(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
図面を参照して、実施形態としての吸収性物品について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0017】
本実施形態の吸収性物品は、着用者に装着され、尿や経血といった液体を吸収する衛生用品である。この吸収性物品としては、テープ型やパンツ型の紙おむつ(いわゆる「使い捨ておむつ」),尿パッド,生理用ナプキン,パンティーライナーなどが挙げられる。以下の実施形態では、吸収性物品としてテープ型の紙おむつを例示する。
【0018】
本実施形態では、紙おむつについて、着用者の腹部に位置する前身頃と背部に位置する後身頃とを結ぶ方向を長手方向とし、着用者の肌に向かう側(装着された状態で内側)を肌面側とし、肌面側の反対側(装着された状態で外側)を非肌面側とする。また、肌面側と非肌面側とを結ぶ方向を厚み方向とし、長手方向と厚み方向の何れにも直交する方向を幅方向とする。
そのほか、本実施形態では、特に断らない限り「数値X〜数値Y」なる表記が「数値X以上であって数値Y以下である」ことを意味する。
【0019】
[I.一実施形態]
[1.紙おむつ]
まず、
図1を参照して、紙おむつの基本的な構成を説明する。ここでは、紙おむつにおいて着用者の股下に位置する股下部1の構成をおもに述べる。
紙おむつの股下部1は、長手方向中央に位置する。この股下部1には、幅方向内側に吸収体10が設けられ、幅方向外側の肌面側にサイドシート(シート)20が設けられる。
【0020】
吸収体10は、複数のシート状あるいはマット状の部材からなる吸液性の要素である。この吸収体10では、ラップシート11によって被包(ラップ)された吸収マット(「コア」とも称される)12に対して、肌面側にトップシート(「センターシート」とも称される)13が配置され、非肌面側にバックシート14が配置される。なお、吸収体10の非肌面側(すなわちバックシート14の非肌面側)は、カバーシート15で被覆される。
【0021】
この吸収体10では、着用者から排泄された液体を吸収マット12に吸収させるために、ラップシート11やトップシート13は、液体を透過させる性質(液透過性)をもつ。一方、吸収マット12に吸収された液体の漏れを防ぐために、バックシート14やカバーシート15は、液体を透過させない性質(液不透過性)をもつ。
そのほか、着用者に対する紙おむつのフィット性,吸収体10に排泄される液体の拡散性,紙おむつの通気性などを向上させるために、溝状のパターン2が吸収体10に設けられている。
【0022】
サイドシート20は、紙おむつの液漏れを防ぐために設けられたシート状の部材である。そのため、サイドシート20も液不透過性を有する。このサイドシート20は、詳細を後述する所定の耐水性を有する。
ここでは、サイドシート20のうち幅方向の各端部およびその周縁部(以下「端縁部」という)に、長手方向に沿ってギャザー21,22が設けられている。サイドシート20のうち、幅方向内側の端縁部には肌面側に立設された立体ギャザー21が形成され、幅方向外側の端縁部には幅方向外側に突設されたレッグギャザー22が形成されている。
【0023】
立体ギャザー21は、排泄された液体の幅方向外側への漏れを防ぐために設けられる。
この立体ギャザー21では、サイドシート20のうち幅方向内側の端縁部に位置するシート部20a,20bが折り曲げられて重ねられ、これらのシート部20a,20bで長手方向に延在する第一糸ゴム(弾性部材)31が囲まれている。言い換えれば、サイドシート20は、第一糸ゴム31に対して幅方向内側に内壁シート部20aが配置され、第一糸ゴム31に対して幅方向外側に外壁シート部20bが配置されている。そのため、サイドシート20の一部では、二枚のシート部20a,20bが重ね合わせられている。
このようにサイドシート20のシート部20a,20bが折り曲げられて重ねられた箇所に第一糸ゴム31が内蔵されることで、肌面側に立設されるとともに皺寄せられた立体ギャザー21が形成される。
【0024】
レッグギャザー22は、着用者の脚部への追従性を高めて快適性を向上させるために設けられる。
このレッグギャザー22では、サイドシート20のうち幅方向外側の端縁部に位置する外側シート部20cとカバーシート15のうち幅方向外側の端縁部に位置する外側シート部15cとが重ね合わせられ、これらの外側シート部20c,15cで長手方向に延在する第二糸ゴム(弾性部材)32が囲まれている。
このようにサイドシート20およびカバーシート15の外側シート部20c,15cが重ねられた箇所に第二糸ゴム32が内蔵されることで、幅方向外側に突設されるとともに皺寄せられたレッグギャザー22が形成される。
【0025】
[2.サイドシート]
つぎに、サイドシート20の詳細な構成を説明する。
このサイドシート20は、熱可塑性樹脂の繊維を用いたスパンボンド不織布のみから構成されている。そのため、SMS不織布やSMMS不織布といったメルトブローン層(メルトブローン不織布)を含む不織布やメルトブローン層のみからなるメルトブローン不織布は、サイドシート20に含まれていない。
【0026】
スパンボンド不織布とは、熱可塑性樹脂が連続的な繊維に溶出された紡糸を集積して得られるシート状の部材である。このスパンボンド不織布では、集積された紡糸のそれぞれが長い繊維(長繊維)をなしている。ここでは、加熱および加圧の何れかまたは両方を施すことによって繊維どうしを溶着させるエンボス加工がスパンボンド不織布に施されている。
【0027】
ここで、スパンボンド不織布の具体的な製法を下記に例示する。
はじめに、熱可塑性樹脂が溶融した状態で吐出された紡糸からなる長繊維群をエアーサッカーに導入して延伸して解繊し、コンベア上に集積することで繊維ウェブを得る。つづいて、繊維ウェブを形成する長繊維群どうしをエンボス加工で接合する。たとえば、コンベアの流れ方向およびこれに直交する方向に規則的に並んだ凹凸パターンが、この凹凸パターンに対応する凹凸が外周に形成されたエンボスロールで繊維ウェブに付与される。このようにしてエンボス加工された繊維ウェブがスパンボンド不織布として製造される。
【0028】
なお、メルトブローン不織布とは、溶融した熱可塑性樹脂をスプレー状に吹き付けて生成された短い繊維(短繊維)を集積して得られるシート状の部材である。このメルトブローン不織布は、スパンボンド不織布と比較して、強度が低く、また、目開きが小さい傾向にある。
以下、サイドシート20について、構造的な構成,化学的な構成の順に詳述する。
【0029】
[2−1.構造的な構成]
本実施形態のサイドシート20は、
図2に示すように、従来のスパンボンド不織布(
図3の符号41参照)に用いられる繊維よりも小径の繊維を高密度で用いて製造した目開きの小さいスパンボンド不織布を用いることにより、強度の低下を抑えつつ所定の耐水性をもたせたものである。すなわち、サイドシート20の耐水性は、サイドシート20を構成するスパンボンド不織布で担保されている。そのため、スパンボンド不織布が所定の耐水性を有している。
【0030】
ここでいう所定の耐水性とは、水圧が繰り返し印加された場合に、サイドシート20に要求される耐水圧を継続して満たす物性を意味する。
サイドシート20に用いられるスパンボンド不織布は、強度が確保されることから、水圧が繰り返し印加されたとしても耐水圧の低下あるいは変動が抑えられ、目開きが小さいことから、耐水圧が向上する。言い換えれば、スパンボンド不織布からなるサイドシート20は、たとえばメルトブローン層を含む不織布よりも強度が確保され、印加された水圧によって破損しにくく、「目開き」に応じた耐水圧が維持されやすい。そのため、水圧が繰り返し印加されたとしても耐水圧が低下しにくい。
【0031】
上記した所定の耐水性は、スパンボンド不織布の「耐水圧」はもちろんのこと、スパンボンド不織布の「目開き」や「エンボス部分の面積率(以下、「エンボス面積率」と略称する)」に応じたものとなる。
ここでは、サイドシート20に用いられるスパンボンド不織布について、「耐水圧」,「目開き」,「エンボス面積率」について説明する。
【0032】
〈耐水圧〉
「耐水圧」とは、耐えることのできる水圧の上限を意味する。具体的には、スパンボンド不織布の上に設置された底無しの筒内に入れられた水が透過しない、スパンボンド不織布に対する水面の高さの上限値が「耐水圧」である。
具体的には、ISO811に準拠して耐水圧を繰り返し測定した場合に、一回目に測定された第一耐水圧P
1に対する二回目以降に測定された第二耐水圧P
2の低下分が所定圧P
P以下のスパンボンド不織布がサイドシート20に用いられる。
【0033】
第一耐水圧P
1およびこの第一耐水圧P
1から所定圧P
Pを減算した第二所定圧P
2は、排泄される液体の漏れを防ぐために必要とされる水圧以上である。この水圧としては、130mmH
2Oが挙げられる。
ここでの第一耐水圧P
1は、160mmH
2O以上とされている。この第一耐水圧P
1は、液漏れを確実に防ぐ観点から、170mmH
2O以上であることが好ましく、180mmH
2O以上であることが更に好ましい。
【0034】
また、所定圧P
Pは、30mmH
2O以下とされている。この所定圧P
Pは、液漏れの防止性能を維持させる観点から、20mmH
2O以下であることが好ましく、10mmH
2O以下であることが更に好ましい。
したがって、第二耐水圧P
2は、少なくとも130(=160−30)mmH
2O以上とされ、好ましくは140(=170−30=160−20)mmH
2O以上とされ、更に好ましくは150(=180−30=170−20=160−10)mmH
2O以上とされる。更に言えば、第二耐水圧P
2は、160(=180−20=170−10)mmH
2O以上とされることがいっそう好ましく、170(=180−10)mmH
2O以上とされることがますます好ましい。
【0035】
〈目開き〉
「目開き」とは、スパンボンド不織布における目(細孔)の大きさを表すパラメータである。そのため、「目開き」が小さければ液体を透過させにくく、逆に、「目開き」が大きければ液体を透過させやすくなる。ひいては、「目開き」が小さくなるほど上述した「耐水圧」が高くなる。
【0036】
しかしながら、サイドシート20に印加される水圧が高くなるにつれて、スパンボンド不織布が伸張して「目開き」が大きくなりうるため、厳密に言えば、「目開き」の大小と「耐水圧」の高低とは線形(リニア)に対応していない。さらに、スパンボンド不織布の目の大きさは均一ではなくばらつきがある。そのため、「耐水圧」に対応するパラメータとして「目開き」をそのまま用いることは困難である。
そこで、「目開き」に対応するパラメータのうち、サイドシート20に印加される水圧の高低にかかわらず変動しない「繊度」および「目付量」を用いている。
【0037】
「繊度」とは、繊維の繊維径(太さ)や断面積に対応するパラメータであり、所定の長さあたりの重量で表される。ここでは、一本の繊維について9000mあたりのグラム数[デニール]を「繊度」として用いる。そのため、スパンボンド不織布は、「繊度」が小さくなるほど繊維径が細くなる。
なお、スパンボンド不織布での繊維径にばらつきがあることから、繊維の「繊度」の平均値をパラメータとして採用している。そのため、繊維の「繊度」の平均値のことを単に「繊度」と呼ぶ。
【0038】
「目付量」とは、不織布の厚みあるいは積層度合いに対応するパラメータであり、単位面積あたりの重量で表される。ここでは、一平米あたりのグラム数を「目付量」とする。
同じ「目付量」のもとでは、「繊度」が小さくなるほど繊維径が小さくなるうえに繊維数(繊維の本数)が増えることから、「目開き」が小さくなるものと言える。また、同じ「繊度」のもとでは、「目付量」が大きくなるほど繊維数が増えることから、「目開き」が小さくなるものと言える。
本実施形態のサイドシート20には、「繊度」が0.1〜1.0デニールであり、「目付量」が8〜20g/m
2のスパンボンド不織布が用いられている。
【0039】
「繊度」が0.1デニール未満であると、繊維の強度が低く、繊維径が小さいため、繊維の紡糸性が低下する。一方、「繊度」が1.0デニールよりも大きいと、繊維径が大きいため、「目開き」が大きくなりやすい。この「繊度」は、繊維の紡糸性を確保しつつ「目開き」を抑える観点から、0.2〜0.8デニールであることが好ましく、0.4〜0.6デニールであることが更に好ましい。
【0040】
「目付量」が8g/m
2未満であると、厚みや強度が低下することからスパンボンド不織布の形成性が低下するおれがある。一方、「目付量」が20g/m
2よりも大きいと、厚みや強度が増加することからスパンボンド不織布の触感(肌触り)が低下するおれがある。この「目付量」は、スパンボンド不織布の形成性および触感を両立させる観点から、10〜18g/m
2であることが好ましく、12〜16g/m
2であることが更に好ましい。
【0041】
「繊度」および「目付量」を上述した所定の範囲内に設定することで、スパンボンド不織布のサイドシート20は、強度の低下が抑えられたうえで、従来のスパンボンド不織布の繊維よりも細い繊維が高密度で設けられ、「目開き」の小さいものとすることができる。よって、サイドシート20に用いられるスパンボンド不織布に所定の耐水性を確保することができる。
【0042】
〈エンボス面積率〉
「エンボス面積率」とは、スパンボンド不織布の全平面面積に対するエンボス加工された部分の総平面面積の割合である。ここでは、スパンボンド不織布の全平面面積を「S1」とし、エンボス加工された部分の総平面面積を「S2」としたときに、「S2」に対する「S1」の百分率(=〈S1/S2〉×100)を「エンボス面積率」とする。
【0043】
本実施形態のサイドシート20には、「エンボス面積率」が5〜25%のスパンボンド不織布が用いられる。
「エンボス面積率」が5%未満であると、スパンボンド不織布が毛羽立ちやすくなり、サイドシート20の定形性が低下するおそれがある。一方、「エンボス面積率」が25%よりも大きいと、サイドシート20の強度あるいは剛性が高まり、触感が低下するおそれがある。この「エンボス面積率」は、サイドシート20の定形性および触感を両立させる観点から、6〜20%であることが好ましい。なお、「エンボス面積率」が大きくなるほど、スパンボンド不織布の耐水圧が高まる傾向にある。
【0044】
〈その他〉
本実施形態のサイドシート20には、特定の方向に繊維が配向されたスパンボンド不織布を用いてもよいし、繊維が不規則に配向されたスパンボンド不織布を用いてもよい。
前者のスパンボンド不織布を用いた場合には、特定の方向において強度や剛性を確保できる(異方性を有する)ことから、吸収性物品の設計自由度を向上させることができる。後者のスパンボンド不織布を用いた場合には、強度や剛性のばらつきを抑えることができる(等方性を有する)ことから、配向を考慮せずにサイドシート20を配置することができ、吸収性物品の製造作業性の向上に寄与する。
【0045】
[2−2.化学的な構成]
つぎに、スパンボンド不織布のサイドシート20に関し、化学的な構成を説明する。これから述べる化学的な構成は、サイドシート20をなすスパンボンド不織布に用いる繊維の径を抑えつつ繊維の紡糸性を確保するための前提例である。
【0046】
サイドシート20をなすスパンボンド不織布の繊維には、ポリオレフィン樹脂が用いられている。このポリオレフィン樹脂には、ポリプロピレン(PP)が含まれる。なお、ここでいうポリオレフィン樹脂には、ポリエチレン(PE)が含まれていてもよい。
上記のポリプロピレンは、融点が100℃未満の低結晶性ポリプロピレン(低結晶性ポリオレフィン樹脂)と、融点が100℃以上の高結晶性ポリプロピレン(高結晶性ポリオレフィン樹脂)とに大別することができる。この高結晶性ポリプロピレンとしては、プロピレン単独重合体,プロピレンランダム共重合体,プロピレンブロック共重合体などが挙げられる。なお、低結晶性ポリプロピレンについては、下記の項目[2−2−2]で詳細を後述する。
【0047】
[2−2−1.ポリオレフィン樹脂]
上記のポリオレフィン樹脂は、メルトフローレート(「MFR」とも略称される)が20〜100g/10分であることが好ましい。なお、メルトフローレートとは、溶液状態にある樹脂の流動性を示す尺度の一つであり、値が大きいほど流動性や成形性が向上するものの、引張強度が低下する傾向にある。
【0048】
メルトフローレートが20g/10分未満であると、ポリオレフィン樹脂から繊維への紡糸性が低下するおそれがある。一方、メルトフローレートが100g/10分よりも大きいと、ポリオレフィン樹脂から成形されたスパンボンド不織布からなるサイドシート20の触感が低下するおそれがある。そのため、ポリオレフィン樹脂のメルトフローレートは、紡糸性および触感を確保する観点から、20〜90g/10分であることが更に好ましく、20〜80g/10分であることが特に好ましい。
【0049】
そのほか、用いられるポリオレフィン樹脂には、他の熱可塑性樹脂や添加剤が混合されてもよい。
他の熱可塑性樹脂には、オレフィン系重合体が含まれる。このオレフィン系重合としては、プロピレン−エチレン共重合体,プロピレン−エチレン−ジエン共重合体,エチレン/α−オレフィン共重合体,エチレン−酢酸ビニル共重合体,水素添加スチレン系エラストマーなどが挙げられる。これらは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
添加剤としては、滑剤,発泡剤,結晶核剤,耐侯安定剤,紫外線吸収剤,光安定剤,耐熱安定剤,帯電防止剤,離型剤,難燃剤,合成油,ワックス,電気的性質改良剤,スリップ防止剤,アンチブロックング剤,粘度調製剤,着色防止剤,防曇剤,顔料,染料,可塑剤,軟化剤,老化防止剤,塩酸吸収剤,塩素捕捉剤,酸化防止剤,粘着防止剤などの従来公知のものが挙げられる。
【0051】
[2−2−2.低結晶性ポリプロピレン]
つぎに、用いられる低結晶性ポリプロピレンの化学的な構成を詳述する。
まず、用いられる低結晶性ポリプロピレンの基本的な立体規則(シーケンス)を説明する。ここでは、二つの側鎖メチル基の配列が同じ方を向くダイアドの立体規則をメソ〈m〉と呼び、二つの側鎖メチル基の配列が互いに異なる方を向くダイアドの立体規則をラセミ〈r〉と呼ぶ。また、ダイアドが二つ並ぶ立体規則をトリアッドシーケンスと呼び、ダイアドが三つ並ぶ立体規則をペンタッドシーケンスと呼ぶ。
【0052】
トリアッドシーケンスとしては、メソトリアッド〈mm〉,ラセミトリアッド〈rr〉,トリアッド〈mr〉が挙げられる。メソトリアッドはメソが二つ並ぶ立体規則であり、ラセミトリアッドはラセミが二つ並ぶ立体規則であり、トリアッドはメソ,ラセミの順に並ぶ立体規則である。
ペンタッドシーケンスとしては、メソペンタッド〈mmmm〉,ラセミペンタッド〈rrrr〉,ラセミメソラセミメソペンタッド〈rmrm〉が挙げられる。メソペンタッドはメソが三つ並ぶ立体規則であり、ラセミペンタッドはラセミが三つ並ぶ立体規則であり、ラセミメソラセミメソペンタッドはラセミ,メソ,ラセミ,メソの順に並ぶ立体規則である。
【0053】
なお、上記した種々の立体規則は、用いられる低結晶性ポリプロピレンにおける割合(ここでは百分率とする)が『「立体規則の名称」+「分率」』[モル%]の名称で定義される。たとえば、用いられる低結晶性ポリプロピレンにおいて、メソペンタッドの割合はメソペンタッド分率であり、ラセミメソラセミメソペンタッドの割合はラセミメソラセミメソペンタッド分率である。
【0054】
用いられる低結晶性ポリプロピレンとしては、立体規則性がやや崩れた結晶性のポリプロピレンが挙げられる。具体的には、下記に列挙する〈特性a〉〜〈特性h〉を満たす低結晶性ポリプロピレンを用いることが好ましい。
【0055】
〈特性a〉メソペンタッド分率
メソペンタッド分率は、30〜80モル%であることが好ましい。
メソペンタッド分率が30モル%未満であると、低結晶性ポリプロピレンの溶融後の固化が遅く、繊維の成形性が低下するおそれがある。一方、メソペンタッド分率が80モル%よりも大きいと、低結晶性ポリプロピレンの結晶化度が過度に高いため繊維が切れやすくなり、繊維の成形性が低下するおそれがある。そのため、繊維の成形性を確保する観点から、メソペンタッド分率は、40〜70モル%であることが好ましく、50〜60モル%であることが更に好ましい。
【0056】
〈特性b〉メソペンタッド分率およびラセミペンタッド分率の比率
メソペンタッド分率を「A」とし、ラセミペンタッド分率を「B」としたときに、不等式I「B/(1−A)≦0.1」を満たすことが好ましい。
不等式Iの左辺は、低結晶プリプロピレンの規則性分布の均一さを示す指標することができ、値が大きくなるとべたつきの原因となりうる。そのため、べたつきを確実に抑える観点からは、不等式I′「B/(1−A)≦0.05」を満たすことが更に好ましく、不等式I″「B/(1−A)≦0.04」を満たすことが特に好ましい。
【0057】
〈特性c〉ラセミメソラセミメソペンタッド分率
ラセミメソラセミメソペンタッド分率は、2.5モル%よりも大きいことが好ましい。
ラセミメソラセミメソペンタッド分率が2.5モル%以下であると、低結晶性ポリプロピレンのランダム性が減少し、アイソタクチックポリプロピレンブロック鎖による結晶化によって結晶化度が高くなる。よって、繊維が切れやすくなり、繊維の成形性が低下するおそれがある。そのため、繊維の成形性を確保する観点から、ラセミメソラセミメソペンタッド分率は、2.6モル%よりも大きいことが好ましく、2.7モル%よりも大きいことが更に好ましい。
なお、ラセミメソラセミメソペンタッド分率の上限は、一般的に10モル%程度である。そのため、ラセミメソラセミメソペンタッド分率は、10モル%以下であることが好ましい。
【0058】
〈特性d〉メソトリアッド分率,ラセミトリアッド分率およびトリアッド分率の比率
メソトリアッド分率を「C」とし、ラセミトリアッド分率を「D」とし、トリアッド分率を「E」としたときに、不等式II「C×D/E
2≦2.0」を満たすことが好ましい。
不等式IIの左辺は、重合体のランダム性を示す指標とすることができ、値が小さいほどランダム性が高くなる傾向にある。そして、重合体のランダム性が高くなるほど、繊維が切れにくく、べたつきが抑制されうる、そのため、ランダム性の過度な高まりを抑えつつ繊維の成形性を確保するとともにべたつきを抑える観点からは、不等式II′「0.2≦C×D/E
2≦2.0」を満たすことが更に好ましく、不等式II″「0.25≦C×D/E
2≦1.8」を満たすことが特に好ましい。
【0059】
〈特性e〉重量平均分子量
用いられる低結晶性ポリプロピレンは、重量平均分子量が10000〜200000であることが好ましい。
重量平均分子量が10000未満であると、低結晶性ポリプロピレンの粘度が過剰に低下することで繊維が切れやすくなり、繊維の成形性が低下するおそれがある。一方、重量平均分子量が200000よりも大きいと、低結晶性ポリプロピレンの粘度が過剰に高まることで繊維の紡糸性が低下するおそれがある。そのため、重量平均分子量は、繊維の成形性および紡糸性を両立させる観点から、30000〜100000であることが更に好ましく、40000〜80000であることが特に好ましい。
【0060】
〈特性f〉分子量分布(重量平均分子量および数平均分子量の比率)
用いられる低結晶性ポリプロピレンについて、重量平均分子量を「Mw」とし、数平均分子量を「Mn」としたときに、不等式III「Mw/Mn≦4」を満たすことが好ましい。
不等式IIIの左辺は、繊維のべたつきを示す指標とすることができ、4よりも大きいと繊維がべたつきやすくなる。そのため、べたつきを抑える観点からは、不等式III′「Mw/Mn≦3」を満たすことが更に好ましく、不等式III″「Mw/Mn≦2」を満たすことがいっそう好ましい。
【0061】
〈特性g〉沸騰ジエチルエーテル抽出物の量
用いられる低結晶性ポリプロピレンについて、沸騰ジエチルエーテル抽出物の量が0〜10質量%であることが好ましい。
沸騰ジエチルエーテル抽出物の量は、繊維のべたつきの指標とすることができ、値が大きくなるほどべたつきやすくなる。そのため、沸騰ジエチルエーテル抽出物の量は、繊維のべたつきを抑える観点から、0〜5質量%であることが更に好ましい。
【0062】
〈特性h〉低結晶性ポリプロピレンの質量割合
用いられる低結晶性ポリプロピレンの質量割合は、全固形分を基準にして5〜50質量%であることが好ましい。ここでいう「全固形分」とは、低結晶性ポリプロピレンおよび高結晶性ポリプロピレンの合計分を意味する。
上記の質量割合が5質量%未満であると、高結晶性ポリプロピレンの欠点を補うことができず、ショット数を増加させずに繊維径を小さくしにくくなる。これに対し、質量割合が上述した質量%の範囲にあることで、低結晶性ポリプロピレンを確実に含有させて、繊維が切れにくくなり、紡糸性が向上することで、径の小さい繊維を安定的に生産することができる。このような観点から、低結晶性ポリプロピレンの質量割合は、10〜50質量%であることが更に好ましく、20〜50質量%であることが特に好ましい。
【0063】
〈その他〉製法
上述した〈特性a〉〜〈特性h〉を満たす低結晶性ポリプロピレンの製造方法としては、メタロセン触媒を使用する方法や特許第4242498号に記載された製法を用いることができる。
【0064】
[3.作用および効果]
上述したように紙おむつが構成されるため、以下のような作用および効果を得ることができる。
(1)本実施形態の紙おむつによれば、サイドシート20をなすスパンボンド不織布が所定の耐水性をもつため、サイドシート20を排泄された液体が透過することを抑えることができ、液漏れを抑えることができる。よって、着用者の快適性を確保することができる。
【0065】
そもそも、従来の紙おむつでは、スパンボンド不織布に耐水性をもたせるという着想がされていなかった。
その理由としては、耐水性および触感の両立が困難であることが挙げられる。たとえば、スパンボンド不織布の目付量を大きくすれば、耐水性は確保できるものの触感が低下しやすい。反対に、触感を確保するためにスパンボンド不織布の目付量を抑えれば、耐水性を確保しにくい。
【0066】
そのため、紙おむつのように、触感の確保が前提とされる衛生用品あるいは吸収性物品では、スパンボンド不織布に耐水性をもたせるという着想が得られ難いという背景が存在する。
これに対し、本実施形態の紙おむつは、スパンボンド不織布に所定の耐水性をもたせるという新たな着想に基づき創案された。言い換えれば、サイドシート20に用いられるスパンボンド不織布に所定の耐水性をもたせるという新規な構成によって、液漏れを抑えることで着用者の快適性を確保した紙おむつを提供することができるようになった。
【0067】
(2)従来の紙おむつにおいてSMS不織布が用いられたサイドシートでは、水圧が印加されると、スパンボンド不織布の層は破損しないものの、メルトブローン不織布の層が破損するおそれがある。このように破損したSMS不織布の耐水圧は、破損前のSMS不織布と比べて、メルトブローン不織布の層の目開きに応じた耐水圧からスパンボンド不織布の層の目開きに応じた耐水圧に大きく低下してしまう。よって、従来のSMS不織布が用いられたサイドシートは、水圧が繰り返し印加された際の耐水圧が低下しやすく、低下後の耐水圧が要求される耐水圧を満たさないおそれがある。
【0068】
これに対して、本実施形態のサイドシート20には、水圧が繰り返し印加されたとしても、耐水圧の低下あるいは変動が抑えられたスパンボンド不織布が用いられている。そのため、着用者が間欠的に液体を排泄した場合、すなわち、サイドシート20に水圧が繰り返し印加された場合であっても、液漏れを継続的に抑えることができる。
具体的には、第一耐水圧P
1が160mmH
2O以上とされ、この第一耐水圧P
1から第二耐水圧P
2への低下分である所定圧P
Pは30mmH
2O以下とされる。すなわち、第二耐水圧P
2は、少なくとも130(=160−30)mmH
2O以上とされる。このように、排泄される液体の漏れを防ぐために必要とされる水圧よりも耐水圧P
1,P
2のほうが高い。そのため、液漏れの抑制を確実に継続させることができる。言い換えれば、所定圧P
Pが抑えられ、液漏れ防止機能の低下を抑えることができる。
【0069】
(3)また、従来の紙おむつにおいてSMS不織布が用いられるサイドシートでは、メルトブローン不織布によって耐水性や触感が確保され、スパンボンド不織布によって強度が確保されている。そのため、耐水性や触感は、スパンボンド不織布ではなく、メルトブローン不織布によって確保されていた。
これに対して、サイドシート20には、従来のスパンボンド不織布に用いられる繊維よりも小径の繊維が高密度で用いられる。具体的には、「繊度」が0.1〜1.0デニールであり、「目付量」が8〜20g/m
2のスパンボンド不織布がサイドシート20に用いられている。そのため、サイドシート20は、所定の耐水性をもつだけでなく、触感を確保することができる。
【0070】
(4)さらに、サイドシート20の一部では、二枚のシート部20a,20bが重ね合わせられている。そのため、二枚のシート部20a,20bが重ねられた箇所において、サイドシート20の耐水圧を高めることができる。
そのうえ、二枚のシート部20a,20bは、折り曲げられて重ね合わせられるだけであり、重ね合わせられる方向に一体化されていない。そのため、「目付量」が二倍のサイドシートと比べて、剛性の増大による触感の低下を抑えることができる。平たく言えば、シート部20a,20bのごわつき(ごわごわ感)を抑えることができる。
【0071】
(5)上述したように、サイドシート20は、所定の耐水性をもつのに加えて、触感が確保されている。そのため、紙おむつにおいて触感の要求される肌面側にサイドシート20を配置することができる。逆に言えば、スパンボンド不織布のサイドシート20を肌面側に配置した紙おむつにおいて、液漏れを抑えることができるうえに、触感を確保することができる。
【0072】
(6)同様に、サイドシート20は、所定の耐水性をもつのに加えて触感が確保されていることから、紙おむつにおいて触感が特に要求される立体ギャザー21にサイドシート20を用いることができる。逆に言えば、立体ギャザー21にサイドシート20を用いた紙おむつにおいて、幅方向への液漏れを抑えることができるうえに、触感を確保することができる。よって、着用者の快適性を確保することができる。
【0073】
[II.実施例]
以下、本件の実施例を述べる。
なお、下記の実施例に示す材料,使用量,割合,処理内容,処理手順などは、本件の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本件の範囲は、以下に示す具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。
【0075】
[1.不織布の製造方法]
まず、上記の表1を参照して、不織布の材料に用いる樹脂を説明する。
樹脂Aとして、ポリプロピレン系のポリオレフィン樹脂(高結晶性ポリプロピレン)を用いた。この樹脂Aは、融点が162℃であり、メルトフローレートが30g/10分である。
【0076】
また、樹脂Bとして、上述した〈特性a〉〜〈特性h〉を満たすポリプロピレン系のポリオレフィン樹脂(低結晶性ポリプロピレン)を用いた。この樹脂Bは、融点が52℃であり、メルトフローレートが45g/10分である。
これらの樹脂Aおよび樹脂Bを表1に示す割合で混合した混合物を調製した。すなわち、ポリプロピレン繊維を紡出して不織布を製造した。
【0077】
以下、スパンボンド不織布(実施例1〜4および参考例1,2ならびに比較例4〜6)の製造方法を述べる。
はじめに、樹脂Aおよび樹脂Bを押出機で溶融して溶融物を得た。つづいて、溶融物を紡糸口金から吐出させて、ポリプロピレン繊維を紡出した。その後、紡出されたポリプロピレン繊維を冷却用エアによって冷却したうえで、延伸用エアによって張力を加えて所定の繊度(表1に示す繊度)とし、そのままコンベアベルト上に捕集して、所定の目付量(表1に示す目付量)となるように堆積させた。そして、堆積されたポリプロピレン繊維に対してエンボスロールで熱および圧力を印加し、所定のエンボス面積率(表1に示すエンボス面積率)で一部を溶融させて繊維を絡合させた。このようにして実施例1〜4および参考例1,2ならびに比較例4〜6の不織布を得た。
【0078】
つぎに、SMS不織布(比較例1〜3)の製造方法を説明する。
この製法では、スパンボンド不織布となるポリプロピレン繊維が堆積されたものに対して、メルトブローン不織布が堆積されたうえで、再びスパンボンド不織布となるポリプロピレン繊維が堆積される。なお、スパンボンド不織布となるポリプロピレン繊維の成形および堆積は、上述した製法と同様である。
【0079】
具体的には、スパンボンド不織布となるポリプロピレン繊維が堆積された繊維ウェブ上に、メルトブローン法によって所定の目付量(表1に示す目付量)のメルトブローン不織布を形成する。そのうえで、スパンボンド不織布となるポリプロピレン繊維を再び堆積させた。そして、スパンボンド不織布の製法と同様に、エンボスロールで熱および圧力を印加し、所定のエンボス面積率(表1に示すエンボス面積率)で一部を溶融させて繊維を絡合させた。このようにして比較例1〜3の不織布を得た。
【0080】
[2.測定方法・評価方法]
上記の表1に示された結果を導くための測定方法あるいは評価方法は、下記の〈方法i〉〜〈方法vi〉に示す通りである。なお、化学的構成を評価する方法についても、〈方法vii〉〜〈方法x〉に示す。
【0081】
〈方法i〉メルトフローレート
メルトフローレートは、JIS−K7210「プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」の表1に準じて、メルトインデクサー(東洋精機社製:MELTINDEXER S−101)溶融流量装置を用い、オリフィス径2.095mm,オリフィス長0.8mm,荷重2160gで測定した。測定温度は230℃で測定し、一定体積分を吐出するのに要する時間から10分間あたりの溶融ポリマー吐出量(g)を算出して求めた。
【0082】
〈方法ii〉繊度
繊度は、製造した不織布における両端10cmを除き、幅方向にほぼ五等分して1cm角の試験片をサンプリングし、顕微鏡で繊維の直径を各20点ずつ測定し、その平均値から算出した。
〈方法iii〉目付量
目付量は、製造した不織布における両端10cmを除き、縦20cm×横20cmの試験片を任意に五枚採取して質量を測定し、その平均値を単位面積あたりの重量に換算して求めた。
【0083】
〈方法iv〉エンボス面積率
エンボス面積率は、製造した不織布における両端10cmを除き、幅方向にほぼ五等分して1cm角の試験片をサンプリングし、顕微鏡で不織布の拡大画像を撮影し、画像処理プログラムを使用してエンボスに対応する不織布の凹部の面積率を各20点ずつ測定し、その平均値を算出した。
【0084】
〈方法v〉耐水圧
耐水圧は、ISO811またはJIS L1092に準拠して測定した。
以下、耐水圧の測定を詳述する。
耐水圧を測定するには、製造した不織布を20cm各に八枚にカットし、TEXTEST社製耐水圧試験器FX−3000用のサンプルホルダーにカットされた不織布をセットする。セットされる不織布は、一枚または二枚であり、皺の入らないようにされ、また、測定面積を100cm
2とされる。
【0085】
そして、加圧試験モードにおいて、600mmH
2O/minの速度で水圧を上昇させて耐水圧を測定する。この測定では、水の漏れる箇所が三箇所以上になった圧力を耐水圧とした。
耐水圧を繰り返し測定する場合には、耐水圧の測定された試料を上記の試験器から取り外し、サンプルホルダーに入れたまま不織布シートの両面(表面および裏面)からペーパータオルなどで水分を取り、再び上記の試験器に不織布をセットして、同様の手順で耐水圧を測定した。
【0086】
〈方法vi〉触感
触感は、製造した不織布における両端10cmを除き、縦20cm×横20cmの試験片を任意に五枚採取して測定用サンプルとし、被験者が手で触ったときの風合い(手触り感)として評価した。この評価は、「○」(よい),「△」(ふつう),「×」(わるい)の三段階でランク付けした。
【0087】
〈方法vii〉分子量分布
分子量分布の測定に関する装置や条件などを下記に列挙する。
GPC測定装置
カラム :TOSO GMHHR−H(S)HT
検出器 :液体クロマトグラフ用RI検出器 WATERS150C
測定条件
溶媒 :1,2,4−トリクロロベンゼン
測定温度:145℃
流速 :1.0ml/min
試料濃度:2.2mg/ml
注入量 :160μl
検量線 :Universal
Calibration
解析プログラム:HT−GPC(Ver.1.0)
【0088】
〈方法viii〉沸騰ジエチルエーテル抽出量
沸騰ジエチルエーテル抽出量の測定に関する装置や条件などを下記に列挙する。
ソックスレー抽出器
測定条件
抽出試料:5〜6g
試料形状:パウダー状(ペレット化したものは粉砕によりパウダー化して用いる)
抽出溶媒:ジエチルエーテル
抽出時間:10時間
抽出回数:180回以上
抽出量の算出方法:以下の式により算出する。
〔ジエチルエーテルに抽出された量(g)/仕込みパウダー重量(g)〕×100
【0089】
〈方法ix〉メソペンタッド分率,ラセミペンタッド分率およびラセミメソラセミメソペンタッド分率
スパンボンド不織布に用いられる低結晶性ポリプロピレンにおける立体規則ごとの割合は、13C−NMRスペクトルを測定することで求めた。この測定は、エイ・ザンベリ(A.Zambelli)などにより「Macromolecules、8、687(1975)」で提案されたピークの帰属に従って行った。
以下、本測定に関する装置や条件などを列挙する。
装置:日本電子(株)製JNM−EX400型13C−NMR装置
方法:プロトン完全デカップリング法
濃度:220mg/ml
溶媒:1、2、4−トリクロロベンゼンと重ベンゼンの90:10混合溶媒
温度:130℃
パルス幅:45°
パルス繰り返し時間:4秒
積算:10000回
<計算式>
M=m/S×100
R=γ/S×100
S=Pββ+Pαβ+Pαγ
S:全プロピレン単位の側鎖メチル炭素原子のシグナル強度
Pββ:19.8〜22.5ppm
Pαβ:18.0〜17.5ppm
Pαγ:17.5〜17.1ppm
γ:ラセミペンタッド連鎖:20.7〜20.3ppm
m:メソペンタッド連鎖:21.7〜22.5ppm
【0090】
〈方法x〉融点および結晶化温度
融点および結晶化温度は、つぎに述べる装置および方法で得た。
示差走査型熱量計(パーキン・エルマー社製,DSC−7)を用い、あらかじめ試料10mgを窒素雰囲気下、230℃で3分間溶融した後、10℃/分で0℃まで降温する。このときに得られた結晶化発熱カーブの最大ピークのピークトップを結晶化温度とした。また、さらに0℃で3分間保持した後、10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブの最大ピークのピークトップを融点とした。
【0091】
[3.考察]
つづいて、実施例1〜4および参考例1,2ならびに比較例1〜6の不織布について考察する。
〈実施例〉
まず、実施例1〜4および参考例1,2のスパンボンド不織布を考察する。
実施例1〜4および参考例1,2のスパンボンド不織布において、一回目に測定された耐水圧(第一耐水圧P
1)および二回目に測定された耐水圧(第二耐水圧P
2)は、130mmH
2O以上であり、排泄される液体の漏れを防ぐために必要とされる水圧よりも高い。また、一回目に測定された耐水圧から二回目に測定された耐水圧(第二耐水圧P
2)への低下分(所定圧P
P)が30mmH
2O以下に抑えられている。
このように確実な液漏れの防止機能とその機能の低下が抑えられるのは、実施例1〜3および参考例1,2については、上述した「繊度」および「目付量」によって小径の繊維が高密度に用いられ、スパンボンド不織布において、強度の低下が抑えられつつ所定の耐水性がもたせられたためと考えられる。
【0092】
一回目および二回目のそれぞれで測定された耐水圧を詳細にみれば、参考例1および2では160〜170mmH
2Oであり、実施例1,2および4では170〜180mmH
2O以上であり実施例3では200mmH
2O以上であった。
実施例1,2,4および参考例1,2よりも実施例3において測定された耐水圧が高いのは、実施例1,2,4および参考例1,2では一枚のスパンボンド不織布が用いられるのに対し、実施例3では二枚のスパンボンド不織布が重ね合わせられて用いられたためと考えられる。
【0093】
また、一回目に測定された耐水圧から二回目に測定された耐水圧への低下分(所定圧P
P)に着目すれば、実施例1〜4および参考例1,2の何れも10mmH
2O以下であり、特に実施例1および4では0mmH
2Oであった。
このように実施例1および4において耐水圧が維持されるのは、他の実施例2,3および参考例1,2よりもエンボス面積率が高いためと考えられる。さらに、実施例4については、他の実施例1〜3および参考例1,2よりも目付量が大きいためと考えられる。
【0094】
さらに、実施例1〜3および参考例1,2のスパンボンド不織布では、触感の評価も「○」であった。
このように触感の評価が良好なのは、スパンボンド不織布において、上記したように小径の繊維が高密度に用いられたためと考えられる。
【0095】
なお、実施例4のスパンボンド不織布においては、一回目および二回目のそれぞれで測定された耐水圧が130mmH
2O以上であるものの、触感の評価が「×」であった。
このように触感の評価が低いのは、実施例1〜3および参考例1,2のスパンボンド不織布よりも「繊度」が大きく「目付量」も大きいため、太い繊維が厚く積層されることで不織布の剛性が高まり、ごわつくためと考えられる。
【0096】
〈比較例〉
つぎに、比較例1〜6の不織布を考察する。
比較例1〜3のSMS不織布においては、一回目に測定された耐水圧が160mmH
2O以上であるものの、二回目に測定された耐水圧が130mmH
2O未満であった。すなわち、比較例1〜3のSMS不織布では、一回目に測定された耐水圧から二回目に測定された耐水圧への低下分が30mmH
2Oよりも大きい。さらに、この二回目に測定された耐水圧は、排泄される液体の漏れを防ぐために必要とされる水圧よりも低い。
【0097】
このように耐水圧の低下分が抑えられず、二回目に測定された耐水圧が低いのは、下記の理由と考えられる。
比較例1〜3のSMS不織布におけるスパンボンド不織布の層は、実施例1〜4および参考例1,2のスパンボンド不織布よりも「目付量」が小さい。さらに、比較例1〜3のSMS不織布における不織布の層は、実施例1〜3および参考例1,2のスパンボンド不織布よりも「繊度」が大きいことから、「目開き」が大きい。一方、比較例1〜3のSMS不織布におけるメルトブローン不織布の層は、実施例1〜4および参考例1,2のスパンボンド不織布よりも「目開き」が小さいものの強度が低い。
そのため、比較例1〜3のSMS不織布では、一回目の耐水圧の測定時にメルトブローン不織布の層が破損し、この破損箇所の周囲に設けられたスパンボンド不織布の「目開き」(繊度および目付量)に応じた耐水圧が二回目に測定されると考えられる。
【0098】
さらに、比較例1〜3のSMS不織布では、触感の評価が「△」であった。
このように触感の評価が良好でないのは、SMS不織布のうちスパンボンド不織布の層の「繊度」が大きいため、剛性が高まってごわついたためと考えられる。
比較例4〜6のスパンボンド不織布においては、一回目に測定された耐水圧が160mmH
2O以下であり、目的とする耐水圧が得られなかった。そのため、二回目の耐水圧測定を実施しなかった。
【0099】
比較例4のスパンボンド不織布については、実施例1〜3および参考例1,2のスパンボンド不織布よりも「繊度」が大きいため、「目開き」が大きく、一回目に測定された耐水圧が低いものと考えられる。
比較例5のスパンボンド不織布については、実施例1〜4および参考例1,2のスパンボンド不織布よりも「目付量」が小さいため、「目開き」が大きく、一回目に測定された耐水圧が低いものと考えられる。
比較例6のスパンボンド不織布については、樹脂Bの含有量が多いため、用いられた繊維が切れやすくなり、一回目に測定された耐水圧が低いものと考えられる。
【0100】
[III.変形例]
最後に、本実施形態のその他の変形例について述べる。
サイドシート20は、スパンボンド不織布だけで構成されるものに限らず、メルトブローン不織布を含んでいてもよい。たとえばSMS不織布をサイドシート20に採用してもよい。この場合には、上述した所定の耐水性を有するスパンボンド不織布の層がSMS不織布に含まれる。このようにメルトブローン不織布がサイドシート20に含まれていれば、所定の耐水性を確保したうえで、第一耐水圧P
1を更に高めることができ、着用者の快適性を向上させることに寄与する。
そのほか、所定の耐水性を有するスパンボンド不織布は、サイドシート20に限らず、バックシート14やカバーシート15といった他のシートに用いられてもよい。更に言えば、上述したスパンボンド不織布やこれを用いたシートは、紙おむつをはじめとした吸収性物品に限らず、所定の耐水性が要求されるさまざまな物に適用可能である。何れにしても、上述したスパンボンド不織布によって、要求される耐水圧を継続して満たすことができる。このスパンボンド不織布を用いたシートによっても要求された耐水圧を継続して満たすことができ、このシートにおけるスパンボンド不織布以外の構成要素によって他の機能を付加することもできる。