(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本願の開示する作業車両の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0017】
<作業車両(トラクタ)の全体構成>
まず、
図1を参照して作業車両1の全体構成について説明する。
図1は、実施形態に係る作業車両1の概略左側面図である。なお、以下では、作業車両1としてトラクタを例に説明する。また、作業車両であるトラクタ1は、自走しながら圃場などで作業を行う農用トラクタである。
【0018】
また、以下において、前後方向とは、トラクタ1の直進時における進行方向であり、進行方向前方側を「前」、後方側を「後」と規定する。なお、トラクタ1の進行方向とは、トラクタ1の直進時において操縦席8からステアリングホイール9へと向かう方向である(
図1参照)。
【0019】
左右方向とは、前後方向に対して水平に直交する方向である。以下では、「前」側へ向けて左右を規定する。すなわち、操縦者(作業者ともいう)が操縦席8に着席して前方を向いた状態で、左手側が「左」、右手側が「右」である。上下方向とは、鉛直方向である。したがって、前後方向、左右方向および上下方向は、互いに3次元で直交する。
【0020】
図1に示すように、トラクタ1は、操舵用の車輪として設けられる前輪3と、駆動用の車輪として設けられる後輪4とを有する機体2を備えている。また、トラクタ1は、制御部100(
図7参照)を備えている。後輪4には、機体2前部のボンネット5内に搭載されたエンジンEで発生した動力が、主変速部302(
図2参照)および副変速部304(
図2参照)で適宜減速して伝達可能になっている。後輪4は、エンジンEから伝達される動力によって駆動される。
【0021】
また、トラクタ1は、エンジンEで発生し、かつ、主変速部302および副変速部304で減速した動力を、4WDクラッチ301(
図2参照)を介して前輪3にも伝達可能に構成されている。4WDクラッチ301が動力を伝達すると、エンジンEから伝達される動力によって前輪3および後輪4の四輪が駆動される。4WDクラッチ301が動力の伝達を遮断すると、エンジンEから伝達される動力によって後輪4のみの二輪が駆動される。すなわち、トラクタ1は、二輪駆動(2WD)と四輪駆動(4WD)とを切り替え可能に構成されている。また、トラクタ1の機体2後部には、作業機6を装着可能なPTO連結装置7が設けられている。
【0022】
また、トラクタ1の機体2の中央部には、操縦者がトラクタ1を操縦する場合に座る操縦席8が設けられ、操縦席8の前方には、前輪3の操舵に用いるステアリングホイール9が配設されている。ステアリングホイール9は、ステアリングホイール9を回転可能に支持するハンドルポスト10の上端側に配設されている。また、ハンドルポスト10の下方側、すなわち、操縦席8に操縦者が座った場合における操縦者の足元付近には、各種操作ペダル11(クラッチペダル325やアクセルペダル326、ブレーキペダル311など)が設けられている。
【0023】
また、操作ペダル11のうち、ブレーキペダル311は、左右一対(左ブレーキペダル311L、右ブレーキペダル311R)で構成されている。なお、操縦席8の周りに設けられた各種操作機器については、
図4〜
図6を用いて後述する。
【0024】
また、機体2の後方には、シリンダケース61が設けられている。シリンダケース61の左右両側には、リフトアーム62が、軸心が左右方向の軸AXまわりに回動可能に設けられている。シリンダケース61内の油圧シリンダ(昇降シリンダともいう)61aに作動油が供給されると、リフトアーム62が、軸AXまわりに上昇回動し、油圧シリンダ61aから作動油が排出されると、軸AXまわりに下降回動する。リフトアーム62の基部には、リフトアーム62の回転角度を検出するリフトアームセンサ62aが設けられている。すなわち、作業機6の高さは、リフトアームセンサ62aの検出値に基づいて算出される。
【0025】
リフトアーム62は、リフトロッド63を介してロアリンク64と連結されている。また、作業機6は、ロアリンク64とトップリンク65とによって機体2の後方に、機体2に対して昇降可能に連結されている。
【0026】
なお、本実施形態では、作業機6がロータリ耕耘機の場合を例示している。作業機6であるロータリ耕耘機は、耕耘爪66と、ロータリカバー67と、リヤカバー68とを備えている。耕耘爪66は、PTO軸71によって伝達された動力によって回転して圃場面(土壌)を耕起する。ロータリカバー67は、耕耘爪66の上方を覆っている。リヤカバー68は、ロータリカバー67の後部に上下方向に回転可能に設けられている。
【0027】
作業機昇降制御部100c(
図7参照)は、耕深センサ6aの検出値に基づいてリフトアーム62を回動することによって作業機6の高さを変更し、耕深を設定された値に維持する。作業機昇降制御部100cは、たとえば、リヤカバー68が所定の位置よりも上方に持ち上がると、耕深が設定値よりも深いとして作業機6を上方へ移動させる。また、作業機昇降制御部100cは、リヤカバー68が所定の位置よりも下方に位置すると、耕深が設定値よりも浅いとして作業機6を下方へ移動させる。作業機6の上下方向の移動は、リフトアーム62の回転角度に基づいて実行される。このように、耕深を設定された値に維持する作業機昇降制御部100cによる制御は「デプス制御」と呼ばれる。
【0028】
また、トラクタ1では、作業機6が下降着地する場合に、作業機6に対して接地による衝撃が生じないように、地面近くで作業機6の下降速度を減少させる、いわゆる「デセラ制御」を行う。また、トラクタ1では、耕耘などの対地作業中における機体2の旋回時に、操縦者によるステアリングホイール9の操作に連動して作業機6が自動で上昇する「オートリフト制御」を行う。なお、オートリフト制御については、
図8を用いて後述する。
【0029】
<作業車両(トラクタ)の動力伝達>
次に、
図2を参照してトラクタ1の動力伝達について説明する。
図2は、実施形態に係る作業車両(トラクタ)1の動力伝達模式説明図である。
図2に示すように、トラクタ1は、機体の左右両側のそれぞれに、左右の前車軸31L,31Rに取付けられた前輪3L,3Rと、左右の後車軸41L,41Rに取付られた左右の後輪4L,4Rとを備えている。なお、以下の説明においては、符号に「L」を付して左側を示し、「R」を付して右側を示しているが、左右を区別する必要が無い場合は、たとえば、「前輪3」、「後輪4」のように「L」や「R」を付さずに記している。
【0030】
機体2の前部には、エンジンEが搭載されている。エンジンEからの回転動力は動力伝達機構を介して前輪3や後輪4に伝達される。なお、本実施形態(トラクタ1)は、上記したように、トラクタ1は4WDクラッチ301を備えており、4WDクラッチ301の切り替えによって、後輪4のみ駆動する2WD方式と前輪3および後輪4が共に駆動する4WD方式とに切り替え可能に構成されている。
【0031】
後輪4への動力伝達機構は、エンジンEの後段に、前後進クラッチ303を介して主変速部302が配設され、さらに後段に副変速部304が配設されており、さらに後段には後輪差動歯車装置305が配設されている。また、後輪差動歯車装置305と後輪4とを連結する後車軸41の基部にはそれぞれブレーキ装置306が配設されている。
【0032】
また、副変速部304の後段に設けられたアイドルギヤを介して変速軸307に入力され、4WDクラッチ301、前輪差動歯車装置308を介して前輪3へと動力が伝達される。
【0033】
また、制御部100(走行制御部100a)には、前輪3の切れ角(操舵角ともいう)を検出する前輪切れ角センサ309が接続されている。なお、走行制御部100aは、前輪切れ角センサ309の検出値を用いて、前輪3の切れ角をフィードバックしながらステアリングシリンダ310を制御して操舵する、いわゆる自動走行モードを設定可能に構成されている。
【0034】
後輪4に設けられたブレーキ装置306は、機体2に設けられた左右のブレーキペダル311L,311Rを操縦者が踏み込み操作することで、ブレーキシリンダ319が油圧により作用して機能する。すなわち、左後車軸41Lの基部に設けられた左ブレーキ装置306Lが左ブレーキシリンダ319Lに接続されており、右後車軸41Rの基部に設けられた右ブレーキ装置306Rが右ブレーキシリンダ319Rに接続されている。
【0035】
左右のブレーキシリンダ319L,319Rは、走行制御部100aに接続された左右のブレーキソレノイド312L,312Rと接続されている。このため、走行制御部100aに所定のブレーキ信号が入力されると、走行制御部100aは、ブレーキソレノイド312を駆動して、左右のブレーキ装置306L,306Rのいずれか一方または両方を作動させることができる。なお、ブレーキソレノイド312は、たとえば、比例調圧弁313を介して、油圧ポンプ314、リリーフバルブ315などと共に油圧回路を形成している。
【0036】
また、トラクタ1は、PTOクラッチ316を備えている。PTOクラッチ316は、電子制御クラッチであり、作業機6(
図1参照)に連結されるPTO軸71への動力を接続または非接続する。すなわち、PTO軸71には、エンジンEからの回転動力が、PTOクラッチ316によって継断可能に伝達される。また、PTO軸71は、前段側にPTO変速第1シフタおよびPTO変速第2シフタが設けられており、これら各シフタが操作されることにより、低速から高速でPTO軸71を順回転させることができるとともに、逆転させることもできる。
【0037】
<主変速クラッチ、前後進クラッチおよびPTOクラッチの油圧回路>
次に、
図3を参照して主変速クラッチ317、前後進クラッチ303およびPTOクラッチ316の油圧回路について説明する。
図3は、主変速、前後進、PTOの各クラッチ(電子制御クラッチ)317,303,316の油圧回路図である。
図3に示すように、本実施形態(トラクタ1)では、エンジンE(
図2参照)の回転動力により作動する油圧ポンプ314がサクションフィルタなどを介してミッションケース12(
図1参照)内の潤滑油を吸い上げ、油圧回路内に作動油として圧油が供給される。
【0038】
図3に示すように、トラクタ1は、主変速クラッチ317(第1主変速クラッチ317aおよび第2主変速クラッチ317b)、Hi−Loクラッチ318、前後進クラッチ303の圧着状態を調節可能に構成されている。このような各クラッチ317(317a,317b),318,303の圧着状態の調節は、各クラッチ317(317a,317b),318,303に対応する各アクチュエータ201,202,203,204,205,206,207,208を制御して行う。
【0039】
第1主変速クラッチ317aでは、アクチュエータ201が1速ソレノイド131を介して供給された圧油によって1速クラッチ321を駆動するとともに、アクチュエータ203が3速ソレノイド133を介して供給された圧油によって3速クラッチ323を駆動する。なお、第1主変速クラッチ317aに供給される圧油の流量は、比例制御弁でもある1,3速昇圧ソレノイド135によって調節可能に構成されている。
【0040】
第2主変速クラッチ317bでは、アクチュエータ202が2速ソレノイド132を介して供給された圧油によって2速クラッチ322を駆動するとともに、アクチュエータ204が4速ソレノイド134を介して供給された圧油によって4速クラッチ324を駆動する。なお、第2主変速クラッチ317bに供給される圧油の流量は、比例制御弁でもある2,4速昇圧ソレノイド136によって調節可能に構成されている。
【0041】
Hi−Loクラッチ318では、アクチュエータ205が高速(Hi)昇圧ソレノイド137を介して供給された圧油によってHiクラッチ318aを駆動するとともに、アクチュエータ206が低速(Lo)昇圧ソレノイド138を介して供給された圧油によってLoクラッチ318bを駆動する。
【0042】
前後進クラッチ303では、アクチュエータ207が前進切替ソレノイド127を介して供給された圧油によって前進クラッチ303aを駆動するとともに、アクチュエータ208が後進切替ソレノイド129を介して供給された圧油によって後進クラッチ303bを駆動する。なお、前進クラッチ303aおよび後進クラッチ303bに供給される圧油の流量は、前後進昇圧ソレノイド128またはクラッチペダルソレノイド130によって調節可能に構成されている。
【0043】
また、各アクチュエータ201,203,202,204,205,206,207,208によって駆動される各クラッチ(第1主変速クラッチ317a、第2主変速クラッチ317b、Hi−Loクラッチ318、前後進クラッチ303)の圧着状態は、各ソレノイド131,133,132,134,137,138,127,129と各アクチュエータ201,203,202,204,205,206,207,208との間に設けられた各圧力センサ(1速クラッチ圧力センサ111、2速クラッチ圧力センサ112、3速クラッチ圧力センサ113、4速クラッチ圧力センサ114、高速クラッチ圧力センサ115、低速クラッチ圧力センサ116、前進クラッチ圧力センサ117、後進クラッチ圧力センサ118)によってそれぞれ測定される。これにより、各クラッチ317(317a,317b),318,303の圧着を調節することができる。
【0044】
また、
図3に示すように、作業機6(
図1参照)の昇降にかかる油圧回路HCBには油圧シリンダ61aが接続され、油圧回路HCB中の油の流れを変更することによって、油圧シリンダ61aが伸縮して作業機6を昇降させる。すなわち、油圧回路HCBおよび油圧シリンダ61aは、作業機6を機体2(
図1参照)に対して昇降させる昇降部である。
【0045】
図3に示すように、油圧回路HCBは、作業機上昇ソレノイド139と、作業機下降ソレノイド140と、下降パイロットソレノイド141と、下降メインソレノイド142と、上昇メインソレノイド143と、上昇パイロットソレノイド144と、チェックバルブ145とを備えている。
【0046】
油圧回路HCBには、油圧ポンプ314から送り出された圧油が、減圧回路やフィルタなどを介して供給される。作業機昇降制御部100c(
図7参照)は、作業機上昇ソレノイド139や作業機下降ソレノイド140に向けて作業機昇降信号を出力することによって、下降パイロットレノイド141と上昇パイロットソレノイド144とを切り替える。
【0047】
たとえば、作業機上昇ソレノイド139によって、上昇パイロットソレノイド141が、チェック弁を有する油室144aから絞りを有する油室144bに切り替わると、上昇メインソレノイド143が開く。これにより、油圧シリンダ61a側に油圧ポンプ314からの圧油が供給され、油圧シリンダ61aが伸びて作業機6が上昇する。また、上昇メインソレノイド143が、
図3に示す状態に戻ると、油圧シリンダ61aに送り込まれた圧油は、チェックバルブ145によって油圧回路HCB側への流出が規制され、リフトアーム62(
図1参照)の位置が保持される。
【0048】
また、作業機下降ソレノイド140によって、下降パイロットソレノイド141が、チェック弁を有する油室141aから絞りを有する油室141bに切り替わると、下降メインソレノイド142が開く。これにより、作業機6の自重によって油圧シリンダ61aから押し出された油がタンクポートTに放出され、油圧シリンダ61aが縮んで作業機6が下降する。
【0049】
なお、作業機下降ソレノイド140は、比例ソレノイドであり、下降パイロットソレノイド141は、かかる比例ソレノイドによって油室141aの絞りを調節することによって、下降パイロットソレノイド141を通過する油の流量を変更することができる。また、作業機6の下降速度は、下降パイロットソレノイド141を通過する油の流量に応じて変化する。たとえば、油室141bの絞り開度を大きくすれば、単位時間あたりに下降パイロットソレノイド141を通過する油の流量が多くなり、作業機6の下降速度は速くなる。一方、油室141bの絞り開度を小さくすれば、単位時間あたりに下降パイロットソレノイド141を通過する油の流量が少なくなり、作業機6の下降速度は遅くなる。
【0050】
このように、作業機昇降制御部100cは、比例ソレノイドである作業機下降ソレノイド140によって、下降パイロットソレノイド141の開度を任意に変更することができる。これにより、作業機6の下降速度を任意に変更することができる。
【0051】
なお、
図3に示すように、油圧回路HCBと油圧シリンダ61aとの間には、スローリターンバルブ146が設けられている。スローリターンバルブ146は、手動で開度を変更可能な絞りを有しており、作業者が絞り量を設定することによって、単位時間あたりの油圧シリンダ61aからタンクポートTへの油の戻り量を調整可能としている。このように、スローリターンバルブ146によっても、作業機6の下降速度を任意に変更することが可能であり、作業者の利便性を向上させることができる。
【0052】
<操縦席周りの各種操作機器>
次に、
図4〜
図6を参照して操縦席8周りの各種操作機器について説明する。
図4は、操縦席8前方の概略斜視図である。
図5は、
図4におけるA部の概略斜視図である。
図6は、操縦席8右側方の概略斜視図である。なお、各図に示す各種操作機器は一例であり、操作機器の種類や配置など、これに限定されるものではない。
【0053】
図4に示すように、操縦席8の前方には、ステアリングホイール9が設けられている。また、ステアリングホイール9が取り付けられたハンドルポスト10の下部には各種操作ペダル11が設けられている。具体的には、ハンドルポスト10の下部左方にクラッチペダル325が設けられ、ハンドルポスト10の下部右方にはアクセルペダル326およびブレーキペダル311が設けられている。ブレーキペダル311は、上記したように、左右のブレーキペダル311L,311Rを備えている。
【0054】
ハンドルポスト10の上部左方には前後進レバー327が設けられている。また、
図5に示すように、ハンドルポスト10の上部右方には、ウィンカレバー328、スロットルレバー329、レバー型の昇降スイッチ330(ワンタッチ昇降レバー、フィンガップレバーともいう)などが設けられている。なお、昇降スイッチ(ワンタッチ昇降レバー)330は、作業機6連結用のリフトアーム62(
図1参照)をポジションレバーの操作位置または最上位置に移動させる場合に、ワンタッチ操作で移動させるレバーである。この他、ハンドルポスト10にはPTO変速レバーなどが設けられている。
【0055】
図4および
図5に示すように、ハンドルポスト10の右方には、PTOスイッチ331が設けられている。PTOスイッチ331は、PTOクラッチ316(
図2参照)を接続または非接続する場合に操作するスイッチである。PTOスイッチ331は、たとえば、スイッチ自体を押し込んで回すことで入り(オン)状態(スイッチ自体が押し込まれたまま固定された状態)となり、この状態からスイッチ自体の上部を押すことで固定が解除されて自動でスイッチ自体がたとえば左まわりで元に戻り切り(オフ)状態となる。
【0056】
なお、PTOスイッチ331の近傍には、PTOクラッチ316の接続時の感度(接続時間)を調整する場合に操作するPTO感度スイッチ332が設けられている。
【0057】
また、たとえば、PTOスイッチ331は、
図6に示すように、操縦席8の右側方などに設けられてもよい。
図6に示すように、この他、操縦席8の右側方には、主変速操作部333(主変速増速ボタン333a、主変速減速ボタン333b)、副変速レバー334、作業機6のボタン型の昇降スイッチ335、作業機6の昇降レバー336、主変速スイッチ337、アクセルレバー338などが設けられている。このうち、昇降レバー336は、リフトアーム62(
図1参照)を任意の位置に昇降する場合に操作される。
【0058】
また、
図4に戻り、ステアリングホイール9の前方にはダッシュボード339が設けられている。ダッシュボード339には、操縦席8に着席した操縦者から見えるように、表示部であるメータパネル340が設けられている。
【0059】
メータパネル340には表示画面(たとえば、液晶モニタ)やエンジン回転計(タコメータ)などが設けられている。表示画面には、たとえば、現在選択されている変速段を表示する変速段表示、燃料消費率および走行速度などの各種情報が表示される。なお、このうち、燃料消費率表示と走行速度表示とは一定時間ごとに自動的に切り替わるように表示されてもよい。
【0060】
また、メータパネル340の表示画面には、機体2に装着されている作業機6(
図1参照)が駆動状態か否かを報知する報知部が設けられている。報知部は、たとえば、PTOモニタ341(
図7参照)やPTOランプであり、たとえば、作業機6に動力が伝達されている場合、すなわち、作業機6が駆動している場合に画像変化したりランプ点灯したりするように構成されている。また、報知部は、作業機6が駆動している場合に警告音などを鳴らすように構成されてもよい。
【0061】
また、操縦席8の近傍(たとえば、ダッシュボード339)には、機体2の走行モードを自動変速モードに設定する(自動変速モードをオンにする)場合に操作される入力スイッチ157(
図7参照)が設けられている。
【0062】
ここで、トラクタ1は、たとえば、圃場間を移動するような路上走行中、アクセルペダル326(
図4参照)の踏み込み操作に基づいて主変速部302(
図2参照)における変速制御であるアクセル変速(自動変速)を行うことが好ましい。このため、トラクタ1は、制御部100(走行制御部100a、エンジン制御部100b)によって自動変速モードに設定可能に構成されている。自動変速モードでは、後述するアクセルペダルセンサ153の検出値と、車速センサ150の検出値と、エンジン回転センサ152の検出値とに応じて、主変速部302(主変速クラッチ317)の変速段を切り替える。
【0063】
この場合、アクセルペダル326の操作量(踏み込み量)と車速(走行速度)とエンジン回転数とに対応する主変速部302の変速段が予め設定されるとともに設定された変速段が走行制御部100aの記憶部に記憶されている。走行制御部100aは、上記各検出値に応じた変速段を記憶部から導出し、主変速部302の変速段を導出した変速段に切り替える。
【0064】
<作業車両(トラクタ)の制御系>
次に、
図7を参照してトラクタ1の制御系について説明する。
図7は、実施形態に係る作業車両(トラクタ)1の制御系の機能ブロック図である。具体的には、主に自動変速モードに関する制御系について説明する。なお、
図7においては、
図3の変速にかかる各ソレノイド131,133,132,134,137,138,127,129を「変速ソレノイド」と総称するとともに、符号120を付して示している。
【0065】
図7に示すように、制御部100は、走行制御部100aと、エンジン制御部100bと、作業機昇降制御部100cとを備えている。走行制御部100aは、機体2の走行を制御する。エンジン制御部100bは、エンジンEなどを制御する。作業機昇降制御部100cは、PTO連結装置7に装着された作業機6を昇降制御する。なお、走行制御部100a、エンジン制御部100bおよび作業機昇降制御部100cは、たとえば、CAN通信ラインを介してメータパネル340などに交互に交信可能に接続されている。
【0066】
走行制御部100aには、前輪切れ角センサ309、車速センサ150などが接続され、前輪切れ角センサ309の検出値、車速センサ150の検出値が入力される。前輪切れ角センサ309は、前輪3(
図1参照)の切れ角を検出する。車速センサ150は、機体2の走行速度(車速ともいう)を検出する。
【0067】
また、走行制御部100aには、変速ソレノイド120、左右のブレーキソレノイド312L,312R、比例調圧ソレノイド(比例調圧弁)313、PTOソレノイド151などが接続されている。走行制御部100aは、これらの各ソレノイド120,312L,312R,313,151に制御信号を出力する。なお、PTOソレノイド151は、PTOクラッチ316(
図2参照)に供給される圧油の供給量を制御する。
【0068】
エンジン制御部100bには、エンジン回転センサ152、アクセルペダルセンサ153などが接続され、エンジン回転センサ152の検出値、アクセルペダルセンサ153の検出値が入力される。エンジン回転センサ152は、エンジンE(
図1参照)の回転数を検出する。アクセルペダルセンサ153は、アクセルペダル326(
図4参照)の操作量(踏み込み量)を検出する。
【0069】
作業機昇降制御部100cには、昇降レバーセンサ154、作業機6の昇降スイッチ335などが接続され、昇降レバーセンサ154の検出信号(オンオフ信号)、昇降スイッチ335の検出信号(オンオフ信号)が入力される。昇降レバーセンサ154は、昇降レバー336(
図6参照)の操作を検出する。昇降スイッチ335は、作業機上げスイッチ155が作業機6の上昇操作を検出し、作業機下げスイッチ156が作業機6の下降操作を検出する。なお、ワンタッチ昇降レバー330についても、昇降スイッチ335と同様の構成で作業機6の上昇および下降操作を検出する。
【0070】
また、作業機昇降制御部100cには、上昇パイロットソレノイド144、下降パイロットソレノイド141などが接続されており、各ソレノイド144,141に作業機昇降信号を出力して、作業機昇降用の油圧シリンダ61a(
図1参照)を駆動制御する。
【0071】
<圃場内における作業車両(トラクタ)の走行経路>
次に、
図8を参照して圃場内におけるトラクタ1の走行経路について説明する。
図8は、圃場160内における作業車両(トラクタ)1の走行経路Rの説明図である。なお、
図8には、トラクタ1による耕耘作業を例として示している。また、
図8に示す走行経路Rは一例であり、走行経路R、圃場160への入り口161や出口162など、これに限定されるものではない。
【0072】
図8に示すように、走行経路Rは、トラクタ1が圃場160内を効率的に走行しながら圃場160内の畝全体に対して所定の作業幅Wで作業(たとえば、耕耘作業)を行えるように規定され、圃場160内への入り口161から出口162にかけて設定されることが好ましい。なお、
図8においては、入り口161および出口162をそれぞれ個別に設けているが、圃場160に対して1つの出入り口であっても構わない。
【0073】
圃場160内での作業中、トラクタ1は、直進走行から圃場160の端部(枕地)163の所定距離D(作業機6を含む機体2が旋回可能な距離)手前で旋回へと移行する。機体2の旋回時では、機体2の後部に装着された作業機6を上昇させる。作業機6の上昇については、操縦者が、たとえば、ワンタッチ昇降レバー330(
図5参照)を操作して行う場合もあるが、ステアリングホイール9(
図5参照)の操作に連動して作業機6を自動上昇させるオートリフト制御によって行う場合がある。
【0074】
<オートリフト制御>
次に、
図9および
図10を参照してオートリフト制御について説明する。
図9は、前輪切れ角の基準値の説明図である。
図10は、実施形態に係る作業車両(トラクタ)1におけるオートリフト制御の実行処理を示すフローチャートである。たとえば、操縦席8の近傍などに配置された入力スイッチをオン操作すると、オートリフト制御に設定される。
【0075】
オートリフト制御では、
図9に示すように、制御部100(
図7参照)が、ステアリングホイール9(
図5参照)の操作による前輪3の切れ角(操舵角)に基づいて機体2の旋回開始を判断して自動でリフトアーム62を上昇させることで、機体2の旋回時に作業機6を上昇させる。この場合、機体2の旋回と判断するための前輪切れ角の基準値α0(たとえば、30度)が予め設定され、前輪切れ角が基準値α0を超えるとオートリフト制御を開始する。
【0076】
図10に示すように、オートリフト制御においては、制御部100は、前輪切れ角センサ309(
図9参照)によって前輪切れ角を検出する(ステップS110)。次に、制御部100は、前輪切れ角センサ309によって検出された前輪切れ角が基準値α0を超えたか否かを判定する(ステップS120)。制御部100は、前輪切れ角が基準値α0を超えている場合(ステップS120:Yes)、機体2の旋回と判断してリフトアーム62の上昇を開始する。
【0077】
また、制御部100は、前輪切れ角が基準値α0を超えていない場合(ステップS120:No)はリフトアーム62の上昇を行わない。なお、制御部100は、その後に前輪切れ角センサ309によって前輪切れ角が基準値α0未満となったことが検出されると、機体2が旋回から直進走行に移行したと判断してリフトアーム62の下降を開始する。なお、リフトアーム62によって上昇させる作業機6(
図1参照)は、上記したように、対地作業位置から非作業位置まで連続的に上昇し、非作業位置から対地作業位置まで連続的に下降するように構成されている。
【0078】
また、オートリフト制御では、作業機6の昇降スイッチ335(
図6参照)やワンタッチ昇降レバー330(
図5参照)の操作による作業機6上昇速度よりも上昇速度を遅くすることが好ましい。これにより、作業機6が土を跳ね上げたり圃場面に段差が生じるなど圃場の荒れを防ぐことができる。
【0079】
ところが、オートリフト制御の実行中、たとえば、機体2が高速走行から旋回に移行するような場合であって作業機6が重い場合は、エンジン回転数が低いと作業機6の上昇速度がさらに遅くなり、作業機6が非作業位置に到達する前に(上がりきる前に)畦に接近して畦に衝突してしまう。このため、オートリフト制御の実行中においては、旋回速度に対して作業機6を適切に上昇させることが好ましい。
【0080】
<オートリフト制御の実行中における作業機の上昇制御>
次に、
図11〜
図14を参照してオートリフト制御の実行中における作業機6の上昇制御について説明する。
図11および
図12は、実施形態に係る作業車両(トラクタ)1のオートリフト制御の実行中における前輪切れ角の基準値α0変更処理の一例を示すフローチャートである。
図13および
図14は、実施形態に係る作業車両(トラクタ)1のオートリフト制御の実行中における圧油の供給流量変更処理の一例を示すフローチャートである。
【0081】
なお、
図11および
図12に示す例は、前輪切れ角を変更してリフトアーム62が上昇を開始するタイミングを早めることで、上昇遅延を抑える。また、
図13および
図14に示す例は、油圧シリンダ61aに供給する圧油の流量を変更してリフトアーム62の上昇速度を速めることで、上昇遅延を抑える。
【0082】
制御部100は、オートリフト制御の入力スイッチがオン操作されると、オートリフト制御の実行を開始する。
図11に示すように、オートリフト制御の実行中、制御部100は、エンジン回転センサ152によってエンジン回転数が検出されると(ステップS210)、エンジン回転数に応じて前輪切れ角センサの基準値(前輪切れ角)α0を変更する(ステップS220)。ここで、制御部100は、エンジン回転数が低い場合、すなわち、所定値以下の場合は、前輪切れ角センサ309の基準値α0を浅い角度に変更する。
【0083】
制御部100は、前輪切れ角センサ309によって前輪切れ角が検出されると(ステップS230)、変更後の基準値α1を超えている場合(ステップS240:Yes)、機体2の旋回と判断して、リフトアーム62の上昇を開始する(ステップS250)。なお、制御部100は、変更後の基準値α1を超えていない場合(ステップS240:No)はリフトアーム62の上昇を行わない。
【0084】
このような構成によれば、機体2の旋回時に作業機6を自動で上昇させるオートリフト制御の実行中、制御部100がエンジン回転数に応じて前輪切れ角センサ309の基準値α0を変更することで、機体2の旋回時において、作業機6の上昇を適切なタイミングで開始することができる。たとえば、エンジン回転数が低い場合には前輪切れ角センサ309の基準値α0を浅い角度に変更することで、機体2の高速旋回時でも旋回速度に対して作業機6の上昇が遅れない。このため、作業機6が枕地163と接触するなどして、圃場160が荒れるのを防止することができるとともに、作業機6の損傷を防止することができる。なお、前輪切れ角を変更するだけでよいため、既存システムの中で実現可能であり、安価となる。
【0085】
また、制御部100は、エンジン回転数に加えて、機体の走行速度(車速)に基づいてリフトアーム62の上昇を開始するタイミングを早めてもよい。この場合、
図12に示すように、オートリフト制御の実行中、制御部100は、エンジン回転センサ152によってエンジン回転数が検出され(ステップS310)、車速センサ150によって機体2の走行速度が検出されると(ステップS320)、エンジン回転数および走行速度に応じて前輪切れ角センサ309の基準値(前輪切れ角)α0を変更する(ステップS330)。ここで、制御部100は、エンジン回転数が低く、走行速度が速い(所定速度以上)場合は、前輪切れ角センサ309の基準値α0を浅い角度に変更する。
【0086】
制御部100は、前輪切れ角センサ309によって前輪切れ角が検出されると(ステップS340)、変更後の基準値α1を超えている場合(ステップS350:Yes)、機体2の旋回と判断して、リフトアーム62の上昇を開始する(ステップS360)。なお、制御部100は、変更後の基準値α1を超えていない場合(ステップS350:No)はリフトアーム62の上昇を行わない。
【0087】
このような構成によれば、オートリフト制御の実行中、制御部100がエンジン回転数の他、機体2の走行速度に応じて前輪切れ角センサ309の基準値α0を変更することで、機体2の旋回時において、作業機6の上昇を適切なタイミングで開始することができる。たとえば、走行速度が速い場合は旋回速度も速くなるが、走行速度に応じて前輪切れ角センサ309の基準値α0を浅い角度に変更することで、機体2の高速旋回時でも旋回速度に対して作業機6の上昇が遅れない。このため、作業機6が枕地163と接触するなどして、圃場160が荒れるのを防止することができるとともに、作業機6の損傷を防止することができる。なお、上記構成においても、前輪切れ角および走行速度を変更するだけでよいため、既存システムの中で実現可能であり、安価となる。
【0088】
また、リフトアーム62を昇降駆動する油圧シリンダ61a(たとえば、上昇パイロットソレノイド144)に供給する圧油の流量を変更してリフトアーム62の昇降速度を速くすることで、作業機6の上昇遅れを抑制してもよい。この場合、
図13に示すように、制御部100は、エンジン回転センサ152によってエンジン回転数が検出されると(ステップS410)、エンジン回転数に応じて油圧シリンダ61aに供給する油圧の流量データを変更(かさ上げ)する(ステップS420)。
【0089】
制御部100は、前輪切れ角センサ309によって前輪切れ角が検出されると(ステップS430)、基準値α0を超えている場合(ステップS440:Yes)、機体2の旋回と判断して、変更後のかさ上げした流量データに基づいて油圧を供給して(ステップS450)リフトアーム62の上昇を開始する(ステップS460)。なお、制御部100は、前輪切れ角センサ309の検出値が基準値α0を超えていない場合(ステップS440:No)はリフトアーム62の上昇を行わない。
【0090】
このような構成によれば、オートリフト制御の実行中、制御部100がエンジン回転数に応じて油圧シリンダ61aに供給する圧油の流量を変更することで、機体2の旋回時において、作業機6を適切な速度で上昇させることができる。たとえば、エンジン回転数が低い場合には油圧シリンダ61aに供給する圧油の流量を増やすことで、機体2の高速旋回時でも旋回速度に対して作業機6の上昇が遅れない。このため、作業機6が機体2旋回中に枕地163と接触するなどして、圃場160が荒れるのを防止することができるとともに、作業機6の損傷を防止することができる。なお、油圧の供給流量データを変更するだけでよいため、既存システムの中で実現可能であり、安価となる。
【0091】
また、制御部100は、エンジン回転数に加えて、機体2の走行速度(車速)に基づいてリフトアーム62の上昇速度を速めてもよい。この場合、
図14に示すように、制御部100は、エンジン回転センサ152によってエンジン回転数が検出され(ステップS510)、車速センサ150によって機体2の走行速度が検出されると(ステップS520)、エンジン回転数および走行速度に応じて油圧シリンダ61aに供給する油圧の流量データを変更(かさ上げ)する(ステップS530)。
【0092】
制御部100は、前輪切れ角センサ309によって前輪切れ角が検出されると(ステップS540)、基準値α0を超えている場合(ステップS550:Yes)、機体2の旋回と判断して、変更後のかさ上げした流量データに基づいて油圧を供給して(ステップS560)リフトアーム62の上昇を開始する(ステップS570)。なお、制御部100は、前輪切れ角センサ309の検出値が基準値α0を超えていない場合(ステップS550:No)はリフトアーム62の上昇を行わない。
【0093】
このような構成によれば、オートリフト制御の実行中、制御部100がエンジン回転数の他、機体2の走行速度に応じて油圧シリンダ61aに供給する圧油の流量を変更することで、機体2の旋回時において、作業機6を適切な速度で上昇させることができる。たとえば、走行速度が速い場合は旋回速度も速くなるが、走行速度に応じて油圧シリンダ61aに供給する圧油の流量を増やすことで、機体2の高速旋回時でも旋回速度に対して作業機6の上昇が遅れない。このため、作業機6が枕地163と接触するなどして、圃場160が荒れるのを防止することができるとともに、作業機6の損傷を防止することができる。なお、上記構成においても、前輪切れ角および走行速度を変更するだけでよいため、既存システムの中で実現可能であり、安価となる。
【0094】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。