(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
(リチウムイオン電池100)
図1は、リチウムイオン電池100の構成を模式的に示す断面図である。板片状に構成されたチップ型のリチウムイオン電池100は、充放電によって繰り返し使用可能な二次電池(充電式電池)である。
【0011】
リチウムイオン電池100は、正極側集電層101、負極側集電層102、外装材103,104、集電接続層105、正極106、固体電解質層107及び負極層108を含む。リチウムイオン電池100は、積層方向Xにおいて、正極側集電層101、集電接続層105、正極106、固体電解質層107、負極層108及び負極側集電層102が順次積層されることによって構成される。
【0012】
リチウムイオン電池100の板幅方向の端部は外装材103,104によって封止されている。正極側集電層101、集電接続層105及び正極106によって正極部110が構成される。負極側集電層102及び負極層108によって負極部120が構成される。
【0013】
1.正極側集電層101
正極側集電層101は、正極106の外側に配置される。正極側集電層101は、集電接続層105を介して正極106と機械的かつ電気的に接続される。正極側集電層101は、正極集電体として機能する。
【0014】
正極側集電層101は、金属によって構成することができる。正極側集電層101を構成する金属としては、ステンレス、アルミニウム、銅、白金、ニッケルなどが挙げられ、特にアルミニウム、ニッケル及びステンレスが好適である。正極側集電層101は、板状又は箔状に形成することができ、特に箔状が好ましい。従って、正極側集電層101としてアルミニウム箔、ニッケル箔、又は、ステンレス箔を用いることが特に好ましい。正極側集電層101が箔状に形成される場合、正極側集電層101の厚さは1〜30μmとすることができ、5μm以上25μm以下が好ましく、10μm以上20μm以下がより好ましい。
【0015】
2.負極側集電層102
負極側集電層102は、負極層108の外側に配置される。負極側集電層102は、負極層108と機械的かつ電気的に接続される。負極側集電層102は、負極集電体として機能する。負極側集電層102は、金属によって構成することができる。負極側集電層102は、正極側集電層101と同様の材料によって構成することができる。従って、負極側集電層102としてアルミニウム箔、ニッケル箔、又は、ステンレス箔を用いることが好ましい。負極側集電層102が箔状に形成される場合、負極側集電層102の厚さは1〜30μmとすることができ、5μm以上25μm以下が好ましく、10μm以上20μm以下がより好ましい。
【0016】
3.外装材103,104
外装材103,104は、正極側集電層101と負極側集電層102の隙間を封止する。外装材103,104は、正極106、固体電解質層107及び負極層108によって構成される単電池の側方を取り囲む。外装材103,104は、リチウムイオン電池100内への水分の侵入を抑制する。
【0017】
外装材103,104の抵抗率は、正極側集電層101と負極側集電層102の間の電気的絶縁性を確保するために1×10
6Ωcm以上が好ましく、1×10
7Ωcm以上がより好ましく、1×10
8Ωcm以上がさらに好ましい。このような外装材103,104は、電気絶縁性の封着材によって構成することができる。封着材としては、樹脂を含む樹脂系封着材を用いることができる。樹脂系封着材を用いることによって、外装材103,104の形成を比較的低温(例えば400℃以下)で行うことができるため、加熱によるリチウムイオン電池100の破壊や変質を抑制できる。
【0018】
外装材103,104は、樹脂フィルムの積層や液状樹脂のディスペンスなどによって形成することができる。
【0019】
4.集電接続層105
集電接続層105は、正極106と正極側集電層101の間に配置される。集電接続層105は、正極106を正極側集電層101に機械的に接合するとともに、正極106を正極側集電層101に電気的に接合する。
【0020】
集電接続層105は、導電性材料と接着剤を含む。導電性材料としては、導電性カーボンなどを用いることができる。接着剤としては、エポキシ系などの樹脂材料を用いることができる。集電接続層105の厚さは特に制限されないが、5μm以上100μm以下とすることができ、10μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0021】
ただし、集電接続層105は、接着剤を含んでいなくてもよい。この場合、正極106の裏面に集電接続層105を直接成膜(例えば金やアルミニウム)することで、集電接続層105と正極106との電気的な接続を得ることができる。
【0022】
5.正極106
正極106は、板状に成形される。正極106は、固体電解質側表面106aと集電接続層側表面106bとを有する。正極106は、固体電解質側表面106aにおいて固体電解質層107に接続される。正極106は、集電接続層側表面106bにおいて集電接続層105に接続される。固体電解質側表面106aと集電接続層側表面106bそれぞれは、正極106の「板面」である。固体電解質側表面106aは、正極106の断面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)によって観察した場合に、正極106と固体電解質層107との界面を最小二乗法によって直線近似した線によって規定される。集電接続層側表面106bは、正極106の断面をSEMによって観察した場合に、正極106と集電接続層105との界面を最小二乗法によって直線近似した線によって規定される。
【0023】
正極106の固体電解質側表面106aには、研磨等の処理が施されていてもよい。これによって、固体電解質側表面106aの表面状態を変更することによって、固体電解質層107の膜厚を薄くした場合であっても、固体電解質層107の膜質が低下することを抑制できる。なお、固体電解質側表面106aの表面状態を変更する手法は、研磨処理に限られるものではなく、微粒の活物質を塗布して焼成する手法、或いは、スパッタリングなどの気相法によって固体電解質層107を形成する手法によっても、固体電解質側表面106aの表面状態を変更することができる。
【0024】
正極106の厚みは特に制限されないが、20μm以上が好ましく、25μm以上がより好ましく、30μm以上がさらに好ましい。特に、正極106の厚みを50μm以上にすることによって、単位面積当りの活物質容量を十分に確保してリチウムイオン電池100のエネルギー密度を高めることができる。また、正極106の厚みの上限値は特に制限されないが、充放電の繰り返しに伴う電池特性の劣化(特に、抵抗値の上昇)の抑制を考慮すると、200μm未満が好ましく、150μm以下がより好ましく、120μm以下がさらに好ましく、100μm以下が特に好ましい。
【0025】
正極106の厚さは、正極106の断面をSEMによって観察した場合に、固体電解質側表面106aと集電接続層側表面106bとの厚み方向における平均距離(任意の3箇所における距離の平均値)を測定することによって得られる。厚み方向とは、固体電解質側表面106a及び集電接続層側表面106bに対して垂直な方向であり、積層方向Xと略同じである。
【0026】
正極106の板面に平行な方向(以下、「板面方向」という。)における膨張収縮率は、0.7%以下に抑えられていることが好ましい。このように、正極106の膨張収縮率が十分に低ければ、リチウムイオン電池100のレート特性の向上を目的として正極106の厚みを30μm以下にしたとしても、固体電解質層107の欠陥又は/及び正極106の剥離を抑制することができる。従って、正極106の厚みは、リチウムイオン電池100の放電容量と正極106の膨張収縮率を考慮して適宜設定することができる。
【0027】
正極106の微構造については後述する。
【0028】
6.固体電解質層107
固体電解質層107は、酸化物系セラミックス材料の1つであるリン酸リチウムオキシナイトライド(LiPON)系セラミックス材料によって構成されることが好ましい。固体電解質層107の厚さは、リチウムイオン伝導性の向上という観点からは薄いことが好ましいが、充放電時の信頼性(欠陥抑制、セパレータ機能、クラックなど)を考慮して適宜設定することができる。固体電解質層107の厚さは、例えば、0.1〜10μmが好ましく、より好ましくは0.2〜8.0μm、さらに好ましくは0.3〜7.0μm、特に好ましくは0.5〜6.0μmである。
【0029】
正極106の固体電解質側表面106aにセラミックス材料からなる固体電解質層107を被着させる成膜法として、スパッタリング法を用いるのが好ましい。この際、スパッタリング法での成膜条件(例えば、成膜時間)を制御することによって、固体電解質層107の厚さを調整することができる。正極106は、表面にLiPONからなる固体電解質層をスパッタリング法により形成して電池化した場合であっても電池性能の不具合を生じにくい。
【0030】
LiPONは、Li
2.9PO
3.3N
0.46の組成によって代表されるような化合物群であり、例えばLi
aPO
bN
c(式中、aは2〜4、bは3〜5、cは0.1〜0.9である)で表される化合物群である。従って、スパッタリングによるLiPON系固体電解質層の形成は、Li源、P源及びO源としてリン酸リチウム焼結体ターゲットを用いて、N源としてのガス種としてN
2を導入することにより公知の条件に従って行えばよい。スパッタリング法は特に限定されないが、RFマグネトロン方式が好ましい。また、スパッタリング法に代えて、MOCVD法、ゾルゲル法、エアロゾルデポジション法、スクリーン印刷法、などの成膜法を用いることもできる。
【0031】
固体電解質層107は、LiPON系セラミックス材料以外の酸化物系セラミックス材料によって構成されてもよい。LiPON系セラミックス材料以外の酸化物系セラミックス材料としては、ガーネット系セラミックス材料、窒化物系セラミックス材料、ペロブスカイト系セラミックス材料、及びリン酸系セラミックス材料、ゼオライト系材料からなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。ガーネット系セラミックス材料の例としては、Li−La−Zr−O系材料(具体的には、Li
7La
3Zr
2O
12など)、Li−La−Ta−O系材料も用いることができる。ペロブスカイト系セラミックス材料の例としては、Li−La−Ti−O系材料(具体的には、LiLa
1−xTi
xO
3(0.04≦x≦0.14)など)が挙げられる。リン酸系セラミックス材料の例としては、Li−Al−Ti−P−O,Li−Al−Ge−P−O、及びLi−Al−Ti−Si−P−O(具体的には、Li
1+x+yAl
xTi
2−xSi
yP
3―yO
12(0≦x≦0.4、0<y≦0.6)など)が挙げられる。
【0032】
固体電解質層107は、硫化物系材料によって構成されていてもよい。硫化物系材料としては、Li
2S−P
2S
5系、LiI−Li
2S−P
2S
5系、LiI−Li
2S−B
2S
32系、若しくはLiI−Li
2S−SiS
2系の固体電解質、チオリシコン、及びLi10GeP2S12等の中から選択される材料を用いることができる。硫化物系材料は比較的柔らかいので、正極106の表面に硫化物系材料粉末をプレスして押し付けることで固体電解質層を形成し、電池化することができる。より具体的には、バインダーなどを用いてシート状にした硫化物系材料粉体を正極106に積層してプレスすることによって、或いは、硫化物系材料粉末を分散させたスラリーを正極106に塗布して乾燥させた後にプレスすることによって固体電解質層を形成できる。
【0033】
7.負極層108
負極層108は、固体電解質層107上に配置される。負極層108は、リチウム金属を主成分として含有する。負極層108は、固体電解質層107上に形成されるリチウム含有金属膜であってもよい。リチウム含有金属膜は、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法などによって形成することができる。
【0034】
負極層108の厚さは特に限定されないが、200μm以下とすることができる。リチウムイオン電池100におけるリチウム総量を多く確保することとエネルギー密度を高くすることとを考慮すると、負極層108の厚さは10μm以上が好ましく、10μm以上50μm以下がより好ましく、10μm以上40μm以下がさらに好ましく、10μm以上20μm以下が特に好ましい。
【0035】
(正極106の微構造)
図2は、正極106の板面に垂直な断面の一例を示すSEM像である。
図3は、正極106の板面に垂直な断面における電子線後方散乱回折(EBSD:Electron Backscatter Diffraction)像である。
図4は、
図3のEBSD像における一次粒子20の配向角度の分布を面積基準で示すヒストグラムである。
【0036】
図3に示されるEBSD像では、結晶方位の不連続性を観測することができる。
図3では、各一次粒子20の配向角度が色分けされており、色が濃いほど配向角度が小さいことを示している。配向角度とは、各一次粒子20の(003)面が板面方向に対して成す傾斜角度である。なお、
図2及び
図3において、正極106の内部で黒表示されている箇所は気孔である。
【0037】
1.正極106の構造
正極106は、複数の一次粒子20が結合することによって構成されている。各一次粒子20は、主に板状に形成されているが、直方体状、立方体状及び球状などに形成されたものが含まれていてもよい。各一次粒子20の断面形状は特に制限されるものではなく、矩形、矩形以外の多角形、円形、楕円形、或いはこれら以外の複雑形状であってもよい。
【0038】
2.一次粒子20の構成材料
各一次粒子20は、リチウム複合酸化物によって構成される。リチウム複合酸化物とは、Li
xMO
2(0.05<x<1.10であり、Mは少なくとも1種類の遷移金属であり、Mは典型的にCo,Ni,Mnのうちの1種以上を含む。)で表される酸化物である。リチウム複合酸化物は、層状岩塩構造を有する。層状岩塩構造とは、リチウム層とリチウム以外の遷移金属層とが酸素の層を挟んで交互に積層された結晶構造、すなわち、酸化物イオンを介して遷移金属イオン層とリチウム単独層とが交互に積層した結晶構造(典型的には、α−NaFeO
2型構造、すなわち立方晶岩塩型構造の[111]軸方向に遷移金属とリチウムとが規則配列した構造)をいう。
【0039】
リチウム複合酸化物としては、例えば、Li
xCoO
2(コバルト酸リチウム)、Li
xNiO
2(ニッケル酸リチウム)、Li
xMnO
2(マンガン酸リチウム)、Li
xNiMnO
2(ニッケル・マンガン酸リチウム)、Li
xNiCoO
2(ニッケル・コバルト酸リチウム)、Li
xCoNiMnO
2(コバルト・ニッケル・マンガン酸リチウム)、Li
xCoMnO
2(コバルト・マンガン酸リチウム)などが挙げられ、Li
xCoO
2が特に好ましい。
【0040】
なお、リチウム複合酸化物には、Mg,Al,Si,Ca,Ti,V,Cr,Fe,Cu,Zn,Ga,Ge,Sr,Y,Zr,Nb,Mo,Ag,Sn,Sb,Te,Ba,Bi、Wなどのうち一種以上の元素が含まれていてもよい。
【0041】
3.一次粒子20の平均配向角度
図3及び
図4に示すように、各一次粒子20の配向角度の平均値(以下、「平均配向角度」という。)は、0°超30°以下である。
【0042】
これにより、各一次粒子20が厚み方向に対して傾斜した向きに寝た状態になるため、各一次粒子どうしの密着性を向上させることができる。その結果、ある一次粒子20と当該一次粒子20の長手方向両側に隣接する他の一次粒子20との間におけるリチウムイオン伝導性を向上させることができるため、レート特性を向上させることができる。
【0043】
また、本実施形態のように、正極106を固体電解質層107に接続して使用した場合には、サイクル特性を向上させることができる。これは、リチウムイオンの出入りに応じて(003)面と垂直な方向に各一次粒子20が伸縮するところ、板面方向に対する(003)面の角度を低くすることによって、板面方向における正極106の膨張収縮量が低減されて、正極106と固体電解質層107との間に応力が生じることを抑制できるからである。
【0044】
さらに、本実施形態のように、正極106を固体電解質層107に接続して使用した場合には、レート特性をより向上させることができる。これは、上述のとおり、リチウムイオンの出入りに際して、正極106では、板面方向よりも厚み方向における膨張収縮が優勢となるため、正極106の膨張収縮がスムーズになるところ、それに伴ってリチウムイオンの出入りもスムーズになるからである。
【0045】
一次粒子20の平均配向角度は、以下の手法によって得られる。まず、
図3に示すような、95μm×125μmの矩形領域を1000倍の倍率で観察したEBSD像において、正極106を厚み方向に四等分する3本の横線と、正極106を板面方向に四等分する3本の縦線とを引く。次に、3本の横線と3本の縦線のうち少なくとも1本の線と交差する一次粒子20すべての配向角度を算術平均することによって、一次粒子20の平均配向角度を得る。
【0046】
一次粒子20の平均配向角度は、レート特性をより向上させることを考慮すると、30°以下が好ましく、25°以下がより好ましい。一次粒子20の平均配向角度は、同様にレート特性を考慮すると、2°以上が好ましく、5°以上がより好ましい。
【0047】
4.一次粒子20のアスペクト比
各一次粒子20は、板状に形成されているため、
図2及び
図3に示すように、各一次粒子20の断面は、それぞれ所定方向に延びている。すなわち、各一次粒子20の断面は、略矩形状になっている。
【0048】
平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子20うちアスペクト比が4以上である一次粒子20の合計面積は、平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子20の総面積に対して70%以上であることが好ましい。換言すれば、正極106の断面をEBSDにより解析した場合に、解析された断面に含まれる一次粒子20のうち正極106の板面に対する配向角度が0°超30°以下である一次粒子20の合計面積が、前記断面に含まれる解析された断面に含まれる一次粒子20の総面積に対して70%以上であることが好ましい。
【0049】
これによって、一次粒子20どうしの相互密着性をより向上できるため、レート特性をより向上させることができる。
【0050】
一次粒子20のアスペクト比は、一次粒子20の最大フェレー径を最小フェレー径で除した値である。最大フェレー径は、断面視した際のEBSD像上において、一次粒子20を平行な2本の直線で挟んだ場合における当該直線間の最大距離である。最小フェレー径は、EBSD像上において、一次粒子20を平行な2本の直線で挟んだ場合における当該直線間の最小距離である。
【0051】
平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子20うちアスペクト比が4以上である一次粒子20の面積割合は、70%超がさらに好ましく、80%以上が特に好ましい。
【0052】
5.一次粒子20の平均粒径
平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子20の平均粒径は、5μm以上であることが好ましい。
【0053】
これによって、リチウムイオンが伝導する方向における一次粒子20どうしの粒界数が少なくなって全体としてのリチウムイオン伝導性が向上するため、レート特性をより向上させることができる。
【0054】
一次粒子20の平均粒径は、各一次粒子20の円相当径を算術平均した値である。円相当径とは、EBSD像上において、各一次粒子20と同じ面積を有する円の直径のことである。
【0055】
平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子20の平均粒径は、レート特性をより向上させることを考慮すると、7μm以上がさらに好ましく、12μm以上が特に好ましい。
【0056】
ここで、レート性能には、隣接する一次粒子20どうしの配向角度の整合性も寄与する。つまり、隣接する一次粒子20どうしの配向角度差が小さく、粒界の整合性が高いほどレート性能は向上する。特に、リチウムイオン及び電子が伝導する方向における配向角度差を小さくすることによって、レート性能をより向上させることができる。リチウムイオン及び電子が伝導する方向とは、一次粒子20の長手方向である。長手方向に隣接する一次粒子20どうしの配向角度差は、0°以上40°以下が好ましく、0°以上30°以下がより好ましく、0°以上20°が特に好ましい。
【0057】
また、正極106の断面をEBSDにより解析した場合に、解析された断面に含まれる一次粒子20のうち配向角度差が40°以下である一次粒子20の割合は、50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上が特に好ましい。
【0058】
6.正極106の緻密度
正極106の緻密度は、70%以上であることが好ましい。これによって、一次粒子20どうしの相互密着性をより向上できるため、レート特性をより向上させることができる。
【0059】
正極106の緻密度は、正極板の断面をCP研磨にて研磨した後に1000倍率でSEM観察して、得られたSEM画像を2値化することで算出される。
【0060】
正極106の緻密度は、レート特性をより向上させることを考慮すると、80%以上がさらに好ましく、90%より大きいことが特に好ましい。
【0061】
また、正極106の内部に形成される各気孔の平均円相当径は特に制限されないが、8μm以下であることが好ましい。各気孔の平均円相当径を小さくするほど、一次粒子20どうしの相互密着性をさらに向上できるため、レート特性をさらに向上させることができる。
【0062】
気孔の平均円相当径は、EBSD像上の10個の気孔の円相当径を算術平均した値である。円相当径とは、EBSD像上において、各気孔と同じ面積を有する円の直径のことである。
【0063】
正極106の内部に形成される各気孔は、正極106の外部につながる開気孔であってもよいが、正極106を貫通していないことが好ましい。すなわち、各気孔は、正極106の固体電解質側表面106aから集電接続層側表面106bまで連なっていないことが好ましい。なお、各気孔は、閉気孔であってもよい。
【0064】
(正極106の製造方法)
1.LiCoO
2テンプレート粒子の作製
Co
3O
4原料粉末とLi
2CO
3原料粉末とを混合して焼成(500〜900℃、1〜20時間)することによって、LiCoO
2粉末を合成する。
【0065】
得られたLiCoO
2粉末をポットミルにて体積基準D50粒径0.1μm〜10μmに粉砕することによって、板面と平行にリチウムイオンを伝導可能な板状のLiCoO
2粒子が得られる。得られたLiCoO
2粒子は、劈開面に沿って劈開しやすい状態となっている。LiCoO
2粒子を解砕によって劈開させることで、LiCoO
2テンプレート粒子を作製する。
【0066】
このようなLiCoO
2粒子は、LiCoO
2粉末スラリーを用いたグリーンシートを粒成長させた後に解砕する手法や、フラックス法や水熱合成、融液を用いた単結晶育成、ゾルゲル法など板状結晶を合成する手法によっても得ることができる。
【0067】
本工程では、下記の通り、正極106を構成する一次粒子20のプロファイルを制御することができる。
【0068】
まず、LiCoO
2テンプレート粒子のアスペクト比を調整することによって、アスペクト比が4以上である一次粒子20の合計面積割合を制御することができる。具体的には、LiCoO
2テンプレート粒子のアスペクト比を大きくするほど、アスペクト比が4以上である一次粒子20の合計面積割合を高めることができる。
【0069】
LiCoO
2テンプレート粒子のアスペクト比は、Co
3O
4原料粉末及びLi
2CO
3原料粉末の粒径、及び粉砕時の粉砕条件(粉砕時間、粉砕エネルギー、粉砕手法など)、及び粉砕後の分級のうち少なくとも1つによって調整することができる。
【0070】
また、LiCoO
2テンプレート粒子の粒径を調整することによって、一次粒子20の平均粒径を制御することができる。
【0071】
また、LiCoO
2テンプレート粒子の粒径を調整することによって、正極106の緻密度を制御することができる。具体的には、LiCoO
2テンプレート粒子の粒径を小さくするほど、正極106の緻密度を高めることができる。
【0072】
2.マトリックス粒子の作製
Co
3O
4原料粉末をマトリックス粒子として用いる。Co
3O
4原料粉末の体積基準D50粒径は特に制限されず、例えば0.1〜1.0μmとすることができるが、LiCoO
2テンプレート粒子の体積基準D50粒径より小さいことが好ましい。このマトリックス粒子は、Co(OH)
2原料を500℃〜800℃で1〜10時間熱処理を行なうことによっても得ることができる。また、マトリックス粒子には、Co
3O
4のほか、Co(OH)
2粒子を用いてもよいし、LiCoO
2粒子を用いてもよい。
【0073】
本工程では、下記の通り、正極106を構成する一次粒子20のプロファイルを制御することができる。
【0074】
まず、マトリックス/テンプレート粒径比を調整することによって、アスペクト比が4以上である一次粒子20の合計面積割合を制御することができる。具体的には、マトリックス/テンプレート粒径比を小さくするほど、すなわち、マトリックス粒子の粒径が小さいほど、アスペクト比が4以上である一次粒子20の合計面積割合を高めることができる。
【0075】
また、マトリックス/テンプレート粒径比を調整することによって、正極106の緻密度を制御することができる。具体的には、マトリックス/テンプレート粒径比を小さくするほど、すなわち、マトリックス粒子の粒径が小さいほど、正極106の緻密度を高めることができる。
【0076】
3.グリーンシートの作製
LiCoO
2テンプレート粒子とマトリックス粒子を100:3〜3:97に混合した粉末と分散媒とバインダーと可塑剤と分散剤とを混合しながら、減圧下で撹拌して脱泡するとともに所望の粘度に調整することによってスラリーを調製する。
【0077】
次に、LiCoO
2テンプレート粒子にせん断力を印加可能な成形手法を用いて、調製したスラリーを成形することによって成形体を形成する。これによって、各一次粒子20の平均配向角度を0°超30°以下とすることができる。
【0078】
LiCoO
2テンプレート粒子にせん断力を印加可能な成形手法としては、ドクターブレード法が好適である。ドクターブレード法を用いる場合には、調製したスラリーをPETフィルムの上に成形することによって、成形体としてのグリーンシートが形成される。
【0079】
本工程では、下記の通り、正極106を構成する一次粒子20のプロファイルを制御することができる。
【0080】
まず、成形体の密度を調整することによって、一次粒子20の平均粒径を制御することができる。具体的には、成形体の密度を大きくするほど、一次粒子20の平均粒径を大きくすることができる。
【0081】
また、LiCoO
2テンプレート粒子とマトリックス粒子との混合比を調整することによっても、正極106の緻密度を制御することができる。具体的には、LiCoO
2テンプレート粒子を多くするほど、正極106の緻密度を下げることができる。
【0082】
4.配向焼結板の作製
スラリーの成形体をジルコニア製セッターに載置して加熱処理(500℃〜900℃、1〜10時間)することによって、中間体としての焼結板を得る。
【0083】
次に、合成したリチウムシートをLi/Co比が1.0になるように、焼結板をリチウムシートで上下挟み込み、ジルコニアセッター上に載せる。ただし、Li/Co比は、0.1〜1.5程度過剰であってもよい。Li/Co比を1.0よりも過剰にすることによって、粒成長を促進させることができる。なお、粒成長の挙動は、セッターの材質および緻密度を変えることによっても制御することができる。例えば、リチウムと反応しにくい、緻密なマグネシア製のセッターを用いることによって、粒成長を促進させることができる。
【0084】
次に、セッターをアルミナ鞘に入れ、大気中にて焼成(700〜850℃、1〜20時間)した後、焼結板をリチウムシートで上下挟み、さらに焼成(750〜900℃、1〜40時間)することによって、LiCoO
2焼結板を得る。この焼成工程は、2度に分けて行ってもよいし、1度に行なってもよい。2度に分けて焼成する場合には、1度目の焼成温度が2度目の焼成温度より低いことが好ましい
本工程では、下記の通り、正極106を構成する一次粒子20のプロファイルを制御することができる。
【0085】
まず、焼成時の昇温速度及び中間体の加熱処理温度の少なくとも一方を調整することによって、一次粒子20の平均粒径を制御することができる。具体的には、昇温速度を速くするほど、また、中間体の加熱処理温度を低くするほど、一次粒子20の平均粒径を大きくすることができる。
【0086】
また、焼成時のLi(例えば、Li
2CO
3)量及び焼結助剤(例えば、ホウ酸や酸化ビスマス)量の少なくとも一方を調整することによっても、一次粒子20の平均粒径を制御することができる。具体的には、Li量多くするほど、また、焼結助剤量を多くするほど、一次粒子20の平均粒径を大きくすることができる。
【0087】
また、焼成時のプロファイルを調整することによって、正極106の緻密度を制御することができる。具体的には、焼成温度を遅くするほど、また、焼成時間を長くするほど、正極106の緻密度を高めることができる。
【0088】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で種々の変形又は変更が可能である。
【0089】
上記実施形態では、本発明に係る正極をリチウムイオン電池100の正極106に適用した例について説明したが、正極はその他の電池構成にも適用することができる。
【0090】
例えば、本発明に係る正極は、電解質としてイオン液体電解液、ポリマー電解質、ゲル電解質、液系電解質等を用いたリチウムイオン電池に用いることができる。イオン液体電解液は、イオン液体カチオンとイオン液体アニオンと電解質とを含む。イオン液体カチオンには、1‐エチル‐3‐メチルイミダゾリウムカチオン(EMI)、1‐メチル‐1‐プロピルピロリジニウムカチオン(P13)、1‐メチル‐1‐プロピルピペリジニウムカチオン(PP13)、これらの誘導体、及びこれらの任意の組み合わせを用いることができる。イオン液体アニオンには、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオン(TFSI)、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン(FSI)、、及びこれらの組み合わせを用いることができる。電解質には、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドリチウム塩(LiTFSI)、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム塩(LiFSI)、及びこれらの組み合わせを用いることができる。イオン液体電解液を用いる場合、イオン液体電解液のみを用いてもよいし、セパレータ(例えば、セルロース系)の細孔部にイオン液体を染みこましたものを用いてもよい。
【実施例】
【0091】
以下において本発明に係るリチウムイオン電池の実施例について説明するが、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0092】
(実施例1〜8の作製)
1.LCOテンプレート粒子の作製
Co
3O
4原料粉末(体積基準D50粒径0.8μm、正同化学工業株式会社製)とLi
2CO
3原料粉末(体積基準D50粒径2.5μm、本荘ケミカル製)を混合し、800℃で5時間焼成することでLiCoO
2原料粉末を合成した。この際、焼成温度や焼成時間を調整することによって、LiCoO
2原料粉末の体積基準D50粒径を表1に示すように調整した。
【0093】
得られたLiCoO
2粉末を粉砕することによって板状LiCoO
2粒子(LCOテンプレート粒子)を得た。実施例1〜2,4〜8ではポットミルを用い、実施例3では湿式ジェットミルを用いた。この際、粉砕時間を調整することによって、LCOテンプレート粒子の体積基準D50粒径を表1に示すように調整した。また、LiCoO
2テンプレート粒子のアスペクト比は、表1に示すとおりであった。LiCoO
2テンプレート粒子のアスペクト比は、得られたテンプレート粒子をSEM観察することでの手法で測定した。
【0094】
2.CoOマトリックス粒子の作製
Co
3O
4原料粉末(正同化学工業株式会社製)をマトリックス粒子とした。マトリックス粒子の体積基準D50粒径は、表1に示すとおりとした。ただし、実施例4ではマトリックス粒子を用いなかった。
【0095】
3.グリーンシートの作製
LCOテンプレート粒子とCoOマトリックス粒子を混合した。LCOテンプレート粒子とCoOマトリックス粒子の重量比は、表1に示すとおりとした。ただし、実施例4ではマトリックス粒子を用いなかったため、重量比は、100:0である。
【0096】
この混合粉末100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)10重量部と、可塑剤(DOP:Di(2−ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(製品名レオドールSP−O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。この混合物を、減圧下で撹拌することで脱泡するとともに粘度を400010000cPに調整することによってスラリーを調製した。なお、粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。
【0097】
調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが40μmとなるように、成形速度100m/hでシート状に成形してグリーンシートを得た。
【0098】
4.配向焼結板の作製
PETフィルムから剥がしたグリーンシートをジルコニア製セッターに載置して一次焼成することによってCo
3O
4焼結板を得た。表1に示すとおり、実施例1〜6,8では焼成条件を900℃、5時間とし、実施例7では焼成条件を800℃、5時間とした。
【0099】
そして、合成したリチウムシートをLi/Co比が表1に示す比になるように、Co
3O
4焼結板をリチウムシートで上下挟み込んだ状態で、ジルコニアセッター上に載せて二次焼成することによってLiCoO
2焼結板を得た。具体的には、ジルコニアセッターを90mm角のアルミナ鞘に入れ、大気中にて800℃で5時間保持した後、さらにリチウムシートで上下挟んで900℃で20時間焼成した。
【0100】
5.固体電解質層の作製
直径4インチ(約10cm)のリン酸リチウム焼結体ターゲットを準備し、スパッタリング装置(キャノンアネルバ社製 SPF−430H)を用いてRFマグネトロン方式にてガス種N
2を0.2Pa、出力0.2kWにて膜厚2μmとなるようにスパッタリングを行なった。こうして、厚さ2μmのLiPON系固体電解質スパッタ膜をLiCoO
2焼結板上に形成した。
【0101】
6.リチウムイオン電池の作製
イオンスパッタリング装置(日本電子社製 JFC−1500)を用いたスパッタリングにより、固体電解質層上に厚さ500ÅのAu膜を形成した。
【0102】
リチウム金属を載せたタングステンボートを準備した。真空蒸着装置(サンユー電子製、カーボンコーターSVC−700)を用いて、抵抗加熱によりLiを蒸発させて上記中間層の表面に薄膜を設ける蒸着を行った。このとき、マスクを用いて負極層のサイズを9.5mm角として、負極層が10mm角の正極領域内に収まるようにした。こうして、固体電解質層上に膜厚10μmのLi蒸着膜を負極層として形成した単電池を作製した。
【0103】
厚さ20μmのステンレス箔を13mm角に切り出して正極集電板とした。また、外縁形状が13mm角で、その内側に11mm角の孔が打ち抜かれた、1mm幅の枠状の変性ポリプロピレン樹脂フィルム(厚さ100μm)を用意した。この枠状の樹脂フィルムを正極集電板上の外周部に積層し、加熱圧着して端部封止部を形成した。正極集電板上の端部封止部で囲まれた領域内に上記単電池を載置した。載置した単電池の負極側にも上記同様に厚さ20μmのステンレス箔を載置し、端部封止部に対して荷重を加えながら、減圧下、200℃で加熱した。こうして外周全体にわたって端部封止部と上下2枚のステンレス箔とを貼り合せて単電池を封止した。こうして、封止形態の全固体リチウム電池を得た。
【0104】
(比較例1の作製)
比較例1では、LiCoO
2粉末を粉砕せずに、そのままLCOテンプレート粒子として用いた以外は、実施例1〜8と同様の工程にて全固体リチウム電池を得た。
【0105】
(比較例2の作製)
比較例2では、CoOマトリックス粒子の体積基準D50粒径を実施例1〜8よりも大きくした以外は、実施例1〜8と同様の工程にて全固体リチウム電池を得た。比較例2のマトリックス粒子の体積基準D50粒径は3.0μmであり、CoOマトリックス粒子に対するLCOテンプレート粒子の粒径比は0.2であった。
【0106】
(比較例3の作製)
比較例3では、LCOテンプレート粒子を用いず、CoOマトリックス粒子のみを用いたスラリーでグリーンシートを作製した以外は、実施例1〜8と同様の工程にて全固体リチウム電池を得た。
【0107】
(比較例4の作製)
比較例4では、一次焼成の焼成温度を1200℃とした以外は、実施例1〜8と同様の工程にて全固体リチウム電池を得た。
【0108】
(正極を構成する一次粒子の観察)
後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡(日本電子社製、型式JSM−7800M)を用いて、正極の板面に垂直な断面におけるEBSD像を取得した。そして、EBSD像上において任意に選択した30個の一次粒子の配向角度を算術平均することによって、一次粒子の平均配向角度を算出した。算出結果は表2に示すとおりであった。
【0109】
また、EBSD像において、平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子の総面積に対する、配向角度が0°超30°以下である一次粒子の合計面積の割合(%)を算出した。算出結果は表2に示すとおりであった。
【0110】
また、EBSD像において、平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子の平均粒径を算出した。具体的には、30個の一次粒子それぞれの円相当径の算術平均値を一次粒子の平均粒径とした。算出結果は表2に示すとおりであった。
【0111】
また、EBSD像において、平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子の平均アスペクト比を算出した。具体的には、30個の一次粒子それぞれの最大フェレー径を最小フェレー径で除した値の算術平均値を一次粒子の平均アスペクト比とした。算出結果は表2に示すとおりであった。
【0112】
また、EBSD像において、平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子のうちアスペクト比が4以上である一次粒子の面積割合を算出した。算出結果は表2に示すとおりであった。
【0113】
(正極の緻密度)
CP研磨した正極の断面における1000倍率のSEM画像を2値化した。そして、2値化画像上において、固相と気相の合計面積に対する固相の面積割合を緻密度として算出した。算出結果は表2に示すとおりであった。
【0114】
(レート性能)
リチウムイオン電池を0.1[mA]定電流で4.2[V]まで充電した後、定電圧で電流が0.05[mA]になるまで充電した。そして、0.2[mA]定電流で3.0[V]まで放電し、放電容量W0を測定した。また0.1[mA]定電流で4.2[V]まで充電した後、定電圧で電流が0.05[mA]になるまで充電し、そして、2.0[mA]定電流で3.0[V]まで放電し、放電容量W1を測定した。W1をW0で除することでレート性能を評価した。
【0115】
(サイクル容量維持率)
リチウムイオン電池を0.1[mA]定電流で4.2[V]まで充電した後、定電圧で電流が0.05[mA]になるまで充電した。そして、0.2[mA]定電流で3.0[V]まで放電し、放電容量W0を測定した。この測定を30回繰り返し、30回目の放電容量W30を測定した。W30をW0で除することでサイクル容量維持率を評価した。
【0116】
【表1】
【0117】
【表2】
【0118】
表2に示すように、板状のLCOテンプレート粒子にせん断力を印加する成形手法で正極の成形体を形成した実施例1〜8では、一次粒子の(003)面の傾斜角度を25°以下にすることができた。また、実施例1〜8では、平均配向角度の算出に用いた30個の一次粒子うちアスペクト比が4以上である一次粒子の面積割合を70%以上にすることができた。そのため、隣接する一次粒子どうしの配向角度の整合性(すなわち、粒界の整合性)が高まり、サイクル容量維持率だけでなくレート性能をも向上させることができた。
【0119】
また、一次粒子の平均粒径を12μm以上とした実施例2,3,6〜8では、一次粒子の平均粒径が5μmである実施例1,4,5に比べて、レート性能をより向上させることができた。
【0120】
また、実施例4,5を比較すると分かるように、正極の緻密度を90%より大きくすることによって、レート性能をより向上させられることが分かった。