【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の発明者は、特許文献1に記載の新たなランジュバン型超音波振動子の支持構造の改良を目的として、改めてランジュバン型超音波振動子における超音波振動の発生メカニズムの検討を行うことにした。そして、まず超音波振動特性を考慮せず、ランジュバン型超音波振動子の中心軸と支持部材の中心軸を一致させ、かつ剛性を高めて支持部材に支持固定する構造を検討した。
【0018】
回転軸に、回転部品を接続する手段として以下のことが一般に知られ、精度の高い要求にはテーパー嵌合が用いられる。「スピンドルやシャフトといった軸回転部品とギヤ/プーリーといった歯車/滑車部品とを接続する際、一般に
図11のようにストレートの内外径部品を接続させる場合と、テーパー形状の雄雌を接続させる場合があるが、要求精度が高ければ高いほどテーパー嵌合が採用される傾向がある。ストレートの雄雌で嵌め合わせた上でクサビを差し込んで固定する方法もあるが、精度の面ではテーパー嵌合には及ばない。
ストレート接続の場合、両部品が嵌め合うためのクリアランスが振れの要因となる。さらに、こうした軸部分の振れは、プーリーやギヤにとって最も重要であるプーリー溝や歯のかみ合わせ面において、より増幅された形で現れ、不必要な音や振動を発生さる。また高い嵌合精度で作られた遊びの少ないストレート接続は、双方の部品が食い付いて外れなくなる、いわゆる「カジリ」を生じてしまうことが多く、メンテナンス性の面でも最善であるとは言えない。
ところがテーパー嵌合の場合、しっかりした「ラージ当たり(大端合わせ)」が出ていて、かつ、テーパー基準で溝や歯が仕上げられていれば、不必要な音や振動の発生を激減させることができる。」
【0019】
そこで、本発明にはテーパー嵌合
(あるいは、テーパ嵌合)を用いることにした。本発明では、回転軸が支持用シリンダに相当し、回転部品が支持体に相当する。支持体とフロントマスの中心軸を一致させるため、支持体のテーパー基準により支持体とフロントマスを一体で製作する。
すなわち、支持体を、フロントマスの頂部付近にて環状に突出した形態の支持枠体として形成する。またテーパー基準となる支持体は、高い精度のテーパー嵌合するための形状と剛性が必要である。また、テーパー嵌合の効果を生じさせるためには
、テーパー部の長さが必要であるため、支持体の厚さを3mm以上とする
ことが望ましい。これにより、支持体の曲げ剛性も向上する。
これまでに記載した要件を考慮して、本発明は、上側から、リアマス、分極処理済の圧電素子、支持体、そしてフロントマスがこの順に積み重ねられ、ボルト締めにより固定されてなるランジュバン型超音波振動子を、下側で開口した支持用シリンダの内部に固定してなるランジュバン型超音波振動子の支持構造体であって、
上記支持体が、フロントマスの側面から横方向に突き出すようにして一体として形成された環状体で、その外周面の上側表面の端面がテーパ形状とされた支持枠体とされ、
上記支持用シリンダは、外周面下端部には雄ネジ部が形成され、内周面下端部がテーパ形状とされ、
そして
別に用意した相対的に小径の内径部を下側に、そして相対的に大径の雌ネジ部を上側に持つ振動ナットの該内径部の上側に、フロントマスの支持枠体が位置するように配置した状態で、フロントマスの支持枠体の上側表面のテーパ面と支持用シリンダ内周面下端部のテーパ面とが接するようにして、支持用シリンダの外周面下端部の雄ネジ部と振動ナットの雌ネジ部とをネジ結合により互いに固定してなることを特徴とするランジュバン型超音波振動子の支持構造体と記述することができる。
なお、本発明のランジュバン型超音波振動子の支持構造体は、フロントマスの振動方向と振動ナットの振動方向とが逆となることが好ましい。
【0020】
まず、
図4(A)の平面図とその切断線A−Aで切断した断面で示す
図4(B)に示すランジュバン型超音波振動子1を試作した。ランジュバン超音波振動子1は、鋼製のフロントマス2と支持体8を一体で構成した構造にボルト6をねじ込み、それに板厚方向に分極した圧電素子5a、リン青銅製の電極板7a、板厚方向に分極された圧電素子5b、リン青銅製の電極板7bを順に並べ、メネジを持つ鋼製のリアマス3を鋼製のボルト6にねじ込むことにより作成する。フロントマスには、工具を装着するためのテーパー孔25を設けている。なお、支持体8の厚さは5mmであり、従来のフランジに比較して十分に厚い。このように厚い支持体は、振動が支持体に伝播し、その先に接続する支持具に振動が伝播してしまうために従来は使用されてない。ここでは、図面を簡略にするために圧電素子を2個としたが、実際には、それより多く使うことがある。
【0021】
そして、上記ランジュバン型超音波振動子1を支持するために、
図5(A)の平面図とその切断線B−Bで切断した断面である
図5(B)を用いて、支持用シリンダ、ランジュバン超音波振動子1の支持体8のそれぞれのテーパー部を嵌合して接続した状態を説明する。ランジュバン超音波振動子1を支持するために鋼製の支持用シリンダ10の外側に雄ネジを設け、支持用シリンダ10の内側に鋼製の支持体8と嵌合するためのテーパー部を設ける。そして、鋼製の振動ナット11を締付けることにより、ランジュバン型超音波振動子1の支持体8と支持用シリンダ10をテーパー嵌合することにより支持固定した。支持用シリンダ10の外側のオネジと振動ナット11のメネジで支持体8を締め付け支持する理由は、支持用シリンダ10のテーパー部と支持体8のテーパー部の全体を均一に締付けるためである。これにより、ランジュバン型超音波振動子の中心軸と同じ軸方向にランジュバン型超音波振動子を振動させることができる。
【0022】
ランジュバン超音波振動子1をその中心軸方向に振動させるためには軸対称の構成が必要である。支持用シリンダに軸対称にランジュバン超音波振動子1を支持するには、一つのナットにより支持用シリンダに締め付け支持固定する必要がある。もし、特許文献4に記載してあるように複数の小さいネジを使い支持体を支持用シリンダ10に支持固定すると、ネジの均一な締付けは困難である。したがって、均一でない接触は、超音波伝播の均一でない伝播になり、ランジュバン超音波振動子1をその中心軸方向に振動させることが困難になる。
【0023】
以上説明したように超音波振動特性を考慮せず、ランジュバン型超音波振動子の中心軸と支持部材の中心軸を一致させ、かつ剛性を高めて支持部材に支持固定する構造は、支持用シリンダ、回転部品としてのランジュバン超音波振動子1の支持体8のそれぞれのテーパー部を嵌合して振動ナットを用いて接続することが望ましい。
【0024】
次に、望ましい支持用シリンダ、ランジュバン超音波振動子1の接続構成を用いた構成で、超音波振動特性について検討した。
【0025】
支持用シリンダ10にランジュバン型超音波振動子1を締付ける手段として、支持用シリンダ10のオネジと振動ナット11を用いた構成は、ランジュバン型超音波振動子、支持用シリンダそして振動ナットが一体の振動体として振動する。したがって、支持用シリンダを他の部材で支持したときは、ランジュバン型超音波振動子の振動は大きく減衰してしまう。
【0026】
そこで、振動ナットをカウンターウェイトとして作用させることで支持用シリンダに伝播する振動を小さくすることを考案した。これを用いれば支持用シリンダを他の支持部材で支持固定した時も、ランジュバン型超音波振動子の振動への影響を小さくすることができることが期待できる。
【0027】
図6を用いて、本発明者が発明した振動ナット11をカウンターウェイトとして用いた縦一次振動モードの振動モードを説明する。環状の支持体8を支持用シリンダ10のオネジと振動ナット11を締付けることによりランジュバン型超音波振動子1を支持する。そして支持用シリンダ10の外側を別の支持部材でさらに
図6の斜線で示す部分を支持固定する。ランジュバン型超音波振動子1に縦一次振動モードを励起する交流電圧を印加する。励起された縦一次振動モードは、支持体8に伝播して支持体8が撓み、支持体8に接続した振動ナット11が、ランジュバン型超音波振動子1の中心軸方向に沿って振動する。ここで振動ナット11は、カウンターウェイトとして作用する形状、質量になっている。
【0028】
ランジュバン型超音波振動子1は、支持用シリンダ10、振動ナット11、フロントマス2より大きい外径を持つ部分の支持体そして支持用シリンダ10、振動ナット11、フロントマス2より大きい外径を持つ部分で囲まれた空間に節を持ち、そしてランジュバン型超音波振動子1中に節を持つ。図の中心線は振動の支持体8の円環状の節部の中心を通り、圧電素子の振動の節の中心を通る。また、支持体8と振動ナット11の変位、そしてランジュバン型超音波振動子1の変位を実線と点線で示す。ランジュバン型超音波振動子1が実線の矢印で示す下方向に振動すると、支持体8は節部の内側では下方向に振動し、節部の外側は上方向に振動する。その結果、支持体8に接続するランジュバン型超音波振動子1は、実線で示す下方向に振動し、振動ナット11は、支持体8の節部より外側では実線の矢印で示す上方向に振動する。そして、振動周期の逆位相のときの振動は、点線で示す逆方向の振動をする。ここで、振動ナット11がランジュバン型超音波振動子1と互いに逆方向に振動するには、支持ナット11付近の円環状の節の作る平面にランジュバン型超音波振動子1の節がなく、そしてランジュバン型超音波振動子1の節は、支持ナット付近の円環状の節を持つ面と、ある程度の距離がある条件である。つまり、ランジュバン型超音波振動子1の縦一次振動モードの節と支持体の位置が離れている時である。
【0029】
ランジュバン型超音波振動子1の中の節より下の部分と支持体8の節部より外側の振動ナット11は、互いに反対方向に振動する。つまり、支持体8の節部より外側の振動ナット11は、ランジュバン型超音波振動子1の中の節より下の部分のカウンターウェイトとして作用している。ランジュバン型超音波振動子1の中の節より下の部分の振動と逆方向の振動を、振動ナット11に励起することにより振動のバランスを取ることができるので、支持用シリンダ10に漏れる振動を大幅に小さくすることができる。なお、カウンターウェイトについては、特許文献2に記述してある。
【0030】
ここで、カウンターウェイトの原理を説明する。振動する物体の振動を他の部材に伝播するのを防ぐために、振動する物体と振動方向が逆の振動をする物体(カウンターウェイト)を接続して、振動を相殺することにより他の部材に伝播することを小さくすることである。
【0031】
そして、支持体とフロントマスが別部品であるときは、支持体に曲げ成分の振動があるため、支持体とフロントマスの接触面の接触状態が均一でなく、それが原因でフロントマスに不要な曲げ振動や接触部に熱が発生し、かつフロントマスの振動が小さくなる虞がある。したがって、
図6の振動モードを効率よく励起するためには支持体とフロントマスを一体で製作しなければならない。
【0032】
図6の構成のフロントマスの孔にコレットを入れコレットとコレットナットにより直径4mm、長さ60mmの超硬製の棒を装着した。また超硬製の棒はコレット面より約37.1mm先に出ていた。振動ナット11の外径36mm、外径43mm、外径54mmを試作してカウンターウェイトの効果を確かめた。振動ナット11、支持用シリンダ10、フロントマスの外径より大きい支持体の位置そして振動ナット11、支持用シリンダ10、フロントマスの外径より大きい支持体で囲まれた空間である黒丸で示す振動の節を持ち、そしてランジュバン型超音波振動子1の中に節を持つ振動するモードである。そして駆動周波数は、インピーダンスアナライザで求めた共振周波数の付近で、60Vp−pのサイン電圧を印加して、電圧と電流位相が同じになる周波数に設定した。振動変位が駆動電圧の位相と同じときはプラスを逆のときはマイナスを付けた。
【0033】
支持用シリンダ10、振動ナット11、フロントマス2より大きい外径を持つ部分の支持体8そして支持用シリンダ10、振動ナット11、フロントマスより大きい外径を持つ部分で囲まれた空間に節部を持ち、そしてランジュバン型超音波振動子に一つの振動の節を持つ縦一次振動モードである
図7の振動モードの測定結果を表1に示す。超硬の棒の前面と振動ナットの測定面(外周より1mmの内部)の振動の変位は逆である。超硬の棒の前面とコレット面の振動変位の位相は、同じでありコレット面と超硬の棒の前面の間には振動の節が無いことがわかる。そして振動ナット11の形状により共振周波数が変化することがわかる。
【0034】
ここで共振周波数とは、インピーダンスアナライザで測定したアドミッタンスピークの周波数を指す。実際に、支持用シリンダを強く支持したときのサイン波駆動電圧60Vp−pの条件で、レーザドップラー振動計により直径36mm、直径43mm、直径54mmの振動ナット11の振動変位量を測定したが、径43mmと直径54mmの振動ナット11は、振動変位量が小さく波形が乱れているため正確な振動位相は測定できなかったため、振動位相は示さない。振動ナットが直径36mmにおいては超硬棒の前面とコレット面の振動変位の位相は同じであり、振動ナット11の振動変位の位相は逆である。振動変位は駆動電圧と位相が同じときはプラスを、逆のときはマイナスを付けた。また、1W当たりの超硬の振動変位量は、直径36mmで3.4μmp−p、直径43mmで1.8μmp−p、直径54mmで1.9μmp−pであった。振動ナットの振動変位量が大きいほど、同じ振動変位量を得るための電力量が小さい。直径36mmの振動ナット11は、他の振動ナット11の約1/2の電力量である。これは、支持用シリンダへの振動の伝播が小さいことに原因すると考察する。
【0035】
【表1】
【0036】
以上のように振動ナットの振動方向とフロントマスの振動方向を逆にすることで、ランジュバン型超音波振動子1をその中心軸方向に振動させ、支持体の振動を支持固定具に伝播することを大きく減少させることができる。縦一次振動モードにおいても、電力量を約1/2にすることができる。本発明によれば、支持体の剛性を高め、支持固定具により剛性の高い支持できると共に、ランジュバン型超音波振動子1の振動を支持固定具に伝播することを大幅に小さくできるので、従来にない、負荷に対して強く、精密な加工が可能で、超音波振動する工具の歪が小さくできるランジュバン型超音波振動子1を実現できた。
【0037】
ここで、フロントマスと振動ナット11の振動方向について説明する。
図7は、フロントマスの中に振動の節があり、節の下では下方向に、節の上では上方向に振動する。そして節の上方向にある支持体に矢印方向の振動が伝播すると振動ナットは、振動ナットの側面は、矢印で示す下方向に振動する。振動の逆位相の時は、振動は逆方向となる。つまり、フロントマスの先端部の振動方向と振動ナットの側面の振動方向と同一になる。図中の黒丸は振動の節を示し、支持用シリンダの中にも節があり、点線の矢印で示す方向に支持用シリンダは振動する。支持用シリンダも振動するため、支持用シリンダを支持固定すると、ランジュバン超音波振動子1の振動を小さくしてしまう。そこで、振動ナットが必要となる。
【0038】
上記と比較するため
図8を用いて説明する。圧電素子の中に振動の節があり、節の下では下方向に、節の上では上方向に振動する。そして節の下方向にある支持体に矢印方向の振動が伝播すると振動ナットは、振動ナットの側面の矢印で示す上方向に振動する。つまり、フロントマスの先端部の振動方向と振動ナットの側面の振動方向と逆になる。図中の黒丸は振動の節を示し、支持用シリンダの中にも節があり、点線の矢印で示す振動がある。フロントマスには、振動の節が無いため歪みは
図7に比較して小さい。したがって
図8は、
図7に比較してフロントマス中の超音波振動の伝達ロス、接触部の発熱の問題が小さくなる。支持用シリンダも振動しているため、支持用シリンダを支持固定すると、ランジュバン超音波振動子1の振動を小さくしてしまう。そこで、振動ナットが必要となる。
【0039】
ここで、通常のランジュバン型超音波振動子1の支持方法と比較すると、本発明の支持方法では支持体の外周付近にも円環状の節がある。節の数が増えるほど歪みは分散するため節の位置にもよるが節の数が大きくなるほど歪みがより分散して超音波振動の伝達ロス、接触部の発熱の問題が小さくなる。
【0040】
部品の接触部は超音波振動の伝達ロスが大きく振動効率が低下することや、接触部の発熱の問題があると特許文献4に記載されている。また、部品の接触部で摩擦により磨耗粉が発生し、場合によっては超音波振動が部品間でほとんど伝達しないこともわかってきた。ここで接触部の伝達ロスについて考察する。これは部品間の振動変位量の差によるものであるから、その原因となる歪みを小さくすればよい。これには歪みが最大となる節からの距離を大きくすればよいことになる。
【0041】
したがって、コレットを収容するフロントマスに振動の節があり、コレットに大きな歪みを発生する構成は、超音波振動の伝達ロスに関して好ましくない。
【0042】
ランジュバン型超音波振動子1に対して振動ナット11は、カウンターウェイトであり、支持用シリンダから見ると振動ナット11は、動吸振器である。動吸振器とは、補助ウェイト体(振動ナット)が対象物(支持用シリンダ)を肩代わりして振動することで、対象物(支持用シリンダ)が振動しないようにする装置である。なお、ランジュバン型超音波振動子1に動吸振器を用いた例は、特許文献3に記載されている。
【0043】
そして、支持体とフロントマスが別部品であるときは、支持体に曲げ成分の振動があるため、支持体とフロントマスの接触面の接触状態が均一でなく、それが原因でフロントマスに不要な曲げ振動や接触部に熱が発生し、かつフロントマスの振動が小さくなる虞がある。したがって、
図6の振動モードを効率よく励起するためには支持体とフロントマスを一体で製作する。
【0044】
支持用シリンダがランジュバン型超音波振動子1より十分大きいウェイトを持つ場合は、特に支持シリンダを他の支持部材で支持しなくても、ランジュバン型超音波振動子1と振動ナット11の逆方向の振動により、支持用シリンダへの振動漏れを小さくすることができる。