因する十分な涙液分泌の不足を指す。ADDEには、(i)シェーグレン症候群ドライアイ(SSDE)、及び(ii)非SSドライアイ(移植片対宿主病(GvHD)または糖尿病におけるドライアイなど)という2つの主要なサブクラスがある。EDEは、(i)瞼の構造または動態に影響を及ぼす疾患に起因する内因性のものであるか、または(ii)局所性薬剤の防腐剤、コンタクトレンズの装着、翼状片、またはビタミンA欠乏などの、何らかの外因的な曝露に起因して眼球表面の疾患が発生する外因性のものである可能性がある。
【0003】
用語「角膜潰瘍」は通常、コラーゲン分解酵素の活性化及び分泌過多によって角膜上皮、角膜実質、またはその両方が溶解して欠落する医学的状態を指す。角膜潰瘍を引き起こすコラーゲン分解酵素、細菌性コラゲナーゼ、及びマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)は、潰瘍のプロセスに関与することが知られている。
【0004】
間質コラーゲンの分解により生じる細胞外環境の変化は潰瘍を促進する。このような状態は、角膜実質細胞の活性化及び角膜実質の分解という悪循環をもたらす。抗生物質により細菌が死滅すると、細菌性コラゲナーゼの分泌が抑制され、細菌に起因する直接的な角膜実質の分解が抑制される。しかし、抗生物質の多くは、細菌から角膜実質細胞に伝わった生物学的シグナルによって引き起こされる角膜実質細胞の活性化を抑制できないため、潰瘍の進行が臨床的に観察されることがある。
【0005】
角膜の反復性びらん及び遷延性角膜上皮欠損症を含む、角膜/結膜疾患は、このような障害と関連する。角膜/結膜上皮障害の修復プロセスは、角膜上皮細胞の遊走と、これに続くその後の細胞分裂及び分化とによって上皮の欠損を填補することを伴い、その結果、正常な角膜及び結膜が再構成される。角膜知覚消失及び先天性角膜知覚消失は通常、神経障害性角膜症に発展する。神経障害性角膜症は、三叉神経の機能障害によって誘発される角膜変性疾患である。角膜知覚神経支配の機能障害または消失は、角膜上皮の欠損、潰瘍、及び穿孔の原因である。
【0006】
翼状片は、眼の透明で薄い組織(結膜)において発生する非癌性の腫瘍である。この腫瘍は、眼の白い部分(強膜)を覆い、角膜まで拡大する。翼状片は僅かに膨隆することが多く、可視の血管を含む。一方の眼または両方の眼において問題が生じる可能性がある。翼状片は炎症化し、炎症、刺激、または眼の中に何らかの異物があるような感覚を生じさせる可能性がある。腫瘍が角膜にまで十分に拡大すると、視力に影響が及ぶ可能性がある。現在、翼状片に対する公知の根治的治療は手術以外にない。
【0007】
瞼裂斑は、角膜の端部付近の、強膜上の黄色がかった僅かに膨隆した結膜肥厚である。瞼裂斑は通常、強膜の眼瞼間部分で生じ、従って、太陽に曝される。一部の場合において、瞼裂斑は腫大して炎症化し、瞼裂斑炎と呼ばれる状態となる。瞼裂斑は翼状片の形成につながり得ることが多い。現在、瞼裂斑に対する公知の根治的治療は手術以外にない。
【0008】
ブドウ膜炎は、ブドウ膜または眼球血管膜と呼ばれる眼の中間層の炎症である。ブドウ膜は、眼の中間の有色血管構造から構成され、虹彩、毛様体、及び脈絡膜を含む。欧米諸国では、前部ブドウ膜炎がブドウ膜炎の症例の50%〜90%を占めるが、アジア諸国では、その割合は28%〜50%まで低下する。ブドウ膜炎は、アメリカ合衆国における失明の症例の約10〜20%の原因であると推定されている。その原因は一般に、感染性のもの(細菌感染またはウイルス感染)であるか、あるいは自己免疫である。遺伝的要因は、この治療困難な状態の病因として作用する。
【0009】
従来技術において、ジピリダモール(2,6−ビス(ジエタノールアミノ)−4,8−ジピペリジノピリミド[5,4−d]ピリミジン)は、置換ピリミド−ピリミジンに密接に関連し、その調製が、米国特許第3,031,450号(以下ではFischer’450と呼称される)においてFischerにより教示されている。ジピリダモールは1960年代初頭に冠血管拡張薬として導入され、アデノシンの取り込み阻害に起因する血小板凝集阻害剤特性を有することが周知である。その後、ジピリダモールは、ウサギモデルにおける脳の動脈循環の研究において血栓形成を減少させることが示された。これらの研究は、ジピリダモールの抗血栓剤としての使用につながった。ジピリダモールはすぐに、脳卒中の予防などの用途、冠状動脈バイパス及び弁置換の開存性の維持、ならびに冠動脈形成術に先立つ処置のために選択される治療法となった。
【0010】
Gilbard等による特許公開第EP0234854B1号(以下ではGilbard’854と呼称される)において、環状cAMPは、涙腺におけるエキソサイトーシスのためのセカンドメッセンジャーとして機能し、涙の分泌を増加させるように作用することが示唆されている。cAMPはホスホジエステラーゼによって分解される。そのため、ホスホジエステラーゼの抑制によって、細胞内のcAMPレベルを上昇させ、従って、涙の分泌を亢進することができると考えられている。ジピリダモールはホスホジエステラーゼ阻害剤として作用すると考えられており、このメカニズムによって、その心血管系に対する恩恵の一部をもたらすと考えられている。
【0011】
しかし、Leungによる特許公開第WO2007/140181号(以下ではLeung’181と呼称される)の19ページにおいて、対照と比較して、ジピリダモールの添加後にcAMPに対してごく僅かな効果しかなかったことが開示されている。カフェインとジピリダモールの組み合わせだけが、細胞のcAMPレベルの増加を示すとされる、インビトロでcAMPを減少させるという所望の効果をもたらした。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ジピリダモールを用いる眼疾患の治療において使用するための組成物を有することが望ましい。このような組成物及び治療指標は、とりわけ、このような疾患に関連する上述の問題を克服するであろう。
【0013】
本発明の目的は、ジピリダモールを用いる眼疾患の治療において使用するための組成物及び治療指標を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
明確にするために、用語「眼疾患」は、本明細書において使用される場合、限定されるものではないが、強膜炎、移植片対宿主病(GvHD)、角膜炎、角膜潰瘍、角膜上皮剥離、雪眼炎、Thygeson点状表層角膜症、角膜血管新生、フックスジストロフィー、円錐角膜、乾性角結膜炎(ドライアイ)、虹彩炎、角膜知覚消失、神経障害性角膜症、充血眼(red eye)、流行性結膜炎(pink eye)、角膜真菌症、眼球乾燥症、網膜芽細胞腫、ブドウ膜炎、翼状片、角膜症、及び瞼裂斑のうちの任意の疾患を包含することが明確に定義される。
【0015】
さらに、用語「例示的」は本明細書において、実施形態及び/または実施の例を指すために使用され、必ずしもより望ましい使用事例を伝えることを意図しないことが留意される。同様に、用語「好ましい」は本明細書において、予期される実施形態及び/または実施の組み合わせの中からの一例を指すために使用され、必ずしもより望ましい使用事例を伝えることを意図しない。従って、「例示的」及び「好ましい」は本明細書において、複数の実施形態及び/または実施に対して適用される可能性があることが、上記より理解される。
【0016】
ジピリダモールは消化管から直ちに吸収され、ヒトにおいて経口投与後1〜3時間で最大血漿中濃度に達する。最大血漿中濃度は用量依存性であり、25mg用量で約0.5g/mL〜75mg用量で1.6g/mLの範囲である。血中濃度は極めて変化しやすく、おそらく食物摂取及び胃腸の蠕動に依存する。空腹時の経口摂取は、より高い血中濃度をもたらす可能性がある。静脈内(IV)投与後のヒトにおける分布半減期は約25分であり、経口投与後では約3時間である。20〜50mgのIV投与または経口投与後に60時間まで薬剤の血漿中濃度を追跡すると、血漿中濃度は、5分(IVのみ)、53分、及び約10〜12時間の半減期で三次指数関数的(tri-exponentially)に低下する。分布容積は140Lであり、約92〜99%が血漿タンパク質、主にアルファ1−酸性糖タンパク質、に結合している。ジピリダモールの一日経口用量(daily oral dose)は通常、100〜400mgの範囲である。
【0017】
ジピリダモールは実質的に水に不溶であり(水溶性は8.17mg/L(Meylan,WM ET AL.(1996)))、メタノールへの溶解性が非常に高い。これにより、単一の液滴によって送達される水溶液が好ましい眼への適用のための適切な方法を見出すことが困難となっている。本発明の実施形態は、ジピリダモールを用いる眼疾患の治療において使用するための組成物及び治療指標を提供する。水溶液のpHを約6.6(6.5〜6.7)に調整することによってジピリダモールが水溶液に完全に溶解するということが特定された。涙液の通常のpHは7.4であるが、投与される薬物のpHが6.6〜7.8の範囲にある限り、使用者は不快感を得ない(Sampath Kumar et al.,「Recent Challenges and Advances in Ophthalmic Drug Delivery System,」 The Pharma Innovation,Vol.1,No.4(2012))。
【0018】
水への溶解を達成するために、超音波混合、あるいはメタノール、クロロホルム、酢酸、DMSO、またはジピリダモールが可溶である他の担体にジピリダモールを溶解して、その後水または生理食塩水を加えた後、上記担体の全てまたは一部を除去する方法などの他の方法を使用してよい。別の方法は、水/生理食塩水に混合する前に当該化合物を粉砕してナノ粒子サイズにすることを伴う可能性がある。以下で説明される、より希薄な例示的製剤C及びDを調製する場合、酸性化はあまり必要ではなかったことが留意されるべきである。点眼については水溶液が好ましい傾向にあるが、水溶性の問題を克服するための別の方法は、オイル基剤またはクリーム基剤中でジピリダモールを調製することである。
【0019】
本発明の態様によれば、ジピリダモールは、生理食塩水製剤で局所的に適用される場合に眼の医学的状態の治療において有効であることが見出された。ジピリダモールの局所適用は、例えば、移植片対宿主病(GvHD)、糖尿病、アレルギー性結膜炎、コンタクトレンズに関連するドライアイ、及びシェーグレン症候群によって引き起こされるドライアイを治療する役割を果たす可能性がある。
【0020】
本発明の例示的実施形態において、局所的なジピリダモールはまた、例えば、ウイルス感染、細菌感染、真菌感染、コンタクトレンズの装着に起因する損傷、外傷、及び寄生虫感染により生じる角膜潰瘍を治療するために使用されてもよい。さらに、局所的なジピリダモールはまた、翼状片、角膜知覚消失、及び角膜血管新生の治療のために使用されてもよい。
【0021】
従って、本発明によれば、眼疾患の治療において使用するための組成物であって、有効量の局所的に投与されるジピリダモールを含む組成物が初めて提供される。好ましくは、局所的に投与されるジピリダモールは溶液として製剤化される。好ましくは、局所的に投与されるジピリダモールは、ジピリダモール及びその薬学的に許容可能な塩から成る群より選択される少なくとも1種の剤である。好ましくは、有効量は、少なくとも約10
−5のモル濃度の濃度に相当する。好ましくは、有効量は、1日おきに少なくとも1回の治療投与に基づく。これらの実施形態及びさらなる実施形態は、以下の詳細な説明及び実施例から明らかとなるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0022】
好ましい実施形態の説明
本発明は、ジピリダモールを用いる眼疾患の治療において使用するための組成物に関する。付随する説明の参照により、本発明によるこのような組成物についての態様、使用、及び利点をより理解することができる。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって最も適切に定義されるものであり、当該説明は限定的な意味として解釈されるべきではなく、本発明の一般的原則を例示するのに過ぎない。以下では、本発明の例示的実施形態を以下の例示的製剤において詳細に述べる。
【0023】
例示的製剤A
ジピリダモール点眼剤を以下のように調製した。100mLの生理食塩水(滅菌水中0.9%(w/v)の塩化ナトリウム)に1gのクエン酸を混合してpHを6.7とした。8.5mgのジピリダモールを秤量して滅菌のために30分間UVBを照射し、上記の100mLの生理食塩水で希釈した。その後、この溶液を、滅菌のために0.22ミクロンのフィルターでろ過し、1mL当たり85mcgのジピリダモールを含む溶液を得た。点眼器(dropper)を用いて、1滴(約0.05mLに相当)を眼に適用した。
【0024】
例示的製剤B
ジピリダモール点眼剤を以下のように調製した。100mLの生理食塩水(滅菌水中0.9%(w/v)の塩化ナトリウム)に1gのクエン酸を混合してpHを6.7とした。4.25mgのジピリダモールを秤量して滅菌のために30分間UVBを照射し、上記の100mLの生理食塩水で希釈した。その後、この溶液を、滅菌のために0.22ミクロンのフィルターでろ過し、1mL当たり42.5mcgのジピリダモールを含む溶液を得た。点眼器を用いて、1滴(約0.05mLに相当)を眼に適用した。
【0025】
例示的製剤C
ジピリダモール点眼剤を以下のように調製した。100mLの生理食塩水(滅菌水中0.9%(w/v)の塩化ナトリウム)に1gのクエン酸を混合してpHを6.7とした。2.125mgのジピリダモールを秤量して滅菌のために30分間UVBを照射し、上記の100mLの生理食塩水で希釈した。その後、この溶液を、滅菌のために0.22ミクロンのフィルターでろ過し、1mL当たり21.25mcgのジピリダモールを含む溶液を得た。点眼器を用いて、1滴(約0.05mLに相当)を眼に適用した。
【0026】
例示的製剤D
ジピリダモール点眼剤を以下のように調製した。100mLの生理食塩水(滅菌水中0.9%(w/v)の塩化ナトリウム)に1gのクエン酸を混合してpHを6.7とした。1.0625mgのジピリダモールを秤量して滅菌のために30分間UVBを照射し、上記の100mLの生理食塩水で希釈した。その後、この溶液を、滅菌のために0.22ミクロンのフィルターでろ過し、1mL当たり10.625mcgのジピリダモールを含む溶液を得た。点眼器を用いて、1滴(約0.05mLに相当)を眼に適用した。
【0027】
結果
GvHDに関連するドライアイに罹患した5人の男性を、毎日2回、左右両方に対して1滴ずつの製剤Aで処置した。ドライアイ症状の主観的な緩和が半時間以内に達成された。患者はその後、毎日2回の適用を必要とした。3日間の使用の後、眼の充血(またはピンクアイ(pink eye))は消失した。
【0028】
糖尿病に関連するドライアイに罹患した2人の女性を、毎日2回、左右両方に対して1滴ずつの製剤Cで処置した。ドライアイ症状の緩和が1時間以内に達成された。患者はその後、毎日2回の適用を必要とした。5日間の使用の後、眼の充血(またはピンクアイ)は消失した。
【0029】
糖尿病に関連するドライアイに罹患した1人の女性を、1日おきに1回、左右両方に対して1滴ずつの製剤Bで処置した。ドライアイ症状の緩和が20分以内に達成された。患者はその後、1日おきに1回の適用を必要とした。10日間の使用の後、眼の充血(またはピンクアイ)は消失した。1日おきに1回の投与によるメンテナンスを続けた。
【0030】
角膜潰瘍を伴うウイルス性の眼感染症に罹患した1人の男性を、毎日2回、左右両方に対して1滴ずつの製剤Bで処置した。滲出は8時間以内に治まった。患者はその後、毎日2回の適用を必要とした。4日間の使用の後、眼の充血(またはピンクアイ)は消失し、5日以内に眼は完全に治癒した。
【0031】
関連するドライアイ及びピンクアイを伴う翼状片に一方の眼が罹患した1人の男性を、毎日2回、1滴の製剤Bで処置した。ドライアイ症状の緩和が1日以内に達成された。患者はその後、毎日2回の適用を必要とした。10日間の使用の後、眼の充血(またはピンクアイ)は消失した。6週間の使用の後、翼状片は、そのサイズの約半分に縮小し、継続的な使用によりそのサイズは減少し続けた。
【0032】
関連するドライアイ及び炎症を伴う翼状片に一方の眼が罹患した1人の女性を、毎日2回、1滴の製剤Cで処置した。ドライアイ症状の緩和が2日以内に達成された。患者はその後、毎日2回の適用を必要とした。8週間の使用の後、翼状片は、そのサイズの約半分に縮小し、継続的な使用によりそのサイズは減少し続けた。
【0033】
実質まで波及した深部角膜潰瘍に一方の眼が罹患した1人の男性を、毎日3回、1滴の製剤Aで処置した。疼痛及び刺激の緩和が24時間以内に達成された。患者はその後、毎日2回の適用を必要とした。7日間の使用の後、角膜は完全に再上皮化した。
【0034】
糖尿病に関連する角膜知覚消失(神経障害性角膜症)に罹患した3人の女性を、毎日1滴の製剤Cで処置した。角膜知覚消失の症状は、2〜3日以内に改善し始めた。患者はその後、毎日2回の適用を必要とした。約3週間の使用の後、患者は、症状の完全な緩和を報告した。
【0035】
糖尿病に関連する血管新生に罹患した1人の男性を、毎日2回、1滴の製剤Aで処置した。4週間の使用の後に調べると、細隙灯顕微鏡検査によっては、異常な血管はもはや見られなかった。
【0036】
角膜上皮剥離(すなわち、角膜潰瘍の発症)を伴うウイルス性の眼感染症に罹患した2人の男性を、毎日2回、左右両方に対して1滴ずつの製剤Aで処置した。滲出は5時間以内に治まった。患者はその後、毎日2回の適用を必要とした。2〜3日間の使用の後、眼の充血(またはピンクアイ)は消失し、5〜6日以内に眼は完全に治癒した。
【0037】
角膜潰瘍に一方の眼が罹患した1人の女性を、毎日2回、1滴の製剤Aで処置した。疼痛及び刺激の緩和が1日以内に達成された。患者はその後、毎日2回の適用を必要とした。7日間の使用の後、潰瘍は完全に治癒した。
【0038】
糖尿病に関連するドライアイに罹患した4人の男性を、毎日2回、左右両方に対して1滴ずつの製剤Aで処置した。ドライアイ症状の緩和が平均で半時間以内に達成された。患者はその後、毎日2回の適用を必要とした。平均で1週間の使用の後、眼の充血(またはピンクアイ)は完全に消失した。
【0039】
糖尿病に関連する角膜知覚消失に罹患した2人の女性を、毎日1滴の製剤Aで処置した。角膜知覚消失の症状は2日以内に改善し始めた。約1週間の使用の後、患者は、症状の完全な緩和を報告した。
【0040】
糖尿病に関連する血管新生に罹患した1人の男性を、毎日2回、1滴の製剤Cで処置した。患者はその後、毎日2回の適用を必要とした。16日間の使用の後に調べると、細隙灯顕微鏡撮影検査(slit-lamp photography examination)によっては、異常な血管はもはや見られなかった。
【0041】
GvHDに関連するドライアイに罹患した6人のヒト患者を、毎日2回、左右両方に対して1滴ずつの製剤Cで処置した。ドライアイ症状の緩和が1時間以内に達成された。患者はその後、毎日2回の適用を必要とした。平均で1週間の使用の後、眼の充血(またはピンクアイ)は消失した。
【0042】
両方の眼が前部ブドウ膜炎に罹患した1人の男性を、毎日3回、1滴の製剤Cで処置した。疼痛の緩和が3日以内に達成された。視力障害は7日以内に解消した。炎症は14日以内に完全に解消したようであった。患者はその後、寛解を維持するために毎日2回の適用を続けた。
【0043】
両方の眼が前部ブドウ膜炎に罹患した1人の男性を、毎日3回、1滴の製剤Bで処置した。疼痛の緩和が2日以内に達成された。視力障害は14日以内に解消した。炎症は18日以内に完全に解消したようであった。患者はその後、寛解を維持するために毎日2回の適用を続けた。
【0044】
GvHDに関連するドライアイに罹患した3人のヒト患者を、毎日2回、左右両方に対して1滴ずつの製剤Dで処置した。ドライアイ症状の緩和が1時間以内に達成された。患者はその後、毎日2回の適用を必要とした。平均で1週間の使用の後、眼の充血(またはピンクアイ)は消失した。
【0045】
さらなる好ましい実施形態及び試験
ジピリダモールを滅菌水に溶解することにより、ジピリダモール点眼剤を調製した。必要に応じてpHを調整し、溶解を達成した。5mcg/ml〜200mcg/mlの範囲の複数の濃度で調製した。その後、滅菌処置をおこなった。
【0046】
(8:1:1)の比率の黄色ワセリン、流動パラフィン及び羊毛脂から成る基剤にジピリダモールを混合することにより、ジピリダモール眼軟膏を調製した。5mcg/ml〜200mcg/mlの範囲の複数の濃度で調製した。その後、滅菌処置をおこなった。
【0047】
ジピリダモール点眼剤(毎日1〜3回、1滴(約0.05ml))またはジピリダモール眼軟膏(約0.1〜0.3ml(毎日1〜2回))のいずれかを、シェーグレンに関連するドライアイ、非特異性角膜炎(non-specific keratitis)、円錐角膜またはアレルギー性結膜炎に罹患した対象の眼に投与した。許容される場合、使用する濃度を徐々に増加させた。
【0048】
結果
シェーグレンに関連するドライアイ:滴剤/軟膏を適用すると、一過性の刺すような感覚が僅かに得られた。ドライアイ症状の部分的な緩和が、適用して1時間以内に起こった。緩和は、約7日間の継続使用の後に完全なものとなり、一部の患者において毎日投与することで、ならびに、他の患者において周期的(3〜4日毎)に投与することで継続した。
【0049】
非特異性角膜炎:滴剤/軟膏を適用すると、一過性の刺すような感覚が僅かに得られた。疼痛強度の低下が、適用して1〜2時間以内に得られた。疼痛の緩和は、滴剤/軟膏の3〜4回の周期的適用(数時間間隔)の後に完全なものとなった。継続的に適用して2〜7日間以内に角膜炎の完全な解消が達成された。
【0050】
円錐角膜:3カ月間毎日投与(毎日1〜2回)することにより、2人の対象において、シリンダーの数を4分の1〜2分の1低下させることが可能になる乱視の改善がもたらされた。
【0051】
結膜炎(非特異性):滴剤/軟膏を適用すると、一過性の刺すような感覚が僅かに得られた。結膜炎の症状(そう痒、炎症または過度の流涙)の部分的な緩和が、適用して1時間以内に起こった。毎日1〜2回の適用を続けた。2〜4日間の使用の後、滲出を含む全ての症状が緩和された。
【0052】
限られた数の実施形態について本発明が説明されてきたが、本発明について多くの変更、改変、及び他の適用がなされてよいことが理解されるであろう。
【0053】
段落0002、0003、0004、0005、0006、0007、0008、0014、0019、0020、0027、0028、0029、0030、0031、0032、0033、0034、0035、0036、0038、0039、0040、0041、0042、0043、0044、0047、0048、0049、0050及び0051に記載されるような本願の説明に記載される眼疾患は全て、眼の前眼部(結膜を含む)及び/または涙器系に影響を及ぼすことが公知である。
【0054】
産業上の利用可能性
ジピリダモールを用いた組成物は眼疾患の治療において利用され、このような疾患に関連する問題を克服する技術革新である。