特許第6820710号(P6820710)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 電気化学工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6820710
(24)【登録日】2021年1月7日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】腐植酸含有三要素液体肥料
(51)【国際特許分類】
   C05F 11/02 20060101AFI20210114BHJP
   C05G 5/20 20200101ALI20210114BHJP
   C05G 1/00 20060101ALI20210114BHJP
   A01G 31/00 20180101ALI20210114BHJP
   C05C 9/00 20060101ALI20210114BHJP
   C05C 1/00 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
   C05F11/02
   C05G5/20
   C05G1/00 F
   A01G31/00 601A
   C05C9/00
   C05C1/00
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-196716(P2016-196716)
(22)【出願日】2016年10月4日
(65)【公開番号】特開2018-58721(P2018-58721A)
(43)【公開日】2018年4月12日
【審査請求日】2019年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】一條 利治
(72)【発明者】
【氏名】白石 智子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 博志
【審査官】 横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭46−034168(JP,B1)
【文献】 米国特許第04319041(US,A)
【文献】 特開平09−048687(JP,A)
【文献】 特開2005−089625(JP,A)
【文献】 特開2007−196172(JP,A)
【文献】 特開2017−071522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C05F1/00−17/02
C05C1/00
C05C9/00
C05G1/00
C05G5/20
A01G31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)〜(4)の成分を含み、pHが6.5〜7.5、液温20℃における沈殿の含有率が1.0質量%以下である腐植酸含有三要素液体肥料。
(1)腐植酸がTOCとして1.0〜3.0質量%
(2)窒素成分が窒素換算で4.0〜10.5質量%
(3)リン酸成分が五酸化リン換算で1.0〜4.5質量%
(4)カリウム成分が酸化カリウム換算で3.0〜6.5質量%
【請求項2】
窒素成分、リン酸成分およびカリウム成分が以下の(1)〜(3)である請求項1記載の腐植酸含有三要素液体肥料。
(1)窒素成分が尿素および硝酸アンモニウムの少なくとも1つ以上
(2)リン酸成分がリン酸およびリン酸水素二カリウムの少なくとも1つ以上
(3)カリウム成分が水酸化カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウムおよびリン酸水素二カリウムの少なくとも1つ以上
【請求項3】
pH5.0〜7.0の腐植酸抽出液を用い、肥料成分を溶解させた請求項1または請求項2に記載の腐植酸含有三要素液体肥料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は腐植酸を含有する三要素液体肥料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腐植酸は植物に対して生育促進等の効果があるとされ(非特許文献1、2)、肥料用途として腐植酸を用いることが提案されている。さらにこの腐植酸を抽出し液状化する技術も提案されている(特許文献1、2)。
【0003】
ここで腐植酸とは土壌中、陸水中に存在する天然高分子有機物であり、褐炭、泥炭中に含まれるもの、細菌群の代謝産物と動植物由来の天然腐植酸がある。また工業的には、褐炭等の若年炭を酸化分解したもの(特許文献3)あるいは該酸化分解物のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩等の合成物等、多くのものがある(特許文献4、5)。
【0004】
これら腐植酸を肥料用途として使用する場合は、窒素、リン酸、カリウム等の肥料成分との併用が望ましい。腐植酸には発根促進、肥料成分の吸収を促す等の効果があるが、上記の肥料成分を供給する能力は低いか、殆どないためである。
【0005】
近年土壌に液体肥料を施用する養液土耕栽培がトマト等の園芸作物で普及し、液体肥料の用途が広がりつつある。また、植物工場等の水耕栽培も普及しつつある。このため、腐植酸を液体肥料として使用するため、その効果的な抽出方法が提案されている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-196172号公報
【特許文献2】特開2005-89615号公報
【特許文献3】特公昭40−14122号公報
【特許文献4】特開昭60−18565号公報
【特許文献5】特開昭51−72987号公報
【特許文献6】特願2015−198501号
【0007】
【非特許文献1】明石ら、日本土壌肥料学雑誌、第46巻、第5号、P175-179
【非特許文献2】山田ら、日本土壌肥料学雑誌、第73巻、第6号、P777-781
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般的に腐植酸はアルカリ側で溶解性が良いため、pH7.0以上で抽出を実施するケースが多く、市販品のpHは12前後と強アルカリ性を呈している場合が多い。このため肥料用途とする場合には、作物体の至適pHと異なる上、肥料成分の溶解性が悪化するケースも考えられる。また取扱い上の危険性もある。
【0009】
液体肥料は輸送コストを低減させる等のため、供給時に濃縮状態で出荷し使用時に水で300〜1,000倍程度に希釈して使用する場合が多い。
【0010】
腐植酸は上記の様に適切な肥料成分との併用が必要であるが、肥料成分が濃縮された状態で混合すると塩析や共沈により腐植酸の沈殿が生ずるなどの問題がある。液体肥料は希釈時に速やかに溶解し均一化する事が利点の一つとしてあげられるが、沈殿が生じた液体肥料は撹拌して溶解する等の手間が必要となる。また、塩析等で生じた腐植酸の沈殿は再溶解しにくく成分の不均一が生ずることに加え、沈殿による送液ラインの目詰まりの懸念がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る腐植酸含有三要素液体肥料は、pHが植物の生育に適した中性付近であり、濃縮状態でも沈殿を形成しにくい窒素、リン酸、カリウムの三要素肥料成分を含有した液体肥料である。
【0012】
肥料成分の溶解によりpHが変動するが、腐植酸抽出液のpHを5.0〜7.0の範囲であれば、目的とするpH範囲とすることが可能である。腐植酸の抽出pHを限定し、溶解させる肥料成分の種類を規定する事により、上記の問題点を解決する事が可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、腐植酸と窒素、リン酸、カリウムの三要素肥料成分を含有する濃縮液体肥料を提供できる。これらの腐植酸含有三要素液体肥料は植物の生育に適したpHであり、沈殿が生じにくく、希釈時に速やかに溶解し、成分の均一化が図れ、送液装置の目詰まり等のトラブルを防止する事が可能である。これにより、腐植酸と肥料成分を組み合わせた、作物の生育に適した腐植酸含有三要素液体肥料の組成を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る腐植酸含有三要素液体肥料の実施形態を説明する。
【0015】
[pHの測定]
腐植酸含有三要素液体肥料のpH測定はガラス電極法にて実施した。濃縮状態の液体肥料は、水で希釈すると希釈効果によりpHが変化する。ここでは濃縮状態でpHを測定し、目標となるpH範囲であればpH7.0に近づき目標とする範囲内でおさまるため濃縮状態での測定とした。
【0016】
[全有機炭素濃度]
抽出液の全有機炭素(TOC)濃度の測定方法は、全有機体炭素計(島津製作所製TOC-L)を用いて燃焼触媒酸化方式で測定した値である。TOCは直接、腐植酸の定量値ではない。煩雑な腐植酸の定量法(国際腐植物質学会法等)に比べ、簡易に定量可能なTOCを本発明では指標としている。この値間には強い相関があり、原料とする褐炭の種類などにより異なるが、腐植酸量はTOCの1.4〜1.8倍量と推定できる。
【0017】
[沈殿量の検証]
あらかじめ20℃とした腐植酸含有三要素液体肥料を50ml容の遠沈管に35g分取し、3,500×g、5分間遠心分離を実施した。上澄み部を除き、沈殿部を105℃で恒量まで乾燥し、沈殿部を秤量して沈殿質量を求めた。腐植酸含有三要素液体肥料の沈殿量を沈殿率(沈殿質量÷液体肥料質量×100(質量%))としてあらわした。
【0018】
[肥料成分の含有量と表記]
肥料成分はその成分の含有量として表記するが、窒素成分は窒素(N)としてあらわす。リン酸、カリウムは慣例的に酸化物の形で表記され、五酸化リン(P2O5)、酸化カリウム(K2O)の含有量に換算して表す。以下、肥料成分の含有量や表記は上記とする。
【0019】
本実施形態に係る腐植酸は、褐炭等の若年炭を硝酸で酸化し得られる腐植酸粗製物から水酸化カリウム水溶液を用いpH5.0〜7.0で抽出し遠心分離を行った溶液を用いる(特許文献6)。この腐植酸抽出液に肥料成分を溶解させる。
【0020】
肥料成分は、表1の原料が選択可能である。
【0021】
【表1】

【0022】
これらの原料は水溶性であり、検討の結果、腐植酸抽出液との混合が可能であり、pHと目標成分値を考慮し適宜組み合わせを選択する事で沈殿が生じにくい事を見出した。
【0023】
腐植酸と三要素肥料成分の混合割合は葉菜類(たとえばコマツナ)や果菜類(たとえばトマト)等の作物の種類や施肥用途により変えることが望ましい。
【0024】
施用回数により適宜調整する必要があるが、葉菜類のように三要素成分と腐植酸をバランス良く施用する場合は、肥料成分と腐植酸の配合割合を同等とした設計が可能である。また果菜類のように三要素肥料を主体として腐植酸を補助的に使用するケースでは、三要素肥料の割合を増し腐植酸の配合量を減ずる設計も可能である。以下、追肥用途等では一般的な、V字型の設計(成分値が、窒素=カリウム>リン酸となる設計)を代表として説明する。
【0025】
〈作用効果〉
以下、上記実施形態に係る腐植酸含有三要素液体肥料の作用効果について説明する。
【0026】
上記実施形態に係る腐植酸含有三要素液体肥料は、若年炭の硝酸酸化物から抽出された、腐植酸抽出液に肥料成分を加えpH6.5〜7.5となる沈殿が生じにくい濃縮液であることを特徴とする。肥料成分の溶解により調製した液体肥料のpHは変動するが、pH5.0〜7.0の腐植酸抽出液を用い、溶解させる肥料成分を適宜選択する事により、pHが中性付近であり沈殿の生じにくい腐植酸含有三要素液体肥料の調製が可能である。
【0027】
腐植酸含有三要素液体肥料は、使用用途、対象作物により腐植酸および肥料原料の種類、含有量を、上記の原料から選択し製造する事が可能である。
【0028】
これら腐植酸含有三要素液体肥料はpHが作物の生育に適する中性付近であり、さらに沈殿が生じにくいため、均一な希釈液の作製が容易であり、養液土耕栽培および水耕栽培等の液体肥料として使用する事が可能である。
【実施例】
【0029】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0030】
[実施例1]
[腐植酸抽出液]
褐炭500gを2リットルのビーカーに入れて、濃度48質量%の硝酸630gを添加した。70℃の水浴中で約1時間酸化反応を行った後、105℃で乾燥し腐植酸粗製物を得た。
この腐植酸粗製物100gに0.5mol/Lの水酸化カリウム水溶液を約900mL加え、pH計でモニタしながら1.0mol/Lの水酸化カリウム水溶液を適宜加えpH6.5とした。1リットルとなるように水を加え、80℃で1時間抽出した。この抽出液を、3,000×gで10分間遠心分離し、腐植酸はTOCとして3.7質量%、カリウム成分は酸化カリウム換算で1.8質量%の腐植酸抽出液を得た。この腐植酸抽出液820gに水を50g加え、尿素92g、リン酸水素二カリウム38gを順次加え、撹拌溶解させ1,000gの腐植酸含有三要素液体肥料を調製した。この液体肥料のpHおよび沈殿率を上記により測定した。
【0031】
[実施例2]
腐植酸粗製物100gに0.4mol/Lの水酸化カリウム水溶液を約900mL加え、pH計でモニタしながらpH5.5とした。また、得られたpH5.5抽出の腐植酸抽出液450g、水408g、リン酸水素二カリウム50gとしたこと以外、実施例1と同様に実施した。尚、実施例2の腐植酸抽出液は腐植酸TOC3.0質量%、カリウム成分は酸化カリウム換算で1.4質量%となった。
【0032】
[比較例1]
腐植酸粗製物100gに0.6mol/Lの水酸化カリウム水溶液を約900mL加え、pH計でモニタしながらpH8.0とした。また、得られたpH8抽出の腐植酸抽出液740g、水138g、リン酸水素二カリウム30gとしたこと以外、実施例1と同様に実施した。尚、比較例1の腐植酸抽出液は腐植酸TOC4.1質量%、カリウム成分は酸化カリウム換算で2.5質量%となった。
【0033】
[比較例2]
腐植酸粗製物100gに0.6mol/Lの水酸化カリウム水溶液を約900mL加え、pH計でモニタしながらpH8.0とした。また、得られたpH8抽出の腐植酸抽出液350g、水516g、リン酸水素二カリウム42gとしたこと以外、実施例1と同様に実施した。
【0034】
【表2】

【0035】
表2の結果に示すように、本発明に係る実施例1、2の腐植酸含有三要素液体肥料は、pHが6.5〜7.5の範囲内、沈殿率が1%以下であり、窒素、リン酸、カリウムの成分量も目標範囲となっている。比較例1、2は沈殿率、成分量も目標範囲ながら、pHが目標値を上回っている。腐植酸抽出液のpHが高い事に加え、溶解させる肥料成分がアルカリ性であるため、pHが上昇したと考えられる。比較例2のように、腐植酸の添加量が少ない設計ではpH緩衝能が低くなると想定され、よりpHの上昇につながる場合もある。腐植酸抽出液のpHと添加量を適宜選択する事により、目標となる範囲の腐植酸含有三要素液体肥料が得ることが出来る。
【0036】
[肥料成分の選択]
以降の実施例、比較例はpH6.5の腐植酸抽出液を用いた。
【0037】
[実施例3]
pH6.5の腐植酸抽出液820gに水を36g加え、尿素92g、85質量%リン酸液28g、水酸化カリウム24gを順次加えたこと以外、実施例1と同様に実施した。
【0038】
[実施例4]
pH6.5の腐植酸抽出液820gに、硝酸アンモニウム130g、リン酸水素二カリウム38gを順次加えたこと以外、実施例1と同様に実施した。
【0039】
[実施例5]
pH6.5の腐植酸抽出液820gに水を15g加え、硝酸アンモニウム130g、リン酸水素二カリウム30g、塩化カリウム5gを順次加えたこと以外、実施例1と同様に実施した。
【0040】
[実施例6]
pH6.5の腐植酸抽出液820gに水を15g加え、硝酸アンモニウム130g、リン酸水素二カリウム30g、硫酸カリウム5gを順次加えたこと以外、実施例1と同様に実施した。
【0041】
[比較例3]
腐植酸抽出液820gに水を38g加え、尿素92g、リン酸二水素カリウム50gを順次加えたこと以外、実施例1と同様に実施した。
【0042】
[比較例4]
腐植酸抽出液820gに70%硝酸128g、85質量%リン酸液28g、水酸化カリウム24gを順次加えたこと以外、実施例1と同様に実施した。
【0043】
[比較例5]
腐植酸抽出液820gに20%アンモニア水128g、85質量%リン酸液28g、水酸化カリウム24gを順次加えたこと以外、実施例1と同様に実施した。
【0044】
【表3】

【0045】
表3の結果に示すように、本発明に係る実施例3〜6の腐植酸含有三要素液体肥料は、pH、沈殿率、成分率ともに目標を達成している。一方、比較例3、4は腐植酸抽出液がゲル化し、pH、沈殿率ともに測定不能であり目標とする腐植酸含有三要素液体肥料を得られない。比較例5は沈殿率が良好であるが、pHが大幅に上昇し、成分量も目標値を達成していない。酸性、またはアルカリ性の肥料成分は、混和時のpH変動が大きく、特に酸性側では沈殿形成に寄与してしまう。また、成分率の低い原料では目標とする成分量を達成できない。
【0046】
[肥料成分の選択2]
【0047】
[実施例7]
pH6.5の腐植酸抽出液275gに水を430g加え、尿素220g、85質量%リン酸液75g、水酸化カリウム70gを順次加えたこと以外、実施例1と同様に実施した。
【0048】
[比較例6]
pH6.5の腐植酸抽出液275gに水を395g加え、尿素220g、リン酸水素二カリウム110gを順次加えたこと以外、実施例1と同様に実施した。
【0049】
【表4】

【0050】
表4の結果に示すように、本発明に係る実施例7の腐植酸含有三要素液体肥料は、果菜類の追肥用途として肥料成分を高めたものであるが、pH、沈殿率、成分率ともに目標を達成している。一方、比較例6の腐植酸含有三要素液体肥料はpHが高く、沈殿率も高い。肥料成分の目標値は十分であるが、添加量が多いためpHの上昇も高い。さらに、溶解度も低く沈殿率も悪化している。
【0051】
[栽培試験]
以下、葉菜類用途として試作した、腐植酸含有三要素液体肥料の効果を検証するために栽培試験を実施した。コマツナ(品種:楽天、タキイ種苗株式会社)を供試作物とし、ポット栽培により腐植酸含有三要素液体肥料の栽培試験を実施した。1.2リットル容のポリ製ポット(株式会社藤原製作所製)に赤玉土1Lを入れ、基肥として炭酸カルシウム1.0g、硫酸アンモニウム0.33g、過リン酸石灰0.29g、塩化カリウム0.08gを施用した。尚、これは10aあたり、窒素成分7kg、リン酸成分5kg、カリウム成分5kg施用と同等の施肥量である。
【0052】
あらかじめセルトレイで発芽、育苗した3葉期の苗をポットに移植し、35日間栽培を行った。潅水は作物の状態を観察し適宜実施した。栽培後、地上部(茎葉部)を刈り取り、それぞれの質量を測定し収量とした。試験はn=5で実施し、平均値であらわした。
【0053】
[実施例8]実施例1で得た腐植酸含有三要素液体肥料を1,000倍となるように水で希釈したものを、7日毎にポットあたり50ml施用した。栽培期間中、4回施用した。
【0054】
[比較例7]添加した腐植酸含有三要素液体肥料のかわりに、腐植酸含有三要素液体肥料と同等の窒素、リン酸、カリウム成分を含有する対照液肥を調製し、実施例8と同様に実施した。
【0055】
【表5】

【0056】
以下、果菜類用途として試作した、腐植酸含有三要素液体肥料の効果を検証するために栽培試験を実施した。トマト(品種:CF桃太郎ヨーク、種苗店で苗を購入)を供試作物とし、デンカ株式会社青海工場内の加温温室で栽培試験を実施した。1試験区は16株とした。基肥として、株当たり窒素成分を10.8g、リン酸成分を10.2g、カリウム成分を10.8g施用した。尚、これは10aあたり、窒素成分16kg、リン酸成分15kg、カリウム成分16kg施用と同等の施肥量である。
【0057】
2015年10月27日に苗を定植し、第一花房の開花期である2015年12月21日に第1回目の追肥、2016年1月29日に第2回の追肥を実施した。トマト果実の収穫は1月下旬頃より開始し、約1か月間の初期収穫量を計測した。
【0058】
[実施例9]実施例7で得た腐植酸含有三要素液体肥料を50倍となるように水で希釈したものを、株当たり1,000ml施用した。上記の通り、栽培期間中に2回施用した。
【0059】
[比較例8]実施例9で添加した腐植酸含有三要素液体肥料のかわりに、実施例9と同等の窒素、リン酸、カリウム成分を含有する対照液肥を調製し、実施例9と同様に実施した。
【0060】
【表6】

【0061】
表5の結果に示すように、本発明に係る実施例1の腐植酸含有三要素液体肥料はコマツナの生育に有効に働き、地上部の生育量を増加させた。肥料成分の効果に加え、腐植酸の生育促進効果と合わせ、地上部の生育に寄与したと考えられる。
【0062】
また、表6の結果に示すように、本発明に係る実施例9の腐植酸含有三要素液体肥料はトマトの収穫量が大幅に向上した。本実施例は収穫開始から約1か月間の短期間のデータである。初期の収穫量が向上した事は、作物の生育促進効果、収穫の早期化につながった結果だと考察できる。
【0063】
以上、2つの栽培試験結果から、成分濃度の違う液体肥料、対象作物や使用濃度が異なるものの、腐植酸を含有する三要素肥料の効果は大きく、農業生産上、有効な資材であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
腐植酸は窒素、リン酸、カリウム等の肥料成分との併用で作物体の生育を促す等の農業上の利点がある。本発明に係る腐植酸液肥は、窒素、リン酸、カリウムの三要素肥料成分を含み、pHが作物の生育に適する中性付近であり、さらに濃縮状態でも沈殿を形成しにくい腐植酸含有三要素液体肥料である。これら腐植酸含有三要素液体肥料は希釈時に容易に均一化し、養液栽培等で使用した場合に、沈殿が生じないため送液ラインの目詰まり等のトラブルを回避できる。