(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6821175
(24)【登録日】2021年1月8日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】固形入浴剤組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/19 20060101AFI20210114BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20210114BHJP
A61K 8/362 20060101ALI20210114BHJP
A61K 8/365 20060101ALI20210114BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20210114BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20210114BHJP
A61K 8/81 20060101ALI20210114BHJP
A61K 8/25 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
A61K8/19
A61Q19/10
A61K8/362
A61K8/365
A61K8/73
A61K8/60
A61K8/81
A61K8/25
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-213635(P2016-213635)
(22)【出願日】2016年10月31日
(65)【公開番号】特開2018-70522(P2018-70522A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年10月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】308040638
【氏名又は名称】株式会社バスクリン
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100101904
【弁理士】
【氏名又は名称】島村 直己
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 茂
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 満
【審査官】
松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−168661(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/055146(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00− 90/00
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00− 47/69
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化マグネシウムと、中性の無機塩と、多価脂肪族カルボン酸と、結晶セルロース、乳糖、ポリビニルピロリドン、無水ケイ酸、カルボキシメチルセルロース又はその塩、デキストリン及びヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種の崩壊剤とを含有し、マグネシウム塩化合物を含有しない固形入浴剤組成物。
【請求項2】
固形入浴剤組成物100質量部中、水素化マグネシウムの配合量が0.1〜5質量部、中性の無機塩の配合量が70〜95質量部、多価脂肪族カルボン酸の配合量が1〜8質量部、前記崩壊剤の配合量が0.2〜6質量部である請求項1記載の固形入浴剤組成物。
【請求項3】
炭酸塩を含有しない請求項1又は2記載の固形入浴剤組成物。
【請求項4】
ブリケット状又は顆粒状である請求項1〜3のいずれか1項に記載の固形入浴剤組成物。
【請求項5】
錠剤状である請求項1〜3のいずれか1項に記載の固形入浴剤組成物。
【請求項6】
更に油性成分を含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の固形入浴剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を発生する固形入浴剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水素を発生する入浴剤を使用すると、浴中には気体水素が溶存し、酸化還元電位(ORP)が還元側にシフトして、抗酸化能が付与された機能水(水素水)となり、皮膚老化防止、酸化ストレスの減少、成人病予防、アンチエージングによる健康維持など、幅広い分野での応用が期待されている。
【0003】
現在、水素を発生する入浴剤としては、(i)アルミニウム末と酸化カルシウムを不織布袋に入れたもの、(ii)水素化マグネシウムを含有するもの(例えば、特許文献1)、(iii)テトラヒドロほう酸塩を含有するものの3タイプが販売されている。(i)のタイプは、使用により生じる大量のアルミニウムの酸化物が全く溶解しないため、使用後の不織布袋の回収が必須となる。(iii)のタイプは、ほう酸塩が浴中に溶解するため、FDAの毒性の指摘など好まれるものではない。(ii)のタイプで用いられる水素化マグネシウムは危険物でないため、最も入浴剤として取扱いやすい成分であるが、水素化マグネシウムの安定性が悪く、かつ高額であるため、無機塩に数%以下で配合する場合が多い。
【0004】
一方で、一般的な固形入浴剤は炭酸ガスを発生する入浴剤組成物がほとんどであり、その溶解時間は使用者の利便性を考え、5分〜7分以内に完全に溶解するように設計されている。水素化マグネシウムと無機塩の固形入浴剤では、粉末入浴剤に比べお湯に接触する面積が小さいため、溶解時間(比較例1参照)がかなり長くなってしまうという欠点があり、完全に溶解した後に使用する固形入浴剤においては欠点であった。そのため、有機酸を配合し、水素化マグネシウムと反応させることで溶解時間を短くすることが考えられるが、それだけでは錠剤においては数分以内で溶解することは不可能であった(比較例2参照)。また、過剰な有機酸を配合すると安定性が著しく損なうという問題があった(比較例3参照)。
【0005】
特許文献1には、水素化マグネシウムと、シリカ、硫酸ナトリウム等の吸湿用成分とを含有する粉末化粧料が開示されており(請求項1、段落0027)、実施例12、比較例5及び6として、水素化マグネシウム、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、無水ケイ酸等を含有する粉末浴用化粧料が記載されている。また、特許文献1の段落0039には、一般的な記載として、有機酸類として安息香酸、クエン酸、フマル酸、酒石酸、リンゴ酸、サリチル酸が例示されているが、有機酸類を含有する粉末浴用化粧料は実施例には記載されていない。
【0006】
また、特許文献2には、水素化アルカリ土類金属等の水素化合物の粉末が、ポリエチレングリコール、キシリトール、トレハロース等の水溶性化合物に包埋されてなる水素発生剤が開示されており、これを化粧水や入浴剤に用いることが記載されており、その実施例18には、水素化マグネシウム、硫酸ナトリウム、コハク酸及びポリエチレングリコールを含有するブロック状の水素発生剤が記載されているが、崩壊剤については何ら言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2014/024299号
【特許文献2】特許第4384227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、水素化マグネシウムと、硫酸ナトリウム等の中性の無機塩を含有する固形入浴剤において、溶解時間を数分以内にすることができ、安定性に問題がない水素発生型固形入浴剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、多価脂肪族カルボン酸及び特定の崩壊剤を配合することで、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)水素化マグネシウムと、中性の無機塩と、多価脂肪族カルボン酸と、結晶セルロース、乳糖、ポリビニルピロリドン、無水ケイ酸、カルボキシメチルセルロース又はその塩、デキストリン及びヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種の崩壊剤とを含有する固形入浴剤組成物。
(2)炭酸塩を含有しない前記(1)に記載の固形入浴剤組成物。
(3)ブリケット状又は顆粒状である前記(1)又は(2)に記載の固形入浴剤組成物。
(4)錠剤状である前記(1)又は(2)に記載の固形入浴剤組成物。
(5)更に油性成分を含有する前記(1)〜(4)のいずれかに記載の固形入浴剤組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水素化マグネシウムと、硫酸ナトリウム等の中性の無機塩を含有する固形入浴剤において、溶解時間が短縮され、かつ安定性が向上した水素発生型入浴剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
水素化マグネシウムは、下記式(1)で示される反応に従って水と反応して水素を放出しながら分解する。
MgH
2 + 2H
2O → Mg(OH)
2 + 2H
2 ・・・(1)
本発明に用いる水素化マグネシウムは、その平均粒径が10〜120μmに微粒子化されたものであることが好ましい。
【0013】
本発明の固形入浴剤組成物100質量部中の水素化マグネシウムの配合量は、好ましくは0.1〜5質量部、更に好ましくは0.1〜3質量部である。また、水素化マグネシウムは、中性の無機塩100質量部に対して、好ましくは0.1〜7質量部、更に好ましくは0.1〜4質量部配合する。
【0014】
水素化マグネシウムと水との反応で生じる水酸化マグネシウム(Mg(OH)
2)は、通常浴中で経時的にゲル化していくので、本発明においては、このゲル化現象を抑制し、クリアに溶解させるため、多価脂肪族カルボン酸の粉末を配合する。
【0015】
前記多価脂肪族カルボン酸としては、例えば、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸、マレイン酸、酒石酸、シュウ酸、マロン酸等の2価脂肪族カルボン酸;クエン酸等の3価脂肪族カルボン酸が挙げられるが、価格面からDL−リンゴ酸、フマル酸、コハク酸及びクエン酸が好ましい。これらの多価脂肪族カルボン酸は単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。前記多価脂肪族カルボン酸は、製剤の安定性の点から、結晶水を持たない無水物が好ましい。
【0016】
前記多価脂肪族カルボン酸の配合量は、水素化マグネシウムに対する質量比で好ましくは1〜6倍、更に好ましくは2〜4倍である。
【0017】
本発明の固形入浴剤組成物100質量部中の前記多価脂肪族カルボン酸の配合量は、好ましくは1〜8質量部、更に好ましくは2〜7質量部である。
【0018】
本発明の固形入浴剤組成物は、顆粒状、ブリケット状又は錠剤状等に成形するための成分として、中性の無機塩の粉末を含有する。前記無機塩としては、例えば硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウムが挙げられるが、成形性の点から硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化力リウムが好ましい。前記無機塩は単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0019】
本発明の固形入浴剤組成物100質量部中の前記無機塩の配合量は、好ましくは70〜95質量部、更に好ましくは82〜93質量部である。
【0020】
本発明の固形入浴剤組成物は、溶解時間を短縮するための成分として、特定の崩壊剤、すなわち、結晶セルロース、乳糖、ポリビニルピロリドン、無水ケイ酸、カルボキシメチルセルロース又はその塩、デキストリン及びヒドロキシプロピルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種の崩壊剤の粉末を含有する。
【0021】
本発明の固形入浴剤組成物100質量部中の前記崩壊剤の配合量は、好ましくは0.2〜6質量部、更に好ましくは0.3〜5質量部である。
【0022】
本発明に用いる崩壊剤としては、溶解性の点から結晶セルロース、乳糖、ポリビニルピロリドン及び無水ケイ酸からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0023】
本発明の固形入浴剤組成物は、顆粒状、ブリケット状又は錠剤状等の成形体の保存安定性を改善するための成分として、油性成分を含有することが好ましい。前記油性成分としては、例えば、大豆油、ヌカ油、ホホバ油、アボガド油、アーモンド油、オリーブ油、ローズヒップ油、ツバキ油、カカオ脂、シア脂、ゴマ油、パーシック油、ヒマシ油、ヤシ油、ミンク油、牛脂、豚脂等の天然油脂、これらの天然油脂を水素添加して得られる硬化油及びミリスチン酸グリセリド、2−エチルヘキサン酸グリセリド等の合成グリセリド、ジグリセリド等の油脂類;カルナウバロウ、鯨ロウ、ミツロウ、ラノリン等のロウ類;流動パラフィン、ワセリン、パラフィン、軽質イソパラフィン、マイクロクリスタリンワックス、セレシン、スクワラン、プリスタン等の炭化水素類;ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ラノリン酸、イソステアリン酸等の高級脂肪酸類;ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、コレステロール、2−ヘキシルデカノール等の高級アルコール類;オクタン酸セチル、乳酸ミリスチル、乳酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸2−エチルヘキシル(パルミチン酸イソオクチル(IOP))、アジピン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、オレイン酸デシル、イソステアリン酸コレステロール等のエステル類;精油類;シリコーン油類が挙げられ、これらを単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。本発明に用いる油性成分としては、湿気や水分との相溶性をできる限り排除したい点から、非極性油、例えば、流動パラフィン、軽質イソパラフィン、ワセリン、スクワラン等の炭化水素類、鎖状又は環状のシリコーン油が好ましい。
【0024】
本発明の固形入浴剤組成物100質量部中の前記油性成分の配合量は、好ましくは0.1〜5質量部、更に好ましくは0.3〜2質量部である。
【0025】
本発明の固形入浴剤組成物は、顆粒状、ブリケット状又は錠剤状等の成形性を改善するための成分として、水溶性高分子を含有することが好ましい。前記水溶性高分子としては、例えばゼラチン、アラビアガム、グアーガム、トラガントガム、澱粉、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ローカストビーンガム、カラヤガム、クインスシード、カゼイン、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、好ましくはポリエチレングリコール、澱粉が挙げられ、これらを単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。前記水溶性高分子としては、製剤の安定性の点から、ポリエチレングリコールが更に好ましい。
【0026】
本発明の固形入浴剤組成物100質量部中の前記水溶性高分子の配合量は、好ましくは0.1〜5質量部、更に好ましくは0.5〜3質量部である。
【0027】
本発明の固形入浴剤組成物には、前記成分のほか、必要に応じて、通常固形入浴剤組成物に配合される各種成分、例えば、香料、色素、保湿成分、界面活性剤、多価アルコール、消炎剤、ビタミン類、砂金材、防腐剤、金属封鎖剤、生薬エキス等を、本発明の効果を害しない範囲で配合することができるが、これらの成分の合計配合量は、固形入浴剤組成物中、好ましくは10質量部以下、更に好ましくは5質量部以下、特に好ましくは2質量部以下である。
【0028】
本発明の固形入浴剤組成物は、保存安定性及び発泡力を高めるため、顆粒状、ブリケット状又は錠剤状に成形することが好ましい。
「ブリケット状」とは、顆粒より大きく、錠剤よりは小さいランダムな形をいう。
【0029】
顆粒状の固形入浴剤組成物は、例えば、平滑ロールを用いたロールプレスにてフレーク成形体を作り破砕することにより製造することができる。
【0030】
ブリケット状の固形入浴剤組成物は、例えば、従来公知のブリケット製剤製造法に従い製造することができる。すなわち、前記した各成分を配合した組成物をブリケットマシンにて成形加工することで得られる。このブリケットマシンとは、同速で互いに反対方向に回転する2本のロール間で原料粉体を圧縮し成形する乾式圧縮造粒機の一つであり、ロールの表面には、ブリケットの母型であるポケットが刻まれている。そのポケットの形状や大きさによって、種々の形状や大きさのブリケットを得ることが可能となる。
【0031】
錠剤状の固形入浴剤組成物は、例えば、シリンダー(臼)の中に粉体を充填しておき、上下からピストン(杵)で圧縮することにより製造することができる。
【0032】
溶解時間を短くするためには比表面積が大きい顆粒状、ブリケット状とすることが好ましい。
【0033】
本発明の固形入浴剤組成物の成分として油性成分を用いる場合、油性成分は、他の成分と混合して成形してもよいし、油性成分を除く成分(又は油性成分を含む成分)からなる成形体を調製した後、油性成分でコーティングしてもよい。
【0034】
水素化マグネシウムを用いた固形入浴剤には、1)炭酸ガスと同時に発泡させる(炭酸塩を含有する)、2)水素単独の発泡(炭酸塩を含有しない)の2つのタイプがあるが、2)のタイプでは、必ず溶解時間が課題としてあげられることから、本発明は、炭酸塩を含有しない水素化マグネシウム含有固形入浴剤組成物における溶解時間の短縮と安定性の向上を両立させる点で特に有用である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。以下において、%とあるのは、特に断らない限り、質量%を示す。
【0036】
[実施例1〜6及び比較例1〜3]
表1に示す実施例1〜6及び表2に示す比較例1〜3の組成の粉末をビーカーで200gを混合し、その約30gを打錠圧10tで直径40mmの錠剤に成形し、以下の方法及び評価基準に従って溶解時間及び保存安定性を評価した。結果を表1及び2に示す。
【0037】
・溶解時間
200Lのお湯(40〜41℃)に1錠を溶解させ、完全に溶解するまでの時間を測定する。
○:7分未満
×:7分以上
※7分は市販炭酸ガス入浴剤の溶解時間である。
【0038】
・保存安定性(分包包装の膨らみ)
錠剤1錠をアルミ分包に入れ、50℃の条件下で1か月の分包の膨らみの有無を確認する。
○・・・極めて良好(全く分包の膨らみを認められない。)
△・・・良好(僅かな分包の膨らみを認めるが品質上問題はない。)
×・・・不良(明らかな分包の膨らみを認める。)
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
表1及び2から、本発明によれば、溶解時間が短く、安定性に優れる水素発生型入浴剤が得られることがわかる。