(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6821177
(24)【登録日】2021年1月8日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】インシュレータ
(51)【国際特許分類】
B60R 13/08 20060101AFI20210114BHJP
B32B 15/04 20060101ALI20210114BHJP
B32B 15/20 20060101ALI20210114BHJP
G10K 11/16 20060101ALI20210114BHJP
F02B 77/11 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
B60R13/08
B32B15/04 Z
B32B15/20
G10K11/16 120
F02B77/11 E
F02B77/11 D
F02B77/11 A
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-222774(P2016-222774)
(22)【出願日】2016年11月15日
(65)【公開番号】特開2018-79773(P2018-79773A)
(43)【公開日】2018年5月24日
【審査請求日】2019年8月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】590000721
【氏名又は名称】株式会社キーレックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山根 稔正
(72)【発明者】
【氏名】上原 一成
【審査官】
高橋 武大
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−031751(JP,A)
【文献】
特開2015−170834(JP,A)
【文献】
特開2015−21541(JP,A)
【文献】
特開平7−267017(JP,A)
【文献】
特開2002−105567(JP,A)
【文献】
特開2003−343522(JP,A)
【文献】
特開2000−145473(JP,A)
【文献】
特開昭62−220799(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 13/08
B32B 15/00
F12B 77/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パネル状をなす第1金属体と、
該第1金属体のパネル面に沿って配設されるシート状の吸音遮熱体と、
該吸音遮熱体を覆うように上記第1金属体に組み付けられるパネル状をなす第2金属体とを備え、
上記第1及び第2金属体には、上記第1金属体に上記第2金属体を組み付けた状態で相手側のパネル面との間に上記吸音遮熱体を収容する収容空間層を形成する空間形成部と、該空間形成部に連続して設けられ、相手側のパネル面に重合する重合部とが形成され、
上記第1金属体の重合部と上記第2金属体の重合部との間には、上記第1金属体の重合部と上記第2金属体の重合部とを繋ぐ固相接合部が形成されているおり、
上記第1金属体は、上記空間形成部及び上記重合部と段をなす第1段差部を部分的に有し、
上記第2金属体は、上記第1段差部に対応するように上記空間形成部及び上記重合部と段をなしかつ上記第1段差部と接触する第2段差部を部分的に有することを特徴とするインシュレータ。
【請求項2】
請求項1に記載のインシュレータにおいて、
上記固相接合部は、上記第1及び第2金属体の外周部分に沿って断続的に複数形成されていることを特徴とするインシュレータ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のインシュレータにおいて、
上記第1及び第2金属体は、アルミニウム合金材で形成されていることを特徴とするインシュレータ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載のインシュレータにおいて、
上記第1及び第2金属体は、水平面部と、該水平面部の面直方向と直交する第1方向の両側部分から該第1方向の両端に近づくにつれて上記面直方向に傾斜する傾斜部と、をそれぞれ有し、
上記第1段差部は、上記第1金属体の上記傾斜部に設けられ、
上記第2段差部は、上記第2金属体の上記傾斜部に設けられていることを特徴とするインシュレータ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載のインシュレータにおいて、
上記第1段差部は、上記第1金属体の全体に対して島状に設けられ、
上記第2段差部は、上記第2金属体の全体に対して島状に設けられていることを特徴とするインシュレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両に組み付けられる遮熱及び吸音対策用のインシュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、特許文献1に開示されているインシュレータは、吸音及び遮熱を目的として車両下部におけるフロアパン下面とマフラーとの間に配設されている。上記インシュレータは、アルミニウム合金材からなるパネル状の第1金属体と、該第1金属体のフロアパン側に配設されたシート状の吸音遮熱体と、該吸音遮熱体のフロアパン側に配設されたアルミニウム合金材からなるフィルム状の第2金属体とを備え、上記第1金属体には、当該第1金属体と上記第2金属体との間における上記吸音遮熱体を収容する空間に連通する連通孔が複数形成されている。そして、上記インシュレータは、上記第1及び第2金属体の間の空間に上記各連通孔から進入する騒音を上記吸音遮熱体で吸音するとともに、反射率の高いアルミニウム合金材で形成された第1及び第2金属体で遮熱を行うようになっていて、吸音効果と遮熱効果とが同時に高められた構造になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2006−519710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1のインシュレータは、上記第1金属体の外周部分を折り返すとともにこの折返部分で上記吸音遮熱体の外周部分と上記第2金属体の外周部分とを同時に挟み込むことにより、第1金属体、吸音遮熱体及び第2金属体を一体にしている。したがって、第1金属体の折返部分の分だけ材料歩留まりが悪くなるとともに、完成後のインシュレータの重量も増加してしまう。
【0005】
これを回避するために、第1金属体の外周部分と第2金属体の外周部分とを接合することにより第1金属体と第2金属体とを一体にすることが考えられる。
【0006】
しかし、特許文献1の如きインシュレータを構成する第1及び第2金属体は、車両重量が増加しないように、例えば、板厚が1mm以下の金属板で形成されるのが一般的である。したがって、第1金属体の外周部分と第2金属体の外周部分とを接合で繋ぐ場合、接合時に発生する熱が起因となって第1及び第2金属体が熱変形を起こしてしまい、ひいては、完成後のインシュレータの外観精度が低下してしまうおそれがある。
【0007】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、軽量で、且つ、材料歩留まりが良く、さらには、外観精度の優れたインシュレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、第1及び第2金属体を超音波接合により一体にするようにしたことを特徴とする。
【0009】
すなわち、第1の発明では、パネル状をなす第1金属体と、該第1金属体のパネル面に沿って配設されるシート状の吸音遮熱体と、該吸音遮熱体を覆うように上記第1金属体に組み付けられるパネル状をなす第2金属体とを備え、上記第1及び第2金属体には、上記第1金属体に上記第2金属体を組み付けた状態で相手側のパネル面との間に上記吸音遮熱体を収容する収容空間層を形成する空間形成部と、該空間形成部に連続して設けられ、相手側のパネル面に重合する重合部とが形成され、上記第1金属体の重合部と上記第2金属体の重合部との間には、上記第1金属体の重合部と上記第2金属体の重合部とを繋ぐ固相接合部が形成されている
おり、上記第1金属体は、上記空間形成部及び上記重合部と段をなす第1段差部を部分的に有し、上記第2金属体は、上記第1段差部に対応するように上記空間形成部及び上記重合部と段をなしかつ上記第1段差部と接触する第2段差部を部分的に有することを特徴とする。
【0010】
第2の発明では、第1の発明において、上記固相接合部は、上記第1及び第2金属体の外周部分に沿って断続的に複数形成されていることを特徴とする。
【0011】
第3の発明では、第1又は第2の発明において、上記第1及び第2金属体は、アルミニウム合金材で形成されていることを特徴とする。
【0012】
第4の発明では、第1〜第3の発明のいずれか1つにおいて、上記第1及び第2金属体は、水平面部と、該水平面部の面直方向と直交する第1方向の両側部分から該第1方向の両端に近づくにつれて上記面直方向に傾斜する傾斜部と、をそれぞれ有し、上記第1段差部は、上記第1金属体の上記傾斜部に設けられ、上記第2段差部は、上記第2金属体の上記傾斜部に設けられていることを特徴とする。
【0013】
第5の発明では、第1〜第4の発明のいずれか1つにおいて、上記第1段差部は、上記第1金属体の全体に対して島状に設けられ、上記第2段差部は、上記第2金属体の全体に対して島状に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明では、インシュレータを製造する際に特許文献1の如き金属体の外周部分に折返部分を設ける必要が無いので、材料歩留まりを良くすることができるとともに、完成後のインシュレータの重量を軽くすることができる。また、第1金属体の重合部と第2金属体の重合部とを固相接合部により繋ぐので、接合時における第1及び第2金属体に加わる入熱量を少なくできる。したがって、完成後のインシュレータの外観精度を向上させることができる。
【0015】
第2の発明では、第1及び第2金属体の外周部分において固相接合部の無い部分が第1及び第2金属体の外周部分に沿って断続的に現れるようになるので、第1及び第2金属体の外周部分に加わる入熱量を少なくしながら、第1及び第2金属体を確実に一体にすることができる。
【0016】
第3の発明では、軽量で、且つ、遮熱性の高いインシュレータにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係るインシュレータの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。
【0019】
図1及び
図2は、本発明の実施形態に係るインシュレータ1を示す。該インシュレータ1は、排気系部品や駆動系部品から発生する熱や騒音などに対する遮熱及び防音を目的として車両のフロアパンF1下面に取り付けられている。
【0020】
上記インシュレータ1は、車両前後方向に延びるパネル状のアルミニウム合金材からなる第1金属体2と、該第1金属体2におけるフロアパンF1側のパネル面に沿って配設されるシート状のグラスウール材3(吸音遮熱体)と、該グラスウール材3のフロアパンF1側に設けられたパネル状のアルミニウム合金材からなる第2金属体4とを備え、該第2金属体4は、上記グラスウール材3を覆うように上記第1金属体2に組み付けられている。尚、
図1,2の第1及び第2金属体2,4の板厚は、便宜上、誇張して描かれている。
【0021】
上記第1金属体2は、板厚が0.4〜0.6mmで、且つ、1000〜3000番台のアルミニウム合金板をプレス成形することにより得たものであり、車両前後方向に延びる水平面部21と、該水平面部21の車幅方向両側部分から車幅方向両端に近づくにつれて次第に下方に位置するよう傾斜する一対の傾斜面部22とを備えている。
【0022】
該各傾斜面部22には、上方に向けて張り出すとともに張出面が水平に延びる平面視で円形状の第1座面部22aが車両前後方向に所定の間隔をあけて一対形成され、上記各第1座面部22aの中央には、第1嵌合孔22bが貫通形成されている。
【0023】
上記第1金属体2における4つの第1座面部22aより外側の部分には、上記第2金属体4を組み付けた際に当該第2金属体4と重なり合う重合部2bが設けられている。
【0024】
また、上記第1金属体2における4つの第1座面部22aに囲まれる部分には、上記重合部2bに連続する空間形成部2aが設けられ、該空間形成部2aには、多数の貫通孔2cが形成されている。
【0025】
上記第2金属体4は、板厚が0.4〜0.6mmで、且つ、1000〜3000番台のアルミニウム合金板をプレス成形することにより得たものであり、車両前後方向に延びる水平パネル部41と、該水平パネル部41の車幅方向両側部分から車幅方向両端に近づくにつれて次第に下方に位置するよう傾斜する一対の傾斜パネル部42とを備えている。
【0026】
該各傾斜パネル部42には、上方に向けて張り出すとともに張出面が水平に延びる平面視で円形状の第2座面部42aが上記第1金属体2の各第1座面部22aに対応するように一対形成され、上記各第2座面部42aの中央には、第2嵌合孔42bが貫通形成されている。
【0027】
上記第2金属体4における4つの第2座面部42aより外側の部分には、上記第1金属体2に組み付けた際に上記重合部2bに重なり合う重合部4bが設けられ、上記第2金属体4における4つの第2座面部42aに囲まれる部分には、上記重合部4bに対して上方に段差状に張り出す空間形成部4aが形成されている。
【0028】
そして、上記第1金属体2に上記第2金属体4を組み付けると、上記第1金属体2における重合部2bのパネル面と上記第2金属体4における重合部4bのパネル面とが重なり合うとともに、上記第1金属体2における空間形成部2aのパネル面と上記第2金属体4における空間形成部4aのパネル面との間に上記グラスウール材3を収容する収容空間層S1が形成されるようになっている。
【0029】
また、上記第1金属体2の重合部2bと上記第2金属体4の重合部4bとの間には、上記第1金属体2の重合部2bと上記第2金属体4の重合部4bとの間を繋ぐ超音波接合による複数の固相接合部W1が上記第1及び第2金属体2,4の外周部分に沿って断続的に形成されていて、上記各固相接合部W1により、上記第1金属体2と上記第2金属体4とが一体になっている。
【0030】
以上より、本発明の実施形態によると、インシュレータ1を製造する際に特許文献1の如き第1金属体の外周部分に折返部分を設ける必要が無いので、材料歩留まりを良くすることができるとともに完成後のインシュレータ1の重量を軽くすることができる。また、第1金属体2の重合部2bと第2金属体4の重合部4bとを固相接合部W1により繋ぐので、接合時における第1及び第2金属体2,4に加わる入熱量を少なくできる。したがって、完成後のインシュレータ1の外観精度を向上させることができる。
【0031】
また、固相接合部W1が第1及び第2金属体2,4の外周部分に沿って断続的に複数形成されているので、第1及び第2金属体2,4の外周部分において固相接合部W1の無い部分が第1及び第2金属体2,4の外周部分に沿って断続的に現れるようになる。したがって、第1及び第2金属体2,4の外周部分に加わる入熱量を少なくして第1及び第2金属体2,4の熱変形が極力少なくなるようにしながら、第1及び第2金属体2,4を確実に一体にすることができる。
【0032】
さらに、第1及び第2金属体2,4は、アルミニウム合金材からなるので、軽量で、且つ、遮熱性の高いインシュレータ1にすることができる。
【0033】
尚、本発明の実施形態では、第1及び第2金属体2,4の外周部分を互いに重ね合わせ、この重ね合わせた部分を固相接合部W1で互いに繋ぐようにしているが、固相接合部W1で第1及び第2金属体2,4を繋ぐ部分は、当該第1及び第2金属体2,4の外周部分でなくてもよく、第1及び第2金属体2,4の内方に位置する部分であってもよい。
【0034】
また、本発明の実施形態では、第2金属体4の空間形成部4aが重合部4bに対して上方に段差状に張り出すことで、第1金属体2の空間形成部2aとの間に収容空間層S1を形成しているが、これに限らず、例えば、第2金属体4の空間形成部4aが重合部4bに対して上方に張り出しておらず、第1金属体2の空間形成部2aが重合部2bに対して下方に段差状に張り出すことで、第1金属体2の空間形成部2aとの間に収容空間層S1を形成するようにしてもよい。
【0035】
また、本発明の実施形態では、第1及び第2金属体2,4をアルミニウム合金材から形成しているが、これに限らず、他の種類の素材から形成してもよい。
【0036】
また、本発明の実施形態では、収容空間層S1に吸音遮熱体としてのグラスウール材3を収容しているが、その他の種類の吸音遮熱体を収容するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、例えば、車両に組み付けられる遮熱及び吸音対策用のインシュレータに適している。
【符号の説明】
【0038】
1 インシュレータ
2 第1金属体
2a 空間形成部
2b 重合部
3 グラスウール材(吸音遮熱体)
4 第2金属体
4a 空間形成部
4b 重合部
S1 収容空間層
W1 固相接合部