【実施例】
【0029】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0030】
[実施例1]
[腐植酸抽出液]
褐炭500gを2リットルのビーカーに入れて、濃度48質量%の硝酸630gを添加した。70℃の水浴中で約1時間酸化反応を行った後、105℃で乾燥し腐植酸粗製物を得た。
この腐植酸粗製物100gに0.5mol/Lの水酸化カリウム水溶液を約900mL加え、pH計でモニタしながら1.0mol/Lの水酸化カリウム水溶液を適宜加えpH6.5とした。1リットルとなるように水を加え、80℃で1時間抽出した。この抽出液を、3,000×gで10分間遠心分離し、腐植酸はTOCとして3.7質量%、カリウム成分は酸化カリウム換算で1.8質量%の腐植酸抽出液を得た。この腐植酸抽出液820gに水を50g加え、尿素92g、リン酸水素二カリウム38gを順次加え、撹拌溶解させ1,000gの腐植酸含有三要素液体肥料を調製した。この液体肥料のpHおよび沈殿率を上記により測定した。
【0031】
[実施例2]
腐植酸粗製物100gに0.4mol/Lの水酸化カリウム水溶液を約900mL加え、pH計でモニタしながらpH5.5とした。また、得られたpH5.5抽出の腐植酸抽出液450g、水408g、リン酸水素二カリウム50gとしたこと以外、実施例1と同様に実施した。尚、実施例2の腐植酸抽出液は腐植酸TOC3.0質量%、カリウム成分は酸化カリウム換算で1.4質量%となった。
【0032】
[比較例1]
腐植酸粗製物100gに0.6mol/Lの水酸化カリウム水溶液を約900mL加え、pH計でモニタしながらpH8.0とした。また、得られたpH8抽出の腐植酸抽出液740g、水138g、リン酸水素二カリウム30gとしたこと以外、実施例1と同様に実施した。尚、比較例1の腐植酸抽出液は腐植酸TOC4.1質量%、カリウム成分は酸化カリウム換算で2.5質量%となった。
【0033】
[比較例2]
腐植酸粗製物100gに0.6mol/Lの水酸化カリウム水溶液を約900mL加え、pH計でモニタしながらpH8.0とした。また、得られたpH8抽出の腐植酸抽出液350g、水516g、リン酸水素二カリウム42gとしたこと以外、実施例1と同様に実施した。
【0034】
【表2】
【0035】
表2の結果に示すように、本発明に係る実施例1、2の腐植酸含有三要素液体肥料は、pHが6.5〜7.5の範囲内、沈殿率が1%以下であり、窒素、リン酸、カリウムの成分量も目標範囲となっている。比較例1、2は沈殿率、成分量も目標範囲ながら、pHが目標値を上回っている。腐植酸抽出液のpHが高い事に加え、溶解させる肥料成分がアルカリ性であるため、pHが上昇したと考えられる。比較例2のように、腐植酸の添加量が少ない設計ではpH緩衝能が低くなると想定され、よりpHの上昇につながる場合もある。腐植酸抽出液のpHと添加量を適宜選択する事により、目標となる範囲の腐植酸含有三要素液体肥料が得ることが出来る。
【0036】
[肥料成分の選択]
以降の実施例、比較例はpH6.5の腐植酸抽出液を用いた。
【0037】
[実施例3]
pH6.5の腐植酸抽出液820gに水を36g加え、尿素92g、85質量%リン酸液28g、水酸化カリウム24gを順次加えたこと以外、実施例1と同様に実施した。
【0038】
[実施例4]
pH6.5の腐植酸抽出液820gに、硝酸アンモニウム130g、リン酸水素二カリウム38gを順次加えたこと以外、実施例1と同様に実施した。
【0039】
[実施例5]
pH6.5の腐植酸抽出液820gに水を15g加え、硝酸アンモニウム130g、リン酸水素二カリウム30g、塩化カリウム5gを順次加えたこと以外、実施例1と同様に実施した。
【0040】
[実施例6]
pH6.5の腐植酸抽出液820gに水を15g加え、硝酸アンモニウム130g、リン酸水素二カリウム30g、硫酸カリウム5gを順次加えたこと以外、実施例1と同様に実施した。
【0041】
[比較例3]
腐植酸抽出液820gに水を38g加え、尿素92g、リン酸二水素カリウム50gを順次加えたこと以外、実施例1と同様に実施した。
【0042】
[比較例4]
腐植酸抽出液820gに70%硝酸128g、85質量%リン酸液28g、水酸化カリウム24gを順次加えたこと以外、実施例1と同様に実施した。
【0043】
[比較例5]
腐植酸抽出液820gに20%アンモニア水128g、85質量%リン酸液28g、水酸化カリウム24gを順次加えたこと以外、実施例1と同様に実施した。
【0044】
【表3】
【0045】
表3の結果に示すように、本発明に係る実施例3〜6の腐植酸含有三要素液体肥料は、pH、沈殿率、成分率ともに目標を達成している。一方、比較例3、4は腐植酸抽出液がゲル化し、pH、沈殿率ともに測定不能であり目標とする腐植酸含有三要素液体肥料を得られない。
比較例5は沈殿率が良好であるが、pHが大幅に上昇し、成分量も目標値を達成していない。酸性、またはアルカリ性の肥料成分は、混和時のpH変動が大きく、特に酸性側では沈殿形成に寄与してしまう。また、成分率の低い原料では目標とする成分量を達成できない。
【0046】
[肥料成分の選択2]
【0047】
[実施例7]
pH6.5の腐植酸抽出液275gに水を430g加え、尿素220g、85質量%リン酸液75g、水酸化カリウム70gを順次加えたこと以外、実施例1と同様に実施した。
【0048】
[比較例6]
pH6.5の腐植酸抽出液275gに水を395g加え、尿素220g、リン酸水素二カリウム110gを順次加えたこと以外、実施例1と同様に実施した。
【0049】
【表4】
【0050】
表4の結果に示すように、本発明に係る実施例7の腐植酸含有三要素液体肥料は、果菜類の追肥用途として肥料成分を高めたものであるが、pH、沈殿率、成分率ともに目標を達成している。一方、比較例6の腐植酸含有三要素液体肥料はpHが高く、沈殿率も高い。肥料成分の目標値は十分であるが、添加量が多いためpHの上昇も高い。さらに、溶解度も低く沈殿率も悪化している。
【0051】
[栽培試験]
以下、葉菜類用途として試作した、腐植酸含有三要素液体肥料の効果を検証するために栽培試験を実施した。コマツナ(品種:楽天、タキイ種苗株式会社)を供試作物とし、ポット栽培により腐植酸含有三要素液体肥料の栽培試験を実施した。1.2リットル容のポリ製ポット(株式会社藤原製作所製)に赤玉土1Lを入れ、基肥として炭酸カルシウム1.0g、硫酸アンモニウム0.33g、過リン酸石灰0.29g、塩化カリウム0.08gを施用した。尚、これは10aあたり、窒素成分7kg、リン酸成分5kg、カリウム成分5kg施用と同等の施肥量である。
【0052】
あらかじめセルトレイで発芽、育苗した3葉期の苗をポットに移植し、35日間栽培を行った。潅水は作物の状態を観察し適宜実施した。栽培後、地上部(茎葉部)を刈り取り、それぞれの質量を測定し収量とした。試験はn=5で実施し、平均値であらわした。
【0053】
[実施例8]実施例1で得た腐植酸含有三要素液体肥料を1,000倍となるように水で希釈したものを、7日毎にポットあたり50ml施用した。栽培期間中、4回施用した。
【0054】
[比較例7]添加した腐植酸含有三要素液体肥料のかわりに、腐植酸含有三要素液体肥料と同等の窒素、リン酸、カリウム成分を含有する対照液肥を調製し、実施例8と同様に実施した。
【0055】
【表5】
【0056】
以下、果菜類用途として試作した、腐植酸含有三要素液体肥料の効果を検証するために栽培試験を実施した。トマト(品種:CF桃太郎ヨーク、種苗店で苗を購入)を供試作物とし、デンカ株式会社青海工場内の加温温室で栽培試験を実施した。1試験区は16株とした。基肥として、株当たり窒素成分を10.8g、リン酸成分を10.2g、カリウム成分を10.8g施用した。尚、これは10aあたり、窒素成分16kg、リン酸成分15kg、カリウム成分16kg施用と同等の施肥量である。
【0057】
2015年10月27日に苗を定植し、第一花房の開花期である2015年12月21日に第1回目の追肥、2016年1月29日に第2回の追肥を実施した。トマト果実の収穫は1月下旬頃より開始し、約1か月間の初期収穫量を計測した。
【0058】
[実施例9]実施例7で得た腐植酸含有三要素液体肥料を50倍となるように水で希釈したものを、株当たり1,000ml施用した。上記の通り、栽培期間中に2回施用した。
【0059】
[比較例8]実施例9で添加した腐植酸含有三要素液体肥料のかわりに、実施例9と同等の窒素、リン酸、カリウム成分を含有する対照液肥を調製し、実施例9と同様に実施した。
【0060】
【表6】
【0061】
表5の結果に示すように、本発明に係る実施例1の腐植酸含有三要素液体肥料はコマツナの生育に有効に働き、地上部の生育量を増加させた。肥料成分の効果に加え、腐植酸の生育促進効果と合わせ、地上部の生育に寄与したと考えられる。
【0062】
また、表6の結果に示すように、本発明に係る実施例9の腐植酸含有三要素液体肥料はトマトの収穫量が大幅に向上した。本実施例は収穫開始から約1か月間の短期間のデータである。初期の収穫量が向上した事は、作物の生育促進効果、収穫の早期化につながった結果だと考察できる。
【0063】
以上、2つの栽培試験結果から、成分濃度の違う液体肥料、対象作物や使用濃度が異なるものの、腐植酸を含有する三要素肥料の効果は大きく、農業生産上、有効な資材であることがわかった。