(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1A,
図1Bは、この発明の実施の形態1に係るトルク検出器の構成例を示す図(歪センサがベース板を介して回転軸体に取付けられた状態を示す図)であり、
図1Aは断面図であり、
図1Bは
図1Aに示すA部の上面図である。
【
図3】
図3Aはこの発明の実施の形態1における抵抗ゲージの配置例を示す上面図であり、
図3Bは
図3Aに示す抵抗ゲージにより構成されるフルブリッジ回路の構成例を示す図である。
【
図4】この発明の実施の形態1における歪センサの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5A、
図5Bは、トルク検出器の基本動作原理を説明する図であり、
図5Aは回転軸体に加えられたトルクを示す側面図であり、
図5Bは
図5Aに示すトルクにより歪センサに発生した応力分布の一例を示す図である。
【
図6】
図6A、
図6Bは、この発明の実施の形態1に係るトルク検出器の効果を示す図であり、
図6Aは回転軸体に軸方向の圧縮応力が加えられた場合を示す図であり、
図6Bは回転軸体に軸方向の引張応力が加えられた場合を示す図である。
【
図7】この発明の実施の形態1におけるベース板の別の構成例を示す上面図(歪センサがベース板を介して回転軸体に取付けられた状態を示す図)である。
【
図8】
図8A〜
図8Cは、この発明の実施の形態1における抵抗ゲージの別の配置例を示す上面図である。
【
図9】
図9Aはこの発明の実施の形態1における抵抗ゲージの別の配置例を示す上面図であり、
図9Bは
図9Aに示す抵抗ゲージにより構成されるハーフブリッジ回路の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係るトルク検出器の構成例を示す図である。
図1では、歪センサ1がベース板2を介して回転軸体5に取付けられた状態を示している。
回転軸体5は、軸方向における一端にモータ等の駆動系6が接続され、他端にロボットハンド等の負荷系が接続される。この回転軸体5の周面には、収納溝51が形成されている。なお
図1では、収納溝51の断面形状がT型に構成されている。
【0011】
一方、トルク検出器は、回転軸体5に加わるトルクを検出する。トルク検出器は、
図1に示すように、歪センサ1及びベース板2を備えている。また、トルク検出器及び回転軸体5は、トルク検出装置を構成する。以下では、歪センサ1として半導体歪ゲージを用いた場合を示す。
【0012】
歪センサ1は、ベース板2を介して回転軸体5に取付けられ、外部からのせん断応力(引張応力及び圧縮応力)に応じた電圧を出力する半導体歪ゲージである。歪センサ1は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)により実現される。この歪センサ1は、ベース板2の中央に搭載される。歪センサ1は、
図2,3に示すように、シリコン層(基板層)11及び絶縁層12を有する。
【0013】
シリコン層11は、外力に応じて歪みが生じる単結晶シリコンであり、複数の抵抗ゲージ(拡散抵抗)13から成るホイートストンブリッジ回路を有するセンサ層である。シリコン層11には、裏面(一面)の中央に、溝部111が形成されている。溝部111により、シリコン層11には薄肉部112が構成される。抵抗ゲージ13は、この薄肉部112に形成される。
【0014】
なお、薄肉部112の厚さは、シリコン層11の剛性等に応じて適宜設計される。例えば、シリコン層11の剛性が低い場合には薄肉部112は厚くされ、シリコン層11の剛性が高い場合には薄肉部112は薄くされる。
【0015】
また、単結晶シリコンは、結晶異方性を有し、p型シリコン(100)面において、<110>方向のときに最もピエゾ抵抗係数が大きくなる。そのため、抵抗ゲージ13は、シリコン層11の<110>方向に形成される。
図3では、フルブリッジ回路(ホイートストンブリッジ回路)を構成する4つの抵抗ゲージ13(R1〜R4)が、シリコン層11の辺方向に対して斜め方向(45度方向)に形成され、歪センサ1が2方向のせん断応力を検知する場合を示している。なおここでは、上記斜め方向の具体例として45度方向とした場合を示したが、上記斜め方向は45度方向に限定されず、歪センサ1の特性上、ある程度のずれ(例えば44度方向又は46度方向等)は許容される。
【0016】
絶縁層12は、上面がシリコン層11の裏面に接合され、裏面が回転軸体5に接合される台座である。この絶縁層12としては、例えばガラス又はサファイア等を用いることができる。
【0017】
次に、歪センサ1の製造方法の一例について、
図4を参照しながら説明する。
歪センサ1の製造方法では、
図4に示すように、まず、シリコン層11に、イオン注入により複数の抵抗ゲージ13を形成する(ステップST1)。そして、複数の抵抗ゲージ13によりホイートストンブリッジ回路を形成する。
次いで、シリコン層11の裏面に、エッチングにより溝部111を形成する(ステップST2)。これにより、シリコン層11の抵抗ゲージ13が形成された箇所を薄肉部112とさせる。
次いで、シリコン層11の裏面と絶縁層12の上面とを、例えば陽極接合により接合する(ステップST3)。
【0018】
ベース板2は、歪センサ1が搭載され、回転軸体5の収納溝51に収納されて回転軸体5に取付けられる板部材である。このベース板2としては、例えばコバール等の金属部材を用いることができる。また、ベース板2には、長手方向(回転軸体5の軸方向)における歪センサ1の一端側に、スリット部(変形吸収部)21が形成されている。スリット部21の長手方向(上記軸方向に垂直な方向)の長さは、歪センサ1の短手方向(上記軸方向に垂直な方向)の長さより長く構成されている。なお、回転軸体5に加えられるトルクによるせん断応力を歪センサ1に発生させ易くするため、スリット部21の短手方向(上記軸方向)の長さは短い方がよい。なお
図1では、歪センサ1がスリット部21に接している場合を示しているが、離れていてもよい。
また、ベース板2には、表面及び裏面に、非固定部22が設けられている。非固定部22は、抵抗ゲージ13に対向する領域及び上記軸方向における抵抗ゲージ13とスリット部21との間の領域を含む領域に設けられ、回転軸体5に対して非固定とされる部分である。また、ベース板2における非固定部22以外の部分は、回転軸体5に対して固定可能としている。
図1に示すベース板2では、短手方向(上記軸方向に垂直な方向)における両側面のうち、歪センサ1の長手方向(上記軸方向)における両端の位置よりも内側から外側に対向する面23が、回転軸体5に固定されている。
【0019】
また上記のようにして製造された歪センサ1をベース板2に取付ける場合には、絶縁層12の裏面とベース板2とを例えばはんだ接合により接合する。この際、絶縁層12の裏面及びベース板2の接合部位をメタライズした上で、はんだ接合を行う。また、ベース板2を回転軸体5に取付ける場合にも上記と同様に例えばはんだ接合により接合する。
【0020】
また、歪センサ1は、抵抗ゲージ13が回転軸体5の軸方向に対して斜め方向(45度方向)を向くように配置される。すなわち、抵抗ゲージ13は、回転軸体5にトルクが加わった際に発生するせん断応力の発生方向を向くように配置される。なおここでは、上記斜め方向の具体例として45度方向とした場合を示したが、上記斜め方向は45度方向に限定されず、歪センサ1の特性上、ある程度のずれ(例えば44度方向又は46度方向等)は許容される。
【0021】
次に、トルク検出器の基本動作原理について、
図5を参照しながら説明する。
図5Aでは、歪センサ1が取付けられた回転軸体5の一端に駆動系6が接続され、この駆動系6により回転軸体5にトルクが加えられた状態を示している。また
図5では、円柱状の回転軸体5を用い、歪センサ1が回転軸体5に直接取付けられた場合を示している。
図5Aに示すように、回転軸体5にトルクが加えられることで、回転軸体5に取付けられた歪センサ1が歪み、歪センサ1の表面に
図5Bに示すようなせん断応力が発生する。
図5では、色が濃い点ほど引張応力が強い状態であり、色が薄い点ほど圧縮応力が強い状態であることを示している。そして、回転軸体5の軸方向に対して斜め方向(45度方向)を向いた抵抗ゲージ13は、このせん断応力に応じて抵抗値が変化し、歪センサ1は、抵抗値の変化に応じた電圧を出力する。そして、トルク検出器は、この歪センサ1により出力された電圧から回転軸体5に加えられたトルクを検出する。
【0022】
実施の形態1に係るトルク検出器では、ベース板2の長手方向における歪センサ1の一端側にスリット部21が設けられている。また、スリット部21の長手方向の長さは、歪センサ1の短手方向の長さより長く構成されている。これにより、回転軸体5にトルク以外の他軸荷重(スラスト荷重)が加わった場合に、スリット部21の分離効果(吸収効果)により、歪センサ1に発生する歪みを低減できる。
図6では、回転軸体5にスラスト荷重(圧縮応力、引張応力)が加えられた場合を示している。
図6に示すように、回転軸体5にスラスト荷重が加えられた場合に、スリット部21が変形することで、歪センサ1に発生する歪みを低減できる。
【0023】
一方、ベース板2にスリット部21を設けることで、歪センサ1に発生するせん断応力も低減してしまう。それに対し、実施の形態1に係るトルク検出器では、ベース板2に非固定部22を設け(抵抗ゲージ13に対向する領域及び上記軸方向における抵抗ゲージ13とスリット部21との間の領域を含む領域を、回転軸体5に対して非固定とし)、それ以外の部分を回転軸体5に対して固定可能としている。ここで、非固定部22の部分ではベース板2と回転軸体5が分離されるため、所定の領域(スリット部21と、抵抗ゲージ13に対向する領域及び上記軸方向における抵抗ゲージ13とスリット部21との間の領域を含む領域)を非固定領域とすることで、スリット部21の分離効果を歪センサ1に与えることができる。このように、ベース板2に非固定部22を設けて、ベース板2が回転軸体5に固定される固定領域を調整することで、他軸影響を低減する効果を維持しながら、歪センサ1に効率的にせん断応力を発生させることができ、トルク感度を持つことができる。
【0024】
また、実施の形態1に係るトルク検出器では、従来方式のような複数の歪ゲージを用いる必要はなく、単一の歪センサ1で構成可能であるため、従来方式に対してトルク検出器の組立が容易となる。
【0025】
なお上記では、
図1に示すように、ベース板2の長手方向における歪センサ1の一端側に位置するスリット部21が形成された場合を示した。しかしながら、これに限らず、
図7に示すように、ベース板2の長手方向における歪センサ1の両端側にそれぞれスリット部21が形成されてもよい。各スリット部21の長手方向の長さは、歪センサ1の短手方向の長さより長く構成されている。なお、回転軸体5に加えられるトルクによるせん断応力を歪センサ1に発生させ易くするため、各スリット部21の短手方向の長さは短い方がよい。このように、歪センサ1の両側にそれぞれスリット部21が形成されることで、他軸荷重による影響を更に抑制できる。
【0026】
また、歪センサ1がベース板2に搭載されることで、ベース板2が歪センサ1に対して剛性調整の役割を果たす。また、歪センサ1がベース板2に搭載されることで、歪センサ1の固定及び信号取出し工程をベース板2上で実施でき、トルク検出器の組立時におけるハンドリング性が向上する。よって、歪センサ1が扱い易く、プロセス装置上の制約も少ない。
【0027】
また、歪センサ1とベース板2との接合では、はんだ接合等により熱が加えられる。そのため、ベース板2の材料を適切に選択することで、線膨張率の差による温度特性悪化を低減できる。
例えば、歪センサ1としてシリコンを用いた場合には、ベース板2として、シリコンに対して線膨張係数が近いコバールを用いる。これにより、トルク検出器の温度特性が向上する。また、歪センサ1をベース板2にはんだ接合等により固定する際に、線膨張係数の違いにより生じる熱歪を抑制できる(熱プロセスの影響を抑制できる)。
【0028】
なお上記のトルク検出器では、シリコン層11の裏面中央に溝部111が形成されることで薄肉部112が構成され、抵抗ゲージ13がこの薄肉部112に形成されている。これにより、抵抗ゲージ13が形成された薄肉部112に応力を集中させることができ、回転軸体5に加わるトルクに対する検出感度が向上する。
【0029】
また、4つの抵抗ゲージ13の配置は
図3に示す配置に限らず、例えば
図8に示すような配置としてもよい。
【0030】
また上記では、ホイートストンブリッジ回路として、4つの抵抗ゲージ13(R1〜R4)から成るフルブリッジ回路を用いた場合を示した。しかしながら、これに限らず、
図9に示すように、ホイートストンブリッジ回路として、2つの抵抗ゲージ13(R1,R2)から成るハーフブリッジ回路を用いてもよい。なお、
図9BにおけるRは、固定抵抗である。
【0031】
また
図10に示すように、シリコン層11の裏面に、溝部111をシリコン層11の側面に連通する連通溝部113が形成されてもよい。ここで、シリコン層11と絶縁層12との接合では、陽極接合により400度程度の温度が加えられる。そのため、連通溝部113が無い場合には、陽極接合の際に、シリコン層11と絶縁層12との間の溝部111に存在する空気が高温状態で封止されてしまい、常温に下がるとその空気が収縮するため、薄肉部112が変形し、歪センサ1のゼロ点がずれてしまう恐れがある。一方、連通溝部113が設けられることで、陽極接合の際に、溝部111に存在する空気を外部に逃がすことができ、薄肉部112の変形を回避できる。
なお、シリコン層11は、溝部111及び連通溝部113により、全体が薄くならないように、一部のみが薄くなるように構成される必要がある。
【0032】
なお上記では、基板層として、シリコン層11を用いた場合を示したが、これに限らず、外力に応じて歪みが生じる部材であればよい。例えば、基板層として、絶縁体(ガラス等)又は金属を用いることができる。ここで、基板層が絶縁体である場合には、抵抗ゲージ13は、当該絶縁体にスパッタリング等により成膜されることで形成される。また、基板層が金属である場合には、抵抗ゲージ13は、当該金属に絶縁膜を介してスパッタリング等により成膜されることで形成される。また、基板層としてシリコン層11を用い、抵抗ゲージ13が、当該シリコン層11にスパッタリング等により成膜されることで形成されてもよい。
基板層として上記絶縁体又は金属を用いた場合でも、一般的な金属歪ゲージよりもゲージ率は高くなる。また、成膜によって抵抗ゲージ13を形成した場合には、シリコン層11にイオン注入により抵抗ゲージ13を形成した場合に対し、結晶方位によってゲージ率が変わることはなく、すなわち、方向を限定する必要がなくなる。
一方、ゲージ率は、成膜によって抵抗ゲージ13を形成した場合に対し、シリコン層11にイオン注入により抵抗ゲージ13を形成した場合の方が、4〜10倍以上高くなる。
【0033】
また上記では、歪センサ1として、
図2に示すような形状の半導体歪ゲージを用いた場合を示した。しかしながら、これに限らず、その他の形状の半導体歪ケージを用いてもよい。また、歪センサ1として、その他の歪ゲージ(例えば金属歪ゲージ)を用いてもよい。
【0034】
また上記では、変形吸収部としてスリット部21を用いた場合を示した。しかしながら、これに限らず、変形吸収部は、上記軸方向におけるベース板2の変形を吸収する構成であればよく、変形吸収部として例えば、溝部、波状の凹凸部21b、又は弾性を有するバネ部を用いてもよい。
図11は変形吸収部として波状の凹凸部21bを用いた場合を示し、
図11Aは形状が半波長波である場合を示し、
図11Bは形状が1波長波である場合を示している。
【0035】
以上のように、この実施の形態1によれば、回転軸体5と、回転軸体5に取付けられたベース板2と、ベース板2に搭載され、抵抗ゲージ13を有する歪センサ1とを備え、ベース板2は、回転軸体5の軸方向における歪センサ1の一端側又は両端側に形成され、当該軸方向におけるベース板2の変形を吸収する変形吸収部(スリット部21)と、抵抗ゲージ13に対向する領域及び軸方向における抵抗ゲージ13と変形吸収部との間の領域を含む領域に設けられ、回転軸体5に対して非固定である非固定部22とを有するので、他軸荷重が加わった場合でも精度よくトルクを検出でき、組立が容易である。
【0036】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。