特許第6820806号(P6820806)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6820806
(24)【登録日】2021年1月7日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】濃度算出装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/26 20060101AFI20210114BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
   G01N27/26 371C
   G01N27/26 371D
   G01N27/416 331
   G01N27/416 376
【請求項の数】3
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-133768(P2017-133768)
(22)【出願日】2017年7月7日
(65)【公開番号】特開2019-15627(P2019-15627A)
(43)【公開日】2019年1月31日
【審査請求日】2019年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】宮本 慎也
(72)【発明者】
【氏名】中埜 吉博
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−065862(JP,A)
【文献】 特開2010−139238(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0032292(US,A1)
【文献】 特開2018−77067(JP,A)
【文献】 特開2018−77063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26−27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガスに含まれるアンモニアの濃度を算出する濃度算出装置であって、
前記被測定ガスに含まれるアンモニアおよび可燃性ガスの両方の濃度に応じて値が変化するアンモニア起電力を発生させるアンモニア検出部から前記アンモニア起電力を繰り返し取得し、取得した前記アンモニア起電力を示すアンモニア起電力情報を蓄積するように構成された蓄積部と、
前記蓄積部に蓄積された前記アンモニア起電力情報を用いて、現時点より予め設定された遅延時間前におけるアンモニア濃度を示す遅延アンモニア濃度情報を現時点での現アンモニア濃度情報として出力するように構成された濃度出力部と、
前記遅延時間より短くなるように設定された低下時間間隔における前記アンモニア起電力の低下量が、予め設定された開始判定値より大きい場合に、前記被測定ガスに前記可燃性ガスが含まれていると判断するように構成された可燃性ガス判断部と、
前記被測定ガスに前記可燃性ガスが含まれていると前記可燃性ガス判断部が判断した場合に、前記濃度出力部により出力される前記現アンモニア濃度情報を、前記被測定ガスに前記可燃性ガスが含まれていると前記可燃性ガス判断部が判断する直前における前記遅延アンモニア濃度情報の値に設定するように構成された情報設定部と
を備える濃度算出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の濃度算出装置であって、
前記被測定ガスに前記可燃性ガスが含まれていないことを判断するために前記アンモニア起電力を用いて予め設定された起電力終了条件が成立したか否かを判断し、前記起電力終了条件が成立したと判断した場合に、前記被測定ガスに前記可燃性ガスが含まれていないと判断するように構成された起電力終了判断部を備え、
前記起電力終了条件は、少なくとも、予め設定されたアンモニア増加時間間隔における前記アンモニア起電力の増加量が予め設定されたアンモニア終了判定値より大きいことを条件の1つとして含む濃度算出装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の濃度算出装置であって、
前記被測定ガスに含まれる酸素の濃度に応じて値が変化する酸素濃度信号を出力する酸素検出部から前記酸素濃度信号を繰り返し取得し、取得した前記酸素濃度信号に基づいて、前記被測定ガスに含まれる酸素の濃度を算出酸素濃度として算出するように構成された酸素濃度算出部と、
前記被測定ガスに前記可燃性ガスが含まれていないことを判断するために前記算出酸素濃度を用いて予め設定された酸素終了条件が成立したか否かを判断し、前記酸素終了条件が成立したと判断した場合に、前記被測定ガスに前記可燃性ガスが含まれていないと判断するように構成された酸素終了判断部とを備え、
前記酸素終了条件は、少なくとも、予め設定された酸素増加時間間隔における前記算出酸素濃度の増加量が予め設定された酸素終了判定値より大きいことを条件の1つとして含む濃度算出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アンモニアの濃度を算出する濃度算出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1のように、排気ガスに含まれる酸素の濃度が急激に低下した場合に、リッチスパイクが発生したと判断する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−65862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の技術では、リッチスパイクが発生していない場合であっても、酸素濃度が急激に低下したときには、リッチスパイクが発生したと判断してしまう場合があった。
【0005】
本開示は、リッチスパイクの検出精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、被測定ガスに含まれるアンモニアの濃度を算出する濃度算出装置であって、蓄積部と、濃度出力部と、可燃性ガス判断部と、情報設定部とを備える。
蓄積部は、被測定ガスに含まれるアンモニアおよび可燃性ガスの両方の濃度に応じて値が変化するアンモニア起電力を発生させるアンモニア検出部からアンモニア起電力を繰り返し取得し、取得したアンモニア起電力を示すアンモニア起電力情報を蓄積するように構成される。
【0007】
濃度出力部は、蓄積部に蓄積されたアンモニア起電力情報を用いて、現時点より予め設定された遅延時間前におけるアンモニア濃度を示す遅延アンモニア濃度情報を現時点での現アンモニア濃度情報として出力するように構成される。
【0008】
可燃性ガス判断部は、遅延時間より短くなるように設定された低下時間間隔におけるアンモニア起電力の低下量が、予め設定された開始判定値より大きい場合に、被測定ガスに可燃性ガスが含まれていると判断するように構成される。
【0009】
情報設定部は、被測定ガスに可燃性ガスが含まれていると可燃性ガス判断部が判断した場合に、濃度出力部により出力される現アンモニア濃度情報を、被測定ガスに可燃性ガスが含まれていると可燃性ガス判断部が判断する直前における遅延アンモニア濃度情報の値に設定するように構成される。
【0010】
このように本開示の濃度算出装置は、アンモニアだけでなく可燃性ガスの濃度に応じて値が変化するアンモニア起電力に基づいて、被測定ガスに可燃性ガスが含まれているか否かを判断する。そして、リッチスパイクが発生すると、被測定ガスに含まれる可燃性ガスの濃度が急激に上昇する。これに対し、本開示の濃度算出装置は、低下時間間隔におけるアンモニア起電力の低下量が開始判定値より大きい場合に、被測定ガスに可燃性ガスが含まれていると判断する。すなわち、本開示の濃度算出装置は、可燃性ガス濃度が急激に上昇するリッチスパイクを検出することができる。このため、本開示の濃度算出装置は、酸
素濃度ではなく可燃性ガス濃度に基づいて、リッチスパイクを検出することが可能となり、リッチスパイクの検出精度を向上させることができる。
【0011】
また、本開示の濃度算出装置は、現時点より遅延時間前におけるアンモニア濃度を示す遅延アンモニア濃度情報を現アンモニア濃度情報として出力する。そして、本開示の濃度算出装置は、被測定ガスに可燃性ガスが含まれていると判断した場合に、現アンモニア濃度情報を、被測定ガスに可燃性ガスが含まれていると判断する直前における遅延アンモニア濃度情報の値に設定する。これにより、本開示の濃度算出装置は、リッチスパイクの発生による可燃性ガス濃度の上昇に起因して、アンモニア濃度が変化していないにも関わらず遅延アンモニア濃度情報の値が上昇してしまうという事態の発生を抑制し、アンモニア濃度の検出精度の低下を抑制することができる。
【0012】
本開示の一態様では、起電力終了判断部を備え、起電力終了条件は、少なくとも、予め設定されたアンモニア増加時間間隔におけるアンモニア起電力の増加量が予め設定されたアンモニア終了判定値より大きいことを条件の1つとして含むようにしてもよい。
【0013】
起電力終了判断部は、被測定ガスに可燃性ガスが含まれていないことを判断するためにアンモニア起電力を用いて予め設定された起電力終了条件が成立したか否かを判断し、起電力終了条件が成立したと判断した場合に、被測定ガスに可燃性ガスが含まれていないと判断するように構成される。
【0014】
これにより、本開示の濃度算出装置は、可燃性ガス濃度が急激に上昇した後に可燃性ガス濃度が急激に低下することで終了するというリッチスパイクの特徴に基づいて、リッチスパイクが終了したか否かを判断することができ、リッチスパイクの終了を精度良く判断することができる。
【0015】
本開示の一態様では、酸素濃度算出部と、酸素終了判断部とを備え、酸素終了条件は、少なくとも、予め設定された酸素増加時間間隔における算出酸素濃度の増加量が予め設定された酸素終了判定値より大きいことを条件の1つとして含むようにしてもよい。
【0016】
酸素濃度算出部は、被測定ガスに含まれる酸素の濃度に応じて値が変化する酸素濃度信号を出力する酸素検出部から酸素濃度信号を繰り返し取得し、取得した酸素濃度信号に基づいて、被測定ガスに含まれる酸素の濃度を算出酸素濃度として算出するように構成される。
【0017】
酸素終了判断部は、被測定ガスに可燃性ガスが含まれていないことを判断するために算出酸素濃度を用いて予め設定された酸素終了条件が成立したか否かを判断し、酸素終了条件が成立したと判断した場合に、被測定ガスに可燃性ガスが含まれていないと判断するように構成される。
【0018】
これにより、本開示の濃度算出装置は、酸素濃度が急激に上昇することで終了するというリッチスパイクの特徴に基づいて、リッチスパイクが終了したか否かを判断することができ、リッチスパイクの終了を精度良く判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】マルチガスセンサ2の内部構造を示す断面図である。
図2】センサ素子部5と制御部3の概略構成を示す図である。
図3】第1アンモニア検出部102と第2アンモニア検出部103の構造を示す断面図である。
図4】ガス濃度算出処理を示すフローチャートである。
図5】第1実施形態のガス漏洩診断処理を示すフローチャートである。
図6】EMF1_0,Fs,Ig,EMF1_OUT,C_NH3_OUT,C_NH3_0の時間変化を示すグラフである。
図7】EMF1_0,C_O2_0,C_NH3_0(Orig),C_NH3_0(OLD),C_NH3_0(NEW)の時間変化を示すグラフである。
図8】2000秒〜2500秒のC_NH3_0(Orig),C_NH3_0(OLD),C_NH3_0(NEW)の時間変化を示すグラフである。
図9】3100秒〜3500秒のC_NH3_0(Orig),C_NH3_0(OLD),C_NH3_0(NEW)の時間変化を示すグラフである。
図10】第2実施形態のガス漏洩診断処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1実施形態)
以下に本開示の第1実施形態を図面とともに説明する。
本実施形態のマルチガス検出装置は、車両に搭載され、内燃機関から排出される排気ガスに含まれる窒素酸化物を浄化するためにSCR(Selective Catalytic Reduction)触媒を設置し、還元剤として尿素をSCR触媒へ供給するシステムであって、NOx吸蔵還元触媒やディーゼル酸化触媒(DOC)、ディーゼル微粒子除去装置(DPF)を備え、これらの触媒浄化のため、所謂リッチスパイクが行われるシステムに用いられるものである。より具体的には、マルチガス検出装置は、NOx吸蔵還元触媒やSCR触媒の下流側における排気ガスに含まれるアンモニア、二酸化窒素および窒素酸化物の濃度を検出する。以下、マルチガス検出装置を搭載する車両を自車両という。アンモニア、二酸化窒素および窒素酸化物をそれぞれ、NH、NOおよびNOxともいう。
【0021】
マルチガス検出装置は、図1に示すマルチガスセンサ2と、図2に示す制御部3とを備える。
マルチガスセンサ2は、図1に示すように、センサ素子部5と、主体金具10と、セパレータ34と、接続端子38とを備える。なお、以下の説明では、マルチガスセンサ2のセンサ素子部5が配置されている側(すなわち、図1の下側)を先端側、接続端子38が配置されている側(すなわち、図1の上側)を後端側という。
【0022】
センサ素子部5は、軸線O方向に延びる板形状を有する。センサ素子部5の後端には電極端子部5A,5Bが配置されている。図1においては、図示を容易にするために、センサ素子部5に形成された電極端子部を、電極端子部5Aおよび電極端子部5Bのみとしているが、実際には、後述するNOx検出部101、第1アンモニア検出部102および第2アンモニア検出部103が有する電極等の数に応じて複数の電極端子部が形成されている。
【0023】
主体金具10は、マルチガスセンサ2を内燃機関の排気管に固定するネジ部11が外表面に形成された筒状の部材である。主体金具10は、軸線O方向に貫通する貫通孔12と、貫通孔12の径方向内側に突出する棚部13とを備える。棚部13は、貫通孔12の径方向外側から中心に向かって先端側へ近づく傾きを有する内向きのテ―パ面として形成されている。
【0024】
主体金具10は、センサ素子部5の先端側を、貫通孔12から先端側に突出させ、センサ素子部5の後端側を貫通孔12の後端側に突出させた状態で保持する。
主体金具10の貫通孔12の内部には、先端側から後端側に向かって順に、センサ素子部5の径方向周囲を取り囲む筒状の部材であるセラミックホルダ14と、粉末充填層である滑石リング15,16と、セラミックスリーブ17とが積層されている。
【0025】
セラミックスリーブ17と主体金具10の後端側の端部との間には、加締めパッキン18が配置されている。セラミックホルダ14と主体金具10の棚部13との間には、金属ホルダ19が配置されている。金属ホルダ19は、内部に滑石リング15とセラミックホルダ14が収容され、滑石リング15が圧縮充填されることによって金属ホルダ19と滑石リング15とは気密状に一体化されている。主体金具10の後端側の端部は、加締めパッキン18を介してセラミックスリーブ17を先端側に向かって押し付けるように加締められる部分である。また、滑石リング16が主体金具10の内部で圧縮充填されることで、主体金具10の内周面とセンサ素子部5の外周面との間の気密が確保されている。
【0026】
主体金具10の先端側の端部には、ガス流通孔付きの外部プロテクタ21およびガス流通孔付きの内部プロテクタ22が設けられている。外部プロテクタ21および内部プロテクタ22は、先端側の端部が閉塞されたステンレス鋼などの金属材料から形成された筒状の部材である。内部プロテクタ22は、センサ素子部5の先端側の端部を覆った状態で主体金具10に溶接され、外部プロテクタ21は、内部プロテクタ22を覆った状態で主体金具10に溶接されている。
【0027】
主体金具10の後端側の端部外周には、筒状に形成された外筒31の先端側の端部が溶接によって固定されている。さらに、外筒31の後端側の端部である開口には、この開口を閉塞するグロメット32が配置されている。
【0028】
グロメット32には、リード線41が挿入されるリード線挿入孔33が形成されている。リード線41は、センサ素子部5の電極端子部5Aおよび電極端子部5Bに電気的に接続される。
【0029】
セパレータ34は、センサ素子部5の後端側に配置された筒状に形成された部材である。セパレータ34の内部に形成された空間は、軸線O方向に貫通する挿入孔35である。セパレータ34の外表面には、径方向外側に突出する鍔部36が形成されている。
【0030】
セパレータ34の挿入孔35には、センサ素子部5の後端部が挿入され、電極端子部5A,5Bがセパレータ34の内部に配置される。
セパレータ34と外筒31との間には、筒状に形成された金属製の保持部材37が配置されている。保持部材37は、セパレータ34の鍔部36と接触するとともに外筒31の内面と接触することにより、セパレータ34を外筒31に対して固定した状態で保持する。
【0031】
接続端子38は、セパレータ34の挿入孔35内に配置される部材であり、センサ素子部5の電極端子部5Aおよび電極端子部5Bと、リード線41とをそれぞれ独立に電気的に接続する導電部材である。なお、図1では、図示を容易にするために、2つの接続端子38のみが図示されている。
【0032】
マルチガス検出装置の制御部3は、図2に示すように、自車両に搭載された電子制御装置200と電気的に接続されている。電子制御装置200は、制御部3で算出された排気ガス中のNO濃度、NOx濃度およびアンモニア濃度(以下、NH濃度)を示すデータを受信し、受信データに基づいて内燃機関の運転状態の制御処理を実行したり、触媒に蓄積されたNOxの浄化処理を実行したりする。
【0033】
センサ素子部5は、NOx検出部101と、第1アンモニア検出部102と、第2アンモニア検出部103を備える。なお、第2アンモニア検出部103は、図2には示されておらず、図3に示されている。第1アンモニア検出部102および第2アンモニア検出部103は、NOx検出部101の長手方向(すなわち、図2の左右方向)における基準電
極143と略同位置において、NOx検出部101の幅方向(すなわち、図2の奥行き方向)における位置が互いに異なるように並列に配置されている。このため、図2では、第1アンモニア検出部102と第2アンモニア検出部103のうち、第1アンモニア検出部102のみを示している。
【0034】
NOx検出部101は、絶縁層113、セラミック層114、絶縁層115、セラミック層116、絶縁層117、セラミック層118、絶縁層119および絶縁層120が順次積層されて構成されている。絶縁層113,115,117,119,120、および、セラミック層114,116,118は、アルミナを主体として形成されている。
【0035】
NOx検出部101は、セラミック層114とセラミック層116との間に形成される第1測定室121を備える。NOx検出部101は、第1測定室121に隣接するようにしてセラミック層114とセラミック層116との間に配置された拡散抵抗体122を介して、外部から第1測定室121の内部に排気ガスを導入する。拡散抵抗体122は、アルミナ等の多孔質材料で形成されている。
【0036】
NOx検出部101は、第1ポンピングセル130を備える。第1ポンピングセル130は、固体電解質層131と、ポンピング電極132,133を備える。
固体電解質層131は、酸素イオン導電性を有するジルコニアを主体として形成されている。第1測定室121と接触する領域における一部分のセラミック層114が除去され、セラミック層114の代わりに固体電解質層131が埋め込まれている。
【0037】
ポンピング電極132,133は、白金を主体として形成されている。ポンピング電極132は、固体電解質層131において第1測定室121と接触する面上に配置される。ポンピング電極133は、固体電解質層131を挟んでポンピング電極132とは反対側で固体電解質層131の面上に配置される。ポンピング電極133が配置された領域とその周辺の領域の絶縁層113は除去され、絶縁層113の代わりに多孔質体134が充填される。多孔質体134は、ポンピング電極133と外部との間でガス(例えば、酸素)の出入りを可能とする。
【0038】
NOx検出部101は、酸素濃度検出セル140を備える。酸素濃度検出セル140は、固体電解質層141と、検知電極142と、基準電極143を備える。
固体電解質層141は、酸素イオン導電性を有するジルコニアを主体として形成されている。固体電解質層131よりも後端側(すなわち、図2の右側)の領域における一部分のセラミック層116が除去され、セラミック層116の代わりに固体電解質層141が埋め込まれている。
【0039】
検知電極142と基準電極143は、白金を主体として形成されている。検知電極142は、固体電解質層141における第1測定室121と接触する面上に配置される。基準電極143は、固体電解質層141を挟んで検知電極142とは反対側で固体電解質層141の面上に配置される。
【0040】
NOx検出部101は、基準酸素室146を備える。基準酸素室146は、基準電極143が配置された領域とその周辺の領域の絶縁層117が除去されることにより形成された貫通孔である。
【0041】
NOx検出部101は、第1測定室121の下流側に第2測定室148を備える。第2測定室148は、検知電極142および基準電極143よりも後端側で固体電解質層141および絶縁層117を貫通して形成される。NOx検出部101は、第1測定室121から排出された排気ガスを第2測定室148の内部に導入する。
【0042】
NOx検出部101は、第2ポンピングセル150を備える。第2ポンピングセル150は、固体電解質層151と、ポンピング電極152,153を備える。
固体電解質層151は、酸素イオン導電性を有するジルコニアを主体として形成されている。基準酸素室146および第2測定室148と接触する領域とその周辺の領域のセラミック層118が除去され、セラミック層118の代わりに固体電解質層151が埋め込まれている。
【0043】
ポンピング電極152,153は、白金を主体として形成されている。ポンピング電極152は、固体電解質層151において第2測定室148と接触する面上に配置される。ポンピング電極153は、基準酸素室146を挟んで基準電極143とは反対側で固体電解質層151の面上に配置される。基準酸素室146の内部において、ポンピング電極153を覆うように多孔質体147が配置されている。
【0044】
NOx検出部101は、ヒータ160を備える。ヒータ160は、白金を主体として形成され、通電されることで発熱する発熱抵抗体であり、絶縁層119と絶縁層120との間に配置される。
【0045】
第1アンモニア検出部102は、NOx検出部101の外表面、より具体的には、絶縁層120の上に形成されている。第1アンモニア検出部102は、NOx検出部101における基準電極143と軸線O方向(すなわち、図2の左右方向)に略同位置に配置されている。
【0046】
第1アンモニア検出部102は、絶縁層120の上に形成される第1基準電極211と、第1基準電極211の表面および側面を覆う第1固体電解質体212と、第1固体電解質体212の表面に形成される第1検知電極213とを備える。同様に、第2アンモニア検出部103は、図3に示すように、絶縁層120の上に形成される第2基準電極221と、第2基準電極221の表面および側面を覆う第2固体電解質体222と、第2固体電解質体222の表面に形成される第2検知電極223とを備える。
【0047】
第1基準電極211および第2基準電極221は、電極材として白金を主体に構成されており、具体的には、Ptおよび酸化ジルコニウムを含む材料から構成されている。第1固体電解質体212および第2固体電解質体222は、イットリア安定化ジルコニア等の酸素イオン伝導性材料で構成されている。第1検知電極213および第2検知電極223は、電極材として金を主体に構成されており、具体的には、Auおよび酸化ジルコニウムを含む材料から構成されている。なお、第1検知電極213および第2検知電極223の電極材は、アンモニアに対する感度とNOxに対する感度との比が第1アンモニア検出部102および第2アンモニア検出部103において異なるように、選択されている。
【0048】
また、第1アンモニア検出部102および第2アンモニア検出部103は、多孔質からなる保護層230によって一体に覆われている。保護層230は、第1検知電極213および第2検知電極223への被毒物質の付着を防止するとともに、外部から第1アンモニア検出部102および第2アンモニア検出部103に流入するアンモニアの拡散速度を調整するものである。このように、第1アンモニア検出部102および第2アンモニア検出部103は混成電位式のセンシング部として機能する。
【0049】
図2に示すように、制御部3は、制御回路180と、マイクロコンピュータ190(以下、マイコン190)を備える。
制御回路180は、回路基板上に配置されたアナログ回路である。制御回路180は、Ip1ドライブ回路181、Vs検出回路182、基準電圧比較回路183、Icp供給
回路184、Vp2印加回路185、Ip2検出回路186、ヒータ駆動回路187および起電力検出回路188を備える。
【0050】
そして、ポンピング電極132、検知電極142およびポンピング電極152は、基準電位に接続される。ポンピング電極133は、Ip1ドライブ回路181に接続される。基準電極143は、Vs検出回路182とIcp供給回路184に接続される。ポンピング電極153は、Vp2印加回路185とIp2検出回路186に接続される。ヒータ160は、ヒータ駆動回路187に接続される。
【0051】
Ip1ドライブ回路181は、ポンピング電極132とポンピング電極133との間に電圧Vp1を印加して第1ポンピング電流Ip1を供給するとともに、供給した第1ポンピング電流Ip1を検出する。
【0052】
Vs検出回路182は、検知電極142と基準電極143との間の電圧Vsを検出し、検出した結果を基準電圧比較回路183へ出力する。
基準電圧比較回路183は、基準電圧(例えば、425mV)とVs検出回路182の出力(すなわち、電圧Vs)とを比較し、比較結果をIp1ドライブ回路181へ出力する。そしてIp1ドライブ回路181は、電圧Vsが基準電圧と等しくなるように、第1ポンピング電流Ip1の流れる向きと第1ポンピング電流Ip1の大きさとを制御するとともに、第1測定室121内の酸素濃度を、NOxが分解しない程度の所定値に調整する。
【0053】
Icp供給回路184は、検知電極142と基準電極143との間に微弱な電流Icpを流す。これにより、酸素が第1測定室121から固体電解質層141を介して基準酸素室146に送り込まれるため、基準酸素室146は、基準となる所定の酸素濃度に設定される。
【0054】
Vp2印加回路185は、ポンピング電極152とポンピング電極153との間に、一定電圧Vp2(例えば、450mV)を印加する。これにより、第2測定室148では、第2ポンピングセル150を構成するポンピング電極152,153の触媒作用によって、NOxが解離される。この解離により得られた酸素イオンがポンピング電極152とポンピング電極153との間の固体電解質層151を移動することにより第2ポンピング電流Ip2が流れる。Ip2検出回路186は、第2ポンピング電流Ip2を検出する。
【0055】
ヒータ駆動回路187は、発熱抵抗体であるヒータ160の一端にヒータ通電用の正電圧を印加するともに、ヒータ160の他端にヒータ通電用の負電圧を印加することにより、ヒータ160を駆動する。
【0056】
起電力検出回路188は、第1基準電極211と第1検知電極213との間の起電力(以下、第1アンモニア起電力EMF1)と、第2基準電極221と第2検知電極223との間の起電力(以下、第2アンモニア起電力EMF2)を検出し、検出結果を示す信号をマイコン190へ出力する。
【0057】
マイコン190は、CPU191、ROM192、RAM193および信号入出力部194を備える。マイクロコンピュータの各種機能は、CPU191が非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行することにより実現される。この例では、ROM192が、プログラムを格納した非遷移的実体的記録媒体に該当する。また、このプログラムの実行により、プログラムに対応する方法が実行される。なお、制御部3を構成するマイクロコンピュータの数は1つでも複数でもよい。また、マイコン190が実行する機能の一部または全部を、一つあるいは複数のIC等によりハードウェア的に構成してもよい。
【0058】
CPU191は、ROM192に記憶されたプログラムに基づいて、センサ素子部5を制御するための処理を実行する。信号入出力部194は、Ip1ドライブ回路181、Vs検出回路182、Ip2検出回路186、ヒータ駆動回路187および起電力検出回路188に接続される。信号入出力部194は、Ip1ドライブ回路181、Vs検出回路182、Ip2検出回路186および起電力検出回路188からのアナログ信号の電圧値をディジタルデータに変換してCPU191へ出力する。
【0059】
またCPU191は、信号入出力部194を介してヒータ駆動回路187へ駆動信号を出力することにより、ヒータ160に供給する電力をパルス幅変調により通電制御して、ヒータ160が目標の温度になるようにしている。なお、ヒータ160の通電制御は、NOx検出部101を構成するセル(例えば、酸素濃度検出セル140)のインピーダンスを検出し、検出したインピーダンスが目標値となるように供給電力量を制御する公知の手法によって実現することができる。
【0060】
またCPU191は、ROM192から各種データを読み込み、第1ポンピング電流Ip1の値、第2ポンピング電流Ip2の値、第1アンモニア起電力EMF1の値および第2アンモニア起電力EMF2の値から種々の演算処理を行う。
【0061】
ROM192は、「第1アンモニア起電力−第1アンモニア濃度出力関係式」、「第2アンモニア起電力−第2アンモニア濃度出力関係式」、「第1ポンピング電流−酸素濃度関係式」、「第2ポンピング電流−NOx濃度出力関係式」、「第1アンモニア濃度出力&第2アンモニア濃度出力&酸素濃度−補正アンモニア濃度関係式」、「第1アンモニア濃度出力&第2アンモニア濃度出力&酸素濃度−補正NO濃度関係式」、「NOx濃度出力&補正アンモニア濃度&補正NO濃度−補正NOx濃度関係式」を記憶する。
【0062】
なお、「第1アンモニア濃度出力&第2アンモニア濃度出力&酸素濃度−補正アンモニア濃度関係式」は下記の補正式(1)に相当する。「第1アンモニア濃度出力&第2アンモニア濃度出力&酸素濃度−補正NO濃度関係式」は下記の補正式(2)に相当する。「NOx濃度出力&補正アンモニア濃度&補正NO濃度−補正NOx濃度関係式」は下記の補正式(3)に相当する。
【0063】
また、各種データは、上述のように所定の関係式として設定されていてもよいし、センサの出力から各種ガス濃度を算出するものであればよく、例えばテーブルとして設定されていてもよい。その他にも、予めガス濃度が既知のガスモデルを用いて得られた値とされていてもよい。
【0064】
「第1アンモニア起電力−第1アンモニア濃度出力関係式」および「第2アンモニア起電力−第2アンモニア濃度出力関係式」は、第1アンモニア検出部102および第2アンモニア検出部103から出力されたアンモニア起電力と、アンモニア濃度出力との関係を表す式である。
【0065】
「第1ポンピング電流−酸素濃度関係式」は、第1ポンピング電流と、排気ガス中の酸素濃度(すなわち、O濃度)との関係を表す式である。「第2ポンピング電流−NOx濃度出力関係式」は、第2ポンピング電流と、NOx濃度出力との関係を表す式である。
【0066】
「第1アンモニア濃度出力&第2アンモニア濃度出力&酸素濃度−補正アンモニア濃度関係式」は、酸素濃度、アンモニア濃度およびNO濃度の影響を受けた第1,2アンモニア濃度出力と、酸素濃度およびNO濃度の影響を除去した補正アンモニア濃度との関係を表す式である。「第1アンモニア濃度出力&第2アンモニア濃度出力&酸素濃度−補
正NO濃度関係式」は、酸素濃度、アンモニア濃度およびNO濃度の影響を受けた第1,2アンモニア濃度出力と、酸素濃度およびアンモニア濃度の影響を除去した補正NO濃度との関係を表す式である。「NOx濃度出力&補正アンモニア濃度&補正NO濃度−補正NOx濃度関係式」は、アンモニア濃度およびNO濃度の影響を受けたNOx濃度出力と、アンモニア濃度およびNO濃度の影響を除去した補正NOx濃度との関係を表す式である。
【0067】
次に、第1ポンピング電流Ip1、第2ポンピング電流Ip2、第1アンモニア起電力EMF1および第2アンモニア起電力EMF2から、NO濃度、NOx濃度およびアンモニア濃度を求める演算処理について説明する。この演算処理は、マイコン190のCPU191において実行される。
【0068】
CPU191は、第1ポンピング電流Ip1、第2ポンピング電流Ip2、第1アンモニア起電力EMF1および第2アンモニア起電力EMF2が入力されると、酸素濃度、NOx濃度出力、第1アンモニア濃度出力および第2アンモニア濃度出力を求める演算処理を行う。具体的には、ROM192から「第1アンモニア起電力−第1アンモニア濃度出力関係式」、「第2アンモニア起電力−第2アンモニア濃度出力関係式」、「第1ポンピング電流Ip1−酸素濃度関係式」、「第2ポンピング電流Ip2−NOx濃度出力関係式」を呼び出し、これらの関係式を用いて酸素濃度および各濃度出力を算出する処理を行う。
【0069】
なお、「第1アンモニア起電力−第1アンモニア濃度出力関係式」および「第2アンモニア起電力−第2アンモニア濃度出力関係式」は、第1アンモニア検出部102と第2アンモニア検出部103が使用環境中で出力し得るアンモニア起電力の全範囲において、被測定ガス中のアンモニア濃度とアンモニア検出部のアンモニア濃度出力とが概ね直線関係になるように設定された式である。このような換算式でもって換算することによって、後の補正式において、傾き及びオフセットの変化を利用した計算を可能とする。
【0070】
そして、酸素濃度、NOx濃度出力、第1アンモニア濃度出力および第2アンモニア濃度出力が求められると、CPU191は、以下に説明する補正式を用いた演算を行うことで、排気ガス中のアンモニア濃度、NO濃度およびNOx濃度を求める。
【0071】
補正式(1):x=F(A,B,D)
=(eA−c)*(jB−h−fA+d)/(eA−c−iB+g)+fA−d
補正式(2):y=F’(A,B,D)
=(jB−h−fA+d)/(eA−c−iB+g)
補正式(3):z=C−ax+by
ここで、xはアンモニア濃度であり、yはNO濃度であり、zはNOx濃度である。また、Aは第1アンモニア濃度出力であり、Bは第2アンモニア濃度出力であり、CはNOx濃度出力であり、Dは酸素濃度である。そして、式(1)のFは、xが(A,B,D)の関数であることを表し、式(2)のF’は、yが(A,B,D)の関数であることを表す。さらに、a,bは補正係数であり、c,d,e,f,g,h,i,jは酸素濃度Dを用いて計算される係数(すなわち、Dによって決まる係数)である。
【0072】
CPU191は、上述の補正式(1)〜(3)に、第1アンモニア濃度出力、第2アンモニア濃度出力、NOx濃度出力および酸素濃度を代入して演算することによって、排気ガス中のアンモニア濃度、NO濃度およびNOx濃度を求める。
【0073】
なお、補正式(1)および補正式(2)は、第1アンモニア検出部102および第2ア
ンモニア検出部103の特性に基づいて定まる式であり、補正式(3)はNOx検出部101の特性に基づいて定まる式である。また補正式(1)〜(3)は、あくまでも補正式の一例を示したものであり、ガス検知特性に応じて、他の補正式および係数等を適宜使用してもよい。
【0074】
そして、制御部3のマイコン190は、ガス濃度算出処理とガス漏洩診断処理を実行する。ガス濃度算出処理とガス漏洩診断処理は、ヒータ160に電力が供給されることによりヒータ160が発熱してセンサ素子部5が活性化温度になった後に、予め設定された実行周期が経過する毎に実行される処理である。本実施形態では、実行周期は100msである。
【0075】
マイコン190のRAM193には、現在第1ポンピング電流Ip1_0、1周期前第1ポンピング電流Ip1_1、2周期前第1ポンピング電流Ip1_2、3周期前第1ポンピング電流Ip1_3、4周期前第1ポンピング電流Ip1_4および5周期前第1ポンピング電流Ip1_5が設けられている。
【0076】
マイコン190のRAM193には、現在第2ポンピング電流Ip2_0、1周期前第2ポンピング電流Ip2_1、2周期前第2ポンピング電流Ip2_2、3周期前第2ポンピング電流Ip2_3、4周期前第2ポンピング電流Ip2_4および5周期前第2ポンピング電流Ip1_5が設けられている。
【0077】
マイコン190のRAM193には、現在第1アンモニア起電力EMF1_0、1周期前第1アンモニア起電力EMF1_1、2周期前第1アンモニア起電力EMF1_2、3周期前第1アンモニア起電力EMF1_3、4周期前第1アンモニア起電力EMF1_4および5周期前第1アンモニア起電力EMF1_5が設けられている。
【0078】
マイコン190のRAM193には、現在第2アンモニア起電力EMF2_0、1周期前第2アンモニア起電力EMF2_1、2周期前第2アンモニア起電力EMF2_2、3周期前第2アンモニア起電力EMF2_3、4周期前第2アンモニア起電力EMF2_4および5周期前第2アンモニア起電力EMF2_5が設けられている。
【0079】
マイコン190のRAM193には、算出酸素濃度C_O2_CAL、現在酸素濃度C_O2_0、1周期前酸素濃度C_O2_1および2周期前酸素濃度C_O2_2が設けられている。
【0080】
マイコン190のRAM193には、出力第1ポンピング電流Ip1_OUT、出力第2ポンピング電流Ip2_OUT、出力第1アンモニア起電力EMF1_OUTおよび出力第2アンモニア起電力EMF2_OUTが設けられている。
【0081】
ここで、ガス濃度算出処理の手順を説明する。
ガス濃度算出処理が実行されると、マイコン190のCPU191は、図4に示すように、まずS10にて、制御回路180から入力される第1ポンピング電流Ip1、第2ポンピング電流Ip2、第1アンモニア起電力EMF1および第2アンモニア起電力EMF2を取得する。
【0082】
次にS20にて、第1アンモニア起電力変化量ΔEMF1を算出する。具体的には、S10で取得した第1アンモニア起電力EMF1と、2周期前第1アンモニア起電力EMF1_2とを用いて、下式(4)により、第1アンモニア起電力変化量ΔEMF1を算出する。
【0083】
ΔEMF1 = EMF1_2 − EMF1 ・・・(4)
またS30にて、酸素濃度変化量ΔC_O2を算出する。具体的には、まず、S10で取得した第1ポンピング電流Ip1と「第1ポンピング電流−酸素濃度関係式」とに基づいて酸素濃度を算出し、この算出値を算出酸素濃度C_O2_CALに格納する。そして、この算出酸素濃度C_O2_CALと、2周期前酸素濃度C_O2_2とを用いて、下式(5)により、酸素濃度変化量ΔC_O2を算出する。
【0084】
ΔC_O2 = C_O2_2 − C_O2_CAL ・・・(5)
そしてS40にて、RAM193に設けられているリッチスパイクフラグFsがセットされているか否かを判断する。リッチスパイクフラグFsは、後述するガス漏洩診断処理において、1または0に設定される。以下、フラグが1に設定されることを「フラグがセットされる」という。また、フラグが0に設定されることを「フラグがクリアされる」という。
【0085】
ここで、リッチスパイクフラグFsがクリアされている場合には、S50にて、出力する第1ポンピング電流Ip1、第2ポンピング電流Ip2、第1アンモニア起電力EMF1および第2アンモニア起電力EMF2を決定する。具体的には、まず、5周期前第1ポンピング電流Ip1_5に格納されている値を、出力第1ポンピング電流Ip1_OUTに格納する。また、5周期前第2ポンピング電流Ip2_5に格納されている値を、出力第2ポンピング電流Ip2_OUTに格納する。また、5周期前第1アンモニア起電力EMF1_5に格納されている値を、出力第1アンモニア起電力EMF1_OUTに格納する。また、5周期前第2アンモニア起電力EMF2_5に格納されている値を、出力第2アンモニア起電力EMF2_OUTに格納する。
【0086】
以下、出力第1ポンピング電流Ip1_OUT、出力第2ポンピング電流Ip2_OUT、出力第1アンモニア起電力EMF1_OUTおよび出力第2アンモニア起電力EMF2_OUTに格納されている値を、「出力値」ともいう。
【0087】
次にS60にて、5周期前までの第1ポンピング電流Ip1、第2ポンピング電流Ip2、第1アンモニア起電力EMF1、第2アンモニア起電力EMF2および酸素濃度C_O2を更新する。
【0088】
具体的には、まず、4周期前第1ポンピング電流Ip1_4に格納されている値を、5周期前第1ポンピング電流Ip1_5に格納する。3周期前第1ポンピング電流Ip1_3に格納されている値を、4周期前第1ポンピング電流Ip1_4に格納する。2周期前第1ポンピング電流Ip1_2に格納されている値を、3周期前第1ポンピング電流Ip1_3に格納する。1周期前第1ポンピング電流Ip1_1に格納されている値を、2周期前第1ポンピング電流Ip1_2に格納する。現在第1ポンピング電流Ip1_0に格納されている値を、1周期前第1ポンピング電流Ip1_1に格納する。S10で取得した第1ポンピング電流Ip1を現在第1ポンピング電流Ip1_0に格納する。
【0089】
また、4周期前第2ポンピング電流Ip2_4に格納されている値を、5周期前第2ポンピング電流Ip2_5に格納する。3周期前第2ポンピング電流Ip2_3に格納されている値を、4周期前第2ポンピング電流Ip2_4に格納する。2周期前第2ポンピング電流Ip2_2に格納されている値を、3周期前第2ポンピング電流Ip2_3に格納する。1周期前第2ポンピング電流Ip2_1に格納されている値を、2周期前第2ポンピング電流Ip2_2に格納する。現在第2ポンピング電流Ip2_0に格納されている値を、1周期前第2ポンピング電流Ip2_1に格納する。S10で取得した第2ポンピング電流Ip2を現在第2ポンピング電流Ip2_0に格納する。
【0090】
また、4周期前第1アンモニア起電力EMF1_4に格納されている値を、5周期前第1アンモニア起電力EMF1_5に格納する。3周期前第1アンモニア起電力EMF1_3に格納されている値を、4周期前第1アンモニア起電力EMF1_4に格納する。2周期前第1アンモニア起電力EMF1_2に格納されている値を、3周期前第1アンモニア起電力EMF1_3に格納する。1周期前第1アンモニア起電力EMF1_1に格納されている値を、2周期前第1アンモニア起電力EMF1_2に格納する。現在第1アンモニア起電力EMF1_0に格納されている値を、1周期前第1アンモニア起電力EMF1_1に格納する。S10で取得した第1アンモニア起電力EMF1を現在第1アンモニア起電力EMF1_0に格納する。
【0091】
また、4周期前第2アンモニア起電力EMF2_4に格納されている値を、5周期前第2アンモニア起電力EMF2_5に格納する。3周期前第2アンモニア起電力EMF2_3に格納されている値を、4周期前第2アンモニア起電力EMF2_4に格納する。2周期前第2アンモニア起電力EMF2_2に格納されている値を、3周期前第2アンモニア起電力EMF2_3に格納する。1周期前第2アンモニア起電力EMF2_1に格納されている値を、2周期前第2アンモニア起電力EMF2_2に格納する。現在第2アンモニア起電力EMF2_0に格納されている値を、1周期前第2アンモニア起電力EMF2_1に格納する。S10で取得した第2アンモニア起電力EMF2を現在第2アンモニア起電力EMF2_0に格納する。
【0092】
また、1周期前酸素濃度C_O2_1に格納されている値を、2周期前酸素濃度C_O2_2に格納する。現在酸素濃度C_O2_0に格納されている値を、1周期前酸素濃度C_O2_1に格納する。算出酸素濃度C_O2_CALに格納されている値を、現在酸素濃度C_O2_0に格納する。
【0093】
そしてS60の処理が終了すると、S100に移行する。
一方、S40にて、リッチスパイクフラグFsがセットされている場合には、S70にて、1周期前から5周期前までの第1ポンピング電流Ip1、第2ポンピング電流Ip2、第1アンモニア起電力EMF1、第2アンモニア起電力EMF2および酸素濃度C_O2を更新する。
【0094】
具体的には、まず、4周期前第1ポンピング電流Ip1_4に格納されている値を、5周期前第1ポンピング電流Ip1_5に格納する。3周期前第1ポンピング電流Ip1_3に格納されている値を、4周期前第1ポンピング電流Ip1_4に格納する。2周期前第1ポンピング電流Ip1_2に格納されている値を、3周期前第1ポンピング電流Ip1_3に格納する。1周期前第1ポンピング電流Ip1_1に格納されている値を、2周期前第1ポンピング電流Ip1_2に格納する。現在第1ポンピング電流Ip1_0に格納されている値を、1周期前第1ポンピング電流Ip1_1に格納する。
【0095】
また、4周期前第2ポンピング電流Ip2_4に格納されている値を、5周期前第2ポンピング電流Ip2_5に格納する。3周期前第2ポンピング電流Ip2_3に格納されている値を、4周期前第2ポンピング電流Ip2_4に格納する。2周期前第2ポンピング電流Ip2_2に格納されている値を、3周期前第2ポンピング電流Ip2_3に格納する。1周期前第2ポンピング電流Ip2_1に格納されている値を、2周期前第2ポンピング電流Ip2_2に格納する。現在第2ポンピング電流Ip2_0に格納されている値を、1周期前第2ポンピング電流Ip2_1に格納する。
【0096】
また、4周期前第1アンモニア起電力EMF1_4に格納されている値を、5周期前第1アンモニア起電力EMF1_5に格納する。3周期前第1アンモニア起電力EMF1_3に格納されている値を、4周期前第1アンモニア起電力EMF1_4に格納する。2周
期前第1アンモニア起電力EMF1_2に格納されている値を、3周期前第1アンモニア起電力EMF1_3に格納する。1周期前第1アンモニア起電力EMF1_1に格納されている値を、2周期前第1アンモニア起電力EMF1_2に格納する。現在第1アンモニア起電力EMF1_0に格納されている値を、1周期前第1アンモニア起電力EMF1_1に格納する。
【0097】
また、4周期前第2アンモニア起電力EMF2_4に格納されている値を、5周期前第2アンモニア起電力EMF2_5に格納する。3周期前第2アンモニア起電力EMF2_3に格納されている値を、4周期前第2アンモニア起電力EMF2_4に格納する。2周期前第2アンモニア起電力EMF2_2に格納されている値を、3周期前第2アンモニア起電力EMF2_3に格納する。1周期前第2アンモニア起電力EMF2_1に格納されている値を、2周期前第2アンモニア起電力EMF2_2に格納する。現在第2アンモニア起電力EMF2_0に格納されている値を、1周期前第2アンモニア起電力EMF2_1に格納する。
【0098】
次にS80にて、現在の第1ポンピング電流Ip1、第2ポンピング電流Ip2、第1アンモニア起電力EMF1および第2アンモニア起電力EMF2をそれぞれ、前回の出力値で更新する。具体的には、まず、出力第1ポンピング電流Ip1_OUTに格納されている値を、現在第1ポンピング電流Ip1_0に格納する。また、出力第2ポンピング電流Ip2_OUTに格納されている値を、現在第2ポンピング電流Ip2_0に格納する。また、出力第1アンモニア起電力EMF1_OUTに格納されている値を、現在第1アンモニア起電力EMF1_0に格納する。また、出力第2アンモニア起電力EMF2_OUTに格納されている値を、現在第2アンモニア起電力EMF2_0に格納する。
【0099】
その後S90にて、2周期前までの酸素濃度C_O2を更新する。具体的には、1周期前酸素濃度C_O2_1に格納されている値を、2周期前酸素濃度C_O2_2に格納する。現在酸素濃度C_O2_0に格納されている値を、1周期前酸素濃度C_O2_1に格納する。算出酸素濃度C_O2_CALに格納されている値を、現在酸素濃度C_O2_0に格納する。
【0100】
そしてS90の処理が終了すると、S100に移行する。なお、S40にてリッチスパイクフラグFsがセットされていると判断した場合には、出力第1ポンピング電流Ip1_OUT、出力第2ポンピング電流Ip2_OUT、出力第1アンモニア起電力EMF1_OUTおよび出力第2アンモニア起電力EMF2_OUTを更新する処理は行われない。すなわち、S40にてリッチスパイクフラグFsがセットされていると判断した場合には、出力第1ポンピング電流Ip1_OUT、出力第2ポンピング電流Ip2_OUT、出力第1アンモニア起電力EMF1_OUTおよび出力第2アンモニア起電力EMF2_OUTは前回値を保持する。
【0101】
そしてS100に移行すると、出力値に基づいて、アンモニア濃度、NO濃度およびNOx濃度を算出する。具体的には、まず、出力第1ポンピング電流Ip1_OUTに格納されている値を第1ポンピング電流Ip1とする。同様に、出力第2ポンピング電流Ip2_OUT、出力第1アンモニア起電力EMF1_OUTおよび出力第2アンモニア起電力EMF2_OUTに格納されている値をそれぞれ、第2ポンピング電流Ip2、アンモニア起電力EMF1および第2アンモニア起電力EMF2とする。そして、これらの第1ポンピング電流Ip1、第2ポンピング電流Ip2、アンモニア起電力EMF1および第2アンモニア起電力EMF2を用いて、上述の演算処理により、アンモニア濃度、NO濃度およびNOx濃度を算出する。
【0102】
その後S110にて、S100で算出されたアンモニア濃度、NO濃度およびNOx
濃度を示すアンモニア濃度情報、NO濃度情報およびNOx濃度情報を電子制御装置200へ送信し、ガス濃度算出処理を終了する。
【0103】
次に、ガス漏洩診断処理の手順を説明する。
ガス漏洩診断処理が実行されると、マイコン190のCPU191は、図5に示すように、まずS210にて、リッチスパイクフラグFsがセットされているか否かを判断する。ここで、リッチスパイクフラグFsがセットされていない場合には、S220にて、第1アンモニア起電力変化量ΔEMF1が、予め設定された開始判定値X1に−1を乗じた乗算値より小さいか否かを判断する。開始判定値X1は正値である。本実施形態では、開始判定値X1は15mVである。
【0104】
ここで、第1アンモニア起電力変化量ΔEMF1が開始判定値X1に−1を乗じた乗算値以上ある場合には、ガス漏洩診断処理を一旦終了する。一方、第1アンモニア起電力変化量ΔEMF1が開始判定値X1に−1を乗じた乗算値より小さい場合には、S230にて、リッチスパイクフラグFsをセットする。さらにS240にて、RAM193に設けられているガス流入出指示Igを1に設定する。そしてS250にて、RAM193に設けられている判定タイマTjを起動し、ガス漏洩診断処理を一旦終了する。判定タイマTjは、例えば10ms毎にインクリメントするタイマであり、起動されると、その値が0からインクリメント(すなわち、1加算)する。
【0105】
またS210にて、リッチスパイクフラグFsがセットされている場合には、S260にて、判定タイマTjの値が予め設定された継続判定値X4より大きいか否かを判断する。本実施形態では、継続判定値X4は、例えば2秒に相当する値である。
【0106】
ここで、判定タイマTjの値が継続判定値X4より大きい場合には、270にて、リッチスパイクフラグFsをクリアする。さらにS280にて、ガス流入出指示Igを0に設定する。そしてS290にて、判定タイマTjのインクリメントを停止させて、ガス漏洩診断処理を一旦終了する。
【0107】
一方、判定タイマTjの値が継続判定値X4以下である場合には、S300にて、ガス流入出指示Igが1に設定されているか否かを判断する。ここで、ガス流入出指示Igが1に設定されている場合には、S310にて、第1アンモニア起電力変化量ΔEMF1が予め設定された第1終了判定値X2より大きいか否かを判断する。第1終了判定値X2は正値である。本実施形態では、第1終了判定値X2は7mVである。
【0108】
ここで、第1アンモニア起電力変化量ΔEMF1が第1終了判定値X2以下である場合には、ガス漏洩診断処理を一旦終了する。一方、第1アンモニア起電力変化量ΔEMF1が第1終了判定値X2より大きい場合には、S320にて、ガス流入出指示Igを2に設定して、ガス漏洩診断処理を一旦終了する。
【0109】
またS300にて、ガス流入出指示Igが1に設定されていない場合には、S330にて、第1アンモニア起電力変化量ΔEMF1が、第1終了判定値X2より小さくなるように設定された第2終了判定値X3より小さいか否かを判断する。第2終了判定値X3は正値である。本実施形態では、第2終了判定値X3は7mVである。
【0110】
ここで、第1アンモニア起電力変化量ΔEMF1が第2終了判定値X3以上である場合には、ガス漏洩診断処理を一旦終了する。一方、第1アンモニア起電力変化量ΔEMF1が第2終了判定値X3より小さい場合には、S270に移行する。
【0111】
図6のグラフG1は、現在第1アンモニア起電力EMF1_0、リッチスパイクフラグ
Fsおよびガス流入出指示Igの時間変化を示す。図6のグラフG2は、出力第1アンモニア起電力EMF1_OUTと、出力第1アンモニア起電力EMF1_OUTに基づいて算出されたアンモニア濃度C_NH3_OUTと、現在第1アンモニア起電力EMF1_0に基づいて算出されたアンモニア濃度C_NH3_0の時間変化を示す。
【0112】
グラフG1の矢印L1で示すように、2.7秒でリッチスパイクによる現在第1アンモニア起電力EMF1_0の急激な低下が発生している。これにより、第1アンモニア起電力変化量ΔEMF1が開始判定値X1に−1を乗じた乗算値より小さくなる。このため、グラフG1の矢印L2および矢印L3で示すように、2.7秒で、リッチスパイクフラグFsがセットされ、ガス流入出指示Igが1に設定される。
【0113】
その後、グラフG1の矢印L4で示すように、3.1秒で現在第1アンモニア起電力EMF1_0の急激な上昇が発生している。これにより、第1アンモニア起電力変化量ΔEMF1が第1終了判定値X2より大きくなる。このため、グラフG1の矢印L5で示すように、3.1秒で、ガス流入出指示Igが2に設定される。
【0114】
そして、グラフG1の矢印L6で示すように、3.6秒で第1アンモニア起電力変化量ΔEMF1が第2終了判定値X3より小さくなると、グラフG1の矢印L7で示すように、3.6秒で、リッチスパイクフラグFsがクリアされ、ガス流入出指示Igが0に設定される。
【0115】
なお、グラフG1の矢印L8で示すように、4.6秒以降における現在第1アンモニア起電力EMF1_0の低下は緩やかである。このため、グラフG1の矢印L9で示すように、4.6秒以降において、リッチスパイクフラグFsはセットされない。
【0116】
また、2.6秒〜2.9秒における現在第1アンモニア起電力EMF1_0の急激な低下により、グラフG2の矢印L11で示すように、2.6秒〜2.9秒において、アンモニア濃度C_NH3_0が急激に上昇している。また、2.9秒〜3.5秒における現在第1アンモニア起電力EMF1_0の急激な低下により、グラフG2の矢印L12で示すように、2.9秒〜3.5秒において、アンモニア濃度C_NH3_0が急激に低下している。
【0117】
これに対して、グラフG2の矢印L13で示すように、現在第1アンモニア起電力EMF1_0が急激に変化している時間帯(すなち、2.6秒〜3.5秒)において、出力第1アンモニア起電力EMF1_OUTはほとんど変化していない。このため、グラフG2の矢印L14で示すように、上記の時間帯において、アンモニア濃度C_NH3_OUTはほとんど変化していない。
【0118】
また、グラフG2の矢印L15で示すように、4.6秒で、アンモニア濃度C_NH3_0の値が上昇を開始している。そして、グラフG2の矢印L16で示すように、5.1秒で、アンモニア濃度C_NH3_OUTの値が上昇を開始している。すなわち、アンモニア濃度C_NH3_OUTは、アンモニア濃度C_NH3_0を0.5秒遅延させて出力されている。
【0119】
図7のグラフG3は、現在第1アンモニア起電力EMF1_0と現在酸素濃度C_O2_0の時間変化を示す。図7のグラフG4は、現在第1アンモニア起電力EMF1_0に基づいて算出されたアンモニア濃度C_NH3_0の時間変化を示す。
【0120】
図7のグラフG5は、特許文献1に記載の手法でリッチスパイクを検出する場合におけるアンモニア濃度C_NH3_0の時間変化を示す。なお、特許文献1に記載の手法とは
、酸素濃度の変化率に基づいてリッチスパイクを検出する手法である。
【0121】
図7のグラフG6は、本開示の手法でリッチスパイクを検出する場合におけるアンモニア濃度C_NH3_0の時間変化を示す。
なお、特許文献1に記載の手法でリッチスパイクを検出した場合と、本開示の手法でリッチスパイクを検出した場合には、アンモニア濃度C_NH3_0を前回値に保持する。
【0122】
以下、グラフG4に示すアンモニア濃度C_NH3_0をアンモニア濃度C_NH3_0(Orig)と表記する。グラフG5に示すアンモニア濃度C_NH3_0をアンモニア濃度C_NH3_0(OLD)と表記する。グラフG6に示すアンモニア濃度C_NH3_0をアンモニア濃度C_NH3_0(NEW)と表記する。
【0123】
グラフG3の矢印L21,L22,L23で示すように、4000秒から4500秒までの間に、現在第1アンモニア起電力EMF1_0の急激な変化が3回発生している。これは、リッチスパイクに起因した変化である。
【0124】
このため、グラフG4の矢印L24,L25,L26で示すように、4000秒から4500秒までの間に、アンモニア濃度C_NH3_0(Orig)の急激な変化が3回発生している。
【0125】
これに対し、グラフG5の矢印L27で示すように、グラフG5では、4000秒から4500秒までの間に、アンモニア濃度C_NH3_0(OLD)の急激な変化は発生していない。すなわち、グラフG5は、特許文献1に記載の手法でリッチスパイクを検出することができることを示している。
【0126】
同様に、グラフG6の矢印L28で示すように、グラフG6では、4000秒から4500秒までの間に、アンモニア濃度C_NH3_0(NEW)の急激な変化は発生していない。すなわち、グラフG6は、本開示の手法でリッチスパイクを検出することができることを示している。
【0127】
図8は、グラフG3,G4,G5における2000秒から2500秒までの間のアンモニア濃度_NH3_0(Orig),C_NH3_0(OLD),C_NH3_0(NEW)の時間変化を示すグラフである。
【0128】
図8は、グラフG3,G4,G5における3100秒から3500秒までの間のアンモニア濃度_NH3_0(Orig),C_NH3_0(OLD),C_NH3_0(NEW)の時間変化を示すグラフである。
【0129】
例えば、図8の矢印L29,L30と図9の矢印L31,L32とで示すように、アンモニア濃度C_NH3_0(NEW)が変動しているのに対して、アンモニア濃度C_NH3_0(OLD)が一定値を保持している場合がある。これは、特許文献1に記載の手法では、リッチスパイクが発生していないときにリッチスパイクを検出する場合があることを示している。
【0130】
このように構成されたマイコン190は、排気ガスに含まれるアンモニアの濃度を算出する。マイコン190は、排気ガスに含まれるアンモニアおよび可燃性ガスの両方の濃度に応じて値が変化する第1アンモニア起電力EMF1を発生させる第1アンモニア検出部102から第1アンモニア起電力EMF1を繰り返し取得する。そしてマイコン190は、取得した第1アンモニア起電力EMF1を示す現在第1アンモニア起電力EMF1_0および1,2,3,4,5周期前第1アンモニア起電力EMF1_1,2,3,4,5を
蓄積する。
【0131】
マイコン190は、蓄積された現在第1アンモニア起電力EMF1_0および1,2,3,4,5周期前第1アンモニア起電力EMF1_1,2,3,4,5を用いて、現時点より0.5秒前におけるアンモニア濃度を示すアンモニア濃度情報を現時点でのアンモニア濃度情報として出力する。
【0132】
マイコン190は、第1アンモニア起電力変化量ΔEMF1が開始判定値X1に−1を乗じた乗算値より小さい場合に、リッチスパイクフラグFsをセットする。
マイコン190は、リッチスパイクフラグFsがセットされた場合に、出力される現時点でのアンモニア濃度情報を、リッチスパイクフラグFsがセットされる直前におけるアンモニア濃度情報の値に設定する。
【0133】
このようにマイコン190は、アンモニアだけでなく可燃性ガスの濃度に応じて値が変化する第1アンモニア起電力EMF1に基づいて、排気ガスに可燃性ガスが含まれているか否かを判断する。そして、リッチスパイクが発生すると、排気ガスに含まれる可燃性ガスの濃度が急激に上昇する。これに対し、マイコン190は、第1アンモニア起電力変化量ΔEMF1が開始判定値X1に−1を乗じた乗算値より小さい場合に、リッチスパイクフラグFsをセットする。すなわち、マイコン190は、可燃性ガス濃度が急激に上昇するリッチスパイクを検出することができる。このため、マイコン190は、酸素濃度ではなく可燃性ガス濃度に基づいて、リッチスパイクを検出することが可能となり、リッチスパイクの検出精度を向上させることができる。
【0134】
またマイコン190は、現時点より0.5秒前におけるアンモニア濃度を示すアンモニア濃度情報を現時点でのアンモニア濃度情報として出力する。そしてマイコン190は、被測定ガスに可燃性ガスが含まれていると判断した場合に、現時点でのアンモニア濃度情報を、排気ガスに可燃性ガスが含まれていると判断する直前におけるアンモニア濃度情報の値に設定する。これにより、マイコン190は、リッチスパイクの発生による可燃性ガス濃度の上昇に起因して、アンモニア濃度が変化していないにも関わらずアンモニア濃度情報の値が上昇してしまうという事態の発生を抑制し、アンモニア濃度の検出精度の低下を抑制することができる。
【0135】
またマイコン190は、第1アンモニア起電力変化量ΔEMF1が予め設定された第1終了判定値X2より大きくなった後に、第1アンモニア起電力変化量ΔEMF1が第2終了判定値X3より小さくなった場合に、リッチスパイクフラグFsをクリアする。すなわち、マイコン190は、第1アンモニア起電力変化量ΔEMF1が第1終了判定値X2より大きいことを、リッチスパイクフラグFsをクリアする条件の1つとして含む。
【0136】
これにより、マイコン190は、可燃性ガス濃度が急激に上昇した後に可燃性ガス濃度が急激に低下することで終了するというリッチスパイクの特徴に基づいて、リッチスパイクが終了したか否かを判断することができ、リッチスパイクの終了を精度良く判断することができる。
【0137】
以上説明した実施形態において、マイコン190は濃度算出装置に相当し、S10,S60は蓄積部としての処理に相当し、S100,S110は濃度出力部としての処理に相当し、S20は可燃性ガス判断部としての処理に相当し、S70,S80は情報設定部としての処理に相当し、S270,S280,S300〜S330は起電力終了判断部としての処理に相当する。
【0138】
また、排気ガスは被測定ガスに相当し、第1アンモニア起電力EMF1はアンモニア起
電力に相当し、第1アンモニア検出部102はアンモニア検出部に相当する。
また、現在第1アンモニア起電力EMF1_0および1,2,3,4,5周期前第1アンモニア起電力EMF1_1,2,3,4,5はアンモニア起電力情報に相当する。
【0139】
また、S110で送信されるアンモニア濃度情報は遅延アンモニア濃度情報および現アンモニア濃度情報に相当し、0.5秒は遅延時間に相当し、0.2秒は低下時間間隔に相当し、第1アンモニア起電力変化量ΔEMF1はアンモニア起電力の低下量に相当し、開始判定値X1は開始判定値に相当する。
【0140】
また、S300とS330の判断条件は起電力終了条件に相当し、0.2秒はアンモニア増加時間間隔に相当し、第1アンモニア起電力変化量ΔEMF1はアンモニア起電力の増加量に相当し、第1終了判定値X2はアンモニア終了判定値に相当する。
【0141】
(第2実施形態)
以下に本開示の第2実施形態を図面とともに説明する。なお第2実施形態では、第1実施形態と異なる部分を説明する。共通する構成については同一の符号を付す。
【0142】
第2実施形態のマルチガス検出装置は、ガス漏洩診断処理が変更された点が第1実施形態と異なる。
第2実施形態のガス漏洩診断処理は、図10に示すように、S280,S300〜S330の処理の代わりにS410の処理が実行される点が第1実施形態と異なる。
【0143】
すなわち、S260にて、判定タイマTjの値が継続判定値X4以下である場合には、S410にて、酸素濃度変化量ΔC_O2が予め設定された第3終了判定値X5より大きいか否かを判断する。第3終了判定値X5は正値である。
【0144】
ここで、酸素濃度変化量ΔC_O2が第3終了判定値X5以下である場合には、ガス漏洩診断処理を一旦終了する。一方、酸素濃度変化量ΔC_O2が第3終了判定値X5より大きい場合には、S270に移行する。
【0145】
また、S270の処理が終了すると、S290に移行する。
このように構成されたマイコン190は、排気ガスに含まれる酸素の濃度に応じて値が変化する第1ポンピング電流Ip1を出力するNOx検出部101から第1ポンピング電流Ip1を繰り返し取得する。そしてマイコン190は、取得した第1ポンピング電流Ip1に基づいて、排気ガスに含まれる酸素の濃度を算出酸素濃度C_O2_CALとして算出する。
【0146】
そしてマイコン190は、酸素濃度変化量ΔC_O2が予め設定された第3終了判定値X5より大きい場合に、リッチスパイクフラグFsをクリアする。すなわち、マイコン190は、酸素濃度変化量ΔC_O2が第3終了判定値X5より大きいことを、リッチスパイクフラグFsをクリアする条件の1つとして含む。
【0147】
これにより、マイコン190は、酸素濃度が急激に上昇することで終了するというリッチスパイクの特徴に基づいて、リッチスパイクが終了したか否かを判断することができ、リッチスパイクの終了を精度良く判断することができる。
【0148】
以上説明した実施形態において、S10,S30は酸素濃度算出部としての処理に相当し、S410は酸素終了判断部としての処理に相当する。
また、第1ポンピング電流Ip1は酸素濃度信号に相当し、NOx検出部101は酸素検出部に相当し、算出酸素濃度C_O2_CALは算出酸素濃度に相当する。
【0149】
また、S410の判断条件は酸素終了条件に相当し、0.2秒は酸素増加時間間隔に相当し、酸素濃度変化量ΔC_O2は算出酸素濃度の増加量に相当し、第3終了判定値X5は酸素終了判定値に相当する。
【0150】
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、種々変形して実施することができる。
例えば上記実施形態では、5周期前における第1ポンピング電流Ip1、第2ポンピング電流Ip2、第1アンモニア起電力EMF1および第2アンモニア起電力EMF2を用いて算出されたアンモニア濃度、NO濃度およびNOx濃度の情報を電子制御装置200へ送信する形態を示した。すなわち、上記実施形態では、現時点から0.5秒前のアンモニア濃度、NO濃度およびNOx濃度の情報を送信する形態を示した。しかし、現時点より予め設定された遅延時間前におけるアンモニア濃度、NO濃度およびNOx濃度の情報はこれに限定されるものではない。例えば、現時点より遅延時間前の時点を含む所定の時間範囲における濃度の平均値を、遅延時間前における濃度情報として送信するようにしてもよい。具体的には、現時点より0.5秒前、0.6秒前および0.7秒前のアンモニア濃度の平均値を、現時点より0.5秒前におけるアンモニア濃度情報として送信するようにしてもよい。
【0151】
また上記実施形態では、第1アンモニア起電力変化量ΔEMF1が予め設定された第1終了判定値X2より大きくなった後に、第1アンモニア起電力変化量ΔEMF1が第2終了判定値X3より小さくなった場合に、リッチスパイクフラグFsをクリアする形態を示した。しかし、第1アンモニア起電力変化量ΔEMF1が予め設定された第1終了判定値X2より大きくなった場合に、リッチスパイクフラグFsをクリアするようにしてもよい。
【0152】
また、上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分担させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に発揮させたりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【0153】
上述したマイコン190の他、当該マイコン190を構成要素とするシステム、当該マイコン190としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体、濃度算出方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0154】
2…マルチガスセンサ、3…制御部、102…第1アンモニア検出部、190…マイコン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10