(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6821181
(24)【登録日】2021年1月8日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】免疫力向上用溶液、それを用いた癌細胞治癒用溶液
(51)【国際特許分類】
A61K 35/08 20150101AFI20210114BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20210114BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20210114BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
A61K35/08
A61P43/00 111
A61P37/04
A61P35/00
【請求項の数】2
【全頁数】4
(21)【出願番号】特願2017-24738(P2017-24738)
(22)【出願日】2017年2月14日
(65)【公開番号】特開2018-131394(P2018-131394A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2019年5月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】510252232
【氏名又は名称】学校法人別府大学
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100108914
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 壯兵衞
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】仙波 和代
【審査官】
春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2015/002267(WO,A1)
【文献】
特開2002−326942(JP,A)
【文献】
「世界のウェブアーカイブ|国立国会図書館インターネット資料収集保存事業」,[online],2012年12月 9日,[2020年4月23日検索],インターネット,URL,https://web.archive.org/web/20121208041610/http://yuno-hana.jp/yunohana_secret/index.html
【文献】
平尾 正治,明礬泉に関する研究 (第七回報告) 温泉含嗽による口腔内清浄作用について,日本温泉気候学会雑誌,1954年 7月,第18巻,第2号,p.111−136
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00−35/768
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
J−STAGE
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IRAK−4を増加させる能力を備える別府明礬温泉地区の青粘土で栽培した湯の花が溶解している溶液であって、前記能力により免疫力を向上させることを特徴とする免疫力向上用溶液。
【請求項2】
癌細胞治癒用溶液であって、請求項1記載の免疫力向上用溶液が炎症性サイトカインを産生増加させることを利用することによって、癌細胞を治癒する効果を発揮することを特徴とする癌細胞治癒用溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、湯の花が溶解された溶液に関し、特にIRAK−4 (Interleukin-1 receptor associated kinase 4)の増加により免疫力が向上した溶液に係る発明である。
【背景技術】
【0002】
日本国内の温泉から噴出される温泉成分について、古くから色々な効能があると言われ夫々実施されている。しかし、所謂、民間療法の域を出ないやり方で、経験的、伝統的に言い伝えられた方法である。
また、特許文献1には、湯の花の効能として、細胞賦活化作用により皮膚外用組成物として有用であることが記載されている。具体的には皮膚細胞や皮膚に存在する繊維芽細胞に対して、サイトカイン産生を誘導し、細胞を活性化させることにより、皮膚に活力を与えるということが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−193447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の様に温泉に対する効能、又は温泉の成分である湯の花に対する効能は、特に科学的な根拠に基づくものでなく、長い時間かけた経験則に基づいた効能であった。つまり、なぜ、温泉、又は温泉成分である湯の花は、人間に良いのかという疑問について、論理的な解答は得られていない現状である。その為、論理的に十分解明されていない疾患のある人には、温泉入湯で逆に悪化するケースも散見されている。
例えば、アトピー性皮膚炎の場合は、皮膚のバリア機能が低下しているため、強い温泉の場合は刺激が強い。その結果、症状が悪化するケースがある。また温泉成分により皮膚常在菌叢の均衡が崩壊し、皮膚炎を生じるケースもある。また温泉は熱めのお湯に長時間浸かる傾向があるため、一旦体力を消耗する。発熱前や結核などの微熱を伴う病気には悪化する可能性もある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
出願人は、温泉成分の湯の花が有している根源的な免疫治癒能力を網羅的に探索した。そして、湯の花が溶解している溶液に、新たな効能を見出し、本発明に至った。
つまり、請求項1に係る発明は、IRAK−4を増加させる能力を備える別府明礬温泉地区の青粘土で栽培した湯の花が溶解している溶液であって、前記能力により免疫力を向上させることを特徴とする免疫力向上用溶液である。
また、請求項2は
、癌細胞治癒用溶液であって、請求項1記載の免疫力向上用溶液が炎症性サイトカインを産生増加させることを利用することによって、癌細胞を治癒する効果を発揮することを特徴とする癌細胞治癒用溶液である。
【発明の効果】
【0006】
本願発明に係る温泉成分の湯の花が溶解している溶液は、IRAK−4(Interleukin-1 receptor associated kinase 4 )が通常の発現量に対して、約100倍以上多く発現することを見出した。
IRAK−4の増加により、その溶液を例えば、皮膚に用いると、皮膚から皮膚表層にあるランゲルハンス細胞が刺激(作用)されて、NF−κBが上昇し炎症性サイトカインの産生増加を促すことが想定される。
従って、湯の花が溶解している溶液は、IRAK−4の増加によって、上記の想定される炎症性サイトカインの産生増加の効果が期待できる。
炎症性サイトカインが血液中に分泌し、癌細胞等の病的異物を排除することは、定説として知られている。
【0007】
更に、将来的には、湯の花が溶解している溶液によって、IRAK−4が増加し、その作用によって、最終的に癌細胞の治癒が期待される。特に、湯の花が溶解している溶液を直接接触する皮膚癌には効果が期待される。このように、今後の臨床結果によっては、癌治療も考えられる。
以上の様に、直接温泉に入湯しなくても、湯の花が溶解している溶液を使用することで、IRAK−4の増加作用によって、免疫力を高めることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本願発明の湯の花が溶解している溶液が、IRAK−4が増加した実証について、説明する。
(1)マウス樹状細胞株であるJAWSII細胞を、プレート上に6×10
5/wellだけ滴下した。
(2)(1)の細胞の上に予め作成した湯の花溶液を滴下し、細胞と混合させた。
(3)(2)で混合させた溶液を48時間後に遠心機にて遠心分離し、細胞を取り出した。
(4)(3)で取り出した細胞を北海道システム・サイエンス株式会社に委託して網羅的DNA解析を実施した。
【0009】
その結果、IRAK−4(遺伝子)発現が142倍に増加した。比較対象は、湯の花溶液を混合しない細胞とした。また、予め作成した湯の花の溶液は、湯の花20mgを1mlのDMSO(Dimethyl sulfoxide)に溶解させた溶液である。ここで用いた湯の花は、別府明礬温泉地区で、青粘土で栽培した湯の花である。主な成分はハロトリカイト鉱物、即ち鉄とアルミニウムの硫酸塩である。この湯の花の特徴は、自然の中で、鉄、アルミニウム、硫酸イオンが同じ比率でゆっくり供給されなければ栽培することが出来ないため、世界中において栽培可能な地域として確認できているのは、別府明礬地区だけである。
【0010】
以上の実証によって、湯の花を溶解した溶液は、IRAK−4が、比較品に対して142倍増加したことが分かった。今回は、48時間、37℃での細胞培養による増加データであるが、更に時間、温度の変化によって、今後、更に増加することも考えられる。
IRAK−4が増加していることが明白な湯の花が溶解している溶液の具体的な用途として、免疫力の向上を利用した消毒液が考えられる。つまり、湯の花が溶解している溶液を含んだ消毒液であり、当該消毒液は、湯の花が溶解している溶液を既存の消毒液に混合するだけでも製造が可能である。
【0011】
特にノロウイルスやインフルエンザウイルスが流行するシーズンにおいては、市中では手洗い用や嗽用の消毒液は欠かせない。しかしながら、既存のエタノール消毒薬は、ウイルスに対して効果が低いうえ、手荒れを引き起こし、逆に感染しやすい状態を招く誘因ともなっている。既存の消毒液に湯の花を添加することによって、特許文献1による作用に加え、皮膚免疫を活性化させることで、予防につなげることが出来る。また、含嗽液も手洗い用の消毒液と同様の効果が期待できる。
IRAK−4は自然免疫と獲得免疫の両者を活性化しうる分子である。年齢や性差による発現差の報告はないが、免疫力が低下している場合、IRAK−4の発現を増強することは、免疫力を向上させることが可能であることが推測できる。湯の花を用いて高齢者の免疫力向上を図り感染症を予防することもできるだろう。従って、感染症予防液としても使用できる。また癌などの免疫が働きにくい疾患に対しても効果があると推測できる。