特許第6821098号(P6821098)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6821098
(24)【登録日】2021年1月7日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】放射冷却装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/26 20060101AFI20210114BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20210114BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20210114BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20210114BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
   G02B5/26
   G02B5/28
   G02B5/22
   B32B7/023
   B32B15/08 D
【請求項の数】11
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2020-532321(P2020-532321)
(86)(22)【出願日】2019年7月17日
(86)【国際出願番号】JP2019028145
(87)【国際公開番号】WO2020022156
(87)【国際公開日】20200130
【審査請求日】2020年7月6日
(31)【優先権主張番号】特願2018-137746(P2018-137746)
(32)【優先日】2018年7月23日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】末光 真大
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 禎
【審査官】 横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−122779(JP,A)
【文献】 特開2017−122778(JP,A)
【文献】 特表2005−535938(JP,A)
【文献】 特表平10−508263(JP,A)
【文献】 特表2016−513056(JP,A)
【文献】 特許第2696877(JP,B2)
【文献】 特表2013−532306(JP,A)
【文献】 特開2011−031601(JP,A)
【文献】 特開平10−291839(JP,A)
【文献】 特表2002−509271(JP,A)
【文献】 国際公開第2019/163340(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20−28
B32B 7/023
B32B 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置させる光反射層とが積層状態で設けられた放射冷却装置であって、
前記光反射層が、厚さが10nm以上100nm以下の範囲の銀あるいは銀合金からなる第1金属層、透明誘電体層、及び、前記第1金属層及び前記透明誘電体層を透過した光を反射する第2金属層の順に前記赤外放射層に近い側に位置させる形態で、前記第1金属層、前記透明誘電体層及び前記第2金属層を積層した状態に構成され、
前記透明誘電体層の厚さが、前記光反射層の共鳴波長を400nm以上800nm以下の波長のうちのいずれかの波長とする厚さに設定され
前記光反射層が、前記第1金属層を透過して前記透明誘電体層に到達した可視光のうちの前記共鳴波長を中心とする狭帯域の光を、前記第1金属層と前記第2金属層との間で繰り返し反射しながら、前記第1金属層及び前記第2金属層に吸収させるように構成されている放射冷却装置。
【請求項2】
前記第2金属層が、厚さが100nm以上の銀あるいは銀合金である請求項1に記載の放射冷却装置。
【請求項3】
前記第2金属層が、厚さが30nm以上のアルミニウムあるいはアルミニウム合金である請求項1に記載の放射冷却装置。
【請求項4】
前記第2金属層が、銀あるいは銀合金である第1層及びアルミニウムあるいはアルミニウム合金である第2層の順に前記透明誘電体層に近い側に位置させる形態で、前記第1層と前記第2層とを積層した状態に構成されている請求項1に記載の放射冷却装置。
【請求項5】
前記透明誘電体層が、透明窒化膜である請求項1〜4のいずれか1項に記載の放射冷却装置。
【請求項6】
前記透明誘電体層が、透明酸化膜である請求項1〜4のいずれか1項に記載の放射冷却装置。
【請求項7】
前記赤外放射層が、無アルカリガラス、クラウンガラス、ホウケイ酸ガラスのうちのいずれかのガラスにて構成されている請求項1〜6のいずれか1項に記載の放射冷却装置。
【請求項8】
前記赤外放射層を基板として、前記第1金属層、前記透明誘電体層及び前記第2金属層が積層されている請求項1〜7のいずれか1項に記載の放射冷却装置。
【請求項9】
前記赤外放射層と前記第1金属層との間に、密着層が積層されている請求項8に記載の放射冷却装置。
【請求項10】
前記第2金属層における前記透明誘電体層の存在側とは反対側に、酸化防止層が積層されている請求項8又は9に記載の放射冷却装置。
【請求項11】
前記赤外放射層の前記放射面が、光散乱用の凹凸を備える状態に形成されている請求項1〜10のいずれか1項に記載の放射冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置させる光反射層とが積層状態で設けられた放射冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
かかる放射冷却装置は、赤外放射層の放射面から放射される赤外光を大気の窓(例えば、波長が8μm以上14μm以下の大気が赤外光をよく透過させる波長域等)を通して透過させて、光反射層における赤外放射層の存在側とは反対側に位置する冷却対象を冷却する等、各種の冷却対象の冷却に用いられるものである。
【0003】
ちなみに、光反射層は、赤外放射層を透過した光(可視光、紫外光、赤外光)を反射して放射面から放射させることにより、赤外放射層を透過した光(可視光、紫外光、赤外光)が冷却対象に投射されて、冷却対象が加温されることを回避することになる。
尚、光反射層は、赤外放射層を透過した光に加えて、赤外放射層から光反射層の存在側に放射される赤外光を赤外放射層に向けて反射する作用も有することになるが、以下の説明においては、光反射層が、赤外放射層を透過した光(可視光、紫外光、赤外光)を反射するために設けられるものであるとして説明する。
【0004】
このような放射冷却装置の従来例として、赤外放射層が、SiOの層とMgOの層とSiの層とからなる層状体や、ガラス(光学ガラス)にて構成され、光反射層が、拡散反射体や、銀からなる金属層と、TiOの層とSiOの層とを交互に並べた多段層とを積層した状態にする多層状体にて構成されたものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2015/0338175号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
放射冷却装置は、赤外放射層と光反射層とを積層した状態での反射率が、太陽光のエネルギーの強度が高い波長域(例えば、400nm以上1800nm以下の波長、図26参照)に対して高い状態となるよう構成されることになる。
つまり、赤外放射層は、太陽光のエネルギーの強度が高い波長域に対する透過率が高いものであるが、光反射層が、赤外放射層を透過した光を十分に反射するように反射率が高い状態に構成されることになる。
【0007】
太陽光のエネルギーの強度が高い波長域(例えば、400nm以上1800nm以下)には、可視光の領域(400nm以上800nm以下)が含まれることになるが、光反射層が可視光の領域の光を高い反射率で反射する状態に構成される結果、赤外放射層の放射面の存在側から放射冷却装置を見ると、例えば、鏡面と同様な状態を感じる等、着色状態を感じ取れないものであった。
【0008】
すなわち、本発明の発明者は、赤外放射層を、無アルカリガラス、クラウンガラス、ホウケイ酸ガラスのいずれかのガラス(白板ガラス)にて構成し、光反射層を、厚さが300nm以上の銀からなる金属層として構成して、赤外放射層を透過した光を光反射層にて適切に反射させることにより、冷却対象を適切に冷却できる放射冷却装置を研究開発したが、当該放射冷却装置においては、赤外放射層の放射面の存在側から放射冷却装置を見ると、背面が銀色の鏡面と同様な状態を感じるものとなり、着色状態を感じ取れないものであった。
【0009】
しかしながら、意匠性を向上するため、赤外放射層の放射面の存在側から放射冷却装置を見たときに、ブルー、ピンク等、種々の色に着色されていることが望まれるものであった。
つまり、放射冷却装置は、例えば、家屋の屋根や自動車の屋根等に設置して使用することが想定されるが、そのような場合において、赤外放射層の放射面の存在側から放射冷却装置を見たときの色を、周囲の色と調和する色にする等の目的のために、赤外放射層の放射面の存在側から放射冷却装置を見たときに着色されていることが望まれる場合がある。
尚、以下の記載においては、赤外放射層の放射面の存在側から放射冷却装置を見たときに着色されていることを、放射面が着色されている状態と略称する。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みて為されたものであって、その目的は、太陽光の吸収による放射冷却性能の低下を極力回避しながら、放射面が着色されている状態となる放射冷却装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の放射冷却装置は、放射面から赤外光を放射する赤外放射層と、当該赤外放射層における前記放射面の存在側とは反対側に位置させる光反射層とが積層状態で設けられたものであって、その特徴構成は、
前記光反射層が、厚さが10nm以上100nm以下の範囲の銀あるいは銀合金からなる第1金属層、透明誘電体層、及び、前記第1金属層及び前記透明誘電体層を透過した光を反射する第2金属層の順に前記赤外放射層に近い側に位置させる形態で、前記第1金属層、前記透明誘電体層及び前記第2金属層を積層した状態に構成され、
前記透明誘電体層の厚さが、前記光反射層の共鳴波長を400nm以上800nm以下の波長のうちのいずれかの波長とする厚さに設定され
前記光反射層が、前記第1金属層を透過して前記透明誘電体層に到達した可視光のうちの前記共鳴波長を中心とする狭帯域の光を、前記第1金属層と前記第2金属層との間で繰り返し反射しながら、前記第1金属層及び前記第2金属層に吸収させるように構成されている点にある。
【0012】
すなわち、銀あるいは銀合金からなる第1金属層の厚さを、10nm以上100nm以下の範囲とすることにより、光学的な制御(共鳴波長の共鳴)を適切に行いながらも、可視光を適切に透過させることができる。
つまり、銀あるいは銀合金は、薄くなるほど太陽光を透過する透過率が高くなり、これに反して、反射率が低下するものであるから、第1金属層の厚さを、100nmよりも厚くすると、赤外放射層を透過した可視光を適切に透過できなくなって、共鳴波長の共鳴を利用した光の吸収による放射面の着色を行えないものとなり、又、第1金属層の厚さを、10nmよりも薄くすると、光を適切に反射できないため、光学的な制御(共鳴波長の共鳴)を適切に行えないものとなって、共鳴波長の共鳴を利用した光の吸収による放射面の着色を行えないものとなる。
【0013】
そして、第1金属層を透過した可視光は、基本的には、透明誘電体層を透過して第2金属層にて反射されて、再び、赤外放射層の放射面から大気中に放出されることになるが、透明誘電体層の厚さが、光反射層の共鳴波長を400nm以上800nm以下の波長のうちのいずれかの波長を共鳴波長とする厚さであるため、第1金属層を透過した可視光(つまり、400nm以上800nm以下の波長の光)のうちのいずれかの共鳴波長を中心とする狭帯域の光が、光学的な制御(共鳴波長の共鳴)により、光反射層に吸収されることになる。
つまり、第1金属層を透過して透明誘電体層に到達した可視光のうちの共鳴波長を中心とする狭帯域の光が、第1金属層と第2金属層との間で繰り返し反射されながら、第1金属層や第2金属層に吸収されることになる。
【0014】
その結果、光反射層にて反射されて、赤外放射層の放射面から大気中に放出される可視光は、光反射層に吸収された狭帯域の光を含まないものとなるため、赤外放射層の放射面の存在側から放射冷却装置を見ると、着色されている状態となる。
そして、透明誘電体層の厚さを変化させることにより、400nm以上800nm以下の波長のうちの共鳴波長とする波長を変化させて、赤外放射層の放射面の存在側から放射冷却装置を見たときの色を変化させることができる(図27参照)。
【0015】
しかも、可視光(つまり、400nm以上800nm以下の波長の光)のうちのいずれかの共鳴波長を中心とする狭帯域の光を光反射層に吸収させるものであるから、太陽光の吸収による温度上昇により、放射冷却性能の低下があるにしても、狭帯域の光の吸収であるため、放射冷却性能の低下は小さなものである。
【0016】
要するに、本発明の特徴構成によれば、太陽光の吸収による放射冷却性能の低下を極力回避しながら、放射面が着色されている状態となる放射冷却装置を提供できる。
【0017】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記第2金属層が、厚さが100nm以上の銀あるいは銀合金である点にある。
【0018】
すなわち、銀あるいは銀合金は、厚さ(膜厚)が大きくなるほど反射率が大きくなるものであり、特に、厚さが100nm以上になると、赤外光や可視光(400nm以上800nm以下の波長)の反射率が、90%を超える程度に大きくなる。
【0019】
したがって、銀あるいは銀合金からなる第2金属層の厚さが、100nm以上であるから、第1金属層及び透明誘電体層を透過してきた赤外光や可視光を適切に反射することにより、光反射層における赤外放射層の存在側とは反対側に位置する冷却対象に赤外光や可視光が到達することを的確に遮断して、冷却対象の冷却を良好に行うことができる。
【0020】
要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、第2金属層にて赤外光や可視光を適切に反射して、冷却対象の冷却を良好に行うことができる。
【0021】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記第2金属層が、厚さが30nm以上のアルミニウムあるいはアルミニウム合金である点にある。
【0022】
すなわち、アルミニウムあるいはアルミニウム合金は、銀あるいは銀合金に較べて、可視光の吸収率が高い(図31参照)。
したがって、第2金属層を、厚さが30nm以上のアルミニウムあるいはアルミニウム合金とすることにより、第1金属層を透過して透明誘電体層に到達した可視光のうちの共鳴波長の光を、第2金属層にて適切に吸収させることができるため、銀あるいは銀合金にて第2金属層を構成する場合よりも、はっきりとした着色を得ることができる。
【0023】
ちなみに、アルミニウムあるいはアルミニウム合金は、銀あるいは銀合金に較べて、紫外光の反射率が高いものである。
このため、第1金属層を透過した紫外光を適切に反射することができるため、光反射層における赤外放射層の存在側とは反対側に位置する冷却対象に紫外光が到達することを的確に遮断して、冷却対象の冷却を良好に行うことができる。
【0024】
要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、はっきりとした着色を得ることができる。
【0025】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記第2金属層が、銀あるいは銀合金である第1層及びアルミニウムあるいはアルミニウム合金である第2層の順に前記透明誘電体層に近い側に位置させる形態で、前記第1層と前記第2層とを積層した状態に構成されている点にある。
【0026】
すなわち、銀あるいは銀合金である第1層とアルミニウムあるいはアルミニウム合金である第2層とを、第1層を透明誘電体層に近い側に位置させる形態で積層した場合には、第1層の厚さ(膜厚)を、第2金属層を銀あるいは銀合金にて構成する場合よりも薄くしながら、第2金属層を銀あるいは銀合金にて構成する場合とほとんど変わらない光学特性を得ることができるため、高価な銀あるいは銀合金の使用量を減少できる。
【0027】
しかも、例えば、第1層の厚みを2nmよりも大きくし且つ第2層を30nm以上としながら、全体の厚みを60nm程度にすることにより、第2金属層の全体を銀あるいは銀合金にて構成する場合とほとんど変わらない光学特性を備える第2金属層を構成できる等、第2金属層の膜厚を、第2金属層の全体を銀あるいは銀合金にて構成する場合の厚さ(例えば、100nm)よりも薄くできるので、第2金属層の製作コストの低下を図ることができる。
【0028】
要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、高価な銀あるいは銀合金の使用量を減少し且つ製作コストの低下により、第2金属層の低廉化を図ることができる。
【0029】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記透明誘電体層が、透明窒化膜である点にある。
【0030】
すなわち、透明誘電体層として、透明窒化膜を設けて、その厚さを調整することにより、放射面が着色された状態における色の調整を良好に行うことができる。
透明窒化膜の具体例としては、Si、AlNを挙げることができる。
ちなみに、透明窒化膜は、スパッタリングや蒸着等を用いて製膜する際に、第1金属層が銀あるいは銀合金にて構成されている場合において、銀あるいは銀合金が変色しないため、生産性を向上し易い利点がある。
【0031】
尚、透明窒化膜は、第1金属層が銀あるいは銀合金にて構成され、第2金属層がアルミニウムあるいはアルミニウム合金にて構成される場合において、第1金属層の銀あるいは銀合金と第2金属層のアルミニウムあるいはアルミニウム合金とが合金化することを抑制する透明合金化防止層として機能することになる。
つまり、銀とアルミニウムとが合金化することを抑制して、光反射層の光の吸収を回避しながら、光反射層により光を適切に反射する状態を長期間に亘って維持させることができる。
【0032】
要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、放射面が着色された状態における色の調整を良好に行うことができる。
【0033】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記透明誘電体層が、透明酸化膜である点にある。
【0034】
すなわち、透明誘電体層として、透明酸化膜を設けて、その厚さを調整することにより、放射面が着色された状態における色の調整を良好に行うことができる。
透明酸化膜の具体例としては、多数のものが適用できるが、具体例の一例として、蒸着やスパッタリング等で製膜しやすいAl、SiO、TiO、ZrO、HfO、Nb、Taを挙げることができる。
【0035】
尚、透明酸化膜は、第1金属層が銀あるいは銀合金にて構成され、第2金属層がアルミニウムあるいはアルミニウム合金にて構成される場合において、第1金属層の銀あるいは銀合金と第2金属層のアルミニウムあるいはアルミニウム合金とが合金化することを抑制する透明合金化防止層として機能することになる。
つまり、銀とアルミニウムとが合金化することを抑制して、光反射層の光の吸収を回避しながら、光反射層により光を適切に反射する状態を長期間に亘って維持させることができる。
【0036】
要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、放射面が着色された状態における色の調整を良好に行うことができる。
【0037】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記赤外放射層が、無アルカリガラス、クラウンガラス、ホウケイ酸ガラスのうちのいずれかのガラスにて構成されている点にある。
【0038】
すなわち、無アルカリガラス、クラウンガラス、ホウケイ酸ガラスは、比較的に安価でありながらも、太陽光のエネルギーの強度が大きな400nm以上1800nm以下の波長についての透過率が高く(例えば、95%以上)、しかも、大気の窓(例えば、波長が8μm以上14μm以下の赤外光を透過させる窓等)に相当する波長の赤外光を放射する輻射強度が高い性質を有する。
【0039】
したがって、赤外放射層を、無アルカリガラス、クラウンガラス、ホウケイ酸ガラスのうちのいずれかのガラスにて構成することにより、冷却能力を向上させながらも、全体構成の低廉化を図ることができる。
【0040】
要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、冷却能力を向上させながらも、全体構成の低廉化を図ることができる。
【0041】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記赤外放射層を基板として、前記第1金属層、前記透明誘電体層及び前記第2金属層が積層されている点にある。
【0042】
すなわち、赤外放射層を基板として、第1金属層、透明誘電体層及び第2金属層が積層されているから、全体構成の簡素化を図り、しかも、全体構成の薄膜化を図ることができる。
ちなみに、赤外放射層を基板として、第1金属層、透明誘電体層及び第2金属層を積層する際に、第1金属層、透明誘電体層及び第2金属層が薄い場合には、例えば、スパッタリング等により、第1金属層、透明誘電体層及び第2金属層を順次積層することになる。
【0043】
つまり、積層用基板を設けて、その積層用基板に対して、スパッタリング等により、第2金属層、透明誘電体層及び第1金属層を順次積層し、その後、第1金属層の第2金属層の存在側とは反対側箇所に、別途製作した赤外放射層を載置して積層する、又は、第1金属層の透明誘電体層の存在側とは反対側箇所に、スパッタリング等により、赤外放射層を積層する場合に較べて、積層用基板を設ける必要が無いため、全体構成の簡素化を図り、しかも、全体構成の薄膜化を図ることができる。
【0044】
要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、全体構成の簡素化を図り、しかも、全体構成の薄膜化を図ることができる。
【0045】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記赤外放射層と前記第1金属層との間に、密着層が積層されている点にある。
【0046】
すなわち、赤外放射層と光反射層の第1金属層との間に密着層が積層されているから、温度変化等に起因して、光反射層の第1金属層が、ガラス等にて構成される赤外放射層に対して剥離する等の損傷が生じることを抑制できるため、耐久性を向上できる。
【0047】
要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、耐久性の向上を図ることができる。
【0048】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記第2金属層における前記透明誘電体層の存在側とは反対側に、酸化防止層が積層されている点にある。
【0049】
すなわち、第2金属層における透明誘電体層の存在側とは反対側に、酸化防止層が積層されているから、第2金属層が酸化して劣化することを抑制できるため、耐久性を向上できる。
【0050】
要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、第2金属層の劣化を抑制して、耐久性を向上できる。
【0051】
本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成は、前記赤外放射層の前記放射面が、光散乱用の凹凸を備える状態に形成されている点にある。
【0052】
すなわち、赤外放射層の放射面が光散乱用の凹凸を備えているから、赤外放射層の放射面が着色されている状態、つまり、赤外放射層の放射面の存在側から放射冷却装置を見たときに着色されている状態を、放射面を様々な方向から見ても、適切に得ることができる。
【0053】
要するに、本発明の放射冷却装置の更なる特徴構成によれば、放射面を様々な方向から見ても、放射面が着色されている状態を適切に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1】は、放射冷却装置の基本構成を示す図である。
図2】は、放射冷却装置の具体構成を示す図である。
図3】は、放射冷却装置の第1構造を示す図である。
図4】は、第1構造の放射冷却装置の反射率及び吸収率を示すグラフである。
図5】は、放射冷却装置の第2構造を示す図である。
図6】は、第2構造の放射冷却装置の反射率及び吸収率を示すグラフである。
図7】は、放射冷却装置の第3構造を示す図である。
図8】は、第3構造の放射冷却装置の反射率及び吸収率を示すグラフである。
図9】は、放射冷却装置の第4構造を示す図である。
図10】は、第4構造の放射冷却装置の反射率及び吸収率を示すグラフである。
図11】は、第4構造及び従来の放射冷却装置の反射率を示すグラフである。
図12】は、第1から第4構造及び従来の放射冷却装置の冷却能力を示すグラフである。
図13】は、放射冷却装置の第5構造を示す図である。
図14】は、第5構造の放射冷却装置の反射率及び吸収率を示すグラフである。
図15】は、放射冷却装置の第6構造を示す図である。
図16】は、第6構造の放射冷却装置の反射率及び吸収率を示すグラフである。
図17】は、比較構造の放射冷却装置を示す図である。
図18】は、放射冷却装置の第1から第11構造とXY色度との関係を示す表である。
図19】は、XY色度図を示す図である。
図20】は、透明誘電体層の厚さと共鳴波長との参考関係を示す図である。
図21】は、透明誘電体層の厚さと共鳴波長との関係を示す図である。
図22】は、銀の膜厚と透過率との関係を示す図である。
図23】は、第1金属層の厚さと光反射層の反射率との関係を示す図である。
図24】は、第1金属層の厚さと光反射層の反射率との関係を示す図である。
図25】は、第8構造の放射冷却装置の反射率を示す図である。
図26】は、太陽光エネルギーの強度を示すグラフである。
図27】は、共鳴波長と着色される色との関係を示す表である。
図28】は、共鳴波長が800nmのときの反射率を示すグラフである。
図29】は、第2金属層を構成する金属を変えたときの反射率を示すグラフである。
図30】は、第2金属層を金と銅とに構成するときの反射率を示すグラフである。
図31】は、銀とアルミニウムとの吸収率を示すグラフである。
図32】は、別実施形態の放射冷却装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔放射冷却装置の基本構成〕
図1に示すように、放射冷却装置CPの基本構成は、放射面Hから赤外光IRを放射する赤外放射層Aと、当該赤外放射層Aにおける放射面Hの存在側とは反対側に位置させる光反射層Bとが積層状態に設けられている構成である。
【0056】
光反射層Bが、第1金属層B1、透明誘電体層B2、及び、第1金属層B1及び透明誘電体層B2を透過した光を反射する第2金属層B3の順に赤外放射層Aに近い側に位置させる形態で、第1金属層B1、透明誘電体層B2及び第2金属層B3を積層した状態に構成されている。
そして、透明誘電体層B2の厚さが、光反射層Bの共鳴波長を400nm以上800nm以下の波長のうちのいずれかの波長とするための厚さ(30nm以上230nm以下)に設定されている。
【0057】
赤外放射層Aは、太陽光のエネルギーの強度が大きい400nm以上1800nm以下の波長(図26参照)についての透過率が高く(例えば、95%以上)、8μm以上14μm以下の波長範囲で大きな熱輻射を生じる材料がよい。
その具体例としては、無アルカリガラス、クラウンガラス、ホウケイ酸ガラスのうちのいずれかのガラス(白板ガラス)を挙げることができ、その他、オレフィン系樹脂、PET系樹脂、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂等の樹脂を挙げることができる。
【0058】
ちなみに、無アルカリガラスとしては、例えば、OA10G(日本電気硝子製)を用いることができ、クラウンガラスとしては、例えば、B270(登録商標、以下同じ)を用いることができ、ホウケイ酸ガラスとしては、例えば、テンパックス(登録商標、以下同じ)を用いることができる。
【0059】
以下の記載においては、赤外放射層Aが「テンパックス」にて形成されているとして説明する。
ちなみに、赤外放射層Aを構成するテンパックスの厚さは、10μm以上で10cm以下である必要があり、好ましくは、20μm以上で10cm以下、より好ましくは、100μm以上で1cm以下が良い。
つまり、赤外放射層Aを、8μm以上14μm以下の赤外域で大きな熱輻射を示し、当該熱輻射が、赤外放射層A及び光反射層Bの夫々にて吸収されるAM1.5Gの太陽光及び大気の熱輻射よりも大きくなるようにすることにより、昼夜を問わず周囲の大気よりも温度が低下する放射冷却作用を発揮する放射冷却装置CPを構成することができる。
そして、そのようにするにあたり、赤外放射層Aをテンパックスにて構成する場合には、厚さを10μm以上で10cm以下にする必要があり、好ましくは、20μm以上で10cm以下、より好ましくは、100μm以上で1cm以下が良い。
本実施形態においては、テンパックスの厚さが1mmであるとする。
【0060】
第1金属層B1が、厚さが10nm以上100nm以下の範囲の銀あるいは銀合金から構成されている。
「銀合金」としては、銀に、銅、パラジウム、金、亜鉛、スズ、マグネシウム、ニッケル、チタンのいずれかを、例えば、0.4質量%以上4.5質量%以下程度を添加した合金を用いることができる。具体例としては、銀に銅とパラジウムを添加して作成した銀合金である「APC−TR(フルヤ金属製)」を用いることができる。
以下の記載においては、第1金属層B1を、銀を用いて構成するものとして説明する。
【0061】
ちなみに、図3図5図7図9図13及び図15に、放射冷却装置CPの具体例(具体構造)を例示するが、いずれの具体例においても、第1金属層B1の厚さは、35nmである。
尚、以下の記載において、図3図5図7図9図13及び図15にて示す放射冷却装置CPの具体例(具体構造)の夫々を、第1構造から第6構造と呼称する。
【0062】
また、第1金属層B1の銀は、図22に示すように、厚さの変化により透過率が変化することになり、その結果、図23及び図24に示すように、第1金属層B1の銀の厚さの変化により、放射冷却装置CP(光反射層B)の反射率が変動することになるが、その詳細は後述する。
【0063】
第2金属層B3としては、第1構造から第4構造にて示す如く、銀あるいは銀合金にて構成する場合(図3図5図7図9参照)、第5構造にて示す如く、アルミニウムあるいはアルミニウム合金にて構成する場合(図13参照)、第6構造にて示す如く、銀あるいは銀合金である第1層b1及びアルミニウムあるいはアルミニウム合金である第2層b2の順に透明誘電体層B2に近い側に位置させる形態で、第1層b1及び第2層b2を積層した状態に構成する場合(図15参照)があり、その他、例示はしないが銅や金を用いて構成する場合がある。
【0064】
第2金属層B3を、銀あるいは銀合金にて構成する場合において、その厚さとしては、80nm以上が良く、100nm以上が一層よい。
第2金属層B3を、アルミニウムあるいはアルミニウム合金にて構成する場合において、その厚さとしては、30nm以上が良く、50nm以上が一層よい。
第2金属層B3を、銅にて構成する場合において、その厚さとしては、80nm以上が良く、100nm以上が一層よい。
第2金属層B3を、金にて構成する場合においては、銅と同様に構成することができる。
【0065】
第2金属層B3を第1層b1及び第2層b2を積層した状態に構成する場合においては、第1層b1の厚み(膜厚)を2nmよりも大きくし且つ第2層b2の厚み(膜厚)を30nm以上としながら、全体の厚みを60nm程度にすることにより、第2金属層B3の全体を、100nm程度の厚さの銀あるいは銀合金にて構成する場合とほとんど変わらない光学特性を備えさせることができる。
尚、図15には、第1層b1を厚さが10nmの銀、第2層b2を厚さが60nmのアルミニウムである場合を例示する。
【0066】
ちなみに、第6構造にて示す如く、第2金属層B3を、銀あるいは銀合金である第1層b1及びアルミニウムあるいはアルミニウム合金である第2層b2から構成する場合には、図示は省略するが、透明誘電体層B2と同様の透明窒化膜や透明酸化膜を、透明合金化防止層として、第1層b1と第2層b2との間に積層するとよい。
【0067】
「アルミ合金」としては、アルミニウムに、銅、マンガン、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、機械構造用炭素鋼、イットリウム、ランタン、ガドリニウム、テルビウムを添加した合金を用いることができる。
【0068】
透明誘電体層B2は、透明窒化膜や透明酸化膜にて構成される。
透明窒化膜としては、Si、AlNを挙げることができる。
透明酸化膜としては、多数の酸化物を挙げることができるが、蒸着やスパッタリングなどで製膜し易い酸化物として、Al、SiO、ZrO、TiO、HfO、Nb、Taを挙げることができ、その詳細は後述する。
尚、第1構造から第6構造においては、透明誘電体層B2が、透明窒化膜(Si)で構成されているものとして説明する。
【0069】
また、透明誘電体層B2の厚さは、放射面Hが着色されている状態、つまり、赤外放射層Aの放射面Hの存在側から放射冷却装置CPを見たときに着色されている状態とするために、光反射層Bの共鳴波長を400nm以上800nm以下の波長のうちのいずれかの波長とする厚さであり、その詳細は後述する。
ちなみに、透明誘電体層B2は、第2金属層B3をアルミニウムあるいはアルミニウム合金にて構成する場合において、第1金属層B1の銀あるいは銀合金と第2金属層B3のアルミニウムあるいはアルミニウム合金との合金化を防止する透明合金化防止層としても機能することになる。
【0070】
〔放射冷却装置の具体構成〕
放射冷却装置CPは、赤外放射層Aを基板として、第1金属層B1、透明誘電体層B2及び第2金属層B3を積層することにより構成されるが、その具体構成は、図2に示すように、基板としての赤外放射層Aと第1金属層B1との間に、密着層3が積層され、かつ、第2金属層B3における透明誘電体層B2の存在側とは反対側に、酸化防止層4が積層されている構成である。
【0071】
つまり、放射冷却装置CPが、赤外放射層Aを基板として、例えばスパッタリングにより、密着層3、第1金属層B1、透明誘電体層B2、第2金属層B3及び酸化防止層4を順次製膜する形態に構成されている。
【0072】
密着層3は、酸化アルミニウム(Al)を1nm以上100nm以下に製膜する形態に構成されている。
酸化防止層4が、二酸化ケイ素(SiO)又は酸化アルミニウム(Al)を、1nm以上数100nm以下に製膜する形態に構成されている。尚、第1構造から第6構造においては、二酸化ケイ素(SiO)が製膜されているとして説明する。
【0073】
従って、放射冷却装置CPは、放射冷却装置CPに入射した光Lのうちの一部の光を、赤外放射層Aの放射面Hにて反射し、放射冷却装置CPに入射した光Lのうちで赤外放射層Aを透過した光(例えば、可視光、紫外光等)の一部を、光反射層Bの第1金属層B1にて反射し、第1金属層B1を透過した光を、光反射層Bの第2金属層B3にて反射するように構成されている。
【0074】
そして、酸化防止層4における光反射層Bの存在側とは反対側に位置する冷却対象Dから放射冷却装置CPへの入熱(例えば、冷却対象Dからの熱伝導による入熱)を、赤外放射層Aによって赤外光IRに変換して放射することにより、冷却対象Dを冷却するように構成されている。
尚、本実施形態において光Lとは、その波長が10nm以上20000nm以下の範囲の電磁波のことを言う。つまり、光Lには、紫外光、赤外光IRおよび可視光が含まれる。
【0075】
又、本発明の放射冷却装置CPは、透明誘電体層B2の厚さが、光反射層Bの共鳴波長を400nm以上800nm以下の波長のうちのいずれかの波長とする厚さに設定されているから、放射面Hが着色されている状態、つまり、赤外放射層Aの放射面Hの存在側から放射冷却装置CPを見たときに着色されている状態となる。
【0076】
共鳴波長と着色される色との関係は、図27に示す通りである。例えば、共鳴波長が400nmときには、薄い黄色になり、共鳴波長が600nmのときには、水色になり、共鳴波長が700nm以上750nm以下のときには、白色になる。
尚、共鳴波長が800nmのときには、図28に示すように、800nmの半波長である400nmの波長も共鳴波長となるため、共鳴波長が400nmときと同様に、薄い黄色になる。
【0077】
ちなみに、図27の表に記載した「薄い黄色」を、以下の記載では「ライトイエロー」と記載することがあり、「水色」を「ライトブルー」と記載することがある。
【0078】
〔第1金属層と厚さと透過率との関係について〕
図22に示すように、第1金属層B1の銀の厚さ(膜厚)を、100nmから順に薄くしていったとき、10nm以下となると、銀の透過率がかなり大きくなる。
本発明の放射冷却装置CPは、共鳴周波数(共鳴波長)の光を透明誘電体層B2の中で共鳴させて、発色させるものである。
つまり、共鳴周波数(共鳴波長)の光を光反射層Bの中で共鳴させるとは、合わせ鏡のようになっている第1金属層B1と第2金属層B3との中で、共鳴周波数(共鳴波長)の光を、第1金属層B1及び第2金属層B3にて反射しながら何度も往復させて、つまり、光を透明誘電体層B2の中にできるだけ長時間閉じ込めて、共鳴周波数(共鳴波長)の光を含む狭帯域の光だけを、ピンポイントで第1金属層B1及び第2金属層B3に吸収させるものであり、その結果、発色させるものである。
【0079】
したがって、第1金属層B1の銀の厚さ(膜厚)が厚すぎると、殆どの光が第1金属層B1の銀にて反射されて、透明誘電体層B2まで光が殆ど透過せず、光学制御に重要な“共鳴”を起こすことができないことになる。
逆に、第1金属層B1の銀の厚さ(膜厚)が薄くなりすぎると、銀の透過率が高くなりすぎて、十分に光を閉じ込めながら、光を金属に吸収させること(共鳴)ができなくなるので、光吸収率が下がることになり、また、共鳴作用が弱まることによって、金属に吸収される波長域(吸収ピーク)が拡がる傾向となる。
【0080】
すなわち、第1金属層B1の銀の厚さ(膜厚)は、光反射層Bが太陽光スペクトルの範囲において高い反射率を持ちながら、着色のための急峻な吸収ピークを持つようにするためには、厚すぎても、薄すぎてもよくない。
つまり、第1金属層B1の銀の厚さ(膜厚)には、光を閉じ込めながらも(ある程度の反射率を持ちながらも)、光を閉じ込める場所(透明誘電体層B2の中)に光を入れる(透過させる)ことができるという、適切なバランスを得られることができる厚さ(膜厚)が求められることになる。
【0081】
〔第1金属層の厚さと反射率との関係について〕
図23は、赤外放射層Aを構成するテンパックスの厚さ(膜厚)を1mmとし、透明誘電体層B2を構成するSiの厚さ(膜厚)を100nmとし、第2金属層B3を構成する銀の厚さ(膜厚)を100nmとする場合において、第1金属層B1の厚さを40nm以上100nm以下の範囲で変化させたときの、放射冷却装置CPの反射率の変化を示す。
【0082】
図24は、同様に、赤外放射層Aを構成するテンパックスの厚さ(膜厚)を1mmとし、透明誘電体層B2を構成するSiの厚さ(膜厚)を100nmとし、第2金属層B3を構成する銀の厚さ(膜厚)を100nmとする場合において、第1金属層B1の厚さを1nm以上40nm以下の範囲で変化させたときの、放射冷却装置CPの反射率の変化を示す。
【0083】
図23に示すように、第1金属層B1の銀の厚さ(膜厚)を、100nmから40nmに向けて薄くしていくと、第1金属層B1の銀の透過率の増加に従い、透明誘電体層B2に光がたくさん入るようになり、共鳴波長の光がより多く吸収されるようになる。
また、図24に示すように、第1金属層B1の銀の厚さ(膜厚)を、40nmから10nmに向けて薄くしていくと、第1金属層B1の銀の反射率が下がることになり、その結果、透明誘電体層B2の中に光を閉じ込める作用(共鳴)が弱くなり、吸収ピークが小さくなり、しかも、吸収ピークがブロードになる。
【0084】
さらに、両図を比較すると、600nm付近に共振のピーク(共鳴波長)を作る場合には、第1金属層B1の銀の厚さ(膜厚)を、40nm程度にすることが適していることがわかる。
つまり、図22に示すように、銀の透過率は波長によって変化するので、共鳴させる波長によって、適した銀の厚さ(膜厚)は変わることになる。
但し、放射冷却装置CPの放射面Hを着色された状態にする場合、共鳴させるべき波長は可視光の領域(400nm以上800nm以下)であり、この波長域で制御する場合に適した第1金属層B1の銀の厚さ(膜厚)は10nm以上100nm以下の範囲内に収まる。
【0085】
ちなみに、図22に示すように、第1金属層B1の銀の厚さ(膜厚)を100nm程度にすると、第1金属層B1を透過する光の波長が500nm以下となるため、制御できる共鳴波長が500nm以下になる等、第1金属層B1の銀の厚さ(膜厚)によっては、制御可能な共鳴波長の範囲が変動する。
そして、第1金属層B1の銀の厚さ(膜厚)を、25nm以上80nm以下の範囲にした場合には、400nm以上800nm以下の全範囲の波長を共鳴波長として制御できることになる。
【0086】
〔透明誘電体層の厚さについて〕
透明誘電体層B2の厚さ(膜厚)は、光反射層Bの共鳴波長を400nm以上800nm以下の波長のうちのいずれかの波長とする厚さであり、具体的には、30nm以上230nm以下の厚さである(図21参照)。
【0087】
説明を加えると、プラズモン共鳴による共鳴波長は、第1金属層B1、透明誘電体層B2及び第2金属層B3の屈折率分布によって正確に決まるが、下記の(1)式にて、概算することができる。
λ=L*4*n--------(1)
なお、λは共鳴波長、Lは透明誘電体層の厚さ、nは代表的な屈折率である。
【0088】
図20は、透明誘電体層B2として使える材料群(一部)の代表的な屈折率nと、透明誘電体層B2の厚さ(膜厚)Lと、共鳴波長λの関係を示している。
なお、「代表的な」屈折率nと表記している理由は、材料の屈折率は波長によって変化するためであり、本図では、可視光領域(400nm以上800nm以下)におけるそれぞれの材料の平均的な屈折率を記している。
【0089】
また、図20に示す共鳴波長λは、それぞれの膜が1層だけ存在する際の共鳴波長であり、透明誘電体層B2が銀、アルミニウム、銅等の金属で挟まれた際の共鳴波長とは異なる。つまり、この値は、光学設計する際の参考的値である。
【0090】
図21に、透明誘電体層B2が銀に挟まれている場合の、厚さ(膜厚)と共鳴波長との関係を示す。
透明誘電体層B2が銀にて挟まれた場合、図20に示す一層のみのときよりも、同じ厚さ(膜厚)Lでの共鳴波長λが短波長側にシフトすることになる。これは、金属によって、透明誘電体層B2の電磁界が透明誘電体層B2の中心付近に集中することによりおこる現象である。
【0091】
短波長側へシフトする度合いは挟む金属種によって異なるが、図29に示すように、アルミニウム、銀、銅の順に、共鳴波長λが短波長側に大きくシフトすることになる。
すなわち、図29は、赤外放射層Aを厚さが1mmのテンパックスとし、第1金属層B1を55nmの銀とし、透明誘電体層B2を厚さが80nmの窒化アルミニウム(AlN)として、第2金属層B3を、100nmのアルミニウム、100nmの銀、100nmの銅とする場合における反射率を示すものであり、アルミニウム、銀、銅の順に、共鳴波長λが短波長側に大きくシフトすることになる。
【0092】
ちなみに、図30は、赤外放射層Aを厚さが1mmのテンパックスとし、第1金属層B1を55nmの銀とし、透明誘電体層B2を厚さが80nmの窒化アルミニウム(AlN)として、第2金属層B3を、100nmの金、100nmの銅とする場合における反射率を示すものであり、金と銅については、共鳴波長λが短波長側にシフトする大きさは同程度である。
【0093】
〔放射面の着色の具体例〕
第1構造から第4構造において、赤外放射層Aを厚さが1mmのテンパックスとし、密着層3を5nmの酸化アルミニウム(Al)とし、第1金属層B1を35nmの銀とし、透明誘電体層B2を窒化シリコン(Si)とし、第2金属層B3を100nmの銀とし、酸化防止層4を10nmの二酸化ケイ素(SiO)とする場合に、第1構造から第4構造における放射面Hが着色されている状態の色を説明する。
【0094】
図3に示すように、透明誘電体層B2を形成する窒化シリコン(Si)の厚さ(膜厚)を100nmにする第1構造では、放射面Hが着色されている状態の色がライトブルーになり、図5に示すように、透明誘電体層B2を形成する窒化シリコン(Si)の厚さ(膜厚)を80nmにする第2構造では、放射面Hが着色されている状態の色がライトピンクになる。
【0095】
又、図7に示すように、透明誘電体層B2を形成する窒化シリコン(Si)の厚さ(膜厚)を65nmにする第3構造では、放射面Hが着色されている状態の色がライトレッドになり、図9に示すように、透明誘電体層B2を形成する窒化シリコン(Si)の厚さ(膜厚)を50nmにする第4構造では、放射面Hが着色されている状態の色がライトイエローになる。
【0096】
ちなみに、図4には、第1構造における反射率及び吸収率を示し、図6には、第2構造における反射率及び吸収率を示し、図8には、第3構造における反射率及び吸収率を示し、図10には、第4構造における反射率及び吸収率を示している。
【0097】
尚、図11には、第4構造の反射率と比較構造の反射率とを示している。
比較構造は、赤外放射層Aを厚さが1mmのテンパックスとし、密着層3を5nmの酸化アルミニウム(Al)とし、光反射層Bを300nmの銀とし、酸化防止層4を10nmの二酸化ケイ素(SiO)とするものである。
第4構造の反射率が、共鳴波長の領域で低くなっているのに対して、従来の放射冷却装置CPである比較構造の反射率は、可視光(400nm以上800nm以下)の領域において95%以上の高い状態となる。
【0098】
また、図13に示す第5構造において、赤外放射層Aを厚さが1mmのテンパックスとし、密着層3を5nmの酸化アルミニウム(Al)とし、第1金属層B1を35nmの銀とし、透明誘電体層B2を100nmの窒化シリコン(Si)とし、第2金属層B3を30nmのアルミニウムとし、酸化防止層4を10nmの二酸化ケイ素(SiO)とする場合においては、放射面Hが着色されている状態の色が青になる。
ちなみに、図14には、第5構造の反射率と吸収率とを示す。
尚、図31に示すように、アルミニウムあるいはアルミニウム合金は、銀あるいは銀合金に較べて、可視光の吸収率が高いものであるから、放射面Hが着色されている状態の色が、はっきりした青になる。
【0099】
また、図15に示す第6構造において、赤外放射層Aを厚さが1mmのテンパックスとし、密着層3を5nmの酸化アルミニウム(Al)とし、第1金属層B1を35nmの銀とし、透明誘電体層B2を100nmの窒化シリコン(Si)とし、第2金属層B3を、10nmの銀の第1層b1と60nmのアルミニウムの第2層b2とからなる積層構成とし、酸化防止層4を10nmの二酸化ケイ素(SiO)とする場合においては、放射面Hが着色されている状態の色が青になる。
ちなみに、図16には、第6構造の反射率と吸収率、及び、図17に示す比較構造の反射率と吸収率とを示す。
【0100】
比較構造は、図17に示すように、赤外放射層Aを厚さが1mmのテンパックスとし、密着層3を5nm以上100nm以下の酸化アルミニウム(Al)とし、第1金属層B1を35nmの銀とし、透明誘電体層B2を100nmの窒化シリコン(Si)とし、第2金属層B3を10nmの銀とする構成である。
図16に示すように、比較構造は、第2金属層B3にアルミニウムがないため、共鳴波長の領域の反射率が、第6構造に較べて大きく低下することがない。
【0101】
〔XY色度図について〕
放射面Hが着色されている状態の色は、図19に示すXY色度図にて表示することができ、第1構造から第6構造のXY色度図におけるx軸座標値及びy軸座標値を、図18の表に示す。
尚、例示するXY色度は、D65ライト照射に対応するものである。
【0102】
例えば、第1構造については、x軸座標値が0.285で、y軸座標値0.330であるので、白に近い領域の青、つまり、ライトブルー(水色)である。
第2構造から第6構造についても同様である。
尚、図18の表に記載の「ピンク」「赤色」「黄色」の夫々は、実際は、「薄いピンク」(ライトピンク)、「薄い赤」(ライトレッド)、「薄い黄色」(ライトイエロー)を示すものである。
【0103】
ちなみに、図18の表には、第1構造から第6構造に加えて、第7構造から第11構造のXY色度を例示する。
第7構造は、赤外放射層Aを厚さが1mmのテンパックスとし、密着層3を5nmの酸化アルミニウム(Al)とし、第1金属層B1を30nmの銀とし、透明誘電体層B2を90nmの窒化シリコン(Si)とし、第2金属層B3を30nmのアルミニウムとする場合であって、放射面Hが着色されている状態の色がライトピンクになる。
【0104】
第8構造は、赤外放射層Aを厚さが1mmのテンパックスとし、密着層3を5nmの酸化アルミニウム(Al)とし、第1金属層B1を55nmの銀とし、透明誘電体層B2を90nmの窒化シリコン(Si)とし、第2金属層B3を100nmの銅とする場合であって、放射面Hが着色されている状態の色がライトブルー(水色)になる。
尚、図25に、第8構造の反射率を示す。
【0105】
第9構造は、赤外放射層Aを厚さが1mmのテンパックスとし、密着層3を5nmの酸化アルミニウム(Al)とし、第1金属層B1を55nmの銀とし、透明誘電体層B2を90nmの窒化シリコン(Si)とし、第2金属層B3を100nmの金とする場合であって、放射面Hが着色されている状態の色がライトブルー(水色)になる。
【0106】
第10構造は、赤外放射層Aを厚さが1mmのテンパックスとし、密着層3を5nmの酸化アルミニウム(Al)とし、第1金属層B1を35nmの銀とし、透明誘電体層B2を100nmの酸化シリコン(SiO)とし、第2金属層B3を100nmの銀とする場合であって、放射面Hが着色されている状態の色がライトイエローになる。
【0107】
第11構造は、赤外放射層Aを厚さが1mmのテンパックスとし、密着層3を5nmの酸化アルミニウム(Al)とし、第1金属層B1を35nmの銀とし、透明誘電体層B2を、50nmの窒化シリコン(Si)と70nmの酸化シリコン(SiO)とを積層した構成とし、第2金属層B3を100nmの銀とする場合であって、放射面Hが着色されている状態の色がライトブルー(水色)になる。
【0108】
〔放射冷却装置の冷却能力〕
図12に、第1構造から第4構造の放射冷却装置CP、及び、図11に関連して説明した従来の放射冷却装置CPである比較構造の冷却能力を示す。
尚、図12においては、第1構造から第4構造の放射冷却装置CPの夫々を、ライトブルー、ライトピンク、ライトレッド、ライトイエローと記載し、従来の放射冷却装置CPをノーマル(Normal)と記載する。
【0109】
例示する冷却能力は、外気温30℃、AM1.5Gの日射が照射されている、南中時の大阪の平均的な夏場の大気下における放射冷却能力を計算したものである。
すなわち、例えば、太陽光エネルギーを1000W/mとし、外気温を30℃とし、大気の輻射エネルギーが387W/mの8月下旬をモデルとして計算したものである。
横軸の温度は、放射冷却装置CPの底面部(放射面Hとは反対側の底面部)の温度であり、対流は考慮していない。
【0110】
図示の通り、外気温と放射冷却装置CPの底面部が30℃と同じ場合、本発明の色付きの放射冷却装置CPでも40W/m近くの放射冷却能力を持つ。
つまり、本発明の色付きの放射冷却装置CPは、従来の放射冷却装置CPよりも放射冷却能力が低下することになるが、夏場の南中時においても放射冷却能力を発揮することになる。
尚、ライトピンク(第2構造)とライトレッド(第3構造)との放射冷却能力は、略同じである。
【0111】
〔透明誘電体層の具体例〕
透明誘電体層B2は、透明窒化膜や透明酸化膜にて構成でき、透明窒化膜の具体例としては、上述の通り、Si、AlNを挙げることができる。
また、透明酸化膜の具体例としては、下記のものを挙げることができる。尚、以下の説明では、本発明の透明誘電体層B2として使用できるものを、族で分類して記載する。
【0112】
第1族元素酸化物:LiO、NaO、K
第2族元素酸化物:BeO、MgO、CaO、SrO、BaO
第4族元素酸化物:TiO、ZrO、HfO
第5族元素酸化物:Nb、Ta
第13族元素酸化物:B、Al、Ga
第14族元素酸化物:SiO、GeO、SnO
【0113】
ちなみに、スパッタリング等で製膜される材料としては、Al、SiO、TiO、ZrO、HfO、Nb、Taがあり、これら材料は製膜し易い点で他の酸化物よりも優れている。
【0114】
〔別実施形態〕
以下、別実施形態を列記する。
(1)上記実施形態では、赤外放射層Aを基板として、第1金属層B1、透明誘電体層B2及び第2金属層B3を積層する場合を例示したが、赤外放射層Aとは異なる他の基板に対して、第2金属層B3、透明誘電体層B2及び第1金属層B1を積層する形態で光反射層Bを形成して、赤外放射層Aと光反射層Bとを重ね合わせる形態で積層してもよい。この場合、赤外放射層Aと光反射層Bとの間に、伝熱可能であれば多少の隙間が存在してもよい。
【0115】
(2)上記実施形態では、酸化防止層4を備える場合を例示したが、アルミにて形成される第2金属層B3の膜厚(厚さ)が十分に厚い場合等においては、酸化防止層4を省略してもよい。
【0116】
(3)上記実施形態では、第1金属層B1及び第2金属層B3を銀にて形成する場合を詳細に説明したが、第1金属層B1や第2金属層B3を銀合金で形成する場合における膜厚(厚さ)は、第1金属層B1や第2金属層B3を銀にて形成する場合の膜厚(厚さ)と同等にすることができる。
【0117】
(4)上記実施形態では、第2金属層B3をアルミニウムにて形成する場合をも説明したが、第2金属層B3をアルミ合金で形成する場合における膜厚(厚さ)は、第2金属層B3をアルミにて形成する場合の膜厚(厚さ)と同等にすることができる。
【0118】
(5)上記実施形態では、赤外放射層Aの放射面Hを平坦面に形成するものとして説明したが、図32に示すように、赤外放射層Aの放射面Hを、光散乱用の凹凸を備える状態に形成してもよい。
光散乱用の凹凸は、エンボス加工等により形成でき、赤外放射層Aをガラス(白板ガラス)にて構成する場合には、すりガラス加工により形成できる。
尚、図32は、光散乱用の凹凸を、実際よりも誇張して記載するものである。
【0119】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【符号の説明】
【0120】
3 密着層
4 酸化防止層
A 赤外放射層
B 光反射層
B1 第1金属層
B2 透明誘電体層
B3 第2金属層
図1
図2
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図5
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図32