(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも酸素イオン伝導性の固体電解質からなる構造体(14)と、該構造体(14)に形成され、被測定ガスが導入されるガス導入口(16)と、前記構造体(14)内に形成され、前記ガス導入口(16)に連通する酸素濃度調整室(18)と、前記構造体(14)内に形成され、前記酸素濃度調整室(18)に連通する測定室(20)とを有するセンサ素子(12)と、
前記酸素濃度調整室(18)内の酸素濃度を制御する酸素濃度制御手段(100)と、
前記センサ素子(12)の温度を制御する温度制御手段(102)と、
前記酸素濃度調整室(18)の酸素濃度及び前記センサ素子(12)の温度の少なくとも一方を、導入された前記被測定ガスの目的成分の種類に応じた条件に設定する条件設定手段(104)と、
前記目的成分の種類に応じた複数の条件下で得られた各センサ出力に基づいて複数のそれぞれ異なる前記目的成分の濃度を算出する濃度算出手段(106)とを有し、
複数の目的成分は、NO及びNO2であることを特徴とするガスセンサ。
少なくとも酸素イオン伝導性の固体電解質からなる構造体(14)と、該構造体(14)に形成され、被測定ガスが導入されるガス導入口(16)と、前記構造体(14)内に形成され、前記ガス導入口(16)に連通する酸素濃度調整室(18)と、前記構造体(14)内に形成され、前記酸素濃度調整室(18)に連通する測定室(20)とを有するセンサ素子(12)を使用し、
前記酸素濃度調整室(18)の酸素濃度及び前記センサ素子(12)の温度の少なくとも一方を、導入された前記被測定ガスの目的成分の種類に応じた条件に設定する条件設定ステップと、
前記目的成分の種類に応じた複数の条件下で得られた各センサ出力に基づいて複数のそれぞれ異なる前記目的成分の濃度を算出する濃度算出ステップとを有し、
複数の目的成分は、NO及びNO2であることを特徴とする被測定ガス中の複数目的成分の濃度測定方法。
【発明の概要】
【0004】
近年、各国のCO
2排出量規制が強化される傾向にあり、ディーゼル車の普及率が増えつつある。希薄燃焼を用いるディーゼルエンジンは、CO
2排出量が少ない代わりに過剰な酸素を含む排気ガス中のNOx浄化が困難である欠点を持つ。そのため、CO
2排出量規制の強化と同様に、NOx排出量の規制も強化されつつある。現在は、CO
2排出量、すなわち、燃料消費量を損なわずにNOx浄化が行える選択還元型触媒システム(以下、SCRシステムと記す)がNOx浄化の主流を占めている。SCRシステムは、注入した尿素を排気ガスと反応させてアンモニアを生成し、アンモニアとNOxを反応させてN
2とO
2に分解する。このSCRシステムにおいて、NOx浄化効率を100%に近づけるためには、尿素の注入量を増やす必要があるが、尿素注入量を増やすと未反応のアンモニアが大気に排出されるおそれがある。このため、NOxとアンモニアを区別できるセンサが求められている。
【0005】
さらには、米国において、酸化触媒(以下、DOC触媒と記す)、ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、DPFと記す)、選択還元型触媒(以下、SCR触媒と記す)の個別故障診断の義務付けに対する準備が進められている。DPF、SCR触媒の故障診断は、既存のPMセンサ、NOxセンサで可能であるが、DOC触媒に対しては有効な故障診断手段が見つかっていない。現在は、200℃以下の低温時のDOC触媒下流に漏れ出す炭化水素(以下、HCと記す)量を測定する方法や、DOC触媒下流に排出されるNOとNO
2の比率から故障を判断する方法等が推奨されている。特に、NOとNO
2の比率におけるNO
2の減少は、HC流出量の増大よりも早期に起こるため、より安全な故障診断方法として期待されている。このため、NOとNO
2を区別できるセンサが求められている。
【0006】
上述した特開2015−200643号公報記載のNOxセンサ及びNOx測定方法は、NO、NO
2、NH
3をNOに変換し、変換後のNOを分解して発生したO
2の量、もしくは濃度を測定する。そのため、NO、NO
2、NH
3の総量は測定できても各々を区別することができなかった。
【0007】
特開2013−068632号公報及び特開2009−243942号公報記載の酸化物半導体電極は、NO、NO
2の選択性に優れている反面、NOとNO
2に対する感度の出力特性が正負逆であるため、NOとNO
2が共存する雰囲気下では、正しくNO、もしくはNO
2濃度を測定することができなかった。
【0008】
特表2009−511859号公報記載のセンサは、酸化物半導体電極の排気ガス中における不安定さ、及び基板との密着強度の弱さから、長期間にわたり精度良くNH
3濃度を測定することが困難であった。
【0009】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、排気ガスのような未燃成分、酸素の存在下に共存する複数成分(例えばNO、NO
2、NH
3)の濃度を長期間にわたり精度よく測定することができるガスセンサ及び被測定ガス中の複数目的成分の濃度測定方法を提供することを目的とする。
【0010】
[1] 第1の本発明に係るガスセンサは、少なくとも酸素イオン伝導性の固体電解質からなる構造体と、該構造体に形成され、被測定ガスが導入されるガス導入口と、前記構造体内に形成され、前記ガス導入口に連通する酸素濃度調整室と、前記構造体内に形成され、前記酸素濃度調整室に連通する測定室とを有するセンサ素子と、前記酸素濃度調整室内の酸素濃度を制御する酸素濃度制御手段と、前記センサ素子の温度を制御する温度制御手段と、前記酸素濃度調整室の酸素濃度及び前記センサ素子の温度の少なくとも一方を、導入された前記被測定ガスの目的成分の種類に応じた条件に設定する条件設定手段と、前記目的成分の種類に応じた複数の条件下で得られた各センサ出力に基づいて複数のそれぞれ異なる前記目的成分の濃度を算出する濃度算出手段とを有することを特徴とする。
【0011】
[2] 第1の本発明において、前記酸素濃度調整室は、前記ガス導入口に連通する主調整室と、前記主調整室に連通する副調整室とを有し、前記測定室は前記副調整室に連通していてもよい。
【0012】
[3] 第1の本発明において、前記酸素濃度調整室内にポンプ電極を有し、前記測定室内に測定電極を有し、前記ポンプ電極は、前記測定電極よりも触媒活性が低い材料で構成されていることが好ましい。
【0013】
[4] 第1の本発明において、複数の目的成分は、NO及びNO
2であってもよい。
【0014】
[5] この場合、以下のようにして、NO及びNO
2の各濃度を算出してもよい。すなわち、前記条件設定手段は、NOを分解させることなく、NO
2を全てNOに変換する条件を第1条件として設定する。前記条件設定手段は、NOを分解させることなく、NO
2の一部をNOに変換する条件を第2条件として設定する。前記濃度算出手段は、第1関係式と第2関係式とに基づいて、NO及びNO
2の各濃度を算出する。ここで、前記第1関係式は、前記第1条件下でのセンサ出力を構成するNO、NO
2及びオフセット電流の関係を表す。前記第2関係式は、前記第2条件下でのセンサ出力を構成するNO、NO
2及びオフセット電流の関係を表す。
【0015】
[6] あるいは、以下のようにして、NO及びNO
2の各濃度を算出してもよい。すなわち、前記条件設定手段は、NOを分解させることなく、NO
2を全てNOに変換する条件を第1条件として設定する。前記条件設定手段は、NOを分解させることなく、NO
2の一部をNOに変換する条件を第2条件として設定する。前記濃度算出手段は、第1マップを使用する。第1マップは、予め実験的に求められた前記第1条件下でのセンサ出力と、前記第2条件下でのセンサ出力から前記第1条件下でのセンサ出力を差し引いた出力差とから、前記第1条件下でのセンサ出力と前記出力差とで特定されるポイント毎にそれぞれNO濃度及びNO
2濃度の関係が登録されている。そして、前記濃度算出手段は、実使用中の前記第1条件下でのセンサ出力、及び前記第2条件下でのセンサ出力から前記第1条件下でのセンサ出力を差し引いた前記出力差を、前記第1マップと比較して、NO及びNO
2の各濃度を求める。
【0016】
[7] [5]又は[6]において、前記条件設定手段は、前記第1条件に設定した後、前記第2条件に設定することが好ましい。
【0017】
[8] 第1の本発明において、複数の目的成分は、NO、NO
2及びNH
3であってもよい。
【0018】
[9] この場合、以下のようにして、NO、NO
2及びNH
3の各濃度を算出してもよい。すなわち、前記条件設定手段は、NOを分解させることなく、NO
2を全てNOに変換し、且つ、NH
3をも全てNOに変換する条件を第1条件として設定する。前記条件設定手段は、NOを分解させることなく、NO
2の一部をNOに変換し、且つ、NH
3の全てをNOに変換する条件を第2条件として設定する。前記条件設定手段は、NOをも一部分解させながらNO
2をNOに変換し、且つ、NH
3の一部をNOに変換する条件を第3条件として設定する。前記濃度算出手段は、第3関係式と第4関係式と第5関係式とに基づいて、NO、NO
2及びNH
3の各濃度を算出する。ここで、前記第3関係式は、前記第1条件下でのセンサ出力を構成するNO、NO
2、NH
3及びオフセット電流の関係を表す。第4関係式は、前記第2条件下でのセンサ出力を構成するNO、NO
2、NH
3及びオフセット電流の関係を表す。第5関係式は、前記第3条件下でのセンサ出力を構成するNO、NO
2、NH
3及びオフセット電流の関係を表す。
【0019】
[10] あるいは、以下のようにして、NO、NO
2及びNH
3の各濃度を算出してもよい。すなわち、前記条件設定手段は、NOを分解させることなく、NO
2を全てNOに変換し、且つ、NH
3をも全てNOに変換する条件を第1条件として設定する。前記条件設定手段は、NOを分解させることなく、NO
2の一部をNOに変換し、且つ、NH
3の全てをNOに変換する条件を第2条件として設定する。前記条件設定手段は、NOをも一部分解させながらNO
2をNOに変換し、且つ、NH
3の一部をNOに変換する条件を第3条件として設定する。前記濃度算出手段は、第2マップを使用する。第2マップは、予め実験的に求められた前記第1条件下でのセンサ出力と、前記第2条件下でのセンサ出力から前記第1条件下でのセンサ出力を差し引いた第1出力差と、前記第3条件下でのセンサ出力から前記第2条件下でのセンサ出力を差し引いた第2出力差とから、前記第1条件下でのセンサ出力と、前記第1出力差と、前記第2出力差とで特定されるポイント毎にそれぞれNO濃度、NO
2濃度及びNH
3濃度の関係が登録されている。そして、前記濃度算出手段は、実使用中の前記第1条件下でのセンサ出力と、実使用中の前記第2条件下でのセンサ出力から実使用中の前記第1条件下でのセンサ出力を差し引いた実使用中の第1出力差、及び実使用中の前記第3条件下でのセンサ出力から実使用中の前記第2条件下でのセンサ出力を差し引いた実使用中の第2出力差を、前記第2マップと比較して、NO、NO
2及びNH
3の各濃度を求める。
【0020】
[11] [9]又は[10]において、前記条件設定手段は、前記第1条件に設定した後、前記第2条件に設定し、その後、前記第3条件に設定することが好ましい。
【0021】
[12] 第2の本発明に係る被測定ガス中の複数目的成分の濃度測定方法は、少なくとも酸素イオン伝導性の固体電解質からなる構造体と、該構造体に形成され、被測定ガスが導入されるガス導入口と、前記構造体内に形成され、前記ガス導入口に連通する酸素濃度調整室と、前記構造体内に形成され、前記酸素濃度調整室に連通する測定室とを有するセンサ素子を使用し、前記酸素濃度調整室の酸素濃度及び前記センサ素子の温度の少なくとも一方を、導入された前記被測定ガスの目的成分の種類に応じた条件に設定する条件設定ステップと、前記目的成分の種類に応じた複数の条件下で得られた各センサ出力に基づいて複数のそれぞれ異なる前記目的成分の濃度を算出する濃度算出ステップとを有することを特徴とする。
【0022】
[13] 第2の本発明において、複数の目的成分は、NO及びNO
2であってもよい。
【0023】
[14] この場合、以下のようにして、NO及びNO
2の各濃度を算出してもよい。すなわち、前記条件設定ステップは、NOを分解させることなく、NO
2を全てNOに変換する条件を第1条件として設定する。前記条件設定ステップは、NOを分解させることなく、NO
2の一部をNOに変換する条件を第2条件として設定する。前記濃度算出ステップは、第1関係式と第2関係式とに基づいて、NO及びNO
2の各濃度を算出する。ここで、第1関係式は、前記第1条件下でのセンサ出力を構成するNO、NO
2及びオフセット電流の関係を表す。第2関係式は、前記第2条件下でのセンサ出力を構成するNO、NO
2及びオフセット電流の関係を表す。
【0024】
[15] あるいは、以下のようにして、NO及びNO
2の各濃度を算出してもよい。すなわち、前記条件設定ステップは、NOを分解させることなく、NO
2を全てNOに変換する条件を第1条件として設定する。前記条件設定ステップは、NOを分解させることなく、NO
2の一部をNOに変換する条件を第2条件として設定する。前記濃度算出ステップは、第1マップを使用する。第1マップは、予め実験的に求められた前記第1条件下でのセンサ出力と、前記第2条件下でのセンサ出力から前記第1条件下でのセンサ出力を差し引いた出力差とから、前記第1条件下でのセンサ出力と前記出力差とで特定されるポイント毎にそれぞれNO濃度及びNO
2濃度の関係が登録されている。そして、前記濃度算出ステップは、実使用中の前記第1条件下でのセンサ出力、及び前記第2条件下でのセンサ出力から前記第1条件下でのセンサ出力を差し引いた前記出力差を、前記第1マップと比較して、NO及びNO
2の各濃度を求める。
【0025】
[16] [14]又は[15]において、前記条件設定ステップは、前記第1条件に設定した後、前記第2条件に設定することが好ましい。
【0026】
[17] 第2の本発明において、複数の目的成分は、NO、NO
2及びNH
3であってもよい。
【0027】
[18] この場合、以下のようにして、NO、NO
2及びNH
3の各濃度を算出してもよい。すなわち、前記条件設定ステップは、NOを分解させることなく、NO
2を全てNOに変換し、且つ、NH
3をも全てNOに変換する条件を第1条件として設定する。前記条件設定ステップは、NOを分解させることなく、NO
2の一部をNOに変換し、且つ、NH
3の全てをNOに変換する条件を第2条件として設定する。前記条件設定ステップは、NOをも一部分解させながらNO
2をNOに変換し、且つ、NH
3の一部をNOに変換する条件を第3条件として設定する。前記濃度算出ステップは、第3関係式と第4関係式と第5関係式とに基づいて、NO、NO
2及びNH
3の各濃度を算出する。ここで、前記第3関係式は、前記第1条件下でのセンサ出力を構成するNO、NO
2、NH
3及びオフセット電流の関係を表す。第4関係式は、前記第2条件下でのセンサ出力を構成するNO、NO
2、NH
3及びオフセット電流の関係を表す。第5関係式は、前記第3条件下でのセンサ出力を構成するNO、NO
2、NH
3及びオフセット電流の関係を表す。
【0028】
[19] あるいは、以下のようにして、NO、NO
2及びNH
3の各濃度を算出してもよい。すなわち、前記条件設定ステップは、NOを分解させることなく、NO
2を全てNOに変換し、且つ、NH
3をも全てNOに変換する条件を第1条件として設定する。前記条件設定ステップは、NOを分解させることなく、NO
2の一部をNOに変換し、且つ、NH
3の全てをNOに変換する条件を第2条件として設定する。前記条件設定ステップは、NOをも一部分解させながらNO
2をNOに変換し、且つ、NH
3の一部をNOに変換する条件を第3条件として設定する。前記濃度算出ステップは、第2マップを使用する。第2マップは、予め実験的に求められた前記第1条件下でのセンサ出力と、前記第2条件下でのセンサ出力から前記第1条件下でのセンサ出力を差し引いた第1出力差と、前記第3条件下でのセンサ出力から前記第2条件下でのセンサ出力を差し引いた第2出力差とから、前記第1条件下でのセンサ出力と、前記第1出力差と、前記第2出力差とで特定されるポイント毎にそれぞれNO濃度、NO
2濃度及びNH
3濃度の関係が登録されている。そして、前記濃度算出ステップは、実使用中の前記第1条件下でのセンサ出力と、実使用中の前記第2条件下でのセンサ出力から実使用中の前記第1条件下でのセンサ出力を差し引いた実使用中の第1出力差、及び実使用中の前記第3条件下でのセンサ出力から実使用中の前記第2条件下でのセンサ出力を差し引いた実使用中の第2出力差を、前記第2マップと比較して、NO、NO
2及びNH
3の各濃度を求める。
【0029】
[20] [18]又は[19]において、前記条件設定ステップは、前記第1条件に設定した後、前記第2条件に設定し、その後、前記第3条件に設定することが好ましい。
【0030】
本発明に係るガスセンサ及び被測定ガス中の複数目的成分の濃度測定方法によれば、排気ガスのような未燃成分、酸素の存在下に共存する複数成分(例えばNO、NO
2、NH
3)の濃度を長期間にわたり精度よく測定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係るガスセンサ及び被測定ガス中の複数目的成分の濃度測定方法の実施の形態例を
図1〜
図23を参照しながら説明する。なお、本明細書において、数値範囲を示す「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味として使用される。
【0033】
先ず、第1の実施の形態に係るガスセンサ(以下、第1ガスセンサ10Aと記す)は、
図1及び
図2に示すように、センサ素子12を有する。センサ素子12は、酸素イオン伝導性の固体電解質からなる構造体14と、該構造体14に形成され、被測定ガスが導入されるガス導入口16と、構造体14内に形成され、ガス導入口16に連通する酸素濃度調整室18と、構造体14内に形成され、酸素濃度調整室18に連通する測定室20とを有する。
【0034】
酸素濃度調整室18は、ガス導入口16に連通する主調整室18aと、主調整室18aに連通する副調整室18bとを有する。測定室20は副調整室18bに連通している。
【0035】
具体的には、センサ素子12の構造体14は、第1基板層22aと、第2基板層22bと、第3基板層22cと、第1固体電解質層24と、スペーサ層26と、第2固体電解質層28との6つの層が、図面視で下側からこの順に積層されて構成されている。各層は、それぞれジルコニア(ZrO
2)等の酸素イオン伝導性固体電解質層にて構成されている。
【0036】
センサ素子12の先端部側であって、第2固体電解質層28の下面と第1固体電解質層24の上面との間には、ガス導入口16と、第1拡散律速部30と、主調整室18aと、第2拡散律速部32と、副調整室18bとが備わっている。さらに、第1拡散律速部30と酸素濃度調整室18との間には、緩衝空間34と、第3拡散律速部36とが設けられていてもよい。ガス導入口16と、第1拡散律速部30と、緩衝空間34と、第3拡散律速部36と、主調整室18aと、第2拡散律速部32と、副調整室18bは、この順に連通する態様にて隣接形成されている。ガス導入口16から副調整室18bに至る部位を、ガス流通部とも称する。
【0037】
ガス導入口16と、緩衝空間34と、主調整室18aと、副調整室18bは、スペーサ層26をくり抜いた態様にて設けられた内部空間である。緩衝空間34と、主調整室18aと、副調整室18bはいずれも、各上部が第2固体電解質層28の下面で、各下部が第1固体電解質層24の上面で、各側部がスペーサ層26の側面で区画されている。
【0038】
第1拡散律速部30、第2拡散律速部32、第3拡散律速部36はいずれも、2本の横長のスリット(図面に垂直な方向が開口の長手方向)として設けられている。
【0039】
また、第3基板層22cの上面と、スペーサ層26の下面との間であって、ガス流通部よりも先端側から遠い位置には、基準ガス導入空間38が設けられている。基準ガス導入空間38は、上部がスペーサ層26の下面で、下部が第3基板層22cの上面で、側部が第1固体電解質層24の側面で区画された内部空間である。基準ガス導入空間38には、基準ガスとして、例えば酸素や大気が導入される。
【0040】
ガス導入口16は、外部空間に対して開口している部位であり、該ガス導入口16を通じて外部空間からセンサ素子12内に被測定ガスが取り込まれる。
【0041】
第1拡散律速部30は、ガス導入口16から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0042】
緩衝空間34は、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によって生じる被測定ガスの濃度変動を打ち消すことを目的として設けられる。なお、センサ素子12は、緩衝空間34を備えてもよいし、備えなくてもよい。
【0043】
第3拡散律速部36は、緩衝空間34から主調整室18aに導入される被測定ガスに、所定の拡散抵抗を付与する部位である。第3拡散律速部36は、緩衝空間34が設けられることに付随して設けられる部位である。
【0044】
緩衝空間34及び第3拡散律速部36が設けられない場合は、第1拡散律速部30と主調整室18aとが直接に連通する。
【0045】
主調整室18aは、ガス導入口16から導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられる。酸素分圧は、主ポンプセル40が作動することによって調整される。
【0046】
主ポンプセル40は、主内側ポンプ電極42と、外側ポンプ電極44と、これらの電極に挟まれた酸素イオン伝導性の固体電解質とを含んで構成される電気化学的ポンプセル(主電気化学的ポンピングセル)である。主内側ポンプ電極42は、主調整室18aを区画する第1固体電解質層24の上面、第2固体電解質層28の下面、及び、スペーサ層26の側面のそれぞれのほぼ全面に設けられている。外側ポンプ電極44は、第2固体電解質層28の上面の主内側ポンプ電極42と対応する領域に外部空間に露出する態様にて設けられている。主内側ポンプ電極42と外側ポンプ電極44は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料で構成される。例えば平面視矩形状の多孔質サーメット電極(例えば、0.1wt%〜30.0wt%のAuを含むPt等の貴金属とZrO
2とのサーメット電極)として形成される。
【0047】
主ポンプセル40は、センサ素子12の外部に備わる第1可変電源46によりポンプ電圧Vp0を印加して、外側ポンプ電極44と主内側ポンプ電極42との間にポンプ電流Ip0を流すことにより、主調整室18a内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を主調整室18a内に汲み入れることが可能となっている。
【0048】
また、センサ素子12は、電気化学的センサセルである第1酸素分圧検出センサセル50を有する。この第1酸素分圧検出センサセル50は、主内側ポンプ電極42と、第3基板層22cの上面と第1固体電解質層24とに挟まれる基準電極48と、これらの電極に挟まれた酸素イオン伝導性の固体電解質とによって構成されている。基準電極48は、外側ポンプ電極44等と同様の多孔質サーメットからなる平面視ほぼ矩形状の電極である。また、基準電極48の周囲には、多孔質アルミナからなり、且つ、基準ガス導入空間38につながる基準ガス導入層52が設けられている。すなわち、基準電極48の表面に、基準ガス導入空間38の基準ガスが基準ガス導入層52を介して導入されるようになっている。第1酸素分圧検出センサセル50は、主調整室18a内の雰囲気と基準ガス導入空間38の基準ガスとの間の酸素濃度差に起因して主内側ポンプ電極42と基準電極48との間に起電力V0が発生する。
【0049】
第1酸素分圧検出センサセル50において生じる起電力V0は、主調整室18aに存在する雰囲気の酸素分圧に応じて変化する。センサ素子12は、上記起電力V0によって、主ポンプセル40の第1可変電源46をフィードバック制御する。これにより、第1可変電源46が主ポンプセル40に印加するポンプ電圧Vp0を、主調整室18aの雰囲気の酸素分圧に応じて制御することができる。
【0050】
第2拡散律速部32は、主調整室18aでの主ポンプセル40の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを副調整室18bに導く部位である。
【0051】
副調整室18bは、予め主調整室18aにおいて酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第2拡散律速部32を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル54による酸素分圧の調整を行うための空間として設けられている。これにより、副調整室18b内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができるため、この第1ガスセンサ10Aは、精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
【0052】
補助ポンプセル54は、電気化学的ポンプセルであり、副調整室18bに面する第2固体電解質層28の下面のほぼ全体に設けられた補助ポンプ電極56と、外側ポンプ電極44と、第2固体電解質層28とによって構成される。
【0053】
なお、補助ポンプ電極56についても、主内側ポンプ電極42と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0054】
補助ポンプセル54は、補助ポンプ電極56と外側ポンプ電極44との間に所望の電圧Vp1を印加することにより、副調整室18b内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から副調整室18b内に汲み入れることが可能となっている。
【0055】
また、副調整室18b内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極56と、基準電極48と、第2固体電解質層28と、スペーサ層26と、第1固体電解質層24とによって電気化学的センサセル、すなわち、補助ポンプ制御用の第2酸素分圧検出センサセル58が構成されている。
【0056】
なお、この第2酸素分圧検出センサセル58にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される第2可変電源60にて、補助ポンプセル54がポンピングを行う。これにより、副調整室18b内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0057】
また、これと共に、補助ポンプセル54のポンプ電流Ip1が、第1酸素分圧検出センサセル50の起電力V0の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として第1酸素分圧検出センサセル50に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第2拡散律速部32から副調整室18b内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御される。第1ガスセンサ10AをNOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル40と補助ポンプセル54との働きによって、副調整室18b内での酸素濃度は各条件の所定の値に精度良く保たれる。
【0058】
NOx濃度の測定は、主として、測定用ポンプセル61の動作により行われる。測定用ポンプセル61は、測定電極62と、外側ポンプ電極44と、第2固体電解質層28と、スペーサ層26と、第1固体電解質層24とによって構成された電気化学的ポンプセルである。測定電極62は、副調整室18bに面する第1固体電解質層24の上面に直に設けられ、第4拡散律速部64によって被覆されている。第4拡散律速部64は、アルミナ(Al
2O
3)等のセラミックス多孔体にて構成される膜である。第4拡散律速部64は、測定電極62に流入するNOxの量を制限する役割を担う。また、第4拡散律速部64は、測定電極62の保護膜としても機能する。従って、測定電極62の周囲は測定室20として機能する。測定電極62は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を、主内側ポンプ電極42よりも高めた材料にて構成された多孔質サーメット電極である。測定電極62は、測定電極62上の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。
【0059】
測定用ポンプセル61は、測定電極62の周囲(測定室20)の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2、すなわち、センサ出力として検出することができる。
【0060】
また、測定電極62の周囲(測定室20)の酸素分圧を検出するために、第1固体電解質層24と、測定電極62と、基準電極48とによって電気化学的センサセル、すなわち、測定用ポンプ制御用の第3酸素分圧検出センサセル66が構成されている。第3酸素分圧検出センサセル66にて検出された起電力V2に基づいて第3可変電源68が制御される。
【0061】
副調整室18b内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第4拡散律速部64を通じて測定電極62に到達する。測定電極62の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル61によってポンピングされる。その際、第3酸素分圧検出センサセル66にて検出された起電力V2が一定となるように第3可変電源68の電圧Vp2が制御される。測定電極62の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例する。従って、測定用ポンプセル61のポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度を算出することができる。
【0062】
また、この第1ガスセンサ10Aは、電気化学的なセンサセル70を有する。このセンサセル70は、第2固体電解質層28と、スペーサ層26と、第1固体電解質層24と、第3基板層22cと、外側ポンプ電極44と、基準電極48とを有する。このセンサセル70によって得られる起電力Vrefにより、センサ外部の被測定ガス中の酸素分圧が検出可能となっている。
【0063】
さらに、センサ素子12においては、第2基板層22bと第3基板層22cとに上下から挟まれた態様にて、ヒータ72が形成されている。ヒータ72は、第1基板層22aの下面に設けられた図示しないヒータ電極を通して外部から給電されることより発熱する。ヒータ72が発熱することによって、センサ素子12を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性が高められる。ヒータ72は、酸素濃度調整室18の全域にわたって埋設されており、センサ素子12の所定の場所を所定の温度に加熱、保温することができるようになっている。なお、ヒータ72の上下面には、第2基板層22b及び第3基板層22cとの電気的絶縁性を得る目的で、アルミナ等からなるヒータ絶縁層74が形成されている。
【0064】
さらに、第1ガスセンサ10Aは、
図2に模式的に示すように、酸素濃度制御手段100と、温度制御手段102と、条件設定手段104と、濃度算出手段106とを有する。酸素濃度制御手段100は、酸素濃度調整室18内の酸素濃度を制御する。温度制御手段102は、センサ素子12の温度を制御する。条件設定手段104は、酸素濃度調整室18の酸素濃度及びセンサ素子12の温度の少なくとも一方を、導入された被測定ガスの目的成分の種類に応じた条件に設定する。濃度算出手段106は、目的成分の種類に応じた複数の条件下で得られた各センサ出力に基づいて複数のそれぞれ異なる目的成分の濃度を算出する。
【0065】
なお、酸素濃度制御手段100、温度制御手段102、条件設定手段104及び濃度算出手段106は、例えば1つ又は複数のCPU(中央処理ユニット)と記憶装置等を有する1以上の電子回路にて構成される。電子回路は、例えば記憶装置に記憶されているプログラムをCPUが実行することにより、所定の機能が実現されるソフトウェア機能部である。もちろん、複数の電子回路を機能に合わせて接続したFPGA(Field-Programmable Gate Array)等の集積回路で構成してもよい。
【0066】
従来は、NO、NO
2の目的成分に対して、酸素濃度調整室18内で全てをNOに変換した後、測定室20に導入し、これら2成分の総量を測定していた。つまり、2つの目的成分毎の濃度、すなわち、NO及びNO
2の各濃度を測定することができなかった。
【0067】
これに対して、第1ガスセンサ10Aは、上述した酸素濃度制御手段100、温度制御手段102、条件設定手段104及び濃度算出手段106を具備することで、NO及びNO
2の各濃度を測定することができるようにしたものである。
【0068】
酸素濃度制御手段100は、条件設定手段104にて設定された条件と、第1酸素分圧検出センサセル50(
図1参照)において生じる起電力V0とに基づいて、第1可変電源46をフィードバック制御することにより、酸素濃度調整室18内の酸素濃度を、上記条件に従った濃度に調整する。
【0069】
温度制御手段102は、条件設定手段104にて設定された条件と、センサ素子12の温度を計測する温度センサ(図示せず)からの計測値とに基づいて、ヒータ72をフィードバック制御することにより、センサ素子12の温度を、上記条件に従った温度に調整する。
【0070】
条件設定手段104は、NOを分解させることなく、NO
2を全てNOに変換する条件を第1条件として設定し、また、NOを分解させることなく、NO
2の一部をNOに変換する条件を第2条件として設定する。
【0071】
ここで、第1条件及び第2条件について、
図3A及び
図3Bを参照しながら説明する。
図3A及び
図3Bは、センサ素子12の温度に対する酸素濃度調整室18内の酸素濃度の特性を示すもので、特に、
図3Aは、NOの分解、未分解の関係を示し、
図3Bは、NO
2の分解、未分解の関係を示す。
【0072】
そして、第1条件は、
図3Aにおいて、NO分解率が0%の境界線La上のポイントPaに設定される。すなわち、
図3Bにおいて、NO
2からNOへの分解率100%境界線L
b上のポイントPaに設定される。第2条件は、
図3Aにおいて、NOの未分解領域内のポイントPbに設定される。すなわち、
図3Bにおいて、NO
2からNOへの分解率100%境界線LbとNO
2からNOへの分解率0%境界線Lcとの間のポイントPbに設定される。例えばNO
2の80%がNOに分解し、NO
2の20%が未分解となるポイントPbに設定される。本実施の形態における第1条件から第2条件への変更は、例えば温度を一定にして、酸素濃度調整室18内の酸素濃度を変更することにより行われる。上述の測定条件の設定は、あくまでも一例であり、本発明の基本概念である「酸素濃度調整室の酸素濃度や温度の設定条件を基準となる条件から置き換えることで、酸素濃度調整室内で起こる目的成分(NO、NO
2、NH
3)の化学平衡を変化させて、意図的に測定室で得られるセンサ出力を変動させ、基準条件でのセンサ出力、及び条件置き換えによるセンサ出力の変動分から各々の成分濃度を求める」から外れない限り、任意に測定条件を設定することができる。例えば、酸素濃度調整室18内の酸素濃度を一定にして温度を変更する等がある。
【0073】
なお、
図3AにおけるNO分解率0%境界線、NO分解率100%境界線は、絶対的な分解反応の進行を表すものではない。例えばNO分解率0%境界線であれば、それ以上、酸素濃度調整室18の酸素濃度を上げても、測定室20に配置された測定用ポンプセル61に流れるポンプ電流Ip2のNO濃度に対する傾き(すなわち、感度係数)が増加しなくなる酸素濃度調整室18の酸素濃度と測定素子温度の組合せを示す。NO分解率100%境界線であれば、被測定ガス中のNO濃度を増加させても測定室20に配置された測定用ポンプセル61に流れるポンプ電流Ip2が増加しないような酸素濃度調整室18の酸素濃度と測定素子温度の組合せを示す。
【0074】
これらの境界線は酸素濃度調整室18内に配置される主内側ポンプ電極42の触媒活性や電極の微構造によって変化するため、素子温度や電極材料、及び電極微構造ごとに実験的に確認されるべきものである。
【0075】
図3BにおけるNO
2→NO分解率0%境界線、及びNO
2→NO分解率100%境界線も同様に絶対的な分解反応の進行を表すものではない。例えばNO
2→NO分解率0%境界線は、それ以上、酸素濃度調整室18の酸素濃度を上げても測定室20に配置された測定用ポンプセル61に流れるポンプ電流Ip2のNO
2濃度に対する傾き(すなわち、感度係数)が増加しなくなる酸素濃度調整室18の酸素濃度と測定素子温度の組合せを示す。NO
2→NO分解率100%境界線は、それ以上、酸素濃度調整室18の酸素濃度を下げても、測定室20に配置された測定用ポンプセル61に流れるポンプ電流Ip2のNO
2濃度に対する傾き(すなわち、感度係数)が低下しなくなる酸素濃度調整室18の酸素濃度と測定素子温度の組合せを示す。
【0076】
ここで、酸素濃度調整室18内での反応と測定室20内での反応を
図4及び
図5の模式図並びに
図6A及び
図6Bのグラフを参照しながら簡単に説明する。
【0077】
先ず、第1条件に設定した場合、
図4に示すように、酸素濃度調整室18内ではNOは分解されず、NOのままである。一方、NO
2は、2NO
2→2NO+O
2の分解反応が生じる。従って、酸素濃度調整室18から測定室20内にNOが入り込み、NO
2は入り込まない。測定室20内では、NO→(1/2)N
2+(1/2)O
2の分解反応が生じ、このうち、O
2が汲み出されることによって、センサ出力(ポンプ電流Ip2)として検出される。
【0078】
第2条件に設定した場合は、
図5に示すように、酸素濃度調整室18内では、NOは分解されず、NOのままである。一方、NO
2については、例えば80%のNO
2が2NO
2→2NO+O
2の分解反応によってNOに分解され、残りの20%のNO
2は分解されない。従って、酸素濃度調整室18から測定室20内にNOとNO
2が入り込むこととなる。測定室20内では、NO→(1/2)N
2+(1/2)O
2の分解反応と、NO
2→(1/2)N
2+O
2の分解反応が生じる。このうち、O
2が汲み出されることによって、センサ出力(ポンプ電流Ip2)として検出される。
【0079】
第1条件下において、NOのみを導入する場合に、NO濃度に対するセンサ出力は、
図6Aに示すように、NO濃度が0ppmのとき、
図3A及び
図3BにおけるポイントPaの酸素濃度に対応したオフセット電流OS
1が現れる。そして、NO濃度が上昇するにつれて、センサ出力も比例的に上昇する。
【0080】
第1条件下において、NO
2のみを導入する場合に、NO
2濃度に対するセンサ出力は、
図6Bに示すように、NO
2濃度が0ppmのとき、
図6Aと同様に、オフセット電流OS
1が現れる。そして、NO
2濃度が上昇するにつれて、センサ出力も比例的に上昇するが、その傾きは、NOとNO
2の拡散係数の差によって、第1条件下でのNO濃度の傾きよりも小さい。第1条件下でのNO濃度の傾きを1としたとき、0.9程度となる。
【0081】
従って、第1条件下でのセンサ出力IP
1と、第1条件下でのNO濃度に対応するセンサ出力(NO)及びNO
2濃度に対応するセンサ出力(NO
2)との第1関係式(1)は、以下の通りになる。
IP
1=NO+0.9NO
2+OS
1 ……(1)
【0082】
同様に、今度は、第2条件下において、NOのみを導入した場合に、NO濃度に対するセンサ出力は、
図6Aに示すように、NO濃度が0ppmのとき、
図3BにおけるポイントPbの酸素濃度に対応したオフセット電流OS
2が現れる。そして、NO濃度が上昇するにつれて、センサ出力も比例的に上昇する。NOのみを導入することから、NO濃度の傾きは、第1条件の場合と同じになる。
【0083】
第2条件下において、NO
2のみを導入した場合に、NO
2濃度に対するセンサ出力は、
図6Bに示すように、NO
2濃度が0ppmのとき、
図6Aと同様に、オフセット電流OS
2が現れる。そして、NO
2濃度が上昇するにつれて、センサ出力も比例的に上昇するが、その傾きは、第1条件下でのNO濃度の傾きよりも大きい。これは、分解されずに測定室20に到達したNO
2が分解されることで、O
2の量が、NOが分解される量よりも多くなることによる。第2条件下でのNO濃度の傾きを1としたとき、1.12程度となる。
【0084】
従って、第2条件下でのセンサ出力IP
2と、第2条件下でのNO濃度に対応するセンサ出力(NO)及びNO
2濃度に対応するセンサ出力(NO
2)との第2関係式(2)は、以下の通りになる。
IP
2=NO+1.12NO
2+OS
2 ……(2)
【0085】
オフセット電流OS
1及びOS
2は共に定数であることから、第1関係式(1)及び第2関係式(2)の2元連立方程式を解くことにより、NOとNO
2とが混在した被測定ガス中のNO濃度とNO
2濃度を算出することができる。
【0086】
ここで、第1ガスセンサ10AによるNO及びNO
2の測定処理について
図7のフローチャートも参照しながら説明する。
【0087】
先ず、
図7のステップS1において、第1ガスセンサ10Aは、ガス導入口16を通じて酸素濃度調整室18内にNO及びNO
2が混在する被測定ガスを導入する。
【0088】
ステップS2において、条件設定手段104は、第1条件に設定して、酸素濃度制御手段100あるいは温度制御手段102を起動する。
【0089】
ステップS3において、酸素濃度制御手段100あるいは温度制御手段102は、酸素濃度調整室18内の酸素濃度あるいはセンサ素子12の温度を第1条件に従った酸素濃度あるいは温度に調整する。
【0090】
ステップS4において、濃度算出手段106は、第1条件下でのセンサ出力(IP
1)を取得する。
【0091】
ステップS5において、条件設定手段104は、第2条件に設定して、酸素濃度制御手段100あるいは温度制御手段102を起動する。
【0092】
ステップS6において、酸素濃度制御手段100あるいは温度制御手段102は、酸素濃度調整室18内の酸素濃度あるいはセンサ素子12の温度を第2条件に従った酸素濃度あるいはセンサ温度に調整する。
【0093】
ステップS7において、濃度算出手段106は、第2条件下でのセンサ出力(IP
2)を取得する。
【0094】
ステップS8において、濃度算出手段106は、上述した第1関係式(1)及び第2関係式(2)の2元連立方程式を解くことにより、NOとNO
2とが混在した被測定ガス中のNO濃度とNO
2濃度を算出する。
【0095】
ステップS9において、第1ガスセンサ10Aは、NO及びNO
2の測定処理の終了要求(電源断、メンテナンス等)があるか否かを判別する。終了要求がなければ、ステップS1以降の処理を繰り返す。そして、ステップS9において、終了要求があった段階で、第1ガスセンサ10AでのNO及びNO
2の測定処理を終了する。
【0096】
このように、第1ガスセンサ10Aは、NOを分解させることなく、NO
2を全てNOに変換する条件(第1条件)下でのセンサ出力を取得し、また、NOを分解させることなく、NO
2の一部をNOに変換する条件(第2条件)下でのセンサ出力を取得するようにしている。そして、第1条件下でのセンサ出力と、第1条件下でのNO濃度に対するセンサ出力及びNO
2濃度に対するセンサ出力との第1関係式と、第2条件下でのセンサ出力と、第2条件下でのNO濃度に対するセンサ出力及びNO
2濃度に対するセンサ出力との第2関係式とに基づいて、NO及びNO
2の各濃度を算出するようにしている。
【0097】
これにより、排気ガスのような未燃成分、酸素の存在下に共存する複数目的成分(例えばNO、NO
2)の雰囲気下においても、複数目的成分の各濃度を長期間にわたり精度よく測定することができる。
【0098】
しかも、第1ガスセンサ10Aは、従来では実現できなかったNOとNO
2の各濃度を測定する処理を、ハードウェアとしての各種測定装置等を別途付加することなく、第1ガスセンサ10Aの制御系のソフトウェアを変更するだけで、容易に実現することができる。その結果、NOx浄化システムの制御並びに故障検知に対する精度を高めることができる。特に、DOC(Diesel Oxidation Catalyst)触媒下流の排気ガス中のNOとNO
2とを区別することが可能となり、DOC触媒の劣化検知に寄与する。
【0099】
次に、第2の実施の形態に係るガスセンサ(以下、第2ガスセンサ10Bと記す)について、さらに
図8及び
図9も参照しながら説明する。
【0100】
この第2ガスセンサ10Bは、上述した第1ガスセンサ10Aとほぼ同様の構成を有するが、濃度算出手段106の構成が異なる。
【0101】
すなわち、第2ガスセンサ10Bの濃度算出手段106は、第1条件下でのセンサ出力と、第2条件下でのセンサ出力から第1条件下でのセンサ出力とを差し引いた出力差と、第1マップ110(
図8及び
図9参照)とに基づいて、NO及びNO
2の各濃度を求める。
【0102】
第1マップ110は、グラフ化して示すと、例えば
図8に示すように、横軸に、第1条件下でのセンサ出力が設定され、縦軸に第2条件下でのセンサ出力から第1条件下でのセンサ出力とを差し引いた出力差[#2−#1]が設定されたグラフとなる。
【0103】
この第1マップ110は、被測定ガス中のNO及びNO
2の濃度(あるいは濃度比)を示すポイントが、3つのポイントp1、p7及びp20で囲まれた三角形状の領域に存在していることを示している。
【0104】
図8中、ポイントp1は、被測定ガス中、NOが計測可能な上限濃度(例えば500ppm系)で、NO
2が0ppmである場合であって、第1条件下でのセンサ出力Imax(μA)(ラインL1参照)と、第2条件下でのセンサ出力から第1条件下でのセンサ出力を差し引いた出力差ΔImin(μA)(ラインL2参照)とを結ぶ交点である。
【0105】
同様に、ポイントp7は、NOが0ppmで、NO
2が500ppmである場合であって、第1条件下でのセンサ出力Imax(μA)(ラインL1参照)と、第2条件下でのセンサ出力から第1条件下でのセンサ出力を差し引いた出力差ΔImax(μA)(ラインL3参照)とを結ぶ交点である。
【0106】
ポイントp20は、NO及びNO
2が共に0ppmである場合であって、第1条件下でのセンサ出力0(μA)(横軸)と、第2条件下でのセンサ出力から第1条件下でのセンサ出力を差し引いた出力差ΔImin(μA)とを結ぶ交点である。
【0107】
さらに、この第1マップ110は、代表的に、例えば500ppm系、250ppm系、125ppm系について、ラインL2からそれぞれ同じ割合毎にポイントを設定し、各ポイントに対応してそれぞれNO濃度とNO
2濃度を割り当てている。分かり易くテーブルの形式で示すと、
図9に示すような内容となる。これらの濃度は、実験あるいはシミュレーションにて求めている。
【0108】
第1条件下でのセンサ出力と上記出力差[#2−#1]から第1マップ110上のポイントを特定することで、NO濃度とNO
2濃度を求めることができる。例えばポイントp1では、NO濃度が500ppm、NO
2濃度が0ppm、ポイントp2では、NO濃度が400ppm、NO
2濃度が111ppm、ポイントp3では、NO濃度が300ppm、NO
2濃度が222ppmである。第1マップ110上に該当するポイントが存在しない場合は、最も近いポイントを特定し、例えば既知の近似計算にてNO濃度とNO
2濃度を求めればよい。
【0109】
ここで、第2ガスセンサ10BによるNO及びNO
2の測定処理について
図10のフローチャートも参照しながら説明する。
【0110】
先ず、
図10のステップS101〜S107は、上述した第1ガスセンサ10Aの処理(
図7のステップS1〜S7参照)と同様であるため、その重複説明を省略する。
【0111】
その後、ステップS108において、濃度算出手段106は、第1条件下でのセンサ出力と、第2条件下でのセンサ出力から第1条件下でのセンサ出力を差し引いた出力差[#2−#1]とから第1マップ110上の1つのポイントを特定する。
【0112】
ステップS109において、第1マップ110から、特定したポイントに対応するNO濃度及びNO
2濃度を読み出して、今回、測定したNO濃度及びNO
2濃度とする。第1マップ110上に該当するポイントが存在しない場合は、上述したように、最も近いポイントを特定し、例えば既知の近似計算にてNO濃度とNO
2濃度を求める。
【0113】
ステップS110において、第2ガスセンサ10Bは、NO及びNO
2の測定処理の終了要求(電源断、メンテナンス等)があるか否かを判別する。終了要求がなければ、ステップS101以降の処理を繰り返す。そして、ステップS110において、終了要求があった段階で、第2ガスセンサ10BでのNO及びNO
2の測定処理を終了する。
【0114】
この第2ガスセンサ10Bにおいても、上述した第1ガスセンサ10Aと同様の効果を奏する。特に、第1マップ110上の特定したポイントからNO濃度及びNO
2濃度を読み出せばよいため、複雑な演算処理が不要となり、短時間でNO濃度及びNO
2濃度を取得することができる。
【0115】
次に、第3の実施の形態に係るガスセンサ(以下、第3ガスセンサ10Cと記す)について
図1、
図2、
図11A〜
図18を参照しながら説明する。
【0116】
この第3ガスセンサ10Cは、上述した第1ガスセンサ10Aとほぼ同様の構成を有するが、3つの目的成分、すなわち、NO、NO
2及びNH
3の各濃度を測定することができる点で異なる。
【0117】
すなわち、上述した第1条件及び第2条件に加えて、NOを一部分解させて、NH
3の一部をNOに変換する条件を第3条件として設定する。
【0118】
ここで、NH
3を考慮した第1条件〜第3条件について、
図11A〜
図12を参照しながら説明する。
【0119】
図11Aは、NOの分解、未分解の関係を示したもので、縦軸に酸素濃度調整室18内の酸素濃度を示し、横軸にセンサ素子12の温度を示す。
図11A中、破線Laは、NO→(1/2)N
2+(1/2)O
2の分解反応が0%、すなわち、当該分解反応が発生しない境界線を示す。破線Ldは、当該分解反応が100%起こる境界線を示す。また、プロットPaは、第1条件に相当する酸素濃度と素子温度を示す。プロットPbは、第2条件に相当する酸素濃度と素子温度を示す。プロットPcは、第3条件に相当する酸素濃度と素子温度を示す。この
図11Aから、第1条件及び第2条件ではNOの分解反応は進まないが、第3条件ではNOのうちの20%がNO→(1/2)N
2+(1/2)O
2に分解することがわかる。
【0120】
同様に、
図11Bは、NO
2の分解、未分解の関係を示したもので、縦軸に酸素濃度調整室18内の酸素濃度を示し、横軸にセンサ素子12の温度を示す。
図11B中、破線Lcは、NO
2→NO+(1/2)O
2の分解反応が0%、すなわち、当該分解反応が発生しない境界線を示す。破線Lbは、当該分解反応が100%起こる境界線を示す。また、プロットPaは、第1条件に相当する酸素濃度と素子温度を示す。プロットPbは、第2条件に相当する酸素濃度と素子温度を示す。プロットPcは、第3条件に相当する酸素濃度と素子温度を示す。この
図11Bから、第1条件及び第3条件ではNO
2の分解反応が100%進むが、第2条件ではNO
2のうちの20%が分解されないことがわかる。
【0121】
図12は、NH
3の酸化、未酸化の関係を示したもので、縦軸に酸素濃度調整室18内の酸素濃度を示し、横軸にセンサ素子12の温度を示す。
図12中、破線Leは、
4NH
3+5O
2→4NO+6H
2Oの酸化反応が0%、すなわち、当該酸化反応が発生しない境界線を示す。破線Lfは、当該酸化反応が100%起こる境界線を示す。また、プロットPaは、第1条件に相当する酸素濃度と素子温度を示す。プロットPbは、第2条件に相当する酸素濃度と素子温度を示す。プロットPcは、第3条件に相当する酸素濃度と素子温度を示す。この
図12から、第1条件及び第2条件ではNH
3の酸化反応が100%進むが、第3条件ではNH
3のうちの10%が分解されないことがわかる。
【0122】
なお、
図12におけるNH
3酸化率100%境界線、NH
3酸化率0%境界線は絶対的な酸化反応の進行を表すものではない。例えばNH
3酸化率100%境界線であれば、それ以上、酸素濃度調整室18の酸素濃度を上げても測定室20に配置された測定用ポンプセル61に流れるポンプ電流Ip2のNH
3濃度に対する傾き(すなわち、感度係数)が増加しなくなる酸素濃度調整室18の酸素濃度と測定素子温度の組合せを示す。NH
3酸化率0%境界線であれば、被測定ガス中のNH
3濃度に対して測定用ポンプセル61に流れるポンプ電流Ip2が測定室20内に酸素を汲み込む方向に流れるような酸素濃度調整室18の酸素濃度と測定素子温度の組合せを示している。これらの境界線は、酸素濃度調整室18内に配置される主内側ポンプ電極42の触媒活性や電極の微構造によって変化するため、素子温度や電極材料、及び電極微構造ごとに実験的に確認されるべきものである。
【0123】
第3の実施の形態における第1条件から第3条件への変更は、例えば温度を一定にして、酸素濃度調整室18内の酸素濃度を変更することにより行われるが、本発明の基本概念である「酸素濃度調整室の酸素濃度や温度の設定条件を基準となる条件から変更することで、酸素濃度調整室内で起こる目的成分(NO、NO
2、NH
3)の化学平衡を変化させて、意図的に測定室で得られるセンサ出力を変動させ、基準条件でのセンサ出力、及び条件変更によるセンサ出力の変動分から各々の成分濃度を求める」から外れない限り、任意に測定条件を設定することができる。例えば、酸素濃度調整室18内の酸素濃度を一定にして温度を変更する等がある。
【0124】
ここで、酸素濃度調整室18内での反応と測定室20内での反応を
図13〜
図15の模式図を参照しながら簡単に説明する。
【0125】
先ず、第1条件に設定した場合、
図13に示すように、酸素濃度調整室18内では、NOは分解されず、NOのままである。NO
2については、2NO
2→2NO+O
2の分解反応が生じる。NH
3については、4NH
3+5O
2→4NO+6H
2Oの酸化反応によってNOに酸化される。従って、酸素濃度調整室18から測定室20内にNOが入り込み、NO
2及びNH
3は入り込まない。測定室20内では、NO→(1/2)N
2+(1/2)O
2の分解反応が生じ、このうち、O
2が汲み出されることによって、センサ出力(ポンプ電流Ip2)として検出される。
【0126】
第2条件に設定した場合は、
図14に示すように、酸素濃度調整室18内では、NOは分解されず、NOのままである。NO
2については、例えば80%のNO
2が2NO
2→2NO+O
2の分解反応によってNOに分解され、残りの20%のNO
2は分解されない。NH
3については、4NH
3+5O
2→4NO+6H
2Oの酸化反応によってNOに酸化される。従って、酸素濃度調整室18から測定室20内にNOとNO
2が入り込むこととなる。測定室20内では、NO→(1/2)N
2+(1/2)O
2の分解反応とNO
2→(1/2)N
2+O
2の分解反応が生じる。このうち、O
2が汲み出されることによって、センサ出力(ポンプ電流Ip2)として検出される。この場合、測定室20内に入り込んだNO
2により余剰の酸素イオンが持ち込まれることになり、第1条件、第3条件に比べてセンサ出力は大きくなる。
【0127】
第3条件に設定した場合は、
図15に示すように、酸素濃度調整室18内では、NOについては、例えば20%のNOが(1/2)N
2+(1/2)O
2の分解反応によって分解され、残りの80%のNOは分解されない。NO
2については、2NO
2→2NO+O
2の分解反応が生じると共に、分解反応で生成されたNOの20%も(1/2)N
2+(1/2)O
2の分解反応によって分解される。NH
3については、例えば90%のNH
3が4NH
3+5O
2→4NO+6H
2Oの酸化反応によってNOに酸化され、残りの10%のNH
3は酸化されない。ここでも酸化反応で生成したNOの20%が(1/2)N
2+(1/2)O
2の分解反応によって分解される。従って、酸素濃度調整室18から測定室20内にNOとNH
3が入り込むこととなる。測定室20内では、NO→(1/2)N
2+(1/2)O
2の分解反応とNH
3+(3/2)NO→(3/2)H
2O+(5/4)N
2の分解反応が生じる。この場合、測定室20内のNOがNH
3の分解に消費され、第1条件、及び第2条件に比べてセンサ出力が低下する。
【0128】
図16Aに示すように、第1条件下において、NOのみを導入する場合に、NO濃度に対するセンサ出力は、NO濃度が0ppmのとき、第1条件下の酸素濃度調整室18内の酸素濃度に由来するオフセット電流OS
1が現れる。そして、NO濃度が上昇するにつれて、センサ出力も比例的に上昇する。
【0129】
図16Bに示すように、第1条件下において、NO
2のみを導入する場合に、NO
2濃度に対するセンサ出力は、NO
2濃度が0ppmのとき、第1条件下の酸素濃度調整室18内の酸素濃度に由来するオフセット電流OS
1が現れる。そして、NO
2濃度が上昇するにつれて、センサ出力も比例的に上昇するが、その傾きは、NOとNO
2の拡散係数の差によって、第1条件下でのNO濃度の傾きよりも小さい。第1条件下でのNO濃度の傾きを1としたとき、0.9程度となる。
【0130】
図17に示すように、第1条件下において、NH
3のみを導入する場合に、NH
3濃度に対するセンサ出力は、NH
3濃度が0ppmのとき、第1条件下の酸素濃度調整室18内の酸素濃度に由来するオフセット電流OS
1が現れる。そして、NH
3濃度が上昇するにつれて、センサ出力も比例的に上昇するが、その傾きは、第1条件下でのNO濃度の傾きよりも大きい。第1条件下でのNO濃度の傾きを1としたとき、1.1程度となる。
【0131】
従って、第1条件下でのセンサ出力IP
1と、第1条件下でのNO濃度に対応するセンサ出力(NO)、NO
2濃度に対応するセンサ出力(NO
2)及びNH
3濃度に対応するセンサ出力(NH
3)との第3関係式(3)は、以下の通りになる。
IP
1=NO+0.9NO
2+1.1NH
3+OS
1 ……(3)
【0132】
同様に、
図16Aに示すように、今度は、第2条件下において、NOのみを導入する場合に、NO濃度に対するセンサ出力は、NO濃度が0ppmのとき、第2条件下の酸素濃度調整室18内の酸素濃度に由来するオフセット電流OS
2が現れる。そして、NO濃度が上昇するにつれて、センサ出力も比例的に上昇する。NOのみを導入することから、NO濃度の傾きは、第1条件の場合と同じになる。
【0133】
図16Bに示すように、第2条件下において、NO
2のみを導入する場合に、NO
2濃度に対するセンサ出力は、NO
2濃度が0ppmのとき、第2条件下の酸素濃度調整室18内の酸素濃度に由来するオフセット電流OS
2が現れる。そして、NO
2濃度が上昇するにつれて、センサ出力も比例的に上昇するが、その傾きは、第1条件下でのNO濃度の傾きよりも大きい。これは、分解されずに測定室20に到達したNO
2が分解されることで、O
2の量が、NOが分解される量よりも多くなることによる。第2条件下でのNO濃度の傾きを1としたとき、1.12程度となる。
【0134】
図17に示すように、第2条件下において、NH
3のみを導入する場合に、NH
3濃度に対するセンサ出力は、NH
3濃度が0ppmのとき、第2条件下の酸素濃度調整室18内の酸素濃度に由来するオフセット電流OS
2が現れる。そして、NH
3濃度が上昇するにつれて、センサ出力も比例的に上昇するが、その傾きは、第1条件下でのNO濃度の傾きよりも大きい。第1条件下でのNO濃度の傾きを1としたとき、1.1程度となる。
【0135】
従って、第2条件下でのセンサ出力IP
2と、第2条件下でのNO濃度に対応するセンサ出力(NO)、NO
2濃度に対応するセンサ出力(NO
2)及びNH
3濃度に対応するセンサ出力(NH
3)との第4関係式(4)は、以下の通りになる。
IP
2=NO+1.12NO
2+1.1NH
3+OS
2 ……(4)
【0136】
同様に、今度は、第3条件下において、NOのみを導入する場合に、NO濃度に対するセンサ出力は、NO濃度が0ppmのとき、
図16Aに示すように、第3条件下の酸素濃度調整室18内の酸素濃度に由来するオフセット電流OS
3が現れる。そして、NO濃度が上昇するにつれて、センサ出力も比例的に上昇するが、NO濃度の傾きは、第1条件下でのNO濃度の傾きよりも小さい。これは、酸素濃度調整室18内で10%のNOが分解されることによる。第1条件下でのNO濃度の傾きを1としたとき、0.9程度となる。
【0137】
第3条件下において、NO
2のみを導入する場合に、NO
2濃度に対するセンサ出力は、NO
2濃度が0ppmのとき、
図16Bに示すように、第3条件下の酸素濃度調整室18内の酸素濃度に由来するオフセット電流OS
3が現れる。そして、NO
2濃度が上昇するにつれて、センサ出力も比例的に上昇するが、その傾きは、NOとNO
2の拡散係数の差、及び酸素濃度調整室18内で10%のNOが分解されることによって、第1条件下でのNO濃度の傾きよりも小さい。第1条件下でのNO濃度の傾きを1としたとき、0.8程度となる。
【0138】
第3条件下において、NH
3のみを導入する場合に、NH
3濃度に対するセンサ出力は、NH
3濃度が0ppmのとき、
図17に示すように、第3条件下の酸素濃度調整室18内の酸素濃度に由来するオフセット電流OS
3が現れる。そして、NH
3濃度が上昇するにつれて、センサ出力も比例的に上昇するが、その傾きは、第1条件下でのNO濃度の傾きよりも小さい。第1条件下でのNO濃度の傾きを1としたとき、0.72程度となる。
【0139】
従って、第3条件下でのセンサ出力IP
3と、第3条件下でのNO濃度に対応するセンサ出力(NO)、NO
2濃度に対応するセンサ出力(NO
2)及びNH
3濃度に対応するセンサ出力(NH
3)との第5関係式(5)は、以下の通りになる。
IP
3=0.9NO+0.8NO
2+0.72NH
3+OS
3 ……(5)
【0140】
オフセット電流OS
1、OS
2及びOS
3は共に定数であることから、第3関係式(3)、第4関係式(4)及び第5関係式(5)の3元連立方程式を解くことにより、NO、NO
2及びNH
3とが混在した被測定ガス中のNO濃度、NO
2濃度及びNH
3濃度を算出することができる。
【0141】
ここで、第3ガスセンサ10CによるNO、NO
2及びNH
3の測定処理について
図18のフローチャートを参照しながら説明する。
【0142】
先ず、
図18のステップS201において、第3ガスセンサ10Cは、ガス導入口16を通じて酸素濃度調整室18内にNO、NO
2及びNH
3が混在する被測定ガスを導入する。
【0143】
ステップS202において、条件設定手段104は、第1条件に設定して、酸素濃度制御手段100あるいは温度制御手段102を起動する。
【0144】
ステップS203において、酸素濃度制御手段100あるいは温度制御手段102は、酸素濃度調整室18内の酸素濃度あるいはセンサ素子12の温度を第1条件に従った酸素濃度あるいはセンサ温度に調整する。
【0145】
ステップS204において、濃度算出手段106は、第1条件下でのセンサ出力(IP
1)を取得する。
【0146】
ステップS205において、条件設定手段104は、第2条件に設定して、酸素濃度制御手段100あるいは温度制御手段102を起動する。
【0147】
ステップS206において、酸素濃度制御手段100あるいは温度制御手段102は、酸素濃度調整室18内の酸素濃度あるいはセンサ素子12の温度を第2条件に従った酸素濃度あるいはセンサ温度に調整する。
【0148】
ステップS207において、濃度算出手段106は、第2条件下でのセンサ出力(IP
2)を取得する。
【0149】
ステップS208において、条件設定手段104は、第3条件に設定して、酸素濃度制御手段100あるいは温度制御手段102を起動する。
【0150】
ステップS209において、酸素濃度制御手段100あるいは温度制御手段102は、酸素濃度調整室18内の酸素濃度あるいはセンサ素子12の温度を第3条件に従った酸素濃度あるいはセンサ温度に調整する。
【0151】
ステップS210において、濃度算出手段106は、第3条件下でのセンサ出力(IP
3)を取得する。
【0152】
ステップS211において、濃度算出手段106は、上述した第3関係式(3)、第4関係式(4)及び第5関係式(5)の3元連立方程式を解くことにより、NO、NO
2及びNH
3とが混在した被測定ガス中のNO濃度、NO
2濃度及びNH
3濃度を算出する。
【0153】
ステップS212において、第3ガスセンサ10Cは、NO、NO
2及びNH
3の測定処理の終了要求(電源断、メンテナンス等)があるか否かを判別する。終了要求がなければ、ステップS201以降の処理を繰り返す。そして、ステップS212において、終了要求があった段階で、第3ガスセンサ10CでのNO、NO
2及びNH
3の測定処理を終了する。
【0154】
このように、第3ガスセンサ10Cは、NOを分解させることなく、NO
2を全てNOに変換する条件(第1条件)下でのセンサ出力を取得し、また、NOを分解させることなく、NO
2の一部をNOに変換する条件(第2条件)下でのセンサ出力を取得し、NOを一部分解させて、NH
3の一部をNOに変換する条件を第3条件として設定するようにしている。そして、上述した第3関係式、第4関係式及び第5関係式に基づいて、NO、NO
2及びNH
3の各濃度を算出するようにしている。
【0155】
これにより、排気ガスのような未燃成分、酸素の存在下に共存する複数目的成分(例えばNO、NO
2、NH
3)の雰囲気下においても、複数目的成分の各濃度を長期間にわたり精度よく測定することができる。
【0156】
しかも、第3ガスセンサ10Cは、従来では実現できなかったNO、NO
2及びNH
3の各濃度を測定する処理を、ハードウェアとしての各種測定装置等を別途付加することなく、第3ガスセンサ10Cの制御系のソフトウェアを変更するだけで、容易に実現することができる。その結果、NOx浄化システムの制御並びに故障検知に対する精度を高めることができる。特に、DOC触媒下流の排気ガス中のNOとNO
2とを区別することが可能となり、DOC触媒の劣化検知に寄与する。しかも、SCRシステム下流の排気ガス中のNO、NO
2及びNH
3とを区別することも可能となり、SCRシステムの尿素注入量の精密制御、及び劣化検知に寄与する。
【0157】
次に、第4の実施の形態に係るガスセンサ(以下、第4ガスセンサ10Dと記す)について、さらに
図19及び
図20も参照しながら説明する。
【0158】
この第4ガスセンサ10Dは、上述した第3ガスセンサ10Cとほぼ同様の構成を有するが、濃度算出手段106の構成が異なる。
【0159】
すなわち、第4ガスセンサ10Dの濃度算出手段106は、第1条件下でのセンサ出力と、第2条件下でのセンサ出力から第1条件下でのセンサ出力を差し引いた第1出力差[#2−#1]と、第3条件下でのセンサ出力から第2条件下でのセンサ出力を差し引いた第2出力差[#3−#2]と、第2マップ112とに基づいて、NO、NO
2及びNH
3の各濃度を求める。
【0160】
第2マップ112は、グラフ化して示すと、例えば
図19に示すように、x軸に、第1条件下でのセンサ出力が設定され、x軸と直交するy軸に第1出力差[#2−#1]が設定され、x軸及びy軸と直交するz軸に第2出力差[#3−#2]が設定されたグラフとなる。
【0161】
そして、この第2マップ112は、複数のポイントが設定され、各ポイントに対してそれぞれNO濃度、NO
2濃度及びNH
3濃度を割り当てている。分かり易くテーブルの形式で示すと、
図20に示すような内容となる。
図20では、代表的に500ppm系のみを示している。これらの濃度は、実験あるいはシミュレーションにて求めている。この第2マップ112は、三次元構造(
図19参照)を有するため、第1条件下でのセンサ出力と、第1出力差[#2−#1]と、第2出力差[#3−#2]とで、1つのポイントが特定される。このポイントに対応するNO濃度、NO
2濃度及びNH
3濃度を第2マップ112から読み出すことで、NO濃度、NO
2濃度及びNH
3濃度を求めることができる。
【0162】
例えばポイントp1では、NO濃度が500ppm、NO
2濃度が0ppm、NH
3濃度が0ppm、ポイントp10では、NO濃度が300ppm、NO
2濃度が222ppm、NH
3濃度が0ppm、ポイントp18では、NO濃度が200ppm、NO
2濃度が150ppm、NH
3濃度が150ppmである。第2マップ112上に該当するポイントが存在しない場合は、最も近いポイントを特定し、例えば既知の近似計算にてNO濃度、NO
2濃度及びNH
3濃度を求めればよい。
【0163】
ここで、第4ガスセンサ10DによるNO、NO
2及びNH
3の測定処理について
図21及び
図22のフローチャートを参照しながら説明する。
【0164】
先ず、
図21及び
図22のステップS301〜S310は、上述した第3ガスセンサ10Cの処理(
図18のステップS201〜S210参照)と同様であるため、その重複説明を省略する。
【0165】
その後、
図22のステップS311において、濃度算出手段106は、第1条件下でのセンサ出力と、第2条件下でのセンサ出力から第1条件下でのセンサ出力を差し引いた第1出力差[#2−#1]と、第3条件下でのセンサ出力から第2条件下でのセンサ出力を差し引いた第2出力差[#3−#2]とから第2マップ112上の1つのポイントを特定する。
【0166】
ステップS312において、第2マップ112のうち、特定したポイントに対応するNO濃度、NO
2濃度及びNH
3濃度を読み出して、今回、測定したNO濃度、NO
2濃度及びNH
3濃度とする。第2マップ112上に該当するポイントが存在しない場合は、最も近いポイントを特定し、例えば既知の近似計算にてNO濃度、NO
2及びNH
3濃度を求める。
【0167】
ステップS313において、第4ガスセンサ10Dは、NO、NO
2及びNH
3の測定処理の終了要求(電源断、メンテナンス等)があるか否かを判別する。終了要求がなければ、
図21のステップS301以降の処理を繰り返す。そして、ステップS313において、終了要求があった段階で、第4ガスセンサ10DでのNO、NO
2及びNH
3の測定処理を終了する。
【0168】
この第4ガスセンサ10Dにおいても、上述した第3ガスセンサ10Cと同様の効果を奏する。特に、第2マップ112上の特定したポイントからNO濃度、NO
2濃度及びNH
3濃度を読み出せばよいため、複雑な演算処理が不要となり、短時間でNO濃度、NO
2濃度及びNH
3濃度を取得することができる。
【0169】
なお、本発明に係るガスセンサ及び被測定ガス中の複数目的成分の濃度測定方法は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨、すなわち、下記(a)〜(c)を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
(a) 目的成分の種類、成分数に応じて酸素濃度調整室の酸素濃度や温度の設定条件を、基準となる条件から他の条件に置き換える。
(b) (a)の条件の置き換えによって、酸素濃度調整室内で起こる目的成分(例えばNO、NO
2、NH
3)の化学平衡を変化させて、意図的に測定室で得られるセンサ出力を変動させる。
(c) 基準となる条件でのセンサ出力、及び条件の置き換えによるセンサ出力の変動分から各々の成分濃度を求める。
【0170】
例えば副調整室18bを省略して、主調整室18aのみで構成された酸素濃度調整室18の奥側に測定電極62と第4拡散律速部64を有する測定室20を設けるようにしてもよい。
【0171】
また、
図23に示すように、第1条件に設定している期間Taを長く保ち、第2条件に設定している期間Tbと第3条件に設定している期間Tcを短くしてもよい。この場合、基準となる第1条件下でのセンサ出力を精度よく確保することができ、NO濃度、NO
2濃度及びNH
3濃度を正確に測定することができる。また、第2条件に設定している状態から第3条件に設定する過程で、一旦、第1条件に設定してもよい。第3条件下でのセンサ出力の測定精度を向上させることができる。もちろん、第1条件に設定している期間Ta、第2条件に設定している期間Tb及び第3条件に設定している期間Tcをそれぞれ均等に設定してもよい。