特許第6821148号(P6821148)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6821148
(24)【登録日】2021年1月8日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】金属材料、及び金属材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/00 20060101AFI20210114BHJP
   C23C 8/10 20060101ALI20210114BHJP
   C23C 18/32 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
   C23C28/00 B
   C23C8/10
   C23C18/32
【請求項の数】17
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2020-537260(P2020-537260)
(86)(22)【出願日】2020年2月25日
(86)【国際出願番号】JP2020007449
【審査請求日】2020年7月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】暮石 有佑
(72)【発明者】
【氏名】竹山 知陽
(72)【発明者】
【氏名】細江 晃久
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−049376(JP,A)
【文献】 特開2001−209925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の表面に設けられる酸化物層と、
前記酸化物層の表面に設けられる金属層とを備え、
前記基材は、アルミニウムを含み、
前記酸化物層は、アルミニウム、ニッケル、及び酸素を含み、
前記金属層は、ニッケルを含み、
前記酸化物層の平均厚さが、50nm以上250nm以下である、
金属材料。
【請求項2】
前記酸化物層は、
前記基材側に設けられるベース層と、
前記金属層側に設けられる複合層とを備え、
前記ベース層は、ニッケルよりもアルミニウムの含有量が多く、
前記複合層は、アルミニウムよりもニッケルの含有量が多い請求項1に記載の金属材料。
【請求項3】
前記ベース層は、アルミニウムを30原子%以上60原子%以下含む請求項2に記載の金属材料。
【請求項4】
前記複合層は、ニッケルを30原子%以上70原子%以下含む請求項2又は請求項3に記載の金属材料。
【請求項5】
前記ベース層の平均厚さが、30nm以上230nm以下である請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の金属材料。
【請求項6】
前記複合層の平均厚さが、20nm以上220nm以下である請求項2から請求項5のいずれか1項に記載の金属材料。
【請求項7】
前記複合層は、
前記ベース層から突出する複数の凸部と、
隣り合う前記凸部間に介在される金属部とを備え、
前記複数の凸部の各々は、アルミニウム及び酸素を含み、
前記金属部は、ニッケルを含む請求項2から請求項6のいずれか1項に記載の金属材料。
【請求項8】
前記基材と前記酸化物層とが接する界面が凹凸形状で構成されている請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の金属材料。
【請求項9】
前記酸化物層は、分散された複数のポアを備える請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の金属材料。
【請求項10】
前記ポアの大きさは、1nm以上50nm以下である請求項9に記載の金属材料。
【請求項11】
前記金属層の平均厚さが、3μm以上15μm以下である請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の金属材料。
【請求項12】
前記基材は線材であり、
前記線材の直径が0.04mm以上5mm以下である請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の金属材料。
【請求項13】
前記基材は線材であり、
前記基材の直径に対する前記酸化物層の平均厚さの割合が、0.00005以上0.0025以下である請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の金属材料。
【請求項14】
前記基材は線材であり、
前記基材の直径に対する前記金属層の平均厚さの割合が、0.003以上0.075以下である請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の金属材料。
【請求項15】
前記基材は、添加元素を含むアルミニウム合金からなり、
前記ベース層は、前記添加元素を含み、
前記添加元素は、鉄、マグネシウム、ケイ素、銅、亜鉛、ニッケル、マンガン、銀、クロム、及びジルコニウムからなる群より選択される一種以上である請求項2に記載の金属材料。
【請求項16】
前記酸化物層は、酸素を20原子%以上55原子%以下含む請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の金属材料。
【請求項17】
アルミニウムを含む基材を準備する工程と、
前記基材の表面にアルミニウム及びニッケルを含む前駆体層を設ける工程と、
前記前駆体層の表面にニッケルを含む金属層を設ける工程と、
前記前駆体層及び前記金属層を設けた前記基材に400℃以上600℃以下の温度で熱処理を施し、前記前駆体層をアルミニウム、ニッケル、及び酸素を含む酸化物層とする工程とを備え、
前記前駆体層を設ける工程は、
前記基材の表面にアルミニウム酸化物を含む薄膜を形成する工程と、
前記薄膜が形成された前記基材に、25℃におけるpHが9超11未満であるニッケルめっき液を用いて無電解めっきを施す工程とを備える、
金属材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属材料、及び金属材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、導電性基体と、導電性基体上に形成される表面処理被膜と、導電性基体と表面処理被膜との間に設けられる介在層とを備える表面処理材を開示する。導電性基体は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる。表面処理被膜は、ニッケル等からなる。介在層は、導電性基体中の金属成分と、表面処理被膜中の金属成分と、酸素成分とを含有する。介在層の平均厚さは、表面処理材の垂直断面で測定して、1nm以上40nm以下である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2018/124116号
【発明の概要】
【0004】
本開示の金属材料は、
基材と、
前記基材の表面に設けられる酸化物層と、
前記酸化物層の表面に設けられる金属層とを備え、
前記基材は、アルミニウムを含み、
前記酸化物層は、アルミニウム、ニッケル、及び酸素を含み、
前記金属層は、ニッケルを含み、
前記酸化物層の平均厚さが、50nm以上250nm以下である。
【0005】
本開示の金属材料の製造方法は、
アルミニウムを含む基材を準備する工程と、
前記基材の表面にアルミニウム及びニッケルを含む前駆体層を設ける工程と、
前記前駆体層の表面にニッケルを含む金属層を設ける工程と、
前記前駆体層及び前記金属層を設けた前記基材に400℃以上600℃以下の温度で熱処理を施し、前記前駆体層をアルミニウム、ニッケル、及び酸素を含む酸化物層とする工程とを備え、
前記前駆体層を設ける工程は、
前記基材の表面にアルミニウム酸化物を含む薄膜を形成する工程と、
前記薄膜が形成された前記基材に、25℃におけるpHが9超11未満であるニッケルめっき液を用いて無電解めっきを施す工程とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、実施形態の金属材料の一部を模式的に示す断面図である。
図2図2は、実施形態の金属材料の製造方法における前駆体層を設ける工程を説明する説明図である。
図3図3は、実施形態の金属材料の製造方法における前駆体層を設ける工程によって得られる第一被覆材の一部を模式的に示す断面図である。
図4図4は、実施形態の金属材料の製造方法における熱処理を行う工程を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
アルミニウムを含む基材の表面にニッケルを含む金属層が被覆された金属材料に対して、耐熱性の更なる向上が望まれている。特許文献1に開示する技術は、介在層によって基材と金属層との密着性を確保したとしても、例えば300℃以上の高温環境下では、金属層が剥がれるおそれがある。
【0008】
そこで、本開示は、耐熱性に優れる金属材料を提供することを目的の一つとする。また、本開示は、耐熱性に優れる金属材料が得られる金属材料の製造方法を提供することを目的の一つとする。
【0009】
[本開示の効果]
本開示の金属材料は、耐熱性に優れる。本開示の金属材料の製造方法は、耐熱性に優れる金属材料が得られる。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0011】
(1)本開示の一態様に係る金属材料は、
基材と、
前記基材の表面に設けられる酸化物層と、
前記酸化物層の表面に設けられる金属層とを備え、
前記基材は、アルミニウムを含み、
前記酸化物層は、アルミニウム、ニッケル、及び酸素を含み、
前記金属層は、ニッケルを含み、
前記酸化物層の平均厚さが、50nm以上250nm以下である。
【0012】
酸化物層が50nm以上であることで、300℃以上の高温環境下であっても、基材に含まれるアルミニウムと金属層に含まれるニッケルとが相互拡散することを抑制できる。アルミニウムとニッケルとの相互拡散を抑制できることで、基材の表層領域にカーケンダルボイドが形成されることを抑制できる。カーケンダルボイドの形成が抑制できることで、本開示の金属材料は、耐熱性に優れる。ここでの耐熱性は、金属材料に熱が加わった際の金属層の剥離の生じ難さのことである。一方、酸化物層が250nm以下であることで、金属材料の曲げ加工性の低下を抑制できる。ここでの曲げ加工性は、金属材料に曲げ加工が施された際の金属層の剥離の生じ難さのことである。
【0013】
(2)本開示の金属材料の一例として、
前記酸化物層は、
前記基材側に設けられるベース層と、
前記金属層側に設けられる複合層とを備え、
前記ベース層は、ニッケルよりもアルミニウムの含有量が多く、
前記複合層は、アルミニウムよりもニッケルの含有量が多い形態が挙げられる。
【0014】
酸化物層がベース層と複合層の二層構造で構成されることで、基材と金属層との密着性が向上し易い。
【0015】
(3)酸化物層がベース層と複合層とを備える本開示の金属材料の一例として、
前記ベース層は、アルミニウムを30原子%以上60原子%以下含む形態が挙げられる。
【0016】
ベース層に含まれるアルミニウムの含有量が上記範囲を満たすことで、基材と酸化物層との密着性が向上し易く、ひいては基材と金属層との密着性が向上し易い。
【0017】
(4)酸化物層がベース層と複合層とを備える本開示の金属材料の一例として、
前記複合層は、ニッケルを30原子%以上70原子%以下含む形態が挙げられる。
【0018】
複合層に含まれるニッケルの含有量が上記範囲を満たすことで、酸化物層と金属層との密着性が向上し易く、ひいては基材と金属層との密着性が向上し易い。
【0019】
(5)酸化物層がベース層と複合層とを備える本開示の金属材料の一例として、
前記ベース層の平均厚さが、30nm以上230nm以下である形態が挙げられる。
【0020】
ベース層の平均厚さが30nm以上であることで、基材と酸化物層との密着性を向上し易く、ひいては基材と金属層との密着性が向上し易い。一方、ベース層の平均厚さが230nm以下であることで、相対的に複合層の厚さをある程度確保できる。
【0021】
(6)酸化物層がベース層と複合層とを備える本開示の金属材料の一例として、
前記複合層の平均厚さが、20nm以上220nm以下である形態が挙げられる。
【0022】
複合層の平均厚さが20nm以上であることで、酸化物層と金属層との密着性が向上し易く、ひいては基材と金属層との密着性が向上し易い。一方、複合層の平均厚さが220nm以下であることで、相対的にベース層の厚さをある程度確保できる。
【0023】
(7)酸化物層がベース層と複合層とを備える本開示の金属材料の一例として、
前記複合層は、
前記ベース層から突出する複数の凸部と、
隣り合う前記凸部間に介在される金属部とを備え、
前記複数の凸部の各々は、アルミニウム及び酸素を含み、
前記金属部は、ニッケルを含む形態が挙げられる。
【0024】
金属部は、ニッケルを含むことで、金属層への密着性が高い。この金属部が複数の凸部間に介在されることで、アンカー効果により、金属部と凸部との密着性が高く、ひいては複合層と金属層との密着性が高い。よって、複合層が凸部と金属部との複合により構成されることで、酸化物層と金属層との密着性が向上し易く、ひいては基材と金属層との密着性が向上し易い。
【0025】
(8)本開示の金属材料の一例として、
前記基材と前記酸化物層とが接する界面が凹凸形状で構成されている形態が挙げられる。
【0026】
上記界面が凹凸形状で構成されていることで、アンカー効果により、基材と酸化物層との密着性が向上し易く、ひいては基材と金属層との密着性が向上し易い。
【0027】
(9)本開示の金属材料の一例として、
前記酸化物層は、分散された複数のポアを備える形態が挙げられる。
【0028】
酸化物層中に複数のポアが分散されていることで、金属材料の曲げ加工性が向上し易い。なお、このポアは、金属材料を構成する金属元素の相互拡散によって基材の表層領域に形成され得るカーケンダルボイドとは異なり、耐熱性の悪化に実質的に影響を及ぼさない。
【0029】
(10)酸化物層に複数のポアを備える本開示の金属材料の一例として、
前記ポアの大きさは、1nm以上50nm以下である形態が挙げられる。
【0030】
ポアの大きさが1nm以上であることで、金属材料の曲げ加工性が向上し易い。一方、ポアの大きさが50nm以下であることで、脆性破壊が抑制される。
【0031】
(11)本開示の金属材料の一例として、
前記金属層の平均厚さが、3μm以上15μm以下である形態が挙げられる。
【0032】
金属層の平均厚さが3μm以上であることで、耐熱性が向上し易い。一方、金属層の平均厚さが15μm以下であることで、金属材料の曲げ加工性が向上し易い。
【0033】
(12)本開示の金属材料の一例として、
前記基材は線材であり、
前記線材の直径が0.04mm以上5mm以下である形態が挙げられる。
【0034】
本開示の金属材料は、上述したように、耐熱性に優れる上に、曲げ加工性にも優れる。よって、本開示の金属材料は、屈曲加工して用いられることが多い線材に好適に利用できる。線材の直径が0.04mm以上であることで、基材の強度を維持し易く、耐屈曲性に優れる金属材料が得られ易い。一方、線材の直径が5mm以下であることで、金属材料の曲げ加工性が向上し易い。
【0035】
(13)本開示の金属材料の一例として、
前記基材は線材であり、
前記基材の直径に対する前記酸化物層の平均厚さの割合が、0.00005以上0.0025以下である形態が挙げられる。
【0036】
上記割合が0.00005以上であることで、酸化物層の厚さがある程度確保され、耐熱性が向上し易い。一方、上記割合が0.002以下であることで、酸化物層の厚さが厚くなり過ぎず、金属材料の曲げ加工性が向上し易い。
【0037】
(14)本開示の金属材料の一例として、
前記基材は線材であり、
前記基材の直径に対する前記金属層の平均厚さの割合が、0.003以上0.075以下である形態が挙げられる。
【0038】
上記割合が0.003以上であることで、金属層の厚さがある程度確保され、耐熱性を向上し易い。一方、上記割合が0.075以下であることで、金属層の厚さが厚くなり過ぎず、金属材料の曲げ加工性が向上し易い。
【0039】
(15)酸化物層がベース層と複合層とを備える本開示の金属材料の一例として、
前記基材は、添加元素を含むアルミニウム合金からなり、
前記ベース層は、前記添加元素を含む形態が挙げられる。
【0040】
基材がアルミニウム合金で構成されることで、基材の強度を向上でき、ひいては金属材料の強度を向上できる。基材に含まれる金属元素がベース層に含まれることで、基材と酸化物層との密着性が向上し易く、ひいては基材と金属層との密着性が向上し易い。
【0041】
(16)本開示の金属材料の一例として、
前記酸化物層は、酸素を20原子%以上55原子%以下含む形態が挙げられる。
【0042】
酸化物層に含まれる酸素の含有量が上記範囲を満たすことで、基材と金属層との密着性が向上し易い。
【0043】
(17)本開示の一態様に係る金属材料の製造方法は、
アルミニウムを含む基材を準備する工程と、
前記基材の表面にアルミニウム及びニッケルを含む前駆体層を設ける工程と、
前記前駆体層の表面にニッケルを含む金属層を設ける工程と、
前記前駆体層及び前記金属層を設けた前記基材に400℃以上600℃以下の温度で熱処理を施し、前記前駆体層をアルミニウム、ニッケル、及び酸素を含む酸化物層とする工程とを備え、
前記前駆体層を設ける工程は、
前記基材の表面にアルミニウム酸化物を含む薄膜を形成する工程と、
前記薄膜が形成された前記基材に、25℃におけるpHが9超11未満であるニッケルめっき液を用いて無電解めっきを施す工程とを備える。
【0044】
前駆体層を設ける工程において、比較的pHが高いアルカリ性のニッケルめっき液を用いて無電解めっきを施すことで、基材の表面に金属水酸化物を多く含む前駆体層を設けることができる。この前駆体層の表面に金属層を設けた後に熱処理を施すことで、前駆体層に含まれる金属水酸化物が金属酸化物に変換された酸化物層を構成できる。このとき、熱処理温度が400℃以上であることで、金属水酸化物が金属酸化物に良好に変換される。また、熱処理温度が400℃以上であることで、形成される酸化物層の平均厚さを50nm以上にし易い。一方、熱処理温度が600℃以下であることで、形成される酸化物層の平均厚さを250nm以下にし易い。つまり、上記の金属材料の製造方法によれば、基材と、基材の表面に設けられる酸化物層と、酸化物層の表面に設けられる金属層とを備える金属材料が得られる。特に、比較的pHが高いアルカリ性のニッケルめっき液を用いて無電解めっきを施して前駆体層を設けた後に、特定の温度で熱処理を施すことで、比較的厚い50nm以上250nm以下の平均厚さの酸化物層が得られ易い。
【0045】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態の詳細を、以下に図面を参照しつつ説明する。各図は、金属材料1が線材で構成される形態を図示する。各図に示す金属材料1は、線材の長手方向に平行な平面で切断した断面で図示する。図1図3図4では、金属材料1の断面において、金属材料1の径方向の半分しか示していないが、残りの半分も同様の構成である。図1図3図4では、分かり易いように基材に対する酸化物層の厚さは誇張して示され、実際の大きさとは異なる。また、図1図3図4では、分かりやすいように酸化物層に備わる複合層の構成を模式的に示す。図中の同一符号は同一名称物を示す。
【0046】
<金属材料>
実施形態の金属材料1は、図1に示すように、基材2と、基材2の表面に設けられる酸化物層3と、酸化物層3の表面に設けられる金属層4とを備える。基材2は、アルミニウムを含む。酸化物層3は、アルミニウム、ニッケル、及び酸素を含む。金属層4は、ニッケルを含む。実施形態の金属材料1は、酸化物層3の平均厚さが50nm以上250nm以下である点を特徴の一つとする。以下、金属材料1の詳細を説明する。
【0047】
基材2に対する酸化物層3及び金属層4が設けられる方向を積層方向と呼ぶことがある。積層方向は、基材2の表面が直線となるように金属材料1の断面を採り、その直線に対して直交する方向である。基材2が線材である場合、積層方向は、線材の径方向である。基材2が板材である場合、積層方向は、厚み方向である。積層方向は、図1の上下方向である。
【0048】
〔基材〕
基材2は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる。ここでの「アルミニウム(Al)」とは、Alを99質量%以上含有する純アルミニウムである。純Alとしては、例えば、JIS H 4000(2014年)に規定されている1000系のアルミニウムを用いることができる。1000系のアルミニウムとしては、A1070を用いることができる。また、ここでの「アルミニウム(Al)合金」とは、Alを50質量%以上、好ましくは90質量%以上含有し、Al以外の添加元素を1種以上含有するアルミニウム基合金である。Al合金の添加元素は、例えば、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、ケイ素(Si)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、銀(Ag)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)等が挙げられる。添加元素の合計含有量は、1質量%以上50質量%未満、更に1質量%以上10質量%未満であることが挙げられる。添加元素としてMgを含む場合、Mgの含有量は、0.4質量%以上5質量%以下であることが挙げられる。このようなAl合金としては、例えば、JIS H 4000(2014年)に規定されている各種の合金、例えば5000系のアルミニウム合金を用いることができる。5000系のアルミニウム合金としては、A5052を用いることができる。基材2は、展伸材であってもよいし、鋳物材であってもよい。
【0049】
基材2の形状は、線材、板材、棒材、管、箔、その他の所望の形状を適宜選択できる。本例の基材2は、線材である。基材2の寸法は、用途に応じて種々の寸法を適宜選択できる。
【0050】
基材2の平均厚さは、0.04mm以上5mm以下であることが挙げられる。基材2が線材や棒材で構成される場合、基材2の平均厚さは、直径である。また、基材2が管で構成される場合、基材2の平均厚さは、内径と外径との差の1/2である。基材2の平均厚さが0.04mm以上であることで、基材の強度を維持し易く、耐屈曲性に優れる金属材料1が得られ易い。一方、基材2の平均厚さが5mm以下であることで、金属材料1の曲げ加工性が向上し易い。基材2の平均厚さは、更に0.1mm以上3mm以下、特に0.5mm以上2mm以下であることが挙げられる。
【0051】
基材2における酸化物層3が設けられる面は、実質的に平面で構成されていることが挙げられる。実質的に平面とは、後述する複合層32における凸部321と凹部322との凹凸差の1/3以下の粗面状態であることを言う。凸部321と凹部322との凹凸差は、複合層32の厚さとみなせる。基材2における酸化物層3が設けられる面が平面で構成される場合、その面は、更に上記凹凸差の1/4以下、特に1/5以下であることが挙げられる。基材2における酸化物層3が設けられる面の粗面状態は、走査型電子顕微鏡(SEM)による断面観察で測定できる。
【0052】
基材2における酸化物層3が設けられる面は、凹凸形状に構成されていてもよい。凹凸形状とは、後述する複合層32における凸部321と凹部322との凹凸差の1/3超の粗面状態であることを言う。上記面が凹凸形状に構成されている場合、酸化物層3は、上記面の凹凸に嵌まり込むように設けられる。つまり、基材2と酸化物層3とが接する界面が凹凸形状で構成される。上記界面が凹凸形状で構成されていることで、アンカー効果により、基材2と酸化物層3との密着性が向上し易い。基材2における酸化物層3が設けられる面が凹凸形状で構成される場合、その面は、更に上記凹凸差の1/2以上、特に同等程度であることが挙げられる。
【0053】
〔酸化物層〕
酸化物層3は、基材2の表面に設けられる。酸化物層3は、アルミニウム、ニッケル、及び酸素を含む。酸化物層3は、主にアルミニウム酸化物からなる。酸化物層3は、ベース層31と複合層32とを備える。本例の酸化物層3は、ベース層31と複合層32との二層構造で構成されている。
【0054】
酸化物層3に含まれる酸素の含有量は、20原子%以上55原子%以下、更に22原子%以上45原子%以下、特に25原子%以上35原子%以下であることが挙げられる。酸化物層3に含まれる酸素の含有量が上記範囲を満たすことで、基材2と金属層4との密着性が向上し易い。
【0055】
〈ベース層〉
ベース層31は、基材2側に設けられる。ベース層31は、ニッケルよりもアルミニウムの含有量が多い。ベース層31がアルミニウムを多く含むことで、基材2と酸化物層3との密着性が向上し易い。ベース層31に含まれるアルミニウムの含有量は、30原子%以上60原子%以下、更に35原子%以上55原子%以下、特に40原子%以上50原子%以下であることが挙げられる。ベース層31に含まれるアルミニウムの含有量が上記範囲を満たすことで、基材2と酸化物層3との密着性が向上し易い。基材2がアルミニウム合金からなる場合、ベース層31は、アルミニウム合金に含まれる添加元素を含むことが好ましい。ベース層31は、主にアルミニウム酸化物からなる。
【0056】
ベース層31の平均厚さは、30nm以上230nm以下であることが挙げられる。ベース層31の平均厚さが30nm以上であることで、基材2と酸化物層3との密着性が向上し易い。一方、ベース層31の平均厚さが230nm以下であることで、相対的に複合層32の厚さをある程度確保できる。ベース層31の平均厚さは、更に40nm以上150nm以下、特に50nm以上100nm以下であることが挙げられる。ベース層31の平均厚さは、金属材料1の断面をSEMで観察し、そのSEM画像から求めることができる。SEM画像の倍率は、5万倍以上とすることが挙げられる。このSEM画像において、異なる10箇所でベース層31の厚さを測定し、その平均値をベース層31の平均厚さとする。ベース層31の厚さは、基材2の表面からベース層31と複合層32との境界までの各層の積層方向に沿った長さである。ベース層31と複合層32との境界については、後述する。
【0057】
〈複合層〉
複合層32は、金属層4側に設けられる。複合層32は、アルミニウムよりもニッケルの含有量が多い。複合層32がニッケルを多く含むことで、酸化物層3と金属層4との密着性が向上し易い。複合層32に含まれるニッケルの含有量は、25原子%以上70原子%以下、更に32原子%以上60原子%以下、特に35原子%以上50原子%以下であることが挙げられる。複合層32に含まれるニッケルの含有量が上記範囲を満たすことで、酸化物層3と金属層4との密着性が向上し易い。本例の複合層32は、複数の凸部321と金属部323とが複合されて構成されている。
【0058】
(凸部)
複数の凸部321は、ベース層31から突出する。隣り合う凸部321間には、凹部322が設けられる。各凸部321は、アルミニウム及び酸素を含む。各凸部321は、主にアルミニウム酸化物からなる。各凸部321は、ベース層31と実質的に同じ組成からなる。
【0059】
凸部321の突出高さは、ベース層31と複合層32との境界から凸部321の頂点までの積層方向に沿った長さである。ベース層31と複合層32との境界は、隣り合う凹部322の最も窪んだ箇所同士を直線でつないだ線L1である。凸部321の突出高さは、20nm以上220nm以下であることが挙げられる。隣り合う凸部321間に設けられる凹部322には、金属部323が存在する。凸部321の突出高さが20nm以上あることで、凹部322を大きく確保し易く、凹部322と金属部323との接触面積を大きく確保し易い。また、凸部321の突出高さが20nm以上であることで、アンカー効果により、凸部321と金属部323との密着性を高くできる。一方、凸部321の突出高さが220nm以下であることで、複合層32の厚肉化を抑制でき、相対的にベース層31の厚さをある程度確保できる。凸部321の突出高さは、更に30nm以上150nm以下、特に40nm以上100nm以下であることが挙げられる。凸部321の突出高さは、金属材料1の断面をSEMで観察し、そのSEM画像から求めることができる。SEM画像の倍率は、5万倍以上とすることが挙げられる。このSEM画像において、10個以上の凸部321の突出高さを測定し、その平均値を凸部321の突出高さとする。この突出高さは、上記SEM画像において、積層方向に沿った直線であって、凸部321の頂点と凸部321の底辺とを通る直線を描き、その直線における頂点と底辺との間の長さである。
【0060】
隣り合う凸部321の頂点間の間隔は、5nm以上80nm以下であることが挙げられる。隣り合う凸部321の頂点間の間隔が5nm以上であることで、金属部323と金属層4との接触面積を大きく確保し易く、酸化物層3と金属層4との密着性が向上し易い。一方、隣り合う凸部321の頂点間の間隔が80nm以下であることで、凸部321及び凹部322を多く設け易く、アンカー効果による凸部321と金属部323との密着性を高くし易い。隣り合う凸部321の頂点間の間隔は、更に10nm以上60nm以下、特に15nm以上40nm以下であることが挙げられる。
【0061】
(金属部)
金属部323は、隣り合う凸部321間に介在される。各金属部323は、ニッケルを含む。各金属部323は、主にニッケル単体からなる。金属部323は、金属層4との密着性の向上に寄与する。金属部323は、代表的には、隣り合う凸部321の頂点を結ぶ線L2と凹部322とで構成される領域に設けられる。
【0062】
複合層32の平均厚さは、20nm以上220nm以下であることが挙げられる。複合層32が凸部321と金属部323との複合によって構成されている場合、複合層32の平均厚さは、凸部321の突出高さに相当する。複合層32の平均厚さが20nm以上であることで、酸化物層3と金属層4との密着性が向上し易い。一方、複合層32の平均厚さが220nm以下であることで、相対的にベース層31の厚さをある程度確保できる。複合層32の平均厚さは、更に40nm以上150nm以下、特に50nm以上100nm以下であることが挙げられる。複合層32の平均厚さは、金属材料1の断面をSEMで観察し、そのSEM画像から求めることができる。SEM画像の倍率は、5万倍とすることが挙げられる。このSEM画像において、異なる10箇所で複合層32の厚さを測定し、その平均値を複合層32の平均厚さとする。複合層32の厚さは、凸部321の突出高さとする。
【0063】
〈平均厚さ〉
酸化物層3の平均厚さは、50nm以上250nm以下である。酸化物層3が50nm以上であることで、300℃以上の高温環境下であっても、基材2に含まれるアルミニウムと金属層4に含まれるニッケルとが相互拡散することを抑制できる。アルミニウムとニッケルとの相互拡散を抑制できることで、基材2の表層領域にカーケンダルボイドが形成されることを抑制できる。カーケンダルボイドの形成が抑制できることで、金属材料1は、耐熱性に優れる。一方、酸化物層3が250nm以下であることで、金属材料1の曲げ加工性の低下を抑制できる。酸化物層3の平均厚さは、更に75nm以上200nm以下、100nm以上150nm以下、特に100nm超150nm以下であることが挙げられる。
【0064】
酸化物層3の平均厚さは、金属材料1の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、そのSEM画像から求めることができる。SEM画像の倍率は、5万倍とすることが挙げられる。このSEM画像において、異なる10箇所で酸化物層3の厚さを測定し、その平均値を酸化物層3の平均厚さとする。酸化物層3の厚さは、基材2と酸化物層3との界面と、酸化物層3と金属層4との界面との間の積層方向の長さである。酸化物層3がベース層31と複合層32との二層構造で構成される場合、酸化物層3の厚さは、ベース層31の厚さと複合層32の厚さの合計である。
【0065】
基材2が線材で構成される場合、基材2の直径に対する酸化物層3の平均厚さの割合は、0.00005以上0.0025以下であることが挙げられる。上記割合が0.00005以上であることで、酸化物層3の厚さがある程度確保され、耐熱性が向上し易い。一方、上記割合が0.002以下であることで、酸化物層3の厚さが厚くなり過ぎず、金属材料1の曲げ加工性が向上し易い。上記割合は、更に0.00008以上0.001以下、特に0.00012以上0.0002以下であることが挙げられる。
【0066】
〈その他〉
酸化物層3は、分散された複数のポア35を備えていてもよい。ポア35は、主にベース層31や凸部321に分散して存在する。酸化物層3に複数のポア35が分散されていることで、金属材料1の曲げ加工性が向上し易い。ポア35の大きさは、1nm以上50nm以下であることが挙げられる。ポア35の大きさが1nm以上であることで、金属材料1の曲げ加工性が向上し易い。一方、ポア35の大きさが50nm以下であることで、脆性破壊が抑制される。ポア35の大きさは、更に5nm以上40nm以下、特に10nm以上30nm以下であることが挙げられる。ポア35の大きさは、金属材料1の断面をSEMで観察し、そのSEM画像から求めることができる。SEM画像の倍率は、5万倍とすることが挙げられる。このSEM画像において、ポア35の円相当径を直径とし、10個以上のポア35の直径の平均値をポア35の大きさとする。ここで言う円相当径とは、ポア35の断面の面積を有する真円の直径である。
【0067】
金属材料1の断面における酸化物層3に占めるポア35の面積割合は、1%以上20%以下であることが挙げられる。上記面積割合が1%以上であることで、金属材料1の曲げ加工性が向上し易い。一方、上記面積割合が20%以下であることで、脆性破壊が抑制される。上記面積割合は、更に3%以上15%以下、特に5%以上10%以下であることが挙げられる。上記面積割合は、金属材料1の断面をSEMで観察し、そのSEM画像から求めることができる。SEM画像の倍率は、5万倍とすることが挙げられる。このSEM画像において、酸化物層3の面積に占めるポア35の合計面積の割合を上記面積割合とする。
【0068】
〔金属層〕
金属層4は、酸化物層3の表面に設けられる。金属層4は、ニッケルを含む。金属層4は、主にニッケル単体からなる。
【0069】
金属層4の平均厚さは、3μm以上15μm以下であることが挙げられる。金属層4の平均厚さが3μm以上であることで、耐熱性が向上し易い。一方、金属層4の平均厚さが15μm以下であることで、金属材料1の曲げ加工性が向上し易い。金属層4の平均厚さは、更に4μm以上12μm以下、特に6μm以上10μm以下であることが挙げられる。金属層4の平均厚さは、金属材料1の断面をSEMで観察し、そのSEM画像から求めることができる。SEM画像の倍率は、5万倍とすることが挙げられる。このSEM画像において、異なる10箇所で金属層4の厚さを測定し、その平均値を金属層4の平均厚さとする。金属層4の厚さは、酸化物層3と金属層4との界面から金属層4の表面までの積層方向の長さである。酸化物層3がベース層31と複合層32との二層構造で構成される場合、酸化物層3と金属層4との界面は、隣り合う凸部321の頂点同士を直線でつないだ線L2とする。
【0070】
基材2が線材で構成される場合、基材2の直径に対する金属層4の平均厚さの割合は、0.003以上0.075以下であることが挙げられる。上記割合が0.003以上であることで、金属層4の厚さがある程度確保され、耐熱性を向上し易い。一方、上記割合が0.075以下であることで、金属層4の厚さが厚くなり過ぎず、金属材料1の曲げ加工性が向上し易い。上記割合は、更に0.004以上0.04以下、特に0.005以上0.012以下であることが挙げられる。
【0071】
〔その他〕
金属材料1は、更に金属層4の表面に他の金属層を備えていてもよい。
【0072】
〔用途〕
実施形態の金属材料1は、高温環境下で使用される用途や、加熱処理される用途に好適に利用できる。このような用途としては、例えば、電子機器に搭載されるコンデンサ、電池のリード線、電子機器同士を接続するバンプ、自動車部品等が挙げられる。
【0073】
<金属材料の製造方法>
実施形態の金属材料の製造方法は、基材を準備する工程と、前駆体層を設ける工程と、金属層を設ける工程と、熱処理を施す工程とを備える。以下、図2から図4を参照して、金属材料の製造方法の詳細を説明する。
【0074】
〔準備工程〕
準備工程では、アルミニウムを含む基材110を準備する。基材110は、上述した基材2と同様である。本例では、基材110は線材で構成される。
【0075】
〔前駆体層を設ける工程〕
前駆体層を設ける工程では、基材110の表面にアルミニウム及びニッケルを含む前駆体層130を設けて第一被覆材100(図3)を作製する。前駆体層を設ける工程は、図2に示すように、基材110の表面にアルミニウム酸化物を含む薄膜120を形成する工程と、薄膜120が形成された基材110にニッケルめっき液300を用いて無電解めっきを施す工程とを備える。
【0076】
〈薄膜を形成する工程〉
基材110にアルミニウムを含む場合、一般的に、基材110にめっきを施す前に前処理が施される。前処理は、脱脂、エッチング、及びスマット除去の少なくとも一つが挙げられる。本例では、前処理として、脱脂、エッチング、及びスマット除去の全てを行う。脱脂は、基材110の表面に付着している油分を除去する処理である。脱脂は、例えば、アルカリ脱脂剤を用いて行う。エッチングは、基材110の表面に形成された酸化アルミニウムの皮膜を除去する処理である。エッチングは、例えば、水酸化ナトリウム等を含む高アルカリ性の水溶液を用いて行う。スマット除去は、エッチングの際に生じたスマットを除去する処理である。スマットとは、水酸化アルミニウム(Al(OH))やアルミニウム合金中に含まれる不純物のことである。スマット除去は、例えば、硝酸等を含む酸性の水溶液を用いて行う。
【0077】
薄膜120は、基材110に上述した前処理を施すことで得られる。薄膜120の平均厚さは、1nm以上10nm以下であることが挙げられる。薄膜120の平均厚さが上記範囲を満たすことで、前駆体層130を構成するベース層131、及び複合層132における凸部1321(図3)を良好に構成することができる。薄膜120の平均厚さは、更に1.5nm以上7nm以下、特に2nm以上5nm以下であることが挙げられる。薄膜120の平均厚さは、X線光電子分光法(XPS)による深さ方向の元素分析により測定できる。
【0078】
〈無電解めっきを施す工程〉
無電解めっきを施す工程では、図2に示すように、薄膜120が形成された基材110をニッケルめっき液300に浸漬する。ニッケルめっき液300は、25℃におけるpHが9超11未満である。比較的pHが高いアルカリ性のニッケルめっき液300を用いて無電解めっきを施すことで、基材110の表面に金属水酸化物を多く含む前駆体層130(図3)を設けることができる。前駆体層130に含まれる金属水酸化物は、後述する熱処理によって、金属酸化物に変換される。詳細は後述するが、金属水酸化物が金属酸化物に変換されることで、前駆体層130は、酸化物層3(図1)となる。前駆体層130に金属水酸化物を多く含むことで、後述する熱処理によって、金属水酸化物を金属酸化物に良好に変換でき、かつ比較的厚い酸化物層3が得られる。ニッケルめっき液300におけるpHは、更に10以上、特に10.5以上であることが挙げられる。
【0079】
無電解めっきの処理時におけるニッケルめっき液300の温度は、20℃以上100℃以下であることが挙げられる。無電解めっきの処理時間は、1分以上20分以下、更に2分以上10分以下であることが挙げられる。
【0080】
ニッケルめっき液300は、ニッケルイオンの供給源であるニッケル化合物を含む。ニッケル化合物は、例えば、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、硝酸ニッケル等が挙げられる。ニッケル化合物の濃度は、例えば、0.1g/L以上50g/L以下であることが挙げられる。
【0081】
ニッケルめっき液300は、ニッケル化合物に加え、還元剤、錯化剤、pH緩衝剤、光沢剤、界面活性剤等の添加剤を含むことができる。還元剤は、ニッケルイオンを還元する化合物である。還元剤は、例えば、次亜リン酸ナトリウム、ホウ素化合物、ヒドラジン化合物等が挙げられる。錯化剤は、ニッケルめっき液300中の金属イオンと錯体を形成し、安定化させる化合物である。錯化剤は、金属塩の種類に応じて適宜選択できる。錯化剤は、例えば、硫酸、リン酸、塩酸等のアンモニウム塩、スルファミン酸、グリシン、エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸、有機カルボン酸等が挙げられる。pH緩衝剤は、金属イオンの沈殿を防止する化合物である。pH緩衝材は、例えば、ホウ酸、酢酸、クエン酸等が挙げられる。光沢剤は、得られる層の表面を平滑化する化合物である。光沢剤は、例えば、サッカリンナトリウム、ナフタレンジスルホン酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、ブチンジオール等が挙げられる。界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられる。添加剤の濃度は、特に限定されない。
【0082】
無電解めっきを施す工程によって、図3に示すように、基材110の表面に前駆体層130を備える第一被覆材100が得られる。前駆体層130は、ベース層131と複合層132との二層構造で構成される。複合層132は、複数の凸部1321と金属部1323とが複合されて構成される。無電解めっきを施す工程によって、このような前駆体層130が形成されるメカニズムは、次のように考えられる。
【0083】
まず、ニッケルめっき液300によって薄膜120の一部が溶解し、基材110の表面が露出する。この露出した基材110の表面において、基材110を構成するアルミニウムがニッケルに置換される。また、露出した基材110の表面は酸化される。一方、薄膜120のうち溶解しなかった残部は、溶解した部分に比較して突出することになる。また、薄膜120のうち溶解しなかった残部は、薄膜120上に新たなアルミニウム酸化皮膜が形成されることで部分的に成長する。薄膜120のうち、溶解しなかった残部が他の箇所と比較して突出され、その突出した箇所が、複数の凸部1321となる。薄膜120のうち、突出した箇所以外が、ベース層131となる。薄膜120の溶解や成長が行われると共に、複数の凸部1321間に設けられる凹部1322にニッケルが配置される。この凹部1322を埋めるように配置されたニッケルが、金属部1323となる。
【0084】
前駆体層130は、主に水酸化物で構成される。ベース層131及び凸部1321は、主に薄膜120に由来する。よって、ベース層131及び凸部1321は、主に水酸化アルミニウムからなる。金属部1323は、主にニッケルめっき液300に含まれるニッケル化合物に由来する。よって、金属部1323は、主に水酸化ニッケル、又はニッケル単体からなる。
【0085】
〔金属層を設ける工程〕
金属層を設ける工程では、前駆体層130の表面にニッケルを含む金属層140を設けて第二被覆材200(図4)を作製する。金属層140は、めっきを施すことで形成できる。めっきは、無電解めっきでもよいし、電解めっきでもよい。
【0086】
無電解めっきの場合、めっき液は、無電解でニッケルめっきができる公知のものを用いることができる。
【0087】
電解めっきの場合、公知のニッケルめっき液を用いることができる。電解めっきに用いるニッケルめっき液は、例えば、硫酸ニッケル、塩化ニッケル及びホウ酸を主成分とするワット浴、スルファミン酸ニッケル及びホウ酸を主成分とするスルファミン酸浴、塩化ニッケル及び塩酸を主成分とするウッド浴、硫酸ニッケル、硫酸ニッケルアンモニウム、硫酸亜鉛、チオシアン酸ナトリウムを主成分とする黒色浴等が挙げられる。電解めっきの条件は特に限定されない。電流密度は、例えば、0.1A/dm以上20A/dm以下であることが挙げられる。電解めっきの処理時におけるニッケルめっき液の温度は、例えば、20℃以上70℃以下であることが挙げられる。電解めっきの処理時間は、所望の厚さに応じて、適宜設定できる。
【0088】
金属層を設ける工程によって、図4に示すように、前駆体層130の表面に金属層140を備える第二被覆材200が得られる。金属層140は、上述した金属層4と同様である。
【0089】
金属層を設ける工程の後、金属層140の表面に他の金属層を形成してもよい。他の金属層は、例えば、スズめっき層等が挙げられる。
【0090】
〔熱処理工程〕
熱処理工程では、図4に示すように、前駆体層130及び金属層140を設けた基材110に熱処理を施す。この熱処理によって、前駆体層130に含まれる金属水酸化物は、金属酸化物に変換される。つまり、この熱処理によって、前駆体層130は、アルミニウム、ニッケル、及び酸素を含む酸化物層3(図1)となる。また、この熱処理によって、酸化物層3の厚さが厚くなる。なお、この熱処理は、基材110及び金属層140に実質的に影響を及ぼさない。熱処理後に得られる金属材料1における基材2及び金属層4は、製造過程における基材110及び金属層140の組成や厚さ等を実質的に維持する。
【0091】
熱処理温度は、400℃以上600℃以下である。熱処理温度が400℃以上であることで、前駆体層130に含まれる金属水酸化物が金属酸化物に良好に変換される。また、熱処理温度が400℃以上であることで、形成される酸化物層3(図1)の平均厚さを50nm以上にし易い。一方、熱処理温度が600℃以下であることで、形成される酸化物層3の平均厚さを250nm以下にし易い。熱処理温度は、更に420℃以上550℃以下、特に450℃以上500℃以下であることが挙げられる。
【0092】
熱処理時間は、30秒以上60分以下であることが挙げられる。熱処理時間が30秒以上であることで、前駆体層130に含まれる金属水酸化物が金属酸化物に良好に変換される。また、熱処理時間が30秒以上であることで、形成される酸化物層3(図1)の平均厚さを50nm以上にし易い。一方、熱処理時間が60分以下であることで、形成される酸化物層3の平均厚さを250nm以下にし易い。熱処理時間は、更に5分以上30分以下、特に10分以上15分以下であることが挙げられる。
【0093】
熱処理雰囲気は、アルゴン雰囲気や窒素雰囲気等の不活性ガス雰囲気であることが挙げられる。
【0094】
上述した熱処理温度や熱処理時間によっては、熱処理後に得られる金属材料1におけるベース層31や凸部321にポア35(図1)が分散して形成され得る。
【0095】
<効果>
実施形態の金属材料1は、基材2と金属層4との間に酸化物層3が介在される。酸化物層3は、基材2の金属成分であるアルミニウムと、金属層4の金属成分であるニッケルと、酸素とを含む。この酸化物層3の介在によって、実施形態1の金属材料1は、基材2と金属層4との密着性に優れる。特に、酸化物層3が50nm以上であることで、300℃以上の高温環境下であっても、基材2に含まれるアルミニウムと金属層4に含まれるニッケルとが相互拡散することを抑制できる。アルミニウムとニッケルとの相互拡散を抑制できることで、基材2の表層領域にカーケンダルボイドが形成されることを抑制できる。カーケンダルボイドの形成が抑制できることで、実施形態の金属材料1は、耐熱性に優れる。一方、酸化物層3が250nm以下であることで、金属材料1の曲げ加工性の低下を抑制できる。
【0096】
実施形態の金属材料の製造方法は、基材110の表面に金属水酸化物を多く含む前駆体層130を設け、その後に熱処理を施す。金属水酸化物を多く含む前駆体層130は、比較的pHが高いアルカリ性のニッケルめっき液を用いて無電解めっきを施すことで得られる。前駆体層130に含まれる金属水酸化物は、熱処理によって、金属酸化物に変換される。熱処理温度が400℃以上であることで、金属水酸化物が金属酸化物に良好に変換され、かつ形成される酸化物層3の平均厚さを50nm以上にし易い。一方、熱処理温度が600℃以下であることで、形成される酸化物層3の平均厚さを250nm以下にし易い。つまり、実施形態の金属材料の製造方法によれば、基材2と、基材2の表面に設けられる酸化物層3と、酸化物層3の表面に設けられる金属層4とを備える金属材料1が得られる。特に、比較的pHが高いアルカリ性のニッケルめっき液を用いて無電解めっきを施して前駆体層130を設けた後に、特定の温度で熱処理を施すことで、比較的厚い50nm以上250nm以下の平均厚さの酸化物層3が得られ易い。
【0097】
[試験例]
アルミニウムを含む基材と、ニッケルを含む金属層と、基材と金属層との間に酸化物層とを備える金属材料を作製し、その金属材料における密着性を調べた。
【0098】
<試験例1>
試験例1では、酸化物層の基となる前駆体層を設ける工程において、異なるpHのニッケルめっき液を用い、得られる酸化物層の構造及び厚さと、金属材料における密着性を調べた。
【0099】
〔試料の作製〕
・試料No.1−1からNo.1−5
まず、基材として、JIS規格のA1070からなる線材を準備した。基材の直径は5mmである。
準備した基材に前処理を施した。前処理は、脱脂、エッチング、及びスマット除去の全てを行った。A1070からなる線材に前処理を施したサンプル品では、厚さが3nm程度のアルミニウム酸化物からなる薄膜が形成されていた。
薄膜が形成された基材をニッケルめっき液に浸漬して無電解めっきを施した。ニッケルめっき液は、硫酸ニッケル六水和物とグリシンとを含む。硫酸ニッケル六水和物の濃度は、25g/Lとした。グリシンの濃度は、30g/Lとした。ニッケルめっき液の25℃におけるpHは、表1に示すpHとした。このようなニッケルめっき液を60℃に保持し、薄膜が形成された基材を2分浸漬した。
上記前処理及び無電解めっきによって、基材の表面に前駆体層が形成される。
次に、前駆体層が形成された基材に対して、ワット浴を用いて電解めっきを施した。ワット浴の温度は、55℃とした。電解めっきの電流密度は、5A/dmとした。電解めっきは、前駆体層の表面に所望の厚さの金属層が形成されるまで行った。金属層の平均厚さは、15μmとした。
次に、前駆体層及び金属層が形成された基材に熱処理を施した。熱処理温度は、600℃とした。熱処理時間は30秒とした。熱処理雰囲気はアルゴン雰囲気とした。
【0100】
・試料No.1−11からNo.1−15
まず、基材として、JIS規格のA5052からなる線材を準備した。基材の直径は0.2mmである。
準備した基材に前処理を施した。前処理は、試料No.1−1等と同様である。A5052からなる線材に前処理を施したサンプル品では、厚さが3nm程度のアルミニウム酸化物からなる薄膜が形成されていた。
薄膜が形成された基材をニッケルめっき液に浸漬して無電解めっきを施した。ニッケルめっき液及び無電解めっきの条件は、試料No.1−1等と同様である。
上記前処理及び無電解めっきによって、基材の表面に前駆体層が形成される。
次に、前駆体層が形成された基材に対して、ワット浴を用いて電解めっきを施した。ワット浴及び電解めっきの条件は、試料No.1−1等と同様である。金属層の平均厚さは、3μmとした。
次に、前駆体層及び金属層が形成された基材に熱処理を施した。熱処理の条件は、試料No.1−1等と同じである。つまり、アルゴン雰囲気にて、600℃×30秒の熱処理を施した。
【0101】
〔酸化物層の構造及び厚さ〕
得られた各試料の金属材料について、断面をSEMで観察すると共に、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)により組成分析した。その結果、いずれの試料も、基材側にアルミニウムの含有量が比較的多いベース層と、金属層側にニッケルの含有量が比較的多い複合層とを備えることが確認された。各層におけるアルミニウム及びニッケルの含有量は、酸化物層における各層が収まる5つの領域に対して組成分析を行い、その平均値で求めた。ベース層及び複合層におけるアルミニウム(Al)及びニッケル(Ni)の各含有量を表1に示す。なお、表1には示さないが、ベース層及び複合層には、Al及びNi以外に、酸素(O)が含まれていた。また、表1には示さないが、試料No.1−11からNo.1−15では、ベース層に更にマグネシウム(Mg)が0.4質量%以上5質量%以下の範囲で含まれていた。
【0102】
複合層は、ベース層から突出する複数の凸部と、隣り合う凸部間に設けられる凹部に介在される金属部とを備えることが確認された。ベース層及び凸部は、主にアルミニウム酸化物で構成されていた。金属部は、主にニッケルで構成されていた。複合層は、金属部を備えることで、アルミニウムよりもニッケルの含有量が多くなっている。
【0103】
ベース層及び複合層の厚さは、以下のようにして求めた。まず、SEM画像において、隣り合う凹部の最も窪んだ箇所同士を直線でつないだ線L1を、ベース層と複合層との境界とする。また、隣り合う凸部321の頂点同士を直線でつないだ線L2を、複合層と金属層との境界とする。ベース層の厚さは、基材の表面と上記線L1との間の積層方向の長さを異なる10箇所で測定し、その平均値で求めた。複合層の厚さは、上記線L1と上記L2との間の積層方向の長さを異なる10箇所で測定し、その平均値で求めた。ベース層及び複合層の厚さを表1に示す。
【0104】
〔密着性評価1〕
得られた各試料の金属材料を、500℃で10分間加熱した後、室温まで冷却した。加熱及び冷却後の金属材料をステンレス鋼製の治具に巻き付けた。治具は、線材や丸棒材等を用いることができる。本例では、治具として、直径が異なる複数の線材を用意した。実体顕微鏡により金属材料の外観を観察し、金属層の剥離の有無を調べた。具体的には、治具の直径を徐々に小さくし、治具に巻き付けた金属材料における金属層の剥離が初めて確認されたときの金属材料の曲率半径を調べた。金属材料の曲率半径は、基材の半径と治具の半径との和である。金属層の剥離が初めて確認されたときの金属材料の曲率半径を、曲げ加工性の限界曲率半径と呼ぶ。基材の半径Dに対する曲げ半径の限界曲率半径Rの比率R/Dを求めた。上記比率R/Dが小さいほど密着性に優れる。R/Dが1以下である場合を評価A、1超3以下である場合を評価B、3超5以下である場合を評価C、5超である場合を評価Dとする。特に、R/Dが0.75以下である場合を評価A+とする。その結果を表1に示す。
【0105】
なお、密着性評価1では、500℃で10分間加熱している。よって、密着性評価1において密着性に優れることは、耐熱性に優れることと等しい。また、密着性評価1では、金属材料に曲げ加工が施されている。よって、密着性評価1において密着性に優れることは、曲げ加工性に優れることと等しい。
【0106】
【表1】
【0107】
表1に示すように、基材が純アルミニウム又はアルミニウム合金のいずれであっても、酸化物層の平均厚さが50nm以上250nm以下であることで、密着性評価1に優れることがわかる。一方、酸化物層の平均厚さが50nm未満である試料No.1−1及びNo.1−11は、密着性評価1に劣ることがわかる。酸化物層の平均厚さが50nm未満である場合、500℃の加熱によって、基材に含まれるアルミニウムと金属層に含まれるニッケルとが相互拡散し易く、基材の表層領域にカーケンダルボイドが形成されたからと考えられる。また、酸化物層の平均厚さが250nm超である試料No.1−5及びNo.1−15も、密着性に劣ることがわかる。酸化物層の平均厚さが250nm超である場合、金属材料の曲げ加工性が劣るからと考えられる。
【0108】
特に、酸化物層の平均厚さが100nm超である試料No.1−4及びNo.1−14は、密着性評価1に非常に優れることがわかる。酸化物層の平均厚さが100nm超と比較的厚い場合、500℃の加熱であっても、基材に含まれるアルミニウムと金属層に含まれるニッケルとが相互拡散することを良好に抑制できるからと考えられる。上記相互拡散を抑制できることで、基材の表層領域にカーケンダルボイドが形成され難く、密着性に優れると考えられる。
【0109】
また、表1に示すように、酸化物層の平均厚さは、ニッケルめっき液のpHに依存することがわかる。具体的には、ニッケルめっき液のpHが9.5以上であることで、酸化物層の平均厚さを50nm以上とできることがわかる。基材がアルミニウム合金からなる試料No.1−11とNo.1−12とを見ると、ニッケルめっき液のpHが9.0で酸化物層の平均厚さが40nmとなり、ニッケルめっき液のpHが9.5で酸化物層の平均厚さが60nmとなっている。このことから、ニッケルめっき液のpHは、9.0超であると、酸化物層の平均厚さを50nm以上とできると思われる。一方、ニッケルめっき液のpHが10.5以下であることで、酸化物層の平均厚さを250nm以下とできることがわかる。基材がアルミニウム合金からなる試料No.1−14とNo.1−15とを見ると、ニッケルめっき液のpHが10.5で酸化物層の平均厚さが170nmとなり、ニッケルめっき液のpHが11.0で酸化物層の平均厚さが300nmとなっている。このことから、ニッケルめっき液のpHは、11.0未満であると、酸化物層の平均厚さを250nm以下とできると思われる。
【0110】
<試験例2>
試験例2では、前駆体層を酸化物層に変換するために熱処理を施す工程において、熱処理温度及び熱処理時間を異ならせ、得られる酸化物層の構造及び厚さと、金属材料における密着性を調べた。
【0111】
〔試料の作製〕
・試料No.2−1からNo.2−4
まず、基材として、JIS規格のA5052からなる線材を準備した。基材の直径は2mmである。
準備した基材に前処理を施した。前処理は、試料No.1−1等と同様である。
薄膜が形成された基材をニッケルめっき液に浸漬して無電解めっきを施した。ニッケルめっき液は、硫酸ニッケル六水和物とグリシンとを含む。硫酸ニッケル六水和物の濃度は、25g/Lとした。グリシンの濃度は、30g/Lとした。ニッケルめっき液の25℃におけるpHは、9.5とした。このようなニッケルめっき液を60℃に保持し、薄膜が形成された基材を2分浸漬した。
上記前処理及び無電解めっきによって、基材の表面に前駆体層が形成される。
次に、前駆体層が形成された基材に対して、ワット浴を用いて電解めっきを施した。ワット浴及び電解めっきの条件は、試料No.1−1等と同様である。金属層の平均厚さは、7μmとした。
次に、前駆体層及び金属層が形成された基材に熱処理を施した。熱処理温度は、400℃とした。熱処理時間は5分、10分、30分、60分とした。熱処理雰囲気はアルゴン雰囲気とした。熱処理温度及び熱処理時間は、表2に示す。
【0112】
・試料No.2−11からNo.2−14
試料No.2−11からNo.2−14は、熱処理温度を変えた以外は、試料No.2−1からNo.2−4と同じである。熱処理温度は、450℃とした。
【0113】
・試料No.2−21からNo.2−24
試料No.2−21からNo.2−24は、熱処理温度を変えた以外は、試料No.2−1からNo.2−4と同じである。熱処理温度は、500℃とした。
【0114】
〔酸化物層の構造及び厚さ〕
得られた各試料の金属材料について、試験例1と同様に、断面をSEMで観察すると共に、EDXにより組成分析した。その結果、いずれの試料も、基材側にアルミニウムの含有量が比較的多いベース層と、金属層側にニッケルの含有量が比較的多い複合層とを備えることが確認された。ベース層及び複合層におけるアルミニウム(Al)及びニッケル(Ni)の各含有量を表2に示す。また、複合層は、ベース層から突出する複数の凸部と、隣り合う凸部間に介在される金属部とを備えることが確認された。ベース層及び凸部は、主にアルミニウム酸化物で構成されていた。金属部は、主にニッケルで構成されていた。複合層は、金属部を備えることで、アルミニウムよりもニッケルの含有量が多くなっている。
【0115】
ベース層及び複合層の厚さは、試験例1と同様に求めた。その結果を表2に示す。
【0116】
〔密着性評価1〕
得られた各試料の金属材料について、試験例1と同様に、加熱及び冷却後の密着性を評価した。その結果を表2に示す。
【0117】
〔密着性評価2〕
得られた各試料の金属材料を、加熱することなく、ステンレス鋼製の治具に巻き付けた。密着性評価2は、金属材料の加熱の有無以外は、密着性評価1と同じある。その結果を表2に示す。なお、密着性評価2では、加熱していない。よって、密着性評価2は、曲げ加工性の評価はできるが、耐熱性の評価はできない。
【0118】
【表2】
【0119】
表2に示すように、いずれの試料も、酸化物層の平均厚さが50nm以上250nm以下であることで、密着性評価1に優れることがわかる。特に、ベース層の平均厚さが30nm以上230nm以下であり、かつ複合層の平均厚さが20nm以上220nm以下である試料No.2−2からNo.2−4、No.2−12、No.2−13、No.2−21からNo.2−23は、密着性評価2にも優れることがわかる。一方、ベース層の平均厚さが30nm未満である試料No.2−1及びNo.2−11は、密着性評価2に劣ることがわかる。ベース層の平均厚さが小さいことで、基材と酸化物層との密着性が低下したからと考えられる。また、複合層の平均厚さが20nm未満である試料No.2−14及び2−24は、更に密着性評価2に劣ることがわかる。複合層の平均厚さが小さいことで、酸化物層と金属層との密着性が低下したからと考えられる。酸化物層と金属層との密着性は、酸化物層と基材との密着性よりも曲げ加工性の低下の度合いが大きいと考えられる。よって、複合層の平均厚さが小さいと、ベース層の平均厚さが小さい場合よりも、密着性評価2がより劣る結果となったと考えられる。
【0120】
また、表2に示すように、ベース層の平均厚さ及び複合層の平均厚さは、熱処理条件に依存することがわかる。まず、熱処理時間が同じで、熱処理温度が異なる試料を比較する。そうすると、熱処理温度が高くなるほど、ベース層の平均厚さが大きくなり、酸化物層の厚さが大きくなることがわかる。しかし、熱処理時間が長い場合、熱処理温度が高くなると、複合層の厚さは小さくなることがわかる。次に、熱処理温度が同じで、熱処理時間が異なる試料を比較する。そうすると、熱処理時間が長くなるほど、ベース層の平均厚さが大きくなり、酸化物層の厚さが大きくなることはわかる。しかし、熱処理時間が長くなると、複合層の厚さは小さくなることがわかる。熱処理時間が長く、かつ熱処理温度が高くなると、複合層の平均厚さが小さくなるのは、前駆体層を構成する水酸化物が酸化物に変換され易く、ベース層が厚くなる傾向にあるからと考えられる。以上より、熱処理条件を特定の範囲とすることで、前駆体層を構成する水酸化物が酸化物に変換され易く、かつベース層の平均厚さ及び複合層の平均厚さを特定の範囲にできることがわかる。
【0121】
本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。例えば、試験例における基材の形態、ニッケルめっき液の条件、熱処理条件等を適宜変更できる。
【符号の説明】
【0122】
1 金属材料
2 基材
3 酸化物層
31 ベース層
32 複合層、321 凸部、322 凹部、323 金属部
35 ポア
4 金属層
100 第一被覆材、200 第二被覆材
110 基材、120 薄膜
130 前駆体層
131 ベース層
132 複合層、1321 凸部、1322 凹部、1323 金属部
140 金属層
300 ニッケルめっき液
L1、L2 線
【要約】
基材と、前記基材の表面に設けられる酸化物層と、前記酸化物層の表面に設けられる金属層とを備え、前記基材は、アルミニウムを含み、前記酸化物層は、アルミニウム、ニッケル、及び酸素を含み、前記金属層は、ニッケルを含み、前記酸化物層の平均厚さが、50nm以上250nm以下である、金属材料。
図1
図2
図3
図4