(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6821051
(24)【登録日】2021年1月7日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】レーダ標的の横方向相対速度成分を算出するための方法および装置
(51)【国際特許分類】
G01S 13/60 20060101AFI20210114BHJP
G01S 13/34 20060101ALI20210114BHJP
G01S 13/28 20060101ALI20210114BHJP
G01S 13/931 20200101ALI20210114BHJP
【FI】
G01S13/60 202
G01S13/34
G01S13/28 200
G01S13/931
【請求項の数】14
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2019-548725(P2019-548725)
(86)(22)【出願日】2018年1月25日
(65)【公表番号】特表2020-509390(P2020-509390A)
(43)【公表日】2020年3月26日
(86)【国際出願番号】EP2018051796
(87)【国際公開番号】WO2018166683
(87)【国際公開日】20180920
【審査請求日】2019年9月6日
(31)【優先権主張番号】102017204495.0
(32)【優先日】2017年3月17日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100147991
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161908
【弁理士】
【氏名又は名称】藤木 依子
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】ブローシェ,トーマス
【審査官】
東 治企
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2016/0245911(US,A1)
【文献】
特表2016−524143(JP,A)
【文献】
特開2016−003873(JP,A)
【文献】
Andreas Haderer et al.,"Lateral Velocity Estimation Using an FMCW Radar",Proceedings of the 6th European Radar Conference,2009年 9月,pp.129-132,URL,https://www.semanticscholar.org/paper/Lateral-velocity-estimation-using-an-FMCW-radar-Haderer-Wagner/93c58bcf3f4c6f500aa013236f8df0e4004676ac
【文献】
Yechao BAI et al.,"Performance Analysis of Lateral Velocity Estimation Based on Fractional Fourier Transform",IEICE TRANSACTIONS on Communications,2012年,Vol.E95-B, No.6,pp.2174-2178,DOI: 10.1587/transcom.E95.B.2174
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00−7/42
G01S 13/00−13/95
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ装置(100)を用いて少なくとも1つのレーダ標的(200)の横方向速度成分を算出するための方法において、
同一に変調された送信信号を、所定数の送信素子を有する送信装置(1,10)によって、所定の測定時間(Tmeas)中に前記レーダ装置(100)の所定の検出範囲内に周期的に送信するステップと、
前記レーダ標的(200)で反射された少なくとも1つのレーダ受信信号を、所定数の受信素子を有する受信装置(2,20)によって受信するステップと、
受信されたレーダ受信信号を、該受信されたレーダ受信信号のアナログデジタル変換器および評価装置(30)に伝送するステップと、
送信素子および受信素子から成るそれぞれの組み合わせのためのデジタル測定値のそれぞれ1つの速度距離スペクトルを生成するための二次元フーリエ変換を実施するステップと、
前記速度距離スペクトルの振幅スペクトル内の所定の最高値を基に前記レーダ標的(200)の少なくとも1つの標的反射を検出するステップと、
前記レーダ装置(100)からの前記レーダ標的(200)の距離、および前記レーダ装置(100)に対して相対的な半径方向速度成分を、前記速度距離スペクトルから算出するステップと、
アンテナ(10,20)に対して相対的な前記レーダ標的(200)の少なくとも1つの角度を決定するステップと、
前記横方向速度成分が算出されるべき前記レーダ標的(200)を選択するステップと、
このような形式で選択された前記レーダ標的(200)の標的反射の逆フーリエ変換を実施するステップと、
前記変換された測定値から前記レーダ標的(200)の横方向速度成分を算出するステップと、
有する、少なくとも1つのレーダ標的の横方向速度成分を算出するための方法。
【請求項2】
前記同一に変調された送信信号が、ランプ状に周波数変調されたレーダ信号または非線形のランプ信号または周期的なパルス信号またはOFDM信号である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つのレーダ標的(200)の前記横方向速度成分を、方位角方向および/または仰角方向で算出する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
物理的な所与性のモデリングのために、以下の数理モデルを使用
する、
【数1】
この数理モデルは次のパラメータを有している
、
r… 送受信アンテナとレーダ標的との間の距離
t… 時間
Δrバー… 測定時間に亘る距離変化の平均値
v
q… 横方向速度(横方向の速度)
r
(t)… 測定時間に亘る標的距離(ランプからランプ)
φ… 方位角および/または仰角
Δφ(t)… 時間の経過に伴う方位角および/または仰角の変化
v
e… 横方向速度から得られた半径方向の速度成分
a
e… 横方向速度から得られた半径方向の加速度成分
T
meas… 測定時間
b… 補助パラメー
タ
請求項1
〜3のいずれか
一項に記載の方法。
【請求項5】
前記横方向速度成分の推定を、次の数学的関係を用いて品質関数(Q)の最大化によって算出
する、
【数2】
この数学的関係は次のパラメータを有している
、
Q… 方位角および仰角における横方向速度成分の品質関数
v
qa… 方位角における横方向速度成分
v
qe… 仰角における横方向速度成分
k… 波数
a
m… 仮想の受信チャンネル(送信チャンネルと受信チャンネルとから成る組み合わせ)の数に相当する書き込みを有するベクトル
A
c… 校正マトリックス
m… 時間t
mの指数
r
m… 時点t
mにおけるすべての受信チャンネルとの標的距離のベクトル
ω
d… 推定されたドップラー角振動数
rバー… 測定区間内の平均的な標的間隔
T
RR… ランプ信号間の時間的間隔
Δβ
m… 時点t
mにおける測定信号の位相位置の変化
X
Tm… 実際に横方向速度が推定されるべき物理的標的の、できるだけ反射(ピーク)の信号成分だけを含有する、時点t
mにおける予め処理され選択された逆フーリエ変換測定信号を有する転置されたベクト
ル
請求項4
に記載の方法。
【請求項6】
前記レーダ標的(200)を算出するために、前記横方向速度を有する検出範囲を、前記検出範囲内の前記品質関数が凸状でありしかも前記検出範囲が完全にスキャニングされないように選択する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
標的反射信号の選択および再構成を、角度スペクトルを介して実施し、標的反射位置を方位角および/または仰角を介して互いに分離する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記方法を用途に応じて、選択された前記レーダ標的(200)のために実施する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
トラッキングに基づく方法のために使用できるよう構成されていることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
落ちてくる対象物を警告し、かつ/またはこの対象物との衝突を回避し、かつ/またはその結果発生する少なくとも事故の深刻さを最小にするよう構成されていることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
レーダ装置(100)を用いて少なくとも1つのレーダ標的(200)の横方向速度成分を算出するための装置において、
送信装置(1,10)を有していて、該送信装置(1,10)が、同一に変調されたレーダ送信信号を所定の測定時間(Tmeas)中に前記レーダ装置(100)の所定の検出範囲内に周期的に送信することを実施するように構成された所定数の送信素子を備えており、
受信装置(2,20)を有していて、該受信装置(2,20)が、前記レーダ標的(200)で反射された少なくとも1つのレーダ受信信号の受信を実施するように構成された所定数の受信素子を備えており、
処理装置(30)を有していて、該処理装置(30)は、受信されたレーダ受信信号のアナログデジタル変換を実施し、デジタル測定値の速度距離スペクトルを生成するための二次元フーリエ変換を実施し、前記速度距離スペクトルの振幅スペクトル内の所定の最高値に基づいて前記レーダ標的(200)の少なくとも1つの標的反射の検出を実施し、アンテナ(10,20)からの前記レーダ標的(200)の距離および前記アンテナ(10,20)に対して相対的な半径方向速度成分を前記速度距離スペクトルから算出することを実施し、前記アンテナ(10,20)に対して相対的な前記レーダ標的(200)の少なくとも1つの角度の決定を実施するように、構成されており、
前記横方向速度成分が推定されるべき前記レーダ標的(200)を除くすべての標的反射および妨害が抑制され、
このような形式で選択された前記レーダ標的(200)の標的反射のために、ドップラー方向で逆フーリエ変換が実施され、変換された測定値から前記レーダ標的(200)の横方向速度成分を算出する、
少なくとも1つのレーダ標的(200)の横方向速度成分を算出するための装置。
【請求項12】
落ちてくる対象物を警告し、かつ/または落ちてくる対象物との衝突を回避し、かつ/またはその結果発生する、少なくとも事故の深刻さを最小にするために構成されていることを特徴とする、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法を実行するためのプログラム。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法を実行するためのプログラムを記録した記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ標的の横方向相対速度成分を算出するための方法に関する。本発明はさらに、レーダ標的の横方向相対速度成分を算出するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術では、例えば非特許文献1によるレーダシステムが公知である。
図1は、公知のレーダ装置100の原理図を示す。送信器1内で生成された変調されたレーダ信号が送信アンテナ10を介して放射される。放射された電磁信号は次いで、場合によっては検知フィールド内に存在するレーダ標的200(例えば、自動車、人間、柱、ガードレール、様々な物質間の移行部その他)で反射され、遅延時間T後に受信アンテナ20を介して再び受信され、受信器2内で評価装置30によってさらに処理される。
【0003】
新型のレーダシステムは、送信信号として、例えば非特許文献2により公知であるいわゆる高速チャープ変調若しくはラピッドチャープ変調を使用する。この場合、
図2に示されているように、例えば20ms長さの測定時間T
meas=MxT
rrの間に、全部でM個の短いFMCWランプ(英語:frequency modulated continuous wave)が例えば10μs〜100μsの時間T
modで送信される。この場合、個別のランプT
rrの時間的な間隔は、同じ大きさであり、この場合、この時間的な間隔は、ランプ時間よりもやや大きいかまたは小さくてもよい。ランプは、時間的に非等間隔で配置されていない(図示せず)。例えば速度または距離の曖昧さを解像するために使用される、互いに入り組んだランプを有するレーダシステムは、例えば特許文献1、特許文献2または特許文献3により公知である。
【0004】
結果としてまず、それぞれ個別のランプのための(変調)周波数を介して受信信号が得られる。次いで、それぞれのランプに所属する、通常はデジタル化された、測定された受信信号が逆フーリエ変換を介して時間レンジ内で変換される。しかしながら大抵はこのために、適切な窓掛けを有するデジタルフーリエ変換(DFT)若しくは高速フーリエ変換(FFT)が使用され、このようにして変換された領域が「うなり周波数範囲」と呼ばれる。さらに設けられたステップが、ランプからランプへのドップラー周波数範囲内のフーリエ変換である。このためにフーリエ変換が、個別ランプの対応する値に沿って(ドップラー方向若しくは速度方向で)実施される。2つの変換は、その連続を入れ替えるか、または二次元フーリエ変換とみなされてもよい。
【0005】
続いて、典型的な別のステップ、例えば二次元スペクトルのピークの位置に基づいた、相対速度の半径方向成分および間隔の検出、推定および様々な誤差補正が行われる。この場合、ピークは標的反射に相当し、物理的標的(例えば自動車、人間、柱その他)は複数の標的反射を有していてよい。
【0006】
このレーダシステムは、複数の送信および/または受信チャンネルを有するアンテナ(例えばパッチアンテナの個別のパッチによって実現される)、つまりアンテナアレイを有していて、追加的に標的反射の角度推定およびひいては空間内の3D標的位置の決定が実施され得る。このために、第1の信号処理ステップが、検出の前に、送信および受信チャンネルから成るそれぞれの組み合わせのために別個に実施される。次いで、個別のチャンネルの集合されたスペクトルを基に、角度推定が実施される。推定された標的(反射)パラメータは、様々な用途、例えばアダプティブクルーズコントロール(ACC)、死角検出、自動非常ブレーキ機能その他のための、例えば次いで行われるトラッキング、クラスタリング、標的分類若しくはデータ融合のために使用される。
【0007】
非特許文献3により、レーダ標的の横方向速度を推定するための方法が公知である。この場合、個別の剛体に割り当てられる複数の標的反射が組み合わせられることによって、横方向速度が決定される。これは可能である。何故ならば、相対速度の測定された半径方向成分の分布は空間内の反射の個別位置に依存するからである。このための前提は、相応の物理的標的のために三次元的に分布された多数の反射位置も測定され、互いに密接な関係にあるものとしてクラスタリングされ得る、ということである。しかしながら、クラスタリングにおいては、誤った割当ても発生し得る。
【0008】
レーダ信号処理における公知のやり方は、レーダセンサと標的の個別反射位置との間の相対速度の半径方向成分若しくは長手方向成分を決定するだけである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】独国特許出願公開第102012220879号明細書
【特許文献2】国際公開第2015/197229号
【特許文献3】国際公開第2015/197222号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「M. Skolnik,“Radar Handbook”, 3rd edition,2008(エム スコルニク、“レーダハンドブック”、第3版、2008年)」
【非特許文献2】「Steffen Lutz, Daniel Ellenrieder, Thomas Walter, Robert Weigel:“On fast chirp Modulations and Compressed Sensing for Automotive Radar Applications”, International Radar Symposium, 2014(ステファン ルッツ、ダニエル エレンリーダー、トーマス ワルター、ロベルト ヴァイゲル、“自動車レーダアプリケーションのための高速チャープ変調および圧縮センシング”、インターナショナルレーダシンポジウム、2014)」
【非特許文献3】「D. Kellner et al. “Instantaneous Lateral Velocity Estimation of a Vehicle using Doppler Radar”, 16th International Conference on Information Fusion, Istanbul, Turkey, 2013(ディー ケルナーその他“ドップラーレーダを使用した自動車の瞬時横方向速度推定”、情報融合に関する第16回国際会議、イスタンブール、トルコ、2013)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、レーダ標的の横方向速度を算出するための改善された方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題は、第1の態様によれば、レーダ装置を用いて少なくとも1つのレーダ標的の横方向速度成分を算出するための方法によって解決され、この方法は、
同一に変調された送信信号を、所定数の送信素子を有する送信装置によって、所定の測定時間中にレーダ装置の所定の検出範囲内に周期的に送信するステップと、
レーダ標的で反射された少なくとも1つのレーダ受信信号を、所定数の受信素子を有する受信装置によって受信するステップと、
受信されたレーダ受信信号を、受信されたレーダ受信信号のアナログデジタル変換および評価装置に伝送するステップと、
送信素子および受信素子から成るそれぞれの組み合わせのためのデジタル測定値のそれぞれ1つの速度距離スペクトルを生成するための二次元フーリエ変換を実施するステップと、
速度距離スペクトルの振幅スペクトル内の所定の最高値を基にレーダ標的の少なくとも1つの標的反射を検出するステップと、
レーダ装置からのレーダ標的の距離、およびレーダ装置に対して相対的な半径方向速度成分を、速度距離スペクトルから算出するステップと、
アンテナに対して相対的なレーダ標的の少なくとも1つの角度を決定するステップと、
横方向速度成分が算出されるべきレーダ標的を選択するステップと、
このような形式で選択されたレーダ標的の標的反射の逆フーリエ変換を実施するステップと、
変換された測定値からレーダ標的の横方向速度成分を算出するステップと、
を有している。
【0013】
好適にはこのような形式で、一度だけの測定によりレーダ標的の横方向の速度成分を測定することができる。好適には、これによって高価なトラッキング法を必要としないので、一度だけの測定によって完全な速度ベクトルが検出される。
【0014】
この課題は、第2の態様によれば、レーダ装置によって少なくとも1つのレーダ標的の横方向速度成分を算出するための装置によって解決され、この装置は、
送信装置を有していて、この送信装置が、同一に変調されたレーダ送信信号を所定の測定時間中にレーダ装置の所定の検出範囲内に周期的に送信することを実施するように構成された所定数の送信素子を備えており、
受信装置を有していて、この受信装置が、レーダ標的で反射された少なくとも1つのレーダ受信信号の受信を実施するように構成された所定数の受信素子を備えており、
処理装置を有していて、この処理装置は、受信されたレーダ受信信号のアナログデジタル変換を実施し、デジタル測定値の速度距離スペクトルを生成するための二次元フーリエ変換を実施し、速度距離スペクトルの振幅スペクトル内の所定の最高値を基にレーダ標的の少なくとも1つの標的反射の検出を実施し、アンテナからのレーダ標的の距離およびアンテナに対して相対的な半径方向速度成分を、速度距離スペクトルから算出することを実施し、アンテナに対して相対的なレーダ標的の少なくとも1つの角度の決定を実施するように、構成されており、
この場合、横方向速度成分が推定されるべきレーダ標的を除くすべての標的反射および妨害が抑制され、
この場合、このような形式で選択されたレーダ標的の標的反射のために、逆フーリエ変換が実施され、変換された測定値からレーダ標的の横方向速度成分が算出される。
【0015】
この方法の好適な発展形態は、従属請求項の対象である。
【0016】
この方法の好適な発展形態は、同一に変調された送信信号が、ランプ状に周波数変調されたレーダ信号または非線形のランプ信号または周期的なパルス信号またはOFDM信号であることを意図している。このような形式で、好適な様々なレーダ信号がこの方法を実施するために使用され得る。
【0017】
この方法の別の好適な発展形態は、少なくとも1つのレーダ標的の横方向の速度成分が、方位角方向および/または仰角方向で算出されることが意図されている。これによって好適には、レーダ装置が有する検出特性が促進される。
【0018】
この方法の別の好適な発展形態は、物理的な所与性のモデリングのために、以下の数理モデルが使用されることを意図している:
【0019】
【数1】
【0020】
この数理モデルは次のパラメータを有している:
Δrバー… 全測定時間に亘る距離変化の平均値
v
q… 横方向速度(横方向の速度成分)
r(t)… 測定時間に亘る距離(ランプからランプ)
Δφ(t)… 時間の経過に伴う方位角および仰角の変化
v
e… 横方向速度から得られた半径方向の速度成分
a
e… 横方向速度から得られた半径方向の加速度成分
r
0… 時点t=0sにおける最小の標的距離。
これによって、横方向の速度成分の算出が、簡単な数理モデルに基づいて実施され得る。
【0021】
この方法の別の好適な発展形態によれば、横方向速度成分の推定が、次の数学的関係を用いて品質関数の最大化によって算出されるようになっており:
【0022】
【数2】
【0023】
この数学的関係は次のパラメータを有している:
Q… 方位角および仰角における横方向速度成分の品質関数
v
qa… 方位角における横方向速度成分
v
qe… 仰角における横方向速度成分
k… 波数
a
m… 仮想の受信チャンネル(送信チャンネルと受信チャンネルとから成る組み合わせ)の数に相当する書き込みを有するベクトル
A
c… 校正マトリックス
m… 時間の指数
r
m… 時点t
mにおけるすべての受信チャンネルに対する標的距離のベクトル
ω
d… 推定されたドップラー角振動数
rバー… 測定区間内の平均的な標的間隔
T
RR… ランプ信号間の時間間隔
Δβ
m… 時点t
mにおける測定信号の位相位置の変化
X
Tm… 実際に横方向速度が推定されるべき物理的標的の、できるだけ反射(ピーク)の信号成分だけを含有する、時点t
mにおける予め処理され選択された逆フーリエ変換測定信号を有する転置されたベクトル。
【0024】
このような形式で、簡単に実施することができる相関関係が提供され、この相関関係によって、レーダ標的200の求められた相対速度成分および距離が測定信号の位相位置に換算される。
【0025】
この方法の好適な発展形態によれば、標的反射信号の選択および再構成が、角度スペクトルを介して実施され、この場合、標的反射位置が方位角および/または仰角を介して互いに分離されるようになっている。このような形式で、距離速度空間内で複数の標的反射が同じ距離/速度位置に配置されている場合、レーダ標的の識別が実施される。
【0026】
この方法の別の好適な発展形態によれば、レーダ標的を算出するために、横方向速度を有する検出範囲が、この検出範囲内の品質関数が凸状でありしかも検出範囲が完全にスキャニングされないように選択されるようになっている。このような形式で、完全な検出範囲を算出する必要はないので、局所的な最大「停滞」に留まることはない。この方法の効果的な実施は、このような形式で促進され、このことは、“Newton−Iteration(ニュートン反復法)”のような例えば公知の勾配法によって実施され得る。
【0027】
この方法の別の好適な発展形態によれば、この方法は、用途に応じて選択されたレーダ標的のために実施されるようになっている。これによって、この方法は好適には、自動車のレーダシステムの多様な用途のために、例えばACCシステム、自動非常ブレーキ機能、死角検出その他のために使用され得る。
【0028】
この方法の別の好適な発展形態によれば、この方法は、トラッキングに基づく方法のために使用されるようになっている。このような形式で、公知のトラッキングに基づく方法はより精確に実施されることができ、これによってレーダ標的の予測が改善されている。
【0029】
本発明をその他の特徴および利点と共に複数の図面を用いて以下に詳しく説明する。この場合、明細書および図面に開示されたすべての特徴は、特許請求の範囲の引用とは無関係に、本発明の対象を形成する。図面は、特に本発明にとって必須の原理を説明するために役立つ。
【0030】
開示された方法の特徴は、開示された対応する装置の特徴から同様に得られ、その逆でもある。このことは特に、方法に関する特徴、技術的な利点および実施例は、同様の形式で、装置に関する対応する特徴、技術的な利点および実施例から得られ、その逆でもある、ということである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】レーダシステムの原理的なブロック回路図である。
【
図2】この方法に使用された例としてのランプ信号の変調周波数の経時変化である。
【
図3】レーダ標的の横方向速度成分を算出するための信号処理の原理的なフローチャートである。
【
図4】距離速度空間内の振幅スペクトルの複数のレーダ標的である。
【
図5】レーダ標的の横方向速度の物理的関係の図である。
【
図7】レーダ標的の変化するパラメータの複数の経時変化である。
【
図8】レーダ標的の横方向速度成分を算出するための別の信号処理の原理的なフローチャートである。
【
図9】レーダ標的の窓掛け若しくは選択の図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の課題は、特にレーダ標的の速度の横方向成分若しくはレーダ標的の速度の完全な速度ベクトルを、前もってのクラスタリング若しくはトラッキングなしに個別測定によって算出することである。
【0033】
このために、
図1のそれ自体公知のレーダ装置100が使用され、この場合、送信装置1,10から測定時間若しくは測定長さT
measで同一に変調された送信信号が検波範囲に送信される。この場合、同一に変調された送信信号は、ランプ状の周波数変調されたレーダ信号または非線形のランプ信号または周期的なパルス信号またはOFDM信号であってよい。
【0034】
横方向速度成分は、測定時間T
meas内の測定値に基づいて決定され、例えば後続のトラキング、クラスタリング、標的分類その他に追加的な情報として提供される。トラッキング中の測定毎の場合によっては誤った反射位置の割り当て、および反射位置の時間微分は、このような形式で好適には避けられる。
【0035】
本発明によれば、横方向速度成分の追加的に得られた情報が、自動車の運転者支援システム、例えば自動非常ブレーキ機能の改善された機能性のために使用され得る。この場合、好適には、標的が例えば自車の車線外へ若しくは車線内に移動するかどうかが検知され得る。死角検出および/またはACCのためにも、追跡しようとする標的のための算出された横方向速度成分が使用されてよい。
【0036】
任意に、提案された方法によって、落ちてくる対象物(例えば山の落石、橋からの落盤等)のための警告機能若しくは衝突回避機能を実現することも可能である。推定された横方向速度は、ここでは追加的にトラッキングのために使用されてよく、この場合、特に仰角方向で十分に広い検出フィールドを有する適切なアンテナ設計が必要となる。
【0037】
提案された方法のために必要な信号処理の基本的なフローチャートは
図3に示されている。ステップ300でアナログからデジタルに変換された測定値を基に、ステップ310で実行された二次元フーリエ変換(2D−DFT)に従って、それぞれのチャンネル毎に、つまりアンテナ(例えばパッチアレイ)10,20の送信素子および受信素子から成るそれぞれの組み合わせ毎に、うなり周波数ドップラー中の、若しくは距離速度空間内のうなり周波数(図示せず)内のドップラー成分の補正後の二次元スペクトルが、原則的に振幅スペクトルとして
図4に示されているように得られる。
図4は、単に例として全部で8つの標的反射を示しており、これらの標的反射は、すべてが同じ半径方向速度で異なる距離を保って距離速度空間内に配置されている。
【0038】
標的反射のために、複数のチャンネルの個別スペクトルから算出された振幅スペクトル内の、ステップ320で検出されたピーク値(ピーク)が得られ、これらのピーク値の位置がステップ330で推定される。それぞれ検出しようとする反射位置に属する(例えばMIMO−アンテナシステムの)複数のチャンネルの測定値に基づいて、次にステップ340で、当該の標的反射のための方位角方向および/または仰角方向での角度推定が実施される。
【0039】
従って、ステップ300乃至340は、それ自体公知の信号処理の標準ステップを有している。
【0040】
本発明によれば、単数または複数の選択された検出された標的反射のために、追加的にさらに、横方向速度成分が推定されるか若しくは概ね算出される。このために、ステップ350で個別スペクトル内のそれぞれの標的反射若しくはピークに属していない値がゼロに設定され(
図9に詳しく説明されているように“窓掛け”)、これによって結局、標的反射を表す測定値の選択が実施される。選択的に、このために複素値のピーク振幅および位置の精確な推定も実施され得る。次いで、この再構成は、ステップ360で、フーリエ変換とは逆のドップラー方向で行われるので、予め処理された複素信号値x
mの連続が得られ、これは、それぞれ時間的に相次いで連続するランプに対応する。
【0041】
このような形式で得られかつ予め処理された測定値x
mを基に、ステップ370で、方位角方向および/または仰角方向における横方向速度成分が推定される。このために、測定時間T
meas=MxT
rr(つまり、ランプmからランプm+1まで)に亘って変化する距離が、以下の簡単な数理モデルによって表される。
【0043】
この場合、平均的な距離変化、半径方向の速度および加速度は、以下のように規定されている。
【0045】
この数理モデルは次のパラメータを有している:
b… 見やすさを改善するための補助パラメータ
r
0… 測定時間の中央での(時点t=0での)レーダ標的の最小距離
Δr(t)… レーダ標的の時間的な距離変化
v
q… 方位角方向または仰角方向における横方向速度
v
e… 横方向速度から得られた、角度に依存する相対速度の半径方向成分
a
e… 横方向速度から得られた、角度に依存する半径方向の加速度成分
Δφ… 方位角方向または仰角方向の若しくは両方向から成る一次結合の角度変化。
【0046】
以下に
図5、
図6および
図7に示されているように、横方向速度は、時間的な距離変化を介しても、また角度変化を介しても測定信号に作用する。
【0047】
図5は、アンテナ10,20と、時点t=0におけるレーダ標的200の間隔r
0と、時間t後に横方向速度成分v
qに基づいて進んだ走行距離v
q×tと、それから得られた、半径方向の速度成分v
eに基づく走行距離v
e×tとを示す。
【0048】
図6は、アンテナ10,20と、それから得られた、アンテナ10,20に対するレーダ標的200の間隔r
mを有するランプ信号の中央時点t
mとを示す。
【0049】
図7は、単に例として4つのグラフを示しており、上から下に向かって、横方向速度成分v
qに基づく半径方向の速度成分v
eの経時変化、それから得られた間隔変化Δr、それから得られた角度変化Δφ、それから得られたレーダ標的200の加速度a
eの変化を示す。
【0050】
横方向速度成分v
qの推定のために、それぞれのランプmの時点でv
qに依存する標的位置が算出され、それから得られた個別の受信チャンネル内の位相変化Δ
βmが求められ、この場合、MIMOシステムにおいて、ここでは実際の送受信チャンネルの組み合わせから得られる仮想の受信チャンネルを意味する。
【0051】
各時間ステップmのためにベクトルa
m(v
q,a;v
q,e)が得られ、このベクトルのエレメントは受信チャンネルを表す。すべてのMベクトルの集合が1つのマトリックスをもたらし、このマトリックスの複数の列が複数の受信チャンネルを表し、このマトリックスの複数の行が複数のランプ時点を表す。マトリックスはそれぞれ、方位角方向v
q,aおよび仰角方向v
q,eにおける横方向速度の調査されるべき組み合わせのために算出され、予め処理された測定値ベクトルx
mが乗算される。次いで、横方向速度の推定が、v
q,aおよび/またはv
q,eを介して品質関数Q(v
q,a;v
q,e)の最大化によって以下の数理モデルに従って行われる。
【0053】
この数理モデルは次のパラメータを有している:
Q… 方位角および仰角における横方向速度成分の品質関数
v
qa… 方位角における横方向速度成分
v
qe… 仰角における横方向速度成分
k… 波数
a
m… 仮想の受信チャンネル(送信チャンネルおよび受信チャンネルの組み合わせ)の数に相当する書き込みを有するベクトル
A
c… 校正マトリックス
m… ランプ指数若しくはランプからランプへの時間の指数
r
m… 時点t
mにおけるすべての受信チャンネルとの標的距離のベクトル
ω
d… 推定されたドップラー角振動数
rバー… 測定区間内の平均的な標的間隔
T
RR… ランプ信号間の時間的間隔
Δφ
m… 時点t
mにおける方位角および/または仰角の変化
X
Tm… 実際に横方向速度が推定されるべき物理的標的の、できるだけ反射(ピーク)の信号成分だけを含有する、時点t
mにおける予め処理され選択された逆フーリエ変換測定信号を有する転置されたベクトル。
【0054】
図8は、この方法の原理的なフローチャートを示し、この原理的なフローチャートは、
図3のフローチャートに概ね相当するが、
図8ではステップ310で、複数のチャンネル(若しくは仮想の受信チャンネル)のために二次元フーリエ変換が実施される点で異なっている。ステップ331でさらに、角度推定のための測定値の選択が示されている。このオプション的な追加ステップは、角度推定340のためのコストを低減するために、つまり後続の使用のために重要な標的に割り当てられている、距離速度スペクトル内のピーク位置のためにだけ角度推定を実施するために特に有効である。
【0055】
仮想の受信アンテナの位置が互いに概ね等距離で配置されていれば、これによってサイドローブが例えばFFT窓掛け(例えば“Kaiser-Fenster「カイザー窓」”、“Dolph-Chebyshev-Fenster「ドルフ・チェビシェフ窓」”)によって抑制され、それによって角度スペクトル内の高いダイナミックスが促進され、ひいては横方向速度350の推定のためにレーダ標的の選択が、追加的に角度スペクトル内で簡単に可能となる。
【0056】
これが行われない場合、角度を介してのみ切り離し可能な複数のレーダ標的における横方向速度成分v
qの推定は不都合な影響を受ける。何故ならば、これらのレーダ標的は同じ距離速度セル内に位置しているからである。
【0057】
図3および
図8に図示された信号処理ステップは、レーダ装置100の所属の制御プログラムにより、コンピュータ装置(例えばマイクロコントローラ、DSPその他)のソフトウエアで実行され、またハードウエア(例えばFPGA,ASICその他)でも実現され得る。
【0058】
図9は、実際に横方向速度成分v
qが算出されるべきk番目の標的反射Rの、点として示された複数の反射位置を有する距離速度スペクトル内のレーダ標的200の選択の原理を示す。推定された距離r
kにおけるベクトルx
mの値だけが使用される。v
kだけピーク幅の外に位置するベクトルx
mの値は、窓掛け若しくはゼロ設定によって抑制される。その結果、それにより、本当に実際の横方向速度が算出されるべき標的反射Rだけが残る。ベクトルx
mのエレメントは、速度方向vにおけるスペクトルの指数mに対する仮想の角度スペクトルの値であるか、若しくはx
m=IFFT(x
m)だけ逆フーリエ変換後の時間的なランプ指数mに対する仮想の角度スペクトルの値である。窓掛けは、一次元若しくは二次元の角度スペクトル内でアナログに行われる。提案された方法は、このような形式で窓掛けされたそれぞれの標的反射Rのためにシーケンシャルに実施される。ステップ360で逆フーリエ変換によってドップラー方向でベクトルx=IFFT(x)が形成され、これは、次にステップ370で行われる横方向速度の推定のための入力値として用いられる。
【0059】
本発明による方法の好適な適用は、落ちてくる対象物(例えば橋から投げ落とされた対象物または山の落石)を警告し、かつ/または前記対象物との衝突を回避し、かつ/または少なくともその結果発生する事故の深刻さを最小にするシステムを実現する点にある。
【0060】
当業者は、本発明の核心から逸脱することなしに、この方法および装置のここに開示されていない実施例も実現可能である。
【符号の説明】
【0061】
1,10 送信装置
2,20 受信装置
10,20 アンテナ
30 評価装置、処理装置
100 レーダ装置
200 レーダ標的
300,310,320,330,331,340,350,360,370 ステップ