(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置させる光反射層とが積層状態で設けられた放射冷却装置であって、
前記光反射層が、銀あるいは銀合金からなる第1層と、アルミニウムあるいはアルミニウム合金からなる第2層と、銀とアルミニウムとの合金化を防止する合金化防止透明層とを、前記第1層、前記合金化防止透明層及び前記第2層の順に前記赤外放射層に近い側に位置させる形態で積層した状態に構成され、
前記赤外放射層を基板として、前記第1層、前記合金化防止透明層及び前記第2層が積層されている放射冷却装置。
前記赤外放射層が、無アルカリガラス、クラウンガラス、ホウケイ酸ガラスのうちのいずれかのガラスにて構成されている請求項1〜4のいずれか1項に記載の放射冷却装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
第1の従来例においては、光反射層が、多層状態に積層されるフォトニング・バンドキャップ層を備えるものであるため、製作が煩雑となる不利があり、しかも、フォトニング・バンドキャップ層を備えるにしても、高価な銀からなる金属層を十分に薄くできないため、全体構成の低廉化を図り難い不利があった。
【0008】
第2の従来例においては、光反射層が、アルミニウムからなる金属層として構成されるものであるから、安価なアルミニウムにて光反射層が構成されるため、全体構成の低廉化を図れるものである。
しかしながら、アルミニウムからなる金属層は、銀よりも光を吸収し易いものであるから、赤外放射層を透過した光が、アルミニウムからなる金属層に吸収されて、当該光の吸収により昇温する金属層が、冷却対象を加温すること等に起因して、冷却対象を適切に冷却できない虞があった。
【0009】
このような状況に鑑みて、本発明の発明者が鋭意研究した結果によれば、光反射層を、厚さが100nm以上の銀からなる金属層として構成すれば、赤外放射層を透過した光が冷却対象に投射されることを抑制しながら、冷却対象を冷却することができるものとなり(
図12、
図13参照)、そして、光反射層を、厚さが300nm以上の銀からなる金属層として構成すれば、赤外放射層を透過した光が冷却対象に投射されることを的確に抑制して、冷却対象を適切に冷却できることが判明した。
【0010】
しかしながら、銀は高価な金属であるから、光反射層を、厚さが300nm以上の銀からなる金属層として構成すれば、放射冷却装置が高価となるものとなるため、銀の使用量を極力抑制しながら、冷却対象を冷却することが望まれるものであった。
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みて為されたものであって、その目的は、光反射層の低廉化を図りながらも、冷却対象を適切に冷却でき、しかも、長期間に亘って冷却作用を良好に発揮できる放射冷却装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の放射冷却装置は、放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置させる光反射層とが積層状態で設けられたものであって、その特徴構成は、
前記光反射層が、銀あるいは銀合金からなる第1層と、アルミニウムあるいはアルミニウム合金からなる第2層と、銀とアルミニウムとの合金化を防止する合金化防止透明層とを、前記第1層、前記合金化防止透明層及び前記第2層の順に前記赤外放射層に近い側に位置させる形態で積層した状態に構成され
、
前記赤外放射層を基板として、前記第1層、前記合金化防止透明層及び前記第2層が積層されている点にある。
【0013】
すなわち、本発明の発明者が鋭意研究した結果、光反射層を、銀あるいは銀合金からなる第1層とアルミニウムあるいはアルミニウム合金からなる第2層とを、第1層を赤外放射層に近い側に位置させる形態で積層した状態に構成することにより、高価な銀あるいは銀合金の使用量を抑制しながら、冷却対象を冷却できることを見出すに至った。
【0014】
つまり、銀あるいは銀合金は、可視光や赤外光を効率良く反射できるものの、紫外光の反射率が低い傾向となる。
これに対して、アルミニウムあるいはアルミニウム合金は、銀あるいは銀合金に較べて、可視光や赤外光を効率良く反射することができないものの、紫外光を効率良く反射することができる傾向となる。
しかも、アルミニウムあるいはアルミニウム合金は、銀あるいは銀合金に較べて、可視光や赤外光を吸収し易い傾向となる。
【0015】
そこで、銀あるいは銀合金からなる第1層とアルミニウムあるいはアルミニウム合金からなる第2層とを、第1層を赤外放射層に近い側に位置させる形態で積層した状態に構成することにより、第1層が可視光や赤外光を反射することにより、第2層が可視光や赤外光を吸収することを抑制し、しかも、第1層の厚さを薄くしても、第1層及び第2層の存在により、赤外放射層を透過した光(可視光、紫外光、赤外光)を適切に反射して、冷却対象を冷却できることを見出すに至ったのである。
【0016】
そして、銀あるいは銀合金からなる第1層を薄くできるため、光反射層の低廉化を図ることができるのである。
【0017】
さらに、第1層と第2層との間には、銀とアルミニウムとの合金化を防止する合金化防止透明層を設けるものであるから、銀とアルミニウムとが合金化することを抑制できるため、光反射層の光の吸収を回避しながら、光反射層により光を適切に反射する状態を長期間に亘って維持させて、長期間に亘って冷却作用を良好に発揮させることができる。
【0018】
つまり、第1層の銀あるいは銀合金と第2層のアルミニウムあるいはアルミニウム合金とを接触させた状態で長時間経過すると、銀とアルミニウムの合金化が次第に進み、光反射層の太陽光の反射率が悪くなり、太陽光吸収が増加することが予想されるため、銀とアルミの合金化を防止するために、第1層と第2層との間に合金化防止透明層を設けることによって、銀とアルミの合金化を抑制するのである。
【0019】
要するに、本発明の放射冷却装置によれば、光反射層の低廉化を図りながらも、冷却対象を適切に冷却でき、しかも、長期間に亘って冷却作用を良好に発揮できる。
また、赤外放射層を基板として、第1層、合金化防止透明層及び第2層が積層されているから、全体構成の簡素化を図り、しかも、全体構成の薄膜化を図ることができる。
ちなみに、赤外放射層を基板として、第1層、合金化防止透明層及び第2層を積層する際に、第1層、合金化防止透明層及び第2層が薄い場合には、例えば、スパッタリング等により、第1層、合金化防止透明層及び第2層を順次積層することになる。
つまり、積層用基板を設けて、その積層用基板に対して、スパッタリング等により、第2層、合金化防止透明層及び第1層を順次積層し、その後、第1層の第2層の存在側とは反対側箇所に、別途製作した赤外放射層を載置して積層する、又は、第1層の合金化防止透明層の存在側とは反対側箇所に、スパッタリング等により、赤外放射層を積層する場合に較べて、積層用基板を設ける必要が無いため、全体構成の簡素化を図り、しかも、全体構成の薄膜化を図ることができる。
要するに、本発明の放射冷却装置の特徴構成によれば、全体構成の簡素化を図り、しかも、全体構成の薄膜化を図ることができる。
【0020】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記第1層の厚さが、3.3nmよりも大きく、かつ、100nm以下である点にある。
【0021】
すなわち、銀あるいは銀合金からなる第1層の厚さを、3.3nmよりも大きく、かつ、100nm以下である範囲で変化させても、第2層の存在により、赤外放射層を透過した光(可視光、紫外光、赤外光)を適切に反射して、冷却対象を冷却できることが判明した。
【0022】
つまり、銀あるいは銀合金からなる第1層の厚さを、3.3nmよりも大きく、かつ、100nm以下である範囲の薄い厚さにして、光反射層の低廉化を十分に図りながらも、冷却対象を冷却できる。
【0023】
但し、銀あるいは銀合金からなる第1層の厚さを、3.3nmよりも大きく、かつ、100nm以下である範囲の間において、好ましくは、30nm以上に大きくすることにより、冷却対象を適切に冷却できることになる。
【0024】
要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、光反射層の低廉化を十分に図りながらも、冷却対象を冷却できる。
【0025】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記第1層の厚さが、50nm以上100nm以下である点にある。
【0026】
すなわち、銀あるいは銀合金からなる第1層の厚さを、50nm以上100nm以下の範囲にすれば、第1層による光(主として、可視光、赤外光)の反射作用を適切に発揮させながら、第2層の存在により、赤外放射層を透過した光(可視光、紫外光、赤外光)を適切に反射することができる結果、光反射層を、厚さが300nm以上の銀からなる金属層として構成する場合と同等の能力にて、冷却対象を冷却できることを見出すに至った。
【0027】
従って、第1層の厚さを薄くして、光反射層の低廉化を図りながらも、厚さが300nm以上の銀からなる金属層として構成する場合と同等の大きな冷却能力を得ることができる。
【0028】
要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、光反射層の低廉化を図りながらも、大きな冷却能力を得ることができる。
【0029】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記第2層の厚さが、10nm以上である点にある。
【0030】
すなわち、光反射層を第1層と第2層とから構成する場合には、アルミニウムあるいはアルミニウム合金からなる第2層の厚さが、10nm以上であれば、第2層が紫外光を反射する作用を適切に発揮させて、第1層との組み合わせにより、赤外放射層を透過した光(可視光、紫外光、赤外光)を適切に反射することができることを見出すに至った。
【0031】
ちなみに、アルミニウムあるいはアルミニウム合金からなる第2層の厚さは、10nm以上であればよいが、アルミニウムあるいはアルミニウム合金の使用量を抑制するためには、必要以上に厚くすることは避ける必要がある。
【0032】
要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、紫外光を反射する作用を適切に発揮させながら、赤外放射層を透過した光を反射することができる。
【0033】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記赤外放射層が、無アルカリガラス、クラウンガラス、ホウケイ酸ガラスのうちのいずれかのガラスにて構成されている点にある。
【0034】
すなわち、無アルカリガラス、クラウンガラス、ホウケイ酸ガラスは、比較的に安価でありながらも、太陽光(可視光、紫外光、近赤外光)の透過性が優れた(例えば、80%程度を透過する)ものであるため、太陽光を吸収することがなく、しかも、大気の窓(例えば、波長が8〜13μmの赤外光を透過させる窓等)に相当する波長の赤外光を放射する輻射強度が高い性質を有する。
【0035】
したがって、赤外放射層を、無アルカリガラス、クラウンガラス、ホウケイ酸ガラスのうちのいずれかのガラスにて構成することにより、全体構成の低廉化を図りながらも、冷却能力の高い放射冷却装置を得ることができる。
【0036】
要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、全体構成の低廉化を図りながらも、冷却能力の向上を得ることができる。
【0041】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記赤外放射層と前記第1層との間に、密着層が積層されている点にある。
【0042】
すなわち、赤外放射層と光反射層の第1層との間に密着層が積層されているから、温度変化等に起因して、光反射層の第1層が赤外放射層に対して剥離する等の損傷が生じることを抑制できるため、耐久性を向上できる。
【0043】
要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、耐久性の向上を図ることができる。
【0044】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記第2層における前記合金化防止透明層の存在側とは反対側に、酸化防止層が積層されている点にある。
【0045】
すなわち、アルミニウムあるいはアルミニウム合金からなる第2層における合金化防止透明層の存在側とは反対側に、酸化防止層が積層されているから、第2層を薄くしても、第2層が酸化して劣化することを抑制できるため、耐久性を向上できる。
【0046】
要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、アルミニウムあるいはアルミニウム合金からなる第2層の劣化を抑制して、耐久性を向上できる。
【0047】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記合金化防止透明層が、透明窒化膜である点にある。
【0048】
すなわち、合金化防止透明層として、透明窒化膜を設けることにより、第1層の銀あるいは銀合金と第2層のアルミニウムあるいはアルミニウム合金とが合金化することを適切に抑制することができる。
ちなみに、透明窒化膜の具体例としては、Si
3N
4、AlNを挙げることができる。
尚、透明窒化膜は、スパッタリングや蒸着等を用いて製膜する際に、第1層の銀あるいは銀合金が変色しないため、生産性を向上し易い利点がある。
【0049】
要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、銀とアルミニウムとの合金化を適切に抑制することができる。
【0050】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記合金化防止透明層が、透明酸化膜である点にある。
【0051】
すなわち、合金化防止透明層として、透明酸化膜を設けることにより、第1層の銀あるいは銀合金と第2層のアルミニウムあるいはアルミニウム合金とが合金化することを適切に抑制することができる。
ちなみに、透明酸化膜としては、多数のものが適用できるが、具体例の一例として、蒸着やスパッタリング等で製膜しやすいAl
2O
3、SiO
2、TiO
2、ZrO
2、HfO
2、Nb
2O
5、Ta
2O
5を挙げることができる。
【0052】
要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、銀とアルミニウムとの合金化を適切に抑制することができる。
【0053】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記合金化防止透明層が、400nm以下の波長のうちのいずれかの波長を共鳴波長とする厚さである点にある。
【0054】
すなわち、合金化防止透明層は光を吸収することになるが、合金化防止透明層の厚さを、400nm以下の波長のうちのいずれかの波長を共鳴波長とする厚さとすることによって、光反射層全体としての光吸収量を抑制するのである。
【0055】
つまり、太陽光スペクトルは概ね波長300〜4000nmの範囲に存在し、そして、400nmよりも長波長側の太陽光強度(光エネルギー)は強いが、300〜400nmの紫外線領域の光は太陽光スペクトルのテールにあたるので、エネルギー的に大きくないものである。
したがって、合金化防止透明層が光を吸収するとしても、400nm以下の短波長側の光を吸収させるようにすることにより、光反射層全体としての光吸収量を抑制できるのである。
【0056】
要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、光反射層全体としての光吸収量を抑制できる。
【0057】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成、前記合金化防止透明層が、300nm以下の波長のうちのいずれかの波長を共鳴波長とする厚さである点にある。
【0058】
すなわち、合金化防止透明層は光を吸収することになるが、合金化防止透明層の厚さを、300nm以下の波長のうちのいずれかの波長を共鳴波長とする厚さとすることによって、光反射層全体としての光吸収量を適切に抑制するのである。
【0059】
つまり、太陽光スペクトルは概ね波長300〜4000nmの範囲に存在し、そして、400nmよりも長波長側の太陽光強度(光エネルギー)は強いが、300〜400nmの紫外線領域の光は太陽光スペクトルのテールにあたるので、エネルギー的には大きくないものであり、さらには、短波長側ほどエネルギー的には小さくなるので、300nm以下になると、エネルギー的には十分に小さいものとなる。
したがって、合金化防止透明層が光を吸収するとしても、300nm以下の短波長側の光を吸収させるようにすることにより、光反射層全体としての光吸収量を適切に抑制できるのである。
【0060】
要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、光反射層全体としての光吸収量を適切に抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔放射冷却装置の構成〕
図1に示すように、放射冷却装置CPには、放射面Hから赤外光IRを放射する赤外放射層Aと、当該赤外放射層Aにおける放射面Hの存在側とは反対側に位置させる光反射層Bとが積層状態に設けられている。
【0063】
光反射層Bが、銀あるいは銀合金からなる第1層B1とアルミニウム(以下の記載において「アルミ」と略称)あるいはアルミニウム合金(以下の記載において「アルミ合金」と略称)からなる第2層B2と、銀とアルミニウムとの合金化を防止する合金化防止透明層B3とを、第1層B1、合金化防止透明層B3及び第2層B2の順に赤外放射層Aに近い側に位置させる形態で積層した状態に構成されている。
【0064】
第1層B1の厚さ(膜厚)が、3.3nmよりも大きく且つ100nm以下に構成され、好ましくは、第1層B1の厚さ(膜厚)が、50nm以上で且つ100nm以下に構成されている。
第2層B2の厚さ(膜厚)が、10nm以上に構成されている。
【0065】
ちなみに、「銀合金」としては、銀に、銅、パラジウム、金、亜鉛、スズ、マグネシウム、ニッケル、チタンのいずれかを、例えば、0.4〜4.5質量%程度添加した合金を用いることができる。具体例としては、銀に銅とパラジウムを添加して作成した銀合金である「APC−TR(フルヤ金属製)」を用いることができる。
尚、以下の記載においては、第1層B1を、銀を用いて構成するものとして説明する。
【0066】
「アルミ合金」としては、アルミに、銅、マンガン、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、機械構造用炭素鋼、イットリウム、ランタン、ガドリニウム、テルビウムを添加した合金を用いることができる。
尚、以下の記載においては、第2層B2を、アルミを用いて構成するものとして説明する。
【0067】
合金化防止透明層B3は、透明窒化膜や透明酸化膜にて構成される。
透明窒化膜としては、Si
3N
4、AlNを挙げることができる。
透明酸化膜としては、蒸着やスパッタリングなどで製膜しやすいAl
2O
3、SiO
2、TiO
2、ZrO
2、HfO
2、Nb
2O
5、Ta
2O
5や、その他の酸化物を挙げることができるが、その詳細は後述する。
【0068】
合金化防止透明層B3の厚さは、400nm以下の波長のうちのいずれかの波長を共鳴波長とする厚さであり、好ましくは、300nm以下の波長のうちのいずれかの波長を共鳴波長とする厚さであり、その詳細は後述する。
【0069】
また、放射冷却装置CPは、赤外放射層Aを基板として、第1層B1、合金化防止透明層B3及び第2層B2を積層することにより構成されている。
具体的には、基板としての赤外放射層Aと第1層B1との間に、密着層3が積層され、かつ、第2層B2における合金化防止透明層B3の存在側とは反対側に、酸化防止層4が積層されている。
【0070】
つまり、放射冷却装置CPが、赤外放射層Aを基板として、例えばスパッタリングにより、密着層3、第1層B1、合金化防止透明層B3、第2層B2及び酸化防止層4を順次製膜する形態に構成されている。
【0071】
密着層3は、酸化アルミニウム(Al
2O
3)を20〜100nmに製膜する形態に構成されている。
酸化防止層4が、二酸化ケイ素(SiO
2)又は酸化アルミニウム(Al
2O
3)を、10〜数100nmに製膜する形態に構成されている。尚、以下の記載においては、二酸化ケイ素(SiO
2)が製膜されているとして説明する。
【0072】
赤外放射層Aが、無アルカリガラス、クラウンガラス、ホウケイ酸ガラスのうちのいずれかのガラス(白板ガラス)にて構成されている。
ちなみに、無アルカリガラスとしては、例えば、OA10G(日本電気硝子製)を用いることができ、クラウンガラスとしては、例えば、B270(登録商標、以下同じ)を用いることができ、ホウケイ酸ガラスとしては、例えば、テンパックス(登録商標、以下同じ)用いることができる。
【0073】
「OA10G」、「B270」及び「テンパックス」は、
図8に示すように、太陽光に対応する波長の光に対する透過率が高く、また、
図9に示すように、大気の透過率が高い波長域(いわゆる、大気の窓)に相当する波長の輻射率が高い。
ちなみに、
図8は「テンパックス」を代表として例示するが、白板ガラスの「OA10G」、「B270」なども同様である。
尚、以下の記載においては、赤外放射層Aが「テンパックス」にて形成されているとして説明する。
【0074】
従って、放射冷却装置CPは、放射冷却装置CPに入射した光Lのうちの一部の光(例えば、太陽光の一部の光等)を、赤外放射層Aの放射面Hにて反射し、放射冷却装置CPに入射した光Lのうちで赤外放射層Aを透過した光(紫外光等)を、光反射層Bにて反射するように構成されている。
【0075】
そして、酸化防止層4における光反射層Bの存在側とは反対側に位置する冷却対象Dから放射冷却装置CPへの入熱(例えば、冷却対象Dからの熱伝導による入熱)を、赤外放射層Aによって赤外光IRに変換して放射することにより、冷却対象Dを冷却するように構成されている。
尚、本実施形態において光とは、その波長が10nmから20000nmの電磁波のことを言う。つまり、光Lには、紫外光、赤外光IRおよび可視光が含まれる。
【0076】
〔放射冷却装置の冷却能力〕
図2に示すように、放射冷却装置CPを、厚さ1mmのテンパックスにて赤外放射層Aを形成し、光反射層Bの第1層B1を膜厚が50nmの銀とし、光反射層Bの第2層B2を膜厚が50nmのアルミとし、密着層3を膜厚が5nmの酸化アルミニウム(Al
2O
3)にて形成し、膜厚が30nmの二酸化ケイ素(SiO
2)にて酸化防止層4を形成し、且つ、光反射層Bの合金化防止透明層B3を、透明窒化膜としてのSi
3N
4や透明酸化膜としてのAl
2O
3にて構成する場合において、透明窒化膜としてのSi
3N
4や透明酸化膜としてのAl
2O
3の厚さを変化させながら、放射冷却装置CPの冷却能力を計算したところ、
図3及び
図4の表に示す結果となった。
【0077】
図3及び
図4の表は、8月下旬の大阪における快晴の日をモデルとして計算した。
すなわち、太陽光エネルギーを1000W/m
2とし、外気温を30℃、大気の輻射エネルギーが387W/m
2の8月下旬をモデルとして計算したものであって、放射冷却装置CPの温度(酸化防止層4における光反射層Bの存在側とは反対側の面の温度:以下、冷却面温度と記載する場合がある)が30℃であるとして計算したものである。
【0078】
図3に示すように、Si
3N
4の厚さ(膜厚)は、34nm以下が最もよく、47nm以下でもよい。その理由は後述する。
図4に示すように、Al
2O
3の厚さ(膜厚)は、44nm以下が最もよく、60nm以下でもよい。その理由は後述する。
【0079】
〔放射冷却装置の考察〕
光反射層Bを第1層B1のみにて構成する場合(
図5参照)と、光反射層Bを第1層B1及び第2層B2にて構成する場合(
図6参照)とにおいて、第1層B1の銀の厚みを変化させながら、放射冷却装置CPの冷却能力を計算したところ、
図7の表に示す結果となった。
【0080】
図7の表は、8月下旬の大阪における快晴の日をモデルとして計算した。
すなわち、太陽光エネルギーを1000W/m
2とし、外気温を30℃、大気の輻射エネルギーが387W/m
2の8月下旬をモデルとして計算したものであって、放射冷却装置CPの温度(冷却面温度)が30℃であるとして計算したものである。
尚、
図7の冷却能力は、合金化防止透明層B3が存在しないものとして計算したものである。
【0081】
図7に示すように、光反射層Bを第1層B1のみにて構成する場合(
図5参照)には、第1層B1を形成する銀の厚みが30nm以下になると、放射冷却装置CPが冷却能力を生じないものとなるが、光反射層Bを第1層B1及び第2層B2にて構成する場合(
図6参照)には、銀の厚みが3.3nmよりも大きいと、放射冷却装置CPが冷却能力を生じるものとなる。
【0082】
しかも、光反射層Bを第1層B1及び第2層B2にて構成する場合(
図6参照)には、銀の厚みが50nm〜100nmのときには、放射冷却装置CPの冷却能力が、光反射層Bを第1層B1のみにて構成する場合(
図5参照)において銀の厚みを300nmとするときと、同等の能力となる。
【0083】
ちなみに、赤外放射層Aを構成するテンパックスの厚さは、10μm以上で10cm以下である必要があり、好ましくは、20μm以上で10cm以下、より好ましくは、100μm以上で1cm以下が良い。
つまり、赤外放射層Aを、波長8μm以上14μm以下の赤外域で大きな熱輻射を示し、当該熱輻射が、赤外放射層A及び光反射層Bの夫々にて吸収されるAM1.5Gの太陽光及び大気の熱輻射よりも大きくなるようにすることにより、昼夜を問わず周囲の大気よりも温度が低下する放射冷却作用を発揮する放射冷却装置CPを構成することができる。
そして、そのようにするにあたり、赤外放射層Aをテンパックスにて構成する場合には、厚さを10μm以上で10cm以下にする必要があり、好ましくは、20μm以上で10cm以下、より好ましくは、100μm以上で1cm以下が良い。
【0084】
このように、光反射層Bを第1層B1及び第2層B2にて構成すると、放射冷却装置CPの冷却能力が向上するものとなるが、銀とアルミとを接触させたままの状態で長時間が経過すると、銀とアルミの合金化が進み、太陽光の反射率が低下して、太陽光の吸収が増加することになるため、第1層B1と第2層B2との間に合金化防止透明層B3を位置させることによって、銀とアルミの合金化を抑制することになる。
【0085】
そして、第1層B1と第2層B2との間に合金化防止透明層B3を位置させると、光反射層Bにおける太陽光の反射率が少し低下して、太陽光の吸収が少し増加することになるため、
図3及び
図4に示すように、透明窒化膜としてのSi
3N
4や透明酸化膜としてのAl
2O
3の厚さを0nmとした場合、つまり、合金化防止透明層B3が無い場合に較べて、放射冷却装置CPの冷却能力が少し低下することになるが、銀とアルミとの合金化が抑制されて、長期間に亘って光反射層Bの反射性能を維持できるものとなる。
【0086】
〔第1層及び第2層の補足説明〕
以下、放射冷却装置CPの光反射層Bに、第1層B1と第2層B2とを備えさせる点についての補足説明を行う。
図10に示すように、放射冷却装置CPの光反射層Bを、厚さが50nmの銀からなる第1層B1のみにて構成した場合においては、
図11に示すように、短波長側の光が、第1層B1を構成する50nmの銀を透過することになり、透過した光が冷却対象Dに照射されることになる。
【0087】
図12に示すように、銀は、膜厚(厚さ)が薄くなると、薄くなるほど透過率が上昇することになるため、光反射層Bを第1層B1のみにて構成する場合には、銀の膜厚(厚さ)が薄くなるほど、冷却対象Dに照射される光が増加して、放射冷却装置CPの冷却に拘わらず、冷却対象Dの温度が上昇する現象が生じる。
つまり、冷却対象Dは、被冷却物の熱を効率的に逃がすために、光吸収層や熱交換器として構成されるが、第1層B1を構成する銀の膜厚(厚さ)を薄くすると透過した光が冷却対象Dを温めるので放射冷却能力(放射冷却性能)が弱まることになる。
【0088】
図13は、光反射層Bを銀からなる第1層B1にて構成する放射冷却装置CP(
図10参照)において、銀の膜厚(厚さ)と透過する太陽光のエネルギー(W/m
2)との関係を示すものである。
第1層B1を構成する銀の膜厚(厚さ)を300nmの膜厚(厚さ)にする従来の放射冷却装置CPの放射冷却能力は、日本の夏、標高0m、外気温度が30℃の南中時、湿度や空気の澄み具合にもよるが、概ね70W/m
2程度である。
【0089】
これに対して、第1層B1を構成する銀の膜厚(厚さ)が100nmになると、透過する太陽光のエネルギーが7W/m
2程度となり、この透過光が冷却対象Dを加熱することにより、放射冷却装置CPの冷却能力が1割程度低下する。
さらに、第1層B1を構成する銀の膜厚(厚さ)が50nmになると、透過する太陽光のエネルギーが70W/m
2程度となり、この透過光が冷却対象Dを加熱することにより、放射冷却装置CPの放射冷却能力が大きく低下する。
【0090】
以上の通り、
図10〜
図13に基づいて、光反射層Bを第1層B1のみにて構成する場合において、第1層B1を構成する銀の膜厚(厚さ)を薄くした場合に生じる問題点を説明した。
つまり、光反射層Bを第1層B1のみにて構成する場合においては、第1層B1を構成する銀の膜厚(厚さ)を十分に薄くすることができないものとなる。
【0091】
次に、銀を他の金属としてのアルミにて代替できないかについて考える。つまり、アルミは銀と同様に反射率が高い金属として知られるものであるから、
図14に示すように、光反射層Bを第2層B2のみにて構成する場合が考えられる。
【0092】
図16に示すように、アルミは、25nm以上の膜厚(厚さ)があれば、太陽光の透過を的確に遮蔽できるものである。
しかしながら、
図15に示すように、アルミは太陽光の吸収率が高い傾向にあり、しかも、
図17に示すように、アルミ(膜厚50nm)は、銀(膜厚300nm)よりも太陽光を多く吸収するものである。
【0093】
その結果、
図18に示すように、光反射層Bを第2層B2のみにて構成し、かつ、第2層B2を構成するアルミの膜厚(厚さ)を300nmにする場合においては、外気温が30℃の南中時における放射冷却能力は、−14.7W/m
2となり、発熱する。なお、冷却する場合を正、加熱される場合を負で表現している。
尚、
図18に示すように、光反射層Bを第1層B1のみにて構成し、かつ、第1層B1を構成する銀の膜厚(厚さ)を300nmにする場合においては、外気温が30℃の南中時における放射冷却能力は、70W/m
2程度となる。
【0094】
以上の通り、
図14〜
図18に基づいて、光反射層Bを第2層B2のみにて構成する場合における問題点を説明した。
つまり、光反射層Bを第2層B2のみにて構成する場合には、放射冷却装置CPの放射冷却能力を十分な能力にすることができないことが分かる。
【0095】
そこで、本発明者は鋭意研究の結果、放射冷却装置CPの光反射層Bを、第1層B1と第2層B2にて構成すれば、第1層B1を構成する銀の膜厚(厚さ)を薄くしながらも、放射冷却能力を十分な能力にすることができることを見出すに至ったのである。
【0096】
すなわち、
図12に示すように、第1層B1を構成する銀の透過率は、短波長側ほど大きくなり、かつ、膜厚(厚さ)が薄くなるほど大きくなる。
また、
図21に示すように、第1層B1を構成する銀の反射率は、長波長側では大きく、短波長側ほど小さくなり、かつ、膜厚(厚さ)が薄くなるほど小さくなる。
さらに、第2層B2のアルミは、上述の如く、25nm以上の膜厚(厚さ)があれば、太陽光の透過を的確に遮蔽できる程度の大きな反射率を備えるものであり、しかも、銀の反射率が小さくなる短波長側においても大きな反射率を備えるが、銀の反射率が高い長波長側では、銀の反射率よりも小さくなる傾向となる。
【0097】
尚、
図22に示すように、銀の反射率とアルミの反射率とが交差する波長(以下、交差波長と略称)は、銀の膜厚(厚さ)にて変化するものである。
図22には、アルミの膜厚(厚さ)を200nmとした場合において、銀の膜厚(厚さ)を変化させたときの交差波長を例示する。
【0098】
このため、
図19に示すように、光反射層Bを第1層B1と第2層B2にて構成する場合において、例えば、第1層B1を構成する銀の膜厚(厚み)を50nmとし、第2層B2を構成するアルミの膜厚(厚み)を50nmとすると、
図20に示すように、交差波長が450nmとなり、450nmよりも短波長側の光Laでは、アルミの方が銀よりも反射率が高く、それより長波長側の光Lbでは銀の方がアルミよりも反射率が高くなる。
ちなみに、
図12に示すように、交差波長である450nm以下の波長の光は、銀を透過し易くなるので、当該透過した光は、第2層B2のアルミに照射されることになる。
【0099】
つまり、
図19に示すように、450nmよりも短波長側の光Laは、一部が銀で形成される第1層B1にて反射し、第1層B1を透過した光がアルミで形成される第2層B2にて反射されることになる。
また、450nmよりも長波長側の光Lbは、主として第1層B1にて反射されることになる。
【0100】
また、光反射層Bを第1層B1と第2層B2にて構成する場合においては、第2層B2を構成するアルミの膜厚(厚さ)は、10nmよりも厚ければ光を殆ど透過しないものとなるから、第2層B2の膜厚(厚さ)は10nm以上にすることになる。
ちなみに、耐腐食性を向上させることを考えると、第2層B2を構成するアルミの膜厚(厚さ)は、50nm以上に厚くするのが望ましい。つまり、アルミは酸化して不働態を形成するが、不働態を形成できる層が分厚いほど耐久性が向上するからである。
【0101】
したがって、光反射層Bを第1層B1と第2層B2にて構成する場合において、第1層B1の銀の膜厚(厚み)を50nmとし、第2層B2のアルミの膜厚(厚み)を50nmにすると、アルミの光吸収の大きい450nmよりも長波長側の波長領域の光が、主として第1層B1の銀で反射され、銀を透過する450nm以下の光が、主として第2層B2のアルミで反射することにより、赤外放射層Aを透過した光等を効率良く反射することができる。
【0102】
このように、光反射層Bを第1層B1と第2層B2にて構成する場合においては、交差波長よりも長波長側の光を、主として第1層B1の銀で反射し、銀を透過した交差波長よりも短波長側光を、主として第2層B2のアルミで反射することにより、赤外放射層Aを透過した光等を効率良く反射できる。
その結果、光反射層Bを第1層B1と第2層B2にて構成する放射冷却装置CPにおいては、第1層B1の膜厚(厚さ)を100nm以下でかつ50nm以上にすれば、太陽光の反射率を十分に向上させることができる。
【0103】
図10〜
図22に基づく補足説明を鑑みながら、
図7の冷却能力(放射冷却能力)を再度考察すると、光反射層Bを第1層B1のみにて構成する場合には、銀の膜厚が100nm以下となると、太陽光が放射冷却装置CPを透過し、冷却対象Dを温めることになるので、放射冷却能力(放射冷却性能)が低下することになる。
このため、光反射層Bを第1層B1のみにて構成する場合には、銀の膜厚(厚さ)を300nmにして太陽光の透過を完全に遮断する場合と比較して、銀の膜厚(厚さ)を80nmにすると、放射冷却能力(放射冷却性能)が約一割程度下がる。
そして、銀の膜厚(厚さ)を40nm未満にすると、冷却能力(放射冷却能力)が大きく低下し、30nm以下では、冷却対象Dが加熱されることになる。
【0104】
これに対して、光反射層Bを第1層B1と第2層B2にて構成する場合においては、上述の如く、第1層B1の銀の厚みが3.3nmよりも大きいと、放射冷却装置CPが放射冷却能力(放射冷却性能)を生じることになる。
しかも、第1層B1を形成する銀の厚みが50nm〜100nmのときには、放射冷却装置CPの放射冷却能力(放射冷却性能)が、光反射層Bを第1層B1のみにて構成する場合(
図2参照)において銀の厚みを300nmとするときと、同等の能力となる。
【0105】
〔合金化防止透明層の補足説明〕
上述の如く、第1層B1の銀と第2層B2のアルミとを接触させた状態で長時間経過すると、銀とアルミの合金化が次第に進み、光反射層Bの太陽光の反射率が悪くなり、太陽光吸収が増加することが予想されるため、銀とアルミの合金化を防止するために、第1層B1と第2層B2との間に合金化防止透明層B3を設けることになる。
銀とアルミの合金化を防止する合金化防止透明層B3としては、第1層B1の銀を透過した光を良く透過する透明窒化膜および透明酸化膜が考えられる。
【0106】
説明を加えると、本発明の放射冷却装置の光反射層Bは、第1層B1の銀を透過する紫外光から可視光領域の光を第2層B2のアルミで反射させることによって、貴金属である銀の使用量を減らすものである。
このため、第1層B1の銀を透過した光を、合金化防止透明層B3を構成する透明窒化膜および透明酸化膜ができるだけ透過する必要がある。
【0107】
従って、合金化防止透明層B3を構成する透明窒化膜および透明酸化膜は、紫外光から可視光領域で透明である必要があるが、どのような透明窒化膜および透明酸化膜が適しているかについて考察する。
先ずは、化学反応性の観点から絞り込む。化学反応性の観点から絞り込む際は標準生成ギブスエネルギーを参考にスクリーニングするのが好ましい。金属Aと酸素が反応する下記(1)式の反応は、標準生成ギブスエネルギーの小さい方向に進む。
nA+mO
2→AnO
2m--------(1)
例えば、上記(1)式の反応よりも下記の(2)式の反応の方が、標準生成ギブスエネルギーが小さいとする。
nB+mO
2→BnO
2m--------(2)
この場合において、nモル(mol)のA及びBとmモル(mol)のOとを混合すると、平衡状態においてすべての酸素はBと結合することになる。さらに、1モル(mol)のAnO
2mとnモル(mol)のBとを混合すると、いずれAとBnO
2mに変化することになる。
【0108】
つまり、第1層B1の銀(Ag)と第2層B2のアルミ(Al)とを半永久的に金属のままにし、第1層B1と第2層B2との間に挟む透明窒化膜および透明酸化膜を半永久的に透明性の高い状態にするには、透明窒化膜および透明酸化膜の標準生成ギブスエネルギーが銀やアルミよりも小さくなる材料を、透明窒化膜や透明酸化膜の材料として選定することが肝要である。
【0109】
具体的には下記候補がある。なお、透明酸化膜の材料については、アルミの酸素拡散性の低さから、アルミの標準生成エネルギーよりも高い材料を選んでも問題ない。
(透明窒化膜の具体例)
透明窒化膜の場合には、標準生成ギブスエネルギーが銀およびアルミ以下である材料を選ぶとよい。
つまり、Ag
3N(+315kJ/mol)、AlN(−287kJ/mol)であるから、Alの−287kJ/molよりも小さな材料が良く、なおかつ紫外から可視領域において透明な材料が望まれる。
このような条件を満たす材料として、具体的には、Si
3N
4(−676kJ/mol)、AlN(−287kJ/mol)が挙げられる。
【0110】
(透明酸化膜の具体例)
透明酸化膜の場合には、標準生成ギブズエネルギー変化が銀以下である材料を選ぶとよい。
つまり、Ag
2O(−11kJ/mol)であるから、標準生成ギブスエネルギーが−11kJ/molよりも小さな材料を選ぶとよい。
なお、上述の如く、透明酸化膜の場合、アルミの酸化物Al
2O
3の標準生成ギブスエネルギー(−1582kJ/mol)よりも大きな材料を用いても問題ない。その理由は、Al
2O
3は、酸素拡散性の極めて低い材料であることによる。
具体例を示して説明すると、Al
2O
3と標準生成ギブスエネルギーの低い酸化物Xとを密着させる場合、当該酸化物X内の原子1〜2層程度の酸素がAlに引き抜かれXとAl
2O
3に変化してしまう一方で、Al
2O
3の酸素拡散性が極めて小さいために、酸化物X中の酸素がAl中に拡散することができないためである。
その結果、透明酸化膜の場合は、標準生成ギブスエネルギーが−11kJ/molよりも小さな材料を選ぶとよいことになり、且つ、紫外から可視領域において透明な材料が望まれる。
このような条件を満たす材料を列挙すると、以下のようなものが挙げられる。尚、族で分類しているが、族の酸化物のすべてが透明性及び標準生成ギブスエネルギーの観点で優れているわけでなく、上記条件を満たす酸化物だけを抜き出して記載する。
【0111】
第1族元素酸化物:Li
2O(−561kJ/mol)、Na
2O(−375kJ/mol)、K
2O(‐320kJ/mol)
第2族元素酸化物:BeO(−580kJ/mol)、MgO(−569kJ/mol)、CaO(−604kJ/mol)、SrO(−592kJ/mol)、BaO(−520kJ/mol)
第4族元素酸化物:TiO
2(−884kJ/mol)、ZrO
2(−1042kJ/mol)、HfO
2(−1088kJ/mol)
第5族元素酸化物:Nb
2O
5(−1766kJ/mol)、Ta
2O
5(−1911kJ/mol)
第13族元素酸化物:B
2O
3(−1194kJ/mol)、Al
2O
3(−1582kJ/mol)、Ga
2O
3(−998kJ/mol)
第14族元素酸化物:SiO
2(−856kJ/mol)、GeO
2(−500kJ/mol)、SnO
2(−856kJ/mol)
【0112】
ちなみに、スパッタリング等で製膜される材料としては、Al
2O
3(−1582kJ/mol)、SiO
2(−856kJ/mol)、TiO
2(−884kJ/mol)、ZrO
2(−1042kJ/mol)、HfO
2(−1088kJ/mol)、Nb
2O
5(−1766kJ/mol)、Ta
2O
5(−1911kJ/mol)があり、これら材料は製膜しやすい。
【0113】
尚、先述の通りAl
2O
3の酸素拡散性は低く反応速度は極めて遅いものの、標準生成ギブスエネルギーがAl
2O
3(−1582kJ/mol)よりも大きな(負に小さな)材料中の酸素は経時的にAlに奪われ、数十年といった長期的な視点で光学特性が変化し易い。長期使用による経時変化が気になる用途に用いる場合は、透明酸化膜として、Alの酸化物であるAl
2O
3、もしくは、Nb
2O
5(−1766kJ/mol)、Ta
2O
5(−1911kJ/mol)を選択するのがよい。この場合、Alと透明酸化膜の反応による反射率の経時的な変化は生じない。
【0114】
(透明窒化膜と透明酸化膜との優位性)
合金化防止透明層B3として、透明窒化膜と透明酸化膜のどちらを選択する方が良いかについて考える。結論としては、作製上、透明窒化膜を用いる方が良い。
銀の窒化物(Ag
3N)と酸化物(Ag
2O)とはいずれも黒い。第1層B1の銀の膜厚は薄く、紫外から可視領域の光を透過するので、銀の窒化物もしくは酸化物が生成されると、第1層B1の銀を透過した光が吸収されるので、日照下での放射冷却性能が著しく低下する。つまり、銀の窒化膜と酸化膜は少量でも、できてはならない。
【0115】
標準生成ギブスエネルギーに着目して、合金化透明層として、透明窒化膜と透明酸化膜のどちらが適しているか考える。
Ag
3Nの標準生成ギブスエネルギーは、+315kJ/molであり、Ag
2Oの標準生成ギブスエネルギーは、−11kJ/molである。つまり、標準生成ギブスエネルギーが正の値のAg
3Nは、非常に不安定であって、AgとN
2とが分かれて存在したほうが安定である。これに対して、標準生成ギブスエネルギーが負の値のAg
2Oは、黒色の酸化銀となる方が、AgとO
2とに分かれているよりも安定である。
【0116】
先ずは、合金化防止透明層B3が透明酸化膜である場合を考える。
図25に示すように、合金化防止透明層B3を透明酸化膜にする場合には、この透明酸化膜の成膜時に、第1層B1と合金化防止透明層B3との間に、銀が酸化した酸化銀Eが膜状に形成される可能性がある。尚、合金化防止透明層B3と第2層B2との間には、透明酸化膜の材料が何であれ、標準生成ギブスエネルギーの観点から、Al
2O
3が形成される。
【0117】
例えば、すべての膜の成膜をスパッタリングにて実施すると仮定する。
ちなみに、スパッタリングは、プラズマ中のラジカル化したガスをターゲット材料に運動エネルギーとして与え、それによってたたき出した材料をサンプルに積層させる手法である。
また、酸化物を製膜する際には、プラズマ中に酸素を入れて酸素ラジカルを作ったガスで製膜することが一般的である。
【0118】
そして、Al
2O
3やSiO
2のような酸化物は、成膜レートが一般に極めて遅いため、AlやSiといったスパッタリング速度の速い、酸化前のターゲットをたたき出し、プラズマ中に酸素を多量に入れ、サンプル表面で酸素とターゲット材料を反応させて酸化物を作る方法が用いられる。なお、この方法は「反応性スパッタリング」と呼ばれる。
【0119】
このような方法にてスパッタリング成膜をおこなうと、サンプル近くに反応性の高い酸素ラジカルが多量に存在することとなるので、成膜初期に酸素と銀が反応し、黒色の酸化銀E(
図23参照)が形成される。
銀の標準生成エネルギーは、大抵の透明酸化物の標準生成エネルギーよりも負に小さい。これは、上述の如く、酸素が銀に存在するよりも透明酸化物中に存在する方が安定であることを意味している。しかしながら、成膜した酸化膜に酸素欠陥がない場合には、酸化銀中の酸素の行き場がないので、酸化銀は銀に変化しない。
【0120】
また、透明酸化膜を介して存在するAlが酸化銀の酸素を受取りAl
2O
3に変化すると、Ag
2Oは消滅するが、アルミが酸化したAl
2O
3は、上述の如く、酸素拡散性が極めて低く、反応がすぐに止まるので、酸化銀中の酸素が十分に移動できる先がない。
従って、一度形成された酸化銀Eはなくならない。そして、上述の通り酸化銀Eは有色酸化物であることから、第1層B1の銀を透過した光を吸収するので、日照下での放射冷却性能を著しく低下させる。
【0121】
尚、ここまでスパッタリングで酸化物を作製する場合について説明してきたが、例えば蒸着法で製膜する場合は、ラジカルを形成しないため、酸化銀Eの形成を抑制することができる。しかし、蒸着においても加熱された酸化物ターゲット中の酸素が熱で抜けやすく、そのことによって酸化銀Eを形成することがあるので、注意深く条件出しをする必要がある。以上のことから、合金化防止透明層B3に酸化物を用いることもできるが、成膜方法に多くの制約が発生するものであると考えられる。
【0122】
以上のことを鑑みると、合金化防止透明層B3としては、透明酸化膜よりも透明窒化膜が適していると考えることができる。スパッタや蒸着にとらわれない雑な条件で製膜しても(生産性を向上させても)、銀の変色を防ぐことができるからである。
ちなみに、上述の如く、Ag
3N(+315kJ/mol)は非常に不安定であり、AgとN
2がわかれて存在したほうが安定である。このことから、どのような条件で成膜をおこなってもスパッタリングや蒸着程度のエネルギーでは、そもそも銀の窒化物(黒色)はできない。
したがって、合金化防止透明層B3として透明窒化膜を用いると、成膜のバリエーションが極めて豊かになるので、合金化防止透明層B3としては透明窒化膜を用いるのが好適であると考えられる。
【0123】
〔合金化防止透明層の厚さについて〕
上記の通り、合金化防止透明層B3としては、透明窒化膜と透明酸化膜のどちらも使用できるが、製作面を鑑みると、透明窒化膜の方が優れていることを説明した。
次に、合金化防止透明層B3の厚さ(膜厚)を検討する。
【0124】
合金化防止透明層B3の厚さ(膜厚)としては、400nm以下の波長のうちのいずれかの波長を共鳴波長とする厚さであることが好ましく、さらには、300nm以下の波長のうちのいずれかの波長を共鳴波長とする厚さであることが一層好ましいと考えることができる。
【0125】
説明を加えると、プラズモン共鳴波長は、第1層B1の銀、合金化防止透明層B3及び第2層B2のアルミの屈折率分布によって正確に決まるが、下記の(3)式にて、概算することができる。
λ=L*4*n/m--------(3)
なお、λは共鳴波長、Lは膜厚、nは計算波長における屈折率、mは任意の自然数である。
【0126】
太陽光スペクトルは概ね波長300〜4000nmの範囲に存在する。400nmよりも長波長側の太陽光強度(光エネルギー)は強いが、300〜400nmの紫外線領域の光は太陽光スペクトルのテールにあたるので、エネルギー的に大きくない。
したがって、400nm以下の短波長側の光吸収は、放射冷却材料を設計するうえで許容される。つまり、最大の共鳴波長(m=1の時の波長)が400nm以下の短波長側になるように窒化膜の厚みを設計すればよい(下記(4)式を参照のこと)。
L<λ/(4*n)=400/n
400nm/4--------(4)
尚、n
400nmは、波長が400nmのときの屈折率である。
【0127】
そして、最大共鳴波長が400nm以下でも日照下において冷却可能であるが、望ましくは紫外線の吸収を増大させない構造の方が良く冷えるものとなる。したがって、共鳴波長が300nm以下の短波長側に存在するように設計するとよい。
つまりは、L<λ/(4*n)=300/n
300nm/4を満たす厚みであるのが特に望ましい。
【0128】
透明窒化膜が窒化シリコン(Si
2N
3)である場合を例に具体的な説明をする。
窒化シリコンのn
400nm=2.1であり、n
300nm=2.17である。したがって、窒化シリコンの場合、膜厚47nm以下が良く、特に、34nm以下が望ましくなる。
【0129】
図23及び
図24は、放射冷却装置CPを、厚さ1mmのテンパックスにて赤外放射層Aを形成し、光反射層Bの第1層B1を膜厚が50nmの銀とし、光反射層Bの第2層B2を膜厚が50nmのアルミとし、密着層3を膜厚が5nmの酸化アルミニウム(Al
2O
3)にて形成し、膜厚が30nmの二酸化ケイ素(SiO
2)にて酸化防止層4を形成し、且つ、光反射層Bを合金化防止透明層B3を備えさせる形態に構成する場合において(
図2参照)、透明窒化膜としてのSi
3N
4や透明酸化膜としてのAl
2O
3の厚さを変化させたときの、光反射層Bの反射率を示す図である。
【0130】
つまり、
図23に示すように、窒化シリコン(Si
3N
4)の膜厚が50nm(〜47nm)のとき、400nmよりも少し短波長側にプラズモン共鳴による吸収が現れる。窒化シリコンの膜厚が30nm(〜34nm)になると、プラズモン共鳴由来の吸収は銀が元来持つ300nm付近の吸収率に隠れ目立たなくなる。つまり、望ましい構造にすると、窒化シリコン(Si
3N
4)にて形成される透明窒化膜の存在が太陽光の吸収に寄与しなくなる。
【0131】
透明酸化膜は、透明窒化膜とは屈折率が大きく異なるが、透明酸化膜を酸化アルミニウム(Al
2O
3)とすると、n
400nmが1.67であり、n
300nmが1.70である。
したがって、共鳴波長の計算を行うと、
図24に示すように、透明酸化膜が酸化アルミニウム(Al
2O
3)の場合、膜厚は60nm以下が良く、特に、44nm以下が望ましい。
なお、材料の熱膨張率の違いに起因するせん断応力による剥がれを防止する観点を考えると、合金化防止透明層B3の厚さ(膜厚)は薄ければ薄い方が良い。
【0132】
〔別実施形態〕
以下、別実施形態を列記する
。
【0133】
(
1)上記実施形態では、酸化防止層4を備える場合を例示したが、アルミにて形成される第2層B2の膜厚(厚さ)が十分に厚い場合等においては、酸化防止層4を省略してもよい。
【0134】
(
2)上記実施形態では、第1層B1を銀にて形成する場合を詳細に説明したが、第1層B1を銀合金で形成する場合における膜厚(厚さ)は、第1層B1を銀にて形成する場合の膜厚(厚さ)と同等にすることができる。
【0135】
(
3)上記実施形態では、第2層B2をアルミにて形成する場合を詳細に説明したが、第2層B2をアルミ合金で形成する場合における膜厚(厚さ)は、第2層B2をアルミにて形成する場合の膜厚(厚さ)と同等にすることができる。
【0136】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。